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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】電気洗濯機
(51)【国際特許分類】
   D06F 33/50 20200101AFI20231221BHJP
   D06F 33/30 20200101ALI20231221BHJP
【FI】
D06F33/50
D06F33/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019238735
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021106674
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大八木 淳史
(72)【発明者】
【氏名】島田 達司
(72)【発明者】
【氏名】瀧田 浩樹
【審査官】大内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-100794(JP,A)
【文献】特開2018-161190(JP,A)
【文献】特開平05-115669(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0247148(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0031062(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 1/00~60/00
H02P 29/60~29/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水可能な水槽と、
前記水槽に回転可能な状態で収容された回転槽と、
永久磁石で磁極が構成されたロータを有し、インバータの制御によって前記回転槽を回転させるモータと、
前記回転槽に投入された布量を推定し、その布量推定値に基づいて洗濯処理を制御する制御装置と、
を備え、
第1洗濯処理を行った後に、再度、第2洗濯処理を行う場合に、前記制御装置が、前記インバータに設置されている温度センサの計測値を用いて、前記永久磁石の温度を推定し、推定された前記永久磁石の温度に基づいて前記布量推定値を補正す電気洗濯機であって、
前記温度センサは、洗濯処理を行うことによって昇温する昇温部材に設置されており、
前記制御装置は、前記昇温部材の経時的な温度変化に関する第1温度特性情報、前記永久磁石の経時的な温度変化に関する第2温度特性情報、および、前記昇温部材と前記永久磁石との間での温度の相関に関する温度相関情報が設定されている磁石温度推定部を有し、
前記磁石温度推定部が、前記第1温度特性情報と、前記第1洗濯処理の終了直後における前記温度センサの第1計測値と、前記第2洗濯処理の開始前における前記温度センサの第2計測値とから、前記第1洗濯処理の終了直後から前記第2洗濯処理の開始前までの経過時間を算出し、
算出された前記経過時間と、前記第1計測値と、前記温度相関情報と、前記第2温度特性情報とから、前記第2洗濯処理の開始前における前記永久磁石の温度を推定する、電気洗濯機。
【請求項2】
請求項1に記載の電気洗濯機において、
前記昇温部材が、スイッチング処理を行うパワーモジュールであり、
前記温度センサに、前記パワーモジュールに設けられている過熱保護センサを用いる、電気洗濯機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気洗濯機において、
雰囲気温度を計測する第2温度センサを更に備え、
前記磁石温度推定部が、前記温度センサの計測値から前記第2温度センサの計測値を減算する温度補正を行う、電気洗濯機。
【請求項4】
請求項3に記載の電気洗濯機において、
前記第2温度センサに、前記水槽に貯まる水の温度を計測する水温センサを用いる、電気洗濯機。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の電気洗濯機において、
