(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】レジスト残渣除去液及びこれを用いる導体パターン付き基板材の形成方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/32 20060101AFI20231222BHJP
G03F 7/40 20060101ALI20231222BHJP
G03F 7/42 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
G03F7/32 501
G03F7/40 521
G03F7/42
(21)【出願番号】P 2022524038
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2021026008
(87)【国際公開番号】W WO2022162972
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2021013549
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593174641
【氏名又は名称】メルテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】服部 奈々
(72)【発明者】
【氏名】近藤 厚
(72)【発明者】
【氏名】希代 誠
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-181814(JP,A)
【文献】特開2010-256849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/32
G03F 7/40
G03F 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路形成用のネガ型のドライフィルムフォトレジスト材の現像後に用いるレジスト残渣除去液であって、
当該レジスト残渣除去液の成分は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群から選択される一種又は二種以上の環状オリゴマーが0.01質量%~20質量%、残部は水であり、
当該レジスト残渣除去液を用いることにより、レジスト残渣であるレジストパターン側面のレジスト裾引き部の裾引き量
を0.2μm以下
とするために用いることを特徴とするレジスト残渣除去液。
【請求項2】
回路形成用のネガ型のドライフィルムフォトレジスト材の現像後に用いるレジスト残渣除去液であって、
当該レジスト残渣除去液の成分は、18-クラウン-6-エーテルである環状オリゴマーが0.01質量%~5質量%、残部は水であり、
当該レジスト残渣除去液を用いることにより、レジスト残渣であるレジストパターン側面のレジスト裾引き部の裾引き量
を0.2μm以下
とするために用いることを特徴とするレジスト残渣除去液。
【請求項3】
アルカリ成分を0.001質量%~1質量%含む請求項1又は請求項2に記載のレジスト残渣除去液。
【請求項4】
前記アルカリ成分は、炭酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウム及び水酸化ナトリウムからなる群から選択される一種又は二種以上である請求項3に記載のレジスト残渣除去液。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載のレジスト残渣除去液を用いる導体パターン付き基板材の形成方法であって、
以下の工程A~工程Cを含むことを特徴とする導体パターン付き基板材の形成方法。
工程A: 基板材の表面にレジストパターンを施してレジストパターン付き基板材を得たのち、該表面を該レジスト残渣除去液と接触させて処理するレジスト残渣除去工程。
工程B: 工程Aで得たレジストパターン付き基板材の表面に無電解めっきを施して金属皮膜付き基板材を得る無電解めっき工程。
工程C: 工程Bで得た金属皮膜付き基板材の表面からレジストパターンを除去して金属皮膜からなる導体パターン付き基板材を得るレジスト除去工程。
【請求項6】
前記工程Aは、前記レジスト残渣除去液による処理をスプレー噴霧により行う請求項5に記載の導体パターン
