(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】インプリント装置、インプリント方法、および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20231222BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
H01L21/30 564Z
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2019219855
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 敏彦
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-173508(JP,A)
【文献】特開2019-009226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0158419(US,A1)
【文献】特開2018-182300(JP,A)
【文献】特開2016-058735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドを用いて基板上のインプリント材を成形するインプリント装置であって、
インプリント材を硬化させずにインプリント材の粘度を変化させる光を前記基板に照射する光照射部と、
前記基板上にインプリント材を供給する供給部と、
前記基板における複数のショット領域にインプリント材を供給する供給処理を制御した後、前記複数のショット領域の各々について前記モールドでインプリント材を成形して当該インプリント材を硬化させる成形処理を制御する制御部と、
を含み、
前記供給処理は、前記複数のショット領域に対して前記供給部によりインプリント材を順次供給する第1処理と、インプリント材が供給されたショット領域に対して前記光照射部により前記光を照射してインプリント材の粘度を変化させる第2処理とを含む、ことを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記供給処理において、前記第2処理を前記第1処理と並行して行う、ことを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記基板を移動させながら前記複数のショット領域にインプリント材を順次供給するように前記第1処理を制御し、
前記第1処理の制御中において、インプリント材が供給されたショット領域が前記光照射部の光照射位置に配置されたタイミングで当該ショット領域に前記光を照射するように前記第2処理を制御する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記供給部によりインプリント材が供給されてから前記光照射部により前記光が照射されるまでの時間間隔が目標範囲内に収まるように前記供給処理を制御する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記供給部によりインプリント材が供給されてから前記光照射部により前記光が照射されるまでの時間間隔が前記複数のショット領域で一定になるように前記供給処理を制御する、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記供給処理において、インプリント材が供給されたショット領域に対して前記光を選択的に照射するように前記光照射部を制御する、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記供給処理において、インプリント材が供給されたショット領域の周縁部分に対して前記光を照射するように前記光照射部を制御する、ことを特徴とする請求項5に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記光照射部は、前記供給処理において、インプリント材を硬化させずにインプリント材の粘度を増加させる光を前記基板に照射する、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項9】
前記光照射部は、前記供給処理において、インプリント材の粘度を低下させる光を前記基板に照射する、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項10】
前記供給部が前記光照射部の第1方向側に配置され、且つ、前記複数のショット領域が前記第1方向に沿って配列されている場合、前記制御部は、前記複数のショット領域に対して前記第1方向に沿った順番でインプリント材の供給を行うように前記供給処理を制御する、ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記複数のショット領域に対して前記第1方向と反対の第2方向に沿った順番でインプリント材の成形を行うように前記成形処理を制御する、ことを特徴とする請求項10に記載のインプリント装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記複数のショット領域のうちインプリント材の供給が最後に行われたショット領域からインプリント材の成形を開始するように前記成形処理を制御する、ことを特徴とする請求項10又は11に記載のインプリント装置。
【請求項13】
前記光照射部は、前記成形処理において、インプリント材を硬化させる光を前記基板に照射する、ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項14】
