(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】ガラスレンズ成形型
(51)【国際特許分類】
C03B 11/08 20060101AFI20231222BHJP
【FI】
C03B11/08
(21)【出願番号】P 2019125998
(22)【出願日】2019-07-05
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 裕己
(72)【発明者】
【氏名】白石 幸一郎
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-115296(JP,A)
【文献】特開2001-348232(JP,A)
【文献】特開2009-040642(JP,A)
【文献】特開2009-280454(JP,A)
【文献】特開2007-131501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 11/00-11/16
B28B 11/00
B29C 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスレンズのレンズ面を形成する成形面を有するコマ部と、前記コマ部を位置決めして保持する保持部とを備え、被成形ガラス材を型移動方向に押圧して前記ガラスレンズを成形するガラスレンズ成形型において、
前記保持部と前記コマ部は、前記ガラスレンズの素材である被成形ガラス材の成形温度で嵌合して前記保持部に対する前記コマ部の位置を定める位置決め面を有し、
前記保持部と前記コマ部は互いに固定されず、前記位置決め面の嵌合によって前記保持部が前記コマ部を位置決めして保持し、
前記コマ部と前記保持部の中心を通り前記型移動方向に向く中心軸を含む平面内での、前記型移動方向と垂直な方向に対する前記位置決め面の傾き角をθ、前記位置決め面が接する嵌合長をL、前記コマ部の最大外径をDMとしたとき、下記条件(1)及び(2)を満たすことを特徴とするガラスレンズ成形型。
(1)60°≦θ≦90°
(2)L≧DM
(90-θ)/180 但し、L>0
【請求項2】
ガラスレンズのレンズ面を形成する成形面を有するコマ部と、前記コマ部を位置決めして保持する保持部とを備え、被成形ガラス材を型移動方向に押圧して前記ガラスレンズを成形するガラスレンズ成形型において、
前記保持部と前記コマ部は、前記ガラスレンズの素材である被成形ガラス材の成形温度で嵌合して前記保持部に対する前記コマ部の位置を定める位置決め面を有し、
前記保持部と前記コマ部は互いに固定されず、前記位置決め面の嵌合によって前記保持部が前記コマ部を位置決めして保持し、
前記型移動方向と垂直な方向に対する前記位置決め面の傾き角をθ、前記コマ部の材質の100℃~300℃での平均熱膨張係数をα1、前記保持部の材質の100℃~300℃での平均熱膨張係数をα2としたとき、下記条件(1)、(3)及び(4)の全てと、下記条件(5)又は(6)とを満たすことを特徴とするガラスレンズ成形型。
(1)60°≦θ≦90°
(3)α1=15×10
-7/℃~100×10
-7/℃
(4)α2=15×10
-7/℃~100×10
-7/℃
(5)θ=90°でのα1/α2=1.0~2.0
(6)60°≦θ<90°でのα1/α2=0.3~2.0
【請求項3】
前記コマ部の材質のヤング率が85GPa以上である、請求項1又は2に記載のガラスレンズ成形型。
【請求項4】
胴型と、前記胴型に対して前記型移動方向に移動可能な下型及び上型とを備え、
前記下型は、前記胴型の内部に前記型移動方向に移動可能に支持される台座部と、前記台座部に対して前記位置決め面を介して保持される前記コマ部とを備え、
前記台座部が前記保持部である請求項1から3のいずれか1項に記載のガラスレンズ成形型。
【請求項5】
前記台座部の上面側に開口する凹部であるコマ収容部を有し、前記位置決め面は前記コマ収容部の内面を構成し、
前記位置決め面は、前記型移動方向に向く中心軸を中心とする円錐面の一部であって下方に進むにつれて径を小さくする面、又は前記中心軸を中心とする円筒面であり、
前記コマ収容部のうち前記位置決め面よりも下方に、吸引源からの吸引力が作用する吸引用空間を有する請求項4に記載のガラスレンズ成形型。
【請求項6】
前記型移動方向への前記コマ部の肉厚は、前記型移動方向への前記下型全体の大きさの半分以下であり、
前記コマ部の最大外径は、前記下型全体の外径の半分以下である請求項4に記載のガラスレンズ成形型。
【請求項7】
胴型と、前記胴型に対して前記型移動方向に移動可能な下型及び上型とを備え、
前記上型は、前記胴型の内部に前記型移動方向に移動可能に支持される前記コマ部と、前記コマ部の上方に位置して前記コマ部に下方への押圧力を伝達する押圧部とを備え、
前記胴型が前記保持部であり、前記胴型に対して前記位置決め面を介して前記コマ部が保持される請求項1から3のいずれか1項に記載のガラスレンズ成形型。
【請求項8】
前記胴型は前記型移動方向へ貫通する内部空間を有し、前記位置決め面は前記胴型の内部に形成され、
前記位置決め面は、前記型移動方向に向く中心軸を中心とする円錐面の一部であって下方に進むにつれて径を小さくする面、又は前記中心軸を中心とする円筒面である請求項7に記載のガラスレンズ成形型。
【請求項9】
前記胴型の内部に、前記中心軸を中心とする円筒面である上型案内面を有し、
前記位置決め面は前記上型案内面の下方に位置する円筒面であり、前記位置決め面の内径は前記上型案内面の内径よりも小さく、
前記コマ部は、外径側に突出して前記上型案内面と前記位置決め面の間の段差部の上方に位置するフランジを有する請求項8に記載のガラスレンズ成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスレンズを成形する成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスレンズの製造において、加熱して軟化させたガラス材料を成形用の型(以下、成形型)によって押圧(プレス)して成形する方法が実用化されている。成形型でのプレス成形によるガラスレンズの製造は、ガラス材料を研削や研磨して行うガラスレンズの製造に比べて、複雑な形状の非球面レンズなどを低コストで大量に生産しやすい。
【0003】
