(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】眼内レンズ挿入器具
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2020535786
(86)(22)【出願日】2019-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2019030897
(87)【国際公開番号】W WO2020032023
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018148879
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松本 和馬
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-024282(JP,A)
【文献】特開昭63-197453(JP,A)
【文献】特許第3779819(JP,B2)
【文献】特開2012-030128(JP,A)
【文献】特表2000-516488(JP,A)
【文献】特開2012-105736(JP,A)
【文献】特開2006-006817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内レンズを保持するレンズホルダを取り付け可能な眼内レンズ挿入器具であって、
前記レンズホルダに保持された眼内レンズに当接して前記眼内レンズを押出すプランジャと、
前記プランジャにより押出された眼内レンズを折り畳みつつ外部へ放出するノズル部と、を備え、
前記プランジャは、前記眼内レンズと当接する、弾性変形材料で構成された先端部を備え、前記先端部は、前記プランジャの押出方向と反対方向への前記眼内レンズの伸び変形を規制するストッパを備え、
前記ストッパは、前記先端部の左右方向の側面に設けられた突起であ
り、
前記ノズル部は、
当該ノズル部の中央に設けられ、前記プランジャの押出方向へ延びる板状リブ部と、
前記板状リブ部と前記眼内レンズのレンズ面との当接、前記板状リブ部と前記プランジャとの当接、又は前記板状リブ部と前記眼内レンズのレンズ面及び前記プランジャの両方との当接により、前記板状リブ部を前記押出方向へ回動させる回動機構と、を備えたことを特徴とする眼内レンズ挿入器具。
【請求項2】
前記先端部は、前記眼内レンズを厚さ方向で挟持する、くの字状のワニ口構造を有することを特徴とする請求項1に記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項3】
前記ワニ口構造は、前記眼内レンズの厚さ方向で互いに対向する下側斜面部と上側斜面部とを有し、
前記下側斜面部は、前記先端部の下面と連結した傾斜面で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の眼内レンズ挿入器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズ挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズホルダに保持された眼内レンズをプランジャによって押し出して放出する眼内レンズ挿入器具が従来技術として知られている(例えば特許文献1~3)。特許文献1~3に記載の眼内レンズ挿入器具は、プランジャの押込み動作によって、レンズホルダに保持された眼内レンズを凹状に折り畳みつつ眼内レンズを放出するノズル部を備えている。このノズル部は、前方へ行くに従い内径が徐々に小さくなる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許5415452号公報
【文献】特許3779819号公報
【文献】特許5236638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に開示された従来の眼内レンズ挿入器具に搭載される眼内レンズは、レンズ部と、前方支持部と、後方支持部とを備えている。そして、前方支持部及び後方支持部が、レンズ部側面から曲線状に延び出るように形成されたループ形状を有している。
【0005】
市販されている眼内レンズには、上述したループ形状の前方支持部及び後方支持部を有するレンズ以外に、外形形状が略矩形であるプレート型眼内レンズがある。プレート型眼内レンズは、ループ形状の前方支持部及び後方支持部を有する眼内レンズと比較して、柔軟性を有する素材で構成されて場合が多い。それゆえ、特許文献1~3に開示された眼内レンズ挿入器具を使用してプレート型の眼内レンズを眼内で挿入した場合、眼内レンズが破損するおそれがある。
【0006】
本発明の一態様は、柔軟性素材で構成されたプレート型の眼内レンズを破損することなく、適切に眼内に挿入することが可能な眼内レンズ挿入器具を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズを保持するレンズホルダを取り付け可能な眼内レンズ挿入器具であって、前記レンズホルダに保持された眼内レンズに当接して前記眼内レンズを押出すプランジャと、前記プランジャにより押出された眼内レンズを折り畳みつつ外部へ放出するノズル部と、を備え、前記プランジャは、前記眼内レンズと当接する、弾性変形材料で構成された先端部を備え、前記先端部は、前記プランジャの押出方向と反対方向への前記眼内レンズの伸び変形を規制するストッパを備えたことを特徴としている。