(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ベローズポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 43/08 20060101AFI20231221BHJP
F04B 43/06 20060101ALI20231221BHJP
F04B 53/16 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F04B43/08 A
F04B43/06 B
F04B53/16 B
(21)【出願番号】P 2020073454
(22)【出願日】2020-04-16
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 一清
(72)【発明者】
【氏名】浦田 大輔
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-207410(JP,A)
【文献】実開平02-074656(JP,U)
【文献】特開2007-100554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 43/08
F04B 43/06
F04B 53/16
F16J 3/02-3/04
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端が閉じており、第2端が開いているシリンダと、
開口部の縁に沿って広がるフランジを含み、前記シリンダの内部に、軸方向において伸縮可能に設置されているベローズと、
前記シリンダの第2端に配置されており、前記ベローズの開口部を塞いでいるポンプヘッドと、
前記シリンダの第2端と前記ポンプヘッドとの間に前記ベローズのフランジを挟んだ状態で、前記シリンダと前記ポンプヘッドとを安定化させている締結部と
を備えたベローズポンプであって、
前記ベローズのフランジは
軸方向における端面に環状溝を含み、
前記環状溝は軸方向に交差する底面を含み、
前記ポンプヘッドは、
軸方向に沿って前記環状溝に圧入された環状突起を含み、前記環状突起は
、軸方向における先端面
を前記環状溝の底面に圧接
させて、当該底面との間にシール部を形成している
ことを特徴とするベローズポンプ。
【請求項2】
前記環状溝と前記環状突起とは、前記シリンダの第2端の端面と前記ポンプヘッドとの間に挟まれた領域に位置することを特徴とする請求項1に記載のベローズポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベローズポンプに関し、特にそのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
「ベローズポンプ」とは、ベローズを利用したポンプをいう(たとえば、特許文献1、2、4参照)。「ベローズ」は、樹脂等の可撓性素材から成る筒であり、周壁部に蛇腹を含む。この蛇腹により、ベローズは軸方向に伸縮が可能である。ベローズポンプは、空気圧またはモーターの力でベローズを強制的に伸縮させることにより輸送対象の流体を吸入し、または吐出する。たとえば、ベローズの内部空間がポンプ室として利用される場合、ベローズが伸びるとポンプ室に流体が吸入され、ベローズが縮むとポンプ室から流体が吐出される。輸送対象の流体には、たとえば、半導体、液晶等の製造プロセスにおいて使用される様々な薬液または超純水が含まれる。
【0003】
ベローズポンプによって輸送される流体の量はベローズの容積の変化量で決まるので、その流体の量を正確に制御するには、ベローズの内部空間を確実に密封(シール)する必要がある。シール部は、ベローズと、その開口部を塞ぐポンプヘッドとの間で互いの表面(シール面)が密着した部分であり、ベローズの開口部の縁に沿って環状に形成されている。シール部の構造には、たとえば、刺さり込みシールとリップシールとがある。「刺さり込みシール」とは、ベローズの開口部の縁に設けられた環状溝に、ポンプヘッドから突出した環状突起が圧入されたものをいう(たとえば特許文献1、2参照)。「リップシール」とは、シール面の一方が滑らかな面であり、他方が、その滑らかな面に押し当てられた凸部の先端面から成るものをいう(たとえば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-207410号公報
【文献】特開2004-263637号公報
【文献】特開2000-193155号公報
