(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤、mPTP開口阻害活性を有する新規化合物及びそれらの用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/166 20060101AFI20231222BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20231222BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231222BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231222BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231222BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20231222BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20231222BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20231222BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20231222BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231222BHJP
A61P 29/02 20060101ALI20231222BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231222BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231222BHJP
C07D 313/08 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
A61K31/166
A61K31/343
A61P9/00
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/04
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/24
A61P25/28
A61P29/02
A61P37/06
A61P43/00 111
C07D313/08 CSP
(21)【出願番号】P 2019112568
(22)【出願日】2019-06-18
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠史
(72)【発明者】
【氏名】坂下 美恵
(72)【発明者】
【氏名】川上 博哉
(72)【発明者】
【氏名】喜久里 貢
(72)【発明者】
【氏名】白井 文幸
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03462487(US,A)
【文献】西独国特許出願公開第01923964(DE,A1)
【文献】SCHWARZ, J. S., et al.,Chemistry of tetracyclines. I. Mercuric acetate oxidation of tetracycline,Journal of Organometallic Chemistry,1967年,32(4), 1238-1241
【文献】SHANG, Z., et al.,Fungal Biotransformation of Tetracycline Antibiotics,Journal of Organic Chemistry,2016年,81(15), 6186-6194
【文献】GU, J., et al,Facile conversion of tetracycline antibiotics to 4,11a-bridged derivatives via oxidative mannich cyclization,Journal of Antibiotics,2010年,63(12), 693-698
【文献】Gieseler A., et al.,Inhibitory modulation of the mitochondrial permeability transition by minocycline,Biochem Pharma,2009年,77(5),888-896
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/166
A61K 31/343
A61P 9/00
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 25/04
A61P 25/14
A61P 25/16
A61P 25/24
A61P 25/28
A61P 29/02
A61P 37/06
A61P 43/00
C07D 313/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
[式中、
R
1は、水素、ハロゲン又は置換若しくは非置換のアミノであり、
R
2、R
3、R
4及びR
5は、次の(i)及び(ii):
(i)
R
2は、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5は、水素である、
(ii)
R
2は、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3、R
4及びR
5は、水素である、
の条件のいずれかを満たし、
R
6は、水素又はヒドロキシルであり、
R
7、R
8、R
9及びR
10は、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R
7及びR
8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R
9及びR
10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R
7及びR
9は、ヒドロキシルであり、
R
8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成し、
R
10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R
11は、-C(=O)-NH
2又は-CNである。]
で表される化合物、その立体異性
体若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤。
【請求項2】
R
2が、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4が、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5が、水素である、
請求項1に記載のミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤。
【請求項3】
R
1が、水素である、
請求項1又は2に記載のミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤。
【請求項4】
R
11が、-C(=O)-NH
2である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤。
【請求項5】
式(I)で表される化合物、その立体異性
体若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物が、
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物I-1);
2,3,5,6-テトラヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンズアミド(化合物I-2);
4-((8-(ジメチルアミノ)-5-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロキシ-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物I-3);
3-(((1S,4R,10S)-6-アセトキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラアセテート(化合物I-4);
3-カルバモイル-6-(((1S,4R,10S)-1-メチル-3,5-ジオキソ-6-(ピバロイルオキシ)-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラキス(2,2-ジメチルプロパノエート)(化合物I-5);
3-(((1S,4R,10S)-6-(ベンゾイルオキシ)-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラベンゾエート)(化合物I-6);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロ -3,6-ジオキソヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-1);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c] オキセピ-10-ニル)メチル)-2,3,5,6-テトラヒドロキシベンズアミド(化合物Ia-2);
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,2S)-5-ヒドロキシ-1-メチル-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-3);又は
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物Ia-4);
である、請求項1~4のいずれか一項に記載のミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤。
【請求項6】
式(I):
【化2】
[式中、
R
1は、水素、ハロゲン又は置換若しくは非置換のアミノであり、
R
2、R
3、R
4及びR
5は、次の(i)及び(ii):
(i)
R
2は、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5は、水素である、
(ii)
R
2は、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3、R
4及びR
5は、水素である、
の条件のいずれかを満たし、
R
6は、水素又はヒドロキシルであり、
R
7、R
8、R
9及びR
10は、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R
7及びR
8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R
9及びR
10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R
7及びR
9は、ヒドロキシルであり、
R
8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成し、
R
10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R
11は、-C(=O)-NH
2又は-CNである。]
で表される化合物、その立体異性
体若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口に起因する疾患、症状又は障害の予防又は治療に使用するための医薬。
【請求項7】
R
2が、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4が、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5が、水素である、
請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
R
1が、水素である、
請求項6又は7に記載の医薬。
【請求項9】
R
11が、-C(=O)-NH
2である、
請求項6~8のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項10】
式(I)で表される化合物、その立体異性
体若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物が、
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物I-1);
2,3,5,6-テトラヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンズアミド(化合物I-2);
4-((8-(ジメチルアミノ)-5-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロキシ-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物I-3);
3-(((1S,4R,10S)-6-アセトキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラアセテート(化合物I-4);
3-カルバモイル-6-(((1S,4R,10S)-1-メチル-3,5-ジオキソ-6-(ピバロイルオキシ)-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラキス(2,2-ジメチルプロパノエート)(化合物I-5);
3-(((1S,4R,10S)-6-(ベンゾイルオキシ)-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラベンゾエート)(化合物I-6);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロ -3,6-ジオキソヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-1);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c] オキセピ-10-ニル)メチル)-2,3,5,6-テトラヒドロキシベンズアミド(化合物Ia-2);
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,2S)-5-ヒドロキシ-1-メチル-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-3);又は
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物Ia-4);
である、請求項6~9のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項11】
ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口に起因する疾患、症状又は障害が、経皮的冠動脈形成術における虚血再灌流障害、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落、神経変性疾患、及び気分障害からなる群より選択される1種以上の疾患、症状又は障害である、請求項6~10のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項12】
神経変性疾患が、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、多発性硬化症、又は神経障害性疼痛である、請求項11に記載の医薬。
【請求項13】
気分障害が、双極性障害、又はうつ病である、請求項11に記載の医薬。
【請求項14】
移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落を予防するために、移植前に臓器に適用される、請求項11に記載の医薬。
【請求項15】
式(Ia):
【化3】
[式中
、
R
2は、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5は、水素であ
り、
R
6は、水素又はヒドロキシルであり、
R
7、R
8、R
9及びR
10は、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R
7及びR
8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R
9及びR
10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R
7及びR
9は、ヒドロキシルであり、
R
8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成し、
R
10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R
11は、-C(=O)-NH
2又は-CNであり
、
R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、R
6
、R
7
、R
8
、R
9
及びR
10
が前記定義を満たし、且つR
11が-C(=O)-NH
2である場合、R
1aは、ハロゲンであり
、
R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、R
6
、R
7
、R
8
、R
9
及びR
10
が前記定義を満たし、且つR
11が-CNである場合、R
1aは、水素又はハロゲンである。]
で表される化合物、その立体異性
体若しくはそれらの塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項16】
R
2が、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4が、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5が、水素であ
り、
R
6
が、水素である、
請求項15に記載の化合物、その立体異性
体若しくはそれらの塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項17】
R
1aが、ハロゲンであり、
R
2が、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4が、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5が、水素であり、
R
11が、-C(=O)-NH
2である、
請求項15
又は16に記載の化合物、その立体異性
体若しくはそれらの塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項18】
式(I
a)で表される化合物、その立体異性
体若しくはそれらの塩、又はそれらの溶媒和物が、
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロ -3,6-ジオキソヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-1);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c] オキセピ-10-ニル)メチル)-2,3,5,6-テトラヒドロキシベンズアミド(化合物Ia-2)
;又は
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物Ia-4);
である、請求項15に記載の化合物、その立体異性
体若しくはそれらの塩、又はそれらの溶媒和物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤、mPTP開口阻害活性を有する新規化合物及びそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、ATP産生及び細胞内代謝に関連するだけでなく、一次的にカルシウムイオンを取り込み、細胞内カルシウムイオン濃度の恒常性を維持する重要な役割を担っている。それ故、ミトコンドリアは、細胞死への関連性が提唱されている。
【0003】
ミトコンドリアにおけるカルシウムイオンの取り込み及び排出には、それぞれ独立した輸送機構が存在することが知られている。このうち、排出には、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mitochondrial permeabilization pore、以下、「mPTP」とも記載する)が関与していることが知られている。生体内において、組織を構成する細胞の細胞質内カルシウムが過剰に増加すると、ミトコンドリアにおいてmPTPの開口が誘発される。その結果、ミトコンドリア内外の無機イオン、水及び生体分子が、ミトコンドリア内に入り込み、ミトコンドリアの膜電位の降下及びミトコンドリアの腫張(swelling)を生じる。同時に、ミトコンドリア内よりアポトーシス誘導因子(apoptosis-inducing factor、以下、「AIF」とも記載する)及びチトクロームc等が放出され、細胞死に至るシグナリングカスケードを活性化する。
【0004】
このような知見に基づき、mPTP開口阻害活性を有する化合物は、mPTPの開口に起因する種々の疾患、症状又は障害に対して予防又は治療効果を発現することが期待された。例えば、免疫抑制剤として知られているシクロスポリンAは、ミトコンドリアマトリックスに存在するシクロフィリンDに結合して、mPTP開口を阻害し、その機能的障害を減弱させることが知られている(非特許文献1~3)。また、シクロスポリンAを含む従来のmPTP開口阻害剤には、脳梗塞モデルにおいてその壊死面積を減少させる、神経細胞死保護作用が報告されている(非特許文献4~6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Crompton, M et al., Biochem. J., 1988年, 第255巻, p. 357-360, Inhibition by cyclosporin A of a Ca2+-dependent pore in heart mitochondria activated by inorganic phosphate and oxidative stress.
【文献】Connern CP and Halestrap AP, Biochem. J., 1994年, 第302巻, p. 321-324, Recruitment of mitochondrial cyclophilin to the mitochondrial inner membrane under conditions of oxidative stress that enhance the opening of a calcium-sensitive non-specific channel.
【文献】Friberg, H et al. J. Neurosci., 1998年,第18(14)巻,p. 5151-5159, Cyclosporin A, But Not FK 506, Protects mitochondria and neurons against hypoglycemic damage and implicates the mitochondrial permeability transition in cell death.
【文献】Uchino, H et al., Brain Res, 1998年, 第812巻, p. 216-226, Amelioration by cyclosporin A of brain damage in transient forebrain ischemia in the rat.
【文献】Korde AS et al., J Neurotrauma., 第24(5)巻, p. 895-908, 2007年, Protective effects of NIM811 in transient focal cerebral ischemia suggest involvement of the mitochondrial permeability transition.
