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特許7407089切羽前方の地山性状評価方法と地山性状評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】切羽前方の地山性状評価方法と地山性状評価システム
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20231221BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
E21D9/00 C
E21D11/10 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020142101
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037786
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】谷 卓也
(72)【発明者】
【氏名】水野 史隆
(72)【発明者】
【氏名】宮永 隼太郎
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-208060(JP,A)
【文献】特開平09-268875(JP,A)
【文献】特開2017-057708(JP,A)
【文献】特開2018-150720(JP,A)
【文献】特開平07-174500(JP,A)
【文献】特開昭59-196000(JP,A)
【文献】特開昭59-034398(JP,A)
【文献】特開2018-071165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/00
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの切羽に対して、複数の削孔ポイントにおいて発破のための装薬孔を削孔装置にて削孔し、削孔時に該削孔装置が取得する削孔時機械データと該装薬孔の位置情報をリンクさせることにより、切羽前方の地山性状を評価する、切羽前方の地山性状評価方法であって、
前記切羽における複数の前記削孔ポイントの相対位置関係と削孔順序を設定する、設定工程と、
プロジェクターにより、前記切羽に対して次に削孔する削孔ポイントを投影する、投影工程と、
前記削孔装置により、前記投影工程にて投影された前記削孔ポイントにおいて前記装薬孔を削孔し、その際に、該削孔装置にて前記削孔時機械データを取得する、削孔取得工程と、
前記削孔順序に従い、前記投影工程と前記削孔取得工程を繰り返し行うことにより、前記削孔ポイントごとの前記削孔時機械データを集積し、その際に、それぞれの該削孔ポイントと、前記切羽の位置情報及び又は前記削孔装置の位置情報とをリンクさせることにより該削孔ポイントの位置情報を特定し、前記位置情報を備えた前記削孔ポイントごとの削孔時機械データを集積する、データ集積工程と、
集積された前記削孔ポイントごとの前記削孔時機械データに基づいて、切羽前方の地山性状を評価する、評価工程と、を有し、
設定されている前記削孔順序の中の一部の前記削孔ポイントにおける削孔をスキップする場合に、前記投影工程では、前記削孔順序においてスキップされた削孔ポイントの次に削孔予定の削孔ポイントを投影し、前記削孔取得工程では投影された該削孔ポイントにおいて前記装薬孔を削孔し、
前記削孔順序が一巡した後、もしくは、スイッチ操作による所定のタイミングで、スキップされた前記削孔ポイントにおいて前記投影工程と前記削孔取得工程を行うことを特徴とする、切羽前方の地山性状評価方法。
【請求項2】
切羽前方の地山性状評価システムであって、
複数の削孔ポイントにおいて発破のための装薬孔を削孔するとともに、削孔の際に削孔時機械データを取得する、削孔装置と、
切羽に対して次に削孔する前記削孔ポイントを投影する、プロジェクターと、
地山性状を評価する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、
前記切羽における複数の前記装薬孔の相対位置関係データ及び削孔順序データと、前記削孔装置から送信される前記削孔時機械データとが格納される、格納部と、
前記削孔順序データに基づき、次に削孔する前記削孔ポイントを前記プロジェクターに投影させるプロジェクター動作部と、
前記削孔ポイントと、前記切羽の位置情報及び又は前記削孔装置の位置情報とをリンクさせる、リンク部と、
前記格納部において集積されている、前記位置情報を備えた前記削孔ポイントごとの削孔時機械データに基づいて、切羽前方の地山性状を評価する、評価部と、を有し、
設定されている前記削孔順序データの中の一部の前記削孔ポイントにおける削孔がスキップされた場合に、前記プロジェクター動作部は、前記削孔順序データにおいてスキップされた該削孔ポイントの次に削孔予定の削孔ポイントを前記プロジェクターに投影させる制御を実行し、
スキップされた前記削孔ポイントが前記格納部に記憶され、
前記削孔順序データにおける削孔順序が一巡した後、もしくは、スイッチ操作による所定のタイミングで、前記プロジェクター動作部は、スキップされた前記削孔ポイントを前記プロジェクターに投影させる制御を実行することを特徴とする、切羽前方の地山性状評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切羽前方の地山性状評価方法と地山性状評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工において適用される発破工法には余掘りが一般的な課題の一つとなっており、余掘りの増大により材料コスト増や施工サイクルロスによる工期の長期化に繋がり得る。また、山岳トンネルは地下深部における線状構造物であり、地表からの事前の地質調査が必ずしも十分に行われないこともあり、従って安全に高品質の山岳トンネルを施工するには、切羽前方の地山性状(硬軟の程度や分布、不安定性等)を適切に評価することが肝要である。
