(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】タイヤ荷重予測システム、タイヤ荷重予測プログラムおよびタイヤ荷重予測方法
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G01L5/00 Z
(21)【出願番号】P 2020187996
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】西山 健太
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0005956(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0338942(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0240501(US,A1)
【文献】特表2008-542735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00- 5/28
B60C23/00-23/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの内部に設けられ、前記タイヤの歪みを検知する歪みセンサを有するセンサユニットと、
該センサユニットから出力されるタイヤ接線方向の歪みデータを取得する歪みデータ取得部と、
取得された歪みデータを線形変換する線形変換部と、
該線形変換部による変換結果に基づいて、タイヤ接線方向の速度および角速度を推定する第1推定部と、
推定されたタイヤ接線方向の速度および角速度の値から、タイヤ径方向の速度を推定する第2推定部と、
推定されたタイヤ接線方向の加速度および角速度の値から、前記タイヤの接地面に対する前記歪みセンサの角度に相当するθ角方向の速度を推定する第3推定部と、
前記タイヤ接線方向の速度および角速度、前記タイヤ径方向の速度、およびθ角方向の速度に基づいて前記タイヤの撓みを推定する第4推定部と、
推定された前記タイヤの撓みに基づいて前記タイヤに加わる荷重を予測する荷重予測部と、
を備えるタイヤ荷重予測システム。
【請求項2】
前記第4推定部は、前記タイヤ接線方向の速度、前記タイヤ径方向の速度および前記θ角方向の速度に基づいて、前記タイヤの変形プロファイルを推定し、前記タイヤの撓みに相当する特徴量を抽出して、前記タイヤの撓みを推定する請求項1に記載のタイヤ荷重予測システム。
【請求項3】
前記線形変換部は、次式
【数1】
但し、ω
0:平均角速度 a
1:角速度倍率 ε:歪み
を用いて前記歪みデータを線形変換する請求項1に記載のタイヤ荷重予測システム。
【請求項4】
前記第1推定部は、取得されたデータに関して次式
【数3】
但し、v
T0:平均接線方向速度 a
2:接線方向速度倍率
を用いて線形変換を施すことで、接線方向速度を推定する請求項1に記載のタイヤ荷重予測システム。
【請求項5】
タイヤの内側面または内部に設けられる歪みセンサから出力されるタイヤ接線方向の歪みデータを取得する歪みデータ取得ステップと、
取得された歪みデータを線形変換する線形変換ステップと、
変換結果に基づいて、タイヤ接線方向の速度および角速度を推定する第1推定ステップと、
推定されたタイヤ接線方向の速度および角速度の値に基づいて、タイヤ径方向の速度を推定する第2推定ステップと、
推定されたタイヤ接線方向の加速度および角速度の値に基づいて、前記タイヤの接地面に対する前記歪みセンサの角度に相当するθ角方向の速度を推定する第3推定ステップと、
前記タイヤ接線方向の速度および角速度、前記タイヤ径方向の速度、およびθ角方向の速度に基づいて前記タイヤの撓みを推定する第4推定ステップと、
推定された前記タイヤの撓みに基づいて前記タイヤに加わる荷重を予測する荷重予測ステップと、
を有し、タイヤ荷重予測システムが備えるCPUで実行されるタイヤ荷重予測プログラム。
【請求項6】
前記第4推定ステップは、前記タイヤ接線方向の速度、前記タイヤ径方向の速度および前記θ角方向の速度に基づいて、前記タイヤの変形プロファイルを推定し、前記タイヤの撓みに相当する特徴量を抽出して、前記タイヤの撓みを推定する請求項5に記載のタイヤ荷重予測プログラム。
