(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】抗原ペプチド検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20231222BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
G01N33/53 Q ZNA
G01N33/543 551A
(21)【出願番号】P 2019058562
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】大河内 美奈
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐圭
(72)【発明者】
【氏名】栗本 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】久保 智里
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-145362(JP,A)
【文献】特表平08-509264(JP,A)
【文献】特開2001-153868(JP,A)
【文献】特開2012-251789(JP,A)
【文献】特開2010-210644(JP,A)
【文献】特表2017-511478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の任意のペプチドを固定化した固相担体を用い、
複数の前記任意のペプチドは、抗原ペプチドを含む検出サンプルと関連する複数のペプチドであり、
抗原ペプチドを含む検出サンプルと特定の
抗原を認識す
るポリクローナル抗体との抗原抗体反応を行う工程(I)、
抗原抗体反応を経た前記検出サンプルを前記固相担体に反応させる工程(II)、
反応後の前記固相担体と二次抗体とを抗原抗体反応させ、前記二次抗体との抗原抗体反応を経た前記固相担体に発光基質を添加し、前記任意のペプチド毎の発光強度を定量する工程(III)、及び
各前記任意のペプチドに対応する、前記検出サンプル中の抗原ペプチドの量を、前記定量した発光強度に基づいて評価する工程(IV)、
を少なくとも行う、抗原ペプチド検出方法。
【請求項2】
前記固相担体は、ペプチドアレイである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数の前記任意のペプチドは、乳タンパク質を構成するアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
抗原ペプチドを検出するキットであって、
複数の任意のペプチドを固定化した固相担体と、
抗原ペプチドを含む検出サンプル中の前記抗原ペプチドと抗原抗体反応する特定の
抗原を
認識するポリクローナル抗体と、
を少なくとも含み、
前記固相担体は、ペプチドアレイであり、
複数の前記任意のペプチドは、抗原ペプチドを含む検出サンプルと関連する複数のペプチドであり、
前記キットは、
抗原ペプチドを含む検出サンプルと特定の
抗原を認識す
るポリクローナル抗体との抗原抗体反応を行い、
抗原抗体反応を経た前記検出サンプルを前記固相担体に反応させ、反応後の前記固相担体と二次抗体とを抗原抗体反応させ、
前記二次抗体との抗原抗体反応を経た前記固相担体に発光基質を添加し、前記任意のペプチド毎の発光強度を定量し、且つ
各前記任意のペプチドに対応する、前記検出サンプル中の抗原ペプチドの量を、前記定量した発光強度に基づいて評価することに用いられる、キット。
【請求項5】
複数の前記任意のペプチドは、乳タンパク質を構成するアミノ酸配列を含む、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
前記ペプチドアレイは、乳タンパク質を構成するアミノ酸配列を網羅したものである、
請求項4に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、抗原ペプチド検出方法に関する。より詳しくは、抗原ペプチドを感度よく検出できる抗原ペプチド検出方法、及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食の安心安全に対する消費者の意識が非常に高まっており、食物アレルギーもその一例である。食品衛生法では、消費者の食品アレルギーによる健康危害の発生を防止する観点から食物アレルギーを引きおこしやすい原材料を含む旨を表示するよう推奨されている。特に、食物アレルギーの発症数、重篤度から勘案して表示する必要性の高いえび、かに、小麦、そば、卵、乳及び落花生の「特定原材料」7品目については、これら特定原材料を含む旨の表示をすることが製造者等に義務付けられている。
