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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】壁杭の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/44 20060101AFI20231221BHJP
   E02D 5/48 20060101ALI20231221BHJP
   E02D 5/34 20060101ALI20231221BHJP
   E02D 7/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
E02D5/44 B
E02D5/48
E02D5/34 Z
E02D7/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020117376
(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公開番号】P2022014816
(43)【公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】岩田 曉洋
(72)【発明者】
【氏名】秋月 通孝
(72)【発明者】
【氏名】矢島 清志
(72)【発明者】
【氏名】平山 哲也
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-100124(JP,A)
【文献】特開2003-056001(JP,A)
【文献】特開2004-308292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/44
E02D 5/48
E02D 5/34
E02D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体状の壁杭の一般部と、該一般部の二つの広幅面の少なくとも一方にある拡幅部と、を有する壁杭の造成方法であって、
カッタードラムを備える一般部掘削機により、前記直方体状の壁杭の一般部造成孔を造成するA工程と、
拡翼掘削機により、前記一般部造成孔の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部造成孔を造成し、この際、該拡幅部造成孔は設計深度以浅まで造成するとともに、前記一般部造成孔の下端に余掘り部を設けておき、該余掘り部に前記拡幅部造成孔を造成した際の掘削泥土を溜めておくB工程と、
前記一般部掘削機により、前記余掘り部に溜められている掘削泥土を排泥するC工程と、
前記拡翼掘削機にて前記拡幅部造成孔を設計深度まで造成することにより、該拡幅部造成孔の底部を底ざらいし、底ざらいの際に発生した底ざらい泥土を前記余掘り部に溜めておくD工程と、
前記一般部掘削機により、前記余掘り部に溜められている底ざらい泥土を排泥するE工程と、
前記一般部造成孔に鉄筋籠を設置し、該一般部造成孔と前記拡幅部造成孔にコンクリートを打設して拡幅部を有する壁杭を施工するF工程と、を有し、
前記拡翼掘削機は、
ベースマシンと、前記ベースマシンからワイヤにて吊り下げられている拡翼掘削体と、を有し、直方体状の壁杭の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部を有する壁杭の孔壁を造成する、拡翼掘削機であり、
前記拡翼掘削体は、
平面視において前記壁杭の壁厚に直交する方向に延出する回動軸を有し、孔壁に反力を取るスタビライザを有する架構と、
前記回動軸に対して前記壁杭の壁厚方向に回動自在な拡翼カッタと、
前記回動軸に対して前記拡翼カッタを回動させる回動駆動手段と、
前記拡翼カッタを回転させる回転駆動手段と、を有し、
前記拡翼カッタの底面に複数の掘削ビットが設けられていることを特徴とする、壁杭の施工方法。
【請求項2】
前記E工程では、前記余掘り部に吊り下ろされた前記カッタードラムの上端を、前記拡幅部造成孔の下端以深とすることを特徴とする、請求項に記載の壁杭の施工方法。
【請求項3】
前記B工程乃至前記E工程を、前記一般部造成孔の二つの広幅面に対してそれぞれ行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の壁杭の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続地中壁等の壁杭の支持力強化手法として、壁杭の有する二つの広幅面の一方もしくは双方に拡幅部(もしくは、拡底部、拡張部)を形成する(片側拡底、両側拡底)手法が挙げられる。この拡幅部により、壁杭の支持力の増加に加えて、壁杭の引抜き抵抗力の増加も図ることができる。そのため、アスペクト比が大きく、転倒モーメントが卓越して引抜き力が課題となり得る高層ビルや超高層ビル、高層タワー等の基礎杭として、拡幅部を有する壁杭は好適となる。尚、この拡幅部は、「突起」や「節」なとど称されることもあり、壁厚方向に直交する壁の延伸方向に間欠的に複数の突起状もしくは節状の拡幅部が形成される形態や、壁の延伸方向に連続する拡幅部が形成される形態などがある。
