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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】複合溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/348 20140101AFI20231221BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20231221BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20231221BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B23K26/348
B23K9/16 K
B23K9/073 530
B23K9/09
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020164313
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056518
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-234441(JP,A)
【文献】特開2007-105754(JP,A)
【文献】特開2003-025081(JP,A)
【文献】特表2008-522833(JP,A)
【文献】特開2004-237342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/348
B23K 9/16
B23K 9/073
B23K 9/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給し、電極マイナス極性ピーク期間中は電極マイナス極性ピーク電流を通電し、続けて電極プラス極性ピーク期間中は電極プラス極性ピーク電流を通電し、続けて電極プラス極性ベース期間中は電極プラス極性ベース電流を通電し、続けて電極マイナス極性ベース期間中は電極マイナス極性ベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1周期として繰り返して交流アーク溶接を行うアーク溶接装置と、
前記アーク溶接の溶接部にレーザを照射するレーザ溶接装置と、を備えた複合溶接装置において、
前記アーク溶接装置は、前記電極マイナス極性ベース期間中の電極マイナス極性ベース電圧が予め定めた基準電圧値以上になったことを判別すると、前記電極マイナス極性ピーク電流及び/又は前記電極マイナス極性ピーク期間を小さくする、
ことを特徴とする複合溶接装置。
【請求項2】
前記アーク溶接装置は、前記電極マイナス極性ピーク電流及び/又は前記電極マイナス極性ピーク期間を小さくしたときは、前記電極プラス極性ピーク電流及び/又は前記電極プラス極性ピーク期間を大きくする、
ことを特徴とする請求項1に記載の複合溶接装置。
【請求項3】
前記アーク溶接装置は、前記電極マイナス極性ピーク電流及び/又は前記電極マイナス極性ピーク期間を小さくしたときは、前記溶接電流の絶対値の平均値が一定となるように、前記電極プラス極性ピーク電流及び/又は前記電極プラス極性ピーク期間を大きくする、
ことを特徴とする請求項1に記載の複合溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接とレーザ溶接とを併用して溶接する複合溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接とレーザ溶接とを併用して溶接する複合溶接装置が慣用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のアーク溶接として、交流パルスアーク溶接が使用される場合がある(例えば、特許文献2参照)。交流パルスアーク溶接では、溶接ワイヤを送給し、電極マイナス極性ピーク期間中は電極マイナス極性ピーク電流を通電し、続けて電極プラス極性ピーク期間中は電極プラス極性ピーク電流を通電し、続けて電極プラス極性ベース期間中は電極プラス極性ベース電流を通電し、続けて電極マイナス極性ベース期間中は電極マイナス極性ベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1周期として繰り返して溶接が行われる。
【0004】
上記のレーザとしては、半導体レーザ、YAGレーザ、炭酸ガスレーザ等が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-9061号公報
