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特許7407093半導体装置、モータ駆動システム、およびモータ起動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】半導体装置、モータ駆動システム、およびモータ起動方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/20 20160101AFI20231221BHJP
【FI】
H02P6/20
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020165185
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057101
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 聡
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 稔
(72)【発明者】
【氏名】大槻 武志
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-198299(JP,A)
【文献】特開平11-098884(JP,A)
【文献】特開2008-113506(JP,A)
【文献】特開2013-192428(JP,A)
【文献】特開2019-187154(JP,A)
【文献】特開2019-103369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサレス方式の三相モータのインバータ回路を制御するための半導体装置であって、
モータ電圧を出力するための、前記インバータ回路の三相の出力ノードと接続され、前記三相の出力ノードのうち非通電相の出力ノードに生じる電圧を検出する検出器と、
コントローラとを備え、
前記コントローラは、前記三相モータの起動時に、推定された停止状態の回転子の磁極の位置に基づいて、前記三相モータのいずれか二相に前記インバータ回路によって駆動電圧を印加し、
前記コントローラは、前記三相モータの起動時に、前記駆動電圧の印加期間において前記検出器によって検出された電圧と、前記駆動電圧の印加期間の直後または直前の回生期間において前記検出器によって検出された電圧との差分電圧に基づいて、前記回転子の位置を推定する、半導体装置。
【請求項2】
前記駆動電圧は、パルス幅変調に基づく、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記差分電圧の絶対値が第1閾値以下になったときに、前記駆動電圧を印加する相を切り替える、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記差分電圧の絶対値が前記第1閾値以下になったときに前記検出器によって検出された電圧の絶対値を、逆起電力の絶対値であると推定する、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記推定された逆起電力の絶対値が第2閾値以上になった場合に、前記検出器によって検出された電圧のゼロクロス点に基づいて前記インバータ回路を制御する駆動モードに移行する、請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記コントローラは、前記推定された逆起電力の絶対値が第2閾値以上になり、かつ、前記三相モータのいずれか二相への前記駆動電圧の印加を開始してからの電圧印加時間が閾値時間以下の場合に、前記検出器によって検出された電圧のゼロクロス点に基づいて前記インバータ回路を制御する駆動モードに移行する、請求項4に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記コントローラは、前記三相モータのいずれか二相への前記駆動電圧の印加を開始してからの電圧印加時間が閾値時間を超えても、前記差分電圧の絶対値が前記第1閾値以下にならない場合に、前記駆動電圧の印加を停止する、請求項4に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記コントローラは、インダクティブセンスによって前記停止状態の前記回転子の磁極の位置を推定する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記検出器は、
前記三相の出力ノードのうちいずれか1つの相を選択するスイッチ回路と、
前記スイッチ回路によって選択された相の出力ノードの電圧と仮想中点との電圧との差分を増幅する差動増幅器とを含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記コントローラは、前記回生期間において回生電流が下アームを流れて上アームを流れないように、前記インバータ回路を制御する請求項1に記載の半導体装置。
【請求項11】
センサレス方式の三相モータと、
前記三相モータを駆動するインバータ回路と、
モータ電圧を出力するための、前記インバータ回路の三相の出力ノードと接続され、前記三相の出力ノードのうち非通電相の出力ノードに生じる電圧を検出する検出器と、
コントローラとを備え、
前記コントローラは、前記三相モータの起動時に、推定された回転子の磁極の位置に基づいて、前記三相モータのいずれか二相に前記インバータ回路によって駆動電圧を印加し、
前記コントローラは、前記三相モータの起動時に、前記駆動電圧の印加期間において前記検出器によって検出された電圧と、前記駆動電圧の印加期間の直後または直前の回生期間において前記検出器によって検出された電圧との差分電圧に基づいて、前記回転子の位置を検出する、モータ駆動システム。
【請求項12】
センサレス方式の三相モータの起動時に、停止状態の回転子の磁極位置を推定するステップと、
推定された前記停止状態の前記回転子の磁極位置に基づいて、前記三相モータのいずれか二相にインバータ回路によって駆動電圧を印加するステップと、
前記駆動電圧の印加期間において非通電相に生じる誘起電圧と、前記駆動電圧の印加期間の直後または直前の回生期間において前記非通電相に生じる誘起電圧との差分電圧に基づいて、前記回転子の位置を推定するステップとを備える、モータ起動方法。
【請求項13】
前記駆動電圧は、パルス幅変調に基づく、請求項12に記載のモータ起動方法。
【請求項14】
前記差分電圧の絶対値が第1閾値以下になったときに、前記駆動電圧を印加する相を切り替えるステップさらに備える、請求項13に記載のモータ起動方法。
【請求項15】
前記差分電圧の絶対値が前記第1閾値以下になったときに非通電相に生じる誘起電圧の絶対値を、逆起電力の絶対値であると推定するステップをさらに備える、請求項14に記載のモータ起動方法。
【請求項16】
前記推定された逆起電力の絶対値が第2閾値以上になった場合に、非通電相の誘起電圧のゼロクロス点に基づいて前記インバータ回路を制御する駆動モードに移行するステップをさらに備える、請求項15に記載のモータ起動方法。