前記供給部は、前記基板上にインプリント材の液滴を供給し、
前記第2処理は、前記供給部により前記基板上に供給されたインプリント材の液滴の拡がりを抑制するように、インプリント材が供給されたショット領域に対して前記光照射部により前記光を照射してインプリント材の粘度を変化させる処理である、ことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項15】
前記第2処理は、前記供給部により前記基板上に供給されたインプリント材の液滴について前記複数のショット領域間における当該液滴の拡がりの差が低減するように、インプリント材が供給されたショット領域に対して前記光照射部により前記光を照射してインプリント材の粘度を変化させる処理である、ことを特徴とする請求項14に記載のインプリント装置。
【請求項16】
モールドを用いて基板上のインプリント材を成形するインプリント装置であって、
インプリント材を硬化させずにインプリント材の粘度を変化させる光を前記基板に照射する光照射部と、
前記光照射部の第1方向側に配置され、前記基板上にインプリント材を供給する供給部と、
前記基板において前記第1方向に沿って配列されている複数のショット領域にインプリント材を供給する供給処理を制御した後、前記複数のショット領域の各々について前記モールドでインプリント材を成形して当該インプリント材を硬化させる成形処理を制御する制御部と、
を含み、
前記供給処理は、前記複数のショット領域に対して前記供給部によりインプリント材を順次供給する第1処理と、インプリント材が供給されたショット領域に対して前記光照射部により前記光を照射してインプリント材の粘度を変化させる第2処理とを含み、
前記制御部は、前記複数のショット領域に対して前記第1方向に沿った順番でインプリント材の供給を行うように前記供給処理を制御し、その後、前記複数のショット領域に対して前記第1方向と反対の第2方向に沿った順番でインプリント材の成形を行うように前記成形処理を制御する、ことを特徴とするインプリント装置。
【請求項17】
請求項1乃至
16のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて基板上にパターンを形成する形成工程と、
前記形成工程でパターンが形成された前記基板を加工する加工工程と、を含み、
前記加工工程で加工された前記基板から物品を製造することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項18】
モールドを用いて基板上のインプリント材を成形するインプリント方法であって、
前記基板における複数のショット領域にインプリント材を供給する供給工程と、
前記供給工程の後に、前記複数のショット領域の各々について前記モールドでインプリント材を成形して当該インプリント材を硬化させる成形工程と、
を含み、
前記供給工程は、前記複数のショット領域に対してインプリント材を順次供給する第1工程と、インプリント材が供給されたショット領域に対し、インプリント材を硬化させずにインプリント材の粘度を変化させる光を照射する第2工程とを含む、ことを特徴とするインプリント方法。
【請求項19】
モールドを用いて基板上のインプリント材を成形するインプリント方法であって、
前記基板において第1方向に沿って配列されている複数のショット領域にインプリント材を供給する供給工程と、
前記供給工程の後に、前記複数のショット領域の各々について前記モールドでインプリント材を成形して当該インプリント材を硬化させる成形工程と、
を含み、
前記供給工程は、供給部により前記複数のショット領域に対してインプリント材を順次供給する第1工程と、インプリント材が供給されたショット領域に対し、光照射部により、インプリント材を硬化させずにインプリント材の粘度を変化させる光を照射する第2工程とを含み、
前記供給部は、前記光照射部の前記第1方向側に配置され、
前記複数のショット領域に対して前記第1方向に沿った順番でインプリント材の供給を行うように前記供給工程が行われ、その後、前記複数のショット領域に対して前記第1方向と反対の第2方向に沿った順番でインプリント材の成形を行うように前記成形工程が行われる、ことを特徴とするインプリント方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置、インプリント方法、および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モールドを用いて基板上のインプリント材を成形するインプリント装置が、半導体デバイスなどの量産用リソグラフィ装置の1つとして注目されている。特許文献1には、スループットを向上させるため、基板上における複数のショット領域(フィールド)に対してインプリント材を事前に供給し、その後で、当該複数のショット領域の各々についてモールドでインプリント材を成形する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたように複数のショット領域に対してインプリント材を事前に供給する方法では、インプリント材を供給してから当該インプリント材を成形するまでの時間がショット領域ごとに異なりうる。この場合において、基板上でのインプリント材の拡がりが当該時間差に応じてショット領域ごとに異なってしまうと、複数のショット領域に対して安定したインプリント処理を行うことが困難になりうる。
【0005】