【0003】
このような実情のもと、食品の維持管理や突発的な事故を予防する観点から、アレルゲンを迅速かつ簡便に検出する技術が求められている。更に、消費者を保護するという安全性を考慮すると、その検出には高い精度が要求される。
【0004】
アレルゲンを検出する方法として、例えば、特許文献1には、食品からの成分抽出のための還元剤として、食品添加物として慣用されている亜硫酸塩を用いて食品中の成分を抽出し、特定原材料を検出する方法が開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、卵アレルギー疾患の診断薬のスクリーニング方法であって、診断対象のアレルギー疾患のアレルゲンに特異的なIgEを有し、かつ、アレルギー症状を示す患者のIgEにより認識されるエピトープのアミノ酸配列と、診断対象のアレルギー疾患のアレルゲンに特異的なIgEを有し、かつ、アレルギー症状を示さない患者の前記IgEにより認識されるエピトープのアミノ酸配列とを比較し、アミノ酸配列を含むポリペプチドを選択することを特徴とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-33062号公報
【文献】特開2007-217303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、幾つかの方法は従来技術として当業者には知られているが、消費者がより安心して食品を摂取でき、かつ、生産者がより正確に製品の状態を把握するために、更なる技術の開発が望まれている。
【0008】
そこで、本技術では、抗原ペプチドを感度よく検出できる抗原ペプチド検出方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本技術では、まず、任意のペプチドを固定化した固相担体を用いて、検出サンプルを用いて抗原抗体反応を行う工程(I)、及び前記工程(I)を経た検出サンプルを前記固相担体に反応させ、検出サンプル中の抗原ペプチド量を前記任意のペプチド毎に評価する工程(II)、を少なくとも行う、抗原ペプチド検出方法を提供する。
本技術に係る方法では、前記固相担体は、ペプチドアレイであってもよい。
また、本技術に係る方法では、前記任意のペプチドは、乳タンパク質を構成するアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0010】
また、本技術では、抗原ペプチドを検出するキットであって、任意のペプチドを固定化した固相担体と、検出サンプル中の抗原ペプチドと抗原抗体反応する抗体と、を含み、前記固相担体は、ペプチドアレイである、キットも提供する。
また、本技術に係るキットでは、前記任意のペプチドは、乳タンパク質を構成するアミノ酸配列を含んでいてもよい。
更に、ペプチドアレイは、乳タンパク質を構成するアミノ酸配列を網羅したものであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本技術によれば、抗原ペプチドを感度よく検出できる。
なお、本技術の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の結果を示す図面代用グラフである。
【
図2】実施例2の結果を示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
<1.抗原ペプチド検出方法>
本技術に係る方法は、ペプチドを固定化した固相担体を用いて、工程(I)、及び工程(II)、を少なくとも行うことを特徴とする。
【0015】
(1)ペプチドを固定化した固相担体
本技術において、ペプチドは特に限定されないが、代表的なアレルゲンの一つである乳タンパク質由来の抗原を検出する観点から、乳タンパク質を構成するアミノ酸配列を含むことが好ましい。また、乳タンパク質を構成するアミノ酸配列に基づいて、適当な長さ(好ましくは、15~20残基)であることがより好ましい。
【0016】
乳タンパク質は、例えば、アレルギー疾患に関連すると考えられるものとすることができる。具体的には、例えば、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、αS1-カゼイン、αS2-カゼイン、β-カゼイン、及びκ-カゼインからなる群より選択される1種又は2種以上が挙げられる。好ましくは、αS1-カゼイン、αS2-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、及びβ-ラクトグロブリンからなる群より選択される1種又は2種以上であり、更に好ましくは、αS1-カゼイン、及びβ-ラクトグロブリンからなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0017】
