IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工冷熱株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図1
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図2
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図3
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図4
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図5
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図6
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図7
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図8
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図9
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図10
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図11
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図12
  • 特許-境界層制御装置及び風洞試験装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】境界層制御装置及び風洞試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 9/04 20060101AFI20231222BHJP
【FI】
G01M9/04
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023082452
(22)【出願日】2023-05-18
(62)【分割の表示】P 2023513765の分割
【原出願日】2022-07-25
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】391007242
【氏名又は名称】三菱重工冷熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102738
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小松 由尚
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-221202(JP,A)
【文献】特開2009-074939(JP,A)
【文献】実開昭58-051249(JP,U)
【文献】特開2020-046401(JP,A)
【文献】特開平06-213764(JP,A)
【文献】特開平01-145542(JP,A)
【文献】特開平04-076433(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111272377(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0152799(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/00- 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気流を車両に吹き付ける場合において、車両下面と床面との間のスペース内に生じる気流の境界層を吸い込み可能なように、境界層吸い込み面が床面に設けられ、該境界層吸い込み面を介して、境界層を吸い込む吸い込み手段と、吸い込み手段により吸い込む境界層の吸い込み量を調整する吸い込み量調整手段と、気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際、該吸い込み量調整手段により調整された吸い込み量に基づいて、該吸い込み手段により境界層を吸い込むことに起因して発生する車両下面と床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布を解消するように調整可能な静圧分布調整手段と、を有する、 ことを特徴とする境界層制御装置。
【請求項2】
境界層吸い込み面の上方には、車両が覆うように配置される、請求項1に記載の境界層制御装置。
【請求項3】
床面の下方には、該境界層吸い込み面に臨む吸い込みダクトが設けられ、 前記静圧分布調整手段は、気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際の、車両下面と床面との間のスペースの第1静圧を測定する第1静圧測定手段と、床面下方の該吸い込みダクト内の第2静圧を測定する第2静圧測定手段と、第1静圧と第2静圧との静圧差を調整可能な静圧差調整手段とを有する、請求項2に記載の境界層制御装置 。
【請求項4】
前記静圧差調整手段は、車両下面と床面との間のスペースの静圧に対して、床面下方の該吸い込みダクト内の静圧を調整する手段を有する、請求項3に記載の境界層制御装置。
【請求項5】
前記静圧差調整手段は、床面下方の該吸い込みダクト内の静圧に対して、車両下面と床面との間のスペースの静圧を調整する手段を有する、請求項3に記載の境界層制御装置。
【請求項6】
前記静圧差調整手段は、前記境界層吸い込み面の幅方向に亘って延びることにより、前記吸い込みダクトを複数の領域に仕切る仕切板であり、それにより、前記吸い込みダクトは、車両の前後方向に複数の領域に仕切られ、 該仕切り板の車両の前後方向位置に応じて定まる分割された境界層吸い込み面の面積に応じて、前記吸い込み量調整手段により、各領域において、境界層の吸い込み量を調整する、請求項3に記載の境界層制御装置。
【請求項7】
前記静圧差調整手段は、前記境界層吸い込み面に設けられた、吸い込み気流に対する抵抗を形成する抵抗体を有する、請求項6に記載の境界層制御装置。
【請求項8】
前記抵抗体は、多孔体であり、異なる抵抗係数の抵抗体が積層され、それにより、前記境界層吸い込み面における吸込風速分布ムラおよび/または流れ方向ムラを低減する、請求項7に記載の境界層制御装置。
【請求項9】
前記吸い込みダクトは、前記吸い込み手段に連通接続される吸い込み管を有し、該吸い込み管には、ダンパーが付設される、請求項3に記載の境界層制御装置。
【請求項10】
前記吸い込みダクト内に吸込まれる気流の淀み圧を低減する淀み圧低減手段をさらに有する、請求項3に記載の境界層制御装置。
【請求項11】
各車輪下方の床面には、走行模擬装置が配置され、走行模擬装置は、床面に設けられた開口と、該開口に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラーと、 該ダイナモローラーを円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆 動手段とを有し、 該ダイナモローラーは、円筒の中心軸線が床面下方に位置するように配置され、 前記ダイナモローラーの前記開口から臨む外周面に、車両の車輪を 載置した状態で、前記ダイナモローラーを回転駆動することにより、 車両の走行を模擬し、前記境界層制御装置は、車両の下面に対向する床面において、前記開口を除いた領域に配置される、請求項1に記載の境界層制御装置。
【請求項12】
車両の下面に対向する床面において、前記ダイナモローラーの開口の後方の所定位置に、前記境界層吸い込み面が位置するように、前記 境界層制御装置を設け、前記境界層制御装置の前記境界層吸い込み手段が、前記ダイナモローラーの回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両の下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室側から前記ダイナモローラーと前記開口との隙間を介する流入空気によって発生する連行気流が、前記開口を通じて、車両の下面と床面との間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ねる、請求項11に記載の境界層制御装置。
【請求項13】
車両に吹き付ける気流は風洞内で発生させ、該風洞の吹き出し口直後に第2境界層制御装置がさらに設けられ、該第2境界層制御装置は、前記吸い込みダクト内に吸込まれた気流の淀み圧を低減する淀み圧低減手段を有し、それにより、気流の車両への吹き出し前に、車両下面と床面との間を流れる気流の流れの阻害を低減する、請求項1に記載の境界層制御装置。
【請求項14】
請求項13に記載の境界層制御装置を有し、風洞内に生じさせる気流を吹出口を通じて、風洞外の測定室 に配置される車両に向かって吹き出す際に、気流の床面側で発生する境界層を床面に対してほぼ鉛直下方に吸込む、風洞試験装置。
【請求項15】
前記風洞は、回流式または吹き流し式である、請求項14に記載の風洞試験装置。
【請求項16】
