(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
B60K 11/04 20060101AFI20231221BHJP
B60R 19/04 20060101ALI20231221BHJP
B60R 19/52 20060101ALI20231221BHJP
F01P 5/06 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B60K11/04 K
B60K11/04 H
B60R19/04 K
B60R19/52 M
F01P5/06 509
(21)【出願番号】P 2020087774
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】小關 翔平
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-247340(JP,A)
【文献】特開2020-001630(JP,A)
【文献】特開2003-276534(JP,A)
【文献】特開2008-049815(JP,A)
【文献】特開昭62-166138(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0168125(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018104890(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/04
B60R 19/04
B60R 19/52
F01P 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部の前面を構成し、第1開口部及び第2開口部が形成された車両前面部材と、
前記車両前部において前記第1開口部よりも車両後方に配置された冷却装置と、を備え、
前記第1開口部は、車両前後方向視において前記冷却装置と重畳する位置に形成されており、
前記車両前面部材は、前記第2開口部を通過した走行風を前記冷却装置に向かうように案内する案内部を有
し、
前記案内部は、前記第2開口部よりも車両後方に、且つ、前記車両前後方向視において第2開口部の全域を含むように設けられた案内壁と、前記車両前面部材における前記第2開口部に隣接する領域から車両後方に向かって立設されて前記案内壁を支持する支持壁を備え、
前記案内壁は、前記冷却装置に向かって傾斜して設けられている
車両前部構造。
【請求項2】
前記車両前面部材は、バンパー及びフロントグリルの少なくともいずれかを有する、
請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記案内部は、前記バンパー及び前記フロントグリルの少なくともいずれかと一体として構成されている、
請求項2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記第2開口部は、前記第1開口部よりも車両幅方向における車両中央側に形成されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前部に配置された冷却装置に走行風を誘導する車両前部構造が知られている。例えば特許文献1には、車両前方に向かって拡径する漏斗状のガイド部を冷却装置に付加した構造が開示されている。この構造によれば、バンパーの開口部を通過した走行風をガイド部によって冷却装置に誘導することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、冷却装置の冷却性能を十分に発揮させるためには、冷却装置に向かう走行風の流量を増大させることが望まれる。そこで、バンパー等に形成される開口部の数を増やすことで、開口部を通過する走行風の総流量の増大を図ることが考えられる。しかし、バンパー等に形成される開口部の数を増やしたとしても、当該開口部が冷却装置に対してずれた位置に形成されていると、走行風は冷却装置に到達しにくい。
【0005】
そこで、上述した車両前部構造のように冷却装置にガイド部を付加することによって、冷却装置に対してずれた位置に形成された開口部を通過した走行風を冷却装置に誘導することも考えられる。しかし、車両前部においては、冷却装置の他にも多くの内部構造体が配置されているため、冷却装置にガイド部を付加しようとするとレイアウトの自由度が制限されるという課題がある。
