(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】金属管の製造方法と装置
(51)【国際特許分類】
B21C 37/08 20060101AFI20231221BHJP
B21D 5/12 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B21C37/08 R
B21C37/08 A
B21D5/12 M
(21)【出願番号】P 2022514116
(86)(22)【出願日】2021-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2021014863
(87)【国際公開番号】W WO2021206134
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2020070224
(32)【優先日】2020-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020130668
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000150419
【氏名又は名称】株式会社中田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100123467
【氏名又は名称】柳舘 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 智康
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛之
(72)【発明者】
【氏名】尹 紀龍
(72)【発明者】
【氏名】王 飛舟
(72)【発明者】
【氏名】春山 俊一
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-185560(JP,A)
【文献】特開平08-187516(JP,A)
【文献】特開平07-275954(JP,A)
【文献】特開2000-084619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 37/08
B21D 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を成形工具による造管工程、溶接工程、サイジング/リシェーピング工程を経て金属管となす金属管の製造方法において、
前記各工程で使用する成形工具の一部または全部が、被成形金属板(素板/素管)に対して
、予め設定した素管の進行方向(z軸方向)を含む水平面のパスライン(x軸方向)とこれに対して垂直面であるラインセンター(y軸方向)との3次元座標を定めた際、その
座標上での位置調整が可能な位置調整手段を介して各々のスタンド内で保持された構成からなるスタンド列ラインを用い、
このスタンド列ラインの一部または全体を対象に、当該成形工具を用いた際の金属板から金属管への成形プロセスを、予め種々の金属板の寸法あるいはさらに品種違いに基づいて
3次元座標上でシミュレーション解析する工程と、
前記
金属板の寸法あるいはさらに品種違いに基づく種々の
理想モデルの成形プロセスのシミュレーション解析結果より、前記
スタンド列ラインの解析対象の全て又は特定の成形工具スタンドにおける、
各スタンド
内の成形工具の近傍にある
3次元座標の位置が特定される素管の外周面形状、内周面形状、垂直断面形状、外周長、成形工具スタンド列の各スタンドにおける成形荷重のうち少なくとも1つからなる素管の変形形態値と
、各々のスタンド内の成形工具の
3次元座標の位置情報との相関関係値
とした成形プロセスデータを得る工程を経て、
前記
シミュレーション解析で得た種々の成形プロセスを
、前記の種々の理想モデルによる素管の変形形態値と成形工具位置との相関関係値の
成形プロセスデータとして予め記憶した記憶手段を用い、
前記解析対象の
スタンド列ラインを用いた実操業行程中に
、計測センサーにて成形途中の素管の変形形態値の測定を行う工程により測定した成形途中の素管の変形形態値
と、前記
工程中の被成形金属板の寸法あるいは寸法と品種の情報
とに基づいて、前記記憶手段の
前記理想モデルによる成形プロセスデータとの比較
及び被成形素管の成形プロセスと
そのデータの予測を行う演算手段を用いて、
当該解析対象の
スタンド列ラインを用いた実操業行程中の
被成形素管に固有の成形プロセス
データを想定し
、その
固有の成形プロセス
の実行に必要な成形工具の
スタンド位置情報を選択し、調整を必要とするスタンド内の成形工具の
調整位置情報を出力する出力手段を用い
、前記固有の成形プロセスを実行する金属管の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属管の製造方法において、
成形工具の位置情報の出力を受けて、位置調整を必要とするスタンド内の成形工具の位置調整を行う前記位置調整手段を制御するライン自動制御手段を用いる金属管の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の金属管の製造方法において、
成形前の素材金属板の全面あるいは外周予定面、内周予定面のいずれか又はその一部分に機械的なデスケーリング処理を施した後に造管を開始し、その造管工程中は、
水溶性潤滑剤を使用することなく、必要に応じて金属板又は成形工具へ
非水溶性潤滑剤の噴霧による潤滑を行う金属管の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の金属管の製造方法において、
シミュレーション解析に3次元弾塑性FEM解析法を用いる金属管の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の金属管の製造方法において、
素管の変形形態値
が、3次元座標のパスライン面に見える両エッジ位置と素管の幅寸法、ラインセンター面にある素管の高さで得られる外周面または内周面形状である金属管の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の金属管の製造方法において、
素管の変形形態値
が、3次元座標のパスライン面に見える両エッジ位置と素管の幅寸法、ラインセンター面にある素管の高さで得られる垂直断面形状である金属管の製造方法。
【請求項7】
請求項5において、
素管の変形形態値が、さらに成形工具スタンド列の各スタンドにおける成形荷重を加えた値である金属管の製造方法。
【請求項8】
請求項6において、
素管の変形形態値が、さらに成形工具スタンド列の各スタンドにおける成形荷重を加えた値である金属管の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の金属管の製造方法において、
測定した成形途中の素管の変形形態値に基づいて、前記記憶手段のデータとの比較
と素管の成形プロセスの予測を行う演算手段は、想定した固有の成形プロセス
データに対し、
選択した理想モデルによる
成形プロセスデータに近似させるために必要な変形形態値と成形工具の位置情報との相関関係値
からなる成形プロセスデータを有した修正モデルを算出して、
修正モデルの成形プロセスを実行するために前記データに基づいて位置調整が必要なスタンドの成形工具の位置調整を行うライン自動制御手段を用いる金属管の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、
修正モデルの算出方法に、機械学習手法を用いる金属管の製造方法。
【請求項11】
請求項9において、
修正モデルの算出方法に、深層学習手法を用いる金属管の製造方法。
【請求項12】
請求項9において、
演算手段が算出した修正モデルの変形形態値と成形工具の位置情報との相関関係値のデータを、新たな固有の寸法あるいはさらに品種の金属板による学習化モデルの相関関係値のデータとして記憶装置に記憶して、記憶データとして使用する金属管の製造方法。
【請求項13】
金属板を成形工具による造管工程、溶接工程、サイジング/リシェーピング工程を経て金属管となす金属管の製造装置において、
製造装置は、前記各工程で使用する成形工具
の一部または全部がスタンド内にて被成形金属板(素管)に対し
、予め設定した素管の進行方向(z軸方向)を含む水平面のパスライン(x軸方向)とこれに対して垂直面であるラインセンター(y軸方向)との3次元座標を定めた際、その
座標上での位置調整を行う位置調整手段を介して保持された構成のスタンド列ラインを有しており、
予め
このスタンド列ラインの一部または全体を対象に、当該成形工具を用いた際の金属板から金属管への成形プロセスを、予め種々の金属板の寸法あるいはさらに品種違いに基づいて3次元座標上でシミュレーション解析する工程と、
前記金属板の寸法あるいはさらに品種違いに基づく種々の理想モデルの成形プロセスを解析した解析結果より、
前記スタンド列ラインの解析対象の全て又は特定の成形工具スタンドにおける、各スタンド内の成形工具の近傍にある3次元座標の位置が特定される素管の外周面形状、内周面形状、垂直断面形状、外周長、成形工具スタンド列の各スタンドにおける成形荷重のうち少なくとも1つからなる素管の変形形態値と、各々のスタンド内の成形工具の
3次元座標の位置情報と
相関関係値とした成形プロセスデータを得る工程を経て、
前記
シミュレーション解析で得た種々の成形プロセスを
、前記の種々の理想モデルによる素管の変形形態値と成形工具位置との相関関係値の
成形プロセスデータとして予め記憶した記憶手段を有し、
前記
解析対象のスタンド列ラインを用いた実操業行程中に成形途中の素管の変形形態値の測定を可能にする計測センサーを有し、
計測センサーにて成形途中の素管の変形形態値の測定を行う工程により測定した成形途中の素管の変形形態値と
、前記工程中の被成形金属板の寸法あるいは寸法と品種の情報とに基づいて、
前記理想モデルによる成形プロセスデータとの比較
及び被成形素管の成形プロセス
とそのデータの予測を行う演算手段を有し、
当該解析対象の
スタンド列ラインを用いた実操業行程中の
被成形素管に固有の成形プロセス
データを想定し
、その
固有の成形プロセス
の実行に必要な成形工具の
スタンド位置情報を選択し、
調整を必要とするスタンド内の成形工具の調整位置情報の出力を受けて、位置調整を必要とするスタンド内の成形工具の位置調整を行う前記位置調整手段を制御するライン自動制御手段を有する
金属管の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属板(帯)からロールなどの成形工具による成形にて金属管を製造する製造方法とその装置に関し、製造装置への金属板の初期通板や金属板の寸法を変更した際など、成形に用いる成形工具位置を自動的に最適化して成形ができる金属管の製造方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属管を製造するため、成形ロールを用いたパイプミルを設計する場合、体系化された設計法が確立されてはいない。例えば、造管する管寸法とのその範囲、使用する素板材質と性状に応じて、成形方法の選定、成形ロールスタンドの段数、成形量の配分が考慮されてロールフラワーが選定・設計され、さらにロールスタンドの種類の選定を行い、それぞれのロールスタンドに使用する成形ロールのプロファイルを決定することがある。
【0003】
一方、パイプミルの新設に際しては、経済的理由によってロールスタンド数やロール構成が決定されることが多く、それ故に選定した成形法やロールフラワーに応じた理想的な成形スタンド構成から外れることもあり、さらに設計者の嗜好による構成などによってパイプミルにも機械の剛性の過不足が生じることもあり、成形性の良好な口径範囲が限られる場合や得意不得意な材料があるなどのミルとしての個性がある。
