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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】尿成分分析装置及び便器装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/493 20060101AFI20231221BHJP
   G01N 21/552 20140101ALI20231221BHJP
【FI】
G01N33/493 B
G01N21/552
G01N33/493 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020053294
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152490
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕哉
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-060839(JP,A)
【文献】特開2005-003383(JP,A)
【文献】国際公開第2005/093177(WO,A1)
【文献】特開2002-214186(JP,A)
【文献】特開平08-304386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投入される尿と接触する光学素子と、
前記光学素子の内部を伝搬する分析光であって、前記光学素子の尿接触面で全反射させた分析光を検出する光センサと、
前記検出した分析光に基づいて、前記尿の成分を分析可能なデータ処理装置と、
前記尿接触面を覆うように設けられ、前記投入される尿の勢いを弱める緩衝部材と、
を備える尿成分分析装置。
【請求項2】
前記緩衝部材は、前記尿接触面の全域を覆うように配置される請求項1に記載の尿成分分析装置。
【請求項3】
前記緩衝部材は、メッシュ状に構成される請求項1又は2に記載の尿成分分析装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の尿成分分析装置と、
前記尿が投入される便鉢部と、
前記尿成分分析装置が組み込まれ、伸縮可能に構成された可動部材と、
前記可動部材を収容する機能部と、
を備える便器装置。
【請求項5】
便鉢部を有する便器本体と、
前記便鉢部に投入される尿と接触する光学素子を有し、前記光学素子の内部を伝搬する分析光であって、前記光学素子の尿接触面で全反射させた分析光を検出することで前記尿の成分を分析可能な尿成分分析装置と、
前記尿接触面を覆うように設けられ、前記便鉢部に投入される尿の勢いを弱める緩衝部材と、
を備える便器装置。
【請求項6】
前記緩衝部材は、前記尿接触面の全域を覆うように配置される請求項5に記載の便器装置。
【請求項7】
前記緩衝部材は、前記尿接触面に対して間隔を空けて配置される請求項5又は6に記載の便器装置。
【請求項8】
前記分析光の光路は、多重反射により複数回に亘り前記尿接触面で全反射するように設定される請求項5乃至7のいずれか1項に記載の便器装置。
【請求項9】
前記緩衝部材は、メッシュ状に構成される請求項5乃至8のいずれか1項に記載の便器装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿成分分析装置及び当該分析装置を搭載又は当該分析装置とともに使用される便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康意識の高まりにともない、自宅で気軽に健康状態を把握できる手段の開発が進められている。本出願人においても、ハイパースペクトルカメラを利用した尿成分分析技術の研究が進められている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-060839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、トイレ利用時に使用者が意識することなく尿成分を分析できる技術について鋭意検討してきた。また特許文献1に記載の尿成分分析装置について、測定精度を向上させるべく、測定方法、被検対象物の採取方法等、鋭意工夫を重ね本開示の技術を発明した。
【0005】
