(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】検卵装置、検卵プログラム、および検卵方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20231221BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20231221BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20231221BHJP
G06N 3/04 20230101ALI20231221BHJP
G06N 3/08 20230101ALI20231221BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01N21/88 J
G06N20/00 130
G06N3/04
G06N3/08
(21)【出願番号】P 2021527746
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020025099
(87)【国際公開番号】W WO2020262557
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019121424
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】大西 英希
(72)【発明者】
【氏名】松原 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 一範
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-13587(JP,A)
【文献】特開2007-212155(JP,A)
【文献】特開2004-101204(JP,A)
【文献】特表2019-511908(JP,A)
【文献】国際公開第2010/074572(WO,A1)
【文献】特表平5-501918(JP,A)
【文献】PATEL, V. C. et al.,Color Computer Vision and Artificial Neural Networks for the Detection of Defects in Poultry Eggs,Artificial Intelligence Review,1998年,12,163-176
【文献】満留 大輔 他,画像処理を用いた優良卵の判定,第50回 システム制御情報学会研究発表講演会講演論文集,2008年05月10日,6W4-4,395-396,全文,
図1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G06N 20/00 - G06N 20/20
G06N 3/00 - G06N 3/126
G01N 33/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクチン製造に供される有精卵の検卵装置であって、
卵の血管の状態を特徴として分類された第1学習データ群を教師データとして予め作成された第1学習済みモデルを用いて、検査対象卵が無精卵および中止卵であるかを判別する第1判別手段と、
卵の気室の状態を特徴として分類された第2学習データ群を教師データとして予め作成された第2学習済みモデルを用いて、検査対象卵が逆さ卵および気室不良卵であるかを判別する第2判別手段と、
卵の発育の状態を特徴として分類された第3学習データ群を教師データとして予め作成された第3学習済みモデルを用いて、検査対象卵が発育不良卵であるかを判別する第3判別手段と、
卵のひびの有無を特徴として分類された第4学習データ群を教師データとして予め作成された第4学習済みモデルを用いて、検査対象卵がひび有り卵であるかを判別する第4判別手段と、
検査対象卵に光を照射して検査対象卵の画像を撮像する撮像手段と、
制御手段とを有し、
前記制御手段は、前記検査対象卵の画像に基づいて前記第1ないし第4の判別手段を実行することにより、前記検査対象卵が正常卵であるか不良卵であるかを判別すると共に、不良卵の不良要因を特定する、検卵装置。
【請求項2】
ワクチン製造に供される有精卵の検卵装置であって、
中止卵を判別するための卵の血管の状態を特徴として分類された学習データ群を教師データとして予め作成された第1学習済みモデルを用いて、検査対象卵が中止卵であるかを判別する第1判別手段と、
無精を判別するための卵の血管の状態を特徴として分類された学習データ群を教師データとして予め作成された第2学習済みモデルを用いて、検査対象卵が無精卵であるかを判別する第2判別手段と、
気室不良卵を判別するための気室の状態を特徴として分類された学習データ群を教師データとして予め作成された第3学習済みモデルを用いて、検査対象卵が気室不良卵であるかを判別する第3判別手段と、
逆さ卵を判別するための気室の状態を特徴として分類された学習データ群を教師データとして予め作成された第4学習済みモデルを用いて、検査対象卵が逆さ卵であるかを判別する第4判別手段と、
発育不良卵を判別するための気室の状態を特徴として分類された学習データ群を教師データとして予め作成された第5学習済みモデルを用いて、検査対象卵が発育不良卵であるかを判別する第5判別手段と、
卵のひびの有無を特徴として分類された学習データ群を教師データとして予め作成された第6学習済みモデルを用いて、検査対象卵がひび有り卵であるかを判別する第6判別手段と、
正常卵を判別するために分類された学習データ群を教師データとして予め作成された第7学習済みモデルを用いて、検査対象卵が正常卵であるかを判別する第7判別手段と、
検査対象卵に光を照射して検査対象卵の画像を撮像する撮像手段と、
制御手段とを有し、
前記制御手段は、前記検査対象卵の画像に基づいて前記第1ないし第7の判別手段を実行することにより、前記検査対象卵が正常卵であるか不良卵であるかを判別すると共に、不良卵の不良要因を特定する、検卵装置。
【請求項3】
