(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】自己回復特性を有するエラストマーフィルムの調製のためのポリマーラテックス組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/04 20060101AFI20231221BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20231221BHJP
C08K 5/5435 20060101ALI20231221BHJP
C08F 236/12 20060101ALI20231221BHJP
C08C 19/25 20060101ALI20231221BHJP
B29C 41/14 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C08L9/04
C08K5/544
C08K5/5435
C08F236/12
C08C19/25
B29C41/14
(21)【出願番号】P 2022507763
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(86)【国際出願番号】 MY2019000034
(87)【国際公開番号】W WO2021029763
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】517156791
【氏名又は名称】シントマー スンディリアン ブルハド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ショウ ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ チェンリ
(72)【発明者】
【氏名】ゴー イーファン
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-510854(JP,A)
【文献】特表2008-512526(JP,A)
【文献】特開2005-187544(JP,A)
【文献】特開2005-200559(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010370(WO,A1)
【文献】特表2019-512572(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126660(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
C08C 19/00-19/44
B29C 41/00-41/32
A41D 19/00-19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーフィルムの作製のための水性ポリマーラテックス組成物であって、下記の
(I)および(II)を含む水性ポリマーラテックス組成物:
(I) エチレン性不飽和モノマーの混合物のフリーラジカル乳化重合によって得られるラテックスポリマーの粒子であって、官能基(a)を有し、ラテックスポリマーが70重量%未満の平均ゲル含有量を有する粒子
、
ここで、エチレン性不飽和モノマーの混合物は下記(a)~(e)を含む、
(a) 15~99重量%の共役ジエン;
(b) 1~80重量%のエチレン性不飽和ニトリル化合物;
(c) 0.05~10重量%の、官能基(a)を有するエチレン性不飽和化合物;
(d) 0~50重量%のビニル芳香族モノマー;および
(e) 0~65重量%の共重合可能なエチレン性不飽和化合物;
モノマー(a)~(e)は互いに異なり、重量パーセントは混合物中の総モノマーに基づく;
(II) モノマー化合物およびフリーラジカル付加重合で調製されていないオリゴマーまたはポリマー化合物から選択される架橋成分であって、互いに異なる官能基(b)および(c)を含む架橋成分;ここで、
- 官能基(b)は、官能基(a)と反応すると、
下記(i)および(ii)の1つ以上から選択される熱可逆的結合を形成する;
(i) 下記構造式を有する結合;
【化1】
ここで、Xは-O-または-NR
1-であり、nは0または1であり、R
1は水素またはヒドロカルビル基であり、R
2はヒドロカルビル基である;
および
(ii) β-ヒドロキシエステル結合;および
- 成分(II)の異なる分子上の官能基(c)は、互いに反応することができる。
【請求項2】
下記要件を満たす、請求項
1に記載の水性ポリマーラテックス組成物:
(a) 前記共役ジエンは、ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、ミルセン、オシメン、ファルナセンおよびこれらの組み合わせから選択される;
(b) 前記エチレン性不飽和ニトリル化合物は、(メタ)アクリロニトリル、α-シアノエチルアクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロニトリルおよびそれらの組み合わせから選択される;
(c) 前記官能基(a)を有するエチレン性不飽和化合物は、下記のものから選択される;
- 下記構造を有する官能基を有するエチレン性不飽和化合物;
【化2】
式中、X、n、R
1およびR
2は請求項1で定義されたとおりであ
り;
- 第一級アミノ基を有するエチレン性不飽和化合
物;
- エチレン性不飽和オキシラン化合
物;
- エチレン性不飽和カルボン酸およびその
塩;
- エチレン性不飽和ポリカルボン酸無水
物;
- ポリカルボン酸部分エステルモノマーおよびその
塩;
(d) 前記ビニル芳香族モノマーは、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンおよびそれらの組み合わせから選択される;
(e) 前記共重合可能なエチレン性不飽和化合物は、下記のものから選択される;
(e1) エチレン性不飽和酸のアルキルエステ
ル;
(e2) エチレン性不飽和酸のヒドロキシアルキルエステ
ル;
(e3) エチレン性不飽和酸のアミ
ド;
(e4) カルボン酸ビニ
ル;
(e5) エチレン性不飽和酸のアルコキシアルキルエステ
ル;
官能基(b)は、オキシラン基、カルボン酸基、その塩または無水物、第一級アミン基、および下記構造を有する官能基から選択される;
【化3】
式中、X、n、R
1およびR
2は、請求項1で定義されたとおりである。
【請求項3】
ラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの混合物が、下記成分を含む、請求項
1~2のいずれか1項に記載の水性ポリマーラテックス組成物:
(a) 20~99重量%の共役ジエ
ン;
(b) 1~60重量%の、エチレン性不飽和ニトリル化合物から選択されるモノマ
ー;
(c) 0.05~7重量%のエチレン性不飽和
酸;
(d) 0~40重量%のビニル芳香族モノマ
ー;
(e1) 0~25重量%のC
1~C
8アルキル(メタ)アクリレート;
(e3) 0~10重量%の、アミド基を有するエチレン性不飽和化合物;
(e4) 0~10重量%のビニルエステル;
重量%は、混合物中の総モノマーを基準とする。
【請求項4】
官能基(a)がカルボン酸基、その塩または無水物であり、官能基(b)がオキシラン基である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の水性ポリマーラテックス組成物。
【請求項5】
ラテックスポリマー(I)および架橋成分(II)が、官能基(a)に対する官能基(b)のモル比が0.1~
2となるような相対量で存在する、請求項
1~4のいずれか1項に記載の水性ポリマーラテックス組成物。
【請求項6】
ラテックス粒子が、粒子の表面における官能基(a)の濃度がより高く、粒子のバルク内の濃度がより低いという官能基(a)の濃度勾配を示す、請求項
1~5のいずれか1項に記載の水性ポリマーラテックス組成物。
【請求項7】
官能基(c)が、複数のケイ素結合ヒドロキシル基および/または加水分解性基を有するシラン基から選択さ
れる、請求項
1~6のいずれか1項に記載の水性ポリマーラテックス組成物。
【請求項8】
架橋成分(II)が下記成分から選択される、請求項
1~7のいずれか1項に記載の水性ポリマーラテックス組成物:
- オキシラン官能性ジアルコキシシランまたはトリアルコキシシラ
ン;
- 第一級アミノ官能性ジアルコキシシランまたはトリアルコキシシラ
ン。
【請求項9】
ラテックスポリマー(I)が、60重量%未
満のゲル含有量を有する、請求項
1~8のいずれか1項に記載の水性ポリマーラテックス組成物。
【請求項10】
浸漬成形品の製造のための、または基
材のコーティングもしくは含浸のための、請求項
1~9のいずれか1項に記載の水性ポリマーラテックス組成物の使用。
【請求項11】
請求項
1~9のいずれか1項に記載の水性ポリマーラテックス組成物と、任意に硫黄加硫剤、硫黄加硫のための促進剤、架橋剤、多価カチオンおよびそれらの組み合わせから選択される補助剤とを含む、浸漬成形品の製造に適した調合ラテックス組成物。
【請求項12】
硫黄加硫剤および硫黄加硫のための促進剤並びに/またはZnOを含まない、請求項
11に記載の調合ラテックス組成物。
【請求項13】
10.5~1
3のpHを有する、請求項
11または12に記載の調合ラテックス組成物。
【請求項14】
下記手順によって浸漬成形品を作製する方法:
(a) 請求項
11~13のいずれか1項に記載の調合ラテックス組成物を提供すること;
(b) 金属塩の溶液を含む凝固剤浴中に最終物品の所望の形状を有する型を浸漬すること;
(c) 凝固剤浴から型を取り出し、任意に型を乾燥させること;
(d) ステップ(a)の調合ラテックス組成物中にステップ(b)および(c)で処理した型を浸漬すること;
(e) 型の表面上にラテックスフィルムを凝固させること;
(f) ラテックスコーティング型を調合ラテックス組成物から取り出し、かつ任意にラテックスコーティング型を水浴中に浸漬すること;
(g) 任意にラテックスコーティング型を乾燥させること;
(h) ステップ(e)または(f)から得られたラテックスコーティング型を40℃~180
℃の温度で熱処理すること;および
(i) 型からラテックス物品を取り出すこと。
【請求項15】
請求項
1~9のいずれか1項に記載の水性ポリマーラテックス組成物または請求項
11~13のいずれか1項に記載の調合ラテックス組成物から作製されたエラストマーフィルムであって、少なくとも2つの異なる相を有する異種相システムを示し、第1の相はラテックス粒子(I)から形成され、第2の相は、架橋成分(II)の異なる分子上の複数の官能基(c)が相互に反応した架橋成分(II)から形成され、第1および第2の相は請求項1に規定の熱可逆的結合によって互いに結合されている、エラストマーフィルム。
【請求項16】
ラテックス粒子(I)が、架橋成分(II)から形成された相が分散している連続相を形成する、請求項
15に記載のエラストマーフィルム。
【請求項17】
手術用手袋、検査用手袋、コンドーム、カテーテル、工業用手袋、布支持手袋および家庭用手袋から選択される、請求項
15または16に記載のエラストマーフィルムを含む物品。
【請求項18】
請求項
15または16に記載のエラストマーフィルムまたは請求項
17に記載の物品を下記手順によって修復する方法:
(a) 損傷した請求項
15または16に記載のエラストマーフィルム、または損傷したエラストマーフィルムを含む請求項
