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特許7407533非晶質組成物、熔融水砕物、熔融水砕物含有組成物、及び肥料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】非晶質組成物、熔融水砕物、熔融水砕物含有組成物、及び肥料
(51)【国際特許分類】
   C05B 13/00 20060101AFI20231222BHJP
【FI】
C05B13/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019133595
(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公開番号】P2020019701
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018136556
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】398002204
【氏名又は名称】日之出化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】吉冨 雅隆
(72)【発明者】
【氏名】三田 宏
(72)【発明者】
【氏名】坂下 普志
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-034185(JP,A)
【文献】特開2004-345940(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0345346(US,A1)
【文献】工業化学雑誌,1960年,第63巻、第1号,第83-92頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B 1/00- 21/00
C05C 1/00- 13/00
C05D 1/00- 11/00
C05F 1/00- 17/993
C05G 1/00- 5/40
C09K 17/00- 17/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分として、MgOとSiOとCaOとPとを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上5.0質量%以下含有する肥料用の非晶質組成物であって、
モル換算したときの、前記SiO及びPの合計に対する前記CaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.20~1.35であり、
粒径が0.212mm~0.300mmである非晶質組成物。
【請求項2】
化学成分として、MgOとSiOとCaOとPとを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上4.0質量%以下含有する肥料用の非晶質組成物であって、
モル換算したときの、前記SiO及びPの合計に対する前記CaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.35~1.45であり、
粒径が0.15mm~0.5mmである非晶質組成物。
【請求項3】
前記MgO及びSiO源が、フェロニッケルスラグを含む請求項1又は2に記載の非晶質組成物。
【請求項4】
4%クエン酸ソーダ緩衝液(pHの初期値が5.5)へのケイ酸の溶出率が75%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の非晶質組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の非晶質組成物を含有する熔融水砕物。
【請求項6】
請求項5に記載の熔融水砕物を含む熔融水砕物含有組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の熔融水砕物又は請求項6に記載の熔融水砕物含有組成物を含む肥料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質組成物、熔融水砕物、熔融水砕物含有組成物、及び肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
稲作に有用なケイ酸質肥料として、ケイカル(ケイ酸カルシウム)やケイ酸カリ肥料が用いられている。ケイカルはスラグを原料として製造され、SiO、CaO、Alを主成分とする、主としてアルカリ分とケイ酸を補給するための土壌改質剤である。しかし、ケイカルは塩酸可溶性ケイ酸分が30質量%を越えるものの、実際の土壌のpHに近い5~7程度の領域では溶出量が極端に減少し、ケイ酸分の供給源としては非常に効率の悪い資材である。
【0003】
