(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/00 20060101AFI20231221BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20231221BHJP
B60L 7/24 20060101ALI20231221BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20231221BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B60W30/00
B60W60/00
B60L7/24 D
B60L15/20 J
B60T8/17 C
(21)【出願番号】P 2021151870
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】福川 将城
(72)【発明者】
【氏名】浅野 誠之
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一城
(72)【発明者】
【氏名】酒井 陽次
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/130938(WO,A1)
【文献】特開平05-310106(JP,A)
【文献】特許第5954555(JP,B2)
【文献】特開2006-232117(JP,A)
【文献】特開2001-008306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00ー60/00
B60K 31/00
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
F02D 29/00-29/06
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
G08G 1/00- 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータジェネレータを有する駆動装置と、摩擦制動力を車両に付与する制動装置と、を制御することにより、前記車両の走行速度を自動的に調整する車両用制御装置であって、
前記車両の目標加速度及び前記車両の実加速度の偏差が小さくなるように、前記偏差に基づき演算されるフィードバック制御量を用いて、前記駆動装置及び前記制動装置をフィードバック制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記偏差を入力とするフィードバック制御によって、当該偏差を小さくするためのフィードバック制御量を演算し、
前記フィードバック制御量の単位時間あたりの変化量である時間変化量の上限値を、前記駆動装置及び前記制動装置のうち前記駆動装置のみが作動する第1状態から少なくとも前記制動装置が作動する第2状態に切り替わる場合には、切り替わりの開始以前よりも小さくし、
前記フィードバック制御量の前記時間変化量が前記上限値を超えないように、前記フィードバック制御量を調整し、
調整した当該フィードバック制御量を用いて、前記駆動装置及び前記制動装置をフィードバック制御する
車両用制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記偏差が「0」を含む範囲に設定される不感帯にあるときには前記偏差を「0」として前記フィードバック制御量を演算するものであり、
前記制御部は、前記第1状態から前記第2状態に切り替わる場合には、切り替わりの開始以前よりも、前記不感帯の幅を広くする
請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記駆動装置は、回生制動力を前記車両に付与するものであって、
前記第1状態は、前記駆動装置が前記回生制動力を前記車両に付与する状態であり、
前記第2状態は、前記回生制動力の大きさを減少させつつ前記摩擦制動力の大きさを増大させる状態を含む