【0004】
さらには、成形ロールの兼用化が進められたパイプミルでは、被成形材料の寸法(幅や厚み)が多岐にわたり、いずれの寸法の材料でも同等に成形力が発揮できるよう考慮されて設計されるが、ここにも種々の機械としての個性が生まれる余地がある(特許文献1、特許文献2)。
【0005】
前記パイプミルが設置され、実操業が開始される場合、想定した造管寸法範囲内の材料にも、産地(製鉄所・工場)や加工・熱処理履歴により、圧延コイル毎に材料の性状(寸法精度、硬度とその分布、含有成分による溶接性、横曲がり、平坦度など)が異なり、材料も種々の個性を有しているといえる。
【0006】
従来行われてきた近似物理モデル型解析により、素板の三次元変形モデルに基づく変形シミュレーションにて、パイプミル内の素板の通板に伴う挙動予測を行っても、前述の素板の個性に加えて、パイプミルの個性も加わり、寸法や硬度の均一度が一定の理想モデルによる材料のライン方向の成形に伴う挙動の予測と実操業との差異が大きくなり、かかる理想モデルに基づく予測が役に立たない。
【0007】
そこで、従来は、実操業に際しての初期通板時に、ブレークダウンBD、クラスターロールCLスタンド群を何とか通過させて、多段に配置される最終フィンパスロールFPスタンド群で丸管に成形できるよう、BD,CLスタンド群でのロールの位置調整やロールギャップ調整、駆動力の増減などをオペレーターの経験と勘に頼って調整していた。
【0008】
かかるロール調整の適性を確認する方法としては、管の周長管理が一般的で、初期通板時にフィンパスロールスタンド以降のスタンド入側、出側において、外周長をスチールテープにて人が測定し、目的製品の外周長範囲にあるか否かで判断していた(特許文献3)。
【0009】
以上の通板で調整されたBD,CLスタンド群は、同様の個性を有する圧延コイルが素板として使用される場合は有効であるが、産地と加工履歴が異なる圧延コイルが使用される場合は、再度、上記の初期通板時のオペレーターによる調整を行う必要があった。
【0010】
近年、有限要素法(Finite Element Method)を用いた成形シミュレーターやロールフラワー設計、パススケジュールの解析・設計手法が開発されて、実装業の見直しや修正に利用されてきた。しかしながら、上述の初期通板をはじめ、製品寸法の変更に伴うロール交換後の初期通板などの操業は、やはりオペレーターによる調整が不可欠であった。
【0011】
ロール成形による電縫鋼管の製造方法において、1980年代より、パイプミルの自動制御化を進める必要性が提唱されるが、パイプミルには30年から50年程度の寿命があるものもあり、自動化できないまま使用されている。また、近年、スタンド毎の部分的に自動化を図ったものもあるが、設計法が体系化されておらず、例えばミル全体で上述の初期通板の自動化が現在に至っても実現されてないのは、上述の素板とミルとの個性の複合化に伴う調整の現状が複雑すぎて、進歩した解析技術、センサー技術、工具の位置調整技術などを組み合わせて、これらを統合的に制御可能にする理論や方法が知見されていないことによる。
【0012】
さらには、ロール成形には不可欠な潤滑剤の使用に伴いセンシング技術が役に立たない問題がある。すなわち、素板から丸管、角管への成形には加工熱や摩擦熱によるロールの過熱を冷却したり、焼き付き疵や噛みこみ疵の発生を防止したり、はく離したスケールによる傷や汚れの防止のために、水溶性潤滑剤(ソリュブル)が使用されており、パイプミルライン全体で接触子やカメラ、レーザー光線などを用いたセンシングが困難又は不能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許4906986
【文献】特開平07-275954
【文献】特公昭62-40087
【文献】特許5781821
【文献】特許5631337
【文献】特許6385552
【文献】特許4780952
【文献】特許5057467
【文献】特許5268834
【文献】特許5523579
【文献】特許6159005
【文献】特許6839786
【文献】特許6823212
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この発明は、金属板(帯)からロールなどの成形工具による成形にて金属管を製造するパイプミルに、被成形金属板の初期通板やいわゆるサイズ替えで金属板の寸法を変更した際など、ミルのスタンド内に配置する成形工具の位置を自動的に最適化して成形ができる金属管の製造方法とその装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、成形ロールを用いたパイプミル全体で上述の初期通板の自動化を実現すべく、例えばロールフラワー設計並びに3次元弾塑性変形有限要素法を用いた成形シミュレーションの解析結果の活用について種々検討した結果、解析した被成形鋼板の特有の成形プロセスを、例えばある成形ロールスタンド位置における材料断面形状と成形ロール位置との相関関係として利用すると、ロール位置調整が自動化できることを知見した。
【0016】
発明者らは、あるロールフラワー設計を行い全ての成形ロールスタンドの構成を特定したパイプミルにおいて、その全ての成形ロールによる理想モデルとしてある被成形鋼板の全ての成形プロセスを、例えば3次元弾塑性変形有限要素法にて成形シミュレーション解析した結果を、エントリーガイドスタンドEGからタークスヘッドスタンドTHまでの連続している帯材料全体の変形形態値(例えば材料断面形状)とエントリーガイドスタンドEGからタークスヘッドスタンドTHまでの全ての成形ロールスタンドの各ロール位置情報との相関関係として捉えることに着目した。
【0017】
さらに発明者らは、ある品種・寸法・履歴の金属板の成形シミュレーション解析から得た板状から管状までの一体物としての成形プロセスに、この材料の寸法の違いによる材料断面形状とロール位置の相関関係を加味し、パイプミルでの測定位置における被成形材料の変形形態値(例えば断面形状としてエッジ位置、幅寸法、高さ寸法)として評価すると、かかる相関関係から測定位置前後の成形ロールの理想のロール位置が求められることを知見し、この発明を完成した。
【0018】
換言すると発明者らは、被成形材料の個性、すなわち用いる金属板の寸法誤差、熱延履歴、材質の違いやそのライン方向におけるばらつきなどの金属板固有の個性に伴い、所定の構成からなるパイプミルで成形する際の実際の成形プロセスは、パイプミルの個性を考慮して理想の金属板の成形プロセスを想定した理想モデルのものとは異なることが想定できることに着目し、実操業時と理想モデルとの差異を成形中の金属板の変形形態値として測定することで、理想モデルとの成形プロセスの違いから成形工具の位置の調整が必要になることを予測する比較・予測の操作を行うことで、操業中の金属板固有の成形プロセスを実現するために必要とする成形工具の選定とその位置調整を行うことができることを知見し、この発明を完成した。
【0019】
この発明は、金属板を成形工具による造管工程、溶接工程、サイジング/リシェーピング工程を経て金属管となす金属管の製造方法において、
前記各工程で使用する成形工具の一部または全部が、被成形金属板(素板/素管)に対してその位置調整が可能な位置調整手段を介して各々のスタンド内で保持された構成からなるスタンド列ラインを用い、
このスタンド列ラインの一部または全体を対象に、当該成形工具を用いた際の金属板から金属管への成形プロセスを、予め種々の金属板の寸法あるいはさらに品種違いに基づいてシミュレーション解析する工程と、
前記種々の成形プロセスのシミュレーション解析結果より、前記ラインの解析対象の全て又は特定の成形工具スタンドにおけるスタンド近傍あるいは成形工具の近傍にある素管の変形形態値と各々のスタンド内の成形工具の位置情報との相関関係値のデータを得る工程を経て、
前記種々の成形プロセスを種々の理想モデルによる素管の変形形態値と成形工具位置との相関関係値のデータとして予め記憶した記憶手段を用い、
前記解析対象の行程中に計測センサーにて成形途中の素管の変形形態値の測定を行う工程により測定した成形途中の素管の変形形態値、及び前記被成形金属板の寸法あるいは寸法と品種の情報に基づいて、前記記憶手段のデータとの比較、素管の成形プロセスの予測を行う演算手段を用いて、
解析対象の行程中の素管に固有の成形プロセスを想定してその成形プロセスに必要な成形工具の位置情報を選択し、
調整を必要とするスタンド内の成形工具の位置情報を出力する出力手段を用い、
例えば、位置情報を表示してオペレーターに操作を促す、あるいは
成形工具の位置情報の出力を受けて、位置調整を必要とするスタンド内の成形工具の位置調整を行う前記位置調整手段を制御するライン自動制御手段を用いる
ことを特徴とする金属管の製造方法である。
【0020】
この発明は、前記製造方法において、
成形前の素材金属板の全面あるいは外周予定面、内周予定面のいずれか又はその一部分に機械的なデスケーリング処理を施した後に造管を開始し、
その造管工程中は、潤滑剤を使用することなく、必要に応じて金属板又は成形工具へ潤滑剤の部分的噴霧による潤滑を行う金属管の製造方法である。
【0021】
この発明は、前記製造方法において、
シミュレーション解析に3次元弾塑性FEM解析法を用いる金属管の製造方法である。
【0022】
この発明は、前記製造方法おいて、
素管の変形形態値が、外周面形状、内周面形状、垂直断面形状、外周長、成形工具スタンド列の各スタンドにおける成形荷重のうち少なくとも1つである金属管の製造方法である。
【0023】
この発明は、前記製造方法において、
素管の変形形態値は、予め設定した素管の進行方向(z軸方向)を含む水平面のパスライン(x軸方向)とこれに対して垂直面であるラインセンター(y軸方向)とを定めた際、水平なパスライン面に見える両エッジ位置と素管の幅寸法、垂直なラインセンター面にある素管の高さで得られる外周面または内周面形状、あるいはさらに内外周面形状に成形荷重を加えたものである金属管の製造方法である。
【0024】
この発明は、前記製造方法において、
素管の変形形態値が、予め設定した素管の進行方向(z軸方向)を含む水平面のパスライン(x軸方向)とこれに対して垂直面であるラインセンター(y軸方向)とを定めた際、パスライン面に見える両エッジ位置と素管の幅寸法、ラインセンター面にある素管の高さで得られる垂直断面形状、あるいはさらに垂直断面形状に成形荷重を加えたものである金属管の製造方法である。
【0025】
この発明は、前記製造方法において、
測定した成形途中の素管の変形形態値に基づいて、前記記憶手段のデータとの比較、素管の成形プロセスの予測を行う演算手段は、
想定した固有の成形プロセスの素管に対し、近似する理想モデルによる相関関係値のデータに近似させるために必要な変形形態値と成形工具の位置情報との相関関係値のデータを有した修正モデルを算出して、位置調整が必要なスタンドの成形工具の位置調整を行うライン自動制御手段を用いる金属管の製造方法である。
【0026】
この発明は、前記製造方法において、
修正モデルの算出方法に、機械学習手法を用いる金属管の製造方法である。
【0027】
この発明は、前記製造方法において、
修正モデルの算出方法に、深層学習手法を用いる金属管の製造方法である。
【0028】
この発明は、前記製造方法において、
演算手段が算出した修正モデルの変形形態値と成形工具の位置情報との相関関係値のデータを、新たな固有の寸法あるいはさらに品種の金属板による学習化モデルの相関関係値のデータとして記憶装置に記憶して、記憶データとして使用する金属管の製造方法である。
