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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】トナー用結着樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G03G9/087 331
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020090691
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021189196
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】相馬 央登
(72)【発明者】
【氏名】神吉 伸通
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-60687(JP,A)
【文献】特開2011-48252(JP,A)
【文献】特開2019-194682(JP,A)
【文献】特開2016-99518(JP,A)
【文献】特開2015-118341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリエステル樹脂と非晶質ポリエステル樹脂とを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、
前記結晶性ポリエステル樹脂が、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸系化合物、並びに炭素数10以上22以下の脂肪族モノカルボン酸系化合物及び炭素数10以上22以下の脂肪族モノアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の1価の長鎖脂肪族モノマーを含む原料モノマーの重縮合物であり、該1価の長鎖脂肪族モノマーの含有量が、原料モノマー中、20モル%以上40モル%以下であり、
前記非晶質ポリエステル樹脂が、ジオール、ジカルボン酸系化合物、並びに炭素数10以上22以下の脂肪族モノカルボン酸系化合物及び炭素数10以上22以下の脂肪族モノアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の1価の長鎖脂肪族モノマーを含む原料モノマーの重縮合物であり、該1価の長鎖脂肪族モノマーの含有量が、原料モノマー中、1モル%以上5モル%以下である、
トナー用結着樹脂組成物。
【請求項2】
結晶性ポリエステル樹脂のSP値が、9.00以上9.30以下である、請求項1記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項3】
結晶性ポリエステル樹脂と非晶質ポリエステル樹脂のSP値の差が、1.50以上2.00以下である、請求項1又は2記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項4】
結晶性ポリエステル樹脂の酸価が、10mgKOH/g以下である、請求項1~3いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項5】
非晶質ポリエステル樹脂の酸価が、10mgKOH/g以下である、請求項1~4いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項6】
結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量が、2,000以上5,000以下である、請求項1~5いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物及び着色剤を含有する、静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナー用結着樹脂組成物及び該結着樹脂組成物を含有した静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
トナーの結着樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂がトナーの低温定着性向上に有効であることが知られており、非晶質ポリエステル樹脂との併用が検討されている。
【0003】
特許文献1には、線形ポリエステル(A)と非線形ポリエステル(B)とで構成されるポリエステル樹脂(I)を含有するトナー用樹脂において、炭素数9~30の脂肪族ポリカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体から選ばれる1種以上を40モル%以上含有するカルボン酸成分とアルコール成分との重縮合ポリエステル樹脂であって、SP値が9.0~10.5(cal/cm31/2である結晶性ポリエステル(A1)を、(A)中に5重量%以上含有することを特徴とするトナー用樹脂が開示されている。
【0004】
特許文献2には、結着樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂を含有するトナー粒子を有するトナーであって、該結着樹脂が、直鎖アルキル基を分子鎖末端に有する非晶性ポリエステル樹脂であり、該結晶性ポリエステル樹脂が、ジオールとジカルボン酸との縮重合体であり、該直鎖アルキル基の炭素数と該ジオールの炭素数と該ジカルボン酸のカルボキシ基に属する炭素を除いた炭素数が所定の関係を満たし、該トナーの示差走査熱量分析装置で測定されるガラス転移温度が、40.0℃以上55.0℃以下であることを特徴とするトナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-63987号公報
【文献】特開2019-194682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
結晶性ポリエステル樹脂は、低温定着性の向上に有効であるが、吸湿抑制、非晶質ポリエステル樹脂との相溶性や分散性の制御が不十分であると帯電安定性を確保することが難しい。
また、結晶性ポリエステル樹脂は、結晶構造により滑り性が高いため画像の耐擦過性の向上が期待できるが、非晶質ポリエステル樹脂との相溶性が高すぎると、結晶性ポリエステル樹脂が非晶化してしまい、期待される滑り性を発現することができなくなる。また、非晶質ポリエステル樹脂との相溶性が低すぎると、結晶性ポリエステル樹脂と非晶質ポリエステル樹脂が層分離してしまい、結晶性ポリエステル樹脂層が非晶質ポリエステル樹脂層から剥離してしまうなどにより、耐擦過性が低下する。
【0007】