【文献】特許第6367645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体等の製造プロセスで使用される薬液等には、摂氏数百度程度の高温のもの、または数気圧程度の高圧のものがある。これらの輸送にもベローズポンプが利用可能であることが好ましい。しかし、高温高圧の環境の下でベローズポンプを使用することには、特にベローズのシール部に関して次の問題がある。高温高圧の環境の下でもベローズに適度な強度を保たせるには一般に、ベローズの厚みを増やさねばならない。しかし、厚みが大きいほど、ベローズが伸びる際にベローズの開口部の縁にかかる応力が増大するので、シール部が変形しやすい。刺さり込みシールでは、環状溝が内周へ向かって広がりやすい。リップシールでは、滑らかなシール面が凸部の先端面から内周へずれやすい。いずれの変形もシール面間の圧力を低下させるので、いずれのシール部においてもシール性能が劣化する。
【0006】
本発明の目的は上記の課題を解決することであり、特に、高温高圧の環境の下でもベローズのシール性能を高く維持することができるベローズポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点によるベローズポンプは、シリンダ、ベローズ、ポンプヘッド、および締結部を備えている。シリンダは第1端が閉じており、第2端が開いている。ベローズは、開口部の縁に沿って広がるフランジを含み、シリンダの内部に、軸方向において伸縮可能に設置されている。ポンプヘッドはシリンダの第2端に配置されており、ベローズの開口部を塞いでいる。締結部は、シリンダの第2端とポンプヘッドとの間にベローズのフランジを挟んだ状態で、シリンダとポンプヘッドとを安定化させている。ベローズのフランジは環状溝を含み、ポンプヘッドは、環状溝に圧入された環状突起を含む。環状突起は先端面が環状溝の底面に圧接して、その底面との間にシール部を形成している。環状溝と環状突起とは、シリンダの第2端の端面とポンプヘッドとの間に挟まれた領域に位置していてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明による上記のベローズポンプでは、ベローズのフランジが環状溝を含み、ポンプヘッドが環状突起を含む。環状突起は環状溝に圧入されており、その先端面が環状溝の底面に圧接して、その底面との間にシール部を形成している。これにより、ベローズの伸長に伴ってフランジが変形し、環状溝が内周へ向かって広がっても、環状突起の先端面は環状溝の底面に圧接したままである。したがって、シール面間の圧力が高く維持されるのでシール部がシール性能を損ないにくい。こうして、高温高圧の環境の下でも強度を維持すべくベローズが分厚く形成されても、このベローズポンプは、ベローズのシール性能を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)、(b)、(c)はそれぞれ、本発明の実施形態によるベローズポンプの上面図、正面図、および側面図である。
【
図2】
図1の(c)が示す直線A-Cに沿った断面図である。
【
図3】
図1の(c)が示す折線B-Cに沿った断面図である。
【
図4】(a)は、
図1のベローズポンプを駆動する系統のブロック図である。(b)は、その系統の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[ベローズポンプの構造]
【0011】
図1の(a)、(b)、(c)はそれぞれ、本発明の実施形態によるベローズポンプの上面図、正面図、および側面図である。
図2は、
図1の(c)が示す直線A-Cに沿った断面図であり、
図3は、
図1の(c)が示す折線B-Cに沿った断面図である。このベローズポンプは、ポンプヘッド100、第1シリンダ210、第2シリンダ220、第1ベローズ310、第2ベローズ320、および4本の締結棒410、420、430、440を備えている。
【0012】
ポンプヘッド100は、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素樹脂から成る円盤である。
図1の(b)が示すように、ポンプヘッド100の外周面の前部には吸入口101が形成されている。吸入口101は、たとえば、外部の貯蔵タンクに接続されている(図示せず)。このタンクには輸送対象の流体(気体でも液体でもよい。)が蓄えられている。
図1の(a)が示すように、ポンプヘッド100の外周面の上部には吐出口102が形成されている。吐出口102は流体の輸送先に接続されている(図示せず)。
図2、
