(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】木質積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27D 1/04 20060101AFI20231222BHJP
B27D 3/00 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
B27D1/04 A
B27D3/00 A
(21)【出願番号】P 2022527527
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009287
(87)【国際公開番号】W WO2021240946
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2020093715
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】田村 俊樹
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-124801(JP,A)
【文献】特開2014-19029(JP,A)
【文献】特開2014-126229(JP,A)
【文献】特開2018-51837(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2944461(EP,A1)
【文献】国際公開第2006/130939(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27D 1/04- 3/04
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤシ単板に多価カルボン酸が供給されて得られた非圧縮単板を、少なくとも1枚以上準備する非圧縮単板準備工程と、
ヤシ単板に多価カルボン酸が供給され、第1温度で加熱されるとともに第1圧力で加圧されて得られた予備圧縮単板を複数枚準備する予備圧縮単板準備工程と、
少なくとも1枚以上の前記非圧縮単板を含む芯材の両面に前記予備圧縮単板を少なくとも1枚ずつ重ねて、前記第1温度よりも高い第2温度で加熱するとともに前記第1圧力よりも低い第2圧力で加圧する熱圧工程と、を有する、
木質積層板の製造方法。
【請求項2】
前記芯材の両面に複数枚の前記予備圧縮単板を重ねる、
請求項1に記載の木質積層板の製造方法。
【請求項3】
前記第1温度と前記第2温度との温度差が20℃以上120℃以下である、
請求項1又は2に記載の木質積層板の製造方法。
【請求項4】
前記第1温度が100℃以上160℃以下であり、前記第2温度が180℃以上220℃以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の木質積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に木質積層板の製造方法に関し、より詳細にはヤシ単板を用いた木質積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、オイルパーム薄板の接合方法が開示されている。このオイルパーム薄板の接合方法は、薄板工程と、薄板乾燥工程と、積層工程と、加熱工程と、押圧工程と、固定工程と、を具備する。薄板工程では、所定長のオイルパームの幹をその周方向に回転させながらロータリーレースで外周から所定の厚みに剥いて複数枚の薄板に形成する。薄板乾燥工程では、薄板を乾燥する。積層工程では、薄板乾燥工程で乾燥させた薄板を所定の状態に複数枚積層する。加熱工程では、積層工程以降で積層された薄板の温度を上昇させるべく加熱する。押圧工程では、加熱工程によって加熱された積層された薄板に、薄板の面に対して直角方向の圧縮力を加える。固定工程では、押圧工程で所定時間押圧した後、加熱工程で供給していた温度を降下させる。これらの工程を経て、積層合板が得られる。
【0003】