ガラスレンズ製造用の成形型で、レンズ面を形成する成形面を有するコマ部と、コマ部を保持する台座部(保持部)とを、別部材として構成したものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
プレスによるガラスレンズの製造では、成形型の成形面の形状がガラス材料に転写されてレンズ面になるため、成形面に傷などの異常が生じた場合に、成形型を再加工して成形面を修正する必要があった。コマ部と台座部を分けた構造では、成形面に異常が生じたコマ部を、予め製造しておいた別のコマ部に入れ替えることで、再加工の時間を削減することができ、生産性において有利になる。
【0005】
また、コマ部と台座部を分けた構成にした上で、異なる形状の成形面を有する複数種のコマ部を用意してもよい。これにより、レンズ面形状が異なる複数種のガラスレンズを、コマ部の入れ替えによって容易に成形可能になる。
【0006】
特許文献1では、成形型のコマ部をガラス製とすることが記載されている。基準となる成形面を有するマスター型を準備し、マスター型によってガラス材料を押圧することによって、成形面が転写されたガラス製のコマ部を製造する。マスター型があれば、短時間で大量のガラス製のコマ部を効率的に製造することができ、加工時間や製造コストの削減を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コマ部と台座部を別部材とした成形型を構成する場合、台座部に対してコマ部が偏心や傾きを生じた状態でプレスを行うと、ガラスレンズの成形不良が生じてしまう。従って、台座部に対してコマ部を適正な位置で保持させる必要があり、コマ部と台座部を有する成形型を具現化するに当たって、適切な構成や条件を見出すことが求められていた。
【0009】
本発明は、成形加工時に、コマ部を保持する保持部に対してコマ部を簡単且つ確実に精度良く位置させることができるガラスレンズ成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ガラスレンズのレンズ面を形成する成形面を有するコマ部と、コマ部を位置決めして保持する保持部とを備え、被成形ガラス材を型移動方向に押圧してガラスレンズを成形するガラスレンズ成形型において、保持部とコマ部は、ガラスレンズの素材である被成形ガラス材の成形温度で嵌合して保持部に対するコマ部の位置を定める位置決め面を有し、保持部とコマ部は互いに固定されず、位置決め面の嵌合によって保持部がコマ部を位置決めして保持し、コマ部と保持部の中心を通り型移動方向に向く中心軸を含む平面内での、型移動方向と垂直な方向に対する位置決め面の傾き角をθ、位置決め面が接する嵌合長をL、コマ部の最大外径をDMとしたとき、下記条件(1)及び(2)を満たすことを特徴とする。
(1)60°≦θ≦90°
(2)L≧DM(90-θ)/180 但し、L>0
【0011】
本発明はまた、ガラスレンズのレンズ面を形成する成形面を有するコマ部と、コマ部を位置決めして保持する保持部とを備え、被成形ガラス材を型移動方向に押圧してガラスレンズを成形するガラスレンズ成形型において、保持部とコマ部は、ガラスレンズの素材である被成形ガラス材の成形温度で嵌合して保持部に対するコマ部の位置を定める位置決め面を有し、保持部とコマ部は互いに固定されず、位置決め面の嵌合によって保持部がコマ部を位置決めして保持し、型移動方向と垂直な方向に対する位置決め面の傾き角をθ、コマ部の材質の100℃~300℃での平均熱膨張係数をα1、保持部の材質の100℃~300℃での平均熱膨張係数をα2としたとき、下記条件(1)、(3)及び(4)の全てと、下記条件(5)又は(6)とを満たすことを特徴とする。
(1)60°≦θ≦90°
(3)α1=15×10-7/℃~100×10-7/℃
(4)α2=15×10-7/℃~100×10-7/℃
(5)θ=90°でのα1/α2=1.0~2.0
(6)60°≦θ<90°でのα1/α2=0.3~2.0
【0012】
以上の各条件に加えてさらに、コマ部の材質のヤング率が85GPa以上であることが好ましい。
【0013】
本発明によるガラスレンズ成形型の一形態として、胴型と、胴型に対して型移動方向に移動可能な下型及び上型とを備え、下型は、胴型の内部に型移動方向に移動可能に支持される台座部と、台座部に対して位置決め面を介して保持されるコマ部とを備え、台座部を保持部とする。
この形態では、台座部の上面側に開口する凹部であるコマ収容部を有し、位置決め面は、コマ収容部の内面を構成し、型移動方向に向く中心軸を中心とする円錐面の一部であって下方に進むにつれて径を小さくする面、又は中心軸を中心とする円筒面とする。また、コマ収容部のうち位置決め面よりも下方に、吸引源からの吸引力が作用する吸引用空間を有する。
型移動方向へのコマ部の肉厚は、型移動方向への下型全体の大きさの半分以下であり、コマ部の最大外径は、下型全体の外径の半分以下であることが好ましい。
【0014】
本発明によるガラスレンズ成形型の別の形態として、胴型と、胴型に対して型移動方向に移動可能な下型及び上型とを備え、上型は、胴型の内部に型移動方向に移動可能に支持されるコマ部と、コマ部の上方に位置してコマ部に下方への押圧力を伝達する押圧部とを備え、胴型を保持部として、胴型に対して位置決め面を介してコマ部が保持される。
この形態では、胴型は型移動方向へ貫通する内部空間を有し、位置決め面は、胴型の内部に形成され、型移動方向に向く中心軸を中心とする円錐面の一部であって下方に進むにつれて径を小さくする面、又は中心軸を中心とする円筒面とする。
胴型の内部に、中心軸を中心とする円筒面である上型案内面を有し、位置決め面は上型案内面の下方に位置する円筒面であり、位置決め面の内径は上型案内面の内径よりも小さい構成とする。コマ部は、外径側に突出して上型案内面と位置決め面の間の段差部の上方に位置するフランジを有する。
【発明の効果】
【0015】
以上の本発明のガラスレンズ成形型によれば、上記の各条件を満たすことによって、成形加工時に保持部に対してコマ部を簡単且つ確実に精度良く位置させることができ、ガラスレンズの加工性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】ガラスレンズ成形型の第1の形態を示す断面図である。
【
図2】ガラスレンズ成形型の第2の形態を示す断面図である。
