IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NOK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ガスケット 図1
  • 特許-ガスケット 図2
  • 特許-ガスケット 図3
  • 特許-ガスケット 図4
  • 特許-ガスケット 図5
  • 特許-ガスケット 図6
  • 特許-ガスケット 図7
  • 特許-ガスケット 図8
  • 特許-ガスケット 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ガスケット
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
F16J15/10 T
F16J15/10 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020024467
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021127827
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】緒方 千代太
(72)【発明者】
【氏名】牛島 慎二
(72)【発明者】
【氏名】三木 陽平
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-336667(JP,A)
【文献】実開昭62-092360(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状溝の溝外周面に沿って装着可能な環状のガスケット本体を具備し、
前記ガスケット本体は、
前記環状溝の溝長手方向に沿った溝形状に一致して形成され、ガスケット外側に向かって湾曲し、前記溝外周面と当接可能なガスケット凸部と、
前記ガスケット本体の一部をガスケット内側に向かって前記溝形状及び前記ガスケット凸部と対称形状に曲折し、前記ガスケット内側に向かって湾曲したガスケット凹部と
を有し、
前記ガスケット凹部及び前記ガスケット凸部が少なくとも一部で交互に連続して配置され、
前記環状溝の前記溝長手方向に沿って波状に形成されるガスケット。
【請求項2】
前記ガスケット本体は、
円形状または楕円形状の前記環状溝に装着される請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
前記ガスケット凸部及び前記ガスケット凹部は、
前記ガスケット本体の環中心を基準として点対称となる位置、若しくは、前記環中心を通過する仮想線分を基準として線対称となる位置に配置される請求項1または2に記載のガスケット。
【請求項4】
前記環中心を基準として点対称となる位置に90°間隔で四つの前記ガスケット凸部が配置され、
配置された前記ガスケット凸部の間に90°間隔で四つの前記ガスケット凹部が配置される請求項3に記載のガスケット。
【請求項5】
前記環状溝の溝外周面及び溝内周面の間の装着空間に装着され、
前記ガスケット内側から前記ガスケット外側に向かう作用圧を加える予備加圧を行うことにより、前記環状溝の前記溝外周面に沿って前記ガスケット凹部が変形する請求項1~4のいずれか一項に記載のガスケット。
【請求項6】
前記予備加圧を常温下で加える請求項5に記載のガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケットに関する。更に詳しくは、特に低温環境下での使用において高いシール性を発揮するガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水や油等の液体または気体等の流体の漏出を防ぐため、或いは、塵や埃等の夾雑物の侵入を防ぐために軸及び軸受け等の互いに対向し締結される二つの部材の一方の部材側に設けられた環状の溝(環状溝)にゴム状弾性体で形成されたOリングやアクリル樹脂等の合成樹脂で形成されたガスケットなどのシール部材を装着することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これらのガスケット等のシール部材を用いることで、二つの部材の間に形成された空隙(隙間)を物理的に閉塞することができ、当該空隙への流体や夾雑物の侵入を防ぎ、二つの部材の間での流体等の流通を規制する密封構造を構築することができる。