前記境界層制御装置は、前輪と後輪との間の領域および/または一対の前輪間、および/または各前輪と前記境界層吸い込み面の縁部との間、および/または一対の後輪間、および/または各後輪と前記境界層吸い込み面の縁部との間に配置される、請求項1に記載の境界層制御装置。
【請求項17】
前記境界層制御装置は、さらに、車両の前端と前輪までの領域、および/または車両の後端と後輪までの領域に配置される、請求項1に記載の境界層制御装置。
【請求項18】
前記仕切り板は、車両の前後方向位置の調整可能である、請求項6に記載の境界層制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静止車両を利用して、走行中の車両の下面と床面、および車輛後部背面の風速分布および/または流れ方向を精度よく模擬可能な境界層制御装置及び風洞試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等車両の風速分布などの試験用として、自然風を模擬する空力実験等に使用される回流式風洞設備又は吹流し式風洞設備が利用されてきた。
より詳細には、風洞内でジェット気流を発生し、風洞の吹出口から風洞外の測定室の静止車両に向かってジェット気流を噴出することにより、主流空気(定常流量)により、走行中に発生する車両まわりの風速分布を模擬するようにしている。
この場合、風洞内で発生させる車両の前後方向のジェット気流は、走行中の車両が受ける風速を模擬するもので、平行流であり、車両の下面と床面との間のスペースにも、車両の前後方向に流れる。
しかしながら、吹出口から噴出するジェット気流は、主流空気による主流層の他に主流層と床面との間で抵抗が生じるために風速が遅れた境界層が床面に沿って生じる。そのため、車両の風速分布の試験を行う際、境界層の影響を受けることになる。
ここに、境界層とは、床面表面付近の主流空気の流れにおいて、速度が床面表面上から主流空気の流速にまで急激に変化する範囲の層をいい、例えば主流空気の流速を100%とした時、流速が99%以下に減速する層をいう。
このような境界層の影響を減少させるために、たとえば、特許文献1に示すように、風洞試験装置の測定部に、境界層吸込み装置が設けられている。
【0003】
この境界層吸込み装置は、測定部に設けた実車の上流側の床面からジェット気流を吸取り、大気に放出することによって、境界層の影響を減少させるようにしていた。より詳細には、境界層吸込み装置は、測定部において、被試験体である実車の上流側の測定部の床面にジェット気流を吸込む吸込み口と、吸込んだジェット気流を送給する吸込みダクトと、ジェット気流を吸込む吸込みポンプとからなる。
このような構成により、吹出口から噴出したジェット気流で生じる境界層を吹出口から吹出したジェット気流の流れ方向に対して直角方向に吸込み、吸込みダクトを介して吸込みポンプにより吸込み、排出空気として排出することで、境界層の影響を抑制しつつ、被試験体の風速分布などの試験を行うようにしていた。
【0004】
しかしながら、吸込み口内に流入してきたジェット気流の流れが転向する時、ジェット気流の流れが転向することにより淀み圧が生じ、この淀み圧に起因してジェット気流の流れが転向するジェット気流の主流方向の後流側での静圧が上昇するため、吹出口から吹出すジェット気流の主流方向の流れが阻害され、風速低下を生じてしまう、という問題が生じていた。
【0005】
この点、たとえば、特許文献2において、ノズルによって吹出し、吸込みを行う装置では、地面板上の境界層を一様に無くすことは困難である一方、移動べルトを用いた装置では、高速の風洞試験が不可能であることから、風洞用地面模擬装置として、風洞内に設けられ風洞気流とほぼ平行に配置された地面を模擬する地面板の上表面を、境界層を吸込むため多数の微細孔を全面に有するポーラス面で形成し、ポーラス面の下には、風洞気流の流れ方向に分割されたチャンバが設けられ、チャンバは吸込みダクトを介して吸込みポンプに接続され、チャンバと吸込みダクトの間には各チャンバからの吸込み流量を設置するバルブが 複数個設けられ、同バルブの開度は、コンピュータの指示により、バルブコントローラにより設定されるようになっているものが開示されている。
特許文献2において、このような風洞用地面模擬装置によれば、簡単な構成の装置によって、地面板のポーラス表面の多数の微細孔を経て地面板上に発達する境界層を一様に、かつ、効果的に吸引することができ、風洞試験において地面板上の境界層による影響を無くすることができ、航空機の飛行、車両の走行等の状態を正確に模擬することができる点が記載されている。
しかしながら、特許文献2には、地面板上に発達する境界層を一様に、かつ、効果的に吸引するうえでの、チャンバを風洞気流の流れ方向に分割する意義、および/または各チャンバに設けられる、多数の微細孔を具備するポーラス表面の意義については、必ずしも明らかにされていない。
【0006】
この点、たとえば、特許文献3に示すように、吸込んだジェット気流に起因して吹出口から吹出すジェット気流の主流方向の流れが阻害されるのを低減し、風速低下を軽減した境界層制御装置及び風洞試験装置境界層が開示されている。
この境界層制御装置は、環状に連続する送風路を通じて、送風機によりジェット気流を循環回流させ、吹出口を 通じて測定部に前記ジェット気流を吹き出す際、ジェット気流の主流空気が床界面側で発生する境界層をジェット気流の主流方向に対して鉛直軸方向に吸込み、排出する 吸込みダクトを有する境界層制御装置であって、吸込みダクト内に吸込まれたジェット気流の淀み圧を低減し、ジェット気流の主流方向の流れの阻害を低減するのに、吸込みダクトの上流側に形成され、ジェット気流の一部を吸込みダクト内に導く導風部や、吸込みダクトの吸込み口の下流側の縁近傍に湾曲部を設けたり、吸込みダクトの吸込み口の下流側に鍔部を設けたりすることにより、ジェット気流の主流空気が床界面側で発生する境界層をジェット気流の主流方向に対して鉛直軸方向に吸込み、排出する吸込みダクト内に吸込まれたジェット気流の淀み圧を低減することができるため、ジェット気流の主流方向の流れの阻害を低減することができる。
【0007】
しかしながら、このような境界層制御装置は、風洞の吹き出し口直後における床界面側で発生する境界層の吸い込みに関し、ジェット気流の主流方向の流れの阻害を低減するに過ぎず、以下に示すように、車両下面と床面との間、あるいは、車両後部背面での風速分布および/または流れ方向の正確な模擬には不十分である。
【0008】
すなわち、風洞の吹き出し口の直下流部、すなわち風速分布測定試験対象である車体の上流側に、境界層制御装置が設けられるに過ぎず、境界層は、ジェット気流の主流層と床面との間の抵抗に起因して生じるものである以上、車体の前部から後部に至るまでの、数メートルに及ぶ車体の前後方向長さを主流が通過する際にも、境界層の発生は避けがたく、風洞の吹き出し口の直下流部にのみ境界層制御装置を設けるだけでは、実走行では発生しない床面境界層の発達によって、車両の下面と床面との間の気流(風速分布および/または流れ方向)が阻害される点に対して、対処不十分となる。
この場合、車両の下面に相当する床面に、同様に境界層制御装置を設けるとすれば、車両の下面と床面の間の静圧分布を考慮しないと境界層吸込み面において部分的な境界層の吸込みムラが生じる。
単に車両まわりの風速分布を測定するのではなく、実走行を模擬した燃費、電費(EV車)、エアコン試験、熱マネージメント試験、吹雪試験、雨試験等を行うには、走行模擬車両まわりの精度の高い風速分布および/または流れ方向の再現が必須であるところ、このような主流への阻害により、信頼性の高い評価が困難となる。
一方、走行車両の車両後部背面での吹き上がり現象を模擬するには、車両後部背面に生じ得る渦の再現が必要であり、この意味において、気流の風速分布および/または流れ方向が重要となる。
【0009】
この点に関連して、走行模擬は、通常、風洞外の測定室に車両を配置し、車輪を床面下方に設置するダイナモローラーの回転により回転させつつ、車両の前方から後方に向けてジェット気流を流して、走行中の風速を模擬することにより行われる。
ダイナモローラーは、通常、風洞内の床面に設けられた開口から上方に臨むように、開口に対して非接触態様で設けられ、開口とダイナモローラーの周縁との間に不可避的に隙間を設けざるを得ないところ、ダイナモローラーの回転に伴って、または、ダイナモ設置室と、車両下面と床面との間のスペースとの間の静圧差に起因して、測定室から引き込む連行気流や、測定室へ流出する連行気流が不可避的に発生し、連行気流は、床面の開口を介して、車両の下面と床面との間のスペース内に斜流として、風洞内のジェット気流と同様、車両の前後方向へ流れる。
それにより、スペース内で、風洞内のジェット気流が乱され、精確に走行模擬した試験を行うことが困難となる。
昨今、ラジエタからの排熱の車両下部への放熱評価や、電燃試験の一部として、電気自動車のバッテリーの走行中の放熱評価を行うのに、バッテリーは、車両の下部に設置されることから、車両の下面と床面とのスペースを流れる気流による放熱試験は重要である。
このような技術的問題は、走行模擬速度が高くなるほど、連行気流が強くなるので、顕著となる傾向である。