しかしながら、特許文献1のオイルパーム薄板の接合方法では、加熱工程において、積層された薄板の内部にまで熱を十分に伝えることが難しい。そのため、オイルパーム薄板に含まれるリグニン等の反応が進行しにくくなる。その結果、積層合板においてオイルパーム薄板同士の接合力が弱くなるおそれがある。
【0004】
一方、特許文献2には、オイルパーム材を乾燥させるために加熱圧縮し、この圧縮したオイルパーム材を重ねて積層合板を製造することが開示されている。
【0005】
しかしながら、オイルパーム薄板(オイルパーム材)は密度が低いため、特許文献1のオイルパーム薄板の接合方法により得られた積層合板、及び特許文献2の積層合板の製造方法により得られた積層合板は、表面硬度が弱くなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-019029号公報
【文献】特開2014-126229号公報
【発明の概要】
【0007】
本開示の目的は、表面硬度を向上させることができる木質積層板の製造方法を提供することにある。
【0008】
本開示の一態様に係る木質積層板の製造方法は、非圧縮単板準備工程と、予備圧縮単板準備工程と、熱圧工程と、を有する。前記非圧縮単板準備工程では、ヤシ単板に多価カルボン酸が供給されて得られた非圧縮単板を、少なくとも1枚以上準備する。前記予備圧縮単板準備工程では、ヤシ単板に多価カルボン酸が供給され、第1温度で加熱されるとともに第1圧力で加圧されて得られた予備圧縮単板を複数枚準備する。前記熱圧工程では、少なくとも1枚以上の前記非圧縮単板を含む芯材の両面に前記予備圧縮単板を少なくとも1枚ずつ重ねて、前記第1温度よりも高い第2温度で加熱するとともに前記第1圧力よりも低い第2圧力で加圧する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1A~
図1Cは、本開示の一実施形態に係る木質積層板の製造方法を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.概要
以下、本開示の一実施形態に係る木質積層板1の概要を説明する。木質積層板1の製造方法は、非圧縮単板準備工程と、予備圧縮単板準備工程と、熱圧工程と、を有する。
【0011】
非圧縮単板準備工程では、少なくとも1枚以上の非圧縮単板2を準備する(
図1A参照)。非圧縮単板2は、ヤシ単板に多価カルボン酸が供給されて得られる。非圧縮単板2は、圧縮されていない単板であり、通気性を有する。
【0012】
予備圧縮単板準備工程では、複数枚の予備圧縮単板3を準備する(
図1A参照)。予備圧縮単板3は、ヤシ単板に多価カルボン酸が供給され、第1温度で加熱されるとともに第1圧力で加圧されて得られる。予備圧縮単板3は、予備的に圧縮された単板であり、予備的な圧縮により、圧縮前の厚みよりも薄厚化されて、非圧縮単板2よりも緻密化されている。これにより、予備圧縮単板3の熱伝導性は、非圧縮単板2の熱伝導性よりも向上し得る。
【0013】
熱圧工程では、芯材4の両面に予備圧縮単板3を少なくとも1枚ずつ重ねて、第1温度よりも高い第2温度で加熱するとともに第1圧力よりも低い第2圧力で加圧する(
図1B参照)。芯材4は、少なくとも1枚以上の非圧縮単板2を含む。
【0014】
上述のように、予備圧縮単板3は、非圧縮単板2に比べて熱が伝わりやすいので、非圧縮単板2のみを重ねた場合と比較すると、外側の予備圧縮単板3に加えられた熱は、内側の非圧縮単板2に伝わりやすくなる。これにより、ヤシ単板に含まれる糖類と多価カルボン酸との反応(硬化反応)は、予備圧縮単板3内だけでなく、非圧縮単板2内でも進行しやすくなる。この反応の生成物である硬化物は、非圧縮単板2同士、予備圧縮単板3同士、及び非圧縮単板2と予備圧縮単板3とを接着し得る。
【0015】
さらに非圧縮単板2の内部は、予備圧縮単板3の内部に比べて水分(主に水蒸気)Wが通導しやすい。そのため、非圧縮単板2及び予備圧縮単板3が両側から加熱加圧されると、予備圧縮単板3の内部及び非圧縮単板2の内部の水分Wは、非圧縮単板2の内部を加圧方向に対して垂直な面内に広がりつつ外部に流出する(
図1B参照)。
【0016】