付き基板材の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、レジスト残渣除去液及びこれを用いる導体パターン付き基板材の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線板の回路形成工程等において、基板材上にドライフィルムフォトレジスト(以下、ドライフィルムレジストと称する。)を配置して露光及び現像を行い、基板材上にレジストパターンを形成し、当該レジストパターンを用いて導体パターンを形成する方法が行われている。
【0003】
この現像工程において、ネガ型のドライフィルムレジストの場合、露光部のフォトレジスト材が現像液を吸収して膨潤し、レジストパターン間にブリッジ部ができることがある。そして、これを回避する目的で現像工程の処理時間を短くすると、フォトレジスト材の未露光部に現像残りが生じる場合がある。その結果、レジストパターンの側面に意図しないレジスト裾引き部が生じたり、基板材上の未露光部にフォトレジスト材が残存するなどして、レジスト残渣(スカムとも称される。)が発生する。基板材上にこのようなレジスト残渣があると、フォトレジストの解像度が低下して導体パターンの高精細化を妨げることになる。また、導体パターンの側面下部において、導体パターン底面と基板材表面との間に隙間(アンダーカット部)が生じて導体パターンの密着性が低下し、製品の信頼性に影響を与えるおそれがある。
【0004】
そこで、基板材上からレジスト残渣を除去する簡便な方法として、レジスト残渣除去液を用いたウエットプロセスが提案されている。例えば、特許文献1には、メルカプト基又は亜硫酸基を有する還元剤及びアニオン性界面活性剤よりなる群から選ばれる化合物を有効成分として含有するレジスト残渣除去液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
しかし、特許文献1のレジスト残渣除去液を用いてレジスト裾引き部等のレジスト残渣を除去する処理を行うと、目的とする部分が除去できていない場合があり、市場要求に合わない製品が生じるという不具合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件出願に係る発明は、回路形成用のフォトレジスト材の現像工程で生じるレジスト裾引き部等のレジスト残渣を安定的かつ良好に除去することが可能なレジスト残渣除去液、及びこのレジスト残渣除去液を用いる導体パターン付き基板材の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
A.本件出願に係るレジスト残渣除去液
本件出願に係るレジスト残渣除去液は、回路形成用のフォトレジスト材の現像後に用いるものであって、環状オリゴマーが0.01質量%以上、残部は水の組成を備える。
【0009】
本件出願に係るレジスト残渣除去液において、前記環状オリゴマーは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群から選択される一種又は二種以上であることが好ましい。
【0010】
本件出願に係るレジスト残渣除去液において、前記環状オリゴマーは、12-クラウン-4-エーテル、15-クラウン-5-エーテル、18-クラウン-6-エーテル、24-クラウン-8-エーテル、カリックス[4]アレーン、カリックス[6]アレーン及びカリックス[8]アレーンからなる群から選択される一種又は二種以上であることが好ましい。
【0011】
本件出願に係るレジスト残渣除去液は、アルカリ成分を0.001質量%~1質量%含むことが好ましい。
【0012】
本件出願に係るレジスト残渣除去液において、前記アルカリ成分は、炭酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウム及び水酸化ナトリウムからなる群から選択される一種又は二種以上であることが好ましい。
【0013】
B.本件出願に係るレジスト残渣除去液を用いる導体パターン付き基板材の形成方法
本件出願に係る導体パターン付き基板材の形成方法は、上述のレジスト残渣除去液を用いる方法であって、以下の工程A~工程Cを含むことを特徴とする。
工程A: 基板材の表面にレジストパターンを施してレジストパターン付き基板材を得たのち、該表面を該レジスト残渣除去液と接触させて処理するレジスト残渣除去工程。
工程B: 工程Aで得たレジストパターン付き基板材の表面に無電解めっきを施して金属皮膜付き基板材を得る無電解めっき工程。
工程C: 工程Bで得た金属皮膜付き基板材の表面からレジストパターンを除去して金属皮膜からなる導体パターン付き基板材を得るレジスト除去工程。
【0014】