以上のように、従来、風洞試験設備を利用する際、床面近傍に発生する境界層を吸い込む点について、注目はされていたが、特に、車両下面と床面との間のスペース内をジェット気流が流れる場合において、境界層の吸込による、スペース内の車両前後方向において発生する風速ムラおよび/または方向ムラについてはなんら着目されておらず、車両下面と床面との間のスペース内のジェット気流の状態を走行車両と同等な状態に模擬するものは皆無であった。

【文献】実公平1-29558号公報
【文献】特開平06-213764号公報
【文献】特開2009-156695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、風洞設備において静止車両を利用して、走行中の車両の下面と床面、および車輛後部背面の風速分布および/または流れ方向を過大なコスト増を招くことなく実用的に、精度よく模擬可能な境界層制御装置及び風洞試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、本発明の境界層制御装置は、
気流を車両に吹き付ける場合において、車両下面と床面との間のスペース内に生じる気流の境界層を吸い込み可能なように、境界層吸い込み面が床面に設けられ、該境界層吸い込み面を介して、境界層を吸い込む吸い込み手段と、吸い込み手段により吸い込む境界層の吸い込み量を調整する吸い込み量調整手段と、気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際、該吸い込み量調整手段により調整された吸い込み量に基づいて、該吸い込み手段により境界層を吸い込むことに起因して発生する車両下面と床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布を解消するように調整可能な静圧分布調整手段と、を有する、 構成としている。
【0012】
また、境界層吸い込み面の上方には、車両が覆うように配置されるのがよい。
さらに、床面の下方には、該境界層吸い込み面に臨む吸い込みダクトが設けられ、 前記静圧分布調整手段は、気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際の、車両下面と床面との間のスペースの第1静圧を測定する第1静圧測定手段と、床面下方の該吸い込みダクト内の第2静圧を測定する第2静圧測定手段と、第1静圧と第2静圧との静圧差を調整可能な静圧差調整手段とを有するのがよい。
さらにまた、前記静圧差調整手段は、車両下面と床面との間のスペースの静圧に対して、床面下方の該吸い込みダクト内の静圧を調整する手段を有するのがよい。
【0013】
加えて、前記静圧差調整手段は、床面下方の該吸い込みダクト内の静圧に対して、車両下面と床面との間のスペースの静圧を調整する手段を有するのでもよい。
また、前記静圧差調整手段は、前記境界層吸い込み面の幅方向に亘って延びることにより、前記吸い込みダクトを複数の領域に仕切る仕切板であり、それにより、前記吸い込みダクトは、車両の前後方向に複数の領域に仕切られ、 該仕切り板の車両の前後方向位置に応じて定まる分割された境界層吸い込み面の面積に応じて、前記吸い込み量調整手段により、各領域において、境界層の吸い込み量を調整するのがよい。
【0014】
さらに、前記静圧差調整手段は、前記境界層吸い込み面に設けられた、吸い込み気流に対する抵抗を形成する抵抗体を有するのがよい。
さらにまた、前記抵抗体は、多孔体であり、異なる抵抗係数の抵抗体が積層され、それにより、前記境界層吸い込み面における吸込風速分布ムラおよび/または流れ方向ムラを低減するのがよい。
加えて、前記吸い込みダクトは、前記吸い込み手段に連通接続される吸い込み管を有し、該吸い込み管には、ダンパーが付設されるのがよい。
【0015】
また、前記吸い込みダクト内に吸込まれる気流の淀み圧を低減する淀み圧低減手段をさらに有するのでもよい。
さらに、各車輪下方の床面には、走行模擬装置が配置され、走行模擬装置は、床面に設けられた開口と、該開口に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラーと、 該ダイナモローラーを円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆 動手段とを有し、 該ダイナモローラーは、円筒の中心軸線が床面下方に位置するように配置され、 前記ダイナモローラーの前記開口から臨む外周面に、車両の車輪を 載置した状態で、前記ダイナモローラーを回転駆動することにより、 車両の走行を模擬し、前記境界層制御装置は、車両の下面に対向する床面において、前記開口を除いた領域に配置されるのがよい。
【0016】
さらにまた、 車両の下面に対向する床面において、前記ダイナモローラーの開口の後方の所定位置に、前記境界層吸い込み面が位置するように、前記 境界層制御装置を設け、前記境界層制御装置の前記境界層吸い込み手段が、前記ダイナモローラーの回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両の下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室側から前記ダイナモローラーと前記開口との隙間を介する流入空気によって発生する連行気流が、前記開口を通じて、車両の下面と床面との間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ねるのでもよい。
【0017】
加えて、車両に吹き付ける気流は風洞内で発生させ、該風洞の吹き出し口直後に第2境界層制御装置がさらに設けられ、該第2境界層制御装置は、前記吸い込みダクト内に吸込まれた気流の淀み圧を低減する淀み圧低減手段を有し、それにより、気流の車両への吹き出し前に、車両下面と床面との間を流れる気流の流れの阻害を低減するのでもよい。
【0018】
上記課題を達成するために、本発明の風洞試験装置は、
請求項13に記載の境界層制御装置を有し、風洞内に生じさせる気流を吹出口を通じて、風洞外の測定室 に配置される車両に向かって吹き出す際に、気流の床面側で発生する境界層を床面に対してほぼ鉛直下方に吸込む、構成としている。
【0019】
また、前記風洞は、回流式または吹き流し式であるのがよい。
さらに、前記境界層制御装置は、前輪と後輪との間の領域および/または一対の前輪間、および/または各前輪と前記境界層吸い込み面の縁部との間、および/または一対の後輪間、および/または各後輪と前記境界層吸い込み面の縁部との間に配置されるのがよい。
【0020】
さらにまた、前記境界層制御装置は、さらに、車両の前端と前輪までの領域、および/または車両の後端と後輪までの領域に配置されるのがよい。
加えて、前記仕切り板は、車両の前後方向位置の調整可能であるのがよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1ないし図6を参照しながら、本発明の境界層制御装置および/または走行模擬装置を具備する風洞試験装置の第1実施形態を以下に詳細に説明する。
風洞試験装置100は、内部にジェット気流MFを発生する風洞Tと、風洞Tの吹き出し口106と流入口108との間に設けられる測定室109に設けられる境界層制御装置10A,10Bおよび走行模擬装置34を有し、境界層制御装置10および/または走行模擬装置34いずれも、測定室109の床面FLの下方に設けられる。
【0022】
図1に示すように、風洞試験装置100は、回流式であり、風洞T内にジェット気流MFを供給するファン( 送風機)101が設けられ、吸込口( コレクタ)で収集されたジェット気流MFをファン101により風速調整して、ほぼ環状に連続する送風路103を通じて強制的に循環回流させ、吹出口106を通じて測定室109 に対しジェット気流MFを吹き出すものであり、測定室109 から吸込口108 を通じてジェット気流MFを収集し、送風路103を通じて再びジェット気流MF を循環回流させるようになっている。吹出口106での風速は、ファン101の回転数により、送風路103を流れるジェット気流MFの定常流量として決定される。
【0023】
送風路103の途中の各コーナー部には、ジェット気流MFの流れの方向を変えるコーナーベーン105が設けられ、ファン101の下流側のコーナーベーン105の上流側には図示しない空気冷却装置( 熱交換器) が設けられ、吸込口106および吹出口108を囲んで、内部が測定部である測定室109が配置されている。測定室109には、被試験体である車両Vを配置し、ジェット気流MFを車両Vに向けて送給し、実走行を模擬した燃費、電費(EV車)、エアコン試験、熱マネージメント試験、吹雪試験、雨試験等などの試験を行うようにしている。
【0024】
風洞Tは、測定室109がセミオープンタイプの回流型であり、測定対象である車両Vを設置する測定室109と、整流洞102、縮流洞104を経て、測定室109に開口する吹出し口106と、測定室109に開口する流入口108とを有し、たとえば、ファン101で発生した気流は、整流洞102、縮流洞104を経て、測定室109に開口する吹出し口106から測定室109に流入し、流入部107の流入口108へ流れ込むようになっている。
【0025】
ファン101によって送風された気流は、いったん気流全体としての風速(動圧)を低下させて中間胴部における圧力(静圧)を上昇させた後、縮流洞を通過させることで、測定するのに必要十分な風量(風速)の気流を吹出し口から測定室に吹き出すことができるようにしている。