本開示の目的の1つは、従来よりも尿成分の正確な検出が可能な尿成分分析装置及び当該分析装置を搭載又は当該分析装置とともに使用される便器装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る尿成分分析装置は、投入される尿と接触する光学素子と、前記光学素子の内部を伝搬する分析光であって、前記光学素子の尿接触面で全反射させた分析光を検出する光センサと、前記検出した分析光に基づいて、前記尿の成分を分析可能なデータ処理装置と、前記尿接触面を覆うように設けられ、前記投入される尿の勢いを弱める緩衝部材と、を備える。
【0007】
本開示に係る便器装置は、上記尿成分分析装置と、前記尿が投入される便鉢部と、前記尿成分分析装置が組み込まれ、伸縮可能に構成された可動部材と、前記可動部材を収容する機能部と、を備える。
【0008】
本開示に係る便器装置は、便鉢部を有する便器本体と、前記便鉢部に投入される尿と接触する光学素子を有し、前記光学素子の内部を伝搬する分析光であって、前記光学素子の尿接触面で全反射させた分析光を検出することで前記尿の成分を分析可能な分析装置と、前記尿接触面を覆うように設けられ、前記便鉢部に投入される尿の勢いを弱める緩衝部材と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の便器装置を示す側面図である。
図2】実施形態の便器装置の一部の側面断面図である。
図3】実施形態の尿成分分析装置の機能を示すブロック図である。
図4】実施形態の尿成分分析装置の一部を示す側面断面図である。
図5A図5Aは、可動部材が採尿位置にある状態を示す図である。
図5B図5Bは、可動部材が待機位置にある状態を示す図である。
図6A図6Aは、緩衝部材のメッシュ構成の例を示す平面図である。
図6B図6Bは、緩衝部材のメッシュ構成の例を示す平面図である。
図6C図6Cは、緩衝部材のメッシュ構成の例を示す平面図である。
図6D図6Dは、緩衝部材のメッシュ構成の例を示す平面図である。
図6E図6Eは、緩衝部材のメッシュ構成の例を示す平面図である。
図7A図7Aは、図4の矢視Aからセンサユニットの一部を見た図である。
図7B図7Bは、センサユニットに付着した尿試料を示す図である。
図8】実施形態の制御部及びデータ処理部が行う処理フローの一例を示すフローチャートである。
図9】吸収スペクトルのピークの強度と、尿試料中の成分の濃度と、分析光の尿接触面に対する分析光の侵入回数との関係を例示する図である。
図10】緩衝部材を有さない便器装置において尿試料が跳ね返る場合を例示する図である。
図11】緩衝部材を有さない便器装置において尿試料が光路上に乗らない場合を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略し、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す場合がある。
【0011】
<実施形態>図1は、一実施形態における尿成分分析装置20が取り付けられる便器装置10を示す外観図である。便器装置10は、便器本体12と、便座支持部材14と、便座16と、便蓋18と、尿成分分析装置20(図2参照)と、を含む。
【0012】
図2は、本実施形態における尿成分分析装置20が便器装置10内に取り付けられた状態を示す概略断面図である。本実施形態に係る便器本体12は、洋風大便器である。便器本体12は、尿等の汚物を受ける便鉢部22を有する。便鉢部22の底部には封水24が溜められる。尿成分分析装置20の詳細は後述するが、カバー部材36から入れ子式に前進後退又は伸縮可能に構成された可動部材34の先端に設けられた光学素子26を備える。光学素子26およびその周囲がセンサユニット28として機能する。
【0013】
図1、2に例示される便座支持部材14は、便器本体12の後部の上面部に対して、不図示のねじ等を用いて、着脱可能に取り付けられる。便座支持部材14は中空構造であり、その内部に局部洗浄装置等の機械装置が収容される。便座16及び便蓋18は、便座支持部材14を介して便器本体12に開閉可能に取り付けられる。
【0014】
図3は、本実施形態における尿成分分析装置20の構成を示すブロック図である。本開示に係る尿成分分析装置20は、分光法の一つとなる減衰全反射法を利用して、尿成分の濃度等を分析する。この減衰全反射法を用いた分析の概要は次の通りである。減衰全反射法では、ATR素子とよばれる光学素子26を用いる。図4に示すように、光学素子26は、分析対象となる尿Ur(以下、尿試料Urという)と接触させて用いられる。光学素子26の屈折率が、分析対象となる尿Urの屈折率よりも大きくなるよう光学素子26を設計又は選択することにより、光学素子26に入射した光(分析に供する光であり、以下、分析光と称する)は、尿試料Urと接触する尿接触面26cで全反射を繰り返しながら、光学素子26内を前進する。分析光の波長は分析対象に応じて適宜選択することができ、尿を分析対象とする場合は、0.8μm~20μmの波長が好ましい。尿接触面26cと尿試料Urの界面BSより尿試料Ur寄りの箇所には、分析光の全反射に伴い分析光の一部がエバネッセント波として潜り込む。エバネッセント波は尿試料Urに固有の波長で吸収されるため、その分析光のスペクトルを取得することにより、尿試料Urの成分を分析できる。ここでの分析とは、例えば、尿試料Urの成分に関する定性分析や、その成分の濃度等に関する定量分析である。