従って、実際に使用する場合も、田10a当たり200kgと大量に施肥しなくてはならず、それに要する労力が農家の大きな負担になっている。ケイカルは肥料の三要素のいずれをも含まない資材であるため、他の肥料と混合して使用するのが一般的であり、例えば、ようりん40kgをケイカル200kgと混合して散布することが広く行われている。ようりんは、それに含まれるケイ酸分の中性に近いpH域での溶出性が高いことが知られており、燐酸質肥料であると同時にケイ酸質の供給源となっていることが認められている。
【0004】
また、ケイ酸カリ肥料のケイ酸溶出性は、ケイカルに比べると高いといわれているが、ようりんに比べるとpH5~7では劣っており十分とはいえない。ケイ酸カリ肥料も、ケイカルの場合と同様に、ようりんと混合して施肥されることが多く、ここでもようりんがケイ酸質の供給源としての役割を果たしている。
【0005】
カリウム成分は、一般に組成物をガラス化しやすくし、ケイ酸質の溶出性を改善するが、その反面、(1)カリ原料が高価であるため得られた製品も高価になる、(2)十分に高いケイ酸溶出性を確保するにはカリ含有量を高くしなければならず不経済である、(3)カリウムが強アルカリであるため製造設備の炉材を浸食する、(4)カリを加えると熔融物の粘度が上昇するため操業しにくく、それを下げようとして温度を上げるとカリが揮散する、等の欠点を有している。
【0006】
一方、ようりんに含まれるケイ酸分は溶出性が高く、植物吸収性が高いことが知られている。市販されているようりんに含まれるSiOは20~25質量%程度であるが、ケイ酸含有量を増やすとその溶出率が低下することが知られている。すなわち、熔成燐肥の一般的な原料配合にケイ石を加えて加熱熔融・急冷して、2%クエン酸水溶液へのケイ酸の溶出性を測定した試験例(工業化学雑誌第60巻1109頁1957年)によれば、2%クエン酸水溶液(初期pHが約2)へのケイ酸溶出率は30質量%程度で頭打ちになると記載されている。
【0007】
そこで特許文献1では、特に実際の土壌のpH=5~7付近で溶出性の高いSiOを30質量%以上含む無機組成物を提案し、燐を含有させることにより施用前に燐肥と混合しなくてもよい、ケイ酸を主体として、燐、アルカリ分を含む資材を提供し、通常のようりん製造設備を用いて容易に製造することができ、カリを含んでいないので安価に製造できる、稲等の土壌中にケイ酸分が必要とされる作物に用いられるケイ酸質肥料並びに土壌改質材を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-34185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の肥料は、土壌中のケイ酸分が有用な働きをする作物、特に稲作用の土づくり資材或いは肥料として有用である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これまでは、MgO源及びSiO源としては主に蛇紋岩が使用されてきた。蛇紋岩はその優れたMgO及びSiO供給能力から、広く肥料原料として採用されてきたが、入手が困難となり代替資材が求められていた。蛇紋岩に代わるMgO及びSiO源として他の原料を採用しようとすると、コスト増を招いたり他の不純物成分が多くてMgO及びSiOの供給を阻害したりすることがあった。
【0011】
そこで、本発明者らはSiOの供給を阻害する成分について検討したところ、アルミナ成分を多く含むとこれがゲル化してSiOの溶出が阻害されることを突き止めた。そこで、アルミナ成分量の少ない材料を使用することが有効と予想されるが、当該材料は得てして蛇紋岩よりも高価であり、コスト的な問題を有することになる。
例えば、マグネサイト鉱等を使用してMgO源とすることも可能であるが、輸入原料の高騰にともない安価肥料を提供することに支障がでてくる。
【0012】
上記状況を鑑み、本発明者らはあえてアルミナ成分量の高いものを使用し、材料中の組成と粒径を制御した本発明により、蛇紋岩を使用した場合と同様の有効性を発揮できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0013】
[1] 化学成分として、MgOとSiOとCaOとPとを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上含有する非晶質組成物であって、モル換算したときの、前記SiO及びPの合計に対する前記CaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.20~1.35であり、粒径が0.5mm以下である非晶質組成物。
[2] 化学成分として、MgOとSiOとCaOとPとを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上含有する非晶質組成物であって、モル換算したときの、前記SiO及びPの合計に対する前記CaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.35~1.45であり、粒径が0.15mm~0.5mmである非晶質組成物。
[3] 前記MgO及びSiO源が、フェロニッケルスラグを含む[1]又は[2]に記載の非晶質組成物。
