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特許7407508心房拡大又はリモデリングを特徴とする疾患を治療するためのNEP阻害剤
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  • 特許-心房拡大又はリモデリングを特徴とする疾患を治療するためのNEP阻害剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】心房拡大又はリモデリングを特徴とする疾患を治療するためのNEP阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/216 20060101AFI20231222BHJP
   A61K 31/41 20060101ALI20231222BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231222BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20231222BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20231222BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231222BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20231222BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
A61K31/216
A61K31/41
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/06
A61P9/10
A61P9/12
A61P43/00 121
A61P43/00 123
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018228452
(22)【出願日】2018-12-05
(62)【分割の表示】P 2015527922の分割
【原出願日】2013-08-22
(65)【公開番号】P2019069954
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2018-12-28
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】61/692,911
(32)【優先日】2012-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】シューマッハー,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ホルブロ,トーマス
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】藤原 浩子
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/027237(WO,A1)
【文献】Pharmacology & Therapeutics, 2012, Vol.135, p.1-17,2012年 7月
【文献】Drugs of the Future, 2011, Vol.36(3), p.183-190
【文献】Circulation,2010,122,「抄録19378」,インターネット<<https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/circ.122.suppl_21.a19378>>
【文献】心臓,2009,Vol.41,No.12,p.1308-1313
【文献】Vascular Health and Risk Management,2010,Vol.6,p.411-418
【文献】The European Journal of Heart Failure,2004, Vol.6,p.295-300
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者のニューヨーク心臓協会(NYHA)分類における改善、安定化又は悪化遅延のために用いられる医薬組成物であって、N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル及びバルサルタンを1:1のモル比で含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記医薬組成物が、前記患者のNYHA分類を改善するためのものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物の患者への投与が、該患者において血漿NT-proBNP濃度の持続的低下を引き起こす、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物が、N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル及びバルサルタンを、1:1のモル比で、50mg、100mg、200mg又は400mgの用量で含む、請求項1からのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物が、N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル及びバルサルタンを、1:1のモル比で、1日当たり50mg、100mg、200mg又は400mgの合計用量で投与するように用いられる、請求項1からのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物が、N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル及びバルサルタンを1:1のモル比で、LCZ696、すなわち[3-((1S,3R)-1-ビフェニル-4-イルメチル-3-エトキシカルボニル-1-ブチルカルバモイル)プロピオネート-(S)-3’-メチル-2’-(ペンタノイル{2’’-(テトラゾール-5-イレート)ビフェニル-4’-イルメチル}アミノ)酪酸]三ナトリウム2.5水和物の形態で含む、請求項1からのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化又は悪化遅延のための医薬の製造のための、N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル及びバルサルタンの1:1のモル比での使用。
【請求項8】
前記医薬が、前記患者のNYHA分類を改善するためのものである、請求項に記載の使用。
【請求項9】
前記医薬の患者への投与が、該患者において血漿NT-proBNP濃度の持続的低下を引き起こす、請求項7又は8に記載の使用。
【請求項10】
前記医薬が、N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル及びバルサルタンを、1:1のモル比で、50mg、100mg、200mg又は400mgの用量で含む、請求項からのいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記医薬が、N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル及びバルサルタンを、1:1のモル比で、1日当たり50mg、100mg、200mg又は400mgの合計用量で投与するように用いられる、請求項から10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記医薬が、N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル及びバルサルタンを1:1のモル比で、LCZ696、すなわち[3-((1S,3R)-1-ビフェニル-4-イルメチル-3-エトキシカルボニル-1-ブチルカルバモイル)プロピオネート-(S)-3’-メチル-2’-(ペンタノイル{2’’-(テトラゾール-5-イレート)ビフェニル-4’-イルメチル}アミノ)酪酸]三ナトリウム2.5水和物の形態で含む、請求項から11のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患の治療、予防、又はその
進行遅延における使用のための、NEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-
オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-
メチルブタン酸エチルエステル若しくは医薬的に許容されるその塩;又はNEP阻害剤N
-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)
-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、若しくは医薬的に許容されるその塩、プロド
ラッグ;心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患を治療し、予防し、又はその
進行を遅延させる方法であって、治療上有効な量、又は予防上有効な量のNEP阻害剤、
又はNEP阻害剤プロドラッグ、又は医薬的に許容されるその塩、プロドラッグを、かか
る治療を必要とする対象、例えばヒト対象等に投与するステップを含む、方法に関する。
本発明は、更に、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患の治療、予防、又は
その進行遅延で用いられるNEP阻害剤、又はNEP阻害剤プロドラッグ、又は医薬的に
許容されるその塩、プロドラッグを含む医薬組成物又は商用パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
心血管系(CV)疾患は、欧米世界における主たる死亡原因である。CV疾患の増加は
、死亡率の増加だけでなく、CV疾病率の増加も引き起こした。CV疾病状態の主要な1
形態として、心不全(HF)が挙げられる。HFは、高い死亡率、高頻度の入院、劣悪な
生活の質、及び複雑な治療計画により特徴付けられる複雑な臨床症候群である。米国単独
では、約5百万人がHFに罹患し、また年間推定400,000例の新規診断症例を認め
る(American Heart Association、2006年、Heart Disease and Stroke Statistics、200
6年最新版、Dallas、Texas)。HFは、すべての形態の癌を足し合わせた場合よりも多く
の入院と関係し、また65歳より高齢の患者が入院する主たる原因である(American Hea
rt Association、2006年、Heart Disease and Stroke Statistics、2006年最新版、Dalla
s、Texas; Adamsら、2006年、J Cardiac Fail、第12巻(1):10~38頁)。薬理学的療法及
びデバイス療法が進歩しているにもかかわらず、院内死亡率は非常に高く、また再入院は
悲惨なほど一般的である。年々増加する入院に対してこのようなニーズが生じ、その結果
直接費が莫大となり、その他のあらゆるメディケア診断よりもHFのメディケア診断及び
治療に毎年多くの経費が費やされている(American Heart Association、2006年、Heart
Disease and Stroke Statistics、2006年最新版、Dallas、Texas; Adamsら、2006年、J C
ardiac Fail、第12巻(1):10~38頁)。HFは、駆出率低下型HF(HF with reduced eje
ction fraction)(HF-REF)と駆出率保持型HF(HF with preserved ejection f
raction)(HF-PEF)として分類される。
【0003】
HF-REFの転帰改善を目標とする療法が、過去20年にわたり十分に研究されてお
り、疾病率の改善を実現したが、その多くはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤
、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)及びβ遮断薬によるHF-REF再入院の機
会減少の形態であった。(Cohnら、1991年、N Engl J Med、第325巻:303~310頁; Pfeffe
rら、2003年、Lancet、第362巻:759~766頁; The CONSENSUS Trial Study Group、1987年
、N Engl J Med、第316巻:1429~1435頁; The SOLVD Investigators、1992年、N Engl J
Med、第327巻:685~691頁; The SOLVD Investigators、1991年、N Engl J Med、第325巻:
293~302頁; Packerら、2002年、Circulation、第106巻: 2194~2199頁)。
【0004】
しかし、様々な療法が利用可能であるにもかかわらず、HFによる死亡は着実に増え続
けている。この増加は、母集団の老化、及び例えば心筋梗塞等の基礎疾患の生存率の向上
に起因し、その結果HFの罹病率が増加すると共に、HF患者の寿命延長を可能にするよ
り多くの治療選択肢が利用可能となった(American Heart Association、2006年、Heart
Disease and Stroke Statistics、2006年最新版、Dallas、Texas)。
【0005】
HFと診断された患者のうち35%~60%は、左室駆出率(LVEF)が正常又はほ
ぼ正常であると見積もられている(ACC/AHA Guideline、2005年、Circulation、第112巻:
1825~1852頁)。駆出率保持型HF(HF-PEF)の患者では、心弛緩障害が認められ
、心室充満の異常を引き起こす(Adamsら、2006年、J Cardiac Fail、第12巻(1):10~38
頁)。かかる患者は、いくつかの重要な経路において駆出率低下型HF(HF-REF)
の患者とは異なる。HF-PEFの患者は、高齢者及び女性である傾向があり、またかか
る患者の状態は、虚血よりはむしろ高血圧症と関連する可能性がより高く、また駆出率低
下型の患者と比較して、心筋梗塞の既往を認める患者の割合はより低い(Bhatiaら、2006
年、N Engl J Med、第355巻:260~290頁)。
【0006】
HF-PEFと関わる病態生理学的機構として、駆出率が比較的保持されているにもか
かわらず、異常な拡張機能障害とこれに起因する心室充満圧の上昇、心房拡大、血管硬直
度の増加、及び収縮機能の異常が挙げられる。
【0007】
大部分の患者で、左室肥大又は求心性リモデリング及び左房拡大が認められる。更に、
左房サイズ及び左室心筋重量は、非依存的に疾病率及び死亡率のリスク増加と関連する。
したがって、構造的リモデリングが存在すると、それは診断上の重要性を有するだけでな
く、重要な予後の見通しも提供する(Zileら、2011年、Circulation、第124巻(23):2491
~501頁)。こうしたことから、左房のリモデリングは、心不全を特徴付ける左室充満圧
の上昇を示唆するだけでなく、心房細動の基層として機能する。心腔のリモデリングに影
響を及ぼす、又は低減さえも引き起こす治療が、原因となっている病態生理に対処する、
したがって疾患の進行を防止することが期待される。
【0008】
心房細動(AF)は、心不全(HF)患者における最も一般的な不整脈である。その有
病率はHFの重症度が高まるに従い増加し、その発症は症状の悪化及び疾病率の増加と多
くの場合関連した。
【0009】
レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(RAAS)は、HF-PEFと関連し
た多くのプロセスに関わっているので、RAS系の阻害剤は、このような患者のための治
療介入の候補として特に興味深い。しかし、最近完了したいくつかの大規模な前方視的臨
床試験(PEP-CHF、CHARM-Preserved、及びI-PRESERVE
試験)では、そのような薬剤は低下型EFの患者で好ましい効果を示したものの、RAA
Sを遮断しても、この母集団の死亡率及び疾病率の改善について有意なベネフィットは実
証されなかった(Clelandら、2006年、Eur J Heart Failure、第8巻: 105~110頁; Yusse
fら、2003年、Lancet、第362巻:777~781頁; Massieら、2008年、N Engl J Med.、第359
巻(23):2456~67頁)。
【0010】
その結果、今日まで、HF-PEF母集団について、証明済みの薬理学的療法は存在し
ない。したがって、心不全治療のための多くのガイドラインでは、この患者群は対象外で
ある(American Heart Association、2006年、Heart Disease and Stroke Statistics、2
006年最新版、Dallas、Texas; ESC Guideline、2008年、Eur Heart J、第29巻:2388~244
2頁)。むしろ、治療選択肢として、高血圧症又は糖尿病等の併存症を治療することに重
点が置かれてきた。ごく最近、2013年に、米国心臓協会は、HF-PEF患者の入院
を低減するために、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)の投与を検討の対象に加え
た。
【0011】
したがって、HF患者、特に駆出率保持型のHF患者(HF-PEF)において緩和又
は少なくとも改善を確実にもたらす新規治療選択肢を提供することは極めて有利である。
【発明の概要】
【0012】
発明の要旨
驚くべきことに、NEP(中性エンドペプチダーゼ、3.4.24.11)阻害剤又は
