(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】細胞誘導の方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20231222BHJP
C07D 471/14 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C12N5/071
C07D471/14 101
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022117552
(22)【出願日】2022-07-22
(62)【分割の表示】P 2020562821の分割
【原出願日】2019-01-29
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】201810083174.7
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201810083591.1
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201810083568.2
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520176566
【氏名又は名称】中国科学院動物研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF ZOOLOGY,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No.5, 1 Beichen West Road, Chaoyang District, Beijing 100101, China
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲き▼
(72)【発明者】
【氏名】李 偉
(72)【発明者】
【氏名】何 正泉
(72)【発明者】
【氏名】王 柳
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/048193(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/200340(WO,A1)
【文献】British Journal of Pharmacology,2010年,Vol.159,pp.304-315
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロでの肝細胞増殖の誘導における(-)-Blebbistatinまたは(-)-Blebbistatin O-Benzoateの使用。
【請求項2】
(-)-Blebbistatinまたは(-)-Blebbistatin O-Benzoate
によって増殖を誘導された肝細胞のバイオ人工肝臓の構築における使用。
【請求項3】
(-)-Blebbistatinまたは(-)-Blebbistatin O-Benzoate
によって増殖を誘導された肝細胞の、該肝細胞により得られる肝臓疾患モデルの構築における使用。
【請求項4】
肝細胞を培地で培養し、(-)-Blebbistatinまたは(-)-Blebbistatin O-Benzoateを培地に加え、インビトロでの肝細胞増殖を誘導するように培養を続けるステップを含む、インビトロでの肝細胞増殖を誘導する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ技術分野に関し、具体的には細胞誘導技術分野に関し、より具体的には、線維芽細胞の脂肪細胞への分化転換を誘導する方法およびその使用、線維芽細胞の不死化細胞への分化転換を誘導する方法およびその使用、並びにインビトロでの肝細胞の増殖を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分化転換(Transdifferentiation、分化転移とも呼ばれる)とは、あるタイプの分化細胞が別のタイプの分化細胞に転換する現象をいう。現在、複数のタイプの細胞の分化転換が実現でき、例えば、胚性線維芽細胞、軟骨芽細胞、網膜上皮細胞の筋細胞への分化転換、Bリンパ球のマクロファージへの分化転換、マウス線維芽細胞の機能的神経細胞への分化転換などが実現できている。
【0003】
脂肪細胞(adipоcyte)は成人体内に大量に存在し、その組織は脂肪組織とも呼ばれ、多くの場合は白色を呈し、幼年期に大量に増殖し、思春期にその数がピークに達した後、一般に増加しなくなる。正常な動物やヒトの体内では、脂肪組織は主に腹腔内と腹部の皮下に存在するが、肥満患者の体のさまざまな部位、例えば、腎臓、腸間膜、皮下、腹腔などの周囲に脂肪組織が現れる。これは、脂肪細胞に分化する可能性のある細胞が脂肪前駆細胞であるだけではなく、特定の条件下では、一部の非脂肪前駆細胞も脂肪細胞に分化できることを示している。これは、脂肪細胞が脂肪前駆細胞から分化されたものであるという従来の考え方を覆した。非脂肪前駆細胞を脂肪細胞に分化転換することにより、脂肪細胞の転換メカニズムもより明確に理解でき、さらに抗肥満薬の開発を導くことができる。
【0004】
線維芽細胞(fibroblast)は、疎性結合組織の主要な細胞成分であり、胚期の間葉細胞(mesenchymal cell)が分化してなる。線維芽細胞の脂肪細胞への分化転換は、多くの分野で重要な適用がある。例えば、瘢痕創傷に見られる最も一般的なタイプの筋線維芽細胞の脂肪細胞への分化転換は、将来傷に瘢痕を残らず、しわのある皮膚に脂肪細胞を再生する可能性があり、新しいアンチエイジング治療戦略を導き出す可能性がある。これから見ると、非脂肪前駆細胞、特に線維芽細胞の脂肪細胞への分化転換を実現することは重要な意義を有する。
【0005】
今までの既存技術には、線維芽細胞の脂肪細胞への分化転換を誘導する方法はいくつか開示されている。CN104342401Bには、サイトカインの特定の組み合わせを使用して、線維芽細胞の脂肪細胞への分化転換を促進する方法が開示され、組成物の開始因子は、上皮成長因子、肝細胞成長因子、デキサメタゾン、インスリン、およびPPARγアゴニストである。CN104372024Aには、ウシ線維芽細胞/筋芽細胞の脂肪細胞への分化転換を誘導する方法が開示され、この方法は、ウシ転写因子CCAATエンハンサー結合タンパク質C/EBPβ遺伝子をクローニングし、C/EBPβ遺伝子過剰発現ベクターを構築してパッケージングして組換えアデノウイルスを取得し、アデノウイルスをウシ線維芽細胞や筋芽細胞に感染させて上記細胞から脂肪細胞への急速な分化転換を実現することを含む。上記の方法は、大量の高分子物質またはリプログラミングプロセスを使用し、効率が低く、安全性にも一定の影響を受ける。
