(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】捜索支援システム、捜索支援方法
(51)【国際特許分類】
G09B 29/00 20060101AFI20231221BHJP
G01C 21/20 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G09B29/00 Z
G01C21/20
(21)【出願番号】P 2020034352
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏則
(72)【発明者】
【氏名】光野 高志
【審査官】宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】特許第4032126(JP,B1)
【文献】国際公開第2019/188530(WO,A1)
【文献】特開2012-003494(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181047(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 29/00 - 29/14
B63B 1/00 - 85/00
G01C 21/00 - 21/36
G01C 23/00 - 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、前記移動体が行う目標物の捜索を支援する捜索支援システムであって、
所定のグリッドマップの各セルにおける前記目標物の移動確率を表す遷移行列を記憶する記憶部と、
前記グリッドマップの各セルにおける前記目標物の存在確率分布を計算する存在確率分布計算部と、
前記存在確率分布計算部により計算された前記目標物の存在確率分布に基づいて、前記目標物の捜索に関する支援情報を提供する支援情報提供部と、
前記移動体に搭載された目標物センサによる前記目標物の探知結果を取得し、取得した前記目標物の探知結果に基づいて、
前記目標物を検知できなかった場合に、前記存在確率分布計算部により計算された前記目標物の存在確率分布を修正する存在確率分布修正部と、を備え、
前記存在確率分布計算部は、前記存在確率分布修正部により修正された過去の前記目標物の存在確率分布と、前記記憶部に記憶された前記遷移行列とに基づいて、現在の前記目標物の存在確率分布を計算する捜索支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の捜索支援システムにおいて、
前記存在確率分布修正部は、前記グリッドマップの各セルにおける前記目標物センサによる前記目標物の探知確率分布を設定し、設定した前記目標物の探知確率分布と、前記目標物センサによる前記目標物の探知結果とに基づいて、前記存在確率分布計算部により計算された前記目標物の存在確率分布を修正する捜索支援システム。
【請求項3】
請求項2に記載の捜索支援システムにおいて、
前記存在確率分布修正部は、前記移動体の位置と、前記目標物センサの探知性能とに基
づいて、前記目標物の探知確率分布を設定する捜索支援システム。
【請求項4】
請求項1に記載の捜索支援システムにおいて、
前記目標物の存在確率分布に基づいて、前記移動体が前記目標物を捜索するための捜索ルートを計算する捜索ルート計算部を備え、
前記支援情報提供部は、前記捜索ルートに基づいて前記支援情報を提供する捜索支援システム。
【請求項5】
請求項4に記載の捜索支援システムにおいて、
前記支援情報提供部は、前記捜索ルートに従って前記移動体が進むべき方向を前記支援情報として提供する捜索支援システム。
【請求項6】
移動体が行う目標物の捜索を支援するための捜索支援方法であって、
前記移動体に搭載された目標物センサによる前記目標物の探知結果を取得し、
取得した前記目標物の探知結果に基づいて、
前記目標物を検知できなかった場合に、コンピュータにより、所定のグリッドマップの各セルにおける前記目標物の存在確率分布を修正し、
修正した前記目標物の存在確率分布と、前記グリッドマップの各セルにおける前記目標物の移動確率を表す遷移行列とに基づいて、前記コンピュータにより、現在の前記目標物の存在確率分布を計算し、
計算した現在の前記目標物の存在確率分布に基づいて、前記目標物の捜索に関する支援情報を提供する捜索支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標物の捜索を支援するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術として、下記の特許文献1が知られている。