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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】コンクリート版の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E03F 3/04 20060101AFI20231221BHJP
   E04B 1/16 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
E03F3/04 A
E04B1/16 L
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021000212
(22)【出願日】2021-01-04
(65)【公開番号】P2022105423
(43)【公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤名 瑞耀
(72)【発明者】
【氏名】中西 誉
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-223370(JP,A)
【文献】特開2017-106266(JP,A)
【文献】特開2016-089467(JP,A)
【文献】特開2005-042425(JP,A)
【文献】特開2020-105768(JP,A)
【文献】特開2007-146641(JP,A)
【文献】米国特許第04697955(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 3/04
E04B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート版の下部を構成するハーフプレキャスト部材を配設するPCa版配設工程と、
側格子状鉄筋を配筋する配筋工程と、
前記ハーフプレキャスト部材上にコンクリートを打設する打設工程と、を備えるコンクリート版の施工方法であって、
前記ハーフプレキャスト部材は、
下側格子状鉄筋が埋設されたコンクリート部と、コンクリート部に植設された複数の補強筋とを有し、
前記補強筋の下端は、前記下側格子状鉄筋に係止されていて、
前記補強筋の上端には、前記コンクリート版の上側格子状鉄筋に係止される平板状の係止部が一体に固定されていて、
前記配筋工程では、前記上側格子状鉄筋を構成する第一筋および第二筋のうち下側に配筋される第一筋を前記補強筋に固定した後、上側に配筋される第二筋を前記係止部と前記第一筋との間に挿入することを特徴とする、コンクリート版の施工方法。
【請求項2】
複数の前記補強筋には、前記第一筋の下端に当接する高さ位置に連結部材が横架されており、
前記配筋工程では、前記連結部材と前記補強筋との角部に前記第一筋を配筋した後、前記第一筋と前記補強筋との角部に前記第二筋を配筋することを特徴とする、請求項に記載のコンクリート版の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーフプレキャスト部材を利用したコンクリート版の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物を構築する際に、コンクリート部材の一部をプレキャスト化したハーフプレキャスト部材を使用すれば、型枠や支保工等の一部を省略することや、現地でのコンクリート打設量を低減することによるコンクリート打設時の手間の低減化が可能となり、ひいては、工期短縮化を図ることができる。ハーフプレキャスト部材を利用してコンクリート版を構築する場合には、現地において所定の位置にハーフプレキャスト部材を配設し、現場打ち部分の主筋や配力筋等を配筋した後、コンクリートを打設することにより行う。
ハーフプレキャスト部材には、予め鉄筋が突設されているのが一般的である。現場打ち部分の鉄筋は、ハーフプレキャスト部材に突設された鉄筋を利用して配筋する。例えば、特許文献1には、ハーフプレキャスト部材の上面からあばら筋の一部を突出させ、現場打ち部分の主筋をあばら筋の内空側(あばら筋とハーフプレキャスト部材の表面との間)に軸方向に沿って挿入する配筋方法が開示されている。
