(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】バッテリ保護回路
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20231221BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20231221BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20231221BHJP
H02H 7/18 20060101ALI20231221BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20231221BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20231221BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231221BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20231221BHJP
H01M 10/637 20140101ALI20231221BHJP
H01M 10/667 20140101ALI20231221BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20231221BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20231221BHJP
B60L 58/27 20190101ALN20231221BHJP
【FI】
H02J7/00 A
H02J7/04 L
H02J7/10 L
H02J7/00 P
H02H7/18
H02M7/48 E
H01M10/44 P
H01M10/48 301
H01M10/625
H01M10/637
H01M10/667
H01M10/615
H02P27/06
B60L58/27
(21)【出願番号】P 2022120428
(22)【出願日】2022-07-28
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】392029742
【氏名又は名称】田中 正一
(72)【発明者】
【氏名】田中 正一
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-187002(JP,A)
【文献】国際公開第2021/048935(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02J 7/04
H02J 7/10
H02H 7/18
H02M 7/48
H01M 10/44
H01M 10/48
H01M 10/625
H01M 10/637
H01M 10/667
H01M 10/615
H02P 27/06
B60L 58/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリを大電流レートで短時間放電する放電動作、及び、前記バッテリを小電流レートで長時間充電する充電動作を行う充放電回路と、
前記充放電回路を制御することにより前記放電動作及び前記充電動作を交互に繰り返す制御回路と、
を備
え、
前記充放電回路は、前記放電動作により前記バッテリから放電されたエネルギーを一時的に蓄積した後、次の前記充電動作により前記エネルギーを再び前記バッテリに戻すエネルギー蓄積部品を有する
ことを特徴とするバッテリ保護回路。
【請求項2】
前記充放電回路は、前記バッテリと並列に接続された複数の放電ユニット及び充電ユニットとを有し、
前記放電ユニットはそれぞれ、上アームスイッチ及び下アームスイッチによりサンドイッチされるインダクタを有し、
前記充電ユニットは、交互に直列接続されたインダクタ接続ダイオード及び前記インダクタからなるインダクタ直列接続回路を有し、
前記充電ユニットはさらに、前記インダクタ直列接続回路の一端を前記バッテリの負極端子に接続する負極側ダイオードと、前記インダクタ直列接続回路の他端を前記バッテリの正極端子に接続する正極側ダイオードとを有する請求項
1記載のバッテリ保護回路。
【請求項3】
前記制御回路は、前記複数の放電ユニットの前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチを同じタイミングでスイッチングする請求項
2記載のバッテリ保護回路。
【請求項4】
前記各インダクタは、共通の軟磁性コアに巻かれている請求項
2記載のバッテリ保護回路。
【請求項5】
バッテリを大電流レートで短時間放電する放電動作、及び、前記バッテリを小電流レートで長時間充電する充電動作を行う充放電回路と、
前記充放電回路を制御することにより前記放電動作及び前記充電動作を交互に繰り返す制御回路と、
を備え、
前記充放電回路は、3相モータの3つの相巻線に別々に接続された3つのHブリッジを有する3相インバータからなり、
前記バッテリは、前記3つの相巻線へ同時に放電し、
前記3つの相巻線は、前記バッテリを順番に充電する
ことを特徴とするバッテリ保護回路。
【請求項6】
バッテリを大電流レートで短時間放電する放電動作、及び、前記バッテリを小電流レートで長時間充電する充電動作を行う充放電回路と、
前記充放電回路を制御することにより前記放電動作及び前記充電動作を交互に繰り返す制御回路と、
を備え、
前記充放電回路は、キャパシタと、前記キャパシタと前記バッテリとを接続するチョッパ回路とを有し、
前記制御回路は、前記バッテリの負極上のデンドライトを低減するために前記チョッパ回路に内蔵されたスイッチング素子のPWMテ゛ューティ比を制御する
ことを特徴とするバッテリ保護回
路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温のバッテリを電気的に加熱するためのバッテリ保護回路に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池のような二次電池(バッテリ)は、低温条件下においてバッテリの性能が低下するという難しい問題をもつ。このため、低温バッテリを暖める外部電気ヒータがしばしば採用されている。しかし、この外部電気ヒータの電力消費は深刻な問題となっている。
