(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】電力変換システム、その制御方法およびそれを搭載した鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20231221BHJP
B60L 13/00 20060101ALI20231221BHJP
B60L 50/53 20190101ALI20231221BHJP
B60L 58/10 20190101ALI20231221BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20231221BHJP
【FI】
B60L3/00 C
B60L13/00 D
B60L50/53
B60L58/10
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2020118347
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安東 正登
(72)【発明者】
【氏名】篠宮 健志
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特公昭53-047496(JP,B1)
【文献】特開昭50-021407(JP,A)
【文献】特開昭48-087509(JP,A)
【文献】特開2012-034537(JP,A)
【文献】特開昭59-002502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B60L 13/00
B60L 50/53
B60L 58/10
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架線から第一の開放手段、第二の開放手段および第一のフィルタリアクトルを介して直流電力を交流電力に変換してモータを駆動するインバータ装置と、
前記架線から前記第一の開放手段、第三の開放手段および第二のフィルタリアクトルを介して直流電力を直流直流変換して第三のリアクトルを介して蓄電池の電力を制御するチョッパ装置と、
前記チョッパ装置と前記蓄電池との間に接続した第一の接触器と、
前記第一の開放手段と前記蓄電池との間に接続した第二の接触器と
、
前記第二の開放手段に対して並列に接続した第三の接触器および第一の抵抗器の直列回路と、
前記インバータ装置の直流側に、フィルタキャパシタと当該フィルタキャパシタに対して並列に接続した第一のスイッチング素子および第二の抵抗器の直列回路と
を備え、
前記チョッパ装置の故障検出および前記架線の停電検出に応じて
、前記第一から前記第三の開放手段および前記第一の接触器が開放され、続いて前記第一のスイッチング素子が第一の所定期間オン状態となった後に、前記第二および前記第三の接触器が投入されて当該第三の接触器が第二の所定期間オン状態となる
ことを特徴とする電力変換システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換システムであって、
前記第一の開放手段は遮断器
であり、前記第二および前記第三の開放手段は接触器であ
る
ことを特徴とする電力変換システム。
【請求項3】
架線から第一の開放手段、第二の開放手段および第一のフィルタリアクトルを介して直流電力を交流電力に変換しモータを駆動するインバータ装置と、
前記第二の開放手段に対して並列に接続した第一の抵抗器および第一の接触器の直列回路と、
前記第一の抵抗器と前記第一の接触器との接続点から第三の開放手段、第二のフィルタリアクトルを介して直流電力を直流直流変換して第三のリアクトルを介して蓄電池の電力を制御するチョッパ装置と、
前記チョッパ装置と前記蓄電池との間に接続した第二の接触器と、
前記第一の開放手段と前記蓄電池との間に接続した第三の接触器と、
前記インバータ装置の直流側に、フィルタキャパシタと当該フィルタキャパシタに対して並列に接続した第一のスイッチング素子および第二の抵抗器の直列回路と
を備え、
前記
チョッパ装置の故障検出および前記
架線の停電検出に応じて、前記第一から前記第三の開放手段および前記第
二の接触器が開放され、続いて前記第一のスイッチング素子が第一の所定期間オン状態となった後に、前記第