【文献】特開2018-108604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
交流パルスアーク溶接とレーザ溶接とを併用する複合溶接方法においては、交流パルスアーク溶接による低入熱及び高溶着溶接と、レーザ溶接による適切な溶け込みとを両立することができるために、薄板高速溶接でアンダーフィルを抑制し健全な継手を得ることが可能である。しかし、複合溶接方法では、レーザの照射位置と溶接ワイヤの先端位置との距離が2mm程度と近接しているために、母材の歪みや、ワイヤ突き出し長さの変動等の外乱によって、レーザの照射と溶接ワイヤの先端部分とに干渉が発生しやすい。干渉が発生すると、溶接ワイヤの溶融速度が大きくなりアーク長が長くなるために、アンダーフィルが発生して、溶接品質が悪くなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明では、交流パルスアーク溶接とレーザ溶接とを併用して溶接する場合において、レーザ照射と溶接ワイヤの先端部分との干渉が発生しても、アンダーフィルの発生を抑制して良好な溶接品質を得ることができる複合溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給し、電極マイナス極性ピーク期間中は電極マイナス極性ピーク電流を通電し、続けて電極プラス極性ピーク期間中は電極プラス極性ピーク電流を通電し、続けて電極プラス極性ベース期間中は電極プラス極性ベース電流を通電し、続けて電極マイナス極性ベース期間中は電極マイナス極性ベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1周期として繰り返して交流アーク溶接を行うアーク溶接装置と、
前記アーク溶接の溶接部にレーザを照射するレーザ溶接装置と、を備えた複合溶接装置において、
前記アーク溶接装置は、前記電極マイナス極性ベース期間中の電極マイナス極性ベース電圧が予め定めた基準電圧値以上になったことを判別すると、前記電極マイナス極性ピーク電流及び/又は前記電極マイナス極性ピーク期間を小さくする、
ことを特徴とする複合溶接装置である。
【0009】
請求項2の発明は、
前記アーク溶接装置は、前記電極マイナス極性ピーク電流及び/又は前記電極マイナス極性ピーク期間を小さくしたときは、前記電極プラス極性ピーク電流及び/又は前記電極プラス極性ピーク期間を大きくする、
ことを特徴とする請求項1に記載の複合溶接装置である。
【0010】
請求項3の発明は、
前記アーク溶接装置は、前記電極マイナス極性ピーク電流及び/又は前記電極マイナス極性ピーク期間を小さくしたときは、前記溶接電流の絶対値の平均値が一定となるように、前記電極プラス極性ピーク電流及び/又は前記電極プラス極性ピーク期間を大きくする、
ことを特徴とする請求項1に記載の複合溶接装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る複合溶接装置によれば、交流パルスアーク溶接とレーザ溶接とを併用して溶接する場合において、レーザ照射と溶接ワイヤの先端部分との干渉が発生しても、アンダーフィルの発生を抑制して良好な溶接品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る複合溶接装置の構成図である。
図2図1の複合溶接装置を構成する溶接電源PSの詳細ブロック図である。
図3図2の溶接電源PSにおける各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る複合溶接装置の構成図である。複合溶接装置は、交流パルスアーク溶接を行うためのアーク溶接装置と、レーザ溶接を行うためのレーザ溶接装置を備えている。以下、同図を参照して各構成物について説明する。
【0015】
アーク溶接装置は、主に、溶接電源PS、送給機WF及び溶接トーチWTを備えている。
【0016】
溶接電源PSは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、インバータ制御等の出力制御を行い、アーク3を発生させるための交流の溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。また、溶接電源PSは、送給機WFに送給制御信号Fcを出力する。溶接電源PSの詳細なブロック図を、図2に示す。
【0017】
送給機WFは、溶接電源PSからの送給制御信号Fcを入力として、送給制御信号Fcに従って溶接ワイヤ1を送給速度Fwで定速送給する。
【0018】
溶接トーチWTは、装着された給電チップ(図示は省略)を介して溶接ワイヤ1に給電し、溶接ワイヤ1を母材2の溶接部に送出する。溶接ワイヤ1と母材2との間にアーク3が発生する。給電チップと母材2との間に溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。