熱圧工程により、非圧縮単板2同士、予備圧縮単板3同士、及び非圧縮単板2と予備圧縮単板3とが接着される。そして、非圧縮単板2は圧縮層52となり、予備圧縮単板3は圧縮層53となる。これにより、木質積層板1が得られる(
図1C参照)。硬化反応は、木質積層板1の表層部だけでなく、内部でも十分に進行している。すなわち、圧縮層52同士の間の接着力、圧縮層53同士の間の接着力、及び圧縮層52と圧縮層53との間の接着力が向上し得る。
【0017】
したがって、本実施形態によれば、予備圧縮単板3が更に圧縮されて圧縮層53となって木質積層板1の表層部に位置することで、木質積層板1の表面硬度を向上させることができる。さらに上述のように、圧縮層52同士の間の接着力、圧縮層53同士の間の接着力、及び圧縮層52と圧縮層53との間の接着力が向上することで、木質積層板1の剥離強度も向上させることができる。
【0018】
2.詳細
以下、本実施形態に係る木質積層板1の製造方法について、
図1A~
図1Cを参照して更に詳細に説明する。
【0019】
図1A~
図1Cは、本実施形態に係る木質積層板1の製造方法の一例を示す。木質積層板1の製造方法は、非圧縮単板準備工程と、予備圧縮単板準備工程と、熱圧工程と、を有する。非圧縮単板準備工程及び予備圧縮単板準備工程の前後は問わず、両者は同時でもよい。一方、熱圧工程は、非圧縮単板準備工程及び予備圧縮単板準備工程よりも後の工程である。
【0020】
<非圧縮単板準備工程>
非圧縮単板準備工程では、少なくとも1枚以上(本実施形態では3枚)の非圧縮単板2を準備する(
図1A参照)。非圧縮単板2は、ヤシ単板を用いて得られる単板であって、圧縮されていない単板であり、通気性を有する。なお、非圧縮単板2は、ヤシ単板の内部に存在する水分を抜くために、加圧して押し出す程度の圧縮はなされていてもよい。すなわち、非圧縮単板2は、全く圧縮されていない単板のみを意味するものではない。
【0021】
非圧縮単板2は、具体的にはヤシ単板に多価カルボン酸を供給して得られる。このように、ヤシ単板に触媒として多価カルボン酸を供給しておくことで、熱圧工程の際に硬化反応の生成物である硬化物が、ヤシ単板同士を接着する接着剤として機能し得る。なお、本明細書において「硬化反応」とは、主として、ヤシ単板に含まれる糖類と多価カルボン酸との反応を意味する。
【0022】
上述のように、非圧縮単板2は圧縮されていない単板であるので、非圧縮単板2の道管はほとんど潰れていない。道管は、水分Wの通導の役割を果たす管状組織である。
【0023】
ここで、ヤシ単板は、ヤシ(椰子)の原木を切削機械により切削して得ることができる。切削機械としては、例えば、ベニヤレース(ロータリーレース)及びスライサーが挙げられる。そして、原木の切削後、所定の大きさ及び形状に切断されるとともに、加熱乾燥されて、ヤシ単板の含水量が調整される。
【0024】
ヤシとしては、例えば、アブラヤシ及びココヤシが挙げられる。ヤシは、他の植物に比べて糖類を比較的多く含む。
【0025】
ヤシに含まれる糖類は、単糖、二糖及び多糖(オリゴ糖を含む)である。二糖及び多糖は、複数の単糖がグリコシド結合して構成されている。単糖及び二糖の合計含有量は、ヤシ単板(固形分)の質量に対して、好ましくは5質量%以上である。
【0026】
単糖として、例えば、フルクトース、リボース、アラビノース、ラムノース、キシルロース及びデオキシリボースが挙げられる。
【0027】
二糖として、例えば、スクロース、マルトース、トレハロース、ツラノース、ラクツロース、マルツロース、パラチノース、ゲンチオビウロース、メリビウロース、ガラクトスクロース、ルチヌロース及びプランテオビオースが挙げられる。
【0028】
多糖として、例えば、デンプン、アガロース、アルギン酸、グルコマンナン、イヌリン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、グリコーゲン及びセルロースが挙げられる。オリゴ糖として、例えば、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖及びスタキオースが挙げられる。