上記する様々な課題を内包する山岳トンネルの施工において、昨今、削孔誘導システムを搭載した削岩機(トンネルジャンボ、ドリルジャンボ)が開発され、適用されている。このトンネルジャンボは、自動追尾式のトータルステーションと位置検知用センサにより削孔位置を把握し、予め計画した削孔位置へ削孔ブームを伸長させ、削孔ブームに装備されている削孔ビットを自動誘導することを可能にしている、所謂コンピュータジャンボである。
このように、切羽面における三次元的な削孔位置をコンピュータジャンボにて特定しながら、装薬孔の削孔を行うことができれば、切羽面における削孔位置を精度よく特定し、各削孔位置における削孔時機械データ(打撃圧、フィード圧、削孔速度、打撃数やそれらに基づく削孔エネルギー等)を取得することができ、切羽面の全域における切羽前方の地山性状評価を精度よく行うことが可能になる。
しかしながら、三次元位置情報を特定可能なコンピュータジャンボは高価であり、いずれの山岳トンネルの施工においてもこのように高価なコンピュータジャンボの適用を要するわけではない。従って、三次元位置情報を特定可能なコンピュータジャンボではなく、三次元位置情報の特定機能を備えていない一般的なトンネルジャンボを適用しながら、切羽面において比較的高い精度で各装薬孔の削孔位置を特定し、各削孔位置における削孔時機械データを取得することにより、切羽面の全域における切羽前方の地山性状評価を精度よく行うことのできるシステムの開発が望まれている。
【0003】
一方、山岳トンネルの施工では、一般に連続して掘削作業をするに当たり作業班を昼夜に分けて施工を進めることから、作業の交代時には切羽地盤の硬軟の程度や分布、不安定性等に関する情報を次の施工班に引き継ぐことが重要になるが、切羽は安全確保のために吹付けコンクリートにて覆うことが一般的であることから、切羽全域における地盤の硬軟等の分布を直接目視等で確認することができない。そのため、切羽面における地盤の硬軟等に関する詳細な位置(分布)を次の施工班が把握するには、切羽と図面等の照合作業を要し、この作業に時間と手間を要することが大きな課題となっている。そこで、例えばトンネルジャンボの上部にプロジェクターを搭載し、切羽面に切羽前方の地盤の硬軟等に関するコンター図等を投影する技術が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、切羽へのコンクリートの鏡吹きによって安全性を確保しつつ、工事作業者が鏡吹きされたコンクリート表面上でその地山状況を視認しながら施工作業を行うことを可能にした、切羽情報表示方法と切羽情報表示システムが提案されている。具体的には、発破による掘削にて露出した切羽の地山の露出面である第1の切羽面を含む領域をデジタルカメラにて撮影し、その撮影画像データに基づき、切羽の地山状況を示す表示情報を含む切羽情報画像データを生成する。一方、第1の切羽面をコンクリートで鏡吹きし、この鏡吹きしたコンクリート表面である第2の切羽面に切羽情報画像データの示す画像である切羽情報画像を投影する。その後、投影した画像に基づき装薬孔位置等の施工情報を決定し、決定した施工情報を切羽情報画像データに追加して切羽情報更新画像データを生成し、生成した切羽情報更新画像データの示す画像である切羽情報更新画像を第2の切羽面に投影する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-150720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の切羽情報表示方法と表示システムによれば、トンネル切羽の地山の露出した第1の切羽面にコンクリートを鏡吹きし、鏡吹き後のコンクリート表面である第2の切羽面に、少なくともトンネル切羽の地山状況を示す表示情報を含む切羽情報画像を投影するようにしたことにより、現場の工事作業者は、投影された切羽情報画像からトンネル切羽の地山状況を視認することが可能になる。加えて、現場の多くの工事作業者が、トンネル切羽の地山状況を共有した状態で施工作業を行うことができ、施工作業の効率化と切羽に立ち入る施工作業における安全性の向上を図ることができる。
ところで、トンネルジャンボを適用して複数の装薬孔を削孔する場合、複数(例えば二本)の削孔ブームを伸長させ、各削孔ブームに装備されている削孔ビットにて複数の装薬孔の削孔が並行して行われるのが一般的であるが、特許文献1には、複数の装薬孔の削孔を並行しておこなう際の削孔ブームの錯綜を回避しながら、さらに切羽面の硬軟の分布を勘案して肌落ち等を回避することにより、高い施工安全性を実現するための手段の開示はない。さらに、上記するように三次元位置情報の特定機能を備えていない一般的なトンネルジャンボを適用しながら、比較的高い精度で装薬孔の削孔位置を特定するための手段の開示がない。
【0007】
本発明は、三次元位置情報の特定機能を備えていない一般的なトンネルジャンボを適用しながらも、高い施工安全性の下、比較的高い精度で装薬孔の削孔位置を特定し、削孔位置における削孔時機械データを取得して切羽前方の地山性状の評価を行うことのできる、切羽前方の地山性状評価方法と地山性状評価システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による切羽前方の地山性状評価方法の一態様は、
トンネルの切羽に対して、複数の削孔ポイントにおいて発破のための装薬孔を削孔装置にて削孔し、削孔時に該削孔装置が取得する削孔時機械データと該装薬孔の位置情報をリンクさせることにより、切羽前方の地山性状を評価する、切羽前方の地山性状評価方法であって、
前記切羽における複数の前記削孔ポイントの相対位置関係と削孔順序を設定する、設定工程と、
プロジェクターにより、前記切羽に対して次に削孔する削孔ポイントを投影する、投影工程と、
前記削孔装置により、前記投影工程にて投影された前記削孔ポイントにおいて前記装薬孔を削孔し、その際に、該削孔装置にて前記削孔時機械データを取得する、削孔取得工程と、