【0003】
特許文献1は、バッテリを加熱する昇圧チョッパ回路を提案している。充電電流が昇圧チョッパを通じて平滑キャパシタからバッテリに供給される。放電電流が昇圧チョッパを通じてバッテリから平滑キャパシタに供給される。さらに、本出願人により出願された特許文献2は、バッテリに単相交流電流を供給する3相インバータを提案している。3相同期モータは単相交流電流によって駆動されない。
【0004】
特許文献1は、トラクションモータを駆動するインバータ回路に昇圧チョッパを追加することを要求する。さらに、冷たいバッテリへの充電電流の供給は負極表面へのデンドライトの成長を促進する。
【0005】
特許文献2は、冷たいバッテリを加熱するために3相インバータにより形成された単相交流電流を使用する。しかし、単相交流電流は、バッテリを放電する半波成分と、バッテリを充電する半波成分をもつ。たとえばバッテリが冷たい時、バッテリを充電する半波成分は負極上にデンドライトを発生する可能性をもつ。さらに、3相インバータが3相モータに単相交流電流を供給しなければならないため、電気自動車の停止が期待される。一般的に、電気自動車の始動は単相交流電流によるバッテリの加熱のために遅延される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-77452号公報
【文献】WO2019/244680号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明の一つの目的は、低温のバッテリを電気的に急速加熱可能なバッテリ保護回路を提供することである。
しかし、低温のバッテリの充電はデンドライトが負極表面に析出する問題をもつ。
本発明のもう一つの目的は、バッテリの負極表面に析出したデンドライトを良好に低減可能なバッテリ保護回路を提供することである。
【0008】
本発明の第1の様相によれば、放電動作及び充電動作を交互に繰り返すバッテリ保護動作が実施される。放電動作はバッテリを高電流レートで短時間放電する。充電動作はバッテリを低電流レートで長時間充電する。このバッテリ保護動作は、負極リフレッシュ動作及び/又はバッテリ加熱動作を含む。高電流レート充電は、低電流レート充電と比べて負極表面へのデンドライト析出量を増加させる。逆に、高電流レート放電は、低電流レート放電と比べて負極表面からのデンドライト溶出量を増加させる。
【0009】
さらに、高電流レート放電は、全動作時間中の充電期間の割合を増加させる。このため、低電流レートでの充電時間を相対的に延長することができる。したがって、デンドライト析出が抑制される。この効果は特に冷えたバッテリを急速に加熱する電池加熱動作において重要である。
【0010】
言い換えると、高電流レートの充電電流及び放電電流は、デンドライトへの電流集中によりデンドライトの析出及び溶解を促進する。他方、低電流レートによる充電はデンドライトへの電流集中を抑制することにより、デンドライトの成長を抑制する。結局、バッテリの負極上におけるデンドライト成長を防止することは難しい問題であることが理解される。上記充電及び放電を繰り返すこの提案技術は、負極上に成長したデンドライトをたとえば定期的又は所定タイミングにて低減する。これにより、負極及び正極の短絡事故が良好に防止される。この提案技術のもう一つのメリットは、バッテリ内部を加熱できることである。このため、低温バッテリに実施されるこの提案技術は、バッテリ温度を上昇させる。その結果、その後の充電動作においてデンドライトの成長が低減される。
【0011】
好適態様において、バッテリ保護動作を実施する充放電回路は、バッテリの放電電流を蓄積するエネルギー蓄積部品を有する。このエネルギー蓄積部品は、インダクタンス又はキャパシタンスをもつ。バッテリの放電により)エネルギー蓄積部品に蓄積された電力エネルギーは、次のバッテリの充電動作において使用される。これにより、バッテリの蓄電電力エネルギーがバッテリ保護動作により消費されることを抑制することができる。
【0012】
好適な態様において、放電動作によりエネルギー蓄積部品に蓄積されるエネルギー量は、充電動作によりエネルギー蓄積部品からバッテリに放出されるエネルギー量にほぼ等しい。言い換えれば、短時間の高電流レートの放電と長時間の低電流レートの充電は、バッテリの蓄電エネルギーの低下を抑制する。したがって、バッテリ保護動作において、放電動作と充電動作を交互に繰り返すことができる。さらに、この繰り返される充放電は、小型のエネルギー蓄積部品の使用を可能とする。
【0013】
好適態様において、充放電回路は、バッテリと並列に接続された複数の放電ユニットと、バッテリと並列に接続された充電ユニットとを有する。各放電ユニットはそれぞれ、上アームスイッチ及び下アームスイッチによりサンドイッチされるインダクタを有する。充電ユニットは、各インダクタをインダクタ接続ダイオードを介して互いに直列接続してなるインダクタ直列接続回路を有する。インダクタ直列接続回路の一端は、負極側ダイオードを通じてバッテリの負極端子に接続される。インダクタ直列接続回路の他端は、正極側ダイオードを通じてバッテリの正極端子に接続される。
【0014】
これにより、低い電力損失と簡素な回路構成とをもつ充放電回路により、バッテリ保護動作を実施することができる。なお、これらのダイオードと並列にトランジスタを接続することにより、ダイオード損失を低減することは可能である。
【0015】
好適な態様において、各放電ユニットの上アームスイッチ及び下アームスイッチは同じタイミングでスイッチングされる。これにより、制御が容易となり、電力損失を低減することができる。
【0016】
好適な態様において、各放電ユニットの各インダクタは、共通の軟磁性コアに巻かれる。さらに、各インダクタを流れる電流は、コア内に同方向の磁束を形成する。これにより、各インダクタのインダクタンスを増大することができる。
【0017】
好適な態様において、充放電回路は、エネルギー蓄積部品としての3相モータの3つの相巻線に別々に接続された3つのHブリッジを有する。この3つのHブリッジからなる3相インバータはデュアルインバータと呼ばれる。3つのHブリッジは、バッテリの放電時に各相巻線に並列に電流を供給し、バッテリの充電時に各相巻線のフリーホィーリング電流を順番にバッテリに回生する。これにより、回路コストを低減することができる。
