(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】X線源装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
H01J 35/14 20060101AFI20231222BHJP
H01J 35/06 20060101ALI20231222BHJP
H01J 9/02 20060101ALI20231222BHJP
H01J 1/304 20060101ALI20231222BHJP
H05G 1/00 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
H01J35/14
H01J35/06 B
H01J35/06 H
H01J35/06 E
H01J9/02 J
H01J1/304
H01J9/02 B
H05G1/00 R
H05G1/00 D
(21)【出願番号】P 2022513387
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 KR2019010970
(87)【国際公開番号】W WO2021040079
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】314000442
【氏名又は名称】高麗大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145, Anam-ro Seongbuk-gu Seoul 02841, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】イ,チョルジン
(72)【発明者】
【氏名】イ,サンホン
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ジュンス
(72)【発明者】
【氏名】ゴ,ハンビン
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161738(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0084417(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0060757(US,A1)
【文献】国際公開第2010/032363(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0303874(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00-35/32
H01J 9/00-9/18
H01J 1/30ー1/316
H05G 1/00-2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体にX線を放出するX線源装置において、
電子放出のためにカソード電極の上面に形成されるエミッタと、
前記カソード電極と予め設定された距離だけ離れて形成されるアノード電極と、
前記エミッタと前記アノード電極の間に位置し、少なくとも1つ以上の開口が形成された金属電極の上部に少なくとも1つ以上の層からなるグラフェン(graphene)薄膜を転写することで形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極と前記アノード電極の間に位置し、前記エミッタから電子放出された電子ビームを前記アノード電極へ集束する集束レンズと、
前記エミッタとゲート電極に対して2次元行列制御を行うことで前記被写体の位置別にX線線量を調整する制御モジュールとを含み、
前記エミッタは第1の方向にアレイ配列され、前記ゲート電極は第2の方向にアレイ配列され、第1の方向と第2の方向とは垂直に交差し、前記制御モジュールは、前記エミッタと前記ゲート電極との間の電圧の大きさを調整することによって、人体
の部位別に電子ビームの発生密度を調整する2次元行列制御を行い、
被験者の性別、年齢、身体情報又は被験者の骨の位置や厚さを示す解剖学的構造情報に基づいて、人体の各部位ごとにX線線量の放出情報を決定するものであり、
前記カソード電極は、互いに平行な状態で接触した少なくとも2つ以上の金属電極を含み、
前記エミッタは、前記カソード
電極を構成する金属電極間に挿入され、その端部が点(Point)状または線(Line)状に形成されたCNT薄膜
、グラフェン薄膜又は炭素ナノ物質薄膜のうち何れか1つを利用して製造される、X線源装置。
【請求項2】
前記集束レンズとアノード電極の間に位置し、前記集束レンズを通過した電子ビームが直進して前記アノード電極に集束されるようにする電子ビーム視準器(Electron Beam Collimator)をさらに追加する、請求項1に記載のX線源装置。
【請求項3】