【文献】Muramatsu Y et al., Brain Res., 2007年, 第1149巻, p. 181-90, Neuroprotective efficacy of FR901459, a novel derivative of cyclosporin A, in in vitro mitochondrial damage and in vivo transient cerebral ischemia models.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のように、シクロスポリンAを含む種々のmPTP開口阻害剤が知られている。しかしながら、これら公知の化合物には、例えば、物理化学的性質、mPTP開口阻害活性、及びmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する予防又は治療効果の観点で、依然として改良の余地が存在した。
【0007】
それ故、本発明は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又は様々な疾患に対する有用な治療効果を有する新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、公知の抗生物質であるテトラサイクリンの特定の類縁体が、高いmPTP開口阻害活性を有することを見出した。また、本発明者らは、テトラサイクリンの特定の類縁体が、mPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対して治療効果を発現し得ることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
(1) 式(I):
【化1】
[式中、
R
1は、水素、ハロゲン又は置換若しくは非置換のアミノであり、
R
2、R
3、R
4及びR
5は、次の(i)及び(ii):
(i)
R
2は、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5は、水素である、
(ii)
R
2は、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3、R
4及びR
5は、水素である、
の条件のいずれかを満たし、
R
6は、水素又はヒドロキシルであり、
R
7、R
8、R
9及びR
10は、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R
7及びR
8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R
9及びR
10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R
7及びR
9は、ヒドロキシルであり、
R
8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成し、
R
10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R
11は、-C(=O)-NH
2又は-CNである。]
で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤。
(2) R
2が、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4が、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5が、水素である、
前記実施形態(1)に記載のミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤。
(3) R
1が、水素である、
前記実施形態(1)又は(2)に記載のミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤。
(4) R
11が、-C(=O)-NH
2である、
前記実施形態(1)~(3)のいずれかに記載のミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤。
(5) 式(I)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物が、
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物I-1);
2,3,5,6-テトラヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンズアミド(化合物I-2);
4-((8-(ジメチルアミノ)-5-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロキシ-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物I-3);
3-(((1S,4R,10S)-6-アセトキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラアセテート(化合物I-4);
3-カルバモイル-6-(((1S,4R,10S)-1-メチル-3,5-ジオキソ-6-(ピバロイルオキシ)-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラキス(2,2-ジメチルプロパノエート)(化合物I-5);
3-(((1S,4R,10S)-6-(ベンゾイルオキシ)-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラベンゾエート)(化合物I-6);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロ -3,6-ジオキソヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-1);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c] オキセピ-10-ニル)メチル)-2,3,5,6-テトラヒドロキシベンズアミド(化合物Ia-2);
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,2S)-5-ヒドロキシ-1-メチル-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-3);又は
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物Ia-4);
である、前記実施形態(1)~(4)のいずれかに記載のミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口阻害剤。
(6) 式(I):
【化2】
[式中、
R
1は、水素、ハロゲン又は置換若しくは非置換のアミノであり、
R
2、R
3、R
4及びR
5は、次の(i)及び(ii):
(i)
R
2は、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5は、水素である、
(ii)
R
2は、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3、R
4及びR
5は、水素である、
の条件のいずれかを満たし、
R
6は、水素又はヒドロキシルであり、
R
7、R
8、R
9及びR
10は、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R
7及びR
8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R
9及びR
10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R
7及びR
9は、ヒドロキシルであり、
R
8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成し、
R
10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R
11は、-C(=O)-NH
2又は-CNである。]
で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口に起因する疾患、症状又は障害の予防又は治療に使用するための医薬。
(7) R
2が、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4が、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5が、水素である、
前記実施形態(6)に記載の医薬。
(8) R
1が、水素である、
前記実施形態(6)又は(7)に記載の医薬。
(9) R
11が、-C(=O)-NH
2である、
前記実施形態(6)~(8)のいずれかに記載の医薬。
(10) 式(I)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物が、
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物I-1);
2,3,5,6-テトラヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンズアミド(化合物I-2);
4-((8-(ジメチルアミノ)-5-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロキシ-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物I-3);
3-(((1S,4R,10S)-6-アセトキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラアセテート(化合物I-4);
3-カルバモイル-6-(((1S,4R,10S)-1-メチル-3,5-ジオキソ-6-(ピバロイルオキシ)-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラキス(2,2-ジメチルプロパノエート)(化合物I-5);
3-(((1S,4R,10S)-6-(ベンゾイルオキシ)-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラベンゾエート)(化合物I-6);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロ -3,6-ジオキソヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-1);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c] オキセピ-10-ニル)メチル)-2,3,5,6-テトラヒドロキシベンズアミド(化合物Ia-2);
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,2S)-5-ヒドロキシ-1-メチル-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-3);又は
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物Ia-4);
である、前記実施形態(6)~(9)のいずれかに記載の医薬。
(11) ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開口に起因する疾患、症状又は障害が、経皮的冠動脈形成術における虚血再灌流障害、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落、神経変性疾患、及び気分障害からなる群より選択される1種以上の疾患、症状又は障害である、前記実施形態(6)~(10)のいずれかに記載の医薬。
(12) 神経変性疾患が、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、多発性硬化症、又は神経障害性疼痛である、前記実施形態(11)に記載の医薬。
(13) 気分障害が、双極性障害、又はうつ病である、前記実施形態(11)に記載の医薬。
(14) 移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落を予防するために、移植前に臓器に適用される、前記実施形態(11)に記載の医薬。
(15) 式(Ia):
【化3】
[式中、
R
2、R
3、R
4及びR
5は、次の(i)及び(ii):
(i)
R
2は、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5は、水素である、
(ii)
R
2は、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3、R
4及びR
5は、水素である、
の条件のいずれかを満たし、
R
6は、水素又はヒドロキシルであり、
R
7、R
8、R
9及びR
10は、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R
7及びR
8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R
9及びR
10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R
7及びR
9は、ヒドロキシルであり、
R
8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成し、
R
10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイルを形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R
11は、-C(=O)-NH
2又は-CNであり、
R
2、R
3、R
4及びR
5が条件(i)を満たし、R
6が水素であり、且つR
11が-C(=O)-NH
2である場合、R
1aは、ハロゲンであり、
R
2、R
3、R
4及びR
5が条件(i)を満たし、R
6が水素であり、且つR
11が-CNである場合、R
1aは、水素又はハロゲンである。]
で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの塩、又はそれらの溶媒和物。
(16) R
2が、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4が、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5が、水素である、
前記実施形態(15)に記載の化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの塩、又はそれらの溶媒和物。
(17) R
1aが、ハロゲンであり、
R
2が、水素、又は置換若しくは非置換のC
1~C
5アルキルであり、
R
3及びR
4が、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R
3が結合する炭素原子はOと結合し、R
4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R
5が、水素であり、
R
11が、-C(=O)-NH
2である、
前記実施形態(15)に記載の化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの塩、又はそれらの溶媒和物。
(18) 式(I)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの塩、又はそれらの溶媒和物が、
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロ -3,6-ジオキソヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-1);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c] オキセピ-10-ニル)メチル)-2,3,5,6-テトラヒドロキシベンズアミド(化合物Ia-2);
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,2S)-5-ヒドロキシ-1-メチル-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-3);又は
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物Ia-4);
である、前記実施形態(15)に記載の化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの塩、又はそれらの溶媒和物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高いmPTP開口阻害活性、及び/又は様々な疾患に対する有用な治療効果を有する新規化合物を提供することが可能となる。
【0011】
前記以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、試験化合物非添加又は添加条件下でのmPTP開口阻害活性試験におけるカルシウム濃度の経時変化を示す。
【
図2】
図2は、mPTP開口阻害活性試験における試験化合物濃度に対するCRC/CRC(DMSO)値の用量応答を示す。
【
図3】
図3は、グルタミン酸による細胞死誘発試験において、添加したグルタミン酸濃度と細胞生存率との関係を示す。縦軸は、グルタミン酸非添加(Glu(-))のウェルにおける細胞生存率に対する百分率に標準化した細胞生存率の値(%)を示す。
【
図4】
図4は、グルタミン酸による細胞死誘発試験において、添加した試験化合物濃度と細胞生存率との関係を示す。縦軸は、試験化合物非添加(DMSO)のウェルにおける細胞生存率に対する百分率に標準化した細胞生存率の値(%)を示す。
【
図5】
図5は、脳虚血による細胞死抑制試験において、化合物I-1投与群及び溶媒投与の対照群における、虚血性脳障害による大脳皮質傷害率を示す。白丸は、投与群又は対照群の各マウスの値を、実線及び誤差線は、投与群又は対照群に含まれる全マウスの平均値及び誤差を、それぞれ示す。また、**は、スチューデントのt-検定により算出した、対照群に対するP値が0.01未満であったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0014】
<1.化合物>
本明細書において、「アルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、「C1~C5アルキル」は、少なくとも1個且つ多くても5個の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。好適なアルキルは、限定するものではないが、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル及びn-ペンチル等の直鎖又は分枝鎖のC1~C5アルキルを挙げることができる。
【0015】
本明細書において、「アルケニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。好適なアルケニルは、限定するものではないが、例えばビニル、1-プロペニル、アリル、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、3-メチルブタ-2-エン-1-イル及び1-ペンテニル等の直鎖又は分枝鎖のC2~C5アルケニルを挙げることができる。
【0016】
本明細書において、「アルキニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。好適なアルキニルは、限定するものではないが、例えばエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル及び1-ペンチニル等の直鎖又は分枝鎖のC2~C5アルキニルを挙げることができる。
【0017】
本明細書において、「シクロアルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、脂環式アルキルを意味する。例えば、「C3~C6シクロアルキル」は、少なくとも3個且つ多くても6個の炭素原子を含む、環式の炭化水素基を意味する。好適なシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシル等のC3~C6シクロアルキルを挙げることができる。
【0018】
本明細書において、「シクロアルケニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。好適なシクロアルケニルは、限定するものではないが、例えばシクロブテニル、シクロペンテニル及びシクロヘキセニル等のC4~C6シクロアルケニルを挙げることができる。
【0019】
本明細書において、「シクロアルキニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。好適なシクロアルキニルは、限定するものではないが、例えばシクロブチニル、シクロペンチニル及びシクロヘキシニル等のC4~C6シクロアルキニルを挙げることができる。
【0020】
本明細書において、「ヘテロシクロアルキル」は、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立して窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)から選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロピラニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル及びピペラジニル等の3~6員のヘテロシクロアルキルを挙げることができる。好適なヘテロシクロアルケニルは、限定するものではないが、ジヒドロピロール及びテトラヒドロピリジン等の5員又は6員のヘテロシクロアルケニルを挙げることができる。
【0021】
本明細書において、「シクロアルキルアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルに置換された基を意味する。好適なシクロアルキルアルキルは、限定するものではないが、例えばシクロヘキシルメチル及びシクロヘキセニルメチル等のC7~C11シクロアルキルアルキルを挙げることができる。
【0022】
本明細書において、「ヘテロシクロアルキルアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記ヘテロシクロアルキルに置換された基を意味する。好適なヘテロシクロアルキルアルキルは、限定するものではないが、例えば3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C5アルキルを挙げることができる。
【0023】
本明細書において、「アルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルに置換された基を意味する。好適なアルコキシは、限定するものではないが、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ及びペントキシ等のC1~C5アルコキシを挙げることができる。
【0024】
本明細書において、「シクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えばシクロプロポキシ、シクロブトキシ及びシクロペントキシ等のC3~C6シクロアルコキシを挙げることができる。
【0025】
本明細書において、「ヘテロシクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロシクロアルキルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えば3~6員のヘテロシクロアルコキシを挙げることができる。
