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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ハイブリッド自動車の駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/06 20060101AFI20231221BHJP
   B60K 6/36 20071001ALI20231221BHJP
   B60K 6/405 20071001ALI20231221BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20231221BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20231221BHJP
   B60K 17/04 20060101ALI20231221BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20231221BHJP
   F16H 61/00 20060101ALI20231221BHJP
   F04B 23/04 20060101ALI20231221BHJP
   F04C 11/00 20060101ALI20231221BHJP
   H02K 7/18 20060101ALI20231221BHJP
   H02K 7/10 20060101ALI20231221BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B60K17/06 K
B60K6/36 ZHV
B60K6/405
B60K6/40
B60K6/485
B60K17/04 G
F16H57/04 P
F16H61/00
F04B23/04
F04C11/00 C
H02K7/18 B
H02K7/10 A
H02K9/19 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020097048
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021187395
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】韮澤 英夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 雄一郎
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-184924(JP,A)
【文献】特開2012-111366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/00
B60K 6/00
F16H 57/00
F16H 61/00
F04B 23/00
F04C 11/00
H02K 7/00
H02K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源であるエンジンと、ジェネレータおよびモータとして機能する電動機と、前記エンジン又は前記電動機の駆動力による回転を変速する変速機構とを備えるハイブリッド自動車の駆動装置において、
前記電動機が収容された第一室を画成する第一ケースと、
前記変速機構の構成部品が収容された第二室を画成する第二ケースと、
前記第一室と前記第二室とを隔てる隔壁と、
前記変速機構の制御用の油圧を供給する第一ポンプと、
前記電動機に冷却用のオイルを供給する第二ポンプと、
前記第一室内のオイルの油面を管理する第三ポンプと、を備え、
前記第一ポンプは、前記エンジンの動力で回転する機械式のオイルポンプであり、
前記第一ポンプは、前記第二室内に配置され、
前記第二ポンプ及び前記第三ポンプは、前記第一室内に配置され、
前記第一ポンプの回転軸と前記第二ポンプ及び前記第三ポンプの回転軸とが同軸上で一体に回転するように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド自動車の駆動装置。
【請求項2】
前記第二ポンプと前記第三ポンプは、単一の回転軸で駆動される2ロータ構造のオイルポンプである
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド自動車の駆動装置。
【請求項3】