前記削孔順序に従い、前記投影工程と前記削孔取得工程を繰り返し行うことにより、前記削孔ポイントごとの前記削孔時機械データを集積し、その際に、それぞれの該削孔ポイントと、前記切羽の位置情報及び又は前記削孔装置の位置情報とをリンクさせることにより該削孔ポイントの位置情報を特定し、前記位置情報を備えた前記削孔ポイントごとの削孔時機械データを集積する、データ集積工程と、
集積された前記削孔ポイントごとの前記削孔時機械データに基づいて、切羽前方の地山性状を評価する、評価工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、設定工程において設定された削孔順序に沿って削孔ポイントを順次切羽面に投影し、削孔取得工程において投影された削孔ポイントにおける装薬孔の削孔(もしくは穿孔)を行いながら削孔時機械データを取得すること、及び、データ集積工程において、削孔ポイントと、切羽の位置情報及び又は削孔装置の位置情報とをリンクさせることによって当該削孔ポイントの位置情報を特定することにより、一般的なトンネルジャンボを適用しながら、比較的高い精度で各装薬孔の削孔位置を特定し、高い施工安全性の下での装薬孔の削孔と切羽前方の地山性状評価に供される削孔時機械データの集積を図ることができる。
ここで、設定工程における「切羽における複数の削孔ポイントの相対位置関係と削孔順序を設定する」とは、先行する発破作業時に取得されている各削孔ポイントごとの削孔時機械データにより特定されている、現状の切羽面の硬軟の分布等に基づいて、トンネルジャンボの備える複数の削孔ビットにて複数の装薬孔の削孔を並行して行うに当たり、肌落ちを防止して施工安全性を担保しながら、並行して削孔を行う複数の削孔ブームの相互干渉の防止を可能とした、各削孔ポイントの相対位置関係と施工順序を設定することを意味している。
切羽面に対して複数の削孔ポイントを設定された削孔順序に沿い投影するプロジェクターは、例えば一般的な削岩機(トンネルジャンボ)の適所に搭載される。ここで、一般的なトンネルジャンボとは、上記するように三次元位置情報の特定機能を備えていないトンネルジャンボを意味するが、本態様の評価方法は三次元位置情報の特定機能を備えているコンピュータジャンボの使用を完全に排除するものではない。また、投影工程におけるプロジェクターを用いた削孔ポイントの切羽面への投影は、公知のプロジェクトマッピング手法を用いて行うことができる。
【0010】
データ集積工程における、「それぞれの削孔ポイントと、切羽の位置情報及び又は削孔装置の位置情報とをリンクさせる」方法としては、作業所等において特定されている、現在露出している切羽面に関する三次元位置情報を活用する方法が挙げられる。施工計画に沿い順次発破による掘削が行われる過程で、ある施工日における切羽面の三次元位置情報は作業所において特定され、把握されている。従って、施工計画に沿いトンネルの掘削が行われている場合、切羽面の三次元位置情報を精緻に測量するまでもなく、作業所ではある施工日における切羽面の三次元位置情報はおよそ特定していることから、作業所にて特定されている切羽面の三次元位置情報を有効に活用するものである。
このように三次元位置情報を備えている切羽面に対して、複数の削孔ポイントが相対位置関係を備えた状態で投影されるが、プロジェクターに投影される複数の削孔ポイントデータは、施工対象の切羽面の形状及び寸法を備えた切羽モデル内において各削孔ポイント間の相対距離を含む相対位置データ(CAD(Computer aided design)データ)を含んでいる。従って、三次元位置情報を備えている切羽面に対して、コンピュータ内に設定されている全ての削孔ポイントが投影された際には、各削孔ポイントは、切羽面の有する三次元位置情報と、コンピュータ内に設定されている相対位置データ(CADデータ)とが合成されてなる三次元位置情報を有することになる。
ここで、施工管理者等がプロジェクターの備えるジョイスティック等を手動操作する方法等により、コンピュータ内に設定されている切羽モデルが実際の切羽面の可及的全域に投影される調整が行われる。
尚、上記するリンク方法は、ある程度の規模の山岳トンネルの切羽面においては、装薬孔間の距離が5cm乃至20cm程度の誤差を含んでいても、切羽面前方の地山性状の評価に大きく影響しないとの前提の下で、精緻な測量結果に基づくことなく各削孔ポイントの三次元位置情報をおよそ特定するものである。
【0011】
また、その他、測量により各削孔ポイントの三次元位置情報を特定してもよい。例えば坑口側にトータルステーションを設置し、切羽面や、切羽面の正面に位置決めされた削孔装置(削孔装置本体に設けられているターゲットや、削孔装置本体から伸長する削孔ブームの先端等に設けられているターゲット等)の三次元位置座標を測量することにより、各削孔ポイントの三次元位置情報を特定することができる。
【0012】
データ集積工程において集積される、各削孔ポイントにおける削孔時機械データは、地山の硬軟等を特定できるデータが含まれ、削孔ビットにて削孔する際の打撃圧やフィード圧、削孔速度、打撃数やそれらに基づく削孔エネルギー、削孔に要する削孔時間とその間に変化し得るフィード圧等に基づく削孔エネルギー等が挙げられる。削孔エネルギーを割り出す際に適用される削孔時間(好適な削孔速度の下での削孔に要する時間)を制御装置の表示部(モニター画面)に表示したり、切羽面に投影することによっても、削孔ポイントごとの削孔に要する時間を把握できることから好ましい。
評価工程では、ある程度高い精度の三次元位置情報を有する(三次元位置情報がリンクされた)削孔ポイントごとの削孔時機械データに基づいて、切羽前方の地山性状(地山の硬軟の程度やその分布等)を評価し、この評価結果に基づき、安全かつ効率的な以後の削孔(発破)を行うことができる。
【0013】
また、本発明による切羽前方の地山性状評価方法の他の態様は、設定されている前記削孔順序の中の一部の前記削孔ポイントにおける削孔をスキップする場合に、前記投影工程では、前記削孔順序においてスキップされた削孔ポイントの次に削孔予定の削孔ポイントを投影し、前記削孔取得工程では投影された該削孔ポイントにおいて前記装薬孔を削孔し、
