(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 7/12 20060101AFI20231221BHJP
B43K 24/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B43K7/12
B43K24/02
(21)【出願番号】P 2019238061
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅也
【審査官】山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-054887(JP,U)
【文献】米国特許第05527124(US,A)
【文献】登録実用新案第3031372(JP,U)
【文献】特表2001-501881(JP,A)
【文献】特開平11-059061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に筆記部を備えた筆記リフィールが軸筒の内部に収容され、前記軸筒の先端に形成された口先部もしくは軸筒に取り付けられた口先部の先端開口内において、前記筆記部が支持される筆記具であって、
前記口先部の外形は、前記軸筒の中心軸線L1に対し対称形状に形成され、前記口先部の先端開口の傾斜軸線L2が、前記軸筒の中心軸線L1に対して、
0.5~5゜の範囲の交差角度をもって傾斜して形成されている
と共に、筆記リフィールに備えられた前記筆記部が、口先部の先端開口から傾斜軸線L2に沿って、出没可能に構成されていることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記筆記リフィールの筆記部は、軸筒側面に配置された操作つまみの操作により、前記口先部から出没可能に構成され、前記操作つまみに取り付けられたロッドの揺動可能な脚部が、前記軸筒の後端部に連通した軸孔に入ることで、前記筆記リフィールは後退可能に構成したことを特徴とする請求項1に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールペンなどの筆記具に関し、特に口先部における先端筆記部(ボールペンチップ)のガタつきを抑制させることで、筆記の感触を向上させた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば軸筒の後端部に配置したノック棒をノック操作することで、軸筒前端部に形成した口先部もしくは軸筒の前端部に別部材として取り付けた口先部から、筆記部を出没させるノック式ボールペンが知られている。
この種の筆記具においては、口先部の先端開口の内径は、筆記部先端の外径寸法よりも僅かに大径となるように成形される。
この場合、筆記部先端の外径寸法に対して、前記先端開口の内径寸法が大きすぎると、両者間のクリアランス(隙間)によって、筆記中にガタつきを感じて筆記の感触を悪くする。
【0003】
この筆記のガタつき感を無くすには、筆記部先端の外径寸法と前記先端開口の内径寸法との寸法差が少なくなるように加工精度を上げることで解消し得る。
しかしながら、現実においては量産における加工精度(成形ばらつきなど)を確保することが困難な場合があり、これにより、筆記部の繰り出しに不具合を発生させる問題も発生する。これを避けるためには、筆記部の外径寸法と前記先端開口の内径寸法との間には、ある程度のクリアランスを設けた設計をせざるを得ない。
【0004】
前記した実情に応えて、筆記のガタつき感を無くす工夫について、幾つかの提案がなされている。
特許文献1には、軸筒前端部に形成した口先部の開口に、軸方向に複数の切り込み溝を備えた樹脂性の筒体を、後付けで嵌め込んだ筆記具の構成が開示されている。
この構成によると、前記切り込み溝により分離された筒体の各片が弾性体となり、口先部の開口と筆記部との間において生ずるガタつき感を抑制することができると記載されている。
【0005】
特許文献2には、軸筒の前端部に口先部が取り付けられ、口先部の後部側の軸筒内には、リフィールと接して筆記部のガタつきを防止する複数本の縦突起が軸筒と一体に成形された筆記具が開示されている。
これによると、部品点数が少なく組み立て工数を低減できる筆記具が提供可能であると記載されている。
【0006】
特許文献3には、軸筒の前端部に取り付けられた口先部の開口内周面に、繊維束体もしくは焼結多孔体により成形された可撓性の円筒状部材を取り付けることにより、口先部の開口と筆記部との間の隙間に、円筒状部材を埋設した筆記具の構成が開示されている。
この筆記具によると、円筒状部材の撓みが作用して、筆記部と口先部の先端開口との間の隙間によるガタつきを、いずれの方向においても均等に抑制することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開平5-13790号公報
