(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】補強織物および製織方法
(51)【国際特許分類】
D03D 1/00 20060101AFI20231221BHJP
D03D 15/242 20210101ALI20231221BHJP
D03D 15/267 20210101ALI20231221BHJP
D03D 15/275 20210101ALI20231221BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20231221BHJP
D03D 15/41 20210101ALI20231221BHJP
D03D 15/587 20210101ALI20231221BHJP
D03D 47/14 20060101ALI20231221BHJP
D06C 7/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
D03D1/00 A
D03D15/242
D03D15/267
D03D15/275
D03D15/283
D03D15/41
D03D15/587
D03D47/14
D06C7/02
(21)【出願番号】P 2023132992
(22)【出願日】2023-08-17
【審査請求日】2023-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】平田 椋大
(72)【発明者】
【氏名】川端 聡史
(72)【発明者】
【氏名】田中 紘一朗
(72)【発明者】
【氏名】井坂 慎吾
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-226849(JP,A)
【文献】特開2011-058119(JP,A)
【文献】特開2009-249754(JP,A)
【文献】特開昭64-040632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00
D03D 15/242
D03D 15/267
D03D 15/275
D03D 15/283
D03D 15/41
D03D 15/587
D03D 47/14
D06C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の強化繊維マルチフィラメント糸からなる一方向に引き揃えて配索される複数の強化繊維と、所要の間隔をおいて配索される複数の緯補強糸と、所定の間隔をおいて前記緯補強糸と交差して配索される複数の経補強糸とを備え、前記複数の強化繊維の表面及び裏面に沿って交互に配索される前記緯補強糸と前記複数の強化繊維の表面及び裏面に沿って交互に配索される前記経補強糸とが織組織をなして織物本体が織り込まれ、前記織物本体を熱セットして前記経補強糸と緯補強糸の交差部が融着された補強織物であって、
前記経補強糸と緯補強糸が複数のフィラメント糸の束糸からなり、
少なくとも前記経補強糸または緯補強糸の何れか一方の補強糸の束糸
の外周面に複数のらせん溝からなる凹凸捩れ面を形成して前記補強糸の束糸に撚り戻り力が発生するように強撚りした状態で交差させた前記経補強糸と緯補強糸との交点を融着したことを特徴とする、
補強織物。
【請求項2】
前記補強織物が経補強糸と並行に複数の強化繊維を配索した一方向補強繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の補強織物。
【請求項3】
前記補強織物が経補強糸および緯補強糸と並行に複数の強化繊維を配索した二方向補強繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の補強織物。
【請求項4】
少なくとも前記経補強糸の束糸を強撚りして交差させた前記経補強糸と緯補強糸との交点を融着したことを特徴とする、請求項1に記載の補強織物。
【請求項5】
前記経補強糸および緯補強糸の束糸を強撚りして交差させた前記経補強糸と緯補強糸との交点を融着したことを特徴とする、請求項1に記載の補強織物。
【請求項6】
束糸を強撚りして縮径させた前記経補強糸と経補強糸との間に隙間を形成していることを特徴とする、請求項1に記載の補強織物。
【請求項7】
前記経補強糸または緯補強糸の何れか一方の補強糸に低融点のフィラメント糸を含むことを特徴とする、請求項1に記載の補強織物。
【請求項8】