17に記載の物品を提供すること、損傷したエラストマーフィルムは、少なくとも再接続されるべき表面を有する;
(b) 損傷フィルムの上記表面を再接合すること;および
(c) 損傷したフィルムの再接合面の密着を維持しながら、損傷したエラストマーフィルムを40℃~200℃の温度で加熱またはアニールすること。
【請求項19】
請求項
15または16に記載のエラストマーフィルムまたは請求項
17に記載の物品をリサイクルする方法であって、エラストマーフィルムまたは物品を切断、細断または粉砕してエラストマーの粒子を形成し、任意に、得られた粒子を未使用エラストマーの粒子とブレンドし、当該粒子を1~20MPaの圧力および40℃~200℃の温度に曝して、リサイクルされたフィルムまたは物品を形成することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修復および/またはリサイクルすることができる自己回復特性を示すエラストマーフィルムを調製するための水性ポリマーラテックス組成物、そのようなエラストマーフィルム、上記ポリマーラテックス組成物を含む調合ラテックス組成物、浸漬成形品を作製する方法、エラストマーフィルムを修復またはリサイクルする方法、特に、しかし排他的ではないが、熱再加工を使用してエラストマーフィルムを修復またはリサイクルする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の工業規格によれば、エラストマーフィルム、特に浸漬成形用途、例えば検査用手袋は、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックス(XNBR)を含有する化合物から作製されている。これらのエラストマーフィルムの使用目的のために必要な機械的強度を得るために、エラストマーフィルムの製造中にフィルムのいくらかの架橋が達成される必要がある。
【0003】
このような架橋エラストマーフィルムを得るために、いくつかの異なる概念が先行技術において利用可能である。1つの可能性は、エラストマーフィルムを製造するための化合物がチウラムおよびカルバメートおよび酸化亜鉛などの促進剤と組み合わせて、硫黄などの従来の硫黄加硫システムを含有することである。
【0004】
硫黄加硫システムはアレルギー反応を引き起こす可能性があるので、ラテックスフィルムを硬化性可能にするための代替概念が開発されている。別の可能性は化学的架橋を達成するために、化合物中に、例えば、多価カチオン(例えば、酸化亜鉛)またはラテックス粒子上の官能基と反応するのに適した他の多官能性有機化合物などの架橋剤成分を含むことである。さらに、ポリマーラテックスが十分な量の自己架橋基、例えば、N-メチロールアミド基を有する場合、硫黄加硫システムおよび/または架橋剤は、完全に回避され得る。
【0005】
これら全ての異なる概念は、架橋されたエラストマーフィルムをもたらし、ここで、架橋は本質的に不可逆的であり、その結果、これらのエラストマーフィルムは、容易にリサイクルされ得ず、また、それらを修復可能にするために自己回復特性を示さない。例えば、フィルムの自己回復特性の欠如のために、エラストマーフィルムの製造中にピンホールのような何らかの種類の欠陥が生じた場合、これらの製品を廃棄する必要があり、その結果、再使用できない廃棄物が生じる。さらに、そのようなエラストマーフィルムがその使用中に開裂した場合、これは修理できず、その結果、エラストマーフィルムの不可逆的な廃棄を引き起こし、ひいては、このようなエラストマーフィルムを含む物品の故障が生じる。
【0006】
したがって、そのようなエラストマーフィルムの使用不可能な廃棄物を減らし、そのようなエラストマーフィルムを含む物品の最終的な破損を回避するために、固有の自己回復特性を有しかつ潜在的にリサイクルされ得るエラストマーフィルムを提供するポリマーラテックス組成物が、産業界において要望されている。
【0007】
国際公開第2017/209596号は、2つの異なる種類のラテックス粒子を含むディップ成形用途のためのポリマーラテックスを開示している。1つの種類のラテックス粒子はカルボキシル化されている一方で、第2の種類のラテックス粒子はオキシラン官能基を含有する。
【0008】
したがって、本発明は、水性ポリマーラテックス組成物、およびそれから製造され自己回復特性を有するエラストマーフィルム、ならびに上記エラストマーフィルムを修復またはリサイクルするための方法を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは驚くべきことに、下記のものを含む水性ポリマーラテックス組成物から作製されたエラストマーフィルムが、自己回復特性を有し、したがって、修復およびリサイクルすることができることを見出した。
(I) エチレン性不飽和モノマーの混合物のフリーラジカル乳化重合によって得られるラテックスポリマーの粒子であって、官能基(a)を有し、ラテックスポリマーが70重量%未満の平均ゲル含有量を有する粒子;
(II) モノマー化合物およびフリーラジカル付加重合で調製されていないオリゴマーまたはポリマー化合物から選択される架橋成分であって、互いに異なる官能基(b)および(c)を含む架橋成分;ここで
- 官能基(b)は、官能基(a)と反応すると、以下の1つ以上から選択される熱可逆的結合を形成する;
(i) 下記構造式を有する結合;
【化1】
ここで、Xは-O-または-NR
1-であり、nは0または1であり、R
1は水素またはヒドロカルビル基であり、R
2はヒドロカルビル基である;
および
(ii) β-ヒドロキシエステル結合;および
- 成分(II)の異なる分子上の官能基(c)は互いに反応することができる。これは、先行技術から知られている硫黄加硫エラストマーフィルムでは以前は不可能であった。
【0010】
本発明の一態様によれば、下記のものを含む水性ポリマーラテックス組成物に関する;
(I) エチレン性不飽和モノマーの混合物のフリーラジカル乳化重合によって得られるラテックスポリマーの粒子であって、官能基(a)を有し、ラテックスポリマーが70重量%未満の平均ゲル含有量を有する粒子;
(II) モノマー化合物およびフリーラジカル付加重合で調製されていないオリゴマーまたはポリマー化合物から選択される架橋成分であって、互いに異なる官能基(b)および(c)を含む架橋成分;ここで
- 官能基(b)は、官能基(a)と反応すると、以下の1つ以上から選択される熱可逆的結合を形成する;
(i) 下記構造式を有する結合;
【化2】
ここで、Xは-O-または-NR
1-であり、nは0または1であり、R
1は水素またはヒドロカルビル基であり、R
2はヒドロカルビル基である;
および
(ii) β-ヒドロキシエステル結合;および
- 成分(II)の異なる分子上の官能基(c)は、互いに反応することができる。
【0011】
さらなる態様によれば、本発明は、浸漬成形品の製造のための、または、基材、好ましくは布基材をコーティングまたは含浸するための、上記水性ポリマーラテックス組成物の使用に関する。
【0012】
さらなる態様によれば、本発明は、上記で規定された水性ポリマーラテックス組成物、ならびに任意に硫黄加硫剤、硫黄加硫のための促進剤、架橋剤、多価カチオンおよびそれらの組み合わせから選択される補助剤を含み、浸漬成形品の製造に適した調合ラテックス組成物に関する。
【0013】
さらなる態様によれば、本発明は、下記手順によって浸漬成形品を作製する方法に関する;
(a) 上記で規定した調合ラテックス組成物を提供すること;
(b) 金属塩の溶液を含む凝固剤浴中に最終物品の所望の形状を有する型を浸漬すること;
(c) 凝固剤浴から型を取り出し、任意に型を乾燥させること;
(d) ステップ(a)の調合ラテックス組成物中にステップ(b)および(c)で処理した型を浸漬すること;
(e) 型の表面上にラテックスフィルムを凝固させること;
(f) ラテックスコーティング型を調合ラテックス組成物から取り出し、かつ任意にラテックスコーティング型を水浴中に浸漬すること;
(g) 任意にラテックスコーティング型を乾燥させること;
(h) ステップ(e)または(f)から得られたラテックスコーティング型を40℃~180℃、好ましくは60℃~100℃の温度で熱処理すること;および
(i) 型からラテックス物品を取り出すこと。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、少なくとも2つの異なる相を有する異種相システムであって、第1の相がラテックス粒子(I)から形成され、第2の相が、架橋成分(II)の異なる分子上の複数の官能基(c)が相互に反応した架橋成分(II)から形成され、第1および第2の相が上記規定の熱可逆的結合によって互いに結合されている異種相システムを示す本発明の水性ポリマーラテックス組成物または調合ラテックス組成物から作製されたエラストマーフィルムに関し、ならびに、手術用手袋、検査用手袋、コンドーム、カテーテル、工業用手袋、布支持手袋および家庭用手袋から選択される上記エラストマーフィルムを含む物品に関する。
【0015】
さらなる態様によれば、本発明は、下記手順によって、エラストマーフィルムまたは上記エラストマーフィルムを含む物品を修復するための方法に関する:
(a) 損傷した本発明のエラストマーフィルムまたは損傷した本発明のエラストマーフィルムを含む物品(損傷したエラストマーフィルムは、少なくとも再接続されるべき表面を有する)を提供すること;
(b) 損傷フィルムの上記表面を再接合すること;および
(c) 損傷したフィルムの再接合面の密着を維持しながら、損傷したエラストマーフィルムを40℃~200℃の温度で加熱またはアニールすること。
【0016】
さらなる態様によれば、本発明は、本発明によるエラストマーフィルムまたは物品を切断、細断または粉砕してエラストマーの粒子を形成し、任意で、得られた粒子を未使用エラストマーの粒子とブレンドし、粒子を1~20MPaの圧力および40℃~200℃の温度に曝して、リサイクルされたフィルムまたは物品を形成することによって、本発明によるエラストマーフィルムまたは本発明によるエラストマーフィルムを含む物品をリサイクルするための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に対する比較例の応力緩和実験の結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、本発明の実施例5の応力緩和実験の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の実施例6の応力緩和実験の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の実施例7の応力緩和実験の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の実施例8の応力緩和実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
得られるエラストマーフィルムに自己回復特性を付与して、エラストマーフィルムを修理可能および/またはリサイクル可能にするための、本発明の一態様によるポリマーラテックス組成物は、下記のものを含む:
(I) エチレン性不飽和モノマーの混合物のフリーラジカル乳化重合によって得られるラテックスポリマーの粒子であって、官能基(a)を有し、ラテックスポリマーが70重量%未満の平均ゲル含有量を有する粒子;
(II) モノマー化合物およびフリーラジカル付加重合で調製されていないオリゴマーまたはポリマー化合物から選択される架橋成分であって、互いに異なる官能基(b)および(c)を含む架橋成分;ここで、