【
図3】ガラスレンズ成形型の第3の形態を示す断面図である。
【
図4】ガラスレンズ成形型の第4の形態を示す断面図である。
【
図5】本発明に関する各種条件を異ならせたガラスレンズ成形型によってガラスレンズを成形した実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明を適用したガラスレンズ成形型の実施の形態について説明する。
図1から
図4は、ガラスレンズ成形型の第1から第4の形態を示すものである。各形態のガラスレンズ成形型はいずれも、下型11と上型12を上下方向(型移動方向)に相対移動させて、成形前の被成形ガラス材であるガラスプリフォーム(図示略)をプレス加工してガラスレンズ(図示略)を成形するものである。下型11と上型12の中心を通り上下方向に向く軸線を中心軸Zとする。
図1から
図4はいずれも、中心軸Zを含む断面でガラスレンズ成形型を断面視したものであり、中心軸Zを含む当該断面を軸方向断面とする。また、中心軸Zに対して垂直な方向を径方向とし、径方向で中心軸Zに向かう側を内径側、中心軸Zから離れる側を外径側とする。
【0018】
図1を参照して、第1の形態のガラスレンズ成形型1を説明する。ガラスレンズ成形型1は、胴型10と下型11と上型12を有している。下型11は、台座部13とコマ部14の2部材によって構成されている。台座部13は、コマ部14を位置決めして保持する保持部を構成する。
【0019】
中心軸Zは、ガラスレンズ成形型1により成形されるガラスレンズ(図示略)の光軸に一致するものである。下型11と上型12は、互いの中心軸Zが一致するように、径方向の位置が定められる(芯出しされる)。より詳しくは、下型11の台座部13と上型12はそれぞれ、胴型10に対して直接に嵌合して径方向の位置が定められる。下型11のコマ部14は、台座部13に嵌合して径方向及び上下方向の位置が定められる。
【0020】
胴型10は、中心軸Zを囲む筒状体であり、上下方向に貫通する内部空間を有する。胴型10の内部には、下端側から所定の範囲で下型案内面15が形成され、上下方向の中間部分に上型案内面16が形成され、上端側から所定の範囲で上型案内面17が形成される。下型案内面15と上型案内面16と上型案内面17はいずれも、中心軸Zを中心とする円筒面(円筒の内面)であり、下型案内面15と上型案内面17の内径が上型案内面16の内径よりも大きい。上型案内面17と下型案内面15の間に、環状で上向きの移動規制面18が形成されている。胴型10の下端には、環状で下向きの下型規制面19が形成されている。
【0021】
下型11の台座部13は、胴型10の内部に上下方向へ移動可能に挿入される小径部20と、小径部20の下部に位置する大径部21を有する。小径部20の外面には、中心軸Zを中心とする円筒面(円筒の外面)である外周面22が形成されている。外周面22の外径は、胴型10の下型案内面15の内径に対応している。大径部21は、小径部20よりも外径が大きく、小径部20の下方で大径部21が外周面22よりも外径側へ突出している。
【0022】
台座部13は、胴型10に対して下方から小径部20を挿脱させることができる。胴型10の内部に小径部20を挿入させた嵌合状態では、外周面22が下型案内面15に囲まれることによって、径方向での台座部13の位置が定まる(台座部13の径方向の中心が
図1に示す中心軸Zの位置になる)。また、下型案内面15と外周面22の嵌合によって、台座部13は胴型10に対して傾きやガタつきを生じずに上下方向に摺動可能に支持される。なお、中心軸Zを中心とする周方向への胴型10と台座部13の相対回転を防ぐように、胴型10と台座部13の間に回転規制構造を備えてもよい。
【0023】
小径部20よりも大径である大径部21(より詳しくは、大径部21のうち、外周面22に対して外径側に突出している部分の上面)が下型規制面19に当接することによって、胴型10に対する小径部20の最大挿入量が決まる。
図1は、大径部21が下型規制面19に当接して、小径部20が胴型10内に最大に挿入された状態を示している。
【0024】
台座部13はコマ収容部24を有する。コマ収容部24は小径部20の上面側に開口した凹部であり、コマ収容部24の内面として位置決め面25を有する。位置決め面25は、中心軸Zを中心とする円錐面(円錐の内面)の一部であり、コマ収容部24が開口する小径部20の上面から下方に進むにつれて径を小さくする(内径側への突出量を大きくする)すり鉢状の形状である。コマ収容部24の下方に連続して、吸引用空間26が形成されている。
【0025】
コマ収容部24の内部にコマ部14が保持される。コマ部14は径方向の外面に位置決め面27を有している。位置決め面27は、中心軸Zを中心とする円錐面(円錐の外面)の一部であり、より詳しくは、位置決め面25と同一の(頂角が等しい)円錐面の一部である。コマ部14はさらに、上方に向く凹面状の成形面28と、下方に向けて突出して台座部13の吸引用空間26内に進入する下方突出部29とを有する。
【0026】
コマ部14の位置決め面27が台座部13の位置決め面25と嵌合(当接)することによって、台座部13に対するコマ部14の位置が定まる。位置決め面25と位置決め面27は、互いに面接触する円錐状のテーパ面であり、互いの中心軸(円錐の高さ方向に延びて頂点を通る直線)が一致する状態で嵌合する。この嵌合により、台座部13に対して、上下方向へのコマ部14の位置が定まると共に、中心軸Zを中心とする径方向におけるコマ部14の位置も定まる。そして、胴型10の内部に台座部13(小径部20)を収めた状態では、台座部13とコマ部14のそれぞれの径方向の中心が中心軸Zと一致する。すなわち、胴型10に対して台座部13及びコマ部14がそれぞれ適正に調芯された状態になり、成形面28の中心を中心軸Zが通るようになる。なお、吸引用空間26の内面と下方突出部29との間には径方向のクリアランスがあり、位置決め面25と位置決め面27の嵌合によるコマ部14の位置決めを妨げない。
【0027】
台座部13には、吸引用空間26から大径部21の下面まで連通する吸引孔30が形成されている。吸引孔30の下端は、吸引源31から延びる吸引管32に接続している。吸引源31を駆動すると、吸引管32及び吸引孔30を通じて吸引用空間26に吸引力が作用する。この吸引力によって、台座部13のコマ収容部24に対してコマ部14を密着嵌合させることができる。
