(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】傾斜シリンダ型クランプ装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/06 20060101AFI20231222BHJP
【FI】
B23Q3/06 302A
(21)【出願番号】P 2020541266
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2019034775
(87)【国際公開番号】W WO2020050316
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2018166428
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596037194
【氏名又は名称】パスカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100092738
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】北浦 一郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 清二
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/072440(WO,A1)
【文献】特開平05-185341(JP,A)
【文献】特開昭62-057878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ本体の前下がり傾斜軸心を有するシリンダ孔にピストンロッドが摺動自在に設けられ、前記ピストンロッドの先端部は前記シリンダ孔より突出して先端部の下面が水平状の押圧面部とされ、ピストンロッドの後端部にピストンが設けられ、前記ピストンロッドが上下方向に回動する回動支点部が設けられた傾斜シリンダ型クランプ装置において、
前記回動支点部は、前記シリンダ孔に設けられたカムブロックと、前記ピストンロッドの上面に形成された円弧溝に嵌合するカムピンとを有し、
前記カムブロックは、前記傾斜軸心と平行な傾斜面を有し、
前記カムピンは、前記傾斜面に摺接する摺接面を有
し、
前記カムブロックは、抜け出し防止手段によりシリンダ孔からの抜け出しが防止されている傾斜シリンダ型クランプ装置。
【請求項2】
前記抜け出し防止手段は、前記シリンダ孔と前記カムブロックに形成されたキー溝と、該キー溝に嵌合するキーにより構成されている請求項1記載の傾斜シリンダ型クランプ装置。
【請求項3】
前記抜け出し防止手段は、前記カムブロックを前記シリンダ孔に固定するボルトにより構成されている請求項1記載の傾斜シリンダ型クランプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜シリンダ型クランプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プレス機械、射出成型機、鍛造機の金型などのクランプ対象物をクランプする装置として、特許文献1(特開平5-185341号公報)の
図13から
図15に記載の「第7実施例」のものがある。
【0003】
この従来のものは、クランプ対象物の水平状のクランプ面を、上下方向に傾斜して配置されたピストンロッドの先端に形成された水平状の押圧面で押圧してクランプするものであった。
【0004】
ピストンロッドは、ハウジングの孔に傾斜姿勢で摺動自在に収納され、ピストンロッドの先端の押圧面は、ハウジングから出没自在とされていた。ピストンロッドが斜め下方に押し出されて、押圧面がクランプ面を押圧すると、押圧面は、ハウジングの孔に対して上方に揺動し、ピストンロッドの後端は下方に揺動してハウジングの孔に当接する。
【0005】
すなわち、ピストンロッドは、ハウジングの孔に対して所定の隙間を有して嵌合しているため、ピストンロッドは、ハウジングの孔に対してある支点を中心として押圧面が上方に、後端部が下方に回動することになる。この支点は、ハウジングの孔内に位置するものであった。
【0006】
前記第7実施例のものでは、前記支点は次のように構成されていた。すなわち、ハウジングの孔の前部に球面溝が形成され、その溝の上部に、外周面を球状に形成した支持部材がピンによって支持されるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に記載の支点構造は、ハウジングの孔に球面溝を設けなければならず、その球面溝加工は熟練を要するものであった。また、支持部材をピンにより支持する構造は、複雑なものであった。
【0009】
本発明は構造が簡単な支点構造を有する傾斜シリンダ型クランプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、次の手段を講じた。すなわち、本発明は、シリンダ本体の前下がり傾斜軸心を有するシリンダ孔にピストンロッドが摺動自在に設けられ、前記ピストンロッドの先端部は前記シリンダ孔より突出して先端部の下面が水平状の押圧面部とされ、ピストンロッドの後端部にピストンが設けられ、前記ピストンロッドが上下方向に回動する回動支点部が設けられた傾斜シリンダ型クランプ装置において、前記回動支点部は、前記シリンダ孔に設けられたカムブロックと、前記ピストンロッドの上面に形成された円弧溝に嵌合するカムピンとを有し、前記カムブロックは、前記傾斜軸心と平行な傾斜面を有し、前記カムピンは、前記傾斜面に摺接する摺接面を有する。