一および前記第三の接触器が投入されて当該第
一の接触器が第二の所定期間オン状態となる
ことを特徴とする電力変換システム。
【請求項4】
請求項
3に記載の電力変換システムであって、
前記第一の開放手段は
遮断器であり、前記第二および前記第三の開放手段は
接触器であ
る
ことを特徴とする電力変換システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電力変換システムであって、
前記インバータ装置および前記チョッパ装置を構成する少なくとも一つのスイッチング素子は、シリコンまたはシリコンより大きいバンドギャップを有する半導体材料を母材とする
ことを特徴とする電力変換システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の電力変換システムであって、
前記インバータ装置および前記チョッパ装置を構成する少なくとも一つのスイッチング素子は、MOSFETまたはIGBTの電圧駆動型素子である
ことを特徴とする電力変換システム。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の電力変換システム
を搭載した鉄道車両。
【請求項8】
架線と当該架線からの直流電力を交流電力に変換してモータを駆動するインバータ装置との間に設けた第一の開放手段および第二の開放手段と、
前記第二の開放手段に対して並列に接続した第三の接触器および第一の抵抗器の直列回路と、
前記第一の開放手段と当該第一の開放手段を介して前記架線からの直流電力を直流直流変換して蓄電池の電力を制御するチョッパ装置との間に設けた第三の開放手段と、
前記チョッパ装置と前記蓄電池との間に接続した第一の接触器と、
前記第一の開放手段と前記蓄電池との間に接続した第二の接触器と、
前記インバータ装置の直流側に接続したフィルタキャパシタに並列に設けた第一のスイッチング素子および第二の抵抗器の直列回路と
を備える電力変換システムの制御方法であって、
前記チョッパ装置の故障検出に応じて、前記第三の開放手段および前記第一の接触器を開放する第1ステップと、
前記第1ステップに続く前記架線の停電検出に応じて、前記第一および前記第二の開放手段を開放すると共に前記第一のスイッチング素子を第一の所定期間オン状態にする第2ステップと、
前記第一の所定期間後に前記第二および前記第三の接触器を投入して当該第三の接触器を第二の所定期間オン状態にする第3ステップと
を有する電力変換システムの制御方法。
【請求項9】
架線と当該架線からの直流電力を交流電力に変換してモータを駆動するインバータ装置との間に設けた第一の開放手段および第二の開放手段と、
前記第二の開放手段に対して並列に接続した第一の抵抗器および第一の接触器の直列回路と、
前記第一の抵抗器と前記第一の接触器との接続点から前記第一の開放手段
および前記第一の抵抗器を介して前記架線からの直流電力を直流直流変換して蓄電池の電力を制御するチョッパ装置との間に設けた第三の開放手段と、
前記チョッパ装置と前記蓄電池との間に接続した第
二の接触器と、
前記第一の開放手段と前記蓄電池との間に接続した第
三の接触器と、
前記インバータ装置の直流側に接続したフィルタキャパシタに並列に設けた第一のスイッチング素子および第二の抵抗器の直列回路と
を備える電力変換システムの制御方法であって、
前記チョッパ装置の故障検出に応じて、前記第三の開放手段および前記第二の接触器を開放する第1ステップと、
前記第1ステップに続く前記架線の停電検出に応じて、前記第一および前記第二の開放手段を開放すると共に前記第一のスイッチング素子を第一の所定期間オン状態にする第2ステップと、
前記第一の所定期間後に前記第一および前記第三の接触器を投入して当該第一の接触器を第二の所定期間オン状態にする第3ステップと
を有する電力変換システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池からの電力も併用する電力変換システム、該システムの制御方法および該システムを搭載した鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道駆動システムにおける車両駆動用の電力は、架線から供給される。架線の電力は、変電所から供給されることから、変電所で事故が発生すると架線は停電する。そのため、架線が停電すると、モータ駆動用インバータ装置に電力を供給できず、車両は移動することができなくなる。