前記ゲート電極は、孔が形成された金属平板又は多角形状の金属メッシュ(mesh)を金属電極に使用した形態、前記金属電極の上部にグラフェン薄膜を付着した形態、2つの金属電極の間に少なくとも1つ以上のグラフェン薄膜を挿入した形態のうち何れか1つの形態に形成される、請求項1に記載のX線源装置。
【請求項4】
前記集束レンズは、孔の形態に製造されるか、少なくとも1つ以上のグラフェン薄膜が転写された形態に製造される、請求項1に記載のX線源装置。
【請求項5】
前記エミッタは、CNT薄膜、グラフェン薄膜又は炭素ナノ物質薄膜のうち何れか1つを利用して製造される、請求項1に記載のX線源装置。
【請求項6】
前記X線源装置は、ガラス材質、セラミック材質又は金属材質のうち何れか1つの材質にて形成された真空容器の内部に、前記エミッタ、ゲート電極、集束レンズ、アノード電極を順次に配置する、請求項1に記載のX線源装置。
【請求項7】
前記X線源装置は、ガラス材質、セラミック材質又は金属材質のうち何れか1つの材質にて形成された真空容器の内部に、前記エミッタ、ゲート電極、集束レンズ、電子ビーム視準器、アノード電極を順次に配置する、請求項2に記載のX線源装置。
【請求項8】
被写体にX線を放出するX線源装置の制御方法において、
前記X線源装置は、カソード電極の上面にエミッタが第1の方向にアレイ配列され、前記エミッタとアノード電極との間でゲート電極が前記第1の方向と垂直に交差する第2の方向にアレイ配列されたものであり、
前記アレイ配列されたエミッタとゲート電極に対して2次元行列制御を行うことで前記被写体の位置別にX線線量を調整するステップを含み、
前記被写体の位置別のX線線量を調整するステップは、前記エミッタと前記ゲート電極との間の電圧の大きさを調整することによって、人体
の部位別に電子ビームの発生密度を調整する2次元行列制御を行い、
被験者の性別、年齢、身体情報又は被験者の骨の位置や厚さを示す解剖学的構造情報に基づいて、人体の各部位ごとにX線線量の放出情報を決定するものであり、
前記カソード電極は、互いに平行な状態で接触した少なくとも2つ以上の金属電極を含み、
前記エミッタは、前記カソード
電極を構成する金属電極間に挿入され、その端部が点(Point)状または線(Line)状に形成されたCNT薄膜
、グラフェン薄膜又は炭素ナノ物質薄膜のうち何れか1つを利用して製造される、X線源装置の制御方法。
【請求項9】
前記X線源装置は、ガラス材質、セラミック材質又は金属材質のうち何れか1つの材質にて形成された真空容器の内部に、前記エミッタ、ゲート電極、集束レンズ、アノード電極を順次に配置する、請求項8に記載のX線源装置の制御方法。
【請求項10】
集束レンズを通過した電子ビームが直進して前記アノード電極に集束されるよう、前記集束レンズとアノード電極の間に位置する電子ビーム視準器(Electron Beam Collimator)が追加される場合、
前記X線源装置は、ガラス材質、セラミック材質又は金属材質のうち何れか1つの材質にて形成された真空容器の内部に、前記エミッタ、ゲート電極、集束レンズ、電子ビーム視準器、アノード電極を順次に配置する、請求項8に記載のX線源装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード電極とゲート電極とを行列制御可能にアレイ配列し、被写体の位置によって線量の制御を可能にするX線源装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線源の特性は、X線の線量、エネルギー、焦点によって決定するものであり、医療又は産業検査において求められるX線源を得るためには、高輝度及び大電流の電子放出源が必要である。このとき、電子放出源の特性は輝度で評価され、電子が特定の方向へ高密度で放出されなければ輝度が大きくならない。
【0003】
一般的に、冷陰極X線源は、ゲート電極に電圧を印加して炭素ナノチューブ電子放出源から電子ビームを引き出した後、集束電極を介して電子ビームを高密度で集束させてアノード電極へ誘導する。また、カソード電極とアノード電極との間に高電圧を印加すれば、電子はアノード電極の方向へ加速され、アノード電極に強く衝突することによってアノード電極からX線を発生させる。
【0004】
従来のX線源は、熱電子放出により作動し、反射アノード電極を使用しているため、X線が点光源から放射状に放出され、線量の制御が難しく、X線の強さが均一ではないという問題点がある。
【0005】
また、従来の冷陰極電子放出源においては、CNTを電子放出素材として主に使用しており、CNTを伝導性の有機物と混合しペースト状にして電子放出源に製作している。CNTペースト電子放出源は、製作過程において電界放出源であるCNTが所望しない有機物質により汚染することがあり、CNTを垂直方向へ配向させることが非常に難しい。また、CNTペースト電子放出源は、電界放出の際に有機物質によるガスが発生し、装置内の真空度を下げることによって、電界放出効率が大いに減少し、電界電子放出素子の寿命が短縮するなどの深刻な問題をもたらすことになる。
