(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】生体触媒の存在下におけるホモファルネソールの生物変換によって形成された(-)-アンブロックス(Ambrox)の固体形態
(51)【国際特許分類】
C07D 307/92 20060101AFI20231222BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20231222BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20231222BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20231222BHJP
C11D 3/50 20060101ALI20231222BHJP
C12P 7/00 20060101ALI20231222BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20231222BHJP
C12N 9/00 20060101ALN20231222BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231222BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20231222BHJP
【FI】
C07D307/92
A61L9/01 H
A61Q13/00 101
C11B9/00 G
C11D3/50
C12P7/00 ZNA
C12N1/21
C12N9/00
C12N15/09 Z
C12N15/52 Z
(21)【出願番号】P 2018555127
(86)(22)【出願日】2017-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2017059327
(87)【国際公開番号】W WO2017182542
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-20
(32)【優先日】2016-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2016/058987
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2016/058997
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501105842
【氏名又は名称】ジボダン エス エー
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100195419
【氏名又は名称】矢後 知美
(72)【発明者】
【氏名】サンハージ,ジスラン
(72)【発明者】
【氏名】ルソー,アリックス
(72)【発明者】
【氏名】ノエル,サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】アイクホーン,エリック
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-513691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D307/92
C12P7/00
REGISTRY STN
CAPLUS STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
で表される(-)-アンブロックスの固体形態を調製する方法であって、
該(-)-アンブロックス化合物の固体形態は、生物変換プロセスによって形成されるものであり;
以下のステップ:
I)生物変換プロセスの手段によって生物変換培地中で結晶(-)-アンブロックスを形成すること;および
II)生物変換培地から(-)-アンブロックスを分離すること
を含み、
ここで、
ホモファルネソールから(-)-アンブロックスを得る生物変換プロセスにおいて、生物変換プロセスから得られる生物変換培地は、粗(-)-アンブロックス
を含有する固相、ならびに、水、および残留ホモファルネソールおよび他の油性のまたは油溶性の不純物または
下記式(II)、(III)および(IV)
【化2】
の副生成物を含有する油相からなる液相(単数または複数)を含み、
ここで、生物変換プロセスが、ホモファルネソールの7E,3Eおよび7E,3Z異性体の混合物を含むホモファルネソールの酵素触媒環化反応であり、環化反応が、7E,3E-異性体が豊富であるホモファルネソール混合物を(-)-アンブロックスに生物変換することができるSHC生物触媒の存在下で行われ、
ここで、
前記変換プロセスの開始時、ホモファルネソールの存在下で、(-)-アンブロックスおよび副生成物が、一緒に溶解されたまま残
っており、(-)-アンブロックスと化合物(II)、(III)および(IV)との混合物中における
前記反応により、未反応ホモファルネソールのレベル
が減少
することにより、(-)-アンブロックスの結晶化
がもたら
され、下流のプロセシングおよび生物変換培地からの固体の(-)-アンブロックスの単離/精製
が促進
される、
前記方法。
【請求項2】
分離のステップが、濾過のステップであるか、デカンテーションのステップであるか、または濾過のステップおよびデカンテーションのステップの両方の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分離のステップに先立って、結晶(-)-アンブロックスを融解させるために生物変換培地が少なくとも55℃の温度まで加熱され;およびその後、(-)-アンブロックスが生物変換培地から再結晶化されるように、ゆっくりと冷却される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
回収された(-)-アンブロックスの結晶が溶媒中で可溶化され、蒸発または再結晶化により溶媒を取り除かれることによって固体形態にされる前に、溶液がサブミクロンフィルターを通して濾過されることで、生物変換培地中に存在していたあらゆる残留粒子状物質を取り除かれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
生体触媒が、酵素をコードする遺伝子を発現する組み換え微生物か、または単離された酵素か、または固定化された酵素である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
酵素が、野生型スクアレンホペン環化酵素または野生型スクアレンホペン環化酵素の変異型である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
結晶が、水、水混和性溶媒、またはそれらの混合物で洗浄される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
未反応ホモファルネソールのレベルが、(-)-アンブロックスが結晶化される混合物の重量に基づいて30重量%未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、(-)-アンブロックス(Ambrox)の固体形態、ならびにそれを調製および精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
AMBROFIX(商標)は、一般式(I)
【化1】
を有する(-)-アンブロックスの、その専売者であるジボダン(Givaudan)の商品名である。
【0003】
AMBROFIX(商標)は、パフューマ―のパレット成分において非常に重要な分子である。これは、あらゆる香料製品における使用のための、極めて強力で、極めて実質的で、かつ極めて安定なアンバー様(ambery)ノートを出す。AMBROFIX(商標)は、ジボダンから入手可能であり、本格的なアンバーグリス(ambergris)匂いノートを得るのに最も好適な物質である。
【0004】
現在、AMBROFIX(商標)は、他の大量生産向けの(-)-アンブロックスの形態と同様に、自然由来の出発物質から合成により生産されている。特定の出発物質の供給と質は、気候条件ならびに社会経済的要因に依存している。さらに、出発物質が天然資源から少量の産生量で抽出されることもあり得るため、ほぼ確実に、工業規模ではそれらの使用をますます不経済なものにしていくであろう価格で市販されている。したがって、AMBROFIX(商標)の大量生産的な工業的供給を、合理的費用で利用し続けていこうとするならば、工業化可能な、より費用対効果の高いプロセスが必要である。
【0005】
(-)-アンブロックスへの工業的に拡張可能なバイオ技術的経路は、完全に合成化学的な手順よりも、潜在的により複雑でなく、より環境に優しく、より環境配慮型であることから、魅力的であろう。
【0006】
(-)-アンブロックスを供給するための生物変換を試みるのに潜在的に使用可能な基質は、ホモファルネソールである。影響力のあるその論文において、Neumannら(Biol. Chem. Hoppe-Seyler Vol. 367 pp 723-726 (1986))は、酵素スクアレンホペン環化酵素(SHC)を採用して、酵素的触媒下での、ホモファルネソールの(-)-アンブロックスへの転換の実現性について議論した。採用されたホモファルネソールは、この分子の4種の幾何異性体混合物であった。4種の異性体のうち、7E,3E幾何異性体(通常の命名法を用いた)だけを環化することができるので、所望の(-)-アンブロックスの非常に低い収量が得られるに過ぎない。
【0007】
JP 2009-60799(花王)は、それによりSHCが(-)-アンブロックスを産生するためのホモファルネソール基質に作用する合成を開示している。基質は、4種の幾何異性体(3Z,7Z;3E,7Z;3Z,7E;および3E,7E)全ての混合物である。同文献は、SHC遺伝子を発現する組み換え微生物から調製されたSHCを含有する液体抽出物を使用したホモファルネソールからの(-)-アンブロックスの調製を開示するのみである。ホモファルネソール混合物は、(-)-アンブロックスとその9-エピ立体異性体に変換され、精製は、蒸留またはカラムクロマトグラフィーにより行うことができる。花王は、SHCを産生する実質的に全形(whole)のまたは無傷(intact)の微生物を用いてホモファルネソールを(-)-アンブロックスに変換するプロセスについては記載しておらず、さらに、(-)-アンブロックスを嗅覚的に純粋な形態で得ることができるそのようなプロセスにより得られる複雑な混合物の下流のプロセシングに関して、全く技術的な教示を提供していない。
【0008】
出願人の知る限り、従来技術は、ホモファルネソールのSHC触媒生物変換を含む、(-)-アンブロックスを嗅覚的に純粋な形態で提供するための、実行可能で工業的に拡張可能なプロセスについて全く記載していない。
さらに、ホモファルネソールの生物変換が工業規模で実現されるようになっても、極めて純度の高い3E,7E-ホモファルネソールの費用効率の高いソースが入手可能でなければならない。しかしながら、ホモファルネソールの合成経路は文献(例えば、US 2013/0273619を参照)に記載されているが、出願人の知る限り、費用対効果の高い、現在入手可能な純粋な7E,3E-ホモファルネソールの工業規模のソースは存在しない。
【0009】
価値あるフレグランス成分(-)-アンブロックスへの、経済的に実現可能でありかつ工業的に拡張可能な経路を提供する必要がある。
同時係属中の特許出願PCT/EP2014/072891(WO2015/059293として公開)およびPCT/EP2014/072882(WO2015/059290として公開)において、出願人は、7E,3E幾何異性体が豊富な7E,3E/Z-ホモファルネソール混合物を調製する効率的方法について記載している。7E,3E/Z-ホモファルネソール混合物は、ベータ-ファルネセンから調製され、この出発物質に含有されている異性体情報は、7位のホモファルネソール二重結合がE-配置で固定されるというように、保存されている。しかしながら、この洗練された化学も、まだ3E/Z異性体混合物をもたらす。純粋な7E,3E-ホモファルネソールは、合成的には難易度が高いままであり、異性体混合物の経済的に不利な精製という手段によってのみ達成され得る。
【0010】
生体触媒によるホモファルネソールからの(-)-アンブロックスの生成に関する開発にもかかわらず、粒子状物質および他の物質、例えば細胞残屑ならびにあり得る副生成物、未反応基質、および生物変換プロセスに採用されるあらゆる溶媒または他の試薬、を含有する生物変換培地から、(-)-アンブロックスを分離および精製する効率的な手段を提供する必要が残っている。
【発明の概要】
【0011】
従来技術の欠点に対処するにあたって、出願人は、驚くべきことに、(-)-アンブロックスの結晶形態が生体触媒プロセス中において形成され得るということを見出した。より具体的には、出願人は、(-)-アンブロックスの結晶が生物変換培地中において形成するということを見出した。
【0012】
生物変換培地中において(-)-アンブロックスが結晶化される驚くべきであり予想外である様式、ならびに、形成された結晶の物理的特徴は、生物変換培地からの、本格的なアンバーグリス(ambergris)の匂いノートを呈する(-)-アンブロックスの本質的に無色かつ嗅覚的に純粋な形態の単離および精製の観点に特に関係する。生体触媒が微生物の生体触媒であるという場合では、そうすると、嗅覚的に純粋な質で(-)-アンブロックスが得られたという知見は、生物変換培地中に存在する微生物の生体触媒が、極めて不快な、攻撃的ですらあるオフノート(off-note)の特徴を有し得るという事実に鑑みれば、特に驚くべきことである。(-)-アンブロックスの結晶が生物変換培地中において微生物の触媒の外側に形成されるという驚くべき知見は、悪臭のする培地からの(-)-アンブロックスの特に効率的な分離を可能にする。
【0013】
したがって、本発明は、第1の側面において、式(I)で表される化合物の固体形態、
【化2】
ここで、前記固体形態は、以下の特徴の少なくとも1つによって特徴付けられる:
それが、以下の回折角2θのピーク、約15.6、16.2、16.7、17.0、17.4、18.3+/-0.2°の少なくとも1つを有するX線回折パターンを呈する;
それが、レーザー粒度測定法により測定すると10~400ミクロンの間の、より具体的には40~400ミクロンの間の、およびより具体的にはさらに100~400ミクロンの間の平均直径を有する細長い結晶を含む;
それが、レーザー粒度測定法により測定すると20~600ミクロンの、より具体的には40~500ミクロンの、およびより具体的にはさらに100~400ミクロンの、好ましくは100ミクロンよりも大きい、より具体的には200ミクロンよりも大きい、およびより具体的にはさらに300ミクロンよりも大きいその最長寸法に沿って測定した長さを有する細長い結晶を含む;および