【0029】
ところで、東南アジアではパーム油産業が盛んであるが、ヤシは20~30年で実の付きが悪くなる。そのため、ヤシの古木(OPT:Oil Palm Trunk)をいかに処理するかが問題となっている。それというのも、温室効果ガスの放出を防ぐなどという目的でヤシの古木の焼却処分が禁止されており、それに加えてヤシは含水率が高いため、木材としての再利用が難しいからである。このような事情から、伐採されたヤシの古木などを有効利用することが望まれており、木質積層板1の原料として容易に入手することができる。このように、本実施形態では、ヤシの古木を有効利用することができる。
【0030】
ヤシ単板の厚みは、特に限定されないが、例えば2mm以上8mm以下である。非圧縮単板2は圧縮されていないので、非圧縮単板2の厚みは、ヤシ単板の厚みと同様である。
【0031】
一方、多価カルボン酸は、複数のカルボキシ基を有する化合物であれば、特に限定されない。多価カルボン酸として、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、セバシン酸、イタコン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸(1,5-ペンタン二酸)、グルタコン酸及びペンテン二酸が挙げられる。多価カルボン酸として、酸無水物も使用できる。
【0032】
上記に列挙した多価カルボン酸のうち、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、セバシン酸、及びイタコン酸は、植物を原料として製造することが可能なため、特に好ましい。このように植物を原料としている場合、化石資源の使用が抑制されるため、環境へ負担をかけずに木質積層板1を得ることができる。なお、多価カルボン酸は、ポリカルボン酸と同義である。
【0033】
好ましくは、多価カルボン酸は、多価カルボン酸溶液(例えば多価カルボン酸水溶液)としてヤシ単板に供給する。これにより、多価カルボン酸がヤシ単板に含浸されやすくなる。
【0034】
具体的には、多価カルボン酸は、次のようにしてヤシ単板に供給することができる。すなわち、多価カルボン酸水溶液をスプレー等でヤシ単板に向けて散布することができる。またヤシ単板を多価カルボン酸水溶液中に浸漬することができる。またロール又は刷毛等で多価カルボン酸水溶液をヤシ単板に塗布することができる。また多価カルボン酸の粉末を直接、ヤシ単板に散布することができる。
【0035】
上述のように、多価カルボン酸をヤシ単板に供給する際に、多価カルボン酸は、液体(水溶液)の状態であってもよいし、粉末の状態であってもよい。水溶液の状態である場合には、多価カルボン酸水溶液の濃度は、特に限定されないが、例えば1質量%以上50質量%以下である。なお、多価カルボン酸水溶液を用いる場合、ヤシ単板に供給した後、必要に応じて、加熱乾燥されてヤシ単板の含水量が調整される。
【0036】
多価カルボン酸の供給量は、特に限定されない。多価カルボン酸の供給量は、例えば、ヤシ単板の単位体積当たりに存在する多価カルボン酸の質量で規定される。好ましくは、多価カルボン酸の供給量は、固形分比率で0.5質量%以上5質量%以下である。
【0037】
ここで、ヤシ単板に含まれる糖類と多価カルボン酸との硬化反応について説明する。硬化反応は、糖類と多価カルボン酸との反応を意味する。糖類は、加熱処理されると加水分解し、加水分解生成物が生成される。さらに加水分解生成物は、脱水縮合して糖変性物の反応生成物が生成される。この糖類と多価カルボン酸との反応物(例えば糖クエン酸反応物)は、熱硬化性を有するようになる。この反応物の硬化により、非圧縮単板2及び予備圧縮単板3の内部の繊維同士が接着され、非圧縮単板2同士が接着され、予備圧縮単板3同士が接着され、非圧縮単板2と予備圧縮単板3とが接着される。
【0038】
