(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】コンクリート堤体の変位測定方法及び構築方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/00 20060101AFI20231221BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20231221BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20231221BHJP
G01B 11/16 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
E02B7/00 Z
E04G21/02 103A
G01B11/00 A
G01B11/16 Z
(21)【出願番号】P 2020139504
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山野 泰明
(72)【発明者】
【氏名】取違 剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 聖
(72)【発明者】
【氏名】中村 真人
(72)【発明者】
【氏名】水野 健
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昇
(72)【発明者】
【氏名】松本 信也
(72)【発明者】
【氏名】室野井 敏之
(72)【発明者】
【氏名】奈須野 恭伸
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-122864(JP,A)
【文献】特開2009-020016(JP,A)
【文献】特開2020-016464(JP,A)
【文献】特開2004-069367(JP,A)
【文献】特開2010-053598(JP,A)
【文献】特開2009-084790(JP,A)
【文献】特開2005-290818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/00
E04G 21/02
G01B 11/00
G01B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先打ちコンクリート上に打設された後打ちコンクリートを備えるコンクリート堤体における変位を測定するコンクリート堤体の変位測定方法であって、
前記先打ちコンクリートに埋設された第1光ファイバケーブルを用いて堤体厚さ方向における前記先打ちコンクリートの歪みを複数の位置で測定すると共に、前記後打ちコンクリートに埋設された第2光ファイバケーブルを用いて前記堤体厚さ方向における前記後打ちコンクリートの歪みを複数の位置で測定し、
測定された前記先打ちコンクリートの前記歪みと
、測定された前記後打ちコンクリートの前記歪みと
、の差に基づいて、前記先打ちコンクリートに対する前記後打ちコンクリートの相対変位を導出する、
コンクリート堤体の変位測定方法。
【請求項2】
先打ちコンクリート上に後打ちコンクリートを打設し、その後、前記後打ちコンクリート上に、前記先打ちコンクリート及び後打ちコンクリートよりも強度が高い高強度モルタルを介して新たなコンクリートを打設してコンクリート堤体を構築するコンクリート堤体の構築方法であって、
請求項1に記載のコンクリート堤体の変位測定方法を用いて前記先打ちコンクリートに対する前記後打ちコンクリートの相対変位を測定し、
測定された前記相対変位に基づいて、前記高強度モルタルの仕様を決定する、
コンクリート堤体の構築方法。
【請求項3】
先打ちコンクリート上に後打ちコンクリートを打設してコンクリート堤体を構築するコンクリート堤体の構築方法であって、
請求項1に記載のコンクリート堤体の変位測定方法を用いて前記先打ちコンクリートに対する前記後打ちコンクリートの相対変位を測定し、
測定された前記相対変位に基づいて、前記先打ちコンクリートと前記後打ちコンクリートとの打継目におけるシールの要否を決定する、
コンクリート堤体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート堤体の変位測定方法及び構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムや堤防等の堤体をコンクリートで構築する場合には、コンクリートを複数回に分けて打設する。特許文献1には、打設済みのコンクリート(先打ちコンクリート)の上に新たにコンクリート(後打ちコンクリート)を打設することにより、コンクリートダムを構築する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
打設されたコンクリートは、水和反応の進行に伴って膨張し、水和反応の収束に伴って収縮する。特許文献1に開示された方法では、先打ちコンクリートの打設後に後打ちコンクリートが打設されるため、後打ちコンクリートは、先打ちコンクリートの膨張及び収縮に遅れて膨張し収縮する。そのため、後打ちコンクリートが先打ちコンクリートに対して堤体厚さ方向に相対変位する。先打ちコンクリートに対する後打ちコンクリートの相対変位が大きいと、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの一体性が低下し、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間から水が滲出するおそれがある。