【請求項7】
タイヤの内側面または内部に設けられる歪みセンサから出力されるタイヤ接線方向の歪みデータを取得する歪みデータ取得過程と、
取得された歪みデータを線形変換する線形変換過程と、
変換結果に基づいて、タイヤ接線方向の速度および角速度を推定する第1推定過程と、
推定されたタイヤ接線方向の速度および角速度の値に基づいて、タイヤ径方向の速度を推定する第2推定過程と、
推定されたタイヤ接線方向の加速度および角速度の値に基づいて、前記タイヤの接地面に対する前記歪みセンサの角度に相当するθ角方向の速度を推定する第3推定過程と、
前記タイヤ接線方向の速度および角速度、前記タイヤ径方向の速度、およびθ角方向の速度に基づいて前記タイヤの撓みを推定する第4推定過程と、
推定された前記タイヤの撓みに基づいて前記タイヤに加わる荷重を予測する荷重予測過程と、
を有するタイヤ荷重予測方法。
【請求項8】
前記第4推定過程は、前記タイヤ接線方向の速度、前記タイヤ径方向の速度および前記θ角方向の速度に基づいて、前記タイヤの変形プロファイルを推定し、前記タイヤの撓みに相当する特徴量を抽出して、前記タイヤの撓みを推定する請求項7に記載のタイヤ荷重予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの荷重を予測するタイヤ荷重予測システム、タイヤ荷重予測プログラムおよびタイヤ荷重予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気入りタイヤ(以下、タイヤという)内に配置した加速度センサの時系列波形を用いて、タイヤの接地時間比(CTR:Contact Time Ratio;接地長を示すパラメータ)を算出し、これに基づいてタイヤの荷重を推定する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来技術では、タイヤの接地長がタイヤの摩耗状態によって変化するため、荷重予測の誤差が大きいという不都合があった。
【0005】
また、加速度センサは、低速域では遠心力が小さいため、低速走行が主体の車両では予測が困難であるという難点もあった。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、荷重予測の精度を高めることができ、低速走行が主体の車両についても荷重予測を行うことができるタイヤ荷重予測システム、タイヤ荷重予測プログラムおよびタイヤ荷重予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るタイヤ荷重予測システムは、タイヤの内部に設けられ、前記タイヤの歪みを検知する歪みセンサを有するセンサユニットと、該センサユニットから出力されるタイヤ接線方向の歪みデータを取得する歪みデータ取得部と、取得された歪みデータを線形変換する線形変換部と、該線形変換部による変換結果に基づいて、タイヤ接線方向の速度および角速度を推定する第1推定部と、推定されたタイヤ接線方向の速度および角速度の値から、タイヤ径方向の速度を推定する第2推定部と、推定されたタイヤ接線方向の加速度および角速度の値から、前記タイヤの接地面に対する前記歪みセンサの角度に相当するθ角方向の速度を推定する第3推定部と、前記タイヤ接線方向の速度および角速度、前記タイヤ径方向の速度、およびθ角方向の速度に基づいて前記タイヤの撓みを推定する第4推定部と、推定された前記タイヤの撓みに基づいて前記タイヤに加わる荷重を予測する荷重予測部と、を備えることを要旨とする。
【0008】
このような構成によれば、荷重予測の精度を高めることができる。
【0009】
また、前記第4推定部は、前記タイヤ接線方向の速度、前記タイヤ径方向の速度および前記θ角方向の速度に基づいて、前記タイヤの変形プロファイルを推定し、前記タイヤの撓みに相当する特徴量を抽出して、前記タイヤの撓みを推定するようにできる。
【0010】
これにより、荷重予測の精度を一層高めることができる。
【0011】
また、前記線形変換部は、次式
【0012】
【0013】
但し、ω0:平均角速度 a1:角速度倍率 ε:歪み