前記経補強糸または緯補強糸の何れか一方の補強糸の融点が強化繊維と比べて低いことを特徴とする、請求項1に記載の補強織物。
【請求項9】
前記強化繊維の強化繊維マルチフィラメント糸が炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリアラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維の何れか1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の補強織物。
【請求項10】
前記経補強糸または緯補強糸のフィラメント糸が、ポリアリレート、アラミド、超高分子量ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等の化学繊維
製のフィラメント糸若しくはフィラメント加工糸の何れか1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の補強織物。
【請求項11】
加熱手段を具備した織物用織機を使用し、複数の強化繊維と複数の緯補強糸と複数の経補強糸とが織組織をなす織物本体を製織する製織工程と、加熱手段を通じて移送中の織物に対して熱セットを行う熱セット工程とを含む、請求項1~10の何れか一項に記載の補強織物の製織方法であって、
少なくとも前記経補強糸または緯補強糸の何れか一方の束糸が予め強撚りされており、
強撚りされた束糸の撚り戻り力により前記経補強糸と緯補強糸との交点を仮固定した状態で融着したことを特徴とする、
補強織物の製織方法。
【請求項12】
前記織物用織機がレピア織機であることを特徴とする、請求項11記載の補強織物の製織方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架橋の橋脚や床版の補強または各種コンクリート構造物の柱や壁等の耐震補強を目的として用いられるシート状の補強織物および製織方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
経糸と緯糸を平織する補強織物では、経糸に強化繊維を用い、緯糸には経糸よりも繊度が低い非強化繊維を用いている。
また経糸と緯糸に強化繊維を用いた補強織物も知られている(特許文献1)。
経糸と緯糸に補強糸を組み合わせた一方向性補強織物も知られている(特許文献2,3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-317250号公報
【文献】特開平7-243149号公報
【文献】特開2010-18909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の補強織物はつぎのような幾つかの課題を有する。
<1>経糸と緯糸に強化繊維を用いた一方向性補強織物では、強化繊維同士が干渉しあって繊維間の隙間が小さくなるため、一方向性補強織物に樹脂を含侵させてFRP(繊維強化プラスチック)化する際に、織物内部への樹脂の含浸性が悪くなって、FRPの強度や施工後の浮きや施工性に悪影響を与える。
<2>補強織物を平織する際に強化繊維を屈曲して織成すると、張力が加わって強化繊維が直進するまでは本来の強度を発現できず、補強織物の強度発現率が低下する。
<3>経糸に強化繊維のみを用いた場合は、シート全体の剛性が低くなるため、シートが自重で垂れ下がるために現場での取扱性が悪くなって施工性が悪くなる。
<4>経糸と緯糸に補強糸を織込んだ織物本体は、製造過程で熱処理手段へ向けて搬送される。
熱処理前の織物本体は複数のローラに係留させて機械的に搬送されるため、搬送中に織物本体に目ずれが生じ易い。
そのため、最終的に熱処理を経て製造した一方向性補強織物に目ずれが残ってしまう。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みてなされたもので、既述した課題を解決できる、補強織物および製織方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の強化繊維マルチフィラメント糸からなる一方向に引き揃えて配索される複数の強化繊維と、所要の間隔をおいて配索される複数の緯補強糸と、所定の間隔をおいて前記緯補強糸と交差して配索される複数の経補強糸とを備え、前記複数の強化繊維の表面及び裏面に沿って交互に配索される前記緯補強糸と前記複数の強化繊維の表面及び裏面に沿って交互に配索される前記経補強糸とが織組織をなして織物本体が織り込まれ、前記織物本体を熱セットして前記経補強糸と緯補強糸の交差部が融着された補強織物であって、前記経補強糸と緯補強糸が複数のフィラメント糸の束糸からなり、少なくとも前記経補強糸または緯補強糸の何れか一方の補強糸の束糸の外周面に複数のらせん溝からなる凹凸捩れ面を形成して前記補強糸の束糸に撚り戻り力が発生するように強撚りした状態で交差させた前記経補強糸と緯補強糸との交点を融着したものである。