請求項1又は請求項2に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動装置と、制動装置と、駆動装置及び制動装置を制御することにより自動運転制御を実施する自動運転制御装置と、を備える車両が記載されている。この自動運転制御装置は、目標加速度と実加速度との偏差を解消するために、駆動装置及び制動装置をフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような自動運転制御の実施中には、駆動装置が作動する状態から制動装置が作動する状態に切り替わる場合がある。この場合には、駆動装置及び制動装置の応答特性の差異に起因して、車両の実加速度が変動するおそれがある。その結果、車両の乗員に違和感を与えるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する車両用制御装置は、モータジェネレータを有する駆動装置と、摩擦制動力を車両に付与する制動装置と、を制御することにより、前記車両の走行速度を自動的に調整する車両用制御装置であって、前記車両の目標加速度及び前記車両の実加速度の偏差が小さくなるように、前記偏差に基づき演算されるフィードバック制御量を用いて、前記駆動装置及び前記制動装置をフィードバック制御する制御部を備え、前記制御部は、前記駆動装置及び前記制動装置のうち前記駆動装置のみが作動する第1状態から少なくとも前記制動装置が作動する第2状態に切り替わる場合には、切り替わりの開始以前よりも、前記フィードバック制御において許容する前記偏差が大きくなるように、前記フィードバック制御量を演算する。
【0006】
制動装置の応答特性は、モータジェネレータを有する駆動装置の応答特性よりも遅れが生じやすいことが一般的である。このため、駆動装置及び制動装置のうち駆動装置のみが作動する第1状態から少なくとも制動装置が作動する第2状態に切り替わる場合には、駆動装置及び制動装置の応答特性の差異に起因して、車両の実加速度が変動するおそれがある。この点、上記構成を備える車両用制御装置は、フィードバック制御の実施時において、第1状態から第2状態に切り替わる場合には、切り替わりの開始以前よりも、フィードバック制御において許容する偏差が大きくなるように、フィードバック制御量を演算する。したがって、第1状態から第2状態に切り替わる際に実加速度の変化が生じにくくなるため、実加速度の変動が抑制される。その結果、車両用制御装置は、車両の乗員に違和感を与えることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、走行制御装置を備える車両の概略構成を示す模式図である。
【
図3】
図3の(a)~(e)は、すり替え制御の実施中における各種のパラメータの推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、車両用制御装置を走行制御装置に具体化した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態において、走行制御装置を搭載する車両は、電気自動車である。
【0009】
<車両10>
図1に示すように、車両10は、車輪20と、制動機構30と、駆動装置40と、制動装置50と、運転支援装置60と、走行制御装置100と、車輪速センサSE1と、を備える。
図1は、車両10の構成要素の一部の図示を省略している。
【0010】
<制動機構30>
制動機構30は、車輪20と一体回転する回転体31と、車輪20と一体回転しない摩擦材32と、液圧に応じて摩擦材32を回転体31に向けて変位させるホイールシリンダ33と、を有する。
【0011】
制動機構30は、ホイールシリンダ33の液圧が高いほど、摩擦材32を回転体31に強く押し付ける。そして、制動機構30は、摩擦材32を回転体31に押し付ける力が大きいほど大きい摩擦制動力Fbfを車輪20に付与する。制動機構30は、車輪20ごとに設けられている。例えば、車両10が四輪車である場合、車両10は、4つの車輪20と対応する4つの制動機構30を備える。
【0012】
<駆動装置40>
駆動装置40は、モータジェネレータ41と、モータジェネレータ41を制御する駆動制御部42と、を有する。
【0013】
モータジェネレータ41を電動機として機能させる場合、モータジェネレータ41は、車両10を走行させるための駆動力Fdを車輪20に付与する。すなわち、モータジェネレータ41は、車両10の動力源として機能する。一方、モータジェネレータ41を発電機として機能させる場合、モータジェネレータ41は、車輪20の回転速度に応じて発電する。このとき、モータジェネレータ41は、車両10を減速させる回生制動力Fbrを車輪20に付与する。