【0029】
この発明は、
金属板を成形工具による造管工程、溶接工程、サイジング/リシェーピング工程を経て金属管となす金属管の製造装置において、
製造装置は、前記各工程で使用する成形工具がスタンド内にて被成形金属板(素管)に対してその位置調整を行う位置調整手段を介して保持された構成のスタンド列ラインを有し、
予めシミュレーション解析による当該成形工具を用いた際の金属板から金属管への成形プロセスを解析した解析結果より、種々の金属板の寸法あるいはさらに品種違いに基づいた全て又は特定の成形工具スタンドにおけるスタンド近傍あるいは成形工具の近傍の素管の変形形態値と各々のスタンド内の成形工具の位置情報とを得て、前記種々の成形プロセスを種々の理想モデルによる素管の変形形態値と成形工具位置との相関関係値のデータとして予め記憶した記憶手段を有し、
前記各行程中に成形途中の素管の変形形態値の測定を可能にする計測センサーを有し、
測定した成形途中の素管の変形形態値に基づいて、前記記憶手段のデータとの比較、素管の成形プロセスの予測を行う演算手段を有し、
造管行程中の素管に固有の成形プロセスを想定してその成形プロセスに必要な成形工具の位置情報を選択し、位置調整を必要とするスタンド内の成形工具の位置調整を行う前記位置調整手段を制御するライン自動制御手段を有する
金属管の製造装置である。
【発明の効果】
【0030】
この発明において、成形シミュレーション解析によるロール成形プロセスを得ることは、パイプミルの個性、すなわちミルの設計で採用したロールスタンド構成を前提にして、各ロールスタンドを通過してロール成形を受ける金属素板全体の変形形態を解析した結果であり、素板の成形プロセスにはパイプミルの個性は織り込み済みであると言え、後は使用する金属板の個性の見極めを行うことで、使用する金属板に応じた初期通板、連続操業の操作が可能となり、操業の自動化が可能となる。
【0031】
要するに、パイプミルがエントリーガイドスタンドEGからタークスヘッドスタンドTHまで例えば20段のロールスタンドを備えているのであれば、20段全てのロールポジションと20段分の長さにわたる素板の変形形態値、例えばエッジ位置と幅や高さ・周長などが、当該パイプミルで成形した理想モデルによる成形シミュレーション解析によるロール成形プロセス通りか否かが検出され、実操業モデルでは理想モデルとの差異が検出されると、その差異はライン上のどのスタンドのいずれのロールのロールポジションであるのか、差異はどの程度かを比較・予測する操作に基づいて、実操業モデルの素板としての個性を想定して、理想モデルによる成形プロセスに近似させる修正モデルの成形プロセスを把握することができる。
【0032】
前述の測定データに基づいて修正化モデルの採用を決定して、例えばその測定点の上流側かあるいは下流側、さらにはライン上の複数のある特定の成形工具の位置調整を行うことで理想の成形プロセスに近似させることができ、多数の測定点での測定結果に基づいて特定の成形工具の位置調整を行うという、このような機械学習手法を繰り返すことでパイプミル全体の操業、成形工具の位置制御の自動化を図ることができる。
【0033】
さらには、機械学習成果に加えて、深層学習手法を用い、多層構造のニューラルネットワークに前述のデータを学習させ、実装業を繰り返すことにより、得られたデータなどから想定外の個性化モデルを把握し、その修正化モデルを案出するなどの人工知能AI学習機能を持つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】実施例1のパイプミルの上流側半分をパスライン方向(図左側から右側へ素板鋼板が進行する)の操作側から見る側面説明図であり、入側テーブルのエントリーガイドスタンドEG、初期成形部のブレークダウンロールスタンドBD、中間成形部のクラスターロールスタンドCLを示す。
【
図2】
図1のパイプミルに続く部分をパスライン方向の操作側から見る側面説明図であり、フィンパスロールスタンドFPとスクイズロールスタンドSQを示す。
【
図3】実施例1のパイプミルの下流側半分をパスライン方向の操作側から見る側面説明図であり、寸法形状を矯正するサイジング工程のサイジングロールスタンドSZとタークスヘッドロールスタンドTHを示す。
【
図4】
図1のブレークダウンロールスタンドBDでの成形ロールの位置調整機構の機能を説明する説明図であり、スタンドをパスライン方向の上流側から下流側に見た正面説明図である。
【
図5】
図1のブレークダウンロールスタンドBD、クラスターロールスタンドCLにおける被成形金属板と成形ロールとの位置相関関係を示す、パスラインの上流側から下流側に見る正面説明図であり、金属板幅が広い大径管成形の場合を示す。
【
図6】
図1のブレークダウンロールスタンドBD、クラスターロールスタンドCLにおける被成形金属板と成形ロールの位置関係を示す、パスラインの上流側から下流側に見る正面説明図であり、金属板幅が狭い小径管成形の場合を示す。
【
図7】
図1から
図3に示す実施例1のパイプミルと同様のスタンド配置のミルを対象にシミュレーション解析を行った結果から、被成形金属板と成形ロールとの位置相関関係として、パスライン方向に俯瞰して見るイメージ斜視説明図である。
【
図8】
図1から
図3に示す実施例1のパイプミルと同様のスタンド配置のミルを対象にシミュレーション解析を行った結果から、被成形金属板と成形ロールとの位置相関関係として、パスライン方向の操作側から見るイメージ側面説明図である。
【
図9】
図7のスクイズロールSQ~ブレークダウン1番BD1の部分を、下流側のスクイズロール側から上流側へ見たシミュレーション解析結果のイメージ斜視説明図である。
【
図10】実施例2のパイプミルの上流側部分をパスライン方向の操作側から見る側面説明図であり、入側テーブルのエントリーガイドスタンドEG、ピンチロールスタンドERを示す。
【
図11】実施例2のパイプミルの上流側部分をパスライン方向の操作側から見る側面説明図であり、初期成形部のブレークダウンロールスタンドBD1~BD5を示す。
【
図12】実施例2のパイプミルの上流側部分の後半分をパスライン方向の操作側から見る側面説明図であり、中間成形部のクラスターロールスタンドCL、フィンパスロールスタンドFPとスクイズロールスタンドSQを示す。
【
図13】実施例2のパイプミルの下流側部分の前半分をパスライン方向の操作側から見る側面説明図であり、所定の寸法形状にするためのサイジング/リシェーピング工程におけるサイジングロールスタンドSZ、角管へ成形するロールボックススタンドRB、タークスヘッドロールスタンドTHを示す。
【
図14】実施例2のパイプミルの下流側部分の後半分をパスライン方向の操作側から見る側面説明図であり、所定の寸法形状にするためのサイジング/リシェーピング工程におけるサイジングロールスタンドSZ、タークスヘッドロールスタンドTHを示す。
【
図15A】実施例3のパイプミルをパスライン方向の操作側から見る側面説明図であり、入側テーブルのエントリーガイドスタンドEG、初期成形部と中間成形部を連続する金型の成形工具を有した成形機ODFとフィンパスロールスタンドFPとスクイズロールスタンドSQを示す。
【
図15B】実施例3のパイプミルをパスライン方向の操作側から見る側面説明図であり、入側テーブルのエントリーガイドスタンドEG、初期成形部と中間成形部を連続する金型の成形工具を有した成形機ODFとフィンパスロールスタンドFPとスクイズロールスタンドSQを示す。
【
図16】実施例3において、素管の内面形状を可視化したて計測する方法を示す説明図である。
【
図17】実施例1,2,3のパイプミルで用いた人工知能AIのコアエンジンとパイプミルのセンサーやスタンドの位置調整装置との連携の相関を示す概念説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
この発明における構成要件を説明する。
成形対象の金属板は、鉄系や非鉄系金属の連続帯材料のほか、これらの所要長さの板材である。通常、材料はコイル状の帯材で提供されるため、これを接続して連続させることが行われてきた。この発明においては、コイル状材料を次々に接続させて連続させて供給する必要はなく、コイル単位の造管を行うことができる。
【0036】
成形工具は、特許文献1(US6212925B1)や特許文献2に示される成形ロールのほか、特許文献8(EP2261014B1)、特許文献9、特許文献10(EP2636463A1)に示される成形孔型が連続する無限軌道を構成した成形工具などが使用できる。
【0037】
スタンドは、成形工具がスタンド内にて被成形金属板、成形途中の素管に対してその位置調整を行う位置調整手段を介して保持された構成が可能となるあらゆる機械形態のものが採用できる。
【0038】
位置調整手段は、例えば成形ロールを造管ラインに直交する垂直断面に対して水平動(拡大縮小)、垂直動(上昇下降)、揺動機能を与えるジャッキ、アクチュエータなどの種々の機械要素を用い、電動機、油圧機などの動力源とともに組み合わせて適宜構成される。
【0039】
造管工程は、例えば金属板の両端部(エッジ部)を曲げ成形し始めるブレークダウンロールスタンドBDによる初期成形工程と、金属板断面形状が円弧状から次第に丸形状の素管に曲げ成形するクラスターロールスタンドCLによる中間成形工程と、素管の突合せ予定のエッジ部形状を整えて所要の丸管形状にするためのフィンパスロールスタンドFPによる最終成形工程とをいう。
【0040】
フィンパスセクションは曲げと絞り成形が混在し、素管の断面形状やエッジ端面形状を整え、溶接に適した状態に形状仕上げを行うため、スクイズロールで安定したアプセットを実施するため周長仕上げなどを行うため、従来は、初期通板の際や操業の一時停止時にスチールテープを用いて材料の外周長を測定し、所要の周長が得られるように、ロールの位置調整を行なって絞り量を調整する。
【0041】
しかし、通常の操業中などは周長測定ができないため、ロール位置調整を行うためのジヤッキなどの移動位置から予測できる現在のロールギャップ量でおよそのロール位置管理を行っていた。よって従来は、ラインオペレーターらの経験則が重要であった。
【0042】
溶接工程は、例えば高周波溶接の場合、スクイズロールスタンドは、高周波抵抗溶接機により加熱したシーム部(素板の両縁部)を圧着するもので、エッジを突き合わせるだけでなく、左右のエッジの高さ(ラップ)を微調整するなど、肉厚の厚い製品を製造する中・大径ミルでは突合せ状態(I開先、V開先など)を調整することが行われる。
【0043】
溶接方法には、誘導式、直接給電式の高周波溶接のほか、TIG溶接、プラズマ溶接、レーザー溶接などの公知の溶接法を、寸法をはじめ金属材質、管の用途、仕様などの品質に応じて適宜選択あるいは組み合わせて用いられる。
【0044】
スクイズロールスタンドの下流域では、溶接管の内外面に排出された溶鋼(ビード)を連続的に切除する内・外面ビードスカーファが配置され、溶接シームの状況を見るために温度・温度分布測定や超音波探傷が行われる。
【0045】
また、当該溶接部の局部焼入れ焼きなましを行う中周波誘導電流式シームアニーラー、さらには空冷ゾーン/水冷ゾーンなどの熱処理セクションを、要求される造管の仕様などに応じて適宜配置されたりする。特に油井管の場合は、シーム部の上記の調査調整が念入りに行われる。
【0046】
建材用管の場合などの造管で、内面ビード切削や熱処理が行われない場合、上記のミルセクションは機能を休止して、管の送り駆動などが行われて単に当該セクションを通過するだけである。
【0047】