特許文献1には、移動体位置計測装置から取得した被捜索者の位置情報を用いて地図データの座標系の各位置に被捜索者が存在する確率を算出し、その確率に応じて当該地図データの座標系に分散する被捜索者用のパーティクルをサンプリングする第1のサンプリング手段と、捜索者の位置情報により特定される位置における被捜索者が存在する確率が、他の位置における被捜索者が存在する確率と比較して低くなるように、地図データの座標系の各位置に被捜索者が存在する確率を算出し、第1のサンプリング手段によりサンプリングされた被捜索者用のパーティクルを、その確率に応じてリサンプリングする第2のサンプリング手段とを有し、リサンプリングしたパーティクルから被捜索者の位置を推定する移動体位置推定システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、移動体位置推定システムが捜索者や被捜索者の位置情報を取得できることが前提となっている。しかしながら、捜索者自身が移動体位置推定システムを所持しており、その推定結果に基づいて被捜索者の捜索を行う場合、捜索者がおかれた通信環境によっては、被捜索者の位置情報を取得できない場合がある。特許文献1の技術では、こうした場合に被捜索者の位置を推定することができない。
【0005】
したがって、本発明では、目標物の捜索を行う移動体に搭載されて当該目標物の捜索を支援する捜索支援システムおよび捜索支援方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による捜索支援システムは、移動体に搭載され、前記移動体が行う目標物の捜索を支援するものであって、所定のグリッドマップの各セルにおける前記目標物の移動確率を表す遷移行列を記憶する記憶部と、前記グリッドマップの各セルにおける前記目標物の存在確率分布を計算する存在確率分布計算部と、前記存在確率分布計算部により計算された前記目標物の存在確率分布に基づいて、前記目標物の捜索に関する支援情報を提供する支援情報提供部と、前記移動体に搭載された目標物センサによる前記目標物の探知結果を取得し、取得した前記目標物の探知結果に基づいて、前記目標物を検知できなかった場合に、前記存在確率分布計算部により計算された前記目標物の存在確率分布を修正する存在確率分布修正部と、を備え、前記存在確率分布計算部は、前記存在確率分布修正部により修正された過去の前記目標物の存在確率分布と、前記記憶部に記憶された前記遷移行列とに基づいて、現在の前記目標物の存在確率分布を計算する。
本発明による捜索支援方法は、移動体が行う目標物の捜索を支援するためのものであって、前記移動体に搭載された目標物センサによる前記目標物の探知結果を取得し、取得した前記目標物の探知結果に基づいて、前記目標物を検知できなかった場合に、コンピュータにより、所定のグリッドマップの各セルにおける前記目標物の存在確率分布を修正し、修正した前記目標物の存在確率分布と、前記グリッドマップの各セルにおける前記目標物の移動確率を表す遷移行列とに基づいて、前記コンピュータにより、現在の前記目標物の存在確率分布を計算し、計算した現在の前記目標物の存在確率分布に基づいて、前記目標物の捜索に関する支援情報を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、目標物の捜索を行う移動体に搭載されて当該目標物の捜索を支援する捜索支援システムおよび捜索支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る捜索支援システムの構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る捜索支援システムの処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】目標物の存在確率分布の時間変化例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を詳述する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る捜索支援システムの構成図である。
図1に示す捜索支援システム10は、目標物センサ20、慣性航法装置30および表示装置40と接続されており、演算処理部100と記憶部120を備える。捜索支援システム10は、比較的広範囲の地域を対象に目標物の捜索を行う移動体、例えば船舶や潜水艦、自動車、ヘリコプター等に搭載されて使用される。捜索支援システム10が搭載された移動体は、例えば他の移動体や人、動物などを目標物として、これらの目標物の捜索を行う。なお、自ら移動せずに場所が一定である物、例えば建造物、地中埋設物、海中設置物、沈没船等を捜索対象の目標物としてもよい。
【0011】
目標物センサ20は、捜索支援システム10が搭載された移動体(以下、単に「移動体」と称する)に搭載されており、移動体の周囲における所定範囲を対象に目標物の探知を行う。目標物センサ20による目標物の探知結果は、捜索支援システム10に出力される。目標物センサ20は、例えばソナー、レーダ、LiDAR(Light Detection and Ranging)、カメラ等を用いて構成される。
【0012】
慣性航法装置30は、移動体の動きを検出することで移動体の位置を取得する。慣性航法装置30が取得した移動体の位置は、捜索支援システム10に出力される。慣性航法装置30は、例えば加速度センサと角速度センサを組み合わせて構成される。なお、位置情報に関する外部からの信号、例えばGPS信号や携帯電話の基地局情報を移動体において受信可能な場合は、これらの信号を用いて移動体の位置を取得してもよい。