【0006】
さらに、従来のX線源では、熱電子放出ベースの点光源を使用している。このような従来のX線源は、X線線量の制御が難しく、X線が放射状に発生するので、X線のエネルギーがばらつき、アノード電極に衝突する電子ビームの焦点のサイズが大きいので、X線映像の解像度を高くするには限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一実施例は、CNT薄膜、グラフェン薄膜又は炭素ナノ物質薄膜などを利用したエミッタを製作することで電界放出効率を上げ、透過型のアノード電極を使用してX線が面光源の形態で被写体に放出されるようにし、エミッタから放出される電子ビームを行列制御駆動することによって、被写体の位置別に最適化されたX線線量を照射できるようにするX線源装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【0008】
但し、本発明の一実施例が解決しようとする技術的課題は、上記したような技術的課題に限定されるものではなく、また他の技術的課題が存在し得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した技術的課題を解決するための技術的手段として、本発明の一側面に係るX線源装置は、被写体にX線を放出するX線源装置において、電子放出のためにカソード電極の上面に形成されるエミッタと、当該カソード電極と予め設定された距離だけ離れて形成されるアノード電極と、当該エミッタと当該アノード電極の間に位置し、少なくとも1つ以上の開口が形成された金属電極の上部に少なくとも1つ以上の層からなるグラフェン(graphene)薄膜を転写することで形成されたゲート電極と、当該ゲート電極と当該アノード電極の間に位置し、当該エミッタから電子放出された電子ビームを当該アノード電極へ集束する集束レンズと、当該エミッタとゲート電極に対して2次元行列制御を行うことで当該被写体の位置別にX線線量を調整する制御モジュールとを含み、当該エミッタは第1の方向にアレイ配列され、当該ゲート電極は第2の方向にアレイ配列され、第1の方向と第2の方向とは垂直に交差し、当該制御モジュールは、当該アレイ配列の規模に応じてX線線量を決定する。
【0010】
本発明の他の一側面に係るX線源装置の制御方法は、被写体にX線を放出するX線源装置の制御方法において、当該X線源装置は、カソード電極の上面にエミッタが第1の方向にアレイ配列され、当該エミッタとアノード電極との間でゲート電極が当該第1の方向と垂直に交差する第2の方向にアレイ配列されたものであり、当該アレイ配列されたエミッタとゲート電極に対して2次元行列制御を行うことで当該被写体の位置別にX線線量を調整するステップを含み、当該被写体の位置別のX線線量は、当該アレイ配列の規模に応じて決定する。
【発明の効果】
【0011】
上述した本発明の課題を解決するための手段によれば、カソード電極とゲート電極に対して2次元行列制御を可能にすることで、被写体の位置別に最適化されたX線線量を照射できるようになるので、必要以上のX線が被写体に照射されることを防止することができ、高解像度及び高品質のX線映像が得られる効果がある。
【0012】
このように、本発明は、2次元行列制御によって、X線線量の制御が容易となり、且つ被写体にX線を均一に照射することができるため、電子ビームの焦点の大きさへの依存性が低い高解像度の面光源のX線源を製作することができるという効果もある。
【0013】
また、本発明は、真空濾過方法により、有機物が含まれていないCNT素材のみを利用してCNT薄膜を製作した後、CNT薄膜をポイント状又はライン状に加工してエミッタを製造したり、グラフェン薄膜又は炭素ナノ物質薄膜を利用してエミッタを製造した後、該エミッタをアレイ状に配列して冷陰極電子放出源に使用することにより、点状又は面状の電子ビームを様々な大きさに発生させ、且つ放出電流の大きさを調整することができ、電子ビーム透過量と密度の高いX線源の製作が可能となる効果がある。
【0014】
このとき、本発明は、CNTペーストの冷陰極電子放出源の代りにCNT薄膜をエミッタに使用することによって、有機物を含有するペーストや他の接着剤なしでも、ナノ素材であるCNT薄膜内の強い結合力、及びCNTエミッタとカソード電極との間における強い電気的/機械的な接着特性を確保することができるので、既存の有機物による真空度低下の問題を解決しつつ、電界放出効率が高く、寿命の特性に優れたX線源の製作が可能という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施例に係るX線源装置を説明する図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る2次元行列制御が可能なX線源装置を説明する図である。