【0003】
従来、上記する拡幅部を有する壁杭の施工方法が種々提案されている。一つの施工方法は、鉛直方向を軸として回転するケリーバーと、このケリーバーの先端に取り付けられ、ケリーバーの回転に伴って回転して地盤を掘削する径方向に開閉自在なバケットと、を備える掘削装置を用いて、節状の拡張部が形成された杭を施工する杭施工方法である。より具体的には、予め形成された掘削孔に閉じた状態のバケットを挿入する工程と、バケットを開きながらケリーバーを所定の角度範囲で正回転および逆回転を繰り返して、バケットで掘削孔の内壁面の一部を掘削することにより、節状の拡張部に対応する拡張空間を形成する工程と、掘削孔の中にコンクリートを打設して節状の拡張部が形成された杭を形成する工程とを有する(例えば、特許文献1参照)。
他の施工方法は、平面形状が矩形状の矩形柱部を有する軸部と、地盤の支持層において軸部の底部が拡大した平面形状が円状の拡底部とを備え、拡底部は軸部の底部における全周に亘って側方に拡大するように構成されている杭の構築方法である。より具体的には、軸部を形成するための孔を掘削する第1工程と、第1工程の後に孔の底部を拡底する第2工程とを有する。第1工程では、地上から吊り下げられる掘削機本体、掘削機本体に設けられて水平軸の周りに回転する掘削歯、掘削機本体の姿勢を検出する姿勢検出装置、及び掘削機本体の姿勢を修正する姿勢修正装置を有するリバースサーキュレーション型で水平多軸型の掘削機を使用して掘削機本体の姿勢を姿勢検出装置により検出し、姿勢修正装置にて掘削機本体の姿勢を修正しながら孔を掘削する。第2工程では、複数の軸が接続されたロッド、ロッドの先端に取付けられた掘削機本体、及び掘削機本体に回転半径を調整可能に設けられた拡幅ビットを有するリバースサーキュレーション型の掘削機を使用して、第1工程で掘削した孔の底部を拡底する(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-45780号公報
【文献】特開2012-167450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2のいずれの壁杭の施工方法においても、拡底掘削機のベースマシンとしてアースドリル掘削機が適用され、ケリーバーの先端に拡底バケットを搭載し、所定の深度において拡底バケットを開き、バケットを回転させることにより拡底掘削を行う。このようにケリーバーを用いて拡底掘削する場合、駆動モータが地上部にあることから駆動トルクが低減され、掘削可能深度に限界があるといった課題を有している。また、例えば特許文献1においては、節状の拡張部のための孔を長方形状の掘削孔の一方側に形成することにより、隣地境界と干渉することなく拡張部を有する壁杭を施工できるとしている。しかしながら、ケリーバーにて拡底バケットを支持しながら掘削を行う方法であることから、掘削時の反力にてケリーバーが押されて拡底バケットが位置ずれし、掘削精度が低下するといった課題を有している。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、多様な掘削深度に対応でき、掘削精度に優れた壁杭の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による拡翼掘削機の一態様は、
ベースマシンと、前記ベースマシンからワイヤにて吊り下げられている拡翼掘削体と、を有し、直方体状の壁杭の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部を有する壁杭の孔壁を造成する、拡翼掘削機であって、
前記拡翼掘削体は、
平面視において前記壁杭の壁厚に直交する方向に延出する回動軸を有し、孔壁に反力を取るスタビライザを有する架構と、
前記回動軸に対して前記壁杭の壁厚方向に回動自在な拡翼カッタと、
前記回動軸に対して前記拡翼カッタを回動させる回動駆動手段と、
前記拡翼カッタを回転させる回転駆動手段と、を有し、
前記拡翼カッタの底面に複数の掘削ビットが設けられていることを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、ケリーバーを適用することなく、ワイヤにて吊り下げられている拡翼掘削体を適用する(ワイヤリングによる拡翼掘削体の投入)ことにより、拡翼掘削体が地中にて駆動できることから、多様な掘削深度に対応しながら壁杭の拡幅部の孔壁を造成することができる。また、スタビライザにて孔壁に反力を取りながら拡翼掘削体の姿勢制御を行うことにより、優れた掘削精度の下で壁杭の拡幅部の孔壁を造成することができる。
さらに、拡翼カッタの底面に複数の掘削ビットが設けられていることにより、造成された孔壁の底面に形成されるスライム(もしくはマッドケーキ)をこの拡翼カッタの底面の掘削ビットにて底ざらいでき、スライムによる構造弱部を内在する壁杭が施工されることを防止できる。ここで、上記するスライムは、孔壁の造成に際して、孔壁内に注入される孔壁防護用の泥水(安定液)が固化すること等により形成される。