【0003】
そこで近年では、架線停電時に最寄り駅まで移動することを目的として、車両に非常走行用の蓄電池が搭載されつつある。また、蓄電池は、車両がブレーキ時に発生する回生電力を吸収することができ、省エネルギー化にも貢献できる。
【0004】
蓄電池を搭載した鉄道駆動システムにおいて、架線の電圧と蓄電池の電圧とが異なる場合がある。この場合、チョッパ装置を用いて直流-直流電力変換することで、蓄電池の充放電は制御される。すなわち、架線と蓄電池との間にチョッパ装置が接続される構成となる。しかし、チョッパ装置は、半導体素子を用いたスイッチング動作により充放電電力を制御するため、偶発的に故障することがある。ここで、チョッパ装置が故障した場合には、蓄電池を充放電できなくなるため、車両は非常走行することができない。
【0005】
チョッパ装置を用いて蓄電池システムを制御する技術の中で、この問題に対処する技術として、例えば特許文献1には、以下の技術が開示されている。すなわち、「第1外部接続部と第2外部接続部と高電圧端子と低電圧端子とを備えた一又は複数相の双方向チョッパ回路と主回路が低電圧側端子と接続される蓄電池装置と、高電圧端子と第1外部接続部とを電気的に接続する経路に設けられた第1接触器と、蓄電池装置の主回路と低電圧側端子とを電気的に接続する経路に設けられた第2接触器と、蓄電池装置の主回路と第1外部接続部とを電気的に接続する経路に設けられた第3接触器と、蓄電池装置の主回路と第2外部接続部とを電気的に接続する経路に設けられた第4接触器とを備える」ことを特徴とする技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、非常走行時に、チョッパ装置を介することなく、蓄電池から電力変換装置(インバータ装置)へ電力を供給することを可能にするが、後述するように、接続する接触器の切り替え時に蓄電池に過大な電流が流れ、蓄電池や接触器の寿命を低下させるという課題が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る電力変換システムの代表例として、電力変換システムは、架線から第一の開放手段、第二の開放手段および第一のフィルタリアクトルを介して直流電力を交流電力に変換してモータを駆動するインバータ装置と、架線から第一の開放手段、第三の開放手段および第二のフィルタリアクトルを介して直流電力を直流直流変換して第三のリアクトルを介して蓄電池の電力を制御するチョッパ装置と、チョッパ装置と蓄電池との間に接続した第一の接触器と、第一の開放手段と蓄電池との間に接続した第二の接触器と、第二の開放手段に対して並列に接続した第三の接触器および第一の抵抗器の直列回路と、インバータ装置の直流側にフィルタキャパシタと当該フィルタキャパシタに対して並列に接続した第一のスイッチング素子および第二の抵抗器の直列回路とを備え、チョッパ装置の故障検出および架線の停電検出に応じて、第一から第三の開放手段および第一の接触器が開放され、続いて第一のスイッチング素子が第一の所定期間オン状態となった後に、第二および第三の接触器が投入されて当該第三の接触器が第二の所定期間オン状態となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非常走行時に、チョッパ装置が故障であっても、蓄電池からインバータ装置に対して過電流等の不具合を伴うことなく安定した電力供給の下で非常走行が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る鉄道車両の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る電力変換システムの回路構成を示す図である。
【
図3】非常走行開始時のタイミングチャートを示す図である。
【
図4】実施例1に係る電力変換システムの動作フローチャートを示す図である。
【
図5】実施例1に係る電力変換システムのタイミングチャートを示す図である。
【
図6】本発明の実施例2に係る電力変換システムの回路構成を示す図である。
【
