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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】多孔質炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20231222BHJP
   C01B 32/186 20170101ALI20231222BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20231222BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B32/186
C01B32/194
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019212457
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021084819
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391009187
【氏名又は名称】株式会社白石中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】砂廣 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】京谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】西原 洋知
(72)【発明者】
【氏名】野村 啓太
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-542907(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102583337(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/05
C01B 32/186
C01B 32/194
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭素材料の製造方法であって、
アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子からなる鋳型の表面に、グラフェンを含む前駆体を形成する被覆工程と、
前記鋳型をフッ素を含まない酸で溶解して、前記鋳型と前記前駆体とを分離する分離除去工程と、
を含み、
前記被覆工程が、化学気相蒸着(CVD)法により行われる、
多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記分離除去工程の後に、前記前駆体に熱処理を施す熱処理工程を更に含む、請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属酸化物が、酸化マグネシウム若しくは酸化カルシウム、又はその組合せである、請求項1又は2に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項4】
前記CVD法において、前記前駆体の原料である原料ガスとしてメタンガスを用いる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素を含まない酸が、塩酸若しくは硫酸、又はその組合せである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質炭素材料の細孔が、前記グラフェンにより形成されている細孔壁を有する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質炭素材料が、メソ多孔質炭素材料である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項8】
前記グラフェンが単層グラフェンである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素材料の製造方法、より詳細には、グラフェンメソスポンジと呼ばれる構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、熱伝導度、電気伝導度、機械的(引っ張り)強度に優れており、エレクトロニクス、エネルギー材料など様々な分野で期待されている炭素材料である。そのようなグラフェンの構造体として、グラフェンメソスポンジが知られており、電池の負極活物質等としての利用が期待されている(特許文献1及び2、並びに非特許文献1)。
グラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの製造方法としては、鋳型粒子の表面に炭素を被覆させた後、鋳型粒子を除去し、炭素材料を高温で焼成してグラフェンメソスポンジを製造する方法が知られている。鋳型粒子の表面に炭素を被覆させる方法としては、化学気相蒸着(CVD)法が知られている。特許文献1及び2、並びに非特許文献1では、CVD法において、原料ガスとしてメタン、鋳型としてアルミナナノ粒子を用いて、鋳型粒子の表面に炭素を被覆させる方法が具体的に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-102711号公報
【文献】特許第6460448号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nishihara,H.et al.,Advanced Functional Materials,Vol.26,2016,6418-6427
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の、グラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの製造方法においては、製造工程の1つである鋳型除去の際に、フッ酸による処理又はアルカリでのオートクレーブ処理が必要であり、コスト面で不利である。特に、フッ酸は、極めて強い腐食性を有することから、従来方法により工業的な製造の実施を実現するのは困難である。
また、グラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの製造に要する時間の短縮化も求められている。
【0006】
そこで、本発明の一態様では、フッ酸による処理もアルカリでのオートクレーブ処理も必要としない、グラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの新たな製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明の一態様では、鋳型としてアルミナナノ粒子を用いる従来のCVD法による製造方法と比較して、鋳型上にグラフェン層を形成するための時間を短縮することのできる、グラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、鋳型をアルミナナノ粒子ではなく、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子とすることで、上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、例えば、以下の態様を含み得る。
〔1〕多孔質炭素材料の製造方法であって、
アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子からなる鋳型の表面に、グラフェンを含む前駆体を形成する被覆工程と、
前記鋳型をフッ素を含まない酸で溶解して、前記鋳型と前記前駆体とを分離する分離除去工程と、
を含む、多孔質炭素材料の製造方法。