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズを保持するレンズホルダを取り付け可能な眼内レンズ挿入器具であって、前記レンズホルダに保持された眼内レンズに当接して前記眼内レンズを押出すプランジャと、前記プランジャにより押出された眼内レンズを折り畳みつつ外部へ放出するノズル部と、を備え、前記ノズル部は、当該ノズル部の中央に設けられ、前記プランジャの押出方向へ延びる板状リブ部と、前記板状リブ部と前記眼内レンズのレンズ面との当接、前記板状リブ部と前記プランジャとの当接、又は前記板状リブ部と前記眼内レンズのレンズ面及び前記プランジャの両方との当接により、前記板状リブ部を前記押出方向へ回動させる回動機構と、を備えたことを特徴としている。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズを保持するレンズホルダを取り付け可能な眼内レンズ挿入器具であって、前記レンズホルダに保持された眼内レンズに当接して前記眼内レンズを押出すプランジャと、前記プランジャにより押出された眼内レンズを折り畳みつつ外部へ放出するノズル部と、を備え、前記ノズル部は、当該ノズル部の中央に設けられ、前記ノズル部の内腔側へ突出し前記プランジャの押出方向へ延びる突起部と、前記突起部と前記眼内レンズのレンズ面との当接、前記突起部と前記プランジャとの当接、又は前記突起部と前記眼内レンズのレンズ面及び前記プランジャの両方との当接により、前記突起部を前記押出方向へ回動させる回動機構と、を備えたことを特徴としている。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズを保持するレンズホルダを取り付け可能な眼内レンズ挿入器具であって、前記レンズホルダに保持された眼内レンズに当接して前記眼内レンズを押出すプランジャと、前記プランジャにより押出された眼内レンズを折り畳みつつ外部へ放出するノズル部と、を備え、前記ノズル部は、前記プランジャの押出方向へ向かうに従い対向する壁面同士の間隔が小さくなったテーパー内壁面を有し、前記テーパー内壁面には、当該テーパー内壁面に沿った前記眼内レンズの回転移動を規制する、前記押出方向へ延びる凸条部が形成されていることを特徴としている。
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る眼内レンズ挿入器具は、筒状の本体を備え、前記本体の端面側に眼内レンズを保持するレンズホルダを取り付け可能な眼内レンズ挿入器具であって、前記レンズホルダに保持された眼内レンズに当接して前記眼内レンズを押出すために前記本体に出退可能に内挿されるプランジャと、前記プランジャにより押し出された眼内レンズを折り畳みつつ前記眼内レンズを放出するノズル部と、を備え、前記本体には、前記プランジャをセンタリングするためのセンタリング部材が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、柔軟性素材で構成されたプレート型の眼内レンズを破損することなく、適切に眼内に挿入することが可能な眼内レンズ挿入器具を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具に搭載される眼内レンズの構成を示す上面図である。
【
図3】3001は、本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具における、プランジャのレンズ当接部材が収容部の後方側の開口部に到達したときの状態を示す断面図であり、3002は、3001の拡大図である。
【
図4】レンズ当接部材の構成を示し、4001は斜視図であり、4002は上面図であり、4003は側面図であり、4004は、前方側から見た正面図である。
【
図5】5001および5002は、ノズル部内でのレンズ押え部の動作を示す断面図である。
【
図6】ノズル部のレンズ押え部に備えられた突起部の構成例を示す斜視図であり、6001は
図5に示す板状リブ部の構成を示し、6002は、6001に示す突起部の構成例を示し、6003は、6001に示す突起部のさらに他の構成例を示す。
【
図7】ノズル部に取り付けられたレンズ押え部を示し、7001は下方側から見た下面図であり、7002は前後方向に対して垂直な断面を示す断面図である。
【
図8】8001~8005はそれぞれ、ノズル部の内腔を構成するテーパー内壁面の断面形状を示す図である。
【
図9】9001~9005はそれぞれ、ノズル部の内腔を構成するテーパー内壁面の別の断面形状を示す図である。
【
図10】10001~10005はそれぞれ、ノズル部の内腔を構成するテーパー内壁面に形成された凸条部の別の断面形状を示す図である。
【
図11】環状拡大部に取り付けられたセンタリング部材の構成を示し、1
1001は、斜視図であり、11002は、断面図である。
【
図12】12001は、センタリング部材の構成を示す前方側から見た正面図であり、12002は、環状拡大部に取り付けられたセンタリング部材の構成を示す前後方向に垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
図1は、眼内レンズ挿入器具1(以下、挿入器具1と記す)の全体構成を示す斜視図である。
図1に示されるように、挿入器具1は、筒状の装置本体2と、先端チップ3と、眼内レンズ7を保持するレンズホルダ4と、プランジャ5と、レンズ押え部6と、センタリング部材8と、スプリング9と、を備えている。先端チップ3は、装置本体2に接続されるノズル部32を有している。また、レンズホルダ4は、装置本体2に取り付け可能となっている。また、プランジャ5は、棒状であり、装置本体2に内挿される構成となっている。レンズ押え部6は、先端チップ3におけるノズル部32の後方に設けられている。また、センタリング部材8は、プランジャ5の中心軸を位置決めするための部材であり、装置本体2に取り付けられている。なお、レンズホルダ4は、先端チップ3に取り付けられていてもよい。
【0015】