前記削孔順序が一巡した後、もしくは、スイッチ操作による所定のタイミングで、スキップされた前記削孔ポイントにおいて前記投影工程と前記削孔取得工程を行うことを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、実施工において想定外の事態が生じた結果、設定順序の一部の削孔ポイントの削孔をスキップせざるを得ない場合に、当該削孔ポイントの削孔をスキップし、削孔順序が一巡した後、もしくは、スイッチ操作による所定のタイミングで、スキップされた削孔ポイントにおいて投影工程と削孔取得工程を行うことにより、全ての削孔ポイントにおける削孔を保証することができる。ここで、実施工における想定外の事態には様々なものがあり、一例としては、ある削孔ポイントが想定以上に軟質で肌落ちの危険性があるためにスキップを余儀なくされることや、複数の削孔ブームが想定に反して干渉することが判明した結果スキップを余儀なくされること等が挙げられる。
【0015】
また、本発明による切羽前方の地山性状評価システムの一態様は、
複数の削孔ポイントにおいて発破のための装薬孔を削孔するとともに、削孔の際に削孔時機械データを取得する、削孔装置と、
切羽に対して次に削孔する前記削孔ポイントを投影する、プロジェクターと、
地山性状を評価する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、
前記切羽における複数の前記装薬孔の相対位置関係データ及び削孔順序データと、前記削孔装置から送信される前記削孔時機械データとが格納される、格納部と、
前記削孔順序データに基づき、次に削孔する前記削孔ポイントを前記プロジェクターに投影させるプロジェクター動作部と、
前記削孔ポイントと、前記切羽の位置情報及び又は前記削孔装置の位置情報とをリンクさせる、リンク部と、
前記格納部において集積されている、前記位置情報を備えた前記削孔ポイントごとの削孔時機械データに基づいて、切羽前方の地山性状を評価する、評価部と、を有することを特徴とする。
本態様によれば、制御装置がリンク部と格納部と評価部とを少なくとも備え、削孔ポイントと切羽の位置情報及び又は削孔装置の位置情報とをリンク部がリンクさせ、位置情報を備えた削孔ポイントごとの削孔時機械データを格納部が格納し、この格納データに基づいて切羽前方の地山性状を評価部が評価することにより、一般的なトンネルジャンボを適用しながら、比較的高い精度で削孔位置を特定し、高い施工安全性の下での装薬孔の削孔と切羽前方の地山性状評価に供される削孔時機械データの集積を図ることができる。
【0016】
また、本発明による切羽前方の地山性状評価システムの他の態様は、設定されている前記削孔順序データの中の一部の前記削孔ポイントにおける削孔がスキップされた場合に、前記プロジェクター動作部は、前記削孔順序データにおいてスキップされた該削孔ポイントの次に削孔予定の削孔ポイントを前記プロジェクターに投影させる制御を実行し、
スキップされた前記削孔ポイントが前記格納部に記憶され、
前記削孔順序データにおける削孔順序が一巡した後、もしくは、スイッチ操作による所定のタイミングで、前記プロジェクター動作部は、スキップされた前記削孔ポイントを前記プロジェクターに投影させる制御を実行することを特徴とする。
本態様によれば、実施工において想定外の事態が生じた結果、設定順序の一部の削孔ポイントの削孔をスキップせざるを得ない場合に、当該削孔ポイントの削孔をスキップし、削孔順序が一巡した後、もしくは、スイッチ操作による所定のタイミングで、スキップされた削孔ポイントにおける削孔を実現することができ、全ての削孔ポイントにおける削孔を保証することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の切羽前方の地山性状評価方法と地山性状評価システムによれば、三次元位置情報の特定機能を備えていない一般的なトンネルジャンボを適用しながらも、高い施工安全性の下、比較的高い精度で装薬孔の削孔位置を特定し、削孔位置における削孔時機械データを取得して切羽前方の地山性状の評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る切羽前方の地山性状評価システムの一例を示す斜視図である。
図2】地山性状評価システムを構成する制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】制御装置の機能構成の一例を示す図である。
図4】(a)、(b)は順に、削孔ポイントの投影と、投影された削孔ポイントにおける装薬孔の削孔を説明する正面図であり、(c)は、切羽面に削孔された全ての装薬孔の一例を示す正面図である。
図5】(a)、(b)はいずれも、地山性状の評価結果の一例を切羽面に投影させた図であって、(a)は地山の硬軟の程度に基づくコンター図であり、(b)は削孔時間の分布をグリッドで示した図である。
図6】実施形態に係る切羽前方の地山性状評価方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態に係る切羽前方の地山性状評価方法と地山性状評価システムについて、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0020】
[実施形態に係る切羽前方の地山性状評価システム]
まず、図1乃至図5を参照して、実施形態に係る切羽前方の地山性状評価システムの一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る切羽前方の地山性状評価システムの一例を示す斜視図である。また、図2は、地山性状評価システムを構成する制御装置のハードウェア構成の一例を示す図であり、図3は、制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【0021】