前記制御手段は、1つの検査対象卵において複数の不良要因を判別することができる、請求項1または2に記載の検卵装置。
【請求項4】
前記検査対象卵が載せられる支持台をさらに有し、前記支持台を回転させることで、前記撮像手段により複数の方向から検査対象卵を撮像することができる、請求項1ないし3のいずれかに記載の検卵装置。
【請求項5】
前記撮像手段による撮像時に前記検査対象卵が内部に配置される暗室と、前記検査対象卵に上側から当接する筒状部材と、前記筒状部材内から前記検査対象卵に上側から光を照射する第1の照明装置と、前記検査対象卵に下側から光を照射する第2の照明装置とを有する、請求項1ないし4のいずれかに記載の検卵装置。
【請求項6】
前記検査対象卵を前記暗室に配置するために、前記支持台を昇降する昇降装置を有する、請求項5に記載の検卵装置。
【請求項7】
前記制御装置が、前記不良要因ごとの発生頻度を集計する機能を有する、請求項1ないし6のいずれかに記載の検卵装置。
【請求項8】
コンピュータに、
ワクチン製造に供される有精卵である検査対象卵に光を照射して前記検査対象卵の画像を取得し、
卵の血管の状態を特徴として分類された第1学習データ群を教師データとして予め作成された第1学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が無精卵および中止卵であるかを判別し、
卵の気室の状態を特徴として分類された第2学習データ群を教師データとして予め作成された第2学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が、逆さ卵および気室不良卵であるかを判別し、
卵の発育の状態を特徴として分類された第3学習データ群を教師データとして予め作成された第3学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が、発育不良卵であるかを判別し、
卵のひびの有無を特徴として分類された第4学習データ群を教師データとして予め作成された第4学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が、ひび有り卵であるかを判別することで、
前記検査対象卵が正常卵であるか不良卵であるかを判別すると共に、不良卵の不良要因を特定する処理を実行させる、検卵プログラム。
【請求項9】
コンピュータを用いて、
ワクチン製造に供される有精卵である検査対象卵に光を照射して前記検査対象卵の画像を取得し、
卵の血管の状態を特徴として分類された第1学習データ群を教師データとして予め作成された第1学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が無精卵および中止卵であるかを判別し、
卵の気室の状態を特徴として分類された第2学習データ群を教師データとして予め作成された第2学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が、逆さ卵および気室不良卵であるかを判別し、
卵の発育の状態を特徴として分類された第3学習データ群を教師データとして予め作成された第3学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が、発育不良卵であるかを判別し、
卵のひびの有無を特徴として分類された第4学習データ群を教師データとして予め作成された第4学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が、ひび有り卵であるかを判別することで、
前記検査対象卵が正常卵であるか不良卵であるかを判別すると共に、不良卵の不良要因を特定する、検卵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検卵装置、検卵プログラム、および検卵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有精卵に光を照射して卵内部を透かした状態の画像を撮像し、撮像した画像から検査領域を抽出し、該検査領域内の血管情報を計測し、一定の太さ以上の血管の総血管長に基づいて正常卵を自動判定する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、検査対象卵が、正常卵であるか不良卵であるかを判定することはできたが、不良卵である場合、不良の要因までを高い精度で特定することができないという問題があった。近年、不良の要因を検証することで、鶏や卵の飼育条件やワクチン生産条件の改善に活用するニーズがあり、不良の要因を高い精度で特定できる技術が希求されていた。
【0005】
本発明は、不良卵の不良の要因を高い精度で特定することができる、検卵装置、検卵プログラム、および検卵方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る検卵装置は、卵の画像を教師データとして予め作成された第1学習済みモデルを用いて、卵が第1の不良要因を有するかを判別する第1判別手段と、卵の画像を教師データとして予め作成された、前記第1学習済みモデルとは異なる第2学習済みモデルを用いて、卵が、前記第1の不良要因とは異なる第2の不良要因を有するかを判別する第2判別手段と、検査対象卵に光を照射して検査対象卵の画像を撮像する撮像手段と、制御手段とを有し、前記制御手段は、前記検査対象卵の画像に基づいて、前記第1判別手段および前記第2判別手段に前記検査対象卵の不良要因を判別させることで、前記検査対象卵が不良要因を有するか否か判別し、前記検査対象卵が不良要因を有する場合には当該不良要因を判別する。
上記検卵装置において、前記制御手段は、前記検査対象卵の画像に基づいて、前記第1判別手段に、前記検査対象卵が前記第1の不良要因を有するかを判別させ、前記検査対象卵が前記第1の不良要因を有しない場合に、前記第2判別手段に、前記検査対象卵が前記第2の不良要因を有するかを判別させるように構成することができる。
上記検卵装置において、前記制御手段は、前記検査対象卵の画像に基づいて、前記第1判別手段に、前記検査対象卵が前記第1の不良要因を有するかを判別させ、前記検査対象卵が前記第1の不良要因を有するか否かに関わらず、前記第2判別手段に、前記検査対象卵が前記第2の不良要因を有するかも判別させるように構成することができる。
