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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/14 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
A61B18/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020549470
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038318
(87)【国際公開番号】W WO2020067491
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2018181976
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】周 拓
(72)【発明者】
【氏名】大久保 到
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/223264(WO,A1)
【文献】特開2017-164497(JP,A)
【文献】特表2018-519932(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0235967(US,A1)
【文献】特表2012-510831(JP,A)
【文献】特開2015-112114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺なシャフト部と、
前記シャフト部の先端側に配置され、前記シャフト部の長さ方向に沿って延在し、前記シャフト部の径方向に変形可能である電気的に独立した複数の電極部と、
前記シャフト部に埋設される埋設部を備え、前記電極部へ電流を通す電気的に独立した複数の導電体と、を有し、
少なくとも1つの前記導電体は、前記シャフト部の先端面から突出し、前記電極部と接続される突出部を有し、
前記突出部は、前記シャフト部の軸心と平行であり、前記埋設部は、前記シャフト部の軸心を巻回する螺旋状であり、
前記少なくとも1つの前記導電体は、前記突出部が前記シャフト部の前記軸心と略平行となるように、前記埋設部から前記先端面を通過して前記突出部に至る間に屈曲しており、
前記シャフト部は、前記先端面よりも径方向内側の位置から、前記先端面よりも先端側へ突出する段差部を有し、
前記段差部の外周面には、前記電極部と前記導電体との接続部が配置されている医療デバイス。
【請求項2】
複数の前記導電体の各々が前記突出部を有し、前記突出部の各々が異なる前記電極部と接続される請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
複数の前記電極部は、前記シャフト部の周方向に均等に配置される請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記シャフト部の軸心から前記導電体までの半径をR、前記導電体の数をN、前記シャフト部の軸心と直交する断面に対する前記導電体の傾斜角度をθとした場合、隣接する前記導電体の中心軸間の距離は、2πR/N・sinθである請求項1~3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項5】
複数の前記電極部は、前記シャフト部の周方向の一部に偏って配置される請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記シャフト部の外周面に配置される環状の支持体をさらに有し、
前記支持体は、前記電極部および前記突出部の少なくとも一方を収容する収容部が形成されている請求項1~5のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記導電体は、螺旋状に編組された複数の線材の少なくとも一部であり、絶縁材料で表面を被覆されている請求項1~のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記シャフト部および電極部の間に位置し、前記シャフト部の径方向外側へ拡張可能な拡張体を有する請求項1~のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に挿入され生体組織に対しアブレーションによる処置を行う医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