【0013】
表示装置40は、捜索支援システム10から出力される支援情報に基づいて、目標物の捜索に有用な情報を移動体の乗員に提示する。例えば、目標物を捜索するために移動体が進むべき方向を示す矢印を表示することで、移動体が行う目標物の捜索を支援する。
【0014】
演算処理部100は、その機能として、存在確率分布計算部101、存在確率分布修正部102、捜索ルート計算部103および支援情報提供部104の各機能ブロックを有する。演算処理部100は、例えばCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のハードウェアを組み合わせて構成されており、これらのハードウェアを用いて所定のプログラムを実行することで、上記の各機能ブロックを実現することができる。
【0015】
記憶部120は、各種データを記憶可能な記録装置であり、例えばハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)等の不揮発性記憶素子や、RAM等の揮発性記憶素子を用いて構成される。記憶部120には、初期存在確率分布データ121、存在確率分布データ122および遷移行列データ123が記憶される。
【0016】
初期存在確率分布データ121は、目標物の存在確率分布の初期値を表すデータであり、記憶部120において予め記憶されている。なお、目標物の存在確率分布とは、後述するグリッドマップの各セルにおける目標物の存在確率であり、目標物が移動することで時間の経過とともに変化する。この目標物の存在確率の初期値が、初期存在確率分布データ121として記憶部120に記憶される。
【0017】
存在確率分布データ122は、目標物の最新の存在確率分布を表すデータである。存在確率分布データ122は、存在確率分布計算部101により所定の演算周期ごとに計算され、存在確率分布修正部102により修正されることで、逐次更新される。なお、目標物の最新の存在確率分布だけでなく、過去の存在確率分布の履歴を存在確率分布データ122として記録してもよい。
【0018】
遷移行列データ123は、目標物の移動確率を表すデータであり、存在確率分布データ122の計算に用いられる。存在確率分布計算部101では、目標物の移動をグリッドマップの各セルにおける目標物の移動確率として表し、これを行列式で表現したものを用いて、存在確率分布データ122の計算が行われる。遷移行列データ123は、この行列式を表すデータであり、記憶部120において予め記憶されている。
【0019】
次に、演算処理部100が有する存在確率分布計算部101、存在確率分布修正部102、捜索ルート計算部103および支援情報提供部104の各機能ブロックが行う処理について、
図2を参照して説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る捜索支援システムの処理手順を示すフローチャートである。捜索支援システム10は、演算処理部100において
図2のフローチャートに示す処理を実行することで、移動体が行う目標物の捜索を支援する。
【0020】
ステップS10において、演算処理部100は、記憶部120に記憶されている初期存在確率分布データ121に基づいて、目標物の存在確率分布の初期値を設定する。ここでは、目標物の捜索範囲に対応するグリッドマップの各セルに対して、初期存在確率分布データ121が表すセルごとの目標物の存在確率の値を、目標物の存在確率分布の初期値として設定する。ここでいうグリッドマップとは、目標物の捜索範囲に対応する領域を所定の大きさ、例えば100m四方の大きさを有する複数のセルに分割して表したものであり、捜索支援システム10において予め設定されている。すなわち、捜索支援システム10では、グリッドマップのセル単位で目標物が存在する位置を推定することで、移動体が行う目標物の捜索を支援する。
【0021】
ステップS20において、演算処理部100は、記憶部120に記憶されている遷移行列データ123に基づいて、目標物が取るであろうと予測される動きに応じた遷移行列を生成する。ここでは前述のように、目標物の移動をグリッドマップの各セルにおける目標物の移動確率で表した行列式を、目標物の遷移行列として生成する。
【0022】
図3は、ステップS20で生成される遷移行列の説明図である。
図3では、目標物の捜索範囲に対して100×100のセルで構成されるグリッドマップが設定されている場合の例を示している。ここで、
図3(a)のように目標物移動前の各セルの座標をC
1~C
10000で表し、
図3(b)のように目標物移動後の各セルの座標をC'
1~C'
10000で表すと、これらの間における遷移行列Qは、C
1~C
10000とC'
1~C'
10000の全ての組み合わせに対する目標物の移動確率を行列要素として、
図3(c)の行列式のように表すことができる。
図3(c)の行列式における各行列要素Q
ji(i=1~10000、j=1~10000)は、セルC
iからセルC'
jへの目標物の移動確率を表している。
【0023】
なお、
図3(a)、(b)に示すように、例えばセルC
1に存在する目標物の移動可能範囲がセルC'
