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特許7407062磁気共鳴イメージング装置および画像処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置および画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20231221BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61B5/055 376
G01N24/00 530Y
G01N24/00 530C
G01N24/00 530G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020079606
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021171490
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庄司 博樹
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】黒川 眞次
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-160107(JP,A)
【文献】特開2013-078569(JP,A)
【文献】国際公開第2019/179838(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03543911(EP,A1)
【文献】特表2021-518228(JP,A)
【文献】特開2019-111211(JP,A)
【文献】特開2018-134199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場内に配置された被検体に高周波磁場パルスを送信する送信部、前記被検体が発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部、及び、静磁場に傾斜磁場を与える傾斜磁場発生部を有する計測部と、前記受信部が受信した核磁気共鳴信号に演算を施す計算機と、を備え、
前記計算機は、受信した核磁気共鳴信号を処理し、収集マトリクスをゼロフィルして拡張した再構成マトリクスで再構成して再構成画像を生成する画像生成部と、前記再構成画像からノイズを除去するノイズ除去部と、を備え、
前記ノイズ除去部は、前記再構成画像のマトリクスを、ゼロフィルにより拡張して前記再構成マトリクスを超えるマトリクスに変換して、サイズを変更した後にノイズ除去を行い、ノイズ除去後の画像のマトリクスを前記再構成マトリクスに戻すことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
静磁場内に配置された被検体に高周波磁場パルスを送信する送信部、前記被検体が発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部、及び、静磁場に傾斜磁場を与える傾斜磁場発生部を有する計測部と、前記受信部が受信した核磁気共鳴信号に演算を施す計算機と、を備え、
前記計算機は、受信した核磁気共鳴信号を処理し、収集マトリクスをゼロフィルして拡張した再構成マトリクスで再構成して再構成画像を生成する画像生成部と、前記再構成画像からノイズを除去するノイズ除去部と、を備え、
前記ノイズ除去部は、前記再構成画像のマトリクスを、前記収集マトリクスの4倍に拡張して、サイズを変更した後にノイズ除去を行い、ノイズ除去後の画像のマトリクスを前記再構成マトリクスに戻すことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
静磁場内に配置された被検体に高周波磁場パルスを送信する送信部、前記被検体が発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部、及び、静磁場に傾斜磁場を与える傾斜磁場発生部を有する計測部と、前記受信部が受信した核磁気共鳴信号に演算を施す計算機と、を備え、
前記計算機は、受信した核磁気共鳴信号を処理し、収集マトリクスをゼロフィルして拡張した再構成マトリクスで再構成して再構成画像を生成する画像生成部と、前記再構成画像からノイズを除去するノイズ除去部と、を備え、
前記ノイズ除去部は、前記再構成画像のマトリクスのサイズを、前記収集マトリクスのサイズに変更した後にノイズ除去を行い、ノイズ除去後の画像のマトリクスを前記再構成マトリクスに戻すことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
静磁場内に配置された被検体に高周波磁場パルスを送信する送信部、前記被検体が発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部、及び、静磁場に傾斜磁場を与える傾斜磁場発生部を有する計測部と、前記受信部が受信した核磁気共鳴信号に演算を施す計算機と、を備え、
前記計算機は、受信した核磁気共鳴信号を処理し、収集マトリクスをゼロフィルして拡張した再構成マトリクスで再構成して再構成画像を生成する画像生成部と、前記再構成画像からノイズを除去するノイズ除去部と、を備え、