医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグを、駆出率保持型の
心不全患者(HF-PEF)に投与すると、左房容量、左房容量インデックス(LAVI
)及び左房径が低下することが証明された。
【0013】
したがって、本発明は、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈す
る疾患の治療、予防、又はその進行遅延で用いられるNEP阻害剤、又は医薬的に許容さ
れるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグを提供する。
【0014】
心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患に罹患した患者の
左房容量、左房容量インデックス(LAVI)、及び/又は左房径を低下させる際に用い
られるNEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロド
ラッグも提供される。
【0015】
心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患として、駆出率保持型心不全(HF
-PEF)、駆出率低下型心不全(HF-REF)、心房細動、新規発現型心房細動及び
再発性心房細動を含む心律動異常;僧帽弁の狭窄及び逆流、心筋症、高血圧症、又は肺性
心疾患が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0016】
1つの実施形態では、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患として、駆出
率保持型心不全(HF-PEF)、心房細動、新規発現型心房細動及び再発性心房細動等
の心律動異常、僧帽弁逆流、心臓肥大、心筋症、又は肺性心疾患が挙げられるが、但しこ
れらに限定されない。
【0017】
また、心不全に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪化遅延で用
いられるNEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロ
ドラッグも提供される。
【0018】
1つの実施形態では、前記心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PE
F)又は駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患した患者である。1つの実施形態で
は、前記心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者
である。
【0019】
本発明の別の態様では、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈す
る疾患の治療、予防、又はその進行遅延で用いられるNEP阻害剤、又は医薬的に許容さ
れるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグを含む医薬組成物が提供される。
【0020】
別の態様では、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患を
治療し、予防し又はその進行を遅延させる方法であって、かかる治療を必要とする対象、
例えばヒト対象に、治療上有効な量又は予防上有効な量のNEP阻害剤、又は医薬的に許
容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグを投与するステップを含む、方
法も提供される。
【0021】
心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患に罹患した患者の
左房容量、左房容量インデックス(LAVI)、及び/又は左房径を低下させる方法であ
って、かかる治療を必要とする対象、例えばヒトに、治療上有効な量のNEP阻害剤、又
は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグを投与するステッ
プを含む、方法も提供される。
【0022】
心不全に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪化遅延のための方
法であって、かかる治療を必要とする対象、例えばヒトに、治療上有効な量のNEP阻害
剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグを投与する
ステップを含む、方法も提供される。1つの実施形態では、前記心不全に罹患した患者は
、駆出率保持型心不全(HF-PEF)又は駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患
した患者である。1つの実施形態では、前記心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不
全(HF-PEF)に罹患した患者である。
【0023】
更なる態様では、本発明は、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は
呈する疾患を治療し、予防し、又はその進行を遅延させるための医薬を製造するための、
NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ
の使用を提供する。
【0024】
以下に示す1つ又は複数の目的に応じた医薬を製造するための、NEP阻害剤、又は医
薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグの使用も提供する:
(a)心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患に罹患した
患者の左房容量、左房容量インデックス(LAVI)、及び/又は左房径の低下、
(b)心不全に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪化遅延、
(c)心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患に罹患した
患者における心房細動の治療又は予防、又は心房細動の新規発現予防又は新規発現までの
時間遅延、
(d)心房細動の病歴を有さない患者の治療であって、ここで、NEP阻害剤プロドラ
ッグ又はNEP阻害剤が心房細動の新規発現までの時間を遅延させる、治療。
【0025】
心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患として、駆出率保持型心不全(HF
-PEF)、駆出率低下型心不全(HF-REF)、心房細動、新規発現型心房細動及び
再発性心房細動を含む心律動異常;僧帽弁の狭窄及び逆流、心筋症、高血圧症、又は肺性
心疾患が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0026】
1つの実施形態では、前記心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PE
F)又は駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患した患者である。1つの実施形態で
は、前記心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者
である。
【0027】
NEP阻害剤プロドラッグは、好ましくは、N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピ
ル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン
酸エチルエステル、又は医薬的に許容されるその塩であり、及びNEP阻害剤は、好まし
くは、N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニル
メチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩であ
る。
【0028】
本発明の1つの態様では、NEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤は、バルサルタ
ン又は医薬的に許容されるその塩等のアンジオテンシン受容体遮断薬ですでに治療された
ことのある患者に投与される。
【0029】
本発明の別の態様では、NEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤は、アンジオテン
シン受容体遮断薬のバルサルタン又は医薬的に許容されるその塩と同時に又は逐次的に、
共に投与される(administered together, concomitantly or sequentially)。
【0030】
本発明がやはり実現するものとして、LCZ696、すなわち[3-((1S,3R)
-1-ビフェニル-4-イルメチル-3-エトキシカルボニル-1-ブチルカルバモイル
)プロピオネート-(S)-3’-メチル-2’-(ペンタノイル{2’’-(テトラゾ
ール-5-イレート)ビフェニル-4’-イルメチル}アミノ)酪酸]三ナトリウム2.
5水和物(hemipentahydrate)の形態による、NEP阻害剤プロドラッグの投与も挙げら
れる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、LCZ696とバルサルタンの治療群について、そのNYHA及び臨床的複合評価(Clinical Composite assessment)における変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
NEP阻害剤の使用又はNEP阻害剤の用途
本発明は、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患の治療
、予防、又はその進行遅延における使用のための、NEP阻害剤、又は医薬的に許容され
るその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッ
グN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチ
ル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(
3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4
-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩に関する。
【0033】
本発明はまた、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患に
罹患した患者の、左房容量、左房容量インデックス(LAVI)、及び/又は左房径の低
下における使用のための、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステ
ル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ
-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2
R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オ
キソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メ
チルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩に関する。
【0034】
本発明はまた、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患の
治療、予防、又はその進行遅延における使用のための、NEP阻害剤、又は医薬的に許容
されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロド
ラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニル
メチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル又はNEP阻害剤N-
(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-
4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩であって、当該
疾患の治療、予防、又はその進行遅延は、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする
及び/又は呈する疾患に罹患した患者における左房容量、左房容量インデックス(LAV
I)、及び/又は左房径の低下を特徴とする、ものに関する。
【0035】
心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患として、駆出率保持型心不全(HF
-PEF)、駆出率低下型心不全(HF-REF)、心房細動、新規発現型心房細動及び
再発性心房細動を含む心律動異常;僧帽弁の狭窄及び逆流、心筋症、高血圧症、又は肺性
心疾患が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0036】
1つの実施形態では、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患として、駆出
率保持型心不全(HF-PEF)、心房細動、新規発現型心房細動及び再発性心房細動等
の心律動異常、僧帽弁逆流、心臓肥大、心筋症、又は肺性心疾患が挙げられるが、但しこ
れらに限定されない。
【0037】
本発明の1つの実施形態では、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又
は呈する疾患は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)である。
【0038】
本発明の別の実施形態では、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は
呈する疾患は、駆出率低下型心不全(HF-REF)である。
【0039】
本発明の1つの実施形態では、前記患者は、温血動物である。
【0040】
本発明の更なる実施形態では、前記温血動物は、ヒトである。
【0041】
更に、本発明は、心不全に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪
化遅延における使用のための、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエ
ステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボ
キシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-
(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1
-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)
-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩に関する。
【0042】
1つの実施形態では、心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)
又は駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患した患者である。1つの実施形態では、
心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者である。
【0043】
ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類では、心不全の症状について、その重症度を4
つの機能的クラスの1つとして等級化する。NYHA分類は、治療に対する反応を評価す
るのに利用可能、及びマネジメントの指針として利用可能である標準的な重症度の説明を
提供するので、臨床診療及び研究で幅広く用いられている。
【0044】
症状の重症度及び身体活動に基づくニューヨーク心臓協会心機能分類:
クラスI:身体活動に制限はない。日常の身体活動では過度の息切れ、疲労、又は動悸
を引き起こさない。
クラスII:身体活動に軽度の制限を有する。休息状態では快適だが、日常の身体活動
により、過度の息切れ、疲労、又は動悸が引き起こされる。
クラスIII:身体活動に顕著な制限を有する。休息状態では快適だが、日常の身体活
動に至らなくても、過度の息切れ、疲労、又は動悸が引き起こされる。
クラスIV:不快感を伴わずにあらゆる身体活動を行うことができない。休息状態でも
症状を認め得る。身体活動を行うと不快感が高まる。
【0045】
本発明の1つの実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくは
エステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カル
ボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ
-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩は、心房細動を治療若しくは予防す
るためのもの、又は心房細動の新規発現を予防若しくは新規発現までの時間を遅延させる
ためのものである。
【0046】
更なる実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル
、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキ
ソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチ
ルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩は、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴
とする及び/又は呈する疾患に罹患した患者において、心房細動を治療若しくは予防する
ためのもの、又は心房細動の新規発現を予防若しくは新規発現までの時間を遅延させるた
めのものである。
【0047】
別の実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、
又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1
-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)
-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソ
プロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチル
ブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩は、心不全に罹患した患者において、心房細動
を治療若しくは予防するためのもの、又は心房細動の新規発現を予防若しくは新規発現ま
での時間を遅延させるためのものである。1つの実施形態では、心不全に罹患した患者は
、駆出率保持型心不全(HF-PEF)又は駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患
した患者である。1つの実施形態では、心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(
HF-PEF)に罹患した患者である。
【0048】
本発明の1つの実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくは
エステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カル
ボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ
-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩は、心房細動の病歴を有さない駆出
率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者を治療するためのものである。
【0049】
本発明の1つの実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくは
エステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カル
ボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ
-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩は、心房細動の病歴を有さない駆出
率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者を治療するためのものであり、前記NE
P阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤は、心房細動の新規発現を予防し又は新規発現ま
での時間を遅延させる。
【0050】
本発明の1つの実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくは
エステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カル
ボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ
-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩は、心房細動の新規発現までの時間
遅延において、バルサルタン単独及び/又はエナラプリル単独投与よりも優れる。
【0051】
本発明の1つの実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくは
エステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カル
ボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ
-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩は、心不全、特に駆出率保持型心不
全等の心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患に罹患した患
者の血漿NT-proBNPのレベルを低下させるのに用いられるものである。
【0052】
本発明の別の実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエ
ステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボ
キシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-
(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1
-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)
-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩は、本発明との関係において投与又は
用いた際に、血漿NT-proBNP濃度の持続的低下を引き起こす。
【0053】
本発明及び上記すべての実施形態の文脈において、NEP阻害剤、又は医薬的に許容さ
れるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラ
ッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメ
チル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-
(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-
4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩は、心不全に罹
患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪化遅延で更に利用可能である。
1つの実施形態では、前記心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF
)又は駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患した患者である。1つの実施形態では
、前記心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者で
ある。
【0054】
定義
本明細書全体を通じて、及び下記の特許請求の範囲において、下記の用語は、別途明記
されない限り、下記の意味を有するものとして定義される。
【0055】
用語「予防」とは、本明細書に記載するような状態の発症を防止するために健康な対象
に予防投与することを意味する。更に、用語「予防」は、治療の対象となる状態の前段階
にある患者に予防投与することを意味する。
【0056】
用語「進行の遅延」とは、本明細書で用いる場合、治療の対象となる状態の前段階にあ
る患者に対して投与することを意味し、対応する状態の予備的形態を有する患者がそのよ
うに診断される。
【0057】
用語「治療」とは、疾患、状態、又は障害を除去しようとする(combating)目的で、
患者をマネジメント及びケア(care)することと理解される。
【0058】
用語「治療上有効な量」とは、研究者又は臨床医によって要求される、組織、系、又は
動物(ヒトを含む)の所望の生物学的及び/又は医学的な反応を引き起こす薬物又は治療
薬の量を意味する。
【0059】
用語「温血動物又は患者」には、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、サル、ウサギ
、及びマウスが含まれるが、但しこれらに限定されない。好ましい哺乳動物は、ヒトであ
る。
【0060】
用語、化合物「の投与」及び又は「を投与すること」とは、本発明の化合物又は医薬的
に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグを、治療を必要とする対象
に提供することを意味するものと捉えるべきである。本発明の治療方法を実践するために
本発明の組成物を投与する場合、それは、当該組成物中の治療上有効な量の化合物を、か
かる治療又は予防を必要とする対象に投与することにより実施される。本発明の方法に基
づく予防投与に対するニーズは、周知のリスク因子を利用することにより決定される。個
々の化合物の有効量は、症例担当医師により、最終的な分析において決定されるが、例え
ば、まさに治療の対象となる疾患、疾患の重症度、及び患者が罹患しているその他の疾患
又は状態、選択された投与経路、患者が同時に必要とし得るその他の薬物及び治療、及び
医師の判断の範疇内のその他の因子等の諸因子に依存する。
【0061】
用語「予防上有効な量」は、本明細書で用いる場合、研究者、獣医師、医師、又はその
他の臨床医が研究する組織、系、対象、又はヒトにおいて、心房拡大及び/又はリモデリ
ングを特徴とする及び/又は呈する疾患の発現を防止するために、生物学的反応又は医学
的反応を引き起こす組成物中の活性化合物の量を意味する。
【0062】
用語「医薬的に許容される」とは、本明細書で用いる場合、健全な医学的判断の範囲内
にあり、哺乳動物、特にヒトの組織と接触するのに適し、過剰な毒性、炎症、アレルギー
反応、及びその他の問題となる合併症を伴わない、妥当性のあるベネフィット/リスク比
と釣り合いの取れた化合物、材料、組成物、及び/又は剤形(dosage form)を意味する
【0063】
中性エンドペプチダーゼ
中性のエンドペプチダーゼ(EC3.4.24.11;エンケファリナーゼ;アトリオ
ペプチダーゼ;NEP; Biochem. J.、第241巻、237~247頁、1987年)は、亜鉛含有メタロ
プロテアーゼであり、様々なペプチド基質を芳香族アミノ酸のアミノ末端側において開裂
させる。この酵素の基質として、心房性ナトリウム利尿因子(ANF、ANPとしても知
られている)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、met及びleuエンケファリ
ン、ブラジキニン、ニューロキニンA、及びサブスタンスPが挙げられるが、但しこれら
に限定されない。
【0064】
ANPは、血管拡張因子、利尿性ペプチド、及び降圧性ペプチドからなるファミリーで
あり、例えば、Annu. Rev. Pharm. Tox.、第29巻、23~54頁、1989年等の文献において、
その多くの報告の対象とされてきた。1つの形態であるANF99-126は、心膨張の
状態において、心臓から放出される循環ペプチドホルモンである。ANFの機能は、塩及
び水ホメオスタシスの維持並びに血圧の制御である。ANFは、少なくとも2つのプロセ
スにより循環内で急速に不活性化される:Am. J. Physiol.、第256巻、R469-R475、1989
年で報告されているように、受容体媒介型の排除、及びBiochem. J.、第243巻、183~187
頁、1987年に記載されるようにNEPによる酵素的不活性化による。NEPの阻害剤は、
実験動物において、ANFの薬理学的注射に対する血圧降下性、利尿性、ナトリウム利尿
性の反応、及び血漿ANF反応を増強することが、これまでに実証されている。2つの特
異的NEP阻害剤によるANFの増強がSybertzらにより、J. Pharmacol. Exp Ther 第25
0巻、2号、624~631頁、1989年、及びHypertension、第15巻、2号、152~161頁、1990年
で報告されたが、一方、NEP-A-によるANFの一般的な増強は、米国特許第4,7
49,688号で開示された。米国特許第4,740、499号で、Olinsは、心房
性ペプチドの増強を目的とするチオルファン及びケラトルファンの使用について開示した
。更に、NEP阻害剤は、実験的高血圧症の一部の形態において血圧を低下させ、利尿作
用及び環状グアノシン3’,5’-モノリン酸(cGMP)排泄の増加等のANF様の効
果を示す。ANFに対する抗体は血圧の低下を中和するので、NEP阻害剤の抗高血圧作
用は、ANFにより媒介される。
【0065】
中性エンドペプチダーゼ(NEP)3.4.24.11のin vitro阻害は、例
えば以下のように求めることができる:中性エンドペプチダーゼ3.4.24.11活性
は、Orlowski及びWilk(1981年)の改変された手順を用いて、基質であ
るグルタリル-Ala-Ala-Phe-2-ナフチルアミド(GAAP)の加水分解に
より求めることができる。インキュベーション混合物(総容積125μl)は、タンパク
質(Maedaら、1983年の方法により調製したラット腎臓皮質膜)4.2μg、p
H7.4、25℃の50mMトリスバッファー、500μMの基質(最終濃度)、及びロ
イシンアミノペプチダーゼM(2.5μg)を含有する。混合物を、25℃で10分間イ
ンキュベーションし、100μlのファーストガーネット(1M酢酸ナトリウムに溶解し
た10%ツイーン20、1ml当たり、ファーストガーネット、250μg、pH4.2
)を添加する。酵素活性を、分光光度法により540nmで測定する。1ユニットのNE
P24.11活性は、25℃、pH7.4において、1分間に1nmolの2-ナフチル
アミンを放出することとして定義される。IC50値、すなわち2-ナフチルアミンの放
出を50%阻害するのに必要とされる試験化合物の濃度を求める。
【0066】
中性エンドペプチダーゼ活性は、ANFを基質として用いて求めることも可能である。
心房性ナトリウム利尿因子の分解活性は、3分間逆相HPLC分離を用いて、ラット-A
NF(r-ANF)の消失を測定することにより求められる。50mMトリスHClバッ
ファー、pH7.4に溶解した酵素の一定分量を37℃で2分間プレインキュベーション
し、総容積50μlに溶解した4nmolのr-ANFを添加することにより反応を開始
する。4分後に、0.27%トリフルオロ酢酸(TFA)、30μlを添加して反応を終
了する。混合物、40マイクロリッターを逆相HPLCに注入し、C4カートリッジを用
いて3分間無勾配分離にて分析する。23%のバッファーB(80%アセトニトリルに溶
解した0.1%TFAの溶液)を用いる。バッファーAは0.1%TFA水溶液である。
1ユニットの活性は、37℃、pH7.4において1分間にr-ANF、1nmolを加
水分解することとして定義される。IC50値、すなわちANFの加水分解を50%阻害
するのに必要とされる試験化合物の濃度を求める。
【0067】
試験化合物は、例えばジメチルスルホキシド又は0.25M重炭酸ナトリウム溶液に溶
解可能であり、また当該溶液をpH7.4のバッファーで所望の濃度に稀釈する。
【0068】
NEP阻害剤プロドラッグ及びNEP阻害剤
本発明の方法及び組成物は、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエ
ステル、又はそのプロドラッグを含む。本発明の組成物において有用であるNEP阻害剤
は、当技術分野において公知の任意のNEP阻害剤であり得る。
【0069】
本発明で利用可能な、適するNEP阻害剤は、例えば式(I)
【0070】
【化1】
[式中、
は、C~Cアルキル、トリフルオロメチル、任意選択的に置換されたフェニル、
又は-(CH1~4-(任意選択的に置換されたフェニル)であり、
は、水素、C~Cアルキル、任意選択的に置換されたフェニル、-(CH
~4-(任意選択的に置換されたフェニル)であり、
は、ヒドロキシ、C~Cアルコキシ、又はNHであり、
nは、1~15の整数である]
の化合物又は医薬的に許容されるその塩である。
【0071】
用語「任意選択的に置換されたフェニル」とは、C~Cアルキル、C~Cアル
コキシ、C~Cアルキルチオ、ヒドロキシ、Cl、Br、又はFより選択される置換
基で任意選択的に置換され得るフェニル基を意味する。
【0072】
式(I)の好ましい選択的NEP阻害剤には、
は、ベンジルであり、
は、水素であり、
nは、1~9の整数であり、
は、ヒドロキシである、
化合物又は医薬的に許容されるその塩が含まれる。
【0073】
更に好ましいのは、
は、ベンジルであり、
は、水素であり、
nは、1であり、
は、ヒドロキシである
SQ28,603として文献で報告されている、式(I)の選択的NEP阻害剤である。
【0074】
がトリフルオロメチル以外である式(I)の選択的NEP阻害剤の調製について、
Delaneyらにより、米国特許第4,722,810号で開示されている。Rがト
リフルオロメチルである式(I)の選択的NEP阻害剤の調製について、Delaney
らにより、米国特許第5,223,516号で開示されている。
【0075】
本発明の範囲内の更なるNEP阻害剤として、本明細書において参考として援用する米
国特許第4,610,816号で開示される、特にN-[N-[1(S)-カルボキシル
-3-フェニルプロピル]-(S)-フェニルアラニル]-(S)-イソセリン、及びN
-[N-[((1S)-カルボキシ-2-フェニル)エチル]-(S)-フェニルアラニ
ル]-β-アラニンを含む化合物;米国特許第4,929,641号で開示される化合物
、特にN-[2(S)-メルカプトメチル-3-(2-メチルフェニル)-プロピオニル
]-メチオニン;南アフリカ特許出願第84/0670号で開示される、SQ28,60