【0028】
コマ部14の位置を定める位置決め面25と位置決め面27は、ガラスレンズ成形型1の軸方向断面内において、型移動方向(中心軸Z)と垂直な方向(すなわち径方向)に対する傾き角θが60°である。軸方向断面内でのコマ部14の最大外径DMと、軸方向断面内で位置決め面25と位置決め面27が嵌合する長さである嵌合長Lを、
図1中に示した。
【0029】
コマ部14は上方に進むにつれて位置決め面27の外径を大きくする逆台形状の断面形状を有しているため、コマ部14の上端部分の外径サイズが、コマ部14の最大外径DMとなる。軸方向断面内では、位置決め面25と位置決め面27が嵌合長Lで接する部分が、中心軸Zを挟んで対称に2箇所存在している。
【0030】
上型12は、胴型10の内部に上下方向へ移動可能に挿入される。上型12は、下方に位置する小径部33と、小径部33の上部に位置する大径部34とを有している。小径部33の外面には、中心軸Zを中心とする円筒面(円筒の外面)であり、胴型10における上型案内面16の内径に対応した外径を有する外周面35が形成されている。大径部34の外面には、中心軸Zを中心とする円筒面(円筒の外面)であり、胴型10における上型案内面17の内径に対応する外径を有する外周面36が形成されている。外周面35と外周面36の間には、環状で下向きの移動規制面37が形成されている。上型12における小径部33の下端には、下方に向く凸面状の成形面38を有する。
【0031】
外周面35及び外周面36が上型案内面16及び上型案内面17に囲まれることによって、径方向での上型12の位置が定まり、上型12の中心が中心軸Zと一致する。また、上型案内面16及び上型案内面17と外周面35及び外周面36の嵌合によって、上型12は胴型10に対して傾きやガタつきを生じずに上下方向に摺動可能に支持される。移動規制面37が移動規制面18に当接することによって、胴型10からの下方への上型12の脱落が防止される。なお、中心軸Zを中心とする周方向への胴型10と上型12の相対回転を防ぐように、胴型10と上型12の間に回転規制構造を備えてもよい。
【0032】
胴型10に対して下型11(台座部13)を上下方向に移動させる駆動手段5と、胴型10に対して上型12を上下方向に移動させる駆動手段6とを有する。駆動手段5や駆動手段6は、ガラスレンズ成形型1が設置されるガラスレンズ製造装置に設けた、シリンダピストン機構やその駆動源などによって構成される。
【0033】
下型11の成形面28や上型12の成形面38上にはコーティング層(図示略)を形成してもよい。コーティング層は炭素膜などからなり、ガラスレンズを構成する被成形ガラス材の融着を抑える効果を有する。あるいは、コーティング層を備えずに成形面28や成形面38が露出している構成も選択可能である。
【0034】
以上の構成のガラスレンズ成形型1によるガラスレンズの成形工程について説明する。ガラスレンズの成形は、素材となる被成形ガラス材が軟化する成形温度(ガラス転移点以上)まで加熱した状態で行う。
【0035】
胴型10から下方に下型11を離脱させた状態で、コマ部14の成形面28上に被成形ガラス材であるガラスプリフォーム(図示略)を載せる。続いて、駆動手段5を駆動して下型11を上方に移動させ、台座部13の小径部20を胴型10内に下方から挿入する。また、駆動手段6を駆動して上型12を下方に移動させ、胴型10内に上型12を挿入させる。そして、下型11と上型12を上下方向で接近させると、加熱で軟化した状態のガラスプリフォームが下型11(コマ部14)の成形面28と上型12の成形面38によって上下から押圧されて変形する。
【0036】
図1に示すように、下型11は、台座部13の大径部21が下型規制面19に当接する位置で、胴型10に対する上方への移動が制限される。駆動手段6は、大径部34の上端面と胴型10の上面面が面一になる位置まで上型12を下方に押し込む。この状態で、ガラスレンズ成形型1でのプレス加工が完了となり、成形面28と成形面38の形状が転写されたレンズ面を表裏に有するガラスレンズ(メニスカスレンズ)が完成する。なお、
図1に示すプレス加工完了状態では、胴型10の移動規制面18と上型12の移動規制面37の間にはクリアランスがある。
【0037】
ガラスレンズの成形完了後に、駆動手段6を駆動して上型12を引き上げ、駆動手段5を駆動して下型11を下降させる。そして、成形されたガラスレンズをガラスレンズ成形型1から取り出して回収する。
【0038】
図2は、第2の形態のガラスレンズ成形型2を示している。ガラスレンズ成形型2における胴型10と上型12は、上述したガラスレンズ成形型1と共通の構成であり、説明を省略する。ガラスレンズ成形型2は、下型11におけるコマ部40と、コマ部40を収容する台座部13のコマ収容部41の構成が、ガラスレンズ成形型1のコマ部14及びコマ収容部24とは異なっている。
【0039】
コマ収容部41は台座部13の上面側に開口した凹部であり、コマ収容部41の内面として、底面42と位置決め面43とを有する。底面42は、中心軸Zに対して垂直な平面であり、中心軸Zを中心とする円形状の範囲に形成されている。位置決め面43は、中心軸Zを中心とする円筒面(円筒の内面)であり、底面42の周縁から上方に向けて突出している。
【0040】
コマ収容部41の内部にコマ部40が保持される。コマ部40は外面に底面45と位置決め面46を有している。底面45は中心軸Zに対して垂直な平面であり、コマ収容部41の底面42に対応する円形の形状である。位置決め面46は、中心軸Zを中心とする円筒面(円筒の外面)であり、底面45の周縁から上方に向けて突出している。コマ部40はさらに、上方に向く凹面状の成形面47を有する。
【0041】
コマ部40は、底面45を底面42に当接させることによって、台座部13に対する上下方向の位置が定まる。また、位置決め面46が位置決め面43に嵌合して、台座部13に対するコマ部40の径方向の位置が定まる。この位置決め状態で、コマ部40の径方向の中心が中心軸Zと一致する。すなわち、胴型10に対して台座部13及びコマ部40が適正に調芯された状態になり、成形面47の中心を中心軸Zが通るようになる。
【0042】