サイジング工程は、丸管の定径化を行うサイジングロールスタンドSZと、真直度の矯正を行うタークスヘッドロールスタンドTHのほか、捩れを矯正する凹みロールを用いたディツイストロールスタンドを適宜配置することができる。
【0048】
丸管を角管にするためのリシェーピング工程は、には、サイジング、リシェーピング、タークスヘッドのセクションを必要とする。またリシェーピングセクションの稼働の有無で同一ラインでの丸管、角管の管形状を選択することができる。
【0049】
前述したフィンパスロール、スクイズロール、サイジング/リシェーピングセクションでは、成形工具に造管する製品管寸法に応じた2方ないし4方ロール構成のロールスタンドを採用するため、ロールの兼用化を図ることができず、いわゆる寸法替えで被成形素管寸法が異なると、ロール交換が必要となる。
【0050】
ロール交換には、小径管の場合には比較的軽量なロールスタンドごとオフラインで調整したものと交換する場合があるが、中大径管の場合には交換に時間と手間を要するため、ロールの位置調整を行うアクチュエータやジャッキ類を残してスタンド内のロールのみを交換する、特許文献4(EP2700457B1)、特許文献5(EP2520380B1)、特許文献6(PCT)、特許文献13に示すごとき、ロールクイックチェンジ機構を有するロールスタンドを採用することで、生産性の向上を図ることができる。
【0051】
丸管から角管へのリシェーピング手段としては、公知の4方ロールスタンドを複数段配置する方法がある。しかし、製品(金属板)寸法を変更するごとに4方全てのロール交換を行う必要が生じる。従って、生産性の低下が否めないので、特許文献7(EP1815921B1)、特許文献12のごとくロールの兼用化を進めるため、2方ロールを上下、左右方向に交互に複数段配置し、ロールサーフェスに特殊な形状を用いるなど、フラットロールを用いて圧下量分布を特殊な分布にするなど、2方ロールを多段に配置するロールボックス機構を用いたロールスタンドを用いると、ロール交換が不要になる。
【0052】
この発明の製造方法は、対象とするパイプミルに使用する全ての成形工具を用いた状態での金属板が丸管あるいは角管へと成形される成形プロセスを、予めシミュレーション解析法にて解析しておくことを特徴とする。
【0053】
予め設定したロールフラワーに基づいた弾塑性変形のシミュレーション解析により、当該パイプミルにおける所定の数々の成形工具を用いた際の金属板から金属管への成形プロセスを解析するものである。例えば、
図7、
図8のシミュレーション解析結果のイメージ斜視説明図に示す如く、ある寸法、材質の金属板を対象に、パイプミル全ての成形工具を用いて金属板から金属管への素管の変形形態状態と、素管に接触している成形ロールのポジショニングとの相関関係として成形プロセスを解析する。解析時間を短縮するには、パイプミルのセクションごとにシミュレーション解析を行うと良い。
【0054】
あるパイプミルで想定される、成形工具の兼用範囲内の種々寸法(板幅、肉厚)の金属板、あるいはさらにその寸法と金属板の材質・用途や仕様などの品種違いに基づいた種々の寸法・品質が異なる各種の金属板について、それぞれの成形プロセスを解析する。
【0055】
ロールフラワーによる成形プロセスは成形ロール直下の素管の状態を想定している。しかし、成形ロール直下の素管の変形形態値は測定することができない。
【0056】
前記、種々の成形プロセスの解析結果より、全ての成形工具スタンドにおける各スタンド近傍、例えばスタンドの直近の上流側あるいは下流側における素管の変形形態値、あるいは各スタンド内の成形孔型などの成形工具の近傍における素管の変形形態値と、各々のスタンド内の成形工具の位置情報とを得ることができる。
【0057】
前記の種々の成形プロセスの解析結果は、前記のパイプミルで想定したある兼用範囲の寸法・品質を有する種々の金属板毎のデータであり、すなわち、データ毎にある種の金属板、ある理想モデルによる素管の変形形態値と成形工具位置との相関関係値のデータであると想定することができる。
【0058】
または、パイプミルのパスライン上のある範囲や特定位置の成形工具スタンドにおけるスタンド近傍あるいは成形工具の近傍における素管の変形形態値と前記特定のスタンド内の成形工具の位置情報との相関関係値のデータとすることもできる。
【0059】
ある金属板をある成形工具、例えば成形ロールにて金属管に成形する過程の成形プロセスの解析方法としては、設計時に想定採用するロールフラワーとロールサーフェス形状設計に基づいて、公知の種々解析法を用いて行うシミュレーション解析が採用できる。例えば機械設計にはCAE解析が用いられ、有限要素法が不可欠であり、そのモデルの準備と形状の簡素化が必要となり、3次元CADを利用して形状データと種々の解析法を適宜組み合わせる解析法も採用でき、さらに3次元弾塑性FEM解析を加えてかかる解析を行うこともできる。
【0060】
また、コンピュータで3次元CADデータ及び3次元弾塑性FEM解析法を用いる場合は、解析の精度向上や時間短縮のために多数のCPU,GPUを用いて並列処理するプログラムを採用することができる。
【0061】
かかるシミュレーション解析によって、多種多様の成形プロセスの解析結果を、多種多様の素管の変形形態値と成形工具位置との相関関係値のデータとして得ることができる。
【0062】
単に数値データとしてさらに解析利用することもできるが、例えば、あるパイプミルでのある理想モデルによるかかる相関関係値データと、当該ミルでの実操業モデルの測定による相関関係値データとの比較を行うに際して、人あるいは人工知能に認知できるよう、特定の座標上の位置情報などへの変換さらには2次元化又は3次元画像化が可能なように相関関係値のデータを可視化データ化するプログラムを定めて採用することが望ましい。
【0063】
実装業におけるパイプミルで計測センサーによる計測が可能な素管形態を考慮して、素管の変形形態値は、例えば外周面形状、内周面形状、垂直断面形状、外周長、成形工具スタンド列の各スタンドにおける成形荷重のいずれか、あるいは前記要素を種々の組み合わせにより、可視化データ化することが考えられる。
【0064】
例えば、素管の変形形態値としては、予め設定した素管の進行方向であるパスラインを含む垂直面のラインセンター面に水平に直交する方向にある両エッジ位置と素管の幅寸法、ラインセンター面に現れる素管の高さとで得られる外周面形状、内周面形状、垂直断面形状のいずれかあるいはその全てを、数値化、座標上や仮想空間に可視化あるいは画像化して用いることができる。
【0065】
造管、溶接、シェーピングなどの各行程中に、成形途中の素管の変形形態値の測定を可能にする計測センサーとしては、種々の接触子・近接子による機械的計測や磁気計測、さらにはレーザー光線やカメラなどを組み合わせた非接触式の光学的スキャニング、非接触式の磁気的スキャニングなどの公知の計測方法が適宜採用できる。
【0066】
前述の予め設定した素管の進行方向であるパスラインを含む垂直面のラインセンター面に水平に直交する方向にある両エッジ位置と素管の幅寸法、ラインセンター面に現れる素管の高さを測定する方法として、前述の公知のいずれの方法も採用できる。また、各スタンドでの成形荷重の測定には、例えば、ロール軸への荷重を測定するロードセルなどの公知のいずれの荷重センサーが利用できる。
【0067】
造管には、普通鋼などのように、曲げによりはく離したスケールによる傷や汚れの防止のために、水溶性潤滑剤が使用され、所要のロールスタンドで素管やロールに対してこれを噴射、噴霧することが行われている。従って、かかる溶剤を大量に噴射・噴霧する雰囲気により、素管が水溶性潤滑剤などで覆われ、濡れているなど、素管の変形形態値の測定が不能、困難な場合がある。
【0068】
そこで例えば、オフラインで酸洗などのケミカルデスケーリング処理や機械的デスケーリング処理にて予めデスケーリング処理された金属板を使用することができる。さらには、成形前の素材金属板の全面あるいは外周予定面、内周予定面のいずれか又はその一部分に機械的なデスケーリング処理を施した後に造管を開始することができる。
【0069】
その造管工程中は、水溶性潤滑剤を使用することなく、必要に応じて金属板又は成形工具へ非水溶性潤滑剤の少量を所要部に噴霧する部分的潤滑を行うことが望ましい。
【0070】
例えば、造管行程を開始する前に行う機械的デスケーリング方法としては、公知のいずれの方法も採用できるが、例えば、微細砥粒を所要の金属板表面にショットブラストしたり、高速流体でスラリーを投射したり、粗面ロールを用いて繰り返し曲げ処理したり、さらにはブラッシング処理とを併用するなどの方法を適宜採用することができる。
【0071】
この発明における成形方法の概念を説明する。
例えば、成形工具を所定配置したあるパイプミルにおいて、ある金属材質・寸法・熱履歴を有する金属板を成形する場合、このミルのフィンパスロールスタンドやスクイズロールスタンド近傍、すなわち前記スタンドの直前、直後などの成形ロールの入側直前や出側の直後における素管の変形形態値、例えばその変形態値に基づく素管の外面形状と、素管に接触している成形ロールのポジショニングとの相関関係値のデータとして、フィンパスロールスタンドやスクイズロール内にある素管の成形状態を把握している。
【0072】
すなわち、測定を行ったスタンドでの変形形態値の測定値と、理想モデルにより予め設定されている当該スタンドでの成形ロールの位置情報とで、測定した位置での測定時現在の素管の成形状態が把握されている。
【0073】
予め設定された理想モデルにおける当該スタンドの測定点での実操業モデルとの比較が行われ、この相関関係値データでの比較に基づいて、今後必要とする修正度合い、例えば今後起こり得る成形プロセス状況を機械的学習データより予測して、測定点の上流側のスタンドでのロール位置調整、あるいは測定点の下流側のスタンドでのロール位置調整、あるいはその両方、さらには測定点のスタンドでのロール位置調整などの修正プランを選択し、当該測定に伴いロール位置調整を必要とするスタンドへ特定のロールのその位置調整量を指示する。
【0074】
その指示の際に考慮するのは、初期通過時と操業時、さらには建材用管、油井管などの用途違いにより、素管の通過速度に大きな差異があるため、操作プログラムについて、予めある程度、機械的学習を行っておく必要がある。すなわち、位置調節量の指示が、いずれのスタンドでの操作であるか、フィードバックとフィードフォワードの選択、操作量などは、当該スタンドでの測定に加え、他のスタンドでの測定値などとの比較、連携操作を行うなど、どのような測定方法をとるか、どのような測定データに基づく比較予測を行うか、測定、比較、予測方法などのプログラムについて、予めある程度、機械的学習を行っておく必要がある。
【0075】
素管の変形形態値は、外周面形状、内周面形状、垂直断面形状、外周長、成形工具スタンド列の各スタンドにおける成形荷重のいずれか、あるいは前記要素を種々組み合わせるが、さらに、スタンド列ライン全体の成形プロセスの成果を判断するために、ライン速度を決定する各電動機の駆動力、トルクの状況や変動などを計測して、前記要素のデータに加えて判断材料に用いることができる。
【0076】
かかる機械的学習手法の成果に加えて、深層学習手法を用い、多層構造のニューラルネットワークに前述のデータを学習させ、実装業を繰り返すことにより、得られたデータなどから想定外の個性化モデルを把握し、その修正化モデルを案出するなどの人工知能AI学習機能を持つことが可能となる。
【0077】
測定した成形途中の素管の変形形態値に基づいて、前記記憶手段のデータとの比較、素管の成形プロセスの予測を行う演算手段は、想定した固有の成形プロセスの素管に対し、近似する理想モデルによる相関関係値のデータに近似させるために必要な変形形態値と成形工具の位置情報との相関関係値のデータを有した修正モデルを算出し、これを実行させるために位置調整が必要なスタンドの成形工具の位置調整を行うようにライン自動制御手段を用いて制御を行う。