【請求項17】
前記推定された逆起電力の絶対値が第2閾値以上になり、かつ、前記三相モータのいずれか二相への前記駆動電圧の印加を開始してからの電圧印加時間が閾値時間以下の場合に、非通電相の誘起電圧のゼロクロス点に基づいて前記インバータ回路を制御する駆動モードに移行するステップをさらに備える、請求項15に記載のモータ起動方法。
【請求項18】
前記三相モータのいずれか二相への前記駆動電圧の印加を開始してからの電圧印加時間が閾値時間を超えても、前記差分電圧の絶対値が前記第1閾値以下にならない場合に、前記駆動電圧の印加を停止するステップをさらに備える、請求項15に記載のモータ起動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置、モータ駆動システム、およびモータ起動方法に関し、たとえば、センサレス方式のブラシレスDCモータ(永久磁石同期モータとも称する)の初期駆動において好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータのセンサレス制御では、モータの回転子の回転により非通電相の固定子巻線に発生する逆起電力(BEMF:Back Electromotive Force)が検出される。検出した逆起電力のゼロクロス点に基づいて、回転子の位置および回転速度が推定される。
【0003】
モータの停止状態においては逆起電力が発生しないため、上記の逆起電力のゼロクロス点の検出に基づくセンサレス制御によってモータの回転子の位置を推定することはできない。そこで、たとえば、自己インダクタンスの違いを利用して停止した回転子の磁極位置が推定される。
【0004】
その後、推定した初期磁極位置に応じた適切な相の固定子巻線に一定時間、駆動電圧を印加することによってモータが初期駆動される。初期駆動は、駆動電圧を印加する相を切り替えながら複数回実行される。十分な大きさの逆起電力が検出されるようになると、モータ制御は、逆起電力のゼロクロス点の検出に基づくセンサレス制御に移行する。
【0005】
特開2008-113506号公報(特許文献1)は、モータの起動時間の短縮化を図るために、上記の初期駆動中の回転子の位置を推定する方法を開示する。具体的に、この文献のモータ駆動制御装置は、通電相の固定子巻線との相互誘導によって非通電相の固定子巻線に生じる誘起電圧のピーク値を検出する。そして、モータ駆動制御装置は、検出した誘起電圧のピーク値と閾値との比較に基づいて通電相を切り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-113506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特開2008-113506号公報(特許文献1)に開示されたモータ起動方法の場合、誘起電圧のピーク値と比較する閾値の設定が困難である。この理由は、非通電相に生じる電圧には、相互誘導によって生じる誘起電圧の他に逆起電力に基づく誘起電圧が僅かながら含まれているからである。さらに、相互誘導によって生じる誘起電圧の大きさは、モータによる個体差が大きいからである。このため、回転子の位置を精度良く検出することが困難である。
【0008】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態による半導体装置は、モータ初期起動時に、駆動電圧印加期間に非通電相に生じる電圧と、当該駆動電圧印加期間の直後または直前の回生期間に当該非通電相に生じる電圧との差分電圧を検出する。半導体装置は、検出した差分電圧に基づいて、回転子の磁極位置を推定する。
【発明の効果】
【0010】
上記の実施形態によれば、モータの初期起動時に、逆起電力およびモータの個体差などの影響を受けずに回転子の磁極位置を高精度に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】モータ駆動システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2図1のMCUの構成例を示すブロック図である。
図3】120°通電方式の場合の6つの通電パターンについて説明するための図である。
図4】各MOSトランジスタに供給されるゲート制御信号の波形を概念的に示すタイミング図である。
図5】ブラシレスDCモータの駆動手順の一例を示すフローチャートである。
図6図1のモータ駆動システムの各相の電流波形の一例を概念的に示すタイミング図である。
図7図5のステップS60における相互誘導検出駆動の詳細な手順を示すフローチャートである。
図8】相互誘導検出駆動において図1の差動増幅器の出力波形の一例を概念的に示す図である。
図9図8のα点、β点、γ点の位置での回転子の位置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0013】
[モータ駆動システムの全体構成]
図1は、モータ駆動システムの構成の一例を示すブロック図である。図1を参照して、モータ駆動システム100は、三相のブラシレスDCモータ30と、インバータ回路20と、インバータ回路20を制御する半導体装置10とを備える。
【0014】
(1.ブラシレスDCモータ)
ブラシレスDCモータ30は、Y結線された固定子巻線31U,31V,31Wと、1つ以上の磁極対を有する回転子(不図示)とを含む。インバータ回路20から固定子巻線31U,31V,31Wに与えられる三相交流に同期して回転子が回転駆動される。固定子巻線31U,31V,31Wの結節点を中点32と称する。
【0015】
なお、以下では、固定子巻線31の結線が図1に示すようにY結線の場合を示すが、本開示の技術は、固定子巻線31の結線がΔ結線の場合も同様の効果を奏する。
【0016】
(2.インバータ回路)
インバータ回路20は、MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタUP,UN,VP,VN,WP,WNを備える。MOSトランジスタUPはU相上アームに設けられ、MOSトランジスタUNはU相下アームに設けられる。MOSトランジスタVPはV相上アームに設けられ、MOSトランジスタVNはV相下アームに設けられる。MOSトランジスタWPはW相上アームに設けられ、MOSトランジスタWNはW相下アームに設けられる。上アームをハイサイド(High Side)とも称し、下アームをローサイド(Low Side)とも称する。
【0017】
さらに、インバータ回路20は、2相間の電流を検出するシャント抵抗23を備える。
以下、これらの接続に関して簡単に説明する。MOSトランジスタUPとMOSトランジスタUNとは、この並び順で外部入力電圧VM(電源電圧VMとも称する)を与える第1の電源ノード21と低電位側の接続ノード24との間に直列に接続される。シャント抵抗23は、接続ノード24と接地電圧GNDを与える第2の電源ノード22との間に接続される。MOSトランジスタUPとMOSトランジスタUNとの接続点である出力ノードTUは、U相固定子巻線31Uの一端と接続される。