上記検卵装置において、前記第1判別手段は、前記第1の不良要因として、卵の血管の状態に基づく不良要因を判別し、前記第2判別手段は、前記第2の不良要因として、気室の状態、発育の状態、および、ひびの有無のうちいずれか1つに基づく不良要因を判別するように構成することができる。
上記検卵装置において、卵の画像を教師データとして予め作成された、前記第1学習済みモデルおよび前記第2学習済みモデルとは異なる第3学習済みモデルを用いて、前記第1の不良要因および前記第2の不良要因とは異なる第3の不良要因を有するかを判別する第3判別手段をさらに有するように構成することができる。
上記検卵装置において、卵の画像を教師データとして予め作成された、前記第1学習済みモデル、前記第2学習済みモデルおよび前記第3学習済みモデルとは異なる第4学習済みモデルを用いて、前記第1の不良要因、前記第2の不良要因、および前記第3の不良要因とは異なる第4の不良要因を有するかを判別する第4判別手段をさらに有するように構成することができる。
上記検卵装置において、前記第1の不良要因、前記第2の不良要因、前記第3の不良要因、および前記第4の不良要因は、それぞれ、血管の状態、気室の状態、発育の状態、および、ひびの有無に基づく不良要因であるように構成することができる。
上記検卵装置において、卵の画像を教師データとして予め作成された第5学習済みモデルを用いて、正常卵を判別するための第5判別手段をさらに有するように構成することができる。
上記検卵装置において、前記検査対象卵は、ワクチン製造に供される卵であるように構成することができる。
上記検卵装置において、不良要因ごとの発生頻度を集計する機能を有する構成とすることができる。
本発明に係る検卵プログラムは、コンピュータに、検査対象卵に光を照射して前記検査対象卵の画像を取得し、卵の画像を教師データとして予め作成された第1学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が第1の不良要因を有するか判別し、卵の画像を教師データとして予め作成された、前記第1学習済みモデルとは異なる第2学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が、前記第1の不良要因とは異なる第2の不良要因を有するかを判別することで、前記検査対象卵が不良要因を有するか否か判別し、前記検査対象卵が不良要因を有する場合には当該不良要因を判別する処理を実行させる。
本発明に係る検卵方法は、コンピュータを用いて、検査対象卵に光を照射して前記検査対象卵の画像を取得し、卵の画像を教師データとして予め作成された第1学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が第1の不良要因を有するか判別し、卵の画像を教師データとして予め作成された、前記第1学習済みモデルとは異なる第2学習済みモデルを用いて、前記検査対象卵が、前記第1の不良要因とは異なる第2の不良要因を有するかを判別することで、前記検査対象卵が不良要因を有するか否か判別し、前記検査対象卵が不良要因を有する場合には当該不良要因を判別する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、検査対象卵の不良要因を一度に判別するのではなく、第1学習済みモデルと、当該第1学習済みモデルとは異なる第2学習済みモデルとを別々に用いて検査対象卵の不良要因を判別することで、検査対象卵が不良要因を有するかを判別するだけではなく、検査対象卵が不良要因を有する場合に当該不良要因を高い精度で特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】十数日齢の正常な有精卵の構造を説明する模式図である。
【
図2】十数日齢の正常卵の撮像画像の一例を示す図である。
【
図3】十数日齢の不良卵(ひび有り卵を除く)の撮像画像の一例を示す図である。
【
図4】十数日齢の不良卵(ひび有り卵)の撮像画像の一例を示す図である。
【
図6】第1実施形態に係る検卵方法を説明するためのフローチャートである。
【
図7】第1実施形態に係る検卵方法を説明するための図である。
【
図8】第2実施形態に係る検卵方法を説明するためのフローチャートである。
【
図9】第2実施形態に係る検卵方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を、図に基づいて説明する。本発明は、ワクチンなどの製造に供される鶏卵(有精卵)を検査するための検卵装置、検卵プログラム、および検卵方法に関する発明である。本発明で検査対象とする卵は、鶏等の有精卵であり、卵表面の色は白・褐色など何でも良い。インフルエンザなどのウィルスの種類やその他薬品などの注入物の種類、それらの注入の有無は問わないが、成長とともに胎児の血管が卵内部で広く分布する有精卵において、その生死および発育状況を非破壊的に検査する場合に、本発明の技術的意義は大きいものとなる。
【0010】
《第1実施形態》
図1は、十数日齢の正常な有精卵の一般的な構造を説明する図である。発育鶏卵の外部構造は、卵殻と呼ばれる殻に覆われている。そのすぐ内側に卵殻膜があり、卵殻と卵殻膜を使用して、内部との酸素交換が行われる。卵殻のすぐ内側には太い血管がある。例えば発育鶏卵の内部構造は、卵先端部に空気の層である気室があり、中央部に羊水の入った羊膜に包まれた胎児がある。胎児と気室の間には、漿尿膜に包まれた漿尿膜腔がある。十数日齢の正常に成育している有精卵の場合、漿尿膜腔が一定の大きさであり、漿尿膜には広く血管が分布する。
【0011】
図2は、十数日齢の正常卵の撮像画像の一例を示す。
図2に示す例では、暗室下において卵だけに光を照射することで、卵の内部が透けた状態で卵を撮像できるようになっている(