これにより、後に説明するように、測定室109内において、静止車両Vを走行模擬する際、設定する走行速度に応じて、車両Vの前方から後方に流れる平行気流を模擬するようにしており、設定する走行速度に応じて、ファン101により気流の風速を調整することにより、静止車両Vでありながら走行車両Vを模擬できるようにしている。
【0026】
次に、走行模擬装置34が設けられる測定室内の床面FLの躯体構造について、説明すれば、床面FLの下方スぺ―スには、床面を天井とする建築コンクリート躯体構造であり、装置室内には、直方体状のスペースが形成され、スペース内に一対のダイナモローラー38及びダイナモとが概略設けられる。
【0027】
天井は、車両Vが直接乗り入れられる床面FLを構成し、一対のダイナモローラー38の周面の上部がそれぞれ露出する開口36が形成されている。ダイナモローラー38及びダイナモは、底面上に支持されて装置室内に設けられている。
【0028】
変形例として、ダイナモとダイナモローラー38とが、筐体に設けられた底板に支持されて装置室内に設けられ、筐体とともに一体となっていてもよい。これによれば、ダイナモ及びダイナモローラー38を、筐体を外郭としてユニット化して一体的に取り扱うことができ、また、全体として安定的である。このため、装置全体を一体的に容易にかつ安全に運搬し、また、所定の試験室内に容易に設置することができる。また、本実施形態では、天井が床面FLを構成するので、別途床面FLを設ける必要がなく、装置を設置するのみで良いので、設置コストの低減とともに、全体として装置スペースの低減を図ることができる。
なお、後述する境界層制御装置の吸い込みダクトについても、床面の下方に設ける点で走行模擬装置と共通であり、躯体構造も、上述と同様である。境界層制御装置の吸い込みダクトや後述する仕切り板の材質は、ステンレス材が最も好ましいが、防食の処理(溶融亜鉛メッキや塗装)を施した鋼材でもよい。
【0029】
次に、境界層制御装置について説明すれば、図2に示すように、測定部に配置される車両下方に設けられる第1境界層制御装置10Aと、車両の上流側の風洞吹き出し口106直下流に設けられる第2境界層制御装置10Bとが設けられ、いずれも、環状に連続する送風路を通じて、ファン( 送風機)によりジェット気流MFを強制的に循環回流させ、吹出口を通じて測定部にジェット気流MFを吹き出す際、ジェット気流MFの主流空気が床界面側で発生する境界層をジェット気流MFの主流方向に対して鉛直軸方向に吸込み、排出する吸込みダクトを有する点で共通である。
先に、第2境界層制御装置10Bについて説明すれば、図3および図4に示すように、車両の上流側の床面に構成する境界層吸い込み面12からジェット気流MFを吸い込み、吸い込み管26を介してファン29により大気に放出することにより、境界層の影響を減少させるものであり、ジェット気流MFの一部を吸込みダクト内に導く導風部(図示せず)を設け、吸込んだジェット気流MFの流れの向きを転向させて、吸込みダクトに導くことにより、吸込んだジェット気流MFがジェット気流MFの主流方向に対して鉛直軸方向に転向する際の流れの転向角度を低減する結果、吸込みダクト内に吸込まれたジェット気流MFの淀み圧を低減し、以て、ジェット気流MFの主流方向の流れの阻害を低減するのでもよい。
風洞の吹き出し口直後に設けられる第2境界層制御装置10Bは、吸込みダクト内に吸込まれたジェット気流MFの淀み圧を低減する淀み圧低減手段(図示せず)を有し、それにより、ジェット気流MFの車両Vへの吹き出し前に、ジェット気流MFの主流方向の流れの阻害を低減するのでもよい。
吸い込みダクト14は、上面が床面FLを構成する床躯体構造に設けられる凹部により構成される。
【0030】
次に、第1境界層制御装置10Aについて、車両Vの下面LSより広い面積を有する境界層吸い込み面12が床面FLに設けられる。なお、第1境界層制御装置10Aは、第2境界層制御装置10Bと同様に、吸い込みダクト内の空気を 吸い込み管26を介して、ファン29により大気に放出する点で共通である。
境界層吸い込み面12は、矩形状であり、車両Vが一対の前輪FWおよび一対の後輪RWそれぞれの下方には、後に説明する走行模擬装置の一部を構成する開口36が設けられ、境界層吸い込み面12は、車両Vの下面LSに対向する床面FLにおいて、開口36を除いた領域に設けられる。
【0031】
床面FLの下方に、境界層吸い込み面12に臨む吸い込みダクト14が設けられ、
吸い込みダクト14は、車両Vの前後方向に複数の領域16に仕切られ、
各領域16は、境界層吸い込み面12を介して、境界層を吸い込む吸い込み手段18と、吸い込み手段18により吸い込む境界層の吸い込み量を調整する吸い込み量調整手段20とを、有する。境界層の吸い込み量は、仕切板22により仕切られ、複数の領域16(後述)の各領域に対応する境界層吸い込み面12の面積に応じて、調整する。
【0032】
複数の領域16において、隣接する領域16は、仕切板22により仕切られ、複数の領域16各々は、直方体状スペースを構成する。
複数の領域16において、仕切り板は、境界層吸い込み面12の幅方向Wに亘って延びる。
各仕切板22の車両前後方向位置は、車両下面と床面の間の前後方向の静圧分布、複数の領域16それぞれの必要容積、あるいは、車両前後方向の長さに応じて決定すればよく、たとえば、走行模擬状態での車両の下面と床面との間の気流を精緻に模擬したい場合には、隣接する仕切り板の車両前後方向の間隔を狭め、その分、仕切板22の枚数を増やしてもよい。特に、車両Vの下面LSと床面FLの間の車輪に相当する領域の静圧は他の領域よりも低いことから、車輪に相当する領域は仕切板22にて分割するのがよい。
【0033】
境界層吸い込み面12には、吸い込みジェット気流MFに対する抵抗を形成する抵抗体24が設けられる。
たとえば、抵抗体24としては、多孔な通気体、特に、多孔板により、開口率を変えた組み合わせが好ましく、多孔板のみでは強度がない場合は、多孔板の下部に強度のあるグリッドやグレーチング等で補強するのがよい。この場合、ジェット気流MFに直交する方向には、このような強度部材を設けないのが好ましい。
抵抗体24は、異なる抵抗係数の抵抗体24が積層され、各領域16ごとに、抵抗体24の種類および/または積層数が調整され、それにより、各領域において、車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧分布に応じて、抵抗体の抵抗係数が異なるようにして、各領域内の境界層吸込み面12における部分的な吸込風速分布ムラを低減する。
【0034】
吸い込みダクト14は、吸い込み手段18に連通接続される吸い込み管26を有し、吸い込み管26には、ダンパー27が付設され、通常どおり、ダンパー27の調整により、吸い込み管26内を流れる吸い込み空気の流量を調整可能である。
仕切りおよび/または抵抗体24は、車両Vの前後方向に可動であり、それにより、複数の領域16の各領域16の車両Vの前後方向の隣接する仕切り間の間隔が調整可能である。
これにより、試験目的、車型、同じ車型での走行模擬速度の変動等に応じて、各領域16の車両Vの前後方向の隣接する仕切り間の間隔を調整してもよい。
吸い込み手段18は、ファンであり、吸い込み量調整手段20は、ファンの回転数を制御するインバータ(図示せず)により、吸い込み量を調整するのでもよい。
複数の領域16において、ファンが共用されるのでもよく、たとえば、抵抗体24および/またはダンパー27との組み合わせにより、各領域16において境界層の適切な吸い込みが可能である限り、複数の領域16すべてについて、ファンを共用するのでもよい。
【0035】
ジェット気流MFが車両Vの下面LSと床面との間のスペースを車両Vの前後方向に流れる際に発生する車両Vの下面LSと床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布を調整可能な静圧分布調整手段を有し、静圧分布調整手段は、車両Vの下面LSと床面との間のスペースと、床面下方の吸い込みダクト14内の静圧差を調整可能な静圧差調整手段32をさらに有する。
【0036】
静圧差調整手段32は、吸い込みダクト14を車両の前後方向に仕切る複数の仕切り板22と、仕切り板22により仕切られる吸い込みダクト14の各領域に対応する境界層吸い込み面12に設ける抵抗体24とに構成される。
実走行の車両において、ジェット気流MFが車両Vの下面LSと床面との間のスペース内に前後方向に静圧分布が生じるところ、境界層吸込みに起因して、走行模擬車両においては、このような前後方向静圧分布から乖離する。より詳細には、仕切り板22により仕切られた各領域において、境界層吸い込み面12を介する吸い込み気流の風速ムラおよび/または流れ方向ムラが、スペース内の前後方向静圧分布に影響を及ぼすことから、車両Vの下面LSと床面との間のスペース内の静圧と、吸い込みダクト14内の静圧との差を調整することにより、このような吸い込み気流の風速ムラおよび/または流れ方向ムラを低減し、以て、走行模擬車両における車両Vの下面LSと床面との間のスペース内の前後方向の静圧分布を、実走行のそれに近似させるために、静圧分布調整手段を設けるものであり、静圧分布調整手段は、ジェット気流が車両Vの下面LSと床面との間のスペースを車両Vの前後方向に流れる際の、車両Vの下面LSと床面との間のスペースの静圧と、床面下方の吸い込みダクト14内の静圧との静圧差を調整可能な静圧差調整手段32を有し、静圧差調整手段32は、具体的には、抵抗体24の抵抗係数を異ならせたり、同抵抗係数または異なる抵抗係数のものを積層させて構成する。