【0018】
同様に、MOSトランジスタVPとMOSトランジスタVNとは、第1の電源ノード21と接続ノード24との間にこの並び順で直列に接続される。MOSトランジスタVPとMOSトランジスタVNとの接続点である出力ノードTVは、V相固定子巻線31Vの一端と接続される。
【0019】
同様に、MOSトランジスタWPとMOSトランジスタWNとは、第1の電源ノード21と接続ノード24との間にこの並び順で直列に接続される。MOSトランジスタWPとMOSトランジスタWNとの接続点である出力ノードTWは、W相固定子巻線31Wの一端と接続される。
【0020】
MOSトランジスタUP,UN,VP,VN,WP,WNの各々は、逆バイアス方向に並列接続されたボディダイオード(不図示)を有している。したがって、同一相の上アームのトランジスタと下アームのトランジスタとが両方ともオフ状態の場合は、このボディダイオードを介したパスで電流が回生できる。
【0021】
図1では、全てのMOSトランジスタUP,UN,VP,VN,WP,WNはNチャネルMOSトランジスタによって構成されている。これに代えて、上アームのMOSトランジスタUP,VP,WPと下アームのMOSトランジスタUN,VN,WNとの一方をNMOSにし、他方をPMOSにしてもよいし、全てのMOSトランジスタUP,UN,VP,VN,WP,WNをPチャネルMOSトランジスタで構成してもよい。
【0022】
また、インバータ回路20を構成する半導体スイッチング素子として、MOSトランジスタに代えて、他の種類の電界効果トランジスタを用いてもよい。もしくは、MOSトランジスタに代えて、バイポーラトランジスタを用いてもよいし、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いてもよい。ただし、他の種類のトランジスタを用いる場合には、各トランジスタと逆並列にフライホイールダイオードを接続する必要がある。この理由は、同一相の上アームのトランジスタと下アームのトランジスタとが両方ともオフ状態の場合に回生パスで電流を流すためである。
【0023】
(3.半導体装置)
半導体装置10は、スイッチ回路61と、仮想中点生成回路70と、差動増幅器63と、増幅器65と、マイクロコントローラユニット(MCU:Micro Controller Unit)40とを含む。スイッチ回路61と差動増幅器63とによって、インバータ回路20の非通電相の出力ノードの電圧を検出するための検出器60が構成される。
【0024】
スイッチ回路61は、出力ノードTU,TV,TWと接続される。スイッチ回路61は、MCU40から出力された相セレクト信号SLU,SLV,SLWに応じて、出力ノードTU,TV,TWのうちの選択相の出力ノードと検出ノード62とを接続する。
【0025】
仮想中点生成回路70は、ブラシレスDCモータ30の中点32と同じ役割をする電圧を有する仮想中点72を与える。具体的に、仮想中点生成回路70は、抵抗素子71U,71V,71Wを含む。抵抗素子71Uは、仮想中点72と出力ノードTUとの間に接続される。抵抗素子71Vは、仮想中点72と出力ノードTVとの間に接続される。抵抗素子71Wは、仮想中点72と出力ノードTWとの間に接続される。抵抗素子71U,71V,71Wは、互いに等しい抵抗値を有している。
【0026】
差動増幅器63は、検出ノード62の電圧Vdと参照電圧Vrefとの差分を増幅する。参照電圧Vrefとして中点32または仮想中点72の電圧が用いられる。
【0027】
増幅器65は、シャント抵抗23に生じる電圧を増幅する。これによって、U相、V相、W相の各相間のモータ電流を検出することができる。
【0028】
MCU40は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリ等を含むコンピュータを1つの集積回路に組み込んだものである。MCU40は、メモリに格納されたプログラムを実行することによって種々の機能を実現する。以下、図1および図2を参照して、MCU10の構成および機能について説明する。
【0029】
図2は、図1のMCUの構成例を示すブロック図である。図2の例では、MCU40は、CPU(Central Processing Unit)41と、RAM(Random Access Memory)42と、不揮発性メモリ43とを含むコンピュータに基づいて構成される。MCU40は、さらに、インターフェイス(IF)回路44,46と、アナログ・デジタル(AD)変換器45,48と、ゲート制御信号生成器47とを含む。MCU40は、さらに、これらの構成要素を相互に接続するためのバス49を含む。CPU41などの各構成要素は2つ以上設けられていてもよい。
【0030】
CPU41は、不揮発性メモリ43に格納されたプログラムに含まれる命令に従って動作することにより、モータ駆動システム100全体を制御する。プログラムは、非一時的な記憶媒体として提供されてもよいし、ネットワークを介して提供されてもよい。
【0031】
RAM42は、CPU41が動作する際の主記憶として用いられる。不揮発性メモリ43は、プログラムおよびプログラムの動作に必要な各種の設定値などを格納する。不揮発性メモリ43は、マスクROM(Random Access Memory)またはEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)などであってもよい。もしくは、不揮発性メモリ43は、NORフラッシュメモリまたはNANDフラッシュメモリなどであってもよい。不揮発性メモリ43は、さらに、SSD(Solid State Drive)またはハードディスクを含んでいてもよい。
【0032】
IF回路44は、外部から運転指令値11の入力を受けるための回路である。IF回路46は、CPU41からの指令に基づいてスイッチ回路61へ相セレクト信号SLU,SLV,SLWを出力するための回路である。IF回路44,46は、たとえば、MCU40の内部回路と外部回路との間で、入出力分離、レベル調整、およびタイミング調整などを行う。
【0033】
AD変換器45は、差動増幅器63の出力信号Voutをデジタル信号に変換する。AD変換器48は、増幅器65の出力信号Idをデジタル信号に変換する。AD変換器45,48の回路構成は、公知のいずれの回路構成を用いてもよい。
【0034】
ゲート制御信号生成器47は、CPU41からの指令値に基づいて、MOSトランジスタUP,UN,VP,VN,WP,WNのゲート制御信号GUP,GUN,GVP,GVN,GWP,GWNを生成する。ゲート制御信号生成器47は、たとえば、各MOSトランジスタのゲート電圧指令値とキャリア信号の値との比較に基づいてPWM(Pulse Width Modulation)制御に基づくゲート制御信号を生成する。
【0035】