【0006】
本開示に係る車両前部構造は、レイアウトの自由度を確保しつつ冷却装置に向かう走行風の流量を増大させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る車両前部構造は、車両前部の前面を構成し、第1開口部及び第2開口部が形成された車両前面部材と、車両前部において第1開口部よりも車両後方に配置された冷却装置と、を備え、第1開口部は、車両前後方向視において冷却装置と重畳する位置に形成されており、車両前面部材は、第2開口部を通過した走行風を冷却装置に向かうように案内する案内部を有する。
【0008】
この車両前部構造によれば、第1開口部は車両前後方向視において冷却装置と重畳する位置に形成されているため、第1開口部を通過した走行風は冷却装置に向かって進行して、冷却装置に到達する。一方、第2開口部を通過した走行風は、車両前面部材の案内部によって冷却装置に向かうように案内されて、冷却装置に到達する。このように、この車両前部構造では、第1開口部のみならず第2開口部を通過した走行風をも冷却装置に到達させることができる。また、この車両前部構造では、案内部は、車両前面部材に直接設けられており、第2開口部を通過した走行風を冷却装置に向かうように案内するものである。したがって、冷却装置に特定の構造物を付加する必要がなく、レイアウトの自由度が制限されにくい。よって、この車両前部構造は、レイアウトの自由度を確保しつつ冷却装置に向かう走行風の流量を増大させることができる。
【0009】
本開示の一態様に係る車両前部構造では、案内部は、第2開口部よりも車両後方、且つ、車両前後方向視において第2開口部と重畳する位置に設けられた案内壁を含み、案内壁は、冷却装置に向かって傾斜して設けられていてもよい。これによれば、案内部は、第2開口部を通過した走行風を案内壁に沿って進行させ、より効率良く走行風を冷却装置に到達させることができる。また、案内壁が車両前後方向視において第2開口部と重畳する位置に設けられているため、車両前面部材よりも車両後方に配置された内部構造体が案内壁により隠されて車外から視認されにくくなる。このため、車両前面部材に第2開口部が形成されたことに起因する外観品質の低下を抑制することができる。また、案内壁は車両前面部材の一部として構成されているため(すなわち、案内壁が車両前面部材と空間的に分離していないため)、第2開口部を通過した走行風が気流の渦を生じにくい。このため、この車両前部構造は、第2開口部を通過した走行風を案内壁に沿って円滑に進行させ、より効率良く走行風を冷却装置に到達させることができる。
【0010】
本開示の一態様に係る車両前部構造では、案内部は、車両前面部材における第2開口部に隣接する領域から車両後方に向かって立設されて案内壁を支持する支持壁を備えていてもよい。これによれば、案内部の案内壁は、支持壁により支持されるため、走行風又は走行振動による揺動が抑制される。また、案内部は、案内壁上から走行風が流出することを支持壁により抑制することができるため、より効率良く走行風を冷却装置に到達させることができる。また、案内壁及び支持壁が設けられることによって車両前面部材の強度(剛性)を向上させることができる。
【0011】
本開示の一態様に係る車両前面部材は、バンパー及びフロントグリルの少なくともいずれかを有していてもよい。これによれば、上述した車両前面部材の作用及び効果を好適に奏することができる。
【0012】
本開示の一態様に係る車両前面部材では、案内部は、バンパー及びフロントグリルの少なくともいずれかと一体として構成されていてもよい。これによれば、バンパー又はフロントグリルの強度(剛性)を向上させるとともに、バンパー又はフロントグリルに外部から入力される加重を分散させることができる。
【0013】
本開示の一態様に係る車両前部構造では、第2開口部は、車両前後方向視において冷却装置と重畳しない位置に配置されていてもよい。これによれば、冷却装置に対してずれた位置に開口部を形成することが可能となるため、車両前面部材に形成する開口部の位置、数、大きさ、及び形状の自由度を向上させることができる。その結果、冷却装置に向かう走行風の流量を増大させて、冷却装置の冷却性能を十分に発揮させることができる。
【0014】