なお、ここでは、プランジャ5の軸芯方向を前後方向とする。また、レンズホルダ4に保持された眼内レンズ7の厚さ方向を上下方向とし、前後方向及び上下方向の両方に垂直な方向を左右方向とする。また、挿入器具1の先端チップ3側を前方側とし、その反対側を後方側とする。また、先端チップ3におけるレンズ押え部6側を上方側とし、その反対側を下方側とする。
【0016】
図2は、挿入器具1のレンズホルダ4に搭載される眼内レンズ7の構成を示す上面図である。
図2に示されるように、眼内レンズ7は、レンズ部7aと、前方支持部7bと、後方支持部7cとを備えている。レンズ部7aは、眼内挿入後に水晶体として機能するレンズ部分である。前方支持部7bおよび後方支持部7cは、眼内挿入後にレンズ部7aを眼内で支持する機能を有する。前方支持部7bおよび後方支持部7cは、レンズ部7aに対して対称に設けられており、偏平な板形状である。前方支持部7bは、レンズ部7aの前方の側面を覆うように形成されている。また、後方支持部7cは、レンズ部7aの後方の側面を覆うように形成されている。眼内レンズ7は、外形形状が略矩形であるプレート型眼内レンズであり、当該矩形は、レンズ部7a、前方支持部7b、後方支持部7cにより形成される。これらレンズ部7a、前方支持部7b、及び後方支持部7cは、柔軟性を有する材質であり、可撓変形可能に形成されている。本実施形態では、レンズ部7a、前方支持部7b及び後方支持部7cが一体的に成形されたシングルピース型を一例として説明する。
【0017】
装置本体2は、前方に先端チップ3が係合される構成であり、前端の外面に術者が把持可能な環状拡大部22と、後端の外面に術者が指を掛けて保持する鍔状の保持部23とを有している。装置本体2は、耐衝撃性を有するポリカーボネート等の樹脂を用いて形成される。環状拡大部22は、例えば、複数の環状突起で構成されている。
【0018】
なお、環状拡大部22及び保持部23は、必要とされる機能を発揮できるものであれば、どのような形状であってもよい。例えば、保持部23を鍔状ではなく指を掛けることが可能な突起等により構成してもよい。
【0019】
術者は、片方の手でプランジャ5を押し込みながら、もう片方の手で環状拡大部22を把持して、眼内レンズ7を前方支持部7b、レンズ部7a、後方支持部7cの順番で、患者の眼内に放出する。環状拡大部22を設けることにより、術者が挿入器具1を把持し易くなり、挿入器具1の操作性を高めることができる。
【0020】
先端チップ3は、眼内レンズ7が放出される放出部31と、前方へ向かうに従い内径が徐々に小さくなるノズル部32と、側面が開口された矩形の外周を有する矩形部33と、を有している。矩形部33を装置本体2に係合させることにより、先端チップ3は装置本体2に接続される。また、ノズル部32の入り口近傍の上側には、レンズ押え部6が取り付けられている。なお、先端チップ3と装置本体2とを係合する構成は、例えば、係止爪と係止穴とによる係合など、どのような構成であってもよい。また、先端チップ3は、耐薬品性や柔軟性のあるポリプロピレンやポリアミドなどの樹脂を用いて形成される。
【0021】
挿入器具1は、眼内レンズ7を保持するレンズホルダ4を取り付け可能な構成である。本実施形態に係る挿入器具1は、レンズホルダ4が分離された形態であってもよいし、レンズホルダ4が取り付けられた形態であってもよい。挿入器具1の使用時には、術者は、矩形部33の側面に形成された開口にレンズホルダ4を挿入する。矩形部33は、レンズホルダ4を設置する設置部であるといえる。なお、レンズホルダ4は、挿入器具1の使用前に、予め矩形部33の開口に挿入されていてもよいし、挿入器具1の使用時に矩形部33の開口に挿入されてもよい。
【0022】
レンズホルダ4は、眼内レンズ7を収容する収容空間を構成する収容部41と、収容部41から側方へ突出して設けられた摘み部42と、を有する。収容部41には、前方側および後方側の両方に開口部が形成されている。そして、収容部41の後方側に形成された開口部を介して収容部41内部の空間とノズル部32内の空間とが連通するようになっている。収容部41に眼内レンズ7を収容した後、術者が摘み部42を摘んで、レンズホルダ4を矩形部33の側面に形成された開口に挿入することにより、眼内レンズ7が挿入器具1に装着される。レンズホルダ4は、耐薬品性のあるポリプロピレンなどの樹脂を用いて形成される。
【0023】
プランジャ5は、後方側軸部51と、押圧部52と、中軸部53と、を備えている。後方側軸部51は、プランジャ5の最も後方側に位置する。後方側軸部51は、プランジャ5が装置本体2に挿入された初期位置にある状態では外部に露出している部分である。また、後方側軸部51は、装置本体2の後端に設けられたストッパにより、後方への移動が制限されている。押圧部52は、後方側軸部51の後方側の周面に鍔状に形成される。術者は、この押圧部52を装置本体2側に押し込むことにより、プランジャ5を先端側に移動させる。
【0024】
中軸部53は、後方側軸部51の前方側に接続され、後方側軸部51よりも細い径の軸部である。中軸部53の先端には、眼内レンズ7の後方支持部7cに当接するレンズ当接部材54が取り付けられている。
【0025】
また、中軸部53の外周面に沿ってスプリング9が設けられている。これにより、プランジャ5の押込み時にスプリング9から反力を受け、眼内レンズ7がプランジャ5のレンズ当接部材54から勢いよく飛び出すことを防止できる。スプリング9の位置は特に限定されず、例えばプランジャ5の押圧部52と装置本体2の後端との間に配置してもよく、プランジャ5の押込み時に弾性部材から反力を受ける構成であればよい。
【0026】