なお、上記の構成のMCU40に代えて、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用の回路によって構成されたコントローラを用いてもよい。もしくは、ASIC、FPGA(Field Programmable Gate Array)、CPUなどのうち少なくとも2つを組み合わせてコントローラを構成してもよい。
【0036】
[通電パターン]
次に、120°通電方式の場合の6つの通電パターンについて説明する。本実施形態では、MCU40は、120°通電方式によってブラシレスDCモータ30を制御する。120°通電方式とは、電気角半周期のうち120°を通電期間とし、残りの60°を非通電期間とする方式であり、非通電期間においてBEMFが検出可能である。三相のブラシレスDCモータでは、通電相が電気角60°ごとに切り替わるので、6つの通電パターンが生じる。
【0037】
なお、電気角半周期のうち120°以上180°未満を通電期間とした場合にも、非通電期間に生じるBEMFを測定可能であれば、本開示の技術を適用することができる。
【0038】
上記の120°通電方式の通電期間および非通電期間は、PWM制御の電圧印加期間(オン期間とも称する)および回生期間(オフ期間とも称する)とは異なる点に注意されたい。通電期間は、PWM制御の複数の電圧印加期間および複数の回生期間を含む。
【0039】
図3は、120°通電方式の場合の6つの通電パターンについて説明するための図である。図3では、電流a~fの6の通電パターンが示されている。
【0040】
(a) 図3を参照して、W相上アームのMOSトランジスタWPとV相下アームのMOSトランジスタVNとがオン状態に制御され、他がオフ状態に制御される。これにより、W相固定子巻線31WからV相固定子巻線31Vにモータ電流aが流れる。U相固定子巻線31Uは非通電状態であり、BEMFのゼロクロス点が観測可能である。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンaと称する。
【0041】
また、通電パターンaにおいて、U相を「非通電相」と称し、W相を「上流側通電相」と称し、V相を「下流側通電相」と称する。モータ電流は、上流側通電相の固定子巻線から下流側通電相の固定子巻線の方向に流れる。他の通電パターンの場合にも同様に定義される。
【0042】
通電パターンaにおいてPWM制御を実行する場合、MCU40は、W相上アームをオン状態のまま維持して、V相においてPWM制御を実行する。もしくは、MCU40は、V相下アームをオン状態のまま維持して、W相においてPWM制御を実行する。前者の場合、回生電流は、W相上アームとV相上アームとを流れる。後者の場合、回生電流は、W相下アームとV相下アームとを流れる。
【0043】
(b) インバータ回路20のW相上アームのMOSトランジスタWPとU相下アームのMOSトランジスタUNとがオン状態に制御され、他がオフ状態に制御される。これにより、W相固定子巻線31WからU相固定子巻線31Uにモータ電流bが流れる。V相固定子巻線31Vは非通電状態であり、BEMFのゼロクロス点が観測可能である。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンbと称する。
【0044】
通電パターンbにおいてPWM制御を実行する場合、MCU40は、W相上アームをオン状態のまま維持して、U相においてPWM制御を実行する。もしくは、MCU40は、U相下アームをオン状態のまま維持して、W相においてPWM制御を実行する。前者の場合、回生電流は、W相上アームとU相上アームとを流れる。後者の場合、回生電流は、W相下アームとU相下アームとを流れる。
【0045】
(c) V相上アームのMOSトランジスタVPとU相下アームのMOSトランジスタUNとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御すれば、V相固定子巻線31VからU相固定子巻線31Uにモータ電流cが流れる。W相固定子巻線31Wは非通電状態であり、BEMFのゼロクロス点が観測可能である。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンcと称する。
【0046】
通電パターンcにおいてPWM制御を実行する場合、MCU40は、V相上アームをオン状態のまま維持して、U相においてPWM制御を実行する。もしくは、MCU40は、U相下アームをオン状態のまま維持して、V相においてPWM制御を実行する。前者の場合、回生電流は、V相上アームとU相上アームとを流れる。後者の場合、回生電流は、V相下アームとU相下アームとを流れる。
【0047】
(d) V相上アームのMOSトランジスタVPとW相下アームのMOSトランジスタWNとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御すれば、V相固定子巻線31VからW相固定子巻線31Wにモータ電流dが流れる。U相固定子巻線31Uは非通電状態であり、BEMFのゼロクロス点が観測可能である。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンdと称する。
【0048】
通電パターンdにおいてPWM制御を実行する場合、MCU40は、V相上アームをオン状態のまま維持して、W相においてPWM制御を実行する。もしくは、MCU40は、W相下アームをオン状態のまま維持して、V相においてPWM制御を実行する。前者の場合、回生電流は、V相上アームとW相上アームとを流れる。後者の場合、回生電流は、V相下アームとW相下アームとを流れる。
【0049】
(e) U相上アームのMOSトランジスタUPとW相下アームのMOSトランジスタWNとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御すれば、U相固定子巻線31UからW相固定子巻線31Wにモータ電流eが流れる。V相固定子巻線31Vは非通電状態であり、BEMFのゼロクロス点が観測可能である。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンeと称する。
【0050】
通電パターンeにおいてPWM制御を実行する場合、MCU40は、U相上アームをオン状態のまま維持して、W相においてPWM制御を実行する。もしくは、MCU40は、W相下アームをオン状態のまま維持して、U相においてPWM制御を実行する。前者の場合、回生電流は、U相上アームとW相上アームとを流れる。後者の場合、回生電流は、U相下アームとW相下アームとを流れる。
【0051】
(f) U相上アームのMOSトランジスタUPとV相下アームのMOSトランジスタVNとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御すれば、U相固定子巻線31UからV相固定子巻線31Vにモータ電流fが流れる。W相固定子巻線31Wは非通電状態であり、BEMFのゼロクロス点が観測可能である。以下の説明では、この通電パターンを通電パターンfと称する。
