(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】要素分割前処理システム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20231221BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20231221BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F30/10
(21)【出願番号】P 2020170196
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 和生
(72)【発明者】
【氏名】夏目 糧平
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】中谷 光良
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-201474(JP,A)
【文献】特開2004-330212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開先への溶接による母材の熱弾塑性変形を有限要素法で解析するために、当該有限要素法での計算格子である要素に母材を分割するための前処理を行う要素分割前処理システムであって、
前記母材の厚さおよび材質、並びに、前記溶接の方法が少なくとも入力される入力部と、
前記入力部に入力された母材の厚さに基づき、前記開先の形状を決定する開先形状決定部と、
前記入力部に入力された母材の材質および溶接の方法に基づき、前記溶接の条件を決定する溶接条件決定部と、
前記開先形状決定部で決定された開先の形状、および、前記溶接条件決定部で決定された溶接の条件に基づき、前記溶接における各パスの配置および断面積を算出するパス状態算出部と、
前記開先形状決定部で決定された開先の形状、および、前記溶接条件決定部で決定された溶接の条件に基づき、熱伝導計算を行い、この熱伝導計算の結果から要素に分割する指針となるラインを算出する分割指針算出部とを備えることを特徴とする要素分割前処理システム。
【請求項2】
溶接条件決定部が、決定する溶接条件として各パスの入熱量を含み、
パス状態算出部が、
開先形状決定部で決定された開先の形状に基づき、当該開先の断面積を算出する開先断面積算出部と、
前記開先断面積算出部で算出された開先の断面積に、仮として設定された1パスの平均断面積を除することで、パスの全数を算出するパス全数算出部と、
前記溶接条件決定部で決定された各パスの入熱量に応じて、各パスの断面積を算出するパス毎断面積算出部と、
前記パス全数算出部で算出されたパスの全数に基づき、各層のパスの数を決定する層毎パス数決定部と、
前記開先形状決定部で決定された開先の形状、前記層毎パス数決定部で決定された各層のパスの数、および、前記パス毎断面積算出部で算出された各パスの断面積に基づき、各層の高さを算出する層毎高さ算出部とを有することを特徴とする
請求項1に記載の要素分割前処理システム。
【請求項3】
分割指針算出部で算出されるラインが、
母材の溶接による最高到達温度が、当該母材の塑性温度に等しい位置からなる第1ラインと、
前記最高到達温度が、前記母材の力学的溶融温度に等しい位置からなる第2ラインとであり、
前記分割指針算出部が、
最初のパスの高さにおいて、前記第1ラインと第2ラインとの間で分割する要素の数と、
最終のパスの高さにおいて、前記第1ラインと第2ラインとの間で分割する要素の数とを算出するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の要素分割前処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開先への溶接による母材の熱弾塑性変形を有限要素法で解析するために、当該有限要素法での計算格子である要素に母材を分割するための前処理を行う要素分割前処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接による入熱で母材は変形するが、この変形の大きさを予測するのに、従来から有限要素法が広く用いられている。この有限要素法では、解析する対象物を多数の要素に分割して、要素ごとに演算が行われる。このため、解析する対象物をどのような要素に分割するかが、解析の効率(精度および時間)を決定する上で重要になる。
【0003】