【0014】
駆動制御部42は、走行制御装置100から要求される要求駆動力Fdqに基づいて、モータジェネレータ41に駆動力Fdを発生させる。また、駆動制御部42は、制動制御部52から要求される要求回生制動力Fbrqに基づいて、モータジェネレータ41に回生制動力Fbrを発生させる。例えば、車両10が四輪車である場合、車両10は、前輪用のモータジェネレータ及び後輪用のモータジェネレータを備えていればよい。
【0015】
<制動装置50>
制動装置50は、ホイールシリンダ33の液圧を調整する制動アクチュエータ51と、制動アクチュエータ51を制御する制動制御部52と、を有する。
【0016】
制動アクチュエータ51は、ホイールシリンダ33に対するブレーキ液の供給量を調整することで、ホイールシリンダ33の液圧を調整する。制動アクチュエータ51は、車輪20に対応する数のホイールシリンダ33の液圧を個別に調整可能であることが好ましい。制動装置50の応答特性は、液圧の調整が必要である点で、駆動装置40の応答特性よりも低くなっている。例えば、駆動装置40及び制動装置50に対する指令値として、同じ大きさのステップ関数を入力する場合を想定する。この場合、駆動装置40では、ステップ関数の大きさに応じた回生制動力Fbrが出力されるまでの応答遅れが小さい一方、制動装置50では、ステップ関数の大きさに応じた摩擦制動力Fbfが出力されるまでの応答遅れが大きくなりやすい。
【0017】
制動制御部52は、要求制動力Fbqを回生制動力Fbr及び摩擦制動力Fbfに配分する。詳しくは、制動制御部52は、走行制御装置100から要求される要求制動力Fbqに基づいて、モータジェネレータ41に出力させる要求回生制動力Fbrq及び制動アクチュエータ51に出力させる要求摩擦制動力Fbfqを演算する。そして、制動制御部52は、要求回生制動力Fbrqを駆動制御部42に要求する一方で、要求摩擦制動力Fbfqに基づいて、制動アクチュエータ51に摩擦制動力Fbfを発生させる。
【0018】
制動制御部52は、モータジェネレータ41が回生制動力Fbrを出力できる状況下では、回生エネルギーの回収効率を高めるために、要求制動力Fbqに占める要求回生制動力Fbrqの配分比率αを高くする。その一方で、制動制御部52は、制動中の車両10が停止しようとする場合には、回生制動力Fbrを摩擦制動力Fbfにすり替えるすり替え制御を実施する。制動制御部52は、すり替え制御において、要求回生制動力Fbrqの大きさを次第に小さくするとともに要求摩擦制動力Fbfqの大きさを次第に大きくする。
【0019】
すり替え制御の実施前の配分比率αは「100%」以下であって「0%」よりも大きい。すり替え制御の実施中の配分比率αは徐々に小さくなる。すり替え制御の実施後の配分比率αは、すり替え制御の実施前の配分比率αよりも小さくなる。例えば、すり替え制御の実施により、配分比率αは、「100%」から「0%」になる。すり替え制御は、例えば、車体速度Vbが所定の判定速度Vbth未満となるときに開始すればよく、車体速度Vbが「0」になるまでに終了すればよい。他の実施形態において、配分比率αは、段階的に小さくしてもよい。
【0020】
制動制御部52は、車両10に摩擦制動力Fbfが付与されているか否かを示す摩擦制動介入フラグFLGを走行制御装置100に送信する。摩擦制動介入フラグFLGは、車両10に摩擦制動力Fbfが付与されている期間にオンとなり、車両10に摩擦制動力Fbfが付与されていない期間にオフとなる。
【0021】
すり替え制御が実施される場合には、駆動装置40及び制動装置50のうち駆動装置40のみが駆動される第1状態から、少なくとも制動装置50が駆動される第2状態に切り替わる。第1状態は、すり替え制御が開始される前の状態である。詳しくは、第1状態は、駆動装置40が回生制動力Fbrを車両10に付与している一方で、制動装置50が摩擦制動力Fbfを車両10に付与していない状態である。第2状態は、すり替え制御が実施されている状態を含む。詳しくは、第2状態は、第1状態よりも駆動装置40の出力の大きさが小さくされ且つ制動装置50の出力の大きさが大きくされる状態を含む。言い換えれば、第2状態は、すり替え制御が開始される前よりも、駆動装置40の出力する回生制動力Fbrの大きさが小さくなり、制動装置50の出力する摩擦制動力Fbfの大きさが大きくなっている状態を含む。本実施形態では、第1状態は、摩擦制動介入フラグFLGがオフである状態に相当し、第2状態は、摩擦制動介入フラグFLGがオンである状態に相当する。
