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  • 特許-貴サーメットで作られたアイテム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】貴サーメットで作られたアイテム
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20231221BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20231221BHJP
【FI】
C22C29/08
C22C1/051 G
【請求項の数】 33
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022105444
(22)【出願日】2022-06-30
(65)【公開番号】P2023057999
(43)【公開日】2023-04-24
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】21202053.1
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・キスリング
(72)【発明者】
【氏名】ドニ・ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・ローペル
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール ベルトヴィル
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0105231(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1269843(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/051,29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不可避的不純物を除き、85乃至94重量%のセラミック相と、6乃至15重量%の金属バインダ相とからなるサーメット材料で製造されたアイテムであって、前記セラミック相は、炭化タングステン相と、任意選択で、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、およびMo元素から選択される1つまたは複数の炭化物の1つまたは複数の相とを含み、前記金属バインダ相は、不可避的不純物を除き、総重量に対する含有率が、5乃至14重量%のAgと、0.5乃至4重量%のPdと、おのおの0.02乃至4重量%のRuおよびCoとからなる、アイテム。
【請求項2】
前記金属バインダ相は、7乃至14重量%の割合で存在し、前記セラミック相は、86乃至93重量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項3】
前記金属バインダ相は、9乃至11重量%の割合で存在し、前記セラミック相は、89乃至91重量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項4】
前記炭化タングステン相は、炭化タングステンのみを含むことを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項5】
前記金属バインダ相は、不純物を除いて、Ag、Pd、Ru、およびCoからなることを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項6】
Agは、7乃至13.4重量%の含有量を有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項7】
Agは、7乃至10重量%の含有量を有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項8】
Pdは、0.5乃至3重量%の含有量を有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項9】
Pdは、0.5乃至2重量%の含有量を有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項10】
Pdは、0.5乃至1.5重量%の含有量を有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項11】
CoおよびRuはおのおの、0.02乃至3重量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項12】
CoおよびRuは、おのおの、0.03乃至2重量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項13】
CoおよびRuは、おのおの、0.03乃至0,5重量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項14】
CoおよびRuは、おのおの、0.03乃至0,4重量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項15】
500乃至1,600のビッカース硬度HV30を有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項16】