それが、本明細書下記において用語が定義されているとおり、実質的に無色である。
【0014】
より具体的な態様においては、式(I)で表される化合物の固体形態は、以下の回折角2θのピーク、約15.6、16.2、16.7、17.0、17.4および18.3+/-0.2°を有するX線回折パターンを呈する粉末X線回折パターンによって特徴付けられる。
さらにより具体的な態様において、式(I)で表される化合物の固体形態は、実質的に以下の
図1に描画されたとおりの粉末X線回折パターンによって特徴付けられる。
【0015】
出願人の知る限り、生体触媒プロセスにより形成された(-)-アンブロックスの固体形態は、従来技術においてこれまでに記載も示唆もされていない。
したがって、本発明は、別のその側面において、式(I)に従う生物変換生成物の固体形態を提供する。
本発明の態様において、式(I)に従う生物変換生成物の固体形態は、本明細書における上記で言及した特徴の少なくとも1つを有する。
【0016】
上で言及した粉末X線回折データは、当分野において周知である回折測定設備を使用して単純明快な様式で集めることができる。本明細書において言及される粉末X線回折パターンを測定するのに使用される方法論および器具類は、例においてより詳細に記載される。
【0017】
結晶の形状は、当分野において周知の方法に従う顕微鏡法によって決定されており、ここではこれ以上の詳述を要しない。
本発明に従って得られた個々の結晶の特徴的なサイズおよび形状は、以下、
図2に示される。
【0018】
結晶の平均直径測定は、レーザー粒度測定法によって決定された。レーザー粒度測定法は、当分野において周知の技術である。平均粒子サイズは、かかる目的のために既知であるあらゆる粒子サイズ分析計、例えば、CILAS 1180 No. 516機器にて決定することができる。測定は、ISO規格13320-1(2009年改訂)に従って、Fraunhoferを使用して、水をキャリア液として遮蔽指数(obscuration index)24にて行うことができる。
【0019】
上述のとおり、(-)-アンブロックスが生物変換培地中において結晶形態で現れるという事実、ならびに結晶の物理的特徴、すなわち、それらのサイズおよび密度は、(-)-アンブロックスの単離の効率性、および結局のところその透明性および嗅覚的純粋性の観点に特に関係する。
【0020】
さらに具体的に言うと、サイズ分離のステップ、つまり、結晶のサイズ、形状および/または密度などの物理的特徴を活かした分離のステップ、さらに具体的に言うと濾過またはデカンテーションのステップという手段によって、粒子状物質、例えば細胞残屑、ならびにあらゆる副生成物、不純物などが含まれる生物変換培地から、結晶を効率的に分離することが可能であった。
【0021】
さらに、粒子状物質およびその他の物質からのみならず、多成分で色の濃い生物変換培地からも、結晶の効率的な分離をすることは、形成され得るあらゆる副生成物、これは化合物(II)、(III)および(IV)として本明細書下記において言及される立体もしくは構造異性体などの、構造的な(構造)異性体および立体異性体を包含し得、これは(-)-アンブロックスと違って生物変換培地中において結晶化しない、を包含する不純物からの、(-)-アンブロックスの単離をも可能にする。
【0022】
よって、(-)-アンブロックスが結晶化する様式、ならびにサイズ分離のステップの結果として、出願人には、本質的に無色かつ嗅覚的に純粋な生成物として(-)-アンブロックスを得ることが可能になる。
【0023】
したがって、本発明は、別のその側面において、(-)-アンブロックスの固体形態を調製する方法であって、以下のステップ:
I)生体触媒プロセスの手段によって生物変換培地中で結晶(-)-アンブロックスを形成すること;および
II)生物変換培地から(-)-アンブロックスを分離すること
を含む、前記方法を提供する。
【0024】
本発明の手段によってそこから結晶(-)-アンブロックスを分離することができる生物変換培地は、不純物のありとあらゆる様式、例えば粒子状物質、副生成物などを含有し得る。特に、生物変換が、微生物の生体触媒を使用して行われるときには、結晶(-)-アンブロックスを、細胞および細胞残屑を含有する生物変換培地から、分離することができる。
【0025】
本発明の具体的な態様においては、分離のステップは、液相(単数または複数)からの結晶物質の分離を可能にするのみならず、結晶の物理的特徴、例えばそれらのサイズ、形状および/または密度などのために、細胞または細胞残屑などのあらゆる粒子状物質からの結晶の分離をも可能とする、サイズ分離のステップである。
【0026】
より具体的な態様においては、サイズ分離のステップは、濾過のステップであるか、デカンテーションのステップであるか、または濾過およびデカンテーションの組み合わせである。
(-)-アンブロックスはまた、濾過および/またはデカンテーションに代替して、またはこれに加えて、ペレット化されてもよい。好ましくは、(-)-アンブロックスの結晶は、濾過および/またはデカンテーションおよび/またはペレット化に先立って融解される。
【0027】
本発明の具体的な態様においては、分離のステップに先立って、ii)生物変換培地は、(-)-アンブロックスを再結晶化させるための徐冷却の前に、(-)-アンブロックスの結晶を融解させるために加熱することができる。この目的のために、生物変換培地は、少なくとも55℃の温度まで加熱され得る。約20度以下の温度まで、例えば4℃まで、1時間あたり数度の速度で、より具体的には1時間あたり約5℃の速度で、ゆっくりと冷却される前に、加熱は、約15分から約2時間までの範囲の時間にわたって徐々に行われ得る。この冷却の後で、生物変換培地は、8時間の間、4℃に維持され得る。
再結晶化のステップは、より大きくより均一な結晶を形成させることを可能にし、これは分離のステップの効率性をさらに改善することの助けになる。
【0028】
驚くべきことに、再結晶化に先立つ生物変換培地への塩の添加は、結晶成長を支援し、これはさらに結晶のサイズを増大させ、および結晶サイズのより均一な分布を作り出したことが見出された。具体的な塩は、無機塩を、および特に塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムおよび塩化リチウムを包含する。
【0029】
生物変換プロセスの間に形成されたより小さいかまたは壊れた結晶が排除されるので、結晶の増大したサイズおよび改善された均一性は、引き続くサイズ分離のステップを促進することができる。
【0030】
サイズ分離のステップは、生物変換培地中に含有される粒子状物質、例えば、細胞および細胞残屑を、濾液とともに通過させるのに十分大きいが、(-)-アンブロックス結晶の全てまたは実質上全てを被保持物として捕捉するのに十分小さいメッシュサイズを有するフィルターを採用した濾過により、行うことができる。
(-)-アンブロックスの結晶は、10~100ミクロンの間またはそれ以上のメッシュサイズ、好ましくは約50ミクロン、60ミクロン、70ミクロン、80ミクロン、90ミクロンまたは100ミクロンより大きい、を有する好適なフィルター床によって濾過されることができる。
【0031】
濾過を行う手段に関しては、既知の濾過技術および設備のあらゆるものを採用することができる。しかしながら、工業的に規模拡大し得る技術が優先される。この観点で、遠心濾過は、特に好適である。
濾過遠心装置は、当分野において広く既知である(例えば、Frederick J. Dechow Novesによる“Separation and Purification Techniques in Biotechnology”の第1章;出版物ISBN No. 0-8155-1197-3を参照)。装置は、分離板遠心機、またはシリンダー型遠心機を包含する、そのあらゆる変型であってもよい。
【0032】
濾過のステップを、Siebtechnic H250などの連続スクリーン遠心にて実行することが可能である。メッシュサイズは、本明細書上記において言及したあらゆるサイズ、および特に約100ミクロン以上、とすることができる。濾過のプロセスの効率性に鑑みて、遠心は、500gと2500gとの間で、およびより具体的には、約2000gで、さらにより具体的には2028gで、動作させてもよい。生物変換培地が遠心へと供給される速度は、可能な限り最も効率的な濾過を提供するために最適化されることができ、および、300~800kg/時間、およびより具体的には約400kg/時間、より具体的にはさらに約430kg/時間の速度を包含してもよい。
【0033】
代替的に、サイズ分離のステップは、デカンテーションのステップの手段によって行われてもよい。
デカンテーションのプロセスにおいて、生物変換培地は、好適なデカンテーション装置中へと供給され、およびその中で重力加速を施される。ストークスの法則(Stoke's Law)に従って、生物変換培地中におけるより小さくて低密度である粒子状物質、例えば、細胞または細胞残屑は、生物変換プロセスの他の不純物を含有する上清中において懸濁されて保持され、一方、比較的大きくて高密度である(-)-アンブロックスの結晶は、それのために提供された台(bed)の上に沈殿物として沈む。分離は、静的に行うことができ、または、生物変換培地に、6000gまでの、より具体的には約500~1500gの、およびより具体的には約1000gの、およびより具体的にはさらに1170gの、力を施すことによって、それを促進することができる。
【0034】
上清は、取り去られて捨てられてもよく、または代替的に、上清中に残ったあらゆる結晶(-)-アンブロックスを分離および回収するためのさらなるデカンテーションのステップが施されてもよい。
デカンテーション装置は、当分野において一般的に既知である。本発明における使用のために好適である具体的な装置は、Guinard Decanter、例えば、モデルD1LC20HCである。生物変換培地は、効率的なスループットを提供するために最適化されたいずれかの望ましい速度で、例えば、500kg/時間までで、および、より具体的には約300~400kg/時間で、装置中へと供給され得る。
【0035】
濾過およびデカンテーションは、粒子サイズ分離のプロセスにおけるステップとして個別に採用されてもよく、または、濾過およびデカンテーションのステップの組み合わせが使用されてもよい。サイズ分離のステップに従って反応培地から分離された(-)-アンブロックスの結晶は、あらゆる粒子状物質、例えば細胞または細胞残屑、ならびにあらゆる他の残留不純物、例えば副生成物、溶媒、未反応基質など、を取り除くために洗浄されてもよい。
【0036】
Solvents useful 結晶を洗浄するのに有用な溶媒は、洗浄のステップが行われる温度で(-)-アンブロックスがこれに不溶性または極めて難溶性であるようなあらゆる溶媒を包含する。より具体的には、(-)-アンブロックスは、(-)-アンブロックスの溶解度が5℃において10重量%以下である溶媒中において、不溶性または極めて難溶性であると見なされる。
【0037】
洗浄は、水、水混和性溶媒、またはそれらの混合物を使用して行ってもよい。好適な水混和性溶媒は、エタノールなどの低級アルカノールを包含する。
より具体的には、結晶は、水、例えば1質量の結晶に対して3質量の水で洗浄される。複数回洗浄(multiple washings)が行われてもよい。
洗浄後、濾液を、または場合によっては上清を、捨てることができる。
【0038】
(-)-アンブロックスの回収は、フィルターまたはデカンター装置またはベルトフィルター(例えば、変形(modifications)7、8、9および20)からのその機械的除去(mechanical removal)により達成することができ、集められ、および乾燥させられる。(-)-アンブロックスは、この形態で、さらなる精製または仕上げ(polishing)なしに、香料用途において使用することができる。
しかしながら、より典型的には、(-)-アンブロックスには、香料用途に用いられる前に、溶媒中に溶解されて下記においてより詳細に記述されるとおりのさらなる精製ステップを施すことができる。
【0039】
分離のステップから得られた(-)-アンブロックスは、好適な溶媒中に溶解させることができる。好適な溶媒は、トルエン、またはエタノール、例えば96%エタノールなどの、低級アルカノールを包含する。
(-)-アンブロックスの溶液には、粒子サイズ分離のステップの間に取り除かれなかったかも知れない細胞または細胞残屑などのあらゆる残留粒子状物質を(-)-アンブロックスから取り除いて分離するのに好適なメッシュサイズを有するフィルター上での濾過のステップ、および引き続く洗浄が、施され得る。好適なメッシュサイズは、0.22~1ミクロンの間から始まり、および、150ミクロンまでであり得る。かかる目的のために好適であることが当分野において既知であるあらゆる濾過技術および装置が、本発明に従って採用されてもよい。
【0040】
結晶を溶解させるために、エタノールを使用することができる。使用するエタノールの量は、好ましくは、約25℃で(-)-アンブロックスを溶解させるのに十分なものとし、典型的には約1部の結晶に4部のエタノールとし、および、溶液が、1barの圧力および大気温度で0.22ミクロンフィルター(例えばKDS15)によって濾過される。加えて、それは最終的に、仕上げの濾過のステップとして0.22ミクロンフィルターによって濾過されてもよい。
【0041】
この段階での、細胞または細胞残屑などのあらゆる残りの粒子状物質を取り除くための濾過は、(-)-アンブロックスに対して脱臭効果を有することができる。これは、完成品の(-)-アンブロックス製品中に残留細胞または細胞残屑が残っているとすると、それが極めて不快なオフノートの原因になることがあるからである。(-)-アンブロックスの定着性がある特性のために、オフノートは特になかなか消えないものとなり得るので、その除去は嗅覚的に純粋な(-)-アンブロックスを得る目的のために特に重要である。
【0042】
(-)-アンブロックスに、生物変換培地からの効率的な結晶の分離にもかかわらず存在するかもしれないあらゆる残留着色を取り除くための、任意の漂白のステップを施すことができる。フレグランス用途のためには、薄く色がついた(-)-アンブロックスでさえも原材料として望ましくないので、生成物をフレグランス用途、及び特にファインフレグランス用途、または香り付き化粧品用途のために価値あるものにしようとするならば、(-)-アンブロックスを可能な最大限まで透明にすることは、特に重要である。
【0043】
この目的のために、可溶化された(-)-アンブロックス結晶の溶液を、活性モンモリロナイト粘土および/または活性炭などの漂白剤と接触させることができる。好適な漂白剤は、TONSIL FF、より具体的には、TONSIL 412FF、および/またはanimal blackまたはNoritを包含する。