【0026】
本明細書において、「アリール」は、芳香環基を意味する。好適なアリールは、限定するものではないが、例えばフェニル、ビフェニル、テルフェニル、ナフチル及びアントラセニル等のC6~C18アリールを挙げることができる。
【0027】
本明細書において、「アリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばベンジル、1-フェネチル、2-フェネチル、ビフェニルメチル、テルフェニルメチル及びスチリル等のC7~C20アリールアルキルを挙げることができる。
【0028】
本明細書において、「ヘテロアリール」は、前記アリールの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立してN、S及びOから選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロアリールは、限定するものではないが、例えばフラニル、チエニル(チオフェンイル)、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル、キノリニル、イソキノリニル及びインドリル等の5~15員のヘテロアリールを挙げることができる。
【0029】
本明細書において、「ヘテロアリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばピリジルメチル等の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキルを挙げることができる。
【0030】
本明細書において、「アリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフェノキシ、ビフェニルオキシ、ナフチルオキシ及びアントリルオキシ(アントラセニルオキシ)等のC6~C15アリールオキシを挙げることができる。
【0031】
本明細書において、「アリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールアルキルに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えばベンジルオキシ、1-フェネチルオキシ、2-フェネチルオキシ及びスチリルオキシ等のC7~C20アリールアルキルオキシを挙げることができる。
【0032】
本明細書において、「ヘテロアリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフラニルオキシ、チエニルオキシ(チオフェンイルオキシ)、ピロリルオキシ、イミダゾリルオキシ、ピラゾリルオキシ、トリアゾリルオキシ、テトラゾリルオキシ、チアゾリルオキシ、オキサゾリルオキシ、イソオキサゾリルオキシ、オキサジアゾリルオキシ、チアジアゾリルオキシ、イソチアゾリルオキシ、ピリジルオキシ、ピリダジニルオキシ、ピラジニルオキシ、ピリミジニルオキシ、キノリニルオキシ、イソキノリニルオキシ及びインドリルオキシ等の5~15員のヘテロアリールオキシを挙げることができる。
【0033】
本明細書において、「ヘテロアリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールアルキルに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えば5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキルオキシを挙げることができる。
【0034】
本明細書において、「アシル」は、前記で説明した基から選択される一価基とカルボニルとが連結した基を意味する。好適なアシルは、限定するものではないが、例えばホルミル、アセチル及びプロピオニル等のC1~C5脂肪族アシル、並びにベンゾイル等のC7~C20芳香族アシルを包含するC1~C20アシルを挙げることができる。
【0035】
前記で説明した基は、それぞれ独立して、非置換であるか、或いは1個若しくは複数の前記で説明した一価基によってさらに置換することもできる。
【0036】
本明細書において、「ハロゲン」又は「ハロ」は、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)を意味する。
【0037】
本発明の一態様は、式(I):
【化4】
で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む、mPTPの開口阻害剤に関する。
【0038】
本発明者らは、公知の抗生物質であるテトラサイクリンの特定の類縁体が、高いmPTP開口阻害活性を有することを見出した。また、本発明者らは、テトラサイクリンの特定の類縁体が、mPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対して治療効果を発現し得ることを見出した。
【0039】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物に包含されるテトラサイクリンの特定の類縁体は、抗菌活性又はUV吸収能力を有する化合物として公知である(例えば、米国特許第3,330,841号明細書、米国特許第3,438,999号明細書及び米国特許第3,462,487号明細書)。しかしながら、これらの化合物が、高いmPTP開口阻害活性を有することは知られていなかった。また、本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、シクロスポリンAを含む従来のmPTP開口阻害剤と比較して、より高いmPTP開口阻害活性、より高い水溶性、及び/又はより良好な薬物動態特性を有し得る。それ故、本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0040】
式(I)において、R1は、水素、ハロゲン又は置換若しくは非置換のアミノである。R1は、水素又はハロゲンであることが好ましく;水素であることがより好ましい。R1が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0041】
式(I)において、R2、R3、R4及びR5は、次の(i)及び(ii):
(i)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3及びR4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R3が結合する炭素原子はOと結合し、R4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R5は、水素である、
(ii)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3、R4及びR5は、水素である、
の条件のいずれかを満たす。R2、R3、R4及びR5は、(i)の条件を満たすことが好ましい。R2、R3、R4及びR5が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0042】
式(I)において、R2、R3、R4及びR5が(i)又は(ii)の条件を満たす実施形態の場合、R2は、水素、又は非置換のC1~C5アルキルであることが好ましく;水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル又はn-ペンチルであることがより好ましく;水素又はメチルであることがさらに好ましく;メチルであることが特に好ましい。R2が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0043】
式(I)において、R6は、水素又はヒドロキシルである。R6は、水素であることが好ましい。R6が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0044】
式(I)において、R7、R8、R9及びR10は、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R7及びR8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R9及びR10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R7及びR9は、ヒドロキシルであり、
R8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成し、
R10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合である。R7、R8、R9及びR10は、(xi)の条件を満たすことが好ましい。R7、R8、R9及びR10が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0045】
式(I)において、R11は、-C(=O)-NH2又は-CNである。R11は、-C(=O)-NH2であることが好ましい。R11が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0046】
式(I)及び下記で説明する式(Ia)において、例示した各基が置換されている場合、特に言及しない限り、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、ヒドロキシル、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換のシクロアルキル、置換若しくは非置換のシクロアルケニル、置換若しくは非置換のシクロアルキニル、置換若しくは非置換のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のシクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換のヘテロシクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のアリールアルキル、置換若しくは非置換のヘテロアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリールアルキル、置換若しくは非置換のアルコキシ、置換若しくは非置換のシクロアルコキシ、置換若しくは非置換のヘテロシクロアルコキシ、置換若しくは非置換のアリールオキシ、置換若しくは非置換のアリールアルキルオキシ、置換若しくは非置換のヘテロアリールオキシ、置換若しくは非置換のヘテロアリールアルキルオキシ、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のシクロアルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のアミノカルボニル(カルバモイル)、置換若しくは非置換のアシル、置換若しくは非置換のアシルオキシ、置換若しくは非置換のアミノ、置換若しくは非置換のスルホンアミド、置換若しくは非置換のカルボニルジイミノ、カルボキシル、及びオキソからなる群より選択される1個以上の一価基又は二価基であることが好ましく、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、ヒドロキシル、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7~C11シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC6~C15アリール、置換若しくは非置換のC7~C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC1~C6アルコキシ、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルコキシ、置換若しくは非置換の3~6員ヘテロシクロアルコキシ、置換若しくは非置換のC6~C15アリールオキシ、置換若しくは非置換のC7~C20アリールアルキルオキシ、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリールオキシ、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキルオキシ、置換若しくは非置換のC1~C6アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のアミノカルボニル(カルバモイル)、置換若しくは非置換のC1~C20アシル、置換若しくは非置換のC1~C20アシルオキシ、置換若しくは非置換のアミノ、置換若しくは非置換のスルホンアミド、置換若しくは非置換のカルボニルジイミノ、カルボキシル、及びオキソからなる群より選択される少なくとも1個の一価基又は二価基であることがより好ましく、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、ヒドロキシル、カルボキシル、及びオキソからなる群より選択される少なくとも1個の一価基又は二価基であることがさらに好ましい。前記一価基が置換されている場合、該置換基は、前記一価基又は二価基からさらに選択されることができる。
【0047】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、前記で例示されるR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11の任意の組み合わせによって定義される化合物を包含することができる。
【0048】
好ましくは、式(I)で表される化合物は、
R1が、水素、ハロゲン又は置換若しくは非置換のアミノであり、
R2、R3、R4及びR5が、次の(i)又は(ii):
(i)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3及びR4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R3が結合する炭素原子はOと結合し、R4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R5は、水素である、
(ii)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3、R4及びR5は、水素である、
の条件を満たし、
R6が、水素又はヒドロキシルであり、
R7、R8、R9及びR10が、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R7及びR8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R9及びR10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R7及びR9は、ヒドロキシルであり、
R8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成し、
R10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R11が、-C(=O)-NH2又は-CNであり、
前記基が置換されている場合、特に言及しない限り、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、ヒドロキシル、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7~C11シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC6~C15アリール、置換若しくは非置換のC7~C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC1~C6アルコキシ、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルコキシ、置換若しくは非置換の3~6員ヘテロシクロアルコキシ、置換若しくは非置換のC6~C15アリールオキシ、置換若しくは非置換のC7~C20アリールアルキルオキシ、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリールオキシ、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキルオキシ、置換若しくは非置換のC1~C6アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のアミノカルボニル(カルバモイル)、置換若しくは非置換のC1~C20アシル、置換若しくは非置換のC1~C20アシルオキシ、置換若しくは非置換のアミノ、置換若しくは非置換のスルホンアミド、置換若しくは非置換のカルボニルジイミノ、カルボキシル、及びオキソからなる群より選択される少なくとも1個の一価基又は二価基である。前記一価基又は二価基は、通常は非置換である。前記一価基又は二価基が置換されている場合、該置換基は、前記一価基又は二価基からさらに選択されることが好ましく、非置換の前記一価基又は二価基からさらに選択されることがより好ましい。
【0049】
より好ましくは、式(I)で表される化合物は、
R1が、水素又はハロゲンであり、
R2、R3、R4及びR5が、次の(i)又は(ii):
(i)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3及びR4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R3が結合する炭素原子はOと結合し、R4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R5は、水素である、
(ii)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3、R4及びR5は、水素である、
の条件を満たし、
R6が、水素であり、
R7、R8、R9及びR10が、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R7及びR8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R9及びR10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R7及びR9は、ヒドロキシルであり、
R8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成し、
R10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R11が、-C(=O)-NH2又は-CNであり、
前記基が置換されている場合、特に言及しない限り、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、ヒドロキシル、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7~C11シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC6~C15アリール、置換若しくは非置換のC7~C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC1~C6アルコキシ、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルコキシ、置換若しくは非置換の3~6員ヘテロシクロアルコキシ、置換若しくは非置換のC6~C15アリールオキシ、置換若しくは非置換のC7~C20アリールアルキルオキシ、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリールオキシ、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキルオキシ、置換若しくは非置換のC1~C6アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のアミノカルボニル(カルバモイル)、置換若しくは非置換のC1~C20アシル、置換若しくは非置換のC1~C20アシルオキシ、置換若しくは非置換のアミノ、置換若しくは非置換のスルホンアミド、置換若しくは非置換のカルボニルジイミノ、カルボキシル、及びオキソからなる群より選択される少なくとも1個の一価基又は二価基である。前記一価基又は二価基は、通常は非置換である。前記一価基又は二価基が置換されている場合、該置換基は、前記一価基又は二価基からさらに選択されることが好ましく、非置換の前記一価基又は二価基からさらに選択されることがより好ましい。
【0050】
さらに好ましくは、式(I)で表される化合物は、
R1が、水素又はハロゲンであり、
R2、R3、R4及びR5が、次の(i)又は(ii):
(i)
R2は、水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル又はn-ペンチルであり、
R3及びR4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R3が結合する炭素原子はOと結合し、R4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R5は、水素である、
(ii)
R2は、水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル又はn-ペンチルであり、
R3、R4及びR5は、水素である、
の条件を満たし、
R6が、水素であり、
R7、R8、R9及びR10が、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R7及びR8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R9及びR10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R7及びR9は、ヒドロキシルであり、
R8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成し、
R10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R11が、-C(=O)-NH2又は-CNである。
【0051】
特に好ましくは、式(I)で表される化合物は、
R1が、水素であり、
R2、R3、R4及びR5が、次の(i)又は(ii):
(i)
R2は、水素又はメチルであり、
R3及びR4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R3が結合する炭素原子はOと結合し、R4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R5は、水素である、
(ii)
R2は、水素又はメチルであり、
R3、R4及びR5は、水素である、
の条件を満たし、
R6が、水素であり、
R7、R8、R9及びR10が、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R7及びR8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R9及びR10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R7及びR9は、ヒドロキシルであり、
R8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成し、
R10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R11が、-C(=O)-NH2又は-CNである。
【0052】
とりわけ特に好ましくは、式(I)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物は、以下の群:
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物I-1);