【0015】
本実施形態における尿成分分析装置20は、センサユニット28と、制御部30と、データ処理部32と、を備える。制御部30、データ処理部32は、ハードウェア要素とソフトウェア要素の組み合わせ、又は、ハードウェア要素のみにより実現される。ハードウェア要素としては、プロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)が利用される。ソフトウェア要素としては、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムが利用される。本開示に係る制御部30およびデータ処理部32は、スタンドアローンでその機能を発揮してもよく、ネット接続によりその機能を発揮するものであってもよい。また制御部30およびデータ処理部32は、便器装置において電子部品等が収納される機能部(図1における便座支持部材14内の空間など)に構成されてもよく、便器装置に外付けされてもよく、便器装置とは離れた遠隔位置にネット接続等により構成されてもよい。
【0016】
本実施形態において制御部30及びデータ処理部32を構成するハードウェア要素は、便座支持部材14とは別体に設けられる。ただし、これらハードウェア要素は、便座支持部材14と一体に設けられるようにその内部に収容されてもよい。制御部30は、センサユニット28の動作を制御する。データ処理部32は、センサユニット28の光センサ40(後述する)から出力される検出信号に基づいて尿試料Urの成分を分析する。これらが行う処理は後述する。
【0017】
図2、4に示すように、センサユニット28は、光学素子26の他に、可動部材34と、カバー部材36と、光源38と、光センサ40と、弾性部材42と、押さえ部材44と、緩衝部材46と、を有する。
【0018】
可動部材34は、中空の円筒形状をなしている。なお、可動部材34は、カバー部材36に対して引き出したり、収納したりできるものであれば、円筒形状に限定されない。可動部材34には、光学素子26、光源38、光センサ40、弾性部材42、押さえ部材44及び緩衝部材46が組み込まれる。光学素子26、光源38、光センサ40は可動部材34の内部に収容されたうえで、ネジ止め、接着等により固定されることで可動部材34に組み込まれる。また、弾性部材42、押さえ部材44及び緩衝部材46は可動部材34の上面34a側に配置されたうえで、ネジ止め等により固定されることで可動部材34に組み込まれる。可動部材34は、これら光学素子26等を支持する支持部材として機能する。可動部材34は、上記機能部内に収容可能に構成される。
【0019】
カバー部材36は、便座支持部材14の内部に配置される。カバー部材36は、筒状の部材であり、可動部材34を進退可能に内蔵する。内蔵方式は、入れ子式、スライド式、等適宜採用しうる。カバー部材36は可動部材を進退可能に収容できる形状であればよく、円筒の他、角筒その他の筒状形状も採用できる。カバー部材36は、不図示のねじ等を用いて、便座支持部材14に着脱可能に取り付けられる。これにより、センサユニット28を便器本体12に直接に取り付けるよりも容易に交換できる。
【0020】
図5A及び図5Bに示すように、可動部材34は、モータ、動力伝達部品等を組み合わせた駆動機構によって、カバー部材36に対して進退するように駆動される。可動部材34は、カバー部材36に対して直線的に進退することによって、採尿位置Laと待機位置Lbの間を移動可能である。
【0021】
採尿位置Laは、便鉢部22内に尿試料Urを投入したとき、その尿試料Urを可動部材34で受けられる位置である。尿試料Urは、分析対象者の排尿に伴い直接に投入されてもよいし、排尿時に一時的に容器に溜めたうえで容器から投入されてもよい。可動部材34は、採尿位置Laにあるとき、光学素子26の尿接触面26cが上向きに配置される。また、可動部材34は、採尿位置Laにあるとき、便鉢部22内に溜められる封水24の水面(封水面)に対して上方に配置される(図2参照)。
【0022】