前記変速機構の入力軸上に設けた駆動部材と、前記第一ポンプの回転軸上に設けた従動部材と、前記駆動部材と前記従動部材との間で動力を伝達する動力伝達部材とを備え、
前記第一ポンプの回転軸と前記第二ポンプ及び前記第三ポンプの回転軸とが同一の前記従動部材に嵌合するように構成した
ことを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド自動車の駆動装置。
【請求項4】
前記隔壁は、前記第一ケース又は前記第二ケースの一部で構成されていると共に、前記第一乃至第三ポンプの少なくともいずれかのポンプカバーを含んで構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のハイブリッド自動車の駆動装置。
【請求項5】
前記第二ポンプのポンプカバーが前記第一ケースに設けた開口部に嵌合していることで、該第二ポンプのポンプカバーで前記隔壁の一部が構成されている
ことを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド自動車の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源であるエンジンと、ジェネレータおよびモータとして機能する電動機と、エンジン又は電動機の駆動力による回転を変速する変速機構とを備えるハイブリッド自動車の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示すように、駆動源としてのエンジンと、モータおよびジェネレータとして機能する電動機(モータジェネレータ)と、これらエンジン又は電動機の駆動力による回転を変速する変速機構とを備えるハイブリッド自動車の駆動装置がある。また、このような駆動装置は、変速機構の構成部品や電動機が収容されたケースを備えている。そして、当該ケース内の底部には、変速機構の潤滑及び変速制御用のオイル、あるいは電動機を冷却する冷却用のオイルが溜まるオイル溜まりが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-43120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなハイブリッド自動車の駆動装置では、電動機をケース内のオイルで冷却(油冷)する場合には、変速制御のための油圧制御に加えて、電動機の冷却とケース内のオイルの油面管理とを行わなければならない。この場合、ケース内のオイルの油面管理は、電動機のエアギャップ(ステータとロータとの間の空隙)内のオイルのせん断抵抗により電動機の性能が低下しないように、ケース内のオイルの油面を当該エアギャップよりも低い位置となるように設定している。このようなケース内のオイルの油面管理の手法として、下記の二種類の手法がある。
【0005】
すなわち、オイルが変速機構などの潤滑用のみに使用され、ケース内のオイルの量を少なく設定できる駆動装置では、第一の手法として、ケース内のオイルの油面高さを電動機のエアギャップよりも低い位置に設定している。また、オイルが潤滑用と変速機構の変速制御の両方に使用され、ケース内のオイルの量をより多く設定しなければならない駆動装置では、第二の手法として、エンジンの出力軸(クランク軸)に対して電動機の回転軸をより高い位置に配置(オフセット)することで、電動機のエアギャップがケース内のオイルに浸らない程度に十分高い位置に電動機の回転軸を配置している。
【0006】
しかしながら、上記第一の手法では、ケース内のオイルの油面高さを電動機のエアギャップよりも低い位置に設定していることで、ケース内のオイル量に制限が生じてしまう。そのためこの手法は、変速機構の変速制御や電動機の冷却にもケース内のオイルを用いる構造の駆動装置にはあまり適していない。また、第二の手法では、エンジンの出力軸(クランク軸)に対して電動機の回転軸をより高い位置に配置(オフセット)することで、駆動装置の構造の簡素化や部品点数の削減、装置の小型化の妨げとなるおそれがある。
【0007】