従来は、メッシング(多数の要素への分割)を自動的に行う数値解析システムが提案されていた(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1の段落[0011]に記載されているように、前記数値解析モデルでは、解析する対象物の温度変化が激しい部分を、より細かな要素に自動的に分割する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の数値解析モデルでは、要素に分割する前に、解析する対象物の温度変化を得る必要があるので、当該解析する対象物の温度を温度計などの測定器で測定しなければならない。このため、前記数値解析モデルでは、前記解析する対象物の温度を温度計などで測定するための余分な時間が必要になってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、母材を要素に分割するための前処理を速やかに行い得る要素分割前処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、第1の発明に係る要素分割前処理システムは、開先への溶接による母材の熱弾塑性変形を有限要素法で解析するために、当該有限要素法での計算格子である要素に母材を分割するための前処理を行う要素分割前処理システムであって、
前記母材の厚さおよび材質、並びに、前記溶接の方法が少なくとも入力される入力部と、
前記入力部に入力された母材の厚さに基づき、前記開先の形状を決定する開先形状決定部と、
前記入力部に入力された母材の材質および溶接の方法に基づき、前記溶接の条件を決定する溶接条件決定部と、
前記開先形状決定部で決定された開先の形状、および、前記溶接条件決定部で決定された溶接の条件に基づき、前記溶接における各パスの配置および断面積を算出するパス状態算出部と、
前記開先形状決定部で決定された開先の形状、および、前記溶接条件決定部で決定された溶接の条件に基づき、熱伝導計算を行い、この熱伝導計算の結果から要素に分割する指針となるラインを算出する分割指針算出部とを備えるものである。
【0008】
また、第2の発明に係る要素分割前処理システムは、第1の発明に係る要素分割前処理システムにおける溶接条件決定部が、決定する溶接条件として各パスの入熱量を含み、
パス状態算出部が、
開先形状決定部で決定された開先の形状に基づき、当該開先の断面積を算出する開先断面積算出部と、
前記開先断面積算出部で算出された開先の断面積に、仮として設定された1パスの平均断面積を除することで、パスの全数を算出するパス全数算出部と、
前記溶接条件決定部で決定された各パスの入熱量に応じて、各パスの断面積を算出するパス毎断面積算出部と、
前記パス全数算出部で算出されたパスの全数に基づき、各層のパスの数を決定する層毎パス数決定部と、
前記開先形状決定部で決定された開先の形状、前記層毎パス数決定部で決定された各層のパスの数、および、前記パス毎断面積算出部で算出された各パスの断面積に基づき、各層の高さを算出する層毎高さ算出部とを有するものである。
【0009】
さらに、第3の発明に係る要素分割前処理システムは、第1または第2の発明に係る要素分割前処理システムにおける分割指針算出部で算出されるラインが、
母材の溶接による最高到達温度が、当該母材の塑性温度に等しい位置からなる第1ラインと、
前記最高到達温度が、前記母材の力学的溶融温度に等しい位置からなる第2ラインとであり、
前記分割指針算出部が、
最初のパスの高さにおいて、前記第1ラインと第2ラインとの間で分割する要素の数と、
最終のパスの高さにおいて、前記第1ラインと第2ラインとの間で分割する要素の数とを算出するものである。
【発明の効果】
【0010】
前記要素分割前処理システムによると、母材を要素に分割するための前処理を速やかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る要素分割前処理システムを使用する金属板および当該金属板に形成された開先の断面図である。
【
図2】同要素分割前処理システムのブロック図である。
【
図4】本発明の実施例に係る要素分割前処理システムを使用する金属板および当該金属板に形成された開先の斜視図である。
【
図5】同金属板および当該金属板に形成された開先の断面図である。
【
図6】同要素分割前処理システムのブロック図である。
【
図7】同金属板の表側の開先における断面積を示す断面図である。
【
図8】同金属板の裏側の開先における断面積を示す断面図である。
【
図9】同金属板の表側の開先における各パスの配置および断面積を示す断面図である。
【
図10】同金属板の裏側の開先における各パスの配置および断面積を示す断面図である。
【
図11】同要素分割前処理システムの分割指針算出部で算出される第1ラインおよび第2ラインまで示す金属板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る要素分割前処理システムについて、
図1~
図3に基づき説明する。
【0013】
この要素分割前処理システムは、