〔2〕前記分離除去工程の後に、前記前駆体に熱処理を施す熱処理工程を更に含む、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記アルカリ土類金属酸化物が、酸化マグネシウム若しくは酸化カルシウム、又はその組合せである、〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕前記被覆工程が、化学気相蒸着(CVD)法により行われる、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔5〕前記CVD法において、前記前駆体の原料である原料ガスとしてメタンガスを用いる、〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕前記フッ素を含まない酸が、塩酸若しくは硫酸、又はその組合せである、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔7〕前記多孔質炭素材料の細孔が、前記グラフェンにより形成されている細孔壁を有する、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔8〕前記多孔質炭素材料が、メソ多孔質炭素材料である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔9〕前記グラフェンが単層グラフェンである、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施態様によれば、フッ酸による処理もアルカリでのオートクレーブ処理も必要とせず、従来の、グラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの製造方法と比べてコスト面で有利である。
本発明の一実施態様によれば、フッ酸を用いないため工業的製造方法にも適している。
本発明の一実施態様によれば、鋳型としてアルミナナノ粒子を用いる従来のCVD法による方法と比較して、鋳型上にグラフェン層を形成するための時間を短縮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】鋳型粒子がMgO(SS)である場合の試験におけるXRD測定結果を示す図である。
図2】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるCVD後の外観を示す写真である。
図3】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTG測定結果を示す図である。CVD後の炭素の被覆量と鋳型の比表面積から算出した炭素(グラフェン)の平均積層数も合わせて示される。
図4】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるXRD測定結果を示す図である(熱処理前)。
図5】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるXRD測定結果を示す図である(熱処理後)。
図6】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験における炭素の燃焼温度調査の結果を示す図である(熱処理前)。
図7】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験における炭素の燃焼温度調査の結果を示す図である(熱処理後)。
図8】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験における窒素吸脱着測定による窒素吸脱着等温線を示す図である(熱処理前)。
図9】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験における窒素吸脱着測定による細孔径分布を示す図である(熱処理前)。
図10】鋳型粒子MgO(EMJ)である場合の試験における窒素吸脱着測定による窒素吸脱着等温線を示す図である(熱処理後)。
図11】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験における窒素吸脱着測定による細孔径分布を示す図である(熱処理後)。
図12】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるラマン散乱分光測定結果を示す図である(鋳型除去前)。
図13】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるラマン散乱分光測定結果を示す図である(熱処理前)。
図14】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるラマン散乱分光測定結果を示す図である(熱処理後)。
図15】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTPD測定結果を示す図である(CVD処理時間:2時間)。
図16】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTPD測定結果を示す図である(CVD処理時間:1.5時間)。
図17】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTPD測定結果を示す図である(CVD処理時間:1時間)。
図18】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTEM観察結果を示す写真である(鋳型除去前、CVD処理時間:2時間)。
図19】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTEM観察結果を示す写真である(鋳型除去前、CVD処理時間:1.5時間)。
図20】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTEM観察結果を示す写真である(鋳型除去前、CVD処理時間:1時間)。
図21】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTEM観察結果を示す写真である(熱処理前、CVD処理時間:2時間)。
図22】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTEM観察結果を示す写真である(熱処理前、CVD処理時間:1.5時間)。
図23】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTEM観察結果を示す写真である(熱処理前、CVD処理時間:1時間)。
図24】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTEM観察結果を示す写真である(熱処理後、CVD処理時間:2時間)。
図25】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTEM観察結果を示す写真である(熱処理後、CVD処理時間:1.5時間)。
図26】鋳型粒子がMgO(EMJ)である場合の試験におけるTEM観察結果を示す写真である(熱処理後、CVD処理時間:1時間)。
図27】鋳型粒子としてCaCO3(SK1,SK2)を用いた試験におけるCVD後の外観を示す写真である。
図28】鋳型粒子としてCaCO3(SK1)を用いた試験におけるXRD測定結果を示す図である。
図29】鋳型粒子としてCaCO3(SK2)を用いた試験におけるXRD測定結果を示す図である。
図30】鋳型粒子としてCaCO3(SK1,SK2)を用いた試験におけるXRD測定結果を示す図である(熱処理前)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施態様は、多孔質炭素材料の製造方法に関する。本発明の製造方法により製造される多孔質炭素材料は、グラフェンを含む。グラフェンは、炭素原子が基本的な反復単位としてハニカム状骨格で共有結合されている単原子層の構造を有するものであるが、本明細書において、単にグラフェンと称する場合は、単層グラフェンのみを意味するものではなく、2層以上のグラフェンが積層されてなる積層グラフェンも含まれる。