ここで、電動機の回転軸をエンジンの出力軸と同軸上に配置し、かつ、オイルが潤滑用と変速機構の変速制御の両方に使用され、ケース内のオイルの量をより多く設定しなければならない構造のハイブリッド自動車の駆動装置では、電動機のエアギャップの高さが一意的に定まる。その一方で、駆動装置のケース内に必要なオイルの量及びそれに伴うケース内のオイルの油面高さは予め定まっており、当該オイルの油面高さは電動機のエアギャップの位置よりも高い位置となる可能性がある。そのため、これら両方の条件を満たすには、ケース内で電動機を収容する第一室と変速機構を収容する第二室との間に隔壁を設け、これら第一室のオイルの油面と第二室のオイルの油面とを独立して管理することで、それぞれを適切な高さに設定する必要がある。このため、第一室と第二室との間の隔壁に加えて、第一室内のオイルの油面を電動機のエアギャップの高さ以下に維持するための油面管理用オイルポンプを省スペースに効率良く配置することが必要となる。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、電動機を配置した第一室のオイルの油面の高さと変速機構を配置した第二室のオイルの油面の高さとを独立して管理することを可能としながらも、変速機構の潤滑や変速制御用のオイルポンプと、第一室のオイルの油面を電動機のエアギャップ以下に維持するための油面管理用のオイルポンプとを既存スペースに効率よく配置することなどで、駆動装置の小型化や構造の簡素化、部品点数の削減を図ることができるハイブリッド自動車の駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、車両の駆動源であるエンジン(E)と、ジェネレータおよびモータとして機能する電動機(40)と、前記エンジン(E)又は前記電動機(40)の駆動力による回転を変速する変速機構(30)とを備えるハイブリッド自動車の駆動装置(1)において、前記電動機(40)が収容された第一室(15)を画成する第一ケース(11)と、前記変速機構(30)の構成部品が収容された第二室(16)を画成する第二ケース(12)と、前記第一室(15)と前記第二室(16)とを隔てる隔壁(11a)と、前記変速機構(30)の制御用の油圧を供給する第一ポンプ(50)と、前記電動機(40)に冷却用のオイルを供給する第二ポンプ(60)と、前記第一室(15)内のオイルの油面(L1)を管理する第三ポンプ(70)と、を備え、前記第一ポンプ(50)は、前記エンジン(E)の動力で回転する機械式のオイルポンプであり、前記第一ポンプ(50)は、前記第二室(16)内に配置され、前記第二ポンプ(60)及び前記第三ポンプ(70)は、前記第一室(15)内に配置され、前記第一ポンプ(50)の回転軸(51)と前記第二ポンプ(60)及び前記第三ポンプ(70)の回転軸(61)とが同軸上で一体に回転するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明にかかるハイブリッド自動車の駆動装置によれば、電動機が収容された第一室と変速機構の構成部品が収容された第二室とを仕切る隔壁を備え、かつ、変速機構の変速制御用の油圧を供給する第一ポンプに加えて、電動機に冷却用のオイルを供給する第二ポンプと、第一室内のオイルの油面を管理するための第三ポンプとを備えることで、電動機を収容した第一室内のオイルの油面と変速機構を収容した第二室内のオイルの油面とを異なった高さに管理することができ、かつ、第一室内のオイルの油面の高さを電動機のエアギャップ以下に維持することを可能となる。そのうえで、第一ポンプの回転軸と第二ポンプ及び第三ポンプの回転軸とが同軸上で一体に回転するように構成したことで、電動機の冷却用の第二ポンプと第一室内のオイルの油面管理用の第三ポンプとを駆動装置の既存のスペースに効率良く配置することができる。また、機械式のオイルポンプである第一ポンプを駆動するエンジンの動力を用いて冷却用の第二ポンプと第一室内のオイルの油面管理用の第三ポンプを駆動できるので、第二ポンプ及び第三ポンプを効率的に駆動することが可能となる。したがって、従来構造と比較して装置の大型化や構造の複雑化を回避しながらも、変速機構の油圧制御に加えて,電動機の冷却と,電動機が収容された第一室と変速機構の構成部品が収容された第二室のオイルの油面管理とを行うことができるハイブリッド自動車の駆動装置となる。
【0011】
また、このハイブリッド自動車の駆動装置では、前記第二ポンプ(60)と前記第三ポンプ(70)は、単一の回転軸(61)で駆動される2ロータ構造のオイルポンプであってよい。
【0012】
この構成によれば、第二ポンプと第三ポンプは、単一の回転軸で駆動される2ロータ構造のオイルポンプであることで、第二ポンプと第三ポンプの二つのポンプの小型化・構成の簡素化を図ることができる。したがって、これら第二ポンプ及び第三ポンプと第一ポンプとを備えるハイブリッド自動車の駆動装置のケース内の配置効率をさらに向上させることができる。
【0013】
