(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】昇降装置
(51)【国際特許分類】
B66B 9/08 20060101AFI20231222BHJP
E04H 1/02 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
B66B9/08 B
E04H1/02
(21)【出願番号】P 2020076193
(22)【出願日】2020-04-22
【審査請求日】2022-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】719000672
【氏名又は名称】可知 康彦
(72)【発明者】
【氏名】可知 康彦
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-012287(JP,A)
【文献】実開平04-079869(JP,U)
【文献】特開2002-029618(JP,A)
【文献】特開平02-231389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 9/00-9/193;
21/00-31/02
E04H 1/02
F16G 1/00-17/00
B65G 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家屋内階段部で上下及び左右方向に湾曲した
矩形断面の非環状型ガイドレールに沿って物品を昇降させる装置において、アクチェータと物品を一体として移動する機構ではなく、アクチェータを定置し駆動
する機構で、連続配置した球体ではなく間隔をもって連結した多数のサイドローラよりなる作動媒体を介して物品を移動させる方式を採用したことを特徴とする昇降装置。
【請求項2】
サイドローラが両端に装備されたシャフトを2種類のクレビスを組み合わせて支持することでローラユニットを構成し、それらをクレビスの他端に設けた水平部にピンを挿入することにより順次連結した連続体をもって作動媒体としたことを特徴とする請求項1で示す昇降装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建屋にも設置が容易な、低コストの物品昇降装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
能力に障害のある人たちのためのバリアフリー化の取り組みが各所で行われている。公共交通機関やビルなどでは移動の障害とならぬよう通路や階段へ配慮をするのが当然のことと受け止められている。しかしながら、一般住宅においてはそのために大規模な改造をする例はまだ少なく、2階建ての自宅を親子二世帯用に改築して老夫婦は1階だけを居住空間にするとか、平屋の住宅やマンションに転居するなどして階段での移動そのものを避けるケースも多い。
【0003】
個人の住宅でエレベーターやエスカレーターなど車椅子を前提としたバリアフリー設備があまり導入されない理由は、既に容積率の限度まで活用されていてスペースを増やす余裕がない事、住居設計の前提条件であったパネルや梁の強度に影響するような改造は困難である事、建築基準法の規定もあり、安全対策も不可欠で装置が複雑化し費用が多大であるだけでなく、定期点検など煩雑な管理も要求される事などであると考えられる。(特許文献1、2参照)
【0004】
また、高齢者のすべてが、それも早い時期から車椅子を必要としているのではないことも事実で、ほとんどの人たちはそうした段階に至るまではまだまだ元気に普段の生活をすることが可能である。しかしながら、筋力が衰えてきた段階では掃除機や濡れた洗濯物、書籍など重量のある物品の上げ下ろしは苦痛を伴うので、気軽に2階で仕事をするとか趣味の活動をすることが出来なくなってしまう。
【0005】
20kg程度までの物品の簡便な昇降装置があれば1、2階ともフルに活用でき、のびのびと快適に暮らす助けになるが、機器のみならず家屋の改造費用も含めて低コストで設置できなければ広く普及させることが出来ない。例えば、建築基準法施行令第129条の3で定義される小荷物専用昇降機があるが、扉付きの垂直昇降方式のため相当の設置スペースが必要で、なおかつ管理体制や定期点検など各種の法的な要求も加わるので、目的とする一般家庭の昇降装置としては不向きである。