本開示の一態様に係る車両前部構造では、第2開口部は、第1開口部よりも車両幅方向における車両中央側に形成されていてもよい。一般に、車両前部の前面に当たった走行風は、車両幅方向における車両中央側から車両端部側に進行しやすい。一方、この車両前部構造によれば、冷却装置は車両前後方向視において第1開口部と重畳する位置に配置されていることから、第2開口部を通過して冷却装置に向かう走行風も、車両幅方向における車両中央側から車両端部側に向かって進行することとなる。したがって、この車両前部構造によれば、車両前部の前面に当たった走行風が当該前面に沿って進行する方向と、第2開口部を通過して冷却装置に向かう走行風が進行する方向と、が同じ方向となる。このため、この車両前部構造は、第2開口部を通過した走行風を冷却装置に向かって円滑に進行させ、より効率良く走行風を冷却装置に到達させることができる。
【発明の効果】
【0015】
このように、本開示に係る車両前部構造は、レイアウトの自由度を確保しつつ冷却装置に向かう走行風の流量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る車両前部構造を具備する車両の左側前面を示す正面図である。
【
図5】
図5は、車両前部構造における走行風の進路を模式的に示す平面図である。
【
図6】
図6は、実施例に係る車両前部構造における走行風の風速分布のシミュレーション結果を示す平面図である。
【
図7】
図7は、比較例に係る車両前部構造における走行風の風速分布のシミュレーション結果を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して例示的な実施形態について説明する。なお、各図における同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る車両前部構造100を具備する車両Vの左側前面を示す正面図である。
図2は、車両前部構造100を示す平面図である。
図1及び
図2に示されるように、車両前部構造100は、車両Vの前部(以下、「車両前部VF」という。)の構造であり、車載の装置の冷却をするための冷却装置1、及び、車両前部VFの前面FSを構成する車両前面部材2を備えている。車両Vは、車両前方からの走行風を前面FSに受ける。また、車両Vは、車両前面部材2の車両後方側(車両前部VFの外板に囲まれた内部)に内部構造体3を備えている。内部構造体3として、図中ではラジエータ30が例示されている。ラジエータ30は、走行風によりエンジン、キャパシタ等を冷却する熱交換器である。
【0019】
冷却装置1は、車両Vの走行その他の動作に起因して加熱されるとともに、走行風を受けて冷却される装置である。冷却装置1は、車両Vに設けられた各種装置の作動油又は冷却水等の熱交換媒体が内部に導通されており、走行風により当該熱交換媒体を冷却する。冷却装置1は、当該冷却装置1に向かう走行風の流量を増大させることにより、その冷却性能を十分に発揮させることができる。ここでは、冷却装置1は、車両Vに設けられた変速機(不図示)の作動油であるATF(Automatic Transmission Fluid)を冷却するためのATFクーラ10が例示されている。
【0020】
冷却装置1としてのATFクーラ10は、車両前部VFにおいて後述するバンパー20に形成された第1開口部H1よりも、車両後方に配置されている。ATFクーラ10は、例えば車両前後方向D2に薄い直方体状の形状を有している。ATFクーラ10は、車両前後方向D2視において(換言すると、車両前後方向D2に沿って見て)、例えば第1開口部H1と同程度の面積を有している。
【0021】
車両前面部材2は、車両前部VFの前面FSを構成する部材であり、バンパー20、フロントグリル21、及び案内部22を有している。例えば、案内部22は、バンパー20及びフロントグリル21の少なくともいずれかと一体として構成されていてもよく、一体として構成されていなくてもよい。「一体として構成される」とは、一体成型されることを意味していてもよく、別個に成型された複数の部材をボルト締結、嵌合、接着等により互いに結合されることを意味していてもよい。案内部22がバンパー20又はフロントグリル21と一体として構成されている場合、案内部22は、バンパー20又はフロントグリル21と空間的に互いに離間していない。なお、ここでは、案内部22は、バンパー20及びフロントグリル21の両方と一体として構成されている。
【0022】