2,3,5,6-テトラヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンズアミド(化合物I-2);
4-((8-(ジメチルアミノ)-5-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロキシ-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物I-3);
3-(((1S,4R,10S)-6-アセトキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラアセテート(化合物I-4);
3-カルバモイル-6-(((1S,4R,10S)-1-メチル-3,5-ジオキソ-6-(ピバロイルオキシ)-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラキス(2,2-ジメチルプロパノエート)(化合物I-5);
3-(((1S,4R,10S)-6-(ベンゾイルオキシ)-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラベンゾエート)(化合物I-6);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロ -3,6-ジオキソヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-1);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c] オキセピ-10-ニル)メチル)-2,3,5,6-テトラヒドロキシベンズアミド(化合物Ia-2);
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,2S)-5-ヒドロキシ-1-メチル-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-3);及び
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物Ia-4);
より選択される。
【0053】
前記で説明した特徴を備える本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0054】
本発明の別の一態様は、式(Ia):
【化5】
で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの塩、又はそれらの溶媒和物に関する。
【0055】
本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物は、本発明の一態様の式(I)で表される化合物に包含される新規化合物である。それ故、本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0056】
式(Ia)において、R2、R3、R4及びR5は、次の(i)及び(ii):
(i)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3及びR4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R3が結合する炭素原子はOと結合し、R4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R5は、水素である、
(ii)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3、R4及びR5は、水素である、
の条件のいずれかを満たす。R2、R3、R4及びR5は、(i)の条件を満たすことが好ましい。R2、R3、R4及びR5が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0057】
式(Ia)において、R2、R3、R4及びR5が(i)又は(ii)の条件を満たす実施形態の場合、R2は、水素、又は非置換のC1~C5アルキルであることが好ましく;水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル又はn-ペンチルであることがより好ましく;水素又はメチルであることがさらに好ましく;メチルであることが特に好ましい。R2が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0058】
式(Ia)において、R6は、水素又はヒドロキシルである。R6は、水素であることが好ましい。R6が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0059】
式(Ia)において、R7、R8、R9及びR10は、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R7及びR8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R9及びR10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R7及びR9は、ヒドロキシルであり、
R8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成し、
R10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合である。R7、R8、R9及びR10は、(xi)の条件を満たすことが好ましい。R7、R8、R9及びR10が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0060】
式(Ia)において、R11は、-C(=O)-NH2又は-CNである。R11は、-C(=O)-NH2であることが好ましい。R11が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0061】
式(Ia)において、R2、R3、R4及びR5が条件(i)を満たし、R6が水素であり、且つR11が-C(=O)-NH2である場合、R1aは、ハロゲンであり、R2、R3、R4及びR5が条件(i)を満たし、R6、R6が水素であり、且つR11が-CNである場合、R1aは、水素又はハロゲンである。R1aが、ハロゲンであり、R2が、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、R3及びR4が、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R3が結合する炭素原子はOと結合し、R4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、R5が、水素であり、R11が、-C(=O)-NH2であることが好ましい。R1a、R2、R3、R4、R5、R6及びR11が前記で例示した基である場合、本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0062】
本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物は、前記で例示されるR1a、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11の任意の組み合わせによって定義される化合物を包含することができる。
【0063】
好ましくは、式(Ia)で表される化合物は、
R2、R3、R4及びR5が、次の(i)又は(ii):
(i)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3及びR4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R3が結合する炭素原子はOと結合し、R4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R5は、水素である、
(ii)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3、R4及びR5は、水素である、
の条件を満たし、
R6が、水素又はヒドロキシルであり、
R7、R8、R9及びR10が、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R7及びR8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R9及びR10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R7及びR9は、ヒドロキシルであり、
R8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成し、
R10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R11が、-C(=O)-NH2又は-CNであり、
R2、R3、R4及びR5が条件(i)を満たし、R6が水素であり、且つR11が-C(=O)-NH2である場合、R1aは、ハロゲンであり、
R2、R3、R4及びR5が条件(i)を満たし、R6が水素であり、且つR11が-CNである場合、R1aは、水素又はハロゲンであり、
前記基が置換されている場合、特に言及しない限り、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、ヒドロキシル、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7~C11シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC6~C15アリール、置換若しくは非置換のC7~C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC1~C6アルコキシ、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルコキシ、置換若しくは非置換の3~6員ヘテロシクロアルコキシ、置換若しくは非置換のC6~C15アリールオキシ、置換若しくは非置換のC7~C20アリールアルキルオキシ、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリールオキシ、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキルオキシ、置換若しくは非置換のC1~C6アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のアミノカルボニル(カルバモイル)、置換若しくは非置換のC1~C20アシル、置換若しくは非置換のC1~C20アシルオキシ、置換若しくは非置換のアミノ、置換若しくは非置換のスルホンアミド、置換若しくは非置換のカルボニルジイミノ、カルボキシル、及びオキソからなる群より選択される少なくとも1個の一価基又は二価基である。前記一価基又は二価基は、通常は非置換である。前記一価基又は二価基が置換されている場合、該置換基は、前記一価基又は二価基からさらに選択されることが好ましく、非置換の前記一価基又は二価基からさらに選択されることがより好ましい。
【0064】
より好ましくは、式(Ia)で表される化合物は、
R2、R3、R4及びR5が、次の(i)又は(ii):
(i)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3及びR4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R3が結合する炭素原子はOと結合し、R4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R5は、水素である、
(ii)
R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1~C5アルキルであり、
R3、R4及びR5は、水素である、
の条件を満たし、
R6が、水素であり、
R7、R8、R9及びR10が、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R7及びR8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R9及びR10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R7及びR9は、ヒドロキシルであり、
R8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成し、
R10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R11が、-C(=O)-NH2又は-CNであり、
R2、R3、R4及びR5が条件(i)を満たし、R6が水素であり、且つR11が-C(=O)-NH2である場合、R1aは、ハロゲンであり、
R2、R3、R4及びR5が条件(i)を満たし、R6が水素であり、且つR11が-CNである場合、R1aは、水素又はハロゲンであり、
前記基が置換されている場合、特に言及しない限り、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、ヒドロキシル、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7~C11シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC6~C15アリール、置換若しくは非置換のC7~C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC1~C6アルコキシ、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルコキシ、置換若しくは非置換の3~6員ヘテロシクロアルコキシ、置換若しくは非置換のC6~C15アリールオキシ、置換若しくは非置換のC7~C20アリールアルキルオキシ、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリールオキシ、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキルオキシ、置換若しくは非置換のC1~C6アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルコキシカルボニル、置換若しくは非置換のアミノカルボニル(カルバモイル)、置換若しくは非置換のC1~C20アシル、置換若しくは非置換のC1~C20アシルオキシ、置換若しくは非置換のアミノ、置換若しくは非置換のスルホンアミド、置換若しくは非置換のカルボニルジイミノ、カルボキシル、及びオキソからなる群より選択される少なくとも1個の一価基又は二価基である。前記一価基又は二価基は、通常は非置換である。前記一価基又は二価基が置換されている場合、該置換基は、前記一価基又は二価基からさらに選択されることが好ましく、非置換の前記一価基又は二価基からさらに選択されることがより好ましい。
【0065】
さらに好ましくは、式(Ia)で表される化合物は、
R2、R3、R4及びR5が、次の(i)又は(ii):
(i)
R2は、水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル又はn-ペンチルであり、
R3及びR4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R3が結合する炭素原子はOと結合し、R4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R5は、水素である、
(ii)
R2は、水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル又はn-ペンチルであり、
R3、R4及びR5は、水素である、
の条件を満たし、
R6が、水素であり、
R7、R8、R9及びR10が、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R7及びR8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R9及びR10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R7及びR9は、ヒドロキシルであり、
R8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成し、
R10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R11が、-C(=O)-NH2又は-CNであり、
R2、R3、R4及びR5が条件(i)を満たし、R6が水素であり、且つR11が-C(=O)-NH2である場合、R1aは、ハロゲンであり、
R2、R3、R4及びR5が条件(i)を満たし、R6が水素であり、且つR11が-CNである場合、R1aは、水素又はハロゲンである。
【0066】
特に好ましくは、式(Ia)で表される化合物は、
R1が、水素であり、
R2、R3、R4及びR5が、次の(i)又は(ii):
(i)
R2は、水素又はメチルであり、
R3及びR4は、一緒になって、-O-C(=O)-を形成し(但し、R3が結合する炭素原子はOと結合し、R4が結合する炭素原子はC(=O)と結合する)、
R5は、水素である、
(ii)
R2は、水素又はメチルであり、
R3、R4及びR5は、水素である、
の条件を満たし、
R6が、水素であり、
R7、R8、R9及びR10が、次の(xi)及び(xii):
(xi)
R7及びR8は、一緒になって、オキソ(=O)を形成し、
R9及びR10は、一緒になって、オキソ(=O)を形成する、
(xii)
R7及びR9は、ヒドロキシルであり、
R8は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成し、
R10は、それが結合する炭素原子及び隣接する炭素原子と一緒になって、エテン-1,2-ジイル(>C=C<)を形成する、
の条件のいずれかを満たし、
実線及び点線で表される結合は、単結合又は二重結合であり、
R11が、-C(=O)-NH2又は-CNであり、
R2、R3、R4及びR5が条件(i)を満たし、R6が水素であり、且つR11が-C(=O)-NH2である場合、R1aは、ハロゲンであり、
R2、R3、R4及びR5が条件(i)を満たし、R6が水素であり、且つR11が-CNである場合、R1aは、水素又はハロゲンである。
【0067】
とりわけ特に好ましくは、式(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物は、以下の群:
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロ -3,6-ジオキソヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-1);
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c] オキセピ-10-ニル)メチル)-2,3,5,6-テトラヒドロキシベンズアミド(化合物Ia-2);
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,2S)-5-ヒドロキシ-1-メチル-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-3);及び
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物Ia-4);
より選択される。
【0068】
前記で説明した特徴を備える本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0069】
本発明の各態様において、式(I)及び(Ia)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、該化合物のプロドラッグ形態も包含する。本明細書において、「プロドラッグ」は、生体内で親薬物に変換される化合物を意味する。本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物のプロドラッグ形態としては、限定するものではないが、例えば、1個以上、特に全てのヒドロキシル基と任意のカルボン酸とのエステル、及び該ヒドロキシル基と任意のアミンとのアミド等を挙げることができる。本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物のプロドラッグ形態は、1個以上、特に全てのヒドロキシル基と、酢酸、ピバル酸、安息香酸及びブタン酸からなる群より選択される1個以上のカルボン酸とのエステルであることが好ましく、1個以上、特に全てのヒドロキシル基と、酢酸、ピバル酸又は安息香酸とのエステルであることがより好ましく、1個以上、特に全てのヒドロキシル基と、酢酸とのエステルであることがさらに好ましい。本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物が前記のプロドラッグ形態である場合、親薬物である式(I)及び(Ia)で表される化合物のmPTP開口阻害活性及び薬理活性を実質的に低下させることなく、対象へのプロドラッグ形態の投与時の薬物動態を向上させることができる。
【0070】
本発明の各態様において、式(I)及び(Ia)、並びに以下において説明する式(X)及び(Xa)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、該化合物又はそのプロドラッグの塩も包含する。式(I)及び(Ia)、並びに式(X)及び(Xa)で表される化合物又はそのプロドラッグの塩としては、限定するものではないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、若しくは置換若しくは非置換のアンモニウムイオンのようなカチオンとの塩、又は塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、炭酸若しくはリン酸のような無機酸、又はギ酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、乳酸、コハク酸、ビスメチレンサリチル酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、プロピオン酸、酒石酸、リンゴ酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸、グリコール酸、p-アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、p-トルエンスルホン酸若しくはナフタレンスルホン酸のような有機酸アニオンとの塩が好ましい。式(I)及び(Ia)で表される化合物又はそのプロドラッグが前記の塩の形態である場合、mPTP開口阻害活性を実質的に低下させることなく、該化合物を使用することができる。
【0071】
本発明の各態様において、式(I)及び(Ia)、並びに以下において説明する式(X)及び(Xa)で表される化合物は、前記化合物自体だけでなく、該化合物若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの塩の溶媒和物も包含する。式(I)及び(Ia)、並びに式(X)及び(Xa)で表される化合物若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの塩と溶媒和物を形成し得る溶媒としては、限定するものではないが、例えば、水、又は低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール若しくは2-プロパノール(イソプロピルアルコール)のような1~6の炭素原子数を有するアルコール)、高級アルコール(例えば、1-ヘプタノール若しくは1-オクタノールのような7以上の炭素原子数を有するアルコール)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸、エタノールアミン若しくは酢酸エチルのような有機溶媒が好ましい。式(I)及び(Ia)で表される化合物若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの塩が前記の溶媒との溶媒和物の形態である場合、mPTP開口阻害活性を実質的に低下させることなく、該化合物を使用することができる。