医療デバイスとして、不可逆電気穿孔法(IRE:Irreversible Electroporation)による治療を行うものが知られている。不可逆電気穿孔法は、非熱性であり、周囲の血管や神経への損傷を抑えることができることから、注目されている。例えば、外科手術での除去が困難ながんに対して、不可逆電気穿孔法を用いて治療を行う医療装置が知られている。
【0003】
肺静脈壁の心筋スリーブで発生する異常興奮が原因となる心房細動に対して、肺静脈と左心房との接合部をアブレーションし、心筋細胞を破壊する肺静脈隔離術が行われることがある。肺静脈隔離術では、アブレーションカテーテルの先端から高周波を発生させて、心筋を点状に焼灼して壊死させる。アブレーションカテーテルは、肺静脈流入部を円周状に焼灼するように移動され、肺静脈を隔離する。
【0004】
例えば特許文献1には、長尺な管体の外周面にリング状の電極が設けられたデバイスが記載されている。管体の内部には、電極へ電流を供給する導電体が、螺旋状に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第9227036号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生体管腔に挿入されるデバイスは、細い生体管腔に挿入できるように、細径化が望まれる。しかしながら、上述の先行文献1に記載のデバイスは、電極が、導電体に対して管体の径方向外側に位置している。このため、生体内へ挿入されるデバイスを細径化することが困難である。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、細い生体内腔へ挿入できると共に、広い範囲を効果的にアブレーションできる医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する医療デバイスは、長尺なシャフト部と、前記シャフト部の先端側に配置され、前記シャフト部の長さ方向に沿って延在し、 前記シャフト部の径方向に変形可能である電気的に独立した複数の電極部と、前記シャフト部に埋設される埋設部を備え、前記電極部へ電流を通す電気的に独立した複数の導電体と、を有し、少なくとも1つの前記導電体は、前記シャフト部の先端面から突出し、前記電極部と接続される突出部を有し、前記突出部は、前記シャフト部の軸心と平行であり、前記埋設部は、前記シャフト部の軸心を巻回する螺旋状であり、前記少なくとも1つの前記導電体は、前記突出部が前記シャフト部の前記軸心と略平行となるように、前記埋設部から前記先端面を通過して前記突出部に至る間に屈曲しており、前記シャフト部は、前記先端面よりも径方向内側の位置から、前記先端面よりも先端側へ突出する段差部を有し、前記段差部の外周面には、前記電極部と前記導電体との接続部が配置されている。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した医療デバイスは、電極部が径方向外側へ突出せず細径化が可能であるため、細い生体内腔へ挿入できると共に、径方向に湾曲する電極部により、広い範囲を効果的にアブレーションできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る医療デバイスを示す正面図である。
図2】医療デバイスを示す図であり、(A)は図1のA-A線に沿う断面図、(B)は図1のB-B線に沿う断面図である。
図3】医療デバイスの先端部を示す断面図である。
図4】外管を透過して導電体を示すシャフト部の周方向展開図である。
図5】電極部を拡張させた状態の医療デバイスの先端部を示す断面図である。
図6】第2実施形態に係る医療デバイスを示す正面図である。
図7図6のC-C線に沿う断面図である。
図8】シャフト部を示す断面図である。
図9】第3実施形態に係る医療デバイスの先端部を示す断面図である。
図10図9のD-D線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。本明細書では、管腔に挿入する側を「先端側」、操作する手元側を「基端側」と称することとする。
<第1実施形態>