【0078】
また、演算手段が算出した修正モデルの変形形態値と成形工具の位置情報との相関関係値のデータは、新たな固有の寸法あるいはさらに品種の金属板による学習化モデルの相関関係値のデータとして記憶装置に記憶して、記憶データとして使用することができる。
【0079】
演算手段としては、公知のコンピュータを利用できる。例えば、各種の演算全般と統合的な判断を扱うメインエンジンMEを中心に、種々の機能を担うコアエンジンCEを有する人工知能化したコンピュータを用いることができる。
【0080】
構成例を
図14に基づいて説明する。演算手段(コンピューター)は、各種の演算全般と統合的な判断を扱うメインエンジンMEを中心に、種々の機能、例えば、
1)スタンド列ライン全体の成形工具全般の制御を行うライン制御手段に、オペレーターにより入力された操業計画・条件を受け付けデータ化などの処理・判断を担う操業コアエンジンOEC、
2)計測センサーからの測定データの認識・処理を担う認知コアエンジンRCE、
3)測定された変形形態値を記憶データの変形形態値と比較する比較コアエンジンCCE、
4)比較されたデータ値の差異から現在の操業における成形プロセスを予測して、修正プログラムを予測するなど今後の操業条件などの予測を担う予測コアエンジンECE
5)予測された成形プロセスから今後の操業条件の変更や修正モデル、各スタンドでの成形工具の位置情報と操業中の成形工具の位置情報の差異より、修正すべき成形工具の選択などの判断を担う選択コアエンジンSCE、
6)必要な計測センサーに計測の指示を行う、選択された成形工具の位置調整を指示するなどの計測指示、位置制御指示を担う指示コアエンジンDCE、
7)シミュレーション解析結果から得られた理想モデルの成形プロセスに従い、各成形工具の位置調整を行うなどの操業全般のプログラミングを学習するなどの機械的学習を担う機械的学習コアエンジンMLCEと、
8)実操業結果であるセンサー計測結果、成形工具の位置情報からなる制御結果などのデータから実操業モデルの成形プロセスを予測して新たな実機予測モデルである修正モデルを案出するなどの深層学習を担う深層学習コアエンジンDLCE
9)機械的学習コアエンジンMLCEと深層学習コアエンジンDLCEとを統合して扱う統合学習コアエンジンILCE、
10)記憶手段として、
理想モデル シミュレーション解析結果
修正モデル
実機モデル 操業結果(測定結果・位置制御結果)
などのデータの記憶を担う記憶コアエンジンSCE、
などのコアエンジンCEを有する人工知能化したコンピュータを用いることができる。
【0081】
センサー制御手段は、ラインのスタンドやスタンド間など設置したセンサーの作動制御やデータの送信・受信などを行う。
【0082】
ロール位置制御手段は、各スタンドなどに設置されるジャッキ、アクチュエータの作動制御や作動状態、ソール位置情報などを送受信する。
【0083】
ライン制御手段は操業条件入力に伴い、操業スタンド選択、ロール位置調整、ロール交換などの操業準備を行う。
【実施例】
【0084】
実施例1
図1から
図3に示す5インチミルラインは、2000年設計の既設のものである。製品口径は42.7~127mmを予定している。建材用、配管用などの丸管を成形し、オンラインでの高品質化のための熱処理を行わないミルであり、被成形金属板の寸法と材質の違いを操業条件としている。
【0085】
鋼板には、建材用、配管用の種々の普通鋼を用い、デスケーリング処理は、機械的曲げの繰り返しとブラッシングを行った。
【0086】
成形ロールによる造管工程、溶接工程、サイジング工程を経て丸管となすミルラインは、前記各工程で使用する成形ロールがスタンド内にて被成形金属板(素管)に対してその位置調整を行う位置調整手段を介して保持された構成のスタンド列を有する。以下に詳述する。
【0087】
入側テーブルのエントリーガイドスタンドEGは、導入のための二対のサイドロールスタンドEG1、EG2、上下のピンチロールスタンドPRとで構成される。ピンチロールスタンドPRは被成形金属板に推力を付与するために駆動されている。
【0088】
手動の構成を図示しているが、いずれも前記サイドロールは造管ラインに直交する垂直断面に対して水平動(拡大縮小)可能にするため、ロール軸受がスタンドに水平動可能に支持され電動化されたスクリュージャッキを介して水平移動する。ピンチロールも垂直動(上昇下降)可能に同様にジャッキを電動化する改良を行った。
【0089】
初期成形部は5段のブレークダウンロールスタンドBD1~BD5で構成される。なお、図示のBD1とBD2との間には、推力を補強するためのピンチロールスタンドが配置されているが、実施例1では後述の通りセンサーを設置するために外した。
【0090】
初期成形部は、特許文献1に記載されるように上下ロールで一箇所をピンチして上下のいずれかのロールの表面に沿わせて曲げ成形する方法で、前記の製品口径範囲で成形ロールを兼用する技術(FFX)を採用している。
【0091】
図4に示す如く、1段目のブレークダウンロールスタンドBD1は、素板に当接する箇所を変える揺動ロール機能を有する上ロール(トップロール)、上ロールと素板の両エッジ部近傍をピンチして縁曲げ成形を行う下ロール(サイドロール)、一対の下ロール間に配置されて素板中央部を押し上げる中央ロール(センターロール)とで構成される。
【0092】
図5、
図6に示す如く、2段目のブレークダウンロールスタンドBD2は、両エッジ部よりさらに内側を成形するための一対の上ロール、この上ロールとで素板を挟むための一対の下ロールと、一対の下ロール間に配置されて素板中央部を押し上げる中央ロールとで構成される。
【0093】
3段目と4段目のブレークダウンロールスタンドBD3、BD4は、縁曲げ成形された両エッジ部に当接するサイドロール、両エッジ部よりさらに内側を成形するための一対の上ロール、この上ロールとで素板を挟むための幅広の下ロールを備えている。
【0094】
5段目のブレークダウンロールスタンドBD5は、素板の端曲げ部とその内側湾曲部に当接する一対のサイドロールと、素板の中央部を湾曲させるための上下ロールからなる。
【0095】
中間成形部は3段のクラスターロールスタンドCL1~CL3から構成される。
【0096】
1段目のクラスターロールスタンドCL1は素板の縁曲げ部とその内側湾曲部に当接してさらに丸曲げ成形を行うための一対のサイドロールから構成される。
【0097】
2段目と3段目のクラスターロールスタンドCL2、CL3は、素板中央部側を丸曲げ成形するための一対のサイドロールと下ロールとから構成され、3段目でほぼ丸管らしく成形される。
【0098】
また、詳細に図示していないが、各成形ロールを造管ラインに直交する垂直断面に対して水平動(拡大縮小)、垂直動(上昇下降)、揺動機能を与えるようにスタンド内で各ロール軸受箱が支持されており、電動化されたジャッキ、アクチュエータを介して位置調整が行われる構成とした。
【0099】
上述の初期成形部と中間成形部は、予定されている口径範囲内で常に兼用されて交換されることがない。
図4~
図6に示す如く、素板に対して、上ロールの揺動、板幅方向の水平移動、上下方向の垂直移動、下ロールの板幅方向の水平移動、サイドロールの板幅方向の水平移動、中央ロールの上下方向の垂直移動によって、素板との接触が行われ成形を可能にしている。
【0100】
従って、各成形ロールの位置はスタンド内で種々移動することになる。
図5は、予定されている口径範囲で最大径(板幅が最大)の成形時の各成形ロール位置を示し、
図6は最小径(板幅が最小)の成形時のロール位置を示す。
【0101】
前述の製品寸法の違いに伴う兼用成形ロールの位置の違いを示す
図5、
図6において、例えば、板幅寸法違いが13種、板厚み寸法違いが12種とすれば156種のサイズ違いがある。極端な小径厚肉、大径薄肉は成形できないので除外しても、成形ロールポジションは少なくとも百数十種あることになる。
【0102】
後期成形部は、3段のフィンパスロールスタンドFP1,FP2,FP3とスクイズロールスタンドSQから構成される。
【0103】
フィンパスロールスタンドFP1,FP2,FP3は、それぞれ素管の突合せ予定のエッジ部の端面形状を整えるためのフィンロールと、所要の丸管形状にするためのサイドロールと下ロールとで構成されている。ここでは曲げと絞り成形が混在し、素管の断面形状やエッジ端面形状を整え、溶接に適した状態に形状仕上げを行う。従って、製品寸法が異なる成形を行う場合は、製品寸法に応じた成形ロールに交換される。
【0104】
図では、手動の構成を図示しているが、上、下、サイドロールいずれもジャッキを電動化する改良を行った。
【0105】
スクイズロールスタンドSQは、ここで高周波溶接するためスクイズロールは抵抗溶接用の高周波誘導コイルにて加熱されたシーム部を圧接するだけでなく、左右のエッジの高さ(ラップ)を微調整する。
【0106】
図示を省略するが、スクイズロールスタンドの下流側でサイジング工程までの流域には、管の内外面に排出された溶鋼(ビード)を連続的に切除する内・外面ビードスカーファが配置され、溶接シームの状況を見るために温度・温度分布測定や超音波探傷、渦流探傷が行われる。ここでは建材用ラインであり、前記溶接部の局部焼入れ焼きなましを行う中周波誘導電流式シームアニーラーは配置されていない。
【0107】
図3に示すサイジング工程は、丸管の定径化を行う2段のサイジングロールスタンドSZ1、SZ2と真直度の矯正を行う2段のタークスヘッドロールスタンドTH1、TH2から構成されている。いずれのスタンドも製品管寸法に応じた2方ロール、4方ロール構成のロールスタンドを採用するため、ロールの兼用化を図ることができず、被成形素管寸法が異なると口径に応じたロール交換を行う。
【0108】
また、
図3ではロールを図示しせずスタンド構成のみであるが、造管ラインに直交する垂直断面に対して水平動(拡大縮小)、垂直動(上昇下降)を与えるジャッキ、アクチュエータなどを用い、ロール位置調整のためにいずれも電動化されている。
【0109】
要するに、前記各成形工程で使用する全ての成形ロールが、被成形金属板(素板/素管)に対してその位置調整が可能な位置調整手段、ここでは電動化されたジャッキ、アクチュエータを介して各々のスタンド内で機械的に保持された構成からなるスタンド列を有するパイプミルラインを用いた。
【0110】
このパイプミルラインは、各スタンドの成形ロールが上述の位置調整手段にて位置調整可能にするため、電動化されたジャッキ、アクチュエータなどは全て、専用のコンピュータ(ライン・スタンド制御コアエンジン(CE))により制御される。
図17に示す如く、ライン・スタンド制御 CEには、実操業時の操業データが残されるので、これを実操業結果の解析を行う専用のコンピュータ(操業コアエンジン(CE))へ送る。また、被成形金属板の寸法と金属板の材質・用途や仕様などの品種のデータは、実操業前にライン・スタンド制御コアエンジン(CE)に入力されて、操業CEと共有する。
【0111】
ライン・スタンド制御コアエンジン(CE)は、別のコンピュータ(操業CE、指示CE)からの制御指示に従い所要の成形ロールの位置制御を自動的に行うことができる。さらに、マニュアルモードも備えており、例えば、成形工程毎、成形ロールスタンド毎に制御指示内容を指示画面に表示して、オペレーターに所要のスタンドの特定の成形ロールの位置調整を行うよう促し、指示毎に位置調整の完了を確認することができる。
【0112】