【
図3】本発明の一実施例に係るX線源装置の制御方法を説明するフローチャートである。
【
図4】
図3のCNTエミッタを形成する方法を説明するフローチャートである。
【
図5】
図4によってCNTのネットワークが形成されたCNT薄膜を説明する図である。
【
図6】
図4によって多角形に加工されたCNT薄膜を説明する図である。
【
図7】
図4によって点状又は面状に加工されるCNTエミッタの様々な例示を説明する図である。
【
図8】
図7によって形成されたCNTエミッタのアレイ配列状態を説明する図である。
【
図9】
図3のゲート電極を形成する方法を説明するフローチャートである。
【
図10】
図9においてグラフェン薄膜を金属電極上に転写する過程を説明する図である。
【
図11】
図9によってアレイ配列されたゲート電極の例示を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、添付した図面を参照しながら、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように本発明の実施例を詳しく説明する。ところが、本発明は様々な異なる形態に具現されることができ、ここで説明する実施例に限定されるものではない。そして、図面において、本発明を明確に説明するために、説明とは関係ない部分は省略しており、明細書全体に亘って類似した部分に対しては類似した図面符号を付けている。
【0017】
明細書全体において、ある部分が他の部分と「連結」されているという場合、これは「直接的に連結」されている場合だけでなく、その中間に他の素子を挟んで「電気的に連結」されている場合も含む。また、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味し、1つ又はそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部分又はこれらを組み合わせたものの存在又は付加可能性を予め排除するものではないと理解されなければならない。
【0018】
本明細書において「部」とは、ハードウェア又はソフトウェアによって実現されるユニット(unit)、両方を利用して実現するユニットを含み、1つのユニットが2つ以上のハードウェアを利用して実現されても良く、2つ以上のユニットが1つのハードウェアによって実現されても良い。
【0019】
以下、添付した図面を参照しながら本発明の一実施例を詳しく説明することとする。
【0020】
図1は、本発明の一実施例に係るX線源装置を説明する図であり、
図2は、本発明の一実施例に係る2次元行列制御が可能なX線源装置を説明する図である。
【0021】
図1及び
図2を参照すると、被写体にX線を放出するX線源装置100は、カソード電極101と、エミッタ110と、アノード電極120と、ゲート電極130と、集束レンズ140と、電子ビーム視準器150とを含む。
【0022】
カソード電極101、アノード電極120及びゲート電極130は、電界を印加するために外部電源(図示せず)と連結されても良い。例えば、カソード電極101は、負の電圧源又は正の電圧源と連結され、アノード電極120とゲート電極130は、カソード電極101に連結された電圧源の電位よりも相対的に高い電位を印加することのできる電圧源と連結されても良い。
【0023】
エミッタ110は、カソード電極101上に形成され、電子が放出される冷陰極電子放出源として使用される。つまり、エミッタ110は、カソード電極101、アノード電極120及びゲート電極130に印加された電圧により形成された電界によって電子を放出しても良い。かかるCNT(Carbon NanoTube)薄膜を利用して製造されたエミッタ110は、CNT薄膜をポイント状又はライン状に加工して点状又は面状の電子ビームを発生させても良い。
【0024】
このとき、エミッタ110は、低い閾値電界と高い電界放出電流密度を提供するためにCNT薄膜を使用しているが、CNT薄膜の他にもグラフェン薄膜又は炭素ナノ物質薄膜(例えば、ナノグラファイト薄膜など)を使用して製造された高性能の電界放出特性を有するエミッタを使用しても良い。
【0025】
アノード電極120は、カソード電極101から電子ビームが放出される方向へ予め設定された距離だけ離れて形成される。
【0026】
ゲート電極130は、エミッタ110とアノード電極120の間に位置し、エミッタ110の上方に離れて形成される。ゲート電極130は、少なくとも1つ以上の開口が形成された金属電極の上部に少なくとも1つ以上の層からなるグラフェン(graphene)薄膜を転写することで形成される。
【0027】
