(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】改質金属酸化物粒子材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09C 3/12 20060101AFI20231221BHJP
C09C 1/28 20060101ALI20231221BHJP
C09C 1/40 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C09C3/12
C09C1/28
C09C1/40
(21)【出願番号】P 2022515426
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2021015535
(87)【国際公開番号】W WO2021210628
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/016935
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武井 健太
(72)【発明者】
【氏名】青木 優里
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 友祐
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026962(WO,A1)
【文献】特開2017-115111(JP,A)
【文献】国際公開第2016/060223(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00-3/12
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニル基以外の官能基を表面に有する金属酸化物粒子材料と、
フェニル基を有するケイ素含有化合物からなり、前記金属酸化物粒子材料の表面に付着する改質材料とを有し、
1g当たりの表面積H(m
2)及び炭素含有量C(質量%)から算出したC/Hの値が、メチルエチルケトンで洗浄後に0.1以上減少し、且つ、前記改質材料が50質量%以上脱離
し、
前記C/Hの値が、洗浄後に0.05以下になる改質金属酸化物粒子材料。
【請求項2】
前記改質材料を構成するケイ素含有化合物は、フェニル基を有するシラン化合物、又は、フェニル基を有するシラン化合物と、Siに直接結合する炭化水素基を有するシラン化合物との縮合体である請求項
1に記載の改質金属酸化物粒子材料。
【請求項3】
前記フェニル基を有するシラン化合物は、((C
6H
5)X)
n-Si-OR
(4-n)で表され、
前記炭化水素基を有するシラン化合物は、R
n-Si-OR
(4-n)で表される請求項2に記載の改質金属酸化物粒子材料。
(Xは直接結合するか、-(CH
2)
q-であるか、又は-O-;qは0~3の整数;nは分子毎に独立して選択される1~3の整数:Rは官能基毎に独立して選択される炭素数1~3の炭化水素基)
【請求項4】
前記改質材料を構成するケイ素含有化合物は、一般式(1):R1-O-(SiZ1Z2O)
n-(SiZ3Z4O)
m-R2である請求項1~
3のうちの何れか1項に記載の改質金属酸化物粒子材料。
(式中、Z1は(C
6H
5)X-;Z2~Z4はそれぞれ独立して(C
6H
5)X-、炭素数1~3の炭化水素基、炭素数1~3のアルコキシ基、及び、他のZ2~Z4との間を結合する-O
r-(CH
2)
p-O
t-;Xは直接結合するか、-(CH
2)
q-であるか、又は-O-;n及びpは1以上の整数;mは0以上の整数;qはそれぞれ独立して選択される0以上の整数;r及びtはそれぞれ独立して0又は1から選択され;R1及びR2はそれぞれ独立して選択される炭素数1~3の炭化水素基又は炭素数1~3のアルコキシ基)
【請求項5】
前記金属酸化物粒子材料は、シラン化合物により表面処理されている請求項1~
4のうちの何れか1項に記載の改質金属酸化物粒子材料。
【請求項6】
体積平均粒径が0.01μm以上5μm以下である請求項1~
5のうちの何れか1項に記載の改質金属酸化物粒子材料。
【請求項7】
請求項1~
6のうちの何れか1項に記載の改質金属酸化物粒子材料を製造する方法であって、
金属酸化物粒子材料をシラン化合物により表面処理して表面処理済金属酸化物粒子材料にする表面処理工程と、
前記表面処理済金属酸化物粒子材料を分散媒中に分散させた分散スラリー中にフェニル基を有するケイ素含有化合物を分散させる分散工程と、
前記分散工程後、前記分散媒を除去して前記ケイ素含有化合物からなる改質材料を前記表面処理済金属酸化物粒子材料の表面に付着させて改質金属酸化物粒子材料とする乾燥工程と、