本発明は、帯電安定性に優れ、画像の耐擦過性の向上に有効なトナー用結着樹脂組成物及び該結着樹脂組成物を含有した静電荷像現像用トナーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
〔1〕 結晶性ポリエステル樹脂と非晶質ポリエステル樹脂とを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、
前記結晶性ポリエステル樹脂が、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸系化合物、並びに炭素数10以上22以下の脂肪族モノカルボン酸系化合物及び炭素数10以上22以下の脂肪族モノアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の1価の長鎖脂肪族モノマーを含む原料モノマーの重縮合物であり、該1価の長鎖脂肪族モノマーの含有量が、原料モノマー中、20モル%以上40モル%以下であり、
前記非晶質ポリエステル樹脂が、ジオール、ジカルボン酸系化合物、並びに炭素数10以上22以下の脂肪族モノカルボン酸系化合物及び炭素数10以上22以下の脂肪族モノアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の1価の長鎖脂肪族モノマーを含む原料モノマーの重縮合物であり、該1価の長鎖脂肪族モノマーの含有量が、原料モノマー中、1モル%以上5モル%以下である、
トナー用結着樹脂組成物、並びに
〔2〕 前記〔1〕記載のトナー用結着樹脂組成物及び着色剤を含有する、静電荷像現像用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトナー用結着樹脂組成物は帯電安定性に優れ、画像の耐擦過性の向上において優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のトナー用結着樹脂組成物は、それぞれ末端に長鎖脂肪族部位を一定量導入した結晶性ポリエステル樹脂と非晶質ポリエステル樹脂を含む点に大きな特徴を有し、詳細は不明なるも、以下のメカニズムにより本発明の効果が奏されるものと推察される。
結晶性ポリエステル樹脂と非晶質ポリエステル樹脂の末端に長鎖脂肪族部位を一定量導入したものは、定着画像において、結晶性ポリエステル樹脂層と非晶質ポリエステル樹脂層が適度に相溶しているため、層間剥離が起こらず、耐擦過性に優れる。
また、結晶性ポリエステル樹脂に長鎖脂肪族部位を一定量導入することにより結晶性が向上し、吸湿性が低下するため、結晶性ポリエステル樹脂単独の帯電安定性が良好なことに加え、同じく長鎖脂肪族部位を一定量導入した非晶質ポリエステル樹脂に微分散した状態で存在するため、結晶性ポリエステル樹脂部位からの電荷のリークが抑制され、帯電安定性が向上する。
さらに、長鎖脂肪族部位を一定量導入して疎水性が向上した結晶性ポリエステル樹脂の微分散により疎水的な顔料との親和性が高まり、トナー中での顔料分散性が向上するため、画像濃度が向上する。
【0011】
結晶性ポリエステル樹脂は、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸系化合物、及び1価の長鎖脂肪族モノマーを含む原料モノマーの重縮合物であり、該1価の長鎖脂肪族モノマーの含有量が、原料モノマー中、20モル%以上40モル%以下である。
【0012】
1価の長鎖脂肪族モノマーは、炭素数10以上22以下の脂肪族モノカルボン酸系化合物及び炭素数10以上22以下の脂肪族モノアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種であり、帯電安定性の観点から、炭素数10以上22以下の脂肪族モノカルボン酸系化合物が好ましい。
【0013】
炭素数10以上22以下の脂肪族モノカルボン酸系化合物としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の脂肪族モノカルボン酸、これらの酸のアルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキルエステル等が挙げられる。
【0014】
脂肪族モノカルボン酸系化合物の炭素数は、帯電安定性及び画像濃度の観点から、10以上であり、好ましくは12以上、より好ましくは14以上であり、そして、耐擦過性の観点から、22以下であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。ここで、脂肪族モノカルボン酸系化合物がアルキルエステルである場合のアルキル基の炭素数は、上記炭素数には含めない。
【0015】
炭素数10以上22以下の脂肪族モノアルコールとしては、カプリンアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられる。
【0016】
脂肪族モノアルコールの炭素数は、帯電安定性及び画像濃度の観点から、10以上であり、好ましくは12以上、より好ましくは14以上であり、そして、耐擦過性の観点から、22以下であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
【0017】
1価の長鎖脂肪族モノマーの含有量は、原料モノマー中、耐擦過性及び帯電安定性の観点から、20モル%以上であり、好ましくは25モル%以上、より好ましくは28モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上であり、そして、耐擦過性の観点から、40モル%以下であり、好ましくは38モル%以下、より好ましくは35モル%以下である。
【0018】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール等が挙げられる。
【0019】
脂肪族ジオールの炭素数は、画像濃度及び帯電安定性の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上であり、そして、耐擦過性の観点から、好ましくは14以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下である。
【0020】
脂肪族ジオールは、飽和脂肪族であっても不飽和脂肪族であってもよいが、本発明では、低温定着性の観点から、飽和脂肪族ジオールであることが好ましい。
【0021】
脂肪族ジオールの含有量は、ジオール中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0022】
他のジオールとしては、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール等が挙げられる。
【0023】