【0018】
好適な態様において、充放電回路は、エネルギー蓄積部品としてのキャパシタと、このキャパシタとバッテリとを接続するチョッパ回路とを有する。チョッパ回路に内蔵されたスイッチング素子のテ゛ューティは、バッテリ保護動作を実施するために制御される。これにより、バッテリ保護動作を簡素な回路で実現することができる。
【0019】
好適な態様において、充放電回路は、3相モータ駆動用の3相インバータを駆動するために、バッテリの電圧を昇圧して平滑キャパシタに印加する昇圧チョッパを有する。これにより、回路コストを低減することができる。
【0020】
既述された充電動作及び放電動作を繰り返すバッテリ保護回路は、バッテリが外部負荷に放電していない環境において実施されることが好適である。しかし、たとえば低温のバッテリが走行中のEVに給電する環境において、バッテリは急速に加熱されることが好ましい。たとえば、EVの制動により冷たいバッテリが充電される時、負極上にデンドライトが析出するという問題が生まれる。この問題を解決するために、下記の2つのバッテリ保護回路が提案される。これらの提案技術は一緒に実施されることができる。
【0021】
本発明の第2の様相によれば、バッテリ温度が所定値よりも低い時、回転中の3相同期モータに供給される3相同期電流は、要求トルク値に発生可能な最小の電流振幅値である最小電流振幅値の150%を超える拡大電流振幅値をもつ。この運転モードは、振幅増大法と呼ばれる。この振幅増大法は、冷えたバッテリの急速加熱が必要である時に実施される。
【0022】
一般に、3相同期モータのモータトルクは、3相同期電流の電流振幅と負荷角の両方により制御可能であることが知られている。負荷角は、本質的にステータの回転磁界の磁極軸とロータの磁極軸との角度差を意味する。3相同期電流の3つの相電流の各位相角をシフトすることにより、この3相同期電流により形成される回転磁界の磁極軸はシフトされる。さらに、3つの相電流の各位相角は、3相同期モータに印加される3つの相電圧の各位相角をシフトすることによりシフトされる。
【0023】
この振幅増大法によれば、3相同期電流の3つの相電流の各位相角を調整することにより、この電流振幅増加によるモータトルク値の増大はキャンセルされる。この位相角は簡単に負荷角と呼ばれることもできる。したがって、3相同期電流の電流振幅値がバッテリの急速加熱のために増加される時、モータトルクは、3相同期電流の負荷角の補正故に要求トルク値からシフトされない。
【0024】
この振幅拡大法がさらに説明される。所定の要求トルク値に等しいモータトルクを発生することができる数多くの電流振幅値及び位相角値のペアが存在する。この振幅拡大法によれば、最大トルク制御法の最小電流振幅値よりも大きい電流振幅値と要求トルク値とから必要な負荷角値が選択される。これにより、3相同期電流の電流振幅値を増加するにもかかわらず、要求トルク値に一致するモータトルクを発生することができる。さらに、バッテリは、3相同期電流の電流振幅値の増加により、急速に加熱されることができる。
【0025】
好適な態様において、バッテリの温度が所定のしきい値より高い時に、3相同期電流は、要求トルク値を発生可能な最小電流振幅値をもつ。その結果、バッテリの温度が所定のしきい値より高い時に、バッテリの発熱を減らすことができる。
【0026】
本発明の第3の様相によれば、3相モータに供給する3相電流は、3つのHブリッジからなるデュアルインバータにより形成される。PWM制御される3つのHブリッジは、3相モータの3つの相巻線に別々に3つの相電流を供給する。PWM制御により、各相電流はパルス電流となる。バッテリが低温である場合に、3つの相電流は互いオーバーラップされる。これにより、バッテリ内の発熱が増加し、バッテリの低温状態は速やかに解消される。
【0027】
好適な態様において、バッテリが低温ではない時、パルス電流からなる3つの相電流は、可能であれば順番に3つの相巻線に供給される。これにより、バッテリが低温でない時、バッテリの発熱を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、第1実施例のバッテリ保護回路を示す配線図である。
【
図2】
図2は、第1実施例のバッテリ保護動作を示すタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、共通コアに巻かれたインダクタを示す模式平面図である。
【
図4】
図4は、第2実施例のバッテリ保護回路を示す配線図である。
【
図5】
図5は、第2実施例のバッテリ保護動作を示すタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、第3実施例のバッテリ保護回路を示す配線図である。
【
図7】
図7は、Hブリッジが相巻線に磁気エネルギーを蓄積する放電動作を示す模式図である。
【
図8】
図8は、Hブリッジが相巻線の磁気エネルギーを維持するフリーホィーリング動作を示す模式図である。
【
図9】
図9は、Hブリッジが相巻線の磁気エネルギーをバッテリに回生する充電動作を示す模式図である。
【
図10】
図10は、第3実施例のバッテリ保護動作を示すタイミングチャートである。
【
図11】
図11は、第4実施例のバッテリ保護回路を示す配線図である。
【
図12】
図12は、第4実施例のバッテリ保護回路の急速加熱動作を示すタイミングチャートである。
【
図13】
図13は、第5実施例のバッテリ急速加熱動作を示すタイミングチャートである。
【
図14】
図14は、第5実施例のバッテリ発熱低減動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
第1実施例
第1の好適なバッテリ保護回路が
図1を参照して説明される。このバッテリ保護回路はバッテリ保護動作を実行する。制御回路7はバッテリ6に接続された充放電回路8を制御する。制御回路7及び充放電回路8はバッテリ保護回路を構成している。
【0030】
