(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】廃液処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20231221BHJP
【FI】
C02F1/58 R
(21)【出願番号】P 2020038972
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 愉子
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-211941(JP,A)
【文献】特開2013-103208(JP,A)
【文献】特開2009-220063(JP,A)
【文献】特開昭61-109575(JP,A)
【文献】特開2014-079744(JP,A)
【文献】特開2012-223673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0183641(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58 - 1/64
1/28
1/52 - 1/56
B01J 20/00 - 20/28
20/30 - 20/34
B01D 15/00 - 15/42
21/00 - 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(I)~(II):
(I)
塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムから選ばれるpH調整剤を用いてpHを調整する工程を含み、
10ppm~2000ppmのリンを含む廃液Xに、
リンと金属(M)とのモル比(M/P)が1.5~5.5となるよう、セルロースナノファイバーの表面に金属(M)化合物(Mは、Al、Fe又はMgを示す)が担持してなる廃液処理用複合体を
1Lの廃液Xに対して3.0g~60.0g添加して、リンと金属(M)とのモル比(M/P)が1.5~5.5であり、かつpHが1.5~9.5である処理液Yを得る工程
(II)得られた処理液Yをろ過して沈殿物を除去し、ろ液Zを得る工程
を備える廃液処理方法。
【請求項2】
金属(M)化合物が、金属(M)の水酸化物、炭酸塩、
又は酸化物
である請求項
1に記載の廃液処理方法。
【請求項3】
廃液処理用複合体中におけるセルロースナノファイバーの含有量が、1質量%~85質量%である請求項1
又は2に記載の廃液処理方法。
【請求項4】
工程(I)において、5℃~60℃にて、5分間~60分間の攪拌処理を行う請求項1~
3のいずれか1項に記載の廃液処理方法。
【請求項5】
廃液Xが、さらに10000ppm~20000ppmの硫黄、及び/又は200ppm~30000ppmのナトリウムを含む請求項1~
4のいずれか1項に記載の廃液処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンを有効に除去することのできる廃液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水質汚濁防止法による排水基準には、有害物質に関する排水基準と生活環境項目に関する排水基準があり、生活環境項目に関する排水基準の1つとしてリンの含有量が規制され、国のリンの排水基準は8mg/Lとされている。
栄養塩類であるリンが存在することにより、植物プランクトンとなる藻類が発生して水中の酸素が消費され、嫌気性雰囲気となって水質の悪化が引き起こされる。特に、湖沼や内湾等の閉鎖性水域では、かかるリンによる水質の悪化が生じやすいため、総量規制や上乗せ基準等、水質汚濁防止法による一律排水基準よりも一層厳しい規制が課されている。
【0003】
こうしたなか、従来より、廃液を処理するための種々の方法が開発されている。例えば、特許文献1には、廃水に鉄系の凝集剤を添加し、生成されるフロックが破壊されるのに十分な高速で攪拌する廃水の脱リン方法が開示されている。また、特許文献2には、リン酸塩の以外の無機塩類を高濃度で含む工業廃液に、マグネシウム塩を添加して、リン含有不溶性塩を形成させ、これを除去するリンの除去方法が開示されている。
一方、特許文献3~4には、廃水に植物由来のカチオン性又はアニオン性ナノフィブリル状セルロースを所定量添加し、廃水中に含まれる金属イオンのナノフィブリル状セルロースへの吸着を含む浄化処理を行い、これを分離する方法が開示されている。