- 官能基(b)は、官能基(a)と反応すると、以下の1つ以上から選択される熱可逆的結合を形成する;
(i) 下記構造式を有する結合;
【化3】
ここで、Xは-O-または-NR
1-であり、nは0または1であり、R
1は水素またはヒドロカルビル基であり、R
2はヒドロカルビル基である;
および
(ii) β-ヒドロキシエステル結合;および
- 成分(II)の異なる分子上の官能基(c)は、互いに反応することができる。
【0019】
ラテックスポリマー(I)
本発明によれば、ラテックスポリマー(I)を調製するためのエチレン性不飽和モノマーの混合物は、下記のものを含むことができる:
(a) 15~99重量%の共役ジエン;
(b) 1~80重量%のエチレン性不飽和ニトリル化合物;
(c) 0.05~10重量%の、官能基(a)を有するエチレン性不飽和化合物;
(d) 0~50重量%のビニル芳香族モノマー;および
(e) 0~65重量%の共重合可能なエチレン性不飽和化合物;
ここで、モノマー(a)~(e)は互いに異なり、重量パーセントは混合物中の総モノマーに基づく。
【0020】
エチレン性不飽和モノマーの混合物において、追加のエチレン性不飽和モノマーが存在してもよく、これは、下記のものから選択される:
- エチレン性不飽和酸のヒドロキシアルキルエステル;
- エチレン性不飽和酸のアミド;
- カルボン酸ビニル;
- 少なくとも2個のエチレン性不飽和基を有するモノマー;
- エチレン性不飽和シラン;
- オキシラン官能性エチレン性不飽和化合物;および
- それらの組み合わせ。
【0021】
本発明によるラテックスポリマー(I)の調製に適した共役ジエンモノマーとしては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,4-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ペンタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ヘキサジエン、2,3-ジエチル-1,3-ブタジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、3,7-ジメチル-1,3,6-オクタトリエン、2-メチル-6-メチルレン-1,7-オクタジエン、7-メチル-3-メチレン-1,6-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、2-アミル-1,3-ブタジエン、3,7-ジメチル-1,3,7-オクタトリエン、3,7-ジメチル-1,3,6-オクタトリエン、3,7,11-トリメチル-1,3,6,10-ドデカテトラエン、7,11-ジメチル-3-メチレン-1,6,10-ドデカトリエン、2,6-ジメチル-2,4,6-オクタトリエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、2-メチル-3-イソプロピル-1,3-ブタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、ミルセン、オシメン、およびファルナセンから選択される共役ジエンモノマーが挙げられる。1,3-ブタジエン、イソプレンおよびそれらの組み合わせは、好ましい共役ジエンである。1,3-ブタジエンは最も好ましいジエンである。典型的には、共役ジエンモノマーの量は、モノマーの総重量に基づいて、15~99重量%、好ましくは20~99重量%、より好ましくは30~75重量%、最も好ましくは40~70重量%の範囲である。したがって、共役ジエンは、ラテックスポリマー(a)に用いるエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも22重量%、少なくとも24重量%、少なくとも26重量%、少なくとも28重量%、少なくとも30重量%、少なくとも32重量%、少なくとも34重量%、少なくとも36重量%、少なくとも38重量%、または少なくとも40重量%の量で存在してもよい。
【0022】
したがって、共役ジエンモノマーは、95重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、78重量%以下、76重量%以下、74重量%以下、72重量%以下、70重量%以下、68重量%以下、66重量%以下、64重量%以下、62重量%以下、60重量%以下、58重量%以下、または56重量%以下の量で使用することができる。当業者は、明示的に開示された下限と上限のいずれかの間の任意の範囲が本明細書に開示されていることを理解するであろう。
【0023】
ラテックスポリマー(a)の粒子を作製するために使用することができる不飽和ニトリルモノマーには、アセチルまたは追加のニトリル基のいずれかによって置換されていてもよい、直鎖または分岐配列で2~4個の炭素原子を含有する重合性不飽和脂肪族ニトリルモノマーが含まれる。このようなニトリルモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-シアノエチルアクリロニトリル、フマロニトリルおよびそれらの組み合わせが挙げられ、アクリロニトリルが最も好ましい。これらのニトリルモノマーは、ラテックスポリマー(a)のためのエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、1~80重量%、好ましくは10~70重量%、または1~60重量%、およびより好ましくは15~50重量%、さらにより好ましくは20~50重量%、最も好ましくは23~43重量%の量で含まれ得る。
【0024】
したがって、不飽和ニトリルは、ラテックスポリマー(a)のためのエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、少なくとも1重量%、5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも14重量%、少なくとも16重量%、少なくとも18重量%、少なくとも20重量%、少なくとも22重量%、少なくとも24重量%、少なくとも26重量%、少なくとも28重量%、少なくとも30重量%、少なくとも32重量%、少なくとも34重量%、少なくとも36重量%、少なくとも38重量%、または少なくとも40重量%の量で存在してもよい。
【0025】
従って、不飽和ニトリルモノマーは、80重量%以下、75重量%以下、73重量%以下、70重量%以下、68重量%以下、66重量%以下、64重量%以下、62重量%以下、60重量%以下、58重量%以下、56重量%以下、54重量%以下、52重量%以下、50重量%以下、48重量%以下、46重量%以下、または44重量%以下の量で使用することができる。当業者は、明示的に開示された下限と上限のいずれかの間の任意の範囲が本明細書に開示されていることを理解するであろう。
【0026】
官能基(a)を有するエチレン性不飽和化合物は、下記のものから選択することができる:
- 下記構造を有する官能基を有するエチレン性不飽和化合物;
【化4】
式中、X、n、R
1およびR
2は、上記のように定義され、好ましくはエチレン性不飽和ジオンモノマーおよびアセトアセトキシモノマーならびにそれらの組み合わせから選択される;
- 第一級アミノ基を有するエチレン性不飽和化合物;
- エチレン性不飽和オキシラン化合物;
- エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩;
- エチレン性不飽和ポリカルボン酸無水物;
- ポリカルボン酸部分エステルモノマーおよびその塩。
【0027】
適切なエチレン性不飽和ジオンモノマーは、2-(アクリロイルオキシ)エチルアセトアセテート、2-(メタクリロイルオキシ)エチルアセトアセテートまたはビニルアセトアセテート(エテニル3-オキソブタノエート)から選択され得る。
【0028】
第一級アミノ基を有する適切なエチレン性不飽和化合物は、アクリルアミド、メタクリルアミド、2-アミノエチルメタクリレートおよびそのヒドロ塩、N-(2-アミノエチル)メタクリルアミドおよびそのヒドロ塩、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミドおよびそのヒドロ塩、アリルアミンおよびそのヒドロ塩、およびメタクリロイル-L-リジン、ならびにそれらの組み合わせから選択され得る。
【0029】
好適なエチレン性不飽和オキシラン化合物は、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンオキシド、リモネンオキシド、2-エチルグリシジルアクリレート、2-エチルグリシジルメタクリレート、2-(n-プロピル)グリシジルアクリレート、2-(n-プロピル)グリシジル(メタ)アクリレート、2-(n-ブチル)グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルメチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、(3’,4’-エポキシヘプチル)-2-エチルアクリレート、(3’,4’-エポキシヘプチル)-2-エチルメタクリレート、(6’,7’-エポキシヘプチル)アクリレート、(6’,7’-エポキシヘプチル)メタクリレート、(3-メチルオキシラン-2-イル)メチル-2-メタクリレート、ジメチルグリシジル(メタ)アクリレート、2,3-エポキシブチル(メタ)アクリレート、アリル-3,4-エポキシヘプチルエーテル、6,7-エポキシヘプチルアリルエーテル、ビニル-3,4-エポキシヘプチルエーテル、3,4-エポキシヘプチルビニルエーテル、6,7-エポキシヘプチルビニルエーテル、o-ビニルベンジルグリシジルエーテル、m-ビニルベンジルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテル、3-ビニルシクロヘキセンオキシド、α-メチルグリシジルメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、およびこれらの組み合わせから選択することができる。グリシジル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0030】
エチレン性不飽和カルボン酸またはその塩は、モノカルボン酸およびジカルボン酸のモノマーおよびそれらの無水物ならびにポリカルボン酸の部分エステルから選択することができる。本発明を実施するには、3~5個の炭素原子を含有する、エチレン性不飽和脂肪族モノもしくはジカルボン酸または無水物を使用することが好ましい。モノカルボン酸モノマーの例としてはアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸が挙げられ、ジカルボン酸モノマーの例としてはフマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シス-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、ジメチルマレイン酸、ブロモマレイン酸、2,3-ジクロロマレイン酸、および(2-ドデセン-1-イル)コハク酸が挙げられる。ポリカルボン酸部分エステルの例としては、モノメチルマレエート、モノメチルフマレート、モノエチルマレエート、モノエチルフマレート、モノプロピルマレエート、モノプロピルフマレート、モノブチルマレエート、モノブチルフマレート、モノ(2-エチルヘキシル)マレエート、モノ(2-エチルヘキシル)フマレートが挙げられる。他の適切なエチレン性不飽和酸の例としては、酢酸ビニル、乳酸ビニル、ビニルスルホン酸、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸およびそれらの塩が挙げられる。(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸およびそれらの組み合わせが特に好ましい。