充放電回路8は、それぞれバッテリ6と並列接続された8個の放電ユニット81-88、及び後述の充電ユニットを有する。放電ユニット81は、インダクタ51を挟んで直列接続される上アームスイッチ21及び下アームスイッチ31を有する。放電ユニット82は、インダクタ52を挟んで直列接続される上アームスイッチ22及び下アームスイッチ32を有する。
【0031】
放電ユニット83は、インダクタ53を挟んで直列接続される上アームスイッチ23及び下アームスイッチ33を有する。放電ユニット84は、インダクタ54を挟んで直列接続される上アームスイッチ24及び下アームスイッチ34を有する。
【0032】
放電ユニット85は、インダクタ55を挟んで直列接続される上アームスイッチ25及び下アームスイッチ35を有する。放電ユニット86は、インダクタ56を挟んで直列接続される上アームスイッチ26及び下アームスイッチ36を有する。
【0033】
放電ユニット87は、インダクタ57を挟んで直列接続される上アームスイッチ27及び下アームスイッチ37を有する。放電ユニット88は、インダクタ58を挟んで直列接続される上アームスイッチ28及び下アームスイッチ38を有する。
【0034】
この実施例によれば、上アームスイッチ21-28及び下アームスイッチ31-38はMOSFETを採用している。上アームスイッチ21-28は、インダクタ51-58とバッテリ6の正極端子61とを別々に接続している。下アームスイッチ31-38は、インダクタ51-58とバッテリ6の負極端子62とを別々に接続している。したがって、放電ユニット81-88はそれぞれ、バッテリ6と並列に接続されている。
【0035】
充電ユニットは、インダクタ51-58、負極側ダイオード40、インダクタ接続ダイオード41-47、及び正極側ダイオード48を直列接続してなるインダクタ直列接続回路からなる。
【0036】
負極側ダイオード40は、バッテリ6の負極端子62とインダクタ51の高電位端子とを接続する。インダクタ接続ダイオード41は、インダクタ51の低電位端子とインダクタ52の高電位端子とを接続する。インダクタ接続ダイオード42は、インダクタ52の低電位端子とインダクタ53の高電位端子とを接続する。
【0037】
インダクタ接続ダイオード43は、インダクタ53の低電位端子とインダクタ54の高電位端子とを接続する。インダクタ接続ダイオード44は、インダクタ54の低電位端子とインダクタ55の高電位端子とを接続する。
【0038】
インダクタ接続ダイオード45は、インダクタ55の低電位端子とインダクタ56の高電位端子とを接続する。インダクタ接続ダイオード46は、インダクタ56の低電位端子とインダクタ57の高電位端子とを接続する。
【0039】
インダクタ接続ダイオード47は、インダクタ57の低電位端子とインダクタ58の高電位端子とを接続する。正極側ダイオード48は、バッテリ6の正極端子61とインダクタ58の低電位端子とを接続する。ダイオード40-48は、直列接続されたインダクタ51-58がバッテリ6へ充電電流を流す方向に接続されている。
【0040】
制御回路7は、単純なパルス制御回路でもよく、マイクロコンピュータを使用する回路でもよい。制御回路7は、バッテリ6のバッテリ保護動作において上アームスイッチ21-28及び下アームスイッチ31-38を同時にオンし、同時にオフする。
【0041】
充放電回路8によるバッテリ6の放電動作が
図1及び
図2を参照して説明される。
図2において、時点t1から時点t2までの期間は放電期間である。
【0042】
上アームスイッチ21-28及び下アームスイッチ31-38のゲート電極に印加される制御信号Sは放電期間(t1-t2)においてハイレベルとなり、スイッチ21-28及び31-38がオンされる。したがって、バッテリ6の電池電圧がこの放電期間にインダクタ51-58に別々に印加される。
【0043】
その結果、インダクタ51-58に別々に流れる放電電流Idは、その最低電流値から徐々に増え、放電期間が終了する時点t3において最高電流値に達する。結局、放電電流Idはこの放電期間に8個のインダクタ51-58それぞれに並列に流れるため、バッテリ6は放電電流Idの8倍のトータル放電電流を流す。
【0044】
充放電回路8によるバッテリ6の充電動作が説明される。
図2において、時点t2から時点t1までの期間が充電期間である。時点t2において、スイッチ21-28及び31-38がオフされる。その結果、インダクタ51-58にそれぞれ蓄積された磁気エネルギーは、インダクタ51-58を別々に流れる電流Idを維持しようとする。
【0045】
その結果、いわゆるフリーホィーリング電流である充電電流Icが、ダイオード40-48及びインダクタ51-58からなるインダクタ直列接続回路を流れ、バッテリ6は充電電流Icにより充電される。
【0046】
この充電期間において、インダクタ51-58はそれぞれ、磁気エネルギーの低い消費レートをもつ。その結果、放電期間の約8倍の充電期間が終了する時、インダクタ51-58を流れる充電電流Icは放電電流Idの上記最低電流値に達する。
【0047】
充電期間及び放電期間が交互に繰り返されるバッテリ保護動作により、バッテリ6の負極のデンドライトが除去され、かつ、バッテリが加熱される。このバッテリ保護動作は、たとえばEVの停車期間のようにバッテリ6の充放電が休止されている期間に実行されることが好適である。
【0048】
インダクタ51-58の好適な実施態様が
図3を参照して説明される。
図3によれば、インダクタ51-58は共通の四角枠形状の軟磁性コア9に巻かれている。さらに、インダクタ51-58のそれぞれによりコア9内に形成される各磁束は互いに同じ流れ方向をもつ。したがって、充電期間において、直列接続された8個のインダクタ51-58は、8個のインダクタ51-58それぞれと比べて8倍の巻数をもつ一つのインタ゛クタと見指されることができる。
【0049】
したがって、充電期間において直列接続されたインダクタ51-58は、インダクタ51-58のそれぞれと比べて64倍のインダクタンスをもつ。その結果、放電期間において、インダクタ51-58はそれぞれ、互いに磁気的に独立するインダクタ51-58のそれぞれと比べて8倍のインダクタンスをもつ。結局、
図3に示される共通コア形式のインダクタ51-58は、相対的に大きな磁気エネルギーを蓄積することができる。