台座部13には、コマ収容部41の下方に連続する吸引用空間44が形成されている。吸引用空間44には吸引孔30の上端が通じており、吸引源31を駆動すると、吸引管32及び吸引孔30を通じて吸引用空間44に吸引力が作用する。この吸引力によって、コマ収容部41に対してコマ部40を密着嵌合させることができる。
【0043】
コマ部40の位置を定める位置決め面43と位置決め面46は、ガラスレンズ成形型2の軸方向断面内において、型移動方向(中心軸Z)と垂直な方向(すなわち径方向)に対する傾き角θが90°である。円筒状の位置決め面46の直径が、軸方向断面内でのコマ部40の最大外径DMとなる。上下方向での位置決め面43及び位置決め面46の高さが、軸方向断面内で位置決め面43と位置決め面46が嵌合する長さである嵌合長Lとなる。軸方向断面内では、位置決め面43と位置決め面46が嵌合長Lで接する部分が、中心軸Zを挟んで対称に2箇所存在している。
【0044】
図1のガラスレンズ成形型1と
図2のガラスレンズ成形型2はいずれも、台座部13とコマ部14、40とによって下型11を構成しており、コマ部14、40は、成形面28、47とその周囲のみを含む小型な部材である。より詳しくは、上下方向への下型11全体の大きさに比して、上下方向へのコマ部14、40の肉厚が半分以下である。また、コマ部14の最大外径DMやコマ部40の最大外径DMは、下型11全体の外径(大径部21の外径)の半分以下である。そのため、コマ部14、40を形成する材料が少なくて済み、且つ成形面28、47を含むコマ部14、40の精度管理を行い易い。つまり、コマ部14、40を低コストで効率良く製造できる。
【0045】
成形面28、47に傷などの異常が生じた場合には、異常が生じたコマ部14、40を、予め製造しておいた別のコマ部14、40に入れ替えることで、下型11全体を再加工する手間を要さず迅速に成形可能な状態に復帰できる。また、成形面28、47の形状が異なる複数種のコマ部14、40を準備しておき、コマ部14、40を換装して、レンズ面形状の異なるガラスレンズを製造することも可能である。このように、台座部13とコマ部14、40とを分けて下型11を構成したことにより、ガラスレンズ成形型1、2によるガラスレンズの生産性を向上させることができる。
【0046】
台座部13とコマ部14、40は、互いに接着等で固定されず、位置決め面25、27の嵌合や位置決め面43、46の嵌合によってコマ部14、40を位置決め(芯出し)する。そのため、台座部13とコマ部14、40のそれぞれを構成する材質の熱膨張率がある程度異なっていても、成形温度まで加熱した際に互いの嵌合部分に過大なストレスがかかりにくい。すなわち、台座部13とコマ部14、40を互いに固定させる構成に比して、台座部13とコマ部14、40の熱膨張率の許容範囲が広く、材質の選択自由度が向上する。
【0047】
出願人は、研究及び実験の結果、以上のような構成のガラスレンズ成形型において所定の条件を満たすことで、保持部(下型11における台座部13に相当する)に対してコマ部を簡単且つ確実に精度良く保持させることができることを見出した。以下、その条件について説明する。
【0048】
まず、保持部に対するコマ部の位置を定める位置決め面の傾き角と、位置決め面の嵌合長についての条件を、次のように定める。ガラスレンズ成形型の軸方向断面内での、型移動方向と垂直な方向に対する位置決め面の傾き角をθ、保持部とコマ部の互いの位置決め面が接する嵌合長をL、コマ部の最大外径をDMとしたとき、条件(1)及び条件(2)を満たすように構成する。
(1)60°≦θ≦90°
(2)L≧DM(90-θ)/180 (但し、L>0)
【0049】
条件(1)は、位置決め面の傾き角に関する条件である。
図1のガラスレンズ成形型1の位置決め面25、27は、条件(1)の下限値の60°であり、
図2のガラスレンズ成形型2の位置決め面43、46は、条件(1)の上限値の90°であり、それぞれ条件(1)を満たしている。条件(1)を満たすことで、位置決め面を嵌合させたときにコマ部を径方向に安定して保持して、コマ部の偏心や傾きを防ぐことができる。また、条件(1)の範囲では、保持部に対するコマ部の組み付けの際に、位置決め面が組み付けの妨げにならず、保持部とコマ部を型移動方向に接近させることにより容易且つ確実に位置決め面の嵌合状態を得られる。
【0050】
これに対し、位置決め面の傾き角θが条件(1)の下限値よりも小さいと、径方向へのコマ部の拘束が不安定になり、保持部に対するコマ部の偏心や傾きが生じやすくなる。また、位置決め面の傾き角θが条件(1)の上限値よりも大きいと、保持部とコマ部を型移動方向に接近させる動作で互いの位置決め面を嵌合させられない構造になり、組み付け性が悪化したり組み付けが困難になったりする。
【0051】
条件(2)は、位置決め面の嵌合長に関する条件である。条件(1)での位置決め面の傾き角θが大きいほど、保持部がコマ部を径方向に拘束しやすいので、コマ部の径方向の位置精度や安定性を確保するための位置決め面の嵌合長を小さくすることができる。例えば、位置決め面の傾き角θが90°の場合(
図2のガラスレンズ成形型2の場合)、軸方向断面内で位置決め面同士が面接触ではなく点接触する構成(つまり、最小限の嵌合長)でも、コマ部を径方向に安定させることができる。逆に、傾き角θが小さくなるにつれて、コマ部の径方向の位置精度や安定性を確保するために必要な位置決め面の嵌合長は大きくなる。また、コマ部の最大外径DMが大きいほど、コマ部を安定保持させるために必要な位置決め面の嵌合長が大きくなる。
【0052】
条件(2)は、コマ部を精度良く安定して保持させるための最小限の嵌合長Lを、コマ部の最大外径DMと位置決め面の傾き角θとの関係に基づいて求めたものである。この条件(2)を満たす嵌合長Lの最小値を嵌合長下限規格と呼ぶ。
【0053】
また、保持部とコマ部を構成する材質の熱膨張率についての条件を、次のように定める。コマ部を構成する材質の100℃~300℃の平均熱膨張係数をα1、保持部を構成する材質の100℃~300℃の平均熱膨張係数をα2としたとき、条件(3)及び条件(4)を満たすように構成する。
(3)α1=15×10-7/℃~100×10-7/℃
(4)α2=15×10-7/℃~100×10-7/℃
【0054】