また、このハイブリッド自動車の駆動装置では、前記変速機構(30)の入力軸(2)上に設けた駆動部材(81)と、前記第一ポンプ(50)の回転軸(51)上に設けた従動部材(91)と、前記駆動部材(81)と前記従動部材(91)との間で動力を伝達する動力伝達部材(82)とを備え、前記第一ポンプ(50)の回転軸(51)と前記第二ポンプ(60)及び前記第三ポンプ(70)の回転軸(61)とが同一の前記従動部材(91)に嵌合するように構成してもよい。
【0014】
この構成によれば、第一ポンプの回転軸と第二ポンプ及び第三ポンプの回転軸とが同一の従動部材に嵌合するように構成したことで、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、第一ポンプを駆動するエンジンの動力を用いて第二ポンプ及び第三ポンプを駆動できる。
【0015】
また、このハイブリッド自動車の駆動装置では、前記隔壁(11a)は、前記第一ケース(11)又は前記第二ケース(12)の一部で構成されていると共に、前記第一乃至第三ポンプ(50,60,70)の少なくともいずれかのポンプカバー(52,62)を含んで構成されていてもよい。
【0016】
この構成によれば、第一室と第二室とを隔てる隔壁は、第一ケース又は第二ケースの一部で構成されていると共に、第一乃至第三ポンプの少なくともいずれかのポンプカバーを含んで構成されていることで、その分、ハイブリッド自動車の駆動装置の小型化、軽量化、構成の簡素化を図ることができる。
【0017】
また、このハイブリッド自動車の駆動装置では、前記第二ポンプ(60)のポンプカバー(62)が前記第一ケース(11)に設けた開口部(13)に嵌合していることで、該第二ポンプ(60)のポンプカバー(62)で前記隔壁(11a)の一部が構成されていてもよい。
【0018】
この構成によれば、第二ポンプのポンプカバーが第二ケースに設けた開口部に嵌合していることで、該第二ポンプのポンプカバーで隔壁の一部が構成されているので、その分、同軸上に配置された第一乃至第三ポンプの軸方向の寸法の小型化、軽量化、構成の簡素化を図ることができる。したがって、ハイブリッド自動車の駆動装置の更なる小型化、軽量化、構成の簡素化が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかるハイブリッド自動車の駆動装置によれば、電動機を配置した第一室のオイルの油面の高さと変速機構を配置した第二室のオイルの油面の高さを独立して管理することを可能としながらも、変速機構の潤滑や変速制御用のオイルポンプと、第一室のオイルの油面を電動機のエアギャップ以下に維持するための油面管理用のオイルポンプを既存スペースに効率よく配置することなどで、駆動装置の小型化や構造の簡素化、部品点数の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド自動車の駆動装置の機能構成を示す概略図である。
図2】ハイブリッド自動車の駆動装置の全体構成例を示す概略側断面図である。
図3図2のA部分の拡大図で、変速制御用のメカポンプ、モータジェネレータ冷却用のフィードポンプ、油面管理用のスカベンジポンプの詳細構成を示す図である。
図4図3のB部分の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかるハイブリッド自動車の駆動装置の機能構成を示す概略図である。また、図2は、ハイブリッド自動車の駆動装置の全体構成例を示す概略側断面図である。これらの図に示す駆動装置1は、エンジンEの駆動力を入力軸2に伝達するトルクコンバータ20と、入力軸2の回転を変速して出力するための変速機構30と、トルクコンバータ20の外周に配置したモータ及びジェネレータとして機能するモータジェネレータ(電動機)40とを備えて構成されている。変速機構30は、入力軸2の回転を変速する複数のプラネタリ機構と、変速段設定用の摩擦係合要素であるクラッチ及びブレーキなどで構成された自動変速機である。ここでは、変速機構30の詳細な構成及び動作の説明は省略する。なお、以下の説明で軸方向というときは、入力軸2の軸方向を示すものとする。
【0022】