を有する改質金属酸化物粒子材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料や有機溶剤中に分散させて使用することができる改質金属酸化物粒子材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料中に金属酸化物からなるフィラー材料を分散させた樹脂組成物が汎用されている。金属酸化物からなるフィラー材料を分散させることにより樹脂組成物及びその硬化物の機械的特性が向上する(特許文献1など)。このような樹脂組成物中ではフィラー材料が均一に分散していることが望まれる。このような樹脂組成物を得るためには、樹脂材料中にフィラー材料を直接分散させたり、フィラー材料を有機溶剤中に分散させたスラリー組成物を製造後に樹脂材料中に混合して樹脂組成物としたりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、分散性が高い金属酸化物粒子材料である改質金属酸化物粒子材料及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、予め金属酸化物粒子材料の間にフェニル基を有するケイ素含有化合物からなる改質材料を介在させた改質金属酸化物粒子材料を形成し、その状態で樹脂材料や有機溶剤中に分散させることで樹脂材料や有機溶剤が金属酸化物粒子材料の間に侵入し易くなって分散性が向上できることを見出し以下の発明を完成した。
【0006】
すなわち、上記課題を解決する本発明の改質金属酸化物粒子材料は、フェニル基以外の官能基を表面に有する金属酸化物粒子材料と、フェニル基を有するケイ素含有化合物からなり、前記金属酸化物粒子材料の表面に付着する改質材料とを有する。
【0007】
特に、1g当たりの表面積H(m2)及び炭素含有量C(質量%)から算出したC/Hの値が、メチルエチルケトン(MEK)で洗浄前後で0.1以上減少し、且つ、前記改質材料が50質量%以上脱離する。
特に、前記C/Hの値が、洗浄後に0.05以下になることが好ましい。
また、上記課題を解決する本発明の他の改質金属酸化物粒子材料は、フェニル基以外の官能基を表面に有する金属酸化物粒子材料と、
フェニル基を有するケイ素含有化合物からなり、前記金属酸化物粒子材料の表面に付着する改質材料とを有し、
IRスペクトルの3000~3100cm-1の面積が、メチルエチルケトンで洗浄後に洗浄前の面積を基準として90%以上減少している。
【0008】
更に、前記改質材料を構成するケイ素含有化合物は、フェニル基を有するシラン化合物であるか、又は、そのシラン化合物とSiに直接結合する炭化水素基を有するシラン化合物との縮合体との何れかであることが好ましい。
【0009】
前記フェニル基を有するシラン化合物は、((C6H5)X)n-Si-OR(4-n)で表され、前記炭化水素基を有するシラン化合物は、Rn-Si-OR(4-n)で表される化合物であることが好ましい。(Xは直接結合するか、-(CH2)q-であるか、又は-O-;qは0~3の整数;nは分子毎に独立して選択される1~3の整数:Rは官能基毎に独立して選択される炭素数1~3の炭化水素基)
【0010】
そして、前記改質材料を構成する縮合体であり得るケイ素含有化合物は、一般式(1):R1-O-(SiZ1Z2O)n-(SiZ3Z4O)m-R2であることが好ましい。(式中、Z1は(C6H5)X-;Z2~Z4はそれぞれ独立して(C6H5)X-、炭素数1~3の炭化水素基、炭素数1~3のアルコキシ基、及び、他のZ2~Z4との間を結合する-Or-(CH2)p-Ot-;Xは直接結合するか、-(CH2)q-であるか、又は-O-;n及びpは1以上の整数;mは0以上の整数;qはそれぞれ独立して選択される0以上の整数;r及びtはそれぞれ独立して0又は1から選択され;R1及びR2はそれぞれ独立して選択される炭素数1~3の炭化水素基又は炭素数1~3のアルコキシ基)
【0011】
また、前記金属酸化物粒子材料は、シラン化合物により表面処理されていることが好ましい。改質金属酸化物粒子材料は、体積平均粒径が0.01μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0012】
上記課題を解決する本発明の改質金属酸化物粒子材料の製造方法は、金属酸化物粒子材料をシラン化合物により表面処理して表面処理済金属酸化物粒子材料にする表面処理工程と、
前記表面処理済金属酸化物粒子材料を分散媒中に分散させた分散スラリー中にフェニル基を有するケイ素含有化合物を分散させる分散工程と、