700乃至1,400のビッカース硬度HV30を有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項17】
3.0MPa.m 1/2 以上の靭性K cを有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項18】
4.0MPa.m 1/2 以上の靭性K cを有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項19】
CIELAB色空間において、最小60のL 成分を有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項20】
CIELAB色空間において、最小65のL 成分を有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項21】
CIELAB色空間において、最小70のL 成分を有することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項22】
前記サーメット材料は、5×10 -5 未満の単位体積あたりの磁化率xmを有する非磁性であることを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項23】
ミドル、バック、ベゼル、プッシュピース、ブレスレットリンク、文字盤、針、および文字盤インデクスを含むリストから選択される外装計時器コンポーネントに関することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項24】
歯車、アーバ、ピニオン、ばね、ブリッジ、プレート、ねじ、およびテンプを含むリストから選択されるムーブメントの計時器コンポーネントに関することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項25】
テンプアーバに関することを特徴とする、請求項1に記載のアイテム。
【請求項26】
請求項1から25のいずれか一項に記載のアイテムを製造するための方法であって、
a)炭化タングステンを含むセラミック粉末と、不純物を除いて、銀、パラジウム、ルテニウム、およびコバルトからなる金属バインダの粉末との混合物を生成することと、
b)前記混合物に前記アイテムの形状を与えることによって、粗作りを形成することと、
c)950℃乃至1,600℃の温度で、15分乃至8時間の間、前記粗作りを焼結することとからなる連続ステップを含み、前記方法は、前記セラミック粉末が、85乃至94重量%の割合で存在し、前記金属バインダの粉末が、6乃至15重量%の割合で存在することを特徴とする、方法。
【請求項27】
前記連続ステップc)における焼結する温度は、1,100℃乃至1,500℃である請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記連続ステップc)における焼結する時間は、30分乃至4時間の間である請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記セラミック粉末が、86乃至93重量%の割合で存在する請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記セラミック粉末が、89乃至91重量%の割合で存在する請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記金属バインダの粉末が、7乃至14重量%の割合で存在する請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記金属バインダの粉末が、9乃至11重量%の割合で存在する請求項26に記載の方法。
【請求項33】
ステップb)は、プレスまたは注入または射出または積層造形法によって実行されることを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性サーメットタイプの材料で製造されたアイテム、特に装飾アイテム、より具体的には計時器コンポーネントに関する。このアイテムは、主に炭化タングステンを含むセラミック相と、複数の貴元素を含む金属バインダとを含む。
【背景技術】
【0002】
サーメットは一般に、ニッケルやコバルトなどの金属バインダを含むが、時計の分野での用途では、強磁性がかなり残っているという欠点がある。特に機械式の腕時計のため、可能な限り正確な動作を保証するために、この強磁性を制限または完全に排除することがますます必要になっている。したがって、強磁性または反磁性のバインダを使用しない新しいサーメットを開発することが不可欠である。
【0003】
さらに、ベゼルや、より一般的な腕時計ケースなどの特定の用途に使用されるサーメットは、非常に優れた耐引っかき性、つまり1,000ビッカースを超える硬度を有する必要がある。次に、これは、前記金属バインダとセラミック相との間の湿潤性を制御しながら、金属バインダの量を低減する必要があり、湿潤性が悪いと、最終製品の密度が低下し、それによって硬度が低下する。
【0004】