【0012】
第1実施形態に係る医療デバイス10は、生体内腔へ経皮的に挿入され、目的部位の生体組織に接触して電気信号を印加し、不可逆電気穿孔法を実施するものである。本実施形態の医療デバイス10が対象とするのは、肺静脈隔離術において、肺静脈の入口部を全周に渡って電気穿孔する治療である。ただし、医療デバイス10は、その他の治療にも適用できる。
【0013】
図1~3に示すように、医療デバイス10は、長尺なシャフト部20と、シャフト部20の先端部に設けられる拡張体であるバルーン30と、シャフト部20の基端部に設けられるハブ60とを有している。さらに、医療デバイス10は、バルーン30の周囲に設けられる複数の電極部40と、電極部40へ電流を伝える導電体50とを有している。
【0014】
シャフト部20は、管状の外管21と、第1管体23の内側に配置される内管22とを有している。外管21および内管22は、同軸状に配置される。外管21および内管22は、相対的に軸方向へ移動可能である。外管21は、管状の第1管体23と、第1管体23の外周面を覆って第1管体23に固定される第2管体24とを有している。第1管体23と第2管体24の間には、導電体50が挟まれるように配置される。第1管体23および第2管体24は、同軸状に配置される。第1管体23は、第2管体24の先端面25よりも先端側まで延在する段差部26を有している。段差部26は、円管形状を有している。段差部26の外周面には、バルーン30の基端部が固定されている。また、段差部26の外周面には、電極部40と導電体50との接続部54が配置されていてもよい。また、導電体50は、第2管体24よりも内側に配置される第1管体23の外表面に配置されることによって、周方向Zへ均等に配置されやすい。
【0015】
内管22の内部には、長さ方向に沿うガイドワイヤルーメン27が形成される。ガイドワイヤルーメン27には、ガイドワイヤを挿入可能である。外管21の内部であって内管22の外部には、拡張ルーメン28が形成される。拡張ルーメン28には、バルーン30を拡張させるための拡張用流体を流通可能である。拡張用流体は気体でも液体でもよく、例えばヘリウムガス、COガス、Oガス、笑気ガス等の気体や、生理食塩水、造影剤、及びその混合剤等の液体を用いることができる。
【0016】
内管22は、第1管体23の先端よりさらに先端側まで延在している。第1管体23よりも先端側の内管22の外周面には、バルーン30の先端部が固定されている。内管22は、バルーン30が固定されている位置よりも先端側の外周面に、電極部40の先端部を固定する固定部29が固定されている。
【0017】
シャフト部20の外径は、特に限定されないが、低侵襲であり、かつ挿入する一般的なシースやガイディングカテーテルとの互換性を満たすために大きすぎないことが好ましく、例えば4.0mm以内、好ましくは2.9mm以内である。
【0018】
第1管体23、第2管体24および内管22の構成材料は、ある程度の可撓性を有することが好ましい。また、第1管体23、第2管体24および内管22の構成材料は、絶縁性を有することが好ましい。そのような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリイミド、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が挙げられる。
【0019】
バルーン30は、柔軟に変形可能である。バルーン30の形状は、特に限定されないが、例えば、円筒、楕円体、台形等である。バルーン30の先端部は、内管22の先端部の外周面に固定されている。バルーン30の基端部は、第1管体23の先端部の外周面に固定されている。バルーン30は、薄膜状であり、可撓性を有することが好ましい。また、バルーン30は、電極部40を確実に押し広げる程度の強度も必要とされる。バルーン30の構成材料は、シャフト部20について上で挙げたものを用いることができ、また、それ以外(例えば、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)などの各種エラストマー素材)を用いることもできる。
【0020】