本発明の一実施態様において、多孔質炭素材料の細孔が、グラフェンにより形成されている細孔壁を有し得る。隣接する細孔が連通していてもよく、複数の細孔が連通していてもよい。細孔の大きさは様々であり得るが、本発明の製造方法により製造される多孔質炭素材料は、例えば、2~50nmの細孔径を有し得る。このような大きさの細孔径を有する細孔をメソ孔とも言う。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、メソ多孔質炭素材料であり得る。メソ多孔質炭素材料とは、メソ孔を有する多孔質炭素材料のことである。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、グラフェンメソスポンジと呼ばれる構造体であり得る。
【0011】
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、炭素を主成分とする。ここで、「炭素を主成分とする」とは、炭素のみからなる、実質的に炭素からなる、の双方を含む概念であり、炭素以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素からなる」とは、全体の80重量%以上、好ましくは全体の95重量%以上、全体の98重量%以上、又は全体の99重量%以上(上限:100重量%)が炭素から構成されることを意味する。本発明の一実施態様において、上記炭素はグラフェンであり得る。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は粉末状であり得る。多孔質炭素材料の粉末の大きさは特に限定されないが、例えば、平均粒径(平均二次粒子径)を5nm以上、10nm以上、又は20nm以上、また、2000nm以下、200nm以下、又は100nm以下とし得る。「多孔質炭素材料の粉末の平均粒径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒径の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「粒径」とは、粒子の中心を通りかつ粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
【0012】
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料のBET比表面積は、特に限定されないが、例えば、250m2以上、500m2以上、又は800m2以上であり得、また、2600m2以下、2500m2以下であり得る。一般的な炭素材料の例示として活性炭が挙げられるが、活性炭のBET比表面積は1000~2600m2/g程度であるため、本発明により製造される多孔質炭素材料のBET比表面積はこれと同程度の大きさであり得る。多孔質炭素材料のBET比表面積が大きいほど、電極材料として用いた場合に静電容量を大きくすることができる。多孔質炭素材料のBET比表面積は、例えば、窒素吸脱着等温線の測定結果からBET法で求めることができる。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料の平均細孔径は、特に限定されないが、例えば、0.5nm以上、又は0.7nm以上であり得、また、10nm以下、又は8nm以下であり得る。多孔質炭素材料の平均細孔径は、例えば、BJH法を用いて算出することができる。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料の全細孔容積は、特に限定されないが、例えば、0.5cm3/g以上、又は0.9cm3/g以上であり得、また、30cm3/g以下であり得る。多孔質炭素材料の全細孔容積は、例えば、窒素吸脱着等温線測定を行い、相対圧力(P/P0)が0.96の吸着量から求めることができる。
【0013】
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、その表面に、炭素六員環のベーサル(基底)サイト(六員環炭素網面)及びエッジ(端)サイト(ジグザグ端、アームチェア端)を有する。本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料はグラフェンを含むため、エッジサイトよりベーサルサイトが多い。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料のエッジサイト量は、特に限定されないが、例えば、0.01mmol/g以上であり得、また、0.15mmol/g以下、又は0.12mmol/g以下であり得る。このようにエッジサイト量が少ないと、黒鉛のように耐食性に優れた炭素材料となり得る。多孔質炭素材料のエッジサイト量は、例えば、昇温脱離法(TPD:Temperature Programmed Desorption)を用いて算出することができる。具体的には、所定の装置を用い、試料を黒鉛の試料台に1~3mg入れ、昇温速度10℃/分で1800℃まで真空加熱し、加熱中に放出されるガスを質量分析にて分析することにより、測定を行い得る。
炭素材料において、含酸素官能基は炭素網面の平面の部分(ベーサル面)よりもエッジサイトに多く存在する。従って、CO及びCO2の放出量が多いほど含酸素官能基量が多く、炭素材料の構造中に存在するエッジサイトが多いと言える。エッジサイトはベーサル面よりも反応性が高く、酸化されやすいため、エッジサイトの存在量が少ないほど、より高耐久性であると考えられる。
【0014】
グラフェンを含む多孔質炭素材料について、粉末X線回折ピークの線幅から結晶子の大きさを知ることができる。具体的には、グラフェンの積層構造に由来する炭素(002)面のピークの半値幅W(002)が大きいほど、積層方向の結晶子の大きさが小さく、グラフェンの積層数が少ないと言える。グラフェンの積層数が少ない方が、多孔質炭素材料の比表面積を大きくするのに有利である。本発明により製造される多孔質炭素材料は、例えば、3層以下、好ましくは1~2層、より好ましくは1層の平均積層数で構成され得る。平均積層数は、例えば、後述の鋳型粒子上に炭素層を積層した後、熱重量分析(TG)法を用いて炭素層の重量を算出し、この炭素層の重量と該鋳型粒子の表面積より面積当たりの炭素層の重量を算出し、これを単層グラフェンの面積当たりの炭素層の重量(7.61×10-4 g/m2)で割るにより算出できる。
また、単層グラフェンの面内回折に由来する炭素(10)面のピークの半値幅W(10)が小さいほど、面内方向の結晶子の大きさが大きく、1層のグラフェンのサイズが大きいと言える。グラフェンのサイズが大きい方が、多孔質炭素材料の導電性を高めるのに有利である。
【0015】
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、例えば、W(002)が、5°以上であり得る。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、例えば、W(10)が、3.2°以下、又は1.2~3.2°であり得る。
なお、本明細書中におけるW(002)及びW(10)の値は、後述する実施例の「XRD測定」の項に記載の方法及び条件に従って測定された値である。
【0016】
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、例えば、ラマン散乱分光法によって1590cm-1付近で計測されるGバンドのピーク強度(IG)に対する、2670cm-1付近で計測されるG’バンドのピーク強度(IG’)の比(IG’/IG)が、0.6以上、又は0.7以上であり得る。IG’/IGが大きいほど、グラフェンの積層数が少ないことの指標となる。
また、グラフェンのG’バンドは、高配向性黒鉛(HOPG)のG’バンドよりも低波数側にシフトし、ピークの半値幅が狭い。そのため、本発明により製造される多孔質炭素材料は、好ましくは、ラマン散乱スペクトルにおけるG’バンドがHOPGのG’バンドよりも低波数側にシフトする。このような構成であれば、単層グラフェンに近い構造を有していると考えられる。
なお、本明細書におけるこれらピーク強度の値は、後述する実施例の「ラマン散乱スペクトル測定」の項に記載の方法及び条件に従って測定された値である。
【0017】
本発明の多孔質炭素材料の製造方法は、少なくとも以下の工程を含む。
被覆工程: アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子からなる鋳型の表面に、グラフェンを含む前駆体を形成する工程。