強磁性または反磁性がなく、必要な硬度が高いこととは別に、時計の分野では、靭性が重要な特性である。靭性に美的趣味が加わることが、外装部品の腕時計コンポーネントにとって重要である。特に、コンポーネントの金属光沢は、特別な注意が払われる美的側面である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、以下の基準、すなわち、
- 強磁性または反磁性を排除し、
- 5×10-5xm未満の低い磁化率を有し、
- 計時器外装部品用途の場合、高い金属光沢、すなわち、最小65の、より好ましくは最小70の輝度指数Lを有し、
- 特に、液相焼結により、大気圧下、真空下、または部分ガス圧下で緻密化されることが可能であり、
- 非常に優れた耐引っかき性を必要とする用途の場合、好ましくは4MPa.m1/2以上のKcを有する十分な靭性を有しながら、最小500の、好ましくは最小700の、および、より好ましくは最小1,000のビッカース硬度HV30を有することを満たすように最適化された組成および製造方法を用いて、サーメットタイプの材料で製造されたアイテムを提案することによって、前述の欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のために、本発明は、主に炭化タングステンを含む85乃至94重量%のセラミック相と、貴金属からなる複数の金属を含む6乃至15重量%の金属バインダ相とを含むサーメット材料で製造されたアイテムを提案する。
【0007】
より正確には、前記サーメット材料は、0.02乃至4重量%のコバルト元素、0.02乃至4重量%のルテニウム元素、0.5乃至4重量%のパラジウム元素、および5乃至14重量%の銀元素を含む。言い換えれば、前記サーメット材料は、不純物を除いて、0.02乃至4重量%のコバルト元素、0.02乃至4重量%のルテニウム元素、0.5乃至4重量%のパラジウム元素、および5乃至14重量%の銀元素からなる。
【0008】
好ましくは、前記サーメット材料は、不純物を除いて、0.02乃至3重量%のコバルト元素、0.02乃至3重量%のルテニウム元素、0.5乃至3重量%のパラジウム元素、および7乃至13.4重量%の銀元素からなる。
【0009】
さらにより好ましくは、前記サーメット材料は、不純物を除いて、0.03乃至2重量%のコバルト元素、0.03乃至2重量%のルテニウム元素、0.5乃至2重量%のパラジウム元素、および7乃至10重量%の銀元素からなる。
【0010】
銀は、その低いコストと、コバルト、ルテニウム、およびパラジウムの各元素との混和性を考慮して、主にバインダに使用される。パラジウムは主に、銀の空気汚れや酸化を防ぐために添加されるが、強磁性がないというもう1つの利点がある。パラジウムはまた、耐食性を高めることができる。
【0011】
コバルトとルテニウムの元素は、炭化タングステン粒子との湿潤性を向上させながら、両元素とも銀との混和性があるため、焼結中の緻密化のさらなる向上のために少量配合される。したがって、コバルトおよびルテニウムは、緻密化の向上を有利に可能にする。
【0012】
このように開発されたサーメット材料は、強磁性または反磁性の成分を有しておらず、研磨後、ステンレス鋼で観察されるものに匹敵する金属光沢を有する。これらの貴サーメットは、高アレルギ性元素として知られているニッケルが含まれていないという別の利点がある。貴サーメットはまた、外装部品コンポーネントおよび機能部品の製造のために高い硬度および十分な靭性を有する。さらに、貴サーメットは、鋳造などの固体材料を製造するための従来の方法によって、または、プレスまたは注入または射出によって成形された3次元部品を取得するための粉末冶金によって、または、たとえば3Dプリントのような他の様々な積層造形法によって作成することができる。
【0013】
したがって、多かれ少なかれ複雑な形状の部品は、最終的に、1,100乃至1,500℃の温度で、大気圧下で、真空下で、または部分ガス圧下で、つまり、大きな圧力を使用せずに固化され得る。
【0014】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照して非限定的な例として提示される、好ましい実施形態の以下の説明において明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、90重量%のWCと、10重量%の貴バインダとの組成を有し、貴バインダは、89重量%のAg、10重量%のPd、0.5重量%のRu、および0.5重量%のCoからなり、すなわち、総重量に対して、8.9重量%のAg、1重量%のPd、0.05重量%のRu、および0.05重量%のCoである、本発明によるサーメットタイプ材料の光学および電子それぞれの顕微鏡検査における2つの画像である。
図2図2は、1.2×10-5xmの磁化率を有する、この同じサーメットタイプの材料の常磁性挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、炭化物からなるセラミック相と、貴金属を含む複数の金属からなるバインダ相とを含む、サーメットタイプの材料で製造されたアイテムに関する。サーメットは、85乃至94重量%のセラミック相と、6乃至15重量%の金属バインダ相とを含む。好ましくは、サーメットは、86乃至93重量%のセラミック相と、7乃至14重量%の貴金属バインダ相とを含む。好ましくは、サーメットは、87乃至92重量%のセラミック相と、8乃至13重量%の貴金属バインダ相とを含む。さらにより好ましくは、サーメットは、89乃至91重量%のセラミック相と、9乃至11重量%の貴金属バインダ相とを含む。