【0037】
複数の抵抗体24を積層するのに、同じ開口率の抵抗体24を用いる場合には、各抵抗体24の孔の中心をずらして積層することにより、全体的な開口率の調整が可能であり、異なる開口率の抵抗体24を用いる場合には、孔径が大で、強度を厚みにより確保した多孔体と、孔径が小さい軽量な金網との積層でもよい。
いずれの場合においても、車両Vの下面と床面FLとの間のスペースの静圧分布が車種によって異なる場合に備えて、基本となる抵抗体24を固定設置し、取り外し可能に、調整用抵抗体24を追加積層するのでもよい。
【0038】
変形例として、車両の下面LSに対向する床面FLにおいて、ダイナモローラー38の開口36の後方の所定位置に、境界層吸い込み面が位置するように、境界層制御装置10を設け、境界層制御装置10の境界層吸い込み手段が、ダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室側からダイナモローラー38と開口36との隙間を介する流入空気によって発生する連行気流が、開口36を通じて、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ねるのでもよい。
【0039】
境界層制御方法は、上述の境界層制御装置10を用いて、風洞内に発生するジェット気流MFを風洞外の測定室109に配置される静止車両Vに向かって吹き出し、走行模擬する場合において、
車両を配置しない状態で、ジェット気流MFの速度を変えながら、車両V設置エリアに生じる境界層の厚みを各領域16に対応する境界層吸い込み面12の部分において測定する段階と、
測定した境界層の厚みに基づいて、境界層吸い込み面12における吸い込む風速ムラを低減するように、各領域16において、抵抗係数および/または境界層の吸い込み量を調整する段階と、
各領域16において境界層の吸い込み量を調整した状態で、風洞内に発生するジェット気流MFを風洞外の測定室109に配置される静止車両Vに向かって吹き出し、車両Vまわりの風速分布を測定し、各種試験を行う。
より詳細には、さらに、車両Vの前後方向の各位置の車両下面と床面FLとの間の静圧と、吸い込みダクト14内静圧とを測定する段階と、
および/またはジェット気流MFの風速に応じて吸込み風量を調整しながら、抵抗体22の各々の抵抗係数を調整する段階とを有し、
それにより、吸い込みダクト14内の静圧を車両下面と床面FLとの間の静圧よりも低くする。
【0040】
吸い込み手段における最大吸い込み量については、境界層内の速度勾配が急激であることから、境界層厚さ、境界層吸い込み面の幅(車両の幅方向)、および/または主流であるジェット気流MFの流速により、安全率を考慮して設定すればよい。
このような最大吸い込み能力を具備する吸い込み手段を用いる際、仕切板により仕切られた各領域において、各領域における境界層吸い込み面の面積に応じて、境界層吸い込み面における吸い込み気流の流速(面風速)が定まるところ、境界層吸い込み面の面積が過小であると、吸い込み気流の流速が過大となり、それにより、車両下面と床面との間のスペースにおいて、各領域に対応する部分の静圧が高くなり、実走行の車両V周囲の静圧場から乖離することになるので、仕切板により仕切られた各領域の車両前後方向の長さは、このような影響がない程度に確保するのが好ましい。
【0041】
また、車両前部側の境界層吸い込み面12では、車両後部側および/または車両中央部の境界層吸い込み面12よりも、抵抗体24の選択により、流れ抵抗を大きく設定するのがよい。これにより、車両前部側の境界層吸い込み面12では、車両後部側に比べて、静圧が低いので、場合により、吸い込みダクト内から床面FLと車両Vの下面LSとの間のスペースへ逆流が発生するところ、このような逆流を抑制し、境界層吸い込み面12の前後方向における吸い込み風速ムラを低減することが可能である。
さらに、車両後部側の境界層吸い込み面12では、車両前部側および/または車両中央部の境界層吸い込み面12よりも、吸い込み量を小さく設定するのがよい。これにより、車両Vの後部での風の吹き上がり現象を再現しやすくすることが可能である。
【0042】
このような境界層制御方法によれば、実際の試験設備における実測値に基づいて、境界層の厚みを測定するので、たとえば、数値シミュレーションまたは平板に沿う層流の理論式に基づいて境界層の厚みを決定するのに比べて、実設備では施工精度に伴う境界の厚みがシミュレーションや理論式よりも厚くなることから、より精緻に境界層の制御を行うことが可能であり、走行模擬車両を用いた試験目的に応じて、ジェット気流MFの速度の変動範囲を決定すればよい。
【0043】
以上、風洞は、風洞内に生じさせるジェット気流MFを吹出口を通じて、風洞外の測定室109に配置される車両Vに向かって吹き出す際に、ジェット気流MFの主流が床面FL側で発生する境界層を床面FLに対してほぼ鉛直下方に吸込み可能である限り、風洞は、回流式または吹き流し式でよい。
【0044】
以上の構成を有する境界層制御装置によれば、風洞T内に吹き出し口に向かって、たとえば送風機によりジェット気流MFを吹き出し口の下流に配置された車両Vに向かって吹き出す際、ジェット気流MFの主流に対して、車両Vの下面と床面FLとの間には、境界層が生じるところ、車両が覆うように上方に配置される境界層吸い込み面12を通じて、境界層吸い込み面12に臨む吸い込みダクト14内に、境界層を吸い込む吸い込み手段により、境界層を吸い込むことが可能であり、この場合、静圧差調整手段32により、ジェット気流MFが車両下面と床面FLとの間のスペースを車両の前後方向に流れる際に発生する車両下面と床面FLとの間のスペースの車両前後方向の静圧分布を調整可能であることから、ジェット気流MFが車両下面と床面FLとの間のスペースを車両の前後方向に流れる際、床面近傍の境界層を吸い込むのに、境界層の吸い込みに起因して、実走行で発生する車両下面と床面FLとの間のスペースの車両前後方向の静圧分布から乖離するのを抑制可能であり、それにより、車両下面と床面FLとの間のスペースにおいて、車両の前後方向に、実走行と異なる風速分布および/または流れ方向が生じたり、吸い込みダクト14内から車両下面と床面FLとの間のスペースへの逆流を抑制することが可能であり、以て、走行模擬車両Vを用いて、実走行に近似した精緻な試験を行うことが可能となる。
【0045】
次に、走行模擬装置34の詳細について、図5を参照しながら、説明する。
走行模擬装置34は、風洞Tにより内部に気流を流す測定室109の床面FL下方に設置され、測定室109内には、測定対象である車両Vが設置され、静止車両Vの車輪WHが走行模擬装置34により回転駆動されるように構成している。
測定室109内に、一対の前輪FWおよび一対の後輪RWそれぞれ(図面では、それぞれ1つを表示)に対して、走行模擬装置34が対応して設けられている。これらの走行模擬装置34を用いて、測定室109上に進めた自動車の各種特性が測定される 。
【0046】
各ダイナモローラー38は、床面FL下方のダイナモ設置室内に設けられ、自身の中心軸に設けられた回転軸13が、底板上に設けられた軸受(図示せず)に回転可能に支持されている。両ダイナモローラー38の間には、連結軸(図示せず)が同軸配置され、両ダイナモローラー38の回転軸とカップリング(図示せず)によって連結されており、これにより両ダイナモローラー38は一体的に回転可能となっている。
【0047】
ダイナモは、ダイナモローラー38の回転駆動源で液冷式であり、入出力軸(図示せず)は、一方のダイナモローラー38の回転軸と同軸配置されていて、ロック用ディスク(図示せず)によって連結されている。また、ダイナモの入出力軸には、トルクメータ(図示せず)が設けられており、入出力軸におけるトルクを検出可能となっている。
【0048】
走行模擬装置34は、測定室109上に進めた自動車の車輪WHを、測定室109の床面FLに設けた開口36から天頂部を露出させたダイナモローラー38の上に配置して走行させながら、ダイナモでダイナモローラー38を介して車輪WHにトルクを加えたり、車輪WHより加わるトルクをロードセル(図示せず)で計測するように構成している。
【0049】
本実施形態に係る走行模擬装置34としては、各々一つのダイナモローラー38と 一つのダイナモとを備えた四つの走行模擬装置34を用いる代わりに、 各々車輪WHがひとつずつ載置される二つのダイナモローラー38とこの二つのダイナモローラー38を回転駆動する一つのダイナモを備えた走行模擬装置34を用いるようにしてもよい。
各開口36について、開口36の上流縁24および下流縁28の直下方には、中実バー状のセンタリングパイプ35が開口36の幅方向Wに亘って設けられ、各センタリングパイプ35は、開口36の床面FLの長手方向中心位置から等距離に位置決めされ、車両Vを測定室109内で位置決めする際、車両Vの車輪WHを対応する開口36に対してセンタリングして、対応するダイナモローラー38により回転駆動可能なように、その目安として利用される。
【0050】