を用いて前記歪みデータを線形変換するようにできる。これにより、精度を高めた荷重予測を実現できる。
【0014】
また、前記第1推定部は、取得されたデータに関して次式
【0015】
【0016】
但し、vT0:平均接線方向速度 a2:接線方向速度倍率
を用いて線形変換を施すことで、接線方向速度を推定するようにできる。これにより、精度を高めた荷重予測を実現できる。
【0017】
本発明の他の態様に係るタイヤ荷重予測プログラムは、タイヤの内側面または内部に設けられる歪みセンサから出力されるタイヤ接線方向の歪みデータを取得する歪みデータ取得ステップと、取得された歪みデータを線形変換する線形変換ステップと、変換結果に基づいて、タイヤ接線方向の速度および角速度を推定する第1推定ステップと、推定されたタイヤ接線方向の速度および角速度の値に基づいて、タイヤ径方向の速度を推定する第2推定ステップと、推定されたタイヤ接線方向の加速度および角速度の値に基づいて、前記タイヤの接地面に対する前記歪みセンサの角度に相当するθ角方向の速度を推定する第3推定ステップと、前記タイヤ接線方向の速度および角速度、前記タイヤ径方向の速度、およびθ角方向の速度に基づいて前記タイヤの撓みを推定する第4推定ステップと、推定された前記タイヤの撓みに基づいて前記タイヤに加わる荷重を予測する荷重予測ステップと、を有し、タイヤ荷重予測システムが備えるCPUで実行されることを要旨とする。
【0018】
これにより、荷重予測の精度を高めることができる。
【0019】
また、前記第4推定ステップは、前記タイヤ接線方向の速度、前記タイヤ径方向の速度および前記θ角方向の速度に基づいて、前記タイヤの変形プロファイルを推定し、前記タイヤの撓みに相当する特徴量を抽出して、前記タイヤの撓みを推定するようにできる。
【0020】
これにより、荷重予測の精度を一層高めることができる。
【0021】
本発明の他の態様に係るタイヤ荷重予測方法は、タイヤの内側面または内部に設けられる歪みセンサから出力されるタイヤ接線方向の歪みデータを取得する歪みデータ取得過程と、取得された歪みデータを線形変換する線形変換過程と、変換結果に基づいて、タイヤ接線方向の速度および角速度を推定する第1推定過程と、推定されたタイヤ接線方向の速度および角速度の値に基づいて、タイヤ径方向の速度を推定する第2推定過程と、推定されたタイヤ接線方向の加速度および角速度の値に基づいて、前記タイヤの接地面に対する前記歪みセンサの角度に相当するθ角方向の速度を推定する第3推定過程と、前記タイヤ接線方向の速度および角速度、前記タイヤ径方向の速度、およびθ角方向の速度に基づいて前記タイヤの撓みを推定する第4推定過程と、推定された前記タイヤの撓みに基づいて前記タイヤに加わる荷重を予測する荷重予測過程と、を有することを要旨とする。
【0022】
これにより、荷重予測の精度を高めることができる。
【0023】
また、前記第4推定過程は、前記タイヤ接線方向の速度、前記タイヤ径方向の速度および前記θ角方向の速度に基づいて、前記タイヤの変形プロファイルを推定し、前記タイヤの撓みに相当する特徴量を抽出して、前記タイヤの撓みを推定するようにできる。
【0024】
これにより、荷重予測の精度を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、荷重予測の精度を高めることができ、低速走行が主体の車両についても荷重予測を行うことができるタイヤ荷重予測システム、タイヤ荷重予測プログラムおよびタイヤ荷重予測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態に係るタイヤ荷重予測システムの概略構成を示す概略構成図である。
【
図2】実施形態に係るタイヤ荷重予測システムの機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】実施形態に係るタイヤ荷重予測システムの説明で用いる座標系の定義を示す説明図(a)~(d)である。
【
図4】実施形態に係るタイヤ荷重予測システムで実行されるタイヤ荷重予測処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】接線方向速度の推定原理の説明に用いる説明図(a)~(c)である。