【0019】
レーザ溶接装置は、主に、レーザ発振器LS、光ファイバーLF及び加工ヘッドLHを備えている。
【0020】
レーザ発振器LSは、レーザ溶接を行うためのレーザ光Lwを出力する。
【0021】
光ファイバーLFは、レーザ光Lwを加工ヘッドLHに導く。
【0022】
加工ヘッドLHは、内蔵された種々の光学系(図示は省略)によって集光し、レーザ光Lwをアーク溶接の溶接部に照射する。同図では、アーク3よりも前方からレーザ光Lwを照射しているが、後方から照射する場合もある。
【0023】
図2は、図1で上述した溶接電源PSの詳細ブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0024】
インバータ回路INVは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、整流及び平滑した直流電圧を、後述する電流誤差増幅信号Eiによるパルス幅変調制御によりインバータ制御を行い、高周波交流を出力する。インバータトランスINTは、高周波交流電圧をアーク溶接に適した電圧値に降圧する。2次整流器D2a~D2dは、降圧された高周波交流を直流に整流する。
【0025】
電極プラス極性トランジスタPTRは後述する電極プラス極性駆動信号Pdによってオン状態になり、このときは溶接電源の出力は電極プラス極性EPになる。電極マイナス極性トランジスタNTRは後述する電極マイナス極性駆動信号Ndによってオン状態になり、このときは溶接電源の出力は電極マイナス極性ENになる。
【0026】
リアクトルWLは、リップルのある出力を平滑するとともに、電極の極性切り替え時に溶接電流Iwの流れる向きをただちに切り替える役割をする。
【0027】
溶接ワイヤ1は、送給機WFに結合された送給ロール4の回転によって溶接トーチWT内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接ワイヤ1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0028】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwの絶対値を検出して、電流検出信号Idを出力する。
【0029】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwの絶対値を検出して、電圧検出信号Vdを出力する。
【0030】
電圧平滑回路VAVは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この信号をローパスフィルタに通すことによって溶接電圧平滑信号Vavを出力する。
【0031】
電圧設定回路VRは、予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。
【0032】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の溶接電圧平滑信号Vavと上記の電圧設定信号Vrとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0033】
電圧フィードバック制御回路VFは、上記の電圧誤差増幅信号Evを電圧/周波数変換して、1周期ごとに短時間Highレベルとなる周期信号Tfを出力する。この回路によって、溶接電圧平滑信号Vavの値が電圧設定信号Vrの値と等しくなるように周期信号Tfの周期が変調制御される。溶接電圧平滑信号Vavの値は平均アーク長と比例関係にあるので、この回路によってアーク長制御を行っている。1周期は電極マイナス極性ピーク期間、電極プラス極性ピーク期間、電極プラス極性ベース期間及び電極マイナス極性ベース期間から形成されており、電極マイナス極性ベース期間以外は所定値である。したがって、上記の周期変調制御は、電極マイナス極性ベース期間の時間長さを変化させていることになる。
【0034】
電極マイナス極性ピーク期間設定回路TPNRは、後述する異常電圧判別信号Adを入力として、異常電圧判別信号AdがLowレベル(正常)のときは予め定めた初期値となり、異常電圧判別信号AdがHighレベル(異常)のときは予め定めた減少値となる電極マイナス極性ピーク期間設定信号Tpnrを出力する。
【0035】
電極プラス極性ピーク期間設定回路TPRは、後述する異常電圧判別信号Adを入力として、異常電圧判別信号AdがLowレベル(正常)のときは予め定めた初期値となり、異常電圧判別信号AdがHighレベル(異常)のときは予め定めた増加値となる電極プラス極性ピーク期間設定信号Tprを出力する。
