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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】軌道回路送受信機および軌道回路受信機
(51)【国際特許分類】
   B61L 1/18 20060101AFI20231222BHJP
   B61L 23/16 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
B61L1/18 Z
B61L23/16 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019204455
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021075193
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000207470
【氏名又は名称】大同信号株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517251812
【氏名又は名称】株式会社社会システム開発研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106345
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 香
(72)【発明者】
【氏名】寺田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】南 亮吉
(72)【発明者】
【氏名】松脇 康之
(72)【発明者】
【氏名】布施 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中村 英夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋子
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-225192(JP,A)
【文献】特開2015-189457(JP,A)
【文献】特開平09-002270(JP,A)
【文献】特開2001-213314(JP,A)
【文献】特開2001-328533(JP,A)
【文献】実開平06-067251(JP,U)
【文献】特開平10-264820(JP,A)
【文献】特開2003-246267(JP,A)
【文献】特開平10-157622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/18
B61L 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軌道回路区間と軌道回路境界と第2軌道回路区間とが連なる有絶縁軌道回路への装着に際して前記第1軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される受信部と、前記有絶縁軌道回路への装着に際して前記第2軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される送信部とを備えた軌道回路送受信機において、
前記受信部から前記送信部へ情報を伝達しうる越境伝達手段が設けられており、前記受信部が前記第1軌道回路区間から第1軌道回路信号を受信すると前記越境伝達手段を介して前記送信部へ前記第1軌道回路信号に基づく情報を伝達するようになっており、その伝達情報に応じて前記送信部が前記第2軌道回路区間へ第2軌道回路信号を送出するようになっており、前記第1軌道回路信号の伝送時期と前記第2軌道回路信号の伝送時期とに所定の時間差が確保されるようになっており、前記第1軌道回路信号について途中と後との何れか一方または双方に信号送出の無い無信号時期が確保されているものとして前記無信号時期における前記第1軌道回路信号の受信状態に基づいて前記軌道回路境界の絶縁破壊状態を判別する判定手段が設けられていることを特徴とする軌道回路送受信機。
【請求項2】
第1軌道回路区間と軌道回路境界と第2軌道回路区間とが連なる有絶縁軌道回路への装着に際して前記第1軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される軌道回路受信機において、
前記第1軌道回路区間から第1軌道回路信号を受信すると、前記有絶縁軌道回路への装着に際して前記第2軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される送信部へ情報を伝達しうる越境伝達手段を介して前記送信部へ前記第1軌道回路信号に基づく情報を伝達するとともに、前記第1軌道回路信号について途中と後との何れか一方または双方に信号送出の無い無信号時期が確保されているものとして前記無信号時期における前記第1軌道回路信号の受信状態に基づいて前記軌道回路境界の絶縁破壊状態を判別するようになっていることを特徴とする軌道回路受信機。
【請求項3】
前記送信部が、前記第2軌道回路信号について途中と後との何れか一方または双方に信号送出の無い無信号時期を確保するようになっている、ことを特徴とする請求項1記載の軌道回路送受信機。
【請求項4】
前記判定手段が、前記第1軌道回路信号の送信開始を特定しうる周期開始波形が前記第1軌道回路信号に含まれているものとして前記無信号時期に前記周期開始波形が検出されたときに絶縁破壊が生じていると判定するようになっている、ことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載された軌道回路送受信機。
【請求項5】
第1軌道回路区間と軌道回路境界と第2軌道回路区間とが連なる有絶縁軌道回路への装着に際して前記第1軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される受信部と、前記有絶縁軌道回路への装着に際して前記第2軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される送信部とを備えた軌道回路送受信機において、
前記受信部から前記送信部へ情報を伝達しうる越境伝達手段が設けられており、前記受信部が前記第1軌道回路区間から第1軌道回路信号を受信すると前記越境伝達手段を介して前記送信部へ前記第1軌道回路信号に基づく情報を伝達するようになっており、その伝達情報に応じて前記送信部が前記第2軌道回路区間へ第2軌道回路信号を送出するようになっており、前記第1軌道回路信号にも前記第2軌道回路信号にもその送信開始を特定しうる周期開始波形が含まれるようになっており、前記第1軌道回路信号の伝送時期と前記第2軌道回路信号の伝送時期とに所定の時間差が確保されるようになっており、前記第1軌道回路信号に前記第2軌道回路信号を前記時間差だけずらして重畳させると両信号の周期開始波形が壊れることなく残存し続けるようになっているものとして前記第1軌道回路信号に前記周期開始波形が複数個検出されたときに絶縁破壊が生じていると判定する判定手段が設けられている、ことを特徴とする軌道回路送受信機。
【請求項6】
前記判定手段が、前記第1軌道回路信号の受信状態について前記無信号時期に無信号を超える信号が検出されたときに絶縁破壊が生じていると判定するようになっている、ことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載された軌道回路送受信機。
【請求項7】
前記判定手段によって絶縁破壊が生じていると判定された後に前記受信部が前記第1軌道回路信号の次の第1軌道回路信号を受信したとき、前記送信部が前記第2軌道回路信号の次の第2軌道回路信号の送出を控えるとともに、前記の次の第1軌道回路信号について絶縁破壊が検出されなければ前記判定手段が絶縁破壊が生じていたと確定するようになっている、ことを特徴とする請求項4乃至請求項6の何れか一項に記載された軌道回路送受信機。