前記分散工程後、前記分散媒を除去して前記ケイ素含有化合物からなり、改質材料を前記表面処理済金属酸化物粒子材料の表面に付着させて改質金属酸化物粒子材料とする乾燥工程と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の改質金属酸化物粒子材料は、金属酸化物粒子材料の間に改質材料を予め介在させておくことにより樹脂材料や有機溶剤中への分散性が向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の改質金属酸化物粒子材料及びその製造方法について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態の改質金属酸化物粒子材料は、樹脂材料や有機溶剤中に分散させるフィラー材料として好適に利用できる材料である。特に乾燥状態で提供されるものであることが好ましい。改質金属酸化物粒子材料は、使用時に樹脂材料及び有機溶剤中に分散されることで改質金属酸化物粒子材料の表面に付着する改質材料が有機溶剤などの中に移行して作用を発揮するものが好ましい。
【0015】
(改質金属酸化物粒子材料)
本実施形態の改質金属酸化物粒子材料は、表面処理済金属酸化物粒子材料と改質材料とを有する。改質金属酸化物粒子材料は、球形度が高いことが望ましく、例えば0.8以上、0.9以上、0.95以上、0.99以上の球形度をもつことが好ましい。
【0016】
表面処理済金属酸化物粒子材料は表面処理された金属酸化物粒子材料である。金属酸化物粒子材料はシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアや、それらの複合酸化物が例示できる。複合酸化物としては、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、ゼオライトなどが挙げられる。金属酸化物粒子材料の粒径は特に限定しないが、フィラー材料として好適な粒度分布をもつことが望ましい。例えば0.01μm以上5μm以下とすることができる。下限値としては0.01μm、0.05μm、0.1μm、0.3μm、0.5μmなどが採用でき、上限値としては2μm、3μm、4μm、5μmなどが採用できる。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0017】
表面処理済金属酸化物粒子材料はフェニル基以外の官能基を表面に有する。フェニル基以外の官能基としては、アルキル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、イソシアナート基などの含炭素官能基が挙げられる。これらの官能基を導入する方法としては特に限定しないが、これらの官能基をもつシラン化合物を用いて金属酸化物粒子材料を表面処理することにより導入することができる。例えば、シラン化合物をそのまま金属酸化物粒子材料の表面に接触させたり、何らかの溶媒を用いて溶液を作成して表面に接触させたりすることができる。その後、反応が完了するまで放置したり、加熱したりすることができる。
【0018】
シラン化合物により官能基を導入する場合には、金属酸化物粒子材料の表面に存在するOH基と反応して結合することが想定されるが、反応によりOH基の50%以上が消失することが好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、100%が特に好ましい。なお、フェニル基以外の官能基が導入されていれば、フェニル基が一部導入されていても良い。
【0019】
改質材料は、表面処理済金属酸化物粒子材料の表面に付着している材料である。付着とは物理的な吸着が主であり、化学的に反応している量は少ない事を意味する。なお、物理的な吸着が主であるか否かの判断は、有機溶剤中に分散させたときに改質材料が質量基準で50%以上(好ましくは70%以上)脱離するかどうかで判断する。
【0020】
改質材料の量は特に限定しないが、表面処理済金属酸化物粒子材料の表面積(1m2)を基準として1mg~5mg程度の量を有することができる。下限値としては、1mg、1.5mg、上限値としては3.5mg、4mg、5mgが例示できる。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0021】
改質材料は、その一部が表面処理済金属酸化物粒子材料の表面と反応していても良い。例えば、改質金属酸化物粒子材料をエチルメチルケトン(MEK)で洗浄する前後で炭素含有量の変化が表面処理済金属酸化物粒子材料の1g当たりの表面積(1m2)を基準として0.05質量%以下の範囲までは反応させることもできる。洗浄条件としては、改質金属酸化物粒子材料5gをMEK35mL中に投入し、超音波を5分印加することにより洗浄する。