【0005】
本発明は、先打ちコンクリートに対する後打ちコンクリートの相対変位を精度よく測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、先打ちコンクリート上に打設された後打ちコンクリートを備えるコンクリート堤体における変位を測定するコンクリート堤体の変位測定方法であって、先打ちコンクリートに埋設された第1光ファイバケーブルを用いて堤体厚さ方向における先打ちコンクリートの歪みを複数の位置で測定すると共に、後打ちコンクリートに埋設された第2光ファイバケーブルを用いて堤体厚さ方向における後打ちコンクリートの歪みを複数の位置で測定し、測定された先打ちコンクリートの歪みと、測定された後打ちコンクリートの歪みと、の差に基づいて、先打ちコンクリートに対する後打ちコンクリートの相対変位を導出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、先打ちコンクリートに対する後打ちコンクリートの相対変位を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るコンクリート堤体の構築方法の概略を説明するための図である。
【
図2】
図1(b)に示すII-II線に沿う断面図である。
【
図3】先打ちコンクリートに対する後打ちコンクリートの相対変位の導出を説明するための図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るコンクリート堤体の構築方法を説明するための図であり、先打ちコンクリート上に後打ちコンクリートを打設した後の工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係るコンクリート堤体の変位測定方法、及びコンクリート堤体の構築方法について、図面を参照して説明する。ここでは、コンクリート堤体がダムの堤体である場合について説明するが、コンクリート堤体は、堤防の堤体であってもよい。
【0010】
図1は、本実施形態に係るコンクリート堤体100の構築方法の概略を説明するための図である。
図1に示すように、コンクリート堤体100は、打設済みのコンクリート(先打ちコンクリート)の上に新たにコンクリート(後打ちコンクリート)を打設する工程を繰り返すことにより、構築される。
図1(a)は、地盤上にコンクリートを打設し、第1コンクリート層11を形成した状態を示す。
図1(b)は、第1コンクリート層11上に新たにコンクリートを打設し、第2コンクリート層12を形成した状態を示す。
図1(c)は、第2コンクリート層12上に新たにコンクリートを打設し、第3コンクリート層13を形成した状態を示す。
図1(d)は、設計堤高までコンクリートの打設を繰り返し、コンクリート堤体100の構築が完了した状態を示す。
【0011】
図1(a)乃至(c)において、2点鎖線は、コンクリート堤体100の最終的な輪郭を示す。第1コンクリート層11と第2コンクリート層12に着目すれば、第1コンクリート層11が先打ちコンクリートに相当し、第2コンクリート層12が後打ちコンクリートに相当する。第2コンクリート層12と第3コンクリート層13に着目すれば、第2コンクリート層12が先打ちコンクリートに相当し、第3コンクリート層13が後打ちコンクリートに相当する。
【0012】
打設されたコンクリートには、水和反応の進行に伴って膨張し、水和反応の収束に伴って収縮する性質がある。後打ちコンクリートは、先打ちコンクリートの膨張及び収縮に遅れて膨張し収縮するため、後打ちコンクリートが先打ちコンクリートに対して堤体厚さ方向に相対変位する。先打ちコンクリートに対する後打ちコンクリートの相対変位が大きいと、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの一体性が低下し、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間から水が滲出するおそれがある。
【0013】
水の滲出を防止するためには、先打ちコンクリート上に高強度モルタルを介して後打ちコンクリートを打設し相対変位を低減する処置、又は先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継目にシール材を塗布し打継目をシールする処置等を行うことが有効である。なお、打継目をシールする処置として、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートが打設され打継目が形成された後は、セメント系の固化材を含むグラウト材を打継目に圧入、注入することにより行われてもよい。しかしながら、このような処置を必要以上に行うと、コンクリート堤体100の構築にかかる工数及び工費が必要以上に増大する。このような処置を適切に行うために、先打ちコンクリートに対する後打ちコンクリートの相対変位を測定することが求められている。
【0014】