図示する地山性状評価システム50は、発破工法により山岳トンネルの掘削を行うに当たり、切羽前方の地山性状の評価を行いながら切羽面Kに装薬孔を削孔するシステムである。切羽面Kには、トンネルTの軸線方向(軸線方向から傾斜した方向も含む)に沿って複数の装薬孔を削孔して火薬を装填し、各装薬孔に装填された火薬を同時もしくは順次に起爆させることにより、トンネルを所定延長(例えば1m乃至3m程度)造成する。その後、必要に応じて、H形鋼等による鋼製アーチ支保工を掘進方向において所定間隔にて設置することにより、坑壁防護を図る。支保部材を設置した際は、当該支保部材を巻き込むようにしてコンクリートの吹付け施工を行うことにより、所定厚み(例えば5cm乃至25cm程度)の吹付けコンクリートを施工する。コンクリートの吹付け完了後、必要に応じて不図示のロックボルトが施工される。尚、地山性状評価システム50は、発破工法により掘削される山岳トンネルの切羽面への適用に限定されるものでなく、システムを構成する削孔装置10により削孔される孔も装薬孔に限定されるものでない。例えば、鏡ボルト等の補助工法において切羽面に孔を削孔するに当たり、切羽前方の地山性状評価と評価結果に基づく削孔に本システムを適用できる。
【0022】
地山性状評価システム50は、削孔装置10と、切羽に対して次に削孔する削孔ポイント1A,1B等を投影するプロジェクター20と、地山性状を評価する制御装置30とを有する。
【0023】
削孔装置10は、自身の三次元位置情報の特定機能を備えていない一般的なトンネルジャンボであり、移動車輌である装置本体11と、装置本体11に装備されている複数(図示例は二つ)の削孔ブーム12A,13Aと、作業台16と、操作室11a(オペレータキャビン)等を有する。
【0024】
装置本体11に対して、削孔ブーム12A,13Aは、X1方向への旋回やX2方向への起伏、X3方向への伸縮が自在であり、各削孔ブーム12A,13Aにはそれぞれ、ガイドセル12B,13Bが傾動自在に装備され、各ガイドセル12B,13Bの先端には削孔ビット14,15が装備されている。削孔ビット14,15は公知の削孔用ビットであり、略円筒状の先端側に複数の削孔用刃(図示せず)が装着されている。作業台16は作業台ブーム16aの先端に枢支されており、作業台ブーム16aの起伏に伴って傾動することにより、常時水平状態が保持されるようになっている。また、装置本体11の前後にはアウトリガ17(前方のみ図示)が装備されている。
【0025】
操作室11aの天井にはプロジェクター20が載置されている。プロジェクター20には手動調整用のジョイスティック25が設けられており、プロジェクター20から切羽面Kに投影された画像を切羽面Kの全域に亘る画像となるように手動調整自在となっている。
【0026】
操作室11aには制御装置30が装備されており、操作室11a内において施工管理者やオペレータが制御装置30を操作することにより、削孔ブーム12A,13A等の駆動制御による装薬孔の削孔や、各種の削孔時機械データの取得、プロジェクター20の動作制御等、様々な制御が実行される。尚、制御装置30による各種の制御については以下で詳説する。削孔ブームの数やその構成等は図示例以外にも多様な形態があるが、ここでは、二つの削孔ブーム12A,13Aを旋回等させながら、切羽面Kに設定される削孔ポイントに対して装薬孔を削孔するシステムとして説明する。
【0027】
制御装置30は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)やワークステーション(WS:Work Station)等の情報処理装置からなり、コンピュータにより構成される。
【0028】
図2に示すように、制御装置30は、接続バス36により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)31、主記憶装置32、補助記憶装置33、通信IF(interface)34、及び入出力IF35を備えている。主記憶装置32と補助記憶装置33は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0029】
CPU31は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU31は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU31は、コンピュータからなる制御装置30の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU31は、例えば、補助記憶装置33に記憶されたプログラムを主記憶装置32の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0030】
主記憶装置32は、CPU31が実行するコンピュータプログラムや、CPU31が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置32は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置33は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置33には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF34を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、ゲートウェイや、ゲートウェイに接続されている坑内LAN(Local Area Network)、トンネル坑外にある作業所内にある管理用コンピュータ等が備える通信器(いずれも図示せず)が含まれる。尚、ネットワークには、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等が含まれる。
【0031】