ペプチドは、典型的には、特定されるアミノ酸配列からなり、公知の手法により、アミノ酸置換、欠失又は付加などの修飾が加えられていてもよい。また、各種用途に適した溶解性や抗原抗体反応性を付与することも可能である。ペプチドは、公知のペプチド合成方法、例えば、全自動ペプチド合成装置、酵母、大腸菌、哺乳動物細胞等による遺伝子組換えを用いた方法により製造することができる。
【0018】
ペプチドは、必要に応じて、塩の形態、好ましくは、生理学的に許容される酸付加塩の形態であってもよい。そのような塩としては、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸等)の塩、有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等)の塩等が挙げられる。
【0019】
本技術では、ペプチドとして、後述する実施例にて示す、配列番号1~50のアミノ酸配列のペプチド、及び/又は、配列番号51~88のペプチドであることが特に好ましい。
【0020】
本技術において、ペプチドは、適当な固相担体に固定化される。本明細書において、「固定化」とは、ペプチドを固相担体へ連結、吸着、封入、包埋、又は担持させることを包含する概念である。固相担体は、抗原抗体反応の反応系で溶媒に不溶な担体であれば、その材質及び形状は特に限定されず、公知の固相担体を用いることができる。固相担体の形状としては、使用目的に応じて適宜の形状を選択すればよく、例えば、テストプレート状、ビーズ状、球状、ディスク状、チューブ状、フィルター状等が挙げられる。好ましくは、テストプレート状、ディスク状、フィルター状等の平板状である。また、その材質としては、例えば、通常免疫測定法用担体として用いられるものとすることができる。具体的には、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド等の合成樹脂、或いはこれらに公知の方法により、スルホン酸基、アミノ基などの反応性官能基を導入したもの、ガラス、多糖類、シリカゲル、多孔性セラミックス、金属酸化物等が挙げられる。より具体的には、固相担体は、例えば、セルロースメンブレン、ガラス板、マイクロウェルプレート等である。
【0021】
固相担体へのペプチドの固定化方法は、特に限定されず、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法などの公知の方法を用いることができる。
【0022】
本技術では、ペプチドを固定化した固相担体は、ペプチドアレイの形態であることが好ましい。なお、本明細書において、「ペプチドアレイ」とは、ペプチドを固相担体の表面に複数固着させたものをいう。また、本技術では、前記固相担体は、乳タンパク質を構成するアミノ酸配列を含むペプチドアレイであることがより好ましく、乳タンパク質を構成するアミノ酸配列を網羅したペプチドアレイであることが更に好ましく、後述する実施例にて示す、配列番号1~50のアミノ酸配列のペプチドからなるペプチドアレイ、又は配列番号51~88のペプチドからなるペプチドアレイであることが特に好ましい。
【0023】
なお、ペプチドを固定化した固相担体は、必要に応じて、構造体上への非特異吸着を防止するための処理を行ってもよい。この処理としては、担持されるペプチドの活性を損失しないようなブロッキング剤でコーティングすることが好ましい。前記ブロッキング剤は特に限定されず、例えば、コラーゲン、ゼラチン、スキムミルク、カゼイン、及びBSA等の血清タンパク質等が挙げられる。その他にも、タンパク質とは反応しない化合物であって、疎水性部分及び親水性部分を含むものであれば用いることができる。
【0024】
(2)工程(I)
工程(I)は、検出サンプルを用いて抗原抗体反応を行う工程である。
【0025】
検出サンプルは特に限定されず、検出されるべき抗原を含み得る物質、又は検出されるべき抗原を含むことが疑われる物質などとすることができる。具体的には、例えば、肉類、魚介類、卵類、牛乳、穀物、豆類、芋類、野菜、山菜、海草、種実類、果物、ハーブ、及びそれらの加工食品、化粧品、医薬品、例えば、水道水、湖水、海水、及び汚泥等の環境に存在する物質、血液及びバイオプシー等の生体由来物質等が挙げられる。
【0026】
また、検出サンプルは、前述した物質に由来し、本技術に係る方法に適用するために適切となるよう、予め、粉砕、均一化、分離、抽出、又は希釈等されたものであってもよい。
