(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/22 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
H01S5/22
(21)【出願番号】P 2020040258
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-01-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素技術開発/高効率加工用GaN系高出力・高ビーム品質半導体レーザーの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】川口 真生
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-258515(JP,A)
【文献】国際公開第2020/022235(WO,A1)
【文献】特開2014-072495(JP,A)
【文献】特表2013-501347(JP,A)
【文献】特開2012-222205(JP,A)
【文献】特開平10-233556(JP,A)
【文献】特開2019-129216(JP,A)
【文献】特開昭62-142382(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0213241(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102142657(CN,A)
【文献】国際公開第2018/234068(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/011279(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ガイド層と、
前記光ガイド層の上方に配置され、リッジ部が形成された半導体層と、を備え、
前記リッジ部には上下方向に延びた複数の溝部が形成され、
前記リッジ部の幅方向において、前記複数の溝部の間隔は、外側が中央よりも狭
く、
前記リッジ部の幅方向において、等価屈折率の分布が、中央から外側へと低くなるように、前記複数の溝部が設定されている、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体発光素子において、
前記リッジ部の幅方向において、前記複数の溝部の幅は、互いに等しい、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体発光素子において、
前記複数の溝部の上下方向における深さは、互いに等しい、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の半導体発光素子において、
前記リッジ部の幅方向において、等価屈折率の分布が、中央から外側へと略直線状に低くなるように、前記複数の溝部が設定されている、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体発光素子において、
前記複数の溝部によって分割された前記リッジ部の領域数は、25以上である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項6】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の半導体発光素子において、
前記リッジ部の幅方向において、等価屈折率の分布が、中央から外側へと略ガウス形状で低くなるように、前記複数の溝部が設定されている、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体発光素子において、
前記複数の溝部によって分割された前記リッジ部の領域数は、5以上である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の半導体発光素子において、
前記複数の溝部の等価屈折率は、前記複数の溝部以外のリッジ部の等価屈折率よりも低い、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体発光素子において、
前記複数の溝部は、エッチング処理により前記半導体層に形成された溝に絶縁材料が満たされることにより形成される、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項10】
