(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】試験装置、試験方法及びファントム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
A61B8/00
(21)【出願番号】P 2020096557
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 英司
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第6117078(US,A)
【文献】米国特許第4331021(US,A)
【文献】特開2006-166956(JP,A)
【文献】特開2020-78042(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/139933(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0240126(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注目組織の時間変化を走査方向の形態変化として模擬した注目組織模擬体を含むファントムと、
前記ファントムに対して超音波プローブを前記走査方向に相対的に運動させる走査機構と、
を含むことを特徴とする試験装置。
【請求項2】
請求項1記載の試験装置において、
前記走査機構は、前記ファントムに対して前記超音波プローブを相対的に繰り返し往復運動させる、
ことを特徴とする試験装置。
【請求項3】
請求項2記載の試験装置において、
前記走査機構は、指定された周期に従って、前記ファントムに対して前記超音波プローブを相対的に繰り返し往復運動させる、
ことを特徴とする試験装置。
【請求項4】
請求項1記載の試験装置において、
前記注目組織模擬体の形態が前記走査方向に連続的に変化しており、
前記走査機構は、前記ファントムに対して前記超音波プローブを相対的に連続的に運動させる、
ことを特徴とする試験装置。
【請求項5】
請求項4記載の試験装置において、
前記ファントムは、前記注目組織の周囲に存在する周囲組織を模擬した周囲組織模擬体を含み、
前記周囲組織模擬体の形態が前記走査方向に一定である、
ことを特徴とする試験装置。
【請求項6】
請求項4記載の試験装置において、
前記注目組織模擬体は、前記走査方向に直交する面内の存在位置が前記走査方向に連続的に変化するように設けられた線状要素を有する、
ことを特徴とする試験装置。
【請求項7】
請求項1記載の試験装置において、
前記走査機構は、前記超音波プローブにより形成されるビーム走査面が前記走査方向に直交するように前記超音波プローブを着脱可能に保持する保持機構を含む、
ことを特徴とする試験装置。
【請求項8】
請求項1記載の試験装置において、
前記注目組織模擬体は、前記走査方向に離散的に設けられた複数の時相に対応する複数の三次元模擬要素を有し、
前記走査機構は、前記複数の三次元模擬要素の並びに従って、前記ファントムに対して前記超音波プローブを相対的にステップ運動させる、
ことを特徴とする試験装置。
【請求項9】
請求項8記載の試験装置において、
前記走査機構は、超音波診断装置から出力された同期信号に従って前記超音波プローブを相対的にステップ運動させる、
ことを特徴とする試験装置。
【請求項10】
注目組織の時間変化を形態変化として模擬した注目組織模擬体を有するファントムに対し、超音波の送受波を行う超音波プローブを相対的に運動させる工程と、
前記超音波プローブの相対的な運動により得られるデータ列に基づいて計測を実行する工程と、
前記計測の結果を評価する工程と、
を含むことを特徴とする試験方法。
【請求項11】
注目組織の時間変化を走査方向の形態変化により模擬した注目組織模擬体と、
前記注目組織の周囲に存在する周囲組織を模擬した周囲組織模擬体と、
を含むことを特徴とするファントム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験装置、試験方法及びファントムに関し、特に、超音波診断装置の試験で用いられるファントムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置には、多様な計測機能が備わっている。超音波診断装置の出荷前検査時やメンテナンス時において、各計測機能又は主要な計測機能が正常に働いていることを検査又は確認するために、超音波診断装置の試験が実施される。
【0003】