分離除去工程: 鋳型をフッ素を含まない酸で溶解して、鋳型と前駆体とを分離する工程
【0018】
本発明の一実施態様である多孔質炭素材料の製造方法において、被覆工程では、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子の表面にグラフェンを含む前駆体を形成する。ここで、本明細書中における前駆体は、グラフェンを含む炭素質であって、好ましくは、グラフェンのみから形成されるものである。また以下では、グラフェンのみから形成される前駆体を、単にグラフェンと称する。
アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子は、鋳型として機能し、得られる多孔質炭素材料は、鋳型自身の形状を反映した空孔を有することになる。つまり、鋳型の形態を転写した状態で多孔質炭素材料が合成されることになる。このため、鋳型としてのアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子は、粒子サイズのそろった、構造および組成が均一な材料であるとよい。このような材料を用いることで、制御された大きさの空孔を無数に有する多孔質炭素材料を調製することができる。また、鋳型上にエッジや欠陥の少ないグラフェンを形成できる材料であることが好ましく、高比表面積とするためにグラフェンの積層数を数層以下に制御し得る材料であることが好ましい。
このような鋳型としては、以上のように、鋳型の備えるべき材料物性と、得られる多孔質炭素材料の物性を考慮して、従来は鋳型としてアルミナ(Al23)が用いられてきた。しかしながら、鋳型としてアルミナを用いる場合、鋳型の除去において、フッ酸による処理、又はアルカリでのオートクレーブ処理が必要である。特に、フッ酸は、極めて強い腐食性を有することから、フッ酸の使用は取り扱いの困難性が伴う。
【0019】
これに対し、本発明の一実施態様である多孔質炭素材料の製造方法では、鋳型はアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子であることを特徴とする。アルカリ土類金属酸化物は、炭素源(例えばメタン)との吸着及び炭素源から水素を引き抜くための塩基性触媒として機能することができる。アルカリ土類金属酸化物は高い固体塩基性を有することに加え、さらに高温で化学的に安定な性質を有している。そのため、アルカリ土類金属酸化物は、炭化水素化合物を原料として、高温でその表面にグラフェンを形成させるのに非常に適している。したがって、CVD法による鋳型上へのグラフェン形成方法において、鋳型としてアルミナナノ粒子を用いる従来の場合と比較して、鋳型をアルカリ土類金属酸化物とすることにより、鋳型上にグラフェンを形成するための時間を短縮し得る。
【0020】
本発明の一実施態様において、アルカリ土類金属酸化物としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの酸化物が挙げられる。その中でも、取り扱いの容易さ、化学的安定性の高さの観点から、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムのうちの1種、又はそれらの組合せが好ましい。
なお、本発明の一実施形態において、アルカリ土類金属酸化物は、被覆工程においてアルカリ土類金属の酸化物であれば良く、その出発原料は特に限定をされない。例えば、鋳型の出発原料は、アルカリ土類金属酸化物そのものでも良いし、また、アルカリ土類金属の炭酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩その他の無機又は有機塩を採用することができる。
また、例えば、アルカリ土類金属酸化物が、被覆工程以外の雰囲気下において、潮解等を示し物理的変形および/または化学的変性を伴う場合には、その雰囲気下で潮解等が、より軽微であるアルカリ土類金属の塩を採用することが好ましい。
本発明の一実施態様において、鋳型であるアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子のサイズは特に限定されないが、平均粒径が、4nm以上、又は5nm以上、また、200nm以下、50nm以下、又は20nm以下であり得る。
本発明の一実施態様のように、鋳型を用いて多孔質炭素材料を作製する場合、得られる多孔質炭素材料の比表面積は鋳型の比表面積に依存する。球の体積に対する表面積の比は粒子径が小さいほど大きくなるため、粒子径が小さいほど体積に対する表面積、つまり単位体積あたりの表面積が大きくなる。従って、より粒子径の小さい鋳型粒子を使うことで高比表面積の多孔質炭素材料を作製し得る。
鋳型粒子の粒子径が大きい方が取扱いは容易で、炭素源を被覆する際の炭素源のガス透過性が良好になるため、均一な炭素被覆が容易になり得る。
一方で、鋳型粒子の粒子径が小さい方が、比表面積の高い多孔質炭素材料を作製し得る。また、後の分離除去工程で溶解される鋳型の量が相対的に増えることによる多孔質炭素材料の収率の低下を抑制できる。
【0021】
本発明の一実施態様において、鋳型であるアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子は、粒状のスペーサーと混在してもよい。スペーサーと混在させることで、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子同士の間に適度に空隙を確保することができ、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子が密に詰まり過ぎて圧損が大きくなってしまうことを防ぐことができる。スペーサーとしては、平均粒径が、例えば100~5000μmの粒子であることが好ましい。スペーサーの材質としては、炭素被覆後に篩分けできるものであれば特に制限されず、好ましくは、900~1000℃で分解しないものが用いられ得る。または、鋳型と同時に溶解除去できるものであってもよい。例えば、スペーサーとしては、石英砂、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、チタニアなどが好ましく用いられ、特に石英砂が好ましい。石英砂を用いる場合は、予め酸で洗浄し、600~1000℃で1~5時間焼成し、上記の粒径に制御したものを用いることが好ましい。
本発明の一実施態様において、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子とスペーサーとの配合比は、特に限定されないが、例えば、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子:スペーサーが、重量比で、0.1:10~10:10であることが好ましく、1:10~10:10であることがより好ましい。上記範囲内であれば、所望の特性の多孔質炭素材料が高い収率で作製し得る。
【0022】
本発明の一実施態様において、鋳型であるアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子の表面に炭素層を被覆(グラフェンを含む前駆体を形成)する方法は特に限定されず、湿式法、乾式法のいずれも適用できるが、炭素層の積層数を数層以下、好ましくは1~2層に制御することが容易であることから、好ましくは、化学気相蒸着(CVD)法により行われる。
有機化合物を導入し、鋳型上に炭素層を堆積させるために用いるCVD法は、鋳型等の基板上に特定の元素または元素組成からなる薄膜(例えば炭素からなる薄膜)を作る工業的手法である。通常、原料物質を含むガスに熱や光によってエネルギーを与えたり、高周波でプラズマ化することにより、原料物質が化学反応や熱分解によってラジカル化して反応性に富むようになり、基板上に原料物質が吸着して堆積することを利用する技術である。温度を上げて原料物質を堆積させるものを熱CVD法、化学反応や熱分解を促進させるために光を照射するものを光CVD法、ガスをプラズマ状態に励起する方法をプラズマCVD法と区別することもある。
【0023】