【文献】特開2000-43478号公報
【文献】特開2013-223931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1および3に開示された筆記具によると、口先部の開口内周面と筆記部との間に、軸方向に複数の切り込み溝を備えた樹脂性の筒体、また繊維束体または焼結多孔体を有する円筒状部材を配置するものであるために、これらを別部材として製造し、口先部の開口内周面に後付けする必要が生ずる。
このために、部品管理や製造時の組み立て工数が増加するため、製造コストの高騰は免れず、さらに樹脂性の筒体や繊維束体を有する円筒状部材が、口先部から脱落するなどの製品不良の発生度合いも増加するなどの問題も抱えることになる。
【0009】
また、特許文献2に開示された筆記具によると、特許文献1および3に開示された筆記具における前記した問題点は解消できるものの、筆記部のガタつきを防止する縦突起は、口先部の後部における軸筒内に配置される。このために、先端筆記部と口先部との間に生ずるクリアランスにおいて、なおもガタつきが生じ易く、ガタつきの抑制による筆記の感触を向上させる十分な効果は発揮し難い。
【0010】
この発明は、前記した技術的な観点に基づいてなされたものであり、特許文献1および3に開示されたように、別部材として製造した樹脂製の筒体などを、口先部の開口内周面に配置することなく、また特許文献2に開示されたように、軸筒内に複数本の縦突起を施すなどのガタつき防止手段を施すことなく、口先部において生ずる先端筆記部のガタつきを効果的に抑制し、筆記の感触を向上させた筆記具を提供することを主要な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係る筆記具は、先端に筆記部を備えた筆記リフィールが軸筒内に収容され、前記軸筒の先端に形成された口先部もしくは軸筒に取り付けられた口先部の先端開口内において、前記筆記部が支持される筆記具であって、前記口先部の外形は、前記軸筒の中心軸線L1に対し対称形状に形成され、前記口先部の先端開口の傾斜軸線L2が、前記軸筒の中心軸線L1に対して、0.5~5゜の範囲の交差角度をもって傾斜して形成されていると共に、筆記リフィールに備えられた前記筆記部が、口先部の先端開口から傾斜軸線L2に沿って、出没可能に構成されていることを特徴とする。
【0012】
そして、好ましい実施の形態においては、前記筆記リフィールの筆記部は、軸筒側面に配置された操作つまみの操作により、前記口先部から出没可能に構成され、前記操作つまみに取り付けられたロッドの揺動可能な脚部が、前記軸筒の後端部に連通した軸孔に入ることで、前記筆記リフィールは後退可能に構成される。
さらに、口先部の前記先端開口は、軸方向に所定の長さを有し、かつ軸方向に沿った内径が同一寸法となる円形の内周面により構成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
前記したこの発明に係る筆記具によると、口先部の先端開口の傾斜軸線L2が、軸筒の中心軸線L1に対して、僅かに交差した状態で形成されるので、筆記リフィールの先端筆記部は、口先部の先端開口内の一部である前側接触部と後側接触部に、それぞれ軽く接した状態で支持される。
これにより、先端開口内における筆記部のガタつきを効果的に抑えることができ、筆記の感触を向上させた筆記具を提供することができる。
【0014】
また、筆記部が口先部の先端開口から出没可能となるように構成した筆記具に採用した場合においては、筆記部は先端開口内の前後二点で接した状態で支持されることになので、先端開口に対する筆記部の摺動抵抗を低くすることが可能となる。
これにより、先端開口からの筆記部の出没動作が円滑になされる筆記具を提供することに寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明に係る筆記具全体の外観構成を示し、(A)は筆記部の繰出し状態の上面図、(B)は筆記部の繰出し状態の正面図である。
【
図2】
図1に示す筆記具全体の断面図を示し、(A)は筆記部の繰出し状態の断面図、(B)は筆記部の繰出し解除状態における断面図である。
【
図3】筆記具の前軸に取り付けられる口先部の単品構成を示し、(A)は先端部を前にした斜視図、(B)は上面図、(C)は断面図である。
【
図4】後軸の単品構成を示し、(A)は斜視図、(B)は上面図、(C)は断面図である。
【
図5】操作筒の単品構成を示し、(A)は斜視図、(B)は上面図、(C)は断面図である。
【
図6】スライド駒の単品構成を示し、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
【
図7】
図6に示すスライド駒に取り付けられる蓋体の単品構成を示し、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
【
図8】