トルクコンバータ20及びモータジェネレータ40は、トルクコンバータケース(以下、「TCケース」と記す。)11に収容されており、変速機構30は、トランスミッションケース(以下、「TMケース」と記す。)12に収容されている。TMケース12は、TCケース11における軸方向を向く壁部(隔壁)11aに対して軸方向に隣接して設置されている。TMケース12は、有底容器状に形成されており、その開口端12aをTCケース11側に向けた状態で、該開口端12aがTCケース11の隔壁11aに接合されている。すなわち、駆動装置1のケースは、トルクコンバータ20を収容したTCケース11と、変速機構30を収容したTMケース12とからなり、これらTCケース11とTMケース12を軸方向に突き合わせて接合した構成である。
【0023】
すなわち、TCケース11とTMケース12の間にはTCケース11の隔壁11aが設けられており、この隔壁11aによってTCケース11内のモータジェネレータ40が配置された第一室15と、TMケース12内の変速機構30が配置された第二室16とが隔てられている。そして、TCケース11の底部は、TCケース11内のオイルが溜まるオイル溜まり17となっており、TMケース12の底部は、TMケース12内のオイルが溜まるオイル溜まり18となっている。
【0024】
トルクコンバータ20は、クランクシャフト5で駆動されるポンプインペラ21と、ポンプインペラ21に対向配置されて入力軸2に連結されたタービンランナ22と、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間に設けたステータ23とを備えている。なお、タービンランナ22とクランクシャフト5に連結されたエンジンドライブプレート(図示せず)との間には、ダンパ付きのロックアップクラッチ26が配置されている。また、コンバータカバー27のクランクシャフト5と反対側の端部には、インペラシェル28が接続されており、インペラシェル28の内周側には、ポンプハブ29が接続されている。ポンプハブ29は、トルクコンバータ20の中心から入力軸2に沿って変速機構30側に延びており、入力軸2の外側を囲む略円筒型に形成されている。
【0025】
図2に示すように、ポンプハブ29には、後述するメカポンプ50、フィードポンプ60及びスカベンジポンプ70を駆動するための駆動スプロケット81が嵌合している。詳細な図示は省略するが、駆動スプロケット81は、TCケース11の隔壁11aに対して軸受で回転自在に支持されている。
【0026】
トルクコンバータ20の外周側に設置したモータジェネレータ40は、トルクコンバータ20のコンバータカバー27の外周に一体に取り付けられたロータ41と、ロータ41の外周側でTCケース11に固定されたステータ42とを備える。ロータ41とステータ42と間には径方向のわずかな空隙であるエアギャップ43が設けられている。モータジェネレータ40は、ロータ41とステータ42がエアギャップ43を挟んで径方向で対向配置されており、トルクコンバータ20のポンプインペラ21と一体に回転するロータ41がステータ42に対して相対回転する。
【0027】
TMケース12内の入力軸2に対して径方向の外側に離間した位置には、ギヤ式の油圧ポンプであるメカポンプ(第一ポンプ)50が設置されている。メカポンプ50は、ポンプ駆動軸である第一回転軸51の回転で駆動するようになっている。第一回転軸51は、メカポンプ50内で入力軸2と平行に延びている。なお、メカポンプ50は、ボルト(図示せず)の締結でTCケース11の隔壁11aに固定されている。
【0028】
図1に示すように、メカポンプ50は、その吸入部57がTMケース12のオイル溜まり18に開口しており、吐出部58が変速機構30に変速制御用のオイル(油圧)を供給するための油圧制御装置(油圧制御ボディ)56に連通している。これにより、メカポンプ50はTMケース12のオイル溜まり18に貯留されたオイルを吸い上げて油圧制御部56に供給することで、このオイルが油圧制御部56から変速制御用及び潤滑・冷却用のオイルとして変速機構30に供給されるようになっている。
【0029】
図3は、図2のA部分の拡大図で、変速制御用のメカポンプ、モータジェネレータ冷却用のフィードポンプ、油面管理用のスカベンジポンプの詳細構成を示す図である。また、図4は、図3のB部分の部分拡大図である。これらの図に示すように、メカポンプ50の第一回転軸51の先端部51aには、従動スプロケット91が取り付けられている。また、駆動スプロケット81(図2参照)と従動スプロケット91との間には、動力を伝達するための無端状のチェーン82が掛け渡されている。これら駆動スプロケット81及び従動スプロケット91とチェーン82とで、トルクコンバータ20からの駆動力をメカポンプ50に伝達するための駆動伝達機構80が構成されている。
【0030】
