(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】キャパシタ、電気回路、回路基板、及び機器
(51)【国際特許分類】
H01G 4/08 20060101AFI20231222BHJP
【FI】
H01G4/08 Z
(21)【出願番号】P 2023558626
(86)(22)【出願日】2023-05-02
(86)【国際出願番号】 JP2023017190
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2022089286
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 智康
(72)【発明者】
【氏名】大浦 恒星
(72)【発明者】
【氏名】菊地 諒介
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-93031(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0235096(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0037597(US,A1)
【文献】JUNG Ju-Hyun, KIM Seong Hun, PARK Youngjun, LEE Donghwa, LEE Jang-Sik,Metal-Halide Perovskite Design for Next-Generation Memories : First-Principles Screening and Experim,ADVANCED SCIENCE,2020年08月19日,Vol.7, No.16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極と、
第二電極と、
前記第一電極と前記第二電極との間に配置された誘電体と、を備え、
前記誘電体は、逆ペロブスカイト型構造の化合物を含み、
前記逆ペロブスカイト型構造は、頂点共有の複数の八面体の頂点にカチオンが配置され、かつ、前記八面体の中心にアニオンが配置されている部位を有する、
キャパシタ。
【請求項2】
前記化合物は、13族、14族、及び15族からなる群より選ばれる少なくとも1つ族の元素のイオンを含む、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項3】
前記イオンは、孤立電子対を有する、
請求項2に記載のキャパシタ。
【請求項4】
前記化合物は、In
+、Tl
+、Ge
2+、Sn
2+、Pb
2+、Sb
3+、及びBi
3+からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項5】
前記化合物は、DE
2Q
5で表される組成を有し、
前記組成において、D及びEはカチオンであり、Qはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項6】
前記化合物は、DE
2Q
4Rで表される組成を有し、
前記組成において、D及びEはカチオンであり、Q及びRはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項7】
前記化合物は、DEGQ
5で表される組成を有し、
前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Qはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項8】
前記化合物は、DEGQ
4Rで表される組成を有し、
前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項9】
前記化合物は、DEG
4Q
10で表される組成を有し、
前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Qはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項10】
前記化合物は、DEG
4Q
8R
2で表される組成を有し、
前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項11】
前記化合物は、D
3EQ
5で表される組成を有し、
前記組成において、D及びEはカチオンであり、Qはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項12】
前記化合物は、D
3EQ
4Rで表される組成を有し、
前記組成において、D及びEはカチオンであり、Q及びRはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項13】
前記化合物は、DE
2GQ
5で表される組成を有し、
前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Qはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項14】
前記化合物は、D
6EQ
10で表される組成を有し、
前記組成において、D及びEはカチオンであり、Qはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項15】
前記化合物は、D
6EQ
8R
2で表される組成を有し、
前記組成において、D及びEはカチオンであり、Q及びRはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項16】
前記化合物は、D
2E
4GQ
5で表される組成を有し、
前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Qはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項17】
前記化合物は、DE
2GQ
4Rで表される組成を有し、
前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項18】
前記化合物は、D
2E
4GQ
8R
2で表される組成を有し、
前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項19】
前記化合物は、D
2E
4Q
7で表される組成を有し、
前記組成において、D及びEはカチオンであり、Qはアニオンである、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか1項に記載のキャパシタを備えた、電気回路。
【請求項21】
請求項1から19のいずれか1項に記載のキャパシタを備えた、回路基板。
【請求項22】
請求項1から19のいずれか1項に記載のキャパシタを備えた、機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、キャパシタ、電気回路、回路基板、及び機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペロブスカイト型構造の化合物を太陽電池等のデバイスに用いることが試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一対の電極間に強誘電体層を挟持させてなる強誘電体メモリ素子が記載されている。強誘電体層は、所定のハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物又は無機ペロブスカイト化合物を含んでいる。ハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物として、例えば、CH3NH3PbI3、C2H5NH3PbI4、CH3NH3SnI3、及びC2H5NH3SnI4等が示されている。無機ペロブスカイト化合物として、CsSnI3等が示されている。
【0004】
特許文献2には、所定のキャパシタに用いられる固体電解質として、アンチペロブスカイト系固体電解質を用いることが記載されている。
【0005】
非特許文献1には、[(CH3)2(F-CH2CH2)NH]3(CdCl3)(CdCl4)で表される逆ペロブスカイト型構造の強誘電体が記載されている。この逆ペロブスカイト型構造では、面共有された複数の八面体の中心にアニオンが配置され、かつ、その複数の八面体の頂点にカチオンが配置されていると理解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-171152号公報
【文献】特開2019-21795号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Zhong-Xia Wang, Yi Zhang, Yuan-Yuan Tang, Peng-Fei Li, and Ren-Gen Xiong, “Fluoridation Achieved Antiperovskite Molecular Ferroelectric in [(CH3)2(F-CH2CH2)NH]3(CdCl3)(CdCl4)”J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 10, 4372-4378.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、逆ペロブスカイト型構造の化合物を含む誘電体を備えつつ、高い静電容量の観点から有利なキャパシタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のキャパシタは、
第一電極と、
第二電極と、
前記第一電極と前記第二電極との間に配置された誘電体と、を備え、
前記誘電体は、逆ペロブスカイト型構造の化合物を含み、
前記逆ペロブスカイト型構造は、頂点共有の複数の八面体の頂点にカチオンが配置され、かつ、前記八面体の中心にアニオンが配置されている部位を有する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、逆ペロブスカイト型構造の化合物を含む誘電体を備えつつ、高い静電容量の観点から有利なキャパシタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、CaTiO
3の結晶構造を示す図である。
【
図2】
図2は、BaNiO
3の結晶構造を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示のキャパシタの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、CsSnCl