図6に示すスライド駒に取り付けられるロッドの単品構成を示し、(A)は正面図、(B)は斜視図である。
【
図9】
図5に示す操作筒に取り付けられる操作つまみの単品構成を示し、(A)は斜視図、(B)は視点を変えた斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係る筆記具について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
なお、以下に示す各図においては、同一部分を同一符号で示しているが、一部の図面においては紙面の都合で代表的な部分に符号を付けて、その詳細な構成については、単品ごとの図面に付けた符号を引用して説明する場合もある。
【0017】
図1および
図2は先端筆記部としてボールペンチップを備えた筆記具の全体構成を示しており、この筆記具は、円筒状の前軸1Aと後軸1Bとにより軸筒1を構成している。
前軸1Aの前端部には、先端内周面に雌ねじが、後端外周面に雄ねじが施された円筒状の前部連結体2が取り付けられており、この前部連結体2を介して、先端部側に例えば金属製の口先部(口金)3が取り付けられると共に、口先部3と前軸1Aとの間に、前部連結体2の前半部を覆うようにして、加飾筒体4が取り付けられている。
【0018】
口先部3は
図3にも示されているように、前半部が円錐状に成形されて、先端部には開口3aが施されており、この先端開口3aから軸筒1内に収容された筆記リフィール5の先端筆記部(ボールペンチップ)5aが出没されるように構成されている。
また口先部3の後半部は肉薄状の円筒部3bを構成し、その外周面には雄ねじ3cが形成されている。この雄ねじ3cが前記した前部連結体2の先端内周面に形成された雌ねじに螺合することで、口先部3は前軸1Aに取り付けられている。
【0019】
口先部3の前記先端開口3aは、
図3(C)に示すように軸方向に所定の長さを有し、かつ軸方向に沿った内径がほぼ同一寸法となる円形の内周面により構成されている。
そして、先端開口3aの後端部において内径が段状に拡大し、この段状の拡大部分が後述するスプリング7の前端部を受けるスプリング受け部3dを構成している。
さらにこの口先部3は、口先部3の中心部を通る口先部軸線、すなわち軸筒の中心軸線L1に対して、先端開口3aの傾斜軸線L2は、0.5~5゜の範囲で交差した状態に形成されていることが望ましい。
なお、口先部3の前記した構成による作用効果については、後で説明する。
【0020】
筆記リフィール5は、
図2に示すように先端筆記部5aとしてのボールペンチップを支持するインク収容管5Aと、このインク収容管5Aの後端部に取り付けられた樹脂製の栓体5Bを備えている。
そして、インク収容管5Aの先端部分が、前記先端筆記部5aとほぼ同一の外径寸法となるように細く成形されて細径部5bを構成しており、前記細径部5bから径を太くする拡径部を介して大径のインク収容管5Aに連続するように一体成形されている。
【0021】
一方、前記筆記リフィール5の細径部5bには、コイル状の戻しスプリング7が装着されている。この戻しスプリング7の前端部は、口先部3内の前記した環状のスプリング受け部3d(
図3参照)に当接しており、戻しスプリング7の後端部は、
図2に示すように筆記リフィール5のインク収容管5Aにおける前記した拡径部に接した状態で配置されている。これにより、戻しスプリング7は軸筒1内で、筆記リフィール5を後退方向に付勢している。
【0022】
前記前軸1Aの後端部開口には、
図2に示すように外周面に雄ねじが形成された円筒状の後部連結体8が螺合されて取り付けられており、後部連結体8の内周面には雌ねじが形成されている。そして、後部連結体8の前記雌ねじを利用して、後軸1Bが前軸1Aと直線状に連結されている。
【0023】
すなわち、後軸1Bは
図4に示されているように、前端部が薄肉状の円筒部1aを構成し、この円筒部1aの外周に形成された雄ねじ1bが、前記した後部連結体8に螺合されることで、前軸1Aに連結される。
そして、後軸1Bの長手方向のほぼ中央部付近には、軸方向に沿って長孔1cが形成されており、この長孔1c沿って後述する操作筒9に取り付けられた操作つまみ13が、軸方向に移動可能となるように挿通される。
【0024】
また、後軸1Bの後端部は外径が縮小するように構成され、その内部には後述するロッド12の先端部が係止する円環状の係止部1dが形成されている。また、円環状に形成された係止部1dの中央部には、漏斗状に凹んだテーパ面1eが形成されると共に、テーパ面1eに続いて後軸1Bの後端部に連通した軸孔1fが形成されている。
さらに、前記した円環状の係止部1dの軸方向の手前には、後端部に向かって内径を若干小さくした段状の当接部1gが形成されている。
なお、後軸1B内に形成された前記係止部1d、テーパ面1e、軸孔1f、当接部1gの作用については後で説明する。
【0025】