プランジャ5が初期位置にある状態で、術者によってプランジャ5が初期位置から前後方向の先端側に押し込まれると、プランジャ5は、収容部41の後方側に形成された開口部を通過する。そして、プランジャ5の先端にあるレンズ当接部材54が眼内レンズ7の後方支持部7cに当接した状態となる。そして、プランジャ5が更に先端側に進み、収容部41の前方側に形成された開口部を通過し先端チップ3内へ進む。このとき、眼内レンズ7は先端チップ3のノズル部32を通過しながら凹状に折り畳まれる。次いで、眼内レンズ7が折り畳まれた状態で、眼内レンズ7が放出部31に到達する。放出部31に到達した眼内レンズ7は、前方支持部7b、レンズ部7a、後方支持部7cの順番で放出部31のカットされている側から眼内に挿入される。
【0027】
ところで、例えば特許文献1~3に開示された従来の眼内レンズ挿入器具に搭載される眼内レンズは、前方支持部及び後方支持部が、レンズ部側面から曲線状に延び出るように形成されたループ形状を有している。上述したプレート型眼内レンズである眼内レンズ7は、前記ループ形状の前方支持部及び後方支持部を有する眼内レンズと比較して、柔軟性を有する素材で構成されている。それゆえ、従来の眼内レンズを搭載する眼内レンズ挿入器具を使用してプレート型の眼内レンズ7を眼内で挿入した場合、眼内レンズ7が破損するおそれがある。本実施形態に係る挿入器具1は、柔軟性素材で構成されたプレート型の眼内レンズ7を破損することなく、適切に眼内に挿入することを課題としている。
【0028】
(レンズ当接部材54の構成)
ここで、眼内レンズ7におけるプランジャ5の当接位置は、レンズホルダ4に対する眼内レンズ7の装着誤差等により、本来の当接位置からずれるおそれがある。このため、眼内レンズ7に対してプランジャ5が乗り上げる、あるいは潜り込むといったおそれがある。眼内レンズ7は、上述した通り、柔軟性素材で構成されている。それゆえ、プランジャ5により眼内レンズ7が傷つき、破損するおそれがある。
【0029】
また、眼内レンズ7は柔軟性素材で構成されているので、プランジャ5による押し込み動作により眼内レンズ7は、プランジャ5の当接位置から後方側へ変形しやすくなる。このような眼内レンズ7が先細形状のノズル部32内に押し込まれ折り畳められると、眼内レンズ7におけるプランジャ5との当接部分には、前方側へ移動する力が働く。その一方で、当接部分以外の部分には、ノズル部32のテーパー面との摩擦により当該テーパー面に留まる力が働く。その結果、眼内レンズ7は、プランジャ5との当接位置から後方側へ過度に伸長した状態でノズル部32を通過することになり、眼内レンズ7が破損するおそれがある。
【0030】
本実施形態に係る挿入器具1では、プランジャ5に備えられたレンズ当接部材54により、このような眼内レンズ7の破損を防止することができる。
図3の3001は、プランジャ5のレンズ当接部材54が収容部41の後方側の開口41aに到達したときの状態を示す断面図であり、
図3の3002は、
図3の3001の拡大図である。また、
図4は、レンズ当接部材54の構成を示し、
図4の4001は斜視図であり、
図4の4002は上面図であり、
図4の4003は側面図であり、
図4の4004は、前方側から見た正面図である。
【0031】
本実施形態に係る挿入器具1では、プランジャ5における眼内レンズ7と当接するレンズ当接部材54は、プランジャ5の中軸部53よりも軟質であり、かつ、弾性変形可能な弾性変形材料により構成されている。さらに、レンズ当接部材54は、レンズ当接部材54を構成する材料は、例えば、シリコーン、シリコーンエラストマー等が挙げられる。
【0032】
また、
図3の3001および3002、並びに
図4の4001~4004に示されるように、レンズ当接部材54は、左右方向の側面から突出した突起54aが設けられている。さらに、レンズ当接部材54は、眼内レンズ7の上下方向(厚さ方向)の寸法よりも大きく切り欠けられた、くの字形状のワニ口構造54bを有する。ワニ口構造54bは、少なくともレンズホルダ4の収容部41内で眼内レンズ7を上下方向で挟持する構造になっており、互いに上下方向で対向する上側斜面部54cと下側斜面部54dとを有する。そして、下側斜面部54dは、レンズ当接部材54の下面54eと連結した傾斜面で構成されている。換言すると、下側斜面部54dの傾斜面と下面54eとの間には、下面54eに垂直な面が介在しない。なお、ここでいう「レンズ当接部材54の下面54eと連結した傾斜面」の構造は、下側斜面部54dの傾斜面と下面54eとの連結構造の加工処理の過程で、加工条件の精度等によって下側斜面部54dの傾斜面と下面54eとの間の連結部分にR面等が形成された構造も含まれる。
【0033】
また、レンズ当接部材54の上下方向の寸法は、収容部41における後方側の開口41aおよび前方側の開口41bの上下方向の寸法よりも大きいか、あるいは同じ寸法である。より具体的には、レンズ当接部材54の上下方向の寸法は、収容部41における上下方向で互いに対向する壁間の間隔よりも大きいか、あるいは同じである。これにより、レンズ当接部材54は、収容部41に挿入されると、収容部41における上下方向で互いに対向する壁間の間隔に収まるように弾性変形する。そして、この弾性変形により、ワニ口構造54bの上側斜面部54cおよび下側斜面部54dは、互いの間隔が小さくなるように弾性変形し、眼内レンズ7の上面及び下面に接触する。その結果、上下方向において、収容部41に収容されている眼内レンズ7は、ワニ口構造54bにより挟持される。それゆえ、レンズホルダ4に対する眼内レンズ7の装着誤差が生じたとしても、眼内レンズ7におけるプランジャ5の当接位置のずれがなくなる。したがって、本実施形態に係る挿入器具1によれば、プランジャ5の眼内レンズ7への乗り上げ、または潜り込みを防止することができる。
【0034】
なお、レンズ当接部材54の上下方向の寸法の上限は、レンズ当接部材54と収容部41、ノズル部32、および放出部31の壁との接触によりレンズ当接部材54の移動が妨げられない範囲で、レンズ当接部材54の材料、ワニ口構造54bの寸法等に応じて適宜設定可能である。
【0035】