光ガイド層と、
前記光ガイド層の上方に配置され、リッジ部が形成された半導体層と、を備え、
前記リッジ部には上下方向に延びた複数の溝部が形成され、
前記リッジ部の幅方向において、前記複数の溝部の幅は、外側が中央よりも広
く、
前記リッジ部の幅方向において、等価屈折率の分布が、中央から外側へと低くなるように、前記複数の溝部が設定されている、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に関し、たとえば、製品の加工等に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体発光装置が、様々な製品の加工に用いられている。この場合、加工品質を高めるために、半導体発光装置から出射される光は、高出力であることと、高次モードがカットされた基本モードであることが好ましい。以下の特許文献1、2には、高次モードの光をカットするために、導波路の中央部の屈折率を高くし、導波路の周辺部の屈折率を低くする構成が記載されている。
【0003】
特許文献1では、高さが異なる複数のリッジストライプを導波路に形成することにより、導波路の屈折率が調整されている。この構成では、導波路の中央部に配置されるリッジストライプの高さが導波路の周辺部に配置されるリッジストライプよりも高く設定されることにより、複数のリッジストライプからなる導波路の中央部の屈折率が高められる。
【0004】
特許文献2では、複数のリッジストライプを接続する溝の底面形状を調整することにより、導波路の屈折率が調整されている。この構成では、各溝の底面が、導波路の中央部が高く周辺部が低いレンズ形状に沿うように形成されることにより、複数のリッジストライプからなる導波路の中央部の屈折率が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-175281号公報
【文献】国際公開第2011/012100号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の構成では、高さの異なる複数のリッジストライプを形成するために、エッチングを繰り返す必要があるため、製造工程が煩雑になってしまう。また、上記特許文献2に記載の構成では、各溝の底面をレンズ形状に沿うように形成するために、レジストの熱効果を利用して、熱により収縮したレジストを犠牲層としてエッチングが行われる。このため、半導体ウェハ面内においてレジストの収縮率にばらつきが生じやすく、精度良くレンズ形状の底面を形成することが困難となる。
【0007】
かかる課題に鑑み、本発明は、中央の等価屈折率が高められた導波路を簡易かつ高精度に形成可能な半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、半導体発光素子に関する。本態様に係る半導体発光素子は、光ガイド層と、前記光ガイド層の上方に配置され、リッジ部が形成された半導体層と、を備える。前記リッジ部には上下方向に延びた複数の溝部が形成され、前記リッジ部の幅方向において、前記複数の溝部の間隔は、外側が中央よりも狭い。前記リッジ部の幅方向において、等価屈折率の分布が、中央から外側へと低くなるように、前記複数の溝部が設定されている。
【0009】
本態様に係る半導体発光素子によれば、光ガイド層で生じた光を伝搬させる導波路が、リッジ部に対応して形成され、リッジ部の幅方向において、リッジ部に形成された複数の溝部の間隔は、外側が中央よりも狭くなっている。これにより、リッジ部に対応する導波路において、中央の等価屈折率が高められる。したがって、半導体発光素子において高次モードのレーザ光をカットして、高いビーム品質のレーザ光を得ることができる。また、異なる間隔で並ぶ複数の溝部は、エッチング処理により、比較的容易に形成され得る。よって、中央の等価屈折率が高められた導波路を簡易かつ高精度に形成できる。
【0010】
本発明の第2の態様は、半導体発光素子に関する。本態様に係る半導体発光素子は、光ガイド層と、前記光ガイド層の上方に配置され、リッジ部が形成された半導体層と、を備える。前記リッジ部には上下方向に延びた複数の溝部が形成され、前記リッジ部の幅方向において、前記複数の溝部の幅は、外側が中央よりも広い。前記リッジ部の幅方向において、等価屈折率の分布が、中央から外側へと低くなるように、前記複数の溝部が設定されている。