導電体50は、線状であり、図1~4に示すように、外管21の内部に埋設される埋設部52と、外管21の先端面25から先端方向へ突出する突出部51と、基端側で外管21から外部へ導出される導出部53とを有している。埋設部52は、第1管体23と第2管体24の間に挟まれている。埋設部52は、外管21の内周面よりも外側に位置し、かつ外周面よりも内側に位置する。例えば、第1管体23の外周面に導電体50となる線材を巻き、その外側に第2管体24を押出成形することで、埋設部52を外管21に埋設できる。埋設部52は、絶縁材料により形成される外管21の材料に、隙間なく覆われてることが好ましい。これにより、埋設部52同士が接触して電気的に短絡することを確実に抑制できる。導電体50は、電極部40の数以上設けられる。これにより、導電体50は、全ての電極部40に、独立した電流を伝えることができる。本実施形態では、導電体50は、電極部40の数と同数(例えば、10本)設けられている。複数の導電体50は、多状巻の螺旋構造で形成される。複数の導電体50は、均等な間隔で離れて配置される。したがって、複数の導電体50は、電気的に短絡せずに、独立した電流を伝えることができる。導電体50同士の離間距離は、電気的な短絡が生じないように、供給する電気信号に応じて設定されることが好ましい。例えば、1000Vの電気信号が印加される場合、導電体50同士の離間距離は、10μm以上であることが好ましい。これにより、医療デバイス10の電気的安全性を向上できる。
【0021】
シャフト部20の軸心Xから導電体50の中心軸Yまでの半径(距離)をR、導電体50の数をN、シャフト部20の軸心Xと直交する断面に対する導電体50の傾斜角度をθとした場合、隣接する導電体50の中心軸Y同士の間の距離Dは、2πR/N・sinθである。
【0022】
半径Rは、例えば0.2~2.6mmである。数Nは、例えば2~20である。傾斜角度θは、例えば1~45度である。距離Dは、例えば0.02~8mmである。
【0023】
突出部51は、軸心Xと略平行であり、電極部40の基端部と接続されている。突出部51の少なくとも一部は、シャフト部20の周方向Zと直角である。すなわち、突出部51の少なくとも一部は、シャフト部20を周方向Zに展開した展開図を、シャフト部20の径方向外側から見た場合に、シャフト部の軸心Xと平行である(図4を参照)。したがって、突出部51は、外管21の内部で螺旋状に巻かれている埋設部52から、先端面25を通過して先端方向へ突出すると、角度を変えて軸心Xと略平行となる。なお、突出部51は、軸心Xと平行でなくてもよい。例えば、突出部51は、先端方向へ向かってシャフト部20の軸心Xに近づくように傾斜してもよい。この場合であっても、突出部51は、周方向Zと直角であり得る。突出部51の先端は、段差部26の先端よりも基端側に位置している。このため、突出部51および電極部40の基端部は、段差部26の外表面に安定して配置される。
【0024】
導出部53は、第2管体24の基端部から基端方向へ引き出され、シャフト部20の外部に設けられる電源部12に接続されている。電源部12は、電極部40に対して電気を供給できる。
【0025】
導電体50の構成材料は、導電性が高いことが好ましく、例えば銅、金、白金、銀、アルミニウム、合金、または炭素繊維等である。導電体50は、公知の導線を利用できる。
【0026】
各々の電極部40は、図2、3に示すように、バルーン30の外周側に位置しており、バルーン30とは固定されていない。なお、電極部40は、バルーン30に固定されてもよい。電極部40は、導電性及び可撓性を有する線材で形成されている。複数の電極部40は、バルーン30の外周側に、バルーン30の周方向Zへ並んで配置されている。各々の電極部40は、シャフト部20の長さ方向に延在している。電極部40は、シャフト部20の径方向に湾曲可能である湾曲部41を備えている。電極部40は、バルーン30より基端側の電極基端部42と、バルーン30より先端側の電極先端部43とを有している。
【0027】
電極基端部42の基端は、導電体50の突出部51の先端と突き当たって接合されている。これにより、電極部40は、導電体50と電気的に接続される。各々の電極部40に設けられる電極基端部42と突出部51の接続部54は、絶縁材料からなる絶縁チューブ45で覆われている。接合方法は、電気的に導通できれば限定されず、例えば、半田付け、レーザー融着、各種金属ロウを用いた溶着、導電性接着剤による接着、チャック等による機械的連結でもよい。段差部26の外周面に並ぶ複数の接続部54、絶縁チューブ45および突出部51は、絶縁材料からなる1つの保護チューブ46によりまとめて覆われる。したがって、接続部54および突出部51は、先端面25よりも先端側で、絶縁チューブ45および/または保護チューブ46により覆われて、外部へ露出しない。これにより、医療デバイス10の電気的安全性を向上できる。絶縁チューブ45および保護チューブ46の構成材料は、シャフト部20について上で挙げたものを用いることができる。