補助記憶装置33は、例えば、主記憶装置32を補助する記憶領域として使用され、CPU31が実行するコンピュータプログラムや、CPU31が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置33は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置33として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0032】
通信IF34は、制御装置30が接続するネットワークとのインターフェイスである。通信IF34は、ネットワークを介して、トンネル坑外の作業所内にある管理用コンピュータの通信器から、現在の切羽面の三次元位置データを受信し、作業所の管理用コンピュータに対して、切羽面における三次元位置情報を備えた各削孔ポイントにおける各種の削孔時機械データや、各削孔ポイントにおける削孔時機械データに基づいて評価された切羽前方の地山性状データ等を送信する。
【0033】
入出力IF35は、制御装置30に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF35には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。制御装置30は、入出力IF35を介し、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0034】
また、入出力IF35には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。例えば、作業所の管理用コンピューから送信される現状の切羽面の三次元位置情報データが通信IF34を介して受信され、入出力IF35を構成する表示デバイスに表示される。また、制御装置30内に格納されている、各削孔ポイントデータを含む切羽モデルデータが表示デバイスに表示される。
【0035】
図3に示すように、制御装置30は、CPU31によるプログラムの実行により、少なくとも、通信部302、プロジェクター動作部304、リンク部306,評価部308、及び格納部310の各種機能を提供する。尚、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0036】
通信部302は、山岳トンネルT内に設けられている、計測データの受信が可能なゲートウェイに接続されている坑内LAN等を介し、ネットワークを介して、坑外の作業所内にある管理用コンピュータの通信IFに通信可能に接続される。尚、制御装置30と管理用コンピュータとの間のデータの授受は、CDやDVD、BD、USB等の記録媒体を介して行ってもよい。
【0037】
格納部310には、施工対象の切羽面Kの形状及び寸法を備えた切羽モデルデータと、切羽モデルデータ内に設定されている複数の削孔ポイントデータとを含む、CADデータが格納されている。切羽モデルデータ内において設定されている複数の削孔ポイントデータはそれぞれ、相対距離データを有している。従って、実際の切羽面Kに対してプロジェクター20から投影された投影画像が、切羽面Kの全域もしくは略全域に亘るように調整された際に、各削孔ポイントがCADデータ内で設定されている相対距離を備えた状態で、実際の切羽面Kに投影されることになる。この投影画像の調整は、プロジェクター20に装備されているジョイスティック25を管理者等がY1方向に手動調整すること等により行われる。
【0038】
さらに、格納部310には、上記するように通信部302を介して、もしくは記録媒体を介して、切羽面Kの三次元位置情報データが格納される。山岳トンネルTの施工においては、施工計画に沿い順次発破による掘削が行われる過程で、日々の掘進長が管理され、日々の切羽面Kの三次元位置情報が含まれる延伸位置が作業所において特定され、把握されている。そこで、作業所内の管理用コンピュータ内に格納されている日々の切羽面Kの三次元位置情報データが、上記するように通信部302等を介して格納部310に格納される。
【0039】
プロジェクター動作部304は、格納部310に格納されている、各削孔ポイントの削孔順序に沿って、次に削孔する削孔ポイントを投影する指令信号をプロジェクター20に対して無線もしくは有線にて送信する。指令信号を受信したプロジェクター20は、次に削孔する削孔ポイントを切羽面Kに投影する。
【0040】
ここで、図示例の削孔装置10は、二本の削孔ブーム12A,13Aの先端にそれぞれ二基の削孔ビット14,15を備えており、原則として二基の削孔ビット14,15を同時並行して駆動させることにより、切羽面Kに投影された二つの削孔ポイントに対してそれぞれ装薬孔を削孔する。そのため、図1及び図4(a)に示すように、切羽面Kには、二つの削孔ポイント1A,1B(最初に削孔される二つの削孔ポイント)の投影がプロジェクター20により実行される。図1及び図4(b)に示すように、削孔ポイント2A,2Bは次に削孔される二つの削孔ポイントを示しており、図1では、以後、三回目の削孔ポイント3A,3B~十回目の削孔ポイント10A,10Bまで示されている。図4(b)では、図4(a)に示す二つの削孔ポイント1A,1Bが同時並行して削孔されることにより装薬孔E1A,E1Bが削孔され、次に、切羽面Kに装薬孔が削孔される削孔ポイント2A,2Bが投影されている状態を示している。
【0041】
ここで、削孔ポイントの削孔順序や、同時に投影される二つの削孔ポイントの設定は、先行する発破作業時に取得されている各削孔ポイントごとの削孔時機械データにより特定されている、現状の切羽面Kの硬軟の分布等に基づいて設定される。すなわち、トンネルジャンボ10の備える二つの削孔ビット14,15にて二つの装薬孔の削孔を並行して行うに当たり、肌落ちを防止して施工安全性を担保しながら、並行して削孔を行う複数の削孔ブーム12A,13A等の相互干渉の防止を可能とした、各削孔ポイントの相対位置関係と施工順序として設定される。設定された削孔順序データは、格納部310に格納される。
【0042】