そこで、本発明は、複数のショット領域におけるインプリント材の拡がりの差を低減するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのインプリント装置は、モールドを用いて基板上のインプリント材を成形するインプリント装置であって、インプリント材を硬化させずにインプリント材の粘度を変化させる光を前記基板に照射する光照射部と、前記基板上にインプリント材を供給する供給部と、前記基板における複数のショット領域にインプリント材を供給する供給処理を制御した後、前記複数のショット領域の各々について前記モールドでインプリント材を成形して当該インプリント材を硬化させる成形処理を制御する制御部と、を含み、前記供給処理は、前記複数のショット領域に対して前記供給部によりインプリント材を順次供給する第1処理と、インプリント材が供給されたショット領域に対して前記光照射部により前記光を照射してインプリント材の粘度を変化させる第2処理とを含む、ことを特徴とする。
【0007】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、複数のショット領域におけるインプリント材の拡がりの差を低減するために有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】インプリント装置において供給処理を行っている状態を示す図
【
図5】インプリント装置において成形処理を行っている状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
<第1実施形態>
インプリント装置は、基板上に供給されたインプリント材と型とを接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギを与えることにより、型の凹凸パターンが転写された硬化物のパターンを形成する装置である。例えば、インプリント装置は、基板上にインプリント材を供給し、凹凸パターンが形成されたモールド(型)を基板上のインプリント材に接触させた状態で当該インプリント材を硬化させる。そして、モールドと基板との間隔を広げて、硬化したインプリント材からモールドを剥離(離型)することで、基板上にインプリント材のパターン層を形成することができる。このような一連の処理は「インプリント処理」と呼ばれ、基板における複数のショット領域の各々について行われる。
【0012】
インプリント材には、硬化用のエネルギが与えられることにより硬化する硬化性組成物(未硬化状態の樹脂と呼ぶこともある)が用いられる。硬化用のエネルギとしては、電磁波、熱等が用いられる。電磁波としては、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される、赤外線、可視光線、紫外線などの光である。
【0013】
硬化性組成物は、光の照射により、あるいは、加熱により硬化する組成物である。このうち、光により硬化する光硬化性組成物は、重合性化合物と光重合開始材とを少なくとも含有し、必要に応じて非重合性化合物または溶剤を含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマ成分などの群から選択される少なくとも一種である。
【0014】
インプリント材は、スピンコータやスリットコータにより基板上に膜状に付与される。あるいは、液体噴射ヘッドにより、液滴状、あるいは複数の液滴が繋がってできた島状または膜状となって基板上に付与されてもよい。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。
【0015】
[インプリント装置の構成]
本発明に係る第1実施形態のインプリント装置100について説明する。本実施形態のインプリント装置100は、モールドと基板上のインプリント材とを接触させる前に、基板上に供給されたインプリント材の少なくとも一部に光を照射してインプリント材の粘度を変化させることができるように構成されている。以下の説明では、インプリント材の粘度を変化させるため、モールドと基板上のインプリント材とを接触させる前に当該インプリント材の少なくとも一部に照射する光を「事前光」と呼ぶことがある。また、インプリント材を硬化させるため、モールドと基板上のインプリント材とを接触させた状態で当該インプリント材に照射する光を「硬化光」と呼ぶことがある。
【0016】
図1および
図2は、本実施形態のインプリント装置100の構成を示す概略図である。
図1は、基板上に供給されたインプリント材の少なくとも一部に事前光を照射してインプリント材の粘度を変化させている状態を示す図である。
図2は、基板上に供給されたインプリント材にモールドを接触させた状態で硬化光を照射してインプリント材を硬化している状態を示す図である。本実施形態のインプリント装置100は、例えば、モールド1を保持するモールド保持部2と、基板3を保持する基板ステージ4と、供給部5と、光照射部7と、制御部CNTとを含みうる。制御部CNTは、例えばCPUやメモリなどを有するコンピュータによって構成され、インプリント装置100の各部を制御してインプリント処理を制御する。
【0017】
モールド1は、通常、石英など紫外線を透過することが可能な材料で作製されており、基板側の面において突出した一部の領域(メサ領域、パターン領域)には、基板上のインプリント材に転写されるべき凹凸パターンが形成されている。また、基板3としては、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂等が用いられ、必要に応じて、その表面に基板とは別の材料からなる部材が形成されていてもよい。基板3としては、具体的に、シリコンウェハ、化合物半導体ウェハ、石英ガラスなどである。また、インプリント材の付与前に、必要に応じて、インプリント材と基板との密着性を向上させるために密着層を設けてもよい。
【0018】