【0050】
図3において、インダクタ51は端子11a、11bをもち、インダクタ52は端子12a、12bをもつ。インダクタ53は端子13a、13bをもち、インダクタ54は端子14a、14bをもつ。インダクタ55は端子15a、15bをもち、インダクタ56は端子16a、16bをもつ。インダクタ57は端子17a、17bをもち、インダクタ58は端子18a、18bをもつ。
【0051】
この実施例のバッテリ保護動作は、定期的に実行されることができ、負極析出に関する情報やバッテリ温度に関する情報に基づいて起動されることもできる。
【0052】
第2実施例
第2の好適なバッテリ保護回路が
図4を参照して説明される。このバッテリ保護回路は、制御回路7及び双方向昇圧チョッパ回路110からなる。制御回路7は充放電回路としての双方向昇圧チョッパ回路110を制御する。昇圧チョッパ回路110は3相インバータ105とバッテリ6とを接続する。3相インバータ105は電気自動車の3相モータ106にU相電圧Vu、V相電圧Vv及びW相電圧Vwを印加する。
【0053】
昇圧チョッパ回路110は、インダクタ101、下アームスイッチ102、及び上アームスイッチ103からなる。インダクタ101は、下アームスイッチ102と上アームスイッチ103との接続点をバッテリ6の正極端子61に接続する。昇圧チョッパ回路110は、バッテリ6の電圧を昇圧して3相インバータ105及び平滑キャパシタ104に並列に印加する。
【0054】
昇圧チョッパ回路110により実行されるバッテリ6の放電動作が説明される。下アームスイッチ102がオンされると、バッテリ6はインダクタ101及び下アームスイッチ102を通じて放電する。放電電流はインダクタ101に磁気エネルギーを蓄積する。下アームスイッチ102がオフされると、バッテリ6及びインダクタ101は、上アームスイッチ103を通じて平滑キャパシタ104に昇圧電圧を印加する。
【0055】
上アームスイッチ103及び下アームスイッチ102は相補的にスイッチングされることができる。平滑キャパシタ104が上アームスイッチ103のアンチパラレルダイオードを通じて充電されることも可能である。下アームスイッチ102のスイッチングは所定のキャリヤ周波数で繰り返される。下アームスイッチ102が高いPWMテ゛ューティ比をもつ時、バッテリ6の放電電流が増加する。下アームスイッチ102が低いPWMテ゛ューティ比をもつ時、バッテリ6の放電電流が減少する。
【0056】
昇圧チョッパ回路110により実行されるバッテリ6の充電動作が説明される。平滑キャハ゜シタ104はバッテリ6よりも高い電圧をもつ。上アームスイッチ103がオンされると、平滑キャパシタ104は上アームスイッチ103及びインダクタ101を通じてバッテリ6を充電する。充電電流はインダクタ101に磁気エネルギーを蓄積する。上アームスイッチ103がオフされると、インダクタ101の磁気エネルギーは、下アームスイッチ102及びインダクタ101を通じてバッテリ6に回生される。
【0057】
これにより、平滑キャパシタ104が放電され、バッテリ6が充電される。上アームスイッチ103及び下アームスイッチ102は相補的にスイッチングされることができる。インダクタ101は下アームスイッチ102のアンチパラレルダイオードを通じてバッテリ6を充電することができる。上アームスイッチ103のスイッチングは所定のキャリヤ周波数で繰り返される。上アームスイッチ103が高いPWMテ゛ューティ比をもつ時、バッテリ6の充電電流が増加する。上アームスイッチ103が低いPWMテ゛ューティ比をもつ時、バッテリ6の充電電流が減少する。
【0058】
図5は、双方向昇圧チョッパ回路110の動作を示すタイミングチャートである。昇圧チョッパ回路110がバッテリ6を放電する放電期間Tdと、昇圧チョッパ回路110がバッテリ6を充電する充電期間Tcとが交互に繰り返される。放電期間TdはDperiodと呼ばれることができ、充電期間TcはCperiodと呼ばれることができる。
【0059】
放電期間Tdが終了した後、充電期間Tcが開始される前に、下アームスイッチ102がオフされるインダクタ減衰期間Tbが配置される。インダクタ101を流れる電流はこの期間Tbにおいて減衰される。同様に、充電期間Tcが終了した後、放電期間Tdが開始される前に、上アームスイッチ103がオフされるインダクタ減衰期間Taが配置される。インダクタ101を流れる電流はこの期間Taにおいて減衰される。
【0060】
第2実施例によれば、電気自動車のトラクションモータを駆動する3相インバータに昇圧電圧を印加する昇圧チョッパ回路がバッテリ保護動作を実施する。したがって、回路コストが低減される。
【0061】
第3実施例
第3の好適な保護回路が説明される。
図6はバッテリ保護動作を実行するバッテリ保護回路を示す。このバッテリ保護回路は、充放電回路としての3相インバータ210と、3相インバータ210を制御する制御回路7とをもつ。3相インバータ210は、3相モータのU相巻線2U、V相巻線2V、及びW相巻線2Wを駆動する。3相インバータ210は、3つのHブリッジ601-603からなるデュアルインバータと、バッテリ6と並列接続された平滑キャパシタ63をもつ。
【0062】
Hブリッジ601はU相巻線2Uの両端に別々に接続されるレグ208及び209をもつ。Hブリッジ602はV相巻線2Vの両端に別々に接続されるレグ208及び209をもつ。Hブリッジ603はW相巻線2Wの両端に別々に接続されるレグ208及び209をもつ。各レグ208はそれぞれ、互いに直列接続された上アームスイッチ204及び下アームスイッチ205からなる。各レグ209はそれぞれ、互いに直列接続された上アームスイッチ206及び下アームスイッチ207からなる。
【0063】
U相Hブリッジ601の動作が
図7-
図9を参照して説明される。V相Hブリッジ602及びW相Hブリッジ603の動作は、Hブリッジ601の動作と本質的に同じである。
図7はバッテリ6の放電動作を示す。上アームスイッチ204及び下アームスイッチ207がオンされる。これにより、相巻線2Uを流れる放電電流Idが次第に増加し、相巻線2Uの磁気エネルギーが増加する。
【0064】