【0036】
電極プラス極性ベース期間設定回路TBRは、予め定めた電極プラス極性ベース期間設定信号Tbrを出力する。
【0037】
電極マイナス極性ピーク電流設定回路IPNRは、後述する異常電圧判別信号Adを入力として、異常電圧判別信号AdがLowレベル(正常)のときは予め定めた初期値となり、異常電圧判別信号AdがHighレベル(異常)のときは予め定めた減少値となる電極マイナス極性ピーク電流設定信号Ipnrを出力する。
【0038】
電極プラス極性ピーク電流設定回路IPRは、後述する異常電圧判別信号Adを入力として、異常電圧判別信号AdがLowレベル(正常)のときは予め定めた初期値となり、異常電圧判別信号AdがHighレベル(異常)のときは予め定めた増加値となる電極プラス極性ピーク電流設定信号Iprを出力する。
【0039】
電極プラス極性ベース電流設定回路IBRは、予め定めた電極プラス極性ベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0040】
電極マイナス極性ベース電流設定回路IBNRは、予め定めた電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnrを出力する。
【0041】
タイマ回路TMは、上記の周期信号Tf、上記の電極マイナス極性ピーク期間設定信号Tpnr、上記の電極プラス極性ピーク期間設定信号Tpr及び上記の電極プラス極性ベース期間設定信号Tbrを入力として、周期信号Tfが短時間Highレベルになると、電極マイナス極性ピーク期間設定信号Tpnrによって定まる期間中はその値が1となり、続いて電極プラス極性ピーク期間設定信号Tprによって定まる期間中はその値が2となり、続いて電極プラス極性ベース期間設定信号Tbrによって定まる期間中はその値が3となり、続いて周期信号Tfが短時間Highレベルになるまでの期間中はその値が4となり、これらの処理を繰り返してタイマ信号Tmを出力する。
【0042】
切換回路SWは、上記のタイマ信号Tm、上記の電極マイナス極性ピーク電流設定信号Ipnr、上記の電極プラス極性ピーク電流設定信号Ipr、上記の電極プラス極性ベース電流設定信号Ibr及び上記の電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnrを入力として、タイマ信号Tm=1のとき電極マイナス極性ピーク電流設定信号Ipnrを電流設定信号Irとして出力し、タイマ信号Tm=2のとき電極プラス極性ピーク電流設定信号Iprを電流設定信号Irとして出力し、タイマ信号Tm=3のとき電極プラス極性ベース電流設定信号Ibrを電流設定信号Irとして出力し、タイマ信号Tm=4のとき電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnrを電流設定信号Irとして出力する。
【0043】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Irと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0044】
駆動回路DVは、上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tm=1又は4のとき電極マイナス極性駆動信号Ndを出力し、タイマ信号Tm=2又は3のとき電極プラス極性駆動信号Pdを出力する。これによって、電極マイナス極性ベース期間及び電極マイナス極性ピーク期間は電極マイナス極性ENとなり、電極プラス極性ピーク期間及び電極プラス極性ベース期間は電極プラス極性EPとなる。
【0045】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、その値に対応した送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給機WFに出力する。
【0046】
異常電圧判別回路ADは、上記の電圧検出信号Vd及び上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tm=4(電極マイナス極性ベース期間)のときの電圧検出信号Vdの値が予め定めた基準電圧値以上になると、所定周期の間Highレベルとなる異常電圧判別信号Adを出力する。
【0047】
図3は、図2の溶接電源PSにおける各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は異常電圧判別信号Adの時間変化を示す。以下、同図を参照して、各信号の動作について説明する。
【0048】