本発明の他の形態において、前記補強織物が経補強糸と並行に複数の強化繊維を配索した一方向補強繊維、または前記補強織物が経補強糸および緯補強糸と並行に複数の強化繊維を配索した二方向補強繊維である。
本発明の他の形態において、少なくとも前記経補強糸の束糸を強撚りして交差させた前記経補強糸と緯補強糸との交点を融着するか、又は前記経補強糸および緯補強糸の束糸を強撚りして前記経補強糸と緯補強糸とを交差させて融着する。
本発明の他の形態において、束糸を強撚りして縮径させた前記経補強糸と経補強糸との間に隙間を形成している。
本発明の他の形態において、前記経補強糸または緯補強糸の何れか一方の補強糸に低融点のフィラメント糸を含むか、又は前記経補強糸または緯補強糸の何れか一方の補強糸の融点が強化繊維と比べて低く設定しておく。
本発明の他の形態において、前記強化繊維の強化繊維マルチフィラメント糸が炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリアラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維の何れか1種または2種以上である。
本発明の他の形態において、前記経補強糸または緯補強糸のフィラメント糸が、ポリアリレート、アラミド、超高分子量ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等の化学繊維製のフィラメント糸若しくはフィラメント加工糸の何れか1種または2種以上である。
本発明は、加熱手段を具備した織物用織機を使用し、複数の強化繊維と複数の緯補強糸と複数の経補強糸とが織組織をなす織物本体を製織する製織工程と、加熱手段を通じて移送中の織物に対して熱セットを行う熱セット工程とを含む、前記した何れかひとつの補強織物の製織方法であって、少なくとも前記経補強糸または緯補強糸の何れか一方の束糸が予め強撚りされており、強撚りされた束糸の撚り戻り力により前記経補強糸と緯補強糸との交点を仮固定した状態で融着した。
本発明の他の形態において、前記織物用織機がレピア織機である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>経補強糸または緯補強糸の何れか一方の束糸を強撚りして撚り戻り力を与え、撚り戻り力を利用して経補強糸と緯補強糸との交点を仮固定した。
したがって、織物用織機内で織物本体を移送する過程で目ずれが生じ難くなり、目ずれのない状態で補強織物を織製することができる。
<2>経補強糸または緯補強糸の束糸を強撚りすることで、補強織物をFRP化する際に、強撚りした補強糸の内部へ向けた樹脂の浸透を抑止しつつ、強化繊維の内部へ向けて樹脂が浸透し易くなる。
したがって、補強織物へ向けた樹脂の含浸性が良くなると共に、補強織物をFRP化したときの強度が向上する。
<3>少なくとも経補強糸または緯補強糸の何れか一方の束糸を強撚りすることで、経補強糸と緯補強糸の交点を仮固定して目ずれの発生を抑制できる。
そのため、織物本体の形態安定性が向上する。
<4>経補強糸および緯補強糸の両補強糸の束糸を強撚りした場合は、織物本体の形態安定性がさらに向上する。
<5>経補強糸と緯補強糸が強化繊維を固定することで、強化繊維の直進性が向上し、補強織物全体の経糸方向の曲げ剛性が高くなって、施工性が向上する。
<6>織物にした際に強化繊維を固定し、目ずれが抑制された状態で融着されるため、強化繊維の直進性と配向性が向上し、従来と比べて強度発現率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例1に係る補強織物(一方向性補強織物)の斜視図
【
図4】強化繊維を省略した経補強糸と緯補強糸の交差部の拡大図
【
図5】並列に配置した強化繊維と経補強糸との境界部の拡大図
【