超音波診断装置の試験に際しては、必要に応じて、ファントムが利用される。ファントムは、生体内部を人工的に模擬した構造物である。ファントムには、一般に、注目組織を模擬した模擬体が含まれる。超音波診断装置が有する計測機能の中には、心臓を計測対象とする計測機能が含まれる。その計測機能の試験に際しては、心臓を模擬した模擬体を含むファントムを使用するのが理想的である。しかし、形態が動的に変化する模擬体を製作するのは容易ではない。特に、胎児の心臓は高速で運動することから、胎児の心臓を模擬した模擬体を製作するのは容易ではない。
【0004】
胎児の心臓を模擬した模擬体の製作に当たり、例えば、小さなバルーンに対してポンプを接続し、ポンプの制御によりバルーン内の液量を周期的に増減させることが考えられる。しかし、その場合には、複雑な機構が必要となり、また、バルーン内において気泡が発生し易くなる。
【0005】
ファントムを利用できない場合、超音波診断装置内の計測機能に対して、過去に取得されたデータを与え、それにより計測機能の動作を試験することが考えられる。しかし、その場合には、実際の超音波検査時の状況と同じ状況下で、超音波診断装置それ全体の動作を試験することができない。
【0006】
なお、特許文献1には、超音波診断装置用ファントムが開示されている。ファントムの内部には、動脈を模擬した管状部材が含まれる。ファントムと超音波プローブの相対的な位置関係は固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、運動する組織を模擬する新たな方法を実現することにある。あるいは、本開示の目的は、運動する組織を模擬した静的な模擬体を有するファントムを実現することにある。あるいは、本開示の目的は、そのようなファントムを利用して超音波診断装置を試験することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る試験装置は、注目組織の時間変化を走査方向の形態変化として模擬した注目組織模擬体を含むファントムと、前記ファントムに対して超音波プローブを前記走査方向に相対的に運動させる走査機構と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本開示に係る試験方法は、注目組織の時間変化を形態変化として模擬した注目組織模擬体を有するファントムに対し、超音波の送受波を行う超音波プローブを相対的に運動させる工程と、前記超音波プローブの相対的な運動により得られるデータ列に基づいて計測を実行する工程と、前記計測の結果を評価する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本開示に係るファントムは、注目組織の時間変化を走査方向の形態変化により模擬した注目組織模擬体と、前記注目組織の周囲にある周囲組織を模擬した周囲組織模擬体と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、運動する組織を模擬する新たな方法を実現できる。あるいは、本開示によれば、運動する組織を模擬した静的な模擬体を有するファントムを実現できる。あるいは、本開示によれば、そのようなファントムを利用して超音波診断装置を試験することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る試験装置を示す概念図である。
【
図3】胎児の心臓の計測で得られるグラフの一例を示す図である。
【
図4】第1実施例に係るファントムを示す図である。
【
図5】第2実施例に係るファントムを示す図である。
【
図7】第3実施例に係るファントムを示す図である。
【
図8】第4実施例に係るファントムを示す図である。
【
図9】第5実施例に係るファントムを示す図である。
【
図10】第6実施例に係るファントムを示す図である。
【
図12】実施形態に係る試験方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る試験装置は、ファントム、及び、走査機構を含む。ファントムは、注目組織の時間変化を走査方向の形態変化として模擬した注目組織模擬体を含む。走査機構は、ファントムに対して超音波プローブを走査方向に相対的に運動させる機構である。
【0016】
ファントムにおける走査方向(つまり特定の空間軸)が時間軸に相当しており、注目組織模擬体の形態が、走査方向に連続的又は段階的に変化している。ファントムに対して、超音波プローブを走査方向に相対的に運動させることにより、静止状態にある超音波プローブにより注目組織の時間変化を観察した場合に得られるデータ列と同様のデータ列を得られる。注目組織模擬体は静的な模擬体であるので、それを製作することは比較的に容易である。注目組織模擬体のサイズを時間的に変化させる場合には気泡が発生し易くなるが、上記構成によれば、そのような問題が生じることを回避できる。
【0017】