【0022】
<運転支援装置60>
運転支援装置60は、車両10を自動的に走行させるための自動運転制御を実施する。
図1及び
図2に示すように、運転支援装置60は、各種の運転情報に基づいて、自動運転制御に要求する要求値Rcを演算する。本実施形態において、要求値Rcは、車両10の前後方向に作用する力を示す前後力の要求値である。要求値Rcが正の値である場合、運転支援装置60が車両10の加速を要求していることを示し、要求値Rcが負の値である場合、運転支援装置60が車両10の減速を要求していることを示している。また、運転情報は、例えば、車両10の位置に関する情報、車両10の周囲に関する情報及び車両10の走行状態に関する情報などを含む。
【0023】
<走行制御装置100>
図2に示すように、走行制御装置100は、目標加速度演算部101と、実加速度演算部102と、加速度偏差演算部103と、フィードバック制御部104と、変換部105と、前後力制御部106と、を備える。フィードバック制御部104は、「制御部」の一例に相当し、不感帯設定部111と、PI制御部112と、変化量制限部113と、を有する。走行制御装置100は、運転支援装置60の要求値Rcに基づいて、駆動装置40及び制動装置50を制御することにより、車両10の走行速度を自動的に調整する。
【0024】
目標加速度演算部101は、運転支援装置60の要求値Rcに基づいて、車両10の目標加速度Gtを演算する。具体的には、目標加速度演算部101は、前後力である要求値Rcを加速度の次元に変換することによって、目標加速度Gtを演算する。車両10の加速が要求されている場合、目標加速度Gtは正の値となり、車両10の減速が要求されている場合、目標加速度Gtは負の値となる。
【0025】
実加速度演算部102は、車輪速センサSE1の検出結果に基づいて車輪速度Vw及び車体速度Vbを演算する。そして、実加速度演算部102は、車体速度Vbを時間微分することにより、車両10の実際の加速度を演算する。以降の説明では、車両10の実際の加速度を「実加速度Ga」という。
【0026】
加速度偏差演算部103は、目標加速度演算部101が演算した目標加速度Gtから実加速度演算部102が演算した実加速度Gaを差し引くことで、加速度の偏差hGを演算する。
【0027】
フィードバック制御部104の不感帯設定部111は、加速度偏差演算部103が演算した加速度の偏差hGの「0」を含む範囲に対して不感帯を設定する。以降の説明では、不感帯を設定した後の偏差を、不感帯を設定する前の偏差hGと区別して「偏差hH」とする。
【0028】
不感帯設定部111は、偏差hGが不感帯に含まれている場合、偏差hHを「0」とする。不感帯設定部111は、偏差hGが不感帯の上限値よりも大きい場合、偏差hHを正の値とする。具体的には、不感帯設定部111は、偏差hGが不感帯の上限値よりも大きい場合、偏差hGが大きいほど偏差hHを大きくする。一方、不感帯設定部111は、偏差hGが不感帯の下限値よりも小さい場合、偏差hHを負の値とする。具体的には、不感帯設定部111は、偏差hGが不感帯の下限値よりも小さい場合、偏差hGが小さいほど偏差hHを小さくする。
【0029】
不感帯設定部111は、摩擦制動介入フラグFLGがオフの場合、不感帯の幅Whを第1の幅Wh1とする。一方、不感帯設定部111は、摩擦制動介入フラグFLGがオンの場合、不感帯の幅Whを第1の幅Wh1よりも広い第2の幅Wh2とする。第1の幅Wh1は、駆動装置40の応答特性に応じた幅であり、制動装置50の応答特性に応じた幅よりも狭くなっている。一方、第2の幅Wh2は、制動装置50の応答特性に応じた幅となっている。こうして、不感帯設定部111は、駆動装置40のみが作動する第1状態から少なくとも制動装置50が作動する第2状態に切り替わる場合には、切り替わりの開始以前よりも、不感帯の幅Whを広くする。
【0030】
なお、
図2では、摩擦制動介入フラグFLGがオフの場合における偏差hHと偏差hGとの関係が実線で示されている。一方、摩擦制動介入フラグFLGがオンの場合における偏差hHと偏差hGとの関係が破線で示されている。