【0072】
本発明の各態様において、式(I)及び(Ia)、並びに以下において説明する式(X)及び(Xa)で表される化合物は、前記化合物自体だけでなく、その保護形態も包含する。本明細書において、「保護形態」は、1個又は複数個の官能基(例えばヒドロキシル基又はアミノ基)に保護基が導入された形態を意味する。本明細書において、前記化合物の保護形態を、前記化合物の保護誘導体と記載する場合がある。また、本明細書において、「保護基」は、望ましくない反応の進行を防止するために、特定の官能基に導入される基であって、特定の反応条件において定量的に除去され、且つそれ以外の反応条件においては実質的に安定、即ち反応不活性である基を意味する。前記化合物の保護形態を形成し得る保護基としては、限定するものではないが、例えば、ヒドロキシル基の保護基の場合、シリル(例えば、t-ブチルジメチルシリル(TBS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)若しくはtert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS))、又はアルコキシ(例えば、メトキシメトキシ(MOM)若しくはメトキシ(Me))が、アミノ基の保護基の場合、t-ブトキシカルボニル(Boc)、2-ブロモベンジルオキシカルボニル(BrZ)、又は9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)が、それぞれ好ましい。前記保護基による保護化及び脱保護化は、公知の反応条件に基づき、当業者が適宜実施することができる。式(I)及び(Ia)で表される化合物が前記の保護基による保護形態である場合であっても、mPTP開口阻害活性を実質的に低下させることなく、該化合物を使用することができる場合がある。
【0073】
本発明の各態様において、式(I)及び(Ia)、並びに以下において説明する式(X)及び(Xa)で表される化合物が1個又は複数個の互変異性体を有する場合、前記化合物は、該化合物の個々の互変異性体の形態も包含する。
【0074】
また、本発明の各態様において、式(I)及び(Ia)、並びに以下において説明する式(X)及び(Xa)で表される化合物が1個又は複数個の立体中心(キラル中心)を有する場合、前記化合物は、該化合物の個々のエナンチオマー及びジアステレオマー、並びにラセミ体のようなそれらの混合物を含む、該化合物の立体異性体も包含する。
【0075】
前記特徴を有することにより、式(I)及び(Ia)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性、及び/又はmPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害に対する有用な治療効果を有することができる。
【0076】
<2. 化合物の製造方法>
本発明の別の一態様は、本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物を製造する方法に関する。
【0077】
本態様の製造方法は、特に記載がない限り、種々の公知の化合物合成方法に基づき、実施することができる。以下において説明する本態様の製造方法の各工程において、必要に応じて、官能基の保護及び脱保護を行うことができる。官能基の保護及び脱保護は、公知の保護及び脱保護方法を適用することにより、実施することができる。
【0078】
本態様の製造方法において、本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物は、以下において例示する製造方法1又は2と同一又は類似の方法により、製造することができる。
【0079】
本態様の製造方法において、以下において説明する各工程で得られる化合物は、反応終了後の反応混合物のまま又は粗生成物の状態で、次の工程の反応に用いることができる。或いは、各工程で得られる化合物は、当該技術分野で通常使用される有機化合物の単離又は精製手段に基づき、反応混合物から単離又は精製した状態で、次の工程の反応に用いるか、又は最終生成物として得ることもできる。この場合、使用し得る化合物の単離又は精製手段としては、限定するものではないが、例えば、濃縮、抽出、濾過、遠心分離、吸着、再結晶、蒸留、及び各種クロマトグラフィー等を挙げることができる。
【0080】
本態様の製造方法において、以下において説明する各工程で得られる化合物が立体異性体の混合物の形態である場合、該化合物は、そのままの状態で、次の工程の反応に用いることができる。或いは、立体異性体の混合物の形態である化合物は、キラルカラムクロマトグラフィー、光学分晶又はジアステレオマー誘導化等の公知の手段により、光学分割した状態、すなわち、実質的に光学的に純粋な状態で、次の工程の反応に用いるか、又は最終生成物として得ることもできる。
【0081】
[2-1. 製造方法1]
本態様の一実施形態において、本発明の一態様の式(I)で表される化合物の製造方法は、式(X):
【化6】
で表される化合物を、DMSO中、空気存在下で酸化する工程(以下、「酸化工程」とも記載する)を含む方法により、実施することができる(以下、「製造方法1」とも記載する)。
【0082】
或いは、本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物の製造方法は、式(Xa):
【化7】
で表される化合物を、DMSO中、空気存在下で酸化する工程(以下、「酸化工程」とも記載する)を含む方法により、実施することができる(以下、「製造方法1」とも記載する)。本実施形態の製造方法1により、本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物を製造することができる。
【0083】
式(X)及び(Xa)において、R1、R1a、R2、R3、R5及びR6は、前記と同義である。
【0084】
式(X)及び(Xa)で表される化合物は、テトラサイクリン又はその類縁体を包含する。式(X)及び(Xa)で表される化合物は、予め調製された該化合物を購入等して準備してもよく、公知文献に基づき調製してもよい。
【0085】
酸化工程において、反応温度は、0~80℃の範囲であることが好ましく、20~40℃の範囲であることがより好ましい。反応時間は、特に限定されないが、通常は、1時間~14日間の範囲であり、特に、3日間~7日間の範囲である。
【0086】
製造方法1において、酸化工程の後に、酸化工程で得られた生成物を、水素存在下で水素化する工程(以下、「水素化工程」とも記載する)をさらに実施してもよい。水素化工程を実施することにより、R2、R3、R4及びR5が(i)の条件を満たす式(I)又は(Ia)で表される化合物から、R2、R3、R4及びR5が(ii)の条件を満たす式(I)又は(Ia)で表される化合物を得ることができる。
【0087】
水素化工程は、通常は、Pd/C、Pd(OH)2、ラネーニッケル又は酸化白金等の触媒の存在下で実施される。触媒は、Pd/Cであることが好ましい。
【0088】
水素化工程において、水素の分圧は、0.1~1 MPaの範囲であることが好ましく、0.1~0.35 MPaの範囲であることがより好ましい。
【0089】
水素化工程において、反応温度は、0~60℃の範囲であることが好ましく、20~30℃の範囲であることがより好ましい。反応時間は、特に限定されないが、通常は、1時間~5日間の範囲であり、特に、1時間~1日間の範囲である。
【0090】
製造方法1において、酸化工程又は場合により水素化工程の後に、酸化工程又は場合により水素化工程で得られた生成物のカルボン酸アミドを脱水してニトリルを形成する工程(以下、「ニトリル形成工程」とも記載する)をさらに実施してもよい。ニトリル形成工程を実施することにより、R11が-C(=O)-NH2である式(I)又は(Ia)で表される化合物から、R11が-CNである式(I)又は(Ia)で表される化合物を得ることができる。
【0091】
ニトリル形成工程は、通常は、PdCl2、トリフルオロ酢酸無水物、酢酸無水物、オキシ塩化リン又は塩化チオニル等のニトリル形成試薬の存在下で実施される。ニトリル形成試薬は、PdCl2であることが好ましい。
【0092】
ニトリル形成工程において、反応温度は、20~70℃の範囲であることが好ましく、20~50℃の範囲であることがより好ましい。反応時間は、特に限定されないが、通常は、1時間~5日間の範囲であり、特に、1時間~1日間の範囲である。
【0093】
[2-2. 製造方法2]
本態様の一実施形態において、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物の製造方法は、式(X)又は(Xa)で表される化合物を、酢酸水銀、メタクロロ過安息香酸又はペルオキシダーゼ(ペシロマイセス属)等の存在下で反応させる工程を含む方法により、実施することができる(以下、「製造方法2」とも記載する)。
【0094】
製造方法2は、例えば、Journal of Organometallic Chemistry (1967), 32(4), 1241-1243(酢酸水銀、参考例1及び4参照)、US3438999(メタクロロ過安息香酸又はペルオキシダーゼ、参考例2及び4参照)、Journal of Antibiotics (2010), 63 (12), 693-698(参考例3参照)又は Journal of Organic Chemistry(2016), 81, 6186-6194(ペシロマイセス属)等の公知文献に基づき実施することができる。
【0095】
本態様の製造方法1又は2を実施することにより、本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物を製造することができる。
【0096】
<3. 医薬用途>
本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物は、高いmPTP開口阻害活性を有する。それ故、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む、mPTPの開口阻害剤に関する。また、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物を対象に投与した場合、mPTP開口阻害活性を介して、該対象の有する特定の疾患、症状若しくは障害を予防又は治療し得る。それ故、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の式(I)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む、mPTPの開口に起因する疾患、症状又は障害の予防又は治療に使用するための医薬に関する。本発明のさらに別の一態様は、本発明の一態様の式(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む医薬に関する。
【0097】
本発明の各態様において、式(I)及び(Ia)で表される化合物は、mPTPの開口に対して特異的な阻害活性を有することが好ましく、該化合物を投与する対象に由来するmPTPの開口に対して特異的な阻害活性を有することがより好ましく、ヒト又は非ヒト哺乳動物(例えば、ブタ、イヌ、ウシ、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ヒツジ、ネコ、サル、マントヒヒ若しくはチンパンジー等の温血動物)由来のmPTPの開口に対して特異的な阻害活性を有することがさらに好ましく、ヒト由来のmPTPの開口に対して特異的な阻害活性を有することが特に好ましい。前記対象に対して式(I)又は(Ia)で表される化合物、又は該化合物を有効成分として含む医薬等を投与することにより、該対象の有する特定の疾患、症状若しくは障害を予防又は治療することができる。
【0098】
本発明の各態様において、有効成分として使用される式(I)又は(Ia)で表される化合物のmPTP開口阻害活性は、限定するものではないが、例えば、以下の手順により、該化合物を投与する対象のモデル個体の脳から単離されたミトコンドリアにおけるmPTPに対する該化合物の阻害作用を評価することにより、決定することができる。文献に記載の方法に基づき、対象のモデル個体(例えば、マウス)からミトコンドリアを調製する(参考文献:Sims NR, J Neurochem, 第55巻, p.698-707, 1990年, Rapid isolation of metabolically active mitochondria from rat brain and subregions using Percoll density gradient centrifugation)。単離したミトコンドリアのペレットに、所定濃度となるように蛍光カルシウム指示薬であるカルシウムグリーン-5Nを含む測定バッファー(例えば、210 mMスクロース、20 mM塩化カリウム、3 mMグリシルグリシン、1 mMリン酸二水素カリウム)を添加して、ミトコンドリアの懸濁液を調製する。カルシウムグリーンは、カルシウムと結合して蛍光を呈する定量用プローブであり、ミトコンドリアの懸濁液に添加した場合、その外液中のカルシウムの存在を検出することができる。カルシウムグリーンを含む測定バッファーで懸濁したミトコンドリアを96ウェルプレートに分注する。所定のウェルに、所定濃度の試験化合物を含有する測定バッファーを添加して、ミトコンドリアの懸濁液を調製する。96ウェルプレートに懸濁したミトコンドリアにカルシウムを連続的に滴下することにより、ミトコンドリア外カルシウム量を反映した蛍光値を測定する(例えば、蛍光波長:488 nm、励起波長:527 nm)。測定は、ファンクショナルドラッグスクリーニング装置(例えば、FDSS3000、浜松ホトニクス)を用いて行うことができる。所定の間隔(例えば、1分毎)で、ミトコンドリアの懸濁液にカルシウム(例えば、CaCl2)を添加する。カルシウムの滴下に伴い、蛍光シグナルが上昇し、ミトコンドリアが速やかにこれを取り込むとともに、シグナルの減少が観察される。その後、繰り返しのCaCl2添加後に、mPTP開口に伴う急激なシグナルの増加が見られる。mPTPが開口し、ミトコンドリア内に蓄積されたカルシウムが放出されるまでに必要な量のカルシウム量が、ミトコンドリアのCRCである。試験化合物と同濃度のDMSOを含有する測定バッファーを用いて同様の試験を行った場合を、化合物非添加の対照とする。試験化合物の存在下で、mPTP開口を誘発するのに必要なカルシウムの量(CRC)と、対照(すなわち化合物非添加)の場合のmPTP開口を誘発するのに必要なカルシウムの量(CRC(DMSO))との比(CRC/CRC(DMSO))を、試験化合物のmPTP開口阻害活性の評価尺度として用いる。
【0099】
本発明の各態様において、有効成分として使用される式(I)又は(Ia)で表される化合物は、前記手順により決定したmPTP開口阻害活性のCRC/CRC(DMSO)値が、通常は1.00以上、典型的には1.51以上且つ2.0以下の範囲、特に2.1以上且つ2.5以下の範囲、とりわけ2.51以上且つ3.0以下の範囲である。前記範囲のCRC/CRC(DMSO)値を有する場合、有効成分として使用される式(I)又は(Ia)で表される化合物は、対象の有する特定の疾患、症状若しくは障害を特に効果的に予防又は治療することができる。
【0100】
本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物を医薬用途に適用する場合、これらの化合物は、該化合物自体だけでなく、該化合物の立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物も包含する。本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物、その立体異性体又はそのプロドラッグの製薬上許容される塩、及びそれらの製薬上許容される溶媒和物としては、限定するものではないが、例えば、前記で例示した塩又は溶媒和物が好ましい。本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物、その立体異性体又はそのプロドラッグが前記の塩又は溶媒和物の形態である場合、mPTP開口阻害活性及び薬理活性を実質的に低下させることなく、該化合物を所望の医薬用途に適用することができる。
【0101】
本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物を医薬用途に適用する場合、該化合物を単独で使用してもよく、1種以上の製薬上許容される成分と組み合わせて使用してもよい。本態様の医薬は、所望の投与方法に応じて、当該技術分野で通常使用される様々な剤形に製剤されることができる。それ故、本態様の医薬はまた、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物と、1種以上の製薬上許容される担体とを含む医薬組成物の形態で提供されることもできる。本態様の医薬組成物は、前記成分に加えて、製薬上許容される1種以上の媒体(例えば、滅菌水のような溶媒又は生理食塩水のような溶液)、賦形剤、結合剤、ビヒクル、溶解補助剤、防腐剤、安定剤、膨化剤、潤滑剤、界面活性剤、乳化剤、油性液(例えば、植物油)、懸濁剤、緩衝剤、無痛化剤、酸化防止剤、甘味剤及び香味剤等を含んでもよい。
【0102】
本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む本態様の医薬の剤形は、特に限定されず、非経口投与に使用するための製剤であってもよく、経口投与に使用するための製剤であってもよい。また、本態様の医薬の剤形は、単位用量形態の製剤であってもよく、複数投与形態の製剤であってもよい。非経口投与に使用するための製剤としては、例えば、水若しくはそれ以外の製薬上許容される媒体との無菌性溶液又は懸濁液等の注射剤、ローション剤、軟膏剤、点眼剤及び座剤を挙げることができる。注射剤に混和することができる成分としては、限定するものではないが、例えば、生理食塩水、ブドウ糖若しくはその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、D-マンノース若しくは塩化ナトリウム)を含む等張液のようなビヒクル、アルコール(例えばエタノール若しくはベンジルアルコール)、ポリアルコール(例えばプロピレングリコール若しくはポリエチレングリコール)若しくはエステル(例えば安息香酸ベンジル)のような溶解補助剤、ポリソルベート80(商標)又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のような非イオン性界面活性剤、ゴマ油又は大豆油のような油性液、リン酸塩緩衝液又は酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝剤、塩化ベンザルコニウム又は塩酸プロカインのような無痛化剤、ヒト血清アルブミン又はポリエチレングリコールのような安定剤、保存剤、並びに酸化防止剤等を挙げることができる。調製された注射剤は、通常、適当なバイアル(例えばアンプル)に充填され、使用時まで適切な環境下で保存される。
【0103】
経口投与に使用するための製剤としては、例えば、錠剤、丸薬、散剤、顆粒剤、粉末剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、エリキシル剤、液剤、シロップ剤、スラリー剤及び懸濁液等を挙げることができる。錠剤は、所望により、糖衣又は溶解性被膜を施した糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠又はフィルムコーティング錠の剤形として製剤してもよく、或いは二重錠又は多層錠の剤形として製剤してもよい。
【0104】
錠剤又はカプセル剤等に混和することができる成分としては、限定するものではないが、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム又はアラビアゴムのような結合剤;結晶性セルロース、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン又はケイ酸のような賦形剤;乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉又は乳糖のような崩壊剤;白糖、ステアリンカカオバター又は水素添加油のような崩壊抑制剤;第四級アンモニウム塩又はラウリル硫酸ナトリウムのような吸収促進剤;グリセリン又はデンプンのような保湿剤;澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト又はコロイド状ケイ酸のような吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩(例えばステアリン酸マグネシウム)、ホウ酸末又はポリエチレングリコールのような潤滑剤;ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤;及びペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤等を挙げることができる。製剤がカプセル剤の場合、さらに油脂のような液状担体を含有してもよい。
【0105】
本態様の医薬は、デポー製剤として製剤化することもできる。この場合、デポー製剤の剤形の本態様の医薬を、例えば皮下若しくは筋肉に埋め込み、又は筋肉注射により投与することができる。本態様の医薬をデポー製剤に適用することにより、本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物の薬理活性を、長期間に亘って持続的に発現することができる。
【0106】
本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む本態様の医薬は、医薬として有用な1種以上の他の薬剤と併用することもできる。本態様の医薬において、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物と併用される他の薬剤は、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物の効果を阻害しない薬剤であればよい。本態様の医薬において、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物と併用される他の薬剤としては、限定するものではないが、例えば、ミトコンドリア機能改善剤、神経変性疾患治療剤、筋疾患治療剤、心疾患治療剤、腎疾患治療剤及び虚血再灌流障害治療剤等を挙げることができる。前記他の薬剤は、例えば、イデベノン、オレソキシム(TRO19622)、ラサギリン、シンバスタチン、アリスキレン(直接的レニン阻害薬)、アムロジピン、アトルバスタチン、カルベジロール、シロスタゾール、補酵素Q10、ラトレピルジン、ドキシサイクリン、エダラボン、EGb 761、エキセナチド(グルカゴン様ペプチド1受容体アゴニスト)、メトホルミン、ミノサイクリン、ニコランジル(KATPチャネル開口剤)、ニトログリセリン、ラノラジン、ロスバスタチン、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、タクロリムス、シクロスポリンA、ロピニロール、プラミペキソール又はセレギリン等の、mPTPの開口阻害作用を有することが知られている薬剤が好ましい。また、本態様の医薬において、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物と併用される他の薬剤としては、限定するものではないが、例えば、双極性障害及びうつ病を含む気分障害に対する治療剤等を挙げることができる。前記他の薬剤は、例えば、例えばトリフルオロペラジン、プロメタジン、トリフルプロマジン、クロミプラミン、フルフェナジン、クロルプロチキセン、ノルトリプチリン、プロマジン、チオリダジン、デシプラミン、クロルプロマジン、プロクロルペラジン、ピメチキセン、ペルフェナジン、アミトリプチリン、アモキサピン、マプロチリン、ペリシアジン、ミアンセリン、イミプラミン、クロザピン、フルオキセチン又はリチウム等の、mPTPの開口阻害作用を有することが知られている薬剤が好ましい。この場合、本態様の医薬は、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物と、1種以上の前記他の薬剤とを含む併用医薬の形態となる。前記併用医薬は、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物と、1種以上の前記他の薬剤とを組み合わせてなる医薬組成物の形態であってもよく、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を含む、1種以上の前記他の薬剤と併用される医薬組成物の形態であってもよい。本態様の医薬が前記のような併用医薬の形態である場合、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物と、1種以上の他の薬剤とを含む、単一製剤の形態で提供されてもよく、1種以上の他の薬剤とが別々に製剤化された複数の製剤を含む医薬組合せ又はキットの形態で提供されてもよい。医薬組合せ又はキットの形態の場合、それぞれの製剤を同時又は別々に(例えば連続的に)投与することができる。