ジオールの含有量は、原料モノマー中、好ましくは20モル%以上、より好ましくは25モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上であり、そして、好ましくは60モル%以下、より好ましくは55モル%以下、さらに好ましくは50モル%以下である。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸系化合物としては、コハク酸(炭素数:4)、フマル酸(炭素数:4)、アジピン酸(炭素数:6)、スベリン酸(炭素数:8)、アゼライン酸(炭素数:9)、セバシン酸(炭素数:10)、ドデカン二酸(炭素数:12)、テトラデカン二酸(炭素数:14)、ヘキサデカン二酸(炭素数:16)、側鎖にアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、セバシン酸、ドデカン二酸、又はテトラデカン二酸が好ましく、ドデカン二酸又はテトラデカン二酸がより好ましい。
【0025】
脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数は、画像濃度及び帯電安定性の観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上であり、そして、耐擦過性の観点から、好ましくは16以下、より好ましくは14以下である。ここで、脂肪族モノカルボン酸系化合物がアルキルエステルである場合のアルキル基の炭素数は、上記炭素数には含めない。
【0026】
脂肪族ジカルボン酸系化合物の含有量は、ジカルボン酸系化合物中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0027】
他のジカルボン酸系化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸系化合物、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキルエステル等が挙げられる。
【0028】
ジカルボン酸系化合物の含有量は、原料モノマー中、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下である。
【0029】
原料モノマーには、3価以上のモノマー(3価以上のアルコール及び/又は3価以上のカルボン酸系化合物)が含まれていてもよい。
【0030】
3価以上のアルコールとしては、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0031】
3価以上のカルボン酸系化合物としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、これらの酸の無水物及び炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。
【0032】
3価以上のモノマーの含有量は、帯電安定性の観点から、原料モノマー中、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。
【0033】
結晶性ポリエステル樹脂は、例えば、アルコールとカルボン酸系化合物を含む原料モノマーを不活性ガス雰囲気中、好ましくはエステル化触媒の存在下、さらに必要に応じて、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは130℃以上、より好ましくは170℃以上、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下の温度で重縮合させて製造することができる。
【0034】
エステル化触媒としては、錫化合物、チタン化合物が挙げられ、本発明においては、画像耐熱性及び帯電安定性の観点から、錫化合物が好ましい。
【0035】
錫化合物としては、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。
【0036】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn-C結合を有しておらず、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
【0037】
Sn-O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ラウリル酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)等の炭素数2~28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);オクチロキシ錫(II)、ラウロキシ錫(II)、ステアロキシ錫(II)、オレイロキシ錫(II)等の炭素数2以上28以下のアルコキシ基を有するアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられ、これらの中では、触媒能の点から、(R1COO)2Sn(ここでR1は炭素数5以上19以下のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R2O)2Sn(ここでR2は炭素数6~20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるアルコキシ錫(II)又はSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R1COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)又は酸化錫(II)がより好ましく、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)又は酸化錫(II)がさらに好ましい。
【0038】
エステル化触媒、好ましくは錫化合物の使用量は、原料モノマー100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。
【0039】
エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、原料モノマー100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。重合禁止剤としては、tert-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、原料モノマー100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0040】