図3が示すように、ポンプヘッド100の各円盤面には吸入用逆止弁111、121と吐出用逆止弁112、122とが取り付けられ、ポンプヘッド100の内部には2種類の流路131、132が形成されている。一方の流路131(以下、吸入路という。)は吸入用逆止弁111、121と吸入口101との間を繋いでいる。他方の流路132(以下、吐出路という。)は吐出用逆止弁112、122と吐出口102との間を繋いでいる。ポンプヘッド100の各円盤面の縁には環状突起141、142が、各円盤面と同軸に形成されている。
【0013】
第1シリンダ210と第2シリンダ220とは、たとえばPTFEまたはPFA等のフッ素樹脂から成る同サイズの円筒であり、第1端211、221が閉じており、第2端212、222が開いている。第1シリンダ210と第2シリンダ220とは互いの第2端212、222を向かい合わせており、それらの間にポンプヘッド100を挟んでいる。第1シリンダ210、ポンプヘッド100、および第2シリンダ220は同軸に配置されている。
【0014】
各シリンダ210、220の第1端211、221の側面には第1吸排気口が設けられている(図示せず)。第1吸排気口は、ベローズポンプの外部に設置されたエアコンプレッサ(図示せず。)に接続されており、エアコンプレッサから各シリンダ210、220の内部空間へ圧縮空気を導入し、またはその内部空間から圧縮空気を排出する。
【0015】
図2、
図3が示すように、各シリンダ210、220の第1端211、221の軸方向における外側には、円筒形状の空気室213、223が各シリンダ210、220と同軸に設けられている。各空気室213、223の内側には円盤形状のピストン214、224が同軸に、かつ軸方向において摺動可能に収められている。各空気室213、223の側面には第2吸排気口(図示せず。)と近接センサ216、226(
図3参照。)とが設けられている。第2吸排気口は、ベローズポンプの外部に設置されたエアコンプレッサ(図示せず。)に接続されており、エアコンプレッサからシリンダ210、220の第1端211、221とピストン214、224との隙間へ圧縮空気を導入し、またはその隙間から圧縮空気を排出する(詳細については後述する)。これによりピストン214、224が空気室213、223の内部を軸方向に変位する。近接センサ216、226はピストン214、224の軸方向における位置を検出する。
【0016】
第1ベローズ310と第2ベローズ320とは、たとえば、PTFEまたはPFA等のフッ素樹脂から成る同サイズの円筒であり、一端311、321が閉じており、他端312、322が開いている。周壁部には蛇腹が設けられているので、ベローズ310、320は軸方向に伸縮可能である。
図2、
図3が示すように、ベローズ310、320は各シリンダ210、220の中に1つずつ同軸に配置されており、それぞれの開口端312、322がポンプヘッド100の円盤面によって塞がれている。
【0017】
各ベローズ310、320の開口端312、322の内側には吸入用逆止弁111、121と吐出用逆止弁112、122とが配置されている。これにより、ベローズ310、320の内側はポンプ室として利用される。ベローズ310、320の開口端312、322の縁からは径方向へフランジ313、323が広がっており、シリンダ210、220の第2端212、222とポンプヘッド100の円盤面との間に挟まれて固定されている。したがって、ベローズ310、320が伸縮すると、それぞれの閉塞端311、321がシリンダ210、220の内部を軸方向に往復運動する。
【0018】
第1ベローズ310の閉塞端311の中央部からは第1シャフト315が軸方向へ伸びており、第2ベローズ320の閉塞端321の中央部からは第2シャフト325が軸方向へ伸びている。各シャフト315、325の先端は各シリンダ210、220の第1端211、221を貫通して、その外側のピストン214、224に連結されている。これにより、第1ベローズ310の伸縮に伴って第1シリンダ210の外側のピストン214が軸方向に変位し、第2ベローズ320の伸縮に伴って第2シリンダ220の外側のピストン224が軸方向に変位する。このとき、各ピストン214、224の軸方向における位置が近接センサ216、226によって検出されるので、それぞれの位置からベローズ310、320の閉塞端311、321の軸方向における位置がわかる。
【0019】
図2、
図3が示すように、各ベローズ310、320のフランジ313、323の縁には環状溝314、324が、フランジ313、323と同軸に形成されている。環状溝314、324のそれぞれの中にはポンプヘッド100の環状突起141、142が嵌まっている。これにより、各ベローズ310、320内のポンプ室が外部から密封される(その構造の詳細については後述する)。
【0020】
シリンダ210、220の第1端211、221は第2端212、222とは異なり、径方向へ張り出して全体が矩形状である(