任意に、(-)-アンブロックスの溶液に漂白剤を添加することの代替として、溶液を濃縮し、および固形残渣を減圧下で蒸留することもできる。
【0044】
漂白剤は、(-)-アンブロックスの還流溶液(80~85℃)に添加してもよい。この目的のために、漂白剤は、エタノールなどの好適な溶媒における懸濁液として添加してもよい。漂白剤と溶液との接触は、30分間ほどの時間であってもよい。その後、漂白剤は、濾過によって、例えば、25ミクロンフィルターを使用して、取り除かれる。
【0045】
漂白剤は、色の濃い反応混合物の色を低減させること、ましてや香料用途のために必要とされるかまたは好適な程度までそうすることにおいては、効果的ではないかも知れない。しかしながら、本明細書に記載された生物変換培地からの(-)-アンブロックスの効率的な単離および精製のため、(-)-アンブロックスの溶液は既に実質的に無色であり、この溶液について所望の漂白効果を得ることはそれほど難しくない。結果として、生体触媒プロセスの生成物であるにもかかわらず、生成物を香料用途において採用しようとするならば期待される望ましい明度および色相を持った(-)-アンブロックスの形態を、得ることが可能である。
【0046】
本発明の方法に従うと、脱臭および脱色された(-)-アンブロックス溶液は、溶媒の除去により、固体形態で提供され得る。溶媒除去は、再結晶化によってまたは蒸発によって影響されることがある。回収された(-)-アンブロックスは、溶媒除去が行われる様式に応じて、粉砕されてもよい、その再結晶化された形態でまたは固形残渣として得られ得る。
【0047】
溶媒は蒸発により取り除かれ得、残留固形物は、例えば粉砕により回収され得、保存されて、香料用途において使用される。
代替的に、残留固形物は、好適な再結晶化溶媒中に溶解されてもよい。目的のために好適な溶媒は、エタノールなどの水混和性アルカノール、または前記アルカノールと水との混合物である。再結晶化溶媒は、約10~15℃までの徐冷却の前に、約75~80℃まで15分間加熱することができる。結果物たる結晶は、濾過により回収し、および、任意に真空下で(例えば、0.5bar)、乾燥させることができる。
【0048】
本発明に従う方法の結果として、(-)-アンブロックスを実質的に無色かつ嗅覚的に純粋である固体形態で得ることができる。
【0049】
したがって、本発明は、別のその側面において、実質的に無色の(-)-アンブロックスの固体形態であって、90以上のL*値;1未満であり-1よりも大きいa*値;および8未満であるb*値を有する、ここでL*、a*およびb*値はCIELAB L*a*b*色度座標を表す、前記(-)-アンブロックスの固体形態を提供する。
本発明に従う(-)-アンブロックスの固体形態は、高い度合いの明度または明るさ(brightness)、および低い度合いの黄色度を呈する。これは香料用途のために、および特にファインフレグランスまたは化粧品における使用を意図した香料のために、視覚的な美観並びに匂いが重視されること、および香り付きの製品が香料成分の組み込みの結果として退色してはならないことから、重要である。
【0050】
本発明に従う(-)-アンブロックスは、90以上の、明度を示すL*値、および8以下の、青-黄の色相を示すb*値を有する。L*値は、好ましくは92以上であり、またはさらには93以上である。b*値は、好ましくは5以下であり、またはさらには4以下である。
【0051】
L*値は、物の明度を規定する値であり、0と100との間の値によって示される。100のL*値は、最も明るい状態(完全白)を示し、および、0のL*値は、最も暗い状態(完全黒)を示す。
b*値は、物の青-黄の色相を規定する。b*値が大きければ大きいほど、黄色度の度合いが高くなる。b*値が小さければ小さいほど、青色度の度合いが高くなる。
【0052】
L*値およびb*値は、色差表示方法に従うLab色度座標によって示され得る。L*値およびb*値は、いずれかの好適な市販の分光光度計、例えばMinolta CM3500dなどを使用して、測定され得る。
【0053】
分光光度計は、測定を行う前に、少なくとも1時間電源を入れておくべきである。それのために提供されたガラス容器は、測定しようとする固形生成物で半分が満たされるようにし、容器の底が確実に生成物によって完全に覆われるように注意すべきである。その後、満たされた容器は、それのために提供された試料スタンド中に置くべきである。機器上の試料キーを押すべきであり、表示パネルからL*a*b*値を読み取る。
あらゆる読み取りを行う前に、それのために提供された黒および白の物体を機器の光学センサーの窓上に置くことによって、機器をゼロおよび100%反射について校正すべきである。
【0054】
本発明の態様において、(-)-アンブロックスの固体形態は、上で特徴付けられている結晶形態である。
本発明の態様において、(-)-アンブロックスの固体形態は、生物変換生成物である。
本発明の態様において、(-)-アンブロックスの固体形態は、本明細書に記載されているとおりの生物変換プロセスに従って形成された生物変換生成物である。
【0055】
本発明のまた別の側面において、本明細書に記載されたとおりの生体触媒プロセスによって得られた(-)-アンブロックスの形態が提供される。
より具体的な態様においては、生体触媒プロセスは、微生物の生体触媒プロセスである。
本発明のまた別の側面において、本明細書に定義されたとおりの(-)-アンブロックスの形態の、フレグランスまたはフレーバー用途における使用が提供される。
【0056】
本発明の原理、使用および実施は、付属の詳細な記載および図面を参照してさらに説明され、および理解され得る。発明の具体的な態様をより詳細に解説する前に、しかしながら、発明は、これ以降に記載される詳細に、その原理において限定されるものではないことが理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0057】
発明の詳細な記載
本発明に従って、(-)-アンブロックスの結晶形態は、生物変換プロセスによって得られる。条件が、生体触媒が基質を変換させて、生物変換培地中において結晶化される形態で(-)-アンブロックスを生成することができるようなものであるならば、生物変換の正確な性質(例えば、使用する生体触媒、基質、基質の生物変換のための反応条件などの性質)は重大ではない。
【0058】
本発明の態様において、7E,3E/Z-ホモファルネソールの混合物からなる基質は、生物変換プロセスを受け、それによりホモファルネソール混合物が、酵素、特にホモファルネソールを(-)-アンブロックスに生物変換することができるスクアレンホペン環化酵素(SHC)生物触媒、を発現する組み換え微生物の存在下で酵素的に環化されて、(-)-アンブロックスを驚くほど効率的な下流プロセシングにより実質的に無色かつ嗅覚的に純粋な形態で単離し得る反応混合物を産生する。
【0059】
本発明の一つの側面において、(-)-アンブロックスを含む反応混合物を提供するための、ホモファルネソールの酵素触媒環化が提供され、ここで、ホモファルネソールは、ホモファルネソールの7E,3E/Z-幾何異性体の混合物を含み、反応は、酵素を産生する組み換え微生物、より具体的には酵素を産生する実質的に全形のまたは無傷の組み換え微生物の存在下で行われる。
【0060】
環化反応は、ホモファルネソールを(-)-アンブロックスに生物変換することができるSHC生物触媒の存在下で行われる。
SHC生物触媒は、野生型もしくは変異型酵素であるか、またはSHC酵素をコードする遺伝子を発現する微生物、好ましくは組み換え大腸菌微生物である。SHC生物触媒は、これらに限定されないが、精製されたSHC酵素、SHC酵素を含有する粗(crude)抽出物、または(例えば、担体上に)固定化されたSHC酵素などのあらゆる形態で用いることができ、あるいは、生物触媒は、SHC酵素を含有する、無傷の組み換え全細胞および/または断片化細胞または膜分画などの、SHCを産生したもしくは産生する微生物であってもよい。
【0061】
本発明の具体的態様においては、ホモファルネソール混合物は、7E,3E-幾何異性体が豊富である。
より具体的な態様においては、ホモファルネソール混合物は、少なくとも7E,3E/7E,3Zの重量で55/45である。
より具体的な態様においては、ホモファルネソール混合物は、少なくとも7E,3E/7E,3Zの重量で70/30である。
さらにより具体的な態様において、ホモファルネソール混合物は、少なくとも7E,3E/7E,3Zの重量で80/20である。
【0062】
さらにより具体的な態様において、ホモファルネソール混合物は、少なくとも7E,3E/7E,3Zの重量で90/10である。
さらにより具体的な態様において、ホモファルネソール混合物は、少なくとも7E,3E/7E,3Zの重量で95/5である。
本発明の具体的態様においては、ホモファルネソール混合物は、ホモファルネソールの7E,3E/Z-幾何異性体からなり、他の幾何異性体を含まない。
【0063】
当業者は、ホモファルネソールに関連して用いられる用語7E、7Z、3Eまたは3Zが、それぞれ、ホモファルネソールの7位および3位における二重結合の配向性について言及することを理解する。7E,3E-ホモファルネソール化合物はCAS No. 459-89-2を有するのに対し、7E,3Z-ホモファルネソール化合物はCAS No. 138152-06-4を有する。用語7E,3E/Z-ホモファルネソールの使用は、その化合物の混合物について言及する。
【0064】
本発明の方法に従って、環化反応における基質として有用なホモファルネソール混合物を得る方法は、上で言及した同時係属中の出願PCT/EP2014/072891(WO2015/059293として公開)およびPCT/EP2014/072882(WO2015/059290として公開)において記載されており、これらはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
一般論として、これらは、N-アルキル-N-ニトロソ尿素の有機溶液を用いて、ファルネセン、より具体的には、アルファ―ファルネセンおよび/またはベータ-ファルネセンを、それに対応するシクロプロパン化されたファルネセン誘導体に変換することによって進行するホモファルネソール混合物の合成について記載している。次いで、シクロプロパン化された誘導体は、7E,3E幾何異性体に選択的なホモファルネソール混合物を提供する、ブロンステッド酸の存在下での開環および転位反応を受ける。出発物質としてファルネセンを用いることは、ホモファルネソールの7位における二重結合のE-構造が固定されるのを確保するため、特に好ましい。
【0066】
本発明の特定の態様を形成する特別な反応条件は、同時係属中の出願ならびに本明細書の下記における例に記載されており、ここではこれ以上の詳述を要しない。
【0067】
(-)-アンブロックスを含有する反応混合物を提供するホモファルネソールの環化は、スクアレンホペン環化酵素(SHC)により触媒され得る。SHCは、野生型酵素(例えば、配列番号1)またはその変異型(例えば、配列番号2または配列番号4)であってもよい。SHCは、アリシクロバチルス・アシドカルダリウス(Alicyclobacillus acidocaldarius(バシラス・アシドカルダリウス)(Bacillus acidocaldarius)))、ジモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)、または(US2012/0135477A1の例3bに記載されているように)ブラディリゾビウム・ジャポニクム(Bradyrhizobium japonicum)から得ることができる。
【0068】
しかしながら、酵素はまた、当分野において一般的に既知である技術を用いて、組み換え手段により産生することもできる。
酵素に関して用いられる用語「組み換え」は、組み換えDNA技術によって産生される、すなわち所望の酵素をコードする外来性DNAコンストラクトによって形質転換された細胞から産生される、酵素を言うものとする。したがって、用語「組み換えDNA」は、ベクターに、自己複製プラスミドもしくはウイルスに、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA(もしくは、天然の染色体上の部位以外の位置において、相同な細胞のゲノム)に組み込まれた組み換えDNAを包含する。
【0069】
核酸分子は、原核生物および/または真核生物宿主細胞における発現を可能にする発現制御配列に動作可能に連結される。本明細書において用いられる「動作可能に連結される」は、発現制御配列が、目的のコード配列の発現を有効に制御するように遺伝子コンストラクトに組み込まれていることを意味する。
【0070】
上で言及した転写/翻訳制御エレメントは、誘導性および非誘導性、構成的、細胞周期により制御される、代謝により制御されるプロモーター、エンハンサー、オペレーター、サイレンサー、リプレッサー、ならびに当業者に公知であり、遺伝子発現を駆動または別様に制御する他のエレメントを包含するが、これらに限定されない。かかる制御エレメントは、構成的発現に向かわせるかあるいは、例えばCUP-1プロモーター、例えばtetオンまたはtetオフシステムに採用されるtetリプレッサー、lacシステム、trpシステム制御エレメントのように誘導性発現を可能にする、制御エレメントを包含するが、これらに限定されない。
【0071】
例として、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)は100μMから1.0mMの濃度範囲内においてタンパク質発現の効果的な誘導因子である。この化合物は、lacオペロンの転写を惹起するラクトース代謝物質であるアロラクトースの分子模倣体であり、それゆえに、遺伝子がlacオペレーターの制御下にあるときにタンパク質発現を誘導するために用いられる。
【0072】
同様に、核酸分子は、追加のポリペプチド配列、例えばマーカーまたはレポーターとして機能する配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部を形成し得る。マーカーおよびレポーター遺伝子の例には、ベータ-ラクタマーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、ハイグロマイシン-B-ホスホトランスフェラーゼ(HPH)、チミジンキナーゼ(TK)、(ベータ-ガラクトシダーゼをコードする)lacZ、およびキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(XGPRT)が含まれる。本開示の実施に関係する標準的手順の多くと同じく、当業者は追加の有用な試薬、例えばマーカーまたはレポーターの機能を果たし得る追加の配列を知っているであろう。
【0073】