かかるパイプミルラインを対象に、当該成形工具を用いた際の金属板から金属管への成形プロセスを解析する。すなわち、予め設定したロールフラワーに基づいた成形ロールの配置、計画した孔型形状を用いた場合の金属板の3次元弾塑性変形のシミュレーション解析法、ここでは公知の3次元弾塑性変形解析手法を基に発明者らが開発した3次元弾塑性変形解析ソフトウエアに、さらに発明者らの独自の種々の解析手法ソフトウエアを加えたシミュレーション解析法により、当該ミルラインにおける19段の各スタンド内の成形ロールを用いた際、金属板から金属管への段階的かつ連続した成形プロセスを、前述の成形工程毎に解析し、板から管となる連続した一体物の弾塑性変形の成形プロセスとして解析した。
【0113】
得られたある寸法と品質を有する金属板の解析例を、
図7、
図8のシミュレーション解析結果のイメージ斜視説明図に示す。図の左側から右側へ被成形材料は送られて成形ロール群にて順次成形されるものである。帯状の金属板が丸管になるまでの素板と成形ロールとの当接状態を示しており、両者の当接についての相関関係が示される。なお、図示の解析結果のイメージでは、フィンパスロールスタンドが2段の場合を示している。
【0114】
なお、スクイズロールSQを出た後、一番目のサイジングロールSZ1との間は図示しないが、前述した内・外面ビードスカーファとシームアニーラーのセクションである。
【0115】
解析した成形プロセスは、パイプミルで予定する兼用範囲内の種々寸法(板幅、肉厚)の金属板、さらにその寸法と金属板の材質・用途や仕様などの品種違いに基づいた種々の寸法・品質が異なる多種の金属板を対象に、パイプミルライン全ての成形ロールを用いて金属板から金属管への素管の前記の変形形態状態と、素管に接触している成形ロールのスタンド内でのポジショニング(位置情報)との相関関係として解析した。
【0116】
また、使用した解析法における素管の前記変形形態状態は、素管の外周面形状、内周面形状、断面形状として捉えることができ、成形ロールで板から板幅端のエッジ部が縁曲げされて、順次、中央部側へと湾曲部が形成されて行く過程で、例えば2次元断面で見ると素管の断面形状と成形ロールとの当接位置が上流側から下流側への成形ロール毎に各々特定されている。さらに、上記成形プロセスのシミュレーション解析では、各成形ロールスタンドでの成形に必要な成形荷重も判明する。
【0117】
初期成形部のブレークダウンロールスタンドでは、前述したロール兼用化のためのFFX成形技術を使用するため、種々の成形ロールのスタンド内でのその位置は被成形材料の寸法違いだけでも多岐に渡ることは再三記述した。
【0118】
図7に示す3次元座標は、素管(素板)の変形形態値を示すためのもので、予め設定した素管の進行方向(z軸方向)を含む水平面のパスライン(x軸方向)とこれに対して垂直面であるラインセンター(y軸方向)とを定めた際、例えば、BD1とBD2のスタンド間やBD4とBD5のスタンド間、クラスタースタンドの上方などの所要の測定予定位置(z軸座標)における素管の変形形態値として、測定垂直面(x-y軸座標)のパスライン面に見える素管の外周面形状、内周面形状、断面形状が把握される。
【0119】
3次元CADで用いられるx-y-z軸座標と同様であり、帯状の金属板が丸管になるまでの素板と成形ロールとの当接状態が座標上で特定され、その成形スタンドで必要な成形荷重も特定される。
【0120】
かかる解析で得られる成形ロールの素管との当接位置、すなわち初期成形部の成形ロールのスタンド内での位置は、被成形材料に所定の成形力を加えるために必須不可欠である。よって、ある寸法品質の金属板を丸管に成形するロール成形プロセスは、成形中の素管の変形形態状態と素管に接触している成形ロールのスタンド内でのポジショニングとの相関関係として、理想モデル化することができた。
【0121】
理想モデルにおける素管の変形形態状態は、素管の外周面形状、内周面形状、断面形状、成形ロールスタンドにおける成形荷重として、成形ロールの素管との当接位置情報、すなわち成形ロールのスタンド内での位置情報とともにデータ化した。
【0122】
このように種々寸法(板幅、肉厚)の金属板、さらにその寸法と金属板の材質・用途や仕様などの品種違いに基づいた種々の寸法・品質が異なる多種の金属板についての多数の理想モデルを作成した。
【0123】
よって、被成形予定の金属板の寸法、あるいは寸法と品質が判明すると、その初期通板の際に、パイプミルのスタンド列の各スタンド内の成形ロールを、その寸法と品質の理想モデルにおける素管との当接位置情報のとおりに位置調整すれば、素板はシミュレーションされた理想モデルのとおりに成形されることになる。
【0124】
一方、前述のごとく、製品寸法の違いに伴う兼用成形ロールのロールポジションの違いは相当な数となるものの、ロールフラワー設計の下で予め判明している。しかし、使用する実際のパイプミルのロールスタンド構成に伴う機械的な個性と、製鉄所での製鋼、圧延、熱履歴など、また幅広材から所要寸法幅への切断スリット条件など加工履歴などの被成形金属板の固有の個性との複合、さらにはパイプミルが設置される地域の気候・地理的な特徴などの地域的条件により、容易に想定できないほどの多種多様な条件の違いが生まれていることを、これまでの実操業から経験し認知されている。
【0125】
しかしながら、かかる実操業における多様な条件内容と成形効果との間には相当な因果関係があるものと想定されているが、実際に因果関係が判明しているものはごく僅かで未知ものが圧倒的に多く存在し、その結果、ロールフラワー設計下で想定しているロールポジション位置に被成形材料が全くいない、来ない、過ぎているなどの現象が多く発生する。
【0126】
そこで、これまでの操業経験から得られている例外、例えば寸法の許容誤差範囲を外れる場合、硬度が大きく異なる場合、進行と共にローリングを起こす場合などの通常でない想定による条件を有する金属板を使用した際の成形プロセスを解析した。
【0127】
かかる既知の番外モデルの解析には、完全な意味での正解となるモデルはなく、ローリングを起こす極端な例では、ブレークダウンBD1での縁曲げだけはしっかり行い、理想モデルからは外れるが他のスタンドでは通常の許容範囲を超える状態でも何とか通過させ、クラスターロールスタンドでは例えば、許容範囲外の断面U字状であってもさらに最小限の成形を行い、フィンパスロールスタンドを多段としてここで成形を一気に完了させようというような操作を行う変則的な想定モデルではあるが、これも理想モデルの1例として、素管の外周面形状、内周面形状、断面形状、成形ロールスタンドにおける成形荷重と共に、成形ロールの素管との当接位置情報、すなわち成形ロールのスタンド内での位置情報とともにデータ化した。
【0128】
ブレークダウンBD1での縁曲げの操作には、揺動ロール機能を有する上ロールの素板との当接のための揺動角度の選定などが金属板の硬度条件の違いで種々想定されることがあり、次段のスタンドでの成形に備えて、スプリングバックを予測して前段であえて予定よりもオーバーベンドさせる場合もあり、いくつかの変則的な想定モデルを作成し、理想モデルの1例とした。
【0129】
また、既知の番外モデルは少ないので、例えばあるスタンドの前のスタンドでの成形荷重が不足していた場合など、予めの想定条件による変則的なモデルに基づいて想定モデルを作成し、理想モデルの1例とした。
【0130】
実測定した変形形態値と金属板の寸法、あるいは寸法と品質に応じた理想モデルの変形形態値との比較により、成形プロセスの修正が必要とされる場合には、理想モデルの相関関係値のデータに近似させるために修正した成形プロセスを選択する必要が生じる。
【0131】
修正した成形プロセスに必要な変形形態値と成形工具の位置情報との相関関係値のデータを有した修正モデルを創出するための教師モデルとして、かかる想定モデルの成形プロセスの解析から得られる結果も必要であり、既知あるいは想定による番外モデルに基づいて多種の変則的な予測モデルを作成し、理想モデルの1例とした。
【0132】
上述の種々解析で得られるデータは、予測モデルも含む理想モデルのデータとして、公知のコンピュータの記憶装置に記憶して、後述の実操業時の実測データとの比較に利用する。ここでは記憶装置にSSDを用いたデータの読み書き演算専用のコンピュータ(記憶コアエンジン(CE))を使用した。
【0133】
前述の変則的な予測モデルも含む理想モデルのデータは、まず、機械学習と深層学習をそれぞれ行う専用のコンピュータ(学習コアエンジン(CE))に入力されて、前記の記憶CEにて記憶される。
【0134】
実施例1では、操業時に実測する素管の変形形態値として、前記座標軸上にある両エッジ位置、幅寸法、高さの3種の座標値を計測する。その計測器には、レーザー光による位置と長さを測定できる市販のレーザーセンサーを用いた。
【0135】
具体的には、成形ロールスタンド間で素管が露出して観察可能な空間において、上側から素管の幅方向にある両エッジ部の位置、水平方向からの両エッジ部の高さ方向にある位置、水平方向から素管底の位置がそれぞれ測定できるように、所要範囲内を測定できるようにセンサーを配置した。
【0136】
さらに、計測器による変形形態値の測定並びに断面形状の画像処理化、理想モデルとの比較などの各処理がどのように行われているかの検証のために、レーザーによる線光源を被検査物に照射して反射光でその表面をスキャニングする光切断法を採用した市販の一体型プロファイルセンサーユニット、すなわち光源と受光カメラ並びに測定と画像処理などの制御コントローラ、コンピュータを一体化したブロック状のセンサーユニットを、前記3種の変形形態値を測定する計測器の近傍に配置した。
【0137】
一体型プロファイルセンサーユニットは、例えばこれを水平配置した場合、ユニット下面端より垂直に照射するレーザー線光が被測定物表面で反射した反射光をユニット下面他端の受光センサーが受光して、ユニットに内蔵したコンピュータが測定、画像処理を行うことで、被測定物表面をスキャニングするものである。
【0138】
ここでは、センサーユニットが固定され、素管が移動することで素管表面をスキャンすることになり、前述のx-y-z軸座標を用いて素管の内面形状、外周面形状、断面形状を画像処理し、素管の各種寸法や外周長を計測することができる。
【0139】
具体的には、スタンド間で素管が露出して観察可能な空間において、ブロック状の前記プロファイルセンサーユニットを、上側から素板の幅方向の内面を1~3等分で俯瞰できる位置、また上方、水平方向、下方からの素管の外周面を、外周を3等分又は4等分して観られる位置に1機~4機のセンサーユニットを配置した。
【0140】
素板の両エッジ位置、幅寸法、高さの3種の座標値を認識するためのレーザーセンサーとプロファイルセンサーユニットで得られる座標値が一致することを確認した。
【0141】
また、既設のパイプミルラインであるが、所要のスタンドには成形荷重を測定するために、ロードセルをジャッキと接続される軸受、基台と軸受けの間などに設置した。
【0142】
パイプミルライン上の所要スタンド間に設置したレーザー位置センサー、プロファイルセンサーユニット並びにロードセルは、センサーの作動を制御し得られた計測データを扱うための専用のコンピュータ(計測センサー制御CE)に接続した。
【0143】
さらに、上記の計測器による3種の変形形態値を扱い3次元座標でのその位置を可視化するため、またその値から素管の断面形状画像を想定する画像処理ソフトウエアを有する専用のコンピュータ(認識CE)を用いた。
【0144】
この認識CEによって想定できる素管の断面形状と、前記解析による理想モデルにおけるモデル素管の断面形状との比較を行うために、画像比較を行うソフトウエアを有した専用のコンピュータ(比較CE)を用いた。
【0145】
実施例では、