バンパー20は、例えば緩衝機能を有した外形部材である。バンパー20は、車両前部VFにおいて、車両Vの車両幅方向D1における一端から他端にわたって帯状に延在している。バンパー20は、車両Vに対して外側である表面20a、及び、表面20aとは反対側の面であり内部構造体3と対面する裏面20bを有している。バンパー20の表面20aは、車両Vの前面FSの少なくとも一部を構成している。バンパー20には、表面20aと裏面20bとを連通させるように、第1開口部H1が形成されている。なお、
図1においては第1開口部H1の概略位置が示されている。
【0023】
第1開口部H1は、走行風を通過させるための開口部である。第1開口部H1は、バンパー20の車両幅方向D1における車両中央部よりも車両端部側(車両中央を基準としてATFクーラ10が配置されている側)に形成されている。具体的には、第1開口部H1は、車両前後方向D2視においてATFクーラ10と重畳する位置に形成されている。ここで、「重畳する」とは、車両前後方向D2視においてATFクーラ10の少なくとも一部と第1開口部H1の少なくとも一部とが互いに重なることを意味している。なお、第1開口部H1の形状及び大きさについては特に限定されないが、ATFクーラ10と車両前後方向D2視において同程度の面積を有していてもよい。
【0024】
第1開口部H1とATFクーラ10との間は、第1開口部H1を通過した走行風がATFクーラ10に到達可能となるように連通している(すなわち、第1開口部H1とATFクーラ10との間は、例えば壁によって仕切られていない。)。なお、第1開口部H1からATFクーラ10まで走行風が進行可能であれば、第1開口部H1とATFクーラ10との間に配管等が配設されていてもよい。
【0025】
フロントグリル21は、走行風を車両前面部材2の車両後方側に導入させる機能を有する部材である。フロントグリル21は、車両幅方向D1における車両中央部に配置されている。フロントグリル21は、車両幅方向D1に長い形状を有しており、車両幅方向D1において例えばバンパー20の略半分の長さを有している。フロントグリル21は、車両Vに対して外側である表面21a、及び、表面21aとは反対側の面であり内部構造体3と対面する裏面21bを有している。フロントグリル21の表面21aは、車両Vの前面FSの少なくとも一部を構成している。
【0026】
フロントグリル21は、外縁である枠状部21cにハニカム形状のメッシュ部21dが設けられて構成されている。メッシュ部21dは複数のセル21eが整列して構成されている。複数のセル21eの少なくとも一部は貫通し、隙間Gを形成している(すなわち、フロントグリル21には、表面21aと裏面21bとを連通させるように、隙間Gが形成されている。)。フロントグリル21は、メッシュ部21dに形成された隙間Gを介して、走行風を車両前面部材2の車両後方側に導入させる。メッシュ部21dを構成する複数のセル21eのうちの少なくとも一部のセル21eの隙間Gが、本実施形態における第2開口部H2に相当する。なお、
図1においては第2開口部H2の概略位置が示されている。
【0027】
第2開口部H2は、走行風を通過させるための開口部である。第2開口部H2は、第1開口部H1よりも車両幅方向D1における車両中央側に形成されている。第2開口部H2は、車両前後方向D2視においてATFクーラ10と重畳しない位置に形成されている。第2開口部H2は、車両幅方向D1における車両中央側の中央側開口端H2a、中央側開口端H2aと対向し後述する案内壁22aの端縁部22cと離間する端部側開口端H2b、中央側開口端H2aと端部側開口端H2bとのそれぞれの上端をつなぐ上側開口端H2c、及び、中央側開口端H2aと端部側開口端H2bとのそれぞれの下端をつなぐ下側開口端H2dを含んでいる。このように、端部側開口端H2bは、中央側開口端H2aに対して、車両幅方向D1における車両端部側に位置している。なお、第2開口部H2の具体的な形状及び大きさについては特に限定されない。
【0028】
第2開口部H2とATFクーラ10との間は、第2開口部H2を通過した走行風がATFクーラ10に到達可能となるように連通している(すなわち、第2開口部H2とATFクーラ10との間は、例えば壁によって仕切られていない。)。なお、第2開口部H2からATFクーラ10まで走行風が進行可能であれば、第2開口部H2とATFクーラ10との間に配管等が配設されていてもよい。ここで、「第2開口部H2とATFクーラ10との間」とは、後述するように案内部22によってATFクーラ10に向かうように案内された走行風の進行経路上の領域である。
【0029】