さらに、下側斜面部54dは、レンズ当接部材54の下面54eと連結した傾斜面で構成されている。このため、レンズ当接部材54が眼内レンズ7に当接した状態でプランジャ5が前方側へ移動したとき、眼内レンズ7の後方支持部7cが下側斜面部54d上を移動し、スムーズに眼内レンズ7がワニ口構造54b内に収まりやすくなる。それゆえ、より確実に眼内レンズ7をワニ口構造54bにより挟持することができる。
【0036】
なお、下側斜面部54dの傾斜面と下面54eとの間に下面54eに垂直な面が介在している場合、レンズ当接部材54が眼内レンズ7に当接した状態でプランジャ5が前方側へ移動したとき、この垂直な面により眼内レンズ7が係止される可能性が高まり、このため、眼内レンズ7の後方支持部7cに下側斜面部54dへ移動しにくくなり、眼内レンズ7がワニ口構造54b内に収まりにくくなる。
【0037】
また、図示していないが、好ましくは、レンズ当接部材54の上下方向の寸法は、先端チップ3の放出部31およびノズル部32の内腔を構成する、上下方向で対向する壁間の距離よりも大きいか、あるいは同じである。これにより、プランジャ5がレンズホルダ4からさらに前方側へ移動しノズル部32および放出部31を通過しているときでも、眼内レンズ7は、レンズ当接部材54のワニ口構造54bにより挟持される。それゆえ、眼内レンズ7におけるプランジャ5の当接位置がずれにくくなる。その結果、ノズル部32内においては、眼内レンズ7が安定して折り畳まれる。さらに、放出部31内においても、眼内レンズ7の後方支持部7cがワニ口構造54bにより挟持されているので、眼内レンズ7が放出部31から急に放出されるのを防止することが期待される。
【0038】
また、レンズ当接部材54の突起54aは、眼内レンズ7の後方側への伸び変形を規制するストッパとして機能する。眼内レンズ7の後方側への伸び変形とは、プランジャ5の押出方向と反対方向への眼内レンズ7の伸び変形ともいえる。
【0039】
眼内レンズ7が先細形状のノズル部32内に押し込まれ折り畳められたとき、プランジャ5との当接位置から後方側への変形する部分は、レンズ当接部材54側面に設けられた突起54aにより係止される。それゆえ、眼内レンズ7におけるプランジャ5との当接位置から後方側への変形が突起54aにより規制され、眼内レンズ7が過度に伸長した状態でノズル部32を通過することを防止できる。したがって、本実施形態に係る挿入器具1によれば、ノズル部32での眼内レンズ7の過度な後方側への伸長を抑制することができ、眼内レンズ7の破損を防止することができる。
【0040】
なお、レンズ当接部材54の左右方向の寸法は、レンズ当接部材54と収容部41、ノズル部32、および放出部31の壁との接触によりレンズ当接部材54の移動が妨げられない範囲で、レンズ当接部材54の材料、突起54aの寸法等に応じて適宜設定可能である。
【0041】
(レンズ押え部6)
プランジャ5による押し込み動作によりプレート型の眼内レンズ7が破損することなく放出部31から放出されるためには、ノズル部32内において眼内レンズ7が線対称に谷折して折り畳まれていることが重要である。レンズ押え部6は、ノズル部32内における眼内レンズ7の谷折状態を補助する機能を有する。
図5の5001および5002は、ノズル部32内でのレンズ押え部6の動作を示す断面図である。
図7は、ノズル部32に取り付けられたレンズ押え部6を示し、
図7の7001は下方側から見た下面図であり、
図7の7002は前後方向に対して垂直な断面を示す断面図である。
【0042】
図5の5001および
5002、ならびに
図7の7001および7002に示されるように、レンズ押え部6は、板状リブ部61(突起部)と、板状リブ部61を支持する基部62と、軸部63と、板バネ部64と、を備えている。ここで、挿入器具1における板状リブ部61の回動機構は、少なくとも、軸部63および板バネ部64を備えた構成である。
【0043】
板状リブ部61は、ノズル部32の内腔側へ突出し、所定寸法に亘って前後方向(プランジャ5の押出方向)へ延びる凸条である。板状リブ部61の下方側の端部は、その形状が前後方向に亘って下方側に凸状の1曲線となるように形成されている。また、板状リブ部61は、プランジャ5に当接し、かつ、下方側の端部が少なくとも眼内レンズ7のレンズ部7aに接触するように配置されている。
【0044】
また、軸部63は、基部62から左右方向に突出して設けられており、ノズル部32に設けられた軸受開口部に挿入されている。レンズ押え部6は、軸部63を介してノズル部32に接続しており、左右方向に伸びる軸部63を軸として回動可能になっている。
【0045】
板バネ部64は、前方側へ凸状に屈曲した板形状であり、ノズル部32の所定の平面に当接して設けられている。板バネ部64は、基部62がノズル部32に近づく方向に回動するように基部62を付勢するように構成されている。それゆえ、基部62が軸部63を軸としてノズル部32から遠ざかる方向に回動すると、板バネ部64により、基部62には、ノズル部32に近づくように回動する付勢力が働いている。
【0046】
プランジャ5による押し込み動作により、ノズル部32に送り込まれた眼内レンズ7は、眼内レンズ7のレンズ部7aの中央部分が板状リブ部61に接触している。これにより、眼内レンズ7は、ノズル部32の入口近傍にて、板状リブ部61により、眼内レンズ7の中央部分が位置決めされた状態となる。このような位置決めされた状態で、プランジャ5の押込み動作により眼内レンズ7が前方側へ移動すると、眼内レンズ7は、中央部分の位置ずれが生じることなくノズル部32のテーパー面により折り畳まれる。その結果、レンズ押え部6を通過し前方側へ移動した眼内レンズ7は、中央部分に対して線対称であり、かつノズル部32の底面に向けて凸となる谷折状態で折り畳められることになる。
【0047】