【0011】
本態様に係る半導体発光素子によれば、光ガイド層で生じた光を伝搬させる導波路が、リッジ部に対応して形成され、リッジ部に形成された複数の溝部の幅が、外側が中央よりも広くなっている。これにより、リッジ部に対応する導波路において、中央の等価屈折率が高められる。したがって、半導体発光素子において高次モードのレーザ光をカットして、高いビーム品質のレーザ光を得ることができる。また、異なる幅で並ぶ複数の溝部は、エッチング処理により、比較的容易に形成され得る。よって、中央の等価屈折率が高められた導波路を簡易かつ高精度に形成できる。
【発明の効果】
【0012】
以上のとおり、本発明によれば、中央の等価屈折率が高められた導波路を簡易かつ高精度に形成可能な半導体発光素子を提供することができる。
【0013】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)は、実施形態1に係る、半導体発光素子の構成を模式的に示す上面図である。
図1(b)は、実施形態1に係る、半導体発光素子の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)、(b)は、実施形態1に係る、半導体発光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図3】
図3(a)、(b)は、実施形態1に係る、半導体発光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図4】
図4(a)、(b)は、実施形態1に係る、半導体発光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、実施形態1に係る、半導体発光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図6】
図6(a)、(b)は、実施形態1に係る、半導体発光素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係る、半導体発光素子におけるY軸方向の等価屈折率の分布を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る、半導体発光装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図9(a)、(b)は、変更例に係る、半導体発光素子におけるY軸方向の等価屈折率の分布を示す図である。
【
図10】
図10は、変更例に係る、等価屈折率の分布が二等辺三角形形状およびガウス形状となる場合の、リッジ部の領域数および励振モード数の関係を示すシミュレーション結果である。
【
図11】
図11は、実施形態2に係る、半導体発光素子の構成を模式的に示す断面図である。
【
図12】
図12は、実施形態2に係る、半導体発光素子におけるY軸方向の等価屈折率の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図を参照して説明する。便宜上、各図には、互いに直交するX、Y、Z軸が付記されている。X軸方向は、導波路における光の伝搬方向であり、Y軸方向は、導波路の幅方向である。Z軸方向は、半導体発光素子を構成する各層の積層方向である。
【0016】
<実施形態1>
図1(a)は、半導体発光素子1の構成を模式的に示す上面図であり、
図1(b)は、半導体発光素子1の構成を模式的に示す断面図である。
図1(a)では、便宜上、パッド電極72の図示が省略されている。
図1(b)は、
図1(a)においてA-A’で切断した半導体発光素子1をX軸正方向に見た断面図である。
【0017】
図1(a)に示すように、半導体発光素子1には、導波路WGが設けられている。導波路WGは、X軸方向に直線状に延びている。導波路WGは、Y軸方向において導波路WGの外への光の進行を制限する作用を有する。
【0018】
端面1aは、X軸正側に位置する導波路WGの端面であり、半導体発光素子1の出射側の端面でもある。端面1bは、X軸負側に位置する導波路WGの端面であり、半導体発光素子1の反射側の端面でもある。以下、端面1b側から端面1aへと向かう光を「前進波」と称し、端面1a側から端面1bへと向かう光を「後退波」と称する。
【0019】