【0052】
通電パターンfにおいてPWM制御を実行する場合、MCU40は、U相上アームをオン状態のまま維持して、V相においてPWM制御を実行する。もしくは、MCU40は、V相下アームをオン状態のまま維持して、U相においてPWM制御を実行する。前者の場合、回生電流は、U相上アームとV相上アームとを流れる。後者の場合、回生電流は、U相下アームとV相下アームとを流れる。
【0053】
上記の通電パターンa,b,c,d,e,fの順番でブラシレスDCモータ30に電流を流すようにインバータ回路20を制御すれば、通電相が順次切り替わり、ブラシレスDCモータ30の回転子もこの回転電磁界に同期して回転する。この明細書では、便宜上この回転方向を時計回り(CW)方向と称する。
【0054】
一方、上記の逆順で、すなわち、通電パターンf,e,d,c,b,aの順番でブラシレスDCモータ30に電流を流すようにインバータ回路20を制御すれば、上記の通電相の切り替わり順序とは逆順で通電相が順次切り替わる。したがって、ブラシレスDCモータ30の回転子もこの回転電磁界に同期して回転する。この明細書では、便宜上この回転方向を反時計回り(CCW)方向と称する。
【0055】
図4は、各MOSトランジスタに供給されるゲート制御信号の波形を概念的に示すタイミング図である。図4では、回生電流が下アームを流れて上アームを流れない場合の通電パターンごとの波形の一例が示されている。図4に示す波形は概念的なものであり、実際の波形と全く同じではない。ゲート印加電圧がハイ(H)レベルの場合に、対応するMOSトランジスタがオン状態に制御される。ゲート印加電圧がロー(L)レベルの場合に、対応するMOSトランジスタはオフ状態に制御される。また、図4では、非通電相をハイインピーダンス(High-Z)相と記載している。
【0056】
[モータ駆動手順の概要]
本実施形態において、モータ駆動手順は大きく3つのモードに分かれる。以下、その概要をまず説明する。
【0057】
第1モードにおいて、MCU40は、停止状態の回転子の磁極の初期位置を推定する。初期磁極位置の検出には、たとえば、インダクティブセンスが用いられる。インダクティブセンスでは、たとえば、図3に示す6つの通電パターンで回転子が回転しない程度の電圧を固定子巻線31に印加したときに、固定子巻線31に流れる電流の違いが検出される。固定子巻線31を流れる電流は、シャント抵抗23に生じる電圧によって検出される。
【0058】
突極性を有するブラシレスDCモータ30の場合には、d軸方向のインダクタンスが低下するので、巻線電流の変化に基づいて磁極位置の検出が可能である。また、非突極性のブラシレスDCモータ30の場合には、磁気飽和によるインダクタンスの低下を電流変化に基づいて検出することにより、磁極位置の検出が可能である。
【0059】
具体的に、固定子巻線31の巻線抵抗をRとし、インダクタンスをLとし、印加電圧をVとする。この場合、固定子巻線31に流れる電流Iは、
I=V/R[1-exp(-t・R/L)] …(1)
で表される。
【0060】
第2モードでは、第1モードにおいて検出した初期磁極位置に基づいて、PWM駆動によって回転子に初期起動トルクが与えられる。起動トルクの印加をキックとも称する。ここで、本実施形態では、回転子の磁極位置を推定するために、通電相の固定子巻線31の電流磁界によって非通電相の固定子巻線31に生じる相互誘導電圧が検出される。後述するように、PWM制御の電圧印加期間の非通電相の誘起電圧とその直後(または直前)の回生期間の非通電相の誘起電圧との差分によって、相互誘導電圧を求める点に特徴がある。本開示では、第2モードを相互誘導検出駆動と称する。
【0061】
具体的に、通電相の固定子巻線31の巻数をnとし、巻線電流をIとし、コイルの断面積をSとし、透磁率をμとし、電流磁界による磁束密度Bとする。磁束φは、
φ=BS=μnS …(2)
と表される。また、非通電相の固定子巻線31の巻数nとする。非通電相の磁束φおよび誘起電圧eは、
φ∝φ/K …(3)
∝n・Δφ/Δt …(4)
で表される。Kは回転子の位置によって変わる比例定数であり、Δφ/Δtは、磁束φの時間変化率(すなわち、微分係数)である。
【0062】
第2モードにおけるゲート制御信号GUP,GUN,GVP,GVN,GWP,GWNの波形の一例として図4の電圧波形が用いられる。すなわち、第2モードでは、回生期間誘起電圧の検出精度を高めるために、回生電流が図4に示すように下アームを流れるように、インバータ回路20が制御されるのが望ましい。なお、検出精度を高める必要がない場合には、回生電流を下アームだけに流す必要はない。たとえば、回生電流が上アームを流れるようにしてもよい。
【0063】
第3モードでは、BEMFのゼロクロス点に基づいて推定された磁極位置に基づいて、ブラシレスDCモータ30が駆動される。第2モードにおいて検出されたBEMFの大きさが所定の大きさに達すると、駆動モードは第2モードから第3モードに移行する。この開示では、第3モードをBEMF検出駆動と称する。
【0064】
ここで、BEMFによる誘起電圧は、回転子の回転によって固定子巻線31に生じる電圧をいう。具体的に、回転子に設けられた永久磁石による磁束をBとし、回転子の表面と固定子巻線31との相対速度をvとし、回転子の回転半径をrとし、回転子の回転速度をNとする。簡単のために、コイルを一辺lの正方形とする。この場合、BEMFによる誘起電圧Vは、
V=Blv=2πrNBl …(5)
で表される。
【0065】
第3モードにおけるゲート制御信号GUP,GUN,GVP,GVN,GWP,GWNの波形として図4の電圧波形を用いてもよいし、他の電圧波形を用いてもよい。たとえば、PWM制御を行う相が連続しないように図4の電圧波形を変形してもよい。
【0066】
図4の波形の変形例として、通電パターンbの場合には、U相がPWM制御され、ゲート制御信号GWPがHレベルに制御され、ゲート制御信号GWNがLレベルに制御されるように図4の波形が変更される。通電パターンdの場合には、W相がPWM制御され、ゲート制御信号GVPがHレベルに制御され、ゲート制御信号GVNがLレベルに制御されるように図4の波形が変更される。通電パターンfの場合には、V相がPWM制御され、ゲート制御信号GUPがHレベルに制御され、ゲート制御信号GUNがLレベルに制御されるように図4の波形が変更される。この場合、通電パターンa,c,eの波形は変更されない。
【0067】
[モータ駆動手順の詳細]
図5は、ブラシレスDCモータの駆動手順の一例を示すフローチャートである。以下、図1および図5を参照して、ブラシレスDCモータ30の駆動手順について説明する。MCU40には外部入力電圧VMの検出値が入力される。
【0068】
図5のステップS10において、MCU40は、外部入力電圧VMが予め設定された起動電圧以上であるか否かを判定する。MCU40は、外部入力電圧VMが起動電圧以上である場合に、処理をステップS20に進める。
【0069】