1~C'
3、C'
101~C'
102およびC'
201であるとすると、目標物移動前のセルC
1から目標物移動後の他のセルへの移動確率は0である。したがってこの場合には、遷移行列Qの1行目の各行列要素Q
j1において、j=1~3、101~102および201の各行列要素にはそれぞれの移動確率に応じた値が設定され、これ以外の各行列要素には0が設定される。他の行についても同様に、各セル間での目標物の移動確率および移動可能範囲を反映して、各行列要素の値が設定される。
【0024】
捜索支援システム10では、目標物の動きに応じた遷移行列を表す遷移行列データ123が予め設定され、記憶部120に記憶されているものとする。なお、移動体の乗員からの入力情報や、外部から受信した無線通信情報等を用いて、遷移行列データ123を更新可能としてもよい。
【0025】
図2の説明に戻ると、ステップS30において、演算処理部100は、存在確率分布計算部101により、以下の行列演算式(1)を用いて、現在の目標物の存在確率分布P'を計算する。
P'=P・Q ・・・(1)
【0026】
演算式(1)において、Pは前回の目標物の存在確率分布を表している。
図2のステップS30~S80の一連の処理を1つの処理サイクルとして、初回の処理サイクルでステップS30の処理を実施する場合、または前回の処理サイクルの実施後に後述するステップS100が肯定判定されることにより、ステップS10の処理を実施して目標物の存在確率分布の初期値を再設定した場合は、直前のステップS10で設定した目標物の存在確率分布の初期値がPとして設定される。一方、前回の処理サイクルで後述するステップS80の処理を実施済みであり、その後にステップS10の処理を実施していない場合は、前回の処理サイクルのステップS30で計算され、その後のステップS80で修正された目標物の存在確率分布がPとして設定される。
【0027】
例えば、
図3に示した100×100のセルで構成されるグリッドマップに対して、各セルにおける前回の目標物の存在確率をP
1~P
10000で表し、各セルにおける現在の目標物の存在確率をP'
1~P'
10000で表す。この場合、以下の演算式(2)で表すように、P
1~P
10000の各ベクトル成分からなるベクトルに対して、
図3(c)の遷移行列Qを乗算する行列計算を行うことにより、P'
1~P'
10000が求められる。
【0028】
【0029】
ステップS30で現在の目標物の存在確率分布P'を計算したら、演算処理部100は、その計算結果を存在確率分布データ122として記憶部120に格納し、ステップS40に進む。
【0030】
捜索支援システム10では、演算処理部100においてステップS30の処理が繰り返し行われることで、所定時間ごとに目標物の存在確率分布が計算される。これにより、目標物の動きに応じて時間変化する存在確率分布を求めることができる。
【0031】
図4は、ステップS30で求められる目標物の存在確率分布の時間変化例を示す図である。ここでは、目標物がグリッドマップの左上から右下に向かって移動しているときに、時刻t0~t4の各時点において計算される目標物の存在確率分布の例を、
図4(a)~
図4(e)にそれぞれ示している。
図4(a)~
図4(e)では、目標物の存在確率が高いセルほど濃いハッチングで示している。なお、
図4(a)は目標物の存在確率分布の初期値の例である。この例では、各セルにおける目標物の存在確率が一様になっている。
【0032】
ステップS40において、演算処理部100は、捜索ルート計算部103により、ステップS30で求められた現在の目標物の存在確率分布P'に基づいて、移動体が目標物を操作するための捜索ルートを計算する。例えば、慣性航法装置30から移動体の現在位置を取得し、そこから現在の目標物の存在確率分布P'において目標物の存在確率が最も高いセルの位置に向かうように、捜索ルートを計算することができる。このとき、遷移行列Qや存在確率分布データ122の履歴に基づいて今後の目標物の動きを予測し、その予測結果に応じて捜索ルートを変更してもよい。あるいは、移動体の現在位置からの距離に応じて現在の目標物の存在確率分布P'を重み付けし、その結果に基づいて捜索ルートを計算することとしてもよい。この場合、移動体の現在位置からの距離が近いセルほど重み付けを高くすることが好ましい。これ以外にも、現在の目標物の存在確率分布P'に基づいて、任意の方法で捜索ルートの計算を行うことができる。
【0033】
ステップS50において、演算処理部100は、支援情報提供部104により、ステップS40で計算された捜索ルートに基づいて、移動体の進行方向のリコメンドを行う。ここでは例えば前述のように、捜索ルートに従って移動体が進むべき方向を示す矢印を表示装置40に表示させることにより、移動体の進行方向をリコメンドする。これにより、支援情報提供部104は、ステップS30で存在確率分布計算部101が計算した目標物の存在確率分布に基づいて、目標物の捜索に関する支援情報を移動体の乗員に対して提供することができる。なお、支援情報提供部104では、移動体の進行方向以外の情報、例えば目標物までの推定距離等を支援情報として提供してもよい。