本実施形態に係るコンクリート堤体100の変位測定方法は、先打ちコンクリートに対する後打ちコンクリートの相対変位を測定するために用いられる。
【0015】
以下では、第1コンクリート層11を先打ちコンクリートとし第2コンクリート層12を後打ちコンクリートとして、コンクリート堤体100の変位測定方法について説明する。
【0016】
図1(b)に示すように、第1コンクリート層11には第1光ファイバケーブル21が埋設され、第2コンクリート層12には第2光ファイバケーブル22が埋設される。
【0017】
図2は、
図1(b)に示すII-II線に沿う断面図である。
図2に示すように、第2光ファイバケーブル22は、堤体厚さ方向に延びる直線部22aと、堤体高さ方向に沿う軸周りに直線部22aから湾曲する湾曲部22bとが交互に形成されて第2コンクリート層12に埋設される。第2コンクリート層12が堤体厚さ方向に歪むと、第2光ファイバケーブル22の直線部22aが歪む。
【0018】
図示を省略するが、第1光ファイバケーブル21は、第2光ファイバケーブル22と同様に、堤体厚さ方向に延びる直線部と直線部から湾曲する湾曲部とが交互に形成されて第1コンクリート層11に埋設される。第1コンクリート層11が堤体厚さ方向に歪むと、第1光ファイバケーブル21の直線部が歪む。
【0019】
ここで、光ファイバケーブルについて説明する。光ファイバケーブルには、入射されたパルス光を僅かに後方に散乱させる性質があり、この性質を利用することにより、光ファイバケーブルにおける複数位置での歪みを測定することができる。具体的には、散乱光の周波数は光ファイバケーブルの歪みに依存するため、パルス光を光ファイバケーブルに入射して散乱光の周波数を測定することにより光ファイバケーブルの歪みの大きさを計測することができる。また、光ファイバケーブルにパルス光を入射してから光ファイバケーブル内で発生した散乱光が入射位置に戻るまでの時間を測定することにより、散乱光が発生した位置、すなわち光ファイバケーブルにおける歪みが生じた位置を測定することができる。散乱光は光ファイバケーブルの全長において発生するため、1本の光ファイバケーブルにおける複数の位置での歪みを測定することができる。
【0020】
本実施形態では、第2コンクリート層12が堤体厚さ方向に歪むと、第2光ファイバケーブル22の直線部22aが歪む。そのため、第2光ファイバケーブル22における複数の位置での歪みを測定器23を用いて測定することにより、第2コンクリート層12における複数の位置での歪みを測定することができる。同様に、第1光ファイバケーブル21における複数の位置で歪みを測定器23を用いて測定することにより、第1コンクリート層11における複数の位置での歪みを測定することができる。
【0021】
測定器23は、コントローラ30に接続されている。コントローラ30は、測定器23により測定された第1コンクリート層11における複数の位置での歪みと第2コンクリート層12における複数位置での歪みとに基づいて、第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位を導出する。
【0022】
コントローラ30は、制御プログラム等を実行するCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラムを記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)と、を備えるマイクロコンピュータである。コントローラ20は、1つのマイクロコンピュータによって構成されていてもよいし、複数のマイクロコンピュータによって構成されていてもよい。
【0023】
図3は、第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位の導出を説明するための図である。
図3(a)は、第1コンクリート層11上にコンクリートを打設し第2コンクリート層12を形成した直後の状態であり、第2コンクリート層12が第1コンクリート層11に対して相対変位していない状態を示す図である。
図3(b)は、
図3(a)に示す状態から時間が経過し、第2コンクリート層12が第1コンクリート層11に対して相対変位している状態を示す図である。
【0024】
図3(b)では、説明の便宜上、第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位を誇張して描いている。また、
図3(b)では、第1コンクリート層11に対して第2コンクリート層12が相対変位することにより生じる第2コンクリート層12の反上がりを誇張して描いている。
【0025】
図3(a)及び(b)において、コンクリート堤体100の上流側堤体表面から下流側に距離Lだけ離れた位置を位置Pとする。
図3(b)では、上流側堤体表面と位置Pとの間において第2コンクリート層12が第1コンクリート層11に対して相対変位しておらず、位置Pと下流側堤体表面との間において第2コンクリート層12が第1コンクリート層11に対して相対変位している例が示されている。つまり、
図3(b)では、上流側堤体表面と位置Pとの間において第1コンクリート層11と第2コンクリート層12との一体性が確保されており、位置Pと下流側堤体表面との間において第1コンクリート層11と第2コンクリート層12との一体性が低下している例が示されている。