前進波が端面1aに到達すると、前進波の一部は出射光として端面1aからX軸正方向に出射され、前進波の一部は端面1aで反射されて後退波となる。後退波は、導波路WGを通ってX軸負方向に進み、端面1bに到達すると、後退波の大部分は端面1bで反射し前進波となる。こうして、半導体発光素子1内で生じた光は、端面1aと端面1bとの間で増幅され、端面1aから出射される。
【0020】
図1(b)に示すように、半導体発光素子1は、基板10と、第1半導体層20と、光ガイド層30と、第2半導体層40と、絶縁膜60と、p側電極71と、パッド電極72と、n側電極80と、を備える。
【0021】
第1半導体層20は、基板10の上方に配置されている。第1半導体層20は、n側クラッド層である。
【0022】
光ガイド層30は、第1半導体層20の上方に配置されている。光ガイド層30は、下から順に、n側光ガイド層31と、活性層32と、p側光ガイド層33とが積層された積層構造を有する。発光領域30aは、導波路WGに対応する位置に配置され、半導体発光素子1から出射される光の大部分が発生および伝搬する領域である。
【0023】
第2半導体層40は、p側光ガイド層33の上方に配置されている。第2半導体層40は、下から順に、電子障壁層41と、p側クラッド層42と、p側コンタクト層43とが積層された積層構造を有する。
【0024】
リッジ部50は、第2半導体層40の上部に形成されており、リッジ形状(突条形状)を有する。リッジ部50は、
図1(a)に示すように、X軸方向に延びた形状を有しており、
図1(b)に示すように、Z軸正方向に突出した形状を有している。また、リッジ部50の上面には、X軸方向に延びるとともにZ軸方向に深さを有する6つの溝50aが形成されている。リッジ部50に6つの溝50aが形成されることにより、リッジ部50の端部と溝50aとの間、および、隣り合う2つの溝50aの間に、7つのリッジストライプ部52が形成される。
【0025】
絶縁膜60は、発光領域30aの光を閉じ込めるために、導波路WGのY軸方向の外側においてp側クラッド層42の上方に配置されている。また、絶縁膜60は、リッジ部50の溝50aにも配置されており、溝50aに絶縁膜60が配置されることにより、溝部51が形成される。
【0026】
p側電極71は、p側コンタクト層43の上方において、導波路WGに対応する位置に配置されている。p側電極71は、p側コンタクト層43とオーミック接触するオーミック電極である。パッド電極72は、導波路WGよりもY軸方向に長い形状であり、p側電極71および絶縁膜60と接触している。
【0027】
n側電極80は、基板10の下方に配置されており、基板10とオーミック接触するオーミック電極である。
【0028】
次に、半導体発光素子1の製造方法について、
図2(a)~
図6(b)を参照して説明する。
図2(a)~
図6(b)は、
図1(b)と同様の断面図である。
【0029】
図2(a)に示すように、主面が(0001)面であるn型六方晶GaN基板である基板10上に、有機金属気層成長法(Metalorganic Chemical Vapor Deposition:MOCVD法)により、第1半導体層20と、光ガイド層30と、第2半導体層40とを順次成膜する。
【0030】
具体的には、厚さ400μmの基板10上に、第1半導体層20としてn型Al0.03GaNクラッド層を2μm成長させる。続いて、第1半導体層20の上に、n側光ガイド層31としてi-GaN層を0.1μm成長させる。さらに、In0.02GaNバリア層とIn0.07GaN量子井戸層の2周期からなる活性層32を成長させる。バリア層の膜厚は、たとえば20nm、量子井戸層の膜厚は、たとえば7nmに設定するとよい。バリア層は、量子井戸層の間だけでなく、量子井戸層の上下にも成長させるとよい。続いて、p側光ガイド層33としてi-GaN層を0.1μm成長させる。
【0031】
続いて、電子障壁層41としてAl0.35GaNを5nm成長させる。続いて、電子障壁層41の上に、p側クラッド層42として、p-Al0.0.06GaN層1.5nmとGaN層1.5nmを160周期繰り返して形成した0.48μmの歪超格子からなる層を成長させる。続いて、p側コンタクト層43として、0.05μm厚のp-GaN層を成長させる。
【0032】
次に、
図2(b)に示すように、たとえば熱CVD法により、p側コンタクト層43上に、保護膜91として、膜厚が0.3μmのSiO
2からなる絶縁膜を成膜する。
【0033】