【0004】
このような排水処理は、水質環境の変動等に応じて、今後益々厳しい基準値や規制対象地域が拡大されることも充分に予想されるため、より高度な技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-47759号公報
【文献】特開2000-263065号公報
【文献】特表2018-517550号公報
【文献】特表2018-520844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば廃液中のリンを1mg/L未満の含有量に減じようとするにあたり、上記特許文献1~2に記載の方法であると、凝集剤やマグネシウム塩の添加量を過度に増大させる必要が生じたり、汚泥発生量が不要に増大したりするおそれがある。また、上記特許文献3~4に記載の方法であると、リン酸イオンを選択的に吸着・除去することができず、廃水にリン以外の他のイオンが含まれていると、益々困難を伴う状況にある。
【0007】
したがって、本発明の課題は、廃液中のリンの含有量を効果的に低減し、リンを選択的かつ有効に除去することのできる廃液処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定のpH環境下、セルロースナノファイバーの表面に特定の金属化合物が担持してなる廃液処理用複合体を用いつつ、リンと金属とが特定のモル比となるように廃液処理用複合体を添加することにより、廃液中のリンの含有量を選択的かつ効果的に低減することのできる廃液処理方法を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の工程(I)~(II):
(I)少なくとも10ppm~2000ppmのリンを含む廃液Xに、セルロースナノファイバーの表面に金属(M)化合物(Mは、Al、Fe又はMgを示す)が担持してなる廃液処理用複合体を添加して、リンと金属(M)とのモル比(M/P)が1.5~5.5であり、かつpHが1.5~9.5である処理液Yを得る工程
(II)得られた処理液Yをろ過して沈殿物を除去し、ろ液Zを得る工程
を備える廃液処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の廃液処理方法によれば、例え硫黄やナトリウム等が残存する廃液であっても、リンを選択的に除去し、その含有量を有効に減じることができる。したがって、今後予想される厳しい基準値や規制等にも十分対応可能な、汎用性の高い廃液処理方法である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の廃液処理方法は、次の工程(I)~(II):
(I)少なくとも10ppm~2000ppmのリンを含む廃液Xに、セルロースナノファイバーの表面に金属(M)化合物(Mは、Al、Fe又はMgを示す)が担持してなる廃液処理用複合体を添加して、リンと金属(M)とのモル比(M/P)が1.5~5.5であり、かつpHが1.5~9.5である処理液Yを得る工程
(II)得られた処理液Yをろ過して沈殿物を除去し、ろ液Zを得る工程
を備える。
【0012】
このような工程を備える本発明の廃液処理方法を用いることにより、まずは工程(I)において、廃液X(処理前の廃液)中に含まれるリンが、廃液処理用複合体を構成するセルロースナノファイバーの表面に担持してなる金属(M)化合物と反応して金属(M)リン酸塩を生成し、得られる処理液Y中に沈殿物として存在することとなる。次いで工程(II)において、かかる処理液Yから沈殿物を除去することにより、リン含有量が有効に減じられたろ液Z(処理後の廃液X)を得ることができる。
すなわち、工程(I)~(II)を経ることにより、処理の対象とする廃液Xが処理液Yへと、次いでろ液Zへと変遷して、リンが選択的かつ有効に減じられた、処理後の廃液Xであるろ液Yを得ることができる。
【0013】
工程(I)は、少なくとも10ppm~2000ppmのリンを含む廃液Xに、セルロースナノファイバーの表面に金属(M)化合物(Mは、Al、Fe又はMgを示す)が担持してなる廃液処理用複合体を添加して、リンと金属(M)とのモル比(M/P)が1.5~5.5であり、かつpHが1.5~9.5である処理液Yを得る工程である。