条件(3)と条件(4)を満たすことにより、成形温度(ガラスプリフォームのガラス転移点以上)までの加熱や成形後の冷却などの温度変化に対応した、高精度且つ高耐久のガラスレンズ成形型を得ることができる。より好ましくは、コマ部の材質の平均熱膨張係数α1を30×10-7/℃~80×10-7/℃、保持部の材質の平均熱膨張係数α2を15×10-7/℃~60×10-7/℃の範囲に設定するとよい。
【0055】
本発明は、コマ部と保持部が同じ材質からなる場合と、コマ部と保持部が異なる材質からなる場合のいずれでも成立する。従って、条件(3)と条件(4)は、α1とα2の値が同じである場合と異なる場合の両方を含む。
【0056】
コマ部と保持部のそれぞれの材質の熱膨張係数を条件(3)及び条件(4)の範囲内にした上で、コマ部の材質と保持部の材質の関係が条件(5)又は条件(6)を満たすように構成する。条件(5)と条件(6)は、位置決め面の傾き角θに応じた択一的な関係になる。なお、条件(5)と条件(6)の前提として、上述した条件(1)を満たすものとする。
(5)θ=90°でのα1/α2=1.0~2.0
(6)60°≦θ<90°でのα1/α2=0.3~2.0
【0057】
条件(5)と条件(6)は、成形時に成形温度まで加熱したときのコマ部の保持精度に関係する。成形温度まで加熱すると、コマ部と保持部がそれぞれの材質の熱膨張率に応じて僅かに変形(膨張)する。上述のように、保持部に対してコマ部を接着などで固定しないことにより、コマ部と保持部の熱膨張率の違いを許容できる。そして、ある程度の範囲内でコマ部と保持部の熱膨張率を異ならせると、加熱によるコマ部と保持部の変形量の違いを利用して、保持部とコマ部をより強固に嵌合させることができる。
【0058】
例えば、コマ部の熱膨張率よりも保持部の熱膨張率を大きく設定すると、成形温度まで加熱したときに、保持部側の位置決め面(膨張率が相対的に大きい)がコマ部側の位置決め面に押し付けられる状態になる。逆に、保持部の熱膨張率よりもコマ部の熱膨張率を大きく設定すると、コマ部側の位置決め面(膨張率が相対的に大きい)が保持部側の位置決め面に押し付けられる状態になる。いずれの場合も、位置決め面の嵌合強度を高めて、保持部に対するコマ部の位置の安定性と精度を向上させる効果が得られる。
【0059】
位置決め面の傾き角θが90°で条件(5)を満たすと、コマ部よりも熱膨張率が大きい保持部側の位置決め面が、コマ部側の位置決め面を締め付けて保持性を高める効果が得られる。条件(6)は、コマ部よりも熱膨張率が大きい保持部側の位置決め面が、コマ部側の位置決め面を締め付けて保持性を高める場合と、保持部よりも熱膨張率が大きいコマ部の位置決め面が保持部側の位置決め面に押し付けられて保持性を高める場合の両方を含んでいる。なお、条件(5)と条件(6)はいずれも、コマ部の平均熱膨張係数α1と保持部の平均熱膨張係数α2が同じ(α1/α2=1.0)である場合を含んでおり、この場合は成形温度まで加熱したときにコマ部と保持部の変形(膨張)が同等になる。
【0060】
コマ部の熱膨張率と保持部の熱膨張率の差が大きすぎると、成形温度まで加熱した際に、熱膨張によるコマ部の位置決め面と保持部の位置決め面の相対的なずれが無視できない大きさになり、コマ部の位置精度に影響が及んでしまう。コマ部の位置精度を確保できる境界値として、条件(5)と条件(6)のそれぞれの上限値と下限値が設定される。
【0061】
従って、条件(5)又は条件(6)を満たすことにより、ガラスレンズの成形時におけるコマ部の偏心や傾きを抑える効果が得られる。より好ましい値として、位置決め面の傾き角θが90°の場合にα1/α2=1.0~1.5、位置決め面の傾き角θが60°≦θ<90°の場合にα1/α2=0.5~1.5の範囲に設定すると、さらに効果的である。
【0062】
また、コマ部を構成する材質のヤング率βについて、下記の条件(7)を満たすことが好ましい。
(7)β≧85GPa
【0063】
条件(7)は、コマ部の剛性に関係する。ガラスレンズ成形型によってガラスレンズを押圧成形する際に、コマ部に撓みが発生すると、成形面の形状が維持されず、被成形ガラス材に対する成形精度に影響を及ぼす。コマ部の材質のヤング率が85GPa以上であると、被成形ガラス材の成形時に所定の押圧力を加えても、負荷によるコマ部の撓みを防止でき、成形面の精度を損なわずに成形することができる。
【0064】
図1のガラスレンズ成形型1の位置決め面25、27と、
図2のガラスレンズ成形型2の位置決め面43、46はいずれも、条件(1)及び(2)を満足している。また、ガラスレンズ成形型1における台座部13(保持部)とコマ部14、ガラスレンズ成形型2における台座部13(保持部)とコマ部40は、いずれも条件(3)及び(4)を満足する材質で構成されている。また、ガラスレンズ成形型1における台座部13とコマ部14は条件(6)を満たす材質からなり、ガラスレンズ成形型2における台座部13とコマ部40は条件(5)を満たす材質からなる。さらに、コマ部14、40はいずれも条件(7)を満足する材質からなる。これらの各条件を満たした場合と満たさない場合を含む実施例を、
図5を参照して説明する。
【0065】
<実施例>
ガラスレンズ製造装置において、ガラスレンズ成形型を構成する下型と上型の各成形面の間に、被成形ガラス材であるガラスプリフォームを配置し、ヒーターにより成形温度まで加熱して、下型と上型を接近移動させてガラスプリフォームを所定の圧力でプレスしてガラスレンズを成形した結果を、
図5に実施例として示す。この実施例では、台座
部とコマ部の材質を、候補材質A~Eから選択し、コマ部の最大外径(DM)、位置決め面の嵌合長(L)、位置決め面のテーパ角(θ)の値を適宜設定している。材質A~Eはいずれも、条件(3)及び条件(4)を満たすものである。コマ部の平均熱膨張係数(α1)と保持部の平均熱膨張係数(α2)の関係(α1/α2)は、選択した候補材質に基づいて算出される。
【0066】
・材質A:炭化ケイ素(SiC)
ヤング率(GPa):430
平均熱膨張係数(100℃~300℃):37×10-7/℃
比重:3.20g/cm3
・材質B:炭化タングステン(WC)合金
ヤング率(GPa):530
平均熱膨張係数(100℃~300℃):47×10-7/℃
比重:15.63g/cm3
・材質C:窒化ケイ素(Si3N4)
ヤング率(GPa):290
平均熱膨張係数(100℃~300℃):24×10-7/℃
比重:3.20g/cm3
・材質D:ガラス
ヤング率(GPa):95
ガラス転移温度(Tg):691℃