【
図9】センサ角度と時間の関係を示すグラフである。
【
図10】X座標速度と時間の関係を示すグラフである。
【
図11】Z座標速度と時間の関係を示すグラフである。
【
図12】X座標変位と時間の関係を示すグラフである。
【
図13】Z座標変位と時間の関係を示すグラフである。
【
図14】タイヤの撓み推定の状況を示すグラフである。
【
図15】タイヤの撓み率推定と荷重の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1および
図2を参照して、本発明の実施形態に係るタイヤ荷重予測システムS1について説明する。
【0028】
なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0029】
したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0030】
(タイヤ荷重予測システムの概略構成)
図1の概略構成図を参照して、実施形態に係るタイヤ荷重予測システムS1の概略構成について説明する。
【0031】
ここで、本実施形態に係るタイヤ荷重予測システムS1は、従来の加速度センサに代えて、歪みセンサSNを用い、その1軸(周方向)のデータからタイヤのプロファイル、撓みを推定し、荷重を予測するアルゴリズム(詳細については後述する)に則っている。
【0032】
タイヤ荷重予測システムS1は、空気入りタイヤ(以下、単にタイヤと呼称する)10側に設けられるセンサユニットSUと、無線回線N1を介してセンサユニットSUから取得した情報を処理する処理装置(車載器(ECU)等)200とから構成される。
【0033】
図1では、リムホイール90に組み付けられたタイヤ10のタイヤ幅方向に沿った断面形状が示されている。
【0034】
また、トレッド部20は、図示しない車両に装着されたタイヤ10が路面を転動する際に路面と接する部分である。トレッド部20には、車両の種別及び要求される性能に応じたトレッドパターンが形成される。
【0035】
そして、タイヤ荷重予測システムS1を適用可能なタイヤ10の内面10aには、タイヤ10の歪みを検出する1軸の歪みセンサSNを備えるセンサユニットSUが設けられている。
【0036】
なお、本実施形態には直接関係しないが、センサユニットSUは、歪みの他に温度情報等を取得できるようにしてもよい。
【0037】
図1に示す構成例では、センサユニットSUは、トレッド部20と対向する内面10aに設けられている。より具体的には、センサユニットSUは、リムホイール90に組み付けられた空気入りタイヤ10の内部空間に充填された空気などの気体の漏れを防止するインナーライナー(図示省略)の表面に取り付けられる。
【0038】
センサユニットSUは、車両に装着される各タイヤ10に設けられることが好ましい。車両の安全性確保には各タイヤ10の荷重等を監視することが望ましいためである。
【0039】
また、センサユニットSUは、必ずしもタイヤ10の内側面に貼付されていなくてもよく、例えば、センサユニットSUの一部または全部がタイヤ10の内部に埋設される構成としてもよい。
【0040】
(タイヤ荷重予測システムの機能構成)
図2の機能ブロック図に示すように、センサユニットSUは、タイヤ10の歪みを検出する1軸の歪みセンサSNと、処理装置200に検出データを送信する送信器101と、歪みセンサSNおよび送信器101に給電するバッテリ102とを備える。
【0041】
一方、処理装置200は、センサユニットSUから出力されるタイヤ接線方向の歪みデータを通信部201を介して取得する歪みデータ取得部202を備える。
【0042】
また、取得された歪みデータを格納する不揮発性メモリ等で構成される格納部203を備える。
【0043】
また、取得された歪みデータを線形変換するCPU250等で構成される線形変換部251を備える。
【0044】
さらに、線形変換部251による変換結果に基づいて、タイヤ接線方向の速度および角速度を推定する第1推定部252を備える。
【0045】
また、推定されたタイヤ接線方向の速度および角速度の値から、タイヤ径方向の速度を推定する第2推定部253を備える。
【0046】