本発明の一実施態様において、前駆体の原料である原料ガスは、CVD法で用いる有機化合物であり得る。CVD法で用いる有機化合物は、常温で気体であるか、または気化できるものが好ましい。気化の方法は、沸点以上に熱する方法や雰囲気を減圧にする方法等がある。用いる有機化合物は、当業者に知られた炭素源物質の中から適宜選択して使用できる。特に、加熱により熱分解する化合物が好ましく、鋳型であるアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子の表面に炭素層を堆積することができる化合物が好ましい。
本発明の一実施態様において、CVD法で用いる有機化合物は、水素を含む有機化合物でも良い。この有機化合物は、不飽和または飽和の炭化水素を含む有機化合物であってもよく、これらの混合物であってもよい。用いる有機化合物としては、二重結合及び/又は三重結合を有する不飽和直鎖又は分枝鎖の炭化水素、飽和直鎖又は分枝鎖の炭化水素等であってもよく、飽和環式炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素等であってもよい。有機化合物として、メタノール、エタノールなどのアルコール類、又はアセトニトリル、アクリロニトリルなどの窒素を含む化合物を用いてもよい。有機化合物は、例えば、アセチレン、メチルアセチレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、シクロプロパン、メタン、エタン、プロパン、ベンゼン、トルエン、ビニル化合物、エチレンオキサイド、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アクリロニトリル等が挙げられる。有機化合物は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、用いる有機化合物は、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子間の空隙内に入り込むことが可能なもの、例えば、アセチレン、エチレン、プロピレン、メタン、エタン等を用いることが望ましく、結晶性の高い炭素を析出させる観点から、メタン、プロピレン、ベンゼンがより好ましい。特に、熱分解温度が高く高結晶性の炭素が得られる観点から、メタンが好適に用いられ得る。有機化合物は、より高温でのCVDに用いるものと、より低温でCVDに用いるものとでは互いに同一のものであっても異なっていてもよい。
【0024】
本発明の一実施態様において、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子上に有機化合物を導入する際は、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子の試料を予め減圧にしてもよく、系自体を減圧下にしてもよい。CVDにより炭素が堆積する方法であれば如何なる方法を用いてもよい。例えば、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子上に有機化合物の化学反応又は熱分解で生成した炭素を堆積(又は吸着)させ、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子上に炭素層を被覆/形成する。
本発明の一実施態様において、CVD処理を行う際の昇温速度も特に制限されないが、1~50℃/分であることが好ましく、5~20℃/分であることがより好ましい。CVD処理における処理時間(所定の加熱温度でのCVD処理時間)は、数層以下の炭素層が得られる時間であればよく、使用する有機化合物や温度によって適宜適切な時間を選択できる。例えば、CVD処理における処理時間は、5分~8時間であることが好ましく、0.5~6時間であることがさらに好ましい。また、本明細書で開示している分析法などを適用して、生成物を分析し、その結果に基づいて十分な炭素堆積に要求される時間を適宜設定することができる。
【0025】
本発明の一実施態様において、CVD処理は、減圧あるいは真空下の行うこともでき、加圧下に行うこともでき、または不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、好ましくは不活性ガス雰囲気下で行われる。不活性ガス雰囲気下で行う場合には、不活性ガスとしては、例えば窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられ、好ましくはアルゴンが用いられる。CVD法では、通常、気体状の有機化合物をキャリアガスと共にアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子に接触させるように流通させながら加熱することで、容易に気相中でアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子上に炭素を吸着ないし堆積させることができる。キャリアガスの種類、流速、流量および加熱温度は使用する有機化合物の種類によって適宜調節し得る。キャリアガスは、例えば上記の不活性ガス等が挙げられるが、酸素ガスまたは水素ガスとの混合物などであってもよい。好ましくは、キャリアガスとしてアルゴンが用いられる。
本発明の一実施態様において、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子上に導入される炭素層の積層数を数層以下、好ましくは1~2層とするためには、キャリアガスの流速を好ましくは0.05~1.00m/分、より好ましくは0.32~0.64m/分に調整する。また、有機化合物の導入量を、キャリアガスと有機化合物との合計量に対して、1~30体積%とすることが好ましく、5~20体積%とすることがより好ましい。
【0026】
本発明の一実施態様において、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子上の炭素の堆積量は、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子の粒径に応じて適宜設定され得る。アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子の平均粒径が5~20nm程度であれば、炭素の堆積量は、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子の重量を基準として、例えば、5~40重量%、好ましくは14~25重量%の範囲である。炭素の堆積量が5重量%以上、特には14重量%以上であれば、均一な被覆に必要な量の炭素が導入されるため、安定な三次元構造が得られうる。炭素の担持量が40重量%以下、特には30重量%以下であれば、炭素層の積層数が大きくなりすぎず、十分なBET比表面積が得られうる。
本発明の一実施態様において、炭素被覆したアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子に更に有機化合物を導入して加熱し、更に炭素を堆積させてもよい。この場合には、CVD法により得られた炭素被覆したアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子の構造がより安定する。炭化は、CVD法によって行ってもよく、他の加熱方法で行ってもよい。また、加熱温度はCVD処理の温度より高温であってもよく、低温であってもよい。また、導入する有機化合物は、CVD処理で導入した有機化合物と同じであってもよく、異なっていてもよい。この操作は、複数回行っても構わない。
【0027】
本発明の一実施態様において、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子上に炭素層を被覆(グラフェンを形成)する方法として、有機化合物を含浸法などの湿式法で導入して炭化しても良い。また、有機化合物を導入してCVDを行う前に、有機化合物を含浸して炭化しても良い。含浸する有機化合物としては、例えば、炭化歩留まりの高いフルフリルアルコール等の熱重合性モノマーが用いられ得る。有機化合物の含浸方法は、有機化合物が液体であればそのまま、または溶媒と混合して、固体であれば溶媒に溶解してアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子と接触させる等、公知の手段を採用することができる。