以上の走行模擬装置34においては、車両Vは、ダイナモローラー38の円筒の中心軸線に対して、直交する向きに、風洞T外の測定室109に配置され、風洞T内で、車両Vの前方から後方に向かって、床面FLから少なくとも車高までの高さに亘って、ジェット気流MFを送るように構成され、開口36に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラー38が、円筒の中心軸線が床面FL下方に位置するように配置され、ダイナモローラー38の開口36から臨む上部外周面に、車両Vの車輪WHを載置した状態で、ダイナモローラー38を回転駆動することにより、車両Vの走行を模擬するようにしている。
【0051】
さらに、各開口36について、ダイナモローラー38の上部外周面の最上部23は、床面FLと面一に設定されるところ、ダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流B1,B2が、開口36を通じて、車両V下面LSと床面FLとの間のスぺースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段21を、開口36とダイナモローラー38との間の隙間Cに設ける。
より詳細には、開口36は矩形状であり、連行気流抑制手段21は、開口36の上流側縁24と対応するダイナモローラー38との隙間C、および/または開口36の下流側縁28と対応するダイナモローラー38との隙間Cそれぞれに配置される平板である
【0052】
図5に示すように、開口36の大きさは、ダイナモローラー38の大きさに依存し、ダイナモローラー38に接触しない観点から定められるが、通常、幅Wは600ミリないし700ミリ、気流の流れ方向の長さLは600ミリないし700ミリであり、ダイナモローラー38と開口縁との隙間Cは、通常、幅は10ミリないし20ミリである。
平板の材質、大きさは、連行気流抑制手段21により連行気流を有効に抑制する観点から、適宜定めればよく、たとえば、材質は、柔軟性が確保される限り任意であり、金属製、樹脂製等、大きさについて、幅は、開口36の幅に亘ることにより、床面FLに常設固定されるのでよく、車両Vの前後方向の長さは、開口36の上下流縁24、28それぞれから最上部23までの半分を覆う程度でよい。常設固定であれば、車両Vが上を通過する際、耐える程度の厚みが必要である。なお、常設固定でなく、取り外し式としてもよい。
【0053】
連行気流としては、以下に示すダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモローラー38が収容されるダイナモ設置室と車両下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流があり得る。
この場合、図5に示すように、ダイナモローラー38の開口36から、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスぺースに向かう吹き出し(流入空気)流による連行気流B1に対しては、開口36の上流側縁24に設けられる平板21Aがスぺースに及ぶのを抑制する一方、ダイナモローラー38の開口36からの下向きの回転により発生する、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスぺースからの吸い込み連行気流B2に対しては、開口36の下流側縁28に設けられる平板21Bが吸い込まれるのを抑制することが可能である。
ダイナモローラー38の周縁と開口36の周縁との間には、所定隙間が設けられ、ダイナモ設置室と車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流は、主として、所定隙間を通じて、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスペースに及ぶ。
この場合、車両Vの下面LSに対向する床面FLにおいて、ダイナモローラー38の開口36の後方の所定位置に、境界層吸い込み面12が位置するように(図13の12Fおよび12G参照)、境界層制御装置10を設け、境界層制御装置10の境界層吸い込み手段18が、ダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流が、開口36を通じて、車両Vの下面LSと床面FLとの間スペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ねるのが好ましい。
図13に示すように、開口36に対応するダイナモ設置室と、境界層吸い込み面12Fおよび12G各々に対応する吸い込むダクト14とは、連通せずに、互いに仕切られているが、境界層吸い込み面12Fおよび12G各々の前縁と開口36の後縁との間の間隔は、上述のように、境界層吸い込み手段18が、連行気流抑制手段を兼ねるのが可能な観点から定めるのがよい。
たとえば、車輪FWの回転を停止した試験の場合には、ダイナモローラー38を回転させないことから、ダイナモローラー38の回転に伴う連行気流は発生しないが、ダイナモ設置室と車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧差により、静圧が高いダイナモ設置室側からダイナモローラー38のローラー端面と開口36との隙間を介する流入空気による連行気流が発生し、車両Vの下面LSと床面FLとの間の気流を大きく乱す場合があり、この場合には、境界層吸い込み面12Fおよび12Gが、特に有効に機能し、車両Vの下面LSと床面FLとの間の境界層を吸い込むとともに、このような流入空気を吸い込みダクト14内へ吸い込み可能とし、車両Vの下面LSと床面FLとの間の気流の乱れを抑制することも可能となる。
【0054】
以上の構成を有する走行模擬装置34について、以下に、走行模擬装置34を用いる走行模擬方法として、その作用を説明する。
走行模擬装置34を用いる走行模擬方法は、概略的には、風洞T外の測定室109の床面FLに設けられた開口36から外周面40が臨むダイナモローラー38に、車両Vの車輪WHを載置する段階と、開口36とダイナモローラー38の周縁との間の隙間Cを狭める段階と、
風洞T内でジェット気流MFを車両Vの前方から後方に向けて流しつつ、ダイナモローラー38の回転により車輪WHを回転させる車両Vの走行模擬段階とから構成され、隙間Cを狭める段階は、連行気流抑制手段21により実現可能である。
この場合、隙間を狭める段階は、連行気流抑制手段21を用いて行うが、連行気流抑制手段21は、取り外し式または可動式であり、車輪WHが対応する開口36に位置決めされるように、車両Vを床面FL上で移動する際は、連行気流抑制手段21を取り外し、または可動として、車両Vの移動後に、取り付ける段階を有するのがよい。
【0055】
より詳細には、風洞T外の測定室109で、車両Vの前方から後方に向かって、床面FLから少なくとも車高までの高さに亘って、ジェット気流MFを送りつつ、ダイナモローラー38の開口36から臨む上部外周面に、車両Vの車輪WHを載置した状態で、ダイナモローラー38を回転駆動することにより、静止車両Vにより、車両Vの走行を模擬することが可能である。
その際、ダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流が、不可避的に発生し、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスぺース内で風洞T外の測定室109のジェット気流MFが乱されるところ、開口36とダイナモローラー38の周縁との間の隙間Cに連行気流抑制手段21を設けることにより、および/または、ダイナモローラー38の開口36の後方の所定位置に、境界層吸い込み面12が位置するように境界層制御装置10を設けることにより、このような連行気流が床面FLの開口36を通じて、車両V下面LSと床面FLとの間のスぺースに及ぶのを抑制することが可能であり、以て、車両Vの走行に応じて生じる風速を模擬する風洞T内のジェット気流MFが車両Vの下面LSと床面FLとの間のスぺース内で乱されることを低減することが可能である。
【0056】
それにより、実走行を模擬した燃費、電費(EV車)、エアコン試験、熱マネージメント試験、吹雪試験、雨試験等の各種試験を行うのに、電気自動車の下面LSと路面との間のスペース内において、ダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流により乱れることなく、車両Vの前方から後方へ通過する気流を精確に模擬し、放熱試験の信頼性を確保することが可能となる。
なお、車両Vが四輪駆動の場合には、ダイナモローラー38を利用して、前輪FWおよび/または後輪RWを同時に回転させることから、各車輪WHに対応する開口36に対して、連行気流抑制手段21を適用するのがよいが、車両VがFFまたはFRの場合には、 駆動されない後輪RWまたは前輪FWに対応する開口36に対しては、ダイナモローラー38を利用する必要がなく、車両Vの床下気流を重視する試験の場合には、開口36とダイナモローラー38とを一体で移動したり、開口36に蓋をするのがよい。
【0057】
変形例として、連行気流抑制手段21は、開口36の上流側縁24および下流側縁28それぞれから、車輪WHとダイナモローラー38との最上部23に向かって延びるブラシ32であり、ブラシ32が、側縁の幅方向W全体に亘って、密接して設けられるのでもよい。