次に、
図3(a)に示すように、たとえばフォトリソグラフィ法およびフッ化水素酸を用いるエッチング法により、リッジ部50以外の領域および溝50aの領域に位置する保護膜91をエッチングする。すなわち、リッジ部50の溝50a以外の領域をストライプ状に残して他の領域をエッチングする。これにより、保護膜91は、エッチングにより、X軸方向に延びた形状とされ、Y軸方向に隙間を空けて複数(
図3(a)の場合は7個)に分割される。また、六方晶窒化物半導体の自然劈開面(m面)を利用して端面1a、1b(
図1(a)参照)を形成することを考慮して、ストライプの向きはm軸方向に平行とする。
【0034】
次に、
図3(b)に示すように、たとえば誘導結合プラズマ(ICP)エッチング法により、保護膜91をマスクとして用いて、積層構造体の上部を0.4μmの深さにエッチングし、エッチング範囲の下端を、p側クラッド層42の範囲とする。これにより、p側コンタクト層43およびp側クラッド層42の上部に、リッジ部50と、リッジ部50に設けられた溝50aとが形成される。
【0035】
このとき、各溝50aのZ軸方向の深さ(p側コンタクト層43の上面からの深さ)が、互いに等しい深さdpとなるようエッチングが行われる。また、Z軸方向における、溝50aの底面位置と、リッジ部50の外側に位置するp側クラッド層42の上面の位置とが等しくなるようエッチングが行われる。これにより、p側クラッド層42の上面も、p側コンタクト層43の上面から深さdpの位置となる。このように、リッジ部50および溝50aのエッチングが行われると、リッジ部50の形成プロセスと、溝50aの形成プロセスとを簡略化できる。
【0036】
次に、
図4(a)に示すように、帯状の保護膜91を、たとえばフッ化水素酸を用いて除去する。リッジ部50に形成された溝50aの幅、および、溝50aで区切られたリッジストライプ部52の幅は、
図3(a)を参照して説明した保護膜91の幅により決まる。実施形態1では、6個の溝50aは、Y軸方向の幅がいずれもd10とされる。また、Y軸方向において、溝50aの間隔(リッジストライプ部52の幅)は、中央から外側に向かってd21、d22、d23、d24となり、各溝50aの幅の関係は、d21>d22>d23>d24となる。
【0037】
たとえば、リッジ部50のY軸方向における各サイズは以下のように設定される。リッジ部50の幅(リッジ部50の左端から右端までの長さ)は16μmに設定される。溝50aの幅d10は、0.05~0.5μm程度に設定され、0.3μm以下に設定されるのが好ましい。リッジストライプ部52の幅d21、d22、d23、d24は、それぞれ、3.5μm、1.8μm、1.3μm、0.5μmに設定される。
【0038】
次に、
図4(b)に示すように、たとえば熱CVD法により、
図4(a)に示す積層構造体上に、リッジ部50を含む全面にわたって、膜厚が200nmのSiO
2からなる絶縁膜60を形成する。このとき、絶縁膜60の絶縁材料が6つの溝50a内に満たされることにより、溝部51が形成される。すなわち、溝部51は、溝50aと、溝50aに収容された絶縁膜60の絶縁材料とにより構成される。したがって、Y軸方向において、溝部51の幅は、
図4(a)に示した溝50aの幅d10と同じであり、溝部51の間隔(リッジストライプ部52の幅)は、
図4(a)に示した溝50aの間隔d21、d22、d23、d24と同じである。
【0039】
次に、
図5(a)に示すように、たとえばフォトリソグラフィ法およびフッ化水素酸を用いるエッチング法により、p側コンタクト層43上に位置する絶縁膜60のみを除去して、p側コンタクト層43の上面を露出させる。これにより、溝50aに配置された絶縁膜60は、p側コンタクト層43の上面から上方向に突出する。
【0040】
次に、
図5(b)に示すように、たとえば電子ビーム(Electron Beam:EB)蒸着法により、少なくとも露出したp側コンタクト層43上に、パラジウムと白金とからなる金属積層膜を形成する。その後、レジストパターンを除去するリフトオフ法により、p側コンタクト層43に対応する位置以外の金属積層膜を除去して、p側電極71を形成する。
【0041】
次に、
図6(a)に示すように、リソグラフィ法およびリフトオフ法により、
図5(b)に示す積層構造体の上を覆うように、たとえば、X軸方向の長さが900μmでY軸方向の長さが150μmのTi/Pt/Auからなるパッド電極72を選択的に形成する。続いて、基板10の下面をダイヤモンドスラリにより研磨して、基板10の厚さが100μm程度になるまで薄膜化する。