また、推定されたタイヤ接線方向の加速度および角速度の値から、タイヤ10の接地面に対する歪みセンサSNの角度に相当するθ角方向の速度を推定する第3推定部254を備える。
【0047】
また、タイヤ接線方向の速度および角速度、タイヤ径方向の速度、およびθ角方向の速度に基づいてタイヤ10の撓みを推定する第4推定部255を備える。
【0048】
さらに、推定されたタイヤ10の撓みに基づいてタイヤ10に加わる荷重を予測する荷重予測部256を備える。
【0049】
なお、線形変換部251、第1推定部252、第2推定部253、第3推定部254、第4推定部255および荷重予測部256は、CPU250と、格納部203等に格納されるOS(オペレーティングシステム)と所定のアプリケーションプログラムとの協働により実現することができる。
【0050】
また、線形変換部251、第1推定部252、第2推定部253、第3推定部254、第4推定部255および荷重予測部256で行われる処理等の詳細については後述する。
【0051】
(タイヤ荷重予測処理について)
図3~
図15を参照して、タイヤ荷重予測システムS1で実行されるタイヤ荷重予測処理の処理手順等について説明する。
【0052】
タイヤ荷重予測処理の処理手順を説明するに先立って、本実施形態に係るタイヤ荷重予測システムS1で用いる座標系の定義を
図3(a)~(d)に示す。
【0053】
ここで、Rは径方向(Radial)、Tは接線方向(Tangential)または周方向(Circumferential)である。
【0054】
また、R,T座標系は、歪みセンサSNに固定されたオブジェクト座標系(ローカル座標系)である。
【0055】
一方、x,zは、空間に固定されたグローバル座標系である。また、aは加速度、vは速度、uは変位を示す。さらに、ωは歪みセンサSNの角速度、θは歪みセンサSNの角度を示す。
【0056】
図4は、タイヤ荷重予測システムS1で実行されるタイヤ荷重予測処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0057】
この処理が開始されると、ステップS10で、タイヤ接線方向の歪みデータを取得して、ステップS11に移行する。
【0058】
ステップS11では、取得した歪みデータを線形変換してステップS12に移行する。
【0059】
ステップS12では、タイヤ接線方向の速度および角速度を推定する第1推定処理を行ってからステップS13に移行する。
【0060】
ステップS13では、タイヤ接線方向の速度および角速度に基づいて、タイヤ径方向の速度を推定する第2推定処理を実行して、ステップS14に移行する。
【0061】
ステップS14では、θ角方向の速度を推定する第3推定処理を実行して、ステップS15に移行する。
【0062】
タイヤ接線方向の速度、角速度、タイヤ径方向の速度およびθ角方向の速度に基づいて、タイヤ10の撓みを推定する第4推定処理を実行して、ステップS16に移行する。
【0063】
ステップS16では、タイヤ10の撓みに基づいて、タイヤ10に加わる荷重を予測して処理を終了する。
【0064】
(2軸加速度を用いた荷重の推定方法について)
ここで、比較対象に係る2軸加速度を用いた荷重の推定方法について簡単に説明する。
【0065】
まず、物理的には、ある物体(剛体)の2次元での運動を追従し軌跡を求める計算は3自由度であり、タイヤの荷重を2軸加速度を用いて推定するためには、「R方向」、「T方向」、「θ方向」の3軸のデータが必要である。
【0066】
そのため、タイヤ内の軌跡は、殆ど円運動だと仮定し、2軸(R,T)方向の加速度を計測し、角速度は計算によって推定した上で、軌跡を求める処理を行っていた。
【0067】
本発明者は鋭意研究の結果、上述の処理を1軸の歪みセンサSNで実現するために、1軸の計測データから如何にして3軸(「R方向」、「T方向」、「θ方向」)のデータを推定するかについての手法(アルゴリズム)を新たに開発した。
【0068】
(本発明における荷重の予測方法について)
本発明における荷重の予測方法では、まず、計測された歪みデータを線形変換し、T方向速度、角速度の値を推定する。
【0069】