【0017】
金属バインダは、銀、パラジウム、ルテニウム、およびコバルトを含む。好ましくは、金属バインダは、不純物を除いて、銀、パラジウム、ルテニウム、およびコバルトからなる。総重量に対して、コバルトおよびルテニウムはおのおの、0.02乃至4重量%の割合で存在する。好ましくは、コバルトおよびルテニウムはおのおの、0.02乃至3重量%、より好ましくは0.03乃至2重量%、さらにより好ましくは0.03乃至1重量%、さらにより好ましくは0.03乃至0.5重量%、そして特に好ましい方式では0.03乃至0.4重量%の割合で存在する。総重量に対して、パラジウムは0.5乃至4%であり、銀は5乃至14%である。好ましくは、パラジウムは、0.5乃至3%であり、より好ましくは、パラジウムは、0.5乃至2%であり、さらにより好ましくは、0.5乃至1.5%である。好ましくは、銀は、7乃至13.4重量%であり、より好ましくは、7乃至10重量%である。
【0018】
セラミック相は、主に炭化タングステンの相と、任意選択で、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、およびMoから選択される1つまたは複数の元素の1つまたは複数の炭化相とを含む。言い換えれば、セラミック相は、単一の炭化タングステン相、または主に、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、およびMoのうちの1つまたは複数の炭化物の1つまたは複数の相がそれぞれ添加された炭化タングステンの相のいずれかからなり、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、およびMoの炭化物のこの相またはこれらの相は、わずかな割合で存在する。主にとは、重量で、50%を超える、好ましくは65%以上、より好ましくは75%以上の割合を意味する。要するに、セラミック相内で、炭化タングステン相は、重量で50%より大きく100%以下(50<WC≦100%)、好ましくは65%以上100%以下(65≦WC≦100%)、より好ましくは75%以上100%以下(75≦WC≦100%)の割合で存在し、補体は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、およびMoのうちの1つまたは他の炭化物で形成されている。
【0019】
本発明によれば、このサーメットタイプの材料は非磁性である。この説明の残りの部分では、このサーメットタイプ材料の「非磁性」の言及は、常磁性のみで、磁化率が非常に低い材料を指す。状態図では、キュリー温度は、与えられた温度で、一定の組成で、強磁性状態から常磁性状態への転移温度を示すことはよく知られている。したがって、コバルト-ルテニウムの状態図の場合、この磁気転移は、45%から50%の間にあるルテニウムの質量濃度の周囲温度で発生する。同様に、コバルト-パラジウムの状態図において、同じ周囲温度で、コバルトの4重量%乃至6重量%にある常磁性転移を判定することが可能である。上記の2つの限界を尊重することにより、パラジウム-コバルト-ルテニウムの三元系で、常磁性転移を起こすことが可能である。貴バインダを含むサーメットタイプの材料は、定義された組成の限界に応じて、パラジウム、コバルト、ルテニウムの元素で構成されているため、銀は常磁性である。
【0020】
アイテムは、腕時計、宝飾品、ブレスレットなどの構成要素であり得る。時計の分野では、このアイテムは、ミドル、バック、ベゼル、プッシュピース、ブレスレットリンク、文字盤、針、文字盤インデクスなどの外装部品であり得る。アイテムはまた、歯車、アーバ、ピニオン、ばね、ブリッジ、プレート、ねじ、およびテンプを含む、網羅的ではないリストから選択されるムーブメントのコンポーネントに関する場合がある。有利なことに、ムーブメントのコンポーネント内では、これはテンプアーバに関する。
【0021】
サーメットアイテムは、プレスまたは注入または射出などの従来の粉末冶金法によって、または選択的レーザ溶融(SLM)、選択的電子ビーム溶解(SEBM)などや、3Dプリント(3DP)、バインダジェット3Dプリント(BJAD)、3Dゲルプリント(3DGP)、および溶融フィラメント製造(FFF)などの、3次元部品の製造に特化された様々な積層造形法によって成形され得る。
【0022】
サーメットアイテムは、好ましくは、セラミック粉末と金属粉末との混合物から出発して焼結することによって製造される。製造方法は、以下の各ステップを含む。
【0023】
a)恐らく湿潤環境で、様々な粉末との混合物を生成する。出発粉末は、好ましくは10μm未満、より好ましくは0.8乃至5μmのd50を有する。混合物は、恐らく、ミルで生成される可能性があり、これにより、粉末の粒子のd50は、ミクロンのオーダのサイズに、またはミル後のミクロンよりもさらに小さなサイズに減少される。この混合物は、85乃至94重量%、好ましくは86乃至93重量%、より好ましくは89乃至91重量%のセラミック粉末と、6乃至15重量%、好ましくは7乃至14重量%、より好ましくは9乃至11重量%の金属粉末とを含む。セラミック粉末は、炭化タングステンと、任意選択で、1つまたは複数の他の炭化物とを含む。金属粉末は、銀、パラジウム、ルテニウム、およびコバルトの元素のみで構成される。したがって、このように製造されたサーメットは、総重量に対して5乃至14%の銀、好ましくは7乃至13.4%の銀、より好ましくは7乃至10%の銀を含む。このサーメットはまた、総重量に対して0.5乃至4%のパラジウム、好ましくは0.5乃至3%のパラジウム、より好ましくは0.5乃至2%のパラジウム、さらにより好ましくは0.5乃至1.5%のパラジウムを含む。このサーメットはまた、おのおの0.02乃至4重量%、好ましくは0.02乃至3重量%、より好ましくは0.03乃至2重量%、さらにより好ましくは0.03乃至1重量%、0.03乃至0.5重量%、および0.03乃至0.4重量%の含有量のルテニウムおよびコバルトを含む。このステップでは、金属相をアーク溶解によって製造し、次に事前に合金化された粉末の形態で噴霧して、最終的に炭化物粉末と混合できることも明示される。