【0042】
次に、
図6(b)に示すように、たとえばEB蒸着法により、基板10の下面に、たとえばTi、白金、金からなる金属積層膜を形成することでn側電極80を形成する。
【0043】
次に、
図6(b)までの製造工程を終えた半導体発光素子を、m軸方向の長さがたとえば2000μmとなるようにm面に沿って劈開(1次劈開)する。続いて、たとえば電子サイクロトロン共鳴(ECR)スパッタ法を用いて、レーザ光を出射する劈開面に対してフロントコート膜を形成して端面1aを形成し、反対側の劈開面に対してリアコート膜を形成して端面1bを形成する。端面1a、1bの反射率は、コート膜の材料、構成、膜厚などの調整により設定される。ここでは、レーザ特性の高効率を得るために、フロント側の端面1aの反射率を0.6%とし、リア側の端面1bの反射率を95.3%とした。なお、端面1aの反射率は0.1%~18%程度に設定され、端面1bの反射率は90%以上に設定されるのが好ましい。
【0044】
続いて、1次劈開された半導体発光素子を、たとえばY軸方向の長さが400μmピッチとなるように劈開(2次劈開)する。こうして、
図1(a)、(b)に示した半導体発光素子1が完成する。
【0045】
図7は、半導体発光素子1におけるY軸方向の等価屈折率の分布を示す図である。等価屈折率とは、光に実質的に作用する屈折率のことであり、半導体発光素子1の内部を伝播する光に対して定義される屈折率のことである。
【0046】
図7に示す等価屈折率の分布は、溝部51のY軸方向の中心を通るZ軸に平行な線で、半導体発光素子1を分割し、分割した半導体発光素子1の各領域において、等価屈折率法を用いて屈折率を算出することにより得られる。実施形態1によれば、Y軸方向において、6つの溝部51の幅が等しく設定され、溝部51の間隔が、外側が中央よりも狭く設定されている。これにより、等価屈折率の分布に示すように、リッジ部50に対応する導波路WGにおいて、中央から外側に向かって屈折率が段階的に小さくなる。このように、中央から外側に向かって屈折率が段階的に小さくなると、Y軸方向(スロー軸方向)における発振モード数を低減することができる。
【0047】
図8は、半導体発光装置3の構成を模式的に示す断面図である。
【0048】
半導体発光装置3は、半導体発光素子1とサブマウント2を備える。半導体発光素子1のp側電極71側を、たとえば、表面をAuメタルコートしたSiCとAuSn半田とからなるサブマウント2に融着させる。これにより、半導体発光装置3が完成する。半導体発光装置3は、たとえば、製品の加工に用いられる。
【0049】
なお、
図8に示す半導体発光装置3は、半導体発光素子1のp側電極71側がサブマウント2に接続される形態(ジャンクションダウン実装)であるが、これに限らず、半導体発光素子1のn側電極80がサブマウント2に接続される形態(ジャンクションアップ実装)であってもよい。また、半導体発光装置3は、p側電極71とn側電極80の両方に別々のサブマウントが接続される形態でもよい。
【0050】
<実施形態1の効果>
実施形態1によれば、以下の効果が奏される。
【0051】
光ガイド層30で生じた光を伝搬させる導波路WGが、リッジ部50に対応して形成され、リッジ部50の幅方向(Y軸方向)において、リッジ部50に形成された複数の溝部51の間隔は、外側が中央よりも狭くなっている。すなわち、
図4(a)に示したように、溝部51の間隔d21、d22、d23、d24が、d21>d22>d23>d24に設定されている。これにより、
図7に示したように、リッジ部50に対応する導波路WGにおいて、中央の等価屈折率が高められる。したがって、半導体発光素子1において高次モードのレーザ光をカットして、高いビーム品質のレーザ光を得ることができる。また、異なる間隔で並ぶ複数の溝部51は、エッチング処理により、比較的容易に形成され得る。よって、中央の等価屈折率が高められた導波路WGを簡易かつ高精度に形成できる。
【0052】
なお、高次モードのレーザ光をカットするために、導波路WGのY軸方向の幅を狭くする構成(比較例)も考えられる。しかしながら、このような比較例では、導波路WGにおいてレーザ光が増幅されると、導波路WGにおいて温度が上昇しやすくなり、半導体発光素子1が劣化しやすくなる問題が生じる。これに対し、実施形態1によれば、リッジ部50に複数の溝部51を形成することで高次モードのレーザ光をカットできるため、導波路WGのY軸方向の幅を狭くする必要がない。よって、高次モードのレーザ光をカットしつつ、導波路WGにおける温度上昇を抑制して、半導体発光素子1の劣化を抑制できる。