ステップS20において、MCU40は、ゲート制御信号GUP,GUN,GVP,GVN,GWP,GWNをローレベルに設定する。これによって、MOSトランジスタUP,UN,VP,VN,WP,WNは全てのオフ状態(ハイインピーダンス状態)になる。
【0070】
次のステップS30において、MCU40は、スイッチ回路61の3相を順にオンに切り替えながら各相の誘起電圧(BEMF)を検出することにより、回転子の回転方向を検出する。MCU40は、回転子の回転方向が運転指令値11による指定方向と同じ正回転である場合には、ステップS70(BEMF検出駆動)に処理を進める。MCU40は、回転子の回転方向が運転指令値11による指定方向と逆である逆回転の場合には、ステップS100(3相ショートブレーキ)に処理を進める。MCU40は、BEMFの大きさが閾値以下の場合には、回転子は無回転であると判定し、ステップS40に処理を進める。
【0071】
ステップS40において、MCU40は、インダクティブセンスなどの方法を用いることにより初期磁極位置を検出する。
【0072】
その次のステップS50において、MCU40は、ステップS40において検出された初期磁極位置に基づいて、最も初期トルクが大きくなる通電パターンで固定子巻線31に電圧を印加する。たとえば、ステップS40において、通電パターンdにおいて、自己インダクタンスが最も小さいことが検出されたとする。この場合においてCW方向に回転させる場合には、MCU40は、通電パターンfで固定子巻線31に電圧を印加するように、インバータ回路20を制御する。
【0073】
次のステップS60において、MCU40は、相互誘導検出駆動(モード2)を実行する。相互誘導検出駆動の詳細は、図7図9を参照して後述する。
【0074】
ステップS60において、MCU40は、回転速度不足と判定した場合には、ステップS50に処理を戻して、次の通電パターンで初期トルクを印加する。MCU40は、最大キック時間Tmaxを超えても回転子の回転が検出できなかった場合には、タイムアウトと判定する。この場合、MCU40は、処理をステップS40に戻して回転子の初期磁極位置を検出する。MCU40は、回転子の回転速度が規定回転速度に達したことを検出した場合には、処理をステップS70に進める。
【0075】
ステップS70において、MCU40は、BEMF検出駆動(モード3)を実行する。具体的には、MCU40は、非通電相において検出されるBEMFのゼロクロス点に基づいて、回転子の位置および速度を推定する。MCU40は、推定した回転子の位置および速度に基づいて、適切なトルクが回転子に与えられるようにPWM制御によってブラシレスDCモータ30を駆動する。
【0076】
MCU40は、BEMFの検出エラーが生じておらず(ステップS80でNO)、かつ、外部入力電圧VMが起動電圧以上の場合(ステップS90でNO)には、ステップS70を継続して実行する。MCU40は、BEMFの検出エラーが生じている場合(ステップS80でYES)または外部入力電圧VMが起動電圧未満の場合(ステップS90でYES)に、ステップS100に処理を進める。
【0077】
ステップS100において、MCU40は、第1の電源ノード21に外部入力電圧VMが与えられないように、外部入力電圧VMを切り離す。その上で、MCU40は、MOSトランジスタUP,UN,VP,VN,WP,WNが全て導通状態になるように、ゲート制御信号GUP,GUN,GVP,GVN,GWP,GWNをHレベルに設定する。これによって、ブラシレスDCモータ30には3相ショートブレーキがかかる。
【0078】
ステップS110において、MCU40は、スイッチ回路61のうちいずれか1相がオン状態になるように相セレクト信号SLU,SLV,SLWを設定する。この状態で、MCU40は、スイッチ回路61のうち例えばU相がオン状態になるように制御した場合に、出力ノードTUと仮想中点72との間の端子電圧をモニタする。この端子電圧の大きさ(または最大値)が予め設定された停止閾値以下となるまで、MCU40は、3相ショートブレーキの実行(ステップS100)を継続する。端子電圧の大きさ(または最大値)が停止閾値以下となった場合(ステップS110でYES)、MCU40は、処理を最初のステップS10に戻す。
【0079】
図6は、図1のモータ駆動システムの各相の電流波形の一例を概念的に示すタイミング図である。印加電流の大きさおよび電流印加時間は、図の理解を容易にするために変形されている場合があり、実際の電流に比例していない。
【0080】
図6を参照して、時刻t0から時刻t10までがモード1(初期磁極位置検出)に対応する。時刻t10から時刻t20までがモード2(相互誘導検出駆動)に対応する。時刻t20以降がモード3(BEMF検出駆動)に対応する。
【0081】
時刻t0から時刻t10において、MCU40は、インバータ回路20を制御することにより、図3で説明した6個の通電パターンa~fの順に固定子巻線31に電圧を印加する。この場合、固定子巻線31に印加される電圧およびその印加時間は、回転子が回転しない程度に制限される。MCU40は、各通電パターンにおける固定子巻線31を流れる電流(すなわち、シャント抵抗23に生じる電圧)を検出する。検出結果に基づいて、MCU40は、自己インダクタンスが最も低くなる場合の通電パターンを決定する。
【0082】
時刻t10から時刻t20において、MCU40は、インバータ回路を制御することにより、ブラシレスDCモータ30に起動トルクを印加する。
【0083】
まず、時刻t10において、MCU40は、インダクティブセンスによって検出された回転子の位置に基づいて、最も印加トルクが大きくなる通電パターンで固定子巻線31にPWM制御に基づく電圧を印加する。図6の場合には、まず、通電パターンfで電圧が印加される。PWM制御の電圧印加期間には、U相上アームから固定子巻線31を経由してV相下アームに電流が流れる。PWM制御の回生期間には、U相下アームから固定子巻線31を経由してV相下アームの方向に回生電流が流れる。MCU40は、検出器60によって非通電相であるW相の誘起電圧を検出する。MCU40は、検出した非通電相の誘起電圧に基づいて相互誘導電圧およびVEMFを推定する。相互誘導電圧およびVEMFの具体的な推定方法については、図7図9を参照して後述する。
【0084】
時刻t11において、非通電相のW相において検出される相互誘導電圧がほぼ0になる(すなわち、相互誘導電圧の絶対値が閾値よりも小さくなる)。このとき、非通電相のW相で検出されるBEMFの絶対値が閾値電圧Vth以上でないので、MCU40は、通電パターンを切り替える。すなわち、MCU40は、インバータ回路20を制御することにより、次の通電パターンaで固定子巻線31にPWM制御に基づく電圧を印加する。通電パターンaでは、PWM制御の電圧印加期間には、W相上アームから固定子巻線31を経由してV相下アームに電流が流れる。PWM制御の回生期間には、W相下アームから固定子巻線31を経由してV相下アームの方向に回生電流が流れる。MCU40は、検出器60によって非通電相であるU相の誘起電圧を検出する。