3の結晶構造を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、CsSn
2Cl
5の結晶構造を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したCsSn
2Cl
5の結晶構造を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したCsSn
2Cl
4Brの結晶構造を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したCsSnPbCl
5の結晶構造を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したKCsSn
4Cl
10の結晶構造を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したCs
3CoCl
5の結晶構造を示す図である。
【
図10A】
図10Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したBa
3AlO
4Fの結晶構造を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したBaLa
2ZnO
5の結晶構造を示す図である。
【
図12A】
図12Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したCsBa
2SnS
4Clの結晶構造を示す図である。
【
図13A】
図13Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したLa
2CuSbS
5の結晶構造を示す図である。
【
図14A】
図14Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したLa
4FeSb
2S
10の結晶構造を示す図である。
【
図15A】
図15Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したBa
4In
2Te
2S
5の結晶構造を示す図である。
【
図16A】
図16Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したY
2HfS
5の結晶構造を示す図である。
【
図17A】
図17Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したTlPb
2Cl
5の結晶構造を示す図である。
【
図20】
図20は、各実施例及び各比較例に係る誘電体の比誘電率の評価方法を模式的に示す図である。
【
図21】
図21は、実施例1に係る誘電体のX線回折(XRD)パターンを示すグラフである。
【
図22】
図22は、比較例2に係る誘電体のXRDパターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示の基礎となった知見)
近年、電子機器の小型化及び高機能化に伴い、電子回路の小型化、高集積化、及び動作周波数の高周波化が進んでいる。電子回路に用いられる電子部品に関しても同様に小型化及び高性能化が求められている。例えば、小形で高い静電容量を有するキャパシタを提供できれば、電子部品の小型化及び高性能化に貢献できると考えられる。静電容量はキャパシタに用いられる誘電体の比誘電率に依存し、その比誘電率が高いほど静電容量が大きくなる。
【0013】
ABX
3の組成を有するペロブスカイト型構造として、CaTiO
3型の結晶構造及びBaNiO
3型の結晶構造が存在しうる。
図1及び
図2は、それぞれ、CaTiO
3の結晶構造及びBaNiO
3の結晶構造を示す図である。
図1に示す通り、CaTiO
3の結晶構造において、AサイトにはCa
2+が配置され、BサイトにはTi
4+が配置され、XサイトにはO
2-が配置されている。CaTiO
3の結晶構造において、1つのTi
4+の周りに6つのO
2-が配位しており、頂点共有の複数の八面体の中心にTi
4+が配置され、それらの八面体の頂点にO
2-が配置されている。
図2に示す通り、BaNiO
3の結晶構造において、AサイトにはBa
2+が配置され、BサイトにはNi
4+が配置され、XサイトにはO
2-が配置されている。BaNiO
3の結晶構造において1つのNi
4+の周りに6つのO
2-が配位しており、面共有の複数の八面体の中心にNi
4+が配置され、それらの八面体の頂点にO
2-が配置されている。
【0014】
ペロブスカイト型構造を有する化合物の室温での比誘電率は高くなりにくく、このような化合物を含む誘電体を備えたキャパシタの静電容量をさらに高めることは難しい。特許文献2に記載のキャパシタでは、逆ペロブスカイト型構造の化合物は固体電解質として使用されており、逆ペロブスカイト型構造の化合物をキャパシタの誘電体として使用することは想定されていない。なお、特許文献2に記載のキャパシタでは、分極よりも応答速度が遅いイオン伝導を利用して電荷が貯められるので、キャパシタが高い出力を発揮しにくいと理解される。非特許文献1に記載の強誘電体の逆ペロブスカイト型構造では、面共有された複数の八面体の中心にアニオンが配置され、かつ、その複数の八面体の頂点にカチオンが配置されていると理解される。非特許文献1に記載の強誘電体の室温における比誘電率は高いとは言い難い。非特許文献1には、この強誘電体をキャパシタに適用することは想定されておらず、この強誘電体の室温における比誘電率を考慮すると、この強誘電体がキャパシタに適しているとは言い難い。
【0015】
このような事情に鑑み、本発明者らは、逆ペロブスカイト型構造の化合物を含む誘電体を備えつつ、キャパシタの静電容量を高めることができないか鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、特定の逆ペロブスカイト型構造の化合物を含む誘電体が高い比誘電率を有しうることを新たに見出した。この新たな知見に基づいて、本発明者らは、本開示のキャパシタを案出した。
【0016】
(本開示に係る一態様の概要)
本開示の第1態様に係るキャパシタは、
第一電極と、
第二電極と、
前記第一電極と前記第二電極との間に配置された誘電体と、を備え、
前記誘電体は、逆ペロブスカイト型構造の化合物を含み、
前記逆ペロブスカイト型構造は、頂点共有の複数の八面体の頂点にカチオンが配置され、かつ、前記八面体の中心にアニオンが配置されている部位を有する。
【0017】
第1態様によれば、誘電体が高い比誘電率を有しやすく、キャパシタが高い静電容量を有しやすい。
【0018】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、13族、14族、及び15族からなる群より選ばれる少なくとも1つ族の元素のイオンを含んでいてもよい。第2態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0019】
本開示の第3態様において、例えば、第2態様に係るキャパシタでは、前記イオンは、孤立電子対を有していてもよい。第3態様によれば、孤立電子対をなす電子は周りのイオンと結合しにくい。このため、上記のイオンにおける電子状態が不安定になりやすく、誘電体が所望の結晶構造を有しやすい。これにより、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0020】
本開示の第4態様において、例えば、第1態様から第3態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、In+、Tl+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Sb3+、及びBi3+からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。第4態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0021】
本開示の第5態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、DE2Q5で表される組成を有し、前記組成において、D及びEはカチオンであり、Qはアニオンであってもよい。第5態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0022】
本開示の第6態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、DE2Q4Rで表される組成を有し、前記組成において、D及びEはカチオンであり、Q及びRはアニオンであってもよい。第6態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0023】
本開示の第7態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、DEGQ5で表される組成を有し、前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Qはアニオンであってもよい。第7態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0024】
本開示の第8態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、DEGQ4Rで表される組成を有し、前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンであってもよい。第8態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0025】
本開示の第9態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、DEG4Q10で表される組成を有し、前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Qはアニオンであってもよい。第9態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0026】