前記ノイズ除去部は、前記再構成画像のマトリクスのサイズを、収集マトリクス以上かつ再構成マトリクス未満の2のべき乗の値に変更した後にノイズ除去を行い、ノイズ除去後の画像のマトリクスを前記再構成マトリクスに戻すことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
静磁場内に配置された被検体に高周波磁場パルスを送信する送信部、前記被検体が発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部、及び、静磁場に傾斜磁場を与える傾斜磁場発生部を有する計測部と、前記受信した核磁気共鳴信号に演算を施す計算機と、を備え、
前記計算機は、受信した核磁気共鳴信号を処理し、収集マトリクスをゼロフィルして拡張した再構成マトリクスで再構成して画像を生成する画像生成部と、前記画像からノイズを除去するノイズ除去部と、を備え、
前記ノイズ除去部は、前記画像生成部における再構成とノイズ除去とに起因するアーチファクトの特徴を予測するアーチファクト予測部と、予測したアーチファクトを除去する窓関数を作成する窓関数作成部と、を有し、前記窓関数を用いてアーチファクトを除去することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記アーチファクト予測部は、再構成マトリクスと収集マトリクスの比に対するアーチファクトの挙動を経験的にデータベース化して記憶する記憶手段から、前記アーチファクトの特徴を取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記アーチファクト予測部は、ノイズ除去の対象画像のk空間データからアーチファクト信号を抽出し、アーチファクトを予測することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記アーチファクト予測部は、k空間上において収集マトリクス外の信号であって任意の閾値より大きな信号、または、収集マトリクス外の信号を、アーチファクトとみなすことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
磁気共鳴イメージング装置が取得した画像のノイズを除去する画像処理方法であって、
前記画像は、核磁気共鳴信号の収集マトリクスをゼロフィルして拡張した再構成マトリクスで再構成した再構成画像であり、
前記ノイズの除去は、前記再構成画像をWavelet変換する処理とL1ノルム最小化処理とを含み、
さらにノイズ除去において、再構成とノイズ除去とに起因するアーチファクトの特徴を予測する処理と、予測したアーチファクトを除去する窓関数を作成する処理と、作成した窓関数をL1ノルム最小化後の画像に適用する処理とを含むことを特徴とする画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)に係り、特に画像のノイズを除去した後に、ノイズ除去に起因して生じるアーチファクトの除去技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、静磁場内に置かれた水素原子核(プロトン)が特定の周波数の高周波磁場に共鳴する核磁気共鳴現象を利用した非侵襲な医用画像診断装置である。MRIは撮像方法や撮像パラメータ変更により様々な組織コントラストの画像を撮像できることから,形態情報の他、血流や代謝機能などの生体機能に関する情報が取得可能であり、画像診断分野では不可欠な診断装置となっている。
【0003】
MRIにおける技術的課題の一つに、撮像時間の短縮がある。様々な短縮方法が提案されているが、撮像時間の短縮には信号対雑音比(SNR)の低下が伴う。そこで、ノイズの除去方法についても同時に研究開発されている。なかでもWavelet変換を用いたノイズ除去法が一般的に用いられている。例えば、特許文献1では、パラレルイメージング(PI)で得た画像のノイズ除去において、スパース性の制約条件としてL1ノルム最小化にWavelet変換画像を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-42444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MRI装置では、被検体から発生する核磁気共鳴信号にはエンコード傾斜磁場を用いて位置情報が付与されており、受信した核磁気共鳴信号からなる計測データは、エンコードの方向を軸方向とするk空間に配置される。k空間は、k空間データをフーリエ変換により画像再構成するため、通常、正方のマトリックスであり、計測データはこのマトリクスに合わせて配置される。MRIでは、撮像時間の短縮やアーチファクトの抑制のためにk空間を非対称に充填する撮像方法があるが、その場合でも正方な再構成マトリクスの画像を得るため、k空間の不足した領域をゼロで補填するゼロフィル再構成が行われる。また、見かけの分解能を向上させる目的で、k空間を2倍以上拡張するようなゼロフィル再構成も一般的に行われる。このようなゼロフィル再構成を行う際に、ノイズ除去としてWavelet変換を行うと特徴的なパターンが現れ、再構成の過程でアーチファクトとなる。このアーチファクトは画像全体に生じているため、画質が著しく劣化する。
【0006】