組み換えポリヌクレオチドは、野生型SHCまたはその変異型などのSHC酵素をコードすることができ、これは発現および任意の精製のためにベクター中に挿入され得る。ある種のベクターは、その中に追加のDNAセグメントがライゲーションされている環状二本鎖DNAループを代表するプラスミドである。
【0074】
あるベクターは、それらが機能的に連結された遺伝子の発現を制御することができる。これらのベクターは「発現ベクター」と呼ばれる。通常は、DNA組み換え技術に好適な発現ベクターはプラスミド型である。典型的には、発現ベクターは、野生型SHCまたはその変異型などの遺伝子を含む。プラスミドは最も多くの場合に用いられるベクター型であるので、本明細書において、用語「プラスミド」および「ベクター」は交換可能に用いられる。
【0075】
かかるベクターは、宿主細胞中に天然には存在しないDNA配列、通常はRNAに転写またはタンパク質に翻訳(「発現」)されないDNA配列、および非組み換え宿主に導入したい他の遺伝子またはDNA配列を包含するが、これらに限定されないDNA配列を包含し得る。
【0076】
典型的には、組み換え宿主のゲノムは、1種以上の組み換え遺伝子の安定な導入によって拡張されるということが理解されるであろう。しかしながら、自己または複製プラスミドもしくはベクターもまた、本開示の範囲内において用いられ得る。さらに、本開示は、低コピー数、例えば単一コピー、または高コピー数であるプラスミドまたはベクターを用いて実施され得る。
【0077】
好ましい態様において、本開示のベクターは、プラスミド、ファージミド、ファージ、コスミド、人工細菌および人工酵母染色体、ノックアウトまたはノックインコンストラクト、合成核酸配列、あるいはカセットを含み、一部は直鎖状ポリヌクレオチド、プラスミド、メガプラスミド、植物、細菌、哺乳類、もしくは酵母人工染色体などの合成または人工染色体の形態で産生され得る。
【0078】
導入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質は、ベクターの導入時に細胞内で産生されることが好ましい。多様な遺伝子基質がプラスミド中に組み込まれ得る。プラスミドは多くの場合、標準的なクローニングベクター、例えば細菌マルチコピープラスミドである。基質同士は同じかまたは異なるプラスミド中に組み込まれ得る。多くの場合、異なる型の選択可能なマーカーを有するプラスミドの少なくとも2つの異なる型が用いられ、少なくとも2つの型のベクターを含有する細胞の選択を可能にする。
【0079】
典型的には、細菌または酵母細胞が、当分野において周知であるように下記ヌクレオチド配列のいずれか1種以上によって形質転換され得る。インビボ組み換えのためには、ゲノムまたは他の遺伝子と組換えられるべき遺伝子が、標準的な形質転換技術を用いて宿主を形質転換するために用いられる。好適な態様においては、複製起点を提供するDNAがコンストラクト中に含まれる。複製起点は当業者によって適切に選択され得る。遺伝子の性質に応じて、配列が、それら自体で複製起点として作動可能である遺伝子またはゲノムに既に存在する場合には、補足的な複製起点は必要とされないこともある。
【0080】
細菌または酵母細胞は、かかるDNAが細胞内に導入されたときに、外来性または異種DNAによって形質転換され得る。形質転換DNAは統合され(integrated)、すなわち細胞のゲノム中に共有結合的に連結されてもよく、もしくは統合されなくてもよい。原核生物および酵母において、例えば、形質転換DNAはプラスミドなどのエピソームエレメントとして維持され得る。
【0081】
真核生物細胞に関しては、安定にトランスフェクションされた細胞は、トランスフェクションされたDNAが、それが染色体複製を介して娘細胞に受け継がれるように染色体に統合されたものである。この安定性は、形質転換DNAを含有する娘細胞の集団で構成される細胞株またはクローンを樹立する真核生物細胞の能力によって実証される。
【0082】
一般的に、導入されるDNAは、DNAの受容者である宿主に元々内在してはいないが、所与の宿主からDNAセグメントを単離し、引き続いてそのDNAの1つ以上の追加のコピーを同じ宿主に導入して、例えば遺伝子産物の産生を増強するかまたは遺伝子の発現パターンを変化させることは本開示の範囲内である。いくつかの場合には、導入されたDNAは、内因性の遺伝子またはDNA配列を、例えば相同組み換えまたは部位特異的変異導入により、改変するかまたはさらには置換するであろう。好適な組み換え宿主には、微生物、植物細胞、および植物が含まれる。
【0083】
本開示はまた、組み換え宿主をも特徴とする。用語「組み換え宿主」はまた、「遺伝子改変宿主細胞」または「トランスジェニック細胞」ともまた言われ、異種核酸を含むか、またはそのゲノムが少なくとも1つの組み込まれたDNA配列によって拡張された宿主細胞を指す。本開示の宿主細胞は、上で概説されているようにポリヌクレオチドまたはベクターによって遺伝子改変され得る。
【0084】
本開示の目的のために用いられ得る宿主細胞には、例えば、本開示のポリヌクレオチド分子を含有する組み換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA、細菌人工染色体、またはコスミドDNA発現ベクターによって形質転換され得る細菌(例えば大腸菌および枯草菌)などの原核生物細胞;例えば本開示のポリヌクレオチド分子を含有する組み換え酵母発現ベクターによって、形質転換され得る酵母(例えばサッカロミセス(Saccharomyces)およびピキア(Pichia))のような単純な真核生物細胞、が含まれるが、それに限定されない。
【0085】
本開示のポリヌクレオチドを導入するために用いられる宿主細胞およびそれぞれのベクターに応じて、ポリヌクレオチドは例えば染色体もしくはミトコンドリアDNAに統合し得るか、または例えばエピソームに、のように染色体外に、維持され得るか、または一過性にのみ細胞内に含まれ得る。
【0086】
特に遺伝子工学、および1種以上の遺伝子または遺伝子の集合クラスターを細胞に導入することに言及して本明細書において用いられる用語「細胞」または産生細胞は、あらゆる原核生物または真核生物細胞を言うと理解される。原核生物および真核生物宿主細胞は両方とも、本開示に従った使用を企図され、大腸菌もしくはバシラス種のような細菌宿主細胞、S・セレビシエなどの酵母宿主細胞、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptora frugiperda)などの昆虫宿主細胞、またはHeLaおよびJurkatなどのヒト宿主細胞を包含する。
【0087】
具体的には、細胞は真核生物細胞、好ましくは真菌、哺乳類もしくは植物細胞、または原核生物細胞である。好適な真核細胞には、例えば限定なしに哺乳類細胞、酵母細胞、または(Sf9を包含する)昆虫細胞、(黒色素胞細胞を包含する)両生類細胞、または(カエノラブディティス・エレガンスを包含する)カエノラブディティスの細胞を包含する蠕虫細胞が含まれる。好適な哺乳類細胞には、例えば限定なしに(Cos-1およびCos-7を包含する)COS細胞、CHO細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、HEK293 T-RexTM細胞、または他のトランスフェクション可能な真核細胞株が含まれる。好適な細菌細胞には、限定なしに大腸菌が含まれる。
【0088】
好ましくは、大腸菌、バシラス、ストレプトミセス(Streptomyces)などの原核生物、またはHeLa細胞もしくはJurkat細胞のような哺乳類細胞、またはシロイヌナズナ(Arabidopsis)のような植物細胞が用いられ得る。
好ましくは、細胞はアスペルギルス種または真菌細胞であり、好ましくは、これは属サッカロミセス、カンジタ、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、ハンゼヌラ(Hansenula)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、ヤロウィア(Yarrowia)、ピキア、およびアスペルギルスからなる群から選択され得る。
好ましくは、大腸菌宿主細胞は、産業界および規制当局によって認識されている大腸菌宿主細胞である(大腸菌 K12宿主細胞または例に実証されている大腸菌 BL21宿主細胞を包含するが、これらに限定されない)。
【0089】
本開示で用いるための1種の好ましい宿主細胞は大腸菌であり、これは本明細書に記載されているように組み換え的に調製され得る。それゆえに、組み換え宿主は、組み換え大腸菌宿主細胞であり得る。大腸菌については、利用可能な変異体、プラスミド、代謝の詳細なコンピュータモデル、および他の情報のライブラリーがあり、生成物収率を増強するための種々のモジュールの合理的設計を可能にする。サッカロミセスについて上で記載されているものと類似の方法が、組み換え大腸菌微生物を作るために用いられ得る。
【0090】
1つの態様において、組み換え大腸菌微生物は、SHC遺伝子をコードするヌクレオチド配列、またはそのバリアント、ホモログ、変異体、誘導体、または断片を包含するが、これらに限定されないその機能的同等物/相同物を含む。
【0091】
本開示に使用するための別の好ましい宿主細胞はS・セレビシエであり、これは合成生物学においてシャシー生物として広く用いられている。それゆえに、組み換え宿主はS・セレビシエであり得る。S・セレビシエについては、利用可能な変異体、プラスミド、代謝の詳細なコンピュータモデル、および他の情報のライブラリーがあり、生成物収率を増強するための種々のモジュールの合理的設計を可能にする。組み換えS・セレビシエ微生物を作るための方法は既知である。
【0092】
細胞の培養は従来の様式で行われる。培養培地は炭素源、少なくとも1つの窒素源、および無機塩を含有し、ビタミンがそれに追加される。この培地の構成成分は、当該微生物種を培養するために従来用いられているものであり得る。
【0093】
本方法にいて用いられる炭素源には、組み換え宿主細胞によって代謝されて増殖および/または(-)-アンブロックスの産生を促進し得るあらゆる分子が含まれる。好適な炭素源の例には、(例えばモラセス中に見いだされる)スクロース、フルクトース、キシロース、グリセロール、グルコース、セルロース、デンプン、セロビオース、または他のグルコース含有ポリマーを包含するが、これらに限定されない。
【0094】
宿主として酵母を採用する態様においては、例えば、スクロース、フルクトース、キシロース、エタノール、グリセロール、およびグルコースなどの炭素源が好適である。炭素源は、培養期間に渡って宿主生物に提供することができ、また代替的には、生物を別のエネルギー源、例えばタンパク質の存在下においてある期間増殖させ、それから流加相(fed-batch phase)の間のみ炭素源を提供することができる。
【0095】
本開示の方法において使用するための組み換え宿主細胞微生物の好適性は、周知の方法を用いる単純な試験手順によって決定され得る。例えば、試験されるべき微生物は、微生物の増殖のために一般的に用いられるpH、温度、および通気条件において富栄養培地(例えば、LB培地、バクトトリプトン酵母エキストラクト培地、栄養培地等)で増殖させ得る。
【0096】
一旦、所望の生物変換の生成物を産生する組み換え微生物(すなわち組み換え宿主細胞)が選択されれば、生成物は、典型的には産生宿主細胞株によって大スケールで、好適な発現システムおよび発酵によって、例えば細胞培養物中の微生物産生によって、産生される。
【0097】
本開示の1つの態様においては、M9Aなどの限定最少培地が細胞培養に用いられる。M9A培地の構成成分は、KH2PO4 14g/L、K2HPO4 16g/L、クエン酸Na3.2H2O 1g/L、(NH4)2SO4 7.5g/L、MgSO4.7H2O 0.25g/L、CaCl2.2H2O 0.015g/L、グルコース 5g/L、および酵母エキストラクト 1.25g/Lを含む)。
本開示の別の態様においては、LBなどの富栄養培地が用いられた。LB(Luria-Bertani)培地の構成成分は10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母エキストラクト、5g/LのNaClを含む。
ミネラル培地およびM9ミネラル培地の他の例は、例えばUS6,524,831B2およ
びUS2003/0092143A1に開示されている。
【0098】
組み換え微生物は、バッチ(batch)、流加(fed batch)、もしくは連続プロセス、またはその組み合わせによって増殖させることができる。典型的には、組み換え微生物は、発酵槽(fermentor)内で定められた温度で好適な栄養源、例えば炭素源、の存在下において所望の期間増殖させ、ホモファルネソールを所望の量で(-)-アンブロックスに生物変換する。
【0099】
組み換え宿主細胞はいずれかの好適な様式で、例えばバッチ培養または流加培養によって、培養され得る。本明細書において用いられる用語「バッチ培養」は、培養培地が培養の間に追加も取り出しもされない培養方法である。本明細書において用いられる用語「流加」は、培養培地が培養の間に追加されるが、培養培地は取り出されない培養方法を意味する。
【0100】
本開示の1つの態様は、細胞系システムにおいて(-)-アンブロックスを産生する方法を提供し、前記方法は、野生型SHCまたはその変異型を好適な条件下において細胞系システムにおいて産生すること、ホモファルネソールを細胞系システムに供給する(feed)こと、細胞系システムを用いて産生された野生型SHCまたはその変異型を用いてホモファルネソールを(-)-アンブロックスに変換することと、細胞系システムからアンブロックスを回収すること、およびシステムから(-)-アンブロックスを単離することを含む。他のヌクレオチド配列の発現は、その方法を増強するために役立ち得る。生物変換方法は、細胞系システム中での追加の他のヌクレオチド配列の発現を包含し得る。他のヌクレオチド配列の発現は、(-)-アンブロックスを作るための生物変換経路を増強し得る。
【0101】
本開示のさらなる態様は、(-)-アンブロックスを作る生物変換方法であり、前記方法は、野生型SHCまたはその変異型遺伝子を含む宿主細胞を増殖させること、野生型SHCまたはその変異型酵素を宿主細胞において産生すること、ホモファルネソール(例えばEEH)を宿主細胞に供給すること、ホモファルネソールのアンブロックスへの変換を促進するために適切なpH、温度、および可溶化剤の条件下において宿主細胞をインキュベートすること、ならびに(-)-アンブロックスを回収することを含む。宿主細胞における野生型SHCまたはその変異型酵素の産生は、ホモファルネソールが好適な反応条件下において宿主細胞に添加されたときに(-)-アンブロックスを作る方法を提供する。達成される変換は、より多くの生体触媒およびSDSを反応混合物に添加することによって増強され得る。