【0022】
改質材料は、その一部が表面処理済金属酸化物粒子材料の表面と反応していても良い。例えば、表面処理済金属酸化物粒子材料の1g当たりの表面積H(m2)及び炭素含有量C(質量%)から算出したC/Hの値が、0.05以下の範囲まで反応させることができ、0.04以下、0.03以下、0.02以下の範囲までは反応させることもできる。洗浄条件としては、改質金属酸化物粒子材料5gをMEK35mL中に投入し、超音波を5分印加することにより洗浄する。また、改質材料の種類及び量としては、表面処理済金属酸化物粒子材料の1g当たりの表面積H(m2)及び炭素含有量C(質量%)から算出したC/Hの値が、MEKで洗浄前後に0.1以上変化するものであり、0.15以上、0.2以上変化するものであることが好ましい。なお、ここで炭素含有量Cには、表面処理済金属酸化物粒子材料の表面に結合しているフェニル基以外の官能基をもつ化合物由来の炭素も含む。
【0023】
ケイ素を1つ含むシラン化合物の場合ではフェニル基を2つ有するシラン化合物が好ましい。例えば、ジフェニルジアルコキシシランである。アルコキシ基はメトキシ基又はエトキシ基が好ましく、特にメトキシ基が好ましい。フェニル基を2つ有する添加剤(改質剤)は、フェニル基を1つ有する添加剤と比較して立体障害が大きくなることで分散性の向上が実現できると共に、反応性が低下して表面処理済金属酸化物粒子材料の表面に添加剤が強固に結合することが抑制できる。
【0024】
改質材料は、フェニル基を有するシラン化合物又はフェニル基を有するシラン化合物と、Siに直接結合する炭化水素基を有するシラン化合物との縮合体を採用することができる。縮合体は、例えばケイ素が1つのシラン化合物を混合し反応させることで製造できる。反応には触媒を添加して行うことが好ましい。触媒としては白金などの貴金属触媒やアルカリなどが例示できる。
【0025】
例えば、フェニル基を有するシラン化合物は、((C6H5)X)n-Si-OR(4-n)が例示でき、炭化水素基を有するシラン化合物は、Rn-Si-OR(4-n)が例示できる。(Xは直接結合するか、-(CH2)q-であるか、又は-O-;qは0~3の整数;nは分子毎に独立して選択される1~3の整数:Rは官能基毎に独立して選択される炭素数1~3の炭化水素基)。Xは直接結合するものが好ましい。例えば、ジフェニルジアルコキシシランは、Xが直接結合するものであり、nが2の化合物である。
【0026】
更に、改質材料を構成するケイ素含有化合物は、一般式(1):R1-O-(SiZ1Z2O)n-(SiZ3Z4O)m-R2を採用することができる。(式中、Z1は(C6H5)X-;Z2~Z4はそれぞれ独立して(C6H5)X-、炭素数1~3の炭化水素基、炭素数1~3のアルコキシ基、及び、他のZ2~Z4との間を結合する-Or-(CH2)p-Ot-;Xは直接結合するか、-(CH2)q-であるか、又は-O-;n及びpは1以上の整数;mは0以上の整数;qはそれぞれ独立して選択される0以上の整数;r及びtはそれぞれ独立して0又は1から選択され;R1及びR2はそれぞれ独立して選択される炭素数1~3の炭化水素基又は炭素数1~3のアルコキシ基)
【0027】
改質材料の種類及び含有量を決定する他の方法としては、本実施形態の改質金属酸化物粒子材料のIRスペクトルと、その改質金属酸化物粒子材料について前述のMEKによる洗浄を行った後のIRスペクトルとの間で大きな変化があるような添加量、改質材料の種類を採用することができる。つまり、改質材料が表面処理済金属酸化物粒子材料の表面に結合しておらず、洗浄により除去できる程度であるように改質材料の種類及び量を選択することが好ましい。改質材料が洗浄により除去されるかどうかは、改質材料の質量基準で50%以上(好ましくは70%以上)除去される場合、表面に存在する炭素の質量を基準として50%以上(好ましくは70%以上)除去される場合、表面処理済金属酸化物粒子材料のIRスペクトルと洗浄後のIRスペクトルとの間には大きな変化が生じる場合などにより判断できる。これらの判断基準のうちの少なくとも1つに当てはまるように改質材料の種類及び処理量を決定できる。
【0028】
具体的に「IRスペクトルに大きな変化がある」とは、フェニル基に相当するピーク(3000~3100cm-1)の面積が洗浄により改質材料を除去した後の面積が、洗浄前の面積を基準として90%以上減少していることを意味する。IRスペクトルに大きな変化が有れば、改質材料が表面処理済金属酸化物粒子材料の表面に強固に結合していないと判断することができる。
【0029】
(改質金属酸化物粒子材料の製造方法)