ここで、「拡翼カッタの底面に複数の掘削ビットが設けられている」には、種々の形態が含まれる。一つの形態は、拡翼カッタの底面に文字通り複数の掘削ビットが設けられている形態であり、他の一つの形態は、拡翼カッタの底面に複数の掘削ビットが連続してなる平爪タイプの単数もしくは複数のスクレーパーが設けられている形態であり、さらに他の一つの形態は、拡翼カッタの底面に単数もしくは複数のスクレーパーと複数の掘削ビットの双方が設けられている形態である。
本態様の拡翼掘削機では、拡翼掘削体をワイヤにて吊り下げるベースマシンとして、クローラクレーンやトラッククレーン等を適用することができる。拡翼掘削体の有する架構において壁杭の壁厚に直交する方向に回動軸が延出し、この回動軸に対して拡翼カッタが壁杭の壁厚方向に回動自在に取り付けられている。すなわち、従来の透かし掘り掘削工法(SATT工法)のように、壁杭の壁厚方向に直交する方向(壁杭の延長方向)に拡翼カッタが回動して、埋設物等の直下を掘削する方法に対して、拡翼カッタの回動方向が90度相違する。直方体状の壁杭内にある回動軸を中心に拡翼カッタが回動しながら掘削を行うことにより、二つの広幅面の双方に拡幅部の孔壁を造成できることは勿論のこと、例えば二つの広幅面の一方側に官民境界等の隣地境界が存在する場合は、隣地境界の反対側となる広幅面の片方側にのみ拡幅部の孔壁を造成することができる。
【0009】
また、本発明による拡翼掘削機の他の態様において、前記拡翼カッタの先端には、該拡翼カッタの中心軸から径方向外側に延設する複数の径方向翼が設けられており、
各径方向翼の底面には、以下のいずれか一種のビット構成が設けられていることを特徴とするものであり、
(1)間隔を置いて複数の前記掘削ビットが設けられ、各径方向翼の備える各掘削ビットがそれぞれ、径方向の異なる位置に設けられている形態、
(2)各径方向翼の底面が、複数の前記掘削ビットが連続してなるスクレーパーである形態、
(3)各径方向翼のうち、一部の前記径方向翼の底面に複数の前記掘削ビットが設けられ、他の一部の前記径方向翼の底面が前記スクレーパーである形態。
【0010】
本態様によれば、拡翼カッタの先端(下端)において拡翼カッタの中心軸から径方向外側に延設する複数の径方向翼が設けられ、各径方向翼の底面において、間隔を置いて複数の掘削ビットが設けられ、各径方向翼の備える各掘削ビットがそれぞれ、径方向の異なる位置に設けられている形態、各径方向翼の底面が、複数の掘削ビットが連続してなるスクレーパーである形態、一部の径方向翼の底面に複数の掘削ビットが設けられ、他の一部の径方向翼の底面がスクレーパーである形態、のいずれか一種が設けられていることにより、拡翼カッタが回転した際に、切削漏れなく拡翼カッタの下端の地盤やスライム(もしくはマッドケーキ)を底ざらいすることが可能になる。
【0011】
また、本態様による拡翼掘削機では、回動軸の長手方向に複数の拡翼カッタが回動自在に並設されているのが好ましい。
この構成によれば、回動軸の長手方向にある複数の拡翼カッタが回動して掘削することにより、壁杭の延長方向に延びる拡幅部の孔壁を効率的に造成することができる。例えば、一つの回動軸に対して複数の拡翼カッタが回動自在に取り付けられている、一列多軸型の拡翼掘削機において、回動軸を中心に全ての拡翼カッタを同一方向である例えば時計回りに回動させることにより、直方体状の壁杭の二つの広幅面の一方に拡幅部の孔壁が造成される。次いで、回動軸を中心に全ての拡翼カッタを同一方向である他の反時計回りに回動させることにより、直方体状の壁杭の二つの広幅面の他方に拡幅部の孔壁を造成することができる。
【0012】
また、本態様による拡翼掘削機は、平面視において複数の回動軸が間隔を置いて並設し、それぞれの回動軸の長手方向に複数の拡翼カッタが回動自在に並設されていてもよい。
この構成によれば、複数の回動軸が間隔を置いて並設し、それぞれの回動軸の長手方向にある複数の拡翼カッタが回動して掘削することにより、壁杭の延長方向に延びる拡幅部の孔壁をより一層効率的に造成することができる。例えば、並設する二つの回動軸に対して複数の拡翼カッタが回動自在に取り付けられている、二列多軸型の拡翼掘削機において、一方の回動軸に取り付けられている全ての拡翼カッタを同一方向である例えば時計回りに回動させ、同時に、他方の回動軸に取り付けられている全ての拡翼カッタを同一方向である他の反時計回りに回動させることにより、直方体状の壁杭の二つの広幅面の双方に拡幅部の孔壁を同時に造成することができる。
【0013】
また、本態様による拡翼掘削機において、拡翼掘削機は排泥ポンプをさらに有し、拡翼カッタは、回動軸に対して回動するシャフトと、シャフトの周囲に配設されている掘削ビットとを有し、複数の拡翼カッタのうち、少なくとも一つの拡翼カッタの有するシャフトには、排泥ポンプに連通して掘削泥が通過する排泥通路が形成されていてもよい。