平均熱膨張係数(100℃~300℃):51×10-7/℃
比重:2.59g/cm3
・材質E:ガラス
ヤング率(GPa):87
ガラス転移温度(Tg):720℃
平均熱膨張係数(100℃~300℃):32×10-7/℃
比重:2.60g/cm3
【0067】
図5に示す実施例では、材質A、D、Eから選択してコマ部を形成し、材質A、B、Cから選択して保持部を形成し、これらの材質について複数の組み合わせパターンでガラスレンズ成形型を構成した。
図5の表中での位置決め面の傾き角(θ)60°は、上述したガラスレンズ成形型1の位置決め面25、27と同様の構成であり、
図5の表中での位置決め面の傾き角(θ)90°は、上述したガラスレンズ成形型2の位置決め面43、46と同様の構成である。
図5の表中に、ガラスレンズの成形において成形不良を生じずに良好な成形結果が得られた場合を「○」、成形不良が生じた場合を「×(Q1~Q10)」で示した。
【0068】
Q1の成形不良は、α1/α2=0.86が条件(5)の下限値(1.0)を下回ったことに起因しており、成形したガラスレンズに許容範囲を超える偏心が生じた。
【0069】
Q2の成形不良は、α1/α2=2.13が条件(5)の上限値(2.0)を上回ったことに起因しており、成形したガラスレンズに許容範囲を超える偏心が生じた。
【0070】
Q3とQ4の成形不良はいずれも、α1/α2=2.13が条件(6)の上限値(2.0)を上回ったことに起因しており、成形したガラスレンズに許容範囲を超える偏心が生じた。
【0071】
Q5~Q9の成形不良はいずれも、位置決め面の傾き角55°が条件(1)の下限値(60°)を下回ったことに起因しており、成形したガラスレンズに許容範囲を超える偏心が生じた。
【0072】
Q10の成形不良は、位置決め面の嵌合長1.5mmが、条件(2)の下限値(嵌合長下限規格である1.8mm)下回ったことに起因しており、成形したガラスレンズに許容範囲を超える偏心が生じた。
【0073】
図5の表から分かるように、以上のQ1~Q10での成形不良以外は、上述した各条件を満たすことによって良好なガラスレンズの成形結果が得られた。
【0074】
図1のガラスレンズ成形型1と
図2のガラスレンズ成形型2は、下型11を台座部13とコマ部14、40とで構成した例である。本発明におけるコマ部と保持部の関係は、これに限定されるものではない。例えば、
図3や
図4に示すように、上型12のコマ部を保持する構成においても本発明は適用可能である。
【0075】
図3は、第3の形態のガラスレンズ成形型3を示している。ガラスレンズ成形型3における下型11(台座部13とコマ部14)は、上述した
図1のガラスレンズ成形型1と共通の構成であり、説明を省略する。
【0076】
ガラスレンズ成形型3における胴型10の内部には、上端側から所定の範囲で上型案内面50が形成される。上型案内面50は、中心軸Zを中心とする円筒面(円筒の内面)である。胴型10の内部にはさらに、上型案内面50の下方に連続する位置決め面51が形成されている。位置決め面51は、中心軸Zを中心とする円錐面(円錐の内面)の一部であり、上方(上型案内面50側)から下方に進むにつれて径を小さくする(内径側への突出量を大きくする)すり鉢状の形状である。位置決め面51の下端は、胴型10内の下型案内面15で囲まれる空間に通じている。
【0077】
ガラスレンズ成形型3における上型12は、押圧部52とコマ部53の2部材によって構成されている。押圧部52は円筒状の外周面54を有し、外周面54の外径は、胴型10における上型案内面50の内径に対応している。押圧部52の下端面55は、中心軸Zに対して垂直な平面である。
【0078】
コマ部53の外面には、円筒状の外周面56と、外周面56の下方に続く位置決め面57が形成されている。外周面56の外径は、胴型10における上型案内面50の内径よりも僅かに小さい。位置決め面57は、中心軸Zを中心とする円錐面(円錐の外面)の一部であり、より詳しくは、位置決め面51と同一の(頂角が等しい)円錐面の一部である。コマ部53はさらに、位置決め面57に続く下端部分に凸面状の成形面58を有し、成形面58と反対の上端側に上端面59を有する。上端面59は中心軸Zに対して垂直な平面である。
【0079】
押圧部52は、外周面54を上型案内面50に摺接させて、胴型10に対して上下方向へ移動する。そして、外周面54が上型案内面50に囲まれることによって、径方向での押圧部52の位置が定まる。
【0080】
コマ部53は、外周面56を上型案内面50に摺接させて、胴型10に対して上下方向へ移動する。そして、
図3のように位置決め面57が位置決め面51に嵌合することで、胴型10に対する径方向及び上下方向でのコマ部53の位置が定まる。外周面56と上型案内面50の間には僅かなクリアランスがあり、位置決め面51、57によるコマ部53の径方向の位置決めを妨げない。
【0081】
ガラスレンズ成形型3によってガラスレンズを成形する際には、下型11のコマ部14の成形面28上にガラスプリフォームを設置し、ガラスプリフォームが軟化する成形温度まで加熱した状態で、駆動手段6によって押圧部52の上端面を下方に押し込む。押圧部52の下端面55がコマ部53の上端面59に当て付いて、押圧部52と共にコマ部53が下方に移動する。
【0082】
押圧部52とコマ部53からなる上型12が駆動手段6によって押し切られると、上型12のコマ部53の成形面58と、下型11のコマ部14の成形面28とで挟圧されたガラスプリフォームが変形してガラスレンズが成形される。このとき、円錐状の位置決め面57が円錐状の位置決め面51に嵌合して、胴型10に対するコマ部53の位置が定まる。従って、上下のコマ部14、53がそれぞれ調芯された状態でガラスレンズのプレス加工を行うことができる。
【0083】
ガラスレンズ成形型3では、胴型10を上述の「保持部」、上型12のコマ部53を上述の「コマ部」として、上述した各条件を満たすことによって、下型11の台座部13とコマ部14の場合と同様の効果(保持部に対してコマ部を簡単且つ確実に精度良く位置させることができるという効果)を得ることができる。
【0084】
図3に示す位置決め面51、57は、中心軸Zに対する傾き角θが60°であり、上記の条件(1)を満たしている。また、コマ部53の最大外径DM(外周面56の外径)と、位置決め面51、57の嵌合長Lは、上記の条件(2)を満たす関係にある。さらに、胴型10の材質とコマ部53の材質は、上記の条件(3)~(7)に合致するように選択される。