同図において、時刻t1~t2の期間が電極マイナス極性ピーク期間Tpnとなり、時刻t2~t3の期間が電極プラス極性ピーク期間Tpとなり、時刻t3~t4の期間が電極プラス極性ベース期間Tbとなり、時刻t4~t5の期間が電極マイナス極性ベース期間Tbnとなる。さらに、時刻t5~t6の期間が電極マイナス極性ピーク期間Tpnとなり、時刻t6~t7の期間が電極プラス極性ピーク期間Tpとなり、時刻t7~t8の期間が電極プラス極性ベース期間Tbとなり、時刻t8~t9の期間が電極マイナス極性ベース期間Tbnとなる。
【0049】
時刻t1~t2の電極マイナス極性ピーク期間Tpnは、立ち上り期間と、ピーク期間と、立ち下り期間とから形成される。同図(A)に示すように、電極マイナス極性ピーク電流Ipnは、立ち上り期間中は、電極マイナス極性ベース電流Ibnからピーク値まで直線状に増加する。ピーク期間中は、ピーク値を維持する。立ち下り期間中は、ピーク値から予め定めた極性切換電流値(50A程度)まで直線状に減少する。時刻t3において、電極マイナス極性ピーク電流Ipnが極性切換電流値の状態で、電極マイナス極性ENから電極プラス極性EPへと極性が切り換えられる。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは電流波形と相似したパルス波形となる。極性切換時には、アーク切れを防止するために、数百Vの高電圧が溶接電圧Vwに短時間だけ重畳される。同図(C)に示すように、異常電圧判別信号Adは、時刻t41まではLowレベルである。したがって、上記の電極マイナス極性ピーク期間Tpnは、図2の電極マイナス極性ピーク期間設定信号Tpnrの初期値に設定される。また、上記の電極マイナス極性ピーク電流Ipnは、図2の電極マイナス極性ピーク電流設定信号Ipnrの初期値に設定される。
【0050】
時刻t2~t3の電極プラス極性ピーク期間Tpは、立ち上り期間と、ピーク期間と、立ち下り期間とから形成される。同図(A)に示すように、電極プラス極性ピーク電流Ipは、立ち上り期間中は、上記の極性切換電流値から予め定めたピーク値まで直線状に増加する。ピーク期間中は、ピーク値を維持する。立ち下り期間中は、ピーク値から電極プラス極性ベース電流Ibまで直線状に減少する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは電流波形と相似したパルス波形となる。同図(C)に示すように、異常電圧判別信号Adは、時刻t41まではLowレベルである。したがって、上記の電極プラス極性ピーク期間Tpは、図2の電極プラス極性ピーク期間設定信号Tprの初期値に設定される。また、上記の電極プラス極性ピーク電流Ipは、図2の電極プラス極性ピーク電流設定信号Iprの初期値に設定される。
【0051】
時刻t3~t4の電極プラス極性ベース期間Tb中は、予め定めた電極プラス極性ベース電流Ibが通電する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwはアーク電圧値となる。上記の電極プラス極性ベース期間Tbは、図2の電極プラス極性ベース期間設定信号Tbrの値に設定される。また、上記の電極プラス極性ベース電流Ibは、図2の電極プラス極性ベース電流設定信号Ibrの値に設定される。
【0052】
時刻t4において、電極プラス極性EPから電極マイナス極性ENへと切り換えられる。この切換時にもアーク切れを防止するために短時間だけ高電圧が印加される。時刻t4~t5の電極マイナス極性ベース期間Tbn中は、予め定めた電極マイナス極性ベース電流Ibnが通電する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwはアーク電圧値となる。上記の電極マイナス極性ベース電流Ibnは、図2の電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnrの値に設定される。
【0053】
時刻t1~t5を1周期として繰り返して溶接が行われる。溶接電圧Vwの絶対値の平均値(図2の溶接電圧平滑信号Vav)はアーク長に比例する。したがって、溶接電圧Vwの絶対値の平均値を検出し、この検出値が予め定めた電圧設定値(図2の電圧設定信号Vr)と等しくなるように周期(図2の周期信号Tf)を変調する電圧フィードバック制御を行うことによって、アーク長を適正値に維持することができる。1周期を形成する各機関の中で電極マイナス極性ベース期間Tb以外は所定値である。したがって、上記の電圧フィードバック制御(周期変調制御)は、電極マイナス極性ベース期間Tbの時間長さを変化させていることになる。
【0054】