図8はフリーホィーリング動作を示す。上アームスイッチ204及び206がオンされる。フリーホィーリング電流Ifが上アームスイッチ206のアンチパラレルダイオードを流れる時、上アームスイッチ206をオフするしてもよい。フリーホィーリング電流Ifは相巻線2U、上アームスイッチ206、及び上アームスイッチ204を経由して循環する。これにより、フリーホィーリング電流Ifの減衰が抑制される。
【0065】
図9はバッテリ6の充電動作を示す。下アームスイッチ205及び上アームスイッチ206がオンされ、上アームスイッチ204及び下アームスイッチ207がオフされる。これにより、相巻線2Uの磁気エネルギーはバッテリ6に充電電流Icを供給する。バッテリ6は充電され、相巻線2Uの磁気エネルギーは減る。充電電流Icが下アームスイッチ205及び上アームスイッチ206のアンチパラレルダイオードを通じて流れる時、下アームスイッチ205及び上アームスイッチ206はオフされることができる。
【0066】
制御回路7は、Hブリッジ201-203をPWM制御することにより、放電電流Id及び充電電流Icの電流値を調整することができる。たとえば、
図7に示される放電動作と、
図8に示されるフリーホィーリング動作とを交互に実施するPWM制御は、バッテリ6の放電電流の電流値を制御する。これら2つの動作期間の比率に相当するPWMテ゛ューティを制御することにより、放電電流の平均電流値は制御される。平滑キャパシタ63はバッテリ6を流れる放電電流の高周波成分を除去する。
【0067】
同様に、
図9に示される充電動作と
図8に示されるフリーホィーリング動作とを交互に実施するPWM制御は、バッテリ6の充電電流を制御する。これら2つの動作期間の比率に相当するPWMテ゛ューティを制御することにより、充電電流の平均電流値は制御される。平滑キャパシタ63はバッテリ6を流れる充電電流の高周波成分を除去する。
【0068】
図10は、バッテリ保護動作を示すタイミングチャートである。タイミングチャート401はU相Hブリッジ201の動作を示す。タイミングチャート402はV相Hブリッジ202の動作を示す。タイミングチャート403はW相Hブリッジ203の動作を示す。
【0069】
時点t1から時点t2までの放電期間(Dperiod)において、バッテリ6は3つのHブリッジ201-203に放電電流を並列に供給する。放電電流の電流値は、既述されたPWMテ゛ューティ制御により調整されることができる。なお、3相モータ内の3つの相磁束の干渉を排除するために、たとえば、Hブリッジ201、202とHブリッジ203とは逆向きに放電電流を流すことが好適である。
【0070】
時点t2から時点t3までの第1充電期間において、U相Hブリッジ201がバッテリ6に充電電流を供給し、他の2つのHブリッジ202、203は
図8に示されるフリーホィーリング期間(F)を維持する。時点t3から時点t4までの第2充電期間において、V相Hブリッジ202がバッテリ6に充電電流を供給し、他の2つのHブリッジ201、203は
図8に示されるフリーホィーリング期間(F)を維持する。時点t4から時点t1までの第3充電期間において、W相Hブリッジ203がバッテリ6に充電電流を供給し、他の2つのHブリッジ201、202は
図8に示されるフリーホィーリング期間(F)を維持する。結局、
図10において、各相の充電期間(Rperiod)は順番に実行される。これにより、低い電流レートをもつ充電電流がバッテリ6に長時間流れる。
【0071】
結局、時点t2から時点t1までの充電期間において、3つの相巻線2U、2V、及び2Wの磁気エネルギーはバッテリ6を順番に充電する。なお、
図10において、3つのHブリッジ201-203はそれぞれ、時点t2から時点t1までの充電期間において1回の充電期間(Rperiod)をもつ。しかし、3つのHブリッジ201-203はそれぞれ、時点t2から時点t1までの充電期間において複数の充電期間(Rperiod)をもつことができる。ただし、各充電期間(Rperiod)は重ならないことが重要である。これにより、バッテリ6を流れる充電電流の振幅を低減することができる。
【0072】
さらに、各充電期間(Rperiod)においてバッテリ6を流れる充電電流の電流値は既述されたPWM制御により制御されることができる。同様に、各放電期間(Dperiod)においてバッテリ6を流れる放電電流の電流値もPWM制御により制御されることができる。
【0073】
バッテリ6から3つのHブリッジへ放電電流が同時並列に流れ、かつ、3つのHブリッジからバッテリ6へ充電電流が順番に流れる。その結果、バッテリ6の負極は、高い電流レートの放電電流によりリフレッシュされる。さらに、この充電電流及び放電電流は冷たいバッテリを急速に暖めることができる。冷たいバッテリへの充電電流の供給にもかかわらず、充電電流の電流値の低減は、負極上へのデンドライトの成長を抑制する。
【0074】
さらに、放電電流及び充電電流の平均電流値はPWM制御により調整される。たとえば、充電電流の平均電流値はPWM制御により低減される。第3実施例によれば、電気自動車のトラクションモータ又はエアコンモータを駆動する3相インバータを使用してバッテリ保護動作を実施することができるため、回路コストは低減されることができる。
【0075】
上記において説明された高電流レートでの短時間の充電と、低電流レートでの長時間の放電とを含むバッテリの充放電動作は、冷たいバッテリを急速加熱し、さらに、デンドライトの成長を低減する。第1-第3実施例はそれぞれ、バッテリが外部の負荷へ放電していない期間に実施されることが好適である。
【0076】
第4実施例
第4の好適なバッテリ保護回路が
図11を参照して説明される。このバッテリ保護回路は、低温バッテリの急速加熱動作を実行する。電気ビークルのパワーシステムは、トラクションモータである3相同期モータ1と、3相同期モータ1に3相同期電流を供給する3相インバータ2と、3相インバータ2に接続されたバッテリ3と、3相インバータ2を制御するコントローラ4と、バッテリ3と並列接続された平滑キャパシタ5とを備える。
【0077】
3相同期モータ1は、U相コイル1U、V相コイル1V及びW相コイル1Wからなる星形接続3相コイルをもつ永久磁石モータである。相コイル1U、1V及び1Wの各相電流やロータの回転角などはセンサ6によりコントローラ4に伝送される。バッテリ3の電流や温度はセンサ7によりコントローラ4に伝送される。