本発明は、ゼロフィル再構成とWavelet変換を用いたノイズ除去とを組み合わせることで画像に生じるアーチファクトの問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このアーチファクトを解決するために、本発明は、ゼロフィル再構成とWavelet変換を用いたノイズ除去とを組み合わせたときに発生するアーチファクトは、画像の高周波成分に内在するアーチファクトであり、それが画像全体に影響を与えるという特徴を持つことに着目し、このようなアーチファクトが最終的な画像に現れない処理を行う。
【0008】
本発明の処理は、大きく分けて2つの手法がある。一つは、ゼロフィル再構成によって得た画像に対し、前処理を行い、Wavelet変換によるアーチファクトが生じないか、生じても後処理で除去できるような前処理を行い、続くWavelet変換によるノイズ除去後に、前処理によって施した変換を元に戻す後処理を行うというものである。もう一つの手法は、Wavelet変換によるノイズ除去処理時にアーチファクト信号を予測し除去するものである。
【0009】
すなわち、本発明のMRI装置の第1の態様は、静磁場内に配置された被検体に高周波磁場パルスを送信する送信部、被検体が発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部、及び、静磁場に傾斜磁場を与える傾斜磁場発生部を有する計測部と、受信部が受信した核磁気共鳴信号に演算を施す計算機と、を備え、計算機は、受信した核磁気共鳴信号を処理し、収集マトリクスをゼロフィルして拡張した再構成マトリクスで再構成して画像を生成する画像生成部と、前記画像からノイズを除去するノイズ除去部と、を備え、ノイズ除去部は、再構成画像のマトリクスのサイズを変更した後にノイズ除去を行い、ノイズ除去後の画像のマトリクスを再構成マトリクスに戻す処理を行う。
【0010】
また、本発明のMRI装置の第2の態様は、静磁場内に配置された被検体に高周波磁場パルスを送信する送信部、前記被検体が発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部、及び、静磁場に傾斜磁場を与える傾斜磁場発生部を有する計測部と、受信した核磁気共鳴信号に演算を施す計算機と、を備え、計算機は、受信した核磁気共鳴信号を処理し、収集マトリクスをゼロフィルして拡張した再構成マトリクスで再構成して画像を生成する画像生成部と、前記画像からノイズを除去するノイズ除去部と、を備え、ノイズ除去部は、画像生成部における再構成とノイズ除去とに起因するアーチファクトの特徴を予測するアーチファクト予測部と、予測したアーチファクトを除去する窓関数を作成する窓関数作成部と、を有し、窓関数を用いてアーチファクトを除去する。
【0011】
さらに本発明は次の画像処理方法を提供する。
磁気共鳴イメージング装置が取得した画像のノイズを除去する画像処理方法であって、前記画像は、核磁気共鳴信号の収集マトリクスをゼロフィルして拡張した再構成マトリクスで再構成した再構成画像であり、ノイズの除去は、前記再構成画像をWavelet変換する処理とL1ノルム最小化処理とを含み、さらにノイズ除去において、Wavelet変換前に前記再構成画像のマトリクスサイズを変更する処理と、ノイズ除去後の画像のマトリクスサイズをもとに戻す処理とを含む画像処理方法、或いは、さらにノイズ除去において、再構成とノイズ除去とに起因するアーチファクトの特徴を予測する処理と、予測したアーチファクトを除去する窓関数を作成する処理と、作成した窓関数をL1ノルム最小化後の画像に適用する処理とを含む画像処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゼロフィル再構成とWavelet変換を用いたノイズ除去とを組み合わせることによって生じるアーチファクトを除去し、高画質の画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態におけるMRI装置の概略構成を示すブロック図
図2】本発明が適用されるMRI装置の外観図で、(a)は垂直磁場方式のMRI装置、(b)は水平磁場方式のMRI装置、(c)は開放感を高めたMRI装置である。
図3】実施形態の計算機の機能ブロック図
図4】実施形態の計算機による処理の流れを示す図
図5】再構成画像マトリクスと収集マトリクスを説明する図
図6】実施形態1のノイズ除去部の処理の流れを示す図
図7】実施形態1の前処理部の処理の流れを示す図
図8】実施形態1の後処理部の処理の流れを示す図
図9】実施形態2の処理を示す図で、(a)は前処理部の処理の流れ、(b)は後処理部の処理の流れを示す図
図10】実施形態2におけるマトリクスの切り出しを説明する図
図11】実施形態3の計算機の機能ブロック図
図12】実施形態3のノイズ除去部の処理の流れを示す図
図13】実施形態3のアーチファクト除去の一例を示す図
図14】実施形態3のアーチファクト除去の他の例を示す図
図15】ノイズ除去のユーザー設定のためのUIの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明が適用されるMRI装置の実施形態について説明する。
【0015】
[MRI装置の概要]
本実施形態のMRI装置10は、図1に示すように、大きく分けて、被検体101から発生する核磁気共鳴信号の計測を行う計測部100と、計測部100を制御するとともに計測部100が計測した核磁気共鳴信号を用いて画像再構成、補正その他の演算を行う計算機200とを備える。