【0107】
本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む本態様の医薬は、mPTPの開口に起因する種々の疾患、症状及び/又は障害を、同様に予防又は治療することができる。前記疾患、症状及び/又は障害としては、限定するものではないが、例えば、経皮的冠動脈形成術における虚血再灌流障害、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落、神経変性疾患、及び気分障害等を挙げることができる。神経変性疾患としては、限定するものではないが、例えば、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、多発性硬化症、及び神経障害性疼痛を挙げることができる。気分障害としては、限定するものではないが、例えば、双極性障害、及びうつ病を挙げることができる。前記疾患、症状及び/又は障害は、経皮的冠動脈形成術における虚血再灌流障害、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落、神経変性疾患、及び気分障害からなる群より選択される1種以上の疾患、症状又は障害であることが好ましい。前記疾患、症状若しくは障害の予防又は治療を必要とする対象に本態様の医薬を投与することにより、mPTPの開口に起因する前記疾患、症状若しくは障害を予防又は治療することができる。
【0108】
本態様の医薬を、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落を予防するために使用する場合、本態様の医薬を、移植前に臓器に適用することが好ましい。前記用法で本態様の医薬を使用することにより、移植を予定する臓器を良好な状態で保存して、移植後の臓器における臓器生着の異常又は脱落を予防することができる。
【0109】
本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む本態様の医薬は、mPTPの開口に起因する前記症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療を必要とする様々な対象に適用することができる。前記対象は、ヒト又は非ヒト哺乳動物(例えば、ブタ、イヌ、ウシ、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ヒツジ、ネコ、サル、マントヒヒ若しくはチンパンジー等の温血動物)の被験体又は患者であることが好ましい。前記対象に本態様の医薬を投与することにより、該対象が有するmPTPの開口に起因する前記疾患、症状及び/又は障害を予防又は治療することができる。
【0110】
本明細書において、「予防」は、症状、疾患及び/又は障害の発生(発症又は発現)を実質的に防止することを意味する。また、本明細書において、「治療」は、発生(発症又は発現)した症状、疾患及び/又は障害を抑制(例えば進行の抑制)、軽快、修復及び/又は治癒することを意味する。
【0111】
本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害(例えば、経皮的冠動脈形成術における虚血再灌流障害、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落、神経変性疾患、及び気分障害)を有する対象において、該症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用することができる。それ故、本態様の医薬は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用するための医薬であることが好ましく、経皮的冠動脈形成術における虚血再灌流障害、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落、神経変性疾患、及び気分障害からなる群より選択される1種以上の疾患、症状又は障害の予防又は治療に使用するための医薬であることがより好ましい。本態様の医薬をmPTPの開口に起因する前記症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用することにより、mPTP開口阻害活性を介して、該症状、疾患及び/又は障害を予防又は治療することができる。
【0112】
本発明の一態様の式(I)及び(Ia)で表される化合物は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害(例えば、経皮的冠動脈形成術における虚血再灌流障害、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落、神経変性疾患、及び気分障害)を有する対象において、該症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用することができる。それ故、本発明の別の一態様は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療を必要とする対象に、有効量の本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を投与することを含む、前記疾患若しくは症状の予防又は治療方法である。前記症状、疾患及び/又は障害は、経皮的冠動脈形成術における虚血再灌流障害、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落、神経変性疾患、及び気分障害からなる群より選択される1種以上の疾患、症状又は障害であることが好ましい。前記症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療を必要とする対象に、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物を投与することにより、mPTP開口阻害活性を介して、該症状、疾患及び/又は障害を予防又は治療することができる。
【0113】
本発明の別の一態様は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害(例えば、経皮的冠動脈形成術における虚血再灌流障害、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落、神経変性疾患、及び気分障害)の予防又は治療に使用するための、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物である。本発明の別の一態様は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害(例えば、経皮的冠動脈形成術における虚血再灌流障害、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落、神経変性疾患、及び気分障害)の予防又は治療に用いるための医薬の製造のための、本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物の使用である。前記症状、疾患及び/又は障害は、経皮的冠動脈形成術における虚血再灌流障害、移植された臓器における臓器生着の異常又は脱落、神経変性疾患、及び気分障害からなる群より選択される1種以上の疾患、症状又は障害であることが好ましい。本発明の一態様の式(I)若しくは(Ia)で表される化合物又は本態様の医薬を、前記症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用することにより、mPTP開口阻害活性を介して、該症状、疾患及び/又は障害を予防又は治療することができる。
【0114】
本発明の一態様の式(I)又は(Ia)で表される化合物、その立体異性体、そのプロドラッグ若しくはそれらの製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含む医薬を、対象、特にヒト患者に投与する場合、正確な用量及び用法(例えば、投与量、投与回数及び/又は投与経路)は、対象の年齢、性別、予防又は治療されるべき症状、疾患及び/又は障害の正確な状態(例えば重症度)、並びに投与経路等の多くの要因を鑑みて、担当医が治療上有効な投与量、投与回数及び投与経路等を考慮して、最終的に決定すべきである。それ故、本態様の医薬において、有効成分である式(I)又は(Ia)で表される化合物は、治療上有効な量及び回数で、対象に投与される。例えば、本態様の医薬をヒト患者に投与する場合、有効成分である式(I)又は(Ia)で表される化合物の投与量は、通常は、1回投与あたり、0.001~100 mg/kg体重の範囲であり、典型的には、1回投与あたり、0.01~10 mg/kg体重の範囲であり、特に、1回投与あたり、0.1~10 mg/kg体重の範囲である。また、本態様の医薬の投与回数は、例えば、1日に1回又は複数回(例えば2若しくは3回)、或いは数日に1回とすることができる。また、本態様の医薬の投与経路は、特に限定されず、経口的に投与されてもよく、非経口的(例えば、直腸内、径粘膜、腸内、筋肉内、皮下、骨髄内、鞘内、直接心室内、静脈内、硝子体内、腹腔内、鼻腔内又は眼内)に単回若しくは複数回投与されてもよい。本態様の医薬を、前記の用量及び用法で使用することにより、mPTP開口阻害活性を介して、前記症状、疾患及び/又は障害を予防又は治療することができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。本発明の範囲を逸脱しない範囲で、当該実施例の種々の応用、変形及び修正等が可能であることは自明のことである。実施例で使用した中間体及び原料等の製造法を、参考例として説明する。しかしながら、これらも、本発明の実施形態を具体的に説明するための例示である。当該例示によって、本発明の範囲が制限されるものではない。本発明の範囲を逸脱しない範囲で、当該例示の種々の応用、変形及び修正等が可能であることは自明のことである。
【0116】
特に明記しない限り、本明細書に開示される全ての実施例化合物において、立体化学的配置は、その描かれた構造がより具体的な配置を表し得る場合であっても、それぞれの化合物に対して示される化学名によって定義される。
【0117】
本発明の各態様は、本明細書に記載され且つ定義される化合物の全ての立体異性体に関する。すなわち、本発明の各態様は、それらの化学名によって定義されるとおりに実施例に記載されている化合物だけでなく、その描かれた構造より発生する全ての立体異性体も包含する。
【0118】
以下の実施例及び参考例において使用される略語は、下記の意味で用いられる。
M:mol/L
1H-NMR:プロトン核磁気共鳴スペクトル(270 MHz又は500 MHz)
ESI MS:質量スペクトル(電子スプレーイオン化法)
DMSO:ジメチルスルホキシド
【0119】
<I. 化合物の合成>
[参考例1]
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物I-1)、及び
2,3,5,6-テトラヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンズアミド(化合物I-2)の調製(Hg(OAc)
2法)
【化8】
【0120】
氷酢酸8 mL中のテトラサイクリン1 gに、同じく氷酢酸4 mL中の酢酸水銀1.51 gを加えて、50℃で二日間攪拌した。析出した水銀含有物を濾過後、反応液を過剰の硫化水素で処理し、硫化水銀をセライト濾過により除去した。濾液を凍結乾燥し、得られた残渣に水25 mLを加えて、pH1.3に希塩酸を用いて酸性とした。1時間攪拌した後に濾過して赤褐色のアモルファス固体の粗生成物(化合物I-1及びI-2を含む)を683 mg (73.4%) 得た。
【0121】
粗生成物100 mgを、分取HPLC(0.1% TFA CH3CN : H2O = 10:90~90:10)によって精製して、2,3,5,6-テトラヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンズアミド(化合物I-2)(10 mg, 10%)、及び2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物I-1)(30mg, 30%)を得た。
【0122】
化合物I-1: ESI MS: 414.37 (M+H); 1H-NMR (500 MHz, DMSO) δ 11.36 (s, 1H), 9.47 (s, 1H), 9.16 (s, 1H), 7.66 (dd, J = 8.3, 7.8 Hz, 1H), 7.21 (dd, J = 7.8, 0.8 Hz, 1H), 7.09 (dd, J = 8.3, 0.8 Hz, 1H), 3.51(s, 1H), 3.17 (dd, J = 11.5, 4.4 Hz, 1H), 2.72 (dd, J = 13.2, 4.4 Hz, 1H), 2.52 (dd, J = 13.2, 11.5 Hz, 1H), 1.90 (s, 3H).
化合物I-2: ESI MS: 416.42 (M+H); 1H-NMR (500 MHz, DMSO) δ11.41 (s, 1H), 9.48 (s, 1H), 9.41 (s, 1H), 7.68 (dd, J =8.3, 7.8 Hz, 1H), 7.20 (dd, J = 7.8, 0.8 Hz, 1H), 7.08 (dd, J = 8.3, 0.8 Hz, 1H), 4.22 (d, J= 5.0 Hz, 1H), 3.03 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 2.83 (dd, J = 11.0, 4.0 Hz, 1H), 2.57 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 2.20 (s, 3H).
【0123】
[参考例2]
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物I-1)の調製
【化9】
【0124】
テトラサイクリン(500 mg)をクロロホルム(30mL)に懸濁させ、氷冷、窒素気流下で撹拌しながらメタクロロ過安息香酸(388 mg)を加えて10分間撹拌した。混合物を、さらに30℃で2日間撹拌した。得られた混合物を減圧濃縮し、1 N塩酸20 mLを加え、析出した固体を濾取し、水で洗浄した。得られた固体に酢酸エチル30 mLを加え、不溶物を濾過した濾液を2 mL程度まで減圧下濃縮した。そこへメタノールを加えて固体を析出させた。析出物を超音波処理した後、濾取した。同じ操作で洗浄を繰り返し、得られた固体を減圧下で乾燥し、表題化合物の黄色固体54 mg(12%)を得た。
【0125】
【0126】
テトラサイクリン(1 g)をメタノール25 mLに懸濁させ氷冷した。懸濁液に、窒素雰囲気下でメタクロロ過安息香酸(純度65%、896 mg)を加え、反応液を5分間撹拌した。反応液を室温に戻し、窒素を吹き付けて溶媒を10 mL程度まで濃縮した。析出した固体を濾取した。固体をメタノールで洗浄し、表題化合物の茶色固体277 mg(27%)を得た。
【0127】
ESI MS: 461.23 (M+H); 1H-NMR (500 MHz, CD3OD) δ: 7.50 (dd, J = 8.3, 7.8 Hz, 1H), 7.13 (dd, J = 7.8, 0.8 Hz, 1H), 6.91 (dd, J = 8.3, 0.8 Hz, 1H), 4.23 (s, 1H), 3.53 (s, 3H), 3.47 (s, 3H), 3.19 (d, J = 12.2 Hz, 1H), 3.00 (q, J = 5.6 Hz, 1H), 2.18-2.09 (m, 1H), 1.95-1.87 (m, 1H), 1.60 (s, 3H).
【0128】
[参考例3]
(S)-4-((8-(ジメチルアミノ)- 5-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロキシ-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物I-3)の調製
【化11】
【0129】
ミノサイクリン500 mg のTHF (5 mL) 溶液に、1 N水酸化ナトリウム溶液 (0.94 mL) を加えた。混合液を減圧濃縮し、次にトルエンを加えて共沸しながら減圧濃縮した。残渣と酢酸水銀 711 mgとをDMF 8 mLに溶かし、これにモレキュラーシーブ4Aを加えた。混合液を、室温で1時間攪拌した。析出した水銀含有物をセライトで濾過した。濾過残渣を酢酸エチルで洗った。得られた濾液を減圧濃縮し、EDTA-pH6.4リン酸緩衝液中、35~40℃で終夜攪拌した。析出した固体を濾過し、水で洗浄した。残渣を減圧乾燥して、表題の生成物を89 mg (22 %) で得た。
【0130】
ESI MS: 401.43 (M+H); 1H-NMR (270 MHz, DMSO) δ 12.39 (s, 1H), 9.47 (s, 1H), 9.14 (s, 1H), 7.60 (d, J = 9.18 Hz, 1H), 6.85 (d, J = 9.18 Hz, 1H), 3.13 - 3.21 (m, 1H), 2.77 (s, 6H), 2.77 - 2.56 (m, 3H), 2.50 - 2.47 (m, 2H), 2.29 (m, 1H).
【0131】
[参考例4]
3-(((1S,4R,10S)-6-アセトキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラアセテート(化合物I-4)の調製
【化12】
【0132】
化合物I-1(100 mg)、無水酢酸(1.84 g)及び亜ジチオン酸ナトリウム(800 mg)の混合物に水(2 mL)を加え、室温で3時間撹拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮した。残渣に無水酢酸(1.84 g)を加え、50℃で8時間撹拌した。反応液を減圧下濃縮し、得られた固体を水で懸濁洗浄した。この固体をさらにメタノールで懸濁洗浄し、表題化合物の白色固体21 mg(14%)を得た。
【0133】
ESI MS: 626.37 (M+H); 1H-NMR (270 MHz, CDCl3) δ 11.51 (s, 1H), 8.17 (s, 1H), 7.53 (t, J = 8.1 Hz, 1H), 7.06 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.03 (d, J = 7.1 Hz, 1H), 3.60 (s, 1H), 3.03-2.91 (m, 2H), 2.63 (t, J = 13.7 Hz, 1H), 2.47 (s, 3H), 2.32 (s, 6H), 2.27 (s, 6H), 1.94 (s, 3H), 1.55 (s, 6H).
【0134】
[合成例1]
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロ-3,6-ジオキソヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-1)、及び
4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,3,5,6-テトラヒドロキシベンズアミド(化合物Ia-2)の調製
【化13】
【0135】
クロルテトラサイクリン1 gのTHF溶液に、1 N水酸化ナトリウム溶液 (2 mL) を加え、続いて硫酸マグネシウムを加えた。混合液を濾過し、濾液を減圧濃縮した。残渣と酢酸水銀 1.31gとを氷酢酸 8 mL に溶かした混合液を、室温で終夜攪拌した。析出した水銀含有物を濾過した後に、濾過残渣を酢酸エチルで洗いこんだ。得られた濾液を過剰の硫化水素で処理し、硫化水銀をセライト濾過により除去した。濾液を凍結乾燥し、得られた残渣に水25 mLを加えて、希塩酸を用いてpH1.3の酸性とした。混合物を1時間攪拌した後、赤色オイルをデカンテーションにより分離した。得られたオイルを酢酸エチルに溶解し、硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過によって粗生成物(化合物Ia-1及びIa-2を含む)を880 mg(定量的)得た。
【0136】
粗生成物200 mgを、分取HPLC(0.1% TFA CH3CN : H2O = 10:90~90:10)によって精製して、4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,5-ジヒドロ-3,6-ジオキソヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-1)(35 mg, 17.5%)、及び4-(((1S,4R,10S)-9-クロロ-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-2,3,5,6-テトラヒドロキシベンズアミド(化合物Ia-2)(68 mg, 34%)を得た。
【0137】
(化合物Ia-1)ESI MS: 448.25 (M+H); 1H-NMR (500 MHz, DMSO) δ 12.11 (s, 1H), 9.48 (s, 1H), 9.17 (s, 1H), 7.67 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 7.13 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 3.53(s, 1H), 3.32 (dd, J = 11.5, 4.3 Hz, 1H), 2.76 (dd, J = 13.0, 4.3 Hz, 1H), 2.47 (dd, J = 13.0, 11.5 Hz, 1H), 2.22 (s, 3H).
(化合物Ia-2)ESI MS: 450.26. (M+H); 1H-NMR (500 MHz, DMSO) δ 12.41 (s, 1H), 9.48 (s, 1H), 9.41 (s, 1H), 7.68 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 7.20 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 4.22 (d, J= 5.0 Hz, 1H), 3.03 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 2.83 (d, J = 14.5 Hz, 1H), 2.57 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 2.20 (s, 3H).