【0028】
電極先端部43は、内管22のバルーン30よりも先端側に設けられる固定部29に固定されている。各々の電極部40の長さ方向と直交する断面形状は、長方形である。すなわち、電極部40の長さ方向と直交する断面形状は、電極部40の少なくとも一部において、バルーン30の径方向に沿う長さよりも周方向Zに沿う長さが大きい形状である。したがって、断面の長辺は、バルーン30の周方向Zに沿っている。これにより、バルーン30の周方向Zに並ぶ複数の電極部40は、バルーン30の径方向に曲がりやすく、互いに近づく方向へは変形しにくい。したがって、電極部40同士の電気的短絡や絡まりを抑制できる。なお、電極部40の断面形状は、長方形に限定されず、例えば円形、半円形、楕円形、正方形等であってもよい。
【0029】
電極部40の構成材料は、例えばNi-Ti合金に代表される超弾性金属を好適に使用できる。ただし、電極部40は、それ以外の導電性を有する材料で形成されてもよい。例えば、電極部40は、導電性ゴム等でもよい。さらには、電極部40は、FPC(フレキシブルプリント回路基板)等で構成されてもよい。
【0030】
電極部40は、湾曲部41以外の外表面に、絶縁材料が被覆されている。絶縁材料は、電気を通さない。絶縁材料は、電極部40の外表面の、生体組織に接触しない側、すなわちバルーン30と対面する側に設けられてもよい。
【0031】
電極部40は、本実施形態では、10本が周方向Zに均等に設けられている。ただし、電極部40の数はこれより多くてもよく、少なくてもよい。電気信号は、隣接する電極部40間に印加されるが、体外に電極(あるいは対極板)を配置し、その体外の電極(あるいは対極板)と電極部40との間に電気信号を印加してもよい。
【0032】
ハブ60は、図1に示すように、内管22の基端部が連結されている。内管22の外側に位置して内管22に対して軸方向へ移動可能な第1管体23は、ハブ60に対して摺動可能に連結されている。ハブ60は、ガイドワイヤルーメン27と連通する開口を有する第1ポート61と、拡張ルーメン28と連通する開口を有する第2ポート62とを有している。
【0033】
次に、医療デバイス10を用いた処置方法について説明する。始めに、イントロデューサー(図示しない)を経皮的に血管に穿刺する。次に、ガイドワイヤ(図示しない)をガイディングカテーテル(図示しない)に挿入した後、ガイディングカテーテルを、イントロデューサーに挿入する。次に、ガイドワイヤを先端側に突出させてから、ガイディングカテーテルの先端部を、イントロデューサーの先端部開口から血管内へ挿入する。この後、ガイドワイヤを先行させつつ、ガイディングカテーテルを目的部位まで徐々に押し進める。術者は、右心房側から左心房側に向かって、所定の穿刺デバイスを貫通させることにより、心房中隔に貫通孔を形成する。穿刺デバイスは、例えば、先端が尖ったワイヤ等のデバイスを利用することができる。穿刺デバイスの送達は、ガイディングカテーテルを介して行うことができる。また、穿刺デバイスは、例えば、ガイディングカテーテルからガイドワイヤを抜去した後、ガイドワイヤに代えて心房中隔まで送達することができる。なお、心房中隔の貫通に使用される穿刺デバイスの具体的な構造、貫通孔を形成する際の具体的な手順等は特に限定されない。術者は、貫通孔を形成後、ダイレータを使って、貫通孔を押し広げる。次に、術者は、貫通孔にガイディングカテーテルを通し、ガイディングカテーテルを、ガイドワイヤを使って目的部位(例えば、肺静脈付近)まで押し進める。
【0034】
次に、シャフト部20のガイドワイヤルーメン27の先端開口部に、ガイドワイヤの末端を挿入し、ハブ60の第1ポート61からガイドワイヤを出す。次に、血管内に挿入されているガイディングカテーテル内に、医療デバイス10を先端部から挿入し、ガイドワイヤに沿わせて押し進める。このとき、ガイドワイヤの代わりに電極付きリングカテーテルを使用してもよい。
【0035】