【0016】
計測部100は、被検体101が置かれる空間に静磁場を生成する静磁場コイル102と、静磁場内に配置された被検体101に高周波磁場パルスを送信する送信部(105、107)と、被検体が発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部(106、108)と、核磁気共鳴信号に位置情報を付与するために静磁場コイル102が発生する静磁場に磁場勾配を与える傾斜磁場コイル103とを備える。
【0017】
静磁場コイル102は、常電導式或いは超電導式の静磁場コイル、静磁場生成磁石などで構成され、発生する静磁場の方向によって、垂直磁場方式、水平磁場方式などがあり、方式によってコイルの形状及び装置全体の外観が異なる。図2(a)~(c)に、これら方式の異なるMRI装置の外観を示す。本実施形態は図示するMRI装置のいずれにも適用可能である。
【0018】
送信部は、被検体101の計測領域に対し高周波磁場を送信する送信用高周波コイル105(以下、単に送信コイルという)と、高周波発振器や増幅器などを備えた送信機107とを備える。受信部は、被検体101から生じる核磁気共鳴信号を受信する受信用高周波コイル106(以下、単に受信コイルという)と、直交検波回路やA/D変換器などを含む受信機108とを備える。受信コイルは、複数の小型受信コイルからなるマルチチャンネルコイルでもよく、その場合、それぞれに受信機108を構成する直交検波回路やA/D変換器が接続されている。受信機108が受信した核磁気共鳴信号は、複素ディジタル信号として計算機200に渡される。
【0019】
傾斜磁場コイル103は、x方向、y方向、z方向それぞれに傾斜磁場を印加する3組の傾斜磁場コイルを有し、それぞれ傾斜磁場用電源部112に接続されている。さらにMRI装置は、静磁場分布を調整するシムコイル104とそれを駆動するシム用電源部113を備えていてもよい。傾斜磁場の印加の仕方によって核磁気共鳴信号に位置情報を付与することができる。
【0020】
さらに計測部100は、計測部100の動作を制御するシーケンス制御装置114を備える。シーケンス制御装置114は、傾斜磁場用電源部112、送信機107及び受信機108の動作を制御し、傾斜磁場、高周波磁場の印加および核磁気共鳴信号の受信のタイミングを制御する。制御のタイムチャートはパルスシーケンスと呼ばれ、計測に応じて予め設定され、計算機200が備える記憶装置等に格納される。計算機200は、MRI装置10全体の動作を制御するとともに、受信した核磁気共鳴信号に対して様々な演算処理を行う。具体的には、計測制御部210、核磁気共鳴信号を用いて画像を再構成する画像生成部220、画像のノイズを除去するノイズ除去部230、画像等のディスプレイへの表示を制御する表示制御部240などの機能部が備えられている。これら機能を行うため計算機200は、CPU、メモリ、記憶装置などを備え、さらにディスプレイ201、外部記憶装置203、入力装置205などが接続される。
【0021】
ディスプレイ201は、演算処理で得られた結果等をオペレータに表示するインタフェースである。入力装置205は、本実施形態で実施する計測や演算処理に必要な条件、パラメータ等をオペレータが入力するためのインタフェースである。ユーザーは、入力装置205を介して計測パラメータを入力できる。外部記憶装置203は、計算機200内部の記憶装置とともに、計算機200が実行する各種の演算処理に用いられるデータ、演算処理により得られるデータ、入力された条件、パラメータ等を保持する。
【0022】
計算機200の各部の機能は、計算機200に組み込まれたソフトウェアとして実現可能であり、記憶装置が保持するプログラム(ソフトウェア)を、CPUがメモリにロードして実行することにより実現される。各機能の処理に用いる各種のデータ、処理中に生成される各種のデータは、記憶装置あるいは外部記憶装置203に格納される。また、計算機200が実現する各種の機能のうち、少なくとも一つの機能は、MRI装置10とは独立した、情報処理装置であって、MRI装置10とデータの送受信が可能な情報処理装置により実現されていてもよい。例えば、後述するノイズ除去部としての機能を、MRI装置とは別の計算機(画像処理装置)で実現してもよい。さらに、全部または一部の機能は、ソフトウェアとしてではなくい、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field programmable gate array)などのハードウェアによって実現してもよい。
【0023】
本実施形態のMRI装置10における撮像は、一般的な撮像と同様であるが、計測した核磁気共鳴信号を用いた画像生成においてゼロフィル再構成を行い、得られた画像のノイズ処理において、Wavelet変換を行う。その際、ゼロフィル再構成とWavelet変換に起因するアーチファクトを、最終的な画像に生じさせない処理を行うことが特徴である。
【0024】