続いて、案内部22について詳細に説明する。
図3は、案内部22を示す正面図である。
図4は、案内部22を示す背面図である。
図2~
図4に示されるように、案内部22は、第2開口部H2を通過した走行風をATFクーラ10に向かうように案内する機構である。案内部22は、第2開口部H2を通過した走行風と干渉する位置に配置され、走行風の進行方向を変えることによって当該走行風をATFクーラ10に向かうように案内する。
【0030】
案内部22は、例えば、バンパー20の裏面20b上に設けられている(すなわち、案内部22は、バンパー20の裏面20bと接触している。)。また、案内部22は、フロントグリル21の裏面21b上に設けられている(すなわち、案内部22は、フロントグリル21の裏面21bと接触している。)。案内部22は、第2開口部H2よりも車両後方に配置されている。案内部22は、第2開口部H2からATFクーラ10の方向に向かって延在するダクト状の形状を有している。案内部22は、案内壁22a、一対の支持壁22f,22g、及び延在部22hを含んでいる。
【0031】
案内壁22aは、第2開口部H2を通過した走行風を受けて、走行風の進行方向を変えるとともに走行風を案内するための壁部である。案内壁22aは、例えば略矩形状をなしており、バンパー20と連接された辺である基縁部22b、基縁部22bと対向しバンパー20から離間した辺である端縁部22c、基縁部22b及び端縁部22cのそれぞれの上端をつなぐ辺である上縁部22d、及び、上縁部22dと対向し基縁部22b及び端縁部22cのそれぞれの下端をつなぐ辺である下縁部22eを含んでいる。なお、基縁部22b、端縁部22c、上縁部22d、及び下縁部22eのそれぞれの境界は、案内壁22aの形状等に応じて任意に設定し得る。
【0032】
案内壁22aは、車両前後方向D2と交差し、ATFクーラ10に向かって傾斜するように設けられている。「傾斜」とは、車両前後方向D2と垂直な面を基準として傾いていること(換言すると、車両前後方向D2と垂直な面と並行でないこと)を意味している。案内壁22aは、車両前後方向D2において端縁部22cが基縁部22bよりも車両後方となるように設けられている。例えば、案内壁22aは、基縁部22bと端縁部22cとをつなぐ線分の延長線上の位置(端縁部22c側に外挿した位置)にATFクーラ10が配置されるように構成されていてもよい。
【0033】
案内壁22aは、車両前後方向D2視において第2開口部H2と重畳する位置に設けられている。案内壁22aは、車両前後方向D2視において第2開口部H2と重畳する面積がより広い方が好ましい。より好適には、案内壁22aは、車両前後方向D2視において第2開口部H2の全域を含むように設けられていてもよい。また、案内壁22aは、内部構造体3が第2開口部H2を介して車外から視認されないように(または、視認されにくいように)設けられていてもよい。あるいは、案内壁22aは、内部構造体3のうち少なくとも特定の構造体(部品・部材・部分)が第2開口部H2を介して車外から視認されないように(または、視認されにくいように)設けられていてもよい。特定の構造体としては、例えば、視認された場合に車両Vの外観品質を低下させるものが挙げられる。より具体的には、特定の構造体は、ボルト、ナット、クリップ、吸音材、ハーネス、配管、又は非塗装面であってもよい。
【0034】
図1~
図4に示されるように、案内壁22aの基縁部22bは、第2開口部H2の中央側開口端H2aと連接している(
図1において、中央側開口端H2aの位置は模式的に示されている。以下、端部側開口端H2b、上側開口端H2c、及び下側開口端H2dについても同様。)。これにより、第2開口部H2を通過した走行風が車両幅方向D1における車両中央側(すなわち、ATFクーラ10が位置していない側)に進行することが抑制される。また、これにより、第2開口部H2を通過した走行風が円滑に案内壁22a上に進行するため、走行風の流れが乱されて渦が発生することが抑制される。
【0035】
案内壁22aの端縁部22cは、車両幅方向D1において、第2開口部H2の端部側開口端H2bよりも車両端部側まで延在している。これにより、車両前後方向D2視において案内壁22aが第2開口部H2と重畳する面積を確実に大きく確保することができる。また、これにより、内部構造体3が第2開口部H2を介して車外から視認されにくくすることができる。
【0036】