また、ゲート電極130は、孔が形成された金属平板又は多角形状の金属メッシュ(mesh)を金属電極に使用した形態であるか、金属電極の上部にグラフェン薄膜を付着した形態、2つの金属電極の間に少なくとも1つ以上のグラフェン薄膜を挿入した形態のうち何れか1つの形態に形成されても良い。
【0028】
このとき、エミッタ110とゲート電極130はアレイ状に配列される。例えば、互いに並んで離れた複数のエミッタ110が第1の方向に沿って等間隔に並んで配置される形態でアレイ配列され、ゲート電極130は、第2の方向に沿って等間隔に並んで配置される形態でアレイ配列され、第1の方向と第2の方向とは垂直に交差しても良い。
【0029】
集束レンズ140は、ゲート電極130とアノード電極120の間に位置し、エミッタ110から電子放出された電子ビームをアノード電極120へ集束する。
【0030】
電子ビーム視準器150は、集束レンズ140とアノード電極120の間に位置し、集束レンズ140を通過した電子ビームが直進してアノード電極120に集束されるようにする。かかる電子ビーム視準器150は、集束レンズ140を通過した電子ビームの直進性をさらに向上させることができる。
【0031】
一方、
図2に示すように、X線源装置100は、制御モジュール160によってアレイ配列されたエミッタ110とゲート電極130に対して2次元行列制御を行う。ここで、2次元行列制御は、位置別にエミッタ110とゲート電極130との間の電圧の大きさを調整することによって、人体に必要な部位別に電子ビームの発生密度を調整する制御方式である。かかる2次元行列制御方式は、電子ビームの密度が変わることによってアノード電極120で発生するX線の密度が変わるので、人体の骨の厚さに応じたX線密度の調整が可能となる。
【0032】
制御モジュール160は、被写体200の位置別に適切にX線線量を調整してX線を発生させるが、アレイ配列の規模に応じてX線源の大きさを調整することができるので、大面積のX線源の具現が可能となる。
【0033】
一方、制御モジュール160は、被写体200の性別、年齢、身体情報などの特性情報を取り合わせ、このように取り合わせられた被写体200の特性情報により、撮影部位、骨の位置、骨の厚さなどに応じてX線線量の放出情報を局所的に特定して出力しても良い。
【0034】
例えば、各ユーザによって骨の位置や骨の厚さ分布などが異なるので、これにより適切なX線の局所的な放出量を調整する。そのために、被写体200の性別、年齢、身体情報(身長、体重、体形など)などの特性情報や各被写体を区別できる追加情報を収集し、各被写体200別に骨の位置や骨の厚さのような解剖学的構造情報を収集して、それぞれ配合する。このように、被写体の特性情報を利用すれば、被写体200の性別、年齢、身体情報などの特性情報のみでも骨の位置や骨の厚さに関する解剖学的構造情報を推定することができ、その後は、推定された骨の位置や厚さに関する解剖学的構造情報を基に適切なX線線量の放出情報を位置別に決定することができる。
【0035】
一方、各位置別にX線線量の放出情報が決定すると、エミッタ110とゲート電極130に対して2次元行列制御を行って、X線源装置100に対してアドレッシングを行い、カソード電極101とゲート電極130に印加される電圧の大きさをそれぞれ調整することによって、エミッタ110の位置別のX線放出量を調整する。
【0036】
ここで、制御モジュール160は、通信、自動制御、データ処理、映像情報処理などをサポートする知能型端末であり、ユーザが所望する多数の応用プログラム(即ち、アプリケーション)をインストールして実行することのできるスマートフォン(smartphone)、タブレットPCなどのような全種類のハンドヘルド(Handheld)ベースの無線通信装置であっても良く、ネットワークを介して他の端末又はサーバなどにアクセスできるPCなどの有線通信装置であっても良い。
【0037】
このように、X線源装置100は、被写体200に位置別に最適化されたX線を照射する冷陰極X線源を具現するために、ガラス材質、セラミック材質又は金属材質のうち何れか1つの材質にて形成された真空容器の内部に、カソード電極101上にアレイ配列されたエミッタ110、アレイ配列されたゲート電極130、集束レンズ140、電子ビーム視準器150及びアノード電極120を順次に配置して真空実装する。
【0038】
図3は、本発明の一実施例に係るX線源装置の制御方法を説明するフローチャートである。
【0039】
図3を参照すると、X線源装置の制御方法は、アレイ配列されたエミッタとゲート電極に対して2次元行列制御を行うことで被写体の位置別に適切にX線線量を調整し、X線を発生させる。
【0040】
そのために、X線源装置は、カソード電極の上面に電子を放出するために、真空濾過方式によって、有機物が含まれていないエミッタが形成されると(S110)、エミッタを第1の方向にアレイ配列する。このとき、エミッタは、CNT薄膜を利用して製造されたCNTエミッタの他にも、グラフェン薄膜又は炭素ナノ物質薄膜のうち何れか1つを利用して製造されたエミッタを使用しても良い。