待機位置Lbは、便鉢部22内に尿試料Urを投入したとき、その尿試料Urを可動部材34で受けられない位置である。可動部材34は、待機位置Lbにあるとき、カバー部材36に全体又は大部分が収容されることで、尿を受けられない状態となる。
【0023】
図4に示すように、光学素子26は、分析光が入射する分析光入射面26aと、分析光が出射する分析光出射面26bと、分析光入射面26aから入射した分析光を多重全反射させながら分析光出射面26bまで導く互いに向き合う一対の尿接触面26c及び全反射面26dとを有する。光学素子26は、分析光に対して透光性を持つ素材を用いて構成される。この素材は、例えば、シリコン単結晶等である。光学素子26の詳細は後述する。
【0024】
光源38は、光学素子26の分析光入射面26aに入射する分析光を発することが可能である。光源38は、分析光として、赤外線に属する波長域の光を発する。この波長域は、例えば、0.8μm~20μmである。
【0025】
光センサ40は、光学素子26の分析光出射面26bから出射した分析光を検出可能である。光センサ40は、例えば焦電センサである。光センサ40は、分析光を受光することで分析光に応じた検出信号を生成し、その検出信号をデータ処理部32に出力する。
【0026】
本実施形態において、光源38が発した分析光は、光学素子26の分析光入射面26aに入射する。このとき、光源38から分析光入射面26aに至る光路上にミラー、プリズム等を設置することにより、光源38からの光を効率的に入射面26aに入射させることができる。
【0027】
また、本実施形態において、光学素子26の分析光出射面26bから出射した分析光は、光センサ40に入射する。このとき、分析光出射面26bから光センサ40に至る光路上にミラー、プリズム等を設置することにより、出射面26bからの光を効率的に光センサ40に入射させることができる。
【0028】
弾性部材42は可動部材34の上面34a上で可動部材34と緩衝部材46との間に配置される。本実施形態における弾性部材はゴム板である。押さえ部材44は緩衝部材46上に配置される。弾性部材42及び押さえ部材44は、緩衝部材46を通過しようとする尿との干渉を避けることができる位置に配置される。押さえ部材44により弾性部材42及び緩衝部材46が押さえ込まれた状態でねじ止め(図4中、ねじは不図示)することにより、可動部材34の上面34a上で弾性部材42、押さえ部材44及び緩衝部材46が固定される。
【0029】
緩衝部材46は、複数の細線が縦横に交差してメッシュ状に構成された矩形の複数の微細孔を有する。緩衝部材46は、複数の微細孔を通じて便鉢部22に投入される尿試料Urの勢いを弱めつつこの尿試料Urを通過可能に構成される。図4に示すように、緩衝部材46は、光学素子26の尿接触面26cよりも大きいサイズのシート体である。緩衝部材46は、光学素子26の尿接触面26cの全面を覆うように尿接触面26cに対して上方に配置される。緩衝部材46は、尿接触面26cに対して、尿接触面26cから尿試料Urへエバネッセント波が潜り込む深さよりも間隔を空けて配置される。一実施形態においてエバネッセント波の尿試料Ur中への潜り込みの深さは数μm程度である。緩衝部材46は、弾性部材42及び押さえ部材44に挟み込まれるように配置される。図4に示すように、本実施形態の緩衝部材46は、可動部材34が前方または後方に稼働する方向である可動方向Dxに傾斜する。以下、その傾斜する方向を傾斜方向Pxという。
【0030】
図6Aは、本実施形態における緩衝部材46のメッシュ構成を示す平面図である。本実施形態における緩衝部材46は、金属線51を格子状に編んだメッシュである。金属線51としては、従来公知のものを採用できる。金属線は防食材料により被覆されていてもよい。
【0031】
図7A及び図7Bに示すように、本実施形態における緩衝部材46は、平面視において傾斜方向Pxを長手方向とする矩形状に構成される。なお、図6A及び図6Bでは、緩衝部材46の微細孔は簡略化して示されている。光学素子26および緩衝部材46は、光路の確保と、便器内の設置寸法との関係から、本実施形態のような平面視矩形型が好ましいが、これに限定されない。
【0032】
図7A及び図7Bに示すように、本実施形態における光学素子26は、平面視において傾斜方向Pxを長手方向とする矩形である。傾斜方向Pxについて、光学素子26の尿接触面26c側の面の長さは、図4に示すように、断面視において、全反射面26d側の面の長さよりも大きい。分析光入射面26aおよび分析光出射面26bは、尿接触面26c側の面から全反射面26dに向かって斜めに構成されている。
【0033】