本開示の第10態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、DEG4Q8R2で表される組成を有し、前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Qはアニオンであってもよい。第10態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0027】
本開示の第11態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、D3EQ5で表される組成を有し、前記組成において、D、及びEはカチオンであり、Qはアニオンであってもよい。第11態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0028】
本開示の第12態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、D3EQ4Rで表される組成を有し、前記組成において、D及びEはカチオンであり、Q及びRはアニオンであってもよい。第12態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0029】
本開示の第13態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、DE2GQ5で表される組成を有し、前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Qはアニオンであってもよい。第13態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0030】
本開示の第14態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、D6EQ10で表される組成を有し、前記組成において、D及びEはカチオンであり、Qはアニオンであってもよい。第14態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0031】
本開示の第15態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、D6EQ8R2で表される組成を有し、前記組成において、D及びEはカチオンであり、Q及びRはアニオンであってもよい。第15態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0032】
本開示の第16態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、D2E4GQ5で表される組成を有し、前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Qはアニオンであってもよい。第16態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0033】
本開示の第17態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、DE2GQ4Rで表される組成を有し、前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンであってもよい。第17態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0034】
本開示の第18態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、D2E4GQ8R2で表される組成を有し、前記組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンであってもよい。第18態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0035】
本開示の第19態様において、例えば、第1態様から第4態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタでは、前記化合物は、D2E4Q7で表される組成を有し、前記組成において、D及びEはカチオンであり、Qはアニオンであってもよい。第7態様によれば、誘電体が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタが高い静電容量をより有しやすい。
【0036】
本開示の第20態様に係る電気回路は、第1態様から第19態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタを備えている。第20態様によれば、キャパシタが高い静電容量を有しやすく、電気回路が所望の性能を発揮しやすい。
【0037】
本開示の第21態様に係る回路基板は、第1態様から第19態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタを備えている。第21態様によれば、キャパシタが高い静電容量を有しやすく、回路基板が所望の性能を発揮しやすい。
【0038】
本開示の第22態様に係る機器は、第1態様から第19態様のいずれか1つの態様に係るキャパシタを備えている。第22態様によれば、キャパシタが高い静電容量を有しやすく、機器が所望の性能を発揮しやすい。
【0039】
(実施の形態)
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0040】
図3は、本開示のキャパシタの一例を示す断面図である。
図1に示す通り、キャパシタ1aは、第一電極11と、第二電極12と、誘電体20とを備えている。誘電体20は、第一電極11と第二電極12との間に配置されている。誘電体20は、逆ペロブスカイト型構造の化合物を含んでいる。この化合物の逆ペロブスカイト型構造は、頂点共有の複数の八面体の頂点にカチオンが配置され、かつ、それらの八面体の中心にアニオンが配置されている部位を有する。この化合物は、例えばイオン結晶を含む。
【0041】
図4は、CsSnCl
3の結晶構造を示す図である。CsSnCl
3はペロブスカイト型構造を有する。
図5Aは、CsSn
2Cl
5の結晶構造を示す図である。
図5Bは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したCsSn
2Cl
5の結晶構造を示す図である。
図5Cは、
図5Bに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。CsSn
2Cl
5は、逆ペロブスカイト型構造を有する。逆ペロブスカイト型構造は、通常のペロブスカイト型の化合物のABX
3におけるカチオン及びアニオンの配置が入れ替わった構造である。換言すると、ペロブスカイト型の化合物の中で特定のサイトを占めるイオンが有する電荷の正負と、逆ペロブスカイト型構造の化合物の中でその特定のサイトを占めるイオンが有する電荷の正負とが逆になっている。
図4に示す通り、CsSnCl
3では、AサイトにCs
+が配置され、BサイトにSn
2+が配置され、XサイトにCl
-が配置されている。一方、
図5Bに示す通り、CsSn
2Cl
5では、AサイトにCl
4
4-が配置され、BサイトにCl
-が配置され、XサイトにCs
+又はSn
2+が配置されている。換言すると、CsSn
2Cl
5は、ABX
3の表記では(Cl
4)Cl(CsSn
2)と表される。
図5Bに示す通り、CsSn
2Cl
5は、頂点共有の複数の八面体の頂点にカチオンであるCs
+又はSn
2+が配置され、その八面体の中心にアニオンであるCl
-が配置されている部位を有する。第一原理計算によると、CsSnCl
3の比誘電率は39.4と算出され、CsSn
2Cl
5の比誘電率は79.5と算出された。このため、頂点共有の複数の八面体の頂点にカチオンが配置され、かつ、その八面体の中心にアニオンが配置されている部位を有する逆ペロブスカイト型構造の化合物は、ペロブスカイト型の化合物よりも高い比誘電率を有することが期待される。加えて、上記の通り、非特許文献1に記載の逆ペロブスカイト型構造の強誘電体では、面共有された複数の八面体の中心にアニオンが配置され、かつ、その複数の八面体の頂点にカチオンが配置されていると理解される。非特許文献1によれば、この強誘電体の室温における比誘電率は高いとは言い難い。このため、高い比誘電率の観点から、逆ペロブスカイト型構造の化合物が頂点共有の複数の八面体の頂点にカチオンが配置され、かつ、その八面体の中心にアニオンが配置されている部位を有することが重要であると考えられる。本発明者らの検討によれば、逆ペロブスカイト型構造の化合物がこのような部位を有することにより、逆ペロブスカイト型構造においてイオンが直線に沿って並びやすく、分極が大きくなりやすいと考えられる。このため、誘電体20が高い比誘電率を有しやすく、キャパシタ1aの静電容量が高くなりやすい。
【0042】
誘電体20に含まれる逆ペロブスカイト型構造の化合物におけるカチオンは、特定のイオンに限定されない。その化合物は、例えば、13族、14族、及び15族からなる群より選ばれる少なくとも1つ族の元素のイオンを含む。この場合、誘電体20が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタ1aが高い静電容量をより有しやすい。
【0043】
誘電体20に含まれる逆ペロブスカイト型構造の化合物において、13族、14族、及び15族からなる群より選ばれる少なくとも1つ族の元素のイオンは、例えば、孤立電子対を有している。孤立電子対は、特定の原子に属する2個の電子が対となって入ってつくられた電子対であり他の原子と共有されていないものである。例えば、14族元素のSnのイオンであるSn2+は、孤立電子対を有する。Sn2+ではSnから電子が2個奪われており、最外殻のs軌道を満たす二つの電子が孤立電子対をなす。孤立電子対をなす電子は、周りのイオンと結合を生じさせにくく、不安定な電子状態又は特殊な結晶構造を生じさせうる。このため、誘電体20におけるカチオンが孤立電子対を有していると、誘電体20の比誘電率が高くなりやすい。一方、Snのイオンとして、Sn2+以外にSn4+も存在しうる。Sn4+では、Snから電子が4個奪われ、最外殻のs軌道は空になっている。このため、Sn4+は、孤立電子対を有しない。この場合、低配位数の結晶構造が形成されやすく、材料の比誘電率が高くなりにくい。
【0044】
例えば、逆ペロブスカイト型構造の化合物に含まれる13族、14族、及び15族からなる群より選ばれる少なくとも1つ族の元素のイオンの全てが孤立電子対を有していてもよいし、そのイオンの一部のみが孤立電子対を有していてもよい。
【0045】