【0031】
典型的には、官能基(a)を有するエチレン性不飽和化合物の量は、ラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、0.05~10重量%、特に0.1~10重量%または0.05~7重量%、好ましくは0.1~9重量%、より好ましくは0.1~8重量%、さらにより好ましくは1~7重量%、最も好ましくは2~7重量%である。したがって、官能基(a)を有するエチレン性不飽和化合物は、少なくとも0.01重量%、少なくとも0.05重量%、少なくとも0.1重量%、少なくとも0.3重量%、少なくとも0.5重量%、少なくとも0.7重量%、少なくとも0.9重量%、少なくとも1重量%、少なくとも1.2重量%、少なくとも1.4重量%、少なくとも1.6重量%、少なくとも1.8重量%、少なくとも2重量%、少なくとも2.5重量%、または少なくとも3重量%の量で存在してもよい。同様に、官能基(a)を有するエチレン性不飽和化合物は、ラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、10重量%以下、9.5重量%以下、9重量%以下、8.5重量%以下、8重量%以下、7.5重量%以下、7重量%以下、6.5重量%以下、6重量%以下、5.5重量%以下、または5重量%以下の量で存在してもよい。当業者は、明示的に開示された下限および明示的に開示された上限によって規定される任意の範囲が本明細書で開示されることを理解するのであろう。
【0032】
本発明によれば、ラテックス粒子は、粒子の表面における官能基(a)の濃度がより高く、粒子のバルク内の濃度がより低いという官能基(a)の濃度勾配を示すことが特に好ましい。
【0033】
ビニル芳香族モノマーの代表例としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン、4-ブロモスチレン、2-メチル-4,6-ジクロロスチレン、2,4-ジブロモスチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、1,1-ジフェニルエチレンおよび置換の1,1-ジフェニルエチレン、1,2-ジフェニルエチレンおよび置換の1,2-ジフェニルエチレンが挙げられる。1種以上のビニル芳香族化合物の混合物も使用することができる。好ましいモノマーは、スチレンおよびα-メチルスチレンである。ビニル芳香族化合物は、ラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、0~50重量%、好ましくは0~40重量%、より好ましくは0~25重量%、さらにより好ましくは0~15重量%、最も好ましくは0~10重量%の範囲で使用することができる。したがって、ビニル芳香族化合物は、ラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、35重量%以下、30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、18重量%以下、16重量%以下、14重量%以下、12重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下、4重量%以下、2重量%以下、または1重量%以下の量で存在することができる。ビニル芳香族化合物はまた、完全に存在しなくてもよい。
【0034】
さらに、本発明によるラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの混合物は、上記規定のモノマーとは異なる追加のエチレン性不飽和モノマーを含むことができる。これらのモノマーは、下記のものから選択することができる:
(e1) エチレン性不飽和酸のアルキルエステル;
(e2) エチレン性不飽和酸のヒドロキシアルキルエステル;
(e3) エチレン性不飽和酸のアミド;
(e4) カルボン酸ビニル;
(e5) エチレン性不飽和酸のアルコキシアルキルエステル;およびそれらの組み合わせ。
【0035】
本発明に従って使用することができるカルボン酸ビニルモノマーは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニル-2-エチルヘキサノエート、ステアリン酸ビニル、およびバーサチック酸のビニルエステルを含む。本発明で使用するのに最も好ましいビニルエステルモノマーは酢酸ビニルである。典型的には、ビニルエステルモノマーは、ラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、18重量%以下、16重量%以下、14重量%以下、12重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下、4重量%以下、2重量%以下、または1重量%以下の量で存在することができる。
【0036】
本発明に従って使用することができるエチレン性不飽和酸のアルキルエステルは、アルキル基が1~20個の炭素原子を有するアクリル酸または(メタ)アクリル酸のn-アルキルエステル、イソ-アルキルエステルまたはt-アルキルエステル、メタクリル酸と、バーサチック酸、ネオデカン酸またはピバル酸などのネオ酸のグリシジルエステルとの反応生成物、ならびにヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートおよびアルコキシアルキル(メタ)アクリレートのモノマーを含む。
【0037】
一般に、(メタ)アクリル酸の好ましいアルキルエステルは、C1-C10アルキル(メタ)アクリレート、好ましくはC1-C8-アルキル(メタ)アクリレートから選択することができる。このようなアクリレートモノマーの例としては、n-ブチルアクリレート、セカンダリーブチルアクリレート、エチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、t-ブチルアクリレート、2-エチル-ヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、4-メチル-2-ペンチルアクリレート、2-メチルブチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートおよびセチルメタクリレートが挙げられる。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートおよびこれらの組み合わせが好ましい。
【0038】
典型的には、アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、ラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、18重量%以下、16重量%以下、14重量%以下、12重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下、4重量%以下、2重量%以下、または1重量%以下の量で存在することができる。
【0039】
本発明によるポリマーラテックスを調製するために使用することができるエチレン性不飽和酸のヒドロキシアルキルエステルは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびより高級のアルキレンオキシドまたはそれらの混合物をベースとするヒドロキシアルキルアクリレートおよびメタクリレートのモノマーを含む。例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートおよびヒドロキシブチルアクリレートが挙げられる。好ましくは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーは2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートである。典型的には、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーは、ラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、18重量%以下、16重量%以下、14重量%以下、12重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下、4重量%以下、2重量%以下、または1重量%以下の量で存在することができる。
【0040】
本発明で用いることができるアルコキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシブチルアクリレートおよびメトキシエトキシエチルアクリレートが挙げられる。好ましいアルコキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーは、エトキシエチルアクリレートおよびメトキシエチルアクリレートである。典型的には、アルコキシエチルアルキル(メタ)アクリレートモノマーは、ラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、18重量%以下、16重量%以下、14重量%以下、12重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下、4重量%以下、2重量%以下、または1重量%以下の量で存在することができる。
【0041】
本発明によるポリマーラテックスの調製に使用することができるエチレン性不飽和酸のアミドとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、およびジアセトンアクリルアミドが挙げられる。好ましいアミドモノマーは、(メタ)アクリルアミドである。熱処理によって自己架橋可能な官能基を本発明のポリマー粒子に導入するためには、N-メチロールアミド基を含むモノマーを採用してもよい。適切なモノマーは、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソ-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-アセトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N(-2,2-ジメトキシ-1-ヒドロキシエチル)アクリルアミドである。典型的には、エチレン性不飽和酸のアミドは、ラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの総重量に基づいて、18重量%以下、16重量%以下、14重量%以下、12重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下、4重量%以下、2重量%以下、または1重量%以下の量で存在することができる。
【0042】
ラテックスポリマー(I)のためのエチレン性不飽和モノマーの混合物は、下記のものを含み得る:
(a) 20~99重量%の共役ジエン、好ましくはブタジエン、イソプレンおよびそれらの組み合わせから選択され、より好ましくはブタジエン;
(b) 1~60重量%の、エチレン性不飽和ニトリル化合物から選択されるモノマー、好ましくはアクリロニトリル;
(c) 0.05~7重量%のエチレン性不飽和酸、好ましくは(メタ)アクリル酸;
(d) 0~40重量%のビニル芳香族モノマー、好ましくはスチレン;
(e1) 0~25重量%のC1~C8アルキル(メタ)アクリレート;
(e3) 0~10重量%の、アミド基を有するエチレン性不飽和化合物;
(e4) 0~10重量%のビニルエステル;
重量%は、混合物中の総モノマーを基準とする。
【0043】
本発明によれば、ラテックスポリマー(a)の調製のための上記のモノマーの量は、合計で最大100重量%であってもよい。
【0044】
本発明によれば、フリーラジカル乳化重合において重合されるエチレン性不飽和モノマーの混合物は、下記のものも含むことができる:
(a) 15~90重量%のイソプレン;
(b) 1~80重量%のアクリロニトリル;
(c) 0.01~10重量%、好ましくは0.05~10重量%の少なくとも1種のエチレン性不飽和酸;
(d) 0~40重量%の少なくとも1種の芳香族ビニル化合物;および
(e) 0~20重量%の、化合物(a)~(d)のいずれかとは異なる少なくとも1種のさらなるエチレン性不飽和化合物。
成分(a)および/または(b)の範囲は、(a)共役ジエンおよび(b)不飽和ニトリルの上記した範囲から選択することができる。同様に、成分(c)、(d)および/または(e)についての特定の実施形態および量は、成分(c)、(d)および上記追加のポリマーについて上述したものから選択することができる。
【0045】
ラテックスポリマー(I)は、70重量%未満、好ましくは60重量%未満、より好ましくは50重量%未満、最も好ましくは40重量%未満のゲル含有量を有する。本出願を通して開示されるゲル含有量は、実験部分に記載されるように測定される。
【0046】
本発明のポリマーラテックスの調製方法:
本発明によるラテックスポリマー(I)は、本明細書に規定されるモノマー混合物が使用されることを条件として、当業者に公知の任意の乳化重合プロセスによって作製することができる。欧州特許出願公開792891号明細書に記載されているプロセスが特に好適である。
【0047】
本発明のラテックスポリマー(I)を調製するための乳化重合においては、シードラテックスを採用してもよい。シードラテックスは好ましくは別々に調製され、乳化重合は別々に調製されたシードラテックスの存在下で行われる。シードラテックス粒子は、好ましくはオキシラン官能性ラテックス粒子(b)のような、シード粒子を作製するためのものを含むポリマーラテックスに使用される全エチレン性不飽和モノマー100重量部に対して、0.01~10、好ましくは1~5重量部の量で存在する。したがって、シードラテックス粒子の量の下限は、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、または2.5重量部とすることができる。上記量の上限は、10、9、8、7、6、5.5、5、4.5、4、3.8、3.6、3.4、3.3、3.2、3.1または3重量部とすることができる。当業者は、明示的に開示された下限および上限のいずれかによって形成される任意の範囲が本明細書に明示的に包含されることを理解するであろう。
【0048】
上述のラテックスポリマー(I)の調製プロセスは、0~130℃、好ましくは0~100℃、特に好ましくは5~70℃、極めて特に好ましくは5~60℃の温度で、乳化剤の不存在下または1種以上の乳化剤の存在下、コロイドの不存在下または1種以上のコロイドの存在下、および1種以上の開始剤の存在下で行うことができる。温度は、それらの間の全ての値および下位値を含み、特に5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120および125℃を含む。
【0049】
本発明を実施する際に使用することができる開始剤には、重合の目的に有効な水溶性および/または油溶性開始剤が含まれる。代表的な開始剤は、当該技術分野において周知であり、例えば、アゾ化合物(例えば、AIBN、AMBNおよびシアノ吉草酸)、無機ペルオキシ化合物(例えば、過酸化水素、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウムのペルオキシジスルフェート、ペルオキシカーボネートおよびペルオキシボレート)、有機ペルオキシ化合物(例えば、アルキルヒドロペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、アシルヒドロペルオキシド、およびジアシルペルオキシド)、およびエステル(例えば、t-ブチルペルベンゾエート)、ならびに無機開始剤および有機開始剤の組み合わせを含む。
【0050】
開始剤は、所望の速度で重合反応を開始するのに十分な量で使用される。一般に、開始剤の量は、全ポリマーの重量を基準にして、0.01~5重量%、好ましくは0.1~4重量%で十分である。開始剤の量は、ポリマーの総重量に基づいて0.01~2重量%であることが最も好ましい。開始剤の量は、それらの間の全ての値および下位値を含み、ポリマーの総重量に基づいて、特に0.01、0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、4および4.5重量%を含む。
【0051】
上記の無機および有機ペルオキシ化合物はまた、当技術分野で周知のように、単独で、または1種以上の適切な還元剤と組み合わせて使用され得る。言及され得るこのような還元剤の例は、二酸化硫黄、アルカリ金属二硫化物、アルカリ金属およびアンモニウムの亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩およびホルムアルデヒドスルホキシレート、ならびにヒドロキシルアミン塩酸塩、硫酸ヒドラジン、硫酸鉄(II)、ナフテン酸銅、グルコース、メタンスルホン酸ナトリウムのようなスルホン酸化合物、ジメチルアニリンおよびアスコルビン酸のようなアミン化合物である。Bruggolite(登録商標)FF6またはBruggolite(登録商標)FF6Mなどの有機スルフィン酸誘導体の独自のナトリウム塩の使用がより好ましい。還元剤の量は、重合開始剤の重量部当たり0.03~10重量部であることが好ましい。
【0052】
ラテックス粒子を安定化するのに適した界面活性剤または乳化剤には、重合プロセスのための従来の界面活性剤が含まれる。界面活性剤は、水相および/またはモノマー相に添加することができる。シード法における界面活性剤の有効量は、粒子のコロイドとしての安定化、粒子間の接触の最小化および凝集の防止をサポートするために選択された量である。非シード法では、界面活性剤の有効量は、粒子サイズに影響を及ぼすために選択された量である。
【0053】
代表的な界面活性剤には、飽和およびエチレン性不飽和スルホン酸またはそれらの塩(例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸およびメタリルスルホン酸などの不飽和炭化水素スルホン酸、およびそれらの塩を含む);芳香族炭化水素酸(例えば、p-スチレンスルホン酸、イソプロペニルベンゼンスルホン酸およびビニルオキシベンゼンスルホン酸およびそれらの塩など);アクリル酸およびメタクリル酸のスルホアルキルエステル(例えば、スルホエチルメタクリレートおよびスルホプロピルメタクリレートおよびそれらの塩、ならびに2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸およびそれらの塩など);アルキル化ジフェニルオキシドジスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネートナトリウムおよびスルホサクシネートナトリウムのジヘキシルエステル、スルホン酸のナトリウムアルキルエステル、エトキシル化アルキルフェノールおよびエトキシル化アルコール;脂肪アルコール(ポリ)エーテルサルフェートが含まれる。
【0054】
界面活性剤の種類および量は、典型的には粒子の数、それらのサイズおよびそれらの組成によって支配される。典型的には、界面活性剤は、モノマーの総重量に基づいて、0~20、好ましくは0~10、より好ましくは0~5重量%の量で使用される。界面活性剤の量は、それらの間の全ての値および下位値を含み、モノマーの総重量に基づいて、特に0、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18および19重量%を含む。本発明の一実施形態によれば、重合は、界面活性剤を使用せずに行われる。
【0055】
上記の界面活性剤の代わりに、またはそれに加えて、様々な保護コロイドを使用することもできる。好適なコロイドとしては、部分アセチル化ポリビニルアルコール、カゼイン、ヒドロキシエチルデンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、多糖類、および分解多糖類、ポリエチレングリコールおよびアラビアゴムなどのポリヒドロキシ化合物が挙げられる。好ましい保護コロイドは、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースである。一般に、これらの保護コロイドは、モノマーの総重量に基づいて、0~10、好ましくは0~5、より好ましくは0~2重量部の含有量で使用される。保護コロイドの量は、それらの間の全ての値および下位値を含み、モノマーの総重量に基づいて、特に1、2、3、4、5、6、7、8および9重量%を含む。
【0056】
当業者は、本発明によるポリマーラテックスを浸漬成形用途に適したものにするために選択される極性官能基を有するモノマー、界面活性剤および保護コロイドの種類および量を理解するであろう。従って、本発明のポリマーラテックス組成物は、30mmol/l CaCl2未満、好ましくは25mmol/l未満、より好ましくは20mmol/l未満、最も好ましくは10mmol/l未満の臨界凝集濃度として決定される一定の最高電解質安定性(pH10および23℃で組成物の全固形分0.1%について測定)を有することが好ましい。
【0057】
電解質の安定性が高すぎると、浸漬成形プロセスでポリマーラテックスを凝集させることが困難になり、その結果、浸漬型上にポリマーラテックスの連続フィルムが形成されないか、または得られる製品の厚さが不均一になる。
【0058】
ポリマーラテックスの電解質安定性を適切に調整することは、当業者のルーチンの範囲内である。電解質安定性は、一定の異なる要因、例えば、ポリマーラテックスを製造するために使用されるモノマー(特に極性官能基を含有するモノマー)の量および選択、ならびに安定化系(例えば、ポリマーラテックスを製造するための乳化重合プロセス)の選択および量に依存する。安定化系は、界面活性剤および/または保護コロイドを含有することができる。
【0059】
当業者は、本発明のポリマーラテックスを製造するための選択されたモノマーおよびそれらの相対量に応じて、本発明による電解質安定性を達成するために安定化システムを調整することができる。
【0060】
電解質の安定性には非常に多くの異なる影響があるので、試行錯誤実験によって調整を行うのが最良である。しかし、これは、上記に開示したように、電解質安定性のための試験方法を使用して、不適切な労力なしに容易に行うことができる。
【0061】