b)恐らく、前述の混合物と有機バインダ系(パラフィン、ポリエチレンなど)とを含む第2の混合物が製造され得る。
c)混合物に所望のアイテムの形状を与えることによって、たとえば、注入、プレス、射出、または3Dプリントによって、粗作りを形成する。
d)不活性雰囲気下または窒素下または真空下で、950℃乃至1,600℃、好ましくは1,000℃乃至1,500℃、より好ましくは1,100℃乃至1,500℃の温度で、15分乃至8時間、好ましくは30分乃至4時間、より好ましくは30分乃至2時間の間、粗作りを焼結する。混合物が有機バインダ系を含む場合、このステップの前に、200乃至800℃の温度範囲で脱結合するステップを行うことができる。
【0024】
このようにして取得された粗作りは、冷却され、研磨される。研磨前に機械加工して、所望のアイテムを取得できる。
【0025】
この製造方法から得られるアイテムは、出発粉末に近い重量割合のセラミック相および金属相を含む。しかしながら、特に、温度との金属バインダの構成元素の様々な蒸気圧に応じて、ベース粉末と焼結からの材料との間の組成および割合のわずかな変動を排除することはできない。
【0026】
アイテムは、材料が、最小60、好ましくは最小65、さらに好ましくは最小70の光を反射する方式を表す輝度L成分を有する(規格CIE no.15、ISO 7724/1、DIN 5033 Teil 7、ASTM E-1164に準拠した)CIELAB色空間を有する。
【0027】
サーメット材料は、構成のタイプおよび割合に応じて、30kgの荷重(HV30)で測定された、500乃至1,600、好ましくは700乃至1,400のビッカース硬度を有する。有利なことに、サーメット材料は、高い耐引っかき性を必要とする外装部品に対して1,000ビッカースを超える硬度を有する。サーメット材料は、最小3MPa.m1/2の、好ましくは、最小4.0MPa.m1/2の靭性Kcを有し、靭性は、以下の式にしたがって、硬度くぼみの対角線の4つの端部の亀裂の長さの測定に基づいて判定され、
【0028】
【数1】
【0029】
ここで、Pは、印加された荷重(N)であり、aは、半対角線(m)であり、lは、測定された亀裂の長さ(m)である。
【0030】
磁気特性について、M(H)ヒステリシス曲線は、周囲温度で、MicroSense EZ9タイプの振動試料型磁力計(VSM)を使用して、サンプルに印加される磁場を変化させることによって特徴付けられる。本発明によるサーメットの単位体積あたりの磁化率(xm)は、5×10-5未満、好ましくは4×10-5以下である。
【0031】
以下の表1は、コバルトを含まない比較例(サンプル01)と、本発明による2つの例(サンプル02および03)とを備えたサーメットタイプの材料の複数の例を繰り返している。例では、セラミック相は、90重量%の割合の炭化タングステン相である。したがって、金属バインダは、表に与えられている組成で10重量%の割合で存在する。
【0032】
サンプルはすべて粉末冶金によって製造された。異なる組成の粉末の混合物は、溶媒の存在下で、ミルで調製された。混合物は、有機バインダを添加せずに製造された。乾燥後、混合物は、一軸圧力によって成形され、アルゴン下で同じ温度で焼結された。焼結後、機械的特性と色指数とを正確に測定するために、サンプルは平面研磨された。
【0033】
サンプル01の場合、350 HV30未満の低い硬度値が取得された。これは、コバルトが存在しない場合のサンプルの多孔の有意な存在に起因する。サンプル02にコバルトを添加することにより、焼結中の緻密化を向上し、それにより、800 HV30以上の値で硬度を劇的に増加させることが可能になる。サンプル03におけるコバルトとルテニウムの含有量を低減すると、図2のヒステリシス曲線において見られるように、単位体積あたりの磁化率の値を、1.2×10-5の値に下げることができる。これにより、テンプアーバなどのムーブメントの計時器コンポーネントのための最適なサーメットになる。さらに、サンプル03は、図1の光学顕微鏡検査中および電子顕微鏡検査中に撮影された写真に示されているように、光学顕微鏡検査において、多孔である黒いスポットが見えるが、約1ミクロンのサイズを有する多孔がほとんどなく、十分に緻密化されている。これにより、硬度が増加し、値は、1,208 HV30に達する。本発明によるすべてのサンプルは、強磁性特性および反磁性特性を有さず、靭性が4.0MPa.m1/2を超え、硬度が700 HV30を超え、L値が70を超える高い光沢を有し、計時器コンポーネントのために設定された基準内にある。
【0034】
【表1】
図1
図2