【0026】
図3(a)では、第1光ファイバケーブル21及び第2光ファイバケーブル22の歪みをN箇所(ただし、Nは2以上の自然数)で測定するものとする。上流側堤体表面に最も近い位置で測定される第1光ファイバケーブル21の歪みの大きさをδ1とし、下流側堤体表面に向かって進んだ位置で測定される第1光ファイバケーブル21の歪みの大きさを順にδ2、・・・、δNとする。位置P上、又は位置Pから下流側堤体表面に向かって進んだ位置で測定される第1光ファイバケーブル21の歪みの大きさをδIとする。
【0027】
同様に、上流側堤体表面に最も近い位置で測定される第2光ファイバケーブル22の歪みの大きさをΔ1とし、下流側堤体表面に向かって進んだ位置で測定される第2光ファイバケーブル22の歪みの大きさを順にΔ2、・・・、ΔNとする。位置P上、又は位置Pから下流側堤体表面に向かって進んだ位置で測定される第2光ファイバケーブル22の歪みの大きさをΔIとする。
【0028】
図3(a)に示す状態では、第2コンクリート層12が第1コンクリート層11に対して相対変位していないため、第2光ファイバケーブル22の歪みは、第1光ファイバケーブル21の歪みと同程度である。つまり、第2光ファイバケーブル22の歪みと、第1光ファイバケーブル21の歪みと、の間には、次の式(1)の関係が成立する。
【0029】
【0030】
図3(b)に示す状態では、第2コンクリート層12が第1コンクリート層11に対して相対変位しているため、第2光ファイバケーブル22の歪みは、第1光ファイバケーブル21の歪みよりも大きい。つまり、第2光ファイバケーブル22の歪みと、第1光ファイバケーブル21の歪みと、の間には、次の式(2)の関係が成立する。
【0031】
【0032】
第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位が大きいほど、第2光ファイバケーブル22の歪みの合計と、第1光ファイバケーブル21の歪みの合計と、の差は大きくなる。つまり、第2光ファイバケーブル22における複数の位置で測定された歪みと、第1光ファイバケーブル21における複数の位置で測定された歪みと、の差に基づいて、第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位を導出することが可能である。
【0033】
歪みに基づいた相対変位の導出では、歪みの測定位置の数が多いほど精度が向上する。本実施形態では、第1光ファイバケーブル21を用いて第1コンクリート層11の歪みを測定すると共に、第2光ファイバケーブル22を用いて第2コンクリート層12の歪みを測定する。光ファイバケーブルを用いた歪み測定では1本の光ファイバケーブルで複数の位置での歪みを測定可能であるため、第1コンクリート層11における歪みの測定位置の数と、第2コンクリート層12における歪みの測定位置の数と、を容易に増加させることができる。したがって、相対変位の導出において多数の位置で測定された第1コンクリート層11の歪みと第2コンクリート層12の歪みを用いることができ、第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位を精度よく測定することができる。
【0034】
図3(b)に示す状態では、上流側堤体表面と位置Pとの間において、第2コンクリート層12が第1コンクリート層11に対して相対変位していないため、第2光ファイバケーブル22の歪みは、第1光ファイバケーブル21の歪みと同程度である。また、ΔIは、位置P上、又は位置Pから下流側堤体表面に向かって進んだ位置で測定される第2光ファイバケーブル22の歪みであり、δIよりも大きい。そのため、第2光ファイバケーブル22の歪みと、第1光ファイバケーブル21の歪みと、の間には、次の式(3)及び(4)の関係が成立する。
【0035】
【0036】
換言すれば、式(3)と式(4)が成立するIを導出することにより、位置Pを特定することができる。したがって、第2コンクリート層12が第1コンクリート層11に対して相対変位していない非変位領域(上流側堤体表面と位置Pとの間の領域)と、第2コンクリート層12が第1コンクリート層11に対して相対変位している変位領域(位置Pと下流側堤体表面との間の領域)と、を特定することができる。
【0037】
歪みに基づいた変位領域の特定では、相対変位の導出と同様に、歪みの測定位置の数が多いほど精度が向上する。本実施形態では、第1コンクリート層11における歪みの測定位置の数と、第2コンクリート層12における歪みの測定位置の数と、を容易に増加させることができるため、変位領域を精度よく特定することができる。
【0038】
更に、
図2に示すように、第2光ファイバケーブル22は、堤体長さ方向に延びる直線部22cと、堤体高さ方向に沿う軸周りに直線部22cから湾曲する湾曲部22dとが交互に形成されて第2コンクリート層12に埋設される。図示を省略するが、第1光ファイバケーブル21は、第2光ファイバケーブル22と同様に、堤体長さ方向に延びる直線部と直線部から湾曲する湾曲部とが交互に形成された状態で第1コンクリート層11に埋設される。したがって、本実施形態では、堤体厚さ方向における相対変位に加えて、堤体長さ方向における相対変位を測定することができる。
【0039】