床版や頂版などの版状の部材を施工する場合には、せん断補強筋が突設されたハーフプレキャスト部材の表面から隙間をあけて、現場打ち部分の主筋および配力筋を格子状に配筋する必要がある。せん断補強筋は、端部に形成されたフック状の係止部を格子状の鉄筋に係止する。なお、コンクリート部材の上筋と下筋とを連結するせん断補強筋の端部にフック状の係止部が形成されていると、主筋および配力筋を配筋する際に障害になってしまう。そのため、ハーフプレキャスト部材に突設した下側せん断補強筋と、格子状の鉄筋に係止させる上側せん断補強筋とを重ね継手により連結する場合がある。ところが、せん断補強筋を分割する施工方法は、配筋作業に手間がかかるとともに、重ね継手の分だけ鉄筋量が増加してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-23517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、施工時の手間を低減し、かつ、鉄筋量を必要最小限に抑えることを可能としたコンクリート版の施工方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明のコンクリート版の施工方法は、ハーフプレキャスト部材を配設するPCa版配設工程と、前記上鉄筋を配筋する配筋工程と、前記ハーフプレキャスト部材上にコンクリートを打設する打設工程とを備えている。ハーフプレキャスト部材は、コンクリート版の下部を構成するハーフプレキャスト部材であって、下側格子状鉄筋が埋設されたコンクリート部と、コンクリート部に植設された複数の補強筋とを有し、前記補強筋の下端は前記下側格子状鉄筋に係止されていて、前記補強筋の上端には前記コンクリート版の上側格子状鉄筋に係止される平板状の係止部が一体に固定されている。前記配筋工程では、前記上側格子状鉄筋を構成する第一筋および第二筋のうち下側に配筋される第一筋を前記補強筋に固定した後、上側に配筋される第二筋を前記係止部と前記第一筋との間に挿入する。
かかるコンクリート版の施工方法によれば、ハーフプレキャスト部材に予めせん断補強筋(補強筋)が配筋されているため、上側格子状鉄筋の配筋後にせん断補強筋を配筋する手間を省略できる。また、せん断補強筋を継ぎ足す必要もないため、重ね継手による鉄筋量の増加を招くこともない。せん断補強筋の係止部は、平板状を呈しているため、上側格子状鉄筋の配筋は係止部の下側に滑り込ませればよく、したがって、上側格子状鉄筋の配筋作業時にせん断補強筋の存在が障害になることもない。また、ハーフプレキャスト部材を使用することで、フルプレキャスト部材を使用するよりも低コストに抑えることができる。
【0006】
前記補強筋の前記係止部は、前記上側格子状鉄筋の縦筋と横筋との交差部の上側に重なるように配筋され、かつ、複数の前記補強筋の前記係止部は、同じ向きに配筋されているのが望ましい。このようにすれば、係止部の側方において上側格子状鉄筋を下降させつつ横方向にスライドさせることで、縦筋と横筋の交差部に係止部を重ねることができるので、作業性に優れている。
また、複数の前記補強筋同士を連結する連結部材を有していれば、コンクリート版の部材厚が大きく、補強筋の突出長が大きい場合であっても、補強筋の変形を抑制できる。
さらに、前記第一筋の下端に当接する高さ位置に連結部材(段取り筋)を複数の前記補強筋に横架しておき、前記配筋工程において、前記連結部材と前記補強筋との角部に前記第一筋を配筋した後、前記第一筋と前記補強筋の角部に前記第二筋を配筋するのが望ましい。こうすることで、上側格子状鉄筋の位置決めが容易にとなり、工期短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコンクリート版の施工方法によれば、施工時の手間を低減し、かつ、鉄筋量を必要最小限に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のボックスカルバートの断面図である。
図2】(a)本実施形態のコンクリート版の部分拡大断面図、(b)は(a)のA-A断面図、(c)は(a)のB-B断面図である。
図3】コンクリート版の施工方法のフローチャートである。
図4】コンクリート版の施工方法の各工程の作業状況を示す断面図であって、(a)はPCa版配設工程、(b)は配筋工程、(c)は打設工程である。