3(N-[2-(メルカプトメチル)-1-オキソ-3-フェニルプロピル]-β-アラ
ニン);UK69578(シス-4-[[[1-[2-カルボキシ-3-(2-メトキシ
エトキシ)-プロピル]-シクロペンチル]カルボニル]アミノ]-シクロヘキサンカル
ボン酸)及びその活性エナンチオマー;チオルファン及びそのエナンチオマー;retr
o-チオルファン;ホスホラミドン;及びSQ29,072(7-[[2-(メルカプト
メチル)-1-オキソ-3-フェニルプロピル]アミノ]-ヘプタン酸)が挙げられる。
【0076】
本発明の範囲内のNEP阻害剤として、米国特許第5,217,996号で開示される
化合物、特にN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフ
ェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、及びN-(3
-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-
アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又はいずれについても医薬的に許容されるその塩;
EP00342850で開示される化合物、特に(S)-シス-4-[1-[2-(5-
インダニルオキシカルボニル)-3-(2-メトキシエトキシ)プロピル]-1-シクロ
ペンタンカルボキシアミド]-1-シクロヘキサンカルボン酸;GB02218983で
開示される化合物、特に3-(1-[6-エンド-ヒドロキシメチルビシクロ[2,2,
1]ヘプタン-2-exo-カルバモイル]-シクロペンチル)-2-(2-メトキシエ
チル)プロパン酸;WO92/14706で開示される化合物、特にN-(1-(3-(
N-t-ブトキシカルボニル-(S)-プロリルアミノ)-2(S)-t-ブトキシ-カ
ルボニルプロピル)-シクロペンタンカルボニル)-O-ベンジル-(S)-セリンメチ
ルエステル;EP00343911で開示される化合物;JP06234754で開示さ
れる化合物;EP00361365で開示される化合物、特に4-[[2-(メルカプト
メチル)-1-オキソ-3-フェニルプロピル]アミノ]安息香酸;WO90/0937
4で開示される化合物、特に3-[1-(シス-4-カルボキシカルボニル-シス-3-
ブチルシクロヘキシル-r-1-カルバモイル(carboamoyl)シクロペンチル]-2S-
(2-メトキシエトキシメチル)プロパン酸;JP07157459で開示される化合物
、特にN-((2S)-2-(4-ビフェニルメチル)-4-カルボキシ-5-フェノキ
シバレリル)グリシン;WO94/15908で開示される化合物、特にN-(1-(N
-ヒドロキシカルバモイルメチル)-1-シクロペンタンカルボニル)-L-フェニルア
ラニン;米国特許第5,273,990号で開示される化合物、特に(S)-(2-ビフ
ェニル-4-イル)-1-(1H-テトラゾール-5-イル)エチルアミノ)メチルホス
ホン酸;米国特許第5,294,632号で開示される化合物、特に(S)-5-(N-
(2-(ホスホノメチルアミノ)-3-(4-ビフェニル)プロピオニル)-2-アミノ
エチル)テトラゾール;米国特許第5,250,522号で開示される化合物、特にβ-
アラニン、3-[1,1’-ビフェニル]-4-イル-N-[ジフェノキシホスフィニル
)メチル]-L-アラニル;EP00636621で開示される化合物、特にN-(2-
カルボキシ-4-チエニル)-3-メルカプト-2-ベンジルプロパンアミド;WO93
/09101で開示される化合物、特に2-(2-メルカプトメチル-3-フェニルプロ
ピオンアミド)チアゾール-4-イルカルボン酸;EP00590442で開示される化
合物、特に((L)-(1-((2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)
-メトキシ)カルボニル)-2-フェニルエチル)-L-フェニルアラニル)-β-アラ
ニン、N-[N-[(L)-[1-[(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-
イル)-メトキシ]カルボニル]-2-フェニルエチル]-L-フェニルアラニル]-(
R)-アラニン、N-[N-[(L)-1-カルボキシ-2-フェニルエチル]-L-フ
ェニルアラニル]-(R)-アラニン、N-[2-アセチルチオメチル-3-(2-メチ
ル-フェニル)-プロピオニル]-メチオニンエチルエステル、N-[2-メルカプトメ
チル-3-(2-メチルフェニル)プロピオニル(propioyl)]-メチオニン、N-[2
(S)-メルカプトメチル-3-(2-メチルフェニル)プロパノイル]-(S)-イソ
セリン、N-(S)-[3-メルカプト-2-(2-メチルフェニル)プロピオニル]-
(S)-2-メトキシ-(R)-アラニン、N-[1-[[1(S)-ベンジルオキシカ
ルボニル-3-フェニルプロピル]アミノ]シクロペンチルカルボニル]-(S)-イソ
セリン、N-[1-[[1(S)-カルボニル-3-フェニルプロピル(phenylpropy)
]アミノ]-シクロペンチルカルボニル]-(S)-イソセリン、1,1’-[ジチオビ
ス-[2(S)-(2-メチルベンジル)-1-オキソ-3,1-プロパンジイル]]-
ビス-(S)-イソセリン、1,1’-[ジチオビス-[2(S)-(2-メチルベンジ
ル)-1-オキソ-3,1-プロパンジイル]]-ビス-(S)-メチオニン、N-(3
-フェニル-2-(メルカプトメチル)-プロピオニル)-(S)-4-(メチルメルカ
プト)メチオニン、N-[2-アセチルチオメチル-3-フェニル-プロピオニル]-3
-アミノ安息香酸、N-[2-メルカプトメチル-3-フェニル-プロピオニル]-3-
アミノ安息香酸、N-[1-(2-カルボキシ-4-フェニルブチル)-シクロペンタン
カルボニル]-(S)-イソセリン、N-[1-(アセチルチオメチル)-シクロペンタ
ン-カルボニル]-(S)-メチオニンエチルエステル、3(S)-[2-{アセチルチ
オメチル)-3-フェニル-プロピオニル]アミノ(amimo)-e-カプロラクタム;及
びWO93/10773で開示される化合物、特にN-(2-アセチルチオメチル-3-
(2-メチルフェニル)プロピオニル)-メチオニンエチルエステルも挙げられる。
【0077】
また、利用に適するものとして、上記NEP阻害剤の任意のプロドラッグの形態、例え
ば1つ又は複数のカルボン酸基がエステル化された化合物が挙げられる。
【0078】
特に適するNEP阻害剤として、それぞれ式
【0079】
【化2】
のN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチ
ル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、及びN-(3-カルボキ
シ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(
2R)-メチルブタン酸又はいずれについても、医薬的に許容されるその塩が挙げられる
【0080】
式(II)の化合物の好ましい塩として、米国特許第5,217,996号で開示され
るナトリウム塩;及びWO2003/059345で開示されるトリエタノールアミン又
はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩が挙げられるが、但しこれらに限定されな
い。
【0081】
本明細書の上記で参照する、例えば米国特許、及びEP、GB、JP、又はWO特許出
願で参照するNEP阻害剤に関係する主題を、特に本明細書で開示するNEP阻害剤及び
医薬的に許容される塩、並びにNEP阻害剤及びその医薬組成物の調製に対応する主題を
、本明細書において参考として援用する。
【0082】
本発明の任意の化合物のプロドラッグ誘導体は、投与後に、いくつかの化学的又は生理
学的プロセスを経由して、親化合物をin vivoで放出する前記化合物の誘導体であ
り、例えばプロドラッグは、生理的pHに晒されると、又は酵素作用を通じて親化合物に
変換される。代表的なプロドラッグ誘導体として、例えば、遊離カルボン酸のエステル、
並びにチオール、アルコール、又はフェノールのS-アシル及びO-アシル誘導体が挙げ
られる。好ましくは、生理的条件下において、加溶媒分解により親カルボン酸に変換され
る医薬的に許容されるエステル誘導体、例として、当技術分野で従来の方式で用いられる
低級アルキルエステル、シクロアルキルエステル、低級アルケニルエステル、ベンジルエ
ステル、1置換型又は2置換型の低級アルキルエステル、例えばω-(アミノ、モノ-又
はジ-低級アルキルアミノ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル)-低級アルキルエ
ステル等、α-(低級アルカノイルオキシ、低級アルコキシカルボニル、又はジ-低級ア
ルキルアミノカルボニル)-低級アルキルエステル、例えばピバロイルオキシメチルエス
テル等である。
【0083】
遊離の化合物、プロドラッグ誘導体、及びこれらの塩の形態の化合物の間では、緊密な
関連性を有することから、化合物が本文脈において参照される場合、常にプロドラッグ誘
導体及び対応する塩の形態も、そのようなものが所与の状況下で可能又は適当であれば、
含めるように意図される。
【0084】
本明細書全体を通じて記載される任意の態様では、用語「NEP阻害剤(a NEP inhibi
tor)」又は「そのNEP阻害剤(the NEP inhibitor)」は、好ましくは、N-(3-カ
ルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミ
ノ-(2R)-メチルブタン酸又は医薬的に許容されるその塩を意味し、用語「NEP阻
害剤プロドラッグ(a NEP inhibitor pro-drug)」又は「そのNEP阻害剤プロドラッグ
(the NEP inhibitor pro-drug)」は、好ましくはN-(3-カルボキシ-1-オキソプ
ロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブ
タン酸エチルエステル又は医薬的に許容されるその塩を意味する。
【0085】
特に適するNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-
(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチ
ルエステル、及びNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)
-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、及び医薬的
に許容されるその塩に関して、本発明との関係においては、これらは単独で利用可能、又
はアンジオテンシン受容体遮断薬ですでに治療されたことのある患者に利用可能である。
【0086】
アンジオテンシン受容体遮断薬は、当技術分野において公知の任意のもの、例えばバル
サルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、エプロサルタン、テルミサル
タン、アジルサルタン、又は医薬的に許容されるその塩等であり得る。好ましくは、NE
P阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤は、バルサルタン又は医薬的に許容されるその塩
ですでに治療されたことのある患者に用いられる。
【0087】
本発明の1つの実施形態では、及びそのすべての使用について、NEP阻害剤プロドラ
ッグ又はNEP阻害剤は、アンジオテンシン受容体遮断薬であるバルサルタン又は医薬的
に許容されるその塩と同時に又は逐次的に、共に投与される。好ましくは、NEP阻害剤
プロドラッグ又はNEP阻害剤及びアンジオテンシン受容体遮断薬のバルサルタンは、1
:1のモル比で投与される。
【0088】
本発明の1つの実施形態では、NEP阻害剤プロドラッグ及びアンジオテンシン受容体
遮断薬は、[3-((1S,3R)-1-ビフェニル-4-イルメチル-3-エトキシカ
ルボニル-1-ブチルカルバモイル)プロピオネート-(S)-3’-メチル-2’-(
ペンタノイル{2’’-(テトラゾール-5-イレート)ビフェニル-4’-イルメチル
}アミノ)酪酸]三ナトリウム2.5水和物(LCZ696)の投与により、共に送達さ
れる。LCZ696及びこれを含有する処方物は、国際特許出願WO2007/0565
46及びWO2009/061713に記載及び開示されており、本明細書において参考
として援用する。
【0089】
医薬組成物
別の態様では、本発明は、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈
する疾患の治療、予防、又はその進行遅延で用いられる、本明細書の上記で定義するよう
なNEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッ
グ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)
-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エ
チルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S
)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬
的に許容されるその塩、及び1つ若しくは複数の医薬的に許容される担体又は添加剤を含
む医薬組成物も提供する。
【0090】
更に、本発明は、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患
に罹患した患者の、左房容量、左房容量インデックス(LAVI)、及び/又は左房径の
低下における使用のための、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエス
テル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキ
シ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(
2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-
オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-
メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩、及び1つ若しくは複数の医薬的に許容
される担体又は添加剤を含む医薬組成物に関する。
【0091】
心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患として、駆出率保持型心不全(HF
-PEF)、駆出率低下型心不全(HF-REF)、心房細動、新規発現型心房細動及び
再発性心房細動を含む心律動異常;僧帽弁の狭窄及び逆流、心筋症、高血圧症、又は肺性
心疾患が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0092】
1つの実施形態では、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患として、駆出
率保持型心不全(HF-PEF)、心房細動、新規発現型心房細動及び再発性心房細動等
の心律動異常、僧帽弁逆流、心臓肥大、心筋症、又は肺性心疾患が挙げられるが、但しこ
れらに限定されない。
【0093】
本発明の1つの実施形態では、心房拡大及びリモデリングを特徴とする疾患は、駆出率
保持型心不全(HF-PEF)である。
【0094】
本発明はまた、心不全に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪化
遅延における使用のためのNEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステ
ル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ
-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2
R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オ
キソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メ
チルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩、及び1つ若しくは複数の医薬的に許容さ
れる担体又は添加剤を含む医薬組成物に関する。
【0095】
1つの実施形態では、心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)
又は駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患した患者である。1つの実施形態では、
心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者である。
【0096】
1つの実施形態では、本発明はまた、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若
しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3
-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-
アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル又はNEP阻害剤N-(3-カルボキ
シ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(
2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物であって、心