本件出願に係る導体パターン付き基板材の形成方法において、前記工程Aは、前記レジスト残渣除去液による処理をスプレー噴霧により行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本件出願に係る発明によれば、回路形成用のフォトレジスト材の現像工程で生じるレジスト裾引き部等のレジスト残渣を安定的かつ良好に除去することが可能なレジスト残渣除去液を提供することができる。そして、このレジスト残渣除去液を用いることにより、アンダーカット部が極めて発生しにくい導体パターン付き基板材の形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)及び(B)は、本件出願のレジスト残渣除去液を用いた実施例2における基板材上のレジストパターンの電子顕微鏡観察像である。
【
図2】(A)及び(B)は、レジスト残渣除去液を用いない比較例1における基板材上のレジストパターンの電子顕微鏡観察像である。
【
図3】(A)及び(B)は、レジスト残渣除去液として公知浴を用いた比較例2における基板材上のレジストパターンの電子顕微鏡観察像である。
【
図4】(A)~(E)は、本件出願のレジスト残渣除去液を用いた実施例2及び実施例5~実施例8における基板材上の導体パターンの電子顕微鏡観察像である。
【
図5】(A)~(C)は、レジスト残渣除去液を用いない比較例1と、レジスト残渣除去液として公知浴を用いた比較例3及び比較例4とにおける基板材上の導体パターンの電子顕微鏡観察像である。
【
図6】実施例及び比較例におけるドライフィルムレジストの裾引き量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.本件出願に係るレジスト残渣除去液の形態
本件出願に係るレジスト残渣除去液は、基本的に環状オリゴマー及び水の組成を備える。以下では、このレジスト残渣除去液について、主としてネガ型のドライフィルムレジストを用いた場合を想定して説明する。本件出願において、レジスト残渣とは、プリント配線板の回路形成工程におけるフォトレジスト材の現像工程で生じる、レジストパターン側面のレジスト裾引き部、レジストパターン表面上の未硬化のレジスト付着物及び、基板材上の未露光部のレジスト付着物といった意図しないレジスト残存物をいう。また、レジスト残渣除去液とは、現像工程後に基板材上に残存する当該レジスト残渣を除去するための薬液をいう。このレジスト残渣除去液が上述の成分を含むものであると、フォトレジスト材の現像工程で生じるレジスト裾引き部等のレジスト残渣を安定的かつ良好に除去することができる。
【0018】
A-1.環状オリゴマー
本件出願のレジスト残渣除去液が含有する環状オリゴマーは、回路形成用のフォトレジスト材の現像工程で生じるレジスト残渣を除去するための主剤である。この環状オリゴマーの種類に特段の制限はない。
【0019】
ここで、上述の環状オリゴマーとして、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、カリックスアレーン類が挙げられる。以下ではまず、環状オリゴマーにシクロデキストリンを用いる場合について説明する。シクロデキストリンは、工業的に広く用いられる物質であって、代表的には結合するブドウ糖の数によってα(6量体)、β(7量体)、γ(8量体)の三種類が存在する。本件出願のレジスト残渣除去液に用いるシクロデキストリンの種類には、特段の制限はない。そのため、本件出願のレジスト残渣除去液は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリン等のいずれかのシクロデキストリンのうち少なくとも一つを含有していればよい。
【0020】
また、本件出願のレジスト残渣除去液が含有する環状オリゴマーであるシクロデキストリンは、β又はγのシクロデキストリンであることが好ましく、β-シクロデキストリンであることがより好ましい。β又はγのシクロデキストリンを含有するレジスト残渣除去液であれば、より安定的に再現性良くレジスト残渣を除去することができ、また、β-シクロデキストリンを含有するレジスト残渣除去液であれば、最も安定的に当該効果を得ることができるためである。
【0021】