また、プランジャ5は、先端のレンズ当接部材54が眼内レンズ7の後端に接触した状態でノズル部32へ押し込まれる。このため、眼内レンズ7がレンズ押え部6を通過し前方側へ移動したとき、レンズ押え部6は、レンズ押え部6の板状リブ部61に眼内レンズ7のレンズ面が当接した状態、レンズ押え部6の板状リブ部61にレンズ当接部材54が当接した状態、又はレンズ押え部6の板状リブ部61に眼内レンズ7のレンズ面とレンズ当接部材54の両方が当接した状態となる。この状態で、プランジャ5がさらに押し進められると、プランジャ5の押圧力により、板状リブ部61は、軸部63を軸として、下方側の端部がノズル部32の底面から遠ざかる方向に回動し、プランジャ5の進行を妨げない。なお、本実施形態では、レンズ押え部6の板状リブ部61に眼内レンズ7のレンズ面が当接した状態であっても、プランジャ5がさらに押し進められたとき、前方側へ移動するレンズ面とレンズ押え部6との接触作用により、板状リブ部61が回動する場合もある。すなわち、板状リブ部61にレンズ当接部材54が当接する前に、板状リブ部61が回動する場合もある。
【0048】
そして、眼内レンズ7が放出部31から放出した後、プランジャ5がレンズ押え部6よりも後方側へ戻されると、板バネ部64の付勢力により、板状リブ部61はノズル部32の底面に近づく方向に回動する。そして、レンズ押え部6は、初期位置に戻される。
【0049】
このように挿入器具1によれば、眼内レンズ7は、板状リブ部61により中央部分が位置決めされた状態で、線対称に谷折されて折り畳まれる。このため、プランジャ5による押し込み動作によりプレート型の眼内レンズ7が破損することなく放出部31から放出される。
【0050】
さらには、軸部63および板バネ部64を含む回動機構により、板状リブ部61は、プランジャ5との当接により、プランジャ5の押出方向へ回動する。このため、眼内レンズ7がレンズ押え部6を通過した後でも、プランジャ5の進行がレンズ押え部6に妨げられない。それゆえ、眼内レンズ7をノズル部32にて線対称に谷折りして折り畳みつつ、スムーズなプランジャ5の押込み動作をすることができる。
【0051】
本実施形態において、前後方向(プランジャ5の押出方向)へ延びる突起部は、ノズル部32の内腔側へ突出し、上述のように眼内レンズ7の中央部分を位置決めする構成であればよく、
図5に示される板状リブ部
61に限定されない。
図6は、前記突起部の構成例を示す斜視図であり、
図6の6001は
図5に示す板状リブ部61の構成を示し、
図6の6002は、
図6の6001に示す突起部の構成例を示し、
図6の6003は、
図6の6001に示す突起部のさらに他の構成例を示す。
【0052】
図6の6001に示されるように、
図5に示された構成では、板状リブ部61は、2つ設けられている。2つの板状リブ部61は、基部62からノズル部32の内腔側へ突出し、互いに平行になるように、所定寸法に亘って前後方向(プランジャ5の押出方向)へ延びている。また、2つの板状リブ部61は、ノズル部32の対称軸に対して線対称になるように配置されている。
【0053】
また、前記突起部の数は、
図6の6001に示す板状リブ部61のような、2つに限定されない。
図6の6002に示されるように、突起部61aは、基部62からノズル部32の内腔側へ突出した1つの凸条であってもよい。突起部61aは、眼内レンズ7の中央部分を位置決めする程度に左右方向の幅を有している。
【0054】
また、
図6の6002に示す突起部61aは、中実である。しかし、前記突起部は、中実構造に限定されず、中空構造であってもよい。
図6の6003は、中空構造を有する突起部61bの構成例を示す。
図6の6003に示されるように、突起部61bは、基部62aからノズル部32の内腔側へ窪んだ凹溝として形成されている。そして、突起部61bは、所定寸法に亘って前後方向(プランジャ5の押出方向)へ延びている。突起部61bは、眼内レンズ7の中央部分を位置決めする程度に左右方向の幅を有している。
【0055】
(ノズル部32の内腔形状)
挿入器具1は、ノズル部32内において眼内レンズ7が線対称に谷折して折り畳まれているために、ノズル部32の内腔を構成するテーパー内壁面の形状に特徴を有している。
図8の8001~8005はそれぞれ、ノズル部32の内腔34を構成するテーパー内壁面35の断面形状を示す図である。
図9の9001~9005はそれぞれ、ノズル部32の内腔34を構成するテーパー内壁面35の別の断面形状を示す図である。
図8および
図9では、前後方向に垂直な断面形状として、後方側から前方側へ向けて順番に、I-I線断面形状、II-II線断面形状、III-III線断面形状、IV-IV線断面形状、V-V線断面形状がそれぞれ、断面形状8001および9001~8005および9005に対応する。
【0056】
図8に示す断面形状8001~8005からわかるように、ノズル部32は、内腔34と、内腔34を構成するテーパー内壁面35と、凸条部36と、を備えている。凸条部36は、上方側のテーパー内壁面35に設けられており、下方側へ向かって突出している。また、凸条部36は、ノズル部32の上下方向の対称軸を挟んで2つ設けられている。これら2つの凸条部36は、ノズル部32の対称軸に対して線対称になるように配置されている。また、
図8に示す断面形状8004および8005からわかるように、凸条部36は、少なくともノズル部32の先端部を避けて設けられている。
【0057】
プランジャ5の押込み動作によりノズル部32に移動した眼内レンズ7は、ノズル部32の入口近傍のレンズ押え部6により谷折りされて前方側へ移動する。そして、谷折りされた眼内レンズ7は、テーパー内壁面35の作用により折り畳まれつつ、前方側へ移動する。ここで、谷折りされた眼内レンズ7は、テーパー内壁面35上を移動するに際し、眼内レンズ7の進行軸がずれる場合がある。このように進行軸がずれた眼内レンズ7は、テーパー内壁面35に沿って回転移動してしまう。その結果、眼内レンズ7が線対称に谷折して折り畳まれなくなるおそれがある。