【0102】
組み換え宿主細胞微生物は、引き続く生物変換ステップのための野生型SHCまたは変異型体酵素を発現する好適な量の細胞を提供するために、数多くのやり方で培養することができる。生物変換ステップのための適用可能な微生物は大幅に変わるので(例えば酵母、細菌、および真菌)、当然のことながら、培養条件はそれぞれの種の特定の要件に合わせて調整され、それらの条件は周知であり文書化されている。
【0103】
組み換え宿主細胞微生物の細胞を増殖させるための当分野において既知の方法はどれでも、本開示の引き続く生物変換ステップに利用可能な細胞を産生するために用いることができる。典型的には、細胞は、生物変換反応のための十分なバイオマスを産生するため(光学密度(OD)として測定可能であるように)特定の密度まで増殖させる。選ばれる培養条件は、得られる細胞(バイオマス)の量に影響を与えるのみならず、培養条件の質もまたどのようにバイオマスが生体触媒になるかに影響を与える。
【0104】
野生型SHCまたは変異型遺伝子を発現し野生型SHCまたは変異型酵素を産生する組み換え宿主細胞微生物は、生物変換反応における使用に好適である生体触媒と呼ばれる。いくつかの態様において、生体触媒は、野生型SHCまたは変異型を産生する組み換え全細胞であるか、またはそれは懸濁液もしくは固定されたフォーマットであり得る。
【0105】
1つの態様においては、生体触媒は、(十分なバイオマスを作り出すために)十分量で産生され、収穫され、生物変換ステップの前に洗浄される(かつ、任意に保存される(例えば凍結または凍結乾燥される))。
【0106】
さらなる態様においては、細胞は(十分な生体触媒を作り出すために)十分量で産生され、次いで、生物変換反応のために生体触媒を収穫および洗浄する必要なく、反応条件が調整される。このワンステップ(または「ワンポット」)方法は、それがコストを減じながらプロセスを単純化するので有利である。細胞を増殖させるために用いられる培養培地は、反応条件が生物変換反応を促進するように調整されている場合には、生物変換反応における使用にもまた好適である。
【0107】
本開示の生物変換方法は、ホモファルネソール原料ストックの(-)-アンブロックスへの変換をもたらすための時間、温度、pH、および可溶化剤の条件下において行われる。反応混合物のpHは、SHC変異型酵素では4~8、好ましくは5から6.5、より好ましくは4.8~6.0の範囲内、野生型SHC酵素では約pH5.0から約pH7.0の範囲内であってもよく、反応混合物への緩衝液の添加によって維持することができる。
【0108】
この目的のための例示的な緩衝液はクエン酸緩衝液である。代替的に、水道水または脱イオン水であって、0.5%または0.9%でのNaClを補ったものまたはこれを補っていないものを、5.0~8.0のpH範囲を包含するがそれに限定されない、最適な生体触媒の活性を提供するようなpHに調整した場合に、緩衝液の代用として使用することができる。
【0109】
したがって、本発明は、別のその側面において、本明細書に開示されている生物変換プロセスによって形成されたか、またはそれによって得ることができる、(-)-アンブロックスの固体形態を提供し、ここで生物変換反応は、緩衝液の代用としての水道水または脱イオン水を使用した培地中において、および、最適な生体触媒活性を確保するpH範囲、好ましくはpH範囲5.0~8.0、において行われる。
【0110】
好ましい温度は約15℃と約45℃との間、好ましくは約20℃と約40℃との間であるが、これは好熱性生物では、特に好熱性微生物からの野生型酵素が用いられる場合にはより高く、55℃までであり得る。温度は生物変換プロセスの間は一定に保たれてもよく、または変更されてもよい。
【0111】
可溶化剤(例えば界面活性剤、洗剤、可溶性増強剤、水混和性有機溶媒等)を生物変換反応中に包含させることが有用であり得る。界面活性剤の例には、TritonX-100、Tween80、タウロデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、および/またはラウリル硫酸ナトリウム(SLS)が含まれるが、これらに限定されない。
【0112】
出願人は、他のより有用でない可溶化剤の長いリストから、特に有用な可溶化剤としてSDSを選択および同定した。特に、出願人は、ホモファルネソールの(-)-アンブロックスへの生物変換反応について反応速度および収率の観点から、例えばTritonX-100よりも顕著に優れた可溶化剤としてSDSを同定した。
【0113】
理論によって拘束されることを望むものではないが、組み換え微生物宿主細胞へのSDSの使用は、SDSがSHC酵素(これは膜結合酵素である)をホモファルネソール基質に対してよりアクセス可能にするために、宿主細胞膜と有利に相互作用し得るので有利であり得る。加えて、反応混合物中における好適なレベルでのSDSの包含は、エマルジョン(水中のホモファルネソール)の特性を改善し、および/または宿主細胞内のSHC酵素へのホモファルネソール基質のアクセスを改善し得る一方で、同時に破壊(例えば、野生型SHCまたは変異型酵素の変性/不活性化)を防ぐ。
【0114】
生物変換反応に用いられる可溶化剤(例えばSDS)の濃度は、バイオマス量および基質(EEH)濃度によって影響される。すなわち、可溶化剤(例えばSDS)濃度、バイオマス量、および基質(EEH)濃度の間には、ある程度の相互依存性がある。
【0115】
例として、ホモファルネソール基質の濃度が増大すると、効率的な生物変換反応が起こるために十分量の生体触媒および可溶化剤(例えばSDS)が必要とされる。例えば可溶化剤(例えばSDS)濃度が低すぎる場合には、準至適な(suboptimal)ホモファルネソール変換が観察され得る。他方で、例えば可溶化剤(例えばSDS)濃度が高すぎる場合には、生体触媒が無傷の微生物細胞の破壊および/またはSHC/HAC酵素の変性/不活性化のいずれかによって影響されるというリスクが存在し得る。
【0116】
バイオマス量および基質(EEH)濃度との関連では、SDSの好適な濃度の選択は、当業者の知識の範囲内である。例として、好適なSDS、基質(EEH)、およびバイオマス濃度を決定するための予測モデルが当業者に利用可能である。
【0117】
野生型SHC酵素についての生物変換反応の温度は、約45~60℃、好ましくは55℃である。
野生型SHC酵素についての生物変換反応のpH範囲は、約5.0から7.0、より好ましくは約5.6から約6.2、さらにはより好ましくは約6.0である。
【0118】
SHC変異型酵素についての生物変換反応の温度は、約34℃から約50℃、好ましくは約35℃である。
SHC変異型酵素についての生物変換反応のpHは、約4.8~6.4、好ましくは約5.2~6.0である。
【0119】
好ましくは、生物変換反応に用いられる可溶化剤は、SDSである。
[SDS]/[細胞]比は、EEHホモファルネソールに対する生体触媒の比が約2:1であるときに、約10:1~20:1の範囲内、好ましくは約15:1~18:1、好ましくは約16:1である。
【0120】
SHC変異型酵素についての生物変換反応におけるSDS濃度は、ホモファルネソール濃度が約125g/lのEEHであり、生体触媒濃度が250g/lである(約175のOD(650nm)に対応する)ときに、約1~2%の範囲内、好ましくは約1.4~1.7%の範囲内、さらにはより好ましくは約1.5%である。
EEHホモファルネソール基質に対する生体触媒の比は約0.5:1~2:1の範囲内、いくつかの態様においては2:1、好ましくは約1:1または0.5:1である。
【0121】
いくつかの態様において、(-)-アンブロックスは、ホモファルネソール基質が加えられる生体触媒を用いて産生される。既知の手段(例えばペリスタポンプ、注入シリンジ等)を用いて供給することによって基質を加えることが可能である。ホモファルネソールは油可溶性化合物であり、油フォーマットで提供される。生体触媒が水相に存在するということに鑑みて、生物変換反応は、ホモファルネソールが生物変換反応混合物に加えられるときには2相システムと見なすことができる。これは可溶化剤(例えばSDS)が存在するときでさえも当てはまる。
【0122】
好適な生物変換プロセス条件のさらなる詳細は、本明細書下記の例において開示される。
【0123】
生物変換プロセスは、所望の(-)-アンブロックス、およびまた多数の副生成物をも含有する生物変換培地を産生する。より具体的には、培地は、(-)-アンブロックスに加えて、式(II)に記載の(-)-アンブロックスの新規構造異性体、ならびに式(III)および(IV)に記載の(-)-アンブロックスの既知の立体異性体を含む、副生成物の複雑な混合物を含有する。
【化3】
【0124】
出願人は、いかなる特定の理論に拘束されることも意図しないが、式(II)の化合物は、ホモファルネソールの7E,3Z-幾何異性体の環化により形成されると考えている。これは、>500ng/lの検知閾値を有し、実際には無臭であると記載される。
【0125】
上述のとおり、出願人は、式(II)の化合物は新規分子であると考えており、そのようにこの化合物は本発明のさらなる側面を形成する。
化合物(II)からなるもしくはこれを含む香料成分および香料組成物、ならびにこれを含有する香り付き物品は、本発明の追加の側面を形成する。
【0126】
高級香水または、パーソナルケア、家庭用ケアおよび繊維ケア組成物などの機能性香料組成物といった香料用途における、式(II)の化合物の香料成分としての使用は、本発明のさらなる追加の側面を形成する。
(-)-アンブロックスと嗅覚的に許容可能な量の化合物(II)との混合物は、本発明のまた別の側面を形成する。
【0127】
式(II)の化合物、または他の副生成物(III)もしくは(IV)のいずれか、または実際に本発明の方法に従って形成された(-)-アンブロックスにおける不純物として存在するあらゆる物質との関連において、本明細書において用いられる用語「嗅覚的に許容可能な量」は、化合物または物質が、その匂い検知閾値未満の量で、または(-)-アンブロックスの嗅覚的特徴に影響を及ぼすようにはその嗅覚的特性に寄与しない量で、(-)-アンブロックスとの混合物中に存在することを意味するものと理解される。
【0128】
嗅覚的に許容可能な量のあらゆるそのような化合物または物質を含有する(-)-アンブロックスは、ex-スクラレオールの合成的手順により得られ、Givaudanから入手できる、AMBROFIX(商標)などの、(-)-アンブロックスの市販グレードの匂い特性を有するものとして、熟練したパフューマ―に同定可能であろう。
【0129】
本発明の好ましい態様において、反応混合物は、未反応のホモファルネソールを全く含まないか、または実質的に含まない。
【0130】
出願人は、ホモファルネソールが、(-)-アンブロックスに対して、ならびに生物変換プロセスの上記副生成物に対して、強力な溶媒であることを発見した。そのように、相当な量のホモファルネソールの存在下では、(-)-アンブロックスおよび副生成物が、扱いにくい粗混合物中で一緒に溶解されたまま残り、そこから嗅覚的に純粋な形態で(-)-アンブロックスを分離して最終的に単離することは困難で、時間がかかる。(-)-アンブロックスと化合物(II)、(III)および(IV)との混合物中における未反応ホモファルネソールのレベルを減少させることにより、下流のプロセシングおよび(-)-アンブロックスの単離/精製がかなり容易になることが見出された。
【0131】
下流のプロセシングは、当業者により理解される通り、生物変換プロセスにより形成される有用な化合物の製造において重大な工程である。化合物合成の一部として、その化合物の物理的特徴に影響を与え得る。バイオテクノロジー的方法による香料成分の調製の場合においては、標的化合物の所望の匂い特徴が、発酵培地または生体触媒中に存在し得る不純物および副生成物の複雑な混合物の匂いの寄与によってゆがめられないように、標的化合物は、嗅覚的に純粋な形態で反応混合物から分離することができることが望ましい。
【0132】
したがって、本発明は、化合物(II)、(III)および(IV)の1種以上を含む生物変換培地から、(-)-アンブロックスを単離および精製する方法を提供する。
本発明のさらに別の側面においては、化合物(II)、(III)および(IV)の1種以上を含有する生物変換培地から、(-)-アンブロックスを分離および精製するステップを含む、(-)-アンブロックスの匂いを改善または増強する方法が提供される。
【0133】
単離および精製された形態においては、(-)-アンブロックスは、化合物(II)、(III)もしくは(IV)のいずれも含有せず、または、前記化合物のいずれかを含有するとしても、それぞれは、嗅覚的に許容可能な量で存在すべきである。
【0134】
本明細書における上記の生物変換プロセスから得られる生物変換培地は、一般的に、粗(-)-アンブロックスを含有する固相ならびに水およびあらゆる残留ホモファルネソールおよびあらゆる油性のまたは油溶性の不純物または副生成物を含有し得る油相からなる液相(単数または複数)を含む。副生成物(II)、(III)および(IV)の1種以上は、かかる油相中に存在し得る。
【0135】
固相は、液相(単数または複数)から、遠心濾過などの濾過、またはデカンテーションにより分離してもよい。さらに、また濾過による分離に関しては、適切なメッシュサイズを有するフィルターを選択することによって、生物変換培地中における粒子状物質、例えば細胞物質および/または残屑から、(-)-アンブロックスの固体形態を分離することも可能である。デカンテーションは、濾過と同様に、この粒子状物(particulate matter)と(-)-アンブロックスの固体形態との粒子サイズの違いを活かしてそれらの分離を可能にし、前者は上清中に懸濁されたまま残り、これは捨てることができ、一方後者は沈殿物として単離することができ、回収され、および任意にさらなる精製ステップを施される。
【0136】
一旦、粒子状物質、例えば細胞物質および/または残屑、ならびに液相(単数または複数)から、(-)-アンブロックスが分離されれば、化合物(II)、(III)および(IV)などのあらゆる不純物から(-)-アンブロックスを単離するさらなるワークアップ手順を施される前に、それは洗浄されてもよい。
【0137】
本発明の具体的態様においては、(-)-アンブロックスを単離および精製する前記方法は、化合物(II)、(III)または(IV)の1種以上ならびに生物変換培地中で形成されたあらゆる他の不純物を含有し得る混合物から、(-)-アンブロックスを選択的に結晶化するステップを含む。
【0138】
用語「選択的に結晶化する」は、それによって(-)-アンブロックスには溶媒からの結晶化が生じる一方で、化合物(II)、(III)、および(IV)などの副生成物、またはあらゆる他の不純物は、単離された結晶物質が(-)-アンブロックスのみを含有するか、またはそれが化合物(II)、(III)または(IV)のいずれかを含有する場合には、それらが嗅覚的に許容可能な量でしか存在しない程度に結晶化溶媒中に溶解されたまま残る、プロセスステップを言う。