注目組織は運動組織であり、例えば、心臓等の周期的に運動する組織である。実施形態においては、胎児の心臓が注目組織とされる。相対的な運動の概念には、連続的な運動及びステップ運動が含まれる。ステップ運動は移動及びと停止を繰り返す運動である。形態変化の概念には、外部形態の変化の他に、内部形態の変化つまり構造の変化が含まれ得る。超音波プローブにより、二次元データ取込空間が繰り返し形成され、あるいは、三次元データ取込空間が繰り返し形成される。ファントムを固定し、超音波プローブを運動させてもよいし、超音波プローブを固定し、ファントムを運動させてもよい。
【0018】
実施形態において、走査機構は、ファントムに対して超音波プローブを相対的に繰り返し往復運動させる。その往復運動に伴って、周期的に運動する注目組織についてのデータ列を取得し得る。実施形態において、走査機構は、指定された周期に従って、ファントムに対して超音波プローブを相対的に繰り返し往復運動させる。周期はマニュアルで設定され、あるいは、自動的に設定される。
【0019】
実施形態において、注目組織模擬体の形態が走査方向に連続的に変化しており、走査機構は、ファントムに対して超音波プローブを相対的に連続的に運動させる。
【0020】
実施形態において、ファントムは、注目組織の周囲に存在する周囲組織を模擬した周囲組織模擬体を含む。周囲組織模擬体の形態は走査方向に一定である。例えば、注目組織は胎児における心臓であり、走査方向に一定の形態を有する周囲組織は母体内の羊水である。
【0021】
実施形態において、注目組織模擬体は、走査方向に直交する面内の存在位置が走査方向に連続的に変化するように設けられた線状要素を有する。この構成によれば、線状要素を利用して精度良く試験を行える。実施形態において、線状要素は強反射体として機能し、それがトラッキング対象として用いられる。
【0022】
実施形態において、走査機構は、超音波プローブにより形成されるビーム走査面が走査方向に直交するように超音波プローブを着脱可能に保持する保持機構を含む。
【0023】
実施形態において、注目組織模擬体は、走査方向に離散的に設けられた複数の時相に対応する複数の模擬要素を有する。走査機構は、ファントムに対して超音波プローブを相対的にステップ運動させる。複数の模擬要素が連なっていてもよいし、複数の模擬要素が離散的に配置されていてもよい。各模擬要素が三次元模擬要素であってもよい。
【0024】
実施形態において、走査機構は、超音波診断装置から出力された同期信号に従って超音波プローブを相対的にステップ運動させる。例えば、フレームレートに従うブランク期間、ボリュームレートに従うブランク期間を利用して超音波プローブのステップ移動が行われる。
【0025】
実施形態に係る試験方法は、第1工程、第2工程及び第3工程を含む。第1工程は、注目組織の時間変化を形態変化として模擬した注目組織模擬体を有するファントムに対し、超音波の送受波を行う超音波プローブを相対的に運動させる工程である。第2工程は、超音波プローブの相対的な運動により得られるデータ列に基づいて計測を実行する工程である。第3工程は、計測の結果を評価する工程である。上記3つの工程の一部又は全部がユーザーにより実施されてもよい。それらの工程が自動化されてもよい。
【0026】
実施形態に係るファントムは、注目組織模擬体、及び、周辺組織模擬体を含む。注目組織模擬体は、注目組織の時間変化を走査方向の形態変化により模擬したものである。周辺組織模擬体は、注目組織の周囲に存在する周囲組織を模擬したものである。
【0027】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る試験装置が示されている。図示された試験装置10は、超音波診断装置16が有する計測機能を試験する際に用いられる。他の用途に試験装置10が用いられてもよい。
【0028】
超音波診断装置16は、超音波診断装置本体(以下、単に本体という。)18、及び、それに接続された超音波プローブ(以下、単にプローブという。)20により構成される。本体18は、送信回路、受信回路、画像形成部、表示処理部、表示器、入力器、制御部等を備えている。制御部は、本体18内の各構成の動作を制御し、また各種の計測を実行するものである。制御部は、プログラムを実行するプロセッサ(例えばCPU)を含む。
図1においては、制御部の計測機能が計測部19として示されている。計測部19は、実施形態において、母体内の胎児の心臓を計測する機能を備える。例えば、計測部により、位置の時間変化、距離の時間変化、面積の時間変化、体積の時間変化等が観測され、その観測結果から計測値が演算される。計測値としては、収縮率、排出量等が挙げられる。
【0029】