前記第2温度センサの計測値と前記第2計測値との差が所定値以下の場合、前記磁石温度推定部が、前記第2温度センサの計測値を、前記第2洗濯処理の開始前における前記永久磁石の温度と推定する、電気洗濯機。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載の電気洗濯機において、
前記制御装置は、前記布量推定値を補正する推定値補正部を有し、
前記推定値補正部が、布量の推定時における、前記モータの入力電流値、前記モータの加速時間、前記モータの加速時の回転角度、及び、前記モータの最高到達回転数の少なくともいずれか1つを、推定された前記永久磁石の温度に基づいて補正することによって前記布量推定値を補正する、電気洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、電気洗濯機、その中でも特に、投入された布量を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、洗いや濯ぎ、脱水等の一連の処理を自動的に行う電気洗濯機では、これら処理の前に、投入された洗濯物の量(布量)の推定が行われる。布傷み、洗浄性能、節電、節水などに影響するため、布量推定は高い精度が求められる。
【0003】
一般に、電気洗濯機での布量推定は、ドラムの回転抵抗やモータのトルクを利用して行われる。例えば、洗濯物を投入したドラムを回転駆動した後に惰性回転で減速させ、その間の回転数の変化から布量を推定する方法がある。この方法では、ドラムを比較的長い間、惰性回転させなければならないため、時間がかかる。
【0004】
洗濯物を投入したドラムが加減速する時に布量を推定する方法もある。この方法であれば、比較的短時間で布量を推定できる。しかしながら、この方法は、同じ電流を印加した時のモータのトルクは常に一定であることを前提としているため、モータのトルクがばらつくと、布量の推定精度が低下する。
【0005】
モータのトルクがばらつく要因の一つに、ロータの磁石の温度依存性がある。すなわち、温度が高くなると磁石は減磁されるので、同じ電流でモータを駆動すると、発生するトルクが減少する。トルクが減少すると、布量は多く推定される。この時、磁石の温度に基づいて補正すれば、布量を適正に推定できるが、ロータの磁石は回転する。そのため、磁石の温度は間接的に推定するしかない。
【0006】
その推定方法として、特許文献1には、ロータの磁石に隣接しているステータの巻線(コイル)の温度を検知し、その温度を用いてトルクを補正する方法が開示されている。
【0007】
具体的には、巻線に所定の電圧を印加して、巻線に流れる電流値を算出する。印加した電圧、算出した電流値から巻線の抵抗値(すなわち電圧/電流値)を求め、巻線の抵抗―温度特性から巻線の温度を検知する。そして、その巻線の温度を、実質的にロータの磁石と推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-100794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ステータの巻線は、ロータの磁石に隣接してはいるが、ロータからは完全に分離している。従って、その温度に基づいて推定される磁石の温度は、誤差を含む。更に、巻線に電圧を印加すれば、磁界が形成されるので、ロータは回転する。その結果、逆起電力が発生して巻線に電流が流れるので、検知される巻線の温度にも誤差が含まれる。
【0010】
従って、特許文献1の方法では、ロータの磁石の温度を精度高く推定できないので、布量が適切に補正できない場合がある。
【0011】
そこで開示する技術の目的は、ロータの磁石の温度を精度高く推定でき、高精度な布量の推定が行える電気洗濯機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
開示する技術は、電気洗濯機に関する。
【0013】