【0006】
規制への抵触を避けかつ低コストで実現させるため、物品は解放状態で搬送するとともに既存の階段部分を活用して設置できる装置としたい。一般家屋の階段では昇降の途中で徐々に向きを変えて折り返す型式が多く、通行ルートによって昇降の勾配が極端に変化する。例えば、壁側を通る外側ルートでは高さの変化の勾配は40°程度で無意識のうちにそちらを使っているが、反対の仕切り壁側の内側ルートの場合には、折り返しの部分で旋回しながら20cm程度水平に移動する間に1.2 m程度の高さ変化があり、80°を超える急峻な勾配になっているケースもある。
【0007】
緩やかな勾配の外側ルートは普段の歩行で優先的に使いたいし、将来必要になれば手摺を取付けるとか人や車椅子用のリフトを設置するスペースに残しておきたいので、本考案の昇降装置は、階段の内側ルートを活用する前提とする。従って、この装置は左右方向に湾曲しかつきわめて急峻な勾配をもった軌道に沿いながら確実に物品を昇降できる機能を持つことが必須条件となる。そうした装置であれば、緩やかな勾配や広い階段の場合にも容易に適用できる。
【0008】
狭い屈曲した空間を自由に移動する事例として、スネークライクロボットと称される蛇に似た形状のロボットが開発されている。いずれも自在な関節と多数の駆動機構を持ち、人が入れない狭い災害現場や配管の内部などにもあたかも蛇のように屈曲しながら能動的に侵入できるのが特長である。ただし、いずれも搭載したカメラやセンサにより周囲の状況を把握するのを主目的としており重量物の運搬には不向きである。(非特許文献1参照)
【0009】
上下左右に湾曲した軌道に沿って移動する事例として遊園地のローラーコースターがある。これは車両をまずチェーンなど外力で高所にひきあげその位置エネルギーで加速するシステムであり、車両に装備されたタイヤで丸鋼管製のレールを上下横の3方向から挟んで把持し高速に対応するなど、目的や機能面で類似性が少なく、あまり本昇降装置開発の参考にはならない。(非特許文献2参照)
【0010】
椅子にモーターを装備し曲線レールのラックを使って登はんする椅子式階段昇降機が各種市販されている。機種によっては70°の急勾配でも昇降できるといわれている。建築基準法によりエレベーターの一部に位置付けられており、構造や安全面の規定があり定期点検も義務付けられている。目的とする昇降装置はせいぜい20kg程度までの物品を移動の対象としており、椅子式の架台等も不要なのでよりシンプルな機構とし、法的な規制にもできるだけ抵触しないようにしたい。
【0011】
1階で物品をフックにかけてボタンを押せばガイドレールに沿って上昇し、2階の所定位置で自動停止するといったシステムが想定される。その場合、フックが移動するルートには80°以上の急勾配があるので、駆動モーターを備えても自力で登はんさせるのは容易ではない。外部の定置アクチエータから作動媒体を介して力を伝達しガイドレールに沿って移動させるようにできれば、走行範囲全長のラック装置やモーターへの給電装置等も不要となるため、システムはシンプルで低コスト化できる。
【0012】
しかしながら、物品の昇降に際し、階上から引き上げる場合でも、階下から押し上げる場合でも、湾曲し勾配を持った軌道に沿って力を伝達できる作動媒体として適切なものがないため実現ができなかった。例えば、ワイヤは引き上げ用に想定しやすいが、牽引力を加えると直線化して湾曲部で摩擦が起きるので各所にシーブの配置が必要であるし、ガイドレールの中なのでワイヤの点検が困難、さらにグリース滴下で室内が汚れやすいなどの問題がある。
【0013】
ローラチェーンは各種の仕様があり工業用に広く使われている。いずれも品質が安定しており、比較的低コストで入手できるのが魅力である。サイドローラを具備したタイプもあり、設計次第で引き上げ、押し上げいずれの方向にも適応可能である。ただし、通常のローラチェーンはリンク機構によりピンをピボットとして上下方向は自由に回転できるが、ピン同志の連結には外、内のプレートを用いて左右への変位を拘束しスプロケットなどからの逸脱を防止している。したがって、本考案で必要な左右に湾曲するガイドレールへの追随機能はない。
【0014】