[4] ケイ酸の溶出率が75%以上である[1]~[3]のいずれかに記載の非晶質組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の非晶質組成物を含有する熔融水砕物。
[6] [5]に記載の熔融水砕物を含む熔融水砕物含有組成物。
[7] [5]に記載の熔融水砕物又は[6]に記載の熔融水砕物含有組成物を含む肥料。
[8] 化学成分として、MgOとSiOとCaOとPとを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上含有する非晶質組成物であって、モル換算したときの、前記SiO及びPの合計に対する前記CaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.20~1.35である非晶質組成物の粒径を0.5mm以下に調製した場合に、ケイ酸の溶出率が75%以上である非晶質組成物。
[9] 化学成分として、MgOとSiOとCaOとPとを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上含有する非晶質組成物であって、モル換算したときの、前記SiO及びPの合計に対する前記CaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.35~1.45である非晶質組成物の粒径を0.15mm~0.5mmに調製した場合に、ケイ酸の溶出率が75%以上である非晶質組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ケイ酸の溶出率が大きく、肥料として有効な非晶質組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の非晶質組成物、熔融水砕物、熔融水砕物含有組成物、肥料のそれぞれの実施形態(本実施形態)について詳細に説明する。
【0016】
[1.非晶質組成物、熔融水砕物、熔融水砕物含有組成物]
本実施形態に係る非晶質組成物は、熔融水砕物が好ましい。非晶質組成物の各化学成分の値は、MgO換算値、SiO換算値、P換算値、CaO換算値、Al換算値として算出することが好ましい。
本実施形態に係る熔融水砕物は、例えば、下記の第1の非晶質組成物又は第2の非晶質組成物の構成を含む。
【0017】
第1の非晶質組成物は、化学成分として、MgOとSiOとCaOとPとを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上含有し、モル換算したときの、SiO及びPの合計に対するCaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.20~1.35であり、粒径が0.5mm以下である。
【0018】
また、第2の非晶質組成物は、化学成分として、MgOとSiOとCaOとPとを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上含有する熔融水砕物であって、モル換算したときの、SiO及びPの合計に対するCaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.35~1.45であり、粒径が0.15mm~0.5mmである熔融水砕物である。
【0019】
なお、「化学成分」とは、Mg、Si、Ca、Pを、それぞれ、MgO、SiO、CaO、Pに酸化物換算したものをいい、例えば、肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)で確認できる。現品については、例えば、蛍光X線回折法(XRF)にて確認できる。
【0020】
第1の非晶質組成物及び第2の非晶質組成物は共に、アルミナ成分(Al)を1.2質量%以上含有する。アルミナ成分は使用する原料に起因するもので、1.2質量%以上含有するとSiO等の有効成分の溶出が阻害されるが、原料種の選択の幅が広がりコストの低減が可能となる。アルミナ成分の含有量は、5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることが最も好ましく、2.2質量%以下であることが尚更好ましい。
ここで、アルミナ成分を1.2質量%以上含有することの課題、すなわち、SiOの供給を阻害する課題は、モル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]の範囲を2つの場合に分けて、それぞれについて特定の粒径範囲とすることで解決される。また、アルミナ成分の存在はケイ酸溶出率を低下させ、かつその含有量が増加すると他の成分の含有量が実質的に減るといった問題も、本実施形態により解決できる。
【0021】
第1の非晶質組成物においては、モル換算したときの、SiO及びPの合計に対するCaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.20~1.35であり、粒径が0.5mm以下であることで、アルミナ成分を1.2質量%以上含有することの課題をなくしている。粒径が0.5mm以下である場合は、モル比が1.20~1.35であることで、Caイオン、Mgイオンの存在量が減少、資材粒子表面付近の微細な環境でのpH上昇が抑制され、Al化合物による溶出への抑制作用を低下させると推定され、結果として上記課題が除去されると考えられる。粒径は0.01mm以上が好ましい。