房細動を治療若しくは予防する、又は心房細動の新規発現を予防若しくは新規発現までの
時間を遅延させるための、医薬組成物である。
【0097】
更なる実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル
、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキ
ソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチ
ルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物は、心房拡大及び/又はリ
モデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患に罹患した患者において、心房細動を治療
若しくは予防する、又は心房細動の新規発現を予防若しくは新規発現までの時間を遅延さ
せるためのものである。
【0098】
別の実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、
又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1
-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)
-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソ
プロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチル
ブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物は、心不全に罹患した患者に
おいて、心房細動を治療若しくは予防する、又は心房細動の新規発現を予防若しくは新規
発現までの時間を遅延させるためのものである。1つの実施形態では、心不全に罹患した
患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)又は駆出率低下型心不全(HF-REF)
に罹患した患者である。1つの実施形態では、心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心
不全(HF-PEF)に罹患した患者である。
【0099】
本発明の1つの実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくは
エステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カル
ボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ
-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物は、心房細動の病
歴を有さない駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者を治療するためのもの
である。
【0100】
本発明の1つの実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくは
エステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カル
ボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ
-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物は、心房細動の病
歴を有さない駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者を治療するためのもの
であり、当該NEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤は、心房細動の新規発現を予防
する、又は新規発現までの時間を遅延させる。
【0101】
本発明の1つの実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくは
エステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カル
ボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ
-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物は、心房細動の新
規発現までの時間遅延において、バルサルタン単独及び/又はエナラプリル単独投与より
も優れる。
【0102】
本発明の1つの実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくは
エステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カル
ボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ
-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物は、心房拡大及び
/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患、例えば心不全、特に駆出率保持
型心不全等に罹患した患者の血漿NT-proBNPのレベルを低下させるためのもので
ある。
【0103】
本発明の別の実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエ
ステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボ
キシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-
(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1
-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)
-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物は、本発明との関係
において投与又は用いた際に、血漿NT-proBNP濃度の持続的低下を引き起こす。
【0104】
本発明及びすべての上記実施形態との関係において、NEP阻害剤、又は医薬的に許容
されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロド
ラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニル
メチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N
-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)
-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を含む医薬組
成物は、心不全に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪化遅延で更
に利用可能である。
【0105】
1つの実施形態では、前記心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PE
F)又は駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患した患者である。1つの実施形態で
は、前記心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者
である。
【0106】
本発明に基づき用いられる医薬組成物は、治療上有効な量の本明細書の上記で規定する
ようなNEP阻害剤又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラ
ッグを含む。各投与単位は日用量を含むこともできるし、或いは日用量の一定分量、例え
ば、1/2又は1/3の用量等を含んでもよい。
【0107】
1つの実施形態では、医薬組成物は、NEP阻害剤 プロドラッグN-(3-カルボキ
シ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(
2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-
オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-
メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を含む。
【0108】
1つの実施形態では、本発明の医薬組成物は、上記するように、アンジオテンシン受容
体遮断薬ですでに治療されたことのある患者に利用可能である。
【0109】
本発明の使用において、そのすべてに関する本発明の1つの実施形態では、医薬組成物
は、NEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)
-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステ
ル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フ
ェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容さ
れるその塩、及びアンジオテンシン受容体遮断薬のバルサルタン又は医薬的に許容される
その塩を含む。かかる組み合わせは、例えば国際特許出願WO2003/059345に
開示されており、これを本明細書において参考として援用する。
【0110】
1つの実施形態では、医薬組成物は、NEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ
-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2
R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オ
キソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メ
チルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩、及びアンジオテンシン受容体遮断薬のバ
ルサルタン又は医薬的に許容されるその塩を1:1のモル比で含む。
【0111】
本発明の更なる実施形態では、本発明に基づき用いられる医薬組成物は、[3-((1
S,3R)-1-ビフェニル-4-イルメチル-3-エトキシカルボニル-1-ブチルカ
ルバモイル)プロピオネート-(S)-3’-メチル-2’-(ペンタノイル{2’’-
(テトラゾール-5-イレート)ビフェニル-4’-イルメチル}アミノ)酪酸]三ナト
リウム2.5水和物(LCZ696)を含めることにより、患者に投与する際に、NEP
阻害剤プロドラッグ及びアンジオテンシン受容体遮断薬を共に送達する。LCZ696及
びこれを含有する処方物は、国際特許出願WO2007/056546及びWO2009
/061713に記載及び開示されている。
【0112】
本発明による医薬組成物は、それ自体が公知の方法で調製することができ、またヒトを
含む哺乳動物(温血動物)に対して、例えば経口又は経直腸等の経腸投与、及び非経口投
与するのに適するものであり、治療上有効な量の医薬的に活性な化合物を、単独又は1つ
若しくは複数の医薬的に許容される担体と組み合わせて含み、特に経腸又は非経口用途に
適する。
【0113】
本発明の医薬製剤(pharmaceutical preparation)は、例えば約0.1%~約100%
、例えば80%若しくは90%、又は約1%~約60%の有効成分を含む。用語「約」又
は「およそ」とは、本明細書で用いる場合、各事例において、所定の数値又は範囲の10
%以内、より好ましくは5%以内の意味を有するものとする。
【0114】
経腸又は非経口投与用の本発明による医薬製剤は、例えば糖でコーティングされた錠剤
、錠剤、カプセル、バー、サシェ剤、粒剤、シロップ、水性若しくは油性の懸濁物、又は
坐剤、更にはアンプル等の単位剤型内のものである。これらは、それ自体が公知の方法で
、例えば従来方式の混合、造粒、糖のコーティング、溶解又は凍結乾燥プロセスによって
調製される。したがって、経口用途の医薬製剤は、有効成分を固体担体と混合することに
より入手可能であり、所望の場合には、得られた混合物を造粒し、また混合物又は粒剤を
処理して、所望の場合には又は必要であれば適する添加剤の添加後に、錠剤又は糖でコー
ティングされた錠剤コアが得られる。
【0115】
公知の方法により混合物の錠剤化を可能にするために、錠剤は、充填剤、例えばリン酸
カルシウム;崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネ
シウム;バインダー、例えば微結晶セルロース又はポリビニルピロリドン、及び当技術分
野において公知のその他の任意選択的な成分と共に、活性化合物から形成され得る。同様
に、追加の添加剤を含む又は含まない、活性化合物を含有するカプセル、例えばハード又
はソフトゼラチンカプセルが、公知の方法により調製可能である。カプセルの内容物は、
活性化合物の徐放を実現するために、公知の方法を用いて処方化され得る。
【0116】
経口投与用のその他の剤形として、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム等の
無毒性懸濁剤の存在下で、活性化合物を水性媒体中に含有する水性懸濁物、及び適する植
物油、例えばラッカセイ油中に活性化合物を含有する油性懸濁物が挙げられる。
【0117】
活性化合物は、追加の添加剤を含む又は含まない粒剤に処方化され得る。粒剤は、患者
により直接摂取され得る、又は摂取前に適する液体担体(例えば水)に添加され得る。粒
剤は、液体媒体中での分散を促進するために、崩壊剤、例えば酸と炭酸塩又は重炭酸塩と
から形成された発泡性ペアを含み得る。
【0118】
組成物の有効成分の用量は、もちろん、治療の対象となる状態の重症度の性質、組成物
中の具体的な化合物、及びその投与経路によって変化する。また、年齢、体重、及び個々
の患者の反応によっても変化する。
【0119】
更に、本発明は商用パッケージであって、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその
塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-
(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-
4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カ
ルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミ
ノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩と、NEP阻害剤、又は
医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグを、それを必要とし
ている患者に投与することにより、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/
又は呈する疾患を治療するための指示を含む添付文書又はその他のラベリングとを含む、
商用パッケージに関する。
【0120】
好ましい実施形態では、添付文書又はその他のラベリングは、治療上有効な量のNEP
阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ま
しくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S
)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエス
テル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-
フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容
されるその塩を、それを必要としている患者に投与することにより、心房拡大及び/又は
リモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患を治療するための指示を含む。
【0121】
一般的に、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はその
プロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソ
プロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチル
ブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル
)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸
、又は医薬的に許容されるその塩の日用量範囲は、単回用量又は分割された用量として、
対象の体重1kg当たり約0.01mg~約100mg、好ましくは約0.1mg~約5
0mgの範囲にある。1つの実施形態では、NEP阻害剤の日用量範囲は、単回用量又は
分割された用量として、対象の体重1kg当たり約0.1mg~約25mg、又は約1m
g~約25mgである。一方、場合によっては、これらの限界値の外側の用量を使用する
ことが必要なこともあり得る。
【0122】
経口組成物が採用される場合には、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若し
くはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-
カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-ア
ミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキ
シ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(
2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩の適する用量範囲は、組成物中
、1日当たり、例えば約0.01mg/kg~約100mg/kg、好ましくは1日当た
り約0.01mg~約2000mgである。経口投与の場合、組成物は、約0.01mg
~約2,000mg、例えば約0.01、約0.05、約0.1、約0.2、約0.5、
約1.0、約2.5、約5、約10、約15、約20、約25、約30、約40、約50
、約75、約100、約125、約150、約175、約200、約225、約250、
約500、約750、約850、約1000、又は約2000ミリグラムの有効成分を含
有する錠剤の形態で好ましくは提供される。この投与計画は、最適な治療反応を実現する
ように調節可能である。例えば、NEP阻害剤は、数日間、数週間(1、2、3、4、又
はこれ以上)にわたり、又は更に長期間、1日1回投与され得る。別の実施形態では、N
EP阻害剤は、1日に1回、又は数回(例えば、1、2、3回)投与される。
【0123】
好ましくは、前記錠剤は、約10mg~約1000mg、より好ましくは約10mg~
約500mg、最も好ましくは約20mg~約250mg、例えば約10mg、約15m
g、約20mg、約25mg、約30mg、約40mg、約50mg、約75mg、約1
00mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mg、約225mg、
約250mg等の有効成分を含み、前記有効成分は、好ましくはNEP阻害剤プロドラッ
グN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチ
ル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(
3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4
-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩である。
【0124】
1つの実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル
、又はそのプロドラッグは、1日2回投与される。
【0125】
別の実施形態では、錠剤は、100mgのNEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその
塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-
(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-
4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カ
ルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミ
ノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を含有し、1日2回投与
される。
【0126】
1つの実施形態では、NEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル
、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-
1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R
)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキ
ソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチ
ルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩が、アンジオテンシン受容体遮断薬のバルサ
ルタン又は医薬的に許容されるその塩と同時投与される場合、アンジオテンシン受容体遮
断薬のバルサルタンの用量は次の通りである:バルサルタンは、好ましくは経口組成物の
形態で用いられ、好ましくは約0.01mg~約2000mg、例えば約0.01、約0
.05、約0.1、約0.2、約0.5、約1.0、約2.5、約5、約10、約15、
約20、約25、約30、約40、約50、約75、約100、約125、約150、約
175、約200、約225、約250、約500、約750、約850、約1000、
又は約2000ミリグラムの有効成分を含有する錠剤の形態(例えば、DIOVAN(登
録商標)の商標で知られている承認薬の形態)で提供される。
【0127】
好ましくは、前記バルサルタン錠剤は、約10mg~約1000mg、より好ましくは
約10mg~約500mg、最も好ましくは約20mg~約250mg、例えば、約10
mg、約15mg、約20mg、約25mg、約30mg、約40mg、約50mg、約
75mg、約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mg、
約225mg、約250mgの有効成分を含有する。特定の実施形態では、かかるバルサ
ルタン錠剤は、80mg、160mg、320mg、又は640mgの有効成分を含む。
【0128】
本発明との関係において用いる際に、NEP阻害剤プロドラッグが、[3-((1S,
3R)-1-ビフェニル-4-イルメチル-3-エトキシカルボニル-1-ブチルカルバ
モイル)プロピオネート-(S)-3’-メチル-2’-(ペンタノイル{2’’-(テ
トラゾール-5-イレート)ビフェニル-4’-イルメチル}アミノ)酪酸]三ナトリウ
ム2.5水和物として、LCZ696の形態で医薬組成物内に提供される実施形態では、
治療薬N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニル
メチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステルとバルサルタンとを併
用する単位用量は、1日当たり約1~約1000mg、例えば40mg~400mg等の
範囲内(例えば、50mg、100mg、200mg、400mg)である。あるいは、
より低用量、例えば1日当たり0.5~100mg;0.5~50mg;又は0.5~2
0mgの用量が投与される場合もある。注記すると、2つの薬剤、N-(3-カルボキシ
-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2
R)-メチルブタン酸エチルエステル及びバルサルタンについて100mgを送達するL
CZ696、100mgの単位用量は、[3-((1S,3R)-1-ビフェニル-4-
イルメチル-3-エトキシカルボニル-1-ブチルカルバモイル)プロピオネート-(S
)-3’-メチル-2’-(ペンタノイル{2’’-(テトラゾール-5-イレート)ビ
フェニル-4’-イルメチル}アミノ)酪酸]三ナトリウム2.5水和物、107.8m
gに対応する。これに対応して、200mgの単位用量は、[3-((1S,3R)-1
-ビフェニル-4-イルメチル-3-エトキシカルボニル-1-ブチルカルバモイル)プ
ロピオネート-(S)-3’-メチル-2’-(ペンタノイル{2’’-(テトラゾール
-5-イレート)ビフェニル-4’-イルメチル}アミノ)酪酸]三ナトリウム2.5水
和物、215.6mgを必要とし、また400mgの単位容量は、同431.2mgを必
要とする。
【0129】
治療方法
本発明はまた、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患を
治療し、予防し、又は進行を遅延させる方法であって、治療上有効な量、又は予防上有効
な量のNEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロド
ラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピ
ル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン
酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(
4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は
医薬的に許容されるその塩を、かかる治療を必要とする対象、例えばヒト対象に投与する
ステップを含む、方法に関する。
【0130】
本発明はまた、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈する疾患に
罹患した患者を対象として、左房容量、左房容量インデックス(LAVI)、及び/又は
左房径を低下させる方法であって、治療上有効な量のNEP阻害剤、又は医薬的に許容さ
れるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラ
ッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメ
チル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-
(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-
4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を、かかる治療
を必要とする対象、例えばヒトに投与するステップを含む、方法に関する。
【0131】
心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患として、駆出率保持型心不全(HF
-PEF)、駆出率低下型心不全(HF-REF)、心房細動、新規発現型心房細動及び
再発性心房細動を含む心律動異常;僧帽弁の狭窄及び逆流、心筋症、高血圧症、又は肺性
心疾患が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0132】
1つの実施形態では、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患として、駆出
率保持型心不全(HF-PEF)、心房細動、新規発現型心房細動及び再発性心房細動等
の心律動異常、僧帽弁逆流、心臓肥大、心筋症、又は肺性心疾患が挙げられるが、但しこ
れらに限定されない。
【0133】
1つの実施形態では、前記心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈
する疾患は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)である。
【0134】
更に、本発明は、心不全に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪
化遅延のための方法であって、治療上有効な量のNEP阻害剤、又は医薬的に許容される
その塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグ
N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル
)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3
-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-
アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を、かかる治療を必
要とする対象、例えばヒトに投与するステップを含む、方法に関する。
【0135】
1つの実施形態では、心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)
又は駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患した患者である。1つの実施形態では、
心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者である。
【0136】
本発明はまた、心房細動を治療若しくは予防する、又は心房細動の新規発現を予防若し
くは新規発現までの時間を遅延させる方法であって、治療上有効な量、又は予防上有効な
量のNEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラ
ッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル
)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸
エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4
S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医
薬的に許容されるその塩を、かかる治療を必要とする対象、例えばヒト対象に投与するス
テップを含む方法に関する。
【0137】
更なる実施形態では、本発明は、心房細動を治療若しくは予防する、又は心房細動の新
規発現を予防若しくは新規発現までの時間を遅延させる方法であって、治療上有効な量、
又は予防上有効な量のNEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、
又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1
-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)
-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソ
プロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチル
ブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を、心房拡大及び/又はリモデリングを特徴と
する及び/又は呈する疾患に罹患した患者に投与するステップを含む、方法に関する。
【0138】
別の実施形態では、本発明は、心房細動を治療若しくは予防する、又は心房細動の新規
発現を予防若しくは新規発現までの時間を遅延させる方法であって、治療上有効な量、又
は予防上有効な量のNEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又
はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-
オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-
メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプ
ロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブ
タン酸、又は医薬的に許容されるその塩を、心不全に罹患した患者に投与するステップを
含む、方法に関する。1つの実施形態では、心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不
全(HF-PEF)又は 駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患した患者である。
1つの実施形態では、心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)に
罹患した患者である。
【0139】
本発明の1つの実施形態では、方法は、治療上有効な量、又は予防上有効な量のNEP
阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ま
しくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S
)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエス
テル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-
フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容
されるその塩を、心房細動の病歴を有さない駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患
した患者に投与するステップを含む。
【0140】
1つの実施形態では、本発明は、治療上有効な量、又は予防上有効な量のNEP阻害剤
、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくは
NEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p
-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、
又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニ
ルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容される
その塩を、心房細動の病歴を有さない駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患