また、TCケース11内の入力軸2に対して径方向の外側に離間した位置には、モータジェネレータ40に冷却用のオイルを供給するためのフィードポンプ(第二ポンプ)60と、TCケース11内のオイルの油面(オイルの量)を管理するためのスカベンジポンプ(第三ポンプ)70とが設置されている。図1に示すように、フィードポンプ60は、その吸入部67がTMケース12内のオイル溜まり18に開口しており、吐出部68がTCケース11内のモータジェネレータ40に向けて開口している。これにより、TMケース12内のオイル溜まり18に貯留されたオイルを吸い上げて、潤滑用のオイルとしてTCケース11内のモータジェネレータ40に供給するようになっている。また、スカベンジポンプ70は、その吸入部77がTCケース11内のオイル溜まり17に開口しており、吐出部78がTMケース12内の変速機構30に向けて開口している。これにより、TCケース11内のオイル溜まり17に貯留されたオイルを吸い上げて、潤滑用のオイルとしてTMケース12内の変速機構30に供給することで、TCケース11内のオイルの油面L1(の高さ)を管理するようになっている。
【0031】
すなわち、本実施形態の駆動装置1では、モータジェネレータ40を備えることで、当該モータジェネレータ40の冷却用のオイルが必要となるところ、仮にメカポンプ50の容量を増加させることでモータジェネレータ40の冷却用のオイルの流量を確保しようとすると、モータジェネレータ40の冷却用のオイルも一旦ライン圧まで昇圧することになるので、その分、エネルギーの損失が生じるおそれがある。そのため、フィードポンプ60は、メカポンプ50とは別個にモータジェネレータ40の冷却用のオイルの吐出流量を確保するために設けられたポンプである。
【0032】
また、スカベンジポンプ70は、TCケース11内のオイル溜まり17に溜まったオイルの油面L1をモータジェネレータ40のエアギャップ43の高さ以下に維持するために設けられたポンプである。すなわち、TCケース11内のオイル溜まり17に溜まったオイルの油面L1の高さをTMケース12内のオイル溜まり18に溜まったオイルの油面L2の高さよりも低い位置に管理する必要があるため、スカベンジポンプ70は、そのための油面管理用のポンプである。
【0033】
また、図3及び図4に示すように、フィードポンプ60とスカベンジポンプ70は、単一の回転軸(第二回転軸61)で駆動される2ロータ構造のオイルポンプである。詳細には、フィードポンプ60は、ポンプカバー62内に収容されて第2回転軸61と一体に回転するフィードポンプ用ロータ63を備えており、スカベンジポンプ70は、ボルト64の締結でポンプカバー62と一体に固定されたポンプカバー72内に収容されて第2回転軸61と一体に回転するスカベンジポンプ用ロータ73を備えている。また、メカポンプ50の第1回転軸51とフィードポンプ60及びスカベンジポンプ70の第2回転軸61とは、同軸上に対向して配置されており、それらの先端部51a,61aは、同一の従動スプロケット91に嵌合している。これにより、メカポンプ50の第1回転軸51とフィードポンプ60及びスカベンジポンプ70の第2回転軸61は、エンジンEの駆動力により同軸上で一体に回転するようになっている。
【0034】
また、図4に示すように、従動スプロケット91の内周側には、ポンプカバー62に対して従動スプロケット91を回転自在に支持する軸受95が設置されている。軸受95は、外輪95aと内輪95bとの間をボール95cが転動する構成のボールベアリングである。外輪95aは、従動スプロケット91の内周面に固定されており、内輪95bは、ポンプカバー62における第2回転軸61の外周に設けた円筒部62aの外周面に固定されている。
【0035】
従動スプロケット91は、断面が略コ字状に形成された本体部91aと該本体部91aの外周側に配置した外周部91bとを有しており、外周部91bには、チェーン82を架けるための複数の歯92が配列形成されている。また、本体部91aの中心には、第1回転軸51及び第2回転軸61をスプライン嵌合させるための円筒部91cが形成されている。円筒部91cは、第1回転軸51の先端部51aと第2回転軸61の先端部61aとの両方の外周を囲む筒状に形成された部分で、軸方向に向かって円筒状に突出する筒状の部分となっている。この構成により、ポンプカバー62に対して回転自在に支持された従動スプロケット91を介してエンジンEの動力による回転がメカポンプ50の第1回転軸51とフィードポンプ60及びスカベンジポンプ70の第2回転軸61とに伝達されるようになっている。