図17に示すように、計測センサーの計測データをコアエンジン(CE)と呼ぶ専用コンピュータ(計測センサー制御CE)に入力して処理し、さらにそのデータを認識処理する専用コンピュータ(認識CE)に入力し、次いで理想モデルとの比較を行うための専用のコンピュータ(比較CE)に接続するが、前述のデータを記憶する記憶CE、学習CE、操業CE、ライン・スタンド制御CEを含めていずれのコアエンジン(CE)もこれらを統括制御しかつ個別に指示制御するための専用のコンピュータ(メインエンジンME)に直接又は他のコアエンジンを介して間接的に接続されている。
いずれのコンピュータも同等の構成、性能を有し、これらを高速イーサネットで接続してある。もちろん、メインエンジンを含めて全てまたは所要のコアエンジン、さらに記憶装置とを同一基板上あるいは基板構成と同等の機能を有するラック型に配置した一体型の構成とすることも可能である。
【0146】
なお、ここでは素管の断面形状を扱う旨述べたが、前述の如く、解析結果からの理想モデルは、外周面形状、内周面形状、垂直断面形状、外周長、成形工具スタンド列の各スタンドにおける成形荷重の情報を有しているため、実測の変形形態値から比較対象を創出する際、例えば、成形工程毎に外周面形状、断面形状など、比較処理し易いように適宜選定することができる。
【0147】
次に、前述の計測センサーにて測定した成形途中の素管の変形形態値に基づいて、前記記憶CEのデータとの比較を比較CEで行った後、素管の成形プロセスの予測を行うが、これも同様の専用コンピュータ(予測CE)にて実施する。
【0148】
成形途中の素管の成形プロセスの予測には種々の方法が想定できる。ここではまず、操業開始の初期通板を行う際の成形プロセスの予測を説明する。ライン・スタンド制御CEを介して操業CEには、操業条件として、被成形金属板の寸法と品種の情報が入力され、次いでメインエンジンMEは、操業条件の寸法と品種に応じて記憶CEから理想モデルの相関関係データを引き出して操業CEに記憶するように指示する。また、同時に他のコアエンジンの各々に、現在の操業条件とその条件に合う理想モデルの情報を伝達する。
【0149】
操業CEは、被成形金属板の理想モデルの相関関係データを有するため、ライン・スタンド制御CEに指示し、ライン・スタンド制御CEはパイプミルのスタンド列の各スタンド内の成形ロールを、その寸法と品質の理想モデルにおける素管との当接位置情報のとおりに位置調整することができる。
【0150】
初期通板に際しては、エントリーガイドEG、ブレークダウンスタンドBD、クラスタースタンドCLというように、順次工程毎に通過前に先に各スタンドの成形ロールの位置調整を行いスタンバイさせるシーケンス操作を行うこととした。
【0151】
まず、操業CEは、被成形金属板の理想モデルの相関関係データに従い、エントリーガイドEGの各ロール類をスタンバイさせ、次いでブレークダウンスタンドBDの各スタンドの成形ロールをスタンバイさせる操作を指示する。
【0152】
認識CEでは、操業CEからの被成形金属板の寸法と品種の情報と共に、初期通板の際に、計測センサー制御CEに収集されてくる各スタンドを順次通過する素板の両エッジ位置、幅寸法、高さの3種の座標値を認識し、その座標値からなる変形形態値よりデータ化した画像を出力する。
【0153】
比較CEでは、被成形金属板の寸法と品種に応じた理想モデルと認識CEで得られたデータとの比較を行い、同一または近似するモデルをその近似の度合いを示して複数のモデルを選択する。同時に、理想モデルと近似モデルとのデータの異同も出力する。
【0154】
比較CEで選択した複数のモデルには、シミュレーションにて想定した同一寸法の理想モデルの他に、同一寸法の品種違いの理想モデル、さらに前述の予測モデル由来の理想モデル、過去の操業時にモデル創出コアエンジン(CE)にて得られた修正モデルが選択される場合がある。
【0155】
次に、予測CEでは、比較CEで挙げられたモデルを基に素管の成形プロセスの予測を行う。比較CEで選択されたモデルが同一寸法・品種の理想モデルであれば、今後も同一の成形プロセスを辿ると予測する。また、同一寸法の品種違いの理想モデルが選択されると、選択されたモデルの品種の何が異なるか、その項目からどのように成形プロセスに差異が生じているかのシミュレーションが既に行われている場合は学習済みであり、品種の違い内容から成形プロセスの差異を予め予測でき、当然の如くいずれのモデルに近似させて成形プロセスを組み立てるかが容易に予測できる。
【0156】
また、品種違い内容が学習されていない、因果関係が判明していないなどのシミュレーションが行われていない場合であっても、判明している同一寸法の理想モデルと近似する他の同一寸法の品種違いの理想モデルとデータの差異を用いて成形プロセスを予測する。過去の修正モデル、実操業結果の解析データ、成形プロセスデータが多く蓄積されるとより容易に予測が行われる。
【0157】
一方、比較CEでは複数の近似度を設定して類似するモデルを選択するが、選択肢がなく近似度が低いモデルを選択せざるを得ないような、想定外の新たな変則的なモデルに相当する場合もある。
【0158】
例えば、予測CEで、今後、素板のローリングが大きくなり成形が困難になると予測されると、初期通板を直ちに中断し、鋼板コイルの先端に相当する素板を切断して初期通板をやり直す操作指示を、メインエンジンMEに送り、メインエンジンは、制御/表示を行う指示CEを介してライン・スタンド制御CEに、素板を切断して初期通板をやり直すためのルーチン指示を行い、同時に操業CEに実操業結果解析を行わせて、解析結果を学習CEに送り学習、記憶させる。
【0159】
初期通板で、エントリーガイドEG、ブレークダウンスタンドBD、クラスタースタンドCL、フィンパススタンドFP、スクイズスタンドSQ、順次工程毎に通過前に理想モデルに基づいて、先に各スタンドの成形ロールの位置調整を行い、計測センサー制御CEに収集されてくる各スタンドを順次通過する素板の両エッジ位置、幅寸法、高さの3種の座標値を認識し、認識CE、比較CE、予測CEの各演算工程を経て各行程中の素管に固有の成形プロセスを想定することができた。
【0160】
選択CEでは、認識CE、比較CE、予測CEのそれぞれの結果を受けて、予測した成形プロセスに従いいずれのモデルを使用するか選択するが、さらに選択したモデルのとおりに操業させるか、修正を加えるのかを選択する。
【0161】
選択CEで修正モデルが必要と判断した際には、モデル創出CEでは選択した理想モデルを基に予測した成形プロセスに従い新たに修正モデルを作り出して、外周面形状、内周面形状、垂直断面形状、外周長、スタンド列の各スタンドにおける成形荷重の情報、成形ロールの位置情報を持たせる。
【0162】
このように予測CE、選択CE、モデル創出CEにより、想定した固有の成形プロセスの素管に対し、近似する理想モデルによる相関関係値のデータに近似させるために必要な変形形態値と成形ロールの位置情報との相関関係値のデータを有した修正モデルが創出される。
【0163】
以上の操業には、素板の両エッジ位置、幅寸法、高さの3種の座標値を認識するためのレーザーセンサーによる変形形態値の測定のみで行った。プロファイルセンサーユニットから得られる、スキャニングデータ、すなわち素管の内面形状、外周面形状、断面形状、素管の各種寸法や外周長のデータは、計測器による変形形態値の測定並びに断面形状の画像処理化、理想モデルとの比較、予測、選択、モデル創出などの各演算処理がどのように行われているかの検証のために用いた。
【0164】
実測される素板の両エッジ位置、幅寸法、高さの3種の座標値から得られる素管の変形形態値は、垂直断面形状として用いた各工程での操作内容は、前記光切断法によるスキャニングデータで確認され、同様に、外周面形状、内周面形状、外周長でも有効であることを確認できた。従って、安価で設置が容易なレーザー位置センサーのみで自動操業が実現できた。
【0165】
高価で設置にスペースが必要であるが、プロファイルセンサーユニットを用いると、素管の内面形状、外周面形状、断面形状、素管の各種寸法や外周長のデータを直接計測できる。また、認識CEあるいはさらに比較CEの演算工程をセンサーユニットのコンピュータに行わせることが可能であった。
【0166】
さらに、素管の変形形態値に、垂直断面形状に成形工具スタンド列の各スタンドにおける成形荷重を加えると、認識CE、比較CE、予測CEの各演算工程でのそれぞれの精度が大きく向上することを確認した。
【0167】
実施例2
20インチミルラインは新設のミルであり、建材用から油井管までの丸管並びに角管の製造を同じスタンドラインで行うことができる。広範囲の寸法と品種、形状の管の製造を予定し、高品質化のための溶接ビード部あるいはさらに管全体の熱処理を行うことができる。
すなわち、寸法について、丸管は外径が177.8mm~508.0mm、厚みが4mm~15.9mmnの138種類、正方形管は150mm~400mm、厚みが4mm~15.9mmnの78種類、矩形管は200x100,175x125,200x120~300x100,250x200,300x200~400x200,400x300,450x350、厚みが4mm~15.9mmnの116種類を予定し、材質は建材用から油井管までの種々の鋼種を予定している。
【0168】
スタンド列は、
図10~
図12に示すごとく、上流側から順に、エントリーガイドスタンドEG1,EG2、ピンチロールスタンドPR1,PR2、ブレークダウンスタンドBD1~BD5、クラスターロールスタンドCL1,CL2,CL3、フィンパスロールスタンドFP1,FP2、スクイズロールスタンドSQで丸管まで成形、溶接が行われ、図示しないが、スクイズロールスタンドSQの下流側は熱処理セクションで、ラインは加熱ゾーンと冷却ゾーンを合わせておよそ80mの長さである。
熱処理セクションの後は、
図13、
図14に示すごとく、サイジングスタンドSZ1、丸管を角管に成形するためのロールボックススタンドRB1~RB9、サイジングスタンドSZ2、タークスヘッドスタンドST1,ST2、その後の下流側は管を所要長さで走行切断するカットオフセクションとなる。
ここでは、各スタンド内での成形ロールの位置制御が電動あるいは油圧などで行われ、ロール位置情報がラインスタンド制御CEに入出力可能に構成されている。
【0169】
上記のスタンド列を用い、製品寸法、材質、丸管だけでなく、正方形管、矩形管、熱処理の有無など合わせ、成形プロセスの解析は多岐にわたり、数多くのモデルを解析している。
【0170】
スタンドラインには適宜変形形態値の測定器を設置した。変形形態値の計測センサーは、レーザーとカメラを用いて、両エッジ位置、素管の幅、高さの測定から素管の外面形状を得る。さらに、ロードセルを設置して各スタンドでの成形荷重を測定した。
【0171】
変形形態値には、素管の外面形状と各スタンドでの成形荷重を用い、基本的に実施例1と同様の操業を行ない、ブラシによるデスケーリングを施した普通鋼を用いて、丸管を製造した。
完全にスケールを除去した素材を用いていないため、所要のスタンドではソリブル水を使用し、必要に応じて成形ロールにミスト噴霧を行なった。従って、ソリブル水の影響により素管の外周面形状を測定できないスタンドが生じるため、全てのスタンドにはロードセルを設置して成形荷重を測定した。
【0172】
製造する管製品寸法などが変更される際に、初期通板が行われるが、各スタンド内の成形ロールは、管製品寸法、品質に応じて予め所要の位置に移動制御されて素材、素管が到達するのを待っており、適宜、素管の外周面形状の測定と、全てのスタンドでの成形荷重の測定が行われ、当該製品の理想モデルの外周面形状と成形荷重との比較が行われて、自動的に修正されるため、初期通板が容易に完了して、順次、操業速度が引き上げられて量産のための自動操業が行われる。