この構成によれば、拡幅部の孔壁を造成した際に直方体状の壁杭の内部に溜まる掘削泥土を、拡翼カッタの有するシャフト内の排泥通路を介して排泥ポンプにて排泥することができる。そのため、例えば、直方体状の壁杭(壁杭一般部)の孔壁を造成する際に適用される排泥機構を有する例えば回転式掘削機と、拡幅部の孔壁を造成する際に適用される拡翼掘削機とを交互に入れ替えることなく、拡翼掘削機により、拡幅部の孔壁を造成と発生した掘削泥土の排泥を行うことが可能になる。
【0014】
また、本態様による拡翼掘削機において、拡翼掘削機は給水ポンプをさらに有し、複数の拡翼カッタのうち、少なくとも一つの拡翼カッタ(例えば、三本の拡翼カッタのうちの中央の拡翼カッタ)の有するシャフトは、内管と外管を有する二重管構造を備えており、内管と外管のいずれか一方は排泥通路であり、他方は給水ポンプから提供された流体を掘削ビットに給水する給水通路であってもよい。例えば、内管と外管の間に給水を行い、内管を介して排泥される形態では、外管に注水孔を設け、当該注水孔を介して内管と外管の間に給水してもよいし、地上から内管と外管の間に給水を行ってもよい。この構成によれば、例えば粘着力のあるシルト層等を拡翼カッタが掘削した際に、掘削ビットに掘削泥土が付着した場合においても、給水ポンプから提供された流体を給水通路を介して掘削ビットに供給することにより掘削ビットから掘削泥土を取り除くことができる。そのため、掘削ビットに掘削泥土が付着して掘削不能になるといった問題は生じない。
また、拡翼カッタの先端にある土砂の粒径が大きい場合には、拡翼カッタの先端部で閉塞する恐れがあることから、拡翼カッタの先端部には粒径の大きな土砂をはね除ける棒状部材が設けられていてもよく、この構成により円滑な排泥が可能になる。
【0015】
また、本発明による壁杭の施工方法の一態様は、
直方体状の壁杭の一般部と、該一般部の二つの広幅面の少なくとも一方にある拡幅部と、を有する壁杭の造成方法であって、
カッタードラムを備える一般部掘削機により、前記直方体状の壁杭の一般部造成孔を造成するA工程と、
前記拡翼掘削機により、前記一般部造成孔の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部造成孔を造成し、この際、該拡幅部造成孔は設計深度以浅まで造成するとともに、前記一般部造成孔の下端に余掘り部を設けておき、該余掘り部に前記拡幅部造成孔を造成した際の掘削泥土を溜めておくB工程と、
前記一般部掘削機により、前記余掘り部に溜められている掘削泥土を排泥するC工程と、
前記拡翼掘削機にて前記拡幅部造成孔を設計深度まで造成することにより、該拡幅部造成孔の底部を底ざらいし、底ざらいの際に発生した底ざらい泥土を前記余掘り部に溜めておくD工程と、
前記一般部掘削機により、前記余掘り部に溜められている底ざらい泥土を排泥するE工程と、
前記一般部造成孔に鉄筋籠を設置し、該一般部造成孔と前記拡幅部造成孔にコンクリートを打設して拡幅部を有する壁杭を施工するF工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、一般部掘削機による一般部造成孔(もしくはガイド造成孔)の造成と、本発明による拡翼掘削機による拡幅部造成孔の造成により、直方体状の壁杭の一般部とこの一般部の二つの広幅面の少なくとも一方にある拡幅部とを有する壁杭の孔壁を効率的に造成することができる。一般部造成孔の造成の後、拡幅部造成孔の造成に際しては、一般部造成孔の下端に余掘り部を設けておくことにより、拡幅部造成孔を造成した際に発生する掘削泥土を一時的に仮溜めしておくことができ、その後に一般部掘削機による排泥をスムーズに行うことができる。
さらに、拡幅部造成孔を造成するB工程においては、拡幅部造成孔を設計深度まで造成せず、設計深度以浅まで造成しておき、その後のD工程において、拡翼掘削機にて拡幅部造成孔を設計深度まで造成し、拡幅部造成孔の底部を底ざらいすることにより、泥水(安定液)が固化することにより形成されるスライム(もしくはマッドケーキ)が拡幅部造成孔の底部に残存ことを解消でき、スライム等による構造弱部を内在する壁杭が施工されることを防止できる。
ここで、「一般部掘削機」としては、例えば、排泥機構を有する水平多軸型掘削機等が挙げられ、本発明による拡翼掘削機とは異なる形態の掘削機である。
【0017】
また、本発明による壁杭の施工方法の他の態様において、前記E工程では、前記余掘り部に吊り下ろされた前記カッタードラムの上端を、前記拡幅部造成孔の下端以深とすることを特徴とする。
本態様によれば、D工程において拡翼掘削機にて拡幅部造成孔を設計深度まで造成し、拡幅部造成孔の底部を底ざらいした後、次のE工程において、余掘り部に吊り下ろされた一般部掘削機を構成するカッタードラムの上端を、拡幅部造成孔の下端以深とすることにより、カッタードラムにて回収された底ざらい泥土(除去されたスライム)が底ざらいされた拡幅部造成孔の底部の上に戻されることを防止できる。
【0018】