【0031】
フィードバック制御部104のPI制御部112は、偏差hHを小さくするためのフィードバック制御量Siを演算する。すなわち、フィードバック制御量Siは、偏差hHを入力とするフィードバック制御によって演算される値である。本実施形態において、フィードバック制御は、比例制御及び積分制御を含んでいる。そのため、フィードバック制御量Siは、比例ゲインKpと偏差hHの積と、積分ゲインKiと偏差hHの時間積分の積と、を足し合わせた値となる。
【0032】
フィードバック制御部104の変化量制限部113は、PI制御部112が演算したフィードバック制御量Siの単位時間あたりの変化量である時間変化量dSに制限を設ける。つまり、変化量制限部113は、フィードバック制御量Siを入力としてフィードバック制御量Shを出力とするレートリミッタである。
図2に実線で示すように、フィードバック制御量Siがステップ状に変化する場合には、一点鎖線及び二点鎖線で示すように、フィードバック制御量Shの時間変化量dSが小さくされる。
【0033】
変化量制限部113は、摩擦制動介入フラグFLGがオフの場合、フィードバック制御量Siの時間変化量dSの上限値を第1の上限値dS1とする。
図2の変化量制限部113における一点鎖線は、第1の上限値dS1を示している。一方、変化量制限部113は、摩擦制動介入フラグFLGがオンの場合、フィードバック制御量Siの時間変化量dSの上限値を第1の上限値dS1よりも勾配の小さい第2の上限値dS2とする。
図2の変化量制限部113における二点鎖線は、第2の上限値dS2を示している。こうして、変化量制限部113は、摩擦制動介入フラグFLGがオンの場合には、摩擦制動介入フラグFLGがオフの場合よりも、フィードバック制御量Shの時間変化量dSを小さくする。言い換えれば、変化量制限部113は、駆動装置40のみが作動する第1状態から少なくとも制動装置50が作動する第2状態に切り替わる場合には、切り替わりの開始以前よりも、フィードバック制御量Shの時間変化量dSを小さくする。
【0034】
なお、第1の上限値dS1及び第2の上限値dS2は、フィードバック制御量Siの時間変化量dSが正の値を取る場合には正の値に設定され、フィードバック制御量Siの時間変化量dSが負の値を取る場合には負の値に設定される。この点で、変化量制限部113は、フィードバック制御量Siの時間経過に対する変化勾配を緩勾配とすることにより、フィードバック制御量Siの時間変化量dSを制限している。
【0035】
変換部105は、変化量制限部113によって変化量が制限されたフィードバック制御量Shを要求値Rcと同じ次元に変換する。本実施形態において、変換部105は、加速度の次元のフィードバック制御量Shを前後力の次元のフィードバック制御量に変換する。以降の説明では、変換後のフィードバック制御量を「補償値Rh」とする。
【0036】
前後力制御部106は、要求値Rcと補償値Rhとの和に基づいて、駆動装置40及び制動装置50を制御する。以降の説明では、要求値Rcと補償値Rhとの和を「補正後要求値Rd」とする。前後力制御部106は、補正後要求値Rdが正の値である場合、補正後要求値Rdの大きさに応じた要求駆動力Fdqを駆動装置40に要求する。この場合、要求駆動力Fdqに応じた駆動力Fdが車両10に付与される。一方、前後力制御部106は、補正後要求値Rdが負の値である場合、補正後要求値Rdの大きさに応じた要求制動力Fbqを制動装置50に要求する。この場合、回生制動力Fbrと摩擦制動力Fbfとの和が要求制動力Fbqと等しくなるように、車両10に制動力Fbが付与される。
【0037】
<本実施形態の作用及び効果>
図3(a)~(e)を参照して、すり替え制御の実施中における各種のパラメータの推移について説明する。
【0038】
図3(a)~(e)に示すように、目標加速度Gtが負の値である場合には、車両10に制動力Fbが付与される。目標加速度Gtが一定、つまり、要求制動力Fbqが一定であるため、車体速度Vbは次第に低下する。
【0039】
車体速度Vbが判定速度Vbthよりも大きい第1のタイミングt11では、車両10に付与される制動力Fbは回生制動力Fbrのみであるため、摩擦制動介入フラグFLGはオフである。このため、第1のタイミングt11において、不感帯の幅Whは第1の幅Wh1であり、フィードバック制御量Siの時間変化量dSの上限値は第1の上限値dS1である。