なお、本発明において、ポリエステル樹脂は、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステル樹脂であってもよい。変性されたポリエステル樹脂としては、例えば、特開平11-133668号公報、特開平10-239903号公報、特開平8-20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステル樹脂が挙げられるが、変性されたポリエステル樹脂のなかでは、ポリエステル樹脂をポリイソシアネート化合物でウレタン伸長したウレタン変性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0041】
結晶性ポリエステル樹脂の軟化点は、保存性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは65℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0042】
なお、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最大ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最大ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、1.4以下、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下の樹脂である一方、非晶質樹脂は、結晶性指数が1.4を超える、好ましくは1.5を超える、より好ましくは1.6以上の樹脂であるか、または、0.6未満、好ましくは0.5以下の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最大ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を指す。結晶性樹脂においては、吸熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0043】
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、保存性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは65℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0044】
結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、結晶化を制御する観点から、低く制御しておくことが好ましく、好ましくは10mgKOH/g以下、より好ましくは8mgKOH/g以下、さらに好ましくは6mgKOH/g以下であり、そして、好ましくは1mgKOH/g以上である。
【0045】
結晶性ポリエステル樹脂の水酸基価は、結晶化を制御する観点から、低く制御しておくことが好ましく、好ましくは10mgKOH/g以下、より好ましくは8mgKOH/g以下、さらに好ましくは6mgKOH/g以下であり、そして、好ましくは1mgKOH/g以上である。
【0046】
結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、帯電安定性の観点から、好ましくは2,000以上、より好ましくは2,500以上、さらに好ましくは3,000以上であり、そして、結晶化を制御する観点から、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,500以下、さらに好ましくは4,000以下である。
【0047】
結晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量は、帯電安定性の観点から、好ましくは1,500以上、より好ましくは1,700以上、さらに好ましくは1,800以上であり、そして、結晶化を制御する観点から、好ましくは3,500以下、より好ましくは3,000以下、さらに好ましくは2,500以下である。
【0048】
ポリエステル樹脂の分子量は、1価の長鎖脂肪族モノマーの使用量や、3価以上の原料モノマー(3価以上のカルボン酸系化合物及び3価以上のアルコール)の使用量によって調整することができる。
【0049】
結晶性ポリエステル樹脂のピークトップ分子量は、帯電安定性の観点から、好ましくは1,500以上、より好ましくは1,800以上、さらに好ましくは2,000以上であり、そして、結晶化を制御する観点から、好ましくは4,000以下、より好ましくは3,500以下、さらに好ましくは3,000以下である。
【0050】
結晶性ポリエステル樹脂のSP値は、非晶質ポリエステル樹脂との相溶性を適度に制御する観点から、好ましくは9.00以上、より好ましくは9.03以上、さらに好ましくは9.05以上であり、そして、好ましくは9.30以下、より好ましくは9.25以下、さらに好ましくは9.20以下である。SP値は、原料モノマーの種類とその比率等により調整することができる。
【0051】
また、両者の相溶性を適度に制御する観点から、結晶性ポリエステル樹脂と非晶質ポリエステル樹脂のSP値の差は、好ましくは1.50以上、より好ましくは1.60以上、さらに好ましくは1.63以上であり、そして、好ましくは2.00以下、より好ましくは1.90以下、さらに好ましくは1.85以下である
【0052】
本発明において、SP値とは、Fedorsの方法による溶解度パラメータを意味し、〔Robert F. Fedors, Polymer Engineering and Science, 14, 147-154 (1974)〕に記載された下記の式に基づいて求められた値δである。
Fedorsの式:δ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
〔単位:(cal/cm31/2
〔ここで、Δei:原子及び原子団の蒸発エネルギー(cal/mol)、Δvi:モル体積(cm3/mol)である。〕
【0053】
結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、結着樹脂組成物中、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。
【0054】
非晶質ポリエステル樹脂は、ジオール、ジカルボン酸系化合物、及び1価の長鎖脂肪族モノマーを含む原料モノマーの重縮合物であり、該1価の長鎖脂肪族モノマーの含有量が、原料モノマー中、1モル%以上5モル%以下である。
【0055】
1価の長鎖脂肪族モノマーについては、結晶性ポリエステル樹脂について説明したものと同様である。
【0056】
1価の長鎖脂肪族モノマーの含有量は、原料モノマー中、耐擦過性及び画像濃度の観点から、1モル%以上であり、好ましくは1.5モル%以上であり、そして、耐擦過性の観点から、5モル%以下であり、好ましくは4モル%以下である。