また、本発明による壁杭の施工方法の他の態様は、前記B工程乃至前記E工程を、前記一般部造成孔の二つの広幅面に対してそれぞれ行うことを特徴とする。
本態様によれば、例えば本発明による一列多軸型の拡翼掘削機を適用することにより、B工程乃至E工程にて直方体状の一般部造成孔の二つの広幅面の一方に拡幅部造成孔を造成し、次いで、同様にB工程乃至E工程にて一般部造成孔の広幅面の他方にも拡幅部造成孔を造成することができる。
また、本態様において、複数の回動軸が並設されている拡翼掘削機を使用する場合には、B工程乃至E工程を一般部造成孔の二つの広幅面に対して同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の壁杭の施工方法によれば、多様な掘削深度に対応でき、優れた掘削精度の下で拡幅部を有する壁杭を造成することができる。

【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る拡翼掘削機の一例の側面図である。
図2】実施形態に係る拡翼掘削機の有する拡翼掘削体の一例の正面図である。
図3図2のIII方向矢視図であって、拡翼掘削体の一例の側面図である。
図4図2のIV方向矢視図であって、拡翼カッタの先端を斜め下方から見た斜視図である。
図5】拡翼掘削体の有する回動駆動手段の一例の側面図である。
図6】実施形態に係る壁杭の施工方法の一例の工程図である。
図7図6に続き、実施形態に係る壁杭の施工方法の一例の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態に係る拡翼掘削機と壁杭の施工方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0022】
[実施形態に係る拡翼掘削機]
はじめに、図1乃至図5を参照して、実施形態に係る拡翼掘削機の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る拡翼掘削機の一例の側面図であり、図2は、実施形態に係る拡翼掘削機の有する拡翼掘削体の一例の正面図である。また、図3は、図2のIII方向矢視図であって、拡翼掘削体の一例の側面図であり、図4は、図2のIV方向矢視図であって、拡翼カッタの先端を斜め下方から見た斜視図である。さらに、図5は、拡翼掘削体の有する回動駆動手段の一例の側面図である。
【0023】
拡翼掘削機50は、例えば、直方体状の壁杭の一般部と、この一般部の二つの広幅面の少なくとも一方にある拡幅部と、を有する壁杭の施工に当たり、直方体状の壁杭の一般部造成孔D1(もしくはガイド造成孔)から拡幅部造成孔D2を造成する際に適用される掘削機であり、一般部造成孔D1の造成は後述するように水平多軸型掘削機等の一般部掘削機により行われる。尚、造成される壁杭は、直方体状の壁杭の一般部の二つの広幅面の双方において、もしくは、二つの広幅面の一方において、壁の延伸方向に間欠的に複数の突起状もしくは節状の拡幅部が形成される形態や、壁の延伸方向に連続する拡幅部が形成される形態などがある。
【0024】
拡翼掘削機50は、地盤Gの地表面において走行自在なクローラクレーンからなるベースマシン10と、ベースマシン10のブームから吊り下げられているワイヤ20と、ワイヤ20の先端に取り付けられている拡翼掘削体30とを有する。尚、ベースマシン10は、クローラクレーン以外にも、走行自在であって、ワイヤ20を介して拡翼掘削体30を掘削孔内にワイヤリングできるトラッククレーン等の他の重機であってもよい。
【0025】
拡翼掘削体30は、鋼材を組み付けて構成された架構31と、架構31の側方において孔壁側へ伸縮自在なスタビライザ32と、架構31の下端にある回動軸34に回動自在に取り付けられている複数の拡翼カッタ33とを有する。
【0026】
図1に示す一般部造成孔D1は、壁厚方向が視認できるように図示されており、壁杭の壁厚方向に直交する方向(壁杭の延長方向)が紙面に直交する方向となる。図示する拡翼カッタ33は、壁杭の壁厚に直交する方向に延出する回動軸34を中心に壁厚方向であるX1方向やX2方向に回動することにより、拡幅部造成孔D2を造成する。すなわち、従来の透かし掘り掘削工法(SATT工法)のように、壁杭の壁厚方向に直交する方向に拡翼カッタが回動して、埋設物等の直下を掘削する方法に対して、拡翼カッタ33の回動方向は90度相違する。図1においては、一般部造成孔D1の二つの広幅面に対してそれぞれ拡幅部造成孔D2が造成されることにより形成される壁杭造成孔Dが示されているが、例えば、一般部造成孔D1の左側に官民境界等の隣地境界が存在する場合は、隣地境界の反対側となる一般部造成孔D1の広幅面の右側にのみ拡幅部造成孔D2が造成されることにより、壁杭造成孔Dが形成される。
【0027】
また、図1に示す拡翼掘削機50は、地上に載置されている排泥ポンプ40を有しており、拡翼カッタ33の有する排泥通路に連通する流通管38が排泥ポンプ40に通じている。排泥ポンプ40を稼働させることにより、拡翼カッタ33にて掘削されて発生した泥土を地上に排泥することができるようになっており、排泥機構を備えた一般の水平多軸型掘削機と同様に拡翼掘削機50も排泥自在となっている。