図5に示すように、電極部40を目的位置である肺静脈70の入口まで挿入したら、第2ポート62および拡張ルーメン28を介して拡張用流体をバルーン30内に供給する。これにより、バルーン30が拡張し、電極部40がバルーン30によって押されて径方向に拡張する。このとき、外管21が内管22に対して先端側へ移動し、電極部40の基端部が先端側へ移動する。これにより、電極部40は、バルーン30の拡張に追従しながら変形できる。このため、電極部40の中央部に位置する湾曲部41が、バルーン30によって生体壁71に押し付けられる。電極部40は、生体組織の形状に合わせて変形できる。このため、電極部40が生体組織に密着でき、電気信号を印加しやすい。この状態で、電源部12から導電体50を介して電極部40に電気信号が印加される。
【0036】
電源部12からは、まず、周方向Zに隣接する一対の電極部40、40に対して、パルス状の電気信号が印加される。これにより、周方向Zに隣接する一対の電極部40,40間に電流が流れる。次に、周方向Zに隣接する他の対の電極部40、40に対して、パルス状の電気信号が印加される。電気信号の印加は、周方向Zに隣接する全ての対となる電極部40、40に対して、順次行われる。印加される電気信号の一例を以下に挙げる。電源部12が印可する電界強度は、1500V/cmであり、電気信号のパルス幅は100μsecである。周方向Zに隣接する電極部40の全ての対に対する電気信号の印加は、2秒に1回のサイクルで、心室筋の不応期に合わせて、60~180回繰り返される。これによって、肺静脈の入口の細胞を全周に渡って壊死させる。なお、隣接していない複数の電極部40の間で電気信号を印加してもよく、電極部40から体表に貼り付けられた対極板に対して電気信号を印加してもよい。
【0037】
電気信号の印加が完了したら、バルーン30を収縮させる。これにより、電極部40も、自己の復元力によって径方向に収縮する。このとき、外管21が内管22に対して基端側へ移動し、電極部40の基端部が基端側へ移動する。これにより、電極部40は、バルーン30の収縮に追従しながら変形できる。この後、血管内に挿入された全ての器具を抜出し、処置を完了する。なお、電極部40がNi-Ti合金等の超弾性合金以外の素材の場合、内管22を先端側に押し(または、外管21を基端側に引き)、電極部40を径方向に収縮させる操作を行うことが好ましい。
【0038】
以上のように、第1実施形態に係る医療デバイス10は、長尺なシャフト部20と、シャフト部20の先端部に配置され、シャフト部20の長さ方向に沿って延在し、前記シャフト部20の径方向に変形可能である電気的に独立した複数の電極部40と、シャフト部20に埋設される埋設部52を備え、電極部40へ電流を通す電気的に独立した複数の導電体50と、を有し、少なくとも1つの導電体50は、シャフト部20の先端面25から突出し、電極部40と接続される突出部51を有する。
【0039】
上記のように構成した医療デバイス10は、複数の導電体50の基端側の埋設部52がシャフト部20に埋設され、電極部40と接続される先端側の突出部51がシャフト部20の先端面25から突出する。このため、電極部40がシャフト部40の外径よりも内側に位置することができるので、電極部40が径方向外側へ突出せず細径化が可能であるため、細い生体内腔へ挿入できると共に、径方向に湾曲する電極部40により、広い範囲を効果的にアブレーションできる。電極部40は、シャフト部40の外周面と同じ位置に位置してもよい。さらに、シャフト部20に導電体50が埋設されるため、シャフト部20の曲げ剛性が高まり、耐キンク性が向上する。例えば、電極部40を肺静脈70の入口付近に当接する際に、シャフト部20が心房中隔の穿刺部位(例えば、卵円窩)において径方向に動けないため、シャフト部20が湾曲する。このとき、シャフト部20の曲げ剛性が高まるため、シャフト部20のキンクの発生を抑制できる。
【0040】
また、複数の導電体40の各々が突出部51を有し、突出部51の各々が異なる電極部40と接続される。これにより、複数の電極部40の各々に、独立した電気信号を印可することができる。
【0041】
また、突出部51は、当該突出部51の軸方向の先端側に位置する電極部40と接続される。これにより、電極部40が径方向外側へ突出せず、医療デバイス10の細径化が容易である。
【0042】
また、突出部51の少なくとも一部は、シャフト部20の周方向Zと直角である。これにより、電極部40および突出部51の少なくとも一方を、シャフト部20の周方向Zの適切な位置に正確に配置できる。