誘電体20に含まれる逆ペロブスカイト型構造の化合物におけるカチオンは、例えば、In+、Tl+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Sb3+、及びBi3+からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいる。この場合、誘電体20が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタ1aが高い静電容量をより有しやすい。
【0046】
誘電体20に含まれる逆ペロブスカイト型構造の化合物におけるカチオンは、Li+、Na+、K+、Rb+、及びCs+等のアルカリ金属イオンを含んでいてもよいし、Ba2+等のアルカリ土類金属イオンを含んでいてもよい。
【0047】
誘電体20に含まれる逆ペロブスカイト型構造の化合物におけるアニオンは、特定のアニオンに限定されない。そのアニオンは、ハロゲンイオンであってもよいし、O2-であってもよいし、S2-であってもよいし、Cl4
4-、(CoCl4)2-、(AlO4)5-、(ZnO4)6-、(SnS4)4-、及び(InSTe2)2
6-等の多原子イオンであってもよい。
【0048】
逆ペロブスカイト型構造の化合物における特定の元素がカチオン及びアニオンのいずれであるかを決定するために、例えば、X線光電子分光(XPS)測定を用いることができる。XPS測定により得られた結合エネルギーが単体金属における結合エネルギーよりも低い場合、測定対象の元素が負に帯電しており、その元素がアニオンとして存在していると決定できる。一方、XPS測定により得られた結合エネルギーが単体金属における結合エネルギーよりも高い場合、測定対象の元素が正に帯電しており、その元素がカチオンとして存在していると決定できる。同様に、孤立電子対を有するか否かについてもXPS測定により得られた結合エネルギーから判断できる。
【0049】
誘電体20に含まれる逆ペロブスカイト型構造は、特定の構造に限定されない。逆ペロブスカイト型構造は、NH4Pb2Br5型構造であってもよいし、Cs3CoCl5型構造であってもよいし、La2CuSbS5型構造であってもよいし、La4FeSb2S10型構造であってもよいし、Ba4In2Te2S5型構造であってもよいし、Y2HfS5型構造であってもよいし、TlPb2Cl5型構造であってもよい。
【0050】
例えば、
図5A、
図5B、及び
図5Cに示すCsSn
2Cl
5は、空間群I4/mcmのNH
4Pb
2Br
5型構造を有する。
図6Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したCsSn
2Cl
4Brの結晶構造を示す図であり、
図6Bは、
図6Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。CsSn
2Cl
4Brも空間群I4/mcmのNH
4Pb
2Br
5型の逆ペロブスカイト型構造である。NH
4Pb
2Br
5型構造の組成は、例えば、DE
2Q
5又はDE
2Q
4Rで表される組成を有する。これらの組成において、D及びEはカチオンであり、Q及びRはアニオンである。CsSn
2Cl
5では、上記の通り、AサイトにCl
4
4-が配置され、BサイトにCl
-が配置され、XサイトにCs
+又はSn
2+が配置されている。このため、CsSn
2Cl
5は、ABX
3の表記では(Cl
4)Cl(CsSn
2)と表される。頂点共有の八面体の頂点にCs
+又はSn
2+が配置され、その八面体の中心にCl
-が配置されている。
【0051】
NH
4Pb
2Br
5型構造の組成は、上記の他にも、DEGQ
5又はDEGQ
4Rで表される組成を有しうる。これらの組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンである。例えば、
図7Aに示すようにCsSn
2Cl
5のSnサイトをSn
2+とPb
2+の2種類のカチオンで置換することで、CsSnPbCl
5の組成をとりうる。
図7Bは、
図7Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。なお、占有率によっては空間群I4/mcmから対称性が低下することがある。
【0052】
NH
4Pb
2Br
5型構造の組成は、上記の他にも、DEG
4Q
10又はDEG
4Q
8R
2で表される組成を有しうる。これらの組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンである。例えば、
図8Aに示すようにCsSn
2Cl
5のCsサイトをK
+とCs
+の2種類のカチオンで置換することで、KCsSn
4Cl
10の組成をとりうる。
図8Bは、
図8Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。なお、占有率によっては空間群I4/mcmから対称性が低下することがある。
【0053】
図9Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したCs
3CoCl
5の結晶構造を示す図であり、
図9Bは、
図9Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。
図10Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したBa
3AlO
4Fの結晶構造を示す図であり、
図10Bは、
図10Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。
図11Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したBaLa
2ZnO
5の結晶構造を示す図であり、
図11Bは、
図11Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。
図12Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したCsBa
2SnS
4Clの結晶構造を示す図であり、
図12Bは、
図12Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。これらの結晶構造は、空間群I4/mcmの逆ペロブスカイト型構造である。この構造では、四面体の各頂点にCl
-等のアニオンが配置され、かつ、その四面体の中心にCo
2+等のカチオンが配置された多原子イオンであるアニオンがAサイトを占めている。Cs
3CoCl
5型構造の組成は、例えば、D
3EQ
5、D
3EQ
4R、DE
2GQ
5、及びDE
2GQ
4R等の組成として表される。これらの組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンである。
図9A及び
図9Bに示す通り、例えば、Cs
3CoCl
5では、Aサイトに(CoCl
4)
2-が配置され、BサイトにCl
-が配置され、XサイトにCs
+が配置されている。このため、Cs
3CoCl
5は、ABX
3の表記では(CoCl
4)ClCs
3と表される。頂点共有の八面体の頂点にCs
+が配置され、その八面体の中心にCl
-が配置されている。
【0054】
図13Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したLa
2CuSbS
5の結晶構造を示す図である。
図13Bは、
図13Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。この結晶構造は、空間群Ima2の逆ペロブスカイト型構造である。この構造では、四面体の各頂点にS
2
-等のアニオンが配置され、かつ、その四面体の中心にCu
+等のカチオンが配置された多原子イオンであるアニオンがAサイトを占めている。La
2CuSbS
5型構造の組成は、例えば、D
3EQ
5、D
3EQ
4R、DE
2GQ
5、及びDE
2GQ
4R等の組成として表される。これらの組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンである。
図13A及び
図13Bに示す通り、例えば、La
2CuSbS
5では、Aサイトに(CuS
4)
7-が配置され、BサイトにS
2-が配置され、XサイトにLa
3+及びSb
3+が配置されている。このため、La
2CuSbS
5は、ABX
3の表記では(CuS
4)S(La
2Sb)と表される。頂点共有の八面体の頂点にLa
3+及びSb
3+が配置され、その八面体の中心にS
2-が配置されている。La
2CuSbS
5型構造は基本的にCs
3CoCl
5型構造と同じであるが、CsサイトがLa
3+及びSb
3+に置き換わり、Cs
3CoCl
5型構造のCl-Co八面体が歪むことにより対称性が低下し、La
2CuSbS
5型構造となる。
【0055】
図14Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したLa
4FeSb
2S
10の結晶構造を示す図であり、
図14Bは、
図14Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。この結晶構造は、空間群Pbcmの逆ペロブスカイト型構造である。この構造では、四面体の各頂点にS
2-等のアニオンが配置され、かつ、その四面体の中心にFe
2+等のカチオンが部分的に配置された多原子イオンであるアニオンがAサイトを占めている。La
4FeSb
2S
10型構造の組成は、例えば、D
6EQ
10、D
6EQ
8R
2、D
2E
4GQ
5、及びD
2E
4GQ
8R
2等の組成として表される。これらの組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンである。
図14A及び14Bに示す通り、例えば、La
4FeSb
2S
10では、Aサイトに(FeS
4)
6-が配置され、BサイトにS
2-が配置され、XサイトにLa
3+及びSb
3+が配置されている。このため、La
4FeSb
2S
10は、A
2B
2X
6の表記では[(FeS
4)(S
4)]S
2(La
2Sb)
2と表される。頂点共有の八面体の頂点にLa
3+及びSb
3+が配置され、その八面体の中心にS
2-が配置されている。La
4FeSb
2S
10型構造は基本的にCs
3CoCl
5型構造と同じであるが、Cs
3CoCl
5型構造のCo-Cl四面体の中心のCoサイトが部分的に欠損することにより対称性が低下し、La