【0036】
また、図3に示すように、フィードポンプ60及びスカベンジポンプ70のポンプカバー62は、その軸方向におけるメカポンプ50側の部分が、TCケース11における第一室15と第二室16の間を画成する隔壁11aに設けた開口部13に嵌め込まれて取り付けられている。したがって、本実施形態では、フィードポンプ60及びスカベンジポンプ70のポンプカバー62で第一室15と第二室16の間を画成する隔壁11aの一部が構成されている。この構成により、第一室15と第二室16との間の隔壁11aとフィードポンプ60及びスカベンジポンプ70のポンプカバー62とを別々の部品として構成した場合と比較して、第二室16内に配置したメカポンプ50と第一室15内に配置したフィードポンプ60及びスカベンジポンプ70とを合わせた軸方向の寸法を小さく抑えることが可能となる。
【0037】
このように、本実施形態の駆動装置1では、TMケース12で画成された第二室16内に変速機構の変速制御用及び潤滑冷却用の高圧オイルポンプであるメカポンプ50を配置し、TCケース11で画成された第一室15内にモータジェネレータ40の冷却用のオイルポンプであるフィードポンプ60と第一室15内のオイルの油面管理用のスカベンジポンプ70とを配置している。また、メカポンプ50の回転軸である第一回転軸51とフィードポンプ60及びスカベンジポンプ70の回転軸である第二回転軸61を同軸上に並べて配置し、これら第一回転軸51と第二回転軸61をエンジンEの駆動力が伝達される1本のチェーン82で駆動するように構成している。
【0038】
このように、高圧オイルポンプであるメカポンプ50は、変速制御用の油圧制御装置(油圧制御ボディ)56や、変速機構30のクラッチ及びブレーキなど潤滑対象に近い第二室16内に配置する。その一方で、スカベンジポンプ70はオイルの油面管理を行う対象である第一室15内に配置する。これにより、スカベンジポンプ70で第一室15内のオイルを直接吸入することが可能となるため、スカベンジポンプ70についての油路の取り回し(長さ)が効率的な取り回しとなる。また、モータジェネレータ40冷却用の低圧オイルポンプであるフィードポンプ60は冷却対象のモータジェネレータ40と同じ第一室15内に配置する。これにより、フィードポンプ60についての油路の取り回し(長さ)も効率的な取り回しとなる。
【0039】
また、本実施形態の駆動装置1では、第一室15内のオイルの油面の高さは、車両の加減速時や旋回時においてもメカポンプ50がエアを吸わない(すなわち、メカポンプ50のオイル吸入部57がオイルの油面から露出しない)高さに設定する。また、第一室15内のオイルの油面の高さは、モータジェネレータ40のエアギャップ43が第一室15内のオイルに油没しないよう極力低く設定する。
【0040】
以上説明したように、本実施形態のハイブリッド自動車の駆動装置1によれば、モータジェネレータ40が収容された第一室15と変速機構30の構成部品が収容された第二室16とを仕切る隔壁11aを備え、かつ、変速機構30の変速制御用の油圧を供給するメカポンプ(第一ポンプ)50に加えて、モータジェネレータ40に冷却用のオイルを供給するフィードポンプ(第二ポンプ)60と、第一室15内のオイルの油面L1を管理するためのスカベンジポンプ(第三ポンプ)70とを備えることで、モータジェネレータ40を収容した第一室15内のオイルの油面L1と変速機構30を収容した第二室16内のオイルの油面L2を異なった高さに管理することができ、かつ、第一室15内のオイルの油面L1の高さをモータジェネレータ40のエアギャップ43よりも低い位置に維持することが可能となる。そのうえで、メカポンプ50の第一回転軸51とフィードポンプ60及びスカベンジポンプ70の第二回転軸61とが同軸上で一体に回転するように構成したことで、モータジェネレータ40の冷却用のフィードポンプ60と第一室15内のオイルの油面管理用のスカベンジポンプ70とを駆動装置1の既存のスペースに効率良く配置することができる。また、機械式のオイルポンプであるメカポンプ50を駆動するエンジンEの動力を用いて冷却用のフィードポンプ60と第一室15内のオイルの油面管理用のスカベンジポンプ70を駆動できるので、フィードポンプ60及びスカベンジポンプ70を効率的に駆動することが可能となる。したがって、従来構造と比較して装置の大型化や構造の複雑化を回避しながらも、変速機構30の油圧制御に加えて、モータジェネレータ40の冷却と、モータジェネレータ40が収容された第一室15と変速機構30が収容された第二室16のオイルの油面管理とを行うことができるハイブリッド自動車の駆動装置1となる。