本発明の一実施態様において、被覆工程の後、分離除去工程の前に、炭素被覆したアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子を熱処理して、炭素層を炭化させ、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子の表面に高結晶性の炭素を析出させてもよい。このようにすることで、高結晶性かつ高比表面積のアルミナ鋳型炭素材料が得られ得る。炭素層の炭化は、CVD処理によっても進行し得るため、この熱処理は、被覆工程中のCVD処理中に行ってもよく、他の方法で行ってもよい。熱処理する手段も特に限定されず、高周波誘導加熱炉などを用いて熱処理を行ってもよく、放電プラズマ焼結(SPS)法によって熱処理を行うことができる。
このような熱処理における温度は、使用する有機化合物によって適宜選択できるが、例えば1200~1900℃であり、好ましくは1500~1800℃である。熱処理温度が1500℃以上であれば、高結晶性の炭素材料が好適に得られうる。また、熱処理温度が1800℃以下であれば、鋳型のアルカリ土類金属酸化物と炭素との反応による炭化物生成を抑制することができる。また、加熱温度は、加熱時間及び/又は反応系内の圧力に応じて適宜選択することもできる。なお、熱処理は、空気雰囲気下でも、あるいはアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下でも、減圧下でも行うことができる。
【0028】
本発明の一実施形態である多孔質炭素材料の製造方法において、分離除去工程では、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子からなる鋳型をフッ素を含まない酸で溶解して、鋳型と鋳型を被覆している炭素層とを分離する。この炭素層は、グラフェンを含んでいる。
本発明の一実施態様において、分離除去工程における、鋳型であるアルカリ土類金属酸化物のナノ粒子の溶解除去には、フッ素元素を分子中に含まない酸であって、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、若しくはホウ酸等の無機酸、分子内にカルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基、若しくはアルケノール構造等を有する有機酸、又はそれらを組み合わせたものが用いられる。フッ酸等のフッ素を含む酸は、一般に、アルカリ土類金属酸化物に含まれるアルカリ土類金属と難溶性化合物を形成するために、アルカリ土類金属酸化物の溶解過程で水系媒に難溶性の化合物を形成するが、フッ素を含まない酸を用いることで不溶性塩を形成せず、水系媒に容易に溶解する化合物を形成することができる。つまり、本発明の一実施態様によれば、従来の方法で鋳型として用いられているアルミナはフッ素を含むフッ酸を用いて溶解させるのに対して、アルカリ土類金属酸化物、特に、酸化マグネシウム及び/又は酸化カルシウムを鋳型として採用した場合、フッ素を含まない酸を用いて容易に溶解させることができる。ここで、本明細書において、酸に対して溶解することとは、鋳型と水系媒の酸とを接触させたときに、終局的に、水系媒に不溶性の化合物が残存せずに、濁りのない透明で均一な液体を形成することを言う。
【0029】
本発明の一実施態様において、フッ素を含まない酸の濃度は、アルカリ土類金属酸化物の溶解除去が可能な範囲であれば特に限定されないが、例えば、0.01~10.00Mであり得る。また、フッ素を含まない酸の使用量は、アルカリ土類金属酸化物の溶解除去が可能な範囲であれば特に限定されないが、例えば、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子に対して、量論比の30倍以上、又は両論比の50倍以上であり得る。
本発明の一実施態様において、分離除去工程における、アルカリ土類金属酸化物のフッ素を含まない酸による溶解除去は、特段、加熱することなく行うことができ、例えば、5~100℃で行うことができ、好ましくは、20~30℃で行うことができる。また、分離除去工程は、アルカリ土類金属酸化物からなる鋳型と接触している酸に撹拌操作、振動操作その他の操作を加えながら行ってもよい。分離除去工程に要する時間は、鋳型を溶解除去が可能な範囲で適宜設定し得る。
本発明の一実施態様において、鋳型であるアルカリ土類金属酸化物を溶解除去した後の多孔質炭素材料は、例えば、濾過によって回収することができ、真空加熱乾燥によって乾燥させることができる。真空加熱乾燥の条件は特に限定されないが、例えば、真空加熱乾燥温度を100~200℃とすることができる。また、真空加熱乾燥時間を、1~10時間とすることができる。
【0030】
本発明の多孔質炭素材料の製造方法において、分離除去工程の後に、鋳型が除去され、鋳型と分離された炭素層に熱処理を施す熱処理工程を更に含んでもよい。鋳型と分離された炭素層を前駆体として、この前駆体に対して熱処理を行うことによって、炭素の結晶性が高められ、安定化されるため、導電性、耐腐食性、及び/又は高比表面積をより高い水準で備えた多孔質炭素材料を作製し得る。
本発明の一実施態様において、除去分離工程の後に行われ得る熱処理工程の条件は、炭素の結晶性が高められる条件であれば特に限定されないが、例えば、熱処理工程の保持温度は、1750℃以上、又は1770℃以上、また、1850℃以下、又は1830℃以下であり得る。熱処理温度が1750℃以上であれば、導電性、耐腐食性、及び/又は高比表面積をより高い水準で備えた多孔質炭素材料を得るのに特に有用である。熱処理工程の熱処理温度が1830℃以下であれば、仮に、除去分離工程において酸に対して満足に溶解しなかった鋳型が残存していても、アルカリ土類金属酸化物のナノ粒子からなる鋳型と炭素とが反応してカーバイドを生成することを防ぐのに有用である。また、熱処理工程の熱処理時間(所定の熱処理温度での保持時間)は、例えば、0.1~10時間、0.2~5時間、又は0.5~5時間であり得る。熱処理工程における雰囲気圧力は特に限定されないが、好ましくは大気圧よりも減圧下で行われ得る。
【0031】
本発明の一実施態様である製造方法により製造される多孔質炭素材料は、吸着材、各種触媒の担体、電気二重層キャパシタや二次電池の電極材料及び導電助剤など、多種多様な用途に適用することができる。
【実施例
【0032】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び関連する図面において、グラフェンメソスポンジを「GMS」、グラフェンを含む前駆体を「CMS」と表記することがある。
【0033】
1.多孔質炭素材料の製造
1-1.被覆工程
鋳型材料と石英砂(富士フィルム和光純薬)を重量比3:10(総量8.6g)でビーカーに加え、スパチュラでかき混ぜた後、内径37mmの石英反応管に入れ、CVD装置(石川産業株式会社製の透明電気炉)にセットした。CVD条件として、以下の温度プロファイルで試験した。
(i)アルゴンガスを225mL/分の流速で流しながら、10℃/分の昇温スピードで900℃又は950℃まで加熱して当該温度で30分間保持した。
(ii)(i)で保持した温度のまま、アルゴンガスを180mL/分の流速で流しながら、メタンガスを45mL/分の流速で流し、1時間、1.5時間、又は2時間保持した。
(iii)アルゴンガスを225mL/分の流速で流しながら、室温まで冷却した。
その後、CVD装置から取り出した試料を目開き150μmの篩にかけ、石英砂を取り除き、炭素被覆された鋳型材料を得た。
【0034】
用いた鋳型材料を下記表1に示す。
【表1】
【0035】
番号1のMgO及び番号3のCaCO3は、SkySpring NanoMaterials,Incの製品であり、以下、それぞれ、「MgO(SS)」、「CaCO3(SS)」と表記されることがある。
番号2のMgOは、イーエムジャパン株式会社の製品であり、以下、「MgO(EMJ)」と表記されることがある。
番号4及び5のCaCO3は、白石工業株式会社の製品であり、以下、それぞれ「CaCO3(SK1)」、「CaCO3(SK2)」と表記されることがある。