図2に示すように、後軸1B内には操作筒9が、後軸1B内に沿って移動可能に収容されている。操作筒9の単品構成は
図5に示されており、この操作筒9は円筒状に成形されて後端部には、操作筒9の内径よりも小さな内径の開口9bを有するガイド部9aが、操作筒9と一体に形成されている。
なお、前記ガイド部9aの側面、すなわち操作筒9の後端部側面には、取り付け孔9cが形成されており、これには後述する操作つまみ13が取り付けられる。
【0026】
図2に示すように操作筒9内には、ロッド12を蓋体11によって揺動可能に取り付けたスライド駒10が、操作筒9の軸方向にスライド可能に収容されている。そして、スライド駒10の前面側(口先部3側)には、筆記リフィール5の栓体5Bが、スプリング7の付勢力を受けて当接している。
これにより、スライド駒10を介して操作筒9およびロッド12にも、前記スプリング7により、後退する方向に付勢力が与えられている。
【0027】
前記スライド駒10は、
図6に示すように短軸状の円柱体を構成しており、その外周面が前記操作筒9の内周面に沿ってスライド可能に支持される。スライド駒10の裏面側から、円空状の空間部10aが穿設されて形成されており、前記空間部10aの開口縁に沿って、空間部10aの内径に比較して若干径の大きな凹み部10bが、開口縁を囲むようにして円環状に形成されている。
そして、前記スライド駒10の空間部10aを塞ぐようにして、蓋体11がスライド駒10に装着されることで、ロッド
12はその脚部が揺動可能となるように、前記スライド駒10に取り付けられている。
【0028】
すなわち、蓋体11は
図7にその単品構成を示したとおり、短軸状の円筒部11aと、円筒部11aの端部に形成された鍔部11bを有する。加えて、鍔部11bの内側に形成された開口11cの内径は、円筒部11aの内径よりも小さく形成されている。
一方、ロッド12は
図8にその単品構成を示したとおり、直線状の金属素材により構成され、一方の端部に径の大きな頭部12aが備えられ、頭部12aの他端部側には、先端部がほぼ半球面に成形された脚部12bが形成されている。
【0029】
そして、ロッド12の脚部12bを、蓋体11の円筒部11a側から挿入し、ロッド12の頭部12aを、蓋体11の円筒部11a内に位置させた状態で、蓋体11の円筒部11aを前記したスライド駒10の空間部10a内に圧入する。
これにより、蓋体11の円筒部11aが、スライド駒10における空間部10aの内周面に嵌合する。そして、蓋体11の鍔部11bは、スライド駒10に形成された円環状の凹み部10bに位置して取り付けられる。
【0030】
したがって、ロッド12の頭部12aは、蓋体11の円筒部11a内に収まって、スライド駒10からの脱落が阻止されると共に、蓋体11に形成された開口11cを支点として、ロッド12の脚部12bが揺動可能となるように取り付けられる。
そして、
図2に示すように後軸1B内に収容された操作筒9の取り付け孔9cに、
図9に示した操作つまみ13の取り付けピン12aが、後軸1Bの長孔1cを介して取り付けられる。これにより、操作筒9は操作つまみ13の軸方向の移動操作にしたがって、後軸1B内を軸方向に移動することができる。
【0031】
以上のように構成した
図1および
図2に示すボールペン筆記具について、口先部3からの筆記部5aの繰出し動作と繰出し解除動作について、主に
図2に基づいてその作用を説明する。
すでに説明したとおり、
図2(A)は筆記部5aの繰出し状態を示し、
図2(B)は筆記部5aの繰出し解除状態を示している。
【0032】
図2(B)に示す筆記部5aの繰出し解除状態においては、戻しスプリング7の付勢力を受けて、筆記リフィール5を介してスライド駒10、ロッド12、および操作筒9は後退した状態になされる。
筆記リフィール5の後退により、筆記部5aは口先部3内に収容された状態になされ、操作筒9の後端に取り付けられた操作つまみ13は、同様に後退した状態に位置する。
【0033】
図2(B)に示した筆記部5aの繰出し解除状態において、操作つまみ13を前進移動させると、操作筒9、スライド駒10を介して筆記リフィール5が前進移動し、スプリング7を縮めながら、筆記部5aが口先部3から繰り出される。この時、スライド駒10に取り付けられたロッド12の脚部12aは、後軸1Bの軸孔1fから抜け出て、重力により後軸1Bに形成された係止部1d側に移動して係止される。
したがって、筆記リフィール5における前記スプリング7の付勢力による後退は阻止される。これにより、
図2(B)に示した筆記部5aは繰出し状態を保持し、ポールペン筆記具は筆記が可能な状態となる。
【0034】
図2(A)に示した筆記部5aの繰出し状態において、操作つまみ13を後退移動させると、操作筒9のみが軸方向に後退する。この時、ロッド12の脚部12bが、後軸1Bの係止部1dに係止されているため、スライド駒10および筆記リフィール5は、前記繰出し状態を維持する。