図4に示す例では、分析光入射面26aおよび分析光出射面26bは、尿接触面26c側の面を下底(長い底辺)、全反射面26dを上底(短い底辺)とする断面視逆台形状の光学素子26の側面をそれぞれ構成し、分析光入射面26aと分析光出射面26bは、全反射面26dに対して鈍角をなし、かつ、尿接触面26cに対して鋭角をなすように傾斜している。
【0034】
分析光入射面26aは、傾斜方向Pxにおいて、光学素子26の一端26eを構成し、分析光出射面26bは、傾斜方向Pxにおいて、光学素子26の他端26fを構成する。分析光入射面26aは、光学素子26内で分析光が進む光路Poの始点となり、分析光入射面26aから入射した光は光学素子26内で全反射を繰り返しながら進み、分析光出射面26bで光学素子26から出る。すなわち、分析光出射面26bは、光学素子26内の光路Poの終点となる。全反射面26dは、尿接触面26cとは光学素子26の表裏反対側にて尿接触面26cと平行に設けられる。ここでいう「平行」とは、光学素子26内で多重全反射が生じる程度に方向が揃っていればよく、厳密な平行でなくともよい。
【0035】
尿接触面26cは、可動部材34が採尿位置Laにあるとき、外部空間に露出し、便鉢部22に投入される尿試料Urと接触する。光学素子26は、その尿接触面26cを含む全体に関して、可動部材34が採尿位置Laにあるとき、便鉢部22の内壁面から上方に浮いた位置に設けられる。
【0036】
尿接触面26cは、傾斜方向Pxの勾配に沿って、分析光入射面26a側が分析光出射面26b側よりも下側になるよう傾斜する傾斜領域26gを有する。本実施形態では、尿接触面26cの全体が傾斜領域26gとなる。以下、尿接触面26cの傾斜方向Px及び尿接触面26cの法線方向と直交する方向を幅方向Pyという。
【0037】
可動部材34には、外内を貫通する窓部34bが形成される。光学素子26は、窓部34bを可動部材34の内側から覆い塞ぐように設けられる。光学素子26の尿接触面26cは、窓部34bを通して外部空間に露出するように設けられる。窓部34bの内周壁面は、可動部材34の外側から内側に向かうにつれて径方向内側に延びるように傾斜して形成される。
【0038】
可動部材34の上面34aは、光学素子26の尿接触面26cと同様、尿接触面26cの傾斜方向Pxの一方に向かって下り勾配となる傾斜領域34cを有する。可動部材34の傾斜領域34cは、尿接触面26cの傾斜領域26gよりも上方であって、その傾斜領域34cに付着した尿試料Urを自重により尿接触面26cまで導ける位置に少なくとも設けられる。これにより、分析対象者は、光学素子26の尿接触面26cの他に、可動部材34の傾斜領域34cを狙いとして尿試料Urを投入すればよくなり、尿成分の分析に伴う分析対象者の作業負担を軽減できる。
【0039】
図4図7A及び図7Bに示すように、光源38は、光学素子26の一端側に配置され、光源38から出射した分析光が分析光入射面26aに直進して入射する位置に配置される。また、光センサ40は、光学素子26の他端側26fに配置され、分析光出射面から出射した分析光が光センサ40に直進して入射する位置に配置される。光源38は、尿接触面26cの法線方向(図7の視点)から見て、光学素子26の一端側26eと重なる位置に配置される。また、光センサ40は、同様の視点から見て、光学素子26の他端側26fと重なる位置に配置される。
【0040】
図4図7A及び図7Bでは、分析光の光路Poを模式的に示す。分析光の光路Poは、光学素子26の尿接触面26cと全反射面26dでの多重反射により、複数回に亘り尿接触面26cの傾斜領域26gや全反射面26dで全反射するように設定される。
【0041】
また、分析光の光路Poは、このような傾斜領域26gでの複数回の全反射を伴い傾斜領域26gの傾斜方向Pxに伝搬するように設定される。本実施形態では、傾斜領域26gの法線方向(図7A及び図7Bの視点)から見て、傾斜領域26gの傾斜方向Pxに沿って伝搬するように分析光の光路Poが設定される。
【0042】
また、分析光の光路Poは、傾斜領域26gの法線方向(図7A及び図7Bの視点)から見て、傾斜領域26gの傾斜方向Pxに沿って延びる帯状をなす。また、分析光の光路Poの幅方向Pyに沿った幅寸法は、尿接触面26cの幅寸法より小さくなるように設定される。
【0043】