さらなる変形例として、連行気流抑制手段21は、床面FLを構成する床躯体構造を利用して支持され、床面FLの下面LSレベルからダイナモローラー38の上部外周面レベルまで及び、開口縁の延び方向に沿って延びる堰き止め面を備えた連行気流堰き止め部材でもよい。
さらなる変形例として、連行気流抑制手段21は、床面FLを構成する床躯体構造を利用して支持され、 吸い込み開口36を上流側に臨むように差し向けた、連行気流Bを吸い込む吸い込み管であり、吸い込み開口36は、床面FLとダイナモローラー38の上部外周面レベルとの間に設けられるのでもよい。
さらなる変形例として、連行気流抑制手段21は、床面FLを構成する床躯体構造を利用して支持され、開口36の対向側縁26に沿って延びる堰き止め板であり、堰き止め板の上縁は、床面FLレベルに設定され、下縁は、ダイナモローラー38の上部外周面に接触しない範囲に設定されるのでもよい。
【0058】
さらなる変形例として、連行気流抑制手段21は、床面FLを構成する床躯体構造を利用して支持され、床面FLに対向する上面、ダイナモローラー38の上部外周面に対向する下曲面および床面FLからダイナモローラー38の上部外周面に向かって延びる後面とから構成されるほぼ三角形状断面を有し、下流縁28に沿って延びるエゼクタ流路形成部材であり、床面FLの下面LSとエゼクタ流路形成部材の上面との間に、上方エゼクタ流路、エゼクタ流路形成部材の下曲面とダイナモローラー38の上部外周面との間に、下方エゼクタ流路を形成するのでもよい。この場合、上方エゼクタ流路および下方エゼクタ流路の傾斜、長さは、連行気流抑制手段21により連行気流を有効に抑制する観点から、エゼクタ内部の空間が圧力の低下を引き起こし、外部の空気を吸い込むように、適宜定めればよく、これにより、ダイナモローラー38の開口36からの下向きの回転により発生する、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスぺースからの吸い込み連行気流B2に対しては、開口36の下流側縁28に設けられるエゼクタ流路形成部材が吸い込まれるのを抑制することが可能である。
【0059】
走行模擬速度が設定されると、それに応じて、ダイナモローラ―の回転数および風洞内に発生させるべきジェット気流速度が定められ、ジェット気流速度に応じて、境界層の厚みが定まり、境界層制御装置10による境界層吸い込み量が設定される一方、連行気流がダイナモローラ―の回転数により発生する場合には、ダイナモローラ―の回転数に応じて、連行気流の吸い込み量が定められ、ダイナモ設置室と車両下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流の場合には、ジェット気流速度により定められるところ、一対の前輪FW間に設けられる領域16、あるいは、一対の後輪RW間に設けられる領域16における境界層吸い込み量は、車両の前後方向に隣接する走行模擬装置34による連行気流により影響を受けやすいことから、設定されるダイナモローラ―の回転数に応じて、各領域を仕切り仕切り板の車両前後方向位置を微調整するのでもよい。
【0060】
以下に、本発明の第2実施形態について、図6を参照しながら説明する。以下の説明において、第1実施形態と同様な構成要素については、同様な参照番号を付することによりその説明は省略し、以下では、本実施形態の特徴部分について詳細に説明する。
本発明の第2実施形態の特徴は、第1境界層制御装置10Aにあり、第1実施形態においては、風洞の吹き出し口106直下流に設ける第2境界層制御装置10Bは、測定部に配置される車両の下方に設けられる第1境界層制御装置10Aとは、別個独立であるが、本実施形態においては、第1境界層制御装置10Aを第2境界層制御装置10Bと接続して設けた点、および第1境界層制御装置10Aの配置にある。
より詳細には、図6に示すように、第1境界層制御装置10Aの吸い込みダクト14と、第2境界層制御装置10Bの吸い込みダクト14とが、床面に設けた共通の単一凹部により構成され、第2境界層制御装置10Bの吸い込みダクトが仕切り板22により複数の領域16に仕切られているのと同様に、第1境界層制御装置10Aの吸い込みダクト14と、第2境界層制御装置10Bの吸い込みダクト14とが仕切り板により仕切られている。
第1境界層制御装置10Aの配置について、境界層吸い込み面12は、一対の前輪FWの間に構成される吸い込み面部12A、前輪FWと後輪RWとの間に構成される吸い込み面部12B、および一対の後輪RWの間に構成される吸い込み面部12C、車両Vの前端と前輪FWまでの領域12D、および車両Vの後端と後輪RWまでの領域12Eそれぞれに矩形状に区画されていてもよい。
車両Vの前端と前輪FWまでの領域12Dは、前輪FWより下流側の流れにとって支配的であり、一方、車両Vの後端と後輪RWまでの領域12Eは、車両Vの後部背面における吹き上がり現象を再現するのに重要である。
より詳細には、吸い込み面部12Aおよび12Cはそれぞれ、車両の前後方向には、車輪WHの長さに相当し、車両の幅方向には、車幅からダイナモローラ―用の開口の幅を除いた長さ、吸い込み面部12Bは、車両の前後方向には、前輪FWと後輪RWとの間隔、車両の幅方向には、車幅相当長さでよい。
なお、仕切り板22の前後位置の調整により、第1境界層制御装置10Aの吸い込みダクト14を第1境界層制御装置10Bの吸い込みダクト14の車両最前部の領域と連通接続してもよい。
以上のように、第1境界層制御装置10Aと第1境界層制御装置10Bとが別個独立である場合に比べて、試験条件に応じて、柔軟に調整可能である。
【0061】
本出願人は、境界層制御装置による境界層吸い込み効果を確認するために、以下に示す流動解析数値シミュレーションを行った。
コンピューターによる数値シミュレーション用の3次元モデルを図8に示す。
流動解析ソフトは、市販されているFluent (version 19.2)である。
図8および図13に示すように、床面に配置される車両、前輪および後輪、および吸い込みダクトをモデル化しており、吸い込みダクトは、各前輪の下方に設置するダイナモローラ―用開口の後方(12Fおよび12G)、および一対の前輪の間と一対の後輪の間を延びるスペース(12A)、および一対の前輪の前部と一対の後輪の後部とをカバーする各車輪と境界層吸い込み面の縁との間のスペースに設置され、車両の前後方向に延びる中心線に関して軸対称であることから、車両の前後方向に延びる中心線に関して、一方の側のみをモデル化している。
床面に配置される車両に向かって、前後方向に流れる気流を前提に、吸い込みダクトから空気を吸い込む点を模擬している。
シミュレーション結果として、車両まわりの静圧分布の側面図を、図9および図10に示す。
【0062】
図9に示すように、車両下面に対向する床面の下方に、車両の前部から後部に亘って吸い込みダクトを設ける場合には、車両下面と床面との間のスペース内において、車両前後方向の中央部あたりの境界層吸い込み面には、スペース内の他の部位に比べて静圧の低い部分が存在する。
このような静圧の低い部分の存在により、車両下面と床面との間のスペース内静圧と、対応する床面下方の吸い込みダクト内の静圧との差が、車両前後方向の位置により、異なる。それにより、図11に示すように、境界層吸込み面における吸込み気流の風速ムラが生じ、このために車両下面と床面との間のスペース内の気流に実走行と異なる風速分布および/または流れ方向が引き起される。このような風速分布および/または流れ方向が発生している状態では、床面近傍の境界層吸い込みはなされるとしても、静止車両による走行模擬した精緻な試験を行うことが困難である。
【0063】
それに対して、図10に示すように、12Aにおいて、車両下面に対向する床面の下方に、車両の前部から後部に亘って吸い込みダクトを設け、吸い込みダクトを車両の前後方向に仕切る(5区画)とともに、12Eおよび12Fも含め、吸い込み量を設定し、各区画に対応する境界層吸い込み面に、所与抵抗係数の抵抗体を設ける場合には、車両下面と床面との間のスペース内静圧は、境界層吸い込み面近傍に亘って車両の前後方向に一様に、区画それぞれのダクト内静圧よりも高い状態が明示され、車両前後方向の中央部あたりの境界層吸い込み面には、静圧の低い部分が解消されている点が明示されている。
よって、図12に示すように、車両下面と床面との間のスペース内の気流に実走行と異なる風速分布および/または流れ方向が発生するのが抑制され、床面近傍の境界層吸い込みを行うことにより、静止車両による走行模擬した精緻な試験を行うことが可能となる。
【0064】
以上のシミュレーション結果によれば、車両の前後方向長さおよび/またはジェット気流の風速に応じて、吸い込みダクトを車両の前後方向に仕切り方法(区画数)および/または各区画に対応する境界層吸い込み面に設ける抵抗体の抵抗係数を調整することにより、床面近傍の境界層を吸い込む際、境界層吸い込み面における、吸い込み気流の風速ムラおよび/または方向ムラに起因する、車両下面と床面との間のスペース内の気流に実走行と異なる風速分布および/または流れ方向の発生が抑制可能である点が示されている。
【0065】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば、種々の修正あるいは変更が可能である。