者に投与するステップを含む治療方法であって、当該NEP阻害剤プロドラッグ又はNE
P阻害剤が、心房細動の新規発現を防止する、又は新規発現までの時間を遅延させる、治
療方法に関する。
【0141】
本発明の1つの実施形態では、NEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤の投与は、
心房細動の新規発現までの時間遅延において、バルサルタン単独及び/又はエナラプリル
単独投与よりも優れる。
【0142】
1つの実施形態では、本発明は、患者の血漿NT-proBNPのレベルを低下させる
方法であって、治療上有効な量、又は予防上有効な量のNEP阻害剤、又は医薬的に許容
されるその塩若しくはエステル、又はそのプロドラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロド
ラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニル
メチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N
-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)
-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は医薬的に許容されるその塩を、心不全、
特に駆出率保持型心不全等の心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする及び/又は呈
する疾患に罹患した前記患者に投与するステップを含む、方法に関する。
【0143】
本発明の別の実施形態では、NEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤は、本発明と
の関係において投与又は用いた際に、血漿NT-proBNP濃度の持続的低下を引き起
こす。
【0144】
本発明及びすべての上記実施形態との関係において、治療上有効な量、又は予防上有効
な量のNEP阻害剤、又は医薬的に許容されるその塩若しくはエステル、又はそのプロド
ラッグ、好ましくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピ
ル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン
酸エチルエステル、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(
4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸、又は
医薬的に許容されるその塩の、それを必要としている患者に対する投与を含む方法は、心
不全に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪化遅延で更に用いられ
る。
【0145】
1つの実施形態では、前記心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PE
F)又は駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患した患者である。1つの実施形態で
は、前記心不全に罹患した患者は、駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患した患者
である。
【0146】
下記の実施例は例示的なものであり、本明細書に記載する本発明の範囲を限定するもの
ではない。
【実施例
【0147】
実施例1
慢性の左室駆出率保持型心不全(HF-PEF)患者を対象として、LCZ696の有
効性、安全性、及び忍容性をバルサルタンと比較して評価する、36週間、ランダム化、
二重盲検、多施設共同、並行群間、実薬対照試験。
【0148】
LCZ696:
LCZ696とは、超分子複合体である[3-((1S,3R)-1-ビフェニル-4
-イルメチル-3-エトキシカルボニル-1-ブチルカルバモイル)プロピオネート-(
S)-3’-メチル-2’-(ペンタノイル{2’’-(テトラゾール-5-イレート)
ビフェニル-4’-イルメチル}アミノ)酪酸]三ナトリウム2.5水和物を意味する。
この化合物及びその医薬組成物は、これまでにWO2007/056546及びWO20
09/061713で開示されており、その調製に関する教示を本明細書において参考と
して援用する。
【0149】
LCZ696は、新規クラスのアンジオテンシン受容体ネプリリシン阻害剤であり、N
EP(中性エンドペプチダーゼEC3.4.24.11)阻害剤プロドラッグのAHU3
77(N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニル
メチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル)と、アンジオテンシ
ン受容体遮断薬のバルサルタンの分子部分を、単一の化合物として含む。AHU377は
、酵素的切断により、中性エンドペプチダーゼの活性な阻害剤であるLBQ657(N-
(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-
4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸)に代謝されるが、上記中性エンドペプチダーゼ
は、心房性ナトリウム利尿ペプチドの分解に関与する主要な酵素である。
【0150】
バルサルタン:
バルサルタン又は(S)-N-バレリル-N-{[2’-(1H-テトラゾール-5-
イル)-ビフェニル-4-イル]-メチル}-バリン)は、商業的供給源から購入可能、
又は米国特許第5,399,578号及びEP0443983等に記載されている公知の
方法により調製可能であり、その調製に関する教示を本明細書において参考として援用す
る。
【0151】
治験デザイン:
左室駆出率が45%以上で、関連する兆候又は症状(労作性呼吸困難、起坐呼吸、発作
性の呼吸困難、及び末梢性浮腫)を伴う心不全の立証済みの病歴を有する40歳以上の男
性及び女性が、適格性を有する。患者は、スクリーニング時にNT-proBNP>40
0pg/mLであり、利尿薬療法を受けており、また収縮期血圧が140mmHg未満、
又はランダム化の際に3種類以上の血圧治療薬を服用している場合には160mmHg以
下である必要がある。追加の組み入れ基準として、スクリーニング時の推定糸球体濾過率
(eGFR)が少なくとも30ml/分/1.73m(Modification o
f Diet in Renal Diseaseの式により計算される)、及びカリウ
ムが5.2mmol/L以下を含む。
【0152】
過去に時期を問わず左室駆出率が45%未満;肺疾患に起因する孤立性の右心不全;肺
疾患、貧血、若しくは重度の肥満等の非心因性の呼吸困難;原発性の心臓弁膜疾患又は心
筋疾患;又はスクリーニングから3ヶ月以内に血管再生を必要とする冠動脈疾患若しくは
脳血管性疾患を経験した、又は治験期間中に血管再生を必要とする可能性がある患者の場
合、当該患者は除外される。
【0153】
適格性を有する患者は、2週間、単盲検プラセボ投与による治験導入期間に参加し、同
期間中、患者は基礎薬物治療(background medication)を継続する。ACE阻害剤及び
アンジオテンシン受容体遮断薬は、ランダム化前24時間までに中止する必要がある。2
週間後、組み入れ/除外基準を満たすすべての患者を、LCZ696又はバルサルタンに
1:1の比でランダムに割り付ける。
【0154】
患者は、LCZ696、50mg、1日2回、又はバルサルタン、40mg、1日2回
を開始し、2~4週間かけて、最終投薬用量(final medication dose)であるLCZ6
96、200mg、1日2回、又はバルサルタン、160mg、1日2回まで用量を漸増
する。患者は、開始用量で1週間投与を受け、そしてLCZ696、100mg、1日2
回、又はバルサルタン、80mg、1日2回まで、1週間かけて用量を漸増する。最大用
量のLCZ696では、同等のAT1遮断をもたらすバルサルタンの用量と類似の曝露を
実現する。治験責任医師の裁量により、更に1週間、患者を各漸増用量に留めることがで
きる。次に、すべての患者について、標準的な基礎治療に加えて、最終用量であるLCZ
696、200mg、1日2回、又はバルサルタン、160mg、1日2回まで用量を漸
増する。残りの試験期間、患者をこれらの用量に留めるが、最高用量の治験薬に対して忍
容性を有さない患者では、治験責任医師の裁量により、これより低い用量まで漸減するこ
とができ、次に最高用量の治験薬を再度試みる、又は当該低用量に留めることができる。
【0155】
用量の選択は、Guらの2010年、J Clin Pharmacol.、401~14頁、及びRuilopeらの2010
年、Lancet、第375巻(9722):1255~66頁において公表された両試験群と等しいバルサルタ
ン曝露量を反映する。
【0156】
試験手順:
治験の主要エンドポイントは、第12週目に評価したNT-proBNPのベースライ
ンからの変化、であり、ベースライン実施以降に行われた最後の観察結果を用いて分析す
る。副次的エンドポイントには、心エコー指標(左室容量と駆出率、左房容量、拡張機能
指標)における変化、血圧の変化、並びにニューヨーク心臓協会クラス(NYHA)臨床
的複合評価及び生活の質(カンザスシティ心筋症質問票)の変化が含まれる。
【0157】
心エコー試験は、スクリーニング時、ランダム化時、第12週目、及び第36週目、又
は試験終了時、又は早期終了来院時に実施する。スクリーニング時に実施される心エコー
図は、情報の適格性を確認するために、現地の読み取り担当者により評価される。その他
のすべての心エコー図は、NT-proBNP組み入れ基準を満たす患者についてのみ実
施され、一元的に評価される。全体的な心室サイズ及び機能の評価では、左室の拡張末期
容量及び収縮末期容量は、シンプソンの公式を利用して求め、左室駆出率は、通常の方法
で導出する。最大左房径は、胸骨傍長軸像において測定し、また左房容量は、シンプソン
の公式を用いて評価し、体表面積に連動させる。米国心エコー図学会の勧告に基づき、三
重測定する。すべての試験来院時に、校正された標準血圧計及び適正なサイズのカフを用
いて血圧及び心拍数を測定する。各試験来院時に、併用薬の使用を記録する。
【0158】
臨床的複合評価は、NYHA機能分類、患者の全体的な評価、及び重大な臨床的有害事
象の組み合わせに基づく。患者が、エンドポイント来院時において、NYHA機能分類又
は患者の全体的な評価(又は両方)で改善を経験する一方、重要な心血管系有害事象を有
さない場合には、患者は改善したものと分類される。患者が、エンドポイント来院時にお
いて、二重盲検治療期間中に重大な有害心イベントを経験した、又はNYHAクラス又は
患者の全体的な評価で悪化が報告された場合には、患者は悪化したものと判定される。患
者が、改善も悪化もしない場合には、不変とみなされる。
【0159】
結果:
LCZ696は、忍容性が良好であり、その副作用はバルサルタンと類似した。
【0160】
患者301例のうち、患者261例が、第12週目の評価を完了し、また患者241例
が第36週目の評価を完了した。平均年齢は71歳であり、57%の患者が女性であった
が、大部分の患者は、NYHAクラスIIであった。心房細動が、ベースライン時に、患
者85例(28%)で認められた。平均左室駆出率(LVEF)は、58±7.7%であ
り、LVEFは、患者238例(87%)で50%を上回った。血圧は、十分に制御され
た(平均座位血圧135/77mmHg、メジアン座位血圧136/79mmHg)。ベ
ースラインNT-proBNPは高めであった(幾何平均:830.6pg/mL、95
%CI:744~928)。すべての患者は、ベースライン時に利尿薬を服用しており、
また大部分の患者は、登録前にACE阻害剤又はアンジオテンシン受容体遮断薬の投与を
受けていた。ベースライン時における心エコー評価により、僧帽弁輪弛緩速度の低下、E
/e’の上昇、及び左心房肥大が実証され、心充満圧の軽度上昇と整合した。
【0161】
主要エンドポイントである、ベースラインから第12週目までのNT-proBNPの
変化は、バルサルタン群と比較してLCZ696群では有意に異なり(変化の比LCZ6
96/バルサルタン 0.77、95%CI 0.64~0.92、p=0.005;表
1を参照)、LCZ696で治療された患者でより多くの低下が認められた。
【0162】
完了者のみを対象とする主要エンドポイント分析(p=0.007)又は欠損値多重代
入法による分析(p=0.01)では、類似した結果が得られた。NT-proBNPに
対するLCZ696の効果はかなり早期に生じたが、LCZ696群における4週間治療
後のNT-proBNPの早期低下は、バルサルタン群と比較して有意ではなかった(p
=0.063)。第12週目におけるNT-proBNPの低下は、すべての事前に定義
された部分群において認められた。これらの部分群のうち、糖尿病患者に限り、LCZ6
96で治療を受けたときに、非糖尿病患者と比較してNT-proBNPが特異的により
大きな低下を示した(相互作用 p=0.02)。
【0163】
【表1】
【0164】
12週間治療した後、血圧は、LCZ696群で9.3(SD14)/4.9(10)
mmHg、バルサルタン群で2.9(17)/2.1(11)mmHg低下した(収縮期
血圧の差の場合p=0.001、及び拡張期血圧の差の場合p=0.09)。両群間で血
圧変化について調整を行った後でも、バルサルタンよりも、LCZ696の方がNT-p
roBNP低下との関連性は高かった(p=0.01)。更に、血圧の変化は、NT-p
roBNPの変化とはほとんど相関しなかった(r=0.104、p=0.1)。
【0165】
治療群間で、左室のサイズ又は機能、拡張機能、左室(LV)心筋重量、又は三尖弁逆
流速度等の心エコーパラメーターにおいて、ベースラインから第12週間目まで変化が認
められたが、但し最低限度であった。左房径は、第12週目において数値的には低下した
が、有意ではなかった。
【0166】
LCZ696群では、ベースラインから第36週目において、NT-proBNPは低
下したままであったが(表1を参照)、第36週目における治療群間の差異は、もはや有
意ではなかった(p=0.20;表1)。第36週目において、血圧は、バルサルタン群
の1.5(16)/0.34(11.5)に対し、LCZ696群では7.5(15)/
5.1(10.8)低下した(収縮期血圧の差の場合p=0.006、及び拡張期血圧の
差の場合p=0.001)。
【0167】
左房容量及び左房容量インデックス(LAVI)は、左房径(p=0.034)と同様
に、36週間治療した後、LCZ696群で有意に低下した(左房容量及びLAVIにつ
いて、それぞれp=0.003及び0.007)(表2)。
【0168】
左房サイズの変化は、ベースライン時に心房細動を有さなかった患者で最も明白であっ
た。LVEF、心室容量、左室心筋重量インデックス、相対的壁厚、又は拡張機能の指標
を含むその他の心エコー指標は、第36週目において治療群間で異ならなかった。
【0169】
【表2】
【0170】
第12週目におけるNYHAクラスの改善は、群間で有意に異ならなかったが(p=0
.11)、第36週目では、バルサルタン群と比較してLCZ696群においてNYHA
クラスの改善が認められた(p=0.05、図1)。
【0171】
治療を12週間(p=0.19)及び36週間(p=0.17)行った後の臨床的複合
評価は、群間で有意に異ならなかった(図1)。いずれの時点においても、治療群間でK
CCQスコアに差異は認められなかった。
【0172】
LCZ696群の患者121例(81%)、及びバルサルタン群の119例(78%)
で、目標用量を実現した。治験期間中に、血圧降下剤、特にループ利尿薬を同時使用する
と、バルサルタン群においてより強力であったが、β遮断薬の使用では類似した。LCZ
696群では、患者22例(15%)が、死亡1例を含む1つ又は複数の重篤な有害事象
を有した;バルサルタン群では、患者30例(20%)が、死亡2例を含む1つ又は複数
の重篤な有害事象を有した。バルサルタン群では、有害事象「心房細動」は、患者8例(
5.3%)に認められたが、LCZ696群では、患者2例(2.0%)のみがこの有害
事象を経験した。
【0173】
低血圧症、腎機能障害、又は高カリウム血症を有する患者の数は、群間で異ならなかっ
た。バルサルタンの患者では認めなかった血管性浮腫が、LCZ696の患者1例で生じ
たが、但し入院の必要はなかった。
【0174】
結論
まとめとして、駆出率保持型心不全の患者では、アンジオテンシン受容体ネプリリシン
阻害剤LCZ696は、12週間治療した後、NT-proBNPを低下させるが、その
低下度はバルサルタンよりも大きかった。LCZ696の投与を受けた患者では、NT-
proBNPが低下するが、それは4週間目で顕在化し、第36週目まで持続したが、但
し群間の差異はもはや統計的に有意ではなかった。左房サイズの低下も更に認められたが
、これは、バルサルタンにランダムに割り付けられた患者と比較して、LCZ696にラ
ンダムに割り付けられた患者において、36週間後に左房逆リモデリングが生じたことを
示唆する。LCZ696にランダムに割り付けられた患者において、NYHAクラスに改
善傾向を認め、LCZ696は全体的に忍容性が良好である。これらの所見から、NEP
阻害剤は、HF-pEF患者において好ましい効果を有し得ることが示唆される。
【0175】
更に、LCZ696で治療した際に、左房の逆リモデリングが誘発される、すなわち左
房容量及び左房径が有意に低下すれば、それは、現在標準治療となっているその他の薬物
と比較して、LCZ696を用いて治療した場合、心房細動の治療又は予防、及び/又は
新規発現型心房細動の低減において、LCZ696の使用に利があるという可能性を示唆
するシグナルとなる。この仮説は、心房細動有害事象の発生率は、バルサルタンで治療さ
れた患者群よりもLCZ696で治療された患者群の方が少ないという事実から更に裏付