【0057】
ジオールとしては、例えば、炭素数2以上20以下、好ましくは炭素数2以上15以下、より好ましくは2以上10以下の脂肪族ジオールや、式(I):
【0058】
【化1】
【0059】
(式中、OR及びROはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン基及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の値は、1以上、好ましくは1.5以上であり、そして、16以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA等が挙げられる。炭素数2以上20以下の脂肪族ジオールとして、具体的には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられ、これらの中では、結晶性ポリエステル樹脂との相溶性を制御する観点から、式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。
【0060】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、ジオール中、アルコール成分中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0061】
ジカルボン酸系化合物としては、好ましくは炭素数3以上30以下、より好ましくは炭素数3以上20以下、さらに好ましくは炭素数3以上10以下のジカルボン酸、それらの無水物、又は炭素数1以上3以下のアルキル基を有するアルキルエステル等の誘導体等が挙げられる。具体的には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸や、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられ、これらの中では、耐擦過性の観点から、芳香族ジカルボン酸系化合物が好ましい。
【0062】
芳香族ジカルボン酸系化合物の含有量は、ジカルボン酸系化合物中、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0063】
原料モノマーには、3価以上のモノマーが含まれていてもよい。
【0064】
3価以上のモノマーについては、結晶性ポリエステル樹脂について説明したものと同様である。
【0065】
3価以上のモノマーの含有量は、耐擦過性の観点から、原料モノマー中、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは1モル%以上であり、そして、結晶性ポリエステル樹脂との相溶性を制御する観点から、好ましくは10モル%以下、より好ましくは7モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。
【0066】
非晶質ポリエステル樹脂は、例えば、アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中、好ましくはエステル化触媒の存在下、さらに必要に応じて、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは130℃以上、より好ましくは170℃以上、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下の温度で重縮合させて製造することができる。
【0067】
エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられ、錫化合物が好ましい。エステル化触媒の使用量は、原料モノマー100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、原料モノマー100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。重合禁止剤としては、tert-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、原料モノマー100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0068】
非晶質ポリエステル樹脂の軟化点は、耐擦過性の観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上、さらに好ましくは100℃以上であり、そして、画像濃度及び結晶化を制御する観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、さらに好ましくは105℃以下である。
【0069】
非晶質ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、帯電安定性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、そして、結晶化を制御する観点から、好ましくは70℃以下、より好ましくは65℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0070】
非晶質ポリエステル樹脂の酸価は、結晶化を制御する観点から、好ましくは10mgKOH/g以下、より好ましくは8mgKOH/g以下、さらに好ましくは5mgKOH/g以下であり、そして、好ましくは1mgKOH/g以上である。
【0071】
非晶質ポリエステル樹脂の水酸基価は、結晶性ポリエステル樹脂との相溶性を制御する観点から、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは45mgKOH/g以下、さらに好ましくは40mgKOH/g以下であり、そして、好ましくは20mgKOH/g以上である。
【0072】
非晶質ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、耐擦過性及び帯電安定性の観点から、好ましくは4,000以上、より好ましくは4,500以上、さらに好ましくは5,000以上であり、そして、画像濃度の観点から、好ましくは8,000以下、より好ましくは7,500以下、さらに好ましくは7,000以下である。
【0073】
非晶質ポリエステル樹脂の数平均分子量は、耐擦過性及び帯電安定性の観点から、好ましくは1,500以上、より好ましくは1,800以上、さらに好ましくは2,000以上であり、そして画像濃度の観点から、好ましくは4,000以下、より好ましくは3,500以下、さらに好ましくは3,000以下である。
【0074】