【請求項8】
前記無信号時期が前記第1軌道回路信号の途中に確保されており、前記時間差が前記無信号時期の時間長より短く且つ前記第1軌道回路信号の始期から前記無信号時期の始期までの時間より長くなっていることを特徴とする請求項1,3,4,6の何れか一項に記載された軌道回路送受信機。
【請求項9】
前記第1軌道回路信号と、前記時間差だけ遅らせた前記第2軌道回路信号とについて、前記無信号時期の部位には偽の論理値を割り当てそれ以外の時期の部位には真の論理値を割り当てて対応時期毎に論理積をとると、その論理値が総ての時期で偽になるという関係が成立するようになっている、ことを特徴とする請求項8記載の軌道回路送受信機。
【請求項10】
前記受信部の接続先と前記送信部の接続先とを交換する接続先交換手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項3乃至9の何れか一項に記載された軌道回路送受信機。
【請求項11】
前記接続先交換手段の作動指示を含んだ前記第1軌道回路信号を前記受信部が受信するとそれに応じて前記接続先交換手段が作動するようになっていることを特徴とする請求項10記載の軌道回路送受信機。
【請求項12】
前記接続先交換手段が、前記作動指示に係る前記受信部の受信時から前記送信部の送信完了まで、前記作動指示に応じた接続先交換を遅らせるようになっていることを特徴とする請求項11記載の軌道回路送受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レールに接続されて軌道回路を構成する送受信機(軌道回路送受信機)に関し、そのうちの受信部分を特定した受信機(軌道回路受信機)にも関する。
詳しくは、列車検知機能などの標準的な機能を発揮することに加えて、有絶縁軌道回路の境界部分(軌条絶縁)に係る絶縁破壊状態をも検出することができる軌道回路送受信機および軌道回路受信機に関する。
さらには、運転方向が各線毎に固定している複線区間と異なり運転方向が列車運行状況に応じて切り替わる単線区間に対して適用することができる軌道回路送受信機および軌道回路受信機にも関する。
【背景技術】
【0002】
列車の在線を検知する軌道回路は(例えば非特許文献1参照)、信号灯器の制御に用いられるが、列車密度や運転速度向上のために多現示化が進んでいる。この中でR、Y、Gの3現示を制御する場合、3値の状態が取れる二元三位式軌道回路を用いることで、前方(列車進行方向と同じ方向・軌道回路信号伝送とは逆方向)にある軌道回路の情報を通信用の別回線で取得することなく信号灯器の制御を行うことが可能となっていた(例えば非特許文献2参照)。これに対し、4現示、5現示、6現示といった多現示化が進むと、そのような多現示の色灯信号機の制御には、二元三位式軌道回路でも、情報伝送能力が不足するため、前方軌道回路(列車進行方向の軌道回路)の情報を別回線にて取得するために、それなりのコストを掛けて通信用ケーブルを敷設することなどが行われている。
【0003】
また、列車の在線を検知する軌道回路には、軌道回路境界のレールに絶縁パッドが介挿されて多数の軌道回路区間に区分けされている有絶縁軌道回路が多いが、そのような有絶縁軌道回路の場合、絶縁パッドが破損したり、鉄粉によって絶縁が劣化したりして、完全な又は或る程度以上の絶縁破壊が生じると、隣接する軌道回路の信号電流が回り込んで、正確な列車検知ができなくなってしまう。このようにレール絶縁の破壊は運転阻害に結び付くため、その検出が望まれている。
【0004】
そして、その対策として、送信する軌道回路信号に情報を付加するなどといった幾つかの発明がなされている。例えば、周波数の異なる複数の搬送波や列車検知信号を用いることで絶縁破壊を検出するものや(例えば特許文献1,2参照)、送信先の軌道回路を特定する軌道回路識別番号を含む軌道回路信号を用いることで絶縁破壊を検出するもの(例えば特許文献3参照)、分岐器を含む軌道回路に対して番線情報を含む軌道回路信号を用いることで絶縁破壊を検出するものが知られている(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭58-66370号公報
【文献】特開平9-2270号公報
【文献】特開2001-213314号公報
【文献】特開2005-145089号公報
【文献】特開平10-157622号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】社団法人日本鉄道電気技術協会「鉄道電気技術者のための信号概論 軌道回路」改訂版2刷発行、平成17年5月20日、p.3-5
【文献】社団法人日本鉄道電気技術協会「鉄道電気技術者のための信号概論 軌道回路」改訂版2刷発行、平成17年5月20日、p.64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既述した多現示の色灯信号機の制御については、軌道回路信号に情報を付加する手法を踏襲しつつも具体的な改造を施すことにより、別回線を追設しなくても4現示以上の信号灯器の制御を行うことができる。例えば、列車の在線する軌道回路から数えた順番に対応した情報を含んだ軌道回路信号を一連の軌道回路が送信するようにしたうえで、それぞれの軌道回路の処理部が、受信した軌道回路信号の順番情報から+1といった演算等にて自軌道回路の順番情報を得て、その順番情報に対応した信号現示の灯器制御出力を行うとともに、その順番情報を後続の軌道回路に伝達する、といった比較的簡便な改造を施すことにより、別回線が無くても4現示以上の信号灯器を適切に制御することができる。
【0008】
しかしながら、有絶縁軌道回路の絶縁破壊の検知については、軌道回路を識別する目的の周波数やコードといった情報を軌道回路信号に付加することは、送信部が複雑となるばかりではなく、絶縁破壊を検知するための受信部も複雑化する。具体的には、周波数の複数化では(例えば特許文献1,2参照)、バンドパスフィルタの増設などが伴う。また、特定情報の付加では(例えば特許文献3,4参照)、特定情報を抽出する手段や抽出可否等に応じた判別手段などが装備されるが、自軌道回路とその混信元の隣の軌道回路とに係る軌道回路信号の送受信タイミングについて規定が無いことから、混信の態様が複雑なので、特定情報の抽出手段や判別手段も検出精度を高めるほど複雑になりがちである。
【0009】
特に、軌道回路識別番号や番線情報といった固定情報のデータ伝送でなく又はそれだけでなく、列車位置情報や色灯信号機制御向け多現示情報といった可変情報のデータ伝送をも軌道回路信号にて行う場合(例えば特許文献5参照)、軌道回路用の送受信機について更なる複雑化を招くことになる。
そこで、軌道回路信号の送受信にて内容可変情報のデータ伝送に加えて軌道回路の絶縁破壊の検知も的確に行える軌道回路用機器をなるべく簡素な構成で実現することが第1技術課題となる。
【0010】
また、単線線区において駅間に軌道回路を設け複数の列車侵入を許容する単線自動閉そくA方式においては、運転方向に応じて軌道回路信号の送受信を切り替えねばならず、そのために駅間に単線方向回線という制御用の回線を必要としていたところ、多現示情報のデータ伝送も軌道回路信号にて行うことで単線方向回線を不要にしたものもあるが(例えば特許文献5参照)、これも周波数および受信機の複数化を伴ううえ、その適用対象が無絶縁軌道回路であり、有絶縁軌道回路は適用外である。
そこで、運転方向切替を要する単線運転の線区に敷設された有絶縁軌道回路に適用できるようにすることが第2技術課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の軌道回路送受信機は(解決手段1)、上述した第1技術課題を解決するために創案されたものであり、
第1軌道回路区間と軌道回路境界と第2軌道回路区間とが連なる有絶縁軌道回路への装着に際して前記第1軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される受信部と、前記有絶縁軌道回路への装着に際して前記第2軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される送信部とを備えた軌道回路送受信機において、