【0022】
また、第2の非晶質組成物においては、モル換算したときの、SiO及びPの合計に対するCaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.35~1.45であり、粒径が0.15mm~0.5mmであることで、粒径が0.15mm以下であるときよりも資材粒子表面付近の微細な環境でのpH上昇が抑制され、Al化合物による溶出への抑制作用を低下させると推定され、結果として上記課題が除去されると考えられる。モル比は1.35を超えることが好ましい。
【0023】
第1の非晶質組成物及び第2の非晶質組成物における粒径は、例えば、粒径未調整の熔融水砕物前駆体を粉砕機で粉砕し、その粉砕物を各種ふるいで篩い分けすることによって、所望の範囲に調整することができる。
【0024】
第1の非晶質組成物又は第2の非晶質組成物を含む本実施形態に係る熔融水砕物について、以下、より詳細に説明する。
本実施形態に係る熔融水砕物は、既述のとおり、化学成分としてMgO、SiO、CaO、Pを含む。熔融水砕物中のこれらの合計含有量は、87質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0025】
従来公知のケイ酸溶出性を有するものの多くは、例えばケイ酸カリ肥料のように、カリウムを主成分として含有するのに対し、本実施形態に係る熔融水砕物はこれを主成分としては含有していない。これにより、製品価格が高くなる、製造設備の炉材を浸食する、操業しにくい等の欠点が解消されやすくなる。
【0026】
本実施形態に係る非晶質組成物及び熔融水砕物はケイ酸の溶出性を高めるために非晶質であることが好ましい。非晶質の程度については、本発明者らの実験的検討結果によれば、NMR-29Siのケミカルシフト値(以下、単にNMR-Siという)について、半値幅が10ppm以上の拡がりを有するものであれば充分である。NMR-Siの測定方法は、特開2000-34185号公報に記載されている。
【0027】
本実施形態に係るSiO含有量は、30質量%以上であることが好ましく、32~45質量%であることがより好ましい。30質量%以上であることで、十分なケイ酸溶出量が確保でき、ケイ酸質資材或いは肥料としての価値を高めることができる。
【0028】
本実施形態に係るMgOは、熔融温度を下げる効果やケイ酸溶出率を増大させる効果があり、また肥料成分としても有効なので、適当量含有させる必要がある。MgO含有量は、1~20質量%であることが好ましく、7~18質量%であることがより好ましい。1~20質量%であることで、上記の効果が得られやすく、施用した植物の肥料成分の吸収性に拮抗作用を生じることもない。
【0029】
本実施形態に係るP含有量は、1~12質量%であることが好ましく、4~10質量%であることがより好ましい。1~12質量%であることで、ケイ酸の溶出率を高くし、リン肥料の混合散布を必要とせず、更に適切なPの施用量を維持できる。
【0030】
本実施形態に係るCaO含有量は、5~35質量%であることが好ましく、8~35質量%であることがより好ましい。5~35質量%含有することで良好な肥効が得られやすくなる。
【0031】
本実施形態において、主成分を構成する上記成分の他に、微量成分として有効な硼素やマンガンを含有させることもできる。硼素やマンガンの存在は、後述する製造方法において熔融温度の低下や熔融水砕物の流動性の増加の効果があり、また、得られる非晶質組成物、熔融水砕物の非晶質化を促し、ケイ酸の溶出性を助長する効果もある。また、不可避的に混入する鉄酸化物やアルミニウムの酸化物等が含まれてもよい。
【0032】
本実施形態の非晶質組成物、熔融水砕物を得る方法に関し、まず原料としては、燐鉱石、ケイ石、マグネサイト鉱、石灰石、フェロニッケルスラグ、フェロマンガンスラグ、各種高炉滓、各種製鋼滓、製リンスラグ、フライアッシュ等のP、CaO、MgO、或いはSiOを含有する通常の原料類を利用できる。ただし、蛇紋岩は使用しない。蛇紋岩の代替として、MgO及びSiO源が、フェロニッケルスラグを含むことが好ましい。
また、各種高炉滓、各種製鋼滓(ケイカル)は、アルミナの含有率が高いものの、本実施形態の非晶質組成物、熔融水砕物の原料として使用できる。
【0033】
ここで、フェロニッケルスラグは、ニッケル鉱石等からフェロニッケルを精錬採取する際に副産されるスラグ(鉱滓)をいう。フェロニッケルスラグとしては、例えば、JISA5011-2「コンクリート用スラグ骨材第2部:フェロニッケルスラグ細骨材」に適合するフェロニッケルスラグ細骨材(粒径の範囲=5mm未満)を分級又は/及び粉砕して、粒径0.1mm~1.0mmの範囲内に調製したもの等が挙げられる。