プローブ20は、図示の例において、一次元配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイを有する。振動素子アレイにより超音波ビームが形成され、その超音波ビームを繰り返し電子走査することによりビーム走査面21が繰り返し形成される。電子走査方式として電子リニア走査方式、電子セクタ走査方式等が知られている。電子リニア走査方式の一態様として、電子コンベックス走査方式が挙げられる。
【0030】
ビーム走査面21は二次元データ取込領域である。各図において、第1水平方向がx方向であり、第2水平方向がy方向であり、垂直方向(鉛直方向)がz方向である。ビーム走査面21は、yz面に平行な面である。後述するファントム22において、第1水平方向であるx方向は、走査方向であり、それは形態の時間変化が表現される時間軸に相当している。
【0031】
送受信に関して更に説明する。送信時において、送信回路から振動素子アレイに対して複数の送信信号が並列的に供給される。これにより振動素子アレイから生体内(試験時には後述するファントム22内)へ超音波が放射され、これにより送信ビームが形成される。受信時において、生体内(試験時にはファントム22内)からの反射波が振動素子アレイにおいて受信される。これにより振動素子アレイから複数の受信信号が受信回路に向けて並列的に出力される。受信回路において、複数の受信信号の整相加算(遅延加算ともいう。)を実行することにより、受信ビームに相当するビームデータが生成される。
【0032】
ビーム走査面を繰り返し形成することにより受信フレームデータ列が生成される。ここで、1つの受信フレームデータは、電子走査方向に並ぶ複数のビームデータにより構成され、個々のビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。受信フレームデータ列に基づいて表示フレームデータ列が構成される。各表示フレームデータは、断層画像に相当する。表示フレームデータ列により、動画像としての断層画像が構成される。
【0033】
後述するように、プローブ20として、三次元データ取込空間を形成する3Dプローブを用いてもよい。3Dプローブは、二次元振動素子アレイを有するプローブである。一次元振動素子アレイの機械走査により三次元データ取込空間が形成されてもよい。
【0034】
計測部19は、実施形態において、表示フレームデータ列に基づいて計測を実行するものである。受信フレームデータ列に基づいて計測が実行されてもよい。コンピュータ等の情報処理装置に対して表示フレームデータ列を転送し、情報処理装置において表示フレームデータに基づく計測が実行されてもよい。
【0035】
試験装置10は、機構部12及びコントローラ14で構成される。コントローラ14は、機構部12の動作を制御するものである。必要に応じて、本体18からコントローラ14へ同期信号、制御信号等が供給される。同期信号は、例えば、フレーム同期信号である。フレーム同期信号に基づいて超音波ビームが繰り返し一次元走査される。なお、ボリューム同期信号に基づいてボリュームデータが繰り返し二次元走査されてもよい。コントローラ14から本体18へ制御信号が与えられてもよい。
【0036】
機構部12は、ファントム22及び走査機構24を有する。ファントム22は、生体内部を音響的に模擬した模擬体である。ファントム22は、実施形態において、注目組織を模擬した注目組織模擬体、及び、注目組織の周囲に存在する周囲組織を模擬した周囲組織模擬体を含む。
【0037】
図示されたファントム22は、第1実施例に係るファントムであり、それは、一様部分35及びコア部分34からなる。コア部分34は、母体内における羊水、胎児(心臓以外)、及び、心臓を模擬した部分である。一様部分35は、それら以外の組織に相当する部分である。図示の例では、心臓が注目組織である。早期の胎児においては、断層画像上において、心臓における実質部と血液部を明確に区別することは困難であり、心臓それ全体が計測対象となる。羊水及び胎児はそれぞれ周囲組織である。後述するように、心臓に相当する部分の断面の大きさがx方向に連続的に変化している。
【0038】
走査機構24は、スライド機構26、フレーム32、及び、ホルダ33により構成される。スライド機構26は、固定部28及び可動部30により構成される。固定部28はベースとして機能し、可動部30はスライダとして機能する。可動部30は、固定部28に対して、x方向にスライド運動するものであり、
図1においては、スライド力を生じさせるアクチュエータについては、その図示が省略されている。コントローラ14によって可動部30の往復運動36が制御される。運動速度や運動範囲をユーザーにより可変設定し得る。走査機構24として、可動部30をx方向及y方向にスライドさせることが可能な機構を設けてもよい。