図3においても同様。)。十数日齢の正常に成育している有精卵の場合、漿尿膜腔が一定の大きさであり胎児が卵中央部付近に存在する、漿尿膜には広く血管が分布する、気室と漿尿膜腔の色合い(コントラスト)が明白に異なる、卵殻膜内、漿尿膜および漿尿膜腔に出血が見られない、卵上部には一定の大きさの気室が存在するなどの特徴が見られる。
【0012】
これに対して、不良卵の場合、不良要因ごとに、下記に説明するような特徴が見られる。なお、
図3および
図4は、不良卵を
図2と同様の方法で撮像した撮像画像の一例を示す図である。
(1)無精卵
無精卵は、
図3(A)に示すように、血管が見られず、胎児も存在しない。そのため、全体として色合いの差が小さくなる(コントラストが低くなる)という特徴が見られる。
(2)中止卵(死卵)
中止卵は、
図3(B)に示すように、正常卵と比べて、血管の分布が著しく狭く、少ない。また、分布する血管は著しく細く色が薄い、気室と漿尿膜腔の境界付近の色合いの差が小さい場合がある、卵殻膜内、漿尿膜上および漿尿膜腔に出血が見られる場合があるなどの特徴が見られる。
(3)発育不良卵
発育不良卵は、
図3(C)に示すように、漿尿膜上の血管の分布が著しく狭く、少ない、分布する血管は著しく細く色が薄いなどの特徴が見られる。
(4)気室不良卵
気室不良卵は、
図3(D)に示すように、正常卵に比べて、気室が変形している(気室が傾いている)、気室と漿尿膜との境界が滑らかな曲線になっていないなどの特徴が見られる。
(5)逆さ卵
逆さ卵は、検査対象卵を専用トレイに載せる際に、卵を逆さにして(鈍端(気室側の先端)と鋭端とを逆向きにして)載せてしまった卵であり、
図3(E)に示すように、気室が見られないとの特徴が見られる。
(6)ひび有り卵
ひび有り卵は、
図4(F)に示すように、撮像画面上において輝度の高い線で表されるひびが有る、または、
図4(G)に示すように、気室が著しく大きいなどの特徴が見られる。
【0013】
このように、不良卵の不良要因は複数あり、本実施形態に係る検卵装置1では、検査対象卵が不良卵である場合には、その不良要因を高い精度で特定することも目的とする。そこで、本実施形態では、予め、専門家に、
図2~
図4に示すように、ワクチン製造に供される卵の撮像画像を実際に確認してもらい、正常卵であるか、上記(1)~(6)のように無精卵、中止卵、発育不良卵、気室不良卵、逆さ卵、ひび有り卵のいずれかの不良卵であるかを判別してもらい、それぞれの画像データに、判別結果をラベリングした。また、このようにラベリングした画像データを、多層構造の深層ニューラルネットワークをモデルとした深層学習、いわゆるディープラーニングにより、機械学習させることで学習済みモデルを構築した。そして、検卵装置1において、構築した学習済みモデルを用いて、検査対象卵の画像から、検査対象卵が正常卵であるか不良卵であるかを判別することに加えて、不良卵である場合には、その不良要因も特定することとした。これにより、たとえば、不良要因とその発生頻度を卵やワクチンの生産者にフィードバックすることで、鶏や卵の飼育条件やワクチン生産条件の改善に活用することが可能となる。さらに、本実施形態に係る検卵装置1では、後述するように、複数の学習済みモデルを多段階に分けて用いることで、単一の学習済みモデルでは困難であった、不良卵の不良要因を実用レベルの高い精度で特定することができる。
【0014】
図5は、本実施形態に係る検卵装置1の構成図である。
図5に示すように、本実施形態に係る検卵装置1は、撮像装置10と、照明装置20と、判別装置30と、搬送装置40とを備える。以下に、各装置について説明する。
【0015】
撮像装置10は、検査対象卵を撮像するためのカメラであり、たとえば、検査対象卵を撮像して検査対象卵のカラー画像データを出力する、カラーCCDカメラが挙げられる。また、撮像装置10は、カラーCCDカメラに限定されず、カラーCMOSカメラなどカラー画像を撮像する公知のカメラを用いることができる。
【0016】
また、照明装置20は、検査対象卵に光を照射するためのライトであり、
図5に示すように、検査対象卵が配置される位置において撮像装置10の光軸L1と照明装置20の光軸L2とが交差する位置に配置される。なお、照明装置20は、特に限定されないが、たとえばLEDライトとすることができる。
【0017】
検査対象卵を撮像する場合、
図5に示すように、検査対象卵は支持台42に載せられるとともに、撮像時の外乱を防ぐため、支持台42が昇降し、検査対象卵を遮光性の撮像部50内に配置する。撮像部50内には、撮像装置10および照明装置20が配置されている。また、照明装置20は、照明用の筒21に入れられており、その筒21の先が検査対象卵に接するまで、支持台42を上昇させて、照明装置20により検査対象卵を気室側より照明する。なお、照明装置20を内蔵するための筒21の先端部は、卵形状やサイズが異なってもその先端から外部に照明光が漏れないよう、柔らかい材質で構成されているとともに、蛇腹構造となっている。撮像部50内において照明装置20により検査対象卵を照明している際に、撮像装置10により検査対象卵が撮像される。暗室下において照明装置20により検査対象卵だけを照明することで、撮像装置10は、検査対象卵の内部を透かした状態で撮像することができる。また、撮像装置10は、
図2に示すように、検査対象卵を側方から撮像することで、検査対象卵の気室、卵殻膜内、漿尿膜、漿尿膜腔、および胎児の状態を一括して観察可能に撮像することができる。なお、撮像装置10、照明装置20、支持台42の動作は判別装置30により制御され、撮像装置10により撮像された検査対象卵の撮像画像は、判別装置30に送信される。
【0018】
判別装置30は、検査対象卵の撮像画像を撮像装置10から取得し、検査対象卵の撮像画像に基づいて、検査対象卵が正常卵であるか不良卵であるかを判別する。また、判別装置30は、検査対象卵が不良卵である場合には、不良要因を特定する。
図5に示すように、判別装置30は、記憶装置31と、処理装置32とを有する。
【0019】
記憶装置31は、予め複数の卵の撮像画像群を教師データとする複数の学習済みモデルを記憶している。具体的には、記憶装置31は、卵の不良要因を判別するための異なる4つの学習済みモデルM1~M4を記憶している。以下に、記憶装置31が記憶する学習済みモデルM1~M4について説明する。