フェロニッケルスラグは、天然原料よりも、強熱減量が少ないことが期待され、そのため、物量の収支計算がしやすくなり、製品の成分が安定する。その結果、生産性向上に寄与することができる。また、特に、蛇紋岩の代わりにフェロニッケルスラグを用いることで、コスト削減が可能で肥料として有効な非晶質組成物や熔融水砕物が得られやすくなる。
【0034】
上記のような原料を、揮発分の量等を考慮し、生成物が所望組成となるように、即ち、第1の熔融水砕物であれば、アルミナ成分を1.2質量%以上とし、モル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.20~1.35となるように配合する。また、第2の熔融水砕物であれば、アルミナ成分を1.2質量%以上とし、モル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.35~1.45となるように配合する。
上記のような配合を前提に、MgOを1~20質量%、SiOを30~50質量%、Pを1~12質量%、CaO含有量を5~35質量%となるように配合設計することが好ましい。
【0035】
配合後は、この配合物を高温で熔融する。熔融に用いる炉(熔融炉)は、外熱式電気炉、アーク炉、高周波加熱炉等の電気炉、或いは平炉等の色々な燃焼ガス炉等が使用できる。熔融温度は、組成にもよるが1350℃以上が好ましい。目標とする組成を有する原料が完全に熔融する温度より、およそ150℃以上高い温度で熔融すると、熔融温度から結晶化の進まない温度までの間で十分な冷却速度がとれるので好ましい。熔融炉としては、後述するとおりに、熔融液を急冷することができ、非晶質化した無機組成物を容易に得ることができることから、電気炉、並びに平炉が選択される。熔融温度は、3000℃以下が好ましく、2000℃以下がより好ましい。
【0036】
熔融液の急冷は、得られる組成物、熔融水砕物の非晶質化を達成し、ケイ酸の溶出性を高めるために必須である。結晶質の場合は、組成物の結合が強固で成分が溶出しないことは一般的に知られており、溶出した成分を活用する肥料に用いる場合には、非晶質であることが必要である。急冷は、一般には、炉から抜き出した熔融液に熔融液の20~40倍の質量の水を吹き付ける方法や、多量の水中に浸漬する方法等を適用することによって行われる。本発明の非晶質組成物を得る際の冷却方法としては、熔融温度から100℃までの所要時間を20秒以下、好ましくは10秒以下とすることがよく、特に、原料が完全に熔融する温度の上下200℃の間を5秒以内とすることが好ましいので、ジェット水流を当てて冷却する方法が好ましい。更に、ジェット水流を用いる冷却方法は、熔融液より砂状物を直接に得られ、後工程としての粉砕を省略することもできるという効果も得られる。
【0037】
その後、第1の非晶質組成物とする場合は、既述の篩い分けにより粒径が0.5mm以下となるように分級する。また、第2の非晶質組成物とする場合は、粒径が0.15mm~0.5mmとなるように分級する。篩はJIS Z 8801に記載された篩を用いることが好ましい。
【0038】
このようにして得られた非晶質組成物又は熔融水砕物はそのままでも肥料、土壌改質剤として利用できるが、後述の粒状物として各種用途の使用に供することもできる。
【0039】
本実施形態の非晶質組成物又は熔融水砕物は、4質量%クエン酸緩衝液(pHの初期値が5.5)へのケイ酸分の溶出率が75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
ここで、上記溶出率とは、クエン酸緩衝液中に溶出したケイ酸(可溶性ケイ酸)の量を、熔融水砕物中の全SiO量に対して百分率で表したものである。
【0040】
上記観点から、本発明の別の側面における非晶質組成物は、化学成分として、MgOとSiOとCaOとPとを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上含有する非晶質組成物であって、モル換算したときの、SiO及びPの合計に対するCaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.20~1.35である非晶質組成物の粒径を0.5mm以下に調製した場合に、ケイ酸の溶出率が75%以上である非晶質組成物であるか、又は、化学成分として、MgOとSiOとCaOとPとを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上含有する非晶質組成物であって、モル換算したときの、SiO及びPの合計に対するCaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.35~1.45である非晶質組成物の粒径を0.15mm~0.5mmに調製した場合に、ケイ酸の溶出率が75%以上である非晶質組成物であることが好ましい。
【0041】