【0004】
シール部材を用いて形成された密封構造を備える機械部品は、種々の産業技術分野において広く用いられている。特に近年において、自動車関連技術等の開発現場において、当該シール部材に対する性能向上が強く求められている。例えば、ガスケットには、低温環境下での使用における高いシール性(低温シール性)や低荷重性(低反発性)等についての性能向上が期待されている。かかるガスケットの性能向上の向上は、特に燃料電池車(FCV)や電気自動車(EV)の開発現場において顕著である。
【0005】
公知のガスケット100の構成について例示すると、図8に示すように、互いの一端同士が接続され、略環状(リング状)に形成された合成樹脂製のガスケット本体101と、ガスケット本体101の長手方向(シールライン)に沿って等間隔に設けられ、ガスケット本体101から膨出した複数の突起部102とを具備して主に構成されている。
【0006】
このガスケット100を、一方の部材側に設けられた環状溝103に収容し装着すると、図9に示すように、環状のガスケット本体101に等間隔に設けられた複数の突起部102のそれぞれの突起部外面104aが環状溝103の溝外周面105aと当接し、一方、突起部102のそれぞれの突起部内面104bが環状溝103の溝内周面105bと当接した状態となる。
【0007】
これにより、環状溝103内でのガスケット100の動きが規制され、環状溝103におけるガスケット本体101の装着位置がずれたり、或いは装着後に環状溝103からガスケット100が脱落したりするおそれを防止することができる。
【0008】
環状溝103に装着された状態のガスケット100は、ガスケット本体101が環状溝103の溝外周面105a及び溝内周面105bの間の中央に位置するように設計されている。すなわち、環状溝103の溝幅Wの中央位置M(図9における二点鎖線参照)に沿って、ガスケット本体101の溝長手方向が一致するように所定の曲率で曲げられた状態で装着される。
【0009】
なお、ガスケット100が環状溝103の溝幅Wに対して中央の位置に配置される状態(図9参照)のことを、本明細書において「中央配置」と定義する。また、図8及び図9において示したガスケット100の形状や突起部の形状、有無、及び位置等は、従来から周知の一般的な形状や構成について例示したものであり、これらに限定されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-144887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したように、一般的なガスケットの場合、環状溝に対するガスケットの装着は、「中央配置」を想定し、サイズや形状等の基本設計が行われる。これに対し、シール部材の一種である「Oリング」の場合、作用圧がOリング内側(環状溝の溝内周面側)から加わる場合、環状溝の溝外周面にOリングを沿わせるように配置される。ここで、本明細書において、環状溝の溝外周面に沿ってガスケットやOリング等を配することを「外周沿わせ」と定義する。
【0012】
一方、作用圧がOリング外側(環状溝の溝外周面側)から加わる場合、環状溝の溝内周面にOリングを沿わせるように配置される。ここで、本明細書において、環状溝の溝内周面に沿ってガスケットやOリング等のシール部材を配することを「内周沿わせ」と定義する。
【0013】
シール部材において、作用圧が加えられた際の当該シール部材の圧縮率が高いほど、締結される二つの部材の間でのシール部材の動きが規制されることとなり、当該シール部材による高い耐圧性を有することができる。すなわち、流体等によって高い作用圧が加えられても、これに抗することができ、流体等の流出を安定して防ぐことができる。
【0014】
したがって、Oリングの場合、作用圧の加わる方向に合わせて、「外周沿わせ」や「内周沿わせ」を適宜選択することができ、高い耐圧性を発揮することができる。更に、締結される二つの部材が低温環境下において使用される場合であっても高いシール性(低温シール性)を発揮することができる。
【0015】