【0078】
3相インバータ2は、U相レグ2U、V相レグ2V、及びW相レグ2Wからなる。3つのレグはそれぞれ、直列接続された上アームスイッチ8及び下アームスイッチ9からなる。上アームスイッチ8及び下アームスイッチ9はそれぞれ、MOSトランジスタ及び逆並列ダイオードとからなる。U相レグ2UはU相コイル1Uに接続され、V相レグ2VはV相コイル1Vに接続され、W相レグ2WはW相コイル1Wに接続されている。バッテリ3は、3つのレグ2U、2V、及び2Wにバッテリ電圧Vbを印加している。
【0079】
コントローラ4は要求トルク値と呼ばれるトルク指令値を受け取る。さらに、コントローラ4はセンサ6及び7から発信された検出信号を受け取る。コントローラ4は、これらの検出信号及び要求トルク値に基づいてアームスイッチ8及び9をPWM制御する。これにより、3相インバータ2から3相同期モータ1へ印加される3相同期電圧が要求トルク値に等しいモータトルクを発生するために制御される。3相同期電圧をなす3つの相電圧Vu、Vv及びVwはロータ速度により決定される同期周波数値をもつ正弦波波形をもつ。相電圧Vu、Vv及びVwの電圧振幅値及び位相角値は、要求トルク値に等しいモータトルク値を発生するために制御される。
【0080】
3つの相電圧Vu、Vv及びVwが相コイル1U、1V、及び1Wに印加される時、U相電流IuがU相コイル1Uに供給され、V相電流IvがV相コイル1Vに供給され、W相電流IwがW相コイル1Wに供給される。3相同期電流は、互いに120度離れた位相差をもつU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwからなる。3相同期電流は、ロータ回転数とロータ磁極数とにより決定される同期周波数を基本周波数とする交流電流である。
【0081】
3相同期モータのトルク値と3相同期電流との関係が説明される。3相同期モータのトルク値は、供給される3相同期電流の電流振幅と負荷角(トルク角とも呼ばれる)とにしたがって変化する。たとえば、U相電流IuはIm・sin(ωt+X)で示され、V相電流IvはIm・sin(ωt+X+(2/3)π)で示され、W相電流IwはIm・sin(ωt+X+(4/3)π)で示される。
【0082】
回転磁界の角速度ωはロータの角速度に一致する。Xは負荷角に実質的に等しい角度値であり、簡単に負荷角と呼ばれることができる。負荷角Xは、ロータの磁極軸と回転磁界の磁極軸との角度差と見なすことができる。3相同期モータ1の発生トルク値は、3相同期電流の電流振幅値Imと負荷角Xとにより決定される。それぞれ電流振幅値と負荷角とからなる数多くのペアが要求トルク値に等しいモータトルクを発生可能である。
【0083】
コントローラ4は、電流振幅値と負荷角値と要求トルク値との関係を決定する表をもつ。この表は、要求トルク値と電流振幅値と負荷角値とからなる多数のセットを記憶する。コントローラ4は、要求トルク値に等しいモータトルクを発生するために、要求トルク値を含む一つのセットを選択する。この選択されたセットの電流振幅値Im及び負荷角Xのペアが3相同期電流に与えられる時、要求トルク値に等しいモータトルクが実現される。
【0084】
3相同期電流の電流振幅値Im及び負荷角Xからなるペアの選択は、3相同期電圧の電圧振幅値Vmと位相角Yとのペアを選択することと本質的に等しい。言い換えれば、3相同期電圧の電圧振幅値Vmと位相角Yとを制御することにより、3相同期電流の電流振幅値Im及び負荷角Xは制御されることができる。
【0085】
3相同期電圧はU相電圧Vu、V相電圧Vv、及びW相電圧Vwからなる。たとえば、U相電圧VuはVm・sin(ωt+Y)で示され、V相電圧VvはVm・sin(ωt+Y+(2/3)π)で示され、W相電圧VwはVm・sin(ωt+Y+(4/3)π)で代表されることができる。
【0086】
電圧振幅値Vmは電流振幅値Imの関数値であり、位相角Yは負荷角Xの関数値である。電圧振幅値Vmの制御により電流振幅値Imを変更することができる。位相角Yを変更することにより負荷角Xを変更することができる。結局、3相同期モータ1のモータトルクは、電圧振幅値Vm及び位相角Yを制御することにより変更されることができる。
【0087】
次に、3相同期モータを制御するための公知の最大トルク制御法が説明される。3相同期モータは、他の形式のモータと比べて高い効率をもつ。最大トルク制御法は、パワーシステムの更なる効率改善により電気ビークルの走行距離の延長を実現する。この最大トルク制御法は、要求トルク値を実現可能な電流振幅値と負荷角値とのペアのうち、最小電流振幅値を含むペアを選択する。
【0088】
一般に、最小電流振幅値を含むペアを選択するために、最小電圧振幅値Vminを含むペアが、電圧振幅値Vmと位相角値Yとのペア群から選択される。これらペア群の各ペアは、要求トルク値を発生可能である。これにより、トラクションモータとしての3相同期モータをもつ電気ビークルはパワーシステムの損失を低減することができる。
【0089】
次に、冷たいバッテリを急速加熱するために実施される振幅拡大法が説明される。この振幅拡大法によれば、3相同期電流の電流振幅値は、最大トルク制御法の最小電流振幅値の150%を超える。この電流振幅値は拡大電流振幅値と呼ばれる。
【0090】
さらに、要求トルク値に等しいモータトルクを発生するために、この拡大電流振幅値と要求トルク値とから負荷角値が選択される。これにより、3相同期モータは要求トルク値に等しいモータトルクを発生することができる。バッテリ3の発熱は、最大振幅法の最小電流振幅値の1.5倍を超える拡大電流振幅値により増加する。したがって、冷えたバッテリ3は急速に加熱される。
【0091】
振幅拡大法の実際の制御によれば、拡大電流振幅値に対応する拡大電圧振幅値をもつ3相同期電圧が3相インバータ2から3相同期モータ1に印加される。3相同期電圧の位相角値は、拡大電圧振幅値とペアとなる負荷角値に応じてシフトされる。これにより、モータトルク値が要求トルク値から逸脱するのが防止される。この実施例によれば、冬期の冷えた朝において電気ビークルの走行を素早く開始する場合でも、速やかにバッテリを加温することができる。
【0092】
この振幅拡大法を用いるバッテリ加熱動作が