第1の非晶質組成物、第2の非晶質組成物、又は熔融水砕物は、それぞれ単独で使用することができるが、これらの少なくともいずれかを含む熔融水砕物含有組成物としてもよい。この場合、第1の非晶質組成物及び/又は第2の非晶質組成物、又は熔融水砕物の含有量は、これらの効果が良好に発揮される量であれば限定されないが、例えば、15質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。例えば、第1の非晶質組成物を含む熔融水砕物含有組成物であれば、第1の熔融水砕物以外に、アルミナ成分を1.2質量%以上含有する熔融水砕物であって、モル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]が1.20~1.35の範囲にない熔融水砕物や粒径が0.5mmを超える熔融水砕物等、又は組成や粒径の異なる他の熔融水砕物等を含んでもよい。
【0042】
[2.粒状物]
本発明に係る非晶質組成物、熔融水砕物又は熔融水砕物含有組成物は、バインダーにより粒状物としてもよい。粒状物とすることにより、施肥の際に取り扱い易くした形態にして供給できる。
【0043】
造粒する場合、その造粒方法に制限はなく、例えば転動造粒法、押出し造粒法、圧縮造粒法、攪拌造粒法等を挙げることができる。造粒する際の粒径も適宜選択することができるが、好ましくは1~5mm程度の範囲から選択できる。
【0044】
また、造粒に際してバインダーを使用する場合、そのバインダーの種類も特に限定されず、種々のものを用いることができる。例えば、各種スターチ類、でんぷん類、キサンタンガム等のガム類、廃糖蜜類、廃酵母液、アルコール醗酵廃液濃縮液、ステフェン廃水濃縮液、ポリビニルアルコール(PVA)類、ポリビニルピロリドン類、リグニンスルホン酸塩類、カルボキシメチルセルロース(CMC)類等を挙げることができる。さらに、各種造粒助剤を含有することも可能で、これについても特に制限はなく、種々のものを用いることができる。例えば、珪藻土、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、バイデライト等の各種粘土鉱物類、膨潤性雲母、バーミキュライト、ゼオライト、二水石膏、半水石膏、無水石膏等を挙げることができる。
【0045】
粒状物中の本発明に係る非晶質組成物、熔融水砕物又は熔融水砕物含有組成物は、その有効性を担保する観点から、85~97質量%程度であることが好ましい。
MgO、SiO、P、CaO、Alの合計の量は、熔融水砕物中、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0046】
[3.肥料]
本発明の肥料に係る実施形態は、非晶質組成物、熔融水砕物又は熔融水砕物含有組成物、或いは、上記の粒状物を含む。当該肥料は、必要に応じて、窒素、カリ等の他の肥料を混合して、所望の組成の複合肥料とすることもできる。
【0047】
本発明の肥料は、公知又は市販の肥料と同様の使用方法に従って用いることができる。例えば、植物を育成する土壌にそのまま付与してもよい。また、基肥(元肥)又は追肥のいずれの形態でも使用できる。
【実施例
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
本実施例及び比較例で使用した原料は下記のとおりである。
・燐鉱石
・カンラン岩(東邦オリビン工業(株)製)
・マグネサイト鉱(マグボール、不二鉱材(株)製)
・硬焼石灰(上田石灰製造(株)製)
・フェロニッケルスラグ(ナスサンド、日本冶金工業(株)製)
・ケイ石(中部鉱業(株)製)
・高炉滓(ケイカル)(新日鉄(株)製)
本実施例及び比較例の熔融水砕物において、非晶質とは、NMR-Siの半値幅が10ppm以上の拡がりを有することをいう。表において、非晶質とは、NMR-Siの半値幅が10ppm以上の拡がりを有することをいう。結晶質とは、NMR-Siの半値幅が10ppm未満であることをいう。
【0050】
〔実施例1,2及び比較例1,2〕
化学成分として、MgO、SiO、P、CaO、Alが下記表1に示す割合となるように、燐鉱石、カンラン岩、マグネサイト鉱、硬焼石灰、フェロニッケルスラグ、及びケイ石を混合し、白金坩堝に入れて電気炉内に置き1500℃で加熱熔融した。電気炉から取り出した熔融物をすばやく水中に投入して粒径未調整熔融水砕物を得た。
なお、含有比率からモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]を求めた。
【0051】
粒径未調整熔融水砕物をトップグラインダーで粉砕した。粉砕された粉砕品を目開き212μmの篩に入れ、篩を20°傾斜しながら1分間に120回の割合で、篩枠を手でたたき、この間、1分間に4回の割合で篩を水平に置き、90°回転させて、篩枠を1~2回強くたたいた。篩網の裏面に微粉が付着している場合には、適当なブラシで静かにふるいの裏面から除去し、その微粉は篩下とした。
これらの操作を繰返し、篩を通過させ、篩を通過した試料を合わせて混合し、熔融水砕物を作製した。なお、篩分は公定法に準じて手篩いし、2回目の篩目(目開き)は150μmであった。
篩はJIS Z 8801に記載された篩を用いた。
【0052】
〔比較例3〕
化学成分として、MgO、SiO、P、CaO、Alが下記表1に示す割合となるように、燐鉱石、カンラン岩、マグネサイト鉱、硬焼石灰、フェロニッケルスラグ、及びケイ石を混合し、白金坩堝に入れて電気炉内に置き、1500℃で加熱後、あえて急冷せず冷却速度約2℃/分程度で室温まで冷却したこと以外は実施例1と同様にして、試料を作製した。