なお、直線部22c及び湾曲部22dは、直線部22a及び湾曲部22bよりも下方(
図2における紙面奥側)に配置されており破線で示されている。直線部22c及び湾曲部22dは、直線部22a及び湾曲部22bよりも上方(
図2における紙面手前側)に配置されていてもよい。
【0040】
次に、本実施形態に係るコンクリート堤体100の構築方法について、詳述する。
【0041】
図4は、コンクリート堤体100の構築方法を説明するための図であり、第1コンクリート層11上にコンクリートを打設し第2コンクリート層12を形成した後の工程を示す。
【0042】
図4(a)に示すように、第2コンクリート層12の形成後、第2コンクリート層12上に高強度モルタル12aを敷設する。その後、
図4(b)に示すように、第2コンクリート層12の上に高強度モルタル12aを介して新たなコンクリートを打設し第3コンクリート層13を形成する。また、
図4(a)に示すように、必要に応じて、第1コンクリート層11と第2コンクリート層12との打継目にシール材40を塗布し打継目をシールする。
【0043】
高強度モルタル12aは、第1コンクリート層11及び第2コンクリート層12の強度よりも高い強度を有する。そのため、高強度モルタル12aによって、第2コンクリート層12に対する第3コンクリート層13の相対変位が抑制される。
【0044】
高強度モルタル12aは、コンクリートと同様にセメントを含むが、セメントの割合がコンクリートよりも高く、コンクリートよりも高価である。セメントの割合が高いほど高強度モルタル12aの強度は大きくなるが、セメントの使用量が増加しコンクリート堤体100の工費が増加するため、セメントの割合は低い方が好ましい。また、高強度モルタル12aが厚いほど高強度モルタル12aによる相対変位の抑制効果は大きくなるが、高強度モルタルの使用量が増加しコンクリート堤体100の工費が増加するため、高強度モルタル12aは薄い方が好ましい。
【0045】
コンクリート堤体100の構築方法では、第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位を測定し、測定された相対変位に基づいて、高強度モルタル12aの仕様(セメントの割合及び厚さ)を決定する。具体的には、第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位が大きいほど、高強度モルタル12aにおけるセメントの割合を高くし、高強度モルタル12aの厚さを厚くする。そのため、高強度モルタル12aは、実際に生じた相対変位に基づいた仕様で第2コンクリート層12の上に形成される。したがって、第2コンクリート層12と第3コンクリート層13との一体性を適切に向上させることができ、工費の増加を抑制しつつ水の滲出を防止することができる。
【0046】
また、コンクリート堤体100の構築方法では、第1コンクリート層11と第2コンクリート層12との間の変位領域を特定し、特定された変位領域に基づいて、第2コンクリート層12上での高強度モルタル12aの敷設範囲を決定する。具体的には、第2コンクリート層12が位置Pと下流側堤体表面との間において第1コンクリート層11に対して相対変位している場合には、高強度モルタル12aの敷設範囲を第2コンクリート層12上における位置Pと下流側堤体表面との間に決定する。これは、高強度モルタル12aを敷設せずに第2コンクリート層12上に第3コンクリート層13を形成した場合には、第3コンクリート層13が位置Pと下流側堤体表面との間において第2コンクリート層12に対して相対変位すると予想されるためである。つまり、高強度モルタル12aは、相対変位が生じると予想される範囲に敷設される。したがって、第2コンクリート層12と第3コンクリート層13との一体性をより適切に向上させることができ、工費の増加を抑制しつつ水の滲出を防止することができる。
【0047】
更に、コンクリート堤体100の構築方法では、測定された相対変位に基づいて、第1コンクリート層11と第2コンクリート層12との打継目におけるシールの要否を決定する。具体的には、相対変位が所定の閾値未満である場合には、第2コンクリート層12と第1コンクリート層11との一体性が確保されていると判断し、シールが不要であると判断する。また、相対変位が所定の閾値以上である場合には、第2コンクリート層12と第1コンクリート層11との一体性が確保されていないと判断し、シールが必要であると判断する。そのため、第2コンクリート層12と第1コンクリート層11との打継目を必要な場合のみシールすることになる。したがって、必要以上にシールを施工することがなくなり、工数の増加を抑制しつつ水の滲出を防止することができる。
【0048】
また、相対変位に基づいたシールの要否の決定では、貯水池に湛水する作業が不要である。そのため、湛水により水の滲出を確認してシールの要否を決定していた従来の方法と比較して、工期を短縮することができる。
【0049】
高強度モルタル12aの仕様及び敷設範囲の決定、並びにシールの要否の決定は、例えばコントローラ30(
図2参照)によって行われる。
【0050】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0051】