図1参照)。第1端211、221の互いに対向する角の間を締結棒410-440が接続している。締結棒410-440は、たとえば同サイズの金属棒であり、両端411、412、431、432に雄ねじが設けられている。締結棒410-440の両端は、シリンダ210、220の第1端211、221の4つの角に1つずつ開けられた穴215、225を貫通しており、各穴215、225にナット450で固定されている。これにより、第1シリンダ210の第2端212とポンプヘッド100との間には第1ベローズ310のフランジ313が挟まれ、第2シリンダ220の第2端222とポンプヘッド100との間には第2ベローズ320のフランジ323が挟まれた状態で、シリンダ210、220とポンプヘッド100とが安定化している。
[ベローズポンプの駆動系統]
【0021】
図4の(a)は、上記のベローズポンプを駆動する系統のブロック図である。この系統は、エアコンプレッサ、第1レギュレータ、第2レギュレータ、第1切換バルブ、第2切換バルブ、および制御部を含む。エアコンプレッサは高圧の圧縮空気を生成して第1レギュレータと第2レギュレータとへ出力する。第1レギュレータと第2レギュレータとは、それぞれに入力された圧縮空気の圧力を設定値に抑える。第1切換バルブと第2切換バルブとは好ましくは電磁式である。第1切換バルブは、ベローズポンプの第1シリンダ210の第1吸排気口217と第2吸排気口218との一方を第1レギュレータへ接続し、他方を外気に開放する。第2切換バルブは、ベローズポンプの第2シリンダ220の第1吸排気口227と第2吸排気口228との一方を第2レギュレータへ接続し、他方を外気に開放する。制御部は、シリンダ210、220の近接センサ216、226を通してベローズ310、320の閉塞端311、321の軸方向における位置を監視し、それぞれの位置に応じてレギュレータと切換バルブとを制御する。制御部は特に、各レギュレータには出力圧力の設定値を変更させ、各切換バルブには第1吸排気口217、227と第2吸排気口218、228とのいずれをレギュレータに接続すべきかを指定する。
[ベローズポンプの動作]
【0022】
図4の(a)が示す駆動系統は、以下に述べるように、第1ベローズ310の伸縮と第2ベローズ320の伸縮とを互いに独立に制御すると共に、それらの制御間のタイミングを合わせる。これにより、ベローズポンプから輸送対象の流体が連続的に、かつ実質的に脈動を伴うことなく吐出される。
【0023】
図4の(b)は、上記の駆動系統の動作を示すタイミングチャートである。上段のグラフのうち、実線のグラフは第1レギュレータの出力圧力の時間変化を表し、破線のグラフは第2レギュレータの出力圧力の時間変化を表す。中段の棒グラフは、各切換バルブが各レギュレータに各吸排気口を接続する期間を表す。ハッチが入った矩形は、対応する吸排気口217、218、227、228が第1レギュレータまたは第2レギュレータに接続される期間を表す。空白の矩形は、対応する吸排気口が外気に開放される期間を表す。下段のグラフのうち、実線のグラフは第1ベローズ310の閉塞端311の軸方向における位置の時間変化を表し、破線のグラフは第2ベローズ320の閉塞端321の軸方向における位置の時間変化を表す。グラフの下端SHRは、閉塞端311、321がポンプヘッド100に最接近したときの位置、すなわちベローズ310、320が最も縮んだときの位置を表す(以下、この位置を「最短縮位置」と呼ぶ)。グラフの上端LNGは、閉塞端311、321がポンプヘッド100から最も離れたときの位置、すなわちベローズ310、320が最も伸びたときの位置を表す(以下、この位置を「最伸長位置」と呼ぶ)。
【0024】
時刻t0では第1ベローズ310の閉塞端311が最伸長位置LNGに静止している。このとき制御部は第1レギュレータと第1切換バルブとへ短縮指令を出す。この短縮指令に応じて、第1レギュレータは出力圧力を値bまで急上昇させ、第1切換バルブは第1シリンダ210の第1吸排気口217を第1レギュレータに接続し、第2吸排気口218を外気に開放する。これにより、第1シリンダ210の内側では第1ベローズ310の外側に圧縮空気が導入される一方、第1シリンダ210の空気室213では第1端211とピストン214との隙間から圧縮空気が逃げ出す。したがって、第1ベローズ310は短縮し始める。この短縮に伴い、第1ベローズ310内のポンプ室から輸送対象の流体が、吐出用逆止弁112と吐出路132とを通って吐出口102へと流れ出す。
【0025】