前記受信部から前記送信部へ情報を伝達しうる越境伝達手段が設けられており、前記受信部が前記第1軌道回路区間から第1軌道回路信号を受信すると前記越境伝達手段を介して前記送信部へ前記第1軌道回路信号に基づく情報を伝達するようになっており、その伝達情報に応じて前記送信部が前記第2軌道回路区間へ第2軌道回路信号を送出するようになっており、前記第1軌道回路信号の伝送時期と前記第2軌道回路信号の伝送時期とに所定の時間差が確保されるようになっており、前記第1軌道回路信号について途中と後との何れか一方または双方に信号送出の無い無信号時期が確保されているものとして前記無信号時期における前記第1軌道回路信号の受信状態に基づいて前記軌道回路境界の絶縁破壊状態を判別する判定手段が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の軌道回路受信機は(解決手段2)、上記の軌道回路送受信機から第1技術課題の解決に大きく寄与する受信部や判定手段を抽出して特定したものであり、
第1軌道回路区間と軌道回路境界と第2軌道回路区間とが連なる有絶縁軌道回路への装着に際して前記第1軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される軌道回路受信機において、
前記第1軌道回路区間から第1軌道回路信号を受信すると、前記有絶縁軌道回路への装着に際して前記第2軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される送信部へ情報を伝達しうる越境伝達手段を介して前記送信部へ前記第1軌道回路信号に基づく情報を伝達するとともに、前記第1軌道回路信号について途中と後との何れか一方または双方に信号送出の無い無信号時期が確保されているものとして前記無信号時期における前記第1軌道回路信号の受信状態に基づいて前記軌道回路境界の絶縁破壊状態を判別するようになっていることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の軌道回路送受信機は(解決手段3)、上記解決手段1の軌道回路送受信機であって、
前記送信部が、前記第2軌道回路信号について途中と後との何れか一方または双方に信号送出の無い無信号時期を確保するようになっている、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の軌道回路送受信機は(解決手段4)、上記解決手段1,3の軌道回路送受信機であって、
前記判定手段が、前記第1軌道回路信号の送信開始を特定しうる周期開始波形が前記第1軌道回路信号に含まれているものとして前記無信号時期に前記周期開始波形が検出されたときに絶縁破壊が生じていると判定するようになっている、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の軌道回路送受信機は(解決手段5)、上記解決手段4の軌道回路送受信機から、無信号時期の確保という要件を削除して代わりの要件を付加したものであり、
第1軌道回路区間と軌道回路境界と第2軌道回路区間とが連なる有絶縁軌道回路への装着に際して前記第1軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される受信部と、前記有絶縁軌道回路への装着に際して前記第2軌道回路区間のうち前記軌道回路境界寄り部位に接続される送信部とを備えた軌道回路送受信機において、
前記受信部から前記送信部へ情報を伝達しうる越境伝達手段が設けられており、前記受信部が前記第1軌道回路区間から第1軌道回路信号を受信すると前記越境伝達手段を介して前記送信部へ前記第1軌道回路信号に基づく情報を伝達するようになっており、その伝達情報に応じて前記送信部が前記第2軌道回路区間へ第2軌道回路信号を送出するようになっており、前記第1軌道回路信号にも前記第2軌道回路信号にもその送信開始を特定しうる周期開始波形が含まれるようになっており、前記第1軌道回路信号の伝送時期と前記第2軌道回路信号の伝送時期とに所定の時間差が確保されるようになっており、前記第1軌道回路信号に前記第2軌道回路信号を前記時間差だけずらして重畳させると両信号の周期開始波形が壊れることなく残存し続けるようになっているものとして前記第1軌道回路信号に前記周期開始波形が複数個検出されたときに絶縁破壊が生じていると判定する判定手段が設けられている、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の軌道回路送受信機は(解決手段6)、上記解決手段1,3の軌道回路送受信機であって、
前記判定手段が、前記第1軌道回路信号の受信状態について前記無信号時期に無信号を超える信号が検出されたときに絶縁破壊が生じていると判定するようになっている、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の軌道回路送受信機は(解決手段7)、上記解決手段4~6の軌道回路送受信機であって、
前記判定手段によって絶縁破壊が生じていると判定された後に前記受信部が前記第1軌道回路信号の次の第1軌道回路信号を受信したとき、前記送信部が前記第2軌道回路信号の次の第2軌道回路信号の送出を控えるとともに、前記の次の第1軌道回路信号について絶縁破壊が検出されなければ前記判定手段が絶縁破壊が生じていたと確定するようになっている、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の軌道回路送受信機は(解決手段8)、上記解決手段1,3,4,6,7の軌道回路送受信機であって、
前記無信号時期が前記第1軌道回路信号の途中に確保されており、前記時間差が前記無信号時期の時間長より短く且つ前記第1軌道回路信号の始期から前記無信号時期の始期までの時間より長くなっていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の軌道回路送受信機は(解決手段9)、上記解決手段8の軌道回路送受信機であって、
前記第1軌道回路信号と、前記時間差だけ遅らせた前記第2軌道回路信号とについて、前記無信号時期の部位には偽の論理値を割り当てそれ以外の時期の部位には真の論理値を割り当てて対応時期毎に論理積をとると、その論理値が総ての時期で偽になるという関係が成立するようになっている、ことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の軌道回路送受信機は(解決手段10)、上記解決手段1,3~9の軌道回路送受信機であって、
前記受信部の接続先と前記送信部の接続先とを交換する接続先交換手段が設けられていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の軌道回路送受信機は(解決手段11)、上記解決手段10の軌道回路送受信機であって、
前記接続先交換手段の作動指示を含んだ前記第1軌道回路信号を前記受信部が受信するとそれに応じて前記接続先交換手段が作動するようになっていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の軌道回路送受信機は(解決手段12)、上記解決手段11の軌道回路送受信機であって、
前記接続先交換手段が、前記作動指示に係る前記受信部の受信時から前記送信部の送信完了まで、前記作動指示に応じた接続先交換を遅らせるようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
このような本発明の軌道回路送受信機(解決手段1)及び軌道回路受信機(解決手段2)にあっては、越境伝達手段等を設けたことにより、第1軌道回路区間から受信した第1軌道回路信号に基づいて第2軌道回路信号を作成しそれを隣の第2軌道回路区間へ送信することが可能になるので、個々の軌道回路区間の中に限定されていた軌道回路の情報伝達機能が、一連の軌道回路区間に亘るものにまで拡張される。