【0058】
そこで、挿入器具1では、ノズル部32に凸条部36が設けられていることにより、眼内レンズ7のテーパー内壁面35に沿った回転移動が規制されている。
図8に示す断面形状8002および8003からわかるように、谷折りされた眼内レンズ7がプランジャ5により前方側へ移動したとき、眼内レンズ7の左右方向の端部は、テーパー内壁面35に沿った移動が、凸条部36により係止される。そして、凸条部36による眼内レンズ7の端部の係止は、凸条部36が設けられていないノズル部32の先端部近傍にて解除される。その結果、ノズル部32内において眼内レンズ7が線対称に谷折して折り畳まれている。なお、谷折り直後の眼内レンズ7のテーパー内壁面35に沿った回転移動を規制するという観点では、凸条部36は、レンズ押え部6の前方側の先端よりも後方側に設けられていることが好ましい。また、ノズル部32の入口近傍では、凸条部36は、必ずしもレンズ押え部6よりも後方側に設けられる必要はない。その理由は、ノズル部32の入口近傍では、眼内レンズ7の左右方向の端部がテーパー内壁面35の凸条部36の位置に到達しないためである。
【0059】
なお、
図8に示される構成では、ノズル部32の内腔34を構成するテーパー内壁面35の前後方向に垂直な断面形状8001~8005は、上下方向に縦長の形状であった。しかし、テーパー内壁面35の断面形状は、眼内レンズ7の寸法、折り畳みの挙動等に応じて適宜設定可能であり、
図8に示された断面形状8001~8005に限定されない。例えば、テーパー内壁面35の断面形状は、
図9に示されるような、左右方向に横長な断面形状9001~9005であってもよい。
【0060】
また、
図8に示す断面形状8001~8005では、凸条部36は、2つ配置されていた。しかし、本実施形態に係る挿入器具1においては、凸条部36の数は、ノズル部32の対称軸に対して線対称に配置される構成であれば、特に限定されない。
【0061】
例えば、
図10に示す断面形状10001~10005のように、1つの凸条部36aを備えた構成であってもよい。凸条部36aは、ノズル部32の対称軸に対して線対称な形状であり、少なくともノズル部32の先端部を避けて設けられている。また、
凸条部36aは、ノズル部32の先端部側へ向かうに従い、左右方向の幅が小さくなるような形状になっている。
図10に示す断面形状10001~10005であっても、ノズル部32内において眼内レンズ7が線対称に谷折して折り畳まれる。
【0062】
(センタリング部材8)
ノズル部32内において眼内レンズ7が線対称に谷折して折り畳まれているためには、レンズホルダ4内にて、眼内レンズ7におけるプランジャ5の当接位置が、眼内レンズ7の進行軸からずれないことが重要である。プランジャ5の中軸部53は、後方側軸部51に比べて細くなるように形成されている。このため、プランジャ5に力が加わったとき、中軸部53の撓みによりガタツキが生じる。その結果、眼内レンズ7におけるプランジャ5の当接位置が、眼内レンズ7の進行軸からずれるおそれがある。センタリング部材8は、このようなプランジャ5のガタツキを規制する部材である。
【0063】
図11は、環状拡大部22に取り付けられたセンタリング部材8の構成を示し、
図11の11001は、斜視図であり、
図11の11002は、断面図である。また、
図12の12001は、センタリング部材8の構成を示す前方側から見た正面図であり、
図12の12002は、環状拡大部22に取り付けられたセンタリング部材8の構成を示す前後方向に垂直な断面図である。
【0064】
図11の11001に示されるように、センタリング部材8は、装置本体2の環状拡大部22に設けられている。装置本体2におけるセンタリング部材8の位置は、環状拡大部22に限定されない。また、プランジャ5は、センタリング部材8に対して、レンズ当接部材54が前方側に位置するように取り付けられている。また、スプリング9は、センタリング部材8の後方側に配置されている。このような構成により、プランジャ5のレンズ当接部材54は、センタリング部材8よりも前方側にのみ移動し、後方側には移動しない。例えば、環状拡大部22が複数の環状突起から構成されている場合、
図11の11002に示されるように、センタリング部材8は、環状突起間に挟まれて設けられている。
【0065】
図12の12001に示されるように、センタリング部材8は、2つの下側係止爪81と、プランジャ挿入部82と、上側係止片83と、を有している。プランジャ挿入部82は、下側係止爪81と上側係止片83との間に設けられており、プランジャ5の中軸部53が挿入されている。環状拡大部22の上側には、プランジャ挿入部82が上下方向に貫通可能な貫通孔が設けられている。また、環状拡大部22の下側には、下側係止爪81が貫通可能な2つの貫通孔が設けられている。
【0066】
下側係止爪81は、環状拡大部22の下側に設けられた2つの貫通孔を貫通して、環状拡大部22の外側から貫通孔に引掛かることにより係止されている。また、上側係止片83は、プランジャ挿入部82が貫通する環状拡大部22の上側の貫通孔の縁部に外側から当接して係止されている。このように下側係止爪81および上側係止片83が環状拡大部22に係止されることにより、プランジャ挿入部82は、プランジャ5の進行軸に位置合わせされる。それゆえ、プランジャ5は、プランジャ挿入部82に挿入されることで、力が掛かっても、左右方向および上下方向のガタツキが規制される。その結果、挿入器具1によれば、眼内レンズ7におけるプランジャ5の当接位置が、眼内レンズ7の進行軸からずれることがない。
【0067】
また、このセンタリング部材8は、装置本体2とは別体であってもよいし、装置本体2に一体的に形成されていてもよい。