上述したように、複合溶接方法では、レーザの照射位置と溶接ワイヤの先端位置との距離が2mm程度と近接しているために、母材の歪みや、ワイヤ突き出し長さの変動等の外乱によって、レーザの照射と溶接ワイヤの先端部分とに干渉が発生しやすい。干渉が発生すると、溶接ワイヤはレーザ照射からの加熱によって溶融速度が大きくなる。特に、電極マイナス極性ENの期間は、電極プラス極性EPの期間よりもレーザ照射からの加熱によって溶融速度が大きくなり、溶接ワイヤ先端の溶滴が過剰に成長してアーク長が長くなりやすい。したがって、時刻t1~t5の周期中にレーザ照射と溶接ワイヤとの干渉が発生すると、電極マイナス極性ベース期間Tbn中の時刻t41において、アーク長が長くなり、同図(B)に示すように、電極マイナス極性ベース電圧が上昇して、予め定めた基準電圧値を超過することになる。これに応動して、時刻t41において、同図(C)に示すように、異常電圧判別信号AdがHighレベルに変化する。異常電圧判別信号Adは、所定周期(例えば、1~3周期)の間Highレベルを維持する。また、異常電圧判別信号Adは、電極マイナス極性ベース電圧が基準電圧値未満となった周期においてLowレベルに戻るようにしても良い。
【0055】
時刻t5~t6の電極マイナス極性ピーク期間Tpnにおいて、異常電圧判別信号AdがHighレベルである。このために、電極マイナス極性ピーク期間Tpnは、図2の電極マイナス極性ピーク期間設定信号Tpnrの減少値に設定される。また、電極マイナス極性ピーク電流Ipnは、図2の電極マイナス極性ピーク電流設定信号Ipnrの減少値に設定される。このように、電極マイナス極性ピーク期間Tpn及び電極マイナス極性ピーク電流Ipnを小さくすることによって、溶接ワイヤへの入熱を減少させて、溶融が促進されてアーク長がさらに長くなることを抑制することができる。この結果、アンダーフィルの発生を抑制して、健全な溶接ビードを形成することができる。同図(B)に示すように、この期間中の溶接電圧Vwの値は、アーク長が長くなっているので、時刻t1~t2のときよりも大きくなっている。電極プラス極性ピーク期間Tpnの減少値及び電極マイナス極性ピーク電流Ipnの減少値は、アーク長が過大に長くなることを抑制することができる値に設定される。
【0056】
時刻t6~t7の電極プラス極性ピーク期間Tpにおいて、異常電圧判別信号AdがHighレベルである。このために、電極プラス極性ピーク期間Tpは、図2の電極プラス極性ピーク期間設定信号Tprの増加値に設定される。また、電極プラス極性ピーク電流Ipは、図2の電極プラス極性ピーク電流設定信号Iprの増加値に設定される。このように、電極プラス極性ピーク期間Tp及び電極プラス極性ピーク電流Ipを大きくすることによって、時刻t5~t6の期間中の溶接電流Iwの減少を補償して、溶接電流Iwの絶対値の平均値が小さくなることを抑制することができる。この結果、溶接ビードの外観及び溶け込み深さの均一性を維持することができる。
【0057】
ここで、時刻t5~t6の電極マイナス極性ピーク期間Tpn中の溶接電流Iwの電流積分値が、時刻t1~t2の期間に比べて減少した値を減少積分値とする。また、時刻t6~t7の電極プラス極性ピーク期間Tp中の溶接電流Iwの電流積分値が、時刻t2~t3の期間に比べて増加した値を増加積分値とする。そして、減少積分値と増加積分値とが等しくなるように、電極プラス極性ピーク期間Tpの増加値及び電極プラス極性ピーク電流Ipの増加値が設定されることが好ましい。このようにすると、溶接電流Iwの絶対値の平均値を一定にすることができるので、溶接ビードの外観及び溶け込み深さの均一性をさらに良好にすることができる。
【0058】
時刻t7~t8の電極プラス極性ベース期間Tb中は、時刻t3~t4と同様である。但し、干渉によってアーク長が長くなっているので、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは時刻t3~t4の期間よりも大きくなっている。
【0059】
時刻t8~t9の電極マイナス極性ベース期間Tbn中は、時刻t4~t5と同様である。干渉によってアーク長が長くなっているので、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは基準電圧値を超過した状態となっている。
【0060】
異常電圧判別信号AdがHighレベルのときに、電極マイナス極性ピーク期間Tpn又は電極マイナス極性ピーク電流Ipnの一方だけを小さくしても良い。同様に、異常電圧判別信号AdがHighレベルのときに、電極プラス極性ピーク期間Tp又は電極プラス極性ピーク電流Ipの一方だけを大きくしても良い。このようにしても、上記と同様の効果を奏する。
【0061】
以下に各パラメータの数値例を記載する。
Tpn(初期値) 立上り期間及び立下り期間=0.5ms、ピーク期間=1.5ms