非晶質ポリエステル樹脂のピークトップ分子量は、耐擦過性及び帯電安定性の観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは4,000以上、さらに好ましくは5,000以上であり、そして、画像濃度の観点から、好ましくは7,000以下、より好ましくは6,500以下、さらに好ましくは6,000以下である。
【0075】
非晶質ポリエステル樹脂の含有量は、結着樹脂組成物中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは88質量%以上であり、そして、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは92質量%以下である。
【0076】
結晶性ポリエステル樹脂と非晶質ポリエステル樹脂の質量比(結晶性ポリエステル樹脂/非晶質ポリエステル樹脂)は、耐擦過性及び画像濃度の観点から、好ましくは2/98以上、より好ましくは5/95以上、さらに好ましくは8/92以上であり、そして、帯電安定性の観点から、好ましくは20/80以下、より好ましくは15/85以下、さらに好ましくは12/88以下である。
【0077】
結着樹脂組成物には、結晶性ポリエステル樹脂と非晶質ポリエステル樹脂以外の樹脂が本発明の効果を損なわない範囲で含有されていてもよく、他の樹脂としては、前記結晶性ポリエステル樹脂及び前記非晶質ポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂、スチレンアクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、これらの樹脂を2種以上含む複合樹脂等が挙げられる。
【0078】
結晶性ポリエステル樹脂と非晶質ポリエステル樹脂の合計含有量は、結着樹脂組成物中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0079】
さらに、本発明においては、結着樹脂として本発明のトナー用結着樹脂組成物を含むトナー、具体的には、本発明のトナー用結着樹脂組成物及び着色剤を含有する静電荷像現像用トナーを提供する。
【0080】
結着樹脂組成物の含有量は、トナー中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%未満、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。
【0081】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料、磁性体等を使用することができる。本発明において、トナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0082】
本発明において、着色剤は、着色剤の分散性向上による画像濃度向上の効果がより顕著であることから、疎水性の顔料が好ましい。疎水性の顔料としては、フタロシアニン顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ナフトール系顔料、レーキ顔料等が挙げられ、これらの中では、フタロシアニン顔料、キナクリドン系顔料又はナフトール系顔料が好ましく、フタロシアニン顔料がより好ましく、C.I.ピグメントブルー15:3等の銅フタロシアニン顔料がさらに好ましい。
【0083】
着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0084】
本発明の静電荷像現像用トナーには、結着樹脂組成物及び着色剤以外に、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含有されていてもよく、離型剤及び荷電制御剤が含有されることが好ましい。
【0085】
離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等の炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物;カルナウバワックス、モンタンワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス;脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を用いることができる。
【0086】
離型剤の融点は、トナーの転写性の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。
【0087】
離型剤の含有量は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点及び結着樹脂組成物中への分散性の観点から、結着樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは1質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。
【0088】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0089】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリヱント化学工業(株)製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料;4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリヱント化学工業(株)製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリヱント化学工業(株)製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成工業(株)製)等;スチレン-アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」、「FCA-201-PS」(藤倉化成(株)製)等が挙げられる。
【0090】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリヱント化学工業(株)製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業(株)製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット(株)製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリヱント化学工業(株)製)、「TN-105」(保土谷化学工業(株)製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物等が挙げられる。