乳化重合は、さらに緩衝物質およびキレート剤の存在下で実施することがしばしば推奨される。適切な物質は例えば、アルカリ金属炭酸塩および炭酸水素塩、アルカリ金属リン酸塩およびピロリン酸塩(緩衝物質)、ならびにキレート剤としてのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはヒドロキシル-2-エチレンジアミン三酢酸(HEEDTA)のアルカリ金属塩である。緩衝物質およびキレート剤の量は、通常、モノマーの総量に基づいて0.001~1.0重量%である。
【0062】
さらに、乳化重合において連鎖移動剤(調節剤)を使用することが有利であり得る。典型的な試薬としては例えば、チオエステル、2-メルカプトエタノール、3-メルカプトプロピオン酸およびC1-C12アルキルメルカプタンなどの有機硫黄化合物が挙げられ、n-ドデシルメルカプタンおよびt-ドデシルメルカプタンが好ましい。連鎖移動剤の量は、存在する場合、使用されるモノマーの総重量に基づいて、通常0.05~3.0重量%、好ましくは0.2~2.0重量%である。
【0063】
さらに、重合プロセスに部分的中和を導入することが有益であり得る。当業者は、このパラメータの適切な選択によって、必要な制御が達成され得ることを理解する。
【0064】
架橋成分(II)
本発明によれば、架橋成分(II)は、モノマー化合物、およびフリーラジカル付加重合で調製されていないオリゴマーまたはポリマーの化合物から選択される。適切なオリゴマーまたはポリマーの化合物は、ポリエーテル、ポリエステル、およびポリウレタンから選択され得る。好ましくは、架橋成分(II)は、モノマー化合物およびポリエーテルオリゴマーから選択される。架橋成分(II)のためにはモノマー化合物を選択することが特に好ましい
【0065】
架橋成分(II)は、互いに異なる官能基(b)および(c)を含む。官能基(b)は、ラテックスポリマー(I)上の官能基(a)と反応すると、以下の1つ以上から選択される熱可逆的結合を形成する。
(i) 下記構造式を有する結合、
【化5】
ここで、Xは-O-または-NR
1-、nは0または1、R
1は水素またはヒドロカルビル基であり、R
2はヒドロカルビル基である;
(ii) β-ヒドロキシエステル結合。
【0066】
当業者は、ラテックスポリマー(I)および架橋成分が互いに反応し、エラストマーフィルムが形成される場合に、ラテックスポリマー(I)中の官能基(a)および架橋成分上の官能基(b)が上記規定の熱可逆的結合を提供するために適切に選択される必要があることを理解する。
【0067】
本発明によれば、官能基(b)は、オキシラン基、カルボン酸基、その塩または無水物、第一級アミン基、および下記構造を有する官能基から選択することができる:
【化6】
ここで、X、n、R
1およびR
2は上記のように定義される。
【0068】
本発明によれば、官能基(a)はカルボン酸基、その塩または無水物であり、官能基(b)はオキシラン基であることが好ましい。
【0069】
さらに、成分(II)の異なる分子上の官能基(c)は、互いに反応することができる。適切な官能基(c)は、複数のケイ素結合ヒドロキシル基および/または加水分解性基を有するシラン基から選択され得、好ましくはアルコキシ基、オキシモ(oximo)基、アシルオキシ基、アミノオキシ基およびリン酸基から選択される。
【0070】
好適な架橋成分(II)は、下記のものから選択され得る。
- オキシラン官能性ジアルコキシシランまたはトリアルコキシシラン、好ましくは(3-グリシドキシプロピル)トリアルコキシシラン;
- 第一級アミノ官能性ジアルコキシシランまたはトリアルコキシシラン、好ましくは(3-アミノプロピル)トリアルコキシシラン。
【0071】
水性ポリマーラテックス組成物:
本発明の水性ポリマーラテックス組成物はまず、上記のようにラテックスポリマー(I)を含むポリマーラテックスを作製し、次いで、得られたポリマーラテックスを架橋成分(II)と組み合わせることによって調製することができる。本発明の水性ポリマーラテックス組成物において、ラテックスポリマー(I)および架橋成分(II)は、官能基(a)に対する官能基(b)のモル比が0.1~2、好ましくは0.1~1.5、より好ましくは0.2~0.9、最も好ましくは0.3~0.6となるような相対量で存在し得る。
【0072】
本発明のラテックス組成物を調製するために、種々の他の添加剤および成分を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、消泡剤、湿潤剤、増粘剤、可塑剤、充填剤、顔料、分散剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、殺生物剤および金属キレート剤が挙げられる。公知の消泡剤には、シリコーンオイルおよびアセチレングリコールが含まれる。通常知られている湿潤剤には、アルキルフェノールエトキシレート、アルカリ金属ジアルキルスルホサクシネート、アセチレングリコールおよびアルカリ金属アルキルスルフェートが含まれる。典型的な増粘剤には、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、キサンタンガム、変性セルロースまたは粒状増粘剤(例えばシリカおよび粘土)が含まれる。典型的な可塑剤には、鉱油、液体ポリブテン、液体ポリアクリレートおよびラノリンが含まれる。二酸化チタン(TiO2)、炭酸カルシウムおよび粘土が典型的に使用される充填剤である。
【0073】
浸漬成形品の製造のための調合ラテックス組成物:
本発明の水性ポリマーラテックス組成物は、浸漬成形プロセスに特に適している。したがって、ポリマーラテックス組成物は、浸漬成形プロセスに直接使用することができる硬化性ポリマーラテックス調合組成物を製造するために調合される。再現性のある良好な物理的フィルム特性を得るために、薄い使い捨て手袋を製造するための浸漬のために、pH調整剤によって調合ポリマーラテックス組成物のpHをpH7~13、好ましくは10.5~13、より好ましくは11~12の範囲に調整することが望ましい。支持されていないおよび/または支持された再使用可能な手袋を製造するためには、pH調整剤によって調合ポリマーラテックス組成物のpHをpH8~10、好ましくは8.5~9.5の範囲に調整することが望ましい。調合ポリマーラテックス組成物は、本発明のポリマーラテックスを含み、任意にpH調整剤、好ましくはアンモニアまたはアルカリ水酸化物を含み、および任意に通常これらの組成物に使用される添加剤であって酸化防止剤、顔料、TiO2、充填剤および分散剤から選択される添加剤を含有する。
【0074】
あるいは、本発明のポリマーラテックスを調合する代わりに、上記規定のラテックスポリマー(I)を含むポリマーラテックスを上記と同じ方法で調合し、および当該調合工程の間または後に上記規定の架橋成分(II)を添加して本発明の調合ラテックス組成物を提供することもできる。もちろん、ラテックスポリマー(I)、架橋成分(II)およびラテックスポリマーの総量に基づくそれらの相対量に関する上記のような全てのバリエーションを使用することができる。
【0075】
しかし、硫黄加硫システムおよび架橋剤、および場合によってはZnOを完全に回避することができ、一方、本発明に従って使用されるポリマーラテックス化合物は依然として硬化可能であり、修復可能および/またはリサイクル可能にするために必要な引張特性および自己回復特性を有する浸漬成形品を提供できることが、特に有利である。
【0076】
浸漬成形品の作製方法:
本発明による浸漬成形ラテックス物品の製造方法では、まず、最終物品の所望の形状を有する清浄な型を、金属塩の溶液を含む凝固剤浴中に浸漬する。凝固剤は、通常、水、アルコールまたはそれらの混合物中の溶液として使用される。凝固剤の特定の例として、金属塩は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化亜鉛および塩化アルミニウムのような金属ハロゲン化物;硝酸カルシウム、硝酸バリウムおよび硝酸亜鉛のような金属硝酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムおよび硫酸アルミニウムのような金属硫酸塩;ならびに酢酸カルシウム、酢酸バリウムおよび酢酸亜鉛のような酢酸塩であり得る。最も好ましいのは、塩化カルシウムおよび硝酸カルシウムである。凝固剤溶液は、前者の湿潤挙動を改善するために添加剤を含有する可能性もある。
【0077】
その後、型を浴から取り出し、任意に乾燥させる。次いで、このような処理された型は、本発明による調合ラテックス組成物に浸漬される。これにより、ラテックスの薄膜が型表面に凝固する。このように浸漬されたフィルムの厚さは、調合ラテックスの濃度および/または塩コーティングされた型が調合ラテックスと接触する時間の長さによって影響され得ることが当技術分野で知られている。あるいは、複数の浸漬工程、特に2つの浸漬工程を順次行うことによってラテックスフィルムを得ることも可能である。
【0078】
その後、型は、組成物から例えば極性成分を抽出し、凝固ラテックスフィルムを洗浄するために、ラテックス組成物から取り出され、任意に水浴に浸漬される。
【0079】
その後、ラテックスコーティングされた型は、80℃未満の温度で任意に乾燥される。
【0080】
最後に、ラテックスコーティングされた型を40~180℃の温度で熱処理して、最終フィルム製品の所望の機械的性質を得る。次に、最終ラテックスフィルムを型から取り出す。熱処理の所要時間は温度に依存し、典型的には1~60分である。温度が高いほど、必要な処理時間は短くなる。
【0081】
本発明の発明者らは驚くべきことに、本発明のポリマーラテックス組成物を使用する場合、浸漬成形プロセスをより経済的に行うことができることを発見した。特に、本発明による調合ラテックス組成物の形成と浸漬成形工程の実施との間の所要期間(熟成時間)は、180分をはるかに超える熟成時間を必要とする標準ラテックスから製造された化合物と比較して、180分以下に大幅に短縮することができることが発見された。
【0082】
さらに、本発明者らは、最終浸漬成形品の機械的性質を損なうことなく、熱処理工程の温度を40℃から120℃未満の範囲内に大幅に低下させることができることを見出した。従来のラテックスは、所望の機械的性質を達成するために120℃以上の温度を必要とする。したがって、本発明のポリマーラテックスを使用する場合、浸漬成形プロセスは、より時間がかからず、よりエネルギーがかからず、より経済的になる。
【0083】
したがって、本発明によれば、下記の点が好ましい:
- 調合工程(a)において、本発明によるポリマーラテックス組成物は、ZnOを添加することなく、pHを10.5~13、好ましくは11~12の範囲に調整することによって調合される;
- そのようにして得られた調合ラテックス組成物は、硫黄加硫剤、硫黄加硫促進剤およびZnOを含まず、浸漬工程(d)において使用される前に、180分未満、好ましくは10分~150分、より好ましくは20分~120分、最も好ましくは30分~90分熟成される;および/または
- 熱処理工程(h)において、ラテックスコーティングされた型は40℃から120℃未満、好ましくは60℃~100℃、より好ましくは70℃~90℃の温度で熱処理される。
【0084】