これに対し、ガスケットの場合、アクリル樹脂等の合成樹脂によって主に形成されるため、ゴム状弾性体で構成されるOリングと比較して弾性変形率が小さくなる。そのため、「外周沿わせ」や「内周沿わせ」で装着しようとしても最終的にガスケット本体の周長さの一部が余ったり、或いは逆に足りなくなって装着できないことがある。そこで、図9で示したように、「中央配置」を基本とした装着が行われる。
【0016】
その結果、環状溝に中央配置されたガスケットは、外周沿わせや内周沿わせで配置されたOリングに対して、シール性、特に低温環境下(例えば、-40℃)における使用のシール性である低温シール性が低くなるおそれがあった。
【0017】
また、図8及び図9に示したガスケット100のように、複数の突起部102を有するものは、互いに隣合う一対の突起部102、突起部102の間のガスケット本体101、及びガスケット本体101に相対する溝外周面105aの一部に囲まれた隙間が形成され、当該隙間から流体が漏出しやすくなったり、高圧の流体等に対する耐圧性がOリングの外周沿わせ等と比較して劣る可能性があった。その結果、シール性及び特に低温環境下における低温シール性が劣る可能性があった。
【0018】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、優れた装着性を有し、環状溝に対して「外周沿わせ」の状態で装着可能であって、低温環境下での使用において安定したシール性を発揮可能なガスケットの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、上記課題を解決したガスケットが下記において提供される。
【0020】
[1] 環状溝の溝外周面に沿って装着可能な環状のガスケット本体を具備し、前記ガスケット本体は、前記環状溝の溝長手方向に沿った溝形状に一致して形成され、ガスケット外側に向かって湾曲し、前記溝外周面と当接可能なガスケット凸部と、前記ガスケット本体の一部をガスケット内側に向かって前記溝形状及び前記ガスケット凸部と対称形状に曲折し、前記ガスケット内側に向かって湾曲したガスケット凹部とを有し、前記ガスケット凹部及び前記ガスケット凸部が少なくとも一部で交互に連続して配置され、前記環状溝の前記溝長手方向に沿って波状に形成されるガスケット。
【0021】
[2] 前記ガスケット本体は、円形状または楕円形状の前記環状溝に装着される前記[1]に記載のガスケット。
【0022】
[3] 前記ガスケット凸部及び前記ガスケット凹部は、前記ガスケット本体の環中心を基準として点対称となる位置、若しくは、前記環中心を通過する仮想線分を基準として線対称となる位置に配置される前記[1]または[2]に記載のガスケット。
【0023】
[4] 前記環中心を基準として点対称となる位置に90°間隔で四つの前記ガスケット凸部が配置され、配置された前記ガスケット凸部の間に90°間隔で四つの前記ガスケット凹部が配置される前記[3]に記載のガスケット。
【0024】
[5] 前記環状溝の溝外周面及び溝内周面の間の装着空間に装着され、前記ガスケット内側から前記ガスケット外側に向かう作用圧を加える予備加圧を行うことにより、前記環状溝の前記溝外周面に沿って前記ガスケット凹部が変形する前記[1]~[4]のいずれかに記載のガスケット。
【0025】
[6] 前記予備加圧を常温下で行う前記[5]に記載のガスケット。
【発明の効果】
【0026】
本発明のガスケットによれば、ガスケット内側に向かって凹んだガスケット凹部を備えることにより、環状溝に対して外周沿わせの状態で装着可能な良好な装着性を備え、装着時の脱落等のおそれがない安定した装着を行うことができる。
【0027】
更に、装着後のガスケットに対し、予備的に作用圧を加える予備加圧を行うことで、ガスケットを環状溝に対してガスケット凹部を「外周沿わせ」の状態に変形させることができる。特に、上記予備加圧を常温下で行いガスケットを変形させた後、低温環境下で使用することで、従来と比して低温シール性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態のガスケットの概略構成を示す上方視による平面図である。
図2】ガスケットの装着される環状溝の概略構成を示す上方視による平面図である。