【0091】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0092】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂(結着樹脂組成物)及び着色剤、必要に応じて、離型剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0093】
なお、トナーの製造においては、結晶性ポリエステル樹脂と非晶質ポリエステル樹脂とを予め混合した結着樹脂組成物を用いてもよいが、トナーを製造する際に、それらの樹脂を直接原料の混合に供してもよい。
【0094】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
【0095】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0096】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは90nm以下である。
【0097】
外添剤の含有量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0098】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0099】
本発明のトナーは、そのまま一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して用いられる二成分現像用トナーとして、それぞれ一成分現像方式又は二成分現像方式の画像形成装置に用いることができる。
【実施例
【0100】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定することができる。
【0101】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」((株)島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0102】
〔樹脂の吸熱の最大ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(20℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却した試料をそのままの温度で1分間維持する。その後、昇温速度10℃/minで180℃まで昇温しながら吸熱ピークを測定する。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を吸熱の最大ピーク温度とする。
【0103】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(20℃)から昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に、試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し、吸熱ピークを測定する。吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0104】
〔結晶性ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価〕
JIS K0070:1992の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070:1992に規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、テトラヒドロフランに変更する。
【0105】
〔非晶質ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価〕
JIS K0070:1992の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070:1992に規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0106】
〔樹脂の重量平均分子量、数平均分子量、及びピークトップ分子量〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により重量平均分子量、数平均分子量及びピークトップ分子量を求める。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフラン(非晶質樹脂)又はクロロホルム(結晶性樹脂)に、40℃で溶解させる。次いで、この溶液を孔径0.20μmのPTFEタイプメンブレンフィルター「DISMIC-25JP」(東洋濾紙(株)製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフラン(非晶質樹脂)又はクロロホルム(結晶性樹脂)を、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー(株)製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として作成したものを用いる。括弧内は分子量を示す。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー(株)製)
分析カラム:TSKgel GMHXL+TSKgel G3000HXL(東ソー(株)製)
【0107】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。そこで得られた融解吸熱カーブから観察される吸熱の最大ピーク温度をワックスの融点とする。
【0108】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0109】
〔トナーの体積中位粒径〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマン・コールター(株)製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマン・コールター(株)製)
電解液:アイソトンII(ベックマン・コールター(株)製)
分散液:電解液にエマルゲン109P(花王(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB(グリフィン):13.6)を溶解して5質量%に調整したもの