上記表1において、粒径の値は、電界放出走査型電子顕微鏡(FE-SEM:S4800、HITACHI)にて観察したSEM画像からの実測値である。
上記表1において、比表面積の値は、下記「2.多孔質炭素材料の評価」において記載の窒素吸脱着測定により求めた実測値である。
なお、石英砂は、MgO(SS)を用いた場合を除き、目開き180μmの篩にかけたものを0.1M塩酸に1晩浸し、マッフル炉で空気雰囲気下、900℃で1時間加熱処理を行うことで汚れを落とし、これを再び目開き180μmの篩にかけたものを使用した。MgO(SS)を用いた試験では、無処理の石英砂を使用した。
【0036】
1-2.除去分離工程
上記被覆工程で得られた炭素被覆された鋳型材料1~1.4g、塩酸(富士フィルム和光純薬、5mol/L)約100g、及び撹拌子をテフロン(登録商標)ビーカーに加え、室温にて5時間撹拌した後、メンブレンフィルター(0.1μm)を用いて試料を濾過しながら純水で5回洗浄し、吸引濾過した。この時、濾紙の付着物が乾燥しないよう十分注意した。次に、付着物を100mL程アセトンの入ったガラスビーカーに入れた。このビーカーにアルミホイルを被せ、減圧乾燥機にて真空圧0.06MPaで2分間保持した後、常圧下に戻して60℃の恒温槽にて10分間加温することでアセトン置換を行った。ビーカーに入った上澄み液をピペットにて取出し、同様なアセトン置換操作をもう一度行い、150℃で6時間減圧乾燥することで、鋳型除去後のグラフェンを含む多孔質炭素材料を得た。
【0037】
1-3.熱処理工程
角型高温加熱炉(IZU-SMS005、和泉テック)にて、上記1-2.で得られた多孔質炭素材料を試料室に入れ、減圧下(10-1Paオーダー)にした後、アルゴンガス流通下(10mL/分)、15℃/分の昇温スピードで1,800℃まで加熱して当該温度で1時間保持し焼成した。その後、室温まで冷却し、焼成後の多孔質炭素材料を取り出した。この焼成後の多孔質炭素材料を以下の実施例にて評価したところ、得られたグラフェンを含む多孔質炭素材料は、グラフェンメソスポンジ構造体であることが確認された。
【0038】
2.多孔質炭素材料の評価
2-1.評価方法
2-1-1.XRD測定
株式会社リガク製のX線回折装置(Miniflex)を用いてXRD(X-ray diffraction)測定を行った。試料台にはSi無反射板を用い、円形部に試料を乗せ、下記表2に示される条件で測定を行った。
【表2】
【0039】
2-1-2.TG測定
STA-2500(NETZSCH)を用いて、アルゴンガス(80mL/分)及び酸素(20mL/分)流通下、5℃/分の昇温スピードで900℃まで加熱した後、20℃/分の降温スピードで冷却し、TG測定を行った。それぞれ空の状態のパンを使い、同じ温度プロファイル条件で行ったブランク測定結果を差し引いた。MgO(SS)を用いて得たものに対してはPtパンを使用し、それ以外のものはアルミナパンを使用した。
TG測定により求めた炭素重量減少率(%)から、炭素層の平均積層数を以下とおり算出した。炭素重量減少率から炭素層の重量を算出し、この炭素層の重量と鋳型粒子の表面積より面積当たりの炭素層の重量を算出した。次いで、鋳型粒子の面積当たりの炭素層の重量を単層グラフェンの面積当たりの炭素層の重量(7.61×10-4g/m2)で割り、平均積層数を算出した。
【0040】
2-1-3.透過型電子顕微鏡(TEM)による観察
CVD前後の試料の構造を、TEM(JEM-2010、日本電子株式会社)にて観察した。観察時の加速電圧は200kVで行った。
【0041】
2-1-4.窒素吸脱着測定
自動比表面積/細孔分布測定装置(BEL SORP MAX、日本ベル株式会社)を用いて、-196℃雰囲気下で窒素吸脱着測定を行った。なお、サンプル管内の圧力を測定する際の平衡判断条件は300秒ごとに行った。サンプルは測定前に150℃で6時間減圧乾燥する前処理を行った。測定した窒素吸着等温線から、BET法を用いてBET比表面積、BJH法を用いて細孔分布をそれぞれ求めた。なお、BET法の適用範囲はP/P0=0.1~0.3とし、細孔分布を計算するときのtファイルはGCBファイルをそれぞれ適用した。
【0042】
2-1-5.ラマン散乱スペクトル測定
レーザーラマン分光光度計(NRS-3300FL、日本分光)でラマンスペクトルを測定した。測定条件を下記表3に示す。試料を測定する前にSi標準板を測定し、Siのピーク位置が520cm-1になるように校正を行い、高配向性黒鉛(HOPG)、各試料の測定を異なる3点ずつ測定した。測定したデータは測定したHOPGのGバンドの位置と文献値(1582cm-1)との差を試料のラマンシフトの値から引くことで波数位置の補正を行った。
【表3】
【0043】
2-1-6.真空TPD測定
超高感度真空TPD装置(東北大学にて開発)を使用して、含酸素官能基及び水素終端エッジサイトを正確に定性・定量分析した。各グラフェンメソスポンジを黒鉛の試料台に1~3mg入れ、昇温速度10℃/分で1800℃まで真空加熱し、加熱中に放出されるガスを質量分析にて分析した。
【0044】
2-2.評価結果
(1)MgO(SS)を用いた試験におけるXRD測定結果
上記1-3.の熱処理前の多孔質炭素材料について、CVD処理時間を2時間とし、CVD処理温度を900℃又は950℃とした場合の結果、及び上記1-3.の熱処理後の多孔質炭素材料について、CVD処理時間を2時間とし、CVD処理温度を950℃とした場合の結果を図1に示す。CVD処理温度900℃と950℃で比較すると、950℃の場合、22~26°付近の炭素の積層に由来する002面のピークが強まった。このことから、CVD処理温度を上げることで炭素の積層が促進されると考えられた。なお、石英砂のピークが大量に確認されたのは、石英砂の前処理を施していなかったためと考えられた。石英砂のピークは1800℃の熱処理によって消失しており、炭素と反応して分解した可能性がある。
【0045】
(2)MgO(SS)を用いた試験における各分析の測定結果
上記1-3.の熱処理前後の多孔質炭素材料の物性について、CVD処理時間を2時間とし、CVD処理温度を900℃又は950℃とした場合の結果を下記表4及び5に示す。
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
上記1-3.の熱処理前の多孔質炭素材料の物性について、CVD処理温度を950℃とした場合の方が、CVD処理温度を900℃とした場合よりも、より多くの炭素が堆積し、炭素(グラフェン)の積層数が増加した。
熱処理後の収率が76%程度と小さいのは、MgO(SS)の不純物及び石英砂が消失したためである。篩にかけていない石英砂を使用していたため、石英砂の混入は従来よりも多かったものと考えられた。
【0048】
(3)MgO(EMJ)を用いた試験におけるCVD後の外観
CVD処理時間を2時間、1.5時間又は1時間とし、CVD処理温度を900℃とした場合について、CVD後の外観を図2に示す。CVD処理時間を2時間とした場合の試料の黒色度が一番強く見受けられた。
【0049】
(4)MgO(EMJ)を用いた試験におけるTG測定結果
TG測定結果と合わせて、CVD後の炭素の被覆量と鋳型の比表面積から算出した炭素(グラフェン)の平均積層数を図3に示す。TG測定開始直後の重量減は、H2Oが主要因と予測し、2段階目の重量減を炭素の燃焼とした。1段階目の重量減のもうひとつの可能性はCVD後の炭素に被覆されているMgOが外気に触れることでMg(OH)2,MgCO3に化学変化して低温で分解している可能性である(分解温度350℃)。しかしながら、XRDパターンには出てきていないので前者の要因の方が大きいと考えられた。
また、CVD処理時間が長いほど炭素の被覆量も多くなることが確認できた。
【0050】
(5)MgO(EMJ)を用いた試験におけるXRD測定結果
上記1-3.の熱処理前後の多孔質炭素材料について、CVD処理時間を2時間、1.5時間又は1時間とし、CVD処理温度を900℃とした場合の結果を、それぞれ図4及び5に示す。熱処理前の多孔質炭素材料には、石英砂のピークが見られたが、熱処理後の多孔質炭素材料には、石英砂のピークは見られなかった。これは、熱処理により揮発したか炭素と反応して分解したものと考えられた。いずれのCVD処理時間の場合においても、44°付近のグラフェン網面に由来する10面のピークが強く見られ、熱処理前後の多孔質炭素材料では更に強くなっている。各ピークについての半値幅を下記表6に示すが、半値幅の比較においても、CVD処理時間で大きな変化は見られなかった。