図3】ガスケットを環状溝に装着した状態を示す上方視による平面図である。
図4図3におけるA-A’線拡大断面図である。
図5図3におけるB-B’線拡大断面図である。
図6】ガスケット凹部の変形途中の状態のガスケットを示す説明図である。
図7】ガスケット凹部の変形後の外周沿わせの状態のガスケットを示す説明図である。
図8】従来のガスケットの一例の概略構成を示す平面図である。
図9図8のガスケットを環状溝に中央配置した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本発明のガスケットの実施の形態について詳述する。なお、本発明の実施形態のガスケットは、以下に示すものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0030】
本発明の一実施形態のガスケット1は、図1~5に示すように、環状溝2の溝外周面6aに沿って装着可能なガスケット本体3を具備するものである。更に、ガスケット本体3は、環状溝2の溝長手方向(図2における円周方向に相当)に沿った溝形状に一致して形成され、ガスケット外側に向かって湾曲し、溝外周面6aと当接可能なガスケット凸部4と、ガスケット本体3の一部をガスケット内側に向かって溝形状及びガスケット凸部4と対称形状に曲折し、ガスケット内側に向かって湾曲したガスケット凹部5とを有して主に構成されている。
【0031】
ガスケット1のガスケット本体3は、ガスケット外側に向かって(図1における紙面中央から紙面外方に向かう方向に相当)凸状に膨らんで湾曲したガスケット凸部4と、溝形状及びガスケット凸部4と対称形で構成され、ガスケット内側に向かって(図1における紙面外方から紙面中央に向かう方向に相当)凹状に凹んで湾曲したガスケット凹部5とを有し、複数のガスケット凸部4及びガスケット凹部5を組み合わせて構成されている。
【0032】
ここで、ガスケット凸部4は、環状溝2の溝形状と一致している。更に具体的に説明すると、環状溝2の溝形状と同一の曲率によって曲線的に変化するものである。一方、ガスケット凹部5は、当該溝形状及び溝形状と一致するガスケット凸部4の一部を対称形状に曲折したものである。換言すれば、ガスケット凸部4を鏡に映して視られるミラー形状(鏡面視形状)のものである。かかる形状によって後述する環状溝2に容易に収容し装着することができる。
【0033】
更に本実施形態のガスケット1は、図1に示すように、四つのガスケット凸部4と、四つのガスケット凹部5とから構成され、ガスケット凸部4及びガスケット凹部5が交互に連続して配置されることで、環状溝2の溝長手方向に沿って波状に形成されている。なお、本実施形態のガスケット1において、ガスケット凸部4及びガスケット凹部5を有するガスケット本体3は、環状溝2の溝幅Wよりも狭く、ほぼ1/2の環幅で形成されている。
【0034】
本実施形態のガスケット1において、ガスケット本体3におけるガスケット凸部4及びガスケット凹部5のそれぞれの位置は、ガスケット本体3の環中心3aを基準として点対称となる位置、かつ、環中心3aを通過する仮想線分L(図1参照)を基準として線対称となる位置に配置されている。そのため、本実施形態のガスケット1においては、環中心3aを基準として90°間隔で四つのガスケット凸部4が配置され、互いに隣合うガスケット凸部4の間に90°間隔で四つのガスケット凹部5が配置されている
【0035】
なお、ガスケット凸部4及びガスケット凹部5の数及び配置については特に限定されるものではなく、任意とすることができる。また、ガスケット凸部4及びガスケット凹部5が全体に亘って交互に連続して配置されるものでなく、例えば、一部が直線状のガスケット本体(図示しない)で構成されているものであっても構わない。但し、ガスケット凸部4及びガスケット凹部5を点対称及び/または線対称の位置にそれぞれ配置することで、ガスケット内側から作用圧を加え、ガスケット凹部5を変形させる予備加圧(詳細は後述する)の場合、及び変形後のガスケットに作用圧が加わる場合において、これらの作用圧がガスケットに均等に加わるため、変形に偏りが生じることなく、また作用圧に対して安定したシール性を発揮することができ、特に好適である。
【0036】