たとえば、本実施形態においては、各車輪に対してダイナモが床面下方に配置されているものとして説明したが、ダイナモが床面下方でなく、測定室内の床面よりも上部に設置される場合もあり、この場合には、ダイナモローラーによりダイナモを回転することにより、車輪が回転するのでなく、ダイナモがタイヤの回転軸と直結となることから、境界層吸込み面は、ダイナモローラーが無いので、各車輪を外したエリアに配置されることになる。
たとえば、本実施形態においては、境界層制御装置において、吸い込みダクトの仕切られた各領域において、境界層の吸い込み量を制御するのに、境界層吸い込み面に設ける抵抗体、吸い込む管に設けるダンパー27、吸い込みに利用する送風機の回転数または送風機内のダンパー27、いずれかを調整することにより行うものとして説明したが、各領域において、主流に阻害が生じないように境界層を適切に吸い込み可能である限り、各領域において、たとえば、ある領域は境界層吸い込み面に設ける抵抗体、別の領域は吸い込む管に設けるダンパー27等、異なる調整方法を用いてもよく、また、同じ領域において、境界層吸い込み面に設ける抵抗体、および送風機の回転数等の複数の調整方法を用いてもよい。
【0066】
たとえば、本実施形態においては、境界層制御装置において、風洞の吹き出し口106直下流に設ける第2境界層制御装置10Bと、測定部に配置する車両の下方に設ける第1境界層制御装置10Aとを同時に駆動するものとして説明したが、これに限定されることなく、主流に阻害が生じないように境界層を適切に吸い込み可能である限り、たとえば、第1境界層制御装置10Aのみを駆動して、第2境界層制御装置10Bを休止したり、第1境界層制御装置10Aを停止して、第2境界層制御装置10Bのみを駆動したり、第1境界層制御装置10Aにおいて、各領域中、車両後部側のみを駆動したりするものでもよい。たとえば、風洞試験装置を利用して、車両に対して吹雪を模擬して、吹き付け試験を行う場合、境界層制御装置の吸い込みダクト内に境界層吸い込み面を介して、境界層を吸い込もうとすると、吹雪を吸い込むことにもなり、吹雪が境界層吸い込み面および/または吸い込む管内に付着して、面または管を閉鎖する自体が生じ得ることから、風洞の吹き出し口106直下流に設ける第2境界層制御装置10Bのみ駆動し、測定部に配置する車両の下方に設ける第1境界層制御装置10Aを停止、または、第1境界層制御装置10A中、車両後部側の領域のみを停止することにより、このような事態を防ぐのに有効である。
【0067】
たとえば、本実施形態においては、境界層制御装置により、主流に阻害が生じないように境界層が適切に吸い込む際、風洞試験装置において、設定走行模擬速度に基づく所定ジョット気流速度のもとで、実際に発生する境界層の厚みを測定し、その測定結果に基づき、境界層制御装置による境界層吸い込み量を調整するものとして説明したが、これに限定されることなく、主流に阻害が生じないように境界層を適切に吸い込むことが可能である限り、実際の測定でなく、平板上の層流の理論式、または、流動モデルによる数値シミュレーション解析を利用するのでもよい。
【0068】
たとえば、本実施形態においては、風洞試験装置において車両の走行を模擬する場合、設定する走行模擬速度に基づいて、風洞内に発生させるジェット気流速度を設定し、設定したジェット気流速度に応じて、境界層制御装置により、境界層吸い込み量を定めるものとして説明したが、これに限定されることなく、主流に阻害が生じないように境界層が適切に吸い込み可能である限り、同種車両の走行模擬をする場合、境界層吸い込み面に設ける抵抗体、吸い込む管に設けるダンパー27、吸い込みに利用する送風機の回転数または送風機内のダンパー27として同じ境界層吸い込み量調整方法による限り、予め走行模擬速度と境界層吸い込み量とをデータベース化しておくのでもよい。
【0069】
たとえば、本実施形態においては、一つ車輪に対応する開口36の上流縁および下流縁に適用する連行気流抑制手段21は、同じであるものとして説明したが、これに限定されることなく、上流側がブラシ、下流側がブラシ、上流側が連行気流堰き止め部材、下流側がブラシでもよく、あるいは、一つの車輪の上流縁に複数の抑制手段を設置する、たとえば、ブラシと連行気流堰き止め部材とを同時に併用するのでもよく、一つの車輪の下流縁に複数の抑制手段を設置する、たとえば、ブラシとエゼクターとを同時に併用するのでもよい。
たとえば、第1実施形態において、各車輪に適用されるダイナモローラー38に対して、連行気流抑制手段21を開口36の上流縁および下流縁に設置する点について、車輪全体に共通のものとして説明したが、それに限定されることなく、ある車輪は、開口36の上流縁および下流縁、ある車輪は、開口36の上流縁のみ、ある車輪は、開口36の下流縁のみに設置でもよい。
【0070】
たとえば、本実施形態において、車両V下面LSと床面FLとの間のスぺースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段21を設定したら、それに基づき、走行模擬する車両Vを用いて、性能試験、環境試験、耐久試験等を行うものとして説明したが、走行模擬する際、模擬走行速度に応じてダイナモローラー38の回転数、および風洞T内のジェット気流MFの速度が変動するところ、ダイナモローラー38の回転数に応じて、たとえば、第1実施形態の平板の位置または大きさを調整し、隙間を塞ぐ度合いを調整してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】本発明の第1実施形態に係る風洞試験装置の全体概略図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る風洞試験装置の測定部の平面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る風洞試験装置の測定部の詳細部分側面図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る風洞試験装置の測定部の境界層制御装置の詳細部分側面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る風洞試験装置の測定部の境界層吸い込み面まわりの部分詳細側面図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る風洞試験装置の測定部の境界層制御装置を示す、図2と同様な平面図である。
図7】風洞試験装置の測定部に配置される車両の下面と床面、および/または車両後部における気流を示す概略説明図である。
図8】本発明の第1実施形態に係る風洞試験装置の測定部の境界層制御装置において、車両まわりの静圧分布の数値シミュレーション用の3次元モデル図である。
図9】本発明の第1実施形態に係る風洞試験装置の測定部の境界層制御装置において、境界層吸い込みダクトを設ける場合の車両まわりの静圧分布のシミュレーション結果を示す側面図である。
図10】本発明の第1実施形態に係る風洞試験装置の測定部の境界層制御装置において、境界層吸い込みダクトを複数の領域に分け、各領域の境界層吸い込み面に抵抗体を設ける場合の車両まわりの静圧分布のシミュレーション結果を示す側面図である。
図11図9における風速分布を示す側面図である。
図12図10における風速分布を示す側面図である。
図13図8の3次元モデル図における境界層吸い込み面の配置を示す平面図である。
【符号の説明】
【0072】
V 車両
T 風洞
WH 車輪
RW 後輪
FW 前輪
W 幅方向
B1,B2 連行気流
C 隙間
LS 下面
FL 床面
MF ジェット気流
SW 渦
10A 第1境界層制御装置
10B 第2境界層制御装置
12 境界層吸い込み面
14 吸い込みダクト
16 複数の領域
18 吸い込み手段
20 吸い込み量調整手段
21 連行気流抑制板
22 仕切板
24 抵抗体
26 吸い込み管
27 ダンパー
29 送風機
30 インバータ
32 静圧差調整手段
34 走行模擬装置
36 開口
38 ダイナモローラー
23 最上部
24 上流側縁
28 下流側縁
35 センタリングパイプ
100 風洞試験装置
101 ファン
102 整流洞
103 送風路
104 縮流洞
105 コーナーベーン
106 吹出し口
107 流入部
108 流入口
109 測定室
【要約】      (修正有)
【課題】風洞設備において静止車両を利用して、走行中の車両の下面と床面、および/または車輛後部背面の風速分布および/または流れ方向を精度よく模擬可能な境界層制御装置及び風洞試験装置を提供する。
【解決手段】気流を車両に吹き付ける場合において、車両下面と床面FLとの間のスペース内に生じる気流の境界層を吸い込み可能なように、境界層吸い込み面が床面FLに設けられ、境界層吸い込み面を介して、境界層を吸い込む吸い込み手段と、吸い込み手段により吸い込む境界層の吸い込み量を調整する吸い込み量調整手段と、気流が車両下面と床面FLとの間のスペースを車両の前後方向に流れる際、吸い込み量調整手段により調整された吸い込み量に基づいて、吸い込み手段により境界層を吸い込むことに起因して発生する車両下面と床面FLとの間のスペースの車両前後方向の静圧分布を解消するように調整可能な静圧分布調整手段と、を有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13