図5】配筋工程における配筋の手順を示す断面図であって、(a)は第一筋の配筋状況、(b)は第二筋の配筋状況である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、ボックスカルバート躯体工事において、ハーフプレキャスト部材2を利用してボックスカルバート1の頂版(コンクリート版)11を施工する場合について説明する。ハーフプレキャスト部材2を使用すれば、頂版11施工時の支保工を省略あるいは削減することができ、ひいては、支保工の設置に伴う手間および費用を省略あるいは削減することができる。図1に本実施形態のボックスカルバート1を示す。
本実施形態のボックスカルバート1は、図1に示すように、頂版11と、左右の側壁12,12と底版13とにより断面視矩形枠状を呈している。ボックスカルバート1の頂版11は、左右の側壁12,12に横架されたハーフプレキャスト部材2と、側壁12の上面及びハーフプレキャスト部材2の上面に打設された現場打ちコンクリート3とにより構成されている。図2(a)に頂版11の縦断面図を示す。図2(a)に示すように、頂版11の上部には上面に沿って上側格子状鉄筋4が配筋されていて、頂版11の下部には下側格子状鉄筋5が配筋されている。また、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5は、せん断補強筋(補強筋6)により連結されている。
【0010】
ハーフプレキャスト部材2は、図1に示すように、頂版11の下部を構成しているプレキャストコンクリート版である。図2(a)に示すように、ハーフプレキャスト部材2は、下側格子状鉄筋5が埋設されたコンクリート部7と、コンクリート部7に植設された複数の補強筋6,6,…とを有している。
【0011】
補強筋6の下端には、下端係止部61が形成されていて、下端係止部61は下側格子状鉄筋5に係止されている。本実施形態の下端係止部61は、補強筋6の下端を加工することにより形成されたJ字状のフックである。図2(c)にハーフプレキャスト部材2の平断面図を示す。図2(a)および(c)に示すように、下端係止部61は、平面視で下側格子状鉄筋5に対して傾斜しており、下側格子状鉄筋5を構成する下側縦筋51と下側横筋52との交差部と重なるように、下側格子状鉄筋5に係止されている。
【0012】
補強筋6の上端には、上側格子状鉄筋4に係止される上端係止部62が形成されている。上端係止部62は、矩形状の平板を補強筋6の上端に摩擦圧接により一体に固定したものである。図2(b)に補強筋6の上端部の平面図を示す。図2(b)に示すように、複数の補強筋6の上端係止部62は、同じ向き(平行)に配筋されている。本実施形態の上端係止部62は、上側格子状鉄筋4の上側縦筋41および上側横筋42に対して水平面内において傾斜(平面視で傾斜)しており、上側縦筋41と上側横筋42との交差部の上側に重なるように形成されている。
【0013】
図2(a)に示すように、本実施形態では、複数の補強筋6同士を連結する連結部材8が設けられている。連結部材8は、いわゆる段取り筋であり、上側横筋42(第一筋)の下端に当接する高さ位置に設けられている鉄筋からなる。本実施形態の連結部材8は、上側縦筋41と平行となるように、縦方向(図2(b)において上下方向)に並設された複数の補強筋6に横架されている。
【0014】
以下、頂版11の施工方法について説明する。図3に頂版11の施工方法のフローチャートを示す。図3に示すように、本実施形態の頂版11の施工方法は、PCa版配設工程S1と、配筋工程S2と、打設工程S3とを備えている。図4(a)~(c)に頂版11の施工方法の各工程を示す。なお、図4では、頂板11の施工方法を説明するために各構成要素を模式化しているため、鉄筋の寸法は、図2のものと異なっている。
PCa版配設工程S1は、図4(a)に示すように、ハーフプレキャスト部材2を配設する工程である。ハーフプレキャスト部材2は、左右の側壁12,12の上端に横架する。ハーフプレキャスト部材2は、図示しない固定部材により、側壁12に固定する。
配筋工程S2では、図4(b)に示すように、上側格子状鉄筋4を配筋する。図5に配筋工程S2の作業状況を示す。まず、図5(a)に示すように、補強筋6に固定された連結部材8(段取り筋)と補強筋6との角部に上側横筋42(第一筋)を配筋する。次に、図5(b)に示すように、上端係止部62と上側横筋42との間に上側縦筋41(第二筋)を挿入して、上側横筋42と補強筋6との角部に上側縦筋41を配筋する。上側縦筋41は、上方から上側横筋42に載置させた後、上側横筋42上をスライドさせることにより、上端係止部62と上側横筋42との間に滑り込ませればよい。配筋工程S2では、図4(b)に示すように、上側格子状鉄筋4の配筋とともに、ハーフプレキャスト部材2の側方に型枠9を設置する。型枠9は、側壁12の外面の延長線と型枠9の内面が一致するように組み立てる。