【0011】
前記カムブロックは、抜け出し防止手段によりシリンダ孔からの抜け出しが防止されているのが好ましい。
【0012】
前記抜け出し防止手段は、前記シリンダ孔とカムブロックに形成されたキー溝と、該キー溝に嵌合するキーにより構成されているのが好ましい。
【0013】
前記抜け出し防止手段は、前記カムブロックを前記シリンダ孔に固定するボルトにより構成することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、構造が簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図7】本発明の第2の実施の形態を示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0017】
図1~
図4において、本発明の第1の実施の形態に係る傾斜シリンダ型クランプ装置1は、プレス機械、射出成型機、鍛造機等の金型などの固定対象物2を、基盤3上に固定するものである。傾斜シリンダ型クランプ装置1は、シリンダ本体4を有する。シリンダ本体4は、基盤3に固定される。シリンダ本体4には、シリンダ孔5を有する。シリンダ孔5は、シリンダ本体4を前後方向に貫通して設けられている。シリンダ孔5は、前下がり傾斜軸心を有する。シリンダ孔5は、前半の小径部5aと後半の大径部5bとが同軸心に設けられている。大径部5bの後端開口部は、キャップ6で施蓋されている。
【0018】
シリンダ孔5にピストンロッド7が摺動自在に設けられている。ピストンロッド7の後端にピストン8が設けられている。ピストンロッド7がシリンダ孔5の小径部5aに摺動自在であり、ピストン8が大径部5bに摺動自在である。
【0019】
ピストンロッド7の先端部はシリンダ孔5の小径部5aより前方に突出している。この先端部の下面が水平状の押圧面部9とされている。この押圧面部9が固定対象物2の水平面を押圧して固定対象物2を基盤に固定する。
【0020】
ピストン8には、樹脂製のウエアリング10が嵌合し、ウエアリング10の前側にパッキン11が嵌合している。これらウエアリング10及びパッキン11がシリンダ孔5の大径部5bに摺接している。ピストン8の外周面と大径部5bの内周面とに若干の隙間が形成されている。
【0021】
ピストンロッド7と小径部5aとの間にも若干の隙間が形成されている。この隙間を埋めるように、小径部5aには、前側から後方に向かってダストシール12、スライドリング13、及び、ロッドパッキン14が設けられている。
【0022】
ピストン8の後端面には、有底孔15が設けられている。この有底孔15の底面に着座する位置検出ロッド16が設けられている。位置検出ロッド16の後端は、キャップ6を貫通してシリンダ本体4の外部に突出している。この位置検出ロッド16の着座部17とキャップ6との間に圧縮ばね18が介在され、ピストン8を前方に向かって押し出している。
【0023】
ピストン8の後端面とキャップ6の前端面間の大径部5bが押出しシリンダ室19とされ、ピストン8の前端面と大径部5bとの間は戻しシリンダ室20とされ、両シリンダ室19,20に流体圧力媒体が供給、排出されるよう構成されている。
【0024】
ピストンロッド7には、回動支点部21が設けられている。回動支点部21は、ピストンロッド7が前方に最大限突出した位置において、シリンダ孔5の小径部5aの前端部近傍に位置している。
【0025】
回動支点部21は、シリンダ孔5に設けられたカムブロック22と、ピストンロッド7の上面に形成された円弧溝23に嵌合するカムピン24とを有する。
【0026】
シリンダ本体4の前端面から、シリンダ孔5の小径部5aに至るカムブロック収納凹部25が形成されている。この収納凹部25は、水平面の天井面26と垂直面の左右の側面27とを有する。この収納凹部25にカムブロック22が収納されている
【0027】
カムブロック22は、収納凹部25の天井面26に当接する水平面28と、収納凹部25の側面27に当接する側面29とを有し、下面は、シリンダ孔5の傾斜軸心と平行な傾斜面30を有する。
【0028】
カムブロック22にはシリンダ孔5から前方への抜け出しを防止する抜け出し防止手段31が設けられている。
【0029】
この抜け出し防止手段31は、カムブロック収納凹部25の天井面26に左右方向に形成されたキー溝32と、このキー溝32に対向配置してカムブロック22の水平面28に左右方向に形成されたキー溝33と、この両キー溝32,33に嵌合するキー34とにより構成されている。このキー34は、シリンダ本体の左右両側面より挿入されたピン35と、このピン35の抜け出しを防止する止めネジ36により、左右方向の移動が防止されている。
【0030】
なお、キー34の左右方向移動防止は、ピン35と止めネジ36に限らず、ボルトで行っても良い。
【0031】
前記ピストンロッド7の上面に形成された円弧溝23は、左右方向の軸心を有して形成されている。カムピン24は、下面が円弧溝23に摺動自在に嵌合する円弧面37とされ、上面は、カムブロック22の傾斜面30に摺接する平坦な摺接面38とされている。この摺接面38は、ピストンロッド7の外周面よりもわずかばかり突出している。カムピン24の長さは、カムブロック22の左右方向の長さと同じとされている。