4FeSb
2S
10型構造となる。
【0056】
図15Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したBa
4In
2Te
2S
5の結晶構造を示す図であり、
図15Bは、
図15Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。Ba
4In
2Te
2S
5は、層状逆ペロブスカイト型構造を有する。Ba
4In
2Te
2S
5型構造の組成は、D
2E
4Q
7、D
2E
4Q
5R
2、DE
3G
2Q
7、及びDE
3G
2Q
5R
2等の組成として表される。これらの組成において、D、E、及びGはカチオンであり、Q及びRはアニオンである。
図15A及び
図15Bに示す通り、Ba
4In
2Te
2S
5は、層状ペロブスカイト型構造A
2BX
4におけるAサイトに(InS
2Te)
2
6-が配置され、BサイトにS
2-が配置され、XサイトにBa
2+が配置されている。このため、Ba
4In
2Te
2S
5は、A
2BX
4の表記では(InS
2Te)
2SBa
4と表される。頂点共有の八面体の頂点にBa
2+が配置され、その八面体の中心にS
2-が配置されている。
【0057】
図16Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したY
2HfS
5の結晶構造を示す図であり、
図16Bは、
図16Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。Y
2HfS
5は、空間群Pnmaの逆ペロブスカイト型構造である。Y
2HfS
5型構造の組成は、例えば、DE
2Q
5又はDE
2Q
4Rで表される組成を有する。これらの組成において、D及びEはカチオンであり、Q及びRはアニオンである。Y
2HfS
5では、上記の通り、AサイトにS
4
8-が配置され、BサイトにS
2-が配置され、XサイトにY
3+又はHf
4+が配置されている。このため、Y
2HfS
5は、ABX
3の表記では(S
4)S(Y
2Hf)と表される。頂点共有の八面体の頂点にY
3+又はHf
4+が配置され、その八面体の中心にS
2-が配置されている。NH
4Pb
2Br
5型構造は正方晶ペロブスカイト型構造(SrZrO
3)がベースとなっている。一方、Y
2HfS
5型構造は直方晶ペロブスカイト型構造(GdFeO
3)がベースとなっている。正方晶ペロブスカイト型構造では八面体がc軸方向に直線的に繋がった構造を有するが、直方晶ペロブスカイト型構造では八面体がc軸方向にジグザクに繋がった構造を有する。なお誘電体としての観点では、c軸方向に直線的に繋がる正方晶ペロブスカイト型構造の方が比誘電率は高くなるので、NH
4Pb
2Br
5型構造がY
2HfS
5型構造より有利である。
【0058】
図17Aは、アニオンを中心とする配位多面体によって表したTlPb
2Cl
5の結晶構造を示す図であり、
図17Bは、
図17Aに示す結晶構造をc軸負方向に沿って見た図である。TlPb
2Cl
5は、空間群P121/C1の逆ペロブスカイト型構造である。TlPb
2Cl
5型構造の組成は、例えば、DE
2Q
5又はDE
2Q
4Rで表される組成を有する。これらの組成において、D及びEはカチオンであり、Q及びRはアニオンである。TlPb
2Cl
5では、上記の通り、AサイトにCl
4
4-が配置され、BサイトにCl
-が配置され、XサイトにTl
+又はPb
2+が配置されている。このため、TlPb
2Cl
5は、ABX
3の表記では(Cl
4)Cl(TlPb
2)と表される。頂点共有の八面体の頂点にTl
+又はPb
2+が配置され、その八面体の中心にCl
-が配置されている。TlPb
2Cl
5型構造はY
2HfS
5型構造と同様に直方晶ペロブスカイト型構造(GdFeO
3)がベースとなっている。Y
2HfS
5型構造はc軸に対してYとHfのカチオンが交互に配列した八面体になるの対し、TlPb
2Cl
5型構造はそうならない。なお誘電体としての観点では、c軸方向に直線的に繋がる正方晶ペロブスカイト型構造の方が比誘電率は高くなるので、NH
4Pb
2Br
5型構造がY
2HfS
5型構造より有利である。
【0059】
頂点共有の八面体の頂点にアニオンが配置され、その八面体の中心にカチオンが配置されているペロブスカイト型構造として、1次元ペロブスカイト型構造、0次元ペロブスカイト型構造、ダブルペロブスカイト型構造、四重ペロブスカイト型構造、Aサイト欠損ペロブスカイト型構造、Bサイト欠損ペロブスカイト型構造、Ruddlesden-Popper型構造、及びDion-Jacobson型構造等の構造がある。1次元ペロブスカイト型構造はA3BX5で表され、0次元ペロブスカイト型構造はA4BX6で表される。ダブルペロブスカイト型構造はA2BB’X6で表され、四重ペロブスカイト型構造はAA’3B4X12で表される。Aサイト欠損ペロブスカイト型構造はA(2-α)B2X6で表され、Bサイト欠損ペロブスカイト型構造はA2B(2-β)X6で表される。Ruddlesden-Popper型構造は、Ax+1BxX3x+1で表される。Dion-Jacobson型構造は、A’[Ay-1ByX3y+1]で表される。いずれの構造についても、アニオンのサイトとカチオンのサイトとが入れ替わった逆ペロブスカイト型構造が存在しうる。誘電体20に含まれる逆ペロブスカイト型構造はこのような逆ペロブスカイト型構造であってもよい。
【0060】
誘電体20の比誘電率は特定の値に限定されない。誘電体20の室温における比誘電率は、例えば、1MHzにおいて、40より高くてもよいし、45以上であってもよいし、50以上であってもよいし、60以上であってもよいし、80以上であってもよいし、100以上であってもよい。室温は、例えば、20℃から25℃の範囲における特定の温度である。誘電体20の室温における比誘電率は、例えば、1MHzにおいて、10000以下である。換言すると、誘電体20の室温に終える比誘電率は、例えば、1MHzにおいて、40以上10000以下である。
【0061】
図3に示す通りキャパシタ1aにおいて、誘電体20は、例えば膜として形成されている。キャパシタ1aに誘電体20を配置する方法は特定の方法に限定されない。誘電体20は、例えば、スピンコーティング、インクジェット、ダイコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、ラングミュア・ブロジェット、ディップコーティング、又はスプレーコーティングによって形成されてもよい。これにより、誘電体20が高い比誘電率をより有しやすく、キャパシタ1aが高い静電容量をより有しやすい。誘電体20は、スパッタリング、陽極酸化、真空蒸着、パルスレーザー堆積(PLD)、原子層堆積(ALD)、又は化学気相成長(CVD)によって形成されてもよい。
【0062】
図3に示す通り、誘電体20は、例えば、誘電体20の厚み方向において第一電極11と第二電極12との間に配置されている。第二電極12は、例えば、誘電体20の少なくとも一部を覆っている。
【0063】
第一電極11及び第二電極12をなす材料は、特定の材料に限定されない。第一電極11及び第二電極12のそれぞれは、例えば、金属を含んでいる。第一電極11は、例えば弁金属を含んでいる。弁金属の例は、Al、Ta、Nb、及びBiである。第一電極11は、例えば、弁金属として、Ta、Nb、及びBiからなる群より選択される少なくとも1つを含んでいる。第一電極11は、金及び白金等の貴金属を含んでいてもよいし、ニッケルを含んでいてもよいし、13族、14族、又は15族の金属元素を含んでいてもよい。
【0064】
第二電極12は、例えば、Al、Ta、Nb、及びBi等の弁金属を含んでいてもよいし、金、銀、及び白金等の貴金属を含んでいてもよいし、ニッケルを含んでいてもよいし、13族、14族、又は15族の金属元素を含んでいてもよい。第二電極12は、例えば、Al、Ta、Nb、Bi、金、銀、白金、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも1つを含んでいる。
【0065】
図3に示す通り、第一電極11は、主面11pを有する。誘電体20の一方の主面は、例えば主面11pに接触している。第二電極12は、主面11pに平行な主面12pを有する。誘電体20の他方の主面は、例えば主面12pに接触している。
【0066】
図18Aは、本開示のキャパシタの別の一例を示す断面図である。
図18Aに示すキャパシタ1bは、特に説明する部分を除き、キャパシタ1aと同様に構成されている。キャパシタ1aの構成要素と同一又は対応するキャパシタ1bの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。キャパシタ1aについての説明は技術的に矛盾しない限りキャパシタ1bにもあてはまる。なお、これらのことは、後述のキャパシタ1c及びキャパシタ1dにも当てはまる。
【0067】
図18Aに示すキャパシタ1bは、電解キャパシタである。
図18Aに示す通り、キャパシタ1bにおいて、第一電極11の少なくとも一部は多孔質である。このような構成によれば、第一電極11の表面積が大きくなりやすく、キャパシタ1bがより高い静電容量を有しやすい。このような多孔質な構造は、例えば、金属箔のエッチング及び粉末の焼結処理等の方法によって形成しうる。
【0068】
図18Aに示す通り、例えば、第一電極11の多孔質な部位の表面上に誘電体20の膜が形成されている。誘電体20を形成する方法として、例えば、スピンコーティング、インクジェット、ダイコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、ラングミュア・ブロジェット、ディップコーティング、又はスプレーコーティングを採用できる。誘電体20は、例えば、スパッタリング、陽極酸化、真空蒸着、PLD、ALD、又はCVDによって形成されてもよい。
【0069】
第一電極11は、例えば、Al、Ta、Nb、Zr、Hf、及びBi等の弁金属を含んでいる。第二電極12は、例えば、銀含有ペーストの固化物、グラファイト等のカーボン材料、又は上記固化物及びカーボン材料の双方を含んでいてもよい。キャパシタ1bにおいて、例えば、第一電極11と第二電極12との間に電解質13が配置されている。詳細には、誘電体20と第二電極12との間に電解質13が配置されている。キャパシタ1bにおいて、例えば、第二電極12及び電解質13によって陰極が構成されている。キャパシタ1bにおいて、電解質13は、例えば、第一電極11の多孔質な部位の周囲の空隙を充填するように配置されている。