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機(機械名:(株)エスエヌディー製US-1、出力:80W)にて1分間分散させ、その後、前記電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記電解液100mLに、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように、前記試料分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0110】
樹脂製造例1
表1に示す原料モノマーを温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、200℃まで8時間かけて昇温を行った。その後、エステル化触媒及びエステル化助触媒を添加し、8.0kPaにて表1に示す軟化点に達するまで反応を行い、表1に示す結晶性ポリエステル樹脂(樹脂C1~C8)を得た。
【0111】
【表1】
【0112】
樹脂製造例2
表2に示す、トリメリット酸無水物以外の原料モノマー、エステル化触媒及びエステル化助触媒を、窒素導入管、撹拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、235℃まで昇温し、その後235℃で6時間重縮合させた。その後、210℃まで降温しトリメリット酸無水物を添加し、210℃で1時間反応させた。その後、210℃で10kPaの減圧下にて表2に記載の軟化点まで反応を行って、表2に示す非晶質ポリエステル樹脂(樹脂A1~A4)を得た。
【0113】
【表2】
【0114】
実施例1~7及び比較例1~4
表3に示す結着樹脂組成物100質量部(結晶性ポリエステル樹脂/非晶質ポリエステル樹脂(質量比)=10/90)、着色剤「ECB-301」(大日精化工業(株)製、C.I.ピグメントブルー15:3)5質量部、荷電制御剤「LR-147」(日本カーリット(株)製)1質量部、及び離型剤「HNP-9」(日本精蝋(株)製、パラフィンワックス、融点:75℃)2質量部を、ヘンシェルミキサーでよく撹拌した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。スクリューの回転速度は200r/min、スクリュー内の加熱設定温度は90℃であり、混練物の温度は140℃、混練物の供給速度は10kg/h、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を140℃から50℃まで1.5時間で冷却し、50℃で、冷却ローラーで圧延冷却した後、45℃で4時間静置後、ジェットミルで粉砕、分級し、体積中位粒径(D50)5.5μmのトナー粒子を得た。
【0115】
得られたトナー粒子100質量部に対し、外添剤として、「アエロジルR-972」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製、平均粒子径:16nm)1.5質量部及び「RY-50」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製、平均粒子径:40nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添剤処理を行い、トナーを得た。
【0116】
試験例1〔耐擦過性〕
コート紙「OKトップコート+」(王子製紙(株)製)に市販のプリンタ「Microline(登録商標)5400」((株)沖データ製)を用いて、600dpiの解像度において、2ドット分の印字部(点)と、同じく2ドット分の非印字部(空白)を並べたハーフトーン画像(2dots 2spacesのハーフトーン画像)を印字した。得られた印字物をセルロース製不織布「ベンコットM3-II」(旭化成(株)製)に2kg荷重(接触面積900mm)をかけて100往復の擦過性試験を行った。擦過前後の印字物の反射画像濃度を、測色計「SpectroEye」(GretagMacbeth社製、光射条件;標準光源D50、観察視野2°、濃度基準DINNB、絶対白基準)を用いて測定した。それぞれ画像上の任意の3点を測定した値の平均値を画像濃度とし、擦過前後の画像濃度の変化量〔(擦過前の画像濃度-擦過後の画像濃度)〕を算出した。結果を表3に示す。擦過前後の画像濃度の変化量が小さいほど擦過性に優れる。
【0117】
試験例2〔画像濃度〕
上質紙「J紙A4サイズ」(富士ゼロックス(株)製)に市販のプリンタ「Microline(登録商標)5400」((株)沖データ製)を用いて、トナーの紙上の付着量が0.35±0.01mg/cm2となるベタ画像を出力し、印刷物を得た。印刷物の下に上質紙「エクセレントホワイト紙A4サイズ」((株)沖データ製)を30枚敷き、出力した印刷物のベタ画像部分の反射画像濃度を、測色計「SpectroEye」(GretagMacbeth社製、光射条件;標準光源D50、観察視野2°、濃度基準DINNB、絶対白基準)を用いて測定し、画像上の任意の3点を測定した値の平均値を画像濃度とした。結果を表3に示す。数値が大きいほど、画像濃度に優れる。
【0118】
試験例3〔帯電安定性〕
温度32℃、相対湿度85%の高温高湿条件下にてトナー0.6質量部とシリコーンコートフェライトキャリア(関東電化工業(株)社製)19.4質量部を混合した。所定の混合時間後、Q/Mメーター付属のセルに規定量のトナーとキャリアの混合物を投入し、目開き32μmのふるい(ステンレス製、綾織、線径:0.0035mm)を通してトナーのみを90秒間吸引した。そのとき発生するキャリア上の電圧変化をモニターし、〔90秒後の総電気量(μC)/吸引されたトナー量(g)〕の値を帯電量(μC/g)とした。混合時間60秒後の帯電量と混合時間600秒後の帯電量の比率(混合時間600秒後の帯電量/混合時間60秒後の帯電量)を算出した。結果を表3に示す。帯電量の比率が1に近いほど、帯電安定性に優れ、その比率は0.85以上が好ましく、0.9以上がより好ましい。
【0119】
【表3】
【0120】
以上の結果より、実施例1~7では、耐擦過性及び帯電安定性に優れ、画像濃度も良好であることが分かる。
これに対し、結晶性ポリエステル樹脂における1価の長鎖脂肪族モノマーの量が少なすぎる比較例1では、耐擦過性及び帯電安定性の低下が顕著であり、1価の長鎖脂肪族モノマー量が多すぎる比較例2では、耐擦過性の低下が顕著である。一方、非晶質ポリエステル樹脂における1価の長鎖脂肪族モノマー量が多すぎる比較例3では、耐擦過性の低下が顕著であり、1価の長鎖脂肪族モノマーを用いていない比較例4では、耐擦過性及び画像濃度の低下が顕著である。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のトナー用結着樹脂組成物を含有した静電荷像現像用トナーは、静電荷像現像法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に好適に用いられるものである。