前記電気洗濯機は、貯水可能な水槽と、前記水槽に回転可能な状態で収容された回転槽と、永久磁石で磁極が構成されたロータを有し、インバータの制御によって前記回転槽を回転させるモータと、前記回転槽に投入された布量を推定し、その布量推定値に基づいて洗濯処理を制御する制御装置と、を備える。
【0014】
そして、一回目の洗濯(第1洗濯処理)を行った後に、再度、二回目の洗濯(第2洗濯処理)を行う場合に、前記制御装置が、前記インバータに設置されている温度センサの計測値を用いて、前記永久磁石の温度を推定し、推定された前記永久磁石の温度に基づいて前記布量推定値を補正する。
【0015】
少なくとも1回、洗濯処理を行った後に、再度、洗濯処理(第2洗濯処理)を行う場合、先の洗濯処理において、比較的長い時間、モータは高出力で駆動される。従って、洗濯処理中は、モータの温度が上昇するため、その終了時には、ロータに設置されている永久磁石の温度も高くなり、減磁された状態になっている。
【0016】
そのため、そのまま、第2洗濯処理の前に布量の推定を行うと、推定精度が低下する。それに対し、この電気洗濯機では、インバータに設置されている温度センサの計測値を用いて、前記永久磁石の温度を推定し、推定された永久磁石の温度に基づいて布量推定値を補正する。
【0017】
インバータも、モータとともに昇温し、第1洗濯処理の終了後には、モータとともに温度が低下していく。これら温度変化の相関関係を利用することで、前記永久磁石の温度を精度高く推定できる。精度高い温度の推定値に基づいて布量推定値を補正するので、高精度な布量の推定が行える。
【0018】
具体的には、前記温度センサは、洗濯処理(すなわちモータの回転)を行うことによって昇温する昇温部材(インバータ等)に設置されており、前記制御装置は、前記昇温部材の経時的な温度変化に関する第1温度特性情報、前記永久磁石の経時的な温度変化に関する第2温度特性情報、および、前記昇温部材と前記永久磁石との間での温度の相関に関する温度相関情報が設定されている磁石温度推定部を有し、前記磁石温度推定部が、前記第1温度特性情報と、前記第1洗濯処理の終了直後における前記温度センサの第1計測値と、前記第2洗濯処理の開始前における前記温度センサの第2計測値とから、前記第1洗濯処理の終了直後から前記第2洗濯処理の開始前までの経過時間を算出し、算出された前記経過時間と、前記第1計測値と、前記温度相関情報と、前記第2温度特性情報とから、前記第2洗濯処理の開始前における前記永久磁石の温度を推定する、とすればよい。
【0019】
更には、前記昇温部材が、スイッチング処理を行うパワーモジュールであり、前記温度センサに、前記パワーモジュールに設けられている過熱保護センサを用いる、としてもよい。
【0020】
そうすれば、既存の装置が利用できるので、安価で高性能な電気洗濯機を実現できる。
【0021】
前記電気洗濯機はまた、雰囲気温度を計測する第2温度センサを更に備え、前記磁石温度推定部が、前記温度センサの計測値から前記第2温度センサの計測値を減算する温度補正を行う、としてもよい。
【0022】
そうすれば、雰囲気温度による影響を排除できるので、永久磁石の温度の推定精度をより向上できる。
【0023】
特にそうした場合、前記第2温度センサに、前記水槽に貯まる水の温度を計測する水温センサを用いるのが好ましい。
【0024】
そうすれば、新たにセンサを設置しなくてよいので、安価で高性能な電気洗濯機を実現できる。
【0025】
前記電気洗濯機はまた、前記第2温度センサの計測値と前記第2計測値との差が所定値以下の場合、前記磁石温度推定部が、前記第2温度センサの計測値を、前記第2洗濯処理の開始前における前記永久磁石の温度と推定する、としてもよい。
【0026】
第1洗濯処理から第2洗濯処理までの期間が長くなると、永久磁石の温度は低下して雰囲気温度に近づいていく。減磁による影響は少なくなるので、布量の推定誤差も小さくなる。第2温度センサの計測値と第2計測値との差が10℃等の所定値以下であれば、雰囲気温度を永久磁石の温度と推定しても、布量の推定誤差として実用的に許容できる。複雑な演算を省略できるので、制御の簡素化が図れる。
【0027】