【0039】
フレーム32は、可動部30に固定されており、ホルダ33を備えている。ホルダ33は、プローブ20を保持するものである。プローブ20によって形成されるビーム走査面21がxy面と平行になるように、ホルダ33によってプローブ20が着脱可能に保持される。可動部30がx方向に運動すると、ビーム走査面21がx方向に運動する。換言すれば、x方向の各位置においてビーム走査面21が形成される。
【0040】
図2には、胎児の超音波診断時に取得される断層画像100が例示されている。断層画像100は動画像であり、それには胎児像104及び羊水像102が含まれる。胎児像104の中には心臓像106が含まれる。早期の胎児における心臓の幅は例えば2又は3mm程度である。初期の胎児を示す断層画像100において、心臓における心筋及び心腔を区別することは困難であり、心臓全体が計測対象となる。中期又は後期の胎児において、心腔のみが計測対象とされてもよいし、心筋(心壁)のみが計測対象とされてもよい。心臓像の大きさが心拍に従って周期的に変化する。例えば、フレームごとに心臓像の面積が計測される。
【0041】
これにより、
図3に示すようなグラフ108が生成される。
図3において、横軸は時間軸であり、縦軸は、例えば、変位、距離又は面積を示している。グラフ108の形態が心拍に従って周期的に変化している。
【0042】
図4には、第1実施例に係るファントム22の詳細が示されている。なお、既に説明した要素には同一符号を付し、その説明を省略する。このことは、
図5以降の各図においても同様である。
【0043】
図4の左側にはファントム22のyz断面が示されており(同図中の(A)を参照)、
図4の右側にはファントム22のxz断面が示されている(同図中の(B)を参照)。図示されたyz断面は、xz断面における位置A1に対応し、図示されたxz断面はyz断面における位置B1に対応する。上記のように、第1水平方向がx方向であり、第2水平方向がy方向であり、垂直方向(鉛直方向)がz方向である。第1水平方向つまりx方向は、空間軸に相当し、且つ、形態の時間変化が表される時間軸に相当する。
【0044】
ファントム22は、既に説明したように、一様部分35とコア部分34とにより構成される。ファントム22それ全体は硬質部材である。コア部分34のx方向両端面を除き、コア部分34は一様部分35に包み込まれており、換言すれは、コア部分34はファントム22の中に埋設されている。一様部分35は、一定の音響インピーダンスを有する部分である。コア部分34は、以下に説明する特別な構造を有している。コア部分34を構成する各部分は、模擬する組織の音響インピーダンスと同じ音響インピーダンス又はそれに近い音響インピーダンスを有している。
【0045】
コア部分34は、図示の例において、羊水を模擬した羊水模擬部分(第1周囲組織模擬体)42、胎児における心臓以外の部分を模擬した胎児模擬部分(第2周囲組織模擬体)44及び心臓を模擬した心臓模擬部分(注目組織模擬体)46により構成される。
【0046】
yz断面における心臓模擬部分46の輪郭はx方向に連続的に変化している。その輪郭は、楕円に近く、そのサイズはx方向における負側から正側へ徐々に増大している。胎児模擬部分44の形態も、x方向に連続的に変化している。yz断面において、胎児模擬部分44の内側輪郭は楕円に近く、それはx方向における負側から正側へ連続的に増大している変化している。yz断面において、胎児模擬部分44の外側輪郭も楕円に近く、それはx方向に一定である。yz断面において、羊水模擬部分42の内側郭及び外側輪郭は、いずれも楕円に近く、それらはいずれもx方向に一定である。
【0047】
ファントム22におけるx方向の幅x1は例えば40~60mmの範囲内に設定され、そのy方向の幅y1は例えば85~115mmの範囲内に設定され、そのz方向の幅z1は105~135mmの範囲内に設定される。コア部分34のy方向の幅y2は例えば25~45mmの範囲内に設定され、コア部分34のz方向の幅z2は例えば20~40mmの範囲内に設定される。
【0048】
超音波診断装置の試験の際には、プローブ20の送受波面がファントム22の上面22Aに当接される。送受波面と上面22Aとの間には、空気層を除外するために、音響ゼリー等のカップリング剤が導入される。プローブ20によって形成される超音波ビーム40は、y方向に繰り返し電子走査される。プローブ20は、走査機構により、x方向に機械走査され、具体的には、繰り返し往復走査される。機械走査は一定の走査範囲xsにわたって行われ、そのx方向のサイズは例えば10~20mmの範囲内に設定される。
【0049】