例えば、糖類がスクロースの場合、以下のようにして硬化反応及び接着反応が進行すると推測される。まず、スクロースが加水分解してグルコースとフルクトースとが生成される。次にフルクトースの脱水反応により、フルフラールが生成される。糖変性物であるフルフラールは、更なる加熱処理により、熱硬化性樹脂であるフラン樹脂となり、多価カルボン酸の存在下で硬化する。一方、グルコースは、脱水縮合反応により糖エステルポリマーとなって硬化及び接着すると考えられる。
【0039】
<予備圧縮単板準備工程>
予備圧縮単板準備工程では、複数枚(本実施形態では6枚)の予備圧縮単板3を準備する(
図1A参照)。予備圧縮単板3は、予備的に圧縮された単板であり、予備的な圧縮により、圧縮前の厚みよりも薄厚化されて、非圧縮単板2よりも緻密化されている。すなわち、予備圧縮単板3の内部は、非圧縮単板2の内部に比べて繊維が潰れて空隙が小さくなっている。そのため、水分Wは、非圧縮単板2の内部を通導しやすいのに対して、予備圧縮単板3の内部を通導しにくい。つまり、予備圧縮単板3の通気性は、非圧縮単板2の通気性よりも低下し得る。しかしながら、緻密化されることで、予備圧縮単板3の熱伝導性は、非圧縮単板2の熱伝導性よりも向上し得る。
【0040】
予備圧縮単板3は、具体的にはヤシ単板に多価カルボン酸を供給し、第1温度で加熱するとともに第1圧力で加圧して得られる。すなわち、予備圧縮単板3は、非圧縮単板2を第1温度で加熱するとともに第1圧力で加圧して得られる。つまり、予備圧縮単板3は、非圧縮単板2に対して熱圧処理(第1熱圧処理)を行うことにより得られる。非圧縮単板2を第1温度で加熱すると、非圧縮単板2内での硬化反応が開始されるが、硬化反応は途中まで進行して停止する。つまり、予備圧縮単板3内での硬化反応は完了していない。なお、第1熱圧処理では、公知の圧締装置(プレス)が使用可能である。熱源としては、特に限定されないが、蒸気、熱水、電熱、及び高周波が挙げられる。プレス方式としては、特に限定されないが、平板(1段、多段)プレス方式、及びロール(連続)プレス方式が挙げられる。
【0041】
ここで、第1熱圧処理の第1温度は、硬化反応が進行可能であり、かつ硬化反応が過剰に進行しない温度であれば、特に限定されない。好ましくは、第1温度は100℃以上160℃以下である。第1温度が100℃以上であることで、予備圧縮単板3の内部を緻密化しやすくなる。第1温度が160℃以下であることで、硬化反応の進み過ぎを抑制し、予備圧縮単板3の接着性を確保しやすくなる。
【0042】
また第1熱圧処理の第1圧力は、ヤシ単板の圧縮が可能な圧力であれば、特に限定されない。好ましくは、第1圧力は0.5MPa以上4MPa以下である。
【0043】
また第1熱圧処理の時間(第1時間)は、好ましくは10秒以上5分以下の範囲内であり、より好ましくは10秒以上3分以下の範囲内である。
【0044】
予備圧縮単板3は圧縮されているので、予備圧縮単板3の厚みは、圧縮前の厚みよりも薄い。予備圧縮単板3の厚みは、圧縮前の厚みの1/2倍以上9/10倍以下(0.5倍以上0.9倍以下)となり得る。予備圧縮単板3の厚みは、特に限定されないが、例えば1mm以上8mm以下である。
【0045】
<熱圧工程>
熱圧工程では、非圧縮単板2及び予備圧縮単板3を積層して熱圧処理(第2熱圧処理)を行う。具体的には、熱圧工程では、芯材4の両面に予備圧縮単板3を少なくとも1枚ずつ(本実施形態では3枚ずつ)重ねて、第1温度よりも高い第2温度で加熱するとともに第1圧力よりも低い第2圧力で加圧する(
図1B参照)。なお、第2熱圧処理でも、第1熱圧処理と同様に、公知の圧締装置(プレス)が使用可能である。
【0046】
芯材4は、少なくとも1枚以上(本実施形態では3枚)の非圧縮単板2を含む。芯材4が複数枚の非圧縮単板2を含む場合、これらの非圧縮単板2を重ねて配置する。隣接する非圧縮単板2同士の繊維方向(木目の方向)は、非平行でもよいし、平行でもよい。なお、非平行には直交が含まれる。
【0047】
芯材4の両面に予備圧縮単板3を重ねて配置する場合、隣接する非圧縮単板2及び予備圧縮単板3の繊維方向は、非平行でもよいし、平行でもよい。さらに芯材4の片面に複数枚の予備圧縮単板3を重ねて配置する場合、隣接する予備圧縮単板3同士の繊維方向は、非平行でもよいし、平行でもよい。
【0048】