前記電気洗濯機はまた、前記制御装置は、前記布量推定値を補正する推定値補正部を有し、前記推定値補正部が、布量の推定時における、前記モータの入力電流値、前記モータの加速時間、前記モータの加速時の回転角度、及び、前記モータの最高到達回転数の少なくともいずれか1つを、推定された前記永久磁石の温度に基づいて補正することによって前記布量推定値を補正する、としてもよい。
【0028】
すなわち、布量の推定時にモータから出力されるトルクが適正となるように補正することで、布量推定値を補正する。布量を補正する処理自体は、そのままでよいので、制御の簡素化が図れる。
【発明の効果】
【0029】
開示する技術を適用した電気洗濯機によれば、ロータの磁石の温度を精度高く推定できるので、高精度な布量の推定が行える。従って、布傷みの低減、洗浄性能、節水、節電などを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】電気洗濯機の構造を示す概略断面図である。
図2】モータおよび駆動装置を示す模式図である。
図3】制御装置とその主な関連機器を示すブロック図である。
図4】パワーモジュールの経時的な温度変化を説明するための図である。
図5】洗濯処理を行った場合の主な温度に関するタイムチャートの一例である。
図6A】第1温度特性情報に相当するグラフである。
図6B】第2温度特性情報に相当するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0032】
<電気洗濯機>
図1に、開示する技術を適用した電気洗濯機1の一例を示す。この電気洗濯機1は、いわゆるドラム式の洗濯機である。また、この電気洗濯機1は、いわゆる全自動式洗濯機であり、洗い、濯ぎ、脱水などの工程からなる一連の洗濯処理が、自動的に実行できるように構成されている。
【0033】
電気洗濯機1は、主に、筐体2、タブ3(水槽)、ドラム4(回転槽)、駆動装置5、制御装置6などで構成されている。駆動装置5は、モータ51、インバータ52などで構成されている。
【0034】
筐体2は、パネルやフレームで構成された箱形の容器であり、電気洗濯機1の外郭を構成している。筐体2の前面には、洗濯物を出し入れするために、円形の投入口2aが形成されている。投入口2aには透明な窓を有するドア2bが取り付けられている。投入口2aは、ドア2bによって開閉される。筐体2における投入口2aの上側には、ユーザが操作するスイッチ等を有する操作部7が設置されている。
【0035】
筐体2の内部には、投入口2aに連通するタブ3が収容されている。タブ3は、有底円筒状の貯水可能な容器からなり、その開口が投入口2aと接続されている。タブ3は、その中心軸Jを前方に向かって上向きに僅かに傾斜させた姿勢で安定するように、筐体2の内部に設けられたダンパ(図示せず)によって支持されている。
【0036】
(タブ)
タブ3の上部には、給水配管8a、給水弁8b、薬剤投入装置8cなどで構成された給水装置8が設けられている。給水配管8aの上流側の端部は、電気洗濯機1の外部に突出し、図外の給水源に接続されている。給水配管8aの下流側の端部はタブ3の上部に開口する給水口3aに接続されている。給水弁8bおよび薬剤投入装置8cは、上流側からこの順に給水配管8aの途中に設置されている。
【0037】
薬剤投入装置8cは、洗剤や柔軟剤等の薬剤を収容し、これら薬剤を、給水される水に混合することによってタブ3に投入する。タブ3の下部には、排水口3bが設けられている。排水口3bは、排水ポンプ9に接続されている。排水ポンプ9は、タブ3に溜まる不要な水を、排水管9aを通じて電気洗濯機1の外部に排出する。
【0038】
タブ3の下部にはまた、水温センサ10が設置されている(図3に示す)。水温センサ10は、タブ3に貯まる水の温度を計測する。タブ3に水が貯まっていない時は、水温センサ10は、タブ3の内部の空気の温度(雰囲気温度)を計測することになる。この電気洗濯機1には、図示しないが、タブ3の下部に、洗い水等を温水化するヒータも設置されている。
【0039】
(ドラム)
ドラム4は、タブ3よりも僅かに小径の円筒状の容器からなり、タブ3と中心軸Jを一致させた状態で、タブ3の内部に回転可能な状態で収容されている。ドラム4の前部には、投入口2aに臨む円形開口4aが形成されている。洗濯物は、投入口2aおよび円形開口4aを通じて、ドラム4の内部に投入される。