次いで、この2つの推定値からR方向加速度を推定する。そして、R方向加速度は、積分により、R方向速度とすることで、「R方向速度」、「T方向速度」、「θ方向角速度」の3軸分のデータを求めることができる。そして、これらのデータを用いることで、軌跡の計算が可能となる。
【0070】
以下に計算方法の詳細を手順に沿って説明する。
【0071】
なお、ここでは説明の都合上、
図5に示すサンプルデータを用いるものとする。これは、FEM解析によって得られたデータであり、タイヤ種は「11R22.5M801」である。
【0072】
また、このデータは、歪みセンサSNで計測されるタイヤ内面での歪みデータであり、以降ε(t)と表記する。
【0073】
[角速度の推定]
まず、接線方向歪みから角速度を計算する過程について説明する。
【0074】
計測されたデータに関して以下の式(数1)で線形変換を施すことで、角速度が推定される。
【0075】
【0076】
ただし、ω0とa1は、それぞれ平均角速度と角速度倍率を示すパラメータである。
【0077】
なお、ω0はタイヤの回転周期から求められる1周時間(ORT:OneRotationalTime)を用いて以下の式(数2)で求める。
【0078】
【0079】
また、a1は実験値等から学習するか、或いは試行錯誤するなどして決定する。なお、非線形な変換を用いるようにしてもよい。
【0080】
【0081】
[角速度の推定原理]
タイヤ10は、接地端付近の領域では大きな曲げ変形が発生し、タイヤ内面での大きな圧縮歪みが発生する。
【0082】
また、大きな曲げ変形により曲率が大きくなり、歪みセンサSN自体の角速度が大きくなると考えられる。
【0083】
反対に、車軸直下付近では、曲げ変形が緩和され、圧縮歪みが小さくなり(引張力になる)、また、曲率が小さくなることで歪みセンサSN自体の角速度も小さくなると考えられる。
【0084】
このことから、圧縮歪みと歪みセンサSNの角速度に相関があり、ここでは線形であると仮定した。
【0085】
[接線方向速度の推定]
次に、接線方向歪みから接線方向速度を計算する過程について説明する。
【0086】
計測されたデータに関して以下の式(数3)で線形変換を施すことで、接線方向速度が推定される。
【0087】
【0088】
ただし、vT0とa2、それぞれ平均接線方向速度と接線方向速度倍率を示すパラメータである。
【0089】
なお、vT0は、タイヤの回転周期から求められる1周時間(ORT:OneRotationalTime)、タイヤ半径Rを用いて以下の式(数4)で求める。
【0090】
【0091】
また、a2は実験値等から学習するか、試行錯誤するなどして決定する。なお、非線形な変換を用いるようにしてもよい。
【0092】
【0093】
「接線方向速度の推定原理」
転動しているタイヤ10を
図8(a)に示すように、微小サンプリング時間間隔△tごとに空間を区切ると仮定する。
【0094】
ここで、タイヤ10の変形前の状態(タイヤが宙に浮いて回転している)の場合、時間依存しない半径R
0、角速度ω
0とすると、微小時間で進む距離はR
0ω
0△tと書ける(
図8(b)参照)。
【0095】
一方で、タイヤ10が接地し変形が発生している場合、半径と角速度は時間の関数となり、それぞれR(t),θ’(t)と表される。この時、微小時間で進む距離はR(t)θ’(t)△tと書ける(
図8(c)参照)。
【0096】
歪みの定義は、元の長さに対してどの程度伸縮したかであるため、タイヤ10の周方向歪みは、以下の式(数5)で表される。
【0097】
【0098】
ここで、歪みセンサSNが円運動していると仮定すると、接線方向速度vT(t)は以下の式(数6)で書ける。
【0099】
【0100】
これを数6のε(t)の式に代入して、数7が得られる。
【0101】
【0102】
ここで、R0ω0が時間依存しない固定値であることから、vT(t)とε(t)が線形変換の関係になっていることが分かる。
【0103】
[径方向加速度・速度の推定]
歪みセンサSNが円運動していると仮定すると、理論的に以下の式(数8)の計算で推定される。
【0104】
【0105】
また、推定値を以下の式(数9)で時間積分することで、径方向の速度が計算される。
【0106】
【0107】