本実施形態に係るコンクリート堤体100の変位測定方法では、第1光ファイバケーブル21を用いて第1コンクリート層11の歪みを測定すると共に、第2光ファイバケーブル22を用いて第2コンクリート層12の歪みを測定する。光ファイバケーブルを用いた歪み測定では1本の光ファイバケーブルで複数の位置での歪みを測定可能であるため、第1コンクリート層11における歪みの測定位置の数と、第2コンクリート層12における歪みの測定位置の数と、を容易に増加させることができる。したがって、相対変位の導出において多数の位置で測定された第1コンクリート層11の歪みと第2コンクリート層12の歪みを用いることができ、第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位を精度よく測定することができる。
【0052】
また、本実施形態に係るコンクリート堤体100の構築方法では、第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位を測定し、測定された相対変位に基づいて、高強度モルタル12aの仕様を決定する。そのため、高強度モルタル12aは、実際に生じた相対変位に基づいた仕様で第2コンクリート層12の上に形成される。したがって、第2コンクリート層12と第3コンクリート層13との一体性を適切に向上させることができ、工費の増加を抑制しつつ水の滲出を防止することができる。
【0053】
また、本実施形態に係るコンクリート堤体100の構築方法では、第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位を測定し、測定された相対変位に基づいて、第1コンクリート層11と第2コンクリート層12との打継目におけるシールの要否を決定する。そのため、第2コンクリート層12と第1コンクリート層11との打継目を必要な場合のみシールすることになる。したがって、必要以上にシールを施工することがなくなり、工数の増加を抑制しつつ水の滲出を防止することができる。また、貯水池に湛水することなくシールの要否を決定することができ、工期を短縮することができる。なお、打継目をシールの施工は、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートが打設され打継目が形成された後は、セメント系の固化材を含むグラウト材を打継目に圧入、注入することにより行われてもよい。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0055】
本発明は、第1コンクリート層11に対する第2コンクリート層12の相対変位の測定に限られない。例えば、第2コンクリート層12及び第3コンクリート層13に第1光ファイバケーブル21及び第2光ファイバケーブル22をそれぞれ埋設し、第2コンクリート層12に対する第3コンクリート層13の相対変位を測定してもよい。つまり、先打ちコンクリート及び後打ちコンクリートにそれぞれ埋設された第1光ファイバケーブル21及び第2光ファイバケーブル22を用いることで、先打ちコンクリートに対する後打ちコンクリートの相対変位を測定することができる。
【0056】
本発明を、測定された相対変位に基づいて高強度モルタル12aの仕様及び敷設範囲を決定するだけでなく、高強度モルタル12aの効果を評価するために用いてもよい。具体的には、
図4に示すように第2コンクリート層12の上に高強度モルタル12aを介して新たなコンクリートを打設し第3コンクリート層13を形成する場合に、第2コンクリート層12及び第3コンクリート層13に第1光ファイバケーブル21及び第2光ファイバケーブル22をそれぞれ埋設し、第2コンクリート層12に対する第3コンクリート層13の相対変位が軽減されているかを評価してもよい。
【0057】
上記実施形態では、第2コンクリート層12上の一部にのみ高強度モルタル12aを敷設しているが、高強度モルタル12aを第2コンクリート層12上の全体に敷設してもよい。この場合には、高強度モルタル12aの敷設範囲を決定する必要はなく、高強度モルタル12aの組成と厚さを決定すればよい。
【0058】
上記実施形態では、測定された相対変位に基づいて、高強度モルタル12aの組成と厚さの両方を決定しているが、組成と厚さの一方を相対変位に関わらず一定とし他方を相対変位に基づいて決定してもよい。
【0059】
コンクリート堤体100の構築工事は数年に渡ることが多い。冬季には、積雪の影響もあって、構築工事を長期間休止せざるを得ないことがある。長期休止前の最後に打設された先打ちコンクリートと、長期休止後の最初に打設された後打ちコンクリートと、の間では相対変位がより大きくなり、水の滲出が生じやすい。本発明は、長期休止の前後に打設されたコンクリートの相対変位を測定する場合により好適である。
【0060】
上記実施形態では、第2コンクリート層12が第1コンクリート層11よりも大きく膨張する場合について説明したが、本発明は、第2コンクリート層12が第1コンクリート層11よりも大きく収縮する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
100・・・コンクリート堤体
11・・・第1コンクリート層(先打ちコンクリート)
12・・・第2コンクリート層(後打ちコンクリート)
12a・・・高強度モルタル
21・・・第1光ファイバケーブル
22・・・第2光ファイバケーブル