【0138】
[合成例2]
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボキサミド(化合物I-1)の調製
【化14】
【0139】
テトラサイクリン(10 g)をジメチルスルホキシド(50 mL)に溶解し、空気をバブリングしながら30℃で2日間撹拌した。混合物に1 N塩酸200 mLを加え、析出した固体を濾取し、水で洗浄した。得られた固体に酢酸エチル300 mLを加えて攪拌後、不溶物を濾過した。濾液を、20 mL程度まで減圧下濃縮した。そこへメタノールを加えて固体を析出させた。析出物を超音波処理した後、濾取した。析出物をさらにアセトンで洗浄し、得られた固体を減圧下で乾燥し、表題化合物の黄色固体2.5 g(26%)を得た。
【0140】
1H-NMR (500 MHz, DMSO) δ 11.36 (s, 1H), 9.47 (s, 1H), 9.16 (s, 1H), 7.66 (dd, J =8.3, 7.8 Hz, 1H), 7.21 (dd, J = 7.8, 0.8 Hz, 1H), 7.09(dd, J = 8.3, 0.8 Hz, 1H), 3.51(s, 1H), 3.17 (dd, J = 11.5, 4.4 Hz, 1H), 2.72 (dd, J = 13.2, 4.4 Hz, 1H), 2.52 (dd, J = 13.2, 11.5 Hz, 1H), 1.90 (s, 3H).
13C-NMR (500 MHz, DMSO) δ 194.54, 172.01, 170.46, 161.93, 144.29, 137.64, 119.56, 115.37, 115.17, 112.51, 98.00, 86.57, 61.94, 52.28, 21.33, 16.73.
【0141】
[合成例3]
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,2S)-5-ヒドロキシ-1-メチル-4-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレ-2-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエンカルボキサミド(化合物Ia-3)の調製
【化15】
【0142】
化合物I-1(50 mg)、5%Pd/C(5 mg)及びテトラヒドロフラン(10 mL)の混合物を、水素雰囲気下(0.35 MPa)で1日間撹拌した。反応液を濾過し、濾液を減圧下濃縮した。得られた固体を、酢酸エチル:ヘキサン=9:1で懸濁洗浄し、濾取後、減圧下乾燥して、表題化合物の黄色固体29 mg(64%)を得た。
【0143】
ESI MS: 372.24 (M+H); 1H-NMR (500 MHz, DMSO) δ 12.46 (s, 1H), 9.46 (s, 1H), 9.14 (s, 1H), 7.47 (t, J = 7.9 Hz, 1H), 6.83 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 6.76 (dd, J = 8.3, 0.8 Hz, 1H), 3.08-2.99 (m, 1H), 2.73-2.63 (m, 1H), 2.49-2.34 (m, 4H), 1.22 (d, J = 7.2 Hz, 3H).
【0144】
[合成例4]
2,5-ジヒドロキシ-4-(((1S,4R,10S)-6-ヒドロキシ-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエノカルボニトリル(化合物Ia-4)の調製
【化16】
【0145】
化合物I-1(50 mg)、PdCl2(50 mg)、及びアセトニトリル:水(1:1, 8 mL)の混合物を、50℃で1日間撹拌した。減圧下で溶媒を留去し、得られた残渣をDAIAION(0.1%TFA水~メタノール)で精製し、表題化合物の茶色固体15 mg(31%)を得た。
【0146】
[合成例5]
3-カルバモイル-6-(((1S,4R,10S)-1-メチル-3,5-ジオキソ-6-(ピバロイルオキシ)-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)ベンゼン-1,2,4,5-テトラリルテトラキス(2,2-ジメチルプロパノエート)(化合物I-5)の調製
【化17】
【0147】
化合物I-1(100 mg)、ピバル酸無水物(451 mg)、亜ジチオン酸ナトリウム(632 mg)、及びテトラヒドロフラン(4 mL)の混合物に水(4 mL)を加え、室温で6時間撹拌した。反応液をジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮した。残渣にテトラヒドロフラン(4 mL)及びピバル酸無水物(451 mg)を加え、80℃で一晩撹拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1~1:1)、及び(ジクロロメタン:酢酸エチル=97:3~95:5)で精製し、表題化合物の白色固体33 mg(16%)を得た。
【0148】
ESI MS: 818.81 (M+H); 1H-NMR (270 MHz, CDCl3) δ 7.65 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 7.45 (dd, J = 8.0, 0.8 Hz, 1H), 7.15 (dd, J = 8.1, 0.8 Hz, 1H), 3.44 (s, 1H), 3.25 (dd, J = 10.9, 4.5 Hz, 1H), 2.96 (dd, J = 13.4, 4.5 Hz, 1H), 2.67-2.76 (m, 1H), 1.97 (s, 3H), 1.41 (s, 9H), 1.36 - 1.39 (m, 27H), 1.34 (s, 9H).
【0149】
[合成例6]
3-(((1S,4R,10S)-6-(ベンゾイルオキシ)-1-メチル-3,5-ジオキソ-1,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-メタノベンゾ[c]オキセピ-10-ニル)メチル)-6-カルバモイルベンゼン-1,2,4,5-テトラリル テトラベンゾエート)(化合物I-6)の調製
【化18】
【0150】
化合物I-1(130 mg)、安息香酸無水物(547 mg)、亜ジチオン酸ナトリウム(800 mg)、テトラヒドロフラン(4 mL)の混合物に水(5 mL)を加え室温で40分間撹拌した。反応液を酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮した。残渣にテトラヒドロフラン(5 mL)及び安息香酸無水物(54 7mg)を加え、80℃で一日撹拌した。反応液に水を加え、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=7:3~3:7)で精製し、表題化合物の白色固体174 mg(63%)を得た。
【0151】
ESI MS: (M+H); 936.67 1H-NMR (270 MHz, CDCl3) δ 11.60 (s, 1H), 9.22 (s, 1H), 8.03-7.93 (m, 4H), 7.90-7.83 (m, 4H), 7.79-7.73 (m, 2H), 7.59-7.28 (m, 12H), 7.25-7.16 (m, 4H), 7.04 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 6.83 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 3.81 (s, 1H), 3.25-3.10 (m, 2H), 2.84 (dd, J = 14.2, 12.2 Hz, 1H), 1.69 (s, 3H).
【0152】
<II. 新規化合物の薬理試験>
[II-1. mPTP開口阻害活性試験]
本試験では、脳から単離されたミトコンドリアにおけるmPTPに対する試験化合物の阻害作用を評価した。
【0153】
生体内において、組織を構成する細胞の細胞質内カルシウムが過剰に増加すると、ミトコンドリアにおいてmPTPの開口が誘発される。その結果、ミトコンドリア内外の無機イオン、水及び生体分子が、ミトコンドリア内に入り込み、ミトコンドリアの膜電位の降下及びミトコンドリアの腫張(swelling)を生じる。同時に、ミトコンドリア内よりアポトーシス誘導因子(apoptosis-inducing factor、以下、「AIF」とも記載する)及びチトクロームc等が放出され、細胞死に至るシグナリングカスケードを活性化する。この反応は、ミトコンドリアを生体組織から分離し、ミトコンドリア浮遊液中のカルシウム濃度を上昇させることによって再現できる。
【0154】
試験化合物のmPTP開口阻害活性及び効力は、以下において説明するインビトロアッセイにより、ミトコンドリア内膜及び外膜からなるmPTPの開口を阻害する能力を評価することにより、決定される。
【0155】
(マウス脳ミトコンドリアの調製)
C57B6J系統の雄マウス(8~40週令)からミトコンドリアを調製した(参考文献:Sims NR, J Neurochem, 第55巻, p.698-707, 1990年, Rapid isolation of metabolically active mitochondria from rat brain and subregions using Percoll density gradient centrifugation)。動物は、頚椎脱臼により安楽死後、脳を摘出した。摘出した脳は、氷冷した単離バッファー(280 mM スクロース、10 mM 3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、1 mM エチレンジアミンテトラ酢酸二カリウム塩(EDTA-2K)、pH 7.2)に入れた。脳を、氷冷した前記バッファーですすぎ、氷上に置いたビーカーに入れた前記バッファー内において、はさみで刻み、Dounce型ガラス製ホモジナイザーに移した。12%パーコールを含む単離バッファーに置換し、切断物をホモジナイズした。Looseペストルで4回、Tightペストルで8回、上下に回転させながらホモジナイズを行った。このホモジネートを、50 ml遠沈管に作成したパーコールの2種類の密度勾配層(26%、40%)上に静かに重層した。4℃に維持された遠心分離機(HITACHI CR22N、ローターR20A2)中、30700×gで5分間遠心分離した。26%層及び40%層の中間層を、23Gのニードルで注意深く吸い取り、あらかじめ氷冷しておいた単離バッファー24 mlに添加した。これを、前記遠心分離機中、16700×gでさらに遠心分離し、ミトコンドリアのペレットを沈殿させた。静かに上清を破棄し、ミトコンドリアを懸濁した。この懸濁液の量を測定し、タンパク定量に用いるミトコンドリア懸濁液を20 μl分取した。この懸濁液に、10 mg/ml BSA 120 μlを添加した。さらに、この懸濁液に、単離バッファーを1.2 mlになるように添加した(最終濃度1 mg/ml)。この懸濁液を2.0 mlチューブに移して、再度、遠心分離した。上清を捨て、得られたミトコンドリアのペレットを氷中に保存した。ミトコンドリアのタンパク質量は、Bradford法で測定した。
【0156】
(カルシウム保持能(CRC)の測定)
単離したミトコンドリアのペレットに、蛍光カルシウム指示薬であるカルシウムグリーン-5N(200 nM)を含む測定バッファー(210 mMスクロース、20 mM塩化カリウム、3 mMグリシルグリシン、及び1 mMリン酸二水素カリウム)を添加し、150 μg/mlになるように、ミトコンドリアの懸濁液を調製した。カルシウムグリーンは、カルシウムと結合して蛍光を呈する定量用プローブであり、ミトコンドリアの懸濁液に添加した場合、その外液中のカルシウムの存在を検出することができる。400 nMカルシウムグリーンを含む測定バッファーで懸濁したミトコンドリアを96ウェルプレートに分注した。所定のウェルに、40 mMグルタミン酸、4 mMリンゴ酸及び2倍濃度の試験化合物を含有する測定バッファーを添加して、100 μl/ウェルのミトコンドリアの懸濁液を調製した(最終濃度:20 mMグルタミン酸、2 mMリンゴ酸)。96ウェルプレートに懸濁したミトコンドリアにカルシウムを連続的に滴下することにより(100 μl/ウェル中に、117 μM CaCl2 10 μlを添加、最終濃度11.7 μM)、ミトコンドリア外カルシウム量を反映した蛍光値を測定した(蛍光波長:488 nm、励起波長:527 nm)。測定は、ファンクショナルドラッグスクリーニング装置であるFDSS3000(浜松ホトニクス)を用いて行った。30℃でのインキュベーション及びウェルプレートの振盪は、装置内の装備により実施した。カルシウム(CaCl2)の添加は、FDSS3000ソフトウエアからのプログラムにより、1分毎に行った。
【0157】
カルシウムの滴下に伴い、蛍光シグナルが上昇し、ミトコンドリアが速やかにこれを取り込むとともに、シグナルの減少が観察された。その後、繰り返しのCaCl
2添加後に、mPTP開口に伴う急激なシグナルの増加が見られた。mPTPが開口し、ミトコンドリア内に蓄積されたカルシウムが放出されるまでに必要な量のカルシウム量が、ミトコンドリアのCRCである。試験化合物は、前記の条件で測定バッファーを用いて溶解した。試験化合物と同濃度のDMSOを含有する測定バッファーを用いて同様の試験を行った場合を、化合物非添加の対照とした。試験化合物の存在下で、mPTP開口を誘発するのに必要なカルシウムの量(CRC)と、対照(すなわち化合物非添加)の場合のmPTP開口を誘発するのに必要なカルシウムの量(CRC(DMSO))との比(CRC/CRC(DMSO))を、試験化合物のmPTP開口阻害活性の評価尺度として用いた。本試験の結果を表1に示す。また、試験化合物非添加又は添加条件下でのmPTP開口阻害活性試験におけるカルシウム濃度の経時変化を
図1に、試験化合物濃度に対するCRC/CRC(DMSO)値の用量応答を
図2に、それぞれ示す。
【0158】
【0159】
免疫抑制剤として知られているシクロスポリンAは、ミトコンドリアマトリックスに存在するシクロフィリンDに結合して、mPTP開口を阻害すると考えられている(参考文献:Crompton, M et al., Biochem. J., 1988年, 第255巻, p. 357-360, Inhibition by cyclosporin A of a Ca
2+-dependent pore in heart mitochondria activated by inorganic phosphate and oxidative stress(非特許文献1);Connern CP and Halestrap AP, Biochem. J., 1994年, 第302巻, p. 321-324, Recruitment of mitochondrial cyclophilin to the mitochondrial inner membrane under conditions of oxidative stress that enhance the opening of a calcium-sensitive non-specific channel(非特許文献2))。化合物I-1は、テトラサイクリンを出発化合物とすることにより、容易に合成可能である(参考例1及び2、並びに合成例2)。しかしながら、その出発化合物であるテトラサイクリン自体にはmPTP阻害活性はなかった。化合物I-1は、シクロスポリンAよりも低濃度でmPTP開口を阻害する活性を有することが明らかとなった(
図2)。
【0160】
[II-2. 細胞死抑制活性試験]