このような処理を行う計算機200の一例を図3に示す。図示するように画像生成部220は、計測した核磁気共鳴信号からなる計測データをk空間に配置するk空間配置部221と、k空間データに所定のゼロフィルを行ってからk空間データのフーリエ変換を行い画像再構成するゼロフィル再構成部222とを備える。ノイズ除去部230は、ノイズ除去の演算を行うWavelet変換部232及び繰り返し演算部233と、Wavelet変換に先立って画像生成部220が生成した画像のマトリクスサイズを変更する前処理部231及び画像サイズを前処理前のサイズに戻す等の処理を行う後処理部234とを備える。なおノイズ除去部の機能をMRI装置と別の計算機(画像処理装置)で行う場合には、ゼロフィル再構成で得た画像を画像処理装置が受け取り、後述するノイズ除去の処理を行う。
【0025】
次に本実施形態のMRI装置10、主として計算機200の動作を説明する。図4に動作の流れを示す。
【0026】
まず、入力装置115を介してユーザーによる撮像シーケンスや撮像条件の設定を受け付ける(S401)。撮像シーケンスは、特に限定されないが、撮像時間の短縮のために、空間的に重なり合った信号を計測する撮像手法、例えばパラレルイメージング撮像(PI)や複数スライス同時励起撮像(SMS:Simultaneous Multi-Slice)が選択され、設定されてもよい。撮像条件は、撮像シーケンスのパラメータ(繰り返し時間TR、エコー時間TE)を含み、k空間の間引き計測(PI)を行う場合には間引き率を含む。また複数スライス同時励起(SMS)の場合にはスライス数の設定を含む。なお検査プロトコルとしてこれら撮像条件等が設定されている場合には、検査プロトコルに設定された条件等を読み込む。
【0027】
計測制御部210は、ユーザーが入力したパラメータに基づいて設定されるパルスシーケンスに従って、シーケンス制御装置114を動作させ、予め定めた条件の核磁気共鳴信号(エコー信号)を計測する。シーケンス制御装置114は、計測制御部210からの指示に従って、MRI装置100の各部を制御して、パラメータに基づいた収集マトリクス分のk空間データが収集される(S402)。収集マトリクスは、例えば、2次元マトリクスの場合、位相方向については位相エンコード数、読み出し方向についてはサンプリング数によって決まり、2のべき乗となる再構成マトリクス(そのためのk空間データ)とは異なる。本実施形態では、ゼロフィル再構成することを前提としており、収集マトリクスのサイズは、再構成マトリクスのサイズよりも小さいものとする。
【0028】
画像生成部220は、核磁気共鳴信号をk空間に配置し、図5に示すように、再構成マトリクス(画像空間のマトリクス)に対してk空間データの不足領域にゼロを補填し、フーリエ変換を行い、再構成画像を生成する(S403)。なお、図5では一例として、2次元方向のデータを示すが、1次元方向のみにも適用もできる。
【0029】
次いで、ノイズ除去部230は、画像データに対しWavelet変換と繰り返し演算によってノイズを除去する処理を行う(S404)。その際、ノイズ処理により生じるアーチファクトの除去あるいはアーチファクトを生じさせないための処理を行う(S405)。ノイズ除去とアーチファクトの処理の具体例は後述の実施形態において説明する。
【0030】
ノイズ除去後の再構成画像は、必要に応じて、記憶装置203に格納され、或いは表示制御部240によりディスプレイ201に表示される(S406)。
【0031】
次に、ノイズ除去部230の具体的な処理の実施形態を説明する。
【0032】
<実施形態1>
本実施形態は、ゼロフィル再構成とWavelet変換を用いたノイズ除去に起因するアーチファクトが、k空間の高周波領域に特徴的なアーチファクトとなって現れることを利用し、前処理で画像のk空間データを拡張してアーチファクトを生じさせる領域を作り、後処理でこの領域を切り取る処理を行う。
【0033】
本実施形態のノイズ除去部230の処理を、図6のフローを用いて説明する。本実施形態においても、再構成マトリクスより小さい収集マトリクスの計測データを得て、それをk空間に配置し、ゼロフィル再構成することは図4に示す処理と同様である(S601)。
【0034】
本実施形態では、前処理部231(図3)が、ゼロフィル再構成によって得た画像に対し、ノイズ除去に先立って、前処理を行い、画像のサイズを拡大する処理を行う(S602)。具体的には、図7に示すように、撮像パラメータから2次元の収集マトリクスと再構成マトリクスのサイズを取得しておく(S6021)。ステップS601で得た再構成画像をフーリエ変換し、画像空間からk空間のデータに変換し(S6022)、k空間上で再構成マトリクスのサイズを超えるようにゼロフィルで拡張する(S6023)。拡張後のk空間データを逆フーリエ変換し、k空間から画像空間のデータに変換する(S6024)。
【0035】
前処理によって、もとの再構成画像よりもサイズの大きい画像データが得られる。ノイズ除去部230は、この前処理後の画像に対しノイズ処理を行う(S603)。ノイズ処理は、L1ノルム最小化処理と、誤差最小化のための繰り返しとを含み、L1ノルム最小化処理にWavelet変換を用いる。具体的には、Wavelet変換した画像について、L1ノルムを最小化する処理を、入力画像と出力画像の誤差が最小化するように繰り返す。
【0036】