図1に示すように、開先11への溶接による金属板10(母材の一例)の熱弾塑性変形を有限要素法で解析するために、当該有限要素法での計算格子である要素に金属板10を分割するための前処理を行うものである。前記要素分割前処理システムは、前処理の前提として、少なくとも、前記開先11が形成される金属板10の厚さhおよび材質、並びに、前記溶接の方法を必要なデータとする。また、前記要素分割前処理システムは、
図1での紙面左右方向である金属板10の幅、および、
図1の紙面奥行方向である金属板10の長さを必要なデータとしてもよい。
【0014】
図2に示すように、前記要素分割前処理システム1は、入力部2、開先形状決定部3、溶接条件決定部4、パス状態算出部5、および、分割指針算出部6を備える。
【0015】
前記入力部2は、前記金属板10の厚さhおよび材質、並びに、前記溶接の方法が少なくとも入力される。前記金属板10の材質は、例えば、炭素鋼、クロム鋼、ステンレス鋼、ニッケル合金、または、アルミニウムなどである。前記溶接の方法は、例えば、サブマージアーク溶接、ガスメタルアーク溶接、シールドメタルアーク溶接、または、ガスタングステンアーク溶接などである。前記金属板10の材質、および、前記溶接の方法のように、パターンが限られている場合、前記入力部2は、前記パターンが選択肢から選択されることで入力されるものでもよい。
【0016】
前記開先形状決定部3は、前記入力部2に入力された金属板10の厚さhに基づき、前記開先11の形状を決定する。ここで、決定される開先11の形状は、開先11の断面を描写できる程度に具体的な形状であり、例えば、ルートフェイス、ルートギャップ、開先深さ、開先角度、裏はつり深さ、および、裏はつり幅などである。前記開先形状決定部3は、前記開先11の形状を決定するためのテーブル(以下、開先形状決定テーブル)、すなわち、前記金属板10の厚さhと開先11の形状との対応を格納した開先形状決定テーブルにより、前記金属板10の厚さhに基づき開先11の形状を決定するように構成してもよい。前記開先形状決定テーブルでの金属板10の厚さhと開先11の形状との対応は、前記要素分割前処理システム1の使用者にとって適切なものが予め設定される。
【0017】
前記溶接条件決定部4は、前記入力部2に入力された金属板10の材質および溶接の方法に基づき、前記溶接の条件を決定する。ここで、決定される溶接の条件は、例えば、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、熱効率、初期温度またはパス間温度、入熱量、および、熱伝導計算に必要なパラメータなどである。前記溶接の条件のうち、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、熱効率、および、初期温度またはパス間温度は、溶接の方法との対応により得られる。このため、前記溶接条件決定部4は、前記対応を格納したテーブル(以下、第1溶接条件決定テーブル)により、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、熱効率、および、初期温度またはパス間温度を決定するように構成してもよい。また、前記溶接の条件のうち、前記入熱量は、熱効率、溶接電流および溶接電圧を乗じた値を、前記溶接速度で除することにより得られる。さらに、前記溶接の条件のうち、前記熱伝導計算に必要なパラメータは、前記金属板10の材質との対応により得られる。このため、前記溶接条件決定部4は、前記対応を格納したテーブル(以下、第2溶接条件決定テーブル)により、前記熱伝導計算に必要なパラメータを決定するように構成してもよい。なお、前記熱伝導計算に必要なパラメータは、例えば、前記金属板10における、熱伝導率、比熱、密度、熱拡散率、融点、力学的溶融温度、および、塑性温度などである。前記第1溶接条件決定テーブルおよび第2溶接条件決定テーブルでの対応は、前記要素分割前処理システム1の使用者にとって適切なものが予め設定される。
【0018】
前記パス状態算出部5は、前記開先形状決定部3で決定された開先11の形状、および、前記溶接条件決定部4で決定された溶接の条件に基づき、
図3に示すように、前記溶接における各パスP1~P6の配置および断面積を算出する。
図3に示す例では、第1層が最初のパスP1で形成され、第2層~第4層が2番目~4番目のパスP2~P4でそれぞれ形成され、第5層が5番目および6番目のパスP5,P6で形成される。
【0019】
前記分割指針算出部6は、前記開先形状決定部3で決定された開先11の形状、および、前記溶接条件決定部4で決定された溶接の条件に基づき、熱伝導計算を行い、この熱伝導計算の結果から要素に分割する指針となるラインを算出する。前記ラインは、例えば、前記金属板10の溶接による最高到達温度が、当該金属板10の塑性温度に等しい位置からなる第1ラインL1と、前記最高到達温度が、前記金属板10の力学的溶融温度に等しい位置からなる第2ラインL2とである。