【0040】
ドラム4の側部には、多数の脱水孔4bが全周にわたって形成されている(図2では一部のみ表示)。また、その側部の内側の複数箇所には、撹拌用のリフター4cが取り付けられている。ドラム4の前部は、投入口2aに回転可能な状態で支持されている。
【0041】
(駆動装置)
駆動装置5は、タブ3の後部に設置されている。モータ51のシャフト51aは、タブ3の後部を貫通し、タブ3の内部に突出している。シャフト51aの先端は、ドラム4の底部の中心に固定されている。すなわち、ドラム4の後部はシャフト51aで軸支されていて、駆動装置5は、ドラム4を直接的に駆動する(いわゆるダイレクトドライブ方式)。それにより、ドラム4は、モータ51の駆動によって中心軸Jを中心に回転する。
【0042】
図2に、駆動装置5を模式的に示す。モータ51は、例えば、3相の永久磁石型モータであり、ステータ51bとロータ51cとを有している。ステータ51bは、3相(U相,V相,W相)のコイル群51dと、これらコイル群51dが一体に組み付けられた円筒状のステータコア51eとを有している。
【0043】
ロータ51cは、ステータ51bの内側に僅かな隙間を隔てて収容されたロータコア51fと、ロータコア51fの周囲に配置された複数の永久磁石51gとを有している。ロータ51cの中心にシャフト51aが固定されている。複数の永久磁石51gは、ロータ51cの磁極を構成しており、S極とN極とが周方向に交互に並ぶように配置されている。
【0044】
インバータ52は、電気洗濯機1の外部の商用電源PSと電気的に接続されている。インバータ52は、図示しないが、コンバータを内蔵しており、コンバータは、商用電源PSの交流が入力されると、所定の直流電圧に変換して出力する。インバータ52は、コンバータが変換した直流電圧を、PWM制御等することにより、位相が異なる3相(U相,V相,W相)の交流に変換する。
【0045】
インバータ52はまた、モータ51と、複数のケーブルで電気的に接続されている。インバータ52は、これらケーブルを通じて、モータ51(詳細には、ステータ51bの各相のコイル群51d)に、変換した各相の交流を供給する。それにより、ロータ51cは回転する。制御装置6が、電流量等を制御することにより、モータ51によって出力されるトルク及び回転数が調整される。
【0046】
インバータ52の基板には、電力を制御する公知のパワーモジュール52a(インテリジェントパワーモジュール)が組み込まれている。このパワーモジュール52aには、図2に模式的に示すような、複数のスイッチング素子や駆動回路等が内蔵されていて、スイッチング処理が行われる。スイッチング処理が行われると、パワーモジュール52aは、昇温して高温になる(昇温部材)。
【0047】
スイッチング素子は、温度が限界を超えると破損する。そのため、一般に、パワーモジュール52aには、過熱保護センサ52b(温度センサの一例)が設置されている。過熱保護センサ52bは、スイッチング素子等、高温になり易い部位に設置されており、その部位の温度を計測する。そして、その温度が、所定の上限温度に達すると、パワーモジュール52aに対して出力制限などの処理が実行される。
【0048】
(制御装置)
制御装置6は、筐体2の上部に設置されている。制御装置6は、電気洗濯機1の動作を総合的に制御する。制御装置6は、CPU、メモリなどのハードウエアと、制御プログラムや各種データなどのソフトウエアとで構成されている。
【0049】
図3に、制御装置6の主な構成を示す。制御装置6には、操作部7、過熱保護センサ52b、角度センサ11、電流センサ12、水温センサ10、インバータ52、給水弁8b、排水ポンプ9などが電気的に接続されている。上述したように、過熱保護センサ52bは、パワーモジュール52aの昇温部位の温度を計測し、その計測値を制御装置6に出力する。水温センサ10は、タブ3に貯まる水の温度または雰囲気温度を計測し、その計測値を制御装置6に出力する。
【0050】