本発明において、処理の対象とする廃液Xは、少なくとも10ppm~2000ppmのリンを含む。このように、リンを低濃度から高濃度の広範囲にわたって含む廃液が処理の対象であっても、本発明の廃液処理方法であれば、かかるリンの含有量を極めて低い値まで有効に減じることができる。
【0014】
かかる廃液Xは、その他の成分として、硫黄又はナトリウム、或いは硫黄とナトリウムの双方を含んでいてもよい。本発明の廃液処理方法であれば、廃液Xがこれらの成分を含んでいても、リンを選択的に除去することができる。
具体的には、廃液X中における硫黄の含有量は、10000ppm~20000ppmであってもよく、ナトリウムの含有量は、200ppm~30000ppmであってもよい。
したがって、本発明において処理の対象とする廃液Xとして、上記所定量のリンを含む、種々の原料を取り扱う工場等における廃液を用いることができ、例えばさらに硫黄やナトリウムを含み得る、金属リン酸塩(例えば、リン酸アルミニウム)を製造する工場等における廃液も用いることができる。
【0015】
工程(I)では、廃液Xに、セルロースナノファイバーの表面に金属(M)化合物(Mは、Al、Fe又はMgを示す)が担持してなる廃液処理用複合体を添加する。
廃液処理用複合体を構成するセルロースナノファイバー(CNF)とは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、水への良好な分散性も有している。また、CNFを構成するセルロース分子鎖では、炭素による周期的構造が形成されている。
【0016】
本発明で用いる廃液処理用複合体は、こうしたCNFの有する特異な構造により、表面に金属(M)化合物を担持してなるCNFが、互いに絡み合うような全体的構造を呈しているものと考えられる。そのため、廃液X中では、金属(M)化合物がセルロースナノファイバーの表面に担持されたままの状態で一部溶解しつつリンと反応し、セルロースナノファイバーの表面近傍で金属(M)リン酸塩を形成しながら、これを効率よく付着させることができる。
そして、本発明では、後述する工程(II)を経ることにより、廃液X中のリンをCNF表面近傍に付着させたまま沈殿物として除去することができるため、廃液Xからのリンの除去量を効果的に増大させることが可能になるものと推定される。
【0017】
CNFの平均繊維径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。下限値については特に制限はないが、通常1nm以上である。
また、CNFの平均長さは、廃液X中のリンと金属(M)化合物により生成される金属(M)リン酸塩をCNFに効率的に担持させる観点から、好ましくは100nm~100μmであり、より好ましくは1μm~100μmであり、さらに好ましくは5μm~100μmである。
【0018】
廃液処理用複合体を構成する金属(M)化合物(Mは、Al、Fe又はMgを示す)は、CNFの表面に担持されてなる。工程(I)では、廃液処理用複合体から溶出した金属(M)化合物から放出される金属(M)イオンと廃液X中のリンとが効率よく反応し、沈殿物を形成する。CNFの表面への担持能を高める観点、及び廃液X中のリンを効率的かつ有効に除去する観点から、水難溶性塩であるのが好ましい。
具体的には、金属(M)の水酸化物、金属(M)の炭酸塩、又は金属(M)の酸化物であるのが好ましく、これら1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、金属(M)の水酸化物、又は金属(M)の炭酸塩であるのがより好ましい。
より具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、水酸化マグネシウムの水酸化物;炭酸アルミニウム、炭酸鉄、炭酸マグネシウムの炭酸塩;酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化マグネシウムの酸化物が好ましく、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、水酸化マグネシウムの水酸化;炭酸アルミニウム、炭酸鉄、炭酸マグネシウムの炭酸塩がより好ましい。
【0019】
廃液処理用複合体を構成するCNFの含有量は、金属(M)イオンと廃液X中のリンとの反応を促進させる観点から、廃液処理用複合体100質量%中に、好ましくは1質量%~85質量%であり、より好ましくは10質量%~80質量%であり、さらに好ましくは20質量%~70質量%である。