好ましくは、芯材4の両面に複数枚の予備圧縮単板3を重ねる。これにより、木質積層板1の表面硬度を更に向上させることができる。
【0049】
第2熱圧処理により、芯材4に含まれる非圧縮単板2内での硬化反応が開始され、完了する。これにより、非圧縮単板2は、圧縮されて、圧縮層52となる。一方、第2熱圧処理により、予備圧縮単板3内での硬化反応が再開され、完了する。これにより、予備圧縮単板3は、更に圧縮されて、圧縮層53となる。
【0050】
ここで、第2熱圧処理の第2温度は、第1温度よりも高ければ、特に限定されない。好ましくは、第1温度と第2温度との温度差が20℃以上120℃以下である。より好ましくは、第2温度が180℃以上220℃以下である。これにより、予備圧縮単板3内での硬化反応を更に進行させやすくなる。また予備圧縮単板3から芯材4(非圧縮単板2)へ熱を更に伝えやすくなる。そのため、最終的に、非圧縮単板2内での硬化反応を、予備圧縮単板3内での硬化反応と同程度にまで進行させることができる。したがって、木質積層板1の剥離強度を向上させることができる。
【0051】
また第2熱圧処理の第2圧力は、第1圧力よりも低ければ、特に限定されない。第2圧力は、製造しようとする木質積層板1の密度に応じて、適宜調整すればよい。好ましくは、第2圧力は0.5MPa以上4MPa以下である。
【0052】
また第2熱圧処理の時間(第2時間)は、好ましくは10秒以上30分以下の範囲内であり、より好ましくは1分以上20分以下の範囲内である。
【0053】
上述のように、予備圧縮単板3は、非圧縮単板2に比べて熱が伝わりやすいので、非圧縮単板2のみを重ねた場合と比較すると、外側に位置する予備圧縮単板3に加えられた熱は、内側に位置する芯材4(非圧縮単板2)に伝わりやすくなる。これにより、硬化反応は、予備圧縮単板3内だけでなく、非圧縮単板2内でも進行しやすくなる。
【0054】
さらに非圧縮単板2の内部は、予備圧縮単板3の内部に比べて水分Wが通導しやすい。そのため、予備圧縮単板3を介して芯材4(非圧縮単板2)が両側から加熱加圧されると、非圧縮単板2及び予備圧縮単板3の内部の水分Wは、非圧縮単板2の内部を加圧方向に対して垂直な面内に広がりつつ外部に流出する(
図1B参照)。このように、水分Wを排出することで、芯材4及び予備圧縮単板3の内部の蒸気圧力を小さくすることができ、プレスの解圧時に内部剥離(パンク)が生じるのを抑制することができる。なお、水分Wには、硬化反応により生成した水分(縮合水など)も含まれる。
【0055】
上述した熱圧工程により、非圧縮単板2は圧縮層52となり、予備圧縮単板3は圧縮層53となる。これにより、木質積層板1が得られる(
図1C参照)。
【0056】
非圧縮単板は圧縮されて圧縮層52となるので、圧縮層52の厚みは、非圧縮単板2の厚みよりも薄くなる。圧縮層52の厚みは、非圧縮単板2の厚みの1/4倍以上3/4倍以下となり得る。圧縮層52の厚みは、特に限定されないが、例えば1mm以上4mm以下である。
【0057】
一方、予備圧縮単板3は更に圧縮されて圧縮層53となるので、圧縮層53の厚みは、予備圧縮単板3の厚みよりも薄くなる。圧縮層53の厚みは、予備圧縮単板3の厚みの1/4倍以上3/4倍以下となり得る。圧縮層53の厚みは、特に限定されないが、例えば1mm以上4mm以下である。
【0058】
上述のように、硬化反応は、木質積層板1の表層部だけでなく、内部でも十分に進行している。すなわち、圧縮層52同士の間の接着力、圧縮層53同士の間の接着力、及び圧縮層52と圧縮層53との間の接着力が向上し得る。したがって、本実施形態によれば、木質積層板1の剥離強度を向上させることができる。さらに予備圧縮単板3よりも内側に存在する非圧縮単板2に熱を伝えやすくなるので、木質積層板1の成型時間の短縮にも繋がる。
【0059】
ところで、特許文献1、2では、積層合板の表面硬度を強くしようとして、押圧工程での圧縮力を大きくすると、積層合板の密度が高くなって重くなりやすく、取り扱い性が悪くなったり、さらには同じ厚みの積層合板を製造するときに用いるオイルパーム材の量が増え、材料効率が悪くなったりするおそれがある。