【0020】
このように、前記要素分割前処理システム1によると、入力部2に必要なデータを入力するだけで、溶接における各パスP1~P6の配置および断面積と、金属板10を要素に分割する指針となるラインとが算出されるので、金属板10を要素に分割するための前処理を速やかに行うことができる。
【実施例】
【0021】
以下、前記実施の形態をより具体的に示した実施例に係る要素分割前処理システム1について、
図4~
図11に基づき説明する。本実施例では、前記実施の形態とは異なる構成に着目して説明するとともに、前記実施の形態と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0022】
本実施例に係る要素分割前処理システム1では、
図4に示すように、前記金属板10が厚さh、幅Wおよび長さLを有し、前記開先11がX形である。前記金属板10は、前記開先11に表側から溶接された後に裏はつりが施工され、当該裏はつりが施工された開先11に裏側から溶接される。
【0023】
以下、本実施例に係る要素分割前処理システム1の構成について説明する。
【0024】
前記入力部2は、前記金属板10の厚さh、幅Wおよび長さLがそれぞれデータとして入力されるとともに、前記金属板10の材質および溶接の方法が選択肢の選択により入力される。
【0025】
前記開先形状決定部3は、前記入力部2に入力された金属板10の厚さhに基づき、前記開先形状決定テーブルにより、前記開先11の形状として、
図5に示すルートフェイスN、ルートギャップg、開先深さDbp,Dfp、および、開先角度θ1,θ2を決定する。また、前記開先形状決定部3は、前記開先11の形状として、前記裏はつり深さDbおよび幅w1,w2を、前記パス状態算出部5で算出された表側の第1層の高さ(後述する)と、前記ルートギャップgおよび開先角度θ1,θ2とから算出する。
【0026】
前記溶接条件決定部4は、前記入力部2に入力された溶接の方法に基づき、前記第1溶接条件決定テーブルおよび第2溶接条件決定テーブルにより、前記溶接の条件として、前記溶接電流、溶接電圧、溶接速度、熱効率、初期温度またはパス間温度、および、熱伝導計算に必要なパラメータを決定する。また、前記溶接条件決定部4は、前記溶接の条件として、前記入熱量を、前記実施の形態で説明したように、前記熱効率、溶接電流および溶接電圧を乗じて溶接速度で除することにより算出する。
【0027】
図6に示すように、前記パス状態算出部5は、開先断面積算出部51、パス全数算出部52、パス毎断面積算出部53、層毎パス数決定部54、および、層毎高さ算出部55を有する。
【0028】
前記開先断面積算出部51は、前記開先形状決定部3で決定された開先11の形状に基づき、当該開先11の断面積を算出する。この開先11の断面積は、
図7に示す表側の開先11の断面積Sbpと、
図8に示す裏側の開先11の断面積Sfpとに分けられる。
図7および
図8に示すように、表側の開先11の形状および裏側の開先11の形状はいずれも台形なので、前記断面積Sbp,Sfpはいずれも台形の面積を求める式により算出される。具体的に、
図7に示す表側の開先11の断面積Sbpは次の式(1)により算出され、
図8に示す裏側の開先11の断面積Sfpは次の式(2)により算出される。
Sbp=Dbp・[Dbp・tan(θ1/2)+g]・・・・・(1)
Sfp=Db・(w1+w2)/2・・・・・(2)
前記式(1)および(2)において、Dbpは表側の開先深さ、gはルートギャップ、Dbは裏はつり深さ、w1は裏はつり幅(底)、w2は裏はつり幅(裏面)である。
【0029】
前記パス全数算出部52は、前記開先断面積算出部51で算出された開先11の断面積Sbp,Sfpを、仮として設定された1パスの平均断面積で除することにより、パスの全数を算出する。前記仮として設定された1パスの平均断面積は、例えば、前記金属板10の材質により決定される仮の値である。
【0030】
前記パス毎断面積算出部53は、前記溶接条件決定部4で決定された各パスの入熱量に応じて、各パスの断面積を算出する。
図9および
図10に示すように、i番目のパスの断面積Sbpi,Sfpi(
図9に示す表側ならiは1~13,
図10に示す裏側ならiは1~14)は、i番目のパスの入熱量を全てのパスの入熱量の和で除した値に、開先11の断面積Sbp,Sfpを乗ずることで算出される。言い換えれば、各パスの断面積Sbpi,Sfpiは、全てのパスに対する当該パスの入熱量に開先11の断面積Sbp,Sfpが按分される。
【0031】
前記層毎パス数決定部54は、前記パス全数算出部52で算出されたパスの全数に基づき、各層のパスの数を決定する。具体的に、各層のパスの数は、パスの全数と各層のパス数との対応を格納したテーブルにより、パスの全数に基づき決定される。