【0051】
【表6】
【0052】
(6)MgO(EMJ)を用いた試験における炭素の燃焼温度調査
上記1-3.の熱処理前後の多孔質炭素材料について、燃焼温度をそれぞれ図6及び7に示す。鋳型除去前複合体の燃焼温度についても試験したところ、およそ400℃で炭素燃焼が生じたのに対し、鋳型除去後炭素材料(熱処理前)の場合はおよそ600℃から炭素が燃焼した。この違いは鋳型のMgOの触媒能によるものと考えられた。また、灰分が実際の重量変化では2%程度生じていた。これは、鋳型の酸処理実験で大部分が溶けていることからSiO2が多くを占めていると考えられた。灰分の色はピンクがかった白色であった。上記1-3.の熱処理後の多孔質炭素材料の場合は、650℃付近で炭素の燃焼が終了しており、アニールによる耐熱性の向上が確認できた。
【0053】
(7)MgO(EMJ)を用いた試験における窒素吸脱着測定結果
上記1-3.の熱処理前の多孔質炭素材料について、CVD処理時間を2時間、1.5時間又は1時間とし、CVD処理温度を900℃とした場合の窒素吸脱着等温線及びBJH法から計算した各炭素の細孔径分布の結果を、それぞれ図8及び9に示す。
上記1-3.の熱処理後の多孔質炭素材料について、CVD処理時間を2時間、1.5時間又は1時間とし、CVD処理温度を900℃とした場合の窒素吸脱着等温線及びBJH法から計算した各炭素の細孔径分布の結果を、それぞれ図10及び11に示す。
CVD処理時間が短いほど、5~10nmの小さい細孔径が増えていた。これは、炭素の積層数が減ったことで構造が弱くなり、鋳型除去後の炭素乾燥において収縮量が大きくなったことが大きな要因であると考えられた。相対圧0.1~0.3を見ると、吸着量に大きな変化がなく、3つのCVD処理時間の変化で劇的な比表面積変化が生じていないことが分かった。熱処理前の多孔質炭素材料において、積層数1~2に対して比表面積が大きく変化がない理由としては、積層数が多いと綺麗に積層が起こらず、部分的に活性炭のような炭素ができている可能性もあると考えられた。
【0054】
(8)MgO(EMJ)を用いた試験におけるラマン散乱スペクトル測定結果
上記1-2.の鋳型除去前の複合体、上記1-3.の熱処理前の多孔質炭素材料、及び上記1-3.の熱処理後の多孔質炭素材料について、CVD処理時間を2時間、1.5時間又は1時間とし、CVD処理温度を900℃とした場合の結果を、それぞれ図12~14及び下記表7~9に示す。鋳型除去前の複合体と、熱処理前の多孔質炭素材料は酷似した結果となっており、鋳型除去前でも炭素の質をある程度確認することができた。熱処理前の多孔質炭素材料に関しては、CVD処理時間が短くなるほど、ID/IGが小さくなっており6員環以外の5員環・7員環が少なくなるといった欠陥が少ないと推察された。
熱処理後の多孔質炭素材料に関しては、1800℃の熱処理によりエッジサイトがほぼ取り除かれたため、グラフェンの結晶性が向上した結果、熱処理前の多孔質炭素材料と比較して、ID/IGが減少し、IG’/IGが増加する傾向となった。これはアルミナを鋳型とした場合と同じ傾向であった。
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
【表9】
【0058】
(9)MgO(EMJ)を用いた試験におけるTPD測定結果
上記1-3.の熱処理後の多孔質炭素材料について、CVD処理時間を2時間、1.5時間又は1時間とし、CVD処理温度を900℃とした場合の結果を、それぞれ図15~17及び下記表10に示す。エッジ量は全て0.1mmol/g程度であり、アルミナを鋳型とした場合と同等のエッジ量であることが確認できた。1500~1800℃におけるH2とCOの発生理由は明らかではないが、従来の製法で製造したものでも起こっている現象である。
【0059】
【表10】
【0060】
(10)MgO(EMJ)を用いた試験におけるTEM観察結果
上記1-2.の鋳型除去前の複合体、上記1-3.の熱処理前の多孔質炭素材料、及び上記1-3.の熱処理後の多孔質炭素材料について、CVD処理時間を2時間、1.5時間又は1時間とし、CVD処理温度を900℃とした場合のTEM観察画像を、それぞれ図18~26に示す。鋳型除去前の複合体に関しては、CVD処理時間が短いもの(1層に近づく)程、鋳型に炭素が被覆されているのを確認することが困難であった。炭素の被覆確認が容易であったCVD処理時間が2時間の場合では、岩塩型構造に炭素が2層近く被覆されていることが分かった。これは、TG結果から算出した炭素の被覆総層数(1.9)とかなり近い値であるが、ところどころ3層もの積層も観察された。またステップとテラスのようなTEM像も確認され、このような配位不飽和な表面イオンを有する場所が高い反応性を示す可能性もあるが、この結果からはどの結晶面に対しても同じように炭素が被覆しているように見えた。熱処理前の多孔質炭素材料では塩酸による鋳型除去後に収縮してしまった様子が確認できた。また、熱処理後の多孔質炭素材料に関しても同様なことがいえ、劇的な変化は無い印象であった。
【0061】
(11)MgO(EMJ)を用いた試験における各分析の測定結果
上記1-3.の熱処理前後の多孔質炭素材料の物性について、CVD処理時間を2時間、1.5時間又は1時間とし、CVD処理温度を900℃とした場合の結果を下記表11及び12に示す。
【表11】
【0062】
【表12】
【0063】
上記1-3.の熱処理前の多孔質炭素材料の物性について、CVD処理時間が長い方が、より多くの炭素が堆積し、炭素(グラフェン)の積層数が増加した。また、TG測定から見積もった炭素の重量減と塩酸処理に基づく炭素収率が近しい値を示しており、炭素の積層数計算はおおむね正しいと考えられた。
【0064】
(比較例)
上記1-1.において鋳型材料をγアルミナ粒子(平均粒径 7nm)とした。CVD処理温度を900℃及びCVD処理時間を2時間とした。次いで、上記1-2.において塩酸の代わりにフッ酸を用いて鋳型の溶解除去を行った。更に次いで、上記1-3.を行った。
【0065】
このとき得られた、熱処理前の多孔質炭素材料の「炭素層の平均積層数」は1.1であり、熱処理後の多孔質炭素材料の「BET比表面積」は、1940m2/gであった。
ここで、鋳型上にグラフェンが1層被覆するために要する時間について考えると、MgO(EMJ)を鋳型材料として用いた場合には、約1時間であり、一方、γ-アルミナを鋳型材料として用いた場合には、約2時間である。すなわち、鋳型としてMgO(EMJ)を用いたときの方が、γ-アルミナを用いた場合よりも速やかに鋳型上にグラフェン層を形成する。
【0066】
(12)CaCO3(SK1,SK2)を用いた試験におけるCVD後の外観
CVD処理時間を2時間とし、CVD処理温度を900℃とした場合について、CVD後の外観を図27に示す。試料の黒色が強いことが確認できた。
【0067】
(13)CaCO3(SK1,SK2)を用いた試験におけるXRD測定結果
鋳型CaCO3とCVD処理後の試料について、結果を図28及び29に示す。図28はCaCO3(SK1)の場合、図29はCaCO3(SK2)の場合である。CVD処理時間は2時間、CVD処理温度は900℃であった。CaCO3は、どちらも900℃のCVD処理によりCaOに変化していることが確認できた。CVD処理後の試料にCa(OH)2ができているのは、CaOの潮解性でH2Oと反応したためと考えられた。
上記1-3.の熱処理前の多孔質炭素材料について、結果を図30に示す(CVD処理条件は上記と同じである)。石英砂のピークが確認され、22~26°付近の炭素の積層に由来する002面のピークが強く検出された。また、44°付近のグラフェン網面に由来する10面のピークも検出されたことから、鋳型としてCaCO3を用いた場合にもグラフェンメソスポンジ構造体を製造し得ると考えられた。
図1
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