そして、このシクロデキストリンの含有量は、0.01質量%以上であることが好ましい。シクロデキストリンの含有量が0.01質量%未満であると、現像工程で生じるレジスト残渣を安定的に除去できない傾向にあるため好ましくない。シクロデキストリンの含有量の上限値に特段の制限はないが、溶媒である水への溶解度を超えても、レジスト残渣除去性能が向上するものでもなく、単なる資源の無駄となるため好ましくない。そのため、実験的にみれば、本件出願のレジスト残渣除去液が、シクロデキストリンを20質量%を超えて含有していても仕方がないと理解できる。ただし、これらの数値は、不可避不純物を含まないものとして記載している。
【0022】
次に、環状オリゴマーにクラウンエーテル、カリックスアレーンを用いる場合について説明する。本件出願のレジスト残渣除去液に用いるクラウンエーテル、カリックスアレーンの種類には、特段の制限はない。そのため、工業的に入手が容易な12-クラウン-4-エーテル、15-クラウン-5-エーテル、18-クラウン-6-エーテル、24-クラウン-8-エーテル、カリックス[4]アレーン、カリックス[6]アレーン及びカリックス[8]アレーン等の化合物のうち少なくとも一つを含有していればよい
【0023】
また、上述の環状オリゴマーとしてクラウンエーテルを採用する場合は、18-クラウン-6-エーテルであることが好ましい。18-クラウン-6-エーテルは比較的安価であるためコスト面で優れていると共に、当該物質を含有するレジスト残渣除去液は、より安定的に再現性良くレジスト残渣を除去することができるためである。
【0024】
そして、クラウンエーテルの含有量は、0.01質量%~5質量%であることが好ましい。クラウンエーテルの含有量が0.01質量%未満であると、現像工程で生じるレジスト残渣を安定的に除去できない傾向にあるため好ましくない。クラウンエーテルの含有量の上限値については、上述のシクロデキストリンと同様に特段の制限はないものの、含有量が5質量%を超えると、溶媒である水に対する溶解度を超過する一方でレジスト残渣除去性能が向上するものでもなく、単なる資源の無駄となるため好ましくない。ただし、これらの数値は、不可避不純物を含まないものとして記載している。
【0025】
カリックスアレーンの含有量は、0.01質量%~5質量%であることが好ましい。カリックスアレーンの含有量が0.01質量%未満であると、現像工程で生じるレジスト残渣を安定的に除去できない傾向にあるため好ましくない。カリックスアレーンの含有量の上限値については、上述のシクロデキストリンと同様に特段の制限はないものの、含有量が5質量%を超えると、溶媒である水に対する溶解度を超過する一方でレジスト残渣除去性能が向上するものでもなく、単なる資源の無駄となるため好ましくない。ただし、これらの数値は、不可避不純物を含まないものとして記載している。
【0026】
A-2.アルカリ成分
本件出願のレジスト残渣除去液は、アルカリ成分を含有してもよい。回路基板形成用のフォトレジスト材の現像工程で用いる現像剤液には、炭酸ナトリウム等のアルカリ成分が主剤として用いられている。このアルカリ成分が、基板材上に残存するなどしてレジスト残渣除去工程に持ち込まれると、当該工程の処理溶液中に、このアルカリ成分が混入し、処理溶液であるレジスト残渣除去液のpHが変動して安定的に処理を行うことが困難になる。そのため、レジスト残渣除去液が上述のアルカリ成分を予め含むものであると、レジスト残渣除去工程時に、レジスト残渣除去液のpH変動を抑制することができ、より安定的かつ良好にレジスト残渣除去効果を得ることができる。
【0027】
ここで、上述のアルカリ成分として、現像剤液の主剤として公知である炭酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。本件出願のレジスト残渣除去液がアルカリ成分を含有する場合、これらのアルカリ化合物のうち少なくとも一種を含有していればよい。そして、このアルカリ成分の含有量は、0.001質量%~1質量%であることが好ましい。アルカリ成分の含有量が0.001質量%未満であると、処理溶液のpH変動を抑制する効果が得られないため好ましくない。一方、アルカリ成分の含有量が1質量%を超えると、レジストパターンに対する意図しない浸食がおこる傾向にあり、レジスト残渣除去性能も向上しないため好ましくない。ただし、これらの数値は、不可避不純物を含まないものとして記載している。
【0028】
A-3.レジスト残渣除去液の調製方法
本件出願に係るレジスト残渣除去液の調製方法について、簡単に説明する。本件出願のレジスト残渣除去液は、従来公知の方法を用いて調製すればよい。例えば、溶媒である水にシクロデキストリン等の環状オリゴマーを接触させ、攪拌器等を用いて攪拌を行い溶解して得ることができる。ここで、レジスト残渣除去液の調製に際し、必要に応じて予め当該レジスト残渣除去液に消泡剤等を加えることもできる。また、当該レジスト残渣除去液における水の温度は、シクロデキストリン等の環状オリゴマーの溶解促進等の目的で、室温又は60℃以下の温度とすることができる。