【0139】
選択的な結晶化は、(-)-アンブロックスが生物変換培地から結晶化し、一方で、生物変換培地中に存在し得る副生成物(II)、(III)および(IV)などのあらゆる不純物が油相中に残るときに、起こり得る。かかる場合には、生物変換培地中に存在する化合物(II)、(III)および(IV)のいずれも、(-)-アンブロックスが細胞および細胞残屑などのあらゆる粒子状物質から分離されるのと同じプロセスステップの間のデカンテーションおよび/または濾過ならびに洗浄によって、結晶(-)-アンブロックスから分離することができる。
【0140】
生物変換培地から結晶化された(-)-アンブロックスは、上で記載されている様式での濾過および/またはデカンテーションによって、分離することができる。その後、結晶を好適な溶媒中に溶解させ、および溶液をさらに処理することもまた、上で記載されている様式で行うことができる。特に、溶液は、細胞または細胞残屑などのあらゆる残留粒子状物質を取り除くために精密濾過し;それを好適な漂白剤に通すことによって脱色させ;および/または、化合物(II)、(III)または(IV)などのあらゆる副生成物の残渣またはあらゆる他の残留不純物から結晶(-)-アンブロックスを分離するために溶媒から選択的に結晶化させることができる。
【0141】
結晶化は、好適な有機溶媒中において行われ得る。溶媒の選択は、室温および高温におけるまたは煮沸溶媒における溶解度の違いなどの考察;ならびに冷却溶媒における回収可能な結晶量の必要性についての考察に基づく。通常、分離されるべき化合物は、比較的極性である溶媒に溶解しており、次いで、比較的極性の弱い溶媒が添加されて溶解している化合物のその溶解性の限界をもたらすことができ、それにより結晶化が始まることになる。また、工業的プロセスにおいては、費用だけでなく取り扱いの安全性という問題にも関係する。好適な溶媒には、メタノール、アセトン、石油エーテル、ヘキサン、t-ブチルメチルエーテル、THFおよび酢酸エチルが含まれるが、これらに限定されない。好ましい溶媒には、エチルアルコールが含まれる。2つの溶媒の組み合わせもまた、採用してよい。
【0142】
本発明の特に好ましい態様においては、選択的結晶化は、温かいメタノールに、(-)-アンブロックスならびに化合物(II)、(III)および(IV)の1種以上を含有する混合物を溶解して、水などの非溶媒を冷却エタノール溶媒にゆっくり加えることで(-)-アンブロックスを選択的に結晶化させることにより、行われる。
【0143】
(-)-アンブロックスと、それぞれが構造異性体および(-)-アンブロックスの2種の立体異性体である副生成化合物(II)、(III)および(IV)との密接な構造的関係を考慮すると、(-)-アンブロックスがそのような混合物から選択的に結晶化され、高収率で嗅覚的に純粋な形態での(-)-アンブロックスをもたらし得ることは注目すべきことであった。当業者は、1種以上の化合物が、(-)-アンブロックスと同じかまたは実質的に同様の条件下で結晶化し、下流のプロセシングが、実際に見出されるよりも、はるかにさらに複雑で、時間がかかり、かつ費用がかかるようになることを当然予期するはずである。
【0144】
(-)-アンブロックスが、結晶化により化合物(II)、(III)および/または(IV)を含有する混合物から分離される、驚くべき容易な方法は、本発明の際立った優位性を示している。
(-)-アンブロックスが結晶化により分離され得る容易性は、(-)-アンブロックスならびに副生成物(II)、(III)および(IV)の沸点が非常に近いために精留などの他の精製技術によって、または溶媒抽出によって、(II)、(III)および/または(IV)を含有する混合物から、(-)-アンブロックスがかかる容易な方法およびかかる高い収率では回収され得ないという観察とは対照的であり得た。
【0145】
(-)-アンブロックスとの関連において用いられる、用語「嗅覚的に純粋な」は、(-)-アンブロックスが、化合物(II)、(III)もしくは(IV)、または反応混合物中において見出される他のあらゆる物質を含まないことを意味するか、あるいは、かかる化合物または物質が存在する場合には、本明細書においてその語が定義されている通り嗅覚的に許容可能な量でそれらが存在することを意味することが意図される。
【0146】
本発明の態様において、嗅覚的に純粋な形態での(-)-アンブロックスは、化合物(II)、(III)または(IV)のいずれかを5重量%未満含有する。
より具体的な態様においては、嗅覚的に純粋な形態の(-)-アンブロックスは、化合物(II)、(III)または(IV)の各々を、4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.9重量%未満、0.8重量%未満、0.7重量%未満、0.6重量%未満、0.5重量%未満、0.4重量%未満、0.3重量%未満、0.2重量%未満、0.1重量%未満もしくは、0.05重量%未満含有する。
【0147】
化合物(II)、(III)および/または(IV)を含有する混合物からの選択的結晶化による(-)-アンブロックスの分離の質は、それが分離される混合物の組成により影響され得る。より具体的には、化合物(II)、(III)および/または(IV)の混合物からの結晶化による(-)-アンブロックスの分離の質は、(-)-アンブロックスの混合物中における他の化合物(II)、(III)および/または(IV)に対する重量比が、70:30、より具体的には80:20、より具体的には90:10、さらにより具体的には95:5、およびさらにより具体的には97:3より大きい場合に、改善された。
【0148】
さらに、結晶化による(-)-アンブロックスの分離の質は、それが分離される混合物中に存在する未反応ホモファルネソールの量に影響され得る。より具体的には、分離の質は、(-)-アンブロックスが結晶化されて分離される混合物の重量に基づき、未反応ホモファルネソールのレベルが、30重量%未満、より具体的には20重量%未満、より具体的には10重量%未満、より具体的にはさらに5重量%未満、およびより具体的にはさらに3重量%未満、より具体的にはさらに2重量%未満、およびより具体的にはさらに1重量%未満である場合に、改善される。
【0149】
好ましくは、本発明の生物変換プロセスにおいて用いられる試薬および反応条件は、反応が、ホモファルネソールの100%の変換を進めまたは実質的にそのように変換を進め、したがって、生物変換培地においては未反応ホモファルネソールは残らないようにするものである。しかしながら、未反応ホモファルネソールが存在する場合には、経済的に不利ではあるが、例えば、蒸留、または、(-)-アンブロックスの結晶を好適な溶媒で洗浄することによって、(-)-アンブロックスおよび他の副生成物からそれを分離することができる。
【0150】
したがって、本発明の具体的な態様においては、化合物(II)、(III)および(IV)の1種以上を含む混合物から(-)-アンブロックスを単離および精製する方法であって、この混合物がホモファルネソールを含まない、または実質的に含まない、前記方法が提供される。
より具体的な態様においては、化合物(II)、(III)および(IV)の1種以上を含み、ホモファルネソールを含まない、または実質的に含まない混合物からの(-)-アンブロックスの単離および精製は、(-)-アンブロックスの選択的結晶化により達成される。
【0151】
本発明の方法により得られる(-)-アンブロックスは、嗅覚的に純粋な形態で得られる。嗅覚的に純粋な(-)-アンブロックスは、本発明の別の側面を形成する。
結晶形態の(-)-アンブロックスは、本発明のさらに別の側面を形成する。
【0152】
本発明の方法にしたがって形成される(-)-アンブロックスは、1種以上の追加の香料成分と混合して、高級香水における使用ならびに、パーソナルケア、繊維ケアおよび家庭用ケア製品などの消費者製品における使用を含む、香料製品における使用を満たす香料組成物を形成してもよい。
【0153】
したがって、本発明は、別のその側面において、(-)-アンブロックスおよび少なくとも1種の他の香料成分を含む香料組成物を提供し、前記香料組成物は、嗅覚的に許容可能な量の、化合物(II)、(III)または(IV)の1種以上を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0154】
本発明のより良い理解のために、付属の図面が参照され、このうち、
【
図1】
図1は、横座標のスケールが角度2θであり、および縦座標がカウント数での強度である、X線回折パターンを示す。
【
図2】
図2は、単結晶の顕微鏡画像を示し、結晶の細長い形状およびその長さ寸法に沿った330ミクロンを上回る長さ(338.21ミクロン)を、明瞭に示す。
【0155】
【
図3】
図3は、生物変換培地;トルエン抽出物;結晶形態;および結晶回収後の濾液中における、(-)-アンブロックスおよびその異性体(II)、(III)および(IV)の相対量を比較する。
【
図4】
図4は、(-)-アンブロックスを産生するための下流プロセスの概略を示す。得られた(-)-アンブロックス抽出物には、本明細書下記においてより詳細に記載される、さらなる脱臭または脱色ステップを施すことができる。
【0156】
本発明は、下記例を参照してさらに説明されるであろう。
例1:
ホモファルネソールの調製
一般的な分析条件:
非極性GC/MS:50℃/2分、20℃/分200℃、35℃/分270℃。HP 7890AシリーズGCシステムを有するGC/MSアジレント5975C MSD。非極性カラム:SGEからのBPX5、5%フェニル95%ジメチルポリシロキサン0.22mm×0.25mm×12m。キャリアガス:ヘリウム。インジェクター温度:230℃。スプリット1:50。フロー:1.0ml/分。トランスファーライン:250℃。MS-四重極型:106℃。MSソース:230℃。
【0157】
A)THF中のMNUの調製
水(400ml)中の尿素(175g、2.9mol)およびメチルアミン塩酸塩(198g、2.9mol)の溶液を撹拌下において3.5時間、加熱還流(105℃)する。40℃で、水(200ml)中に溶解したNaNO2(101g、1.45mol)を加える。15分後に、THF(1000ml)を加え、これは透明な二相性混合物をもたらす。濃H2SO4(110g、1.1mol)を0~5℃で加え、1.5時間以内で撹拌する。0~5℃でのさらなる0.5時間後に、2つの透明な相が25℃で分離する。有機相(A)(1065ml、理論上は1.35M)は0~5℃で数日間保存するか、または直ちにシクロプロパン化反応容器に進む。
【0158】
相分離の後に、水相をTHFによって2回抽出する(2×1L)。これにより1100mlの相Bおよび1075の相Cが得られる。相Aは、引き続くシクロプロパン化反応において末端アルケンのシクロプロパンへの51%の変換を生じる一方で、相Bは<0.5%のシクロプロパンを生じ、相Cは検出可能な変換を生じない。我々は、>99%のMNUが最初の相分離の後に抽出されると結論づける。したがって、通常は、水相を、濃KOH水溶液および酢酸による処理後の(有機相Aからの)最初の相分離の後に捨てる。
【0159】
B)THF中のMNUを用いるE-Δファルネセンの調製
【化4】
THF(136ml、184mmol)中のN-メチル-N-ニトロソウレア1.35Mを、0℃において、0~5℃のE-ベータ-ファルネセン(CAS18794-84-8)(25g、122mmol)およびKOH水溶液(50ml、40%)の激しく撹拌した混合物に滴下添加する。4mlのMNU溶液を添加後に、0.5mlジクロロメタン中に予め溶解したPd(acac)2(7.4mg、0.024mmol、0.02%)を添加する。残りのMNU溶液を0~5℃で4時間かけて添加する。この段階におけるGCは、28%の未変換E-ベータ-ファルネセン、65%の所望のモノシクロプロパン(上に示されている)、および3%のビスシクロプロパン化された化合物5を示した。
【0160】
25℃での16時間後に、酢酸(100ml)を0~5℃で添加し、次いでtert-ブチルメチルエーテル(250ml)を添加する。相分離の後に、有機相を2MのHCl(250ml)によって洗浄し、水相をtert-ブチルメチルエーテル(250ml)によって抽出する。組み合わせた有機層を水(2×100ml)、10%NaOH水溶液(2×100ml)、および水(2×100ml)によって洗浄し、MgSO4によって乾燥して、濾過し、濃縮してやや黄色の液体26.9gを得る。これは、9%のE-ベータ-ファルネセン、82%の所望のモノシクロプロパン化合物、および6%のビスシクロプロパン化された副生成物を含有する。
【0161】
所望の化合物は、蒸留精製によってさらに単離され得る。
1gのK2CO3(1g)の添加および40~60mbarでの30cmスチールコイルカラムによる蒸留により、147gのモノシクロプロパン化合物(68%corr)を135~145℃で得る。画分をプールして、純度100%のモノシクロプロパン化合物92gを得る。
【0162】
E-Δファルネセンの分析データ:
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): 5.1 (2 m, 2 H), 4.6 (2 H), 2.2 (2 H), 2.1 (4 H), 2.0 (2 H), 1.7 (s, 3 H), 1.6 (2 s, 6 H), 1.3 (1 H), 0.6 (2 H), 0.45 (2 H) ppm. 13C-NMR (CDCl3, 400 MHz): 150.9 (s), 135.1 (s), 131.2 (s), 124.4 (d), 124.1 (d), 106.0 (t), 39.7 (t), 35.9 (t), 26.7 (t), 25.7 (q), 17.7 (q), 16.0 (d), 6.0 (t) ppm. GC/MS: 218 (2%, M+), 203 (5%, [M - 15]+), 175 (11%), 147 (31%), 134 (15%), 133 (20%), 121 (12%), 107 (55%), 95 (16%), 93 (30%), 91 (20%), 82 (11%), 81 (33%), 79 (42%), 69 (100%), 67 (22%), 55 (20%), 53 (21%), 41 (75%). IR (フィルム): 3081 (w), 2967 (m), 2915 (m), 2854 (m), 1642 (m), 1439 (m), 1377 (m), 1107 (w), 1047 (w), 1018 (m), 875 (s), 819 (m), 629 (w). C16H26の分析計算値: C, 88.00; H, 12.00.結果: C, 87.80; H, 12.01.