そして、電流センサ12は、モータ51に入力される電流値を計測し、その計測値を制御装置6に出力する。角度センサ11は、ロータ51cの回転角度を計測し、その計測値を制御装置6に出力する。操作部7は、ユーザによって入力される運転開始や運転モードの選択などの指示情報を制御装置6に出力する。
【0051】
制御装置6には、機能的な構成として、磁石温度推定部61および推定値補正部62が設けられている。磁石温度推定部61は、永久磁石51gの温度を推定する。推定値補正部62は、布量推定値を補正する。磁石温度推定部61と推定値補正部62の協働により、布量の推定が高精度かつ安定して行える(これらの詳細は後述)。
【0052】
制御装置6は、これら計測値や指示情報に基づいて、インバータ52、給水弁8b、排水ポンプ9などを制御する。それにより、指示情報に応じた一連の洗濯処理、すなわち、洗い、濯ぎ、脱水などの工程が、自動的に行われる。
【0053】
<布量の推定>
これら洗濯処理の開始前に、制御装置6は、投入された布量(洗濯物の量)の推定を行う。その結果に基づき、制御装置6は、洗濯処理を適切に制御するために、給水量や運転時間等の条件を設定する。
【0054】
この電気洗濯機1では、洗濯物が投入されたドラム4に加速および減速の各トルクを加え、ドラム4が加速及び減速する時のトルクの変化に基づいて、布量を推定する。なお、このような布量の推定方法は公知であるため、その詳細は省略する。
【0055】
この方法であれば、比較的短時間で布量を推定できる。しかし、この方法は、モータ51のトルクは常に一定であることを前提としている。そのため、モータ51のトルクがばらつくと、布量の推定精度が低下する。布量の推定精度が低下すると、運転時間や給水量等が過剰になるなど、節電や節水を妨げる。
【0056】
モータ51のトルクがばらつく要因の一つに、永久磁石51gの温度依存性がある。すなわち、温度が高くなると永久磁石51gは減磁されるので、同じ電力でモータ51を駆動すると、発生するトルクが減少する。そこで、その影響を排除するべく、永久磁石51gの温度に基づいて、布量を補正することが考えられる。
【0057】
しかし、ロータ51cは回転するので、永久磁石51gの温度は、直接には計測できない。推定するしかない。
【0058】
それに対し、本発明者らは、このような補正が必要になるのは、少なくとも1回、洗濯処理を行った後、再度、続けて洗濯処理が行われる場合であること、永久磁石51gなどの構造物では、温度の経時変化が固有の時定数に基づいた一次応答曲線になることに着目し、永久磁石51gの温度を高精度で推定できる方法を見出した。
【0059】
その結果、この電気洗濯機1では、布量の推定を高精度かつ安定して行えるようになっている。連続して行う洗濯処理として、第1洗濯処理(先の洗濯処理)を行った後に、再度、第2洗濯処理(後の洗濯処理)を行う場合を想定する(以下の説明も同様)。
【0060】
制御装置6は、第2洗濯処理の前に行われる布量の推定時に、過熱保護センサ52bの計測値を用いて、永久磁石51gの温度を推定し、推定された永久磁石51gの温度に基づいて布量推定値を補正する。
【0061】
具体的には、磁石温度推定部61に、パワーモジュール52aの経時的な温度変化に関する情報(第1温度特性情報)、永久磁石51gの経時的な温度変化に関する情報(第2温度特性情報)、および、パワーモジュール52aと永久磁石51gとの間での温度の相関に関する情報(温度相関情報)が設定されている。これら情報は、予め実験等に基づいて取得されたものであり、制御装置6のメモリに格納されている。
【0062】
(第1温度特性情報、第2温度特性情報)
図4の左図に、パワーモジュール(PM)52aを所定温度に昇温した後の経時的な温度変化を示すグラフを例示する。同図には、所定温度が異なる5つのグラフが表示されている。なお、基準となる雰囲気温度は一定である。
【0063】
図4の右図に示すように、これらグラフを時間軸方向にスライドさせて重ね合わせると、これらグラフは一致する。すなわち、パワーモジュール52aなどの構造物は、それぞれ固有の熱容量を有しているので、固有の時定数によって定まる一次応答曲線に従って経時的に温度変化する。