【0085】
時刻t12において、非通電相のU相において検出される相互誘導電圧がほぼ0になる(すなわち、相互誘導電圧の絶対値が閾値よりも小さくなる)。このとき、非通電相のU相で検出されるBEMFの絶対値が閾値電圧Vth以上でないので、MCU40は、通電パターンを切り替える。すなわち、MCU40は、インバータ回路20を制御することにより、次の通電パターンbで固定子巻線31にPWM制御に基づく電圧を印加する。通電パターンbでは、PWM制御の電圧印加期間には、W相上アームから固定子巻線31を経由してU相下アームに電流が流れる。PWM制御の回生期間には、W相下アームから固定子巻線31を経由してU相下アームの方向に回生電流が流れる。MCU40は、検出器60によって非通電相であるV相の誘起電圧を検出する。
【0086】
時刻t13において、非通電相のV相において検出される相互誘導電圧がほぼ0になる(すなわち、相互誘導電圧の絶対値が閾値よりも小さくなる)。このとき、非通電相のV相で検出されるBEMFの絶対値が閾値電圧Vth以上であるので、MCU40は、次の時刻t20において駆動モードをモード2からモード3に切り替える。
【0087】
時刻t20において、MCU40は、インバータ回路20を制御することにより、通電パターンdで固定子巻線31にPWM制御に基づく電圧を印加する。この通電パターンdによる通電中に、MCU40は、非通電相のU相のBEMFのゼロクロス点を検出器60によって検出する。モード3におけるBEMFは、CRフィルタを介して検出される。
【0088】
ゼロクロス点の検出時刻から電気角で30°経過した時刻t21に、MCU40は、通電パターンdから通電パターンeに通電パターンを切り替える。以下同様に、非通電相のBEMFのゼロクロス点の検出に基づいて、時刻t22~t26の各々において、通電パターンが切り替えられる。
【0089】
[相互誘導検出駆動の詳細な手順]
図7は、図5のステップS60における相互誘導検出駆動の詳細な手順を示すフローチャートである。
【0090】
図7のステップS200において、MCU40は、キック開始からの経過時間Tkick(キック時間Tkickと称する)が、予め設定された最小キック時間Tminを超えているか判定する。MCU40は、キック時間Tkickが最小キック時間Tminを超えている場合(ステップS200でYES)、処理をステップS210に進める。
【0091】
ステップS210において、MCU40は、PWMパルスがオンのタイミングで非通電相の誘起電圧Aを検出する。MCU40は、PWMパルスがその次にオフとなるタイミングで非通電相の誘起電圧Bを検出する。誘起電圧Aから誘起電圧Bを減算した値である変数Cが、相互誘導に基づく誘起電圧に相当する。なお、回転子が回転しているときには、誘起電圧Aおよび誘起電圧Bの各々には、BEMFも含まれている。誘起電圧Aから誘起電圧Bを減算することにより、BEMFがキャンセルされる。
【0092】
より正確には、外部入力電圧VMの2分の1付近の差動増幅器63のオフセット値center_mと、接地電圧GND付近の差動増幅器63のオフセット値center_dとが考慮される。ステップS220において、MCU40は、変数Cとして、
(A-center_m)-(B-center_d) …(6)
を計算する。MCU40は、計算した変数Cをメモリに格納する。
【0093】
次のステップS230において、MCU40は、変数Dとして(A-center_m)の絶対値をメモリに格納する。(A-center_m)の絶対値に代えて(B-center_d)の絶対値を変数Dとしてメモリに格納してもよい。相互誘導に基づく誘起電圧(すなわち、変数C)が0の場合、(A-center_m)の絶対値または(B-center_d)の絶対値は、BEMFの絶対値に等しくなる。
【0094】
次のステップS240において、MCU40は、通電パターンがaまたはcまたはeであるか、bまたはdまたはfであるかを判定する。一例として、MCU40は、回転子の回転方向が図3を参照して説明したCW方向であり、通電パターンがbまたはdまたはfの場合、処理をステップS250に進める。MCU40は、回転子の回転方向がCW方向であり、通電パターンがaまたはcまたはeである場合、処理をステップS260に進める。MCU40は、回転子の回転方向が図3を参照して説明したCCW方向であり、通電パターンがbまたはdまたはfの場合、処理をステップS260に進める。MCU40は、回転子の回転方向がCCW方向であり、通電パターンがaまたはcまたはeである場合、処理をステップS250に進める。なお、CW方向およびCCW方向は便宜的なものであるので、上記と反対に処理を進める場合もあり得る。
【0095】
最初にステップS250に処理を進める場合について説明する。この場合は、キック開始時点において、上記の式(6)で計算される変数Cが正の場合に対応している。ステップS250において、MCU40は、変数Cが閾値電圧である+margin1よりも大きいか否かを判定する。
【0096】
MCU40は、変数Cが+margin1よりも大きい場合(ステップS250でYES)、処理をステップS310に進める。ステップS310において、MCU40は、キック時間Tkickが最大キック時間Tmaxよりも大きい場合に(ステップS310でYES)、キックを停止し、タイムアウトと判断する(ステップS320)。一方、ステップS310において、MCU40は、キック時間Tkickが最大キック時間Tmax以下の場合に(ステップS310でNO)処理をステップS210に戻す。
【0097】
ステップS250において、MCU40は、変数Cがmargin1以下の場合(ステップS250でNO)、処理をステップS270に進める。ステップS270において、MCU40は、キック時間Tkickが目標キック時間Tspeed以下であるか否かを判定する。キック時間Tkickが目標キック時間Tspeedを超えている場合(ステップS270でNO)、MCU40は、回転速度不足と判定する(ステップS300)。この場合、MCU40は、処理を図5のステップS50に戻し、次の通電パターンでキックを開始する。
【0098】
一方、ステップS270においてキック時間Tkickが目標キック時間Tspeed以下の場合(ステップS270でYES)、MCU40は処理をステップS280に進める。次のステップS280において、MCU40は、ステップS230で記憶した変数Dが閾値以上であるか否かを判定する。変数Dが閾値以上であることは、BEMFの絶対値が閾値電圧Vth以上であることに対応している。MCU40は、変数Dが閾値以上のとき(ステップS280でYES)、規定回転速度に到達したと判定する(ステップS300)。この場合、MCUは、処理を図5のステップS70におけるBEMF検出駆動に進める。
【0099】