超音波ビームを繰り返し電子走査しながら、プローブ20をx方向に往復運動させることにより、運動する心臓を静止プローブで観測した場合に得られる受信フレームデータ列と同一の又はそれに近い受信フレームデータ列が得られる。ファントム22から得られた受信フレームデータ列又はそれに基づく表示フレームデータ列が演算対象となり所定の計測値が演算される。なお、プローブ20の運動速度及び運動範囲はユーザーにより指定でき又は自動的に設定され得る。
【0050】
実施形態によれば、ファントム22の中に、形態が変化する模擬体を埋設する必要はなく、その中に静的な模擬体を埋設するだけでよいので、ファントム22の構造の複雑化を避けられる。また、実施形態によれば、ファントム22内において不要な気泡が生じないという利点を得られる。
【0051】
図5には、第2実施例に係るファントム50が示されている。(A)は、ファントム50のyz断面を示しており、(B)は、ファントム50のxz断面を示している。ファントム50は、コア部分52を有する。コア部分52は、心臓の内腔を模擬した内腔模擬部分(第1注目組織模擬体)54と、内腔周囲の心壁を模擬した心壁模擬部分(第2注目組織模擬体)56とを有する。コア部分52の周囲に存在する部分は、心臓の周囲に存在する組織及び胎児の周囲に存在する組織を模擬した部分(周囲組織模擬体)である。
【0052】
内腔模擬部分54は、yz断面において楕円状の形態を有し、それは円錐状の三次元形態を有する。心壁模擬部分56は、yz断面において楕円のリング状形態を有し、それは中空のコーン状の三次元形態を有する。ビーム走査面58が、x方向の走査範囲59にわたって連続的に繰り返し往復走査される。これにより、運動する心臓を静止状態にある超音波プローブで観察した場合に得られる受信フレームデータ列に近い受信フレームデータ列が得られる。
【0053】
内腔模擬部分54と心壁模擬部分56の一方又は両方が観察対象となる部分である。例えば、内腔面積の時間的な変化が計測されてもよいし、心壁模擬部分56における特定箇所の時間的な運動が計測されてもよい。
図5に示されたファントム50は、中期又は後期の胎児における心臓を模擬したものである。
【0054】
図6には、第2実施例についての変形例が示されている。変形例においては、基本的には、第2実施例と同様の構成が採用される。
図6には、ファントムが有するコア部分52Aのみが示されている。コア部分52Aは、心腔模擬部分54Aと心壁模擬部分56Aとにより構成される。心壁模擬部分56Aの中には、2つの線状要素60,62が埋設されている。各線状要素60,62は、金属線により構成され、それは強反射体として機能する。各線状要素60,62は、心壁模擬部分56Aの伸長方向に沿って配置されており、x方向に対して傾斜している。
【0055】
x方向における各位置を横切る断面上において、2つの線状要素60、62は、2つの点として現れる。動画像上としての断層画像上において各点の位置が周期的に変化する。各フレーム内の個々の点がトラッキング対象となる。各点のトラッキングに際してはフレーム間でのパターンマッチング等が実行される。2点の内の1点がトラッキング対象とされてもよい。3個以上の線状要素が配置されてもよい。2つの線状部材が心腔模擬部分と心筋模擬部分の境界に配置されてもよい。
【0056】
図7には、第3実施例に係るファントム64が示されている。ファントム64は、第1実施例に係るファントムと同様の外形を有し、その内部にはコア部分が埋設されている。コア部分は、心腔模擬部分と心壁模擬部分とで構成され、心壁模擬部分には上記変形例と同様に2つの線状要素が埋設されている。
【0057】
あるyz断面上には、心腔模擬部分の断面66が現れ、また、心壁模擬部分68の断面が現れる。2つの線状要素の断面70,72も現れる。他のyz断面上には、心腔模擬部分の断面66Aが現れ、また、心壁模擬部分68Aの断面が現れる。2つの線状要素の断面70A,72Aも現れる。2つのyz断面間の相違として表現されているように、第3実施例においては、心臓の重心が変位している。重心の変位に伴って2つの線状要素の断面位置も変位している。
【0058】
図8には、第4実施例に係るファントム74が示されている。ファントム64は、第1実施例に係るファントムと同様の外形を有し、その内部にはコア部分が埋設されている。コア部分は、心腔模擬部分と心壁模擬部分とで構成され、心壁模擬部分には上記変形例と同様に2つの線状要素が埋設されている。
【0059】
各yz断面上には、心腔模擬部分の断面76が現れ、また、心壁模擬部分78の断面が現れる。各断面の形態は、2つの線状要素の位置を除き、同一である。2つの線状要素はx方向に対して傾斜しており、あるyz断面上には2つの線状要素の断面80A,82Aがy方向の中央付近に現れる。他のyz断面上には2つの線状要素の断面80B,82Bがy方向に偏移した位置に現れる。