【0020】
学習済みモデルM1は、「無精卵」および「中止卵」を判別するために、卵の血管の状態を特徴として分類された第1学習データ群を教師データとして、ディープラーニングにより機械学習させることで構築されたモデルである。第1学習データ群は、専門家により、予め、卵に血管が無いなどの理由により無精卵と判別され、「無精卵」としてラベリングされた画像群と、血管の分布が少ない、血管が短い、血管が細いなどの理由により中止卵と判別され、「中止卵」としてラベリングされた画像群と、無精卵および中止卵ではないと判別され、「第1正常卵」としてラベリングされた画像群とを含む。学習済みモデルM1を用いることで、検査対象卵の画像から、検査対象卵が「無精卵」であるか、「中止卵」であるか、正常卵を含むそれ以外の第1正常卵であるかを判別することができる。
【0021】
学習済みモデルM2は、「逆さ卵」および「気室不良卵」を判別するために、気室の状態を特徴として分類された第2学習データ群を教師データとして、ディープラーニングにより機械学習させることで構築されたモデルである。第2学習データ群は、予め、専門家により、卵に気室が見られないとの理由により逆さ卵と判別され、「逆さ卵」としてラベリングされた画像群と、気室の形状が変形しているなどの理由により気室不良卵と判別され、「気室不良卵」としてラベリングされた画像群と、逆さ卵および気室不良卵ではないと判別され、「第2正常卵」としてラベリングされた画像群とを含む。学習済みモデルM2を用いることで、検査対象卵の画像から、検査対象卵が「逆さ卵」であるか、「気室不良卵」であるか、正常卵を含むそれ以外の第2正常卵であるかを判別することができる。
【0022】
学習済みモデルM3は、「発育不良卵」を特定するために、発育の状態を特徴として分類された第3学習データ群を教師データとして、ディープラーニングにより機械学習させることで構築されたモデルである。第3学習データ群は、予め、専門家により、漿尿膜上の血管の分布が著しく狭く、少ない、分布する血管は著しく細く色が薄いなどなどの理由により発育不良卵と判別され、「発育不良卵」としてラベリングされた画像群と、発育不良卵ではないと判別され、「第3正常卵」としてラベリングされた画像群とを含む。学習済みモデルM3を用いることで、検査対象卵の画像から、検査対象卵が「発育不良卵」であるか、正常卵を含むそれ以外の第3正常卵であるかを判別することができる。
【0023】
学習済みモデルM4は、「ひび有り卵」を特定するために、ひびの有無を特徴として分類された第4学習データ群を教師データとして、ディープラーニングにより機械学習させることで構築されたモデルである。第4学習データ群は、予め、専門家により、直接目視で卵にひびが有るとの理由によりひび有り卵と判別された卵を撮像した撮像画像のうち、撮像画像上に高い輝度の線状で表示されたひびが有る、気室が著しく大きいなどの理由により「ひび有り卵」としてラベリングされた画像群と、それら以外の「第4正常卵」としてラベリングされた画像群とを含む。学習済みモデルM4を用いることで、検査対象卵の画像から、検査対象卵が「ひび有り卵」であるか、正常卵を含むそれ以外の第4正常卵であるかを判別することができる。
【0024】
なお、学習済みモデルM1~M4の構築は、処理装置32が予め行う構成としてもよいし、外部装置で構築した学習済みモデルM1~M4を取得して、記憶装置31に記憶させる構成としてもよい。機械学習済みモデルのアルゴリズムは、サポートベクターマシン、ロジスティック回帰、ニューラルネットワークなど、特に限定されるものではないが、上述したように、ニューラルネットワークであって、特に階層が3層以上であるディープニューラルネットワークが好ましく、またディープニューラルネットワークのうち、画像認識に適したコンボリューショナルニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network)を用いることが好ましい。
【0025】
処理装置32は、メモリに記憶した検卵プログラムを実行することにより、撮像装置10から取得した検査対象卵の撮像画像と、記憶装置31に記憶された学習済みモデルM1~M4とを用いて、検査対象卵が正常卵であるか不良卵であるかを判別する。また処理装置32は、検査対象卵が不良卵である場合には、その不良要因まで特定する。さらに、処理装置32は、不良卵の不良要因とその発生頻度とを集計し、ディスプレイ(不図示)などに出力する機能も有する。なお、処理装置32による、検査対象卵の判別方法の詳細については、後述する。
【0026】
搬送装置40は、検査対象卵を撮像部50まで搬入し、また、検査対象卵を撮像部50から搬出する。具体的には、搬送装置40は、コンベアを駆動し、専用トレイ41に載せた複数の検査対象卵を、撮像部50の下方にある支持台42の位置まで搬送する。また、搬送装置40は、支持台42を上昇させて、検査対象卵を専用トレイ41から支持台42に載せ替えた後、支持台42をさらに上昇させて、撮像部50内部まで検査対象卵を持ち上げる。撮像部50において検査対象卵の撮像が終了すると、搬送装置40は、支持台42を下降させ、撮像した検査対象卵を専用トレイ41に戻す。そして、搬送装置40は、コンベアを動かして、次に検査対象とする検査対象卵を、支持台42の位置まで搬送する。このように、検査対象卵が順次に撮像部50まで搬送され、撮像装置10による撮像が行われる。なお、搬送装置40は、判別装置30による検査対象卵の判別結果に基づいて、不良卵を排除することもできる。
【0027】
次に、
図6および
図7に基づいて、第1実施形態に係る検卵処理について説明する。
図6は、第1実施形態に係る検卵処理を示すフローチャートであり、
図7は、第1実施形態に係る検卵処理を説明するための図である。
【0028】
ステップS101では、撮像装置10により検査対象卵の撮像が行われる。本実施形態では、暗室である撮像部50内に検査対象卵を置いて、照明装置20により検査対象卵だけを照明することで、撮像装置10は、検査対象卵の内部を透かした状態で撮像することができる。撮像装置10により撮像された検査対象卵の画像データは、処理装置32へと送信される。そして、ステップS102において、処理装置32により、撮像装置10により撮像された検査対象卵の画像データが取得される。