【0060】
しかしながら、本実施形態では、特許文献1、2のような問題が生じにくい。以下、この点について説明する。同じ密度の木質積層板1を製造するために予備圧縮単板3のみを重ねて製造した場合と比較すると、最表層の予備圧縮単板3は、より高圧縮されて緻密化された層となる。これは、予備圧縮単板3のみを重ねて製造した場合は、木質積層板1の厚み方向で密度はほぼ均一であるが、本実施形態の場合、非圧縮単板2に由来する圧縮層52は密度が低く、予備圧縮単板3に由来する圧縮層53は密度が高くなることに起因する。この非圧縮単板2由来の圧縮層52の密度が低い分、予備圧縮単板3由来の圧縮層53の密度を高くすることができ、予備圧縮単板3のみを重ねて製造した場合よりも密度が高くなる。
【0061】
したがって、本実施形態によれば、木質積層板1の全体の密度を過度に高くしなくても、表面硬度を向上させることができ、取り扱い性が悪くなったり、用いるヤシ単板の材料効率が悪くなったりすることを抑制することができる。
【0062】
木質積層板1の厚みは、特に限定されないが、例えば4mm以上15mm以下である。木質積層板1の密度は、特に限定されないが、好ましくは0.4g/cm3以上1.2g/cm3以下である。
【0063】
3.変形例
上記実施形態では、芯材4の片面に配置される予備圧縮単板3の枚数は3枚であるが、1枚のみでもよく、2枚又は4枚以上でもよい。
【0064】
上記実施形態では、芯材4の両面に配置される予備圧縮単板3の枚数は同じ(3枚ずつ)であるが、異なっていてもよい。
【0065】
上記実施形態では、芯材4は、3枚の非圧縮単板2を含んでいるが、芯材4は、1枚の非圧縮単板2のみを含んでもよく、2枚又は4枚以上の非圧縮単板2を含んでもよい。
【0066】
上記実施形態では、木質積層板1において単板(非圧縮単板2及び予備圧縮単板3)の総枚数は奇数枚(9枚)であるが、偶数枚でもよい。
【0067】
4.態様
上記実施形態及び変形例から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。以下では、実施形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0068】
第1の態様は、木質積層板(1)の製造方法であって、非圧縮単板準備工程と、予備圧縮単板準備工程と、熱圧工程と、を有する。前記非圧縮単板準備工程では、ヤシ単板に多価カルボン酸が供給されて得られた非圧縮単板(2)を、少なくとも1枚以上準備する。前記予備圧縮単板準備工程では、ヤシ単板に多価カルボン酸が供給され、第1温度で加熱されるとともに第1圧力で加圧されて得られた予備圧縮単板(3)を複数枚準備する。前記熱圧工程では、少なくとも1枚以上の前記非圧縮単板(2)を含む芯材(4)の両面に前記予備圧縮単板(3)を少なくとも1枚ずつ重ねて、前記第1温度よりも高い第2温度で加熱するとともに前記第1圧力よりも低い第2圧力で加圧する。
【0069】
この態様によれば、表面硬度を向上させることができる。
【0070】
第2の態様は、第1の態様に基づく木質積層板(1)の製造方法である。第2の態様では、前記芯材(4)の両面に複数枚の前記予備圧縮単板(3)を重ねる。
【0071】
この態様によれば、表面硬度を更に向上させることができる。
【0072】
第3の態様は、第1又は第2の態様に基づく木質積層板(1)の製造方法である。第3の態様では、前記第1温度と前記第2温度との温度差が20℃以上120℃以下である。
【0073】
この態様によれば、剥離強度を向上させることができる。
【0074】
第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか一つに基づく木質積層板(1)の製造方法である。第4の態様では、前記第1温度が100℃以上160℃以下であり、前記第2温度が180℃以上220℃以下である。
【0075】
この態様によれば、剥離強度を更に向上させることができる。
【実施例】
【0076】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。ただし、本開示は、実施例に限定されない。