【0060】
図9には、第5実施例に係るファントム120が示されている。ファントム120はそれ全体として立方体の形状を有し、その内部にはコア部分122が埋設されている。コア部分122は、x方向に沿って段階的にサイズが変更され、且つ積層された複数の円板からなる。複数の円板はΔx1のピッチで並んでいる。各円板のx方向の幅はΔx1である。P11~P14は、走査方向(x方向)におけるプローブ停止位置を示している。プローブは、非連続的にステップ運動つまり移動及び停止を繰り返す。例えば、位置P1において1回の電子走査が実行され、その後移動し、位置P2において1回の電子走査が実行される。このような動作が往路及び復路において繰り返される。プローブの移動は、例えば、フレーム間のブランク期間内において実施される。
【0061】
図10には、第6実施例に係るファントム90が示されている。ファントム90は、それ全体として立方体の形状を有し、その内部には注目組織模擬体としての複数の模擬要素92A~02Eが埋設されている。注目組織は例えば心臓内の左室である。複数の模擬要素92A~92Eは、複数の時相に対応した複数の三次元形態を有する。換言すれば、各模擬要素92A~92Eは、各時相での左室の三次元形態を人工的に模擬したものである。複数の模擬要素92A~92Eは、複数の位置x11~x15に設けられており、それらはx方向において一定のピッチΔxで並んでいる。プローブ94は、3Dプローブである。
【0062】
図10において、位置P1~P5が機械走査における3Dプローブ94の停止位置を示している。各位置P1~P5において超音波ビームの二次元走査が実行され、これにより各位置P1~P5において三次元データ取込空間96A~96Eが形成され、これによりボリュームデータが取得される。複数のボリュームデータは複数の時相に対応したものであり、それらを処理することにより、注目組織の三次元動画像を構築し得る。3Dプローブ94のステップ移動がS1~S8で示されている。3Dプローブ94は機械走査方向つまりx方向において繰り返し往復運動する。超音波ビームの二次元走査ごとに、それに続くブランク期間においてプローブの位置の切り替えが行われる。
【0063】
第6実施例によれば、注目組織模擬体を利用して複数の時相に対応する複数のボリュームデータを取得できる。注目組織模擬体は静的なものであるため、その内部において気泡が生じることはない。第6実施例において、複数の三次元データ取込空間の配列を考慮して複数の模擬要素の配列を定めるのが望ましい。あるいは、複数の模擬要素の配列に応じて個々の三次元データ取込空間のサイズを定めるのが望ましい。上記のピッチΔxをx方向において異ならせてもよい。
【0064】
図11には、水槽112内に配置されたファントム110が示されている。水槽112には水1104が収容されている。プローブ116の送受波面とファントム110の上面との間に隙間があってもその隙間には水が存在しているので、その隙間における超音波伝搬を確保できる。
【0065】
図12には、実施形態に係る試験方法がフローチャートとして示されている。S10では、ファントムに対してプローブが機械的に往復走査される。これによりフレームデータ列又はボリュームデータ列が取得される。S12では、フレームデータ列又はボリュームデータ列に基づく計測が実行され、計測値が演算される。S14では計測値の評価により、超音波診断装置が備える計測機能が適正であることが確認される。S14の評価は検査者において行われてもよい。
【0066】
上記各実施例においては、ファントムが固定されており、プローブが機械的に走査されていたが、プローブを固定し、ファントムを機械的に走査してもよい。ファントムを構成する各要素は固体、液体、ゲル等で構成され得る。ファントムそれ全体を硬質部材で構成すれば、その取扱いが容易となる。
【0067】
機械走査を直線経路上において行うのが望ましいが、機械走査を環状経路上において行ってもよい。その場合、環状経路にビーム走査面が直交するようにプローブの向き、姿勢が調整される。施形態においては、半周期(拡張期から収縮期、収縮期から拡張期)にわたる時間変化が形態変化として表わされていたが、1周期又は複数周期にわたる時間変化を一連の形態変化として表わすようにしてもよい。1つのファントム内に複数のコア部分を埋設してもよい。その場合、機械走査の方向に直交する方向に一定間隔を隔てつつ複数のコア部分を並べて配置してもよい。プローブのy方向位置の選択により、使用するコア部分を選択し得る。
【符号の説明】
【0068】
10 試験装置、12 機構部、14 コントローラ、16 超音波診断装置、18 本体、19 計測部、20 超音波プローブ、22 ファントム、24 走査機構、34 コア部分。