しかも、同一内容の単純な伝達に限られず、越境時に伝達内容を改変することも可能なので、情報伝達機能を質的に高めることもできる。さらに、受信部(第1受信部)と送信部(第2送信部)とで同期をとることも可能になる。
【0024】
そして、その同期機能を利用して第1軌道回路信号の伝送時期と第2軌道回路信号の伝送時期とに所定の時間差が確保されるとともに、他の軌道回路送信機(第1送信部)によって第1軌道回路区間へ送信される第1軌道回路信号について無信号時期が確保されているものとして、その無信号時期における第1軌道回路信号の受信状態に基づいて軌道回路境界の絶縁破壊状態が判別されるようにしたことにより、軌道回路境界の絶縁破壊による第2軌道回路信号の漏れ電流が第1軌道回路信号に混入する量が例え僅かなものであっても、更には検出手法が簡便なものであっても、その漏れ電流による不所望な信号混入を的確に検出することができる。
【0025】
なお、所定の時間差は、第1軌道回路信号の無信号時期の一部または全部に対して第2軌道回路信号の有信号時期(信号送出の有る時期)が重なるような値になっていれば良く、その値がデータ設定などで受信部の動作に反映されるようになっていれば受信部の具体化にも足りるので、受信部も送信部も簡素な構成や手段で具現化することができる。
したがって、この発明によれば、軌道回路信号の送受信にて内容可変情報のデータ伝送に加えて軌道回路の絶縁破壊の検知も的確に行える軌道回路用機器をかなり簡素な構成で実現することができ、第1技術課題が解決される。
【0026】
また、本発明の軌道回路送受信機にあっては(解決手段3)、受信対象の第1軌道回路信号だけでなく送信対象の第2軌道回路信号についても無信号時期が確保されるようにしたことにより、第2軌道回路とその先の軌道回路(第3軌道回路)との軌道回路境界に係る絶縁破壊の検知についても、簡素な構成を踏襲しつつ絶縁破壊検知の的確化に資することができる。
【0027】
さらに、本発明の軌道回路送受信機にあっては(解決手段4)、周期開始波形が無信号時期に検出されたときに絶縁破壊が生じていると判定するようにしたことにより、一回の情報伝達には一つしか含まれないはずの周期開始波形が複数個ふくまれていたときには、絶縁破壊による第2軌道回路信号の第1軌道回路信号への回り込みが起きていると想定されるので、高い確度で絶縁破壊が検出される。
【0028】
また、本発明の軌道回路送受信機にあっては(解決手段5)、前記第1軌道回路信号に前記第2軌道回路信号を前記時間差だけずらして重畳させると両信号の周期開始波形が壊れることなく存続し続けるようになっているという条件を導入したことにより、無信号時期を確保するという要件が不要になる。
【0029】
また、本発明の軌道回路送受信機にあっては(解決手段6)、無信号を超える信号が無信号時期に検出されたときに絶縁破壊が生じていると判定するようにしたことにより、絶縁破壊の程度が小さい状況でも絶縁破壊を検出することができるので、絶縁破壊の早期検出や予兆検出にも役立つ。
【0030】
また、本発明の軌道回路送受信機にあっては(解決手段7)、第2軌道回路信号が絶縁破壊によって第1軌道回路区間へ漏れ伝わって第1軌道回路信号に混入したと判定された状況では、その漏れの主な原因と見なされる第2軌道回路信号の送出を次の段階では控えたうえで混入の有無ひいては絶縁破壊の有無を調べるようにもしたことにより、混入と漏れ伝達とが関連しているのか否かが現象面から把握されることから、絶縁破壊の検出確度が向上するので、絶縁破壊の可能性が高い状態を的確に捉えて正確な判定を下すことができる。
【0031】
また、本発明の軌道回路送受信機にあっては(解決手段8)、無信号時期が第1軌道回路信号の途中に確保されるようにしたことにより、所定の時間差を第1軌道回路信号の全長より短くすることができるので、第1軌道回路区間から第2軌道回路区間への情報伝達に係る遅延時間が短縮され、情報伝達機能に係る伝送速度の低下が抑制される。さらに、所定の時間差が第1軌道回路信号の始期から無信号時期の始期までの時間より長く且つ第1軌道回路信号の始期から無信号時期の終期までの時間より短くなるようにもしたことにより、第1軌道回路信号の無信号時期の少なくとも一部には第2軌道回路信号の有信号時期が重なるので、無信号時期を第1軌道回路信号の途中に入れても構成の複雑化を招くことなく的確に第2軌道回路信号の第1軌道回路信号への混入を検出することができる。
【0032】
また、本発明の軌道回路送受信機にあっては(解決手段9)、時間差を反映した第1軌道回路信号と第2軌道回路信号との論理積が全時間に亘って偽になるようにしたことにより、両信号は何れもどの信号部分についても一方の有信号時期の信号部分が他方の無信号時期に対応することになることから、軌道回路境界に絶縁破壊が生じて第2軌道回路信号が第1軌道回路区間に回り込んで第1軌道回路信号に混入したときでも、第1軌道回路信号に込められた伝達情報は、第2軌道回路信号の無信号時期に配置されていて、第2軌道回路信号混入の影響を受けないので、例えば無信号時期の情報を無視するといった簡便な処理でも上記伝達情報を的確に抽出することができるので、絶縁破壊の程度が小さいときに限らず大きくなったときでも情報伝達機能を維持することができる。
【0033】
また、本発明の軌道回路送受信機にあっては(解決手段10)、受信部が信号機の点灯制御に関わるような場合は情報伝達機能を発揮する送信部と受信部とを軌道回路区間に接続するに際して列車進入側に送信部を接続するとともに列車進出側に受信部を接続することになるが、受信部と送信部との接続先を交換可能にしたことにより、軌道回路信号の伝送方向を反転することが可能になるので、列車進行方向の変更が発生する単線運転の軌道回路区間に対しても一組の軌道回路送受信機で済ませることができる。
したがって、この発明によれば、運転方向切替を要する単線運転の線区に敷設された有絶縁軌道回路にも適用でき、第1技術課題に加えて第2技術課題も解決される。
【0034】
また、本発明の軌道回路送受信機にあっては(解決手段11)、軌道回路の情報伝達機能を利用して接続先交換手段を作動させうるようにしたことにより、ハードウェアの増設負担が無いか有っても軽微なので、単線運転の線区へも容易に適用することができる。
特に解決手段9を引用する軌道回路送受信機にあっては、情報伝達機能の維持能力が優れているので、情報伝達機能を利用しても稼働率の低下を的確に防ぐことができる。
【0035】
また、本発明の軌道回路送受信機にあっては(解決手段12)、先行する受信についてだけでなく、後続する送信についても、伝送が完了して初めて接続先交換が実行されるようにしたことにより、第1軌道回路区間ばかりか第2軌道回路区間についても情報伝達を損なうことなく的確な接続先交換がなされる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施例1について、軌道回路送受信機および軌道回路受信機の構造を示し、(a)が、レールの軌道回路区間それぞれに軌道回路送受信機を付設して構成した一連の軌道回路に係るブロック図、(b)が、そのうち一つの軌道回路送受信機に係るブロック図である。
図2】各軌道回路信号の波形例である。
図3】一連の軌道回路における信号伝送状態を示すタイムチャートである。
図4】(a),(b)いずれも絶縁破壊の有無を反映した波形図である。
図5】本発明の実施例2について、各軌道回路信号の波形例である。
図6】一連の軌道回路における信号伝送状態を示すタイムチャートである。
図7】(a)が隣り合った軌道回路区間のうち前段の軌道回路区間に送信された信号波形例、(b)が隣り合った軌道回路区間のうち後段の軌道回路区間に送信された信号波形例、(c)が上記の前段の軌道回路区間で受信された信号波形例である。
図8】本発明の実施例3について、絶縁破壊の影響の少ない信号波形例を論理値で表したものである。