【0027】
例えば、食品由来の検出サンプルを調製する場合、次のような操作を行う。所望の食品を、粉砕、均質化し、抽出液を加える。次いで、ボルテックスミキサーなどで攪拌した後、遠心分離する。その後、濾過して濾液を採取する。採取された濾液は、必要に応じて、希釈液により希釈する。このようにして得られた溶液を、検出サンプルとして用いることができる。なお、ここで使用される抽出液は、Na2SO3などの還元剤、SDS、Tween20、NP-40、及びTritonX-100等の界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0028】
本明細書において、「抗原」とは、抗体との免疫学的に特異的な結合が可能な何れかの成分をいう。また、本明細書において、「抗原ペプチド」とは、抗体との免疫学的に特異的な結合が可能なペプチドをいう。本技術に係る方法では、特に、代表的なアレルゲンの一つである抗原ペプチドを検出の対象としている。抗体は、特定の物質を抗原として認識して結合することが可能な抗体であればよく、例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgE、並びにその断片等が挙げられる。また、抗体は、ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体等であってもよい。
【0029】
工程(I)において用いる抗体を、本明細書では、「一次抗体」と称する。工程(I)では、検出サンプルに対して抗体を含む血清等を接触させ、これらに抗原抗体反応を生じさせる条件を付与することで、抗原抗体反応を行う。抗原抗体反応を生じる条件は特に限定されず、例えば、適当な緩衝液でpHを調整し、反応させることで、抗原抗体反応を生じさせることができる。なお、工程(I)では、検出サンプルに対して一次抗体を反応させ、速やかに工程(II)に移ってもよく、適当な時間置いた後に工程(II)に移ってもよい。
【0030】
(3)工程(II)
工程(II)は、前記工程(I)を経た検出サンプルを前記固相担体に反応させ、検出サンプル中の抗原量をペプチド毎に評価する。
【0031】
前記工程(I)を経た検出サンプルとは、すなわち、一次抗体を用いて抗原抗体反応を行った検出サンプルであり、抗原と抗体からなる複合体と、遊離抗体と、を含む。工程(II)では、この検出サンプルを、ペプチドを固定化した固相担体に反応させることで、遊離抗体を固相担体上のペプチドと反応させる。
【0032】
工程(II)では、次に、前記固相担体上での遊離抗体とこれに反応したペプチドとの特異的結合を検出する。前記固相担体上での抗原抗体反応は、例えば、通常イムノアッセイに用いられる標識物質等を利用して検出することができる。標識物質としては、例えば、蛍光物質、発光物質、色素、酵素、補酵素、ラジオアイソトープ等が挙げられる。また、標識物質は、一次抗体又は二次抗体に直接結合して用いてもよく、標識物質を認識する抗体やアビジン-ビオチン系などを利用して間接的に用いてもよい。すなわち、本技術では、二次抗体を使用して一次抗体を定量する方法を用いることもできるし、標識された一次抗体を直接定量する方法(二次抗体を使用しない定量方法)を用いることもできる。
【0033】
検出サンプル中の抗原量をペプチド毎に評価する方法は特に限定されず、例えば、前記固相担体がペプチドアレイであった場合、ペプチドアレイを構成するペプチド配列毎に前記標識物質に基づく強度情報を取得することで、その抗原量を定量する。強度情報は、前記標識物質に基づくシグナルの種類に応じた検出装置等を用いて、特定のシグナルの大きさとして取得することができる。強度情報は、例えば、標識物質に基づいて検出される発光強度、蛍光強度等として取得される。そして、この強度情報から、検出サンプルに含まれる抗原量の情報を得ることができる。なお、本明細書中、「検出サンプル中の抗原量」でいうところの「検出サンプル」とは、工程(I)を経る前の検出サンプルのことである。
【0034】
より具体的には、検出サンプルを用いて測定した場合の発光強度と、これに対するポジティブコントロールを用いて測定した場合の発光強度との差を求め、この差が大きいものほど、残存抗原性が高いとして評価することができる。
【0035】