図7】本発明の実施例3に係る電力変換システムの回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態として、実施例1~3について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る鉄道車両の概略構成を示す図である。
鉄道車両を加速するための力行動作では、架線1から集電装置7を介して車両8に電力が供給される。実施例1に係る鉄道車両を駆動するための電装品は、インバータ装置6、チョッパ装置9、接触器箱10、フィルタリアクトル箱15および蓄電池20である。
【0012】
なお、
図1では各電装品を別箱の形態で記載しているが、電装品の一部もしくはすべてを一体箱に格納し、実装密度を高密度化してもよい。
また、架線1の電圧値としては、直流600V、直流750V、直流1500V、直流3000V等である。
【実施例1】
【0013】
図2は、本発明の実施例1に係る電力変換システムの回路構成を示す図である。
実施例1に係る電力変換システムとしては、電動機5を駆動するシステムと蓄電池20の電力を制御するシステムの二つのシステムが搭載されている。
【0014】
以下に、実施例1に係る電力変換システムの構成を説明する。
電動機5を駆動するシステムは、架線1から供給された直流電力を、遮断器11、接触器14a、フィルタリアクトル15aおよびインバータ装置6を介して交流電力に変換することにより、電動機5を駆動する。実施例1では、遮断器11と接触器14aとを開放手段として用いる。
【0015】
インバータ装置6は、フィルタキャパシタ18a、抵抗器16aおよびスイッチング素子17aで構成される放電回路、スイッチング素子Q1~Q6、スイッチング素子Q1~Q6のゲート指令を生成する論理部(図示せず)から構成されている。
【0016】
電動機5の駆動により、
図1に示す車輪3が回転し、車両8が前進または後進する。電動機5は、誘導電動機または永久磁石同期電動機のどちらでもよい。誘導電動機の場合は、複数の誘導電動機を1台のインバータ装置で駆動することができ、永久磁石同期電動機の場合は、1台の永久磁石同期電動機を1台のインバータ装置で駆動する。
【0017】
車両8を減速するブレーキ動作時には、電動機5が発電機となる。電動機5が発電した回生電力は、インバータ装置6、フィルタリアクトル15a、接触器14a、遮断器11を介して架線1に戻る。この回生電力は、架線1を介して他の車両の力行電力として消費される。
【0018】
蓄電池20の電力を制御するシステムは、架線1から供給された直流電力を、遮断器11、接触器14b、フィルタリアクトル15b、チョッパ装置9および接触器19を介して直流電力に変換して、昇降圧リアクトル15c介して蓄電池20を充電する。実施例1では、開放手段14bとして接触器を用いる。
【0019】
チョッパ装置9は、フィルタキャパシタ18b、抵抗器16bおよびスイッチング素子17bで構成される放電回路、スイッチング素子Q7およびQ8、これらスイッチング素子Q7およびQ8のゲート指令を生成する論理部(図示せず)で構成されている。なお、蓄電池20は、架線1からの電力だけでなく、電動機5の回生電力によっても充電が可能である。
【0020】
蓄電池20の電力を放電する場合は、接触器19、昇降圧リアクトル15c、チョッパ装置9、フィルタリアクトル15b、接触器14bを介する。蓄電池20からの電力は、インバータ装置6により交流電力に変換されて電動機5を駆動する。
【0021】
電気的なグラウンドとしてインバータ装置6およびチョッパ装置9の低電位側は、車輪3を介してレール2に接続されている。また、電動機5は台車4に搭載されており、台車4は車両8を支持している。
【0022】
以下、インバータ装置6およびチョッパ装置9の構成と動作を説明する。
インバータ装置6のスイッチング素子Q1~Q6は、逆並列にダイオードを備えている。スイッチング素子Q1とQ2とを直列接続してU相を構成し、スイッチング素子Q3とQ4とを直列接続してV相を構成し、スイッチング素子Q5とQ6とを直列接続してW相を構成している。チョッパ装置9のスイッチング素子Q7とQ8とは、直列接続され、共に逆並列にダイオードを備えている。一方で、インバータ装置6のスイッチング素子Q17aおよびチョッパ装置9のスイッチング素子17bが備える逆並列ダイオードは、省略してもよい。