【0028】
図2及び図3に示すように、架構31の下端には、一本の回動軸34が壁杭の壁厚に直交する方向に延出しており、回動軸34には複数(図示例は三本)の拡翼カッタ33が回動自在に並設している。このように、図示例の拡翼掘削機50は、一列多軸型(一列三軸型)の掘削機である。尚、図2等において、給水ポンプの図示は省略している。
【0029】
三本の拡翼カッタ33のうち、左右端の拡翼カッタ33の頭部には自身を回転させる回転モータ35(回転駆動手段の一例)が搭載されており、中央の拡翼カッタ33Aはギヤリング36を介して左側の回転モータ35から伝達された駆動力により回転自在となっている。従って、図4に示すように、左端の拡翼カッタ33のY1方向の回転によって中央の拡翼カッタ33Aがギアを介してY2方向に回転する。右端の拡翼カッタ33は中央の拡翼カッタ33Aとは独立して自身の回転モータ35によりY2方向に回転する。
【0030】
図2に示すように、拡翼カッタ33,33Aは、回動軸34に対して回動するシャフト33aと、シャフト33aの周囲に配設されている複数の掘削ビット33bとを有し、さらにそれらの先端には、径方向外側に延設する複数の径方向翼33cを有し、各径方向翼33cの底面には間隔を置いて複数の掘削ビット33dが設けられている。そして、隣接する拡翼カッタ33,33Aは、双方の掘削ビット33bが干渉しない態様で相互に一部ラップするようにして配設されている。そのため、拡翼カッタ33,33Aの各シャフト33aが回転して掘削した際に、掘削されない領域が発生することはなく、全体が均一に三本の拡翼カッタ33,33Aにより掘削される。
【0031】
中央の拡翼カッタ33Aが頭部に回転モータ35を備えていないことにより、排泥ポンプ40に通じている流通管38と中空のシャフト33aを連通させることができる。
【0032】
また、図3に示すように、架構31の上下の左右位置において、孔壁側へX3方向に伸縮自在な複数のスタビライザ32が配設されており、各スタビライザ32を適宜伸長することにより、孔壁に反力を取りながら拡翼掘削体30の姿勢制御を実行することができる。すなわち、各スタビライザ32により拡翼掘削体30の姿勢制御が行われた後、回動軸34を中心に各拡翼カッタ33,33Aを同一方向に所望角度までX1方向もしくはX2方向に回動させることにより、一般部造成孔D1の二つの広幅面の少なくとも一方において、高い掘削精度の下で拡幅部造成孔D2を造成することが可能になる。尚、スタビライザ32による伸長量を調整することにより、多様な壁厚の一般部造成孔D1を造成することができる。
【0033】
尚、図3において、一般部造成孔D1の下方に余掘り部D3を形成するようにして拡幅部造成孔D2の造成が行われる。このことにより、拡幅部造成孔D2の造成の際に発生した掘削泥土を余掘り部D3に仮に溜めておくことができ、水平多軸型掘削機等の一般部掘削機や拡翼掘削機50にて余掘り部D3から掘削泥土を排泥することが可能になる。
【0034】
また、図4に示すように、拡翼カッタ33,33Aはいずれも、それらの先端において、拡翼カッタ33,33Aの中心軸(中心点P)から径方向外側に延設する複数の径方向翼33c1,33c2を備えており、各径方向翼33c1,33c2の底面に間隔を置いて複数の掘削ビット33d1,33d2が設けられている。
【0035】
そして、拡翼カッタ33,33Aにおいてはいずれも、各径方向翼33c1,33c2の備える複数の掘削ビット33d1,33d2がそれぞれ、径方向の異なる位置に設けられている。この構成により、拡翼カッタ33,33Aが回転した際に、回転軌跡(回転半径)の異なる全ての掘削ビット33d1,33d2によって隙間無く、面的に拡翼カッタ33,33Aの先端の地盤や以下で説明する孔壁の底面に形成されるスライム(もしくはマッドケーキ)を切削(底ざらい)することが可能になる。尚、図示を省略するが、図示例の複数の掘削ビット33d1,33d2を有する形態の他にも、各径方向翼の底面が平爪タイプのスクレーパーである形態や、一部の径方向翼の底面に複数の掘削ビットが設けられ、他の一部の径方向翼の底面が平爪タイプのスクレーパーである、掘削ビットとスクレーパーの双方を備えている形態などであってもよい。
【0036】
また、図5に示すように、回動軸34を中心とした複数の拡翼カッタ33,33Aの回動は、回動軸34の上方斜め左右位置にある二本の油圧シリンダ37(回動駆動手段の一例)により実行される。図5に示すように、複数の拡翼カッタ33,33Aを左方向であるX1方向に回動させる際には、右側にある油圧シリンダ37のピストンロッド37aをZ1方向に伸長させることにより、ピストンロッド37aの先端に回動自在に装着されているリンク37bを介して、複数の拡翼カッタ33,33Aを同時にX1方向に回動させることができる。一方、複数の拡翼カッタ33,33Aを右方向であるX2方向に回動させる際には、左側にある油圧シリンダ37のピストンロッド37aをZ2方向に伸長させることにより、ピストンロッド37aの先端に回動自在に装着されているリンク37bを介して、複数の拡翼カッタ33,33Aを同時にX2方向に回動させることができる。