【0029】
ステップS103では、処理装置32により、検査対象卵が無精卵または中止卵であるかを判別する処理が行われる。具体的には、処理装置32は、メモリに記憶した検卵プログラムを実行し、ステップS102で取得した検査対象卵の画像データと、学習済みモデルM1とを用いて、検査対象卵が、無精卵であるか、中止卵であるか、それ以外の第1正常卵であるかを判別する。そして、ステップS104に進み、ステップS103での判別の結果、検査対象卵が、無精卵または中止卵であると判別された場合には、ステップS112に進み、検査対象卵は不良卵と判別される。そして、続くステップS113において、検査対象卵の不良の要因(無精卵または中止卵)が出力される。
【0030】
一方、ステップS104において、検査対象卵が、第1正常卵であると判別された場合には、ステップS105に進む。ステップS105では、処理装置32により、検査対象卵が逆さ卵または気室不良卵であるかを判別する処理が行われる。具体的には、処理装置32は、メモリに記憶した検卵プログラムを実行し、ステップS102で取得した検査対象卵の画像データと、学習済みモデルM2とを用いて、検査対象卵が、逆さ卵であるか、気室不良卵であるか、それ以外の第2正常卵であるかを判別する。そして、ステップS106に進み、ステップS105の判別の結果、検査対象卵が、逆さ卵または気室不良卵であると判別された場合には、ステップS112に進み、検査対象卵は不良卵と判別される。そして、続くステップS113において、検査対象卵の不良の要因(逆さ卵または気室不良卵)が出力される。
【0031】
一方、ステップS106において、検査対象卵が、第2正常卵であると判別された場合には、ステップS107に進む。ステップS107では、処理装置32により、検査対象卵が発育不良卵であるか否かを判別する処理が行われる。具体的には、処理装置32は、メモリに記憶した検卵プログラムを実行し、ステップS102で取得した検査対象卵の画像データと、学習済みモデルM3とを用いて、検査対象卵が、発育不良卵であるか、それ以外の第3正常卵であるかを判別する。そして、ステップS108に進み、ステップS107の判別の結果、検査対象卵が発育不良卵であると判別された場合には、ステップS112に進み、検査対象卵は発育不良卵と判別される。そして、続くステップS113において、検査対象卵の不良の要因(発育不良卵)が出力される。
【0032】
一方、ステップS108において、検査対象卵が、第3正常卵であると判別された場合には、ステップS109に進む。ステップS109では、処理装置32により、検査対象卵がひび有り卵であるかを判別する処理が行われる。具体的には、処理装置32は、メモリに記憶した検卵プログラムを実行し、ステップS102で取得した検査対象卵の画像データと、学習済みモデルM4とを用いて、検査対象卵が、ひび有り卵であるか、それ以外の第4正常卵であるかを判別する。そして、ステップS110に進み、ステップS109の判別の結果、検査対象卵が、ひび有り卵であると判別された場合には、ステップS112に進み、検査対象卵はひび有り卵と判別される。そして、続くステップS113において、検査対象卵の不良の原因(ひび有り卵)が出力される。
【0033】
一方、ステップS110において、検査対象卵が、第4正常卵であると判別された場合には、ステップS111に進む。ステップS111では、処理装置32により、検査対象卵が正常卵であると判別される。これにより、本実施形態に係る検卵処理を終了する。
【0034】
なお、
図6に示す検卵処理においては、検査対象卵が無精卵または中止卵であるかを判別する処理(ステップS103)、検査対象卵が逆さ卵または気室不良卵であるかを判別する処理(ステップS105)、検査対象卵が発育不良卵であるか否かを判別する処理(ステップS107)、検査対象卵がひび有り卵であるかを判別する処理(ステップS110)を順次行う構成を例示した。しかしながら、これらの処理の実行順序は、
図6に示す例に限定されず、適宜順序を入れ替えて構成してもよい。
【0035】
以上のように、本実施形態に係る検卵装置1は、正常卵であるか不良卵であるかの判別の結果、および、不良卵である場合には不良要因をそれぞれラベリングした卵の画像データを教師データとして、多層構造の深層ニューラルネットワークをモデルとした深層学習、いわゆるディープラーニングにより、機械学習することで構築された学習済みモデルを用いることで、検査対象卵が正常卵であるか不良卵であるかを判定するができることに加えて、不良卵である場合にはその不良要因も特定することができる。
【0036】
また、本実施形態に係る検卵装置1では、複数の学習済みモデルM1~M4を多段階に分けて用いることで、不良卵の不良要因をより高い精度で判別することができる。特に、ワクチンの製造においては、「無精卵」、「中止卵」、「逆さ卵」、「正常卵」を高い精度で判別することが必要とされているところ、本実施形態に係る検卵装置1では、「無精卵」、「中止卵」、「逆さ卵」および「正常卵」を高い精度で判別することができる。たとえば、「無精卵」、「中止卵」、「気室不良卵」、「逆さ卵」、「発育不良卵」、「ひび有り卵」、「正常卵」をそれぞれラベリングした教師データを用いて構築した単一の学習済みモデルだけを用いて検査対象卵の判別を行った場合、「無精卵」、「中止卵」、「気室不良卵」、「逆さ卵」、「発育不良卵」、「ひび有り卵」、「正常卵」の全ての分類(要因)について90%程度の判別精度しか得られなかった。これに対して、本実施形態に係る検卵処理では、複数の学習済みモデルM1~M4を多段階に分けて用いて検査対象卵の判別を行ったところ、「無精卵」、「中止卵」、「逆さ卵」という、ワクチン製造上、混入を防止することが極めて重要な不良卵については、ほぼ100%(9万個弱の検査対象卵で試験したところ100%)判別することができた。また、「正常卵」についても、99%以上の精度で判別することができた。