【0006】
小分子化合物も、線維芽細胞から脂肪細胞への分化転換を誘導することができ、分化転換の速度、生存率および能力を改善できることは確認されている。例えば、CN105754935Aには、線維芽細胞の脂肪細胞への分化転換を誘導する誘導培地が開示され、
この培地は、基礎培地と、誘導小分子の組み合わせとを含み、前記誘導小分子の組み合わせはSGまたは6TFであり、SはSB431542、GはGSK126、6はE61541、Tはトラニルシプロミン、Fはフォルスコリンである。しかしながら、線維芽細胞の脂肪細胞への分化転換を誘導して疾患の研究、治療、およびより広範な適用に使用するために、より多くの小分子化合物を探索する必要がある。
【0007】
正常組織に由来する体細胞は、通常のインビトロ培養条件下で成長および分裂することができるが、有限回数の細胞継代後、増殖が停止し、老化と死亡するため、細胞培養技術の適用が制限される。細胞不死化(cell immortalization)とは、インビトロで培養するプロセス中に、細胞が自身の遺伝的変化または様々な外部刺激により、増殖と老化の危機から脱出し、正常細胞の老化と死亡のプロセスを回避し、長期間継代培養し、無限に分裂増殖できることを指す。
【0008】
細胞不死化のメカニズムと方法について大量の研究が行われてきた。放射性因子、テロメラーゼの活性化、ウイルス遺伝子のトランスフェクション、癌原遺伝子、腫瘍抑制遺伝子などはいずれも無制限の細胞増殖分裂を引き起こせることが確認されている。しかし、長年の研究の結果、不死化のメカニズムが似ているところがあるが、同じ不死化方法がすべての細胞に適用できるわけではないことは分かった。例えば、肝細胞不死化の方法には、腫瘍抑制遺伝子ノックアウト、プラスミドの形質導入およびウイルスのトランスフェクション、回復可能な不死化などが含まれ、上皮細胞不死化の方法には、DNA腫瘍形成性ウイルストランスフェクションなどが含まれ、心筋細胞不死化の方法には、P16レンチウイルスベクターと可逆的なSV40ウイルス形質導入経路の成功例がある。
【0009】
現在、既存技術には、線維芽細胞の不死化細胞への転換を誘導する方法はいくつか開示されている。王 新文ら(『皮膚線維芽細胞の不死化についての研究の進展』、中国生物工程雑誌、第22巻第4期、2002年8月)は、皮膚線維芽細胞の不死化の方法を開示し、上記の一般的に使用される方法の他に、まとめると、HPV、テトラニトロキノリン一酸化物、アフラトキシンなどの方法がさらにある。
【0010】
特定の細胞のための不死化技術をターゲットした開発は、継代回数の少ない、増殖分裂の遅い正常な体細胞の長期継代、無制限の分裂増殖を実現でき、細胞周期寿命を延ばすことができる。これは、細胞成長の法則を理解し、細胞の老化の原因を探るのに役立つだけではなく、臓器移植の問題を解決するのに重要な臨床的意義も持っている。
【0011】
また、資料によると、細胞の不死化は腫瘍細胞への転換の前提であり、正常細胞から腫瘍細胞への転換に必要な段階である。細胞不死化の研究は、腫瘍の治療と腫瘍細胞増殖の制御のための確固たる基盤を築くことができる。
【0012】
したがって、線維芽細胞の不死化細胞への転換についての研究は、幅広い応用の見込みがある。
【0013】
肝臓は人体で最大の内臓であり、代謝の主要な場所である。肝細胞は肝臓の85%を占める。肝細胞は、体内で強力な再生能力を持っており、正常な肝臓の3分の2を取り除いた後、1週間以内に細胞が増殖して元の体積に回復できる。残念ながら、ヒトの肝臓は体内で急速に再生できるが、初代肝細胞はインビトロ培養条件下では短時間しか増殖できず、長期間増殖することができない。これまでのところ、実験室でのヒト肝細胞の増幅努力は、代謝機能の低い不死化癌細胞を引き起こすことになる。ヒトの肝細胞の不足と肝細胞の増幅時の機能喪失は、科学、医学、および薬学の発展における主要な障害であり、この問題を解決することで、肝細胞のインビトロでの薬物代謝、薬物毒性、末期肝疾患の細胞治療を促進し、バイオ人工肝臓を構築して、移植を待つ患者、疾患モデルの構築などの研
究とアプリケーションをサポートすることに寄与する。
【0014】
現在、この分野で最も一般的に使用されている方法は転写因子リプログラミング技術であるが、このような技術は、外因性遺伝子フラグメントの挿入により、臨床アプリケーションに入るリスクが高くなる。この前の研究では、小分子リプログラミング技術を使用して、中国と日本の2つの研究チームがそれぞれ初代肝細胞のインビトロでの肝前駆細胞への変換と急速な増殖に成功し、定方向分化誘導を行った後、増殖した前駆体様肝細胞は成熟肝細胞の機能を取り戻すことができ、マウスに移植して70%以上の統合を達成できることは明らかになった。小分子化合物リプログラミング技術を使用する場合、得られた肝細胞は遺伝子改変されていないため、体内の細胞の初期状態により近く、将来の臨床アプリケーションにより安全で効果的である。この分野では、インビトロでの肝細胞の増殖を誘導するために小分子化合物を使用するという強い要求がまだある。
【発明の概要】
【0015】
本発明者らは継続的な探索した結果、上記の目的が、Myosin阻害剤(-)-Blebbistatinまたは(S)-(-)-Blebbistatin O-Benzoateによって実現できることを意外に発見した。
【0016】
したがって、本発明は、細胞の分化転換の誘導におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0017】
好ましくは、前記分化転換は、線維芽細胞の分化転換を誘導することである。好ましくは、前記分化転換は、線維芽細胞の脂肪細胞への分化転換を誘導することである。
【0018】
一実施形態では、前記Myosin阻害剤は(-)-Blebbistatinであり、BleまたはBlebもしくはBlebbと略す。
【0019】
一実施形態では、前記Myosin阻害剤は(-)-Blebbistatin O-Benzoateであり、S-Bleb-OBと略す。
【0020】
本発明で使用される(-)-Blebbistatin((S)-(-)-BlebbistatinまたはS-Blebとも表される)は、非ミオシンIIATPaseに作用する細胞透過性阻害剤であり、ミオシン軽鎖キナーゼを阻害せず、分裂溝の収縮を阻害し、有糸分裂または収縮ループの組立を妨害しない。その構造式は式(I)で表され、分子量は292.33である。
【0021】