【0023】
スイッチング素子Q1~Q8が、IGBTを使用する場合には、各スイッチング素子に逆並列ダイオードが必要であるが、MOSFETなどボディダイオードを有する場合には、各スイッチング素子に逆並列ダイオードを接続せずにMOSFET自身のボディダイオードを利用してよい。また、直列接続された2つのスイッチング素子(例えば、Q1とQ2)としては、同一パッケージに搭載された2in1のパッケージを用いてもよい。
【0024】
スイッチング素子Q1~Q8としては、MOSFETやIGBTなどの電圧制御型スイッチング素子やサイリスタなどの電流制御型スイッチング素子を使用することができる。また、スイッチング素子および逆並列ダイオードの半導体材料としては、Si(シリコン)や、Siよりもバンドギャップが広い半導体であるSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)でもよい。ここで、ワイドバンドギャップ半導体は、Siに比べて発生損失を低減できるため、インバータ装置6やチョッパ装置9を小型化できる。
【0025】
インバータ装置6を構成するスイッチング素子Q1~Q6をPWM(Pulse Width Modulation)制御することで、フィルタキャパシタ18aからパルス状の交流電力が出力される。出力された交流電力は、電動機5に供給され、機械エネルギーに変換されることで車両8を前進または後進させる。
【0026】
なお、フィルタキャパシタ18aの初期充電は、充電回路である接触器12aと抵抗器13aを用いて行われる。接触器14aが開放状態にて接触器12aを投入し、抵抗器13aを介して初期充電を実施する。フィルタキャパシタ18aとフィルタリアクトル15aとはフィルタ回路を構成し、インバータ装置6から架線1に流れるノイズ電流を低減する。
【0027】
また、抵抗器16aとスイッチング素子17aとは放電回路を構成し、スイッチング素子17aをオン状態とすることにより、フィルタキャパシタ18aが蓄積したエネルギーを抵抗器16aで消費し、フィルタキャパシタ18aの電圧を0Vまで放電する。
【0028】
チョッパ装置9のスイッチング素子Q7およびQ8は、蓄電池20の入出力電力が所望の値となるように制御される。例えば、架線1の電圧が直流1500V、蓄電池20の電圧が800Vとすると、チョッパ装置9は、蓄電池20を充電する場合、架線1の電圧(1500V)を蓄電池20の電圧(800V)にまで降圧する降圧チョッパとして機能し、昇降圧リアクトル15cが降圧リアクトルとして機能する。逆に、チョッパ装置9は、蓄電池20を放電する場合、蓄電池20の電圧(800V)を架線1の電圧(1500V)にまで昇圧する昇圧チョッパとして機能し、昇降圧リアクトル15cが昇圧リアクトルとして機能する。
【0029】
架線1の電圧は、理想的には一定の直流電圧であるが、架線1に接続される車両本数に応じてその電圧は変動する。この場合でも、チョッパ装置9を制御することで蓄電池20を充電することができる。スイッチング素子Q7およびQ8のスイッチング動作により、フィルタキャパシタ18bからパルス状の交流電力が出力される。なお、フィルタキャパシタ18bの初期充電は、充電回路である接触器12bと抵抗器13bとを用いて行われる。すなわち、接触器14bが開放状態にて、接触器12bを投入し抵抗器13bを介して初期充電を実施する。
【0030】
フィルタキャパシタ18bとフィルタリアクトル15bとは、フィルタ回路を構成し、チョッパ装置9から架線1に流れるノイズ電流を低減する。また、抵抗器16bとスイッチング素子17bとは放電回路を構成し、スイッチング素子17bをオン状態とすることにより、フィルタキャパシタ18bが蓄積したエネルギーを抵抗器16bで消費し、フィルタキャパシタ18bの電圧を架線1の電圧以下(例えば0V)に放電する。
【0031】
次に、チョッパ装置9の機能を説明する。
車両8のブレーキ時に電動機5は発電機として動作し、これにより発生する回生電力は架線1を介して他の車両の力行電力として消費される。この結果、電気エネルギーが効率よく利用され省エネルギー化ができる。
【0032】