【0020】
廃液処理用複合体を構成する金属(M)化合物の含有量(担持量)は、廃液X中のリンと効率よく反応させる観点から、廃液処理用複合体100質量%中に、好ましくは15質量%~97質量%であり、より好ましくは20質量%~90質量%であり、さらに好ましくは30質量%~80質量%である。
【0021】
廃液処理用複合体を構成する金属(M)化合物の平均粒子径は、金属(M)イオンと廃液X中のリンとの反応を促進させる観点から、好ましくは1~50nmであり、より好ましくは1~40nmであり、さらに好ましくは1~30nmである。
なお、平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡を用いて、廃液処理用複合体の表面に担持されている化合物粒子100個の粒子径を測定して得られる平均値を意味する。
【0022】
廃液処理用複合体のBET比表面積は、金属(M)イオンと廃液X中のリンとの反応を促進させる観点から、好ましくは30~300m2/gであり、より好ましくは50~300m2/gであり、さらに好ましくは80~300m2/gである。
【0023】
かかる廃液処理用複合体を製造するには、例えば、まず所望の金属(M)化合物を得るための原料とCNFとを水に分散させて混合し、スラリーを調製する。この際、pHを後述する所定の範囲に調整するのがよい。ここで用いるスラリーを調製するにあたり、金属(M)化合物100質量部に対し、好ましくは100質量部~3000質量部、より好ましくは200質量部~2500質量部の水を用いればよい。
また、混合時の温度は、好ましくは5℃~60℃であり、より好ましくは15℃~40℃である。
次いで、5分~60分間攪拌して析出物を生成させた後、ろ過することにより、廃液処理用複合体を得ることができる。
【0024】
工程(I)では、上記廃液Xに、上記廃液処理用複合体を添加して、リンと金属(M)とのモル比(M/P)が1.5~5.5であり、かつpHが1.5~9.5である処理液Yを得る。
すなわち、処理液Yにおけるリンと廃液処理用複合体に含まれる金属(M)とのモル比(M/P)が上記範囲となるよう、廃液Xへの廃液処理用複合体の添加量を調整すればよい。処理液Yにおけるリンと金属(M)とのモル比(M/P)は、1.5~5.5であって、好ましくは1.5~4であり、より好ましくは2~3である。
【0025】
具体的には、工程(I)における廃液処理用複合体の添加量は、1Lの廃液Xに対し、好ましくは3.0g~60.0gであり、より好ましくは5.0g~50.0gであり、さらに好ましくは7.0g~40.0gである。
【0026】
なお、廃液Xへ廃液処理用複合体を添加するにあたり、かかる廃液処理用複合体の形態は、粉体のままであってもよく、水に分散させたスラリーとして用いてもよい。なかでも、廃液X中において、廃液処理用複合体を良好に分散させて沈殿物の生成を促進させる観点から、スラリーとして用いるのが好ましい。
【0027】
また、処理液YにおけるpHは、1.5~9.5であるが、廃液処理用複合体のCNFの表面に担持してなる金属(M)化合物の種類に応じて変動させるのが望ましい。
具体的には、金属(M)化合物としてアルミニウム化合物を単独で用いる場合、処理液YにおけるpHは、好ましくは5~8であり、より好ましくは5.5~7.5であり、さらに好ましくは6~7である。
金属(M)化合物として鉄化合物を単独で用いる場合、処理液YにおけるpHは、好ましくは2~8であり、より好ましくは3~7であり、さらに好ましくは4~6である。
金属(M)化合物としてマグネシウム化合物を単独で用いる場合、処理液YにおけるpHは、好ましくは5~9であり、より好ましくは5.5~8であり、さらに好ましくは6~7である。
【0028】
また、金属(M)化合物としてアルミニウム化合物と鉄化合物とを組み合わせて用いる場合、処理液YにおけるpHは、好ましくは5~8であり、より好ましくは5.3~7であり、さらに好ましくは5.5~6.5である。
金属(M)化合物としてアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とを組み合わせて用いる場合、処理液YにおけるpHは、好ましくは5~8であり、より好ましくは5.5~7.5であり、さらに好ましくは6~7である。
金属(M)化合物として鉄化合物とマグネシウム化合物とを組み合わせて用いる場合、処理液YにおけるpHは、好ましくは5~8であり、より好ましくは5.3~7であり、さらに好ましくは5.5~6.5である。