上記する削孔時機械データには、切羽前方の地山の硬軟等を特定できるデータが含まれ、削孔ビット14,15にて削孔する際の打撃圧やフィード圧、削孔速度、打撃数やそれらに基づく削孔エネルギー、削孔に要する削孔時間とその間に変化し得るフィード圧等に基づく削孔エネルギー等が挙げられる。また、削孔エネルギーを割り出す際に適用される削孔時間(好適な削孔速度の下での削孔に要する時間)のみによっても、地山の硬軟の程度や各削孔ポイントにおける削孔に要する時間が特定できることから有用な情報となる。
【0043】
リンク部306は、格納部310に格納されている、切羽面Kの三次元位置情報データと、切羽モデルに関するCADデータ(施工対象の切羽面Kの形状及び寸法を備え、各削孔ポイントの相対位置情報データが内包されるCADデータ)の双方のデータを合成(もしくは統合)することにより、各削孔ポイントに対してその三次元位置情報を紐付けする。
【0044】
このように、リンク部306により、切羽面Kの三次元位置情報データと、切羽面Kに投影される削孔ポイントのCADデータとが統合されることにより、自身の三次元位置情報の特定機能を備えていない一般的なトンネルジャンボ10を適用した装薬孔の削孔においても、各装薬孔の三次元位置情報を特定することが可能になる。
【0045】
リンク部306による上記リンク方法は、例えば、断面積が数十m乃至数百m程度の規模の山岳トンネルTの切羽面Kにおいては、装薬孔間の距離が10cm乃至30cm程度の誤差を含んでいても、切羽面前方の地山性状の評価に大きく影響しないとの前提の下で、精緻な測量結果に基づくことなく各削孔ポイントの三次元位置情報をおよそ特定するものである。尚、例えば山岳トンネルの坑口側にトータルステーションを設置し、ガイドセル12B,13Bの先端等にターゲットを設置し、トータルステーションを用いて各削孔ポイントの三次元位置情報を特定してもよい。
【0046】
制御装置30には、削孔ブーム12A,13A等の駆動制御部(図示せず)が設けられており、プロジェクター動作部304から切羽面Kに投影された各削孔ポイントに対して、駆動制御部が削孔ブーム12A,13A等を駆動制御することにより、削孔ビット14,15により各削孔ポイントにおける装薬孔の削孔を実行する。
【0047】
削孔ビット14,15による各削孔ポイントにおける装薬孔の削孔の際に、削孔ポイントごとの削孔時機械データが取得され、削孔ポイントごとに取得された削孔時機械データが格納部310に格納される。図示を省略するが、削孔ビット14,15等に、圧力センサをはじめとする各種センサが装備されており、各種センサにより各種の削孔時機械データが取得される。図4(c)に示すように、切羽面Kにおいて、各削孔ポイントに対して装薬孔E1A、E1B~E10A,E10Bが削孔され、各装薬孔E1A、E1B~E10A,E10Bの削孔の際に取得される削孔時機械データが格納部310に集積される。従って、格納部310では、三次元位置情報がリンクされた装薬孔E1A、E1B~E10A,E10Bごとに、固有の削孔時機械データが格納される。
【0048】
ここで、設定されている削孔順序データの中の一部の削孔ポイントにおける削孔がスキップされた場合には、プロジェクター動作部304は、削孔順序データにおいてスキップされた削孔ポイントの次に削孔予定の削孔ポイントをプロジェクター20に投影させる制御を実行する。例えば、実施工において想定外の事態が生じた結果、設定順序の一部の削孔ポイントの削孔をスキップせざるを得ない場合に、当該削孔ポイントの削孔をスキップし、削孔順序が一巡した後にスキップされた削孔ポイントにおける削孔を行う。例えば、ある削孔ポイントが想定以上に軟質で肌落ちの危険性があるためにスキップを余儀なくされる場合や、複数の削孔ブームが想定に反して干渉することが判明した結果スキップを余儀なくされる場合等において、プロジェクター動作部304による上記制御が実行される。
【0049】
ここで、スキップは、例えば施工管理者等が作業状況を見て判断し、手動にてプロジェクター動作部304を作動することにより、実行できる。スキップされた削孔ポイントは格納部310に記憶されるようになっており、削孔順序データにおける削孔順序が一巡した後に、プロジェクター動作部304は、スキップされた削孔ポイントをプロジェクター20に投影させる制御を実行する。
【0050】
評価部308は、格納部310において集積されている、三次元位置情報を備えた装薬孔E1A、E1B~E10A,E10Bごとの削孔時機械データに基づいて、切羽前方の地山性状を評価する。削孔時機械データには、地山の硬軟等を特定できるデータが含まれ、削孔ビットにて削孔する際の打撃圧やフィード圧、削孔速度、打撃数やそれらに基づく削孔エネルギー、削孔に要する削孔時間とその間に変化し得るフィード圧等に基づく削孔エネルギー等が挙げられる。
【0051】
図5(a)、(b)には、地山性状の評価結果の一例を切羽面に投影させた図を示しており、より具体的には、図5(a)は地山の硬軟の程度に基づくコンター図であり、図5(b)は削孔時間の分布をグリッドで示した図である。尚、図5(a)、(b)に示す地山性状の評価結果例は、プロジェクター20から切羽面Kに投影される他にも、例えば制御装置30の入出力IF35に接続される、液晶パネル等の表示デバイスに表示される。
【0052】
図5(a)に示すコンター図では、切羽面Kを硬軟の程度に応じて五種類のエリアに分類し、硬軟の程度は削孔時機械データに基づく削孔エネルギーENに応じて分類される。図示例では、削孔エネルギーEN1~2の範囲にあるエリアを硬い地山と評価し、その他、削孔エネルギーEN2~3の範囲にあるエリアをやや硬い地山、削孔エネルギーEN3~4の範囲にあるエリアを普通の地山、削孔エネルギーEN4~5の範囲にあるエリアをやや軟らかい地山、削孔エネルギーEN5~6の範囲にあるエリアを軟らかい地山と評価し、コンター図が作成されている。評価する地山の硬軟の段階数等は、図示例以外にも多様に存在する。また、図示例のようなコンター図に代わり、各装薬孔が対応する削孔エネルギーデータ(削孔エネルギーに応じて、色分け、模様分け等がなされている)を備えている画像が投影されてもよい。
【0053】