図9】本発明の実施例4について、単線の軌道に適した軌道回路送受信機および軌道回路受信機の構造を示し、(a)が、レールの軌道回路区間それぞれに軌道回路送受信機を付設して構成した一連の軌道回路に係るブロック図、(b)が、そのうち一つの軌道回路送受信機に係るブロック図である。
図10】(a)が運転方向切替の無いときの軌道回路信号の波形例、(b)が運転方向切替に応じた接続先交換手段の作動指示を含んだ軌道回路信号の波形例である。
図11】(a)が運転方向切替の無いときの軌道回路信号の波形例、(b)が運転方向切替に応じた接続先交換手段の作動指示を含んだ軌道回路信号の波形例である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
このような本発明の軌道回路送受信機および軌道回路受信機について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1~4により説明する。
図1~4に示した実施例1は、上述した解決手段1~3,6,7(出願当初の請求項1~3,6,7)を具現化したものであり、図5~7に示した実施例2は、上述した解決手段4~6,8(出願当初の請求項4~6,8)を具現化したものであり、図8に示した実施例3は、上述した解決手段9(出願当初の請求項9)を具現化したものであり、図9~11に示した実施例4は、上述した解決手段10~12(出願当初の請求項10~12)を具現化したものである。
【0038】
なお、それらの図示に際しては、簡明化等のため、ブロック図や信号波形図を多用している。
また、各実施例の説明において、前方や前段は、列車進行方向と同じ方向や、軌道回路信号の伝達方向と逆の方向を指すものであり、後方や後段は、列車進行方向と逆の方向や、軌道回路信号の伝達方向と同じ方向を指すものである。
【実施例1】
【0039】
本発明の軌道回路送受信機および軌道回路受信機の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
【0040】
図1(a)は、複線のうち上りのレール2を複数の軌道回路区間に区分して夫々に送信部11と受信部12とを付設して構成した一連の軌道回路10,…,10に係るブロック図であり、同図(b)は、それらの軌道回路のうち前段の軌道回路10kに組み込まれた受信部12と後段の10k+1に組み込まれた送信部11とからなる軌道回路送受信機11&12にかかるブロック図である。
また、図2は、一連の軌道回路のうち軌道回路10~10のレール2に流れる軌道回路信号30~30の波形例である。さらに、図3は、それらの軌道回路信号30~30の信号伝送状態を示すタイムチャートである。
【0041】
軌道回路送受信機11&12の付設対象であるレール2は(図1(a)参照)、通常は並走する一対のレールからなるが、それを例えば1km程度で区分けすることで一連の軌道回路区間が構成される。そして、それぞれの軌道回路区間で軌道回路信号30を伝送させたときに軌道回路信号(図1では30k+1)の漏れ電流20が隣(特に前段)の軌道回路区間に回り込んで軌道回路信号(図1では30k)に重畳することがないように、漏れ電流20を阻止するためのレール絶縁2aがそれぞれの軌道回路境界に挿入されている。軌道回路送受信機11&12は、そのような有絶縁軌道回路に付設されて、軌道回路信号30を分析することにより、一般的な列車検知機能や中間信号機7(多現示式色灯信号機)の制御などに加えて、レール絶縁2aの破壊の有無まで検出するものとなっている。
【0042】
軌道回路10は、レール2と送信部11と受信部12とを組み合わせたものであり(図1(a)参照)、送信部11も、受信部12も、レール2に対して装着されるが、その際、軌道回路区間のうち軌道回路境界寄り部位である絶縁2aの近傍でレール2に接続されて軌道回路信号を伝送し合うようになっている。しかも、その際、従来技術を踏襲して、それぞれ軌道回路区間で送信部11が前方の軌道回路境界寄り部位に接続されるとともに受信部12が後方の軌道回路境界寄り部位に接続されることで、一連の軌道回路10n(n=1,2,…,k,…)が構成され、それぞれの区間のレール2を介して軌道回路信号30n(n=1,2,…,k,…)が伝達されるものになる。
【0043】
そして、それに加えて本発明をも具現化した軌道回路送受信機11&12は(図1(b)参照)、軌道回路境界の絶縁2aより前の軌道回路区間(解決手段1等の第1軌道回路区間に該当)のレール2に接続されて軌道回路信号30(第1軌道回路信号,図1(b)では軌道回路信号30k)を受信可能になっている受信部12と、上記の軌道回路境界の絶縁2aより後の軌道回路区間(解決手段1等の第2軌道回路区間に該当)のレール2に接続されて軌道回路信号30(第2軌道回路信号,図1(b)では軌道回路信号30k+1)を送信可能になっている送信部11とに係るものとなっている。
【0044】
そして、後段の軌道回路区間の軌道回路信号30k+1(第2軌道回路信号)から前段の軌道回路区間の軌道回路信号30k(第1軌道回路信号)へ不所望な漏れ電流20が回り込んだときに、軌道回路信号30k(第1軌道回路信号)が変形することに基づいて、その前後の軌道回路区間の境界の絶縁2aに係る絶縁破壊状態を検出するようになっている。また、それには前段の受信部12と後段の送信部11との連携が必要なので、前段の受信部12が第1軌道回路区間から第1軌道回路信号を受信すると越境伝達手段17を介して後段の送信部11へ第1軌道回路信号に基づく情報を伝達するようになっている。
【0045】
以下、各部の構成を詳述する。
先ず、軌道回路送受信機11&12の送信部11と受信部12との間には、データ伝送ケーブルやその駆動回路などからなる越境伝達手段17が設けられており(図1参照)、列車が在線している軌道回路区間から後方へ数えて何番目の軌道回路区間に当たるのかという順番情報などを含んだ伝達情報18kが越境伝達手段17を介して前段の受信部12(第1軌道回路区間に接続された受信部)から後段の送信部11(第2軌道回路区間に接続された受信部)へ情報伝達されるようになっている。
【0046】
送信部11は、順番情報のそれぞれに対応した第n軌道回路信号30n(図1(b)ではn=k+1)の生成に資する軌道回路信号生成情報をデータ保持した軌道回路プロファイルテーブルと、該当する生成情報に基づいて適切な波形の軌道回路信号(図1(b)では軌道回路信号30k+1)を生成する波形生成部とを具備している。そして、越境伝達手段17を介して得た伝達情報18kを用いて上記の軌道回路プロファイルテーブルを検索し、それで得た生成情報に基づいて軌道回路信号30k+1を生成し、それを接続先の軌道回路区間(相対的に後方の軌道回路区間)のレール2へ送信するようになっている。
【0047】
受信部12は、上述したのと同様の軌道回路信号生成情報などを保持した軌道回路プロファイルテーブルと、その検索等を行うことで接続先の軌道回路区間(相対的に前方の軌道回路区間)のレール2から受信した軌道回路信号(図1(b)では軌道回路信号30k)を分析する波形分析部と、中間信号機7の制御に際してアクセスされる情報を保持した灯器制御テーブルと、それを参照して中間信号機7に対する適切な点灯制御を行う処理部16とを具備している。そして、波形分析部が取得した順番情報などを含めて伝達情報18kを作成し、それを越境伝達手段17経由で送信部11へ伝達するとともに、やはり順番情報などを利用して信号機制御指示14を作成し、それを該当箇所の中間信号機7へ送ることで中間信号機7の点灯制御等を行うようになっている。
【0048】
判定手段は、軌道回路信号30k(第1軌道回路信号)の受信状態に基づいて前段の軌道回路10kと後段の軌道回路10k+1との間の軌道回路境界の絶縁2aの破壊状態を判別するものであり、送信部11や受信部12とは別ユニットで設けられても良いが、図示の例ではプログラム追加等にて受信部12の処理部16にインストールされている。
その判定に際しては、信号送出の無い無信号時期が軌道回路信号30k(第1軌道回路信号)の途中や後に無信号時期が確保されているものとして、その無信号時期に絶縁破壊相当の信号が発現したか否かに応じて絶縁破壊の有無を判定するようになっている。