支持壁22fは、バンパー20の裏面20bと案内壁22aとの間に設けられ、バンパー20に対して案内壁22aを支持する壁部である。支持壁22fは、車両前面部材2における第2開口部H2の上側開口端H2cに隣接する領域から車両後方に向かって立設され、案内壁22aの上縁部22dに連接されている。ここで、「車両前面部材2における第2開口部H2の上側開口端H2cに隣接する領域」とは、上側開口端H2c上であってもよく、上側開口端H2cから所定距離(例えば、1cm又は2cm等)の範囲内の領域であってもよい。
【0037】
同様に、支持壁22gは、バンパー20の裏面20bと案内壁22aとの間に設けられ、バンパー20に対して案内壁22aを支持する壁部である。支持壁22gは、車両前面部材2における第2開口部H2の下側開口端H2dに隣接する領域から車両後方に向かって立設され、案内壁22aの下縁部22eに連接されている。ここで、「車両前面部材2における第2開口部H2の下側開口端H2dに隣接する領域」とは、下側開口端H2d上であってもよく、下側開口端H2dから所定距離(例えば、1cm又は2cm等)の範囲内の領域であってもよい。以上により、案内壁22a及び支持壁22f,22gは、第2開口部H2からATFクーラ10の方向に向かって延在するダクト状の形状をなす。このように、一対の支持壁22f,22gは、第2開口部H2を通過した走行風が案内壁22a上から上下方向に流出することを抑制するように構成されている。
【0038】
延在部22hは、案内壁22a及び一対の支持壁22f,22gの周囲(ここでは、車両幅方向D1における車両端部側)に延在する領域であり、例えば、バンパー20又はフロントグリル21に対して案内部22を固定するための領域である。ここでは、延在部22hは、第1開口部H1に対応する位置において貫通したメッシュ部22iを含んでいる。また、延在部22hは、車両幅方向D1に進行する走行風を車両前後方向D2に案内するためのリブ22jを含んでいる。すなわち、リブ22jは、案内壁22aによって車両幅方向D1と車両前後方向D2との合成成分方向に進行方向を変えられた走行風のうち、過度に車両幅方向D1に進行方向を変えられてしまった走行風について、車両前後方向D2側に進行方向を戻す機能を有している。リブ22jは、車両前面部材2における第2開口部H2の端部側開口端H2bよりも車両端部側の領域から、車両後方に向かって立設されている。リブ22jは、車両上下方向に沿って延在している。なお、リブ22jは、案内部22の強度(剛性)を向上させる機能も有している。
【0039】
続いて、本実施形態に係る車両前部構造100の作用及び効果について説明する。
図5は、車両前部構造100における走行風の進路を模式的に示す平面図である。
図5に示されるように、車両Vは、車両前後方向D2に沿って車両前方から吹く走行風を車両前面部材2により受ける。車両前面部材2には第1開口部H1及び第2開口部H2が形成されている。第1開口部H1に向かって吹く走行風W1は、第1開口部H1を通過して直進する。車両前後方向D2視において第1開口部H1と重畳する位置にはATFクーラ10が配置されているため、第1開口部H1を通過して直進した走行風W1は、ATFクーラ10に到達する。その結果、ATFクーラ10が冷却される。一方、第2開口部H2に向かって吹く走行風W2は、第2開口部H2を通過する。ATFクーラ10は、車両前面部材2視において必ずしも第2開口部H2と重畳する位置には配置されていない。しかし、第2開口部H2を通過した走行風W2は、案内部22によってATFクーラ10に向かうように進行方向を変えられる。その結果、第2開口部H2を通過した走行風W2もATFクーラ10に到達し、ATFクーラ10を冷却する。なお、第2開口部H2よりも車両幅方向D1における車両中央側の領域に向かって吹く走行風W3は、車両前部VFの前面FSに当たると、主として車両端部側に進行しやすい。このため、走行風W3は、走行風W2と同様に第2開口部H2を通過し、案内部22によってATFクーラ10に向かうように進行方向を変えられる。その結果、第2開口部H2を通過した走行風W3もATFクーラ10に到達し、ATFクーラ10を冷却する。
【0040】
このように、車両前部構造100は、車両前部VFの前面FSを構成し、第1開口部H1及び第2開口部H2が形成された車両前面部材2と、車両前部VFにおいて第1開口部H1よりも車両後方に配置されたATFクーラ10と、を備え、第1開口部H1は、車両前後方向D2視においてATFクーラ10と重畳する位置に形成されており、車両前面部材2は、第2開口部H2を通過した走行風をATFクーラ10に向かうように案内する案内部22を有する。