金属(M)化合物として、アルミニウム化合物、鉄化合物、及びマグネシウム化合物全てを用いる場合、処理液YにおけるpHは、好ましくは5~8であり、より好ましくは5.5~7であり、さらに好ましくは6~6.5である。
なお、かかるpHは、20℃における測定値を基準とする値を意味する。
【0029】
処理液YのpHをかかる範囲に調整するにあたり、工程(I)が、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムから選ばれるpH調整剤を用いてpHを調整する工程を含むのが好ましい。具体的には、かかるpH調整剤を用いてpHを調整する工程は、廃液Xへの廃液処理用複合体の添加前であってもよく、廃液処理用複合体の添加とともにであってもよく、廃液Xへの廃液処理用複合体の添加後であってよい。
なかでも、pHを調整する工程は、廃液処理用複合体が良好に分散されてなる処理液Yを得る観点、及び金属(M)リン酸塩の生成を促進させる観点から、廃液処理用複合体の添加前であるのが好ましく、さらに廃液処理用複合体の添加前と添加後の双方、若しくは添加と同時であってもよい。
【0030】
工程(I)では、廃液Xへの廃液処理用複合体の添加後、また必要に応じてpH調整剤を添加した後、後述する工程(II)へ移行する前に、攪拌処理を行って処理液Yを得るのがよい。具体的には、好ましくは5℃~60℃、より好ましくは15℃~40℃の温度にて、好ましくは5分間~60分間、より好ましくは15分間~45分間の攪拌処理を行うのがよい。
【0031】
工程(II)は、工程(I)で得られた処理液Yをろ過して沈殿物を除去し、ろ液Zを得る工程である。かかる工程(II)において、廃液Xに含まれるリンと金属(M)化合物とから効率的に生成された金属(M)リン酸塩がCNF表面に有効に担持されてなる廃液処理用複合体を沈殿物として除去することにより、廃液X中におけるリンが選択的かつ効果的に減じられたろ液Yを得ることができる。
処理液Yをろ過する際、処理液Yにろ過助剤を添加してもよい。用い得るろ過助剤としては、例えば、金属(M)のリン酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物、又はこれらとCNFとの複合化物;珪藻土;パーライト;CNF以外のセルロース;高分子凝集剤等が挙げられる。
用い得る装置としては、例えば、吸引ろ過、フィルタープレス、及び遠心脱水等が挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
[製造例1:廃液処理用複合体(CNFにAl(OH)3担持)の製造]
塩化アルミニウム六水和物15.5gとCNF水溶液(ダイセルファインケム社製、PC110A、固形分35%)14.3g、水100gとを室温(20℃)にて混合した後、水酸化ナトリウムを添加してpHを6とし、そのまま30分間攪拌した。次いで、析出した沈殿物をろ過して、CNFの表面に水酸化アルミニウム粒子が担持してなる廃液処理用複合体(Al(OH)3の平均粒子径:10.8nm、廃液処理用複合体のBET比表面積:121m2/g)を得た。
【0034】
[製造例2:廃液処理用複合体(CNFにAl(OH)3担持)の製造]
塩化アルミニウム六水和物を23.2g、CNF水溶液(ダイセルファインケム社製、PC110A、固形分35%)を1.71g使用した以外、製造例1と同様にして、CNFの表面に水酸化アルミニウム粒子が担持してなる廃液処理用複合体(Al(OH)3の平均粒子径:9.5nm、廃液処理用複合体のBET比表面積:138m2/g)を得た。
【0035】
[製造例3:廃液処理用複合体(CNFにAl2(CO3)3担持)の製造]
硫酸アルミニウム14~18水和物50.4gとCNF水溶液(ダイセルファインケム社製、PC110A、固形分35%)14.3g、水200gとを20℃にて混合した後、炭酸ナトリウム25.4gを添加し、そのまま30分間攪拌した。次いで、析出した沈殿物をろ過して、CNFの表面に炭酸アルミニウム粒子が担持してなる廃液処理用複合体(Al2(CO3)3の平均粒子径:13.3nm、廃液処理用複合体のBET比表面積:102m2/g)を得た。
【0036】
[製造例4:廃液処理用複合体(CNFにFe(OH)2担持)の製造]