時刻t0以降、制御部は第1レギュレータに出力圧力を、時刻t0からの経過時間t-t0に比例して上昇させる(出力圧力=a(t-t0)+b。a:比例係数)。第1切換バルブは、第1シリンダ210の第1吸排気口217を第1レギュレータに接続し続け、第2吸排気口218を外気に開放し続ける。これにより、第1シリンダ210の内側では第1ベローズ310が短縮するほど外側の圧力が高まるので、第1ベローズ310は短縮に伴う復元力の低下にかかわらず、一定の速度で短縮し続ける。この短縮に伴い、ベローズポンプの吐出口102からは流体が一定の速度で吐出され続ける。
【0026】
時刻t4では、第1ベローズ310の閉塞端311が最短縮位置SHRへ到達する。このことを制御部は第1シリンダ210内の近接センサ216によって検出し、第1レギュレータと第1切換バルブとへ伸長指令を出す。この伸長指令に応じて第1レギュレータは出力圧力を値c(<b)まで急降下させ、第1切換バルブは圧縮空気の送り先を第1シリンダ210の第1吸排気口217から第2吸排気口218へ切り換える。これにより、第1シリンダ210の内側では第1ベローズ310の外側から圧縮空気が逃げ出す一方、第1シリンダ210の空気室213では第1端211とピストン214との隙間へ圧縮空気が導入される。したがって、第1ベローズ310はピストン214に引っ張られて伸長し始める。この伸長に伴い、第1ベローズ310内のポンプ室へ輸送対象の流体が、吸入口101から吸入路131と吸入用逆止弁111とを通って流れ込む。
【0027】
時刻t4以降、制御部は第1レギュレータに出力圧力を値cに維持させる。第1切換バルブは、第1シリンダ210の第2吸排気口218を第1レギュレータに接続し続け、第1吸排気口217を外気に開放し続ける。これにより、第1シリンダ210の空気室213ではピストン214が一定速度で移動し続けるので、第1ベローズ310も一定の速度で伸長し続ける。この伸長に伴い、ベローズポンプの吸入口101へは流体が一定の速度で吸入され続ける。
【0028】
時刻t5では、第1ベローズ310の閉塞端311が最伸長位置LNGに到達する。このことを制御部は第1シリンダ210内の近接センサ216から検出した後も、第1レギュレータには出力圧力を値cに維持させ、第1切換バルブには圧縮空気の送り先を第1シリンダ210の第2吸排気口218に維持させる。これにより、第1ベローズ310は最も伸びた状態で静止し続ける。
【0029】
時刻t5から所定時間が経った後、時刻t6では制御部が再び、第1レギュレータと第1切換バルブとへ短縮指令を出す。この短縮指令に応じて、第1レギュレータは出力圧力を値bまで急上昇させ、第1切換バルブは第1シリンダ210の第1吸排気口217を第1レギュレータに接続し、第2吸排気口218を外気に開放する。これにより、時刻t0の場合と同様に、第1ベローズ310が短縮し始める。この短縮に伴い、第1ベローズ310内のポンプ室から吐出口102へ流体が再び流れ出す。
【0030】
このように、第1ベローズ310は、輸送対象の流体を内部のポンプ室から吐出する動作と、その流体をポンプ室へ吸入する動作とを繰り返す。これらの動作に並行して第2ベローズ320も、以下のように、輸送対象の流体を内部のポンプ室から吐出する動作と、その流体をポンプ室へ吸入する動作とを繰り返す。
【0031】
時刻t0直後の時刻t1では、第2ベローズ320の閉塞端321が最短縮位置SHRに到達する。このことを制御部は第2シリンダ220内の近接センサ226から検出し、第2レギュレータと第2切換バルブとへ伸長指令を出す。この伸長指令に応じて第2レギュレータは出力圧力を値cまで急降下させ、第2切換バルブは圧縮空気の送り先を第2シリンダ220の第1吸排気口227から第2吸排気口228へ切り換える。これにより、第2シリンダ220の内側では第2ベローズ320の外側から圧縮空気が逃げ出す一方、第2シリンダ220の空気室223では第1端221とピストン224との隙間へ圧縮空気が導入される。したがって、第2ベローズ320はピストン224に引っ張られて伸長し始める。この伸長に伴い、第2ベローズ320内のポンプ室へ輸送対象の流体が、吸入口101から吸入路131と吸入用逆止弁111とを通って流れ込む。
【0032】
時刻t1以降、制御部は第2レギュレータに出力圧力を値cに維持させる。第2切換バルブは、第2シリンダ220の第2吸排気口228を第2レギュレータに接続し続け、第1吸排気口227を外気に開放し続ける。これにより、第2シリンダ220の空気室223ではピストン224が一定速度で移動し続けるので、第2ベローズ320も一定の速度で伸長し続ける。この伸長に伴い、ベローズポンプの吸入口101へは流体が一定の速度で吸入され続ける。
【0033】