【0049】
また、無信号時期が何時なのかは、軌道回路プロファイルテーブルを参照することで分かるようにもなっている。
受信部12や送信部11の軌道回路プロファイルテーブルの軌道回路信号生成情報には、軌道回路信号30kに係る情報として、信号送信の周期Tとその周期T内の情報伝搬時期Ta及び無信号時期Tb(kが1~5の波形例について図2を参照)、受信部12が軌道回路信号30kを受信してから送信部11が軌道回路信号30k+1を送信するまでの時間差Tc(kが1~5の波形例について図3を参照)などのデータが保持されている。
【0050】
本例では(図2参照)、周期Tが前半の情報伝搬時期Taと後半の無信号時期Tbとに分けられ、基本波形70に一周期の正弦波が採用されている。
そして、周期Tの一伝文のフレーム50においては、情報伝搬時期Taに連続して含まれる基本波形70の個数が列車在線の軌道回路10から後方へ何番目の軌道回路なのかを示す順序情報になっており、情報伝搬時期Taの後ろの無信号時期Tbには基本波形70はもとより雑音のレベルや振幅を超える信号は送出しないようになっている。また(図3参照)、軌道回路信号30kの周期Tや情報伝搬時期Ta(第1軌道回路信号の伝送時期)に対して、軌道回路信号30k+1の周期Tや情報伝搬時期Ta(第2軌道回路信号の伝送時期)は、時間差Tc(所定の時間差)だけ遅れるようにもなっている。
【0051】
このように無信号時期Tbが軌道回路信号30k(第1軌道回路信号)の後半部に確保されていることが軌道回路プロファイルテーブルから分かるので、軌道回路10kの受信部12(第1受信部)に組み込まれている判定手段は、軌道回路10kの送信部11(第1送信部,他の送信部)と交信しなくても、無信号時期Tbを把握することができるものとなっている。
また、無信号時期Tbに発現しうる絶縁破壊相当の信号は、要するに無信号を超える信号であり、具体的には上述したように雑音のレベルや振幅を超える信号である。その検出手法としては、情報伝搬時期Taの信号に係る検出手法たとえば振幅値と閾値との大小比較にて判別するといった手法をそのまま流用しても良いが、その閾値より値の小さな別の閾値を用いるといったことで、簡便に、絶縁破壊を予兆段階で検出することもできる。
【0052】
さらに、判定手段は、受信部12が受信した軌道回路信号30kに基づいて軌道回路10kと軌道回路10k+1との軌道回路境界の絶縁2aに絶縁破壊が生じていると判定したときには、例えば軌道回路10kの組み込み先の受信部12の越境伝達手段17を利用して、軌道回路10k+1の送信部11に対し、次の軌道回路信号30k+1(第2軌道回路信号)の送出を控えることを要請するようにもなっている。
【0053】
しかも、送信部11は、その要請を受けると、次の軌道回路信号30k+1(第2軌道回路信号)の送出を行わないようになっている。
また、判定手段は、次の軌道回路信号30k(第1軌道回路信号)を受信部12が受信したときには、そのときの軌道回路信号30kについて無信号時期Tbに絶縁破壊相当の信号が検出されなければ、軌道回路10kと軌道回路10k+1との軌道回路境界の絶縁2aに絶縁破壊が生じていたと確定するようにもなっている。
【0054】
この実施例1の軌道回路送受信機11&12について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。
【0055】
図1(a)は、レール2に対して絶縁2a毎に軌道回路送受信機11&12を付設して構成した一連の軌道回路10,…,10に係るブロック図である。
また、図3は、一連の軌道回路のうち軌道回路10~10のレール2に流れる軌道回路信号30~30に係る信号伝送状態を示すタイムチャートである。
さらに、図4(a),(b)は、いずれも絶縁破壊の有無を反映した波形図であり、軌道回路信号30の波形例を示している。
【0056】
レール2にレール絶縁2aを挿入して軌道回路境界を区切る有絶縁軌道回路において夫々の絶縁箇所に対して上述の軌道回路送受信機11&12を接続すると、軌道回路信号を利用して軌道回路境界の絶縁破壊まで検出しうる次のような回路が出来上がる。
すなわち(図1(a)参照)、その有絶縁軌道回路では、同一の軌道回路区間(10k)に接続された送信部11と受信部12とが軌道回路信号30kを送受信し合うとともに、列車在線位置に係る伝達情報18kが前後の軌道回路区間(10k,10k+1)のうち前の軌道回路区間(10k)の受信部12から前後の軌道回路区間のうち後の軌道回路区間(10k+1)へ伝達され、後の軌道回路区間(10k+1)の送信部11から時間差Tcだけ遅れて軌道回路信号30k+1が送信され、その軌道回路信号30k+1の情報伝搬時期Taの信号成分が前の軌道回路区間の軌道回路信号30kの無信号時期Tbに混入するとそのことが受信部12の判定手段によって検出されるようになる。
【0057】
図4(a)の軌道回路信号30に係る波形例を参照して具体的に説明すると、これは情報伝搬時期Taと時間差Tcとが同じで無信号時期Tbが情報伝搬時期Taより短い場合の例であり、絶縁2aの破壊が無い状態では(左の周期Tのフレームを参照)、五つ前の軌道回路区間に列車が在線していることを示す五個の正弦波からなる順番情報が情報伝搬時期Taに現れるとともに、無信号時期Tbは無信号状態になる。
そして、無信号状態の検出に基づいて絶縁2aの正常状態が確認されるとともに、順番情報に基づいて中間信号機7の点灯制御が的確に行われる。
【0058】
これに対し、絶縁2aが破壊されると(中央の周期Tのフレームを参照)、隣の軌道回路信号30の漏れ電流20による絶縁破壊相当の信号が時間差Tc(=Ta)だけ遅れて軌道回路信号30に混入するため、軌道回路信号30については、無信号時期Tbとその少し後まで、絶縁破壊相当の信号が現れるようになる。
そうすると、そのことが判定手段によって検出されるので、軌道回路10と軌道回路10との区間境界における絶縁2aの破壊が顕在化する。
【0059】
しかも、その絶縁破壊検出後には(右の周期Tのフレームを参照)、隣の軌道回路信号30の送信が一時的に止められて、漏れ電流20の回り込みが無い状態で、送信部11から送り出された軌道回路信号30が受信部12によって検出される。絶縁破壊相当の信号発現の原因が漏れ電流20の回り込みであれば、隣の軌道回路信号30の送信の有無に応じて絶縁破壊相当の信号が現れたり消えたりするのに対し、他の原因ではそうならないので、隣の軌道回路信号30の送信を止めたときに絶縁破壊相当の信号が現れなくなった場合、軌道回路10と軌道回路10との区間境界における絶縁2aに破壊が生じていたと確定される。
【0060】
図4(b)の軌道回路信号30に係る波形例についても説明すると、これは上述した図4(b)の軌道回路信号30のフレーム構成を少し変形したものであり、具体的には関係式[Ta<Tc<Tb]が成り立つように情報伝搬時期Taと無信号時期Tbと時間差Tcとが設定されている。そのため、隣の軌道回路信号30の漏れ電流20による絶縁破壊相当の信号が軌道回路信号30に発現しても(中央の周期Tのフレームを参照)、その発現部分は総て無信号時期Tbに収まるので、情報伝搬時期Taの波形が乱れたり壊れたりすることが無い。そのため、絶縁2aに破壊が生じても、それが隣の軌道回路区間における軌道回路信号30の伝送を損なうほど酷くなるまでは、軌道回路境界の絶縁破壊を知らせる警報等を発しながら軌道回路10の使用を継続することも可能である。
【実施例2】
【0061】
本発明の軌道回路送受信機および軌道回路受信機の実施例2について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図5は、一連の軌道回路のうち軌道回路10~10,…,10のレール2に流れる軌道回路信号30~30,…,30の波形例である。
また、図6は、それらの軌道回路信号30~30の信号伝送状態を示すタイムチャートである。
【0062】