Wavelet変換は、基準となるマザーウエーブレットを設定し、これを伸縮、平行移動することによって、解析する波形中のこれと相似な様々なスケールの波形を抽出する処理であり、高周波領域をゼロフィルして得た画像に対し適用した場合、本来の画像にはない波形が高周波領域に抽出される結果としてアーチファクトが生じる。この実施形態では、前処理によって高周波成分を拡張しておくことで、ノイズ処理後にアーチファクトとなる成分は高周波成分に集約させておくことができる。後処理(S604)は、この高周波成分を切り取る処理である。
【0037】
すなわち、後処理部234は、図8に示すように、ノイズ処理後の画像をフーリエ変換により画像空間からk空間のデータに変換し(S6041)、k空間上で拡張する前の再構成マトリクスサイズに切り出す(S6042)。切り出したk空間データを逆フーリエ変換によりk空間から画像空間に変換し、再構成画像を得る(S6043)。上述のようにノイズ処理後の画像では、アーチファクトの発生がk空間上で再構成マトリクスの外、すなわちゼロフィルで拡張した領域へ移動もしくは偏る。そのため、後処理によって、再構成マトリクスに切り出したとき、アーチファクトを除去もしくは低減することができる。
【0038】
なお、前処理S602において、ゼロフィルで拡張するマトリクスのサイズは、再構成マトリクスのサイズを超える大きさであれば、アーチファクト低減効果が得られるが、例えば、収集マトリクスの4倍のマトリクスを用いることで、アーチファクトの出現を収集マトリクス外に移動させることができる。
【0039】
また、本実施形態における撮像方法として、収集マトリクスの間引き計測を行うPI法を採用する場合には、前処理(S602)と後処理(S604)で用いる収集マトリクスのサイズは、PI法を適用しない時(間引く前)の収集マトリクスとする。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、ノイズ除去前の前処理によって、対象とする画像のk空間領域を、再構成マトリクスのサイズより拡張し、それを画像空間に戻してノイズ除去を行うことにより、Wavelet変換に起因するアーチファクトの出現を収集マトリクスの外側に移動させることができ、アーチファクトの低減された、あるいはアーチファクトのない再構成画像を得ることができる。
【0041】
<実施形態2>
本実施形態でも、ノイズ除去に先立って対象とする画像の前処理を行うこと、及び、ノイズ除去後に、画像をもとの再構成マトリクスに戻す後処理を行うことは実施形態1と同様である。但し、本実施形態では、前処理で収集マトリクス以上かつ再構成マトリクス未満のサイズに切り出しを行い、後処理で元の再構成マトリクスに戻すことが特徴である。ノイズ除去部230の構成及び処理の流れは、それぞれ、図3及び図6に示したものと同様であるので、以下、図6の前処理S602をS612、後処理S604をS614と読み替えて、それらの詳細を説明する。図9(a),(b)に、前処理及び後処理の詳細を示す。
【0042】
前処理(S612)では、図9(a)に示すように、前処理部231が2次元の収集マトリクスと再構成マトリクスのサイズをパラメータから取得する(S6121)。ゼロフィル再構成(S601)後の画像をフーリエ変換して、画像空間からk空間のデータに変換する(S6122)。このk空間データの高周波領域を切り取り、図10に示すように、k空間のサイズが収集マトリクス以上かつ再構成マトリクス未満のサイズになるように、データを切り出す(S6123)。切り出したk空間データを逆フーリエ変換し、k空間から画像空間のデータ(画像)に変換する(S6124)。
【0043】
この高周波領域を切り取る処理(S6123)を行うことで、ゼロフィル再構成時に高周波領域に含まれることになった成分、すなわちWavelet変換時に誤抽出されやすい成分を取り除いておくことができる。ステップS6123において切り出すサイズは、再構成マトリクス未満であればよいが、収集マトリクスに近づくほど、アーチファクトの発生を抑える効果が高い。また、切り出すサイズは、限定されるものではないが、例えば2のべき乗のサイズを選択してもよく、これによりフーリエ変換が高速処理でき、ノイズ処理全体としての処理速度を上げることができる。
【0044】
上記の処理(S612)の後に、ノイズ除去(S603)を行う。ノイズ除去は実施形態1と同じ処理であり、Wavelet変換部232と繰り返し演算部233により、前処理後の画像に対し、Wavelet変換とノルム最小化の繰り返し演算を行う。
【0045】
後処理(S614)は、前処理でサイズダウンした画像をもとに戻す処理である。すなわち、図9(b)に示すように、後処理部234は、ノイズ除去後の画像をフーリエ変換により画像空間からk空間のデータに変換し(S6141)、k空間上で切り出す前の再構成マトリクスサイズになるようにゼロフィルし(S6142)、逆フーリエ変換によりk空間から画像空間に変換する(S9143)。
【0046】
本実施形態によれば、ノイズ除去に先立って、ゼロフィル再構成後の画像から、Wavelet変換時に生じるアーチファクトの原因となる高周波成分を取り除いておくことにより、ノイズ除去(S603)でのアーチファクトの発生を抑制することができる。
【0047】
以上、ゼロフィル再構成画像に対し、前処理を施すことによってアーチファクトの発生を抑制する手法の実施形態を説明した。以下では、Wavelet変換を用いたノイズ除去の処理過程でアーチファクトを除去する手法の実施形態を説明する。
【0048】
<実施形態3>