【0043】
また、突出部51の少なくとも一部は、シャフト部20の軸心Xと平行であり、埋設部52の少なくとも一部は、シャフト部20の軸心Xを巻回する螺旋状である。これにより、シャフト部20の曲げ剛性が、曲げる方向によって偏らず、均質なシャフト部20を形成できる。
【0044】
また、複数の電極部40は、シャフト部20の周方向Zに均等に配置される。これにより、電極部40によって、目的の部位を万遍なくアブレーションできる。
【0045】
また、シャフト部20の軸心Xから導電体50までの半径をR、導電体50の数をN、シャフト部20の軸心Xと直交する断面に対する導電体50の傾斜角度をθとした場合、隣接する導電体50の中心軸Y間の距離Dは、2πR/N・sinθである。これにより、導電体50を、シャフト部20の周方向Zに均等に配置できる。したがって、電極部40が周方向Zに均等に配置される場合に、導電体50の位置を電極部40に合わせて配置することが容易である。
【0046】
また、シャフト部20は、先端面25よりも径方向内側の位置から、先端面25よりも先端側へ突出する段差部26を有する。これにより、導電体50の突出部51を段差部26で支持することができ、導電体50の断線を抑制できる。本実施形態において、シャフト部20の外管21は、段差部26を備える第1外管23と、第1管体23の外周面を覆って第1管体23に固定される第2管体24とを有するため、先端面25よりも径方向内側の位置から、段差部26を形成することが容易である。
【0047】
また、医療デバイス10は、シャフト部20および電極部40の間に位置し、シャフト部20の径方向外側へ拡張可能な拡張体(例えば、バルーン30)を有する。これにより、医療デバイス10は、拡張体の拡張により、電極部40を生体組織に密着させることができる。
<第2実施形態>
【0048】
第2実施形態に係る医療デバイス80は、図6~8に示すように、電極部40および導電体50が、シャフト部20の周方向Zに偏って設けられる点でのみ、第1実施形態と異なる。
【0049】
複数の導電体50は、シャフト部20の先端面25から、シャフト部20の周方向Zに偏った位置で、先端方向へ突出する突出部51を有している。このため、シャフト部20の内部の複数の導電体50は、まとまった1群を形成し、まとまった状態で隙間81を挟みつつ螺旋状に配置される。突出部51と、複数の電極部40の電極基端部42は、複数の突出部51の先端側に位置している。このため、電極基端部42を、突出部51と電気的に接続することが容易である。
【0050】
以上のように、第2実施形態に係る医療デバイス80では、複数の電極部40が、シャフト部20の周方向Zの一部に偏って配置される。これにより、医療デバイス80では、電極部40によって、周方向Zの特定の部位のみを、意図的にアブレーションできる。したがって、医療デバイス80では、特定の部位のみをアブレーションし、それ以外の部位をアブレーションしないように容易に調節できる。なお、突出部51の偏り方は、特に限定されない。したがって、突出部51および電極部40は、シャフト部20の周方向Zの複数個所に偏って設けられてもよい。また、隣接する突出部51間の距離、および隣接する電極部40間の距離は、不均一であってもよい。
<第3実施形態>
【0051】
第3実施形態に係る医療デバイス90は、図9、10に示すように、導電体50が編組されており、支持体100を有する点でのみ、第1実施形態と異なる。
【0052】
シャフト部20の内部には、編組された(braided)複数の線材91が配置されている。この線材91の一部が、導電体50として利用される。なお、全ての線材91が、導電体50として利用されてもよい。導電体50として利用される線材91は、導電材料により形成され、絶縁層92で表面を被覆されている。導電体50として利用されない線材91は、導電材料により形成されても、導電材料により形成されなくてもよい。導電体50として利用されない線材91は、導電材料により形成されなければ、導電体50として利用される線材91との間の電気的な短絡を抑制できる。導電体50として利用されない線材91は、絶縁層92で表面を被覆されても、被覆されなくてもよい。シャフト部20の段差部26の外表面には、複数の電極部40の電極基端部42を支持する支持体100が固定されている。