図6】本発明の実施例2に係る補強織物(一方向性補強織物)の組織例の説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施例1]
<1>補強織物
図1~3を参照して説明する。
本例では補強織物10が一方向性補強繊維である形態について説明する。
本発明に係る補強織物10は、経糸を構成する複数の強化繊維20と、隣り合う強化繊維20の間に介装した同じく経糸を構成する経補強糸30と、経糸の交差方向に配置し、強化繊維20と経補強糸30の表面及び裏面に交互に配列した複数の緯補強糸40とを具備し、これらの経糸(強化繊維20、経補強糸30)と緯糸(緯補強糸40)を織成したものである。
すなわち、本発明に係る補強織物は、同一方向に向けて強化繊維20と経補強糸20とが交互に配列してあり、これらの強化繊維20と経補強糸20との交差方向に向けて織成した緯補強糸40が強化繊維20と経補強糸20の間上下に屈曲しながら交互に交差している。
なお、
図3の組織図では、補強織物10の織組織が理解し易いように、強化繊維20と経補強糸30の配索間隔を広げて示している。
【0010】
本例では、補強織物10を平織した形態について例示するが、織物の織組織は平織組織以外に綾織組織等の様々な織組織を適用しもよい。
【0011】
<2>強化繊維
強化繊維20は繊維マルチフィラメント糸群を一単位とする経糸である。
各強化繊維20は一方向(シートの長手方向)に互いに並行、かつ、同一平面上で屈曲しない真直ぐな状態に引き揃えて構成される。
【0012】
<2.1>強化繊維の素材
強化繊維20を構成する強化繊維マルチフィラメントの素材としては、無機繊維、有機繊維のいずれであってもよく、例えば天然高分子や合成高分子の繊維の他、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリアラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維の何れか1種または2種以上を複合して用いることができる。
【0013】
<2.2>強化繊維のフィラメント
強化繊維20を構成するフィラメント数は適宜選択する。
例えば強化繊維20がアラミド繊維である場合、1610dtexのフィラメント束7本をまとめたものを使用できる。
【0014】
<3>経補強糸
経補強糸30は強化繊維20と並行に配列した経糸であり、シート面の長さ方向に所要の間隔をおいてシート面の表裏面に交互に配される緯補強糸40の間を上下に屈曲しながら交互に交差して織成する。
【0015】
<4>緯補強糸
緯補強糸40は強化繊維20および経補強糸30と交差して織成するための緯糸であり、シート面の長さ方向と直交して所要の間隔をおいてシート面の表裏面に交互に配される強化繊維20および経補強糸30の間を上下に屈曲しながら交互に交差している。
本例では緯補強糸40を1本の形態で織成した形態を示すが、緯補強糸40は複数を並列に配置した形態でもよい。
【0016】
<5>補強糸の詳細
以降に両補強糸30,40の素材、糸条形態等について説明する。
【0017】
<5.1>補強糸の素材
経補強糸30または緯補強糸40の素材は複数のフィラメント糸の束糸からなる。
経補強糸30または緯補強糸40のフィラメント糸には、例えば、ポリエステル、ポリアリレート、アラミド、超高分子量ポリエチレン、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等の化学繊製のフィラメント糸若しくはフィラメント加工糸の何れか1種または2種以上を組み合わせて使用できる。
経補強糸30と緯補強糸40は同質素材の組み合わせでもよいし、異質素材の組み合わせでもよい。
実用上、補強糸30,40には、780dtexのポリエステル(PET)繊維を用いる。
【0018】
<5.2>補強糸の糸条形態
図5を参照して経補強糸30および緯補強糸40の糸条形態について説明する。
経補強糸30および緯補強糸40は複数のフィラメント糸の束糸を一方向に強く撚って(強撚)、束糸の外周面に凹凸捩れ面31,41を形成する。
【0019】
本例では、経補強糸30および緯補強糸40の両糸の束糸を強く撚った形態について説明するが、経補強糸30または緯補強糸40の何れか一方の補強糸のみに撚りを与える形態でもよい。実用上は少なくとも経補強糸30の束糸が強く撚ってあればよい。
【0020】
なお、経補強糸30および緯補強糸40には、マルチフィラメントの束糸の他にカバリング糸を使用することも可能である。