このように分析光の光路Poを設定するうえで、分析光の形状、分析光の分析光入射面26aへの入射角度、光学素子26の形状等が設定される。詳しくは、光源38から光学素子26の内部を経由して光センサ40に至るまでの間で、分析光の光路Poが前述した条件を満たすように、分析光入射面26aへの入射角度、光学素子26の形状等が設定される。特に、このような条件を満たすように、光学素子26の形状として、光学素子26の尿接触面26c、全反射面26d、分析光入射面26a、分析光出射面26bの形状が設定される。分析光の形状は、前述の分析光の光路Poの幅寸法に関する条件を満たすように設定される。このような分析光の光路Poが設定されるようにセンサユニット28が構成されるとも捉えられる。
【0044】
図8のフローチャートを用いて、尿成分分析装置20による分析動作を説明する。制御部30及びデータ処理部32は、不図示の操作ユニットに対する操作を通じて分析開始指令を受けたことを契機として、尿成分分析装置20を用いた分析動作を実行する。この分析動作では、まず、制御部30は、駆動機構を用いてセンサユニット28の可動部材34を待機位置Lbから採尿位置Laに移動させる(S10)。
【0045】
制御部30は、可動部材34が採尿位置Laにあるとき、光源38から発した分析光を光学素子26の内部を通過させたうえで光センサ40により検出する分析光検出動作を行う。一実施形態における制御部30は、第一段階として、バックグラウンドスペクトルを取得するため、光学素子26の尿接触面26cに尿試料Urが接触していない状態のもとで分析光検出動作を行う。データ処理部32は、このような状態のもとで分析光検出動作により光センサ40により分析光を検出することで、バックグラウンドスペクトルを取得する(S12)。なお、本開示に係る測定技術においては必ずしも毎回バックグラウンドスペクトルを取得する必要はない。
【0046】
次に、本実施形態における制御部30は、第二段階として、試料スペクトルを取得するため、光学素子26の尿接触面26cに尿試料Urが接触している状態のもとで分析光検出動作を行う。この動作を行う前段階として、制御部30は、スピーカー等の報知部を通じて分析対象者に尿試料Urの投入を促すための報知をする。分析対象者は、この報知を受けると、可動部材34に当たるように尿試料Urを投入する。データ処理部32は、尿接触面26cに尿試料Urが接触している状態のもと、前述の分析光検出動作により光センサ40により分析光を検出することで試料スペクトルを取得する(S14)。一実施形態においてバックグラウンドスペクトルや試料スペクトルは、光センサ40から出力される検出信号を周波数解析することで取得できる。なお、本開示に係る測定技術において、周波数解析をせず、光センサ40から出力される検出信号の強度のみを取得する場合もある。
【0047】
本実施形態におけるデータ処理部32は、バックグラウンドスペクトルと試料スペクトルの比に基づいて、尿試料の吸収スペクトルを算出する(S16)。なお、本開示に係る測定技術において、バックグラウンドスペクトルと試料スペクトルの比に限定されず、両者の差に基づいて尿スペクトル分析をしてもよい。
【0048】
データ処理部32は、算出した吸収スペクトルに基づいて、尿試料Urの成分を分析する(S18)。まず、尿試料Urの成分に関する定性分析の場合の分析方法について説明する。データ処理部32は、吸収スペクトルの特定の周波数成分と特定の尿成分とを対応付けて記憶している。吸収スペクトルのピークの強度幅が閾値を超えた場合、データ処理部32は、その閾値を超えたピークの強度幅の周波数成分に対応付けられた尿成分を特定する。この場合、データ処理部32は、特定した尿成分が検出されたと判定する。一方、吸収スペクトルのピークの強度幅が閾値を超えない場合、データ処理部32は、いずれの尿成分も検出されないと判定する。
【0049】
次に、尿試料Urの成分の濃度に関する定量分析について説明する。データ処理部32は、特定の尿成分の濃度に対する吸収スペクトルのピークの強度幅の検量線を記憶している。データ処理部32は、検量線を用いて、吸収スペクトルのピークの強度幅に対応する濃度を特定し、その特定した濃度をその成分の濃度として決定する。
【0050】
上記の成分の分析方法は特に限定されず、例えば、ケモメトリックス法を用いてもよい。以上のS12、S14、S16、S18の一連の流れは公知であるため、ここでは説明を簡易にとどめる。データ処理部32は、尿試料Urの成分の分析結果をディスプレイ、プリンタ等の出力部に出力してもよい。また分析結果は、スマートフォン、スマートウォッチ、タブレット端末等の携帯電子端末への出力も可能である。さらには、本開示に係る分析装置は、内蔵または外付けの記憶手段に取得データを蓄積することも可能であり、アプリ等のプログラムによって、上記携帯端末へのデータ蓄積も可能である。
【0051】