【0070】
電解質13は、例えば、電解液及び導電性高分子からなる群より選択される少なくとも一つを含む。導電性高分子の例は、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、及びこれらの誘導体である。電解質13は、酸化マンガン等のマンガン化合物であってもよい。電解質13は、固体電解質を含んでいてもよい。
【0071】
原料モノマーを誘電体20の上で化学重合、電解重合、又は化学重合及び電解重合の両方を行うことによって、導電性高分子を含む電解質13を形成できる。導電性高分子の溶液又は分散液を誘電体20に付着させることによって導電性高分子を含む電解質13を形成してもよい。
【0072】
図18Bは、本開示のキャパシタのさらに別の一例を示す断面図である。
図18Bに示すキャパシタ1cにおいて、第一電極11の少なくとも一部は多孔質である。このような構成によれば、第一電極11の表面積が大きくなりやすく、キャパシタ1cがより高い静電容量を有しやすい。このような多孔質な構造は、例えば、金属箔のエッチング及び粉末の焼結処理等の方法によって形成できる。
【0073】
図18Bに示す通り、例えば、第一電極11の多孔質な部位の上部に誘電体20の膜が形成されている。誘電体20の成膜方法として、例えば、スピンコーティング、インクジェット、ダイコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、ラングミュア・ブロジェット、ディップコーティング、又はスプレーコーティングを採用できる。キャパシタ1cにおいて、誘電体20は、例えば、第一電極11の多孔質な部位の周囲の空隙を充填するように配置されている。
【0074】
図18Cは、本開示のキャパシタのさらに別の一例を示す断面図である。
図18Cに示すキャパシタ1dにおいて、誘電体20は、例えば膜として形成されている。この膜には、誘電体20とは異なる異種誘電体22が分散して配置されている。この膜を形成する方法として、スピンコーティング、インクジェット、ダイコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、ラングミュア・ブロジェット、ディップコーティング、又はスプレーコーティングを採用できる。例えば、誘電体20の原料及び異種誘電体22の粒子を含む前駆体液の塗膜を上記の方法によって形成することによって、誘電体20及び異種誘電体22を含む膜が得られる。この膜は、スパッタリング、陽極酸化、真空蒸着、PLD、ALD、又はCVDによって形成されてもよい。
【0075】
異種誘電体22は、誘電体20とは異なる種類の誘電体である限り、特定の誘電体に限定されない。異種誘電体22は、例えば、誘電体20の比誘電率より高い比誘電率を有する。異種誘電体22は、例えば、BaTiO3、PbTiO3、及びSrTiO3等のペロブスカイト化合物であってもよいし、層状ペロブスカイト化合物であってもよい。異種誘電体22は、Ruddlesden-Popper化合物、Dion-Jacobson化合物、タングステンブロンズ化合物、及びパイロクロア化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0076】
異種誘電体22の粒子のサイズは特定の値に限定されない。異種誘電体22の粒子は、例えば、1nm以上100nm以下のサイズを有する。
【0077】
図19Aは、本開示の電気回路の一例を模式的に示す図である。電気回路3は、キャパシタ1aを備えている。電気回路3は、能動回路であってもよいし、受動回路であってもよい。電気回路3は、放電回路であってもよいし、平滑回路であってもよいし、デカップリング回路であってもよいし、カップリング回路であってもよい。電気回路3がキャパシタ1aを備えているので、電気回路3が所望の性能を発揮しやすい。例えば、電気回路3においてキャパシタ1aによりノイズが低減されやすい。電気回路3は、キャパシタ1aの代わりに、キャパシタ1b、1c、又は1dを備えていてもよい。
【0078】
図19Bは、本開示の回路基板の一例を模式的に示す図である。
図19Bに示す通り、回路基板5はキャパシタ1aを備えている。例えば、回路基板5において、キャパシタ1aを含む電気回路3が形成されている。回路基板5は、組み込みボードであってもよいし、マザーボードであってもよい。回路基板5は、キャパシタ1aの代わりに、キャパシタ1b、1c、又は1dを備えていてもよい。
【0079】
図19Cは、本開示の機器の一例を模式的に示す図である。
図19Cに示す通り、機器7は、例えば、キャパシタ1aを備えている。機器7は、例えば、キャパシタ1aを含む回路基板5を備えている。機器7は、キャパシタ1aを備えているので、機器7が所望の性能を発揮しやすい。機器7は、電子機器であってもよいし、通信機器であってもよいし、信号処理装置であってもよいし、電源装置であってもよい。機器7は、サーバーであってもよいし、ACアダプタであってもよいし、アクセラレータであってもよいし、液晶表示装置(LCD)等のフラットパネルディスプレイであってもよい。機器7は、USB充電器であってもよいし、ソリッドステートドライブ(SSD)であってもよいし、PC、スマートフォン、及びタブレットPC等の情報端末であってもよいし、イーサーネットスイッチであってもよい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は例示であり、本開示は以下の実施例に限定されない。
【0081】
<実施例1>
(誘電体材料の作製)
-60℃以下の露点を有するアルゴン雰囲気(以下、「乾燥アルゴン雰囲気」という)の中で、KClの物質量:SnCl2の物質量=1:2の条件が満たされるようにKCl及びSnCl2を含む原料粉が用意された。この原料粉は、乳鉢の中で粉砕され、混合された。このようにして、混合粉が得られた。混合粉は、遊星型ボールミルを用いて、500revolutions per minute(rpm)の条件で12時間ミリング処理された。このようにして、実施例1に係る粉末状の誘電体が得られた。実施例1に係る誘電体は、KSn2Cl5で表される組成を有するハロゲン化物を含んでいた。
【0082】
アルバック・ファイ社製のX線光電子分光(XPS)装置PHI VersaProbe 2を用いて、実施例1に係る誘電体に対して、XPS測定を行った。この測定の結果から、誘電体の単位重量当たりのK、Sn、及びClの含有量を求めた。K、Sn、及びClの含有量に基づいて、実施例1に係る誘電体において、原料粉と同様に、Kの物質量:Snの物質量:及びClの物質量=1:2:5の関係があることが分かった。
【0083】
(比誘電率の評価)
図20は、比誘電率の評価方法を模式的に示す図である。
図20に示す通り、加圧成形ダイス30は、パンチ上部31、枠型32、およびパンチ下部33を備えていた。パンチ上部31及びパンチ下部33のそれぞれは、電子伝導性を有するステンレスで形成されていた。枠型32は、電気絶縁性を有するポリカーボネートで形成されていた。
【0084】
加圧成形ダイス30を用いて、下記の方法により、実施例1に係る誘電体の比誘電率が測定された。
【0085】
-30℃以下の露点を有する乾燥雰囲気中で、実施例1に係る粉末状の誘電体が加圧成形ダイス30の内部に充填され、試料Saが得られた。加圧成形ダイス30の内部でパンチ上部31及びパンチ下部33を用いて300MPaの圧力Pが試料Saに印加された。
【0086】
試料Saに圧力Pが印加されたまま、パンチ上部31及びパンチ下部33が、周波数応答アナライザが搭載された、ポテンショスタット50に接続された。ポテンショスタット50として、Princeton Applied Research社製のVersaSTAT4を用いた。パンチ上部31は、ポテンショスタット50の作用極及び電位測定用端子に接続された。パンチ下部33は、ポテンショスタット50の対極及び参照極に接続された。試料Saのインピーダンスは、室温(25℃)において、電気化学インピーダンス測定法により測定された。このようにして、実施例1に係る誘電体に含まれるハロゲン化物の1MHzにおける比誘電率ε’
rを測定した。比誘電率ε’
rは、各試料の静電容量を測定し、その静電容量の測定値及び試料Saの厚み、及び電極面積に基づいて決定した。測定された比誘電率ε’
rをペレット(圧力Pで押し固められた試料Sa)の充填率fにより以下の式で補正し比誘電率εrを得た。以下の式において、εAirは大気の比誘電率であり、本算出では、εAirを1と定めた。
logεr=(logε’
r-(1-f)*logεAir)/f
【0087】
充填率fは以下の式により算出した。ρpelletはペレットの密度であり、ρは結晶構造から求まる密度である。結果を表1に示す。表1に示す通り、25℃で測定された、実施例1に係る誘電体に含まれるハロゲン化物の比誘電率εrは、119であった。
f=ρpellet/ρ
【0088】
(計算による合成可能性の評価)
KSn2Cl5で表される組成を有する(NH4)Pb2Br5型の逆ペロブスカイト構造の化合物の計算モデルを生成し、第一原理計算によりconvex hullエネルギーを算出することによって、その化合物の合成可能性を評価した。第一原理計算で構造緩和を行い、全エネルギーを算出し、convex hullエネルギーを算出した。convex hullエネルギーは、目的の相が他の相に対して有する相対的安定性の指標である。KSn2Cl5の組成の実施例1に係る誘電体の場合、熱力学的にはKCl及びSnCl2と共存しうるので、以下の式(1)に基づいてconvex hullエネルギーを算出した。結果を表1に示す。式(1)において、Ehull(A)は、Aのconvex hullエネルギー、Etot(A)はAの全エネルギーである。なお、Ehull(A)が負の場合には、式(1)の値はゼロとする。
Ehull(KSn2Cl5)=Etot(KSn2Cl5)-Etot(KCl)-2Etot(SnCl2) 式(1)
【0089】
(計算による比誘電率の評価)
上記の合成可能性の評価において生成された計算モデルを用いて、PBEsol汎関数により再度構造緩和を行い、密度汎関数摂動論計算により比誘電率を評価した。イオンの寄与と電子の寄与を足し合わせ、対角成分を平均し、比誘電率を算出した。なおG点での虚数フォノンが5meVより大きい化合物、及び、バンドギャップがゼロの化合物は計算精度の観点から取り除いた。結果を表1に示す。第一原理計算にはvaspコードを用いた。
【0090】
(分極の評価)