【0040】
車体速度Vbの低下によって、第2のタイミングt12で車体速度Vbが判定速度Vbthになると、すり替え制御が開始される。つまり、第2のタイミングt12で、摩擦制動介入フラグFLGがオンになる。すると、すり替え制御によって、回生制動力Fbrの大きさが次第に小さくなり、摩擦制動力Fbfの大きさが次第に大きくなる。言い換えれば、回生制動力Fbrの配分比率αが次第に減少する。また、第2のタイミングt12は、すり替え制御が開始される点で、駆動装置40のみが作動する第1状態から少なくとも制動装置50が作動する第2状態に切り替わるタイミングに相当する。
【0041】
上述したように、制動装置50の応答特性は、駆動装置40の応答特性よりも低くなっている。このため、すり替え制御の実施中において、要求回生制動力Fbrqと駆動装置40の出力する回生制動力Fbrとの乖離は起きにくい。これに対し、すり替え制御の実施中において、要求摩擦制動力Fbfqと制動装置50の出力する摩擦制動力Fbfとの乖離は起きやすい。したがって、すり替え制御の実施中に、制動装置50の応答特性に起因して発生する偏差hGを補償するためのフィードバック制御が実施されると、車両10の実加速度Gaが周期的に振動するおそれがある。
【0042】
そこで、本実施形態では、第2のタイミングt12において、摩擦制動介入フラグFLGがオンになると、不感帯の幅Whが第1の幅Wh1よりも広い第2の幅Wh2となる。その結果、偏差hGが「0」近傍の値である場合に、偏差hHが「0」になりやすくなる。そのため、こうした偏差hHを用いてフィードバック制御量Siを演算する際の比例項は「0」になりやすく、フィードバック制御量Siの絶対値が大きくなりにくい。こうしたフィードバック制御量Siに基づいて摩擦制動力Fbf及び回生制動力Fbrを調整することにより、すり替え制御の実施中に車両10の実加速度Gaが周期的に振動することが抑制される。
【0043】
また、すり替え制御の実施時には、偏差hGを解消するために、フィードバック制御量Siが急に変化する場合がある。この場合、実加速度Gaの時間変化量であるジャークが過大となることで、車両10の乗り心地が悪化するおそれがある。さらに、すり替え制御の実施時において、フィードバック制御量Siの急な変化に対して、制動アクチュエータ51の応答性が低いと、要求摩擦制動力Fbfqと摩擦制動力Fbfとの乖離が生じるおそれがある。
【0044】
そこで、本実施形態では、摩擦制動介入フラグFLGがオンになると、フィードバック制御量Siの時間変化量dSの上限値が第1の上限値dS1よりも小さな第2の上限値dS2となる。その結果、ジャークが過大になることが抑制され、車両10の乗り心地が悪化しにくくなる。また、要求制動力Fbqの設定に用いるフィードバック制御量Shの変化量が大きくなりにくい点で、制動アクチュエータ51の応答性が低い場合であっても、要求摩擦制動力Fbfqと摩擦制動力Fbfとの乖離が生じることが抑制される。
【0045】
車体速度Vbが「0」よりも大きな第3のタイミングt13になると、車両10に付与される制動力Fbは、摩擦制動力Fbfのみとなる。つまり、第3のタイミングt13では、車両10が停止する前にすり替え制御が完了する。ただし、摩擦制動介入フラグFLGはオンのままであるため、第3のタイミングt13以降も、不感帯の幅Whは第2の幅Wh2である状態が維持され、フィードバック制御量Siの時間変化量dSの上限値が第2の上限値dS2である状態が維持される。その後、車体速度Vbが「0」になる第4のタイミングt14になると、車両10が停止する。
【0046】
図3に示す場合では、第2のタイミングt12から第3のタイミングt13までのすり替え制御の実施期間だけでなく、第3のタイミングt13以降のすり替え制御の完了後の期間においても、制動装置50が摩擦制動力Fbfを車両10に付与している。このため、第2のタイミングt12以降の状態は、第2状態に相当している。
【0047】