【0064】
従って、予め、図4の右図に示すような、パワーモジュール52aの一次応答曲線を設定しておけば、パワーモジュール52aの温度変化から経過時間が算出できる。同様に、永久磁石51gについても固有の一次応答曲線が設定できる。磁石温度推定部61には、これらパワーモジュール52aおよび永久磁石51gの各々の一次応答曲線に関する情報が設定されている(第1温度特性情報および第2温度特性情報)。
【0065】
(温度相関情報)
ロータ51cは、スイッチング処理によってステータ51bの各相のコイル群51dに形成される電磁石と、ロータ51cの永久磁石51gとの間に発生する磁力変化によって回転する。そのため、磁力変化に伴って昇温する永久磁石51gの温度と、パワーモジュール52aの温度との間には、相関関係が認められる。磁石温度推定部61には、その相関関係に関する情報が設定されている(温度相関情報)。
【0066】
(永久磁石の温度の推定)
磁石温度推定部61は、過熱保護センサ52bの計測値を、第1温度特性情報、第2温度特性情報、および、温度相関情報に適用することにより、第2洗濯処理の開始前における永久磁石51gの温度を推定する。
【0067】
図5に、長期放置した状態の電気洗濯機で洗濯処理を行った場合における、その後の主な温度に関するタイムチャートを例示する。L1は雰囲気温度、L2は水温センサ10の計測値、L3は過熱保護センサ52bの計測値、L4は永久磁石51gの温度(推定値)を、それぞれ表している。以下の説明では、図示の洗濯処理を第1洗濯処理として扱う。
【0068】
第1洗濯処理では、モータ51が駆動されるので、過熱保護センサ52bの計測値、永久磁石51gの温度は、それに伴って上昇する。この電気洗濯機1では、洗濯処理時に、洗い水や濯ぎ水を加熱する温水化処理が実行されるので、水温センサ10の計測値も上昇する。
【0069】
洗濯処理の最後に行われる脱水工程では、タブ3から排水されるので、水温センサ10の計測値は、雰囲気温度に次第に一致していく。また、第1洗濯処理が終了すると、その直後から、過熱保護センサ52bの計測値および永久磁石51gの温度は、各々の一次応答曲線に従って低下していく。
【0070】
磁石温度推定部61は、これらの温度変化を利用して、次に行う洗濯処理(第2洗濯処理)の開始前(布量の推定時、図5にPで示す)において、永久磁石51gの温度の推定を行う。
【0071】
図6A図6Bを参照しながら、永久磁石51gの温度の推定について具体的に説明する。図6Aは、第1温度特性情報(パワーモジュール52aの温度の経時変化を表す一次応答曲線)に相当する。図6Bは、第2温度特性情報(永久磁石51gの温度の経時変化を表す一次応答曲線)に相当する。
【0072】
磁石温度推定部61は、最初に、第1温度特性情報と、第1洗濯処理の終了直後における過熱保護センサ52bの計測値(第1計測値)と、第2洗濯処理の開始前における過熱保護センサ52bの計測値(第2計測値)とから、第1洗濯処理の終了直後から第2洗濯処理の開始前Pまでの経過時間Δtを算出する。
【0073】
例えば、第1計測値をT1、第2計測値をT2とすると、図6Aに示すように、これらを第1温度特性情報に適用することにより、第1洗濯処理の終了直後から第2洗濯処理の開始前Pまでの経過時間Δtが算出できる。
【0074】
その際、磁石温度推定部61は温度補正を行うのが好ましい。パワーモジュール52aの温度の経時変化を表す一次応答曲線は、電気洗濯機1が設置されている環境温度(雰囲気温度)の影響を受ける。すなわち、実際には、パワーモジュール52aの温度それ自体ではなく、パワーモジュール52aの温度と雰囲気温度との温度差によって、一次応答曲線は定まっている。
【0075】
従って、永久磁石51gの温度を精度高く推定するには、雰囲気温度に基づいて、過熱保護センサ52bの計測値を補正する必要がある。具体的には、磁石温度推定部61は、過熱保護センサ52bの計測値から水温センサ10の計測値を減算する温度補正を行う。
【0076】