【0021】
<5.3>補強糸を強撚する理由
経補強糸30および緯補強糸40を構成するフィラメント糸の束糸を一方向に強く撚る(捩じる)のは、経補強糸30および緯補強糸40の外周面に複数のらせん溝からなる凹凸捩れ面31,41を形成して両補強糸30,40に撚り戻り力を発生させ、撚り戻り力を利用して両補強糸30,40の交差部を仮固定するためと(
図4)、経補強糸30の束糸を縮径(小径)して隣り合う経補強糸30と強化繊維20との間を離隔して経補強糸30と強化繊維20との間に隙間Gを形成し、隙間Gを通じて液状樹脂の含浸性を高めるためである(
図5)。
【0022】
<5.4>補強糸の融着手段
本発明では経補強糸30と緯補強糸40を平織りした後に熱セットして経補強糸30と緯補強糸40の交差部を融着させることで固着する。
融着手段としては、各補強糸30,40に低融点の熱融着性のフィラメント糸を混入されておくか、または両補強糸30,40のフィラメント糸に強化繊維20と比べて融点が低いフィラメント糸を用いればよい。
【0023】
[補強織物の製造方法]
つぎに公知の織物用織機(例えばレピア織機)を使用した補強織物の製造方法について説明する。
本例では補強糸の融着手段を織物用織機の製造ラインの一部に組み込んだインライン生産方式について説明する。
【0024】
<1>製織工程
平織り構造の織物の製織方法は周知であるので詳しい説明を省略する。
織機上には複数のボビンに強化繊維20を巻回してセットしておく。
同様に複数のボビンに撚り製の経補強糸30と緯補強糸4をセットしておく。
各ボビンから横取りされた強化繊維20が、張力調整装置を経て織前まで屈曲されることなく直線的に同一平面上を並列して供給される。
このとき、強化繊維20の間に供給される経補強糸30と、経補強糸30の直交方向に向けて供給される緯補強糸40とが交差しながらシート状の繊維強化織物10の基礎となる織物本体を織成する。
【0025】
この織物本体は、マルチフィラメントからなる偏平な複数の強化繊維20を同一平面上に配索したシート面で構成され、その少なくとも1本以上の強化繊維20の間に屈曲して配索した経補強糸30とシート面の表裏面に交互に屈曲して配索した緯補強糸40との間で所定の織組織をもって織成されている。
織物本体に経糸方向に配索された複数の強化繊維20は、屈曲されることなく直線的な配索状態が保持される。
【0026】
なお、シート状の織物が製織する際において、両耳ニードルを使用しないことで、複数の巾を同時に生産することが可能となる。
【0027】
<2>補強糸同士の仮固定
経補強糸30または緯補強糸40の何れか一方の糸または両糸に強い撚りをかけることで撚り戻り力が生じる。
この撚り戻り力を活用することで、経補強糸30と緯補強糸40が互いにかみ合って仮固定されるので、熱セット前における織物本体の形態安定性が向上する。
両補強糸30,40に強い撚りをかけた撚糸を使用すれば、熱セット前における織物本体の形態安定性がさらに高くなる。
【0028】
<3>織物本体の移送
織機で織成された織物本体は複数のローラを経由して加熱手段へ向けて進行する。
従来の織物では、複数のローラを経由して加熱手段へ向けて移送中に経糸と緯糸の交点がずれて目ずれが生じ易かった。
【0029】
これに対して本発明では、予め経補強糸30および緯補強糸40を構成するフィラメント糸の束糸が強く捩じってあって、その外周面に凹凸捩れ面31,41を形成している。
経補強糸30および緯補強糸40の束糸を撚ることで、両補強糸30,40の外周面の摩擦抵抗が高くなるだけでなく、経補強糸30および緯補強糸40に撚り戻り力によるトルクが生じる。
【0030】
特に、撚り戻り力によって経補強糸30と緯補強糸40とが互いに強くかみ合うことで、経補強糸30と緯補強糸40の交点が固定されて織物本体の形態安定性が向上する。
そのため、織物本体を高速で製織しても、目ずれを効果的に抑止することができる。
【0031】
<4>熱セット工程
加熱手段を通じて移送中の織物本体に対して熱セットが行われる。
織物本体に熱セットを施すことで、目ずれがなく、適度の剛性を有する補強織物10が完成する。
【0032】
<5>補強織物のFRP化
補強織物10の貼付方法は従来と同様である。
すなわち、予め接着の下処理した各種コンクリート構造物の表面に補強織物10を貼り付けた後に、補強織物10の全体に塗布した液状樹脂を織物全体に含侵させてFRP(繊維強化プラスチック)化する。