【0053】
支持体100は、筒状であり、外周面に、電極部40の電極基端部42を収容する複数の収容部101が形成されている。支持体100は、先端面25から先端方向へ離れて位置している。支持体100は、先端面25から先端方向へ離れていなくてもよい。収容部101は、シャフト部20の長さ方向へ延在する溝である。複数の収容部101は、支持体100の周方向Zに均等に並んで形成されている。各々の収容部101は、1つの電極基端部42を収容する。電極基端部42は、支持体100に収容された状態で、接着剤等によって支持体100に固定される。支持体100は、電極基端部42ではなく、導電体50の突出部51を収容してもよい。または、支持体100は、電極基端部42および突出部51の両方を収容してもよい。また、支持体100は、電極部40の先端側に位置する電極先端部43を収容するように、バルーン30よりも先端側に位置する内管22の外周面に設けられてもよい。
【0054】
以上のように、第3実施形態に係る医療デバイス90では、シャフト部20の外周面に配置される環状の支持体100をさらに有し、支持体100は、電極部40および突出部51の少なくとも一方を収容する収容部100が形成されている。これにより、電極部40および突出部51の少なくとも一方を、シャフト部20の周方向Zの適切な位置に正確に配置できる。
【0055】
また、支持体100は、先端面25から先端方向へ離れて位置している。これにより、先端面25から突出する突出部51は、支持体100と先端面25の間の隙間で適切な姿勢となり、支持体100の適切な位置に配置される。
【0056】
また、導電体50は、螺旋状に編組された複数の線材91の少なくとも一部であり、絶縁層92で表面を被覆されている。これにより、導電体50は、編組された線材91を用いることができ、編組によって導電体50同士が接触しても、絶縁層92により電気的な短絡を抑制できる。
【0057】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述の実施形態の医療デバイス10は、肺静脈の処置に用いるものを示したが、それ以外の部位、例えば、腎動脈、上行大静脈、心室などを処置するものであってもよい。
【0058】
また、電極部40へ電流を伝える導電体50は、螺旋形状や、編組された線材91の一部でなくてもよい。例えば、導電体50は、シャフト部20の軸心Xに沿って直線状に延在する線材であってもよい。また、導電体50は、湾曲または屈曲する線材であってもよい。
【0059】
また、医療デバイスの拡張体は、バルーン30でなくてもよい。また、医療デバイスは、電極部40を径方向外側へ押圧する拡張体を有さなくてもよい。例えば、医療デバイスは、バルーン30がなくても、外管21を内管22に対して先端方向へ移動させることで、電極部40を、シャフト部20の径方向へ拡張させることができる。また、電極部40または導電体50の一部に、伸長可能な部位が設けられれば、外管21および内管22は、軸方向へ相対的に移動可能でなくてもよい。この場合、バルーン30が拡張して電極部40が径方向の外側へ湾曲しても、伸長可能な部位が伸長するため、外管21および内管22が相対的に移動する必要がない。または、固定部29が、内管22の外周面に対して軸方向へ摺動可能であってもよい。また、導電体は、外管21ではなく、内管22に埋設されてもよい。この場合、導電体は、電極部40の先端部と電気的に接続される。
【0060】
なお、本出願は、2018年9月27日に出願された日本特許出願番号2018-181976号に基づいており、それらの開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0061】
10、80、90 医療デバイス
20 シャフト部
21 外管
22 内管
23 第1管体
24 第2管体
25 先端面
26 段差部
30 バルーン(拡張体)
40 電極部
41 湾曲部
50 導電体
51 突出部
52 埋設部
53 接続部
91 線材
92 絶縁層
100 支持体
101 収容部
D 隣接する導電体の中心軸間の距離
N 導電体の数
R シャフト部の軸心から導電体の中心軸までの半径
X 軸心
Y 導電体の中心軸
Z 周方向
θ 導電体の傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10