【0041】
アノード電極は、カソード電極と予め設定された距離だけ離れて形成され(S120)、ゲート電極が少なくとも1つ以上の層からなるグラフェン薄膜を利用してエミッタとアノード電極との間で第1の方向と垂直に交差する第2の方向に形成される(S130)。このとき、アノード電極は、ベリリウム金属板上に薄いタングステン薄膜を蒸着させることで透過型に製作される。このように製作された透過型のアノード電極は、面光源のX線を発生させることができる。
【0042】
ゲート電極とアノード電極の間に形成された集束レンズは、エミッタから電子放出された電子ビームをアノード電極へ集束し(S140)、電子ビーム視準器が集束レンズとアノード電極との間で集束レンズを通過した電子ビームの直進性を向上させるために追加設置される(S150)。このとき、集束レンズは、一般的な孔の形態を使用して製作されるか、レンズ上に一層又は複数層のグラフェンを転写することで製作されても良い。また、集束レンズは、1つ又は2つを使用しても良い。
【0043】
エミッタとゲート電極とが互いに垂直に交差するようにアレイ配列されたX線源装置は、2次元行列制御が可能な大面積エミッタ及びゲート電極となっても良い。
【0044】
X線源装置は、被写体の性別、年齢、身体情報などの特性情報を取り合わせ、このように取り合わせられた被写体の特性情報により、撮影部位、骨の位置、骨の厚さなどに応じてX線線量の放出情報を局所的に特定して出力する(S160)。つまり、X線源装置は、各位置別にX線線量の放出情報が決定すると、アレイ配列されたエミッタとゲート電極に対して2次元行列制御によりアドレッシングを行い、カソード電極とゲート電極に印加される電圧の大きさをそれぞれ調整することで、エミッタの位置別のX線放出量を調整し、X線を放出する(S170)。
【0045】
図4は、
図3のCNTエミッタを形成する方法を説明するフローチャートであり、
図5は、
図4によってCNTのネットワークが形成されたCNT薄膜を説明する図であり、
図6は、
図4によって多角形に加工されたCNT薄膜を説明する図である。
図7は、
図4によって点状又は面状に加工されるCNTエミッタの様々な例示を説明する図であり、
図8は、
図7によって形成されたCNTエミッタのアレイ配列状態を説明する図である。
【0046】
図4乃至
図8を参照すると、CNTエミッタ110は、蒸留水(DI Water)200mlにドデシル硫酸ナトリウム(Sodium Dodecyl Sulfate、SDS)200mg、単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon NanoTube)4mgを分散させてCNT分散水溶液を製造する(S410)。CNT分散水溶液は、65分間の音波処理工程(S420)、40分間の遠心分離工程(S430)を経た後、このCNT分散水溶液を陽極酸化アルミニウム膜(AAO membrane)に濾過して蒸留水のみを通過させると、CNTがAAO膜にかかって溜まる形態となる(S440)。
【0047】
図5に示すように、AAO膜にかかったCNTは、ファンデルワールス力によって互いに強く絡み合い、その後、水酸化ナトリウム溶液(NaOH)を利用してAAO膜を溶解させれば、CNTのネットワークが形成されたCNT薄膜が製造される(S450)。このとき、緻密化工程を行って、CNT薄膜をイソプロピルアルコール溶液(IPA)に浸してから取り出して乾燥すると、各CNTがさらに密に絡み合う。緻密化工程が行われたCNT薄膜111の表面を走査電子顕微鏡で分析すると、CNTがネットワークを形成して密に絡み合っている様子を確認することができる。
【0048】
このように形成されたCNT薄膜111は、
図6に示すように、三角形又は四角形などの多角形に切断された後、平板に圧搾されて電子放出源に製作され、カソード電極101の上面にCNTエミッタ110を形成する(S460)。このとき、CNTエミッタ110がより安定的に動作するために、炭化工程を行う。炭化工程は、CNT薄膜111に高分子有機物、即ち炭素ベースの物質をコーティングして高温且つ真空状態で熱処理を進めると、CNTのネットワーク内の各CNTの間に炭素ベースの物質が挿入されて隙間を埋め、このような過程によりCNT間の結合力をより強化することができる。
【0049】
図7に示すように、CNT薄膜は、切断方法によってポイント状又はライン状のCNTエミッタ110に製作されるが、CNT薄膜111を扇形や三角形の形状に切断した場合、上部が点(Point)に収束する形態となり、四角形の形状に切断した場合、上部がライン(Line)に収束する形態となっても良い。
【0050】
また、
図8に示すように、複数のCNT薄膜111をポイント状又はライン状に加工した後、カソード電極101の間に挿入することでアレイ配列されたCNTエミッタ110を形成すると、CNTエミッタは、CNT薄膜の切断方法によって点状又は面状の電子ビームを様々な大きさで発生させることができる。