【0037】
また、本実施形態に係る検卵装置1では、不良要因ごとの発生頻度を集計する機能も有し、特定した不良要因とその発生頻度を、卵やワクチンの生産管理者にフィードバックし、鶏や卵の飼育条件やワクチン生産条件の改善に活用してもらうことができる。たとえば、不良の要因として、発育不良卵の割合が多い場合、生産管理者は、孵卵器の設定(温度・湿度)を変えるなどの対応を取ることができる。また、不良要因として、ひび有り卵の割合が多い場合には、生産管理者は、餌の配合を変える、搬送設備を点検するなどの対応を取ることができる。このように、不良要因の発生頻度に応じて、生産工程の運用を改良することができる。また、孵卵作業における各種条件(たとえば温度や湿度などの飼育条件、餌の配合、親鶏歴、温度や湿度などの孵卵器の設定など)、ウィルス製造作業における各種条件(たとえば、ウィルスの種類、温度や湿度などの孵卵器の設定など)、および検卵作業における各種条件と、発生した各不良要因の割合とを関連付けることによって、ワクチンを製造するための有精卵の最適な生産条件を確立することにも期待できる。
【0038】
《第2実施形態》
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る検卵装置は、以下に説明すること以外は、第1実施形態に係る検卵装置1と同様の構成を有し、第1実施形態に係る検卵装置1と同様の動作を行う。
【0039】
第2実施形態において、記憶装置31は、7つの学習済みモデルM11~17を記憶している。以下に、記憶装置31が記憶する7つの学習済みモデルM11~M17について説明する。
【0040】
学習済みモデルM11は、「中止卵」を判別するために、卵の血管の状態を特徴として分類された学習データ群を教師データとして、ディープラーニングにより機械学習させることで構築されたモデルである。当該学習データ群は、専門家により、予め、血管の分布が少ない、血管が短い、血管が細いなどの理由により中止卵と判別され、「中止卵」としてラベリングされた画像群を含む。学習済みモデルM11を用いることで、処理装置32は、検査対象卵の画像から、検査対象卵が「中止卵」であるか否かを判別することができる。
【0041】
学習済みモデルM12は、「無精卵」を判別するために、卵の血管の状態を特徴として分類された学習データ群を教師データとして、ディープラーニングにより機械学習させることで構築されたモデルである。当該学習データ群は、専門家により、予め、卵に血管が無いなどの理由により無精卵と判別され、「無精卵」としてラベリングされた画像群とを含む。学習済みモデルM12を用いることで、処理装置32は、検査対象卵の画像から、検査対象卵が「無精卵」であるか否かを判別することができる。
【0042】
学習済みモデルM13は、「気室不良卵」を判別するために、気室の状態を特徴として分類された学習データ群を教師データとして、ディープラーニングにより機械学習させることで構築されたモデルである。当該学習データ群は、予め、専門家により、気室の形状が変形しているなどの理由により気室不良卵と判別され、「気室不良卵」としてラベリングされた画像群を含む。学習済みモデルM13を用いることで、処理装置32は、検査対象卵の画像から、検査対象卵が「気室不良卵」であるか否かを判別することができる。
【0043】
学習済みモデルM14は、「逆さ卵」を判別するために、気室の状態を特徴として分類された学習データ群を教師データとして、ディープラーニングにより機械学習させることで構築されたモデルである。当該学習データ群は、予め、専門家により、卵に気室が見られないとの理由により逆さ卵と判別され、「逆さ卵」としてラベリングされた画像群を含む。学習済みモデルM14を用いることで、処理装置32は、検査対象卵の画像から、検査対象卵が「逆さ卵」であるか否かを判別することができる。
【0044】
学習済みモデルM15は、「発育不良卵」を特定するために、発育の状態を特徴として分類された学習データ群を教師データとして、ディープラーニングにより機械学習させることで構築されたモデルである。当該学習データ群は、予め、専門家により、漿尿膜上の血管の分布が著しく狭く、少ない、分布する血管は著しく細く色が薄いなどなどの理由により発育不良卵と判別され、「発育不良卵」としてラベリングされた画像群を含む。学習済みモデルM15を用いることで、処理装置32は、検査対象卵の画像から、検査対象卵が「発育不良卵」であるか否かを判別することができる。
【0045】
学習済みモデルM16は、「ひび有り卵」を特定するために、ひびの有無を特徴として分類された学習データ群を教師データとして、ディープラーニングにより機械学習させることで構築されたモデルである。当該学習データ群は、予め、専門家により、直接目視で卵にひびが有るとの理由によりひび有り卵と判別された卵を撮像した撮像画像のうち、撮像画像上に高い輝度の線状で表示されたひびが有る、気室が著しく大きいなどの理由により「ひび有り卵」としてラベリングされた画像群を含む。学習済みモデルM16を用いることで、処理装置32は、検査対象卵の画像から、検査対象卵が「ひび有り卵」であるか否かを判別することができる。
【0046】
学習済みモデルM17は、「正常卵」を特定するために分類された学習データ群を教師データとして、ディープラーニングにより機械学習させることで構築されたモデルである。当該学習データ群は、予め、専門家により、直接目視で卵に不良要因がなく正常であると判別された卵を撮像した撮像画像であり、「正常卵」としてラベリングされた画像群を含む。学習済みモデルM17を用いることで、処理装置32は、検査対象卵の画像から、検査対象卵が「正常卵」であるか否かを判別することができる。
【0047】
次に、
図8および
図9に基づいて、第2実施形態に係る検卵処理について説明する。
図8は、第2実施形態に係る検卵処理を説明するためのフローチャートである。また、
図9は、第2実施形態に係る検卵処理を説明するための図である。
【0048】