制御部30は、データ処理部32による尿試料Urの成分の分析が完了したところで、駆動機構を用いて、可動部材34を採尿位置Laから待機位置Lbに移動させる(S20)。これにより、尿成分分析装置20を用いた分析動作が完了する。
【0052】
この一連の流れを経ることで、尿試料Urの成分や濃度等を分析できる。このように、尿成分分析装置20は、光学素子26の尿接触面26cで全反射させた分析光を検出することで尿成分を分析可能である。
【0053】
ここで、図9を用いて、吸収スペクトルのピークを変化させる要因について説明する。図9には、光学素子26から出射されたときの分析光801の強度と、光センサ40によって検出された分析光802の強度とが示される。
【0054】
吸収スペクトルのピークの信号強度は、尿試料Urにおける分析光の吸収量に依存して決まる。この分析光の吸収量は、尿試料Ur中の成分の濃度と、分析光が尿接触面26c上で尿試料Urに侵入する回数(以下、「分析光の侵入回数」という)とに応じて変わる。図9に示すように、尿試料Ur中の成分の濃度が高い場合や分析光の侵入回数が多い場合には、尿試料Urにおける分析光の吸収量が多くなるため、吸収スペクトルのピークの強度幅が比較的大きくなる。逆に、尿試料Ur中の成分の濃度が低い場合や分析光の侵入回数が少ない場合には、尿試料Urにおける分析光の吸収量が少なくなるため、吸収スペクトルのピークの強度幅が比較的小さくなる。
【0055】
尿試料Urの成分の濃度は、設定した光路Poにおいて想定される尿接触面26cでの分析光の反射回数(以下、想定反射回数)を基準に分析される。そのため、尿接触面26cの光路上の尿試料Urと接触していない部分で分析光が反射された場合など、分析光の反射箇所で分析光が尿試料Urに侵入しない場合、実際の分析光の侵入回数が想定反射回数と異なるため、尿試料Urの成分の濃度の誤検出が生じる。尿試料Urの成分の濃度を正確に検出するためには、分析光の侵入回数を想定反射回数に近づけることが重要である。
【0056】
また、尿試料Ur中の特定成分を検出するためには、その成分を含むかを判別できる程度に吸収スペクトルのピークの強度幅が大きい必要がある。しかし、尿試料Ur中の微量な成分を検出する場合、分析光が反射箇所で尿試料Urに侵入せずに十分な侵入回数が確保されないと、その成分を含むかを判別できる程度に吸収スペクトルのピークの強度幅が十分に大きくならず、その成分を検出できない場合がある。そのため、微量な成分の正確な検出のためには、分析光の侵入回数を多くして吸収スペクトルのピークの強度幅を十分に大きくすることが重要である。
【0057】
このように、尿試料Ur中の成分及びその濃度の正確な検出のためには、分析光の侵入回数のバラツキを抑えて、所定の侵入回数を確保することが重要である。この観点から、分析光が尿試料Urに侵入しないことを抑制するために、光学素子26の尿接触面26cの全域に尿試料Urを接触させることが求められる。
【0058】
比較のため、図10、11を用いて、緩衝部材46を有さない便器装置10について説明する。図10に示すように、便鉢部22内に尿試料Urを投入すると、尿試料Urが光学素子26の尿接触面26cと接触して跳ね返ってしまう。この跳ね返りにより、図11に示すように、尿接触面26cの光路上で尿試料Urと接触していない部分が生じ易くなり、尿試料Urと接触していない尿接触面26cで分析光の全反射が生じてしまう。そのため、分析光の侵入回数が減った分だけエバネッセント波が尿試料Urの成分に固有の波長で吸収されず、適切な吸収スペクトルのピークの強度幅が得られない結果、尿試料Urの成分や濃度を正確に検出できない場合がある。
【0059】
本実施形態における便器装置10では、便鉢部22に投入された尿試料Urが緩衝部材46と接触することにより、落下エネルギーが吸収されてその勢いが弱められる。そのため、緩衝部材46を通過した尿試料Urが光学素子26の尿接触面26cと接触しても、跳ね返りが低減される。これにより、尿接触面26cの光路Po上に尿試料Urが溜まり易くなり、光学素子26の尿接触面26cの全域に尿試料Urが接触し易くなり、光路Po上で尿試料Urが乗らない部分が生じにくくなる。そのため、尿試料Urと接触した尿接触面26cで分析光の全反射が生じ易くなる。その結果、分析光の侵入回数のバラツキを抑えることができるため、従来よりも尿試料Urの成分を正確に検出できる。
【0060】
また、尿試料Urの跳ね返りの低減によって尿接触面26cの光路上に尿試料Urが溜まり易くなることにより、尿試料Urを短時間投入しただけで尿接触面26cの全域に尿試料Urが確保され易くなる。そのため、尿成分の分析に伴う分析対象者の作業負担が軽減される。さらに、便座や太ももへの尿試料Urの跳ね返りがなくなり、衛生的且つ不快感が抑制された尿成分の分析が可能となる。