時刻t2では、第2ベローズ320の閉塞端321が最伸長位置LNGに到達する。このことを制御部は第2シリンダ220内の近接センサ226から検出した後も、第2レギュレータには出力圧力を値cに維持させ、第2切換バルブには圧縮空気の送り先を第2シリンダ220の第2吸排気口228に維持させる。これにより、第2ベローズ320は最も伸びた状態で静止し続ける。
【0034】
時刻t3では第2ベローズ320の閉塞端321が最伸長位置LNGに静止している。このとき制御部は第2レギュレータと第2切換バルブとへ短縮指令を出す。この短縮指令に応じて、第2レギュレータは出力圧力を値bまで急上昇させ、第2切換バルブは第2シリンダ220の第1吸排気口227を第2レギュレータに接続し、第2吸排気口228を外気に開放する。これにより、第2シリンダ220の内側では第2ベローズ320の外側に圧縮空気が導入される一方、第2シリンダ220の空気室223では第1端221とピストン224との隙間から圧縮空気が逃げ出す。したがって、第2ベローズ320が短縮し始める。この短縮に伴い、第2ベローズ320内のポンプ室から輸送対象の流体が、吐出用逆止弁112と吐出路132とを通って吐出口102へと流れ出す。
【0035】
時刻t3以降、制御部は第2レギュレータに出力圧力を、時刻t3からの経過時間t-t3に比例して上昇させる(出力圧力=a(t-t3)+b。a:比例係数)。第2切換バルブは、第2シリンダ220の第1吸排気口227を第2レギュレータに接続し続け、第2吸排気口228を外気に開放し続ける。これにより、第2シリンダ220の内側では第2ベローズ320が短縮するほど外側の圧力が高まるので、第2ベローズ320は短縮に伴う復元力の低下にかかわらず、一定の速度で短縮し続ける。この短縮に伴い、ベローズポンプの吐出口102からは流体が一定の速度で吐出され続ける。
【0036】
上記のとおり、第1ベローズ310の伸縮と第2ベローズ320の伸縮とは互いに独立に制御される。制御部は更に、これらの制御間のタイミングを次のように合わせる。第1レギュレータと第1切換バルブとに短縮指令を出した時刻t0から、次に第2レギュレータと第2切換バルブとに短縮指令を出す時刻t3までの時間Δt1=t3-t0は、時刻t0の直前に第1ベローズ310が伸縮に要した時間から算出される。たとえば、第1ベローズ310の閉塞端311が最短縮位置SHRから最伸長位置LNGまで移動するのに要した時間と、最伸長位置LNGから最短縮位置SHRまで移動するのに要した時間との平均値が時間Δt1として決定される。これにより、第2ベローズ320が短縮し始める時刻t3は、第1ベローズ310が短縮しきる時刻t4の直前に設定される。同様に、第2レギュレータと第2切換バルブとに短縮指令を出した時刻t3から、次に第1レギュレータと第1切換バルブとに短縮指令を出す時刻t6までの時間Δt2=t6-t3は、時刻t3の直前に第2ベローズ320が伸縮に要した時間から算出される。たとえば、第2ベローズ320の閉塞端321が最短縮位置SHRから最伸長位置LNGまで移動するのに要した時間と、最伸長位置LNGから最短縮位置SHRまで移動するのに要した時間との平均値が時間Δt2として決定される。これにより、第1ベローズ310が再び短縮し始める時刻t6は、第2ベローズ320が短縮しきる時刻t7の直前に設定される。こうして、いずれのベローズ310、320も、伸長しきった状態に達した後、他のベローズが短縮しきる直前に短縮し始める。これにより、流体が第1ベローズ310と第2ベローズ320とから交互に連続して吐出されるだけでなく、吐出される流体の流れに脈動が生じるのが防止される。
[ベローズのシール構造]
【0037】
図5は、
図2の破線が示す部分の拡大図である。この部分では、第1シリンダ210の第2端212が第1ベローズ310のフランジ313の縁を間に挟んでポンプヘッド100に近接している。
図5が示すように、この部分には環状突起141と環状溝314とが含まれる。第1ベローズ310が第1シリンダ210とポンプヘッド100との間に挟まれる前では、軸方向(
図5では左右方向)において環状突起141の長さは、厳密には環状溝314の深さよりも大きい。4本の締結棒410-440にナット450がねじ込まれる際の応力で、環状突起141の先端面143が環状溝314の底面316に押し付けられて、環状突起141の先端が潰れる。その結果、第1ベローズ310のフランジ313の縁とポンプヘッド100との間には、軸方向における環状突起141の長さと環状溝314の深さとの間の差よりも小さな距離の隙間しか残らない。このように、環状突起141の先端面143が環状溝314の底面316に圧接することにより、その底面316との間にシール部が形成されている。
【0038】