打設工程S3は、ハーフプレキャスト部材2上にコンクリート(現場打ちコンクリート3)を打設する工程である。図4(c)に打設工程S3の作業状況を示す。図4(c)に示すように、コンクリートは、上側格子状鉄筋4および補強筋6を巻き込んだ状態で型枠9内に打設する。
【0015】
本実施形態のハーフプレキャスト部材2および頂版11の施工方法によれば、ハーフプレキャスト部材2に予めせん断補強筋(補強筋6)が配筋されているため、上側格子状鉄筋4の配筋後にせん断補強筋を配筋する手間を省略できる。また、せん断補強筋を継ぎ足す必要もないため、重ね継手による鉄筋量の増加を招くこともない。上端係止部62は、平板状を呈しているため、上側格子状鉄筋4の配筋は上端係止部62の下側に滑り込ませればよい。したがって、上側格子状鉄筋4の配筋作業時にせん断補強筋の存在が障害になることもない。
また、上端係止部62は、上側格子状鉄筋4の上側縦筋41と上側横筋42との交差部の上側に重なるように配筋され、かつ、複数の上端係止部62は、同じ向きに配筋されているため、上端係止部62の側方において上側格子状鉄筋4を下降させつつ横方向にスライドさせることで、上側縦筋41と上側横筋42の交差部に上端係止部62を重ねることができる。
【0016】
また、複数の補強筋6同士が連結部材8により連結されているため、補強筋6の突出長が大きい場合であっても、補強筋6の変形を抑制できる。
また、連結部材8は、上側横筋42の下端に当接する高さ位置に横架されているため、上側格子状鉄筋4の位置決めが容易にとなり、工期短縮化を図ることができる。
ハーフプレキャスト部材2は、工場等において正確に形成するため、補強筋6を正確な位置に配筋することができる。つまり、補強筋6を基準にして上側格子状鉄筋4を配筋できるので、上側格子状鉄筋4を簡易かつ正確に配置することができる。また、上端係止部62も正確な高さ位置に設けられているため、上端係止部62を目安に上側格子状鉄筋4を組み立てることで、配筋時の高さ出しおよびピッチの位置決めが容易になる。
【0017】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記実施形態では、ボックスカルバート1の頂版11を構築する場合について説明したが、ハーフプレキャスト部材2を利用して構築するコンクリート版は頂版11に限定されるものではない。
上側格子状鉄筋4は、予め格子状に組み立てられたものを上端係止部62に係止させるように配設してもよい。
上端係止部62の向きや形状は限定されるものではない。
【0018】
前記実施形態では、段取り筋(連結部材8)を配筋するものとしたが、段取り筋は必要に応じて配筋すればよい。例えば、補強筋6に上側格子状鉄筋4の位置をマーキングすることにより段取り筋の配筋を省略してもよい。また、上側格子状鉄筋4の上側縦筋41が上側横筋42の下側に配筋される場合には、段取り筋は上側縦筋41の下端と当接する高さ位置に配筋する。
また、連結部材8の固定箇所は限定されるものではなく、適宜決定すればよい。また、連結部材8は、必ずしも上側格子状鉄筋4の上側縦筋41と平行である必要はなく、上側横筋42と平行でもよいし、上側縦筋41および上側横筋42に対して傾斜していてもよい。
下端係止部61は、フックに限定されるものではなく、例えば、上端係止部62と同様に補強筋6の下端に固定された平板であってもよい。なお、上端係止部62の補強筋6への固定方法は摩擦圧接に限定されるものではなく、例えば溶接してもよいし、上端係止部62に形成された雌ネジに補強筋6の上端に形成された雄ネジを螺合してもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 ボックスカルバート
11 頂版(コンクリート版)
12 側壁
13 底版
2 ハーフプレキャスト部材
3 現場打ちコンクリート
4 上側格子状鉄筋
41 上側縦筋(第二筋)
42 上側横筋(第一筋)
5 下側格子状鉄筋
51 下側縦筋
52 下側横筋
6 補強筋
61 下端係止部
62 上端係止部
7 コンクリート部
8 連結部材
9 型枠
図1
図2
図3
図4
図5