以上より、すり替え制御を開始する場合には、すり替え制御の開始以前と比較して、フィードバック制御において許容する偏差hGが大きくなるように、フィードバック制御量Shが演算される。つまり、駆動装置40のみが作動する第1状態から少なくとも制動装置50が作動する第2状態に切り替わる場合には、切り替わりの開始以前と比較して、フィードバック制御において許容する偏差hGが大きくなるように、フィードバック制御量Shが演算される。その結果、実加速度Gaの変動が抑制され、車両10の乗り心地が向上される。
【0048】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0049】
・走行制御装置100において、目標加速度Gtが「0」である状態が続く場合、駆動装置40が車両10に駆動力Fdを付与する状態及び制動装置50が車両10に制動力Fbを付与する状態が短期間で交互に切り替わる場合が考えられる。言い換えれば、駆動装置40のみが作動される第1状態及び少なくとも制動装置50が作動される第2状態が短期間に繰り返される場合が考えられる。ここで、第1状態とは、駆動装置40が車両10に駆動力Fdを付与する状態である。第2状態とは、第1状態よりも駆動装置40が車両10に付与する駆動力Fdの大きさが小さくされ且つ制動装置50が車両10に付与する摩擦制動力Fbfの大きさが大きくされる状態である。
【0050】
このように第1状態から第2状態に切り替わる場合には、走行制御装置100は、切り替わりの開始以前よりも、フィードバック制御において許容する偏差hGが大きくなるように、フィードバック制御量Shを演算してもよい。詳しくは、走行制御装置100は、第1状態から第2状態に切り替わる場合には、切り替わりの開始以前よりも、不感帯の幅Whを広げたり、フィードバック制御量Siの時間変化量dSを小さくしたりしてもよい。このように、第1状態から第2状態への切り替わりは、駆動力Fdの大きさの減少及び摩擦制動力Fbfの大きさの増大を伴うものも含む。
【0051】
・すり替え制御は、すり替え制御の開始時点における回生制動力Fbrの全てが摩擦制動力Fbfに置き換わるまで継続するとは限らない。言い換えれば、すり替え制御は、すり替え制御の開始時点における回生制動力Fbrの一部を摩擦制動力Fbfに置き換える制御であればよい。
【0052】
・すり替え制御の実施中、要求制動力Fbqは一定である必要はない。
・運転支援装置60の要求値Rcは、前後力と相関する値であればよい。例えば、運転支援装置60の要求値Rcは、加速度であってもよい。この場合、走行制御装置100は、目標加速度Gtを演算する必要がない点で目標加速度演算部101を備えなくてもよく、フィードバック制御量Siの次元を揃える必要がなくなる点で変換部105を備えなくてもよくなる。
【0053】
・不感帯設定部111は、摩擦制動介入フラグFLGがオンの場合に不感帯を設定し、摩擦制動介入フラグFLGがオフの場合に不感帯を設定しなくてもよい。
・不感帯設定部111は、摩擦制動介入フラグFLGがオフからオンになる場合、不感帯の幅Whを第1の幅Wh1から第2の幅Wh2にステップ状に変化させなくてもよい。例えば、不感帯設定部111は、不感帯の幅Whを第1の幅Wh1から第2の幅Wh2に徐変させてもよい。摩擦制動介入フラグFLGがオンからオフになる場合についても同様である。
【0054】
・不感帯設定部111は、不感帯の幅Whを第2の幅Wh2とした場合であっても、偏差hGが大きくなる場合には、不感帯の幅Whを第1の幅Wh1に戻してもよい。偏差hGが大きくなる場合とは、偏差hGの大きさが所定の値よりも大きくなる場合又は偏差hGが第1の幅Wh1には収まらないものの第2の幅Wh2には収まる状態が所定期間にわたって継続する場合である。不感帯の幅Whを第1の幅Wh1に戻す場合には、積分項がリセットされることが好ましい。
【0055】
・変化量制限部113は、摩擦制動介入フラグFLGがオンの場合にフィードバック制御量Siの時間変化量dSに制限を設け、摩擦制動介入フラグFLGがオフの場合にフィードバック制御量Siの時間変化量dSに制限を設けなくてもよい。
【0056】
・変化量制限部113は、摩擦制動介入フラグFLGがオフからオンになる場合、フィードバック制御量Siの時間変化量dSの上限値を第1の上限値dS1から第2の上限値dS2にステップ状に変化させなくてもよい。例えば、変化量制限部113は、時間変化量dSの上限値を第1の上限値dS1から第2の上限値dS2に徐変させてもよい。摩擦制動介入フラグFLGがオンからオフになる場合についても同様である。