【0163】
C)(7E)-4,8,12-トリメチルトリデカ-3,7,11-トリエン-1-オール((7E)-ホモファルネソール)の調製
圧力管内における(E)-(6,10-ジメチルウンデカ-1,5,9-トリエン-2-イル)シクロプロパン(E-Δファルネセン)(1g、4.6mmol)、ドデカン(0.2g、1.15mmol、内部標準)、およびL-(+)-酒石酸(1g、6.9mmol)の混合物を撹拌下において150℃で加熱する。18時間および(GCによる)完全な変換の後に、混合物を水(50ml)およびトルエン(50ml)に注ぐ。
【0164】
相を分離し、水相をトルエン(50ml)で抽出する。組み合わせた有機層を濃Na2CO3水溶液(50ml)および濃NaCl(2×50ml)で洗浄し、MgSO4によって乾燥して、濾過し、減圧下で蒸発させることにより、茶色がかった樹脂(1.35g)を得る。これを30%KOH水溶液(4.3ml)と混合し、25℃で2時間撹拌する。GC分析により、内部標準に従って96%の(7E)-4,8,12-トリメチルトリデカ-3,7,11-トリエン-1-オールの形成が明らかになる。E/Z比68:22。E異性体の分析データは文献からのものと一致している。例えばP. Kocienski, S. Wadman J. Org. Chem. 54, 1215 (1989)を参照。
【0165】
例2
SHCプラスミド調製および生体触媒産生
SHCプラスミド調製
アリシクロバチルス・アシドカルダリウス スクアレン-ホペン環化酵素(AacSHC)(GenBank M73834, Swissprot P33247)をコードする遺伝子を、プラスミドpET-28a(+)に挿入した。そこでは、それは大腸菌によるタンパク質産生のためのIPTG誘導性T7プロモーターの制御下にある。プラスミドを標準的なヒートショック形質転換プロトコールを用いて大腸菌株BL21(DE3)に形質転換した。
【0166】
エルレンマイヤーフラスコ培養
タンパク質産生のためには、富栄養培地(LB培地)または最少培地のいずれかを用いた。M9は最少培地の一例であり、これを用いて成功した。
【0167】
培地調製
デフォルトとして選んだ最少培地は、350ml培養のために下記のように調製した:35mlクエン酸/リン酸ストック(KH2PO4 133g/l、(NH4)2HPO4 40g/l、クエン酸.H2O 17g/g、pHは6.3に調整)にH2O 307mlを加え、pHは必要に応じて32%NaOHで6.8に調整した。50%MgSO4 0.850mlをオートクレーブした後に、微量元素溶液(次項の組成物)溶液 0.035ml、チアミン溶液 0.035ml、および20%グルコース 7mlを加えた。
【0168】
SHC生体触媒産生(生体触媒産生)
小スケールの生体触媒産生(野生型SHCまたはSHC変異型)、350ml培養(培地に50μg/mlカナマイシンを補った)は、SHC産生プラスミドを含有する大腸菌株BL21(DE3)の前培養から植菌した。細胞は、一定の撹拌(250rpm)をしながら37℃でおよそ0.5の光学密度(OD650nm)まで増殖させた。
【0169】
次いで、300μMの濃度までIPTGを添加することによってタンパク質産生を誘導し、続いて一定の振盪をしながらさらなる5~6時間のインキュベーションをした。得られたバイオマスは最終的に遠心によって集め、50mMのTris-HCl緩衝液pH7.5によって洗浄した。細胞はさらなる使用まで4℃または-20℃でペレットとして保存した。一般的に、用いた培地とは関係なく、培養1リットルから、2.5から4グラムの細胞(湿重量)が得られた。
【0170】
発酵を調製し、750mlのInforsHT反応容器内で実施した。発酵容器に脱イオン水168mlを加えた。反応容器には全ての必要なプローブ(pO2、pH、サンプリング、消泡剤)、C+Nフィード(feed)および水酸化ナトリウムのボトルを装備し、オートクレーブした。オートクレーブ後、反応容器に下記成分を加える:
20ml 10×リン酸/クエン酸緩衝液
14ml 50%グルコース
0.53ml MgSO4溶液
2ml (NH4)2SO4溶液
0.020ml 微量元素溶液
0.400ml チアミン溶液
0.200ml カナマイシンストック。
【0171】
反応条件は下記の通り設定する:pH=6.95、pO2=40%、T=30℃、300rpmで撹拌。カスケード:300でのrpmセットポイント、最少300、最大1000、フローL/分セットポイント0.1、最少0、最大0.6。消泡剤コントロール:1:9。
【0172】
種培養から、0.4~0.5のOD650nmになるよう発酵槽に植菌した。この種培養をLB培地(+カナマイシン)中で37℃、220rpmで8時間増殖させた。発酵は最初にバッチモードで11.5時間実施し、その後にフィード溶液(滅菌グルコース溶液(143ml H2O+35gグルコース)、これには、滅菌後、(NH4)2SO4溶液17.5ml、MgSO4溶液1.8ml、微量元素溶液0.018ml、チアミン溶液0.360ml、カナマイシンストック0.180mlが添加されていた)によるC+Nフィードを開始した。およそ4.2ml/時間の一定の流速でフィードを実施した。グルコースおよびNH4
+測定が外部からなされ、培養物中のCおよびN源の利用可能性を評価した。通常は、グルコースレベルは非常に低いままである。
【0173】
培養物は合計およそ25時間増殖させ、そこでそれらは典型的には40~45のOD650nmに達した。次いで、(IPTGパルスとして、または注入シリンジを用いて3~4時間かけて)発酵槽にIPTGをおよそ1mMの最終濃度になるように添加し、温度を40℃におよびpO2を20%に設定することによってSHC産生を開始した。SHC産生の誘導は40℃で16時間続いた。誘導終了時、細胞は、遠心によって集め、0.1Mクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液pH5.4で洗浄し、さらなる使用まで4℃または-20℃でペレットとして保存した。
【0174】
結果1a
一般的に、産生された生体触媒の特異的活性は、全ての他の条件が不変である状態では、富栄養培地と比較して最少培地を用いたときにより高かった。誘導は30または37℃で成功した。誘導が40~43℃でなされたときには、より高い特異的活性の生体触媒が得られるということが着目された。
【0175】
結果1b
下記表1は、2つの例について、誘導開始および誘導終了の両方における培養体積、光学密度、および細胞の量と、集められたバイオマスの量(湿重量)とを示している。
【0176】
【0177】
野生型SHCアミノ酸配列(配列番号1) (GenBank M73834, Swissprot P33247)
MAEQLVEAPAYARTLDRAVEYLLSCQKDEGYWWGPLLSNVTMEAEYVLLCHILDRVDRDRMEKIRRYLLHEQREDGTWALYPGGPPDLDTTIEAYVALKYIGMSRDEEPMQKALRFIQSQGGIESSRVFTRMWLALVGEYPWEKVPMVPPEIMFLGKRMPLNIYEFGSWARATVVALSIVMSRQPVFPLPERARVPELYETDVPPRRRGAKGGGGWIFDALDRALHGYQKLSVHPFRRAAEIRALDWLLERQAGDGSWGGIQPPWFYALIALKILDMTQHPAFIKGWEGLELYGVELDYGGWMFQASISPVWDTGLAVLALRAAGLPADHDRLVKAGEWLLDRQITVPGDWAVKRPNLKPGGFAFQFDNVYYPDVDDTAVVVWALNTLRLPDERRRRDAMTKGFRWIVGMQSSNGGWGAYDVDNTSDLPNHIPFCDFGEVTDPPSEDVTAHVLECFGSFGYDDAWKVIRRAVEYLKREQKPDGSWFGRWGVNYLYGTGAVVSALKAVGIDTREPYIQKALDWVEQHQNPDGGWGEDCRSYEDPAYAGKGASTPSQTAWALMALIAGGRAESEAARRGVQYLVETQRPDGGWDEPYYTGTGFPGDFYLGYTMYRHVFPTLALGRYKQAIERR
【0178】
変異型F601Y SHCアミノ酸配列(配列番号2)-配列番号1に関しての変異型
MAEQLVEAPAYARTLDRAVEYLLSCQKDEGYWWGPLLSNVTMEAEYVLLCHILDRVDRDRMEKIRRYLLHEQREDGTWALYPGGPPDLDTTIEAYVALKYIGMSRDEEPMQKALRFIQSQGGIESSRVFTRMWLALVGEYPWEKVPMVPPEIMFLGKRMPLNIYEFGSWARATVVALSIVMSRQPVFPLPERARVPELYETDVPPRRRGAKGGGGWIFDALDRALHGYQKLSVHPFRRAAEIRALDWLLERQAGDGSWGGIQPPWFYALIALKILDMTQHPAFIKGWEGLELYGVELDYGGWMFQASISPVWDTGLAVLALRAAGLPADHDRLVKAGEWLLDRQITVPGDWAVKRPNLKPGGFAFQFDNVYYPDVDDTAVVVWALNTLRLPDERRRRDAMTKGFRWIVGMQSSNGGWGAYDVDNTSDLPNHIPFCDFGEVTDPPSEDVTAHVLECFGSFGYDDAWKVIRRAVEYLKREQKPDGSWFGRWGVNYLYGTGAVVSALKAVGIDTREPYIQKALDWVEQHQNPDGGWGEDCRSYEDPAYAGKGASTPSQTAWALMALIAGGRAESEAARRGVQYLVETQRPDGGWDEPYYTGTGYPGDFYLGYTMYRHVFPTLALGRYKQAIERR
【0179】
変異型F605W SHCヌクレオチド配列(配列番号3)
ATGGCTGAGCAGTTGGTGGAAGCGCCGGCCTACGCGCGGACGCTGGATCGCGCGGTGGAGTATCTCCTCTCCTGCCAAAAGGACGAAGGCTACTGGTGGGGGCCGCTTCTGAGCAACGTCACGATGGAAGCGGAGTACGTCCTCTTGTGCCACATTCTCGATCGCGTCGATCGGGATCGCATGGAGAAGATCCGGCGGTACCTGTTGCACGAGCAGCGCGAGGACGGCACGTGGGCCCTGTACCCGGGTGGGCCGCCGGACCTCGACACGACCATCGAGGCGTACGTCGCGCTCAAGTATATCGGCATGTCGCGCGACGAGGAGCCGATGCAGAAGGCGCTCCGGTTCATTCAGAGCCAGGGCGGGATCGAGTCGTCGCGCGTGTTCACGCGGATGTGGCTGGCGCTGGTGGGAGAATATCCGTGGGAGAAGGTGCCCATGGTCCCGCCGGAGATCATGTTCCTCGGCAAGCGCATGCCGCTCAACATCTACGAGTTTGGCTCGTGGGCTCGGGCGACCGTCGTGGCGCTCTCGATTGTGATGAGCCGCCAGCCGGTGTTCCCGCTGCCCGAGCGGGCGCGCGTGCCCGAGCTGTACGAGACCGACGTGCCTCCGCGCCGGCGCGGTGCCAAGGGAGGGGGTGGGTGGATCTTCGACGCGCTCGACCGGGCGCTGCACGGGTATCAGAAGCTGTCGGTGCACCCGTTCCGCCGCGCGGCCGAGATCCGCGCCTTGGACTGGTTGCTCGAGCGCCAGGCCGGAGACGGCAGCTGGGGCGGGATTCAGCCGCCTTGGTTTTACGCGCTCATCGCGCTCAAGATTCTCGACATGACGCAGCATCCGGCGTTCATCAAGGGCTGGGAAGGTCTAGAGCTGTACGGCGTGGAGCTGGATTACGGAGGATGGATGTTTCAGGCTTCCATCTCGCCGGTGTGGGACACGGGCCTCGCCGTGCTCGCGCTGCGCGCTGCGGGGCTTCCGGCCGATCACGACCGCTTGGTCAAGGCGGGCGAGTGGCTGTTGGACCGGCAGATCACGGTTCCGGGCGACTGGGCGGTGAAGCGCCCGAACCTCAAGCCGGGCGGGTTCGCGTTCCAGTTCGACAACGTGTACTACCCGGACGTGGACGACACGGCCGTCGTGGTGTGGGCGCTCAACACCCTGCGCTTGCCGGACGAGCGCCGCAGGCGGGACGCCATGACGAAGGGATTCCGCTGGATTGTCGGCATGCAGAGCTCGAACGGCGGTTGGGGCGCCTACGACGTCGACAACACGAGCGATCTCCCGAACCACATCCCGTTCTGCGACTTCGGCGAAGTGACCGATCCGCCGTCAGAGGACGTCACCGCCCACGTGCTCGAGTGTTTCGGCAGCTTCGGGTACGATGACGCCTGGAAGGTCATCCGGCGCGCGGTGGAATATCTCAAGCGGGAGCAGAAGCCGGACGGCAGCTGGTTCGGTCGTTGGGGCGTCAATTACCTCTACGGCACGGGCGCGGTGGTGTCGGCGCTGAAGGCGGTCGGGATCGACACGCGCGAGCCGTACATTCAAAAGGCGCTCGACTGGGTCGAGCAGCATCAGAACCCGGACGGCGGCTGGGGCGAGGACTGCCGCTCGTACGAGGATCCGGCGTACGCGGGTAAGGGCGCGAGCACCCCGTCGCAGACGGCCTGGGCGCTGATGGCGCTCATCGCGGGCGGCAGGGCGGAGTCCGAGGCCGCGCGCCGCGGCGTGCAATACCTCGTGGAGACGCAGCGCCCGGACGGCGGCTGGGATGAGCCGTACTACACCGGCACGGGCTTCCCAGGGGATTGGTACCTCGGCTACACCATGTACCGCCACGTGTTTCCGACGCTCGCGCTCGGCCGCTACAAGCAAGCCATCGAGCGCAGGTGA