図9に示す例だと、第1層のパスの数が1(最初のパス)、第2層~第4層のパスの数がそれぞれ1(2番目~4番目のパス)、第5層~第7層のパスの数がそれぞれ2(5番目~10番目のパス)、第8層のパスの数が3(11番目~13番目である最終のパス)である。一方で、
図10に示す例だと、第1層のパスの数が1(最初のパス)、第2層~第3層のパスの数がそれぞれ1(2番目~3番目のパス)、第4層~第7層のパスの数がそれぞれ2(4番目~11番目のパス)、第8層のパスの数が3(12番目~14番目である最終のパス)である。
【0032】
前記層毎高さ算出部55は、前記開先形状決定部3で決定された開先11の形状、前記層毎パス数決定部54で決定された各層のパスの数、および、前記パス毎断面積算出部53で算出された各パスの断面積Sbp1~Sbp13,Sfp1~Sfp14に基づき、各層の高さを算出する。具体的に、1つのパスからなる層(
図9に示す例だと第1層~第4層、
図10に示す例だと第1層~第3層)は、この1つのパスの形状が等脚台形である。当該等脚台形は、その面積が当該層を構成する1つのパスの断面積としてパス毎断面積算出部53により既知であり、脚の広がりも開先角度θ1,θ2として開先形状決定部3により既知であるから、台形の面積を求める式により高さが算出される。この算出された等脚台形の高さが、当該パスからなる層の高さである。複数のパスからなる層(
図9に示す例だと第5層~第8層、
図10に示す例だと第4層~第8層)は、これら複数のパスの合体形状が等脚台形である。当該等脚台形は、その面積が当該層を構成する複数のパスの断面積の和としてパス毎断面積算出部53により既知であり、脚の広がりも開先角度θ1,θ2として開先形状決定部3により既知であるから、台形の面積を求める式により高さが算出される。この算出された等脚台形の高さが、当該複数のパスからなる層の高さである。
【0033】
前記分割指針算出部6は、
図11に示すように、前記第1ラインL1および第2ラインL2と、最初のパスPb1,Pf1の高さにおいて第1ラインL1と第2ラインL2との間で分割する要素の数と、最終のパスPb13,Pf14の高さにおいて第1ラインL1と第2ラインL2との間で分割する要素の数とを算出する。
【0034】
前記第1ラインL1は、前記熱伝導計算の結果から、前記金属板10の溶接による最高到達温度Tmaxが、塑性温度T1に等しい位置からなる。ここで、塑性温度T1とは、前記金属板10の梁が両端固定された状態で昇温されたと仮定した場合に降伏の始まる温度T1である。例えば、炭素鋼、クロム鋼、ステンレス鋼、ニッケル合金およびアルミニウムの塑性温度T1は、100℃程度である。具体的に、前記塑性温度T1は、前記昇温する前の初期温度T0、金属板10の降伏応力σ、線膨張係数αおよびヤング率Eから次の式(3)により算出される。
T1=T0+σ/(E・α)・・・・・(3)
【0035】
前記第2ラインL2は、前記熱伝導計算の結果から、前記金属板10の溶接による最高到達温度Tmaxが、力学的溶融温度TMに等しい位置からなる。ここで、力学的溶融温度TMとは、これより高温だと材料が力学的に合成を殆ど失い、変形解析では液体と同様に扱われる温度のうち、最も低い温度である。例えば、炭素鋼、クロム鋼、ステンレス鋼およびニッケル合金の力学的溶融温度は、800℃程度である。
【0036】
前記第1ラインL1と第2ラインL2との間で分割する要素の数は、前記最初のパスPb1,Pf1の高さおよび最終のパスPb13,Pf14の高さのいずれにおいても、該当するパス(最初のパスPb1,Pf1または最終のパスPb13,Pf14)の入熱量を、該当するパスを含む層の高さの2乗で除した値(以下、入熱パラメータ)に基づき決定される。具体的に、前記要素の数は、前記入熱パラメータが上限値以上なら当該上限値を採用し、前記入熱パラメータが下限値以上なら当該下限値を採用し、前記入熱パラメータが上限値と下限値との間なら当該入熱パラメータを採用する。
【0037】
前記分割指針算出部6は、最初のパスPb1,Pf1を金属板10の厚さh方向に分割する要素の数を算出してもよい。前記最初のパスPb1,Pf1を金属板10の厚さh方向に分割する要素の数は、最初のパスPb1,Pf1の入熱パラメータが所定値未満なら大きな値を採用し、当該入熱パラメータが所定値以上なら小さな値を採用する。
【0038】
前記分割指針算出部6は、前記要素における金属板10の幅W方向および厚さh方向の大きさを算出してもよい。前記要素における金属板10の幅W方向および厚さh方向の大きさは、それぞれ、開先11(最初のパスPb1,Pf1)から離れる程、等比的に大きくされる。
【0039】