【0029】
B.本件出願に係るレジスト残渣除去液を用いる導体パターン付き基板材の形成方法の形態
本件出願に係る導体パターン付き基板材の形成方法は、上述のレジスト残渣除去液を用いる方法であって、以下の工程A~工程Cを含むものである。
【0030】
工程A: 基板材の表面にレジストパターンを施してレジストパターン付き基板材を得たのち、該表面を該レジスト残渣除去液と接触させて処理するレジスト残渣除去工程。
【0031】
ここで、上述の工程Aにおける、レジスト残渣除去液による基板材表面の処理方法としては、スプレー噴霧、浸漬等が挙げられる。このうちスプレー噴霧は、レジスト残渣除去液に基板材表面を接触させて静置又は揺動させる浸漬法と比べて、より精密なレジストパターン付き基板材表面に対しても隅々まで当該除去液を接触させることができるため好ましい。また、噴霧に用いるスプレー装置のノズルがスリット形状であると、より効率的に基板材表面にレジスト残渣除去液を接触させることができるため好ましい。
【0032】
そして、上述の工程Aにおける、レジスト残渣除去液による基板材表面の処理時間は、5秒間~10分間であることが好ましい。処理時間が5秒間より短いと、レジスト残渣除去効果が得られない傾向にあるため好ましくない。一方、処理時間が10分間を超えても、レジスト残渣除去性能が向上するものでもなく、製品の生産性を低下させる要因となるため好ましくない。更に、上述の工程Aにおけるレジスト残渣除去液の液温は、15℃~40℃であることが好ましい。液温が15℃より低いと、レジスト残渣除去性能が低下する傾向にあるため好ましくない。一方、液温が40℃を超えると、レジストパターンに対する意図しない浸食がおこる傾向にあり、レジスト残渣除去性能も向上しないため好ましくない。次に、工程B及び工程Cについて説明する。
【0033】
工程B: 上述の工程Aで得たレジストパターン付き基板材の表面に無電解めっきを施して金属皮膜付き基板材を得る無電解めっき工程。
工程C: 工程Bで得た金属皮膜付き基板材の表面からレジストパターンを除去して金属皮膜からなる導体パターン付き基板材を得るレジスト除去工程。
【0034】
上述の工程B及び工程Cには、公知の方法を採用すればよく、処理条件等に特段の制限はない。そのため、工程Bの無電解めっき処理は、基板材表面に市販の無電解銅めっき液等を浸漬等の方法で接触させて行えばよい。また、工程Cのレジストパターン除去処理は、基板材表面に市販のアルカリ性レジスト材除去液等をスプレー噴霧、浸漬等により接触させて行うことができる。
【0035】
以下に、本件出願に係る発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本件出願に係る発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
実施例1では、α-シクロデキストリンが0.1質量%、残部がイオン交換水であるレジスト残渣除去液(即ち、濃度0.1質量%のα-シクロデキストリン水溶液)を用いて以下の試験を行った。まず、エポキシ系樹脂からなる樹脂板の上に銅層を設けた基板材を用意し、当該基板材の上にネガ型のドライフィルムレジスト(ニッコー・マテリアルズ株式会社製のLDF525F、膜厚25μm)を配置した。このフォトレジスト材の上に試験回路パターン形成用のマスク基板を配置し、ダイレクト露光装置(株式会社オーク製作所製のFDi-3M)により水銀ランプのh線の光(波長405nm、光強度95mJ/cm2)を照射して露光を行った。次いで、この基板材上に30℃の現像剤液(濃度1質量%の炭酸ナトリウム水溶液)を0.15MPaで38秒間スプレー噴霧し、未露光部のフォトレジスト材を除去して現像を行った。
【0037】
次に、この現像後の基板材に対して、上述の成分を有するレジスト残渣除去液を室温且つ0.20MPaで60秒間スプレー噴霧した後水洗し、レジストパターンを表面に有する基板材を得た。なお、この水洗処理は、室温のイオン交換水を基板材に対して0.10MPaで60秒間スプレー噴霧して行った。また、上述の現像、レジスト残渣除去及び水洗の各工程で用いたスプレー装置には、スリット形状のノズルを有するものを使用した。
【0038】