【0085】
図4は、第4の形態のガラスレンズ成形型4を示している。ガラスレンズ成形型4における下型11(台座部13とコマ部40)は、上述した
図2のガラスレンズ成形型2と共通の構成であり、説明を省略する。
【0086】
ガラスレンズ成形型4における胴型10の内部には、上端側から所定の範囲で上型案内面60が形成される。上型案内面60は、中心軸Zを中心とする円筒面(円筒の内面)である。胴型10の内部にはさらに、上型案内面60の下方に連続する位置決め面61が形成されている。位置決め面61は中心軸Zを中心とする円筒面(円筒の内面)であり、位置決め面61の内径は上型案内面60の内径よりも小さい。位置決め面61の下端は、胴型10内の下型案内面15で囲まれる空間に通じている。
【0087】
ガラスレンズ成形型4における上型12は、押圧部62とコマ部63の2部材によって構成されている。押圧部62は円筒状の外周面64を有し、外周面64の外径は、胴型10における上型案内面60の内径に対応している。押圧部62の下端面65は、中心軸Zに対して垂直な平面である。
【0088】
コマ部63には、外径側に突出するフランジ66と、フランジ66の下方に続く位置決め面67が形成されている。フランジ66の外径は、胴型10における上型案内面60の内径よりも僅かに小さい。位置決め面67は、中心軸Zを中心とする円筒面(円筒の外面)であり、位置決め面67の外径が位置決め面61の内径に対応している。コマ部はさらに、位置決め面67に続く下端部分に凸面状の成形面68を有し、成形面68と反対の上端側に上端面69を有する。上端面69は中心軸Zに対して垂直な平面である。
【0089】
押圧部62は、外周面64を上型案内面60に摺接させて、胴型10に対して上下方向へ移動する。そして、外周面64が上型案内面60に囲まれることによって、径方向での押圧部62の位置が定まる。
【0090】
コマ部63は、フランジ66を上型案内面60に摺接させて、胴型10に対して上下方向へ移動する。そして、
図4のように位置決め面67が位置決め面61に嵌合することで、胴型10に対する径方向でのコマ部63の位置が定まる。フランジ66と上型案内面60の間には僅かなクリアランスがあり、位置決め面61、67によるコマ部63の径方向の位置決めを妨げない。
【0091】
ガラスレンズ成形型4によってガラスレンズを成形する際には、下型11のコマ部40の成形面47上にガラスプリフォームを設置し、ガラスプリフォームが軟化する成形温度まで加熱した状態で、駆動手段6によって押圧部62の上端面を下方に押し込む。押圧部62の下端面65がコマ部63の上端面69に当て付いて、押圧部62と共にコマ部63が下方に移動する。
【0092】
押圧部62とコマ部63からなる上型12が駆動手段6によって押し切られると、上型12のコマ部63の成形面68と、下型11のコマ部40の成形面47とで挟圧されたガラスプリフォームが変形してガラスレンズが成形される。このとき、円筒状の位置決め面67が円筒状の位置決め面61に嵌合して、胴型10に対するコマ部63の位置が定まる。従って、上下のコマ部14、63がそれぞれ調芯された状態でガラスレンズのプレス加工を行うことができる。なお、
図4に示すプレス加工完了状態では、コマ部63のフランジ66と、胴型10内の上型案内面60と位置決め面61の間の段差部との間にはクリアランスがある。
【0093】
ガラスレンズ成形型4では、胴型10を上述の「保持部」、上型12のコマ部63を上述の「コマ部」として、上述した各条件を満たすことによって、下型11の台座部13とコマ部40の場合と同様の効果(保持部に対してコマ部を簡単且つ確実に精度良く位置させることができるという効果)を得ることができる。
【0094】
図4に示す位置決め面61、67は、中心軸Zに対する傾き角θが90°であり、上記の条件(1)を満たしている。また、コマ部63の最大外径DM(位置決め面67の外径)と、位置決め面61、67の嵌合長Lは、上記の条件(2)を満たす関係にある。さらに、胴型10の材質とコマ部63の材質は、上記の条件(3)~(7)に合致するように選択される。
【0095】
以上のように、本発明を適用した実施形態のガラスレンズ成形型によれば、保持部(下型11における台座部13、あるいは胴型10)に対してコマ部(下型11のコマ部14、40、あるいは上型12のコマ部53、63)を簡単且つ確実に精度良く位置させることができ、成形温度に加熱してガラスレンズを成形する際に、成形不良が生じにくく高精度な成形を実現できる。なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨内において様々な変更を行うことが可能である。
【0096】
例えば、
図1のガラスレンズ成形型1と
図3のガラスレンズ成形型3は、各コマ部14、53の位置を定める位置決め面の傾き角θを、中心軸Zと垂直な方向に対して60°に設定し、
図2のガラスレンズ成形型2と
図4のガラスレンズ成形型4は、各コマ部40、63の位置を定める位置決め面の傾き角θを、中心軸Zと垂直な方向に対して90°に設定しているが、位置決め面の傾き角は、上記条件(1)の範囲内で任意の角度に設定することができる。例えば、
図5の実施例中に含まれる75°のような角度や、それ以外の角度を選択してもよい。
【0097】
図5の実施例では、保持部の材質として、炭化ケイ素(材質A)や窒化ケイ素(材質C)のようなセラミックス、炭化タングステン合金(材質B)のような超硬合金を選択しているが、保持部の材質としてガラスなどを選択することも可能である。
【符号の説明】
【0098】
1~4 :ガラスレンズ成形型
10 :胴型(保持部)
11 :下型
12 :上型
13 :台座部(保持部)
14 :コマ部
24 :コマ収容部
25 :位置決め面
27 :位置決め面
28 :成形面
38 :成形面
40 :コマ部
41 :コマ収容部
43 :位置決め面
44 :吸引用空間
46 :位置決め面
47 :成形面
51 :位置決め面
52 :押圧部
53 :コマ部
57 :位置決め面
58 :成形面
61 :位置決め面
62 :押圧部
63 :コマ部
67 :位置決め面
68 :成形面