ここで、本実施形態のガスケット1の装着される環状溝2は、図2に示すように、所定の溝幅Wで形成された円形状を呈して構成されている。環状溝2は、軸及び軸受け等の互いに締結される二つの部材の一方の部材(図示しない)側に設けられ、一端同士が接続されることにより、環状をなすものである。なお、図2において、溝であることを明らかとするため、環状溝の溝内側部分及び溝外側部分をハッチングにおいて示している(以下、図3図5において同様)。
【0037】
更に具体的に説明すると、環状溝2は、溝中心2aから所定の距離を保ち、かつ一定の曲率で形成された溝外周面6a、当該溝外周面6aより内側に位置し、溝中心2a及び溝外周面6aから所定の距離を保ち、かつ溝外周面6aと一致する形状及び一定の曲率で形成された溝内周面6b、及び溝外周面6aと溝内周面6bとの間をそれぞれの下端で接続する溝底部6cとを有する円形状のものである。
【0038】
上記構成を備えることにより、環状溝2は、所定の間隔(溝幅Wに相当)で互いに離間し対向した溝外周面6a及び溝内周面6bと、溝外周面6a及び溝内周面6bの下部を連結した溝底部6cとによって三方を囲まれ、上方に向かって開口した略コの字形状(図4及び図5参照)の装着空間7を備えている。かかる装着空間7に本実施形態のガスケット1が収容され装着される。
【0039】
なお、本発明のガスケットの装着対象となる環状溝は、上記のような円形状に限定されるものではなく、例えば、二つの定点(焦点)からの距離の和が一定となるように溝形状が形成された楕円形状を呈するものや、溝形状の少なくとも一部が曲線状で構成されている環状溝であっても構わない。
【0040】
上記環状溝2へのガスケット1の装着について以下に詳述する。本実施形態のガスケット1を円形状の環状溝2の装着空間7に装着する(図3参照)。これにより、それぞれのガスケット凸部4の凸部外周面8aと環状溝2の溝外周面6aとが当接し(図4参照)、「外周沿わせ」の状態で装着することができる。一方、ガスケット凹部5の凹部内周面9bと環状溝2の溝内周面6bとは、当接若しくは当接しない状態のいずれであっても構わない。なお、本実施形態のガスケット1では、ガスケット凸部4の凸部内周面8bとガスケット凹部5の凹部外周面9aが溝外周面6a及び溝内周面6bの間の溝幅Wの中央位置M(図3における二点鎖線参照)の線上に沿って位置するように装着されている。
【0041】
なお、環状溝2のガスケット1の装着において、ガスケット凹部5の凹部内周面9と環状溝2の溝内周面6bとが当接するものを示したが、これに限定されるものではなく、凹部内周面9bと溝内周面6bとの間に、それぞれ隙間が形成された状態で装着されるものであっても構わない。
【0042】
前述したように、本実施形態のガスケット1は、環中心3cを基準として点対称となる位置に90°間隔で四つのガスケット凸部4及び四つのガスケット凹部5を有するため、溝外周面6aと四カ所において当接し、溝内周面6bと四カ所において当接している。
【0043】
このように、「外周沿わせ」の状態で装着することが可能なため、環状溝2に対するガスケット1の装着作業を容易にすることができる。すなわち、外周沿わせの状態で装着するものの、環状溝2の溝外周面6aの周長さとガスケット本体3の外周長さを完全に一致させる必要がなく、装着性を良好にすることができる。更に、環状溝2の溝外周面6aと等間隔で当接しながら収容されるため、装着空間7でガスケット本体3が倒れたり、ねじれたりする状態で装着が行われることがない。すなわち、安定したシール性を確保することができる。
【0044】
更に本実施形態のガスケット1は、図3における「外周沿わせ」の状態でガスケット内側から作用圧を常温下(例えば、25℃)で加える予備加圧が行われる。これにより、ガスケット内側に向かって凹んで湾曲していたガスケット凹部5は、かかるガスケット内側からの作用圧によってガスケット外側に向かう力を受ける。その結果、ガスケット内側に凹んでいたガスケット凹部5がガスケット外側に向かって膨らみ、ガスケット凹部5の凹みが徐々に小さくなる(図6参照)。これにより、ガスケット凹部5の凹部内周面9bが環状溝2の溝内周面6bの当接状態が解除される。なお、予備加圧を行う常温下は、上記の25℃に限定されるものではなく、例えば、使用環境に応じて0℃~50℃の範囲を想定することができる。