【0180】
変異型F605W SHCアミノ酸配列(配列番号4)-配列番号1に関しての変異型
MAEQLVEAPAYARTLDRAVEYLLSCQKDEGYWWGPLLSNVTMEAEYVLLCHILDRVDRDRMEKIRRYLLHEQREDGTWALYPGGPPDLDTTIEAYVALKYIGMSRDEEPMQKALRFIQSQGGIESSRVFTRMWLALVGEYPWEKVPMVPPEIMFLGKRMPLNIYEFGSWARATVVALSIVMSRQPVFPLPERARVPELYETDVPPRRRGAKGGGGWIFDALDRALHGYQKLSVHPFRRAAEIRALDWLLERQAGDGSWGGIQPPWFYALIALKILDMTQHPAFIKGWEGLELYGVELDYGGWMFQASISPVWDTGLAVLALRAAGLPADHDRLVKAGEWLLDRQITVPGDWAVKRPNLKPGGFAFQFDNVYYPDVDDTAVVVWALNTLRLPDERRRRDAMTKGFRWIVGMQSSNGGWGAYDVDNTSDLPNHIPFCDFGEVTDPPSEDVTAHVLECFGSFGYDDAWKVIRRAVEYLKREQKPDGSWFGRWGVNYLYGTGAVVSALKAVGIDTREPYIQKALDWVEQHQNPDGGWGEDCRSYEDPAYAGKGASTPSQTAWALMALIAGGRAESEAARRGVQYLVETQRPDGGWDEPYYTGTGFPGDWYLGYTMYRHVFPTLALGRYKQAIERR
【0181】
例3a
7E,3E/Z-ホモファルネソール混合物の生物変換
下記反応条件を用いて生物変換を行った:
反応(合計体積150.1g)は、合計ホモファルネソール146g/lを含有するInforsHT750ml発酵槽において、0.1Mクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液pH5.4中で、86:14の7E,3E:7E,3Zの混合物であるホモファルネソール基質、細胞250g/l(例2の方法に従って形成された、発酵)、およびSDS1.55%を用いて実施した。反応は35℃で一定の撹拌(900rpm)をしながら実施し、pHコントロールは水中の10から40%クエン酸を用いて行った。
【0182】
反応混合物は、下記の例4に記述される単離および精製ステップを施された。
【0183】
例3b
7E,3E/Z-ホモファルネソール混合物の生物変換
下記反応条件を用いて生物変換を行った:
反応(合計体積2.5ml)は、Heidolph Synthesis 1装置上の11mlガラス反応容器において0.1Mクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液中で、50℃およびpH6.0で激しい振盪(800rpm)をしながら実施した。反応は、1g/lのE,E-ホモファルネソール(86:14のEE:EZ比のホモファルネソールストックから)、例2に記載されている方法に従って野生型SHCを30のOD650nmまで生成した細胞、および0.12%SDSを含有した。反応開始の約48時間後に、E,E-ホモファルネソールの変換は約60%であった。
【0184】
反応を室温まで冷却したときには、反応混合物から取られた試料の顕微鏡分析の際にAmbrofix結晶が現れた。OD650nmの10の増加に相当する細胞のさらなる添加およびさらなる24時間のインキュベーションは、完全なE,E-ホモファルネソールの変換を可能にした。反応混合物の試料の顕微鏡観察は、増加した数のAmbrofix結晶の存在を示唆した。
【0185】
反応をまた、0.1Mクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液中において、pH6.0で、合計体積150.1gにて、InforsHT750ml発酵槽中においても実行した。反応は、1g/lのE,E-ホモファルネソール、0.12%SDS、および、野生型SHCを生成した細胞を118g/l湿重量で、含有し、および、激しい振盪(700rpm)をしながら50℃でインキュベートした。反応開始のおよそ30時間後に、E,E-ホモファルネソールの変換はおよそ85%であった。反応混合物の試料の顕微鏡観察では、Ambrofix結晶の同定が可能であった。
【0186】
ホモファルネソールを再び1g/l相当量に添加し、および、反応をさらなるおよそ50時間実施し;細胞もまた、32g/l相当量(湿重量)に添加した。合計反応時間約66時間で、E,E-ホモファルネソールの変換はおよそ85%であった。反応混合物の試料の顕微鏡観察では、増加した数のAmbrofix結晶の観察が可能であった。
【0187】
例4
一般的な下流プロセスは、参考として、以下、
図4に記述される。
第1のステップにおいて、生物変換培地は、約15分間の間、約80~85℃の温度まで加熱され、(-)-アンブロックスの結晶を融解させる。この段階では液体である(-)-アンブロックスは、反応培地を1時間あたり約5℃の速度で、20℃の温度まで冷却することによって、再結晶化される。
【0188】
第2のステップにおいて、(-)-アンブロックスが結晶化された後で、結晶は、生物変換培地から濾過によって分離される。濾過は、連続スクリーン遠心(Siebtechnic H250)において篩サイズ100ミクロンで行われる。遠心は、2028Gの加速度および430kg/時間の供給速度で動作される。結晶と細胞残屑との間の顕著なサイズの違いのために、結晶の大部分は篩の上に保持されて、水で洗浄することができ、およびかかる目的のために提供されたナイフの手段によって機械的に集めることができる。
【0189】
第3のステップにおいて、第2のステップからの濾液は、ステップ2においてフィルターを通ったあらゆる結晶、これはデカンター装置中において沈殿物として沈む、から、上清中に保持された細胞残屑を分離するために、セットアップされた連続デカンター中へと供給される。デカンターは、1170Gの加速度および370kg/時間の供給速度で動作される。デカンター中において集められた結晶は、水で洗浄され、および、ステップ2において得られた結晶と組み合わせられる。組み合わせた結晶は、洗浄され、および、上清中のあらゆる残留細胞残屑を取り除くために静的にデカンテーションされ、および、洗浄された結晶はさらなるプロセシングに備えられる。
【0190】
第4のステップにおいて、洗浄された結晶は、1質量の結晶に対して4質量のエタノールの量にて、エタノール(96% 技術グレード(technical grade))を用いて再可溶化される。溶液は、0.22ミクロンフィルターを通して再び濾過される前に、大気温度および1barの圧力でサブミクロンフィルター(0.6~1.0ミクロン、KDS15)によって濾過される。
【0191】
このようにして形成された(-)-Ambrofix抽出物に、下記のとおりのさらなる脱臭および脱色のステップを施すことができる。
エタノール溶液を、真空下で、乾燥するまで濃縮した。濃縮物を、工業グレード(industrial grade)の変性エタノール中に再溶解させて、漂白剤(Tonsil 412FF)とそれに加えて珪藻土濾過剤(CELATOM FW 50)を、撹拌下において添加した。混合物を、55~65℃まで冷却する前に、撹拌下において30分間80~85℃で還流した。固形物を取り除くために、混合物を25ミクロンフィルターによって濾過した。
【0192】
余分な変性アルコールを、透明な脱色された溶液から大気圧蒸留によって排除した。水を、次に、熱い溶液に供給し、および、得られた混合物を、15分間75~80℃でかき混ぜた。この溶液を-10~-15℃まで徐冷却することによって、(-)-アンブロックスを結晶化させた。結晶化された(-)-アンブロックスを、濾過で取り(filtered off)、および真空オーブン中で乾燥させた(50~60℃;1~5mbar)。
【0193】
例5a
下流プロセシング:(-)-アンブロックスを生物変換培地から選択的に分離する手段としての固-液分離とトルエン抽出との比較
200mlの不活性化された生物変換培地を、MTBEで抽出し、およびガスクロマトグラフィーによって分析した。
【0194】
固-液分離
200mlの不活性化された生物変換培地を、液相から固形物を分離するために遠心した(Sorvall GS3、5000rpm、10分、10℃)。これは、およそ120mlの液体上清から80mlの固形ペレットを分離させた。上清を取り除き、MTBEで抽出し、およびガスクロマトグラフィーによって分析した。同様に、ペレットをMTBEで抽出し、およびMTBE抽出物をガスクロマトグラフィーによって分析した。
【0195】
トルエン抽出
生物変換培地の200mlを、45mlトルエンによって6×抽出した。有機相を集め、および、あらゆる細胞残屑を取り除くために濾過した。トルエンを剥がし取り、および、ガスクロマトグラフィーによって分析する前に、残渣をMTBE中に溶解させた。
【0196】
分析
GC分析結果は、以下、
図3に描画される。結果から、遠心により集められた固相は、極めて高いレベルの(-)-アンブロックス、および極めて少ない量の副生成物II、IIIおよびIVを含有したことが明らかである。他方で、トルエン抽出物は、未加工の生物変換培地と比較して(-)-アンブロックスを富化されていなかった。結果は、(-)-アンブロックスが生物変換培地から結晶化される一方で、構造的に関連する化合物(II)、(III)および(IV)が液相中に残ることを示唆する。固相の分析において見出された(II)、(III)および(IV)の残渣は、単に固相の徹底的な洗浄によって取り除くことができた残渣であった。
【0197】
この実験から、粒子サイズ分離のステップ(濾過および/またはデカンテーションなど)は、細胞残屑からの(-)-アンブロックスの固体形態の分離を可能にするのみならず、これはまた、固体(-)-アンブロックスを、化合物(II)、(III)および(IV)などの構造的に関連する副生成物から完全にもしくは実質的に分離するために使用することもできると結論付けることができる。
【0198】
例5b
官能分析
目的:粗物質中および結晶化された物質中において形成された(-)-アンブロックスならびに化合物(II)、(III)および(IV)の官能分析を行うこと。
E,E-ホモファルネソールの生体内変換は、(-)-アンブロックスおよび化合物(IV)をもたらす。
E,Z-ホモファルネソールの生体内変換は、マクロ環エーテル化合物(II)およびエピ-アンブロックス化合物(III)をもたらす。
(-)-アンブロックスの粗混合物は、それぞれ87.1重量%、2.8重量%、2.5重量%、および7.6重量%の量で存在する、所望の(-)-アンブロックス、化合物(II)、(III)および(IV)を含む。
【0199】
粗混合物が選択的に結晶化された場合(実験室スケール)、結晶化された物質は、ガスクロマトグラフィーにより分析すると粗混合物と同じ構成成分を有するが、それぞれ99.1重量%、0.1重量%、0.1重量%、および0.7重量%の量で存在する。(II)、(III)および(IV)の残渣は、(-)-アンブロックスの結晶に付着した油性の残渣であると考えられる。
【0200】
官能分析結果は下記の通りであった:
(-)-アンブロックス:匂い閾値 0.2ng/l。
化合物(IV):弱い、IsoE、ウッディー、GC検出閾値 5~10ng。
化合物(II):「無臭」(GC閾値 >500ng)。
化合物(III):(-)-アンブロックスよりも約10×高いGC閾値(およそ2ng)。
【0201】
結論
3つの副生成物(化合物II、III、およびIV)の官能分析は、(-)-アンブロックスからのものよりも弱い匂いを示す。
事実、エピ-アンブロックス(化合物III)の匂いは、(-)-アンブロックスよりも約10倍弱く、それが本質的に無臭であるということを示唆している。
【0202】
官能分析は、(-)-アンブロックスからの1つ以上の副生成物たる化合物の除去が、たとえ取り除かれた化合物が実際にはそれ自体無臭の化合物であっても、残った化合物(例えば、( ) アンブロックス)の匂いを改善し得るということを実証した。つまり、訓練されたパフューマーにより(許容可能な嗅覚的純粋性のための認識されているベンチマークを使用して)決定された、嗅覚的純粋性の観点でのアンブロックスの匂いの向上は、化合物II、III、およびIVが存在しない場合に観察された。
【0203】
例6
微生物発酵プロセスにより形成された(-)-アンブロックスの固体形態のX線特徴付け
STOE STADI P X線回折計を使用して、粉末X線回折パターンを取得した。
【0204】
システムの記載:回折計は、位置敏感型検出器を使用することによって、トランスミッションモード(平板試料ホルダー、湾曲ゲルマニウム(III)モノクロメーター、およびCuKa1放射1.54060オングストローム)にて使用した。発生器の電圧は40kVであり、電流は40mAであった。検出器:Mythen 1K。
実験パラメータ:パターン計測を、2θ=約4°~26°の間で行った。決定した回折角の正確度は、およそ+/-0.2° 2θである。
【配列表】