本実施形態の改質金属酸化物粒子材料の製造方法は、表面処理工程と分散工程と乾燥工程とを有する。
【0030】
表面処理工程は、金属酸化物粒子材料をシラン化合物により表面処理して表面処理済金属酸化物粒子材料にする工程である。金属酸化物粒子材料の製造方法は特に限定しないが、VMC法(Vaporized Metal Combustion Method)、溶融法などが挙げられる。VMC法で製造した金属酸化物粒子材料は緻密で吸水性が低く電気的特性に優れている。VMC法は金属酸化物粒子材料を構成する金属からなる粒子を酸化雰囲気の火炎中に投入して燃焼させることで金属酸化物粒子材料を製造する方法である。
【0031】
表面処理工程では、表面にフェニル基以外の官能基を導入する工程である。フェニル基以外の官能基を有すれば、フェニル基を加えて導入することもできる。官能基の導入方法は、導入する官能基をもつシラン化合物により表面処理を行うことが好ましい。表面処理は、導入する官能基をもつ表面処理剤を金属酸化物粒子材料の表面に接触させることで行うことができる。接触は、液体状、気体状の表面処理剤をそのまま接触させたり、何らかの溶媒に溶解した溶液として接触させることができる。表面処理剤の量は特に限定しないが、金属酸化物粒子材料の表面に存在するOH基の量が前述の残存率となる程度の量を採用することができる。
【0032】
分散工程は、表面処理済金属酸化物粒子材料を分散媒に分散させて分散スラリーを形成し、その分散スラリー中にケイ素含有化合物を分散させる工程である。ケイ素含有化合物及びその量としては、上述の本実施形態の改質金属酸化物粒子材料にて説明したものを採用することができる。
【0033】
分散スラリーの分散媒としては、例えばMEK、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、トルエン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ガンマブチロラクトンが挙げられる。分散スラリー中に含有される表面処理済金属酸化物粒子材料の含有量としては特に限定しないが、全体の質量を基準として、10%~80%程度が採用できる。下限値としては、10%、30%、50%、上限値としては、60%、70%、80%が採用できる。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0034】
分散スラリーの調製や、分散スラリー中への改質材料の分散においては、撹拌・せん断力を加えたり、超音波を照射したりすることができる。
【0035】
乾燥工程は、分散媒を除去する工程である。分散媒を除去する方法は特に限定しないが、加熱による方法が挙げられる。加熱時には減圧することもできる。加熱時には、ディスクローターや圧力ノズルを利用した噴霧乾燥を採用することもできる。
【0036】
乾燥することにより、ケイ素含有化合物が改質材料に変換される。改質材料は、分散媒に溶解する材料であっても、溶解しない材料であっても何れでも良い。溶解する場合には、分散媒の乾燥に伴い、改質材料として析出・粒子化する。ケイ素含有化合物が分散媒に溶解しない場合には、ケイ素含有化合物はそのまま表面処理済金属酸化物粒子材料の表面に付着する。
【実施例】
【0037】
本発明の改質金属酸化物粒子材料及びその製造方法について実施例に基づき以下詳細に説明を行う。
【0038】
〔試験1〕
(試料の調製)
金属酸化物粒子材料として球状シリカ(株式会社アドマテックス製、SO-C1;体積平均粒径0.25μm;VMC法により製造)を100質量部に対して、KBM-1003(信越化学工業株式会社製:ビニルトリメトキシシラン)を1.5質量部により表面処理を行って表面処理済金属酸化物粒子材料とした。この表面処理済金属酸化物粒子材料には、表面にビニル基が導入された(表面処理工程)。
【0039】
表面処理済金属酸化物粒子材料60質量部とメチルエチルケトン(MEK)40質量部とを混合して分散スラリーを調製した。分散スラリーに含まれる表面処理済金属酸化物粒子材料の表面積(1m2)あたり、表1に示すケイ素含有化合物(信越化学工業製、品番で特定。有する官能基についてはカタログで確認)を3mg添加し、クレアミックスCLM-2.2S:エム・テクニック株式会社製(17000rpm)で2分間分散させた(分散工程)。なお、試験例12は、試験例1及び3~11に用いた改質材料を添加していない表面処理済金属酸化物粒子材料そのまま(元粉)の試料である。
【0040】
その後、100℃で2時間乾燥させて(乾燥工程)得られた粉末を各試験例の試験試料とした。
【0041】