一方、架線1に他の力行中の車両が存在しない場合、回生電力は架線1に戻すことができず、機械ブレーキを使用して熱に変換するとエネルギー効率が低下する。この場合には、回生電力をチョッパ装置9を介して回生電力を蓄電池20に充電することができるため、従来は熱として消費していたエネルギーを回収できるため、エネルギー効率を向上させることができる。
【0033】
また、チョッパ装置9は、非常走行の機能も有する。架線1の電力供給元である変電所(図示せず)で事故が生じた場合、架線1は停電する。架線1の停電によりインバータ装置6の電力源がなくなるため、電動機5の駆動が不可となり車両8を動かすことができなくなる。実施例1に係る電力変換システムでは、チョッパ装置9と蓄電池20とを備えることにより、架線1が停電した場合でも、蓄電池20の電力をチョッパ装置9およびインバータ装置9を介して電力変換することで、電動機5に電力を供給することができる。すなわち、架線1が停電した場合でも蓄電池20の電力を用いて車両8を動かすことが可能となる。
【0034】
ここで、インバータ装置6およびチョッパ装置9が搭載するスイッチング素子Q1~Q8に関して、スイッチング素子は半導体であることから、偶発的に故障する場合がある。チョッパ装置9が故障すると、蓄電池20の電力をインバータ装置6に供給することが不能になるため、非常走行の機能を失う事態になる。
【0035】
この事態に対処するために、実施例1では、蓄電池20を架線に直結するための接触器21を備えている。以下では、一例として、架線1の電圧は1500V、蓄電池20の電圧は800V等、架線1と蓄電池20の電圧レベルが異なるシステムにて説明する。
【0036】
図3は、非常走行開始時のタイミングチャートを示す図である。
非常走行時に、接触器21を介して蓄電池20の電力をインバータ装置6に供給すると、チョッパ装置9を介さないため、エネルギー効率を向上させることができる。
【0037】
図3に示す時刻t1以前では、接触器14a、14b、19および遮断器11が投入されている。時刻t1にて非常走行の開始を検出すると、接触器14a、14b、19および遮断器11を開放し、接触器21を投入する。このとき、インバータ装置6のフィルタキャパシタ18aは1500Vに充電されている一方で、蓄電池20の電圧は800Vである。
【0038】
ここにおいて、接触器21が投入された瞬間に、フィルタキャパシタ18aと蓄電池20との電位差によって蓄電池20に電流が流れ込み(
図3に示す蓄電池20の電流は、蓄電池20の放電を正とする)、
図3に示すように蓄電池20に過大な電流が流れる。この過大な電流は蓄電池20を発熱させることになるため、蓄電池20や接触器21の寿命を低下させるという課題を呈することになる。
【0039】
以下、実施例1に係る電力変換システムにおける新規な構成部分及び制御方法について説明する。
本発明に係る電力変換システムは、接触器21に加えて、チョッパ装置9の故障判定部22を備えている。チョッパ装置9が故障すると、蓄電池20の電力をインバータ装置6に供給できなくなるため、非常走行の機能が失われる。そこで、チョッパ装置21の故障判定部22が故障を検知しかつ非常走行を開始する場合は、接触器21を投入することにより蓄電池20の電力をインバータ装置6に供給する。チョッパ装置9が正常時であれば、非常走行時には接触器21は開放状態とする。これらの動作態様を機能させるために、故障判定部22の他に、非常走行を検出するための非常走行判定部23および接触器の投入を制御するための接触器投入制御部24を備えている。
【0040】
接触器21を開放状態とする利点は、蓄電池20の電圧が架線1より低い場合、蓄電池20の電圧をインバータ装置6で直流-交流電力変換して電動機5を駆動すると、車両が高速走行時に発生する逆起電力がフィルタキャパシタ18aの電圧に比べて相対的に高くなり電動機5の出力トルクが低下する。そこで、接触器21を開放状態にして、チョッパ装置9を介し蓄電池20を用いて非常走行する。これにより、インバータ装置6のフィルタキャパシタ18aの電圧を架線1と同等にすることができ、電動機5の出力トルクを向上させることができる。
【0041】
また、チョッパ装置9の故障により接触器21を投入して非常走行するときに、架線1の電圧と蓄電池20の電圧とが異なる場合、フィルタキャパシタ18aの電圧を制御する必要がある。
【0042】