【0061】
本実施形態における緩衝部材46は、尿接触面26cの全域を覆うように配置される。この構成によると、投入された尿試料Urが緩衝部材46を通らずに尿接触面26cに接触することが抑制される。
【0062】
本実施形態における緩衝部材46は、尿接触面26cに対して間隔を空けて配置される。この構成によると、尿接触面26cからしみ出したエバネッセント波が緩衝部材46に接触し、それにより検出結果に悪影響を及ぼすことが抑制される。
【0063】
本実施形態における分析光の光路Poは、多重反射により複数回に亘り尿接触面26cで全反射するように設定される。この構成によると、尿試料Urに対する尿接触面26cでの分析光の反射回数を増やせるようになり、尿試料Urに含まれる特定成分に対応するスペクトルの尿試料Urによる吸収量を高められる。その結果、その特定成分に対応する吸収スペクトルのピークの強度幅を大きくすることで、その特定成分を高い感度で検出できる。上述したように、緩衝部材46によって分析光の侵入回数のバラツキが抑えられるため、これと相まって、この多重反射による効果は顕著に現れる。
【0064】
本実施形態における緩衝部材46は、メッシュ状に構成される。この構成によると、緩衝部材46において、投入した尿試料Urの勢いの減衰及び細分化が効果的になされる。
【0065】
<変形例>本実施形態における分析光の光路Poは、複数回に亘り尿接触面26cの傾斜領域26gや全反射面26dで全反射するように設定されたが、これに限定されず、尿接触面26cの傾斜領域26gで一回のみ全反射するように設定されてもよい。
【0066】
本実施形態における緩衝部材46は、金属で構成されるが、これに限定されず、布や樹脂部材等で構成されてもよい。
【0067】
本実施形態における緩衝部材46は、メッシュ状に構成されるが、これに限定されない。緩衝部材46は、メッシュ状の構成や縦又は横の一方向に細線を配列した構成などの線配列部材であってもよいし、不織布で構成されてもよい。
【0068】
本実施形態における緩衝部材46は、尿接触面26cの全面を覆うように設けられるが、これに限定されず、尿接触面26cの一部分を覆うように設けられてもよい。
【0069】
本実施形態における緩衝部材の開口部52は、矩形状に形成されるが、これに限定されない。図6B図6Eは、緩衝部材46の変形例を示す平面図である。本開示に係る緩衝部材46は、図6Aに示すような開口部52が四角形の格子の他、開口部52の形状が三角形の格子(図6B)、ひし形の格子(図6C)、その他多角形の格子(図6D)であってもよい。また緩衝部材46は、図6Eに示すようなルーバー状に金属またはプラスチックの平板53を組み合わせたものであってもよい。この場合、尿が光学素子26の尿接触面26cに到達することを妨げないよう隣あう平板53どうしの隙間54を設計する。
【0070】
便器本体12は、洋風大便器である例を説明したが、この他にも、和風大便器、小便器等でもよい。
【0071】
光学素子26は、多重反射により複数回に亘り分析光が尿接触面26cで全反射する条件を満たせるものであれば、その形状に関して特に限定されない。
【0072】
便器本体12に付帯して用いられ、便器本体12に取り付けられる付帯部材の一例として便座支持部材14を説明した。この付帯部材は、便座支持部材14の他に、便座16、便蓋18等でもよい。センサユニット28は、実施形態で説明したように、このような付帯部材に着脱可能に取り付けられていてもよい。
【0073】
可動部材34は、直線的に進退することによって、採尿位置Laと待機位置Lbの間を移動可能である例を説明した。可動部材34は、採尿位置Laと待機位置Lbの間を移動するにあたり、その具体的な移動方向は特に限定されない。例えば、可動部材34を他部材に対して回動軸周りに回動可能に支持し、その回動動作によって採尿位置Laと待機位置Lbの間を移動可能にしてもよい。
【0074】
可動部材34は、人体の局部を洗浄水により洗浄する局部洗浄装置のノズルとは別体に設けられると好ましいが、一体的に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10…便器装置、12…便器本体、20…尿成分分析装置、22…便鉢部、26…光学素子、26a…分析光入射面、26b…分析光出射面、26c…尿接触面、26g…傾斜領域、34…可動部材、38…光源、40…光センサ、42…弾性部材、44…押さえ部材、46…緩衝部材。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11