【0041】
この車両前部構造100によれば、第1開口部H1は車両前後方向D2視においてATFクーラ10と重畳する位置に形成されているため、第1開口部H1を通過した走行風はATFクーラ10に向かって進行して、ATFクーラ10に到達する。一方、第2開口部H2を通過した走行風は、車両前面部材2の案内部22によってATFクーラ10に向かうように案内されて、ATFクーラ10に到達する。このように、この車両前部構造100では、第1開口部H1のみならず第2開口部H2を通過した走行風をもATFクーラ10に到達させることができる。また、この車両前部構造100では、案内部22は、車両前面部材2に直接設けられており、第2開口部H2を通過した走行風をATFクーラ10に向かうように案内するものである。したがって、ATFクーラ10に特定の構造物を付加する必要がなく、レイアウトの自由度が制限されにくい。よって、この車両前部構造100は、レイアウトの自由度を確保しつつATFクーラ10に向かう走行風の流量を増大させることができる。
【0042】
車両前部構造100では、案内部22は、第2開口部H2よりも車両後方、且つ、車両前後方向D2視において第2開口部H2と重畳する位置に設けられた案内壁22aを含み、案内壁22aは、ATFクーラ10に向かって傾斜して設けられている。これにより、案内部22は、第2開口部H2を通過した走行風を案内壁22aに沿って進行させ、より効率良く走行風をATFクーラ10に到達させることができる。また、案内壁22aが車両前後方向D2視において第2開口部H2と重畳する位置に設けられているため、車両前面部材2よりも車両後方に配置された内部構造体3が案内壁22aにより隠されて車外から視認されにくくなる。このため、車両前面部材2に第2開口部H2が形成されたことに起因する外観品質の低下を抑制することができる。また、案内壁22aは車両前面部材2の一部として構成されているため(すなわち、案内壁22aが車両前面部材2と空間的に分離していないため)、第2開口部H2を通過した走行風が気流の渦を生じにくい。このため、この車両前部構造100は、第2開口部H2を通過した走行風を案内壁22aに沿って円滑に進行させ、より効率良く走行風をATFクーラ10に到達させることができる。
【0043】
車両前部構造100では、案内部22は、車両前面部材2における第2開口部H2に隣接する領域から車両後方に向かって立設されて案内壁22aを支持する一対の支持壁22f,22gを備えている。これにより、案内部22の案内壁22aは、一対の支持壁22f,22gにより支持されるため、走行風又は走行振動による揺動が抑制される。また、案内部22は、案内壁22a上から上下方向に走行風が流出することを一対の支持壁22f,22gにより抑制することができるため、より効率良く走行風をATFクーラ10に到達させることができる。また、案内壁22a及び一対の支持壁22f,22gが設けられることによって車両前面部材2の強度(剛性)を向上させることができる。
【0044】
車両前面部材2は、バンパー20及びフロントグリル21の少なくともいずれかを有している。具体的には、車両前面部材2は、バンパー20及びフロントグリル21の両方を有している。これにより、上述した車両前部構造100の作用及び効果を好適に奏することができる。
【0045】
車両前面部材2では、案内部22は、バンパー20及びフロントグリル21の少なくともいずれかと一体として構成されている。具体的には、案内部22は、バンパー20及びフロントグリル21の両方と一体として構成されている。これにより、バンパー20及びフロントグリル21の強度(剛性)を向上させるとともに、バンパー20及びフロントグリル21に外部から入力される加重を分散させることができる。
【0046】
車両前部構造100では、第2開口部H2は、車両前後方向D2視においてATFクーラ10と重畳しない位置に配置されている。これにより、ATFクーラ10に対してずれた位置に開口部を形成することが可能となるため、車両前面部材2に形成する開口部の位置、数、大きさ、及び形状の自由度を向上させることができる。その結果、ATFクーラ10に向かう走行風の流量を増大させて、ATFクーラ10の冷却性能を十分に発揮させることができる。
【0047】