一方、図5(b)に示すグリッド図は、切羽面Kを複数のグリッドで分割し、各グリッド内にある装薬孔を削孔する際に要した所要時間に固有の模様により、各グリッドを模様分けした図である。図示例では、削孔時間t1~t2のエリア、・・・・、削孔時間t5~t6のエリアの五つの所要時間範囲区分により各グリッドを評価している。削孔に要する時間は削孔時に付与されるフィード圧等によって変化するものであるが、例えば、孔曲がりや孔荒れ等を生じさせない好適な削孔速度が設定された上で、設定された削孔速度にて削孔する際に要する所要時間を各グリッドに適用することにより、装薬孔削孔時に要するおよその所要時間を容易に特定することができ、また、この所要時間にて各グリッドのおよその地山性状の良否を判断することができる。
【0054】
[実施形態に係る切羽前方の地山性状評価方法]
次に、図6を参照して、実施形態に係る切羽前方の地山性状評価方法の一例について説明する。ここで、図6は、実施形態に係る切羽前方の地山性状評価方法の一例のフローチャートである。尚、図6に示すフローチャートを用いた説明においては、図1等を適宜参照しながら説明する。
【0055】
切羽前方の地山性状評価方法は、山岳トンネルTの切羽Kに対して、複数の削孔ポイントにおいて発破のための装薬孔を図1に示す削孔装置10にて削孔し、削孔時に削孔装置10が取得する削孔時機械データと装薬孔の位置情報をリンクさせることにより、切羽前方の地山性状を評価する方法である。
【0056】
この地山性状評価方法では、まず、切羽における複数の削孔ポイントの相対位置関係と削孔順序を設定する。この設定に際し、先行する発破作業時に取得されている各削孔ポイントごとの削孔時機械データにより特定されている、現状の切羽面Kの硬軟の分布等を参照する。現状の切羽面Kの硬軟の分布等に基づき、トンネルジャンボ10の備える二つの削孔ビット14,15にて二つの装薬孔の削孔を並行して行うに当たり、肌落ちを防止して施工安全性を担保しながら、並行して削孔を行う複数の削孔ブーム12A,13A等の相互干渉の防止を可能とした、各削孔ポイントの相対位置関係と施工順序を設定する。図1では、同時並行にて削孔される削孔ポイント1A,1B~10A、10Bの計20点が設定されている(以上、設定工程(ステップS100))。
【0057】
次に、図1に示すように、削孔装置10に搭載されたプロジェクター20により、切羽面Kに対して次に削孔する削孔ポイントを投影する。図1に示す例では、一回目の削孔ポイント1A,1Bが切羽面Kに投影され、以後、各削孔ポイントにおける装薬孔の削孔後に、次に削孔される削孔ポイントの切羽面Kに対する投影を順次行う(以上、投影工程(ステップS102))。
【0058】
次に、投影工程にて投影された二つの削孔ポイントに対して、二つの削孔ビット14,15にてそれぞれ装薬孔を削孔し、その際に、削孔ビット14,15等に装備されている各種センサにて削孔時機械データを取得する。ここで、削孔時機械データには、削孔ビット14,15にて削孔する際の打撃圧やフィード圧、削孔速度、打撃数やそれらに基づく削孔エネルギー等が含まれる(以上、削孔取得工程(ステップS104))。
【0059】
削孔順序に従い、以上で説明した投影工程と削孔取得工程を繰り返し行うことにより、削孔ポイントごとの削孔時機械データを集積し、その際に、それぞれの削孔ポイントと、切羽面Kの位置情報及び又は削孔装置10の位置情報とをリンクさせることにより削孔ポイントの位置情報を特定し、位置情報を備えた削孔ポイントごとの削孔時機械データを集積する。
【0060】
上記する削孔ポイントとその三次元位置情報とをリンクさせる方法は、作業所等において特定されている、現在露出している切羽面Kに関する三次元位置情報と、切羽面Kに対して複数の削孔ポイントが相対位置関係を備えた状態で投影される切羽モデルデータ(CADデータ)とを合成(統合)することにより行う。このようなリンク方法により、一般的なトンネルジャンボを適用しながら、切羽面Kに投影される削孔ポイントとその三次元位置情報を、ある程度高い精度でリンクさせることができる。以上の方法により、自身の三次元位置情報と固有の削孔時機械データを備えている、全ての装薬孔に関するデータを集積する(以上、データ集積工程(ステップS106))。
【0061】
次に、ある程度高い精度の三次元位置情報がリンクされた装薬孔ごとの削孔時機械データに基づいて、切羽前方の地山性状(地山の硬軟の程度やその分布等)を評価する(評価工程(ステップS108))。評価工程における評価結果に基づき、安全かつ効率的な以後の削孔(発破)を行うことが可能になる。
【0062】
上記する切羽前方の地山性状評価方法において、設定されている削孔順序の中の一部の削孔ポイントにおける削孔をスキップする場合、投影工程では、削孔順序においてスキップされた削孔ポイントの次に削孔予定の削孔ポイントを投影し、削孔取得工程では投影された削孔ポイントにおいて装薬孔を削孔し、削孔順序が一巡した後に、スキップされた削孔ポイントにおいて投影工程と削孔取得工程を行う。この方法によれば、実施工において想定外の事態が生じた結果、設定順序の一部の削孔ポイントの削孔をスキップせざるを得ない場合でも、全ての削孔ポイントにおける削孔を保証することができる。
【0063】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0064】
10:削孔装置(トンネルジャンボ)
11:装置本体
11a:操作室(オペレータキャビン)
12A,13A:削孔ブーム
12B,13B:ガイドセル
14,15:削孔ビット
16:作業台
20:プロジェクター
25ジョイスティック
30:制御装置(制御盤)
50:地山性状評価システム(切羽前方の地山性状評価システム)
302:通信部
304:プロジェクター動作部
306:リンク部
308:評価部
310:格納部
K:切羽面(切羽)
T:トンネル(山岳トンネル)
1A,1B、2A,2B:削孔ポイント
E1A~E10B:装薬孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6