そして、操作つまみ13および操作筒9が、1~3mm程度後退したところで、操作筒9の後端部に形成されたガイド部9aに形成されたロッド12を囲む開口9bの一部が、前記ロッド12に接する。このために、ロッド12の脚部12bに形成された半球状の先端部が、後軸1B内に形成された漏斗状のテーパ面1eに入り込み、ロッド12の先端部による前記係止部1dへの係止が解除される。
【0035】
したがって、ロッド12の脚部12bは、テーパ面1eに誘導されて軸孔1f内に入り、戻しスプリング7の付勢力を受けて、スライド駒10および操作筒9と共に、筆記リフィール5は後退する。
そして、操作筒9の後端部は、後軸1B内に形成されて後端部に向かって内径を小さくした段状の当接部1gに当接して、後退位置が規制され、
図2(B)に示す筆記部5aの繰出し解除状態に復帰する。
【0036】
前記した筆記部5aの繰出し解除操作によると、
図2(A)に示す筆記部5aの繰出し状態において、操作つまみ13を、1~3mm程度後退させる軽い操作を与えることで、筆記リフィール5と共に、スライド駒10、操作筒9および操作つまみ13等がスプリング7の付勢力によって後退し、解除状態に復帰することができる操作性に優れた筆記具を提供することができる。
【0037】
一方、すでに説明したとおり、この筆記具に用いられる口先部3によると、口先部3の中心部を通る口先部軸線、すなわち軸筒の中心軸線L1に対して、先端開口3aの傾斜軸線L2は、0.5~5゜の範囲で交差した状態に形成されている。
この構成によると、口先部3の先端開口3a内を筆記リフィール5の筆記部5aが出没する際に、円柱状の外周面を有する先端筆記部5aは、開口3aの前側接触部3eと後側接触部3fに軽く接した状態で軸方向に移動することができる。
因みに
図3(C)に示した例においては、軸筒の中心軸線L1に対する先端開口3aの傾斜軸線L2の交差角度は、1゜に設定されており、先端開口3aの軸方向の長さ寸法aは、3.5mmであり、先端開口3aの内径寸法dは、中心軸線に対して垂直方向に2.55mmに設定されている。また、中心軸線L1と傾斜軸線L2との交差角度をθとすると、筆記部5aの外径寸法は、d-a×tanθ(2.49mm)以上である。
【0038】
これによると、筆記部5aは口先部3の先端開口3a内の一部である前側接触部3eと後側接触部3fに、それぞれ軽く接した状態で支持される。これにより、先端開口3a内における筆記部5aのガタつきを効果的に抑えることができ、筆記の感触を向上させた筆記具を提供することができる。
また、筆記部5aが口先部3の先端開口3aから出没する際において、筆記部5aは先端開口3a内の前後二点で接した状態で支持されることになるので、先端開口3aに対する筆記部5aの摺動抵抗を低くすることが可能となる。これにより、先端開口3aからの筆記部5aの出没動作が円滑になされる筆記具を提供することができる。
ゆえに口先部3の軸線に対して垂直方向の投影寸法と筆記部5aの外径寸法とが中間ばめより圧入とした嵌め合いの関係にすることによって、筆記時における筆記部5aを大きく傾斜させることなく、従来の筆記具よりガタつきを効果的に抑えることができる。
【0039】
なお、口先部軸線、すなわち軸筒の中心軸線L1に対する先端開口3aの傾斜軸線L2の交差角度が、前記した値よりも極小であると、前記した作用効果を発揮することができず、また前記交差角度が、前記した値に対して大きすぎる場合には、むしろ口先部3からの筆記部5aの円滑な出没動作に逆効果を与える問題が発生する。
【0040】
以上説明した実施の形態は、軸筒(前軸1A)の前端部に、別部材としての口先部3を取り付けた構成にされているが、軸筒の前端部に先端開口を有する口先部を、軸筒と一体に形成した筆記具にこの発明を採用しても、同様の作用効果を得ることができる。
【0041】
また説明した実施の形態は、筆記部としてボールペンチップを備えたボールペンを例にしているが、この発明に係る筆記具は、ボールペン以外の他の筆記具に採用することもできる。
例えば、冒頭において説明した特許文献3には、口先部の先端開口内に、筆記芯を回転させつつ軸方向に前後移動するスライダーを配置したシャープペンシルが開示されており、この発明はこの様な筆記具に採用しても、前記と同様の作用効果を期待することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 軸筒
1A 前軸
1B 後軸
3 口先部(口金)
3a 先端開口
3b 円筒部
3d スプリング受け部
3e 前側接触部
3f 後側接触部
5 筆記リフィール
5A インク収容管
5B 栓体
5a 筆記部(ボールペンチップ)
5b 細径部
7 スプリング
9 操作筒
10 スライド駒
11 蓋体
12 ロッド
13 操作つまみ
a 先端開口の長さ寸法
d 先端開口の内径寸法
L1 軸筒の中心軸線(口先部軸線)
L2 先端開口の傾斜軸線
θ L1とL2との交差角度