図12を参照してさらに説明される。まず、トラクションモータである3相同期モータ1が回転中か否かが判定される(S100)。3相同期モータ1が回転中でない場合、バッテリ3の急速加熱は終了される。3相同期モータ1が回転中であるということは、電気ビークルが走行中であることを意味する。次に、3相同期モータ1が回転中であれば、バッテリ3の温度Tbが所定のしきい値Tthよりも低いか否かが判定される(S102)。
【0093】
バッテリ3の温度Tbが所定のしきい値Tth以上であれば、3相同期モータ1は最大トルク制御法により制御される(S108)。これにより、3相同期電流は最小電流振幅値を選択し、パワーシステムの電力損失が低減され、EVの最長走行距離が延長される。バッテリ3の温度Tbが所定のしきい値Tth未満であれば、バッテリ3は振幅拡大法により急速加熱される(S104)。
【0094】
この振幅拡大法によれば、選択された拡大電圧振幅値及び選択された位相角値をもつ3相同期電圧が決定される。これにより、この3相同期電圧の各相電圧Vu、Vv、及びVwが決定される。
【0095】
次に、決定された相電圧Vu、Vv、及びVwに相当するPWM制御信号が決定され、3相インバータ2は、このPWM制御信号により制御される(S106)。これにより、3相同期モータ1は拡大振幅法により制御される。その結果、トラクションモータの発生トルクを要求トルク値に一致させつつバッテリ3を急速加熱することができる。
【0096】
変形態様が説明される。
図11に示される3つのレグからなるシングル3相インバータの代わりに、3つのHブリッジからなるデュアル3相インバータを採用することができる。3つのHブリッジは、互いに独立する3つのタ゛フ゛ルエンテ゛ット゛相コイルに個別に接続される。
【0097】
振幅拡大法で形成される3相同期電流の各相電流は台形波のような非正弦波波形をもつことができる。一般に、3相同期電流の最大電流振幅値は3相インバータ2により制限される。バッテリ急速加熱のための振幅拡大法が使用されない運転条件下において、最大トルク制御法が採用されることが好適である。
【0098】
第5実施例
第5実施例の好適なバッテリ保護回路が
図6を参照して説明される。このバッテリ保護回路は、3つのHブリッジ201-203からなるデュアルインバータ210と、デュアルインバータ210を制御する制御回路7からなる。デュアルインバータ210の構造及びその基本的な動作は第3実施例により既に説明されている。この実施例のバッテリ保護回路のバッテリ保護動作が
図13及び
図14を参照して説明される。
図13は、冷たいバッテリの急速加熱動作を示すタイミングチャートである。
図14は、冷たくないバッテリの熱削減動作を示すタイミングチャートである。
図13及び
図14において、縦軸は電流値を示す。
【0099】
この実施例によれば、PWM制御される3つのHブリッジ201-203はそれぞれ、共通のPWMサイクル期間Tcをもつ。各PWMサイクル期間Tcはキャリヤ周波数により決定される長さをもつ。PWMサイクル期間Tcは電流供給期間とフリーホィーリング期間とに分割される。U相Hブリッジ201は電流供給期間TUをもち、V相Hブリッジ202は電流供給期間TVをもち、W相Hブリッジ203は電流供給期間TWをもつ。
【0100】
U相Hブリッジ201はPWMテ゛ューティ比(TU/Tc)をもち、V相Hブリッジ202はPWMテ゛ューティ比(TV/Tc)をもち、W相Hブリッジ203はPWMテ゛ューティ比(TW/Tc)をもつ。3つのHブリッジ201-203のPWM制御において、各電流供給期間TU、TV、及びTWはそれぞれ、PWMサイクル期間Tc内に自由に配置されることができる。
【0101】
バッテリ6は、電流供給期間TUにおいてU相巻線2UにU相電流IUを供給し、電流供給期間TVにおいてV相巻線2VにV相電流IVを供給し、電流供給期間TWにおいてW相巻線2WにW相電流IWを供給する。各相電流の電流値はほぼPWMテ゛ューティ比に比例する。結局、バッテリ6は、パルス電流IUをU相巻線2Uに供給し、パルス電流IVをV相巻線2Vに供給し、パルス電流IWをW相巻線2Wに供給する。
【0102】
図13において、3つの電流供給期間TU、TV、及びTWは互いに重なっている。言い換えれば、相対的に短い電流供給期間TV及びTWは、相対的に長い電流供給期間TU内に配置される。したがって、バッテリ6は3つの相電流(IU、IV、及びIW)の合計を放電し、バッテリ6の内部発熱が増加する。バッテリ6を温めるこの急速加熱動作は冬期において好適である。
【0103】
図14において、3つの電流供給期間TU、TV、及びTWはPWMサイクル期間Tc内に順番に配置されている。言い換えれば、3つの電流供給期間TU、TV、及びTWはできるだけ重ならないようにPWMサイクル期間Tc内に配置される。3つの電流供給期間TU、TV、及びTWの合計がPWMサイクル期間Tcよりも長くなる時、各電流供給期間TU、TV、及びTWの重なりはできるだけ回避される。これにより、バッテリ6の内部発熱が削減され、バッテリ6の温度上昇が抑制される。バッテリ発熱を減らすこの熱削減動作は夏期において好適である。
【0104】
図13に示される急速加熱動作は、
図14に示される発熱削減動作と比べて、バッテリ6の発熱を大幅に増やす。たとえば、相電流IV及びIWがそれぞれ、相電流IUの半分の電流値をもつケースが説明される。
図13に示される急速加熱動作は、
図14に示される発熱削減動作と比べて、8/3倍の熱をバッテリ6内に発生する。たとえば、相電流IUがゼロであり、相電流IVが相電流IWと等しい電流値をもつケースがケースが説明される。
図13に示される急速加熱動作は、
図14に示される発熱削減動作と比べて2倍の熱をバッテリ6内に発生する。
【要約】 (修正有)
【課題】リチウムイオン電池のようなバッテリのデンドライトを電気的に除去するバッテリ保護動作及び/又は低温のバッテリを加熱する加熱動作を行うバッテリ保護回路を提供する。
【解決手段】バッテリ保護回路は、バッテリ6を充放電する充放電回路8を備える。充放電回路8は、放電期間と充電期間とを交互に繰り返す。短い放電期間にバッテリ6を流れる放電電流は、長い充電期間にバッテリ6を流れる充電電流に比べて高い電流レートを有する。
【選択図】
図1