【0053】
〔実施例4〕
化学成分として、MgO、SiO、P、CaO、Alが下記表1に示す割合となるように、燐鉱石、硬焼石灰、マグネサイト鉱、ケイカル及びケイ石を混合した以外は実施例1と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0054】
〔実施例8〕
化学成分として、MgO、SiO、P、CaO、Alが下記表2に示す割合となるように、燐鉱石、硬焼石灰、マグネサイト鉱、ケイカル及びケイ石を混合した以外は実施例1と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0055】
〔参考例4〕
化学成分として、MgO、SiO、P、CaO、Alが下記表1に示す割合となるように、燐鉱石、蛇紋岩、硬焼石灰、マグネサイト鉱及びケイ石を混合した以外は実施例1と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0056】
〔実施例3〕
篩目を変更して粒径を0.212mm~0.300mmとした以外は実施例1と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0057】
〔測定方法〕
〔化学成分の測定〕
肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)-1992年版-の各成分における全量分析の方法で分析した。各成分は、MgO換算値、SiO換算値、P換算値、CaO換算値、Al換算値として測定した。
〔溶出率の測定〕
実施例及び比較例で作製した熔融水砕物について、4%クエン酸ソーダ緩衝液(pHの初期値が5.5)への溶出ケイ酸量を測定してケイ酸の溶出率を測定した。結果を表1に示す。
なお、溶出率の具体的測定方法は下記のとおりとした。
クエン酸水溶液に2N水酸化ナトリウム水溶液を加えた溶液をビーカーに加え、pHを5.5に調整した4質量%クエン酸ソーダ緩衝液150mlに、1gの熔融水砕物を加え、30℃の水浴中で1時間揺動した。この溶液をろ紙でろ過して得られるろ液を純水で希釈した後、ろ液中に含まれるSiO量(溶出ケイ酸量)をICP(誘導結合プラズマ発光分光法)で測定した。得られた溶出ケイ酸量と熔融水砕物中のSiO量から溶出率を求めた。

【0058】
【表1】
【0059】
〔実施例5~7及び比較例5〕
化学成分として、MgO、SiO、P、CaO、Alが下記表2に示す割合となるように、燐鉱石、カンラン岩、マグネサイト鉱、硬焼石灰、フェロニッケルスラグ及びケイ石を混合し、白金坩堝に入れて電気炉内に置き1500℃で加熱熔融した。電気炉から取り出した熔融物をすばやく水中に投入して粒径未調整熔融水砕物を得た。
なお、含有比率からモル比[(CaO+MgO)/(SiO+P)]を求めた。
【0060】
粒径未調整熔融水砕物をトップグラインダーで粉砕した。粉砕された粉砕品を目開き500μmの篩に入れ、篩を20°傾斜しながら1分間に120回の割合で、篩枠を手でたたき、この間、1分間に4回の割合で篩を水平に置き、90°回転させて、篩枠を1~2回強くたたいた。篩網の裏面に微粉が付着している場合には、適当なブラシで静かにふるいの裏面から除去し、その微粉は篩下とした。
これらの操作を繰返し、篩を通過させ、篩を通過した試料を合わせて混合し、熔融水砕物を作製した。なお、篩分は公定法に準じて手篩いし、2回目の篩目(目開き)は150μmであった。
【0061】
〔比較例6〕
篩目を変更して粒径を0.106mm以下とした以外は実施例5と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0062】
〔比較例7〕
篩目を変更して粒径を0.600mm~3.35mmとした以外は実施例4と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0063】
〔溶出率の測定〕
実施例5~8及び比較例5~7の熔融水砕物について、実施例1と同様にして溶出率を求めた。結果を下記表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表1、表2より、すべての実施例において溶出率が高く良好な結果であった。なお、蛇紋岩を使用した熔融水砕物と同程度の良好な溶出率であるが、本実施例では蛇紋岩の代わりにフェロニッケルスラグ、ケイカルを使用しているため、蛇紋岩を使用した場合と同等以下なコストであり、かつ、安全性を確保できる。
本発明によれば、蛇紋岩を使用せず、かつコスト削減が可能で肥料として有効な熔融水砕物を提供することができる。また、アルミナ成分を多く含有しても、SiOの溶出が良好な熔融水砕物を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の熔融水砕物は、土壌中のケイ酸分が有用な働きをする作物、特に稲作用の土づくり資材或いは肥料として有用である。