(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】ベタレイン色素の合成方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20231222BHJP
C12P 19/60 20060101ALI20231222BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231222BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231222BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231222BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231222BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12P19/60
C12N1/19
C12N1/15
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/10
(21)【出願番号】P 2020553322
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2019041002
(87)【国際公開番号】W WO2020080503
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2018197998
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520215290
【氏名又は名称】森 正之
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】森 正之
(72)【発明者】
【氏名】今村 智弘
(72)【発明者】
【氏名】東村 泰希
(72)【発明者】
【氏名】水越 裕治
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-182044(JP,A)
【文献】Bioinformation,2014年,Vol. 10,p. 52-55
【文献】Phytother. Res.,2015年,Vol. 29,p. 1964-1973
【文献】J. Plant Res.,2005年,Vol. 118,p. 439-442
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12P 19/60 - 19/64
C12N 9/00 - 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベタレイン色素の合成方法であって、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン(3-hydroxy-L-tyrosine:L-DOPA)産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからベタニンへの合成酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからゴムフレニンI (ベタニジン6-O-グルコシド)の合成酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、若しくは、
又は、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからベタニンへの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからゴムフレニンIの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、
ここで、該アマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子は、以下のいずれか1以上から選択され、
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、及び
(7)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子、
ことを特徴とするベタレイン色素の製造方法。
【請求項2】
前記ベタレイン色素がアマランチンである、請求項1に記載のベタレイン色素の合成方法。
【請求項3】
前記ベタレイン色素がゴムフレニンI-グルクロニドである、請求項1に記載のベタレイン色素の合成方法。
【請求項4】
前記マランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が、配列番号1、3、5、7、9及び11のいずれか1以上から選択される、請求項1~3のいずれか1に記載のベタレイン色素の合成方法。
【請求項5】
以下の(1)~(7)のいずれか1に示す遺伝子又は該遺伝子を担持したベクターを含むアマランチン合成用又はゴムフレニンI-グルクロニド合成用組成物;
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
及び
(7)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有し、かつアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
【請求項6】
以下の(1)~(3)のいずれか1のアミノ酸配列で表されるペプチドを有するアマランチン合成用又はゴムフレニンI-グルクロニド合成用組成物;
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドを形成するアミノ酸配列、及び
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドを形成するアミノ酸配列。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の合成
用組成物が導入されたベタレイン色素産出宿主。
【請求項8】
以下の(1)又は(2)のアマランチン合成方法、
(1)ベタニンと請求項6に記載のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成
用組成物を接触させる工程、
(2)(a)ベタジニンと、ベタニジンからベタニンへの合成酵素を接触させる工程、
(b)(a)で得たベタニンと請求項6に記載のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成
用組成物を接触させる工程。
【請求項9】
以下の(1)又は(2)のゴムフレニンI-グルクロニド合成方法、
(1)ゴムフレニンIと請求項6に記載のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成
用組成物を接触させる工程、
(2)(a)ベタジニンと、ベタニジンからゴムフレニンIへの合成酵素を接触させる工程、
(b)(a)で得たゴムフレニンIと請求項6に記載のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成
用組成物を接触させる工程。
【請求項10】
ベタレイン色素産出宿主であって、
該宿主は、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又はL-DOPA産生能を有する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからベタニンへの合成酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又はL-DOPA産生能を有する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからゴムフレニンIの合成活性を有する酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又はL-DOPA産生能を有する、
又は、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を有する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-O-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからベタニンへの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を有する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからゴムフレニンIの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を有する、
ここで、該アマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子は、以下のいずれか1以上から選択され、
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、及び
(7)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子、
ことを特徴とするベタレイン色素産出宿主。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベタレイン色素の合成方法、アマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成剤、アマランチン合成方法、ゴムフレニンI-グルクロニド合成方法、並びに、ベタレイン色素産出宿主に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2018-197998号優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
(ベタレイン)
植物色素の1つであるベタレインは、ナデシコ目と菌類の一部で生産されている。ベタレイン色素は、赤色から紫色のベタシアニンと黄色から橙色のベタキサンチンの2つに大別される。植物において、環境ストレスに対する耐性に関与していることが知られている(非特許文献1、非特許文献2)。ベタレイン色素は、その鮮やかな色彩から、食品添加物に使用されている。また、ベタレイン色素は、高い抗酸化活性を持つことから、医薬品やサプリメントとしての利用が期待されている。様々な生理作用を持つベタレイン色素であるが、ベタレイン色素の生産は、主にベタレイン色素生産植物からの抽出であるため、常に生産することが困難である。近年、ベタレイン生合成遺伝子をベタレイン非生産植物に導入することにより、ベタレインの生産に成功したことが報告されている(非特許文献2)。しかし、ベタレイン色素は、多くの種類が存在しているが、それらを合成する遺伝子は、ほとんど単離されていないため、特定のベタレイン色素しか合成することができていない。
南米アンデス原産のキヌアは、ベタレインを生産・蓄積する植物である。キヌアの芽生えに蓄積しているベタレイン色素は、主にアマランチンとセロシアニンIIが蓄積している(非特許文献3)。アマランチンは、ベタニンにグルクロン酸が結合したベタレイン色素である(
図1)。ベタレイン色素の生合成経路は、近年明らかにされつつあり、アマランチンの前駆物質であるベタニンの合成までに関わる遺伝子が報告されている。しかし、アマランチンを合成する能力を持つ遺伝子は報告されていない。そのため、アマランチンは、ベタレイン非生産植物での生産が不可能なベタレイン色素である。
【0003】
特許文献1は、「チロシンのフェノール環の3位を水酸化する酵素活性、DOPA4,5-ジオキシゲナーゼ活性、L-DOPA オキシダーゼ活性、およびフェノール性水酸基に糖を付加する酵素活性、を有する微生物またはその処理物の存在下、水性媒体中で原料をベタシアニン類へと変換する工程(変換工程)を有するベタシアニン類を製造する方法」を開示している。
非特許文献4は、「オシロイバナのベタニン合成系は、S体であるベタニンを88%、R体のイソベタニンを12%合成すること」を報告している。
非特許文献2は、「ジャガイモのベタニン合成系は、S体及びR体の両方を合成すること」を報告している。
非特許文献5は、「ベンサミアナタバコのベタニン合成系は、S体及びR体の両方を合成すること」を報告している。
しかし、いずれの文献も、本発明のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素遺伝子を開示又は示唆をしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Jain, G., Schwinn, K.E. and Gould, K.S. (2015) Betalain induction byl-DOPA application confers photoprotection to saline-exposed leaves of Disphymaaustrale. New Phytol. 207, 1075-1083.
【文献】Polturak, G., Grossman, N., Vela-Corcia, D., et al. 2017, Engineeredgray mold resistance, antioxidant capacity, and pigmentation inbetalain-producing crops and ornamentals. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 114,9062-7.
【文献】Imamura, T., Takagi, H., Miyazato, A., Ohki, S., Mizukoshi, H. andMori, M. (2018) Isolation and characterization of the betalain biosynthesisgene involved in hypocotyl pigmentation of the allotetraploid Chenopodiumquinoa. Biochem. Biophys. Res. Commun. 496, 280-286.
【文献】Sasaki, N., Abe, Y., Goda,Y., Adachi, T., Kasahara, K. and Ozeki, Y.2009, Detection ofDOPA4,5-dioxygenase(DOD) activity using recombinant proteinprepared from Escherichia coli cells harboring cDNA encoding DOD from Mirabilisjalapa. PlantCellPhysiol., 50, 1012-6.