【0051】
図9は、
図3のゲート電極を形成する方法を説明するフローチャートであり、
図10は、
図9においてグラフェン薄膜を金属電極上に転写する過程を説明する図であり、
図11は、
図9によってアレイ配列されたゲート電極の例示を説明する図である。
【0052】
図9乃至
図11を参照すると、ゲート電極の製造方法は、銅ホイル上に熱CVD(chemical vapor deposition)方法によりグラフェンを合成した後、スピンコータ(Spin coater)を利用してグラフェン上にメタクリル樹脂(polymethylmethacrylate、PMMA)をコーティングする(1)。
【0053】
その後、銅エッチング溶液を利用して銅ホイルをエッチングし(2)、蒸留水に洗浄することで残存する銅ホイルを除去する(3)。この過程を複数回繰り返すことで積み重ねられた複数層のグラフェン薄膜を製作し、
図10に示すように、一層又は複数層のグラフェン薄膜を金属電極上に転写する(4,5,6,7)。このとき、金属電極は、円状の孔を有する金属平板であるか、四角形、円形、六角形などの金属メッシュであっても良い。
【0054】
グラフェン薄膜131を金属電極上に転写した後、グラフェン薄膜131上に残存するメタクリル樹脂を除去するために、アセトン溶液に浸してから取り出して乾燥した後、10-5Torr以下の真空雰囲気下において300℃の熱処理を進めると、安定的にグラフェン薄膜が転写されたゲート電極130を製作することができる(8,9)。さらに、
図11に示すように、ゲート電極130は、アレイ配列されて行列制御が可能な大面積ゲート電極に製作されても良い。ここで、ゲート電極は、2つの金属電極の間に一層又は複数層のグラフェン薄膜を挿入して製作しても良い。
【0055】
少なくとも一層以上のグラフェン薄膜を利用して製造されたゲート電極は、電界が均一に印加されることができるので、電子ビームの直進性が向上し、グラフェンが原子スケールのメッシュであるので、電子ビームの透過効率が増加し、熱伝逹効率が非常に優れたグラフェンにより、電子ビームの衝突によって発生する熱を効果的に分散させることができるので、ゲート電極自体の熱的安全性が向上することができる。
【0056】
一方、集束レンズは、ゲート電極と同様に、金属平板や金属メッシュに一層又は複数層のグラフェンを転写することで製作されるか、2つの集束レンズに少なくとも1つ以上のグラフェン薄膜を挟んで製作されても良い。
【0057】
このように、本発明の一実施例に係るX線源装置及びその制御方法は、CNT薄膜を利用した冷陰極電子放出源を使用し、透過型のアノード電極を通じて面光源の形態のX線を被写体に照射することができ、CNTエミッタから発生する電子ビームを行列制御で駆動することによって、被写体の位置別に最適化されたX線線量を照射することができる。
【0058】
上述した本発明の実施例に係るX線源の製造方法及びX線源装置により具現される行列制御方法は、コンピュータにより実行されるプログラムモジュールのようなコンピュータにより実行可能な命令語を含む記録媒体の形態に具現されても良い。このような記録媒体は、コンピュータ読み取り可能な媒体を含み、コンピュータ読み取り可能な媒体は、コンピュータによってアクセスできる任意の可用媒体であっても良く、揮発性及び不揮発性の媒体、分離型及び非分離型の媒体を全て含む。また、コンピュータ読み取り可能な媒体は、コンピュータ格納媒体を含み、コンピュータ格納媒体は、コンピュータ読み取り可能な命令語、データ構造、プログラムモジュール、又はその他のデータのような情報格納のための任意の方法又は技術で具現された揮発性及び不揮発性、分離型及び非分離型の媒体を全て含む。
【0059】
上述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に容易に変形可能であるということを理解できるはずである。それゆえ、上記した実施例は全ての面において例示的なものであり、限定的なものではないと理解すべきである。例えば、単一型で説明されている各構成要素は分散して実施されても良く、同様に、分散したものと説明されている構成要素も結合された形態で実施されても良い。
【0060】
また、本発明の方法及びシステムは、特定の実施例と係わって説明されたが、これらの構成要素や動作の一部又は全部は、汎用のハードウェアアキテクチャを有するコンピュータシステムを使用して具現されても良い。
【0061】
本発明の範囲は、詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導出される全ての変更又は変形された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されなければならない。