【0173】
丸管のままで製品化する場合は、ロールボックススタンドRB1~RB9は、丸管の搬送通路として機能する。
図13に示す、丸管を角管に成形するためのロールボックススタンドRB1~RB9は、特許文献7(EP1815921B1)で公知であり、ロールの兼用化を進めるために2方ロールを上下、左右方向に交互に、ここでは9段に配置し、ロールサーフェスに特殊な形状を用いて、製品寸法替えに際してのロール交換を不要にしている。
【0174】
すなわち、丸管を素管としてその素管の断面を含む平面内に回転軸が配置される上下成形ロール対及び左右成形ロール対により、逐次に正方形断面または矩形断面の角管に成形する際に、成形ロールには、角管の角部予定部位に隣接する素管部位(肩部予定部位)の直線化が、他の素管部位(他の辺部予定部位)に対して先行されるように前記成形ロール表面の回転軸方向の曲率を構成し、前記成形ロール表面の回転軸方向の曲率は、前記辺部中央となる素管部位を拘束する位置からその両外側に向かって連続または段階的に小さくなるものであり、異なる製品サイズの成形にロールを兼用しても常に肩部となる素管部位の直線化を他の部位より先行させることができる。
【0175】
成形ロールのロールサーフェスに特殊な形状を採用するため、丸管の所要部位をロール表面の所要位置に当接させることが重要であり、その際、所定の成形力が発揮されるよう、必要な成形歪が生まれるよう所定の荷重が必要になる。
【0176】
従って、ロールボックススタンドRB1~RB9の9組の2方ロールを用いた、丸管から角管への成形プロセスのシミュレーション解析においては、素管の寸法と品種に応じて、必要な成形力を発揮させるための成形ロールの位置と、成形ロールの位置調整で発生した成形歪みによる成形反力が成形ロールにかかることが解析される。
なお、成形ロールにかかる成形反力は、例えばロールスタンド内のロール軸などにロードセルを設置して、成形荷重として測定できる。これは前述のブレークダウンスタンドでも同様である。
【0177】
一方、ロールボックススタンドでの成形は、板から丸管への成形とは比較にならないぐらいに、丸管から角管への成形に際して素管の表面のスケールが大量に剥離するため、成形ロールの摩耗やロール表面に付着したスケールが素管に凹みを与えることなどを防止する目的で多量のソリブルを用いてスケールの除去が行われるため、レーザー光とカメラを用いた素管の表面形状の測定は極めて困難あるいは測定精度が悪くなる。
【0178】
そこで、ロールボックススタンドでの角管への成形に際して、ロードセルで測定した9組の水平、垂直の2方ロールの成形荷重の値で、素管の形状を予測する方法を採用した。
ロールボックススタンドを用いて種々寸法と品質の丸管から所要の角管への成形プロセスのシミュレーション解析が事前に行われ、RB1~RB9の各スタンでの理想モデルでの管外周面形状ならびに前述の成形ロールの位置情報とその成形荷重との相関関係値のデータが事前に既知であり、実成形時のそれと比較できることから、実測の成形荷重で素管の形状推測が可能になる。形状を推測する方法には予め形状推測を多数行なった深層学習CEを用いてこれを行なった。
【0179】
ロールボックススタンドでの角管への成形を、9組の水平、垂直の2方ロールの成形荷重の値で、素管の形状を予測し、理想モデルの成形途中の形状と比較し、素管の成形プロセスを予測して、理想モデルに近似させる修正モデルを作成し、その成形プロセスを実現するために必要な成形ロールの位置調整を行うことができた。なお、最終の寸法出しは、タークスヘッドスタンドで行われる。
【0180】
実施例3
図15A、Bに示すスタンドラインには、特許文献10に開示される成形装置(Orbiter Die Forming Machine(ODF))を中心に備えたもので、ODFユニットは、実施例2でブレークダウンスタンド、クラスターロールスタンドで行う成形を1つの装置で完結できる。
ODFユニットは、成形孔型を外向きでかつ揺動自在に設けたダイを複数個、旋回方向に連結して無端列を形成したダイ列を、無限軌道部上を旋回移動可能にし、各ダイの成形孔型の揺動角度を変化させかつ保持する角度制御機構を備えた旋回ユニットを有し、
この旋回ユニットの一対を対向配置し、その対向する成形孔型間に被成形素材を進入可能にし、各成形孔型が連続して当該素材の幅方向の両端部を拘束して同期移動する所要長さの直線又はほぼ直線の軌道区間を成形区間とする構成を有し、
被成形素材がこの成形区間を通過する間、前記制御機構が前記軌道に併設された倣い軌道を倣うことにより、各ダイの成形孔型は被成形素材のエッジ部に当接する前記揺動角度を、例えば予め設定された成形工程に従う角度変化パターン(前後のダイの孔型が滑らかに繋がるようにするため)などの変化率にて変化させながら被成形素材の成形を行う機構を有した成形装置である。
【0181】
旋回ユニットの一対を対向配置し、被成形素材の両エッジを拘束して曲げ成形を行う際の成形反力を受けるため、さらには旋回ユニットの進行方向における各ダイの旋回角度に応じた成形量の配分を適宜制御するために、成形区間にある被成形素材の幅中央部を下側から当接して支えるサポートロールとしての多数の下ロールは必要であり、下ロールは管底側の曲率に沿う凹面を有した多数の小径ロール、あるいは幅方向に2分割して当接向きを換えた小径ロールからなる2分割ロールを進行方向に配置し、各下ロールはその位置調整が可能になっている。
従って、一対の旋回ユニットの対向位置や傾斜角度と下ロールの位置を調整することで、種々口径の丸管を製造できる。
【0182】
図15Aに示す造管ラインのスタンド構成は、ダブルベンディング成形方式による場合であり、図の右側が入り側であり、まず素板状態の被成形素材を送り込むための溝付きサイドロールからなるエントリーガイドスタンドEG、被成形素材の両エッジ部を所要円弧状に成形する上下ロールからなるエッジベンドスタンドEB、エッジベンドスタンドEBで持ち上げられた板幅中央部を曲げ戻す上下ロールからなるリバースベンドスタンドRVS、板状から略円形まで成形するブレークダウン工程を行う一対の旋回ユニットからなる成形装置ODFスタンド、ブレークダウン工程を完了して溶接に備えてエッジ端面や断面全体の形状を整えるための上下ロールからなるフィンパスロールスタンドFP、及びその前段のサイドロールからなるフィンパスサイドロールスタンドFPSを備え、終段は溶接を行うスクイズロールスタンドSQであり、TIG溶接を採用した。
ODFスタンドには多数の下ロールユニットと出口側のサイドロールユニットを備えている。
【0183】
図15Bに示す造管ラインのスタンド構成は、サーキュラーベンディング成形方式による場合で、図の右側が入り側であり、まず素板状態の被成形素材を送り込むための上下ピンチロールと溝付きサイドロールとからなるエントリーガイドスタンドEG、ブレークダウン工程を全て行う一対の旋回ユニットからなる成形装置ODFスタンド、ブレークダウン工程を完了し被成形素材の両エッジ部を所要円弧状に成形しかつ溶接に備えてエッジ端面や断面全体の形状を整えるための上下ロールからなるフィンパスロールスタンドFP、及びその前段のサイドロールからなるフィンパスサイドロールスタンドFPSを3セット、総数6段を備え、終段は溶接を行うスクイズロールスタンドSQであり、高周波溶接を採用した。また、ODFスタンドには下ロールユニットとサイドロールユニットを同様に備えている。
【0184】
成形装置ODFスタンドは、基本的にソリブルを使用しない、酸洗した普通鋼、ステンレス鋼材をはじめ特殊な材質、チタン、銅材、アルミニウム合金などの広範囲の寸法と品種、形状の管の製造を行う。
上述のODFを主体とする造管ラインのスタンド構成で、上記の素材を対象とする成形プロセスのシミュレーション解析を多数行った。ODFスタンドは特に素管のエッジ部を拘束する一対の孔型ダイと下ロールでサポートされる湾曲部断面における下ロールの位置と素管断面形状は重要なパラメータとなる。
【0185】
一対の旋回ユニットからなる成形装置ODFスタンド内の成形素材の形状測定は、特許文献11で開示される素管内周面の形状測定方法を採用した。
計測センサーは、リング状レーザー光照射器、CCDカメラを使用し、素板から両エッジ部が一対の旋回ユニットのダイ列に拘束されて湾曲していく湾曲部内を同一垂直断面のリング光を照射して湾曲部内周面からの反射光をリング光の照射位置から上流側に位置するCCDカメラで撮影して撮影データを画像処理し内周面形状を測定し、さらにその測定データから
図16に示すごとく素管断面形状を推測するものである。
【0186】
図15Bに示す造管ラインのスタンド構成は前述のとおりであり、成形プロセスのシミュレーションは、エントリーガイドスタンドEG、ODFスタンド、フィンパスサイドロールスタンドFPS、フィンパスロールスタンドFP、スクイズロールスタンドSQまでの全てのスタンドにおいて、連続した素管が一体の成形物、理想モデルとして、種々の成形工具の位置情報と各成形工具の位置における素管の内外周面形状、成形工具が受ける成形反力が解析されて判明している。
【0187】
実操業に際して、ODFスタンドでは前述した素管の内面形状測定を行ない画像処理にて素管断面形状を測定し、ODFスタンド以降の下流側では、各スタンドでロードセルによる成形荷重を測定し、荷重値より素管の外周面形状を推定し、また、フィンパスサイドロールスタンドFPSとフィンパスロールスタンドFPとの間でレーザー光により、素管のエッジ位置、幅、高さを測定し外周面形状を測定した。
【0188】
一対の旋回ユニットからなるODFスタンドは、素板の両端を連続して拘束してプレスのように曲げ成形できる装置であるため、形状や品質が理想的な素板であれば成形が容易に完結するが、現実的には素材により両端の拘束が不足する場合などが生じ、下ロールや出口側のサイドロールの位置調整が必要になる。
この作業を操作者が内面形状測定による画像を見ながら行なっていたのでは、調整に長時間を要し、素材が変わるごとに調整が必要で生産性が向上しない。
【0189】
図15Bに示す造管ラインを用いた際の成形プロセスを、製品寸法、品質違いで予めシミュレーションし、理想モデルのODFスタンドで成形中の素管断面形状、フィンパスロールスタンドFPでの外周面形状が得られており、また、素材の個性の違いを想定した個性モデルの成形プロセスのシミュレーションを行って、理想モデルに近似させる修正モデルのデータも取得しておいた。
かかるデータの蓄積には、予め修正モデルの創出を多数行なった深層学習CEを用いてこれを行なった。
【0190】
従って、実際の操業時に、ODFスタンドで成形中の素管断面形状、フィンパスロールスタンドFPでの外周面形状の測定を行うことで、成形プロセスの予測が行われ、必要に応じたODFスタンドにおける下ロールや出口側のサイドロールの位置調整を自動で行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0191】
この発明により、金属板(帯)からロールなどの成形工具による成形にて金属管を製造する製造装置への金属板の初期通板や金属板の寸法を変更した際に、成形時の素材のエッジ位置や高さ、幅、さらには成形スタンドでの成形荷重を測定するだけで、成形に用いる成形工具位置を自動的に最適化して成形ができる賢いミル(Smartmill)が得られる。
【符号の説明】
【0192】
EG エントリーガイドスタンド
PR ピンチロールスタンド
BD ブレークダウンロールスタンド
CL クラスターロールスタンド
FP フィンパスロールスタンド
SQ スクイズロールスタンド
SZ サイジングロールスタンド
TH タークスヘッドロールスタンド
CE コアエンジン