けられる。
【0176】
実施例2
慢性症候性心不全患者及び駆出率低下型患者(HF-REF)を対象として、疾病率及
び死亡率についてエナラプリル及びLCZ696の長期有効性及び安全性を比較するラン
ダム化、二重盲検、並行群間、実薬対照、2治療群、事象駆動式治験[PARADIGM
-HF]。
LCZ696:例1を参照
【0177】
エナラプリル
ACE阻害剤のエナラプリル又は(2S)-1-[(2S)-2-{[(2S)-1-
エトキシ-1-オキソ-4-フェニルブタン-2-イル]アミノ}プロパノイル]-ピロ
リジン-2-カルボン酸は、商業的供給源から購入可能、又は公知の方法により調製可能
である。
【0178】
目標及び方法:
慢性HF、NYHA機能クラスII~IVの症状を有し、血漿B型ナトリウム利尿ペプ
チド(BNP)又はNT-proBNPレベルが上昇しており、また初期左室駆出率が≦
40%(後日、≦35%に修正)である患者が適格性を有する。患者は、単一盲検エナラ
プリル導入期間(10mg、1日2回まで用量を漸増する)に参加し、その後忍容性に応
じて、LCZ696導入期間(100mg、1日2回を、200mg、1日2回まで用量
を漸増する)が継続する。次に、両薬物につき目標用量において忍容性を有する患者は、
エナラプリル、10mg、1日2回、又はLCZ696、200mg、1日2回のいずれ
かに1:1でランダムに割り付けられる。主要転帰は、心血管系の死亡又はHF入院が複
合したものであるが、本治験は、エナラプリルと比較して、LCZ696における心血管
系の死亡について、15%の相対的リスク低減を検出する検出力を有する。副次的評価項
目は、8ヶ月時点におけるカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)臨床概要スコアにお
ける変化、腎機能変化、及び原因を問わない死亡までの時間であった。
【0179】
治験デザイン及び手順
詳細な治験デザイン及び手順は、www.clinicaltrials.gov、試験番号NCT01035
255に見出すことができ、また「慢性収縮期心不全患者を対象とする、アンジオテンシ
ン変換酵素阻害に代わるアンジオテンシン受容体及びネプリリシン二重阻害:心不全臨床
試験における全体的死亡率及び疾病率に対する影響を明確にするための、ARNIとAC
EIとの前方視的比較に関する根拠及びデザイン(PARADIGM-HF)」と題する
McMurrayらによる欧州心臓病学会誌(2013年4月18日付け)で公表されている。
【0180】
実施例3
駆出率保持型心不全患者(NYHAクラスII~IV)を対象として、疾病率及び死亡
率に対するLCZ696の有効性及び安全性を、バルサルタンと比較して評価する多施設
、ランダム化、二重盲検、並行群間、実薬対照試験[PARAGON-HF]
LCZ696:実施例1を参照
バルサルタン:実施例1を参照
【0181】
背景
駆出率保持型心不全(HFpEF)は、心不全(HF)症例の半分ほどを占め、かなり
の疾病率及び死亡率と関連する。今日までに、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE
I)及びアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)の両方が、HFpEFを対象として臨
床試験で試験されているが、主要転帰の改善について明らかにされていない。いくつかの
病態生理学的機構が、拡張機能異常及び急性容量膨張に対するナトリウム利尿反応障害を
含む本障害と関わっている。
【0182】
LCZ696は、新規クラスのアンジオテンシン受容体ネプリリシン阻害剤(ARNI
)であり、ネプリリシン(NEP)阻害剤であるAHU377、及びARBであるバルサ
ルタンに対する全身曝露を実現する。RAAS系が同時に阻害される場合に限り、NEP
阻害に由来する潜在的臨床ベネフィットを享受可能である。1、2
【0183】
LCZ696の作用機序から、LCZ696は、HFpEFの病態生理学に対して影響
を有し得ることが示唆され、この病態生理学では、過剰な線維化及び筋肥大が、左室弛緩
及び流入異常、拡張期膨張障害、及び/又は血管硬化度の上昇を引き起こし、その結果心
充満圧の上昇が生じると考えられている。
【0184】
PARAMOUNT臨床試験は、HFpEF患者を対象としてLCZ696の安全性及
び有効性について試験し、第12週目に、N末端pro-B型ナトリウム利尿ペプチド(
NT-proBNP)の有意な低下を、また第36週目には、バルサルタンと比較して、
LCZ696にランダムに割り付けられた患者において、左房サイズ及びニューヨーク心
臓協会(NYHA)クラスの有意な改善を明らかにした。NT-proBNPは、ネプリ
リシンの基質ではない。
【0185】
方法
・PARAGON-HFは、HFpEF患者を対象として、転帰(心血管系[CV]の
死亡、及び新規、再発性のHF入院数の合計)に対するLCZ696の効果を評価する。
・スクリーニング:最長2週間
・実薬導入期間:3~8週間(これまでに標準用量のRAAS遮断薬に曝露されたこと
のある患者では短縮し得る;これまで曝露経験を有さない、又は低用量のACEI又はA
RBへの暴露経験を有する患者では延長され得る)。
・二重盲検期間:2.75年の実施を予定;最低2年間のフォローアップを伴う。
【0186】
主目標及び副次的目標
主目標:この治験の主目標は、保持型EF(左室駆出率[LVEF]≧45%)のHF
患者(NYHAクラスII~IV)を対象に、CV死亡及び合計(新規及び再発性)HF
入院数からなる複合エンドポイントの低減率についてLCZ696をバルサルタンと比較
することにある。
【0187】
副次的目標:
・CV死亡、合計HF入院数、合計非致死性脳卒中、及び合計非致死性心筋梗塞(MI
)からなる複合エンドポイントの低減率について、LCZ696をバルサルタンと比較す
る。合計とは、新規事象及びすべての再発事象として定義される。
・8ヶ月時点におけるNYHA機能分類の改善について、LCZ696をバルサルタン
と比較する。
・ベースライン時に、AFの病歴を認めない、及び心電図(ECG)上でAFを認めな
い患者を対象として、AFの新規発現までの時間遅延について、LCZ696をバルサル
タンと比較する。
・原因を問わない死亡までの時間遅延について、LCZ696をバルサルタンと比較す
る。
【0188】
治験デザイン及び詳細手順
詳細な治験デザイン及び手順は、www.clinicaltrials.gov、試験番号NCT01920711に見出すことができる。

本発明は、以下の態様を包含し得る。
[1]
心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患の治療、予防、又はその進行遅延における使用のための、NEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル若しくは医薬的に許容されるその塩、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸若しくは医薬的に許容されるその塩。
[2]
前記治療、予防、又はその進行遅延が、前記心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患に罹患した患者における左房容量、左房容量インデックス(LAVI)、及び/又は左房径の低下により特徴付けられる、上記[1]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル若しくは医薬的に許容されるその塩、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸若しくは医薬的に許容されるその塩。
[3]
前記心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患が、駆出率保持型心不全(HF-PEF)、駆出率低下型心不全(HF-REF)、心房細動、新規発現型心房細動及び再発性心房細動を含む心律動異常、僧帽弁の狭窄及び逆流、心筋症、高血圧症、又は肺性心疾患からなる群より選択される、上記[1]又は[2]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[4]
前記疾患が、駆出率保持型心不全(HF-PEF)である、上記[3]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[5]
心不全に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪化遅延における使用のための、NEP阻害剤プロドラッグ若しくはNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル若しくは医薬的に許容されるその塩;又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸若しくは医薬的に許容されるその塩。
[6]
前記患者が、駆出率保持型心不全(HF-PEF)又は駆出率低下型心不全(HF-REF)に罹患している、上記[5]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[7]
前記患者が、駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患している、上記[5]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[8]
前記NEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤が、心房細動を治療若しくは予防する、又は心房細動の新規発現を予防若しくは新規発現までの時間を遅延させるためのものである、上記[1]又は[2]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[9]
前記患者が、駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患している、上記[8]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[10]
前記NEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤が、心房細動の病歴を有さない患者を治療するためのものである、上記[1]又は[2]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[11]
前記NEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤が、心房細動が新規発現するまでの時間を遅延させる、上記[10]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[12]
前記NEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤が、血漿NT-proBNPのレベルを低下させるのに用いられる、上記[1]から[11]のいずれか一項記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[13]
前記NEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤の投与が、血漿NT-proBNP濃度の持続的低下を引き起こす、上記[1]から[12]のいずれか一項に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[14]
前記使用が、心不全に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪化遅延のためである、上記[1]から[13]のいずれか一項に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[15]
前記患者が、心不全、好ましくは駆出率保持型心不全(HF-PEF)に罹患している、上記[10]、[11]、又は[15]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[16]
前記NEP阻害剤が、約10mg~約1000mgの用量で用いられる、上記[1]から[15]のいずれか一項に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[17]
前記NEP阻害剤又はNEP阻害剤プロドラッグが、アンジオテンシン受容体遮断薬ですでに治療されたことのある患者に投与される、上記[1]から[16]のいずれか一項に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[18]
前記アンジオテンシン受容体遮断薬が、バルサルタン又は医薬的に許容されるその塩である、上記[1]から[17]のいずれか一項に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[19]
前記NEP阻害剤又はNEP阻害剤プロドラッグが、前記アンジオテンシン受容体遮断薬のバルサルタン又は医薬的に許容されるその塩と同時に又は逐次的に、共に投与される、上記[1]から[18]のいずれか一項に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[20]
前記アンジオテンシン受容体遮断薬のバルサルタン又は医薬的に許容されるその塩が、約10mg~約1000mgの用量で用いられる、上記[19]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤。
[21]
前記NEP阻害剤又はNEP阻害剤プロドラッグ及びアンジオテンシン受容体遮断薬が、1:1のモル比で投与される、上記[20]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ又はNEP阻害剤プロドラッグ。
[22]
前記NEP阻害剤プロドラッグが、[3-((1S,3R)-1-ビフェニル-4-イルメチル-3-エトキシカルボニル-1-ブチルカルバモイル)プロピオネート-(S)-3’-メチル-2’-(ペンタノイル{2’’-(テトラゾール-5-イレート)ビフェニル-4’-イルメチル}アミノ)酪酸]三ナトリウム2.5水和物としてのLCZ696の投与により送達される、上記[1]から[21]のいずれか一項に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ。
[23]
LCZ696が、1日当たりの全用量として50mg~400mgで投与される、上記[22]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ。
[24]
LCZ696が、50mg、100mg、又は200mgの用量で1日2回投与される、上記[22]に記載の使用のためのNEP阻害剤プロドラッグ。
[25]
心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患の治療、予防、又はその進行遅延における使用のための、NEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル若しくは医薬的に許容されるその塩、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸若しくは医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物。
[26]
心不全に罹患した患者のNYHA分類における改善、安定化、又は悪化遅延における使用のための、NEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル若しくは医薬的に許容されるその塩、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸若しくは医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物。
[27]
前記NEP阻害剤又はNEP阻害剤プロドラッグが、アンジオテンシン受容体遮断薬バルサルタン又は医薬的に許容されるその塩と同時に又は逐次的に、共に投与される、請求項[25]又は[26]に記載の医薬組成物。
[28]
前記NEP阻害剤又はNEP阻害剤プロドラッグ及びアンジオテンシン受容体遮断薬が、1:1のモル比で投与される、上記[25]又は[26]に記載の医薬組成物。
[29]
前記NEP阻害剤プロドラッグが、[3-((1S,3R)-1-ビフェニル-4-イルメチル-3-エトキシカルボニル-1-ブチルカルバモイル)プロピオネート-(S)-3’-メチル-2’-(ペンタノイル{2’’-(テトラゾール-5-イレート)ビフェニル-4’-イルメチル}アミノ)酪酸]三ナトリウム2.5水和物としてのLCZ696の形態で含まれる、上記[25]又は[26]に記載の医薬組成物。
[30]
心房拡大及び/又はリモデリングを特徴とする疾患を治療し、予防し、又はその進行を遅延させる方法であって、治療上有効な量のNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル若しくは医薬的に許容されるその塩、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸若しくは医薬的に許容されるその塩を、かかる治療を必要とする対象に投与するステップを含む、方法。
[31]
心不全に罹患した患者のNYHA分類を改善させる方法であって、治療上有効な量のNEP阻害剤プロドラッグN-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸エチルエステル若しくは医薬的に許容されるその塩、又はNEP阻害剤N-(3-カルボキシ-1-オキソプロピル)-(4S)-p-フェニルフェニルメチル)-4-アミノ-(2R)-メチルブタン酸若しくは医薬的に許容されるその塩を、かかる治療を必要とする対象に投与するステップを含む、方法。
[32]
前記対象が、ヒトである、上記[29]に記載の方法。
図1