【0037】
尚、図示を省略するが、中央の拡翼カッタ33Aは、シャフト33aの中央に排泥通路を有し、例えば、図3に示す拡幅部造成孔D2の造成の際に発生した掘削泥土を、排泥ポンプ40の稼働により、排泥通路を介し、流通管38を介して地上に排泥することができる。また、拡翼カッタ33Aは、内管と外管を有する二重管構造を備えていてもよい。この形態では、内管が排泥通路となり、外管が給水ポンプから提供された流体を掘削ビット33b、33dに給水する給水通路となっている。例えば粘着力のあるシルト層等を拡翼カッタ33が掘削した際に、掘削ビット33b、33dに掘削泥土が付着した場合においても、給水通路を介して給水ポンプから提供された流体を掘削ビット33b、33dに供給することにより掘削ビット33b、33dから掘削泥土を取り除くことができる。このように、三本の拡翼カッタ33,33Aのうち、中央に位置する拡翼カッタ33Aが排泥通路と給水通路を有する二重管構造を備えている形態においては、図1において、地上には、給水ポンプと給水タンク(いずれも図示せず)がさらに載置される。
【0038】
拡翼掘削機50によれば、ケリーバーを適用することなく、ワイヤ20にて吊り下げられている拡翼掘削体30を一般部造成孔D1にワイヤリングして拡幅部造成孔D2を造成することにより、拡翼掘削体30が地中にて駆動できることから、多様な掘削深度に対応しながら拡幅部造成孔D2を造成することができる。また、スタビライザ32にて孔壁に反力を取りながら拡翼掘削体30の姿勢制御を行うことにより、優れた掘削精度の下で拡幅部造成孔D2を造成することができる。
【0039】
[実施形態に係る壁杭の施工方法]
次に、図6及び図7を参照して、実施形態に係る壁杭の施工方法の一例について説明する。ここで、図6は、(a)から(e)にかけて順に、実施形態に係る壁杭の施工方法の一例の工程図であり、図7は、図6の(e)に続いて、(f)から(i)にかけて順に、実施形態に係る壁杭の施工方法の一例の工程図である。尚、図6及び図7に示す施工方法は、図1乃至図5に示す一列多軸型の拡翼掘削体30を有する拡翼掘削機50により拡幅部造成孔D2を造成し、壁杭を施工する方法である。
【0040】
工程(a)において、例えば低空頭の水平多軸型掘削機からなる一般部掘削機70により、直方体状の壁杭の一般部造成孔D1を造成する。左右一対のカッタは、掘削機本体の下端に配設されている水平二軸のカッタードラム71であり、油圧ユニットに動力ケーブルを介して接続され、油圧ユニットの駆動力により回転して地盤を解す。また、排泥ポンプ72はホースを介して土砂分離機(図示せず)に接続され、孔内から孔内水とともに土砂を吸い上げて土砂分離機に送るようになっている。ここで、孔内には、孔壁防護用の泥水(安定液)が注入されている(以上、A工程)。
【0041】
一般部造成孔D1が造成された後、工程(b)において、一般部掘削機70と拡翼掘削機50を交換し、クローラクレーンからなるベースマシン10から吊り下げられているワイヤ20を介して、拡翼掘削体30を一般部造成孔D1の所定深度まで吊り下げる。そして、拡翼掘削体30の有する複数のスタビライザ32にて孔壁に反力を取りながら、拡翼掘削体30の姿勢制御を行う。
【0042】
次いで、工程(c)において、回動軸34を中心に、複数の拡翼カッタ33を一般部造成孔D1の左側へX1方向に所定の回動角度まで回動させながら掘削を行うことにより、一般部造成孔D1の左側において拡幅部造成孔中間体D2'を造成する。ここで、拡幅部造成孔中間体D2'は、最終的に造成される拡幅部造成孔D2(図7の(f)等参照)の有する設計深度よりも深さtだけ浅い位置まで造成されている造成孔である。この深さtは、例えば50mm程度に設定できる。
【0043】
ここで、拡幅部造成孔中間体D2'の造成に当たり、一般部造成孔D1の下方に余掘り部D3を形成するようにして拡幅部造成孔中間体D2'の造成を行う。このことにより、拡幅部造成孔中間体D2'の造成の際に発生した掘削泥土を、余掘り部D3に仮に溜めておくことができる。
【0044】
次いで、工程(d)において、回動軸34を中心に、複数の拡翼カッタ33を一般部造成孔D1の右側へX2方向に所定の回動角度まで回動させながら掘削を行うことにより、一般部造成孔D1の右側においても拡幅部造成孔中間体D2'を造成する。ここで造成される拡幅部造成孔中間体D2'も、最終的に造成される拡幅部造成孔D2(図7の(g)等参照)の有する設計深度よりも深さtだけ浅い位置まで造成されている造成孔である(以上、B工程)。
【0045】
次いで、工程(e)において、拡翼掘削機50と一般部掘削機70を交換し、一般部掘削機70にて余掘り部D3に仮溜めされている掘削泥土を外部に排泥する。尚、工程(c)や工程(d)において、排泥ポンプ40を稼働させることにより、拡翼掘削機50にて掘削泥土の一部を排泥することもできる(以上、C工程)。