【0077】
(実施例1)
<非圧縮単板準備工程>
ヤシ単板(110mm×110mm×厚み3mm)を準備した。ヤシ単板の両面に触媒(クエン酸水溶液)を塗布し、非圧縮単板を得た。触媒は、触媒及びヤシ単板の合計質量(固形分)に対して5質量%となるように調整して塗布した。
【0078】
<予備圧縮単板準備工程>
圧締装置を用いて非圧縮単板に第1熱圧処理を行って予備圧縮単板を得た。第1熱圧処理の第1温度は160℃、第1圧力は2MPa、第1時間は0.5分とした。
【0079】
<熱圧工程>
3枚の非圧縮単板を重ねて芯材とし、この芯材の両面に予備圧縮単板を3枚ずつ重ねて、第2熱圧処理を行って木質積層板を製造した。隣接する単板の繊維方向は互いに直交させた。
【0080】
第2熱圧処理の第2温度は200℃、第2圧力は1MPa、第2時間は20分とした。なお、圧締装置の上下の熱板間にはディスタンスバーが取り付けられており、このディスタンスバーの間隔を12mmに設定することで、木質積層板の厚みを一定(12mm)にした。
【0081】
(比較例1)
実施例1と同様の非圧縮単板を9枚重ねて、実施例1と同様の第2熱圧処理を行って木質積層板を製造した。
【0082】
(比較例2)
第1圧力を1MPaに変更した以外は、実施例1と同様にして予備圧縮単板を得た。そして、この予備圧縮単板を9枚重ね、実施例1と同様の第2熱圧処理を行って木質積層板を製造した。
【0083】
(実施例2)
第1圧力を3MPaに変更した以外は、実施例1と同様にして予備圧縮単板を得た。そして、実施例1と同様に3枚の非圧縮単板の両面に、上記の予備圧縮単板を3枚ずつ重ね、第2圧力を2MPaに変更した以外は、実施例1と同様の第2熱圧処理を行って木質積層板を製造した。なお、圧締装置のディスタンスバーの間隔を8mmに設定することで、木質積層板の厚みを一定(8mm)にした。
【0084】
(比較例3)
実施例1と同様の非圧縮単板を9枚重ねて、実施例2と同様の第2熱圧処理を行ったが、木質積層板を製造することができなかった。プレスの解圧時に内部剥離(パンク)を生じた。
【0085】
(比較例4)
第1圧力を2MPaに変更した以外は、実施例1と同様の予備圧縮単板を9枚重ねて、実施例2と同様の第2熱圧処理を行って木質積層板を製造した。
【0086】
<ボード性能>
木質積層板のボード性能を以下のようにして評価した。
【0087】
[剥離強度]
JIS A 5908に準拠して剥離強さ試験を行い、剥離強度を測定した。
【0088】
[吸水厚さ膨張率]
JIS A 5908に準拠して吸水厚さ膨張率試験を行い、吸水厚さ膨張率を測定した。
【0089】
[デュポン凹み(耐おもり落下性)]
JIS K 5600-5-3に準拠してデュポン式試験を行った。先端が丸い500gのおもりを、その先端を下にして、30cmの高さから木質積層板の表面に落とした。おもりの先端径は0.5インチ(約1.27cm)である。おもりの衝突によって形成された凹みの深さを測定した。
【0090】
【0091】
実施例1では、同じ厚み及び密度の比較例1、2に対してデュポン凹みが小さく、表面硬度が向上していることが確認された。また吸水厚さ膨張率の測定結果から、実施例1では、比較例1に対して耐水性も向上していることが確認された。さらに剥離強度の測定結果から、実施例1では、比較例1に対して剥離強度も向上していることが確認された。
【0092】
特に比較例1では、予備圧縮単板を用いずに非圧縮単板のみを用いて木質積層板を製造したため、3種類のボード性能(デュポン凹み、剥離強度、及び吸水厚さ膨張率)が全て悪化した。
【0093】
また実施例2では、同じ厚み及び密度の比較例4に対してデュポン凹みが小さく、表面硬度が向上していることが確認された。
【0094】
また比較例3では、水分が通導し得る経路を確保できず、水分の排出が不十分であったため、内部の蒸気圧力が大きくなり、内部剥離(パンク)が生じたと考えられる。
【符号の説明】
【0095】
1 木質積層板
2 非圧縮単板
3 予備圧縮単板
4 芯材