続いて、上述のレジストパターン付き基板材を酸性脱脂剤(メルテックス株式会社製のメルプレートCL-2000)に浸漬した後水洗し、濃度10質量%の硫酸により酸洗浄を行った。この基板材を硫酸銅めっき液(メルテックス株式会社製のルーセントカパーPVF)に浸漬した後水洗し、銅皮膜を表面に有する基板材を得た。そして、この基板材をレジスト材除去液(メルテックス株式会社製のメルストリップDF-3850)に浸漬してレジストパターンを除去した後水洗し、導体パターンを表面に有する基板材を得た。
【実施例2】
【0039】
実施例2では、上述の実施例1のレジスト残渣除去液に替えて、β-シクロデキストリンが0.1質量%、残部がイオン交換水であるレジスト残渣除去液を用いて試験を行った。その他の試験条件は、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【実施例3】
【0040】
実施例3では、上述の実施例1のレジスト残渣除去液に替えて、γ-シクロデキストリンが0.1質量%、残部がイオン交換水であるレジスト残渣除去液を用いて試験を行った。その他の試験条件は、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【実施例4】
【0041】
実施例4では、上述の実施例1のレジスト残渣除去液に替えて、18-クラウン-6-エーテルが0.1質量%、残部がイオン交換水であるレジスト残渣除去液を用いて試験を行った。その他の試験条件は、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【実施例5】
【0042】
実施例5では、上述の実施例1のレジスト残渣除去液に替えて、α-シクロデキストリンが0.1質量%、炭酸ナトリウムが0.2質量%、残部がイオン交換水であるレジスト残渣除去液を用いて試験を行った。その他の試験条件は、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【実施例6】
【0043】
実施例6では、上述の実施例1のレジスト残渣除去液に替えて、β-シクロデキストリンが0.1質量%、炭酸ナトリウムが0.2質量%、残部がイオン交換水であるレジスト残渣除去液を用いて試験を行った。その他の試験条件は、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【実施例7】
【0044】
実施例7では、上述の実施例1のレジスト残渣除去液に替えて、γ-シクロデキストリンが0.1質量%、炭酸ナトリウムが0.2質量%、残部がイオン交換水であるレジスト残渣除去液を用いて試験を行った。その他の試験条件は、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【実施例8】
【0045】
実施例8では、上述の実施例1のレジスト残渣除去液に替えて、18-クラウン-6-エーテルが0.1質量%、炭酸ナトリウムが0.2質量%、残部がイオン交換水であるレジスト残渣除去液を用いて試験を行った。その他の試験条件は、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【比較例】
【0046】
[比較例1]
比較例1では、上述の実施例1における、レジスト残渣除去液の噴霧処理は実施せずに水洗し、試験を行った。その他の試験条件は、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【0047】
[比較例2]
比較例2では、上述の実施例1のレジスト残渣除去液に替えて、チオグリコール酸アンモニウム水溶液(濃度2g/L)からなるレジスト残渣除去液(上述の特許文献1の実施例3に記載の除去液)を用いて試験を行った。その他の試験条件は、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【0048】
[比較例3]
比較例3では、上述の実施例1のレジスト残渣除去液に替えて、L-システイン水溶液(濃度1.3g/L)からなるレジスト残渣除去液(上述の特許文献1の実施例7に記載の除去液)を用いて試験を行った。その他の試験条件は、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【0049】
[比較例4]
比較例4では、上述の実施例1のレジスト残渣除去液に替えて、硫酸マグネシウム水溶液(濃度1g/L)からなるレジスト残渣除去液を用いて試験を行った。その他の試験条件は、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【0050】