【0053】
リッジ部50の幅方向(Y軸方向)において、複数の溝部51の幅は、互いに等しい。すなわち、
図4(a)に示したように、複数の溝部51の幅はいずれもd10に設定されている。これにより、リッジ部50に形成する溝部51の幅を最小限に抑えて、リッジ部50において第2半導体層40(p側コンタクト層43)を十分に残すことができる。よって、所定レベルのレーザ光を出射させるために半導体発光素子1に印加する電流を低く抑えて、半導体発光素子1の破損を抑制することができる。
【0054】
複数の溝部51の上下方向における深さは、互いに等しい。これにより、エッチング処理により、複数の溝部51をさらに容易に形成することができる。
【0055】
複数の溝部51の等価屈折率は、複数の溝部51以外のリッジ部50(リッジストライプ部52)の等価屈折率よりも低い。これにより、リッジ部50の幅方向(Y軸方向)の外側に狭い間隔で設けられた溝部により、導波路WGの外側の等価屈折率を低く設定できる。
【0056】
複数の溝部51は、エッチング処理により第2半導体層40に形成された溝50aに絶縁膜60の絶縁材料が満たされることにより形成される。これにより、複数の溝部51の等価屈折率を、複数の溝部51以外のリッジ部50(リッジストライプ部52)の等価屈折率よりも容易に低く設定できる。
【0057】
<リッジ部の領域数および等価屈折率の分布形状の変更例>
実施形態1では、リッジ部50に6つの溝部51が形成されることにより、リッジ部50が7つに分割され、7つのリッジストライプ部52が形成された。しかしながら、リッジ部50の領域数(分割数)は7つに限らず、3つ以上であればよい。また、等価屈折率の分布形状は、中央が外側よりも高ければよい。以下、リッジ部50の領域数および等価屈折率の分布形状の具体的な変更例について説明する。
【0058】
図9(a)、(b)は、本変更例に係る、半導体発光素子1におけるY軸方向の等価屈折率の分布を示す図である。
図9(a)、(b)は、いずれも、リッジ部50に形成された溝部51の数が10個であり、リッジ部50の領域数が11個である場合の変更例である。
図9(a)、(b)に示す変更例では、実施形態1と比較して、各溝部51の幅はd10で同じであり、溝部51の間隔のみが異なっている。
【0059】
図9(a)に示す変更例では、リッジ部50の幅方向(Y軸方向)において、等価屈折率の分布が、中央から外側へと略直線状に低くなるように、複数の溝部51が設定されている。すなわち、
図9(a)に破線で示すように、等価屈折率の分布が、リッジ部50の中央を頂点とし、外側の端部を底辺とする二等辺三角形に近似する形状となっている。
図9(b)に示す変更例では、
図9(b)に破線で示すように、リッジ部50の幅方向(Y軸方向)において、等価屈折率の分布が、中央から外側へと略ガウス形状で低くなるように、複数の溝部51が設定されている。
図9(a)、(b)に示す何れの変更例においても、複数の溝部51の間隔を、外側が中央よりも狭くなるよう設定することにより、
図9(a)、(b)に示すように等価屈折率の分布を形成できる。
【0060】
図10は、等価屈折率の分布が二等辺三角形形状およびガウス形状となる場合の、リッジ部50の領域数(リッジストライプ部52の数)およびY軸方向のモード数(励振モード数)の関係を示すシミュレーション結果である。
【0061】
図10を参照して分かるように、等価屈折率の分布が二等辺三角形形状およびガウス形状の何れの場合も、リッジ部50の領域数が大きくなるほど励振モード数が減少し、半導体発光素子1から得られるレーザ光のビーム品質が向上する。
【0062】
また、等価屈折率の分布がガウス形状である場合、等価屈折率の分布が二等辺三角形形状である場合と比較して、より少ないリッジ部50の領域数で、励振モード数を抑制できる。
【0063】