【文献】Polturak,G., Breitel, D., Grossman,N., etal.2016, Elucidation of thefirst committed step in betalain biosynthesis enables the heterologousengineering of betalain pigments in plants. New Phytol., 210,269-83.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成能を有する遺伝子をキヌア等から単離し、その単離した遺伝子を用いて、ベタレイン非生産植物でのアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成能を確認した。
以上により、本発明のベタレイン色素の合成方法、アマランチン合成方法、ゴムフレニンI-グルクロニド合成方法、アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物、並びに、ベタレイン色素産出宿主を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.ベタレイン色素の合成方法であって、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン(3-hydroxy-L-tyrosine:L-DOPA)産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからベタニンへの合成酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからゴムフレニンI (ベタニジン6-O-グルコシド)の合成酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、若しくは、
又は、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからベタニンへの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからゴムフレニンIの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する、
ここで、該アマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子は、以下のいずれか1以上から選択され、
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、及び
(7)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子、
(8)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列の縮重異性体からなるDNAからなる遺伝子、
ことを特徴とするベタレイン色素の製造方法。
2.前記ベタレイン色素がアマランチンである、前項1に記載のベタレイン色素の合成方法。
3.前記ベタレイン色素がゴムフレニンI-グルクロニドである、前項1に記載のベタレイン色素の合成方法。
4.前記マランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が、配列番号1、3、5、7、9及び11のいずれか1以上から選択される、前項1~3のいずれか1に記載のベタレイン色素の合成方法。
5.以下の(1)~(7)のいずれか1に示す遺伝子又は該遺伝子を担持したベクターを含むアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物;
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子、及び
(8)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列の縮重異性体からなるDNAからなる遺伝子。
6.以下の(1)~(3)のいずれか1のアミノ酸配列で表されるペプチドを有するアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物;
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドを形成するアミノ酸配列、及び
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドを形成するアミノ酸配列。
7.前項5又は6に記載の合成組成物が導入されたベタレイン色素産出宿主。
8.以下の(1)又は(2)のアマランチン合成方法、
(1)ベタニンと前項6に記載のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物を接触させる工程、
(2)(a)ベタジニンと、ベタニジンからベタニンへの合成酵素を接触させる工程、(b)(a)で得たベタニンと前項6に記載のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物を接触させる工程。
9.以下の(1)又は(2)のゴムフレニンI-グルクロニド合成方法、
(1)ゴムフレニンIと前項6に記載のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物を接触させる工程、
(2)(a)ベタジニンと、ベタニジンからゴムフレニンIへの合成酵素を接触させる工程、(b)(a)で得たゴムフレニンIと前項6に記載のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物を接触させる工程。
10.ベタレイン色素産出宿主であって、
該宿主は、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又はL-DOPA産生能を有する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからベタニンへの合成酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又はL-DOPA産生能を有する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからゴムフレニンIの合成活性を有する酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又はL-DOPA産生能を有する、
又は、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を有する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-O-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからベタニンへの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を有する、若しくは、
以下のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからゴムフレニンIの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を有する、
ここで、該アマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子は、以下のいずれか1以上から選択され、
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子、及び
(8)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列の縮重異性体からなるDNAからなる遺伝子、
ことを特徴とするベタレイン色素産出宿主。
11.以下の(1)~(4)のいずれか1を含む癌治療又は予防剤。
(1)アマランチン
(2)前項1、2及び4のいずれか1に記載のベタレイン色素の合成方法で得られたアマランチン
(3)前項8に記載のアマランチン合成方法で得られたアマランチン
(4)前項10に記載のベタレイン色素産出宿主から得られたアマランチン
12.以下の(1)~(4)のいずれか1を含むHIV-1プロテアーゼ活性阻害剤。
(1)アマランチン
(2)前項1、2及び4のいずれか1に記載のベタレイン色素の合成方法で得られたアマランチン
(3)前項8に記載のアマランチン合成方法で得られたアマランチン
(4)前項10に記載のベタレイン色素産出宿主から得られたアマランチン
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ベタレイン色素の合成方法、アマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物、アマランチン合成方法、ゴムフレニンI-グルクロニド合成方法、並びに、ベタレイン色素産出宿主を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ベタレイン色素の1つであるベタシアニン生合成経路の概要図。ボックスはベタシアニン修飾酵素を示す。cDOPA5GTはシクロ-DOPA5-O-グルコシルトランスフェラーゼを示し、5GTはベタニジン5-O-グルコシルトランスフェラーゼを示す。N.I.は同定されていないことを示す。
【
図3】アマランチン合成反応の模式図。(a)クエルセチン3-O-ベータ-グルコシル-(1->2)-ベータ-グルコシド合成反応。(b)アマランチン合成反応。ボックスおよび破線のボックスは、それぞれ同定および予測された酵素を示す。
【
図4】アミノ酸配列に基づくフラボノイドグリコシルトランスフェラーゼの分子系統樹。複数の配列をMUSCLEで整列させ、MEGA7を用いた最尤法による系統樹構築に使用した。5000回の複製からのブートストラップ値をブランチに示す。バーは、部位当たり0.1個のアミノ酸置換を表す。CqAmaSy1およびCqUGT79B30-like1はキヌア胚軸で発現する遺伝子を示す。CqAmaSy2、AhUGT79B30-like4、Bv3GGT-like1、AhUGT79B30-like3およびAhUGT79B30-like2はアマランチン合成酵素クラスターを示す。他の植物種からのフラボノイドグリコシルトランスフェラーゼホモログの詳細は表1に記載されている。種の略号:AhはAmaranthus hypochondriacusを示し、AtはArabidopsis thalianaを示し、BpはBellis perennisを示し、BvはBeta vulgarisを示し、CaはCatharanthus roseusを示し、CmはCitrus Maximaを示し、CqはChenopodium quinoaを示し、CsはCitrus sinensisを示し、GmはGlycine maxを示し、IpはIpomoea purpureaを示し、PhはPetunia hybridaを示し、SbはScutellaria baicalensisを示す。
【
図5】アマランチン合成に関与する候補遺伝子の発現解析。キヌア胚軸における候補遺伝子発現のRT-PCR分析。(上のパネル)RT(+)は逆転写されたサンプルを表す。(下のパネル)RT(-)は対応する逆転写酵素を含まない対照を表す。ボックスはキヌア胚軸において発現した遺伝子を示す。
【
図6】植物発現ベクターの模式図。CqAmaSy1はCqAmaSy1 CDSを示し、CqAmaSy2はCqAmaSy2 CDSを示し、Cq3GGT-like2はCq3GGT-like2 CDSを示し、CqUGT79B30-like1はCqUGT79B30-like1 CDSを示し、CqCYP76AD1-1はCqCYP76AD1-1 CDSを示し、CqDODA-1はCqDODA-1 CDSを示し、CqCDOPA5GTはCqCDOPA5GT CDSを示し、AcGFP1はAcGFP1 CDSを示し、35SはCaMV 35Sプロモーターを示し、NosTはノパリンシンターゼターミネーターを示し、RBは右ボーダーを示し、LBは左ボーダーを示す。HPTはハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ発現カセットを示し、ATGは開始コドンを示し、STOPは終止コドンを示す。
【
図7】アマランチン生合成遺伝子の同定。(a)N.benthamianaの葉におけるアマランチンシンターゼ(Cq3GGT-like2、CqAmaSy1(CqUGT79B30-like4)、CqAmaSy2(CqUGT79B30-like3)及びCqUGT79B30-like1)の候補遺伝子の組換え発現。CqCYP76AD1-1、CqCDOPA5GT、CqDODA-1、およびP19を用いた候補遺伝子の発現のためのプラスミドを有するトランスジェニックアグロバクテリウムの同時浸潤。AcGFP1は陰性対照である。バーは4cmを示す。(b)感染したN.benthamiana葉抽出物のHPLCクロマトグラム。hypocotyl(胚軸)は、CQ127品種からのキヌア胚軸の抽出物を示す。破線と実線の矢印は、それぞれアマランチンとベタニンを示す。横軸は保持時間(分)を示す。縦軸はシグナル強度(μV)を示す。(c)N. benthaminana葉抽出物からのHPLC溶出サンプルのMSスペクトル。上および下のパネルは、21分(bにおける破線の矢印)および24分(bにおける実線の矢印)のHPLC溶出サンプルをそれぞれ示す。21分および24分のHPLC溶出サンプルは、それぞれアマランチンおよびベタニンを示す。横軸は質量電荷比(m/z)を示す。縦軸は相対存在量を示す。
【
図8】植物発現ベクターの模式図。Bv3GGT-like1はBv3GGT-like1 CDSを示し、AhUGT79B30-like3はAhUGT79B30-like3 CDSを示し、AhUGT79B30-like4はAhUGT79B30-like4 CDSを示し、DbBetanidin-15GTはDbベタニジン-5GT CDSを示し、35SはCaMV 35Sプロモーターを示し、NosTはノパリンシンターゼターミネーターを示し、RBは右ボーダーを示し、LBは左ボーダーを示す。HPTはハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ発現カセットを示し、ATGは開始コドンを示し、STOPはコドン停止を示す。種の略語:AhはAmaranthus hypochondriacusを示し、BvはBeta vulgarisを示し、Db、Dorotheanthus bellidiformisを示す。
【
図9】ビートおよびアマランスにおけるアマランチン生合成遺伝子の同定。(a)N. benthamianaの葉のアマランチン合成酵素遺伝子の候補遺伝子(Bv3GGT-like1、AhUGT79B30-like3およびAhUGT79B30-like4)、CqAmaSy1およびCqUGT79B30-like1の組換え発現。CqCYP76AD1-1、CqCDOPA5GT、CqDODA-1、およびP19で候補遺伝子を発現させるためのプラスミドを有するトランスジェニックアグロバクテリウムの同時浸潤。CqUGT79B30-like1は、アマランチン合成酵素クラスターに最も近いホモログである。バーは4 cmを示す。(b)感染したN. benthamiana葉抽出物のHPLCクロマトグラム。破線および実線の矢印は、それぞれアマランチンおよびベタニンを示す。横軸は保持時間(分)を示し、縦軸はシグナル強度(μV)を示す。
【
図10】CqAmaSy1のモデル構造。構造は座標5NLMを用いて計算した。活性に関与することが予想される残基はボールアンドスティックモデルで示される。
【
図11】CqAmaSy1の基質の推定。(a)N. benthamianaの葉におけるCqCDOPA5GTまたはCbベタニジン-5GTの組換え発現。CqCYP76AD1-1、CqDODA-1、CqAmaSy1およびP19を発現するCqCDOPA5GTまたはCbベタニジン-5GTのためのプラスミドを有するトランスジェニックアグロバクテリウムの同時浸潤。-CqAmaSy1は陰性対照として機能した。バーは4 cmを示す。(b)感染したN.benthamiana葉抽出物のHPLCクロマトグラム。破線および実線の矢印は、それぞれアマランチンおよびベタニンを示す。横軸は保持時間(分)を示し、縦軸はシグナル強度(μV)を示す。
【
図12】植物発現ベクターの模式図。CqAmaSy1はCqAmaSy1 CDSを示しCqCYP76AD1-1はCqCYP76AD1-1 CDSを示し、CqDODA-1はCqDODA-1 CDSを示し、CqCDOPA5GTはqCDOPA5GT CDSを示し、35SはCaMV 35Sプロモーターを示し、NosTはノパリンシンターゼターミネーターを示し、35S-Tは35Sターミネーターを示し、RBは右ボーダーを示し、LBは左ボーダーを示す。HPTはハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ発現カセットを示し、NPTIIはネオマイシンホスホトランスフェラーゼII発現カセットを示し、barはbar遺伝子発現カセットを示し、ATGは開始コドンを示し、STOPは終止コドンを示す。
【
図13】タバコBY-2細胞株におけるベタレイン色素の産生。(a)形質転換タバコBY-2細胞株の写真。#1、#2および#3は、それぞれベタニジン、ベタニンおよびアマランチンを産生するトランスジェニックタバコBY-2細胞株を示す。NTは非トランスジェニックタバコBY-2細胞株を示す。(b)形質転換タバコBY-2細胞の写真。バーは100μmを示す。(c)形質転換タバコBY-2細胞における遺伝子発現のRT-PCR分析。NtCesAは内部コントロールを示す。(d)形質転換タバコBY-2細胞株のHPLCクロマトグラム。破線および実線の矢印は、それぞれアマランチンおよびベタニンを示す。横軸は保持時間(分)を示す。縦軸はシグナル強度(μV)を示す。
【
図14】MCF-7細胞における細胞増殖の評価。(a)MCF-7細胞を漸増濃度のベタニンまたはアマランチン(0.01、0.1、1、10および50 mM)とともに72時間培養した。細胞増殖は、AlamarBlueアッセイによって、メーカーの指示に従って決定した。バーは平均±SE(n = 5)を表す。*は未処理細胞と比較してp<0.05を示す。(b)ベタニンまたはアマランチンで72時間培養したMCF-7細胞の形態。細胞を倒立顕微鏡下で検査した。バーは100 μmを示す。
【
図15】HIV-1プロテアーゼの阻害の評価。(a)HIV-1プロテアーゼ反応混合物のHPLCクロマトグラム。破線および実線の矢印は、HIV-1プロテアーゼ基質およびその分解物をそれぞれ示す。(+)および(-)HIV-1 proteaseは、それぞれHIV-1プロテアーゼを含むまたは含まない反応混合物を示す。(-)Betalainは、ベタレイン色素を含まない反応混合物を示す。横軸は保持時間(分)を示し、縦軸はシグナル強度(μV)を示す。(b)反応混合物中のHIV-1基質の相対量。灰色および黒色のバーは、それぞれベタニンおよびアマランチンを含む反応混合物を示す。白いバーは、ネガティブコントロールとしてベタレイン色素を含まない反応混合物を示す。バーは平均±SE(n = 3)を表す。*はベタレイン色素を含まない反応混合物と比較してp <0.05を示す。0、10、50および100は、HIV-1プロテアーゼと比較して0、10、50および100倍量のベタレインを示す。
【
図16】アマランチン及びゴムフレニンI-O-グルクロニド合成経路。
【
図17】ベンサミアナタバコを用いた一過的発現解析。(a)N. benthamianaの葉のゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素遺伝子(CqAmaSy1)、CqCYP76AD1-1、DbB6GT、CqDODA-1およびP19で候補遺伝子を発現させるためのプラスミドを有するトランスジェニックアグロバクテリウムの同時浸潤。バーは4 cmを示す。(b)感染したN. benthamiana葉抽出物のHPLCクロマトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ベタレイン色素の合成方法、アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物、アマランチン合成方法、ゴムフレニンI-グルクロニド合成方法、並びに、ベタレイン色素産出宿主に関する。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
(ベタレイン色素)
本発明でのベタレイン色素とは、構造上の特徴からベタキサンチンとベタシアニン類に分類される。なお、ベタキサンチンは黄色に発色し、ベタシアニン類は赤紫に発色するため従来から天然着色料として利用されている。なお、ベタシアニン類とは、ベタニジンのフェノール性水酸基に糖類がグリコシド結合した化合物群の総称を意味する。
【0013】
(ベタレイン色素合成系)
本発明でのベタシアニン生合成経路の概要を
図1、
図2及び
図16に示す。
図1及び
図2の記載から明らかなように、チロシン(Tyrosine)又は3-ヒドロキシ-L-チロシン(3-hydroxy-L-tyrosine:L-DOPA)、さらには、アミノ酸、アミン(例、プトレシン(putrescine)、スペルミジン(spermidine)、スペルミン(spermine))の産出能を持つ宿主(外部から取り入れことが可能な宿主も含む)が、以下の(1)又は(2)の酵素活性を有すればアマランチンを合成することができる。
(1)チロシンのフェノール環の3位を水酸化する酵素(例えば、CqCYP76AD1)活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素(例えば、CqCYP76AD1)活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素(例えば、CqDODA-1)活性、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素{例えば、ベタニジン5-O-グルコシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素(Cyclo-DOPA 5-O-glucosyltransferase、CqCDOPA5GT等)活性及び本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素活性。なお、CqCYP76AD1は、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する酵素活性及びL-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性の両方の性質を有する。
(2)チロシンのフェノール環の3位を水酸化する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからベタニンへの合成酵素{ベタニジン5-O-グルコシルトランスフェラーゼ(5GT)酵素}活性及び本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素活性。
下記の実施例4の結果より、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子(L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子)、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素をコードする遺伝子、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、並びに本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子の遺伝子群が導入された宿主である植物体は、ベタレイン色素の1つであるアマランチンの合成能を有する。
【0014】
図16の記載から明らかなように、チロシン(Tyrosine)又はL-DOPA、さらには、アミノ酸、アミン(例、プトレシン(putrescine)、スペルミジン(spermidine)、スペルミン(spermine))の産出能を持つ宿主(外部から取り入れことが可能な宿主も含む)が、以下の酵素活性を有すればゴムフレニンI-グルクロニドを合成することができる。
チロシンのフェノール環の3位を水酸化する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからゴムフレニンIへの合成酵素{ベタニジン6-O-グルコシルトランスフェラーゼ(6GT(B6GT))酵素}活性及び本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素活性。
下記の実施例7の結果より、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子(L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子)、ベタニジンからゴムフレニンIへの合成活性を有する酵素をコードする遺伝子、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、並びに本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子の遺伝子群が導入された宿主である植物体は、ベタレイン色素の1つであるゴムフレニンI-グルクロニドの合成能を有する。
【0015】
本発明では、
図1及び
図2の記載から明らかなように、以下のアマランチン合成方法も対象とする。
(1)ベタニンと本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素を接触させる。必要に応じて、金属イオンを添加する。
(2)ベタジニンと、ベタニジンからベタニンへの合成酵素を接触させてベタニンを得た後に、本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素を接触させる。必要に応じて、金属イオンを添加する。
【0016】
本発明では、
図16の記載から明らかなように、以下のゴムフレニンI-グルクロニド合成方法も対象とする。
(1)ゴムフレニンIと本発明のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物を接触させる。必要に応じて、金属イオンを添加する。
(2)(a)ベタジニンと、ベタニジンからゴムフレニンIへの合成酵素を接触させる工程、(b)(a)で得たゴムフレニンIと本発明のアマランチン合成又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物を接触させる。必要に応じて、金属イオンを添加する。
【0017】
(チロシンのフェノール環の3位を水酸化する酵素)
本発明でのチロシンのフェノール環の3位を水酸化する酵素とは、チロシンが有するフェノール環の3位に水酸基を付加することができる活性を有し、該活性を有すればどのような種の由来でも良い。
チロシンのフェノール環の3位を水酸化する酵素としては、例えば、チロシナーゼ、シトクロムP450(特に、CYP76AD1、CYP76AD2、CYP76AD3等)、カテコールオキシダーゼ等が挙げられるが、好ましくはCqCYP76AD1(塩基配列:配列番号13、アミノ酸配列:配列番号14、アクセッション番号XP_021769302)である。
【0018】
(L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素)
本発明でのL-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素とは、L-DOPAをcyclo-DOPAへと変換する活性を有し、該活性を有すればどのような種の由来でも良い。
L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素とは、例えば、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素としては、チロシナーゼ、シトクロムP450であるCYP76AD1、CYP76AD2、CYP76AD3、CYP76AD5、CYP76AD6等が挙げられるが、好ましくはCqCYP76AD1(塩基配列:配列番号13、アミノ酸配列:配列番号14)である。
【0019】
(フェノール性水酸基に糖を付加する酵素)
本発明でのフェノール性水酸基に糖を付加する酵素とは、cyclo-DOPA骨格の5位や6位に存在するフェノール性水酸基に糖を付加する活性を有し、該活性を有すればどのような種の由来でも良い。
フェノール性水酸基に糖を付加する酵素として、例えば、cyclo-DOPA5-O-グルコシルトランスフェラーゼ、ベタニジン5-O-グルコシルトランスフェラーゼ(cyclo-DOPA 5-O-glucosyltransferase)、ベタニジン6-O-グルコシルトランスフェラーゼ等が挙げられるが、好ましくはCqCDOPA5GT(塩基配列:配列番号15、アミノ酸配列:配列番号16、アクセッション番号XP_021748306)である。
【0020】
(ベタニジンからベタニンへの合成酵素)
本発明でのベタニジンからベタニンへの合成酵素は、ベタニジンからベタニンに合成できれば特に限定されないが、例えば、ベタニジン5-O-グルコシルトランスフェラーゼ(例、5GT(B5GT))、シクロドーパ5-O-グルコシルトランスフェラーゼ(CDOPA5GT)等を例示することができる。
【0021】
(ベタニジンからゴムフレニンIの合成酵素)
本発明でのベタニジンからゴムフレニンI(Gomphrenin-I)への合成酵素は、ベタニジンからゴムフレニンIに合成できれば特に限定されないが、例えば、ベタニジン6-O-グルコシルトランスフェラーゼ(例、6GT(B6GT):配列番号36、37)、シクロドーパ6-O-グルコシルトランスフェラーゼ(CDOPA6GT)等を例示することができる(参照:Substratespecificity and sequence analysis define a polyphyleticorigin of betanidin 5-and 6-O-glucosyltransferase from Dorotheanthusbellidiformis. planta 214,492-495)。
【0022】
(アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素)
本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド(Gomphrenin- I-glucuronide)合成酵素とは、ベタニンにグルクロン酸を結合してアマランチンを合成する活性(例えば、UDP-glucoronate(betaninbeta-D-glucuronosyltransferase)又はゴムフレニンIにグルクロン酸を結合してゴムフレニンI-グルクロニド(特に、ゴムフレニンI-O-グルクロニド)を合成する活性であれば、どのような種の由来でも良い。
【0023】
本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子(アマランチン合成酵素遺伝子、ゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素遺伝子)は、以下のいずれか1以上から選択される。
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(4)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子。
(5)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
(6)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子。
(7)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
(8)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列の縮重異性体からなるDNAからなる遺伝子。
【0024】
上記(2)の遺伝子は、アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)などを挙げることができる。変異したアミノ酸の数は、通常は、20アミノ酸以内であり、好ましくは10アミノ酸以内であり、更に好ましくは5アミノ酸以内であり、最も好ましくは3アミノ酸である。変異を導入したポリペプチドがアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を保持しているかどうかは、例えば、変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子を植物体等に導入し、その植物体内のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を確認することによりわかる。
上記(3)の遺伝子に関し、「配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力」とは、その作用程度は、配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力と比較して強くても弱くてもよい。例えば、配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力と比較して、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%を例示することができる。
また、同一性は、BLAST(BasicLocalAlignmentSearchTool at theNational Center for BiologicalInformation)等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算することができる。
上記(5)の遺伝子は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる遺伝子である。この遺伝子における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。ハイブリダイゼーションを利用することにより得られたDNAが、活性を有するポリペプチドをコードするかどうかは、例えば、そのDNAを植物体等に導入し、その植物体のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を確認することによりわかる。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、上記(4)の遺伝子(配列番号1、3、5、7、9又は11)と通常、高い同一性を有する。高い同一性とは、90%以上の同一性、好ましくは95%以上の同一性、更に好ましくは98%以上の同一性を指す。
上記(6)の遺伝子は、配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個、好ましくは1~30個、より好ましくは1~20個、最も好ましくは1~10個、さらに最も好ましくは1~5個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子である。
上記(7)の遺伝子は、配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子である。
【0025】
本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド(特に、ゴムフレニンI-O-グルクロニド)合成酵素活性を有する酵素は、以下のいずれか1以上から選択されるアミノ酸配列を有する。
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列。
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドを形成するアミノ酸配列。
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドを形成するアミノ酸配列。
なお、ペプチドの変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性又は免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
【0026】
(DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素)
本発明でのDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素は、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニンのエクストラジオール開裂を触媒する活性により、L-DOPAを4,5-seco-DOPAに変換する能力を有する。さらに、4,5-seco-DOPAは、自発的反応を経て、ベタラミン酸へと変換する。
【0027】
本発明でのDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子は、以下のいずれか1以上から選択される。
(1)配列番号17(アクセッション番号XP_021769303)、19(アクセッション番号XP_021769301)、21、23、25、27又は34に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)配列番号17、19、21、23、25、27又は34に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号17、19、21、23、25又は27に記載のアミノ酸配列と実質的同質のL-DOPAを4,5-seco-DOPAに変換する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)配列番号17、19、21、23、25、27又は34に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号17、19、21、23、25、27又は34に記載のアミノ酸配列と実質的同質のL-DOPAを4,5-seco-DOPAに変換する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(4)配列番号18、20、22、24、26、28又は35に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子。
(5)配列番号18、20、22、24、26、28又は35に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつL-DOPAを4,5-seco-DOPAに変換する能力を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
(6)配列番号18、20、22、24、26、28又は35に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子。
(7)配列番号18、20、22、24、26、28又は35に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
(8)配列番号33に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子を含む上記(1)~(7)のいずれか1以上の遺伝子。
(9)配列番号18、20、22、24、26、28又は35に記載の塩基配列の縮重異性体からなるDNAからなる遺伝子。
上記(2)の遺伝子は、L-DOPAを4,5-seco-DOPAに変換する能力を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。このような変異は、上記で説明した方法で導入できる。
上記(3)の遺伝子に関し、「配列番号17、19、21、23、25、27又は34に記載のアミノ酸配列と実質的同質のL-DOPAを4,5-seco-DOPAに変換する能力」とは、その作用程度は、配列番号17、19、21、23、25、27又は34に記載のアミノ酸配列のL-DOPAを4,5-seco-DOPAに変換する能力と比較して強くても弱くてもよい。例えば、配列番号17、19、21、23、25、27又は34に記載のアミノ酸配列のL-DOPAを4,5-seco-DOPAに変換する能力と比較して、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%を例示することができる。
上記(5)の遺伝子は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる遺伝子である。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、上記(4)の遺伝子(配列番号18、20、22、24、26、28又は35)と通常、高い同一性を有する。高い同一性とは、90%以上の同一性、好ましくは95%以上の同一性、更に好ましくは98%以上の同一性を指す。
上記(6)の遺伝子は、配列番号18、20、22、24、26、28又は35に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個、好ましくは1~30個、より好ましくは1~20個、最も好ましくは1~10個、さらに最も好ましくは1~5個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子である。
上記(7)の遺伝子は、配列番号18、20、22、24、26、28又は35に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子である。
【0028】
本発明のDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素は、以下のいずれか1以上から選択される。
(1)配列番号17、19、21、23、25、27又は34に記載のアミノ酸配列。
(2)配列番号17、19、21、23、25、27又は34に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号17、19、21、23、25、27又は34に記載のアミノ酸配列と実質的同質のL-DOPAを4,5-seco-DOPAに変換する能力を有するアミノ酸配列。
(3)配列番号17、19、21、23、25、27又は34に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号1に記載のアミノ酸配列と実質的同質のL-DOPAを4,5-seco-DOPAに変換する能力を有するアミノ酸配列。
(4)配列番号33に記載のアミノ酸配列を含む上記(1)~(3)のいずれか1以上のアミノ酸配列。
なお、ペプチドの変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性又は免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
特に、配列番号33に記載のアミノ酸配列は、活性部位の配列が含まれている。この配列に変異が導入されるとL-DOPAを4,5-seco-DOPAに変換する能力が失われる可能性が高いので、変異はこれらのドメイン以外のアミノ酸に導入されることが好ましい。
【0029】
(ベタレイン色素の合成方法)
本発明のベタレイン色素の合成方法は、以下を例示することができる。
(1)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又はL-DOPA産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する。
(2)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからベタニンへの合成酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又はL-DOPA産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する。
(3)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する。
(4)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからベタニンへの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する。
(5)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからゴムフレニンIへの合成酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又はL-DOPA産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する。
(6)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからゴムフレニンIへの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を持つ宿主を培養して、培養後の宿主からベタレイン色素を抽出する。
【0030】
(宿主)
本発明のベタレイン色素の合成方法で使用する宿主は、チロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を有すれば特に限定されないが、例えば、自体公知の組換え大腸菌タンパク質合成系、昆虫タンパク質合成系、酵母タンパク質合成系、植物細胞タンパク質合成系、無細胞タンパク質合成系、植物タンパク質合成系、動物培養細胞等を使用することができる。
本発明のベタレイン色素の合成方法で使用する宿主への各遺伝子の導入方法は、自体公知の方法を使用することができる。例えば、該遺伝子を担持したベクターを使用して宿主に導入することができる。
ベクターとして、自体公知のウイルスベクター、特に植物ウイルスベクター(例、トバモウイルス属に属するウイルス由来のベクター、タバコモザイクウイルスベクター、トマトモザイクウイルスベクター)を利用することができる。
また、Tiプラスミドを用いたアグロバクテリウム法を利用することができる。
【0031】
(各遺伝子の宿主への導入方法)
本発明のベタレイン色素の合成方法において、各遺伝子の宿主への導入方法は、自体公知の方法により、該遺伝子を植物体に導入することができる。例えば、各遺伝子を担持した植物ウイルスベクターを含む溶液を植物体の葉、茎、根、穂等に塗布することにより、各遺伝子を宿主へ導入することができる。その他の方法として、パーティクルガン法、アグロバクテリウム法が例示することができる。
【0032】
(各タンパク質の宿主への導入方法)
本発明のベタレイン色素の合成方法において、各タンパク質の宿主(特に、植物体)への導入方法は、自体公知の方法により、該タンパク質を植物体に導入することができる。例えば、各タンパク質を含む溶液を植物体の葉、茎、根、穂等に塗布することにより、各タンパク質を宿主へ導入することができる。その他の方法として、パーティクルガン法、アグロバクテリウム法が例示することができる。
【0033】
(ベタレイン色素産出宿主)
本発明のベタレイン色素産出宿主は、例えば、以下のいずれか1以上の構成・特徴を有する。
(1)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン(3-hydroxy-L-tyrosine:L-DOPA)産生能を有する。
(2)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからベタニンへの合成活性を有する酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン(3-hydroxy-L-tyrosine:L-DOPA)産生能を有する。
(3)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、フェノール性水酸基に糖を付加する活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を有する。
(4)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからベタニンへの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を有する。
(5)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子、チロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素をコードする遺伝子、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ベタニジンからゴムフレニンIへの合成活性を有する酵素をコードする遺伝子及びDOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン(3-hydroxy-L-tyrosine:L-DOPA)産生能を有する。
(6)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素をコードする遺伝子が導入されており、かつチロシンのフェノール環の3位を水酸化する活性を有する酵素活性、L-DOPAオキシダーゼ活性を有する酵素活性、ベタニジンからゴムフレニンIへの合成活性を有する酵素活性、DOPA 4,5-ジオキシゲナーゼ活性を有する酵素活性並びにチロシン又は3-ヒドロキシ-L-チロシン産生能を有する。
(7)アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物が導入されている。
【0034】
(アマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物)
本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物(アマランチン合成剤、アマランチン合成酵素剤、ゴムフレニンI-グルクロニド合成剤、ゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素剤、)は、以下の(1)~(7)のいずれか1に示す遺伝子又は該遺伝子を担持したベクターを含む。
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(4)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、(5)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
(6)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子。
(7)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
(8)配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列の縮重異性体からなるDNAからなる遺伝子。
【0035】
また、本発明のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物は、以下の(1)~(3)のいずれか1のアミノ酸配列で表されるペプチドを有する。
(1)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列。
(2)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドを形成するアミノ酸配列。
(3)配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアマランチン又はゴムフレニンI-グルクロニドを合成する能力を有するポリペプチドを形成するアミノ酸配列。
【0036】
(癌治療又は予防剤)
本発明の癌治療又は予防剤は、以下の(1)~(4)のいずれか1を含む。
(1)アマランチン
(2)本明細書に記載のベタレイン色素の合成方法で得られたアマランチン
(3)本明細書に記載のアマランチン合成方法で得られたアマランチン
(4)本明細書に記載のベタレイン色素産出宿主から得られたアマランチン
【0037】
本発明の癌治療又は予防剤に適用可能な癌の種類としては、悪性腫瘍であれば特に限定されないが、肝癌、膵癌、乳癌、大腸癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、前立腺癌、胃癌、甲状腺癌、卵巣癌、唾液腺腺様嚢胞癌、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、悪性リンパ腫、粘液性脂肪肉腫、膠芽腫、胞巣状横紋筋肉腫、ウィルムス腫瘍、乏突起膠細胞腫、副腎皮質癌、多発性骨髄腫、髄芽腫、子宮内膜癌、食道癌及びユーイング肉腫から選択される一種又は複数種の癌について行うことができる。好ましくは、乳癌である。
【0038】
(HIV-1プロテアーゼ活性阻害剤)
本発明のHIV-1プロテアーゼ活性阻害剤は、以下の(1)~(4)のいずれか1を含む。
(1)アマランチン
(2)本明細書に記載のベタレイン色素の合成方法で得られたアマランチン
(3)本明細書に記載のアマランチン合成方法で得られたアマランチン
(4)本明細書に記載のベタレイン色素産出宿主から得られたアマランチン
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
以下の方法により、実施例1~7を実施した。
【0041】
[相同性検索及び系統樹解析]
アラビドプシスのflavonoid3-O-glucoside:2″-O-glucosyltransferase(別名:UGT79B6、アクセッション番号NP_200212)のアミノ酸配列を利用して、BLAST検索をキヌアゲノム、ビートゲノム、アマランサスゲノムについて実施した。
BLAST検索の結果、40%以上の相同性を示すアミノ酸配列とすでに報告されているフラボノイドグリコシドトランスフェラーゼを用いて、MAGA7ソフトウエアを用いて近隣結合法を用いて系統樹を作成した(表1)。
【0042】
【0043】
[キヌア胚軸における発現解析]
RNeasyPlant Mini kit(Qiagen社)を用いてキヌア(Chenopodium quinoa)発芽5日目の胚軸からRNAを抽出した。抽出したRNAをHigh Capacity cDNA Reverse transcription Kit(Thermo FisherScientific社)を用いてcDNAを合成した。手順は、付属の説明書に従った。
合成したcDNAを鋳型にしてベタレイン生合成遺伝子の全長ORFをPrime STAR GXL(TaKaRa社)の酵素を使用してPCRで増幅した。PCRに使用したプライマーを表2に示す。Cq3GGT-like1はプライマー番号1(配列番号38)、2(配列番号39)、Cq3GGT-like3はプライマー番号3(配列番号40)、4(配列番号41)、Cq3GGT-like2はプライマー番号5(配列番号42)、6(配列番号43)、CqUGT79B30-like2はプライマー番号7(配列番号44)、8(配列番号45)、CqAmaSy2はプライマー番号9(配列番号46)、10(配列番号47)、CqAmaSy1はプライマー番号11(配列番号48)、12(配列番号49)、CqUGT79B30-like1はプライマー番号13(配列番号50)、14(配列番号51)、CqUGT79B30-like5はプライマー番号15(配列番号52)、16(配列番号53)を用いた。ポジティブコントロールとしてCqCYP76AD1はプライマー番号17(配列番号54)、18(配列番号55)を用いて増幅した。
【0044】
【0045】
[植物発現用プラスミドの作製]
今回実験に使用したベタレイン色素生合成遺伝子の発現には、pCAMBIA1301改変ベクター(Imamura, T., Takagi, H., Miyazato, A.,Ohki, S., Mizukoshi, H. and Mori, M. (2018) Isolation and characterization ofthe betalain biosynthesis gene involved in hypocotyl pigmentation of theallotetraploid Chenopodium quinoa. Biochem. Biophys. Res. Commun. 496, 280-286.)を用いた。ベタレイン色素性合成遺伝子は、それぞれの遺伝子に対して、5’及び3’末端に、制限酵素サイトを付加した断片をPCRで合成した。次いで、得られたPCR断片を付加したサイトで切断し、植物改変ベクターに挿入して植物発現ベクターを構築した。
【0046】
[アマランチン合成酵素の立体構造の解析]
アマランチン合成酵素の立体構造予測にPhyre2web server (Kelley, L.A.,Mezulis, S., Yates, C.M., Wass, M.N. and Sternberg, M.J. (2015) The Phyre2 webportal for protein modeling, prediction and analysis. Nat. Protoc. 10,845-858.)を用いた。モデリング用のタンパク質としてUDP-glucosyltransferase (PDB code;5NLM)を利用した。
【0047】
[アグロバクテリウム形質転換法]
構築したプラスミドを保持する大腸菌からトリパレンタルメーティング法(Wise, A.A., Liu, Z. and Binns, A.N.(2006) Three methods for the introduction of foreign DNA into Agrobacterium.Methods Mol. Biol. 343, 43-53.)を用いて、アグロバクテリウムにプラスミドを導入し形質転換アグロバクテリウムを作製した。
【0048】
[ベンサミアナタバコにおける一過的発現解析]
形質転換アグロバクテリウムが保持するプラスミドを、ベンサミアナタバコの緑葉にアグロインフィルトレーション法を用いて導入した(Shamloul, M., Trusa, J., Mett, V. and Yusibov, V. (2014) Optimization and utilization of Agrobacterium-mediatedtransient protein production in Nicotiana. Journal of visualized experiments :JoVE.)。接種・育成した緑葉を解析に利用した。
【0049】
[タバコBY2細胞における恒常的発現解析]
形質転換アグロバクテリウムが保持するプラスミドを、タバコBY2細胞にアグロバクテリウム法を用いて導入した(Hagiwara, Y., Komoda, K., Yamanaka, T.,Tamai, A., Meshi, T., Funada, R., Tsuchiya, T., Naito, S. and Ishikawa, M.(2003) Subcellular localization of host and viral proteins associated withtobamovirus RNA replication. EMBO J. 22, 344-353.)。得られた形質転換系統を維持し、解析に利用した。
【0050】
[ベタレイン色素抽出とHPLC解析]
形質転換植物サンプルを破砕し、水を加えて遠心分離(20,000 g, 10分, 15分 )を行なった。遠心分離を行なった上清を回収し、等量のアセトニトリルを加えて、さらに遠心分離(20,000 g, 10分, 15分 )を行なった。遠心操作で得られた上清を濃縮遠心機(CC-105、トミー精工)で濃縮した。得られた濃縮物を色素抽出物としてHPLC解析を行なった。
HPLC分析は、逆相カラム(Shim-pack GWS C18 column、5 μm; 200× 4.6 mm i.d.; 島津GLC社)を使用して、A液に0.05%TFAを加えた水をB液に0.05%TFAを加えたアセトニトリルを使用、流速0.5 ml/min、分析ブログラムは、アセトニトリルの濃度を分析時間0分で0%から45分で45%に直線的に達する条件に設定、分析波長はベタシアニンを検出できる536 nmに設定して分析をした。
精製したベタレイン色素は、UV-2450スペクトロフォトメーター(島津社)で測定したのち、アマランチンとベタニンのモル吸光係数(ε = 54,000 M-1 cm-1at 536 nm)を用いて溶液の濃度を算出した(Gandía-Herrero, F., Escribano, J. andGarcía-Carmona, F. (2010) Structural implications on color, fluorescence, andantiradical activity in betalains. Planta 232, 449-460.; Schwartz, S.J. and VonElbe, J.H. (1980) Quantitative determination of individual betacyanin pigmentsby high-performance liquid chromatography. J. Agric. Food Chem. 28, 540-543.)。
【0051】
[ヒト乳がん細胞に対するベタレイン色素の影響]
ヒト乳がん細胞(MCF-7)は、理研バイオリソースセンターから分譲した。細胞は、10%FBSと抗生物質(100 U mL-1 penicillin and 100 μg mL-1 streptomycin)を添加したDulbecco’smodified Eagle’s medium-high glucose (4.5 g L-1 glucose; DMEM-HG)を培養に使用した。37℃、湿度100%、5% CO2/95% airatmosphereの培養条件で培養した。培養は、96穴プレートの1ウェルに乳がん細胞を5000個ずつ加え、同時に異なる濃度のアマランチンもしくはベタニンを加え72時間培養後アラマーブルーアッセイ(alamarBlueCell Viability Reagent、Thermo Fisher Scientific社)により乳がん細胞の活性を評価した。手順は、付属の説明書に従った。
【0052】
[ベタレイン色素におけるHIV-1プロテアーゼ阻害活性の評価]
HIV-1プロテアーゼは、アブカム社のrecombinant HIV-1 protease(ab84117)を使用し、HIV-1プロテアーゼの基質ベプチドは、シグマアルドリッチ社のHIV-1 proteasesubstrate(Lys-Ala-Arg-Val-Nle-p-nitro-Phe-Glu-Ala-Nle amide)を使用した。HIV-1プロテアーゼの活性評価は、過去に報告された方法を参考にして実施した(Boso, G., Orvell, C. and Somia, N.V.(2015) The nature of the N-terminal amino acid residue of HIV-1 RNase H iscritical for the stability of reverse transcriptase in viral particles. J.Virol. 89, 1286-1297.)。16 pmol HIV-1プロテアーゼと4 nmol HIV-1 protease substrateにアマランチンもしくはベタニンを添加し、反応液量が30μlになるようにバッファー(25 mM NaCl, 25 mM Na2HPO4,1 mM dithiothreitol,pH4.7)を加えて、25℃で2時間反応させた。アマランチン、ベタニンの添加量は、HIV-1プロテアーゼ量に対して、それぞれ0、10、50、100倍量の比率で加えた。
反応後、反応液についてHPLCを用いて、残存している基質ペプチドの量を測定し、反応前の基質に対して残存率を計算した。HPLCは、島津社のLC-20ADを利用し、分析カラムとしてShim-pack GWS C18 column (5 μm; 200 × 4.6 mm i.d.; 島津GLC社)を使用した。分析溶媒系は、A液に0.05%TFAを加えた水をB液に0.05%TFAを加えたアセトニトリルを使用した。HPLCプログラムは、リニアクラジエントで0分B液0%、50分B液50%に設定し、流速0.5mL/min、25℃で実施した。分析波長は、HIV-1プロテアーゼ基質ペプチドを検出できる260 nmに設定して分析をした。
【実施例1】
【0053】
[アマランチン合成酵素遺伝子の探索]
アマランチンは、ベタニン分子内に存在するグルコースにグルクロン酸がβ12結合した物質である(
図1、
図3(b))。別の植物色素であるフラボノイドでは、フラボノイドグルコシドにグルコースをβ12結合で付加する酵素がすでに単離されている(
図3)。そこで、アラビドプシスのflavonoid3-O-glucoside:2″-O-glucosyltransferase(別名:UGT79B6、アクセッション番号NP_200212)のアミノ酸配列を利用して、キヌアゲノムから類似のタンパク質を選抜した。
【0054】
(相同性検索及び系統樹解析)
キヌアゲノムからアマランチンを合成する遺伝子を単離するために、相同性検索と系統樹解析から候補遺伝子を絞り込んだ。
【0055】
(結果)
キヌアゲノムからアラビドプシスのflavonoid3-O-glucoside:2″-O-glucosyltransferaseと類似のアミノ酸配列を有するタンパク質を選抜した結果、40%以上の相同性を示すタンパク質が12個存在した。さらに、ベタレインを生産するヒユ科植物として、ビートとアマランサスについても同様の解析を行ったところ、ビートで6個、アマランサスで4個存在していた。これら選抜した遺伝子ならびに、フラボノイド糖転移酵素について系統樹解析を行なった(表1)。その結果、キヌアの候補のうち4個(CqUGT79B2-like、CqUGT79B6-like2、CqUGT79B6-like1およびCqUGT79B6-like3)が既存のフラボノイド糖転移酵素のグループに属した。一方、残りの8個の候補(CqAmaSy1、CqAmaSy2、CqUGT79B30-like1、CqUGT79B30-like5、CqUGT79B30-like2、Cq3GGT-like2、Cq3GGT-like3およびCq3GGT-like1)は、新規なグループを形成した(
図4)。この新規なグループは、ヒユ科植物の候補でのみ構成されており、ビートが3個、アマランサスが4個属していた(
図4)。この新規グループは、これまで報告されているフラボノイドの酵素とは機能が異なることが、系統樹解析から予想された。
【0056】
(キヌア胚軸における発現解析)
キヌアの芽生えに、アマランチンが蓄積していることから、キヌアの胚軸にアマランチンを合成する候補遺伝子が発現していることを予測した。そこで、系統樹解析によって新規グループに属した8個の候補について、キヌア芽生えにおける遺伝子発現をRT-PCR法により調査した。
【0057】
(結果)
キヌア芽生えにおける遺伝子発現をRT-PCR法により調査した結果、3つの候補遺伝子がキヌアの芽生えで発現していた(
図5)。
【0058】
(ベンサミアナタバコにおける一過的発現解析)
近年、タバコやナス、ジャガイモ、トマトなどベタレイン非生産植物にベタレイン生合成遺伝子を導入することで、ベタレインを生産することが可能であることが報告されている(Polturak, G., Grossman, N., Vela-Corcia,D., Dong, Y., Nudel, A., Pliner, M., Levy, M., Rogachev, I. and Aharoni, A.(2017) Engineered gray mold resistance, antioxidant capacity, and pigmentationin betalain-producing crops and ornamentals. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.114, 9062-9067.)。本発明者らもベンサミアナタバコでキヌアのベタレイン生合成遺伝子を発現することで、アマランチンの前駆物質であるベタニンの生産に成功している(Imamura, T., Takagi, H., Miyazato, A.,Ohki, S., Mizukoshi, H. and Mori, M. (2018) Isolation and characterization ofthe betalain biosynthesis gene involved in hypocotyl pigmentation of the allotetraploidChenopodium quinoa. Biochem. Biophys. Res. Commun. 496, 280-286.)。そこで、ベンサミアナタバコでのベタレイン生産系を利用して、胚軸で発現していた3つの候補についてアマランチンを生産する能力を保持しているのかベクターを構築し(
図6)、ベンサミアナタバコを用いた発現系で評価した。
【0059】
(結果)
ベンサミアナタバコで生産された赤色色素について、HPLCおよびMS解析を行なった結果、1つの候補(アクセッション番号XM_021898386)において、アマランチンを生産する能力を有することが明らかとなった(
図7)。
以上の結果より、アマランチン合成能を持つこの候補遺伝子をアマランチン合成酵素{Amaranthin synthetase 1(AmaSy1、アクセッション番号:XP_021754077、塩基配列:配列番号1、アミノ酸配列:配列番号2)}と命名した。
キヌアは、異質4倍体植物であるので、AmaSy1のホモログが存在している可能性が高いことが予想された。そこで、AmaSy1について相同性検索を行ったところ、1つの遺伝子(アクセッション番号XM_021880149)が得られた。このホモログについて、ベンサミアナタバコを用いた発現系を用いてアマランチンの生産能力を評価したところ、アマランチンの合成能力を有することが明らかとなった(
図7)。そこで、この遺伝子をAmaranthin synthetase 2(AmaSy2、アクセッション番号:XP_021735841、塩基配列:配列番号3、アミノ酸配列:配列番号4)と命名した。
さらに、ベタレインを生産する他のヒユ科植物についてもAmaranthin synthetaseのオルソログを探索したところ、ビートに1つ{Bv3GGT-like1(アクセッション番号:XP_010695817、塩基配列:配列番号5、アミノ酸配列:配列番号6)}、アマランサスに3つ{AhUGT79B30-like3(Phytozomeアクセッション番号:AH018628-RA、塩基配列:配列番号7、アミノ酸配列:配列番号8)、AhUGT79B30-like4(Phytozomeアクセッション番号:AH018629-RA、塩基配列:配列番号9、アミノ酸配列:配列番号10)、AhUGT79B30-like2(Phytozomeアクセッション番号AH018627-RA、塩基配列:配列番号11、アミノ酸配列:配列番号12)}存在していた。
これらの候補についてもベクターを構築し(
図8)、ベンサミアナタバコを用いた発現系で評価したところ、評価したすべての遺伝子でアマランチンを合成することが明らかとなった(
図9)。
以上の結果より、キヌアからアマランチン合成能力を有する遺伝子を単離することに成功した。さらに、キヌア以外のヒユ科植物にも存在していることが明らかとなった。
【実施例2】
【0060】
[アマランチン合成酵素の立体構造の解析]
キヌアのアマランチン合成酵素1のアミノ酸配列をもとにして、タンパク質立体構造解析を行った。
【0061】
(結果)
5つのアミノ酸残基(His22、Asp119、Ser278、Ile377およびAsp378)が、酵素活性に関係することが予測された(
図10)。これらのアミノ酸残基は、他のアマランチン合成タンパク質でも保存されていた。
【実施例3】
【0062】
[アマランチン合成酵素の基質の解析]
アマランチン合成は、2つの経路が予測されている。1つはベタニンにグルクロン酸が結合する経路で、もう1つがシクロドーパグルコシドにグルクロン酸が結合し、その後、自発反応によってベタラミン酸が結合する経路である(
図1、2)。今回単離したアマランチン合成酵素が、どちらの経路を介してアマランチンを合成しているのかをベンサミアナタバコを用いた発現系で調査した。
ベンサミアナタバコの発現系で使用している遺伝子であるシクロドーパ5グルコシルトランスフェラーゼ(cDOPA5GT)は、2つの経路の前駆物質(シクロドーパ5グルコシド、ベタニン)を両方とも合成できてしまう。そのため、構成経路の特定には向いていない。そこで、前駆物質のベタニンのみを合成するために、cDOPA5GTの代わりに、ベタニジン5グルコシルトランスフェラーゼ(Betanidine-5GT)をベンサミアナタバコの発現系に使用した(
図8)。Betanidine-5GTを組み込んだ発現系にアマランチン合成酵素遺伝子も同時に発現させた。
【0063】
(結果)
Betanidine-5GTを組み込んだ発現系にアマランチン合成酵素遺伝子も同時に発現させたところ、アマランチンの合成が確認された(
図11)。この結果より、今回単離したアマランチン合成酵素は、ベタニンにグルクロン酸を結合してアマランチンを合成する能力を保持していることが明らかとなった。
【実施例4】
【0064】
[タバコ培養細胞(BY-2 cell)でのアマランチン大量生産]
アマランチン合成酵素遺伝子の単離に成功したので、タバコBY-2細胞でアマランチンの大量生産を試みた。
アマランチン生産のために、以下の方法により、BY-2細胞で発現するためのベクターを構築し(
図12)、ベタレイン生合成遺伝子を4種類(CqCYP76AD1-1、CqDODA-1、CqCDOPA5GTおよびCqAmaSy1)導入した形質転換体を作製した。
得られた形質転換BY-2系統から、以下の方法で赤色が強い系統を選抜した。アマランチン生産形質転換系統の作出と同時にベタニン生産形質転換系統およびベタニジン生産形質転換系統も作製し選抜をした。
【0065】
(結果)
CqCYP76AD1-1、CqDODA-1、CqCDOPA5GTおよびCqAmaSy1を導入したアマランチン生産形質転換系統、CqCYP76AD1-1、CqDODA-1およびCqCDOPA5GTを導入したベタニン生産形質転換系統、並びにCqCYP76AD1-1およびCqDODA-1を導入したベタニジン生産形質転換系統を作製し選抜した結果を
図13に示す。
選抜した3系統のベタレイン生産形質転換系統についてHPLC、質量分析を行ったところ、アマランチン生産形質転換系統ではアマランチンとベタニンの生産が確認され、ベタニン生産系統では、ベタニンの生産が確認された。一方、ベタニジン生産系統では、ベタニジンの生産を確認することができなかった。
それぞれの形質転換系統について、150 mL培養でのベタレイン生産量を調べたところ、アマランチン生産系統では、アマランチンが2.05±0.62 μmol、ベタニンが3.99±0.23 μmolであった。ベタニン生産系統では、ベタニンが2.93±1.29 μmol生産していた。これら形質転換系統では、イソベタニンやイソアマランチンなどの光学異性体の生産を確認することができなかった。
この実験で、ベタレイン非生産植物であるタバコBY-2培養細胞で、ベタレイン色素(アマランチン、ベタニン)を大量に生産することができる。
【実施例5】
【0066】
[ヒト乳がん細胞に対するベタレイン色素の影響]
ベタニン・イソベタニン混合物がヒトの乳がん細胞(MCF-7 cells)に対して細胞死を誘導することを報告されている(Nowacki, L., Vigneron, P., Rotellini, L.,Cazzola, H., Merlier, F., Prost, E., Ralanairina, R., Gadonna, J.P., Rossi, C.and Vayssade, M. (2015) Betanin-Enriched Red Beetroot (Beta vulgaris L.)Extract Induces Apoptosis and Autophagic Cell Death in MCF-7 Cells. Phytother.Res. 29, 1964-1973.)。アマランチンの乳がん細胞に対する生理活性を明らかにするために、BY-2細胞で生産したアマランチンおよびベタニンを精製し、乳がん細胞に対する影響を評価した。
【0067】
(結果)
アマランチン、ベタニンともに、50 μMの濃度で乳がん細胞に対して有意にがん細胞の活性を抑えていることが明らかとなった(
図14)。
【実施例6】
【0068】
[HIV-1プロテアーゼ活性に対するアマランチンの効果]
バーチャルスクリーニング法によって、天然物由来の新たなHIV-1プロテアーゼインヒビターの候補として、アマランチンが予測されている(Yanuar, A., Suhartanto, H., Munim, A., Anugraha, B.H. and Syahdi, R.R. (2014) Virtual Screening of Indonesian Herbal Database as HIV-1 Protease Inhibitor. Bioinformation 10, 52-55.)。しかし、実際にアマランチンがHIV-1プロテアーゼの活性を阻害するという報告はない。そこで、本発明者らは、BY-2細胞で生産したアマランチンおよびベタニンを用いて、これらベタレイン色素が、HIV-1プロテアーゼの活性を阻害するか検証した。
【0069】
(結果)
HIV-1プロテアーゼに対して100倍量アマランチンを加えた場合に、HIV-1プロテアーゼの活性を有意に阻害していることが明らかとなった(
図15)。一方、ベタニンはHIV-1プロテアーゼに対する阻害活性は認められなかった(
図15)。
【実施例7】
【0070】
[ゴムフレニンI-O-グルクロニド合成確認]
本発明のアマランチン合成酵素は、ゴムフレニンI-O-グルクロニド合成酵素作用も有することを確認するために、実施例1の方法を参照として、ゴムフレニンI-O-グルクロニド合成酵素作用を有すると想定されるCqAmaSy1を組み込んだベクターを構築し(
図17)、ベンサミアナタバコを用いた発現系で評価した。
【0071】
(結果)
ベンサミアナタバコで生産された赤色色素について、HPLCおよびMS解析を行なった結果、ゴムフレニンI-グルクロニドを生産する能力を有することが明らかとなった(
図17)。
以上により、本発明のアマランチン合成酵素は、ゴムフレニンI-グルクロニド合成酵素作用も有することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、ベタレイン色素の合成方法、アマランチン合成組成物、ゴムフレニンI-グルクロニド合成組成物、並びに、ベタレイン色素産出宿主を提供することが可能になった。
【配列表】