図4は、実施例1に係る電力変換システムの動作フローチャートを示す図である。以下の動作フロー全体のシーケンスは、接触器投入制御部
24、故障判定部22および非常走行判定部23を含めて、本発明に係る電力変換システムの制御を行う制御装置(図示せず)が実行する。この制御装置は、ハードウェアで実現されても、ソフトウェアで実現されてもよく、また、
図2に示す、接触器投入制御部
24、故障判定部22および非常走行判定部23を含む構成としてもよい。
【0043】
ステップ1000で、電力変換システムが始動する。
ステップ1001にて、インバータ装置6が通常運転を開始する。
ステップ1002にて、故障判定部22がチョッパ装置9の状態を監視する。
【0044】
ステップ1003にて、故障判定部22は、チョッパ装置9が故障状態であるか否かを検出する。故障状態でない場合(No)は、ステップ1002に戻りチョッパ装置9の状態の監視を継続する。故障状態を検出した場合(Yes)は、ステップ1004に進む。
【0045】
ステップ1004にて、故障判定部22からの信号を受けた接触器投入制御部24が、接触器14bおよび19を開放する。チョッパ装置9が短絡故障している場合、接触器14bが投入されていると架線1からチョッパ装置9に大電流が流れるため、また同様に、接触器19が投入されていると蓄電池20からチョッパ装置9に大電流が流れるため、これらを回避するために開放するのである。なお、接触器12bは開放状態である。
【0046】
ステップ1005にて、非常走行判定部23が、インバータ装置6の非常走行指令の有無を検出する。非常走行指令を検出しない場合(No)は、インバータ装置6は通常動作を継続し、非常走行判定部23は非常走行指令の検出を継続する。非常走行指令を検出した場合(Yes)は、ステップ1006に進む。
【0047】
ステップ1006にて、非常走行判定部23からの信号を受けた接触器投入制御部24は、遮断器11を開放する。この動作は、架線1とインバータ装置6を切り離すためである。
【0048】
ステップ1007にて、インバータ装置6の放電回路の制御部(図示せず)がスイッチング素子17aを所定時間オン動作し、抵抗器16aを用いてフィルタキャパシタ18aを放電する。例えば、架線1の電圧が直流1500Vの場合、フィルタキャパシタ18aを直流1500Vから0Vまで放電する。
【0049】
ステップ1008にて、接触器投入制御部24が接触器12aおよび21を投入することで、抵抗器13aを用いてフィルタキャパシタ18aが初期充電される。例えば、蓄電池20の電圧が直流800Vの場合、フィルタキャパシタ18aは0Vから直流800Vまで充電される。
【0050】
ステップ1009にて、接触器投入制御部24は接触器14aを投入し、接触器12aを開放する。これにより、蓄電池20とフィルタキャパシタ18aとを直結する。
【0051】
ステップ1010にて、蓄電池20を利用したインバータ装置6の非常走行が開始される。
ステップ1011で、本動作フローチャートが終了する。
【0052】
図5は、実施例1に係る電力変換システムのタイミングチャートを示す図である。
図3に示すタイミングチャートに従った制御態様との違いは、スイッチング素子17aおよび接触器12aを制御している点である。
図3に示すタイミングチャートでは、フィルタキャパシタ18aの電圧と蓄電池20の電圧とが異なる状態で接触器21を投入するため、蓄電池20に大電流が流れ、フィルタキャパシタ18aの電圧が振動する事態を招いていた。
【0053】
本発明では、以下に示すタイミングチャートにより、上記事態を回避することが可能となる。
時刻t1において、チョッパ装置9の故障を検出すると接触器14bおよび19が開放される。
【0054】
続いて、時刻t2において、非常走行フラグを検出すると、遮断器11および接触器14aを開放すると共に、接触器21を投入する前の動作としてスイッチング素子17aと抵抗器16aとを用いてフィルタキャパシタ18aを放電する。
【0055】
その後、時刻t3において、接触器21と共に接触器12aを投入し、抵抗器13aを用いてフィルタキャパシタ18aの電圧を蓄電池20の電圧に充電する。この結果、蓄電池20からフィルタキャパシタ18aに流入する電流は、