上記の試料Saを用いた比誘電率の評価において決定された比誘電率εrに基づいて、下記の式(2)より、実施例1に係る誘電体の分極Pの計算値を算出した。結果を表1に示す。式(2)において、ε0は真空の誘電率であり、Eは絶縁破壊電界である。絶縁破壊電界Eは、Wang, Li-Mo. "Relationship between intrinsic breakdown field and bandgap of materials." 2006 25th International Conference on Microelectronics. IEEE, 2006.を参照して、下記の式(3)より算出した。式(3)において、Egはバンドギャップであり、今回の計算では4eVと仮定した。式(2)及び(3)におけるE及びEgの単位は、それぞれ、V/cm及びeVである。
P=ε0(εr-1)E 式(2)
E=1.36×107×(Eg/4) 式(3)
【0091】
(結晶構造解析)
実施例1に係る誘電体の結晶構造を同定するため、X線回折(XRD)測定を行った。この測定において、X線として、Cu‐Kα線を用い、乾燥アルゴン雰囲気下で測定を行った。
図21は、実施例1に係る誘電体のXRDパターンを示すグラフである。横軸が回折角2θを示し、縦軸がX線回折の強度を示す。
図21に、KCl、SnCl
2、及び(NH
4)Pb
2Br
5型のKSn
2Cl
5のXRDパターンの計算結果を合わせて示す。なお、
図21における縦軸は、各XRDパターンにおける回折強度の相対的な関係を示しており、異なるXRDパターンにおける回折強度の相対的な関係を示すものではない。実施例1に係る誘電体のXRDパターンによれば、この誘電体は、(NH
4)Pb
2Br
5型の逆ペロブスカイト型構造を有することが確認された。
【0092】
<実施例2>
KBrの物質量:SnCl2の物質量=1:2の条件が満たされるようにKBr及びSnCl2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例2に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例2に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。結果を表1に示す。
【0093】
<実施例3>
KBrの物質量:SnBr2の物質量=1:2の条件が満たされるようにKBr及びSnBr2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例3に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例3に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。結果を表1に示す。
【0094】
<実施例4>
K(SCN)の物質量:SnCl2の物質量=1:2の条件が満たされるようにK(SCN)及びSnCl2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る粉末状の誘電体を作製した。SCN-は-1価のクラスターアニオンであり、SCN-で1つのアニオンをなすとみなした。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例4に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例4に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。結果を表1に示す。
【0095】
<実施例5>
KClの物質量:SnBr2の物質量=1:2の条件が満たされるようにKCl及びSnBr2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例5に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例5に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。結果を表1に示す。
【0096】
<実施例6>
KIの物質量:SnCl2の物質量=1:2の条件が満たされるようにKI及びSnCl2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例6に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例6に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。結果を表1に示す。
【0097】
<実施例7>
KFの物質量:KClの物質量:SnCl2の物質量=0.5:0.5:2の条件が満たされるようにKF、KCl、及びSnCl2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例7に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例7に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。結果を表1に示す。
【0098】
<実施例8>
KIの物質量:SnI2の物質量=1:2の条件が満たされるようにKI及びSnI2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例8に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例8に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。結果を表1に示す。
【0099】
<実施例9>
KClの物質量:SnCl2の物質量:PbCl2の物質量=1:1:1の条件が満たされるようにKCl、SnCl2、及びPbCl2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例9に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例9に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。結果を表1に示す。
【0100】
<実施例10>
RbClの物質量:SnCl2の物質量=1:2の条件が満たされるようにRbCl及びSnCl2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例10に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例10に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例10に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。さらに、実施例1と同様にして、実施例10に係る誘電体の比誘電率及びconvex hullエネルギーを計算した。結果を表1に示す。
【0101】
<実施例11>
CsBrの物質量:SnCl2の物質量=1:2の条件が満たされるようにCsBr及びSnCl2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例11に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例11に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例11に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。結果を表1に示す。
【0102】
<実施例12>
CsClの物質量:SnCl2の物質量=1:2の条件が満たされるようにCsCl及びSnCl2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例12に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例12に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例12に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。さらに、実施例1と同様にして、実施例12に係る誘電体の比誘電率及びconvex hullエネルギーを計算した。結果を表1に示す。
【0103】
<実施例13>
InIの物質量:SnCl2の物質量=1:2の条件が満たされるようにInI及びSnCl2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例13に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例13に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例13に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。結果を表1に示す。
【0104】
<実施例14>
InIの物質量:SnI2の物質量=1:2の条件が満たされるようにInI及びSnI2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、実施例14に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて実施例14に係る誘電体の組成を決定した。また、実施例14に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。さらに、実施例1と同様にして、実施例14に係る誘電体の比誘電率及びconvex hullエネルギーを計算した。結果を表1に示す。
【0105】
<比較例1A>
CsClの物質量:PbCl2の物質量=1:1の条件が満たされるようにCsCl及びPbCl2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、比較例1Aに係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて比較例1Aに係る誘電体の組成を決定した。また、比較例1Aに係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行い、かつ、XRD測定に基づいて結晶構造を同定した。さらに、実施例1と同様にして、比較例1Aに係る誘電体の比誘電率及びconvex hullエネルギーを計算した。結果を表8に示す。