【0046】
余掘り部D3から掘削泥土を排泥した後、図7の工程(f)において、一般部掘削機70と拡翼掘削機50を再度交換し、拡翼掘削体30を一般部造成孔D1の所定深度まで吊り下げ、スタビライザ32にて孔壁に反力を取りながら拡翼掘削体30の姿勢制御を行う。そして、回動軸34を中心に、複数の拡翼カッタ33を一般部造成孔D1の左側へX1方向に所定の回動角度まで回動させながら設計深度まで掘削を行うことにより、一般部造成孔D1の左側において拡幅部造成孔D2を造成する。この掘削においては、未掘削の深さtに相当する箇所の地盤が掘削されることにより、拡幅部造成孔D2の底部D2aが底ざらいされ、底ざらいの際に発生した底ざらい泥土が余掘り部D3に溜められる。
【0047】
次いで、工程(g)において、回動軸34を中心に、複数の拡翼カッタ33を一般部造成孔D1の右側へX2方向に所定の回動角度まで回動させながら掘削を行うことにより、一般部造成孔D1の右側においても拡幅部造成孔D2を造成する。この掘削においても、未掘削の深さtに相当する箇所の地盤が掘削されることにより、拡幅部造成孔D2の底部D2aが底ざらいされ、底ざらいの際に発生した底ざらい泥土が余掘り部D3に溜められる。
【0048】
このように、拡幅部造成孔D2の底部D2aを底ざらいしながら拡幅部造成孔D2を造成することにより、拡幅部造成孔D2の底面D2aにスライム(もしくはマッドケーキ)が残存し、残存したスライム等に起因した構造弱部を内在する壁杭が施工されることを防止できる(以上、D工程)。
【0049】
次いで、工程(h)において、拡翼掘削機50と一般部掘削機70を再度交換し、一般部掘削機70にて余掘り部D3に仮溜めされている底ざらい泥土を外部に排泥することにより、工程(i)に示すように、一般部造成孔D1と左右の拡幅部造成孔D2により形成される壁杭造成孔Dを造成する。
【0050】
この際、一般部掘削機70のカッタードラム71の上端が、拡幅部造成孔D2の底面D2a(下端)以深となるように、余掘り部D3の深さとカッタードラム71の高さが設定されている。このように、カッタードラム71の上端を、拡幅部造成孔D2の底面D2a(下端)以深とすることにより、カッタードラム71にて回収された底ざらい泥土(除去されたスライム)が底ざらいされた拡幅部造成孔D2の底部D2aの上に戻されることを防止できる(以上、E工程)。
【0051】
壁杭造成孔Dが造成された後、図示を省略するが、一般部造成孔D1に鉄筋籠を設置し、一般部造成孔D1と拡幅部造成孔D2にコンクリートを打設して拡幅部を有する壁杭を施工する(以上、F工程)。
【0052】
図示する壁杭の施工方法によれば、拡幅部造成孔D2の造成に際して拡翼掘削機50を適用することにより、多様な掘削深度に対応しながら拡幅部造成孔D2を造成することができる。また、孔壁に反力を取りながら拡翼掘削体30の姿勢制御を行うことにより、優れた掘削精度の下で拡幅部造成孔D2を造成することができる。さらに、拡幅部造成孔を造成するB工程においては、拡幅部造成孔を設計深度まで造成せず、設計深度以浅まで造成しておき、その後のD工程において、拡翼掘削機50にて拡幅部造成孔D2を設計深度まで造成し、拡幅部造成孔D2の底部D2aを底ざらいすることにより、泥水(安定液)が固化することにより形成されるスライム(もしくはマッドケーキ)が拡幅部造成孔D2の底部D2aに残存ことを解消でき、スライムによる構造弱部を内在する壁杭が施工されることを防止できる。尚、一般部造成孔D1の一方側に官民境界等の隣地境界が存在する場合は、隣地境界の反対側となる片方側にのみ拡幅部造成孔D2を造成し、壁杭が施工される。
【0053】
図示を省略するが、二列多軸型の拡翼掘削体を有する拡翼掘削機により拡幅部造成孔D2を造成し、壁杭を施工する方法であってもよい。この造成方法では、二列の回動軸を中心に複数の拡翼カッタを一般部造成孔の左右側へ所定の回動角度まで同時に回動させながら掘削を行うことにより、一般部造成孔の左右側においてそれぞれ拡幅部造成孔を効率的に造成することが可能になる。
【0054】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0055】
10:ベースマシン
20:ワイヤ
30:拡翼掘削体
31:架構
32:スタビライザ
33:拡翼カッタ
33a:シャフト
33b:掘削ビット
33c、33c1,33c2:径方向翼
33d、33d1,33d2:掘削ビット
34:回動軸
35:回転駆動手段(回転モータ)
36:ギヤリング
37:回動駆動手段(油圧シリンダ)
37a:ピストンロッド
37b:リンク
38:流通管
40:排泥ポンプ
50:拡翼掘削機
70:一般部掘削機(水平多軸型掘削機)
71:カッタードラム
72:排泥ポンプ
G:地盤
D:壁杭造成孔
D1:一般部造成孔
D2:拡幅部造成孔
D2a:底部
D2':拡幅部造成孔中間体
D3:余掘り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7