本実施形態は、ノイズ除去の過程で、アーチファクトの特徴を抽出し、それを除去するフィルタを作成して、アーチファクトのみを除去することが特徴である。
【0049】
本実施形態のノイズ除去部230の構成を図11に示す。本実施形態では、ノイズ除去部230は、Wavelet変換部232及び繰り返し演算部233の他に、アーチファクト抑制の処理を行う機能として、Wavelet変換後の画像からノイズを抽出しノイズ画像を作成するノイズ抽出部236、ノイズ抽出部236が作成したノイズ画像からアーチファクト信号を予測するアーチファクト予測部237、及び、アーチファクトを除去する窓関数(フィルタ)を作成する窓関数作成部238を備える。
【0050】
以下、これら各部の処理を中心に、ノイズ除去部230の処理を説明する。図12に処理の概要を示す。
【0051】
本実施形態では、図12に示すように、ノイズ除去部230は、ゼロフィル再構成した画像を受け取ると、まず、Wavelet変換部232が、画像をWavelet変換し(S1201)、L1ノルム最小化処理をして、ノイズを抽出し(S1202:ノイズ抽出部236)、抽出したノイズ(Wavelet空間データ)を逆Wavelet変換してノイズ画像を作成する(S1203)。元の画像(ゼロフィル再構成画像)から、ステップS1203で作成したノイズ画像を差し引くことによってノイズ除去を行う(S1204)。本実施形態では、このノイズ除去のステップ(S1204)で、単に元の画像からノイズ画像を差し引くだけでなく、ノイズ画像に発生したアーチファクトを除去する。アーチファクト除去の方法には、k空間上で行う方法と画像上で行う方法とがあり、いずれを採用してもよい。
【0052】
最初に、k空間上でアーチファクトを除去する方法を、図13を参照して説明する。この処理は、L1ノルム最小化処理(図12のステップS1202)後に逆Wavelet変換した画像に対し行い、ノイズ除去の繰り返し演算における入力画像に加算する前にアーチファクトを除去する。
【0053】
具体的には、逆Wavelet変換(S1203)で得られたノイズ画像をフーリエ変換し、画像空間からk空間のデータに変換する(S1211)。次に、k空間上でアーチファクトの信号を抽出する(S1212)。実施形態1で説明したように、アーチファクト信号はk空間において高周波領域に存在するので、例えば、k空間上において収集マトリクス外の、任意の閾値より大きな信号をアーチファクトとみなすか、収集マトリクス領域外はアーチファクトとみなして、アーチファクト信号を抽出する。
【0054】
次にこのアーチファクト信号を打ち消すフィルタを作成し(S1213)、これをステップS1211で得たk空間データ(ノイズ画像のk空間データ)に適用する(S1214)。フィルタとしては、収集マトリクス及び再構成マトリクスのサイズ等を考慮して適切なフィルタを作成する。例えば、収集マトリクスのサイズに応じた矩形関数を用いることができる。矩形関数は収集マトリクス領域を1、収集マトリクス領域外を0とするフィルタであり、最も容易に実装可能であり、アーチファクト低減効果も高い。再構成マトリクスと収集マトリクスの比が50%前後の場合は、矩形関数によるアーチファクト除去効果は薄くなるので、この場合は、例えばFermi関数のように高域が滑らかに変化するフィルタを使用する。このようなフィルタをk空間データに適用後に画像データに戻すことにより、アーチファクトとノイズとを除去することができる。
【0055】
また、ステップS1212で抽出したアーチファクトのみを消す場合は、Sinc関数や任意のBand-Passフィルタをノイズ画像のk空間データに適用してもよい。例えば、Band-Passフィルタの場合は、アーチファクト抽出部分を0、その他を1とする。Sinc関数の場合は、アーチファクト抽出部分が0になるように周波数を変化させたSinc関数とする。
【0056】
上記のようにアーチファクト信号を打ち消すフィルタを作成し、フィルタをk空間データに適用し、逆フーリエ変換によりk空間から画像空間に変換する(S1205)。これをもとの画像と加算処理を行った後、入力画像として、ノイズ除去の繰り返し演算を行い、最終的にノイズが除去された画像を得る。なお上述のように繰り返し演算の繰り返しごとに得られるノイズ画像に対しフィルタ処理を行うのではなく、繰り返し演算の最後に得られるノイズ画像に対し、上述したフィルタ作成とフィルタを用いたアーチファクト処理を行ってもよい。
【0057】
以上がノイズ除去処理中にk空間上でアーチファクト信号を除去する処理である。
次に、画像上でアーチファクトを除去する方法を、図14を参照して説明する。
【0058】
この方法では、まず予測部237が、逆Wavelet変換(S1203)で得られたノイズ画像で得られた情報からアーチファクトを予測する(S1301)。アーチファクトの予測の方法として、例えば、再構成マトリクスと収集マトリクスの比に対するアーチファクトの挙動を経験的にデータベース化しておく方法がある。アーチファクトの挙動とは、例えば、再構成マトリクスと収集マトリクスの比に応じて、アーチファクトが画像のどの成分に影響を与えるか、つまりアーチファクトが高域と中域のどのあたりに現れるか、などの情報である。多くの画像データからこのようなアーチファクの挙動を蓄積し、それをデータベースとして、MRI装置10の外部記憶装置203に予め格納しておいてもよいし、MRI装置10とは別の記憶手段やクラウド上などに格納しておいてもよい。