Ipn(初期値)=350A
Tp(初期値 立上り期間及び立下り期間=0.5ms、ピーク期間=1.5ms
Ip(初期値)=450A
Ib=50A、Ibn=50A
Tpn(減少値) 立上り期間及び立下り期間=0.5ms、ピーク期間=1.0ms
Ipn(減少値)=300A
Tp(増加値) 立上り期間及び立下り期間=0.5ms、ピーク期間=1.75ms
Ip(増加値)=505A
基準電圧値=60V
【0062】
上述した実施の形態によれば、アーク溶接装置及びレーザ溶接装置を備えた複合溶接装置において、アーク溶接装置は、電極マイナス極性ベース期間中の電極マイナス極性ベース電圧が予め定めた基準電圧値以上になったことを判別すると、電極マイナス極性ピーク電流及び/又は電極マイナス極性ピーク期間を小さくする。これにより、電極マイナス極性ピーク期間中の溶接ワイヤへの入熱を減少させることができる。このために、溶融が促進されてアーク長がさらに長くなることを抑制することができるので、アンダーフィルの発生を抑制して、健全な溶接ビードを形成することができる。この結果、本実施の形態では、交流パルスアーク溶接とレーザ溶接とを併用して溶接する場合において、レーザ照射と溶接ワイヤの先端部分との干渉が発生しても、アンダーフィルの発生を抑制して良好な溶接品質を得ることができる
【0063】
さらに、本実施の形態によれば、アーク溶接装置は、電極マイナス極性ピーク電流及び/又は電極マイナス極性ピーク期間を小さくしたときは、電極プラス極性ピーク電流及び/又は電極プラス極性ピーク期間を大きくすることが好ましい。これにより、溶接電流の絶対値の平均値が小さくなることを抑制することができる。この結果、溶接ビードの外観及び溶け込み深さの均一性を維持することができる。
【0064】
さらに、本実施の形態によれば、アーク溶接装置は、電極マイナス極性ピーク電流及び/又は電極マイナス極性ピーク期間を小さくしたときは、溶接電流の絶対値の平均値が一定となるように、電極プラス極性ピーク電流及び/又は電極プラス極性ピーク期間を大きくすることが好ましい。このようにすると、溶接電流の絶対値の平均値を一定にすることができるので、溶接ビードの外観及び溶け込み深さの均一性をさらに良好にすることができる。
【符号の説明】
【0065】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 送給ロール
AD 異常電圧判別回路
Ad 異常電圧判別信号
DV 駆動回路
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EN 電極マイナス極性
EP 電極プラス極性
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
Ib 電極プラス極性ベース電流
Ibn 電極マイナス極性ベース電流
IBNR 電極マイナス極性ベース電流設定回路
Ibnr 電極マイナス極性ベース電流設定信号
IBR 電極プラス極性ベース電流設定回路
Ibr 電極プラス極性ベース電流設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
INT インバータトランス
INV インバータ回路
Ip 電極プラス極性ピーク電流
Ipn 電極マイナス極性ピーク電流
IPNR 電極マイナス極性ピーク電流設定回路
Ipnr 電極マイナス極性ピーク電流設定信号
IPR 電極プラス極性ピーク電流設定回路
Ipr 電極プラス極性ピーク電流設定信号
Ir 電流設定信号
Iw 溶接電流
LF 光ファイバー
LH 加工ヘッド
LS レーザ発振器
Lw レーザ光
Nd 電極マイナス極性駆動信号
NTR 電極マイナス極性トランジスタ
Pd 電極プラス極性駆動信号
PTR 電極プラス極性トランジスタ
SW 切換回路
Tb 電極プラス極性ベース期間
Tbn 電極マイナス極性ベース期間
TBR 電極プラス極性ベース期間設定回路
Tbr 電極プラス極性ベース期間設定信号
Tf 周期信号
TM タイマ回路
Tm タイマ信号
Tp 電極プラス極性ピーク期間
Tpn 電極マイナス極性ピーク期間
TPNR 電極マイナス極性ピーク期間設定回路
Tpnr 電極マイナス極性ピーク期間設定信号
TPR 電極プラス極性ピーク期間設定回路
Tpr 電極プラス極性ピーク期間設定信号
VAV 電圧平滑回路
Vav 溶接電圧平滑信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VF 電圧フィードバック制御回路
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WF 送給機
WL リアクトル
WT 溶接トーチ
図1
図2
図3