【0045】
予備加圧を更に継続することで、最終的に当該凹み(ガスケット凹部5)が消失し、ガスケット本体3が略円環状となる(図7参照)。
【0046】
すなわち、環状溝2の溝外周面6aとガスケット凹部5の凹部外周面9aとの間に形成されている空間(隙間)が上記予備加圧によって、ガスケット凹部5が変形することで埋まり、溝外周面6aと凹部外周面9aとが当接した状態となる。
【0047】
ここで、常温下において行われる予備加圧は、通常使用時の作用圧と同一若しくはそれよりも低く設定することが可能であり、例えば、0.3MPaとすることができる。なお、かかる作用圧は、ガスケットを構成する素材及びガスケットの形状等において任意に設定することができる。
【0048】
更にガスケット凹部5の凹部内周面9bは溝幅Wの中央位置Mの線上に沿って位置するように変形される。これにより、ガスケット凹部5とガスケット凸部4及び環状溝2の溝形状とが同一の形状となり、予備加圧による作用圧を加えることでガスケット1は、図7に示すように略円環状(リング状)に変形する。すなわち、ガスケット本体3の外周全体が環状溝2の溝外周面6aに沿って配置される完全な「外周沿わせ」の状態にすることができる。
【0049】
なお、ガスケット1は、前述したように、アクリル樹脂等の合成樹脂によって構成されているため、一旦変形した後は再び元の形状(図1参照)に戻ることがない。また、ガスケット1を構成する材料は、予備加圧によって変形可能なある程度の加圧変形性を備え、かつ弾性変形性が低いものを使用する必要がある。これにより、ガスケット内側からガスケット外側に向かって変形した後は、逆方向(ガスケット外側からガスケット内側)へ変形することがなく、上記の「外周沿わせ」の状態を維持することができる。
【0050】
変形後のガスケット1は、外周沿わせの状態のため、既存の中央配置の状態で装着されたガスケットと比較して、溝外周面6a及びガスケット本体3の間に隙間がなく、環状溝2に対してガスケット1(ガスケット本体3)が容易に移動することが規制される。すなわち、耐圧性が高くなる。これにより、良好なシール性を有し、特に低温環境下での使用に適した低温シール性を発揮することができる。ここで、低温シール性とは、上述した常温(0℃~50℃)よりも低く、-10℃~-50℃の温度範囲(例えば、-40℃)での使用において流体等の漏出のない安定したシール性を備えるものである。
【0051】
上記の通り、常温下で行われる予備加圧によって、環状溝2の溝外周面6aとガスケット凹部5の凹部外周面9aとの間に形成された空間(隙間)が埋められ、溝外周面6aとガスケット外周全体が当接した完全な外周沿わせの状態にガスケットを容易に配置することができる。なお、予備加圧は、低温領域の使用において、予め行っておく必要はなく、例えば、出荷検査における最初の始動時(自動車の場合、走行時)、或いは、輸送の際の始動時(走行時)に特に意識することなく行われるものであっても構わない。
【0052】
すなわち、ガスケット1の環状溝2に対する装着の際には、既存のガスケット(例えば、図8及び図9等参照)のように、「外周沿わせ」とすることで良好な装着性を備え、かつ、装着後に予備加圧を行うことでガスケット凹部5を変形させ、完全な「外周沿わせ」の状態にすることで、シール性(低温シール性)を向上させることができる。その結果、装着容易性及び高い低温シール性の双方の特性を備えたガスケットとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のガスケットは、種々の産業技術分野における製品に採用することができる。特に、燃料電池車や電気自動車等の自動車関連産業、或いは、各 種電気・電子部品等の製品に採用されることが期待される。
【符号の説明】
【0054】
1,100:ガスケット
2,103:環状溝
3,101:ガスケット本体
3a:環中心
4:ガスケット凸部
5:ガスケット凹部
6a,105a:溝外周面
6b,105b:溝内周面
6c:溝底部
7:装着空間
8a:凸部外周面
8b:凸部内周面
9a:凹部外周面
9b:凹部内周面
L:仮想線分
M:中央位置
W:溝幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9