ミトコンドリアは、カルシウムを取り込むと共に膜電位を消失し、mPTPが開口する。生理的にはそれに伴い、ミトコンドリア呼吸鎖において過酸化水素が発生し得る。これにより、ミトコンドリアだけでなく、細胞に対してもさらなるダメージを与える可能性がある。mPTP開口阻害剤であるシクロスポリンAは、mPTP開口を阻害し、その機能的障害を減弱させることが示されている(Connern CP and Halestrap AP, Biochem. J., 1994年, 第302巻, p. 321-324, Recruitment of mitochondrial cyclophilin to the mitochondrial inner membrane under conditions of oxidative stress that enhance the opening of a calcium-sensitive non-specific channel(非特許文献2);Friberg, H et al. J. Neurosci., 1998年, 第18(14)巻, p. 5151-5159, Cyclosporin A, But Not FK 506, Protects mitochondria and neurons against hypoglycemic damage and implicates the mitochondrial permeability transition in cell death.(非特許文献3))。過酸化水素による酸化ストレスが、Ca取り込みの下流で細胞障害を引き起こす可能性がある。本試験では、細胞でのmPTP開口阻害作用と細胞死との関連性を、ラット副腎褐色細胞腫由来PC12細胞を用いて検討した。
【0161】
本試験に用いたPC12細胞は、ラット副腎褐色細胞腫由来であるが、神経成長因子により、交換神経細胞へと分化する。また、グルタミン酸濃度依存的に細胞死を起こすことが知られている(Pereira CF, Oliveira, R, Neuroscience Research, 第37(3)巻, p. 227-236, 2000年, Oxidative glutamate toxicity involves mitochondrial dysfunction and perturbation of intracellular Ca2+ homeostasis)。
【0162】
増殖培地(組成:100ユニットのペニシリン、100 μg/mLストレプトマイシン(Gibco 15-140-122)、2.5%非働化牛胎児血清(Gibco 10437-028)、及び2.5%非働化馬血清(Gibco 16050-130)を含むダルベッコ変法MEM培地(Gibco 11885-084))を調製した。PC12細胞を、10 mlの増殖培地を入れた培養用ディッシュ(直径:100 mm、Corning 353003)を用いて培養した。凍結保存したPC12細胞を、解凍後、この培地で1週間以上培養し、本試験に使用した。PC12細胞の継代培養は、0.25%トリプシン-1 mM EDTAにより細胞を剥離して行った。以下の実験は、全て37℃、5% CO2を含む雰囲気下のCO2インキュベーター内で行った。
【0163】
(グルタミン酸による細胞死誘発)
グルタミン酸による細胞死誘発に必要なグルタミン酸濃度を決定するための検討を行った。PC12細胞の細胞液を、5×104 細胞/900 μlとなるように調製した。コラーゲンIVコートした96ウェルマイクロプレート(Corning 354429)に、90 μl/ウェル(5×103 細胞/ウェル)のPC12細胞の細胞液を播種し、該細胞を37℃、5% CO2条件下で培養した。24時間後、50、100、150、300又は500 mMのグルタミン酸を10 μl/ウェルの量で添加した。グルタミン酸非添加の対照は、同量のDMSOを添加した。これにより、グルタミン酸非存在下(すなわち、0 又は最終濃度5、10、15、30又は50 mMのグルタミン酸存在下で細胞死を誘導した。さらに48時間後、前記マイクロプレートの各ウェルの100 μlの培養液に対し、CellTiter 96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay (MTS)(Promega G3580)を20 μlずつ添加した。
【0164】
CellTiter 96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay (MTS) (Promega G3580)は、細胞増殖及び細胞毒性の試験における生細胞数を測定するための比色定量分析用試薬である。この試薬は、テトラゾリウム化合物(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、分子内塩(MTS))及び電子捕獲剤(フェナジンエトスルファート(PES))を含む。この試薬は、従来のMTS試薬に代わる新規試薬として利用されている。従来のMTS試薬と異なり、MTSとの共存下でPESがより安定化するため、単一溶液をそのまま細胞液に添加して使用することができる。MTSが生細胞によって還元され、培地に可溶性ホルマザン産物が生じるメカニズムは同様である。本試薬を用いることにより、従来のMTS試薬と比較してより簡便にアッセイすることができる。
【0165】
CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Cell Proliferation Assay (MTS) (Promega G3580)添加後、マイクロプレートを、CO
2インキュベーター内に戻し、4時間インキュベーションした。700 nmを参照波長として、490 nmの波長における前記マイクロプレートの各ウェルの吸光度を、分光光度計(Molecular Device社製 SpectraMax i3)で測定した。得られた吸光度に基づき、下記の計算式(1)により、細胞生存率を算出した。なお、過剰の細胞残渣、培地及びその他の非特異的な吸光によるバックグラウンドを低減させるため、リファレンス波長として、700 nmの吸光度を用いて補正を行った。添加したグルタミン酸濃度と細胞生存率との関係を
図3に示す。図中、縦軸は、グルタミン酸非添加(Glu(-))のウェルにおける細胞生存率に対する百分率に標準化した細胞生存率の値(%)を示す。
計算式(1)
細胞生存率(%)=[(Abs-Abm) / (Abc-Abm)]×100
Abs:検体の吸光度(細胞、グルタミン酸添加培地及びMTS溶液を含むウェル)
Abc:陰性対照の吸光度(細胞、対照培地及びMTS溶液を含むウェル)
Abm:ブランク吸光度(対照培地及びMTS溶液を含むウェル)
【0166】
(被験化合物存在下における細胞死抑制)
グルタミン酸による細胞死誘発試験の結果(
図3)に基づき、効果的に細胞死を引き起こし、且つ全ての細胞が死滅しないグルタミン酸濃度として、10 mM濃度を選択した。試験化合物として、化合物I-1、並びにそのアシルエステルのプロドラッグ形態の化合物である化合物I-4(アセチルエステル)、化合物I-5(ピバロイルエステル)、及び化合物I-6(ベンゾイルエステル)を用いて、グルタミン酸誘発による細胞死抑制活性を評価した。
【0167】
試験化合物を1、3、10又は30 μMの最終濃度で血清不含培地中に含む、試験化合物の10倍濃度溶液を調製した。前記で説明したグルタミン酸による細胞死誘発試験と同様の手順で、コラーゲンIVコートした96ウェルマイクロプレート(Corning 354429)に、80 μl/ウェル(5×10
3細胞/ウェル)のPC12細胞の細胞液を播種し、該細胞を37℃、5% CO
2条件下で培養した。24時間後、試験化合物の10倍濃度溶液を10 μl/ウェルの量で添加した。試験化合物非添加の対照は、同量のDMSOを添加した。試験化合物添加から24時間後、50、100、150、300又は500 mMのグルタミン酸を10 μl/ウェルの量で添加した。これにより、最終濃度5、10、15、30又は50 mMのグルタミン酸存在下で細胞死を誘導した。さらに48時間後、前記マイクロプレートの各ウェルの100 μlの培養液に対し、CellTiter 96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay (MTS)(Promega G3580)を20 μlずつ添加した。マイクロプレートを、CO
2インキュベーター内に戻し、4時間インキュベーションした。700 nmを参照波長として、490 nmの波長における前記マイクロプレートの各ウェルの吸光度を、分光光度計(Molecular Device社製 SpectraMax i3)で測定した。得られた吸光度に基づき、下記の計算式(2)により、細胞生存率を算出した。なお、過剰の細胞残渣、培地及びその他の非特異的な吸光によるバックグラウンドを低減させるため、リファレンス波長として、700 nmの吸光度を用いて補正を行った。添加した試験化合物濃度と細胞生存率との関係を
図4に示す。図中、縦軸は、試験化合物非添加(DMSO)のウェルにおける細胞生存率に対する百分率に標準化した細胞生存率の値(%)を示す。
計算式(2)
細胞生存率(%)=[(Abs-Abm) / (Abc-Abm)]×100
Abs:検体の吸光度(細胞、試験化合物添加培地及びMTS溶液を含むウェル)
Abc:陰性対照の吸光度(細胞、対照培地及びMTS溶液を含むウェル)
Abm:ブランク吸光度(対照培地及びMTS溶液を含むウェル)
【0168】
図4に示すように、化合物I-1は、グルタミン酸によって引き起こされた細胞死からPC12細胞を少なからず保護した。また、化合物I-1のアシルエステルのプロドラッグ形態の化合物I-4、I-5及びI-6は、より保護効果が強かった。
【0169】
[II-3. 脳虚血による細胞死抑制試験]
シクロスポリンAを含む従来のmPTP開口阻害剤には、脳梗塞モデルにおいてその壊死面積を減少させる、神経細胞死保護作用が報告されている(Uchino, H et al., Brain Res, 1998年, 第812巻, p. 216-226, Amelioration by cyclosporin A of brain damage in transient forebrain ischemia in the rat(非特許文献4);Korde AS et al., J Neurotrauma., 第24(5)巻, p. 895-908, 2007年, Protective effects of NIM811 in transient focal cerebral ischemia suggest involvement of the mitochondrial permeability transition(非特許文献5);Muramatsu Y et al., Brain Res., 2007年, 第1149巻, p. 181-90, Neuroprotective efficacy of FR901459, a novel derivative of cyclosporin A, in in vitro mitochondrial damage and in vivo transient cerebral ischemia models(非特許文献6))。本試験では、in vivoにおける試験化合物の細胞死保護効果を評価するため、マウス中大脳動脈永久閉塞(pMCA-O)による局所脳虚血モデルを作製し、閉塞1日後における脳傷害巣に対する試験化合物の保護作用を検討した。なお、中大脳動脈永久閉塞モデル作製には、C57BL/6JJmsSlcを使用した。
【0170】
(化合物I-1又は対照用溶媒の調製)
化合物I-1は、必要量を溶解し、用時調製とし、使用時まで冷蔵庫に保管した。溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO:富士フィルム和光純薬工業)、ポリエチレングリコール(PEG400:富士フィルム和光純薬工業)、及びリン酸緩衝食塩水(PBS:富士フィルム和光純薬工業)を用いて、最終濃度15% DMSO、50% PEG400、及び35% PBSとした。
【0171】
(化合物I-1又は対照用溶媒の投与)
化合物I-1又は対照用溶媒は、脳虚血前日、脳虚血4時間前、及び脳虚血2時間後に注射針26G(テルモ株式会社)付き1 mlツベルクリンシリンジを用いて、5 ml/kgの容量で腹腔内投与した。化合物I-1の最終投与量は、100 mg/kgであった。
【0172】
(局所脳虚血モデルの作製)
1週間馴化飼育した11週齡の雄性マウスを21匹手術した。マウスは、3% イソフルランによって導入麻酔し、手術台に側臥位に固定後、側頭部をアルコール消毒した。1.5% イソフルラン麻酔維持下で、左外耳孔と眼球との間の皮膚及び側頭筋を、頬骨弓部まで切開して、頭蓋骨より剥離した。側頭蓋底の卵円孔と眼腔裂との中間に電気ドリルで2~3 mm程度の小骨窓を開けた。骨窓上の硬膜を注意深く切開した後に、左中大脳動脈を露出した。血管閉塞は、中大脳動脈が嗅索(olfactory tract)を交叉する直下の位置(遠位:distal portion)を双極性凝固鉗子(MICRO-30 MIZUHO IKA KOGYO)で焼灼し、マイクロ手術剪刀で切断することによって実施した(Koistinaho, M et al., Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism, 2005年, 第25巻, p. 460-467, Minocycline protects against permanent cerebral ischemia in wild type but not in matrix metalloprotease-9-deficient mice;Tamura, A et al., Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism, 1981年, 第1巻, p. 53-60, Focal cerebral ischemia in the rat: Description of technique and early neuropathological consequences following middle cerebral artery occlusion)。創部を縫合後、エンロフロキサシン(5 mg/kg s.c.)及びブプレノルフィン (0.1 mg/kg s.c.)を投与し、麻酔を中止して脳虚血処置を終了させた。動物は、ホームケージに戻し,自由に餌及び水を摂取させた。一連の操作は、全て手術用顕微鏡下で行い、術中の出血を最小限に留めると共に体温を維持するために温熱パッドで保温した。
【0173】
(脳標本作製及び脳傷害巣の定量)
脳虚血1日後、マウスを2% イソフルラン麻酔下で断頭し、注意深く全脳を摘出した。マウス脳スライサー(Brain matrix, ブレインサイエンスイデア社)を用いて、脳冠状縫合(Bregma)前方3 mmから後方3 mmの間で1 mm幅の連続脳冠状切片を6枚/匹作製した。この脳切片を、2% 2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)(林純薬工業株式会社)10 mLを含む生理食塩水溶液中で30分間染色した(Bederson, JB et al., Stroke, 1986年, 第17巻, p. 1304-1308, Evaluation of 2, 3, 5-triphenyltetrazolium chloride as a stain for detection and quantification of experiment a cerebral Infarction in rats)。6冠状切片を、デジタルカメラ(SX400IS Canon Power shot、記録画素数:4608×3456)で撮影して脳標本とした。
【0174】
脳傷害巣の定量は、撮影した各個体の脳標本の拡大画像から、各切片の大脳皮質傷害部位、基底核障害部位及び各断面の脳全体面積をマーキングし、画像解析ソフト(WinROOF 2015, MITANI CORPORATION)を用いて各々の面積を計測した。最後に、虚血性脳障害による傷害率(%)を、以下の計算式(3)により算出した。化合物I-1投与群及び溶媒投与の対照群における、虚血性脳障害による大脳皮質傷害率を
図5に示す。図中、白丸は、投与群又は対照群の各マウスの値を、実線及び誤差線は、投与群又は対照群に含まれる全マウスの平均値及び誤差を、それぞれ示す。また、**は、スチューデントのt-検定により算出した、対照群に対するP値が0.01未満であったことを示す。
計算式(3)
傷害率(%) = 切片1~6の傷害面積(mm
2)/切片1~6の脳全体面積(mm
2)×100
【0175】
試験期間中に、動物の死亡例は観察されなかった。本モデルの脳虚血1日後における脳傷害範囲は、中大脳動脈の血流支配領域である大脳皮質及び基底核に観察されたが、その大部分は大脳皮質に限局していた。本モデルにおいて、試験化合物投与群における平均脳傷害率は、対照群に対して約25%の減少作用を示し、その変化は、統計学的に有意な変化(総脳傷害率;P<0.05、大脳皮質傷害率;P<0.01)であった(
図5)。本試験の結果から、マウス中大脳動脈永久閉塞(pMCA-O)による局所脳虚血モデルにおいて、1日後における脳傷害巣に対して、化合物I-1の保護効果が認められた。
【0176】
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。