【0106】
<比較例2>
(CH
3NH
3)Clの物質量:SnCl
2の物質量=1:1の条件が満たされるように(CH
3NH
3)Cl及びSnCl
2を含む原料粉を用意した以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る粉末状の誘電体を作製した。実施例1と同様にして、XPS測定に基づいて比較例2に係る誘電体の組成を決定した。また、比較例2に係る誘電体に対して、実施例1と同様にして、比誘電率の評価を行った。結果を表8に示す。
図22は、比較例2に係る誘電体のXRDパターンを示すグラフである。横軸が回折角2θを示し、縦軸がX線回折の強度を示す。
図22に、ペロブスカイト型CH
3NH
3SnCl
3、CH
3NH
3Cl、及びSnCl
2のXRDパターンの計算結果を合わせて示す。なお、
図22における縦軸は、各XRDパターンにおける回折強度の相対的な関係を示しており、異なるXRDパターンにおける回折強度の相対的な関係を示すものではない。比較例2に係る誘電体のXRDパターンによれば、この誘電体は、ペロブスカイト型の結晶構造を有することが確認された。
【0107】
<比較例3>
非特許文献1に記載の[(CH3)2(F-CH2CH2)NH]3(CdCl3)(CdCl4)で表される逆ペロブスカイト型構造の強誘電体を比較例3に係る誘電体として選択した。比較例3に係る誘電体の室温及び1MHzにおける比誘電率をFigure 3(c)から読み取った。その結果、比較例3に係る誘電体の室温及び1MHzにおける比誘電率は15.4であった。比較例3に係る誘電体は、非特許文献1のEXPERIMENTAL SECTIONを参照して作製可能であると理解される。
【0108】
<実施例15>
CsSn2Br5の組成を有する(NH4)Pb2Br5型の逆ペロブスカイト型構造の計算モデルを生成した。計算モデルの生成においてI4/mcmの対称性となるように(NH4)Pb2Br5から元素置換を行い、第一原理計算に基づいて最安定構造を決定した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表1に示す。
【0109】
<実施例16から実施例50>
計算モデルの組成を表1、表2、又は表3に示すように変更したこと以外は、実施例15と同様にして実施例16から実施例50に係る計算モデルを生成した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表1、表2、又は表3に示す。
【0110】
<実施例51>
CsSnPbCl5の組成を有する(NH4)Pb2Br5型の逆ペロブスカイト型構造の計算モデルを生成した。計算モデルの生成においてP4_2/mcmの対称性となるように(NH4)Pb2Br5から元素置換を行い、第一原理計算に基づいて最安定構造を決定した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表3に示す。
【0111】
<実施例51から実施例60>
計算モデルの組成を表3に示すように変更したこと以外は、実施例51と同様にして実施例51から実施例60に係る計算モデルを生成した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表3に示す。
【0112】
<実施例61>
CsIn(Pb2Cl5)2の組成を有する(NH4)Pb2Br5型の逆ペロブスカイト型構造の計算モデルを生成した。計算モデルの生成においてP4/mccの対称性となるように(NH4)Pb2Br5から元素置換を行い、第一原理計算に基づいて最安定構造を決定した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表4に示す。
【0113】
<実施例62から実施例105>
計算モデルの組成を表4、表5、又は表6に示すように変更したこと以外は、実施例61と同様にして実施例62から実施例105に係る計算モデルを生成した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表4、表5、又は表6に示す。
【0114】
<実施例106>
ZnIn3Cl5の組成を有するCs3CoCl5型の逆ペロブスカイト型構造の計算モデルを生成した。計算モデルの生成においてI4/mcmの対称性となるようにCs3CoCl5から元素置換を行い、第一原理計算に基づいて最安定構造を決定した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表6に示す。
【0115】
<実施例107から実施例123>
計算モデルの組成を表6又は表7に示すように変更したこと以外は、実施例106と同様にして実施例107から実施例123に係る計算モデルを生成した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表6又は表7に示す。
【0116】
<実施例124>
InBa2SbS5の組成を有するLa2SbCuS5型の逆ペロブスカイト型構造の計算モデルを生成した。計算モデルの生成においてIma2の対称性となるようにLa2SbCuS5から元素置換を行い、第一原理計算に基づいて最安定構造を決定した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表7に示す。
【0117】
<実施例125から実施例135>
計算モデルの組成を表7に示すように変更したこと以外は、実施例124と同様にして実施例125から実施例135に係る計算モデルを生成した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表6又は表7に示す。
【0118】
<実施例136>
Pb2In4ZnF10の組成を有するLa4FeSb2S10型の逆ペロブスカイト型構造の計算モデルを生成した。計算モデルの生成においてPbcmの対称性となるようにLa4FeSb2S10から元素置換を行い、第一原理計算に基づいて最安定構造を決定した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表7に示す。
【0119】
<実施例137から実施例149>
計算モデルの組成を表7又は表8に示すように変更したこと以外は、実施例136と同様にして実施例137から実施例149に係る計算モデルを生成した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表7又は表8に示す。
【0120】
<実施例150>
Al2Pb4S7の組成を有するBa4In2Te2S5型の逆ペロブスカイト型構造の計算モデルを生成した。計算モデルの生成においてP4/mbmの対称性となるようにLa4FeSb2S10から元素置換を行い、第一原理計算に基づいて最安定構造を決定した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表8に示す。
【0121】
<実施例151及び実施例152>
計算モデルの組成を表8に示すように変更したこと以外は、実施例150と同様にして実施例151及び実施例152に係る計算モデルを生成した。得られた計算モデルについて、実施例1における計算による合成可能性の評価及び計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、convex hullエネルギー及び比誘電率を算出した。結果を表8に示す。
【0122】
<比較例1B>
CsPbCl3の組成を有し、面共有の複数の八面体の頂点にCl-が配置され、その八面体の中心にPb2+が配置されたペロブスカイト型構造の計算モデルを生成した。この計算モデルを用いて、実施例1における計算による比誘電率の評価と同様にして、第一原理計算により、比誘電率を算出した。結果を表1に示す。
【0123】
図21及び
図22によれば、比較例2に係る誘電体はペロブスカイト型構造を有するのに対し、実施例1に係る誘電体は、(NH
4)Pb
2Br
5型の逆ペロブスカイト型構造を有することが確認された。実施例2から14に係る誘電体のXRDパターンから、実施例2から14に係る誘電体も(NH
4)Pb
2Br
5型の逆ペロブスカイト型構造を有することが確認された。表1から表8に示す通り、実施例1から実施例152に係る誘電体又は計算モデルの比誘電率の実測値又は計算値は40を超えていた。これらの実施例に係る誘電体は、頂点共有の複数の八面体の頂点にカチオンが配置され、その八面体の中心にアニオンが配置された逆ペロブスカイト型構造を有する。比較例1A及び2に係るペロブスカイト型の誘電体の比誘電率は40.0未満であった。加えて、面共有の複数の八面体の頂点にカチオンが配置され、その八面体の中心にアニオンが配置された逆ペロブスカイト型構造を有する比較例3に係る誘電体の比誘電率も40未満であった。このため、実施例1、3、5、8、10、12、14から152における分極の計算値も比較例1A及び1Bにおける分極の計算値より高かった。比較例1Aと比較例1Bとを対比すると、ペロブスカイト型構造の化合物は、複数の八面体が面共有である場合に比べて、複数の八面体が頂点共有の場合により高い比誘電率を有することが理解される。このため、頂点共有の複数の八面体の頂点にカチオンが配置され、その八面体の中心にアニオンが配置された部位を有する逆ペロブスカイト型構造が高い比誘電率の観点から有利であることが理解される。
【0124】
下記の文献によれば、convex hullエネルギーが0.1eV/atom以下であると、その材料を合成可能であると理解される。このため、表1に示す通り、実施例15から152に係る計算モデルの化合物は合成可能であることが示唆された。
S. Wenhao, et al. "The thermodynamic scale of inorganic crystalline metastability." Science advances 2.11 (2016): e1600225.
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【産業上の利用可能性】
【0133】
本開示にかかるキャパシタは、高い静電容量を有しやすく有用である。
【要約】
キャパシタ1aは、第一電極11と、第二電極12と、誘電体20とを備えている。誘電体20は、第一電極11と第二電極12との間に配置されている。誘電体20は、逆ペロブスカイト型構造の化合物を含んでいる。この化合物の逆ペロブスカイト型構造は、頂点共有の複数の八面体の頂点にカチオンが配置され、かつ、その八面体の中心にアニオンが配置されている部位を有する。