【0034】
ステップS50でリコメンドされた進行方向に従って移動体が移動し、移動後の位置において目標物センサ20が目標物の探知を行うと、ステップS60において演算処理部100は、存在確率分布修正部102により、目標物センサ20から目標物の探知結果を取得する。その後、ステップS70に進む。
【0035】
ステップS70において、演算処理部100は、存在確率分布修正部102により、目標物センサ20による目標物の探知確率分布を設定する。ここでは、前述のグリッドマップの各セルに対して、移動体の現在位置および目標物センサ20の探知性能に応じた確率を、目標物の探知確率分布として設定する。
【0036】
図5は、ステップS70で設定される目標物の探知確率分布の例を示す図である。
図5(a)は、目標物センサ20の探知性能の一例を示すグラフであり、横軸に移動体からの距離を、縦軸に目標物の探知確率を表している。
図5(a)のグラフでは、移動体の位置を中心に、距離D
1までは探知確率が1であり、距離D
1から距離D
2の範囲では移動体から離れるにしたがって探知確率が次第に低下し、距離D
2以上では探知確率が0となることを表している。
【0037】
図5(b)は、
図5(a)のグラフが表す目標物センサ20の探知性能に応じて設定される目標物の探知確率分布の一例を示している。
図5(b)に示す目標物の探知確率分布では、
図5(a)のグラフに従って、移動体の位置に対応するセル51において探知確率が最も高く、セル51から離れるほど探知確率が次第に低くなり、ある距離以上では探知確率が0となるように、グリッドマップの各セルの探知確率が設定されている。なお、
図5(b)の目標物の探知確率分布では、目標物センサ20による目標物の探知確率が高いセルほど濃いハッチングで示している。
【0038】
ステップS80において、演算処理部100は、存在確率分布修正部102により、ステップS60で取得した目標物センサ20による目標物の探知結果と、ステップS70で設定した目標物の探知確率分布とに基づいて、ステップS30で計算された目標物の存在確率分布P'を修正する。ここでは、目標物センサ20が目標物の探知を行っても目標物を検知できなかった場合に、グリッドマップ上で目標物センサ20の探知範囲内に位置する各セルについては目標物の存在確率を低くする一方で、探知範囲外に位置する各セルについては目標物の存在確率を高くするように、目標物の存在確率分布P'を修正する。
【0039】
例えば、
図3のグリッドマップのセルC
1~C
10000のうち、目標物センサ20が目標物の探知を行った各セルを探知セルC
sと表し、目標物の探知を行っていない残りの各セルを非探知セルC
k(k≠s)と表す。そして、ステップS70で設定した目標物の探知確率分布が表す各探知セルC
sの目標物の探知確率をα
sとする。目標物センサ20が目標物の探知を行った結果、目標物を検知できなかった場合、ステップS30で計算された各セルの目標物の存在確率P'
1~P'
10000に対して、修正後の各セルの目標物の存在確率P''
1~P''
10000は、例えば以下の演算式(3)、(4)により計算することができる。式(3)は、当該セルが探知セルである場合に修正後の目標物の存在確率を計算するための演算式を表し、式(4)は、当該セルが非探知セルである場合に修正後の目標物の存在確率を計算するための演算式を表している。
【0040】
【0041】
目標物センサ20では、目標物が探知圏内に存在しているにも関わらず、誤不動作により目標物を探知できない場合がある。目標物センサ20が誤不動作する確率は、目標物センサ20の探知性能に応じて定まる。そこで、ステップS80の処理では、目標物センサ20が誤不動作する確率を踏まえて、ステップS60で取得した目標物センサ20による目標物の探知結果を反映し、目標物の存在確率分布P'を修正するようにしている。
【0042】
ステップS80で目標物の存在確率分布P'を修正したら、演算処理部100は、その計算結果を新たな存在確率分布データ122として記憶部120に格納することで、存在確率分布データ122を更新する。その後、ステップS90に進む。
【0043】
ステップS90において、演算処理部100は、遷移行列データ123が更新されたか否かを判定する。前述のように、移動体の乗員からの入力情報や外部から受信した無線通信情報等により遷移行列データ123が更新された場合は、ステップS20に戻る。この場合、更新後の遷移行列データ123に基づいてステップS20の処理を実施することで、目標物の遷移行列を新たに生成し、その遷移行列を用いてステップS30以降の処理を行う。これにより、捜索支援システム10において、更新後の遷移行列データ123を反映して目標物の捜索支援を行うことができる。一方、遷移行列データ123が更新されていない場合は、ステップS100に進む。
【0044】