試験例1~12の試験試料について、洗浄前炭素量(洗浄前C量)、洗浄後炭素量(洗浄後C量)、改質材料を付着させる前の表面処理済金属酸化物粒子材料(元粉)のMEK洗浄後炭素量(元粉C量)を測定した。また粒ゲージを使用して分散度を測定した。粒ゲージを使用した分散度評価は、JIS K 56000-2-5に準拠して行う試験であり、粒ゲージの値が凝集体の粒径に相関する値になる。つまり、粒ゲージの値が大きい方が大きな凝集体が生成していることを表している。更に、添加剤が表面処理済金属酸化物粒子材料の表面に強固に結合しているかどうかを洗浄後の改質金属酸化物粒子材料のIRスペクトルスペクトルから判定した。洗浄後の試料のIRスペクトルにおいて、元粉のIRスペクトルに加えて添加剤由来のピークが付加されているかどうかで判断した。
【0042】
【0043】
表1より明らかなように、フェニル基を有する試験例1~6は、粒ゲージの値が15μm以下と小さな値を示し、凝集の生成が抑制されたことが明らかになった。それに対して試験例7~12は粒ゲージの値が15μmを超えて大きな凝集の生成が認められた。
【0044】
特に試験例3及び4のようにフェニル基に加えてメチル基も有する改質材料を採用することにより凝集の生成が抑制できることが分かった。そして、改質材料が有する官能基として、ジフェニルとフェニルとを比較するとフェニルの方(試験例6)がジフェニルの方(試験例1)よりも粒ゲージの値は小さかったが、ジフェニルの方(試験例1)が洗浄後のC量(炭素量)の値が元粉の洗浄後のC量に近かった(試験例1が0.02%差、試験例6が0.22%差)。
【0045】
つまり、改質材料としての作用(表面処理済金属酸化物粒子材料の表面には化学結合せずに有機溶剤中に移行すること)は、試験例1のジフェニルの方が優れていることが分かった。これはIRスペクトルから判断した結果(添加剤が表面に強固に結合しているかどうか)からも裏付けられた。
【0046】
(試験2)
添加剤(KR-9218)の量を、分散スラリーに含まれる表面処理済金属酸化物粒子材料の表面積(1m2)あたり、6.8mg添加したものを試験例13、0.6mg添加したものを試験例14として試験例3の試料と合わせて試験1と同様の検討を行った。結果を表2に示す。
【0047】
【0048】
表2より明らかなように、添加剤(ケイ素含有化合物)の添加量を増減させた試験例13、14は、試験例3と比べて分散性が悪化した。分散性が悪化した原因は、詳細は明らかではないが試験例13のように添加量を増やしすぎると添加剤同士の重合が進み、有機溶剤への溶解性が低下し、試験例14のように減らしすぎると粒子間に介在できる量が減るためと推測される。
【0049】
(試験3)
(試験例15及び16:試料の調製)
金属酸化物粒子材料としてアルミナ(株式会社アドマテックス製、AO-502;体積平均粒径0.2μm)を100質量部に対して、KBM-1003を1.0質量部により表面処理を行って表面処理済金属酸化物粒子材料とした。この表面処理済金属酸化物粒子材料には、表面に官能基が導入された(表面処理工程)。
【0050】
表面処理済金属酸化物粒子材料60質量部とMEK40質量部とを混合して分散スラリーを調製した。分散スラリーに含まれる表面処理済金属酸化物粒子材料の表面積(1m2)あたり、ジメトキシジフェニルシラン(ケイ素含有化合物;信越化学工業製、KBM-202SS)を3mg添加し、よく撹拌して分散させた(分散工程)。得られた粒子材料を試験例15の試験試料とした。なお、試験例16の試験試料は、試験例15に用いた改質材料を添加していない表面処理済金属酸化物粒子材料(表面処理工程のみを行った物)そのまま(元粉)である。
【0051】
その後、100℃で2時間乾燥させて(乾燥工程)得られた粉末を試験例15の試験試料とした。
【0052】
試験例15及び16の試験試料について、試験1と同様にして洗浄前炭素量(洗浄前C量)、洗浄後炭素量(洗浄後C量)、改質材料を付着させる前の表面処理済金属酸化物粒子材料(元粉)のMEK洗浄後炭素量(元粉C量)を測定した。また粒ゲージを使用して分散度を測定した。更に、添加剤が表面処理済金属酸化物粒子材料の表面に強固に結合しているかどうかを洗浄後の改質金属酸化物粒子材料のIRスペクトルスペクトルから判定した。洗浄後の試料のIRスペクトルにおいて、元粉のIRスペクトルに加えて添加剤由来のピークが付加されているかどうかで判断した。結果を表3に示す。
【0053】
【0054】
表3より明らかなように、フェニル基を有する改質材料を添加した試験例15は、粒ゲージの値が88μmと、改質材料を添加しない試験例16の100μm以上よりも小さな値を示し、凝集の生成が抑制されたことが明らかになった。更にIRスペクトルから判断した結果、改質材料は表面に強固に結合しないことがわかった。