【0059】
アーチファクトの特徴を予測した後、窓関数作成部238は、その特徴に基づき、アーチファクトを最小化するような1×Nの空間フィルタを作成する(S1302)。ステップS1301では、アーチファクトの特徴として、アーチファクトの成分が中域から高域にかけてのどのあたり分布しているか予測できるので、窓関数作成部238は、中域に分布していると予測された場合はNを小さく、高域に分布していると予測された場合はNを大きくする。なお、窓関数作成部238は、新たに窓関数を作成するのではなく、容易に実装可能で且つアーチファクト低減効果のある標準の窓関数を組み込んでおき、画質に応じてNの大きさを調整してもよい。例えば、標準の窓関数として、2次元のそれぞれの方向に対して、1×3の移動平均フィルタ[1/3, 1/3, 1/3]を畳み込んでおく。この場合(N=3)、ボケが強くなるため、得たい画質に応じてNの大きさを調節してもよい。またフィルタ係数は単純な移動平均ではなくGauss関数やSinc関数に従うように作成してもよい。
【0060】
次いで、ノイズ除去部230は、窓関数作成部238が作成した窓関数(空間フィルタ)を繰り返し演算で得られるノイズ画像に対し、2次元のそれぞれの方向に適用し(S1303)、ノイズ及びアーチファクトが除去された画像を得る。
【0061】
その後、空間フィルタを適用した前後の画像で、標準偏差の値をそろえるような補正を行う(S1304)。この補正は、ノイズ除去の繰り返し演算において、フィルタ適用により生じる入力画像と出力画像の信号値のずれを解消するために行う。
【0062】
標準偏差を用いた補正は、式(1)を用いて、フィルタ適用後の画像を補正する。式(1)中、σbeforeはフィルタ適用(ステップS1303)前に算出した画像の標準偏差、σafterはフィルタ適用後に算出した標準偏差である。式(1)では、このフィルタ適用前後の標準偏差の比を係数とし、フィルタ適用後の画像I(x、y)の各ピクセルに乗算し、補正画像C(x、y)を算出する。
【0063】
【数1】
【0064】
本実施形態によれば、再構成画像をk空間データとしてマトリクスのサイズを変更する前処理が不要となり、ノイズ除去処理が簡略化される。特に、画像空間でフィルタを適用する方法は、追加のフーリエ変換が不要であるという利点がある。但し、本実施形態の手法は、実施形態1と組み合わせることも可能であり、その場合には、図12に示すステップS1201の前に前処理(図7)を行い、ステップS1204の後に後処理(図8)を行う。このように実施形態1と組み合わせることにより、さらなる高画質化を図ることができる。
【0065】
以上、本発明のMRI装置におけるノイズ除去の実施形態を説明したが、上述した実施形態は、それぞれ、単独でMRI装置或いは画像処理装置に組み込んでもよいし、ノイズ除去の要不要、手法、或いは程度などをユーザーが選択可能にすることも可能である。ユーザー選択を可能にするためのユーザーインターフェイス(UI)の実施形態を図15に示す。
【0066】
ノイズ除去に関するユーザー設定は、例えば、図6の条件設定ステップS601において、表示制御部240が、図15に示すようなUIをディスプレイ201に表示し、ユーザー選択を受け付ける。その場合、さらに、複数の手法を選択できるようにしてもよい。図15に示す例では、ノイズ除去について、実施するか否かを選択するボタン151、ノイズ除去の程度(弱、中、強)を選択するボタン152、補正の要否を選択するボタン153が設けられている。例えば、そもそもゼロフィル率の低い撮像や速度を優先する撮像の場合には、ユーザーは比較的時間のかかるノイズ除去を省き、ゼロフィル率の高い撮像のときにノイズ除去を行う設定をすることができる。またノイズ除去部230は、ユーザーが設定したノイズ除去の程度に応じて、例えば、実施形態3の窓関数作成部238が作成する空間フィルタの種類や係数を変化させる。また補正が要とされたときのみに、アーチファクト除去のための処理(例えば、実施形態1、2の前処理及び後処理や実施形態3のフィルタ処理)を行う。このようなUIを設けることにより、ユーザーによる手法選択の自由度が高くなる。
【0067】
以上、本発明のMRI装置とノイズ除去のための画像処理方法の実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、技術的に矛盾しない他のノイズ除去手法、例えば、TV制約条件の付加や異なるフィルタの追加などを組み合わせたりすることも可能であり、それも本発明に包含される。
【符号の説明】
【0068】
10:MRI装置、100:計測部、101:被検体、102:静磁場コイル、103:傾斜磁場コイル、104:シムコイル、105:送信コイル、106:受信コイル、107:送信機、108:受信機、112:傾斜磁場用電源部、113:シム用電源部、114:シーケンス制御装置、200:計算機、201:ディスプレイ、203:外部記憶装置、205:入力装置、210:計測制御部、220:画像生成部、230:ノイズ除去部、231:前処理部、232:Wavelet変換部、233:繰り返し演算部、234:後処理部、236:ノイズ抽出部、237:アーチファクト予測部、238:窓関数作成部、240:表示制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15