【0057】
・変化量制限部113は、フィードバック制御量Siの時間変化量dSの上限値を第2の上限値dS2とした場合であっても、偏差hGが大きくなる場合には、フィードバック制御量Siの時間変化量dSの上限値を第1の上限値dS1に戻してもよい。フィードバック制御量Siの時間変化量dSの上限値を第1の上限値dS1に戻す場合には、積分項がリセットされることが好ましい。
【0058】
・車両10において、目標加速度Gtが負の値且つ絶対値が大きい場合には、回生制動力Fbrだけではなく、摩擦制動力Fbfも車両10に付与される場合がある。言い換えれば、駆動装置40及び制動装置50の双方が作動する場合がある。この場合、すり替え制御の開始以前の状態が第2状態になっているといえる。そのため、不感帯設定部111は、不感帯の幅Whを第2の幅Wh2に設定し、変化量制限部113は、フィードバック制御量Siの時間変化量dSの上限値を第2の上限値dS2に設定することが好ましい。したがって、この場合には、フィードバック制御部104は、すり替え制御が開始される場合であっても、不感帯の幅Whを変更したり、フィードバック制御量Siの時間変化量dSを変更したりする必要はない。
【0059】
・前後力制御部106は、制動制御部52の代わりに、要求制動力Fbqを回生制動力Fbr及び摩擦制動力Fbfに配分してもよい。この場合、前後力制御部106は、駆動装置40に要求回生制動力Fbrqを要求し、制動装置50に要求摩擦制動力Fbfqを要求する。
【0060】
・走行制御装置100は、不感帯設定部111及び変化量制限部113の少なくとも一方を備えていればよい。
・上記実施形態では、フィードフォワード項である要求値Rcと、フィードバック項である補償値Rhとを用いて要求制動力Fbqや要求駆動力Fdqを設定しているが、これに限らない。要求制動力Fbqや要求駆動力Fdqの設定に補償値Rhを用いるのであれば、要求値Rc及び補償値Rhのうちの補償値Rhのみを用いて要求制動力Fbqや要求駆動力Fdqを設定してもよい。
【0061】
・制動機構30は、ドラムブレーキのように車輪20に摩擦材32を押し付けることによって摩擦制動力Fbfを発生させてもよい。
・車両10が備える車輪20の数は任意である。例えば、車両10は、二輪車であってもよいし、四輪車であってもよい。
【0062】
・走行制御装置100は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。例えば、上記各実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路を備えてもよい。専用のハードウェア回路としては、例えば、ASICを挙げることができる。ASICとは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記である。すなわち、走行制御装置100は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。
【0063】
(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROMなどのプログラム格納装置とを備えている。
(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置及びプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0064】
(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備えている。ここで、処理装置及びプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置、及び、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
10…車両
20…車輪
30…制動機構
40…駆動装置
50…制動装置
60…運転支援装置
100…走行制御装置(車両用制御装置の一例)
101…目標加速度演算部
102…実加速度演算部
103…加速度偏差演算部
104…フィードバック制御部(制御部の一例)
105…変換部
106…前後力制御部
111…不感帯設定部
112…PI制御部
113…変化量制限部