窒素雰囲気中で、塩化鉄(II)四水和物12.7gとCNF水溶液(ダイセルファインケム社製、PC110A、固形分35%)51.4g、水100gとを20℃にて混合した後、水酸化ナトリウムを添加してpHを11とし、そのまま30分間攪拌した。次いで、析出した沈殿物をろ過して、CNFの表面に水酸化鉄(II)粒子が担持してなる廃液処理用複合体(Fe(OH)2の平均粒子径:9.8nm、廃液処理用複合体のBET比表面積:130m2/g)を得た。
【0037】
[製造例5:廃液処理用複合体(CNFにFe(OH)3担持)の製造]
塩化鉄(III)六水和物25.9gとCNF水溶液(ダイセルファインケム社製、PC110A、固形分35%)14.3gを沸騰水100gに投入し、そのまま30分間攪拌した。次いで、析出した沈殿物をろ過して、CNFの表面に水酸化鉄(III)粒子が担持してなる廃液処理用複合体(Fe(OH)3の平均粒子径:7.7nm、廃液処理用複合体のBET比表面積:169m2/g)を得た。
【0038】
[製造例6:廃液処理用複合体(CNFにFeCO3担持)の製造]
窒素雰囲気中で、硫酸鉄(II)七水和物44.5gとCNF水溶液(ダイセルファインケム社製、PC110A、固形分35%)14.3g、水100gとを20℃にて混合した後、炭酸ナトリウム17.0gを添加し、そのまま30分間攪拌した。次いで、析出した沈殿物をろ過して、CNFの表面に炭酸鉄(II)粒子が担持ししてなる廃液処理用複合体(FeCO3の平均粒子径:9.9nm、廃液処理用複合体のBET比表面積:127m2/g)を得た。
【0039】
[製造例7:廃液処理用複合体(CNFにMg(OH)2担持)の製造]
塩化マグネシウム六水和物13.0gとCNF水溶液(ダイセルファインケム社製、PC110A、固形分35%)14.3g、水50gとを20℃にて混合した後、水酸化ナトリウムを添加してpHを11とし、そのまま30分間攪拌した。次いで、析出した沈殿物をろ過して、CNFの表面に水酸化マグネシウム粒子が担持してなる廃液処理用複合体(Mg(OH)2の平均粒子径:10.2nm、廃液処理用複合体のBET比表面積:122m2/g)を得た。
【0040】
[製造例8:廃液処理用複合体(CNFにMg(OH)2担持)の製造]
塩化マグネシウム六水和物を19.5gとした以外、製造例7と同様にして、CNFの表面に水酸化マグネシウム粒子が担持してなる廃液処理用複合体(Mg(OH)2の平均粒子径:9.0nm、廃液処理用複合体のBET比表面積:158m2/g)を得た。
【0041】
[製造例9:廃液処理用複合体(CNFにMgCO3担持)の製造]
塩化マグネシウム六水和物32.5gとCNF水溶液(ダイセルファインケム社製、PC110A、固形分35%)14.3g、水100gとを20℃にて混合した後、炭酸ナトリウム17.0gを添加し、そのまま30分間攪拌した。次いで、析出した沈殿物をろ過して、CNFの表面に炭酸マグネシウムが担持してなる廃液処理用複合体(MgCO3の平均粒子径:9.3nm、廃液処理用複合体のBET比表面積:150m2/g)を得た。
【0042】
[実施例1]
リン含有量が1000mg/Lの廃液X 1Lを処理対象とし、塩酸を用いて20℃におけるpHを5に調整した。次いで、廃液Xを攪拌しながら、M/Pモル比が2.0となる量の製造例1で得られた廃液処理用複合体(Al(OH)3担持)10.0g(10~100gの水に分散させ、スラリーの状態とした)を添加し、そのまま30分間攪拌を継続して、処理液Yを得た。
得られた処理液Yをブフナー漏斗、5Cのろ紙を用いてろ過し、沈殿物を除去した。得られたろ液Z(処理後の廃液X)中のリン含有量をICP発光分析により測定した。
【0043】
[実施例2、4~9、及び比較例1]
適宜上記製造例で得られた廃液処理用複合体、金属塩として水酸化アルミニウムを用い、CNFの添加量、M/Pモル比、及びpHを表1に示す値とした以外、実施例1と同様にして廃液Xを処理して、ろ液を得るとともに、ろ液Z(処理後の廃液X)中のリン含有量を測定した。
【0044】
[実施例3]
実施例1と同様の廃液X 1Lを用い、これを攪拌しながらM/Pモル比が5.0となる量の製造例3で得られた廃液処理用複合体(Al2(CO3)3担持)42.4gを添加し、塩酸を用いて20℃におけるpHを8に調整した。次いで、そのまま30分間攪拌を継続して、処理液Yを得た。
次いで、実施例1と同様にして、得られた処理液Yからろ液を得るとともに、ろ液Z(処理後の廃液X)中のリン含有量を測定した。
これらの結果を表1に示す。
【0045】