すなわち、ポジティブコントロールには抗原ペプチドが含まれていないため、固相担体上で一次抗体と固定化されたペプチドが抗原抗体反応し、発光強度の値は最も大きくなる。一方で、検出サンプルを用いた場合は、該検出サンプルは工程(I)を経ているため、該検出サンプル中に抗原ペプチドが含まれているものほど、この抗原ペプチドと一次抗体とが反応して抗原抗体反応が起こる。そのため、工程(II)では、抗原ペプチドが含まれているものほど、固定化されたペプチドとは反応せず、或いは固定化されたペプチドへの抗原抗体反応が競合的に阻害され、発光強度の値が小さくなる。したがって、ポジティブコントロールの発光強度から検出サンプルの発光強度を引いて、その差が大きい場合には、検出サンプル中に抗原ペプチドが多く含まれているということになる。また、本技術では、複数のペプチドを固定化した固相担体を用いてペプチド毎にこれを評価することができるため、検出サンプル中のどのペプチドが抗原として多く含まれているか、定量的に瞬時に把握することができる。
【0036】
以上の通り、本技術に係る方法では、タンパク質全体を抗原対象とした抗原抗体反応ではなく、タンパク質をペプチド単位で分割し、各ペプチド一つ一つを対象とした抗原抗体反応を行っており、従来技術と比較して抗原検出感度が飛躍的に向上している。また、ペプチドを固定化した固相担体上で競合的イムノアッセイを実施したことで、検出サンプル中に存在する抗原ペプチドを、その配列毎に高感度、かつ、定量的に抗原検出することができる。
【0037】
<2.キット>
本技術では、抗原ペプチドを検出するキットであって、ペプチドを固定化した固相担体と、検出サンプルと抗原抗体反応する抗体と、を含む、キットも提供する。本技術に係るキットを用いて本技術に係る方法を行うことで、前述の通り、ペプチド毎に高感度、かつ、定量的に抗原検出することができる。
【0038】
本技術に係るキットについては、本技術に係る方法において既に説明した各種実施形態を適用することが可能である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づいて本技術を説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0040】
<ペプチドアレイ>
後述する実施例1及び2で用いたペプチドアレイは、β-ラクトグロブリン、及びαS1-カゼインの2種の乳タンパク質につき、それぞれ、下記表1に記載の、配列番号1~50、配列番号51~89に記載のペプチドを化学合成し、ペプチド固相合成機(INTAVIS社製)を用いてペプチドアレイを作製した。なお、固相担体は、セルロースメンブレンを用いた。
【0041】
【0042】
上記表1中、配列番号1~50は、β-ラクトグロブリンのアミノ酸配列をN末端から16残基の長さで3残基ずつずらした配列である。また、配列番号51~88は、αS1-カゼインのアミノ酸配列をN末端から16残基の長さで5残基ずつずらした配列である。また、配列番号89は、抗体との結合性が弱いネガティブ配列である。
【0043】
<実施例1>
実施例1では、β-ラクトグロブリンにつき、上記表1に記載の配列番号1~50のペプチドを固定化した固相担体(ペプチドアレイ)を用いた。
【0044】
[ブロッキング]
ペプチドアレイをブロッキング剤で37℃、1時間、攪拌しながらブロッキングした。
【0045】
[検出サンプル前処理]
各検出サンプル(Conventional Infant Formula、Partially Hydrolyzed Formula、Extensively Hydrolyzed Formula 1、及びExtensively Hydrolyzed Formula 2)の4種類をタンパク含有濃度が0.01~2%の範囲となるように、0.1% Tween/PBSで溶解し、3000rpm、室温で15分間遠心し、上清を45μmのフィルターでろ過した。
【0046】
[工程(I)]
各検出サンプル(ポジティブコントロールは0.1% Tween/PBS)に、20,000~500,000倍希釈した一次抗体を1:1で混合し、37℃、1時間、静置でプレインキュベートした。なお、一次抗体には「抗β-ラクトグロブリン、Rabbit-IgG抗体」を使用した。
【0047】
[工程(II)]
ブロッキング後のペプチドアレイをウォッシュし、工程(I)を経た各検出サンプルと、37℃、2時間、攪拌しながら反応させた。
【0048】
反応後のペプチドアレイをウォッシュし、10,000倍希釈した二次抗体と37℃、1時間、攪拌しながら反応させた。なお、二次抗体には「抗Rabbit、HRP標識、Goat-IgG抗体」を使用した。
【0049】
二次抗体反応後のペプチドアレイをウォッシュし、検出のための発光基質を添加し、発光強度を検出し、定量した。なお、スキャナーは、BioRad社製のChemiDoc イメージングシステムを用いた。数値解析は、同じシステムに付随するImage Labソフトを使用した。
【0050】
実施例1の、抗β-ラクトグロブリン抗体による抗原性評価結果を、
図1に示す。