図8に示すように、ステップS201,S202では、第1実施形態のステップS101,S102と同様に、撮像装置10により検査対象卵の撮像が行われ(ステップS201)、ステップS201で撮像された検査対象卵の画像データが取得される(ステップS202)。
【0049】
ステップS203では、処理装置32により、検査対象卵が「中止卵」であるかを判別する処理が行われる。具体的には、処理装置32は、メモリに記憶した検卵プログラムを実行し、ステップS202で取得した検査対象卵の画像データと、学習済みモデルM11とを用いて、検査対象卵が「中止卵」である否かを判別する。そして、処理装置32は、「中止卵」であるかの判別結果を記憶装置31に記憶し、次のステップS204に進む。
【0050】
ステップS204~S209では、ステップS203と同様に、処理装置32により、検査対象卵が「無精卵」、「気室不良卵」、「逆さ卵」、「発育不良卵」、「ひび有り卵」、および「正常卵」であるかをそれぞれ判別する処理が行われる。すなわち、処理装置32は、メモリに記憶した検卵プログラムを実行し、ステップS202で取得した検査対象卵の画像データと、学習済みモデルM12~M17をそれぞれ用いて、検査対象卵が「無精卵」、「気室不良卵」、「逆さ卵」、「発育不良卵」、「ひび有り卵」、「正常卵」である否かをそれぞれ判別し、各判別結果を記憶装置31に記憶する。なお、第2実施形態では、検査対象卵が不良要因を有する場合でも、
図8のステップS203~S209および
図9に示すように、検査対象卵が「中止卵」、「無精卵」、「気室不良卵」、「逆さ卵」、「発育不良卵」、「ひび有り卵」および「正常卵」であるかについて一通り判別されることとなる。そして、ステップS210では、処理装置32により、ステップS203~S209の各判別処理で判別した結果が出力される。
【0051】
以上のように、第2実施形態においては、検査対象卵にいずれかの不良要因がある場合に直ぐに不良卵とし、その不良要因を判別するのではなく、
図9に示すように、1つの検査対象卵において並列的に複数の不良要因を判別することで、たとえば1つの検査対象卵において「逆さ卵」かつ「ひび有り卵」のように、複数の不良要因を判別することができる。また、第2実施形態においては、不良要因を有する卵の画像を教師データとした学習済みモデルM11~M16だけではなく、「正常卵」の画像を教師データとした学習済みモデルM17を用いることで、「正常卵」との判別精度を高めることができる。たとえば、第1実施形態では、不良要因が判別されなかった検査対象卵が「正常卵」として判別されるが、第2実施形態では、不良要因が判別されず、かつ、「正常卵」として判別された検査対象卵を「正常卵」と特定することで、「正常卵」の判別精度を高めることができるとともに、不良要因が判別されず、かつ、「正常卵」とも判別されない検査対象卵については、新たな不良要因が発生したことを作業者に認識させ、目視にて分類させることが可能となる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0053】
たとえば、上述した実施形態では、検査対象卵を撮像装置10により一方向のみから撮像し、当該方向から撮像した撮像画像を用いて、検査対象卵を判別する構成を例示したが、この構成に限定されず、たとえば、検査対象卵の支持台42を回転させることで、検査対象卵を複数の方向(たとえば支持台42を90度ずつ回転させて4方向)から撮像し、複数の方向から撮像した撮像画像を用いて、検査対象卵を判別する構成とすることができる。この場合、検査対象卵の判別精度をより向上させることができる。
【0054】
また、上述した第1実施形態では、4つの学習済みモデルを用いて検査対象卵を判別する構成を例示したが、学習済みモデルは2以上であればよく、たとえば、3つの学習済みモデル、あるいは5以上の学習済みモデルを用いて検査対象卵を判別することができる。たとえば、ワクチンを製造する場合には、「無精卵」、「中止卵」、「逆さ卵」の3つの不良要因を判別することが重要であり、そのため、「無精卵」および「中止卵」を判別するための学習済みモデルM1と、「逆さ卵」を判別するための学習済みモデルM2の2つの学習済みモデルを用いて検査対象卵を判別する構成とすることができる。また、本実施形態では、
図4(F)および
図4(G)に示すように、撮像画面上で輝度が高い線を有しひび有りと判別できる画像データ群と、気室が大きくひび有りと判別できる画像データ群とを「ひび有り卵」の教師データとした学習済みモデルM4を用いて「ひび有り卵」を判定する構成を例示したが、たとえば、
図4(F)に示すように、撮像画面上で輝度が高い線を有しひび有りと判別できる画像データ群のみを教師データとした学習済みモデルを用いて「ひび有り卵」をまず判定した後に、
図4(G)に示すように、気室が著しく大きくひび有りと判別できる画像データ群を教師データとした学習済みモデルを用いて「ひび有り卵」を判定する構成としてもよい。この場合、5個の学習済みモデルを用いて検査対象卵を判別することとなり、ひび有り卵をより高い精度で判別することができる。
【0055】
さらに、上述した実施形態では、単一の照明装置20を有し、検査対象卵の気室側から光を照射する構成を例示したが、この構成に加えて、照明装置20をさらにもう一つ有し、検査対象卵の下側からも光を照射して、検査対象卵を検査する構成とすることもできる。この場合、卵の内部をより確認しやすくなり、特に、ひび有り卵を検査する場合に、広範囲におけるひびを検出することが可能となる。
【0056】
また、上述した実施形態では、不良要因として「中止卵」、「無精卵」、「気室不良卵」、「逆さ卵」、「発育不良卵」および「ひび有り卵」を判別する構成を例示したが、不良要因は上記に限定されず、適宜追加/変更することができる。たとえば、気室境界に出血の溜まった卵を判別するための学習済みモデルを用いて、このような不良要因を判別する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0057】
1…検卵装置
10…撮像装置
20…照明装置
30…判別装置
31…記憶装置
32…処理装置
40…搬送装置
41…専用トレイ
42…支持台
50…撮像部