前記分割指針算出部6は、前記要素における金属板10の長さL方向の大きさも算出してもよい。前記要素における金属板10の長さL方向の大きさは、例えば、前記金属板10の融点に基づく熱伝導計算により算出される。
【0040】
このように、本実施例に係る要素分割前処理システム1によると、第1ラインL1および第2ラインL2が算出され、且つ、最初および最後のパスの高さにおいて第1ラインL1と第2ラインL2との間で分割される要素の数が算出されるので、前記金属板10を要素に分割するための前処理を高精度且つ速やかに行うことができる。
【0041】
ところで、前記実施の形態および実施例では、突合せ溶接について図示したが、開先11が形成される金属板10であれば、隅肉溶接など他の溶接であってもよい。
【0042】
また、前記実施の形態および実施例では、V形およびX形の開先11について図示したが、U形(若しくは両側U形)またはI形など他の開先11であってもよい。
【0043】
さらに、前記実施の形態および実施例では、金属板10を要素に分割する解析時間ステップについて説明しなかったが、前記分割指針算出部6などが解析時間ステップを算出するようにしてもよい。この解析時間ステップは、例えば、各層で要素における金属板10の長さL方向を溶接速度で除し、さらに所定の係数で除して算出された値のうち、最も小さい値を採用する。
【0044】
加えて、前記実施例では、前記第1ラインL1と第2ラインL2との間で分割する要素の数を算出する位置として、最初のパスPb1,Pf1の高さについて説明したが、この最初のパスPb1,Pf1は、表側からの溶接のみが施工される場合だと表側の溶接における最初のパスPb1であり、表側および裏側の両側からの溶接が施工される場合だと表側または裏側の溶接におけるいずれの最初のパスPb1,Pf1でもよい。
【0045】
また、前記実施の形態および実施例では、決定および算出された値の修正について説明しなかったが、当該修正が可能なように構成されてもよい。この場合、前記開先形状決定部3、溶接条件決定部4、パス状態算出部5および分割指針算出部6は、いずれも、決定および算出した値を外部から修正可能に構成される。
【0046】
また、前記実施の形態および実施例では、決定および算出された値の取り扱いについて詳細に説明しなかったが、前記要素分割前処理システム1は、決定および算出された値を外部データとして出力する出力部を備えてもよい。当該外部データが出力部で出力されることにより、要素に金属板10を分割する別途のソフトウェアで外部データの読み込みが可能になるので、汎用性を高めることができる。また、前記要素分割前処理システム1は、前記別途のソフトウェアに組み込まれたものでもよい。
【0047】
ここで、前記要素分割前処理システム1が決定および算出した値に基づき、要素に金属板10を分割する別途のソフトウェアについて説明する。
【0048】
前記ソフトウェアでは、前記要素分割前処理システム1が決定および算出した値に基づき、
図11に示すように、前記開先11の形状、前記溶接における各パス、前記第1ラインL1および第2ラインL2が描写される。前記各パスでの要素の数は、例えば、縦N個×横N個である(Nは自然数)。前記開先11と第1ラインL1との間における要素の大きさは、各パスでの要素の大きさと同一にされる。第1ラインL1と第2ラインL2との間における要素の数には、前記分割指針算出部6で算出された、最初のパスPb1,Pf1の高さにおける要素の数と、最終のパスPb13,Pf14の高さにおける要素の数とが採用される。第2ラインL2における要素の数は、第1ラインL1における要素の数の1/3~1/2程度にされる。前記要素における金属板10の厚さh方向の大きさは、前記分割指針算出部6で算出された値(最初のパスPb1,Pf1から離れる程、等比的に大きくなる)が採用される。前記要素における金属板10の厚さh方向の大きさは、こうして描写された要素が開先11の形状からずれている場合、このずれを手動により修正してもよい。
【0049】
また、前記実施の形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、前述した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。前記実施の形態および実施例で説明した構成のうち「課題を解決するための手段」での第1の発明として記載した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 要素分割前処理システム
2 入力部
3 開先形状決定部
4 溶接条件決定部
5 パス状態算出部
6 分割指針算出部
10 金属板
11 開先
51 開先断面積算出部
52 パス全数算出部
53 パス毎断面積算出部
54 層毎パス数決定部
55 層毎高さ算出部
L1 第1ライン
L2 第2ライン