さらに、図7は、(a)が、隣り合った二つの軌道回路区間(10,10)のうち前段の軌道回路10の軌道回路区間へ軌道回路10の送信部11によって送信された信号(30)の波形例であり、(b)が、上記の二つの軌道回路区間(10,10)のうち後段の軌道回路10の軌道回路区間へ軌道回路10によって送信された信号30の波形例であり、(c)が、上記の前段の軌道回路区間(10)において軌道回路10の受信部12によって受信された軌道回路信号30の波形例である。
【0063】
図5図7に信号波形を例示した軌道回路送受信機11&12が上述した実施例1のものと相違するのは、軌道回路信号30の波形と判定手段の判定手法である。
軌道回路信号30は(図5参照)、何れ30~30,…,30も、情報伝搬時期Taが周期開始波形時期Taaと無信号時期Tabと情報含有時期Tacとに細分化されて、軌道回路信号30の最後尾(Tb)だけでなく、軌道回路信号30の途中にも無信号時期Tabが確保されるようになっている。
【0064】
また、軌道回路信号30は、その周期Tの先頭を占める周期開始波形時期Taaに、基本波形70を複数連ねた周期開始波形71が配置されるようになっている。しかも、軌道回路信号30の情報含有時期Tacには、基本波形70が一つだけ含められ、情報含有時期Tacにおける基本波形70の位置にて上述の伝達情報18k(順番情報)が定まるようにもなっている。情報伝搬時期Taの後ろに無信号時期Tbも確保されているが、この無信号時期Tbは、情報含有時期Tacの基本波形70と後続の軌道回路信号30の周期開始波形71とが繋がるのを回避するためのものなので(図6参照)、短くて済む。
【0065】
さらに(図6参照)、この無信号時期Tabと、上述した時間差Tcと、軌道回路信号30の始期から無信号時期Tabの始期までの時間である周期開始波形時期Taaとの間には、関係式[Taa<Tc<Tab]が成り立つようにもなっている。周期開始波形時期Taaが周期Tより非常に短いため、時間差Tcも短くできるので、軌道回路信号30の伝達が多段であっても、情報伝達の遅延時間は小さめに抑えることができる。しかも、この軌道回路信号30は、前段の軌道回路信号30k(第1軌道回路信号)に後段の軌道回路信号30k+1(第2軌道回路信号)を時間差Tcだけずらして重畳させたときに、両信号30k,30k+1の周期開始波形71も基本波形70も共に壊れることなく存続し続けるようになっている。
【0066】
そのため、判定手段が、軌道回路信号30k(第1軌道回路信号)について周期開始波形71の有無を調べて二個以上が検出されたときに絶縁2aの破壊が生じていると判定するようになっていても、軌道回路信号30k(第1軌道回路信号)の無信号時期Tabについて周期開始波形71の有無を調べて一つでも検出されたときには絶縁2aの破壊が生じていると判定するようになっていても、軌道回路信号30k(第1軌道回路信号)の無信号時期Tabについて無信号を超える信号が有るか否かを調べて一つでも検出されたときには絶縁2aの破壊が生じていると判定するようになっていても、それらのうち何れか複数の判定手法を兼ね備えていても、軌道回路境界の絶縁破壊が的確に検出される。
【実施例3】
【0067】
図8は、絶縁破壊の影響の少ない信号波形例を示し、(a)が、直感的に把握しうる信号波形の典型例を示し、(b)~(d)が、絶縁破壊の影響の少ない信号波形例を希望の初期波形から作成する手順を示している。
【0068】
上述した図5に記載された軌道回路信号30とそれを時間差Tcだけ遅らせた軌道回路信号30とについて、関係式[Taa<Tc<Tab]が成り立っていることは上述の通りであるが、更に関係式[Taa=Tac]という条件を課したうえで、情報含有時期Tacと無信号時期Tabとの組が周期Tの中で繰り返されるという条件も課すと、その軌道回路信号30は(図8(a)参照)、絶縁破壊の影響の少ない信号波形を持った軌道回路信号になる。具体的には、軌道回路境界の絶縁破壊によって第1軌道回路信号に第2軌道回路信号が混入したとしても、第1軌道回路信号から無信号時期Tbの値を除く等のことで簡便に第2軌道回路信号の混入の無い第1軌道回路信号を再現することができる。
【0069】
図8(a)のタイムチャートを参照して更に詳述すると、軌道回路信号30k(第1軌道回路信号)と、それから時間差Tcだけ遅れた軌道回路信号30k+1(第2軌道回路信号)とについて、無信号時期Tabには偽の論理値を割り当て、それ以外の時期である周期開始波形時期Taaや情報含有時期Tacには真の論理値を割り当てたうえで(図8(a)の上から二つのタイムチャートを参照)、対応時期毎に論理積をとると(図8(a)の最下のタイムチャートを参照)、その論理値が総ての時期で偽になるという関係が成立する。そして、かかる関係が成立するときには、無信号時期Tabの値を無視するだけでも軌道回路信号30kから適切な情報を得られることが直感的に認識される。
【0070】
また、信号形式(電文フォーマット)を自由に作成した謂わば希望の軌道回路信号30の場合、軌道回路信号30kと、時間差Tcだけ遅らせた軌道回路信号30k+1とについて、無信号時期Tabには偽の論理値を割り当てそれ以外の時期Taa,Tacには真の論理値を割り当てて対応時期毎に論理積をとると、その論理値が総ての時期で偽になるという関係が成立することは滅多にないが、そのような軌道回路信号30からでも、上記の条件を満たす謂わば希望に近い軌道回路信号30を作成することが可能である。
【0071】
具体的には(図8(b)~(d)参照)、希望の軌道回路信号に真偽の論理値を当てはめてから、それとそれを時間差Tcだけ遅らせたものとを並べる(図8(b)参照)。そして、両信号が共に真になる重複部分を時間軸に沿って探し、それを見つけたら(図では二本の細い縦線を付した部分)、重複部分を適宜な割合で二分割して両信号に割り振るか(図では縦の二点鎖線の所で分割)、あるいは一方の信号だけを対象にして(図示せず)、重複部分を削除する(図8の(b)から(c)へ向かう細い一点鎖線を参照)。こうして重複部分の減った信号形式ができるので、後はそれを繰り返すと(図8の(c)から(d)へ向かう細い一点鎖線を参照)、希望に近い軌道回路信号30ができあがる。
【実施例4】
【0072】
本発明の軌道回路送受信機および軌道回路受信機の実施例4について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図9は、単線の軌道に適した軌道回路送受信機および軌道回路受信機の構造を示し、(a)が単線のレール2を絶縁2aで区分した軌道回路区間それぞれに送信部11と受信部12とを付設して構成した一連の軌道回路90,…,90に係るブロック図であり、(b)が、それらのうち絶縁2aを挟んで隣り合っている軌道回路区間に分かれて組み込まれた軌道回路送受信機11&12に係るブロック図である。
【0073】
また、図10は、(a)が運転方向切替の無いときの軌道回路信号30の波形例であり、(b)が運転方向切替に応じた接続先交換手段の作動指示を含んだ軌道回路信号30と後段軌道回路信号30とに係る波形例である。
さらに、図11は、(a)が運転方向切替の無いときの軌道回路信号30の波形例であり、(b)が運転方向切替に応じた接続先交換手段の作動指示を含んだ軌道回路信号30と後段軌道回路信号30とに係る波形例である。
【0074】
この軌道回路送受信機および軌道回路受信機が上述した実施例1~3のものと相違するのは、軌道回路送受信機11&12の付設対象であるレール2が上り専用でも下り専用でもなく列車が時分割で双方向に走行する単線になっている点と、その列車走行方向の切替に対応させるために軌道回路送受信機11&12が改造されて軌道回路送受信機90になっている点である(図9参照)。
【0075】
単線区間では(図9(a)参照)、中間信号機7に上り下り双方に対応できるものが採用されるとともに、上り下りの排他制御のために単線自動閉そく装置4aが設置される。単線自動閉そく装置4aは、両区間端に閉そく装置駅処理部4bが設置され、両閉そく装置駅処理部4b,4bが運転方向回線4cで繋がれていて、閉そく装置駅処理部4bの運転方向てこ4dの操作によって列車1の運転方向が切り替えられるようになっている。