図1において、縦軸はβ-ラクトグロブリンに対する抗原性スコア[-]を示し、横軸はペプチドSPOT No.を示している。なお、抗原性スコア[-]は、下記式[数1]に従って算出した。
【0051】
【数1】
(ただし発光相対値とは、ポジティブコントロールにおける発光量の全SPOT平均値を「1」として標準化し、各SPOTの発光量を標準値に対する相対値として換算した値である。)
【0052】
また、
図1に記載のデータを一部抜粋し、その数値を下記表2に示す。なお、下記表2に示した「β-LG抗原性」とは、全SPOTの抗原性スコアの平均値を示しており、更に阻害率[%]は、下記式[数2]に従って算出した。
【0053】
【0054】
【0055】
<実施例2>
実施例2では、αS1-カゼインにつき、上記表1に記載の配列番号51~89のペプチドを固定化した固相担体(ペプチドアレイ)を用い、検出サンプルとして、Conventional Infant Formula、Partially Hydrolyzed Formula、及びExtensively Hydrolyzed Formula 2)の3種類を用いたこと、及び、一次抗体に「抗カゼイン、Rabbit-IgG抗体」を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で実験を行った。
【0056】
実施例2の、抗カゼイン抗体による抗原性評価結果を、
図2に示す。
図2において、縦軸はカゼインに対する抗原性スコア[-]を示し、横軸はペプチドSPOT No.を示している。なお、縦軸における抗原性スコア[-]は、上記式[数1]に従って算出した。
【0057】
また、
図2に記載のデータを一部抜粋し、その数値を下記表3に示す。なお、下記表3に示した「α
S1-CN抗原性」とは、全SPOTの抗原性スコアの平均値を示しており、更に阻害率[%]は、上記式[数2]に従って算出した。
【0058】
【0059】
<比較例1>
一般的なプレート式インヒビションアッセイ法(Inhibition ELISA法)を用いて、各検出サンプル(Conventional Infant Formula、Partially Hydrolyzed Formula、Extensively Hydrolyzed Formula 1、及びExtensively Hydrolyzed Formula 2)の4種類について、β-ラクトグロブリンの残存抗原量を測定した。
【0060】
[コーティング]
抗原(β-ラクトグロブリン)を固相化バッファー(0.1M 炭酸ナトリウムバッファー)に0.1mg/mlで希釈し、96wellプレートに100μlずつ分注し、37℃で2時間静置し、抗原をプレートに固定した。
【0061】
[サンプル調製]
(i)インヒビターとなるサンプル(粉ミルク)をタンパク含量1%となるように洗浄バッファー(0.05% Tween/PBS)で溶解し、3000rpmで15分間遠心し、上清を45μmのフィルターでろ過した。
(ii)抗体(抗β-ラクトグロブリン、Rabbit-IgG抗体)を洗浄バッファーで1万倍希釈した。
【0062】
[一次抗体反応(インヒビション反応)]
固定化したプレートを洗浄し、調整済みのサンプル(ポジティブコントロールは0.05% Tween/PBS)と抗体を1:1で混合し、100μlずつプレートに分注し、37℃、1時間、静置で反応させた。
【0063】
[二次抗体反応(抗Rabbit、HRP標識、Goat-IgG抗体)]
一次抗体反応後のプレートを洗浄し、40,000倍希釈した二次抗体と37℃、45分間、静置で反応させた。
【0064】
[検出(酵素による発光反応)]
二次抗体反応後のプレートを洗浄し、検出のための発光基質をプレートに分注し、遮光下で30分反応させた後、反応停止液(3M H2SO4)で反応を停止させ、プレートリーダーで各ウェルの吸光度(主波長:492nm、副波長:630nm)を測定した。
【0065】
比較例2の結果を、下記表4に示す。なお、阻害率[%]は、下記式[数3]に従って算出した。
【0066】
【0067】
【0068】
<結論>
Extensively Hydrolyzed Formula2の抗原性定量値について、比較例1では表4に記載の通り検出限界以下であったのに対し、実施例1では表2に記載の通りペプチドSPOT No.27において数値化できていた。したがって、実施例1の方が検出感度に優れていることが分かった。また、実施例1では、比較例1と異なりペプチド配列毎に抗原性の定量化が可能であり、これにより、ペプチド配列毎の違いを評価できようになった。更には、実施例2の結果から、αS1-カゼインに対する抗原性評価も本技術により可能であることが確認された。
【配列表】