ステップS100において、演算処理部100は、目標物の推定位置情報を取得したか否かを判定する。目標物の推定位置情報とは、捜索支援システム10を用いずに推定された目標物の位置情報であり、例えば、移動体の外部に存在する情報処理装置の演算結果を捜索支援システム10が無線通信等により受信したり、移動体の乗員が過去の経験等に基づいて推測した結果を捜索支援システム10に入力したりすることで取得できる。こうした目標物の推定位置情報を捜索支援システム10が取得した場合は、ステップS10に戻る。この場合、取得した推定位置情報を反映してステップS10の処理を実施することで、目標物の存在確率分布の初期値を再設定した後、ステップS20以降の処理を行う。これにより、捜索支援システム10において、
図2のフローチャートの処理を開始した後に取得した目標物の推定位置情報を反映して、目標物の捜索支援を行うことができる。一方、目標物の推定位置情報を取得していない場合は、ステップS110に進む。
【0045】
ステップS110において、演算処理部100は、捜索支援システム10による目標物の捜索支援を終了するか否かを判定する。所定の終了条件を満たした場合、例えば目標物センサ20が目標物を検知できた場合は、ステップS110を肯定判定し、
図2のフローチャートに示す処理を終了する。一方、終了条件を満たさない場合は、ステップS110を否定判定してステップS30に戻り、次回の処理サイクルにおけるステップS30以降の処理を実施することで、目標物の捜索支援を継続する。
【0046】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0047】
(1)移動体に搭載されて移動体が行う目標物の捜索を支援する捜索支援システム10は、記憶部120、存在確率分布計算部101、存在確率分布修正部102および支援情報提供部104を備える。記憶部120は、所定のグリッドマップの各セルにおける目標物の移動確率を表す遷移行列データ123を記憶する。存在確率分布計算部101は、グリッドマップの各セルにおける目標物の存在確率分布を計算する(ステップS30)。支援情報提供部104は、存在確率分布計算部101により計算された目標物の存在確率分布に基づいて、目標物の捜索に関する支援情報を提供する(ステップS50)。存在確率分布修正部102は、移動体に搭載された目標物センサ20による目標物の探知結果を取得し(ステップS60)、取得した目標物の探知結果に基づいて、存在確率分布計算部101により計算された目標物の存在確率分布を修正する(ステップS80)。ステップS30において、存在確率分布計算部101は、演算式(1)により、存在確率分布修正部102により修正された過去の目標物の存在確率分布、すなわち前回の処理サイクルにおけるステップS80で修正された目標物の存在確率分布Pと、記憶部120に記憶された遷移行列データ123が表す遷移行列Qとに基づいて、現在の目標物の存在確率分布P'を計算する。このようにしたので、目標物の捜索を行う移動体に搭載されて当該目標物の捜索を支援する捜索支援システム10と、この捜索支援システム10を用いた捜索支援方法とを提供することができる。
【0048】
(2)存在確率分布修正部102は、グリッドマップの各セルにおける目標物センサ20による目標物の探知確率分布を設定する(ステップS70)。ステップS80では、ステップS70で設定した目標物の探知確率分布と、ステップS60で取得した目標物センサ20による目標物の探知結果とに基づいて、存在確率分布計算部101により計算された目標物の存在確率分布を修正する。このようにしたので、目標物センサ20が誤不動作する確率を踏まえて、目標物センサ20による目標物の探知結果を反映した目標物の存在確率分布の修正を行うことができる。
【0049】
(3)ステップS70において、存在確率分布修正部102は、移動体の位置と、目標物センサ20の探知性能とに基づいて、目標物の探知確率分布を設定する。このようにしたので、目標物センサ20の探知性能に応じて適切な目標物の探知確率分布を設定することができる。
【0050】
(4)捜索支援システム10は、目標物の存在確率分布に基づいて、移動体が目標物を捜索するための捜索ルートを計算する捜索ルート計算部103を備える。ステップS50において、支援情報提供部104は、捜索ルート計算部103により計算された捜索ルートに基づいて支援情報を提供する。具体的には、例えば捜索ルートに従って移動体が進むべき方向を支援情報として提供する。このようにしたので、目標物の捜索に有用な支援情報を提供することができる。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変形可能である。例えば、移動体には搭載されずに所定の場所に設置されて運用されるシミュレーション装置に適用し、移動体が行う捜索のシミュレーションに利用することも可能である。これ以外にも、種々の運用形態で本発明を利用することができる。
【0052】
以上説明した実施形態や変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
10…捜索支援システム、20…目標物センサ、30…慣性航法装置、40…表示装置、100…演算処理部、101…存在確率分布計算部、102…存在確率分布修正部、103…捜索ルート計算部、104…支援情報提供部、120…記憶部、121…初期存在確率分布データ、122…存在確率分布データ、123…遷移行列データ