モールド保持部2(インプリントヘッド)は、例えば真空力などによりモールド1を保持するとともに、モールド1と基板3との間隔を変更するようにモールド1をZ方向に駆動する。モールド保持部2によりモールド1をZ方向に駆動することで、モールド1と基板上のインプリント材とを接触させる接触処理、および、硬化したインプリント材からモールドを剥離する離型処理を行うことができる。また、モールド保持部2は、Z方向に限られず、XY方向やθ方向(Z軸周りの回転方向)にモールド1を駆動するように構成されてもよい。
【0019】
基板ステージ4(基板保持部)は、例えば真空力などにより基板3を保持して移動可能に構成される。基板ステージ4をXY方向に移動させることで基板3をXY方向に駆動し、モールド1に対する基板3の位置決め、および、供給部5に対する基板3の位置決めを行うことができる。また、基板保持部は、XY方向に限られず、Z方向やθ方向に基板3を駆動するように構成されてもよい。
【0020】
供給部5(吐出部)は、基板ステージ4によって下方に配置された基板上にインプリント材6(例えば未硬化樹脂)を供給する。本実施形態では、光(例えば紫外線)の照射によって重合反応する樹脂がインプリント材6として用いられる。供給部5は、基板ステージ4により基板3が供給部5に対して相対的に移動している状態で、インプリント材を複数の液滴として吐出することにより、基板(ショット領域)上にインプリント材を供給することができる。
【0021】
光照射部7は、インプリント材を重合反応させるための光を基板に照射する。本実施形態の光照射部7は、
図1に示すように、モールド1とショット領域上のインプリント材6とを接触させる前に、インプリント材を硬化させずに粘度を変化させるための光(事前光8A)を当該ショット領域の少なくとも一部に照射することができる。例えば、光照射部7は、供給部5によりインプリント材6が供給されたショット領域の全体、または当該ショット領域のうちインプリント材の拡がりを制御したい所望の部分に事前光8Aを選択的に照射することができる。また、光照射部7は、
図2に示すように、モールド1と基板上のインプリント材6とが接触している状態で、インプリント材を硬化させるための光(硬化光8B)をショット領域に照射することができる。本実施形態では、事前光8Aおよび硬化光8Bを基板上に照射することができるように光照射部7を構成しているが、それに限られず、事前光8Aの照射ユニットと硬化光8Bの照射ユニットとを別々に構成してもよい。
【0022】
ここで、光照射部7は、インプリント材が供給された基板(ショット領域)への事前光8Aの照射により、インプリント材の拡がりを抑制する構成であってもよいし、インプリント材の拡がりを促進する構成であってもよい。
【0023】
インプリント材の拡がりを抑制する場合には、光照射部7は、インプリント材を硬化させずにインプリント材の粘度を増加させる光を事前光8Aとしてショット領域(インプリント材)に照射する。例えば、光照射部7は、ショット領域の周縁部分など、インプリント材の拡がりを抑制したい所望の部分に、インプリント材の粘度を増加させる光を事前光8Aとして照射する。この場合、当該部分(例えばショット領域の周縁部分)においてインプリント材の拡がり速度が低下するため、当該ショット領域のエッジからのインプリント材の浸み出し(はみ出し)を低減することができる。
【0024】
一方、インプリント材の拡がりを促進する場合には、光照射部7は、インプリント材の粘度を低下させる光を事前光8Aとしてショット領域(インプリント材)に照射する。例えば、光照射部7は、モールド1の凹凸パターンにおいてインプリント材が充填しにくい部分など、インプリント材の拡がりを促進したい所望の部分に、インプリント材の粘度を低下させる光を事前光8Aとして照射する。この場合、当該部分においてインプリント材の拡がり速度が増加するため、モールド1の凹凸パターンへのインプリント材の充填性を向上させることができる。また、インプリント材の粘度を低下させる他の方法としては、インプリント材の温度上昇による表面張力変化等を利用することができる。例えば、光照射部7は、樹脂を硬化させない波長の光を事前光8Aとしてショット領域に照射してインプリント材に熱を与えることにより、インプリント材の表面張力(即ち粘度)を低下させることができる。
【0025】
次に、光照射部7による事前光8Aの照射方式について説明する。光照射部7は、硬化光8Bと同じ波長の光を事前光8Aとして用いる場合、事前光8Aによる基板3の露光量として、基板3への事前光8Aの照射時間や照度(光強度)を制御することにより、インプリント材の粘度を変化させることができる。例えば、光照射部7は、硬化光8Bの照射時間より短い照射時間で事前光8Aを基板3に照射することにより、基板上のインプリント材を硬化させずに粘度を増加させることができる。また、光照射部7は、減光フィルタや波長フィルタ、絞り、可動式または非可動式の遮光体などを用いて、単位面積当たりの事前光8Aの照度(光強度)を制御することにより、基板上のインプリント材を硬化させずに粘度を増加させることができる。さらに、光照射部7は、デジタル・マイクロミラー・デバイス等のミラーアレイにより事前光8Aの照射範囲および照射タイミングを選択的に制御する方法や、ガルバノミラーやポリゴンミラー等により事前光8Aを基板上でスキャン走査する方法を用いてもよい。
【0026】
[インプリント処理]
次に、本実施形態のインプリント処理について説明する。インプリント装置では、一般にスループットの向上が求められており、それを実現する1つの方法としてマルチフィールド・ディスペンス(MFD;Multi Field Dispense)と呼ばれる方法がある。MFD法とは、基板3における複数のショット領域(フィールド)にインプリント材6を供給する供給処理を制御