実施例及び比較例の試験条件について、理解を容易にするために、表1に各試験で用いたレジスト残渣除去液の内容及びその含有成分の濃度を示す。
【0051】
【0052】
<実施例と比較例との対比>
図1~
図3に、実施例及び比較例における基板材上のレジストパターンの電子顕微鏡観察像を示す。結果として、
図1に示す実施例2のレジストパターンは、側面のレジスト裾引き部や表面上の未硬化のレジスト付着物等のレジスト残渣がなく、目的とする形状かつ滑らかな表面を有するものであった。図示は省略するが、実施例1及び実施例3~実施例8のレジストパターンについても、実施例2と同様に、レジスト残渣のない良好な表面を有するものであることが、電子顕微鏡観察像から確認できた。一方、
図2に示す比較例1と、
図3に示す比較例2とは、レジスト裾引き部等のレジスト残渣が生じており、特に、比較例2は、レジストパターンの表面に凹凸部を有するものとなった。
【0053】
次に、
図4及び
図5として、実施例及び比較例における基板材上の導体パターンの電子顕微鏡観察像を示す。結果として、
図4の(A)に示す実施例2と、同図の(B)~(E)に示す実施例5~実施例8との導体パターンは、基板材表面と導体パターン底面との間に殆ど隙間が生じておらず、密着性及び製品の信頼性に優れるものであった。図示は省略するが、実施例1、実施例3及び実施例4の導体パターンについても、実施例2及び実施例5~実施例8と同様に、アンダーカット部が殆ど生じない密着性及び製品の信頼性に優れるものであることが、電子顕微鏡観察像から確認できた。一方、
図5の(A)に示す比較例1と、同図の(B)及び(C)に示す比較例3及び比較例4とは、基板材表面と導体パターン底面との間に、レジストパターンの側面に残存したレジスト裾引き部等に起因する浮きや隙間であるアンダーカット部が生じており、密着性及び製品の信頼性が低いものとなった。
【0054】
続いて、本件出願のレジスト残渣除去液が有するレジスト裾引き部等のレジスト残渣除去性能をより詳細に評価するために、上述の実施例1~実施例8及び比較例1~比較例4の条件で各3回試験を行い、ドライフィルムレジストの裾引き量及びその数値のばらつきを測定した。ここで、「ドライフィルムレジストの裾引き量」とは、電子顕微鏡観察像に基づき導体パターンの両側面から各々測定した、導体パターンと基板材表面との間に生じた隙間の長さ、即ち導体パターンにおけるアンダーカット部の長さである。
図6に、抜粋してその評価結果を示す。実施例2及び実施例5~実施例8の条件で形成した基板材上の導体パターンは、いずれもドライフィルムレジストの裾引き量が0.2μm以下と短く、試験ごとの数値のばらつきも小さかった。また、同様に行った上述の他の各試験で得た測定結果によれば、実施例1、実施例3及び実施例4の導体パターンについても、実施例2及び実施例5~実施例8と同様に、ドライフィルムレジストの裾引き量が0.2μm以下と短く、試験ごとの数値のばらつきも小さかった。一方、比較例1、比較例3及び比較例4の条件で形成した導体パターンは、ドライフィルムレジストの裾引き量が長く、試験ごとの数値のばらつきも大きかった。
【0055】
これらの結果から理解できるように、本件出願のレジスト残渣除去液は、フォトレジスト材の現像工程で生じるレジスト残渣を安定的かつ良好に除去することができた。そして、本件出願のレジスト残渣除去液を用いて現像工程後の基板材を処理することにより、導体パターンにアンダーカット部が極めて発生しにくく基板材表面との密着性及び製品の信頼性が高い導体パターン付き基板材を形成することができた。特に、β-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンを主剤とするレジスト残渣除去液を採用した実施例2、実施例3、実施例6及び実施例7は、レジスト残渣の除去と、密着性及び製品の信頼性が高い導体パターン付き基板材の形成とにおいて、より優れた効果を奏し、β-シクロデキストリンを主剤とするレジスト残渣除去液を採用した実施例2及び実施例6は、これらの点において最も優れた効果を奏するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本件出願のレジスト残渣除去液は、フォトレジスト材の現像工程で生じるレジスト裾引き部等、不要な部分に残存するレジスト残渣を安定的かつ良好に除去することができるため、プリント配線基板の回路形成の精度を飛躍的に高めることができ、高品質の回路基板の提供を可能とする。