車両前部構造100では、第2開口部H2は、第1開口部H1よりも車両幅方向D1における車両中央側に形成されている。一般に、車両前部VFの前面FSに当たった走行風は、車両幅方向D1における車両中央側から車両端部側に進行しやすい。一方、この車両前部構造100によれば、ATFクーラ10は車両前後方向D2視において第1開口部H1と重畳する位置に配置されていることから、第2開口部H2を通過してATFクーラ10に向かう走行風も、車両幅方向D1における車両中央側から車両端部側に向かって進行することとなる。したがって、この車両前部構造100によれば、車両前部VFの前面FSに当たった走行風が当該前面FSに沿って進行する方向と、第2開口部H2を通過してATFクーラ10に向かう走行風が進行する方向と、が同じ方向となる。このため、この車両前部構造100は、第2開口部H2を通過した走行風をATFクーラ10に向かって円滑に進行させ、より効率良く走行風をATFクーラ10に到達させることができる。
【0048】
上述した実施形態は、当業者の知識に基づいて変更及び改良を施した様々な形態で実施することができる。
【0049】
例えば、上記実施形態においては、車両前面部材2は、その構成要素としてバンパー20、フロントグリル21、及び案内部22を有している。しかし、車両前面部材2は、必ずしもバンパー20及びフロントグリル21を有していなくてもよい。車両前面部材2は、車両前部VFの前面FSを構成する部材であって、第1開口部H1及び第2開口部H2が形成されており、案内部22を有していればよく、その他の要件については特に限定されない。例えば、車両前面部材2は、バンパー20又はフロントグリル21のいずれか一方を有していなくてもよく、バンパー20及びフロントグリル21のいずれも有していなくてもよい。
【0050】
また、上記実施形態においては、第1開口部H1はバンパー20に形成され、第2開口部H2はフロントグリル21に形成されている。しかし、このような態様に限定されず、第1開口部H1及び第2開口部H2のそれぞれは、車両前面部材2のいずれかの位置に形成されていればよい。例えば、第1開口部H1及び第2開口部H2の両方がバンパー20に形成されていてもよく、或いは、第1開口部H1及び第2開口部H2の両方がフロントグリル21に形成されていてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、内部構造体3としてラジエータ30を例示した。しかし、内部構造体3はラジエータ30に限定されず、例えば、エンジン、駆動用モータ、変速機、ハーネス、配管等であってもよい。
【0052】
続いて、実施例及び比較例に基づいて車両前部構造100を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
図6は、実施例に係る車両前部構造100における走行風の風速分布のシミュレーション結果を示す平面図である。
図7は、比較例に係る車両前部構造200における走行風の風速分布のシミュレーション結果を示す平面図である。
図6及び
図7では、車両前面部材2が案内部22を備えている場合(
図6)と、車両前面部材が案内部を備えていない場合(
図7)と、における車両前部VFの各位置での走行風の風速が、等高線で示されている。
【0053】
図6の実施例に示されるように、車両前面部材2が案内部22を備えている場合、第2開口部H2を通過した走行風は、案内部22によってATFクーラ10に向かうように案内されて、ATFクーラ10に到達した。このように、実施例に係る車両前部構造100によれば、第2開口部H2を通過した走行風をもATFクーラ10に到達させることができるため、本発明の作用及び効果が奏されることが確認された。
【0054】
一方、
図7の比較例に示されるように、車両前面部材が案内部を備えていない場合、第2開口部を通過した走行風は、案内部により進行方向を変えられることがない。このため、走行風は、第2開口部H2を通過した後も直進し、ATFクーラ10に到達しなかった。このように、比較例に係る車両前部構造200では、本発明の作用及び効果が奏されないことが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1 冷却装置
2 車両前面部材
10 ATFクーラ
20 バンパー
21 フロントグリル
22 案内部
22a 案内壁
22f,22g 支持壁
100 車両前部構造
D1 車両幅方向
D2 車両前後方向
FS 前面
H1 第1開口部
H2 第2開口部
VF 車両前部