本発明の水性ポリマーラテックス組成物または調合ラテックス組成物から製造されたエラストマーフィルムは、フィルム形成および乾燥および任意選択で熱処理後に、少なくとも2つの異なる相を有する異種相システムを示し、第1の相はラテックス粒子(I)から形成され、第2の相は、架橋成分(II)の異なる分子上の複数の官能基(c)が相互に反応した架橋成分(II)から形成され、第1および第2の相は上記規定の熱可逆的結合によって互いに結合されている。ラテックスポリマー(I)により形成される相は、架橋成分(II)から形成された相が分散している連続相を形成することが好ましい。ラテックスポリマー(I)のゲル含有量が低いために、ラテックスポリマー(I)によって形成される相はかなり柔らかく柔軟であるが、架橋成分(II)から形成される相はラテックスポリマー(II)によって形成される相に比べて硬い。
【0085】
理論に束縛されることを望まないが、本発明者らは、分散硬質相と組み合わせた連続軟質相の存在がエラストマーフィルムの所望の機械的性質に寄与し、一方、両相間の熱可逆的結合が、本発明のエラストマーフィルムをリサイクルおよび修復することを可能にするエラストマーフィルムの自己回復特性を提供すると考える。
【0086】
最終熱処理エラストマーフィルムは、少なくとも約7MPaの引張強度および少なくとも約300%の破断伸び、好ましくは少なくとも約10MPaの引張強度、少なくとも約350%の破断伸び、より好ましくは少なくとも約15MPaの引張強度および少なくとも約400%の破断伸び、さらにより好ましくは少なくとも約20MPaの引張強度および少なくとも約500%の破断伸びを有し得る。これらの機械的性質は、ISO37-77(第5版2011-12-150)に従って測定した。
【0087】
本発明の浸漬成形プロセスは、当技術分野で知られている浸漬成形プロセスによって製造することができる任意のラテックス物品に使用することができる。
【0088】
物品は、エラストマーフィルムから形成されるかまたはエラストマーフィルムを含むヘルスケア器具、手術用手袋、検査用手袋、コンドーム、カテーテル、またはすべての異なる種類の工業用手袋および家庭用手袋から選択することができる。
【0089】
エラストマーフィルムまたは上記エラストマーフィルムを含む物品を修復する方法
エラストマーフィルムから形成された物品は回収され、選別され、任意に、取り扱い目的のために滅菌される。損傷はあるが再使用できない程度ではない物品は分離され、損傷がある表面は任意選択でさらに洗浄される。この洗浄は、過酸化水素または他の滅菌流体で洗浄することによるか、または二酸化炭素空気流またはUV光の下を通過させて、病原体が存在しないことを確保することによるものであり得る。損傷の位置において、互いに分離した損傷フィルムの表面は、それらが互いに接触するように一緒にされ、例えば穴がある場合、穴の縁部が接するようにされ、表面が加熱されて、エラストマーフィルムが軟化し、表面が一緒に封止して損傷を修復し、その後、表面が冷却され、修復されたまたは自己回復された表面が露出される。加熱は、損傷した表面の接触領域に圧力を加えながら行うことができる。
【0090】
エラストマーフィルムまたは該エラストマーフィルムを含む物品をリサイクルする方法
手袋のようなエラストマー材料は収集され、必要であれば、ニトリル含有材料が一緒に収集されるように選別され、一方、他の材料は廃棄されるか、または代替のリサイクルもしくは再処理施設に送られる。次いで、収集された材料は、修復/自己回復プロセスのために行われるのと同様に、必要に応じて洗浄され、汚染除去される。次いで、材料は、平均直径が2mm以下、好ましくは平均直径が1mm以下、理想的には粒径の平均直径が0.15~0.75、より好ましくは0.2~0.3の範囲の粒径に粉砕される。粉砕または磨砕プロセスは、容易な処理を可能にしさらに処理する前に材料を粒子として維持するために、室温未満で、または実際に極低温条件下で実施することができる。低温条件は、必要になるまで粒子の再結合を回避する。材料は、室温で、または必要とされるまで粒子の再結合を回避するような条件下で貯蔵され得る。材料は、ブレンダーに供給される前にさらに粉砕されてもよく、ここで、材料は他の材料、例えば、未使用のエラストマー材料の粒子、および慣用の加工助剤および添加剤とブレンドされる。ブレンド工程がない場合、材料は熱処理システムに直接供給され、そこで粒子/クラムは熱プレスされ、2ロール圧延され、カレンダー加工され、または加圧下および加熱条件、すなわち40℃を超える温度で押出され、材料がガラス転移温度に達するまで材料中に流動性を与え、この段階で材料を必要な最終形状に成形することもできる。この後、材料は、必要に応じて、型中でまたは押出プロセスの一部として冷却されて、リサイクルされた材料から形成される最終製品が製造される。
【0091】
本発明を、以下の実施例を参照してさらに説明する。
【0092】
物理的パラメータの測定:
分散液を、全固形分(TSC)、pH値、ゲル含有量、粘度(ブルックフィールドLVT)およびz平均粒径の測定によって特徴付けた。さらに、最終フィルムを引張特性について試験した。
【0093】
ゲル含有量の測定:
試験中のラテックスのサンプルを白色フィルター布を通してふるいにかけて、表皮または凝塊を除去した。次いで、ラテックスの薄膜をガラス板上にキャストし、約0.1~0.3mmの膜厚が達成されるまでスプレッダーを用いて広げた。
【0094】
ガラス板を55~60℃の温度の空気循環オーブンに2時間入れた。乾燥後、ポリマーを板から取り出し、小片に切断した。約1グラムの乾燥ポリマーを175mlのガラス容器に秤量し、ポリマー重量を記録した。次いで、100ml(±1ml)のMEK(メチルエチルケトン)およびマグネチックスターラーバーを添加した。容器を蓋で密閉し、水浴中のマグネチックスターラー上に置き、35℃に設定し、撹拌を16時間行った。その後、試料を水浴から取り出し、周囲温度まで冷却させた。浅いホイルカップを正確に秤量した。容器をしばらく放置して、溶媒と未溶解ポリマーとを分離した。濾紙を通して透明なガラス容器に溶液15mlを濾過し、その後、ピペットを用いてこの溶液5mLを浅いホイルカップに移した。カップをヒュームカップボード中のIRランプ(115~120℃)下に30分間置いた。最後に、カップをIRランプから取り外し、再秤量する前に室温まで冷却した。
ゲル含有量の計算:
乾燥試料の重量=A
浅いホイルカップの重量=B
浅いホイルカップ+乾燥分の重量=C
溶媒の%TSC(W/V)=[(C-B)X100]/5=D
溶解ポリマーの総重量(100ml中)=100×D/100=E
%ゲル含有量=(1-E/A)×100
【0095】
全固形分(TSC)の測定:
全固形分の測定は重量法に基づく。分散液1~2gを分析天秤上の重量測定済のアルミニウム皿に入れた。その皿を、一定の質量に達するまで、空気循環オーブン中120℃で1時間保存した。室温に冷却した後、最終重量を再測定した。固形分量は、以下のように計算した。
【数1】
ここで、m
initial=ラテックスの最初の質量
m
final=乾燥後の質量
【0096】
pH値の測定:
pH値は、DIN ISO 976に従って測定した。緩衝溶液を用いて2点較正を適用した後、ショット社製CG840pHメータの電極を23℃で分散液に浸漬し、ディスプレイ上の一定値をpH値として記録した。
【0097】
粘度の測定:
ブルックフィールド社製LVT粘度計を用いて23℃でラテックス粘度を測定した。約220mlの液体(気泡を含まない)を250mlのビーカーに充填し、粘度計のスピンドルをスピンドル上のマークまで浸漬した。次いで、粘度計のスイッチを入れ、約1分後、値が一定になるまで記録した。粘度範囲は、スピンドルと回転速度の選択と、粘度を計算するための記録値の要素を決定する。使用したスピンドルおよび回転数/分に関する情報を実施例1、2および8の括弧内に示す。
【0098】
粒子サイズ(PS)の測定:
動的光散乱を用いてマルバーン社製ゼータサイザーナノS(ZEN1600)でz-平均粒径を測定した。ラテックス試料を、脱イオン水で、マニュアルに記載された濁度レベルまで希釈し、試験キュベットに移した。キュベットを穏やかに混ぜて試料を均質にし、キュベットを測定装置に入れた。値は、ソフトウェアによって生成されるz-平均粒径のまま記録した。
【0099】
キャストフィルム調製:
ガラス板を、最初に洗剤で洗浄し、続いて脱イオン水で洗浄し、その後、65~70℃に設定された空気循環オーブン内で乾燥させることによって洗浄した。次に、適切に洗浄したダムアレンジメントをガラススライド上に置き、次いで、所望の調合ラテックスの分注物を、気泡の混入を防止するためにダム内に注意深く、乾燥時に約1mm厚さのフィルムを生成するのに充分な量で注いだ。ラテックスを最初に室温および室湿度で3日間乾燥させた。次に、フィルムをガラス板から注意深く取り出し、90℃に設定した空気循環オーブン中で24時間アニールして、完全な乾燥を確実にし、架橋生成を促進した。
【0100】
浸漬フィルムの作製:
所望のpH値の調合材料を含むかまたは含まないニトリルラテックスを室温で3時間撹拌し、次いで以下のように凝固剤を浸漬した。セラミックスペードを石けんで洗浄し、次いで脱イオン水で十分にリンスした後、乾燥するまで65~70℃(スペード温度、55~60℃)に設定した空気循環オーブン中で乾燥した。凝固剤の溶液は、硝酸カルシウム(18重量%)および炭酸カルシウム(2重量%)を脱イオン水に溶解することによって調製した。次に、乾燥スペードを塩溶液に浸漬し、除去し、次いで乾燥するまで70~75℃(スペード温度、60~65℃)に設定した空気循環オーブン中で乾燥させた。次に、塩コーティングされたスペードを、所望の調合ラテックス(全固形分18重量%を有し、調合後室温で24時間熟成した)中に5秒の滞留時間浸漬した後、それを取り出し、ラテックスコーティングされたスペードを、100℃に設定した空気循環オーブン中に1分間置いて、フィルムをゲル化させた。
【0101】
次いで、このようにゲル化したフィルムを、50~60℃に設定した脱イオン水のタンク中で1分間洗浄した後、120℃に設定した空気循環オーブン中で20分間硬化させ、その後、このように硬化/加硫したフィルムを冷却し、スペードから取り出したあと、100℃に設定した空気循環オーブン中で22時間エージングした。最後に、硬化した手袋を手でスペードから剥がし、典型的な乾燥フィルム厚さは0.056~0.066mmであった。上記ラテックスから調製した手袋を、それらの引張強度特性および応力緩和挙動について試験した。
【0102】
架橋(加硫)エラストマー試料の引張強度特性の測定:
架橋(加硫)またはリサイクルのエラストマーフィルムの引張特性をISO37-77(第5版2011-12-15)に従って試験し、ISO37-2型カッター(狭部の幅=4mm、狭部の長さ=25mm、全長=75mm、ダンベルの厚さは結果表に記載)を使用してそれぞれのラテックス化合物から調製した手袋からダンベル試験片を切り出し、H500LC伸縮計を取り付けたハウンズフィールドHK10KS張力計で500mm/分の伸長速度で試験した。
【0103】
リサイクル架橋エラストマーフィルムの作製:
引張試験のための試料は、オリジナルの調合ラテックスから作製された浸漬フィルムのカットアップ試料を再結合することによって作製し、小片の混合物は、2枚の研磨鋼板の間に置かれた後、13.8MPa(2000psi)で各実施例に記載された分数(典型的には5分間)および各実施例に記載された温度(典型的には100、120、150または180℃)でホットプレスされ、その後、室温に冷却され、次いで、ISO37-77(第5版、2011-12-15) ISO37-2型ダイカッターに指定されたカッターを使用してダンベル形状の試料がカットアウトされた。
【0104】
応力緩和特性の測定:
エラストマーフィルムの応力緩和特性は、ASTM D412 タイプCカッター(狭部の幅=6mm、狭部の長さ=33mm、全長=115mm、ダンベルの厚さは結果表に記載)を使用して、各ラテックス化合物から調製した手袋から切断したダンベル試験片について行った。試験は、ティー・エイ・インスツルメント社によって供給されるDMA Q800動的機械分析機で実施され、これは「応力緩和モード」、すなわち張力モードで操作され、このモードでは試料は1%の値まで歪み、最初の応力値が記録された(G0)。その後の応力値は、試料が1%の歪みで保持された期間の関数として記録された(Gt)。
【0105】
実施例では、以下の略語を使用する:
BA = n-ブチルアクリレート
MAA = メタクリル酸
Bd = 1,3-ブタジエン(ブタジエン)
ACN = アクリロニトリル
GMA = グリシジルメタクリレート
tDDM = tert-ドデシルメルカプタン
Na4EDTA = エチレンジアミン四酢酸の四ナトリウム塩
tBHP = tert-ブチルヒドロペルオキシド
TSC = 全固形分
PS = 粒径
ZnO = 酸化亜鉛
ZDEC = ジエチルジチオカルバメート亜鉛
【0106】
以下において、全ての部およびパーセンテージは特に明記しない限り、重量に基づく。
【実施例】
【0107】
例1:カルボキシル化ニトリルラテックスの調製
窒素パージしたオートクレーブに、オキシランを含まないシードラテックス(平均粒径36nm)2重量部(モノマー固形分に基づく)および水80重量部(シードラテックスを含むモノマー100重量部に基づく)を加え、30℃に加熱した。その後、水2重量部に溶解した0.01重量部のNa4EDTAおよび0.005重量部のBruggolite(登録商標)FF6を加え、続いて水2重量部に溶解した0.08重量部の過硫酸ナトリウムを加えた。次に、モノマー(アクリロニトリル35重量部、ブタジエン58重量部、メタクリル酸5重量部)をtDDM0.6重量部と共に4時間かけて添加した。10時間かけて、2.2重量部のドデシルベンゼンスルホネートナトリウム、0.2重量部のピロリン酸四ナトリウムおよび22重量部の水を添加した。8重量部の水中の0.13重量部のBruggolite(登録商標)FF6の共活性化剤供給物を9時間かけて添加した。温度を95%の転化率まで30℃に維持し、全固形分を45%にした。ジエチルヒドロキシルアミンの5%水溶液0.08重量部の添加によって重合を短時間停止させた。水酸化カリウム(5%水溶液)を用いてpHを7.5に調整し、残留モノマーを60℃で真空蒸留により除去した。0.5重量部のウィングステーL型酸化防止剤(水中60%分散液)を原料ラテックスに追加し、水酸化カリウムの5%水溶液の追加によりpHを8.2に調整した。
【0108】
例1について、以下の特性分析結果が得られた。
TSC=44.9重量%
pH=8.2
粘度=38mPas(1/60)
粒径、Pz=121nm
ゲル含有量=0%
【0109】
例2(比較)
例1のXNBRラテックスの一部を、水酸化カリウムの水溶液を用いてpH値11.5に調整し、次いで、1phrの酸化亜鉛、0.8phrの硫黄および0.7phrのZDECと調合した。次いで、化合物を3時間撹拌し、次いで、上記のようにガラス板上にキャストした。
【0110】
次に、例2から得られた乾燥し硬化したフィルムを、ISO37-2型カッターを用いていくつかのダンベル試料に切断した。1つのダンベルは切断されないままであり、一方、別のダンベルは、ダンベルの狭い部分に適用された鋭利なブレードを使用して半分に切断された。その後、切断面を一緒に押さえ、手動で60秒間押し付けることにより、切断したダンベルを直ちに再接合し、これに続いて、2つの表面の密接な接触を維持するために木製の洗濯バサミの爪を適用し、180℃に維持された空気循環オーブン中で30分間、再接合されたダンベルをアニールした。
【0111】
次いで、引張特性の回復の程度を決定するために、H500LC伸縮計を取り付けたハウンズフィールドHK10KS張力計を用いて、500mm/分の伸長速度で、ISO37-77に従って非切断ダンベルおよび修復ダンベルを引張試験に供した。得られたデータを表1に示す。
【0112】
例3
実施例1の分注物に、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社から供給される1phrのγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを添加し、pHを11.5に調整し、次いで化合物を3時間撹拌し、次いで清浄なガラス板上にキャストし、室温(25℃)で3日間乾燥させた。このようにして得られたフィルムをガラス板から取り出し、90℃のオーブン中で24時間アニールして、完全な乾燥を確実にし、架橋形成を促進した。
【0113】
このようにして乾燥したフィルムの非切断ダンベルおよび修復ダンベルの引張試験を、例2に示した方法に従って実施し、その結果を表1に報告する。
【0114】
表1:
【表1】
Rは500%応力以前に破断した。
【0115】
例4(比較)
例1のXNBRラテックスの一部を、水酸化カリウムの水溶液を用いてpH値10に調整し、1phrの酸化亜鉛、1phrの二酸化チタン、0.8phrの硫黄および0.7phrのZDECと調合した。次いで、化合物を18重量%固形分の濃度に調整し、3時間撹拌した。フィルムは、上記の浸漬フィルム作製方法によって作製した。
【0116】
次に、乾燥し硬化したフィルムを、予め成形したカッターを用いて、いくつかのダンベル形試料(長さ25±0.8mm、幅6mm、厚さ0.056~0.066mm)に切断した。次いで、ダンベルをティー・エイ・インスツルメント社によって供給されるDMA Q800動的機械分析機のつかみ具にクランプし、試料を所要の試験温度で5分間平衡化させた後、1%まで歪ませ、初期の応力値をG0として記録した。歪みを1%に維持しながら、所要の試験温度で1200秒間、応力値を経時的にモニターした(Gt)。
【0117】
選択した試験温度は、100、120、150および180℃であった。
応力緩和は、以下のように定義した。
応力緩和=Gt/G0
【0118】
なお、例4で得られた結果は
図1に示すとおり、G
t/G
0=1/e(=0.37)で参照線が引かれている。応力が1/eの値に達するまでに経過した時間を表2に示す。120および100℃の応力緩和値(G
t/G
0)は、指定された期間内に1/e参照線を下回らなかったことに注意すべきである。
【0119】
例5
3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)が例1の固形分に対して0.7phrのレベルで存在するように、例1の分注物にGPTESの分注物を十分に添加した。水酸化カリウム溶液を用いてラテックスをpH値10に調整し、1phrの酸化亜鉛と調合し、このようにして調合したブレンドを3時間撹拌した後、塩コーティングしかつ乾燥させたスペードを浸漬し、例4に与えた手順に従って処理し、試験した。応力緩和実験の結果を
図2、表2に示す。
【0120】
例6
3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)が例1の固形分に対して0.7phrのレベルで存在するように、例1の分注物にGPTESの分注物を十分に添加した。水酸化カリウム溶液を用いてラテックスをpH値11.5に調整し、このようにして調合したブレンドを3時間撹拌した後、塩コーティングしかつ乾燥させたスペードを浸漬し、例4に与えた手順に従って処理し、試験した。応力緩和実験の結果を
図3、表2に示す。
【0121】
例7
窒素パージしたオートクレーブに、0.95重量部の水に溶解した0.050重量部のNa4EDTAを添加し、次いで45℃に加熱した。次いで、1.26部の水に溶解した0.42重量部のドデシルベンゼンスルホネートナトリウムおよび94.73部の水に溶解した0.20重量部のピロリン酸四カリウムを添加した。次に、モノマー(アクリロニトリル4重量部、ブタジエン5重量部、メタクリル酸0.5重量部)を添加した。活性化は、2.617部の水中の0.05重量部のtBHPおよび2.617部の水中の0.05部のホルムアルデヒドスルホキシレートナトリウムを添加することによって行った。5.5時間にわたって、63.5重量部のブタジエン、21.5重量部のスチレンおよび0.75重量部のtDDMを添加した。4.5時間かけて、5.5重量部のメタクリル酸を添加した。1.973重量部の水中の0.16重量部のtBHPの活性化剤供給物および1.357重量部の水中の0.11重量部のホルムアルデヒドスルホキシレートナトリウムの共活性化剤供給物を7時間かけて添加した。温度を45℃で5時間まで維持し、95%の転化率が達成されるまで60℃まで上昇させて、45%の全固形分を得た。ジエチルヒドロキシルアミンの5%水溶液0.2重量部の添加によって重合を短時間停止させた。水酸化カリウム(5%水溶液)を用いてpHを7.5に調整し、残留モノマーを60℃で真空蒸留により除去した。0.5重量部のウィングステーL型酸化防止剤(水中60%分散液)を原料ラテックスに追加し、水酸化カリウムの5%水溶液の追加によりpHを8.3に調整した。
【0122】
以下の特性分析結果が得られた。
TSC=44.9重量%
pH=8.3
粘度=40mPas(1/60)
粒径、Pz=128nm
ゲル含有量=44%
【0123】
3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)が上記で得られたラテックスの固形分に対して0.7phrのレベルで存在するように、上記ラテックスの分注物にGPTESの分注物を十分に添加した。水酸化カリウム溶液を用いてラテックスをpH値10に調整し、1phrの酸化亜鉛と調合し、このようにして調合したブレンドを3時間撹拌した後、塩コーティングしかつ乾燥させたスペードを浸漬し、例4に与えた手順に従って処理し、試験した。応力緩和実験の結果を
図4、表2に示す。
【0124】
例8
水酸化カリウム溶液を用いてラテックスのpH値を11.5に調整し、酸化亜鉛を添加しなかったことを除いて、例7を繰り返した。応力緩和実験の結果を
図5、表2に示す。
【0125】
【0126】
このデータは、本発明に従って製造されたエラストマーフィルムの再加工性を示す。このデータは、本発明の実施例において、比較例と比較して、架橋が破壊され、ポリマー系がミクロスケールで移動し、適用された応力を緩和できると解釈することができると考えられる。この効力は、より高い温度でより顕著である。ZnOなしで作製されたエラストマーフィルムは、より低い温度でもこの効力を示す。この結果は、本明細書に記載のエラストマーフィルムの自己回復特性の証拠である。
【0127】
架橋エラストマーフィルムのリサイクル:
引張試験用試料は、比較例4、実施例5、6で作製した浸漬フィルムの切断試料を再度組み合わせ、小片の混合物を2枚の研磨鋼板の間で焼鈍した後、13.8MPa(2000psi)で1分間、100℃でホットプレスし、室温まで冷却した後、ISO37(第5版、2011-12-15)で指定された2型ダイカッターを用いてダンベル形状の試料を切り出した。ダンベルの両端部を、H500LC伸縮計を取り付けたハウンズフィールドHK10KS張力計のつかみ具に配置し、500mm/分の歪み速度にさらした。応力の値は、所与の歪み(典型的には100、300、500%歪み)で、弾性率値と同様にマシンソフトウエアによって自動的に報告された。結果を表3に報告する。
【0128】
表3:リサイクルフィルムの張力データ
【表3】
Rは、示された歪みの前に破断した。