【0068】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズを保持するレンズホルダを取り付け可能な眼内レンズ挿入器具であって、前記レンズホルダに保持された眼内レンズに当接して前記眼内レンズを押出すプランジャと、前記プランジャにより押出された眼内レンズを折り畳みつつ外部へ放出するノズル部と、を備え、前記プランジャは、前記眼内レンズと当接する、弾性変形材料で構成された先端部を備え、前記先端部は、前記プランジャの押出方向と反対方向への前記眼内レンズの伸び変形を規制するストッパを備えた構成である。
【0069】
本発明の態様2に係る眼内レンズ挿入器具は、態様1において、前記ストッパは、前記先端部の側面に設けられた突起である構成であることが好ましい。
【0070】
本発明の態様3に係る眼内レンズ挿入器具は、態様1または2において、前記先端部は、前記眼内レンズを厚さ方向で挟持する、くの字状のワニ口構造を有する構成であることが好ましい。
【0071】
本発明の態様4に係る眼内レンズ挿入器具は、態様3において、前記ワニ口構造は、前記眼内レンズの厚さ方向で互いに対向する下側斜面部と上側斜面部とを有し、前記下側斜面部は、前記先端部の下面と連結した傾斜面で構成されている構成であることが好ましい。
【0072】
本発明の態様5に係る眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズを保持するレンズホルダを取り付け可能な眼内レンズ挿入器具であって、前記レンズホルダに保持された眼内レンズに当接して前記眼内レンズを押出すプランジャと、前記プランジャにより押出された眼内レンズを折り畳みつつ外部へ放出するノズル部と、を備え、前記ノズル部は、当該ノズル部の中央に設けられ、前記プランジャの押出方向へ延びる板状リブ部と、前記板状リブ部と前記眼内レンズのレンズ面及び/又は前記プランジャとの当接により、前記板状リブ部を前記押出方向へ回動させる回動機構と、を備えた構成である。
【0073】
本発明の態様6に係る眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズを保持するレンズホルダを取り付け可能な眼内レンズ挿入器具であって、前記レンズホルダに保持された眼内レンズに当接して前記眼内レンズを押出すプランジャと、前記プランジャにより押出された眼内レンズを折り畳みつつ外部へ放出するノズル部と、を備え、前記ノズル部は、当該ノズル部の中央に設けられ、前記ノズル部の内腔側へ突出し前記プランジャの押出方向へ延びる突起部と、前記突起部と前記眼内レンズのレンズ面との当接、前記突起部と前記プランジャの当接、又は前記突起部と前記眼内レンズのレンズ面及び前記プランジャの両方との当接により、前記突起部を前記押出方向へ回動させる回動機構と、を備えた構成である。
【0074】
本発明の態様7に係る眼内レンズ挿入器具は、態様6において、前記突起部は、前記ノズル部の内腔側へ突出し、前記プランジャの押出方向へ延びる板状リブ部であることが好ましい。
【0075】
本発明の態様8に係る眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズを保持するレンズホルダを取り付け可能な眼内レンズ挿入器具であって、前記レンズホルダに保持された眼内レンズに当接して前記眼内レンズを押出すプランジャと、前記プランジャにより押出された眼内レンズを折り畳みつつ外部へ放出するノズル部と、を備え、前記ノズル部は、前記プランジャの押出方向へ向かうに従い対向する壁面同士の間隔が小さくなったテーパー内壁面を有し、前記テーパー内壁面には、当該テーパー内壁面に沿った前記眼内レンズの回転移動を規制する、前記押出方向へ延びる凸条部が形成されている構成である。
【0076】
本発明の態様9に係る眼内レンズ挿入器具は、態様8において、前記凸条部は、前記ノズル部の軸線に対して対称になるように配置され、少なくとも前記ノズル部の先端部を避けて設けられている構成であることが好ましい。
【0077】
本発明の態様10に係る眼内レンズ挿入器具は、態様9において、前記凸条部は、前記ノズル部の軸線に対して対称になるように少なくとも2つ配置されている構成であることが好ましい。
【0078】
本発明の態様11に係る眼内レンズ挿入器具は、筒状の本体を備え、前記本体の端面側に眼内レンズを保持するレンズホルダを取り付け可能な眼内レンズ挿入器具であって、前記レンズホルダに保持された眼内レンズに当接して前記眼内レンズを押出すために前記本体に出退可能に内挿されるプランジャと、前記プランジャにより押し出された眼内レンズを折り畳みつつ前記眼内レンズを放出するノズル部と、を備え、前記本体には、前記プランジャをセンタリングするためのセンタリング部材が設けられている構成である。
【0079】
本発明の態様12に係る眼内レンズ挿入器具は、態様5~7の何れかにおいて、前記回動機構は、前記板状リブ部を支持する基部から左右方向に突出して設けられた軸部と、前記基部が前記ノズル部に近づく方向に回動するように前記基部を付勢する板バネ部を備えた構成である。
【0080】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1 挿入器具(眼内レンズ挿入器具)
2 装置本体
3 先端チップ
4 レンズホルダ
5 プランジャ
7 眼内レンズ
8 センタリング部材
22 環状拡大部
32 ノズル部
35 テーパー内壁面
36、36a 凸条部
41 収容部
41a、41b 開口
54 レンズ当接部材
54a 突起(ストッパ)
54b ワニ口構造
54c 上側斜面部
54d 下側斜面部
54e 下面
61 板状リブ部(突起部)
62 基部
63 軸部
64 板バネ部
81 下側係止爪
82 プランジャ挿入部
83 上側係止片