また、等価屈折率の分布が二等辺三角形形状である場合、複数の溝部51によって分割されたリッジ部50の領域数が25以上であると、励振モード数が5以下となり、半導体発光素子1から得られるレーザ光のビーム品質を高めることができる。また、等価屈折率の分布がガウス形状である場合、複数の溝部51によって分割されたリッジ部50の領域数が5以上であると、励振モードが5以下となり、半導体発光素子1から得られるレーザ光のビーム品質を高めることができる。さらに、等価屈折率の分布がガウス形状である場合、等価屈折率の分布が二等辺三角形形状である場合と比較して、より少ないリッジ部50の領域数で、励振モード数を5以下に設定できる。
【0064】
<実施形態2>
実施形態1では、Y軸方向において、複数の溝部51の幅が何れもd10に設定され、溝部51の間隔は、外側が中央よりも狭くなるよう、複数の溝部51が設定された。これに対し、実施形態2では、Y軸方向において、溝部51の間隔が等しく、複数の溝部51の幅が外側が中央より広くなるよう、複数の溝部51が設定される。
【0065】
図11は、実施形態2に係る、半導体発光素子1の構成を模式的に示す断面図である。
【0066】
実施形態2では、Y軸方向において、溝部51の間隔は何れもd20に設定されており、複数の溝部51の幅は、中央から外側に向かって、d11、d12、d13となり、各溝部51の幅の関係は、d11<d12<d13となっている。
【0067】
図12は、実施形態2に係る、半導体発光素子1におけるY軸方向の等価屈折率の分布を示す図である。
【0068】
図12に示す等価屈折率の分布は、
図7の場合と同様、溝部51のY軸方向の中心を通るZ軸に平行な線で、半導体発光素子1を分割し、分割した半導体発光素子1の各領域において、等価屈折率法を用いて屈折率を算出することにより得られる。実施形態2では、Y軸方向において、溝部51の間隔が等しく設定され、6つの溝部51の幅が、外側が中央よりも広く設定されている。これにより、等価屈折率の分布に示すように、リッジ部50に対応する導波路WGにおいて、中央から外側に向かって屈折率が段階的に小さくなる。
【0069】
したがって、実施形態2によれば、リッジ部50に対応する導波路WGにおいて、中央の等価屈折率が高められるため、実施形態1と同様、半導体発光素子1において高次モードのレーザ光をカットして、高いビーム品質のレーザ光を得ることができる。また、異なる幅で並ぶ複数の溝部51は、エッチング処理により、比較的容易に形成され得る。よって、中央の等価屈折率が高められた導波路WGを簡易かつ高精度に形成できる。
【0070】
<その他の変更例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、他に種々の変更が可能である。
【0071】
たとえば、上記実施形態および変更例では、溝部51は、溝50aに絶縁膜60の絶縁材料が満たされることにより構成されたが、溝50aに満たされる材料は絶縁膜60の絶縁材料に限らず、複数の溝部51以外のリッジ部50(リッジストライプ部52)の等価屈折率より低ければよい。
【0072】
また、上記実施形態および変更例において、複数の溝50a(溝部51)の上下方向における深さは、Y軸方向において、外側が中央よりも大きくてもよい。ただし、溝部51を簡易に形成するためには、上記実施形態と同様、複数の溝部51の上下方向における深さが等しい方が好ましい。
【0073】
また、上記実施形態および変更例において、Z軸方向における、溝50a(溝部51)の底面位置と、リッジ部50の外側に位置するp側クラッド層42の上面の位置とは異なっていてもよい。ただし、溝部51およびリッジ部50を簡易に形成するためには、上記実施形態と同様、溝50aの底面位置とp側クラッド層42の上面の位置とが等しい方が好ましい。
【0074】
また、上記実施形態1および変更例において、複数の溝部51の間隔(ギャップ)を外側が中央よりも狭くなるよう溝部51を設定することと、溝部51のピッチ(隣り合う2つの溝部51のY軸方向における中心間距離)を外側が中央よりも狭くなるよう溝部51を設定することとは、実質的に等価である。すなわち、溝部51のピッチを外側が中央よりも狭くなるよう溝部51を構成した場合も、上記実施形態1および変更例と同様に、中央の等価屈折率が高められた導波路WGを形成できる。
【0075】
なお、半導体発光装置3は、製品の加工に限らず、他の用途に用いられてもよい。
【0076】
この他、本発明の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 半導体発光素子
30 光ガイド層
40 第2半導体層(半導体層)
50 リッジ部
50a 溝
51 溝部