図3に示すタイミングチャートの場合と比較して低減することができる。これにより、フィルタキャパシタ18aの電圧は振動せず、蓄電池20や接触器21の寿命低下を回避することができる。
【0056】
フィルタキャパシタ18aの充電が完了した後の時刻t4において、接触器14aを投入、接触器12aを開放することで、蓄電池20を利用したインバータ装置6の非常走行を開始する。
【0057】
実施例1では、フィルタキャパシタ18aを0Vまで放電したが、0Vでなく蓄電池20の電圧と同等レベルまでの放電に低減してもよい。フィルタキャパシタ18aの電圧と蓄電池20の電圧とが同等であれば、抵抗器13aを介さずに接触器21を投入しても蓄電池20を流れる電流を低減することができる。
また、蓄電池20からフィルタキャパシタ18aを充電する回路と架線1からフィルタキャパシタ18aを充電する回路とは、部品を共通化していることから、部品点数の削減により電力変換システムの小型化が可能となる。
【実施例2】
【0058】
図6は、本発明の実施例2に係る電力変換システムの回路構成を示す図である。インバータ装置6およびチョッパ装置9の構成、機能および動作は、実施例1と同様であるので省略する。また、開放手段14aおよび開放手段14bは共に接触器としている。
【0059】
実施例2は、
図2に示す実施例1の回路構成に比べて、接触器12bおよび抵抗器13bを省略しているが、実施例2の回路構成においても、
図4に示す実施例1と同様の動作フローチャートにより、実施例1と同様の機能を奏することができる。さらに、接触器12bおよび抵抗器13bを省略できるので、電力変換システムのより小型化を実現できる。
【実施例3】
【0060】
図7は、本発明の実施例3に係る電力変換システムの回路構成を示す図である。インバータ装置6およびチョッパ装置9の構成、機能および動作は、実施例1と同様であるので省略する。
【0061】
実施例3は、
図2に示す実施例1の回路構成に比べて、遮断器11が接触器14に置き換わり、接触器14aおよび14bが、それぞれスイッチング素子Q9およびQ10に置き換わっている。
【0062】
実施例3の構成が奏する効果について説明する。
インバータ装置6やチョッパ装置9が故障した場合、フィルタリアクトル15aや15bが地絡した場合、架線1から事故電流が流れ込み、架線1に電力を供給している変電所(図示せず)が停電する。この事故電流を遮断するために、実施例1では遮断器11を搭載しているが、遮断器は許容電流が高いため装置規模が大きい。それに対して、実施例3ではスイッチング素子Q9およびQ10並びにそれらに並列に抵抗器16aおよび16bを備えている。
【0063】
スイッチング素子は、機械式の遮断器や接触器に比べて動作時間が高速である。そのため、事故電流が増大する前にスイッチング素子Q9やQ10をオフ状態とし、抵抗器16aや16bで事故電流を減流することができる。減流した電流は事故電流に比べて小さいため、接触器14で遮断することが可能となる。この結果、大型の遮断器は不要となり、電力変換システムの更なる小型化が可能となる。
【0064】
なお、抵抗器16aおよび16bは、事故電流を減流する抵抗器であることに加えて、フィルタキャパシタ18aおよび18bの充電抵抗として機能する。また、減流に必要な抵抗値と充電に必要な抵抗値が異なる場合には、実施例3の回路構成に加えて、スイッチング素子Q9およびQ10に対して、さらに並列にスイッチング素子と抵抗器の直列回路(図示せず)を接続するようにしてもよい。これにより、事故電流を減流する抵抗器とフィルタキャパシタ18aおよび18bを初期充電する抵抗器とを切り替えることが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
1 架線、2 レール、3 車輪、4 台車、5 電動機、6 インバータ装置、
7 集電装置、8 車両、9 チョッパ装置、10 接触器箱、11 遮断器、
12a、12b、14、14a、14b、19、21 接触器、
13a、13b、16a、16b 抵抗器、15 フィルタリアクトル箱、
15a、15b フィルタリアクトル、15c 昇降圧リアクトル、
17a、17b、Q1~Q10 スイッチング素子、
18a、18b フィルタキャパシタ、20 蓄電池、
22 故障判定部、23 非常走行判定部、24 接触器投入制御部