雰囲気温度の計測は、別途、温度センサを設置してもよいが、この電気洗濯機1では、水温センサ10を利用する。布量を推定する時には、タブ3には水が貯まっていないので、水温センサ10で雰囲気温度を計測できる。従って、この電気洗濯機1では、新たにセンサを設置することなく、永久磁石51gの温度を精度高く推定できる。
【0077】
算出された経過時間Δtと、第1温度計測値T1と、温度相関情報と、第2温度特性情報とから、第2洗濯処理の開始前Pにおける永久磁石51gの温度を推定する。
【0078】
上述したように、第1温度計測値T1を温度相関情報に適用することにより、第1洗濯処理の終了直後における永久磁石51gの温度が推定できる。図6Bに示すように、その温度がT3であったとすると、第2温度特性情報に、その温度T3と経過時間Δtとを適用することにより、第2洗濯処理の開始前Pにおける永久磁石51gの温度T4が推定できる。
【0079】
なお、温度T4は、上述したように、正確には温度差に相当する。従って、温度T4に水温センサ10の計測値を加算することで、高精度な、第2洗濯処理の開始前Pにおける永久磁石51gの温度が得られる。
【0080】
(布量推定値の補正)
上述したように、制御装置6は、洗濯処理を開始する前に、モータ51を駆動して布量の推定を行う。その洗濯処理が、第2洗濯処理である場合、第1洗濯処理により、永久磁石51gは減磁している。そのため、制御装置6(推定値補正部62)は、布量推定値の補正を行う。
【0081】
第2洗濯処理の開始前Pにおける永久磁石51gの温度は、磁石温度推定部61によって精度高く推定される。推定値補正部62は、その推定された温度を用いて、布量推定値の補正を行う。その補正は、様々な方法が考えられる。
【0082】
例えば、布量の推定時にモータ51から出力されるトルクが適正になるように補正してもよい。具体的には、モータ51へ入力する電流値を変更したり、モータ51の加速時間を変更したり、モータ51の加速時の回転角度を変更したり、モータ51の最高到達回転数を変更したり、これらを組み合わせたりすることなどが考えられる。
【0083】
また、布量の推定時にモータ51から出力されるトルクは補正せずに、布量を推定した後に補正してもよい。すなわち、推定された布量推定値それ自体を補正してもよい。いずれの場合であっても、永久磁石51gの減磁によるモータ51の出力トルクの低下の影響を排除できるので、高精度な布量の推定が行える。従って、この電気洗濯機1は、節電、節水に優れる。
【0084】
図5に示すように、第1洗濯処理の終了後から経過時間が長くなるほど、永久磁石51gの温度は低下し、雰囲気温度に近づいていく。そうした場合、永久磁石51gの減磁によるモータ51の出力トルクの低下の影響は少なくなるので、布量の推定誤差も小さくなる。
【0085】
従って、この電気洗濯機1では、第2洗濯処理の開始前Pにおける、水温センサ10の計測値と第2計測値T2との差が、10℃以下の場合、磁石温度推定部61は、水温センサ10の計測値を、第2洗濯処理の開始前Pにおける永久磁石51gの温度と推定する。なお、10℃は一例である。減磁による影響が許容できるレベルであれば良く、その値は仕様に応じて設定できる。
【0086】
この程度の温度差であれば、布量の推定誤差として実用的に許容できる。複雑な演算を省略できるので、制御の簡素化が図れる。
【0087】
なお、開示する技術にかかる電気洗濯機は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、上述した実施形態では、ドラム式の電気洗濯機を例示したが、縦型の電気洗濯機であってもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 電気洗濯機
3 タブ(水槽)
4 ドラム(回転槽)
5 駆動装置
6 制御装置
10 水温センサ(第2温度センサ)
51 モータ
51b ステータ
51c ロータ
51g 永久磁石
52 インバータ
52a パワーモジュール(昇温部材)
52b 過熱保護センサ(温度センサ)
61 磁石温度推定部
62 推定値補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B