ローラチェーンに左右方向への追随機能を付加するには、ピン同志をプレートで直接連結するのではなく、ユニバーサルジョイントを介して連結する型式に変更すればよい。しかし、部品点数も大幅に増えるし、ユニバーサルジョイントは比較的高い加工精度が必要な部品であるため製作、組立てコストが高くなるし故障の原因にもなりやすいので望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平09-263375公報
【文献】公開実用昭和58-20271
【非特許文献】
【0016】
【文献】広瀬茂男: ヘビ型ロボットの移動機構 日本ロボト学会誌 Vol.28 No.2、P151~155、2010
【文献】山本督典: 遊戯施設の設計規則とローラーコースターの安全・ 快適性評価に関する一つの試み 国際交通安全学 会誌 Vol.27、 No.2 Oct.,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされ、階段の空間を活用し湾曲したガイドレールに沿って物品を昇降させる方式とするが、自力で登はんする公知の駆動方法では全域にわたるラックや移動モーターへの給電装置が必要であるなどシステムが複雑でコストも高くなる。定置のアクチエータから作動媒体を介して力を伝達し移動させる機構にしてコンパクト化と低コスト化を図る。そのためには上下および左右方向に湾曲する軌道に沿ってスムーズに追随できしかも安価な作動媒体を開発することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
両側にサイドローラを装備したシャフトを外クレビスと内クレビスを組み合わせて支持させローラユニットを構成する。外クレビスと内クレビスはいずれも直交タイプとし、シャフトを支持する穴が水平であるのに対して連結部でピンが貫通する穴は垂直にしている。連結部は舌状の投影形状で連結時に接する水平面を持つ。組み合わせたのち幅中央部にある穴にピンを貫通させることでフランジ同志を連結する。こうした方法でローラユニットを順次繋げて連続体とし、必要な機能を有する作動媒体とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の昇降装置は、既存家屋でもほとんど改造をしなくても設置が出来るように、ガイドレールに沿って物品を昇降する方式の装置であるが、装置自体がコンパクトで低コストなことに特長がある。上下左右に湾曲したガイドレールに沿って昇降させるのにアクチエータを定置したシンプルな機構を採用しており、これは開発した作動媒体の効果である。構成する部品はいずれもシンプルで合理的な材質や製造方法が選択できるし組み立ても容易である。これらにより、設置に必要な費用が低く抑えられ故障も起きにくい。家庭でも企業でも物品の移動装置として容易に導入できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は本発明の昇降装置全体の説明図である。(実施例1)
【
図2】
図2は昇降ルートによる階段の勾配の違いの説明図である。
【
図4】
図4はクレビスおよび連結ピンの説明図である。
【
図5】
図5はガイドレール内におけるフック部まわりの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
20kg程度以内の重量物を1,2階間で昇降させるイメージの装置の開発にあたり、 (1)階段の空間部を活用する、(2)階段内側の急峻なルートを使う、(3)ガイドレールに沿って物品を移動させる、(4)自力登はん方式でなく定置アクチエータから作動媒体を介して力を加える、 といった前提条件を置くことにより、既存家屋にも大規模な改造をしなくても設置できる、普段の生活に支障をきたさない、そして使いやすくて低コストといった要求を満たす昇降装置を実現する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の昇降装置全体の説明図である。1階(1FL)から2階(2FL)まで階段の壁面に設置したガイドレール3の中を移動する作動媒体1により荷4を昇降させる装置で、この図ではアクチエータ2及び格納ケース6を1階側に置いた例を示している。格納ケース6に納まっていた作動媒体1をアクチエータ2により払い出し、フック部を押し上げる方向に作動して荷4を上昇させる方式である。なお、アクチエータ2及び格納ケース6を2階側に設置し、フック部を引き上げる方向に作動して荷4を昇降させることも可能である。