【0033】
<5.1>補強織物の貼付け施工性について
両補強糸30,40が強化繊維20を強固に固定しているので、強化繊維20の直進性が向上し、シート状の織物全体の経糸方向の曲げ剛性が向上する。
そのため、補強織物10をコンクリート構造物の表面に貼付けする際に、補強織物10が自重で垂れ下がるのを抑制できるので、現場での取扱性がよくなって施工性が向上する。
【0034】
<5.2>樹脂の含浸性
経補強糸30と緯補強糸40の束糸に撚りをかけることで、各補強糸30,40を構成するフィラメント糸の束糸の内部の間隙が小さくなり、補強織物10の表面が凹凸となる。
そのため、補強織物10をFRP化する際において、各補強糸30,40の内部への樹脂の含浸を抑えつつ、強化繊維20内へ向けた樹脂の含浸を促して強化繊維20の樹脂の含浸量を増大させる。
【0035】
特に、経補強糸30が予め縮径して小径化されているので、経補強糸30と強化繊維20との間に形成される隙間Gを通じて補強織物10内への樹脂の含浸性が高められる。
【0036】
さらに、シート状の補強織物10の表面に露出する各補強糸30,40の表面の凹みにより表面積が大きくなること各補強糸30,40に対する樹脂の付着量が増す。
【0037】
以上の複数の要因により、補強織物10に対する樹脂の含浸性が向上してFRP化後における強度が格段に向上する。
【0038】
補強織物10を構成する強化繊維20は屈曲せずに織成されるので、補強織物10に張力が加わったときに直ちに強化繊維20が強度を発現できるので補強織物10の強度発現率が向上する。
【0039】
<5.3>強化繊維の目付量と樹脂の含浸性について
強化繊維20の目付量が大きい場合には、強化繊維20同士の間に隙間を生み出し、表面積が大きくなり樹脂の含浸性が向上する。
反対に強化繊維20の目付量が小さい場合には、経補強糸30が強化繊維20の間の空隙を埋めることで、余分な樹脂の使用量を抑えられる。
【0040】
[実施例2]
以降に他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例1と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0041】
<1>二方向補強織物
先の実施例1では補強織物10が一方向性補強繊維である形態について説明したが、補強織物10は二方向性補強繊維でもよい。
図6に例示した補強織物10は、経糸を構成する複数の強化繊維20aと、緯糸を構成する複数の強化繊維20bと、隣り合う強化繊維20aの間に介装した同じく経糸を構成する経補強糸30と、経糸の交差方向に配置し、経糸を構成する強化繊維20aと経補強糸30の表面及び裏面に交互に配列した複数の緯補強糸40とを具備し、これらの経糸(強化繊維20a、経補強糸30)と緯糸(強化繊維20b、緯補強糸40)を織成したものである。
すなわち、本発明に係る補強織物10は、経糸を構成する複数の強化繊維20aと緯糸を構成する複数の強化繊維20bとが屈曲せずに交差して配列してあり、経補強糸30と緯補強糸40とがこれらの交差する強化繊維20a,20bの間上下に屈曲しながら交互に交差している。
なお、
図6の組織図でも、補強織物10の織組織が理解し易いように、強化繊維20,20bと補強糸30,40の配索間隔を広げて示している。
【0042】
<2>本例の効果
本例においては、先の実施例1と同様の作用効果を奏する。
すなわち、経補強糸30または緯補強糸40の何れか一方の糸または両糸に強い撚りをかけて撚り戻り力を生じさせ、この撚り戻り力を活用することで、経補強糸30と緯補強糸40とを仮固定できるので、熱セット前における織物本体の形態安定性が向上する。
【符号の説明】
【0043】
10・・・・補強織物
20・・・・強化繊維
20a・・・強化繊維
20b・・・強化繊維
30・・・・経補強糸
31・・・・凹凸捩れ面
40・・・・緯補強糸
41・・・・凹凸捩れ面
【要約】
【課題】織物本体を製繊する際の目ずれを抑制ししつつ、補強織物の経糸方向の剛性を高めて補強織物の施工性を改善できる、補強織物及びその製織方法を提供すること。
【解決手段】経補強糸30と緯補強糸40が複数のフィラメント糸の束糸からなり、少なくとも経補強糸30または緯補強糸40の何れか一方の補強糸の束糸を強撚りした状態で経補強糸30と緯補強糸40との交点を仮固定させた状態で融着した。
【選択図】
図2