次に、ステップS240の判定の結果、処理をステップS260に進める場合について説明する。この場合は、キック開始時点において、上記の式(6)で計算される変数Cが負の場合に対応している。ステップS260において、MCU40は、変数Cが閾値電圧である-margin1よりも小さいか否かを判定する。MCU40は、変数Cが-margin1よりも小さい場合に(ステップS260でYES)、処理をステップS310に進める。その後の処理はステップS250の場合で説明したので説明を繰り返さない。MCU40は、変数Cが-margin1以上の場合に(ステップS260でNO)、処理をステップS270に進める。その後の処理はステップS250の場合で説明したので説明を繰り返さない。
【0100】
上記において、通電パターンによって処理を分けずに、変数Cの絶対値が閾値電圧である+margin1以下となったか否かを判定してもよい。この場合、ステップS240,S250,S260に代えて、変数Cの絶対値が+margin1以下であるか否かを判定するステップが設けられる。具体的に、MCU40は、変数Cの絶対値が+margin1より大きい場合に処理をステップS310に進め、変数Cの絶対値が+margin1以下の場合に処理をステップS270に進める。
【0101】
[相互誘導検出駆動の具体例]
図8は、相互誘導検出駆動において図1の差動増幅器の出力波形の一例を概念的に示す図である。図8では、通電パターンbの場合において、非通電相であるV相の出力ノードTVと仮想中点72との間の電圧の波形と、U相電流の波形とが示されている。図8の(A)は回転子が無回転の場合を示し、図8の(B)は回転子が回転中の場合を示す。各グラフの横軸は回転子の位置に対応している。すなわち、図8の(A)および(B)は回転子の位置が異なる出力波形を合成して示したものであり、より右の波形ほどCW方向に回転した位置における波形である。
【0102】
図8(A)を参照して、PWM制御において電圧印加状態のときの電圧A’と、その直後の回生電流が流れているときの電圧B’とが検出される。前述の式(6)から変数Cは、
C=(A’-center_m)-(B’-center_d) …(7)
と計算される。上記の変数Cの正負が変わるときを検出することにっよって、回転子の位置を電気角60°ごとに検出できる。図においてγ点が、変数C=0に対応する。
【0103】
図8(B)を参照して、PWM制御において電圧印加状態のときの電圧Aと、その直後の回生電流が流れているときの電圧Bとが検出される。前述の式(6)から変数Cは、
C=(A-center_m)-(B-center_d) …(8)
と計算される。
【0104】
ここで、回転子が回転している場合の図8(B)の電圧波形は、回転子が回転していない図8(A)の電圧波形にBEMFが加算されたものと考えることができる。したがって、上式(8)は、
C=(A’+BEMF-center_m)
-(B’+BEMF-center_d) …(9)
と書き直される。BEMFが相殺されるので、上式(9)は、上式(7)と同じになる。すなわち、回転子が停止している場合の変数Cの値と回転子が回転している場合の変数Cの値とは等しい。よって、変数Cの極性を判定することによって、回転子が静止している場合も回転子が回転している場合も同じ精度で、回転子の位置を検出できる。
【0105】
また、変数Cが0のときは、
A’-center_m=B’-center_d=0 …(10)
が成立する。したがって、前述の変数Dとして計算した(A-center_m)の絶対値または(B-center_d)の絶対値は、BEMFの絶対値に等しい。すなわち、BEMFのピーク値レベルを検出できる。
【0106】
図8の(A)および(B)において、margin1は、Cの極性を判定するときの判定閾値である。すなわち、実際の変数Cの極性判定では、回転子の位置は、図8のγ点よりも前の位置で検出される。BEMFの波形は正弦波形に近いため、変数C=0のときの回転子の位置から電気角で30°程度ずれても、BEMFの検出精度には影響を及ぼさない。
【0107】
図9は、図8のα点、β点、γ点の位置での回転子の位置を説明するための図である。図9では、極対数が2の場合のブラシレスDCモータ30の断面図が概念的に示されている。図9の(A)は図8のα点の場合を示し、(B)は図8のβ点の場合を示す、(C)は図8のγ点の場合を示す。通電パターンbの場合には、巻線電流はW相からU相に流れ、非通電相であるV相の電圧が検出される。
【0108】
図9(A)に示すように、α点はγ点よりも電気角で120度前の回転子の位置を示す。この場合、V相には+電圧が発生している。
【0109】
図9(B)に示すように、β点はγ点よりも電気角で90度前の回転子の位置を示す。この場合、V相で検出されるBEMFはほぼ0である。図9(C)に示すように、γ点は、変数C、すなわち、相互誘導に基づく誘起電圧が0の場合の回転子の位置を示す。
【0110】
[効果]
上記のとおり、本開示のブラシレスDCモータ30によれば、通電相の電流磁界に基づく相互誘導によって非通電相に生じる誘起電圧を利用して回転子の位置が検出される。これにより、BEMFのゼロクロス点の検出に基づくセンサレス制御が実行可能になる前である、ブラシレスDCモータ30の初期起動時に、回転子の位置を検出できる。
【0111】
ここで、PWM制御の電圧印加期間の非通電相の誘起電圧とその直後または直前の回生期間の非通電相の誘起電圧との差分を求めることにより、BEMFの影響を受けずに回転子の位置を検出できる。したがって、回転子が無回転の場合と回転子が回転中の場合とで、上記の差分が0となるタイミングを検出するのに、同一の判定閾値を用いることができる。
【0112】
さらに、上記の差分がほぼ0のときの相互誘導電圧からBEMFの大きさを検出できる。従来、PWM周波数が低い場合のBEMFの検出には、大きな定数のCRフィルタが必要であったが、本実施の形態ではCRフィルタを用いずにBEMFを精度良く検出できる。
【0113】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0114】
10 半導体装置、11 運転指令値、20 インバータ回路、21 第1の電源ノード、22 第2の電源ノード、23 シャント抵抗、24 接続ノード、30 モータ、31,31U,31V,31W 固定子巻線、32 中点、41 CPU、42 RAM、43 不揮発性メモリ、44,46 IF回路、45,48 AD変換器、47 ゲート制御信号生成器、49 バス、60 検出器、61 スイッチ回路、62 検出ノード、63 差動増幅器、65 増幅器、70 仮想中点生成回路、71U,71V,71W 抵抗素子、72 仮想中点、100 モータ駆動システム、GUN,GUP,GVN,GVP,GWN,GWP ゲート制御信号、SLU,SLV,SLW セレクト信号、TU,TV,TW 出力ノード、Tkick キック時間、Tmax 最大キック時間、Tspeed 目標キック時間、UN,UP,VN,VP,WN,WP MOSトランジスタ、VM 外部入力電圧。
図1
図2
図3
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図6
図7
図8
図9