【0023】
格納ケース6内には渦巻き状のガイドプレートを設けてあり、移動に伴って余剰となった作動媒体が自然に案内されコンパクトに収納される。摺動ガイド5はフックに吊られた荷4が移動する際に壁を損傷させないことと摩擦抵抗を減らすことを目的としたものである。摺動ガイド5に対応した位置にローラーを取り付けたプレートをフックにかけ、荷4と一緒に昇降させるのも効果的である。
【0024】
1階の所定場所でフック部に荷を吊るし操作盤の上昇ボタンを押せば、荷4がガイドレール3に沿って自動的に上昇し、2階の所定場所で自動停止するといった簡便なシステムとする。下降させる場合も同様に2階の操作盤の下降ボタンを押せば自動的に下降をはじめ所定位置で自動停止する。双方の操作盤には上昇と下降のボタンとトラブル対応の非常停止ボタンを設ける。なお、アクチエータ2はモーターからウオームホイールを介して作動媒体1を駆動させるようにして、停電等のトラブル時にも吊り荷が急降下することが無いよう配慮する。
【0025】
図2は折り返しのある階段において通行するルートによって勾配が大きく変化することを示した説明図である。前述したように、昇降装置のガイドレールは普段の歩行に使わない内側の仕切り壁側に沿って設置したい。一般的なこの事例では、ルート2の場合、途中で水平方向に180°旋回しながら81°の勾配で1.2m上昇といった箇所があり、そうした湾曲軌道に沿って荷を登はんさせる機能が必要であることがわかる。
【0026】
図3は作動媒体の説明図である。ガイドレール内をスムーズに移動するためのサイドローラ7を両端に装備したシャフト8を、外クレビス9と内クレビス10がシャフト端同志を組み合わせ水平の貫通穴でサポートすることでローラユニットとし、クレビスの連結端の水平部同志を組み合わせて連結ピン11で順次繋げて必要な長さの連続体としている。この作動媒体は、上下方向の動きはシャフト8がピボットとなり、水平方向の動きは連結ピン11がピボットとなって自由回転を確保しており、組み合わせる事で上下左右に湾曲したガイドレールに沿って円滑に移動し必要な力を伝達することが出来る。
【0027】
図4はクレビスの説明図である。外クレビス9と内クレビス10はいずれも直交タイプで、片方はシャフト8を支持する水平穴を持つ2か所の垂直部を有するシャフト端で、他方は連結ピン11が貫通する垂直穴を持つ舌状の水平部を有する連結端とした形状である。必要な伝達力などに応じて材質、デザインや製作方法は合理的なものを選択すればよいが、作動媒体として機能させるためには、両クレビスが組み合わさってシャフトを支持できるよう、外クレビス9のシャフト端内側寸法より内クレビス10のシャフト端外側寸法を小とする必要がある。なお、
図4の下段は伝達負荷が大の場合に想定されるクレビスのイメージを示したものである。
【0028】
図5はガイドレール内におけるフック部まわりの説明図である。理解の便のため、イラストではガイドレールを切断しかつ半透明にしている。ガイドレール3はブラケット13によってその断面の上下方向を維持しながら壁面に沿って取り付けられており、その中を両側にサイドロール7を装備した作動媒体が移動するシステムである。荷を吊るすフック12は作動媒体の先頭部分に装備され、作動媒体の移動に伴ってガイドレール3下面中央の連続した開口部を走行する。なお、急勾配の場所を移動する時にフック12がガイドレール3と干渉するのを回避するために、連続する2組のローラユニットのシャフト8から支持アームを出しそれらをリンクしたうえでフック12を取り付けている。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の作動媒体は、どのような場所においても、ガイドレールさえ設置できれば、上下左右に湾曲した軌道であってもそれに追随してアクチエータの力を伝達することができるので、各種の物品移動用途に限らず、機器の単純な操作を遠隔で行うための作動媒体としても広く活用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 作動媒体
2 アクチエータ
3 ガイドレール
4 荷
5 摺動ガイド
6 格納ケース
7 サイドローラ
8 シャフト
9 外クレビス
10 内クレビス
11 連結ピン
12 フック
13 ブラケット