【0041】
また、この駆動装置1では、フィードポンプ60とスカベンジポンプ70は、単一の回転軸である第二回転軸61で駆動される2ロータ構造のオイルポンプであることで、これらフィードポンプ60とスカベンジポンプ70の二つのポンプの小型化・構成の簡素化を図ることができる。したがって、これらフィードポンプ60及びスカベンジポンプ70とメカポンプ50とを備える駆動装置1のケース(TCケース11及びTMケース12)内の配置効率をさらに向上させることができる。
【0042】
また、この駆動装置1では、メカポンプ50の第一回転軸51とフィードポンプ60及びスカベンジポンプ70の第二回転軸61とが同一の従動スプロケット91に嵌合するように構成したことで、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、メカポンプ50を駆動するエンジンEの動力を用いてフィードポンプ60とスカベンジポンプ70を駆動できる。
【0043】
また、本実施形態の駆動装置1では、フィードポンプ60及びスカベンジポンプ70のポンプカバー62がTCケース11の隔壁11aに設けた開口部13に嵌合していることで、該ポンプカバー62で隔壁11aの一部が構成されているので、その分、同軸上に配置されたメカポンプ50とフィードポンプ60及びスカベンジポンプ70の軸方向の寸法の小型化、軽量化、構成の簡素化を図ることができる。したがって、ハイブリッド自動車の駆動装置1の更なる小型化、軽量化、構成の簡素化が可能となる。
【0044】
本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明の第二ポンプであるフィードポンプ60と第三ポンプであるスカベンジポンプ70は、単一の第二回転軸61で駆動される2ロータ構造のオイルポンプである場合を示したが、これ以外も、本発明の第二ポンプと第三ポンプはそれぞれ独立した構造のポンプであってもよい。また、上記実施形態では、第一室15と第二室16との間の隔壁11aの一部が第二ポンプ及び第三ポンプであるフィードポンプ60及びスカベンジポンプ70のポンプカバー62で構成されている場合を示したが、これ以外にも、本発明では、第一室と第二室との間の隔壁の一部が第一ポンプのポンプカバーの一部で構成されていてもよい。
【0045】
また、上記実施形態の図1乃至図3では、本発明の第一乃至第三ポンプであるメカポンプ50、フィードポンプ60及びスカベンジポンプ70がTCケース11及びTMケース12内の底部付近に配置されており、これらメカポンプ50、フィードポンプ60及びスカベンジポンプ70がオイル溜まり17,18内のオイルに浸っている場合を図示しているが、本発明の駆動装置では、第一乃至第三ポンプは第一ケース及び第二ケース内の底部付近以外の場所に配置してもよい。例えば、図示及び詳細な説明は省略するが、第一乃至第三ポンプは第一ケース及び第二ケース内の上方(上部)に配置することで、これら第一乃至第三ポンプが第一室及び第二室内のオイル溜まり内のオイルに浸らないように構成してもよい。
【符号の説明】
【0046】
E エンジン(駆動源)
1 駆動装置
2 入力軸
5 クランクシャフト
11 TCケース(第一ケース)
11a 隔壁
12 TMケース(第二ケース)
12a 開口端
13 開口部
15 第一室
16 第二室
20 トルクコンバータ
21 ポンプインペラ
22 タービンランナ
23 ステータ
26 ロックアップクラッチ
27 コンバータカバー
28 インペラシェル
29 ポンプハブ
30 変速機構
40 モータジェネレータ(電動機)
41 ロータ
42 ステータ
43 エアギャップ
50 メカポンプ(第一ポンプ)
51 第一回転軸
51a 先端部
56 油圧制御装置(油圧制御ボディ)
57 吸入部
58 吐出部
60 フィードポンプ(第二ポンプ)
61 第二回転軸
61a 先端部
62 ポンプカバー
62a 円筒部
63 フィードポンプ用ロータ
67 吸入部
68 吐出部
70 スカベンジポンプ(第三ポンプ)
72 ポンプカバー
73 スカベンジポンプ用ロータ
77 吸入部
78 吐出部
80 駆動伝達機構
81 駆動スプロケット(駆動部材)
82 チェーン(動力伝達部材)
91 従動スプロケット(従動部材)
92 歯
95 軸受
95a 外輪
95b 内輪
95c ボール
図1
図2
図3
図4