ただし、aR(t)は、事前に中心化などの前処理を伴うことがある。また、vR0は初期値で任意の値に設定する。
【0108】
[座標変換]
ここで、推定した径方向速度vR(t)、接線方向速度vT(t)を推定した角速度ω(t)を用いて、R,T座標系からX,Z座標系に変換を実施する。
【0109】
まず、角速度ω(t)を積分し、角度θ(t)を次式(数10)で算出する。
【0110】
【0111】
ただし、ω(t)は平均が2πになるように調整する等の前処理を実施する場合がある。 初期値θ0は、0や-πなど適当な値に設定する。
【0112】
図9のグラフに、角度θ(t)の計算結果の例を示す。
【0113】
次に、速度の座標変換を行う。
【0114】
歪みセンサSNのオブジェクト座標系(R,T)からグローバル座標系(x,z)に以下の式(数11)を用いて計算する。
【0115】
【0116】
【0117】
[変位の推定]
速度を積分し、以下の式(数12)から変位ux(t),uz(t)を算出する。
【0118】
【0119】
ただし、v
x,v
zは中心化など前処理を伴うこともある。初期値u
x0,u
z0は任意の値に設定することができる。計算した結果例を
図12および
図13のグラフに示す。
【0120】
[プロファイル及び撓みの推定]
そして、時間成分を除き変位(u
x(t),u
z(t))を2次元平面に図示すると
図14に示す軌跡のようになる
この軌跡に対して円をフィッティングして、回帰半径R
fitを求める。
【0121】
また、タイヤが撓んだ状態の有効半径Reff(例えば、回帰円の中心からの最小値)を求める。
【0122】
そして、以下の式(数13)により撓みを算出する。
【0123】
【0124】
なお、荷重予測に使用する特徴量は、撓みd、撓み率d/Rfitの何れであってもよい。
【0125】
[荷重予測]
次いで、撓みを用いた荷重計算の有効性と、その方法を示す。
【0126】
まず、本発明におけるアルゴリズムを用いて算出した撓み率推定値と荷重の関係を
図15に示す。なお、このデータは、同じくFEMを用いて解析を行った例である。
【0127】
また、
図15において10Aのプロットは通常摩耗したタイヤ、10Bのプロットは中央部が偏摩耗したタイヤを示す。
【0128】
このように、上述の車軸の高さから求めた撓みと同様に、線形の関係が得られた。
【0129】
また、
図15に示すように、プロット10A、10Bは殆ど一つのラインに収束していることが分かる。
【0130】
以上述べたように、CTRの短所であった摩耗依存が見られないことから、荷重予測の高精度化を図ることができる。
【0131】
また、実際に荷重予測を行う際は、以下の式(数14)により荷重を算出する。
【0132】
【0133】
なお、撓み情報に加えて、TPMS情報や摩耗情報なども説明変数に用い、事前に機械学習しパラメータを同定した上で、運用するようにできる。
【0134】
また、基本的には線形重回帰で十分であるが、非線形モデルを用いてもよい。
【0135】
以上述べたように、本実施形態に係るタイヤ荷重予測システムS1によれば、荷重予測の精度を高めることができ、低速走行が主体の車両についても荷重予測を行うことができる。
【0136】
また、歪センサSNを用いることでタイヤの摩耗状態によらず、タイヤの撓み、荷重を予測することができる。
【0137】
以上、本発明のタイヤ荷重予測システムおよびタイヤ荷重予測プログラムを図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【0138】
例えば、電源(バッテリ)102などの作動条件が満たされるのであれば、本実施の形態における処理装置200が有する処理機能の一部をセンサユニットSU内に搭載するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0139】
S1 タイヤ荷重予測システム
SU センサユニット
SN 歪みセンサ
10 空気入りタイヤ(タイヤ)
200 処理装置
202 データ取得部
203 格納部
250 CPU
251 線形変換部
252 第1推定部
253 第2推定部
254 第3推定部
255 第4推定部
256 荷重予測部