本発明で使用される(-)-Blebbistatin O-Benzoate((S)-(-)-Blebbistatin O-BenzoateまたはS-Bleb-OBとも表される)は(-)-Blebbistatinの誘導体であり、その構造式は式(II)で表される。
【0022】
【0023】
【0024】
また、本発明は、線維芽細胞を培地で培養し、Myosin阻害剤とBMP4を培地に加え、脂肪細胞を得るまで培養を続けるステップを含む、線維芽細胞の脂肪細胞への分化転換を誘導する方法に係る。
【0025】
好ましくは、前記培地は、基礎培養液、ウシ胎児血清、および脂肪誘導培養液からなる群より選ばれるいずれか一つまたは複数を含む。
【0026】
好ましくは、前記基礎培養液は、高グルコースDMEM、ウシ胎児血清、および二重抗生(ペニシリン-ストレプトマイシン溶液)を含む。
【0027】
好ましくは、前記脂肪誘導培養液は、N2B27培養液(DMEM/F12、Neurobasalの1:1混合物)、N2添加剤、B27添加剤、2%ウシ血清アルブミン、β-メルカプトエタノール、GlutaMAX、インスリンと二重抗生、および血清代替物を含む。
【0028】
本発明はさらに、前記方法により得られる脂肪細胞、または前記脂肪細胞を含む試薬または研究用具若しくは診断用具に係る。
【0029】
本発明の上記方法は、単一の小分子または単一因子のみにより処理すればよく、操作が単純であり、再現性が良く、インビボおよびインビトロでいずれも効率的に実行でき、トランスジェニック操作に係わらず、得られた脂肪細胞は安全であり、組織再生や修復などの分野と業界でのアプリケーションに適している。
【0030】
本発明はまた、細胞不死化の誘導におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0031】
好ましくは、前記不死化は、線維芽細胞の不死化細胞への分化転換を誘導することである。
【0032】
好ましくは、前記Myosin阻害剤は(-)-Blebbistatinまたは(S)-(-)-Blebbistatin O-Benzoateである。
【0033】
また、本発明は、線維芽細胞を培地で培養し、Myosin阻害剤を培地に加え、不死化細胞を得るまで培養を続けるステップを含むことを特徴とする、線維芽細胞の不死化細胞への分化転換を誘導する方法に係る。
【0034】
好ましくは、前記培地は、基礎培養液、ウシ胎児血清、および不死化誘導培養液からなる群より選ばれるいずれか一つまたは複数を含む。
【0035】
本発明はさらに、Myosin阻害剤、基礎培養液、ウシ胎児血清、および不死化誘導培養液を含むことを特徴とする、線維芽細胞の不死化細胞への分化転換を誘導する培地に係る。
【0036】
好ましくは、前記基礎培養液は、高グルコースDMEMと二重抗生を含み、および/または、前記不死化誘導培養液は、N2B27培養液:(DMEM/F12、Neurobasalの1:1混合物)、N2添加剤、B27添加剤、2%ウシ血清アルブミン、β-メルカプトエタノール、GlutaMAX、インスリン、および二重抗生を含む。
【0037】
好ましくは、前記不死化誘導培養液はさらに、KOSR、CHIR99021、およびA83-01からなる群より選ばれるいずれか一つまたは複数を含む。
【0038】
本発明はさらに、前記方法により得られる不死化細胞、または前記不死化細胞を含む試薬または研究用具若しくは診断用具に係る。
【0039】
本発明はさらに、増殖または老化を誘導するための製剤の調製における遺伝子の使用に係り、前記遺伝子は、Sox2、Srrt、Yap、β-catenin、Mki67、Pcna、P19、P16ink4a、P15ink4b、Morf411、Elf5からなる群より選ばれる一つ以上を含む。
【0040】
好ましくは、増殖関連遺伝子は、Sox2、Srrt、Yap、β-catenin、Mki67、Pcnaからなる群より選ばれる一つ以上を含む。好ましくは、老化関連遺伝子は、P19、P16ink4a、P15ink4b、Morf411、Elf5からなる群より選ばれる一つ以上を含む。
【0041】
本発明の上記方法は、単一の小分子または単一因子のみにより処理すればよく、操作が単純であり、再現性が良く、インビボおよびインビトロでいずれも効率的に実行でき、トランスジェニック操作に係わらず、得られた脂肪細胞は安全であり、細胞成長の法則を理解し、細胞の老化の原因を探り、臓器移植問題を解決するのに適するだけではなく、腫瘍の治療と腫瘍細胞増殖の制御のための確固たる基盤を築くことができ、重要な意義を持っている。また、本発明は増殖関連遺伝子と老化関連遺伝子を発見したため、誘導細胞の増殖と老化に対し斬新な選択肢を提供している。
【0042】
また、本発明者らは継続的な探索した結果、Myosin阻害剤が肝細胞の長期増殖を有意に促進でき、さらに上記の目的を実現できることを意外に発見した。
【0043】
したがって、本発明は、概して、インビトロでの肝細胞増殖の誘導におけるMyosi
n阻害剤の使用に係る。
【0044】
本発明はさらに、バイオ人工肝臓の構築におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0045】
本発明はさらに、肝臓疾患モデルの構築におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0046】
好ましくは、前記Myosin阻害剤は(-)-Blebbistatinまたは(S)-(-)-Blebbistatin O-Benzoateである。
【0047】
また、本発明は、肝細胞を培地で培養し、Myosin阻害剤を培地に加え、インビトロでの肝細胞増殖を誘導するように培養を続けるステップを含むことを特徴とする、インビトロでの肝細胞増殖を誘導する方法に係る。好ましくは、前記Myosin阻害剤は(-)-Blebbistatinまたは(S)-(-)-Blebbistatin O-Benzoateである。
【0048】
本発明はさらに、前記方法により得られる肝細胞に係る。
【0049】
本発明はさらに、前記肝細胞を含む、試薬、バイオ人工肝臓、研究用具または診断用具に係る。
【0050】
本発明はさらに、前記インビトロでの肝細胞増殖を誘導する方法により得られる、または前記方法によって得られた肝細胞により得られる、肝臓疾患モデルに係る。
【0051】
本発明はさらに、バイオ人工肝臓の構築における、前記方法により得られる肝細胞の使用に係る。
【0052】
本発明はさらに、肝臓疾患モデルの構築における、前記方法により得られる肝細胞の使用に係る。
【0053】
上記使用は、治療的使用であってもよく、非治療的使用であってもよい。
【0054】