環状突起141の先端面143と環状溝314の底面316との間のシール部は、第1ベローズ310の伸長に伴うそのフランジ313の変形にかかわらず、シール性能が高く維持される。その理由は以下のとおりである。
【0039】
第1ベローズ310はそのフランジ313の縁以外が固定されていないので、
図2、
図3が示すように、フランジ313の径方向における断面が、縁を固定端とし、蛇腹との接続端315を自由端とする片持ち梁の構造をしている。したがって、第1ベローズ310が伸長するとき、フランジ313の自由端315は蛇腹からの応力によって軸方向にたわむ(
図5が示す2点鎖線参照)。このたわみに伴い、環状溝314は内周へ向かって広がる。従来の刺さり込みシールは、環状突起141の外周面または内周面が環状溝314の内面に圧接することで形成されているので、環状溝314が内周へ向かって広がると、シール面間の圧力が下がり、シール性能が劣化する。これに対し、本発明の実施形態によるシール部は環状突起141の先端面143と環状溝314の底面316との間に形成されているので、環状溝314が内周へ向かって広がってもシール面間の圧力が下がらない。この効果は、環状突起141の先端面143と環状溝314の底面316とが第1シリンダ210の内周面219よりも径方向において外側に位置する場合、すなわち第1シリンダ210の第2端212の端面21Aとポンプヘッド100との間に挟まれた領域に位置する場合、特に高い。
[実施形態の利点]
【0040】
本発明の実施形態による上記のベローズポンプでは、各ベローズ310、320のフランジ313、323が環状溝314、324を含み、ポンプヘッド100が環状突起141、142を含む。環状突起141、142は環状溝314、324に圧入されており、それぞれの先端面143が環状溝314の底面316に圧接して、その底面316との間にシール部を形成している。これにより、ベローズ310の伸長に伴ってフランジ313が変形し、環状溝314が内周へ向かって広がっても、環状突起141の先端面143は環状溝314の底面316に圧接したままである。したがって、シール面間の圧力が高く維持されるのでシール部がシール性能を損ないにくい。こうして、高温高圧の環境の下でも強度を維持すべくベローズ310、320が分厚く形成されても、このベローズポンプは、ベローズ310、320のシール性能を高く維持することができる。
[変形例]
【0041】
(1)
図5が示すように、ポンプヘッド100の環状突起141の角が面取りされている。これは、丸められていてもよい。いずれの場合においても、環状突起141が環状溝314の中に入りやすい。更に好ましくは、
図5が示すように、環状溝314の縁にテーパが設けられている。これにより、仮に環状突起141の角が面取りも丸めもされていなくても、環状突起141が環状溝314の中に入りやすい。
【0042】
(2)
図5が示すように、環状突起141の外周面と内周面とはポンプヘッド100の円盤面に対して垂直である。しかし、これは限定条件ではなく、たとえば、環状突起141の外周面がポンプヘッド100の円盤面に対して斜めに傾いていてもよい。従来の刺さり込みシールとは異なり、シール部が環状突起141の先端面143と環状溝314の底面316との間に形成されるからである。
【0043】
(3)第1ベローズ310のフランジ313が第1シリンダ210とポンプヘッド100との間に挟まれる前において、環状突起141の先端面143は(径方向における角を除き)径方向の外側ほど突起が長いように傾いていてもよい。これにより、環状突起141の先端面143と環状溝314の底面316との間では、外周へ向かうほどシール面間の圧力が高い。したがって、第1ベローズ310の伸長に伴って環状溝314が内周へ向かって広がっても、シール面間の圧力が更に下がりにくい。
【符号の説明】
【0044】
100 ポンプヘッド
101 吸入口
102 吐出口
111、121 吸入用逆止弁
112、122 吐出用逆止弁
131 吸入路
132 吐出路
141、142 環状突起
143 環状突起の先端面
210 第1シリンダ
211 第1シリンダの第1端
212 第1シリンダの第2端
219 第1シリンダの内周面
21A 第1シリンダの第2端の端面
220 第2シリンダ
221 第2シリンダの第1端
222 第2シリンダの第2端
310 第1ベローズ
311 第1ベローズの閉塞端
312 第1ベローズの開口端
313 第1ベローズのフランジ
314 第1ベローズの環状溝
316 環状溝の底面
320 第2ベローズ
321 第2ベローズの閉塞端
322 第2ベローズの開口端
323 第2ベローズのフランジ
324 第2ベローズの環状溝
410-440 締結棒