【0032】
図5、
図6に示すものは、前記押圧面部9の詳細である。ピストンロッド7の先端の押圧面部9が、クランププレート39で構成されている。このクランププレート39は、ピストンロッド7の先端部の下面に形成されたアリ溝40に前後方向摺動自在に設けられている。したがって、クランププレート39の左右側面は、アリ溝40に嵌合して摺接するよう傾斜面に形成されている。
【0033】
クランププレート39には、前後方向に長い長孔41が左右一対設けられている。この長孔41に挿通されるボルト42がピストンロッド7のアリ溝40内にねじ止めされている。このボルト42により、クランププレート39は、アリ溝40から前方への抜け出しが防止されている。
【0034】
クランププレート39の後端面とアリ溝40の後端面との間に圧縮バネ43がバネ受座44を介して介在されている。クランププレート39は、圧縮バネ43によって前方に付勢され、後方への押圧力により、圧縮バネ43に抗して後方にスライドするよう構成されている。
【0035】
なおクランププレート39の前方への抜け出し防止は、長孔41とボルト42に限られず、ピストンロッド7の前端面に固定されるプレートにより行うこともできる。
【0036】
上記構成の傾斜シリンダ型クランプ装置1は、ピストンロッド7の先端部が、
図1の突出状態からシリンダ孔5内に没入した状態にされている。このとき、戻しシリンダ室20内にエアーまたは油圧の流体圧力媒体が供給され、押出しシリンダ室19内の流体圧力媒体は排出されている。
【0037】
固定対象物2が基盤3上に載置される。戻しシリンダ室20の流体圧力媒体が排出され、押出しシリンダ室19に流体圧力媒体が供給される。ピストン8は、押出しシリンダ室19の流体圧力媒体と圧縮ばね18とにより前方に押し出される。シリンダ孔5の前端より突出したピストンロッド7の先端押圧面部9は、前下がり傾斜状に前進して、固定対象物2の水平状のロック面に当接する。このピストンロッド7の前進移動の時、カムピン24の摺接面38とカムブロック22の傾斜面30は摺動する。
【0038】
さらにピストン8が押されて、押圧面部9が固定対象物2のロック面を押圧すると、押圧面部9のクランププレート39とアリ溝40とに相対移動が生じる。そして、さらにピストン8が押されると、回動支点部21のカムピン24の円弧面37とピストンロッド7の円弧溝23との間で相対回動が生じ、シリンダ孔5とピストンロッド7及びピストン8との隙間の範囲内に於いて、ピストンロッド7の前端は上方に、ピストン8は下方に回動して、ピストン8の軸心方向押圧力は、押圧面部9の垂直下方向の押圧力になる。
【0039】
このとき、回動支点部21のカムブロック22の傾斜面30には、カムピン24を介して前方への押し出し力が強力に作用し、カムブロック収納凹部25から前方に抜け出そうとする。しかし、この抜け出し力は、キー34により阻止され、カムブロック22の抜け出しが防止される。
【0040】
前記構成の傾斜シリンダ型クランプ装置1によれば、カムブロック22とカムピン24により回動支点部21を構成したので、構造が簡単になる。
【0041】
図7に示すのは、本発明の第2の他の実施の形態である。
【0042】
この実施の形態では、カムブロック22の抜出し防止手段31が、前記キー34の他に固定ボルト45により構成されている。この固定ボルト45は、シリンダ本体4の上面よりカムブロック22を固定している。その他の構成は、前記実施の形態と同じである。
【0043】
図8~
図10に示すものは、本発明の第3の他の実施の形態である。
【0044】
この実施の形態では、カムブロック22の抜出し防止手段31が、縦固定ボルト46と横固定ボルト47により構成されている。すなわち、前記実施の形態のようなキーを用いずに、上方からの2本の縦固定ボルト46と、前方からの2本の横固定ボルト47により構成されている。その他の構成は、前記実施の形態と同じである。
【0045】
今回開示された実施例の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。例えば、ピストンロッド7とピストン8は一体のものとされているが、別体に構成されたものであっても良い。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1 傾斜シリンダ型クランプ装置
2 固定対象物
3 基盤
4 シリンダ本体
5 シリンダ孔
5a 小径部
5b 大径部
6 キャップ
7 ピストンロッド
8 ピストン
9 押圧面部
10 ウエアリング
11 パッキン
12 ダストシール
13 スライドリング
14 ロッドパッキン
15 有底孔
16 位置検出ロッド
17 着座部
18 圧縮ばね
19 押出しシリンダ室
20 戻しシリンダ室
21 回動支点部
22 カムブロック
23 円弧溝
24 カムピン
25 カムブロック収納凹部
26 天井面
27 左右側面
28 水平面
29 側面
30 傾斜面
31 抜け出し防止手段
32 キー溝(シリンダ孔側)
33 キー溝(カムブロック側)
34 キー
35 ピン
36 止めネジ
37 円弧面
38 摺接面
39 クランププレート
40 アリ溝
41 長孔
42 ボルト
43 圧縮バネ
44 バネ受座
45 固定ボルト
46 縦固定ボルト
47 横固定ボルト