【0076】
そして、このような単線自動閉そくにおいて運転方向が切り替わったときには、軌道回路の送信と受信の関係を逆転させるとともに、反対方向の信号機には停止信号現示を出力するように切り替え更に順方向の信号機には前方列車位置から定まる信号現示を出力するように切り替えることが必要になる。
そのため(図9(b)参照)、軌道回路送受信機90は、送信部11の接続先を絶縁2aの両側のレール2のうち何れか一方か他方へ切り替える切替接点15(接続先交換手段)と、受信部12の接続先を絶縁2aの両側のレール2のうち何れか他方か一方へ切り替える切替接点15(接続先交換手段)とを具備したものとなっている。
【0077】
しかも、それらの切替接点15,15は、処理部16の出す送受信切替指示13に従って切り替わるようになっている。
また(図9(b)参照)、この実施例の構成では、処理部16が送信部11から分離されて個別ユニットになっている。
さらに、この構成例では、越境伝達手段17が、処理部16を介在させたものとなっている。具体的には(図9(b)参照)、送信部11から処理部16へ必要情報を伝達する越境伝達手段17aと、処理部16から受信部12へ必要情報を伝達する越境伝達手段17bとに、越境伝達手段17が分かれている。
【0078】
また、列車の運転方向の切替え時には、それまでの到着駅(図では右側)の場内信号機6の外方に位置する軌道回路送受信機90において、運転方向てこ4dの条件を取込み、運転方向の切替えが発生した場合には、その情報を軌道回路信号30に付加して送信するようになっている。
そして、その処理が順に出発駅(図では左側)の出発信号機の内方の軌道回路まで伝達されることで、運転方向切替えに応じた軌道回路の送受信および信号機7の制御が総て切り替えられるようになっている。
【0079】
そのため、場内信号機6のそばにある軌道回路送受信機90については、単線自動閉そく装置4aの一方の閉そく装置駅処理部4bから、運転方向てこ4dの切替条件を常に取り込み、運転方向の切替があったときには、次段の軌道回路に運転方向切替指示波(接続先交換手段の作動指示)を付加した軌道回路信号30を送信するとともに、自機90の送信部12と受信部11との接続先を切り替え、更に、対応する信号機6,8に対しても運転方向に合わせて信号機切替指令を伝達するようになっている。
【0080】
また、駅中間の軌道回路の送受信機90については、前段の軌道回路の送受信機90から受信した軌道回路信号30に運転方向切替指示波(接続先交換手段の作動指示)が付加されているか否かを調べて、付加されていたときには、同様に運転方向切替指示波(接続先交換手段の作動指示)を付加した軌道回路信号30を次段の軌道回路へ送信するとともに、自機90の送信部11と受信部12とを切り替え、更に、対応する中間信号機7に対して運転方向に合わせた信号機切替指令を伝達するようになっている。
【0081】
そして、そのような送受信機90の処理(切替接点15,15の切替動作等)が隣接駅の出発信号機8の内方の軌道回路90に対してまで次々に行われると、運転方向切替指示波(接続先交換手段の作動指示)を受けた軌道回路の送受信機90から、単線自動閉そく装置4aの他方の閉そく装置駅処理部4bへ、運転方向切替指示が伝達される。その結果、駅間の軌道回路送受信機90の送信部11の接続先と受信部12の接続先とが総て入れ替わり、ひいては軌道回路の送受信方向がすべて反転し、駅中間の信号機も運転方向にあわせて上り下りが切り替えられる。
【0082】
ここで、上述した周期開始波形71を持つ軌道回路信号30(図5参照)に運転方向切替指示波75を含ませた具体例を二つほど挙げる。何れについても、周期開始波形71から容易に区別・弁別できる波形が、運転方向切替指示波75に採用されている。
一つめの波形例では(図10参照)、運転方向切替指示波75が周期開始波形時期Taaの末尾部分に含められている。これに対し、二つめの波形例では(図11参照)、運転方向切替指示波75が情報含有時期Tacの先頭部分に含められている。
【0083】
何れの波形例も、周期開始波形71から固定波数だけ後方の所に運転方向切替指示波75が位置しているので、運転方向切替指示波75の有無が容易かつ的確に分かるものとなっている。
また、一つめの波形例には(図10参照)、周期開始波形時期Taaの伸長に伴って時間差Tcは長くなるが、後段の軌道回路信号30の重畳によって運転方向切替指示波75が壊されることが無いので、その検討が不要という特質がある。
これに対し、二つめの波形例には(図11参照)、後段の軌道回路信号30の重畳による運転方向切替指示波75の破壊を避けることができれば、時間差Tcを短いままで済ませることができるという特質がある。
【0084】
さらに(図10図11参照)、処理部16が切替接点15,15へ送受信切替指示13を出すタイミングについては、受信部12が前段の軌道回路区間の軌道回路信号30に含められた運転方向切替指示波75を受信しただけで直ちに送受信切替指示13を出すのでなく、遅らせるようになっている。具体的には、送信部11が後段の軌道回路区間へ軌道回路信号30を時間差Tc遅れで送信し、その周期Tが過ぎて送信部11の送信が完了してから、前段の軌道回路区間の軌道回路信号30の運転方向切替指示波75に応じた切替接点15,15が遂行されるようになっている。そのため、前段の軌道回路信号30ばかりか後段の軌道回路信号30についても的確に伝達が完遂される。
【0085】
[その他]
上記実施例2~4に係る図5,6,7,10,11では情報含有時期Tacに含まれる情報担体としての基本波形70が一つだけであったが、周期開始波形71や運転方向切替指示波75と切り分けられれば複数個の基本波形70が情報含有時期Tacに含まれていても良い。また、軌道回路信号30の長さが固定長になっていたが、これも必須でなく、一連の軌道回路に及ぶ情報伝達が損なわれなければ可変長でも良い。
【0086】
上記実施例では、軌道回路信号の基本波形70や他の波形71,75に正弦波が用いられていたが、軌道回路信号の波形は、正弦波に限られる訳でなく、矩形波であってもよく、周波数の高い搬送波をAM変調やFM変調したものでもよく、要するに信号の有無と内容を伝達できるものであれば良い。周期開始波形71や運転方向切替指示波75の波数についても合目的であれば幾つでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の軌道回路送受信機および軌道回路受信機は、上述した単線や複線の片側に適用が限定されるものでなく、複数並設する等のことで、複線の両側や、複々線の任意のレールなどにも、適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1…列車、2…レール(レール対)、2a…絶縁(軌道回路区間境界)、
4a…単線自動閉そく装置、4b…閉そく装置駅処理部、
4c…運転方向回線、4d…運転方向てこ、
6…場内信号機、7…中間信号機(多現示式色灯信号機)、8…出発信号機、
10…軌道回路、
11&12…軌道回路送受信機、
11…送信部、12…受信部、13…送受信切替指示、
14…信号機制御指示、15…切替接点、16…処理部、
17…越境伝達手段、18k…伝達情報(順番情報)、20…漏れ電流、
30…軌道回路信号、
30n…第n軌道回路信号(n=1,2,…,k,…)、
50…フレーム、51…オフセット時間(所定の時間差)、
70…基本波形、71…周期開始波形、75…運転方向切替指示波、
90…軌道回路送受信機、
T…周期、Ta…情報伝搬時期、Tb…無信号時期(後)、Tc…時間差、
Taa…周期開始波形時期、Tab…無信号時期(途中)、Tac…情報含有時期
図1
図2
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図5
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図8
図9
図10
図11