本発明の上記方法は、単一の小分子または単一因子のみにより処理すればよく、操作が単純であり、再現性が良く、インビトロで効率的に実行でき、転写因子リプログラミング技術および複雑なトランスジェニック操作に係わらず、長期的に増幅でき、しかも小分子で増幅した肝細胞は依然として機能を持っている。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】
図1Aは実施例1の実験フローを示す図である。
図1Bは、ヒト包皮線維芽細胞から誘導された脂肪細胞のオイルレッドO染色を示す図である。
図1Cと
図1Dはそれぞれマウス胚線維芽細胞から得られた脂肪細胞の形態、オイルレッドO染色、および脂肪滴面積比を示す図である。
図1Eと
図1Fはそれぞれ、元の脂肪誘導培養液に異なる物質を添加した後のオイルレッドO染色と脂肪滴面積の統計を示す図である。
【
図2】
図2Aと
図2Bは、小分子処理のインビボ実験結果を示す図であり、腹側脂肪の含有量を明らかに高めることができることを示している。図の中のBleは(-)-Blebbistatinである。
【
図3-1】
図3Aは実施例2の実験フローを示す図である。
図3Bは、蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図3Cと
図3Dは、描かれた細胞成長曲線と計算された細胞周期を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、細胞をマウス肝細胞培養液(MyosinII阻害剤(-)-Blebbistatin5μmоlを添加)に再懸濁し、fibronectinを塗布したペトリ皿に播種し、1週間後にAlbを発現した緑色の肝細胞クラスターを観察することを示す図である。
【
図4B-1】
図4Bは、AlB-GFP陽性肝細胞の長期増殖の結果を示す図である。
【
図4B-2】
図4Bは、AlB-GFP陽性肝細胞の長期増殖の結果を示す図である。
【
図5】
図5Aと
図5Bは、12日継代(合計3世代)培養した後の増幅結果を示す図である。
図5Cは、12日継代(合計3世代)培養した後のアルブミンおよびアルファフェトプロテイン遺伝子発現の結果を示す図である。
【
図6-1】
図6Aは、2日間培養を継続した後、小分子群の細胞クローニングがさらに増幅したが、対照群では有意な変化がなかったことを示す図である。
図6Bは、6日培養した後の小分子群と対照群の細胞数を示す図である。
図6Cは、小分子群と対照群における増殖細胞核抗原遺伝子(PCNA)の発現結果を示す図である。
【
図6-2】
図6Dは、小分子で増幅した成人肝細胞が発現したヒト肝細胞特異的遺伝子アルブミン(ALBUMIN)、アルファフェトプロテイン(AFP)、CYP1A2、およびCYP3A4の結果を示す図である。
図6Eは、10μmの小分子培地と対照培地を用いたヒト肝細胞の継代培養の結果を示す図である。
【
図6-3】
図6Fは、継代培養された成人肝細胞をオメプラゾールにより誘導した後のCYP1A2遺伝子の発現結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施例をより詳細に説明する。本発明の具体的な実施例は図面に示されているが、ここで説明する実施例に制限せずに、本発明は様々な形で実施できることを理解されたい。逆に、これらの実施例は、本発明をよりよく理解し、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるために提供されたものである。
【0057】
なお、明細書および特許請求の範囲では、特定の構成要素を指すために特定の用語が使われている。技術者が同じ構成要素を指すために異なる用語を使用する場合があることを、当業者は理解するのであろう。本明細書および特許請求の範囲は、構成要素を区別する方法として用語の違いを使用せず、構成要素の機能の違いをその区別の基準として使用する。例えば、明細書および特許請求の範囲全文で言及されている「含む」または「備える」はオープンな用語であるため、「含むがそれらに限定されない」と解釈すべきである。以下の明細書の説明は、本発明を実施するための好ましい実施形態であるが、その説明は、明細書の一般的な原則を説明することを目的としており、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されるものに従うものとする。
【0058】
本文で使用されているように、特定の成分について、「実質的に含まない」とは、特定の成分が意図的に組成物に配合されておらず、および/または汚染物としてまたは痕跡量でのみ存在することをいう。よって、組成物の偶発的な汚染によって引き起こされる特定の成分の総量は、0.05%未満、好ましくは0.01%未満である。もっとも好ましいのは、特定の成分の量が標準的な分析方法では検出できない組成物である。
【0059】
本明細書で使用されているように、「一」または「一つ」は、1つ以上を意味し得る。特許請求の範囲で使用されているように、「含む」という単語とともに使用される場合、「一」または「一つ」は、1つまたは複数を意味することができる。
【0060】
代替案のみを指すこと、または代替案が相互に排他的であると明確に述べられている場
合以外に、特許請求の範囲では「または」という用語を使用して「および/または」を表すが、本開示内容は代替案のみを指すこと及び「および/または」の定義をサポートしている。本文で使用されているように、「もう一つの/別の」は、少なくとも2つめの、またはそれ以上を意味することができる。
【0061】
本願全体を通して、「約/くらい」という用語は、その値がデバイスのエラーの固有の変動を含むことを示すために使用され、その方法は、その値または研究対象間に存在する変動を測定するために使用される。
【0062】
本文では、「分化」とは、あまり特殊化していない細胞がより特殊化した細胞型になるプロセスをいう。「脱分化」とは、一部または最終的に分化した細胞が、多能性または多潜在性などのより初期の発生段階に戻る細胞プロセスをいう。「分化転換」とは、あるタイプの分化細胞が別のタイプの分化細胞に転換するプロセスをいう。典型的には、細胞は中間多能性段階を通過せずに、プログラミングすることによって分化転換が発生し、すなわち、細胞は、あるタイプの分化細胞から別のタイプの分化細胞に直接にプログラミングされる。
【0063】
本文で使用されているように、「被験者」または「必要とする被験者」という用語は、細胞または組織の移植を必要とする任意の年齢のオスまたはメスの哺乳動物を指し、好ましくはヒトを指す。通常、被験者は細胞または組織の移植を必要とし(本文ではレシピエントとも呼ばれる)、これは、細胞または組織移植を介した治療に適した病症または病状または望ましくない状況、状態または症候群、若しくは物理的、形態学的、または生理学的異常によるものである。
【0064】
本文に係るいくつかの用語の定義は次の通りである。
BMP4:骨形成タンパク質4(bone morphogenetic protein,bmp4)。
高グルコースDMEM:高グルコースDMEM培地(dulbecco‘s modified eagle medium,DMEM)、すなわち、MEM培地をベースにして開発された、様々なグルコースとアミノ酸を含む市販の培地。
N2B27:DMEM/F12基礎培地とneurobasal基礎培地を1:1で混合した、N2添加剤とB27添加剤を含む成分がはっきりしている細胞培養液である。マウス胚性幹細胞の神経系への分化に寄与すると報告されている。
DMEM/F12:クローン密度の培養に適した、DMEM培地とF12培地を1:1で混合した市販の基礎培養液。
Neurobasal:神経細胞培養に寄与する市販の基礎培地。
GlutaMAX:細胞培地中のL-グルタミンを直接に置き換えることができる細胞培養添加剤。
二重抗生:ペニシリンとストレプトマイシンは、細胞培養中に細菌の混入を防ぐために細胞培養で一般的に使用される2つの抗生物質である。
N2添加剤:市販の無血清細胞培養添加剤。
B27添加剤:市販の無血清細胞培養添加剤。
KOSR:市販の血清の代替物(Knockout serum replacement,KOSR)。
CHIR99021:Wntシグナル伝達経路の活性化剤としてよく使用されるGSK-3α/β阻害剤。
A83-01:ALK4、ALK5、及びALK7の活性を顕著に阻害できる選択的TGF-β阻害剤。
【実施例】
【0065】
次は具体的な実施例を用いて本発明の実施形態を詳しく説明する。ただし、以下の内容は、本発明に対するいかなる制限として解釈されるべきではない。特に明記しない限り、実施例で使用される材料は市販の製品である。
【0066】
(実施例1)
線維芽細胞の脂肪細胞への転換
12ウェルプレートを例にして(corning,3335)、各ウェルに1×DMEMで調製した20μg/mlマトリゲル溶液(BD,354277)を、12時間コーティングした後、コーティング溶液を除去して1×PBSフラッシング溶液で一回洗浄した。
【0067】
マウス胚性線維芽細胞(C57、E13.5で調製)または成人包皮線維芽細胞(HFF20y、北京幹細胞ライブラリー)を、1ウェル当たり1×104の細胞で各ウェルに均一に播種し、基礎培養液(高グルコースDMEM(Gibco,C12430500BT),二重抗生)+10%ウシ胎児血清(Gibco,16000-044)で24時間培養した。培養液を除去してPBSで一回洗浄した。
【0068】
上記のように処理された線維芽細胞を脂肪誘導培養液:(N2B27培養液:DMEM/F12(Gibco,10565018)とNeurobasal(Gibco,21103-049)を1:1で混合し、N2添加剤(100×、Gibco,17502048)、B27添加剤(50×、Gibco,17504044)、2%ウシ血清アルブミン(1000×、sigma、A8022)、β-メルカプトエタノール(1000×、Gibco,21985023)、GlutaMAX(200×、Gibco,35050-061)、1μg/mlインスリン(Roche,11376497001)、二重抗生を添加)に加え、10%血清代替物(Gibco,10828-028)にMyosin阻害剤(ジメチルスルホキシドで溶解(sigma、D2650)した100mM濃縮ストック、-20℃で遮光して1か月間保管した)および10ng/mLのBMP4(Peprotech,10828-028)を加え、21日間培養した後に同定した。実験のフローは
図1Aに示す。
【0069】
脂肪細胞の同定は、オイルレッドO染色液(細胞専用、Solarbio,G1262)を使用した細胞オイルレッド染色により行われ、具体的には、培養液を除去し、ORO
Fixativeを加えて10~15分間固定した後、固定液を除去して、流動する空気中に10~15分間放置した。この時、ORO Stain A:ORO Stain
B=3:2の比率でORO Stainを配置し、混合した後10分間静置してからウェルに加え、15分間染色した後、染色液を除去し、60%イソプロパノールを加えて20~30秒間すすぎ、蒸留水で3回洗浄して光学顕微鏡下で写真を撮った。中性脂肪は橙赤色または赤橙色を呈し、リン脂質はピンク色を呈した。ヒト包皮線維芽細胞を誘導して得られた脂肪細胞のオイルレッドO染色は
図1Bに示す。
【0070】
マウス胚性線維芽細胞から得られた脂肪細胞の形態とオイルレッドO染色は
図1Cに示すように、橙赤色の脂肪滴の形成が見られ、これは、中性脂肪の現れを示している。脂肪滴の面積の割合はほぼ13%であり、対照群よリ有意に高い(P<0.01)。統計結果は
図1Dに示される。
【0071】
元の脂肪誘導培養液に10μM A83-01(stemgent,04-0014)を添加することで、脂肪誘導効率が有意に向上し、20%と高い(P<0.001);または、10μM SB431542(stemgent,04-0010-10)を添加すると、脂肪誘導効率を有意に向上させることもでき、18%にも達した(P<0.001)。BMPの阻害剤を添加すると、脂肪誘導効率は対照レベルに戻った。オイルレッド
O染色を
図1Eに示し、脂肪滴面積の統計を
図1Fに示す。
インビボ実験:同じバッチの6~8週間のICRメスマウスを選択し、ランダムに二つの群に分け、各群で5匹ずつとした。一つの群に対して、小分子(-)-Blebbistatinまたは(S)-(-)-Blebbistatin O-Benzoate(0.5mg/kg、10%DMSO+2%Tween80+生理食塩水に溶解)をマウスの腹側に注入し、もう一つの群に対し、小分子群と同じ量のDMSOを、実験群と同じ注射方法で注射した。1日1回注射し、19日間注射した後、薬剤を32日間停止し、マウスを頸椎脱臼により殺処分して腹側脂肪の含有量を観察した。その結果は
図2に示す。小分子処理群は腹側脂肪の含有量を有意に増加することができる。詳細は
図2A、
図2Bに示す。また、(-)-Blebbistatinの代わりに(S)-(-)-Blebbistatin O-Benzoateで処理すると、腹側脂肪の含有量を増加することができる。実験の結果では、最適化していない場合には、腹側脂肪の含有量が約50%増加したことは示されている。
【0072】
(実施例2)
線維芽細胞の不死化細胞への転換
12ウェルプレートを例にして(corning,3335)、各ウェルに1×DMEMで調製した20μg/mlマトリゲル溶液(BD,354277)を、12時間コーティングした後、コーティング溶液を除去して1×PBSフラッシング溶液で一回洗浄した。
【0073】
マウス胚性線維芽細胞(C57、E13.5で調製)または尾先端線維芽細胞(出生後1週間または成体マウスから調製)を、1ウェル当たり2×104の細胞で各ウェルに均一に播種し、基礎培養液(高グルコースDMEM(Gibco,C12430500BT),二重抗生)+10%ウシ胎児血清(Gibco,16000-044)で24時間培養した。培養液を除去してPBSで一回洗浄した。
【0074】
上記のように処理された線維芽細胞を不死化誘導培養液:(N2B27培養液:DMEM/F12(Gibco,10565018)とNeurobasal(Gibco,21103-049)を1:1で混合し、N2添加剤(100×、Gibco,17502048)、B27添加剤(50×、Gibco,17504044)、2%ウシ血清アルブミン(1000×、sigma、A8022)、β-メルカプトエタノール(1000×、Gibco,21985023)、GlutaMAX(100×、Gibco,35050-061)、1μg/mlインスリン(Roche,11376497001)、二重抗生を添加)に加えた。10%KOSR(Gibco,12618013)、3μMのCHIR99021(stemgent,04-0004-10)、10μMのA83-01(stemgent,04-0014)、および25μMのMyosin阻害剤(-)-Blebbistatin(MCE、HY-13441)または25μMの(S)-(-)-Blebbistatin O-Benzoate(TRC、B208070)を加えた。21~28日間培養した後同定した。実験のフローは
図3Aに示す。(-)-Blebbistatin(MCE、HY-13441)または(S)-(-)-Blebbistatin O-Benzoate(TRC、B208070)を含む不死化誘導培養液を利用して得られた細胞について、下記の実験を通して不死化細胞SMPCであるか否かという同定をした。
【0075】
不死化細胞SMPCの同定は主に下記のことを含む。
【0076】
幹細胞マーカーの染色。実験方法は次の通りである。まず、Stem Cell CDylDyeをPBSで1:40に希釈してCDyl希釈緩衝液を調製し、次にCDyl希釈緩衝液を培養液で1:100に希釈してCDyl染色液を調製した。培養液を除去した
後、CDyl染色液を加え、37℃ CO
2インキュベーターで1時間染色し、PBSで3回洗浄した後、培養液を加えて37℃ CO
2インキュベーターで3時間退色した。蛍光顕微鏡下で観察し、その結果を
図3Bに示す。その中で、Mergeは重ねた図を表す。未処理のマウス繊維芽細胞はCDylで着色できなかった。SMPCと呼ばれる、不死化誘導培養液で処理された細胞は、CDylで着色でき、「幹細胞性」を得たことは示される。
【0077】
細胞成長曲線の作成。実験方法は次の通りである。不死化細胞SMPC(第2世代および第4世代のマウス胚性線維芽細胞を対照として使用)を、ウェル当たり2×10
4細胞で12ウェルプレートに均一に播種した。24時間ごとに血球計算盤でカウントし、細胞成長曲線を描き、細胞周期を計算した。結果を
図3Cと
図3Dに示す。SMPCは、初期の細胞量が同じである場合に、急速に増殖することができ、24、48、72、96時間で、細胞量は対照よりも有意に増加した(P<0.001)。計算された細胞周期から分かるように、SMPCの細胞周期の長さは16時間であり、第2世代および第4世代のマウス胚性線維芽細胞の細胞周期の長さである36時間および45時間と比べて、有意に短縮された(P<0.001)。
【0078】
細胞周期の構成解析。実験方法は次の通りである。不死化細胞(マウス胚性線維芽細胞とマウス胚性幹細胞を対照として使用)を0.25%トリプシンで消化した後、DMEM+10%FBSで終止させて遠心分離し、上澄を捨て、培養液で再懸濁してから400メッシュのセルストレーナーを通し、MoFlo XDP高速マルチカラーフローサイトメーターで細胞周期を解析した。結果を
図3Eと
図3Fに示す。不死化細胞SMPCの均一性は、マウス胚性幹細胞と同様に強化された。また、マウス胚性線維芽細胞より、不死化細胞SMPCのG0/G1期が短縮され、S期がマウス胚性幹細胞と同様に長くなった。
【0079】
(実施例3)
増殖および老化遺伝子の検出
実験方法は次の通りである。不死化細胞SMPC(マウス胚性線維芽細胞を対照として使用)を収集した。(a)キット法を用いてRNAを抽出した。細胞ペレットに適量のTRIzоlを加えて細胞を溶解し、1/5容量のクロロホルムを加え、ボルテックスして均一に混合した後、氷上に3分間静置し、10000g、4℃で15分間遠心分離した。上層の水相を新しい遠心チューブに移し、等容量の75%エタノールを加えて一緒に吸着カラムに移し、10000gで15秒間遠心分離し、コレクションチューブ内の液体を捨てた。Wash Buffer Iで1回洗浄した、10μL DNase I+70μL Buffer RDDを吸着膜に添加し、室温で15分間インキュベーションしてDNAを消化してから、350μL Wash Buffer Iで1回洗浄し、500μL Wash Buffer IIで1回洗浄し、RNase-Free WaterでRNAを溶出した。紫外/可視光分光光度計で濃度を測定した。(b)RNAをcDNAに逆転写した。2μgのRNAサンプルにランダムプライマー、dNTPを加えた後、65℃で5分間加熱してRNAの高次構造を除去し、そして氷上で3分間クエンチしてRNAテンプレートとランダムプライマーを結合させた。逆転写酵素とRNA酵素阻害剤を加え、42℃で1時間逆転写してcDNAを取得した。(c)増殖および老化関連遺伝子をリアルタイム蛍光定量PCRにより検出した。
【0080】
PCR反応システムは次の通りである:7.5μL SYBR Green Real
Time PCR Master Mix、2μL Plus solution、0.5μLプライマー(上流および下流プライマーを混合)、0.5μL cDNA、4.5μL再蒸留水。PCR反応プロセスは次の通りである。増幅曲線:95℃、2分間、95℃で15秒間変性し、62℃で15秒間アニーリングし、72℃で45秒間延伸し、延伸が完了した後に蛍光シグナルを検出した。融解曲線:95℃で1分間変性し、57℃で
30秒間アニーリングし、95℃にゆっくりとアニーリングさせて30秒間維持した。この実験は、Agilent社MX3005P蛍光リアルタイム定量PCR装置上で行われ、Actbを内部参照遺伝子とし、結果はΔΔCt法で処理された。結果を
図1Gと
図1Hに示す。不死化細胞SMPC増殖の関連遺伝子:Sox2、Srrt、Yap、β-catenin、Mki67、Pcnaの発現量は、マウス胚性線維芽細胞の発現量より高かったが、老化関連遺伝子:P19、P16ink4a、P15ink4b、Morf4l1、Elf5は、マウス胚性線維芽細胞の発現量より低かった。
【0081】
(実施例4)
成体マウス初代肝細胞の分離とインビトロでの増殖
Alb-CreマウスはBRL MEDICINEから導入され、Creリコンビナーゼは、アルブミンを発現する成熟肝細胞でのみ発現された。Rosa26/mTmGマウスはCharles riverから導入され、Rosa26部位で赤緑蛍光レポーターシステムが組み込まれたマウスであり、通常の状況下では、細胞はTomato赤色蛍光タンパク質を発現し、cre組換えのある場合には、緑色GPF蛍光を発現する。Alb-Cre成体マウスとRosa26/mTmGマウスを交配して生まれたAlb-Cre×Rosa26/mTmGマウスの成熟肝細胞を緑色にマークし、他の組織細胞は赤色を発現した。
【0082】
Alb-Cre×Rosa26/mTmG成体マウスを頸椎脱臼で殺処分し、肝小葉を取り出して小さい塊に切り、100倍容量の予冷PBSで繰り返しピペッティングして洗浄し、洗浄液が赤くならないように血球を除去し、3~5倍容量のコラゲナーゼIV(ThermoFisher,17104019,37℃に予熱)を加えて37℃のインキュベーターで30~40分間消化し、その間に2~3回ピペッティングし、遠心分離して上澄を除去した。3~5倍容量のトリプシン(Gibco,25300062)を加えて37℃のインキュベーターで20分間消化し、停止するために2倍容量の10%血清を加え、遠心分離して上澄を取った。細胞をマウス肝細胞培養液(5μmоlのMyosinII阻害剤(-)-Blebbistatinを添加)で再懸濁し、fibronectinを塗布したペトリ皿に播種し、1週間後にAlbを発現した緑色の肝細胞クラスターを観察した。結果を
図4Aに示す。マウス肝細胞培地は、DMEM/F12(Gibco,10565018)、N2添加剤(100×、Gibco,17502048)、B27添加剤(50×、Gibco,17504044)、5%ウシ血清アルブミン(1000×、sigma、A8022)、β-メルカプトエタノール(1000×、Gibco,21985023)、GlutaMAX(200×、Gibco,35050-061)、非必須アミノ酸(100×、Gibco,11140-050)、1μg/mLインスリン(Roche,11376497001)、肝細胞成長因子(10ng/mL、R&D、294-HG-025)、形質転換成長因子beta阻害剤A83-01(5μM、stemgent、04-0014)、グリコーゲン合成キナーゼ3beta阻害剤Chir99021(6μM、stemgent、04-0004-10)、マクロファージ刺激タンパク質1および2阻害剤XMU-MP-1(2~5μM、MCE、HY-100526)肝細胞成長因子4(10ng/mL、R&D、5846-f4-025)二重抗生)を含む。
【0083】
MyosinII阻害剤(-)-Blebbistatinまたは(S)-(-)-Blebbistatin O-Benzoateを添加せずに、対照として等容量のDMSOを添加し、それぞれ3回(P3)、5回(P5)、7回(P7)継代培養した。その結果、
図4Bに示すように、Myosin阻害剤(-)-Blebbistatinを加えると、AlB-GFP陽性肝細胞の長期的増殖を有意に促進できる(インビトロで少なくとも20世代継代)ことが示された。また、(-)-Blebbistatin誘導体(S)-(-)-Blebbistatin O-Benzoateも、肝細胞の継代増
殖に対して類似した効果を持っており、処理された肝細胞がインビトロで20世代以上継代できることは示された。
【0084】
(実施例5)
インビトロでのヒト胚性肝細胞の増殖
1、実験手順
(1)プレートのコーティング マウス尾コラーゲン(Thermo scientific,A1048301、3mg/mL)でコーティングされた培養プレートの濃度は5μg/cm2であり、24ウェルプレートを例にすると、各ウェルの底面積は1.9cm2であるので、各ウェルに9.5μg(約3.2μl)が必要である。3.2μlのマウス尾コラーゲンを取り、500μlの20mM氷酢酸に溶解し、ウェルに加え、37℃の細胞インキュベーターで1時間インキュベーションし、吸い取って廃棄した後、PBSで3回洗浄した。
【0085】
(2)ヒト胚性肝細胞の回復 液体窒素タンクからヒト胚性肝細胞(凍結保存の日付けは2014年1月15日、凍結保存溶液はcell banker2、凍結保存細胞数は2×107/チューブ)を取り出してすぐに37℃の水浴ナベに入れ、溶解した後すぐに5mL肝細胞培地(対照群)が入った15mLの遠心チューブに吸い取り、50g、4℃、5分間遠心分離した。上澄を捨て、500μl肝細胞培地で再懸濁してカウントすると1.16×106となり、細胞回復率は5.8%であった。
【0086】
(3)ヒト胚性肝細胞の播種 播種密度は、1×105/24ウェルプレートのウェルに、それぞれ500μl肝細胞培地(対照群)を加えた。肝細胞培地は、DMEM/F12(Gibco,10565018)、N2添加剤(100×、Gibco,17502048)、B27添加剤(50×、Gibco,17504044)、5%ウシ血清アルブミン(1000×、sigma、A8022)、β-メルカプトエタノール(1000×、Gibco,21985023)、GlutaMAX(200×、Gibco,35050-061)、非必須アミノ酸(100×、Gibco,11140-050)、1μg/mLインスリン(Roche,11376497001)、肝細胞成長因子(10ng/mL、R&D、294-HG-025)、形質転換成長因子beta阻害剤A83-01(5μM、stemgent、04-0014)、グリコーゲン合成キナーゼ3beta阻害剤Chir99021(6μM、stemgent、04-0004-10)、マクロファージ刺激タンパク質1および2阻害剤XMU-MP-1(2~5μM、MCE、HY-100526)肝細胞成長因子4(10ng/mL、R&D、5846-f4-025)二重抗生)を含む。10μM小分子(-)-Blebbistatinを含む肝細胞培地および20μM小分子(-)-Blebbistatinを含む肝細胞培地で播種してから24時間後、各群から3つのウェルで消化した細胞を取りカウントし、壁への付着率を計算した。播種から72時間後、各群で3つのウェルの細胞を消化してカウントした。72時間の細胞数を24時間の細胞数で割ると、細胞数の変化倍数を得ることができる。各ウェルから一部の細胞(細胞数の2/5)を取って、RNAの抽出とヒト肝細胞関連遺伝子の発現の検出に使用した。
【0087】
(4)ヒト胚性肝細胞の初代継代 72時間初代培養中の細胞数の3/5の播種密度で、細胞をそれぞれマウス尾コラーゲンでコーティングした24ウェルプレートに播種した(上述のように)。各群で3つのウェルであった。細胞培養の72時間後に消化してカウントした。この細胞数と播種時の細胞数との比は、初代継代の増殖倍数となる。各ウェルから一部の細胞(細胞数の2/5)をRNAの抽出及びヒト肝細胞関連遺伝子の発現の検出に使用した。
【0088】
(5)ヒト胚性肝細胞の二世代の継代 72時間初代継代培養中の細胞数の3/5の
播種密度で、細胞をそれぞれマウス尾コラーゲンでコーティングした24ウェルプレートに播種した(上述のように)。対照群の初代継代培養の72時間後にほとんどの細胞が死亡し、少数の細胞しか残っていなかったため、これらの細胞はすべて播種された。2日ごとに培養液を交換し、144時間(6日)培養を続けた後、細胞を消化してカウントし、この時の細胞数と播種時の細胞数との比は、二世代の継代の増殖倍数となる。各ウェルの細胞培養上澄を取ってヒトアルブミンの濃度を検出し、一部の細胞(細胞数の2/5)をRNAの抽出及びヒト肝細胞関連遺伝子の発現の検出に使用した。
【0089】
2、結果
ヒト胚性肝細胞を液体窒素で3年半凍結保存した後の回復率は約5.8%であった。
図5Aと
図5Bに示すように、小分子培地で12日間継代(合計3世代)培養した後、10μMの小分子培地は約22.1倍(SD=4.2)で増幅させることができ、20μMの小分子培地は約13.0倍(SD=3.39)で増幅させることができた。この時、細胞形態は依然として典型的な肝細胞形態であり、不規則な多角形を呈した。しかし、対照群の培地で継代培養した後、初代継代培養後にほとんどの細胞が死亡したため、残った小部分の細胞は培養されて12日に増幅倍数が58.3倍になった(SD=13.9)が、この時の細胞は、細長い扁平な典型的な肝細胞形態を呈した。
図5Cに示すようにヒト肝細胞特異的遺伝子であるアルブミン(ALBUMIN)とアルファフェトプロテイン(Alpha fetoprotein)をリアルタイムPCRで検出した。その結果、ヒト肝細胞は10μMと20μM小分子培地で12日間継代培養した後、依然としてヒト肝細胞特異的遺伝子を発現し、これに対して、対照群の培地で12日間継代して得られた細胞から、非常に低いアルブミン発現が検出され、アルファフェトプロテイン遺伝子の発現が検出できず、この時の細胞がもはや肝細胞ではないことは示されている。これは、
図5Aと
図5Cの結果と一致している。
【0090】
(実施例6)
ヒト成体肝細胞の小分子増幅
1、実験手順
(1)プレートのコーティング方法は上記の通りである。
【0091】
(2)成人肝細胞の回復と培養 液体窒素タンクから成人肝細胞(M00995-P
Male human、BioreclamationIVT)を取り出してすぐに37℃の水浴ナベに入れ、溶解した後すぐに37℃に予熱した5mL肝細胞播種培地(InVitroGRO CP Medium)に加え、カウントした後、9×104/ウェルで24ウェルプレートに播種し、肝細胞が壁に2~4時間付着した後、肝細胞播種培地を吸引して捨て、それぞれ肝臓細胞培養対照培地、10μm小分子培地、および20μm小分子培地を加えた。2日ごとに培養液を交換した。2日目に写真から細胞数を推算した。4日後に20μm小分子培地群を10μm小分子培地に変更して培養した。共培養の6日目に細胞をカウントした。一部の細胞を取り、RNAの抽出及びヒト肝細胞特異的遺伝子の発現の検出に使用した。
【0092】
(3)成人肝細胞の継代 上記対照群で培養した肝細胞4.7×104および10μm小分子培地で培養した肝細胞8×104をそれぞれマウス尾コラーゲンでコーティングした24ウェルプレートに再播種し、2日ごとに培養液を交換して6日間培養し、写真を撮って細胞成長状況を記録した。
【0093】
(4)10μm小分子培地で増幅された成人肝細胞のCYP1A2誘導 3×105肝細胞をマウス尾コラーゲンでコーティングした24ウェルプレートに播種し、10μm小分子培地で24時間培養した後、50μmオメプラゾール(Omeprazole)を含む10μm小分子培地に置き換え、対照群はDMSOを含む10μm小分子培地であり
、48時間後に細胞を収集してCYP1A2遺伝子の発現を検出した。
【0094】
2、結果
成人肝細胞の播種後5時間の壁への付着率はほぼ同じであり、2日後には、対照群、10μm小分子群、および20μm小分子群の細胞はいずれも大量に死亡した。写真を撮って細胞の壁への付着率を推算した(2.53×10
4、SD=0.09)。4日目に、小分子群の細胞には増幅クローンが現れたが、対照群には有意な増幅はなかった。この時、20μm培地群は10μm小分子培地に変更された(protocol#と命名され、すなわち、20μmで4日間培養し、10μmで2日間培養した)。引き続き2日間培養した後、小分子群の細胞クローンはさらに増幅したが、対照群には明らかな変化はなかった(
図6A)。6日間培養した後、細胞数はそれぞれ、対照群では1.59×10
4(SD=0.28)、10μm群では6.47×10
4(SD=1.24)、#群では9.47×10
4(SD=0.98)であった(
図6B)。6日目の細胞数と2日目の細胞数との比は、細胞増幅倍数となる。その結果、小分子が成人肝細胞に対して有意な増幅効果を有することは示された(
図6Aと
図6B)。小分子群の増殖細胞核抗原遺伝子(PCNA)の発現は、対照群より有意に高く、小分子が細胞増殖に影響を与えることはさらに証明された(
図6C)。小分子によって増幅された成人肝細胞は、依然としてヒト肝細胞特異的遺伝子であるアルブミン(ALBUMIN)、アルファフェトプロテイン(AFP)、CYP1A2、CYP3A4を発現した(
図6D)。10μm小分子培地はヒト肝細胞を継代培養できたが、対照群培地は成人肝細胞を継代培養できなかった(
図6E)。継代培養された成人肝細胞をオメプラゾールによって誘導した後、CYP1A2遺伝子の発現を増加させることができる。これは、小分子によって増幅された肝細胞が依然として機能を有することを示唆している(
図6F)。
【0095】
以上は本発明の原理のみを示したにすぎず、本発明の範囲は本明細書に記載の例示的な態様に限定されるものではなく、現在知られているおよび将来開発される同等物をすべて含むべきである。なお、本発明の技術的原理から逸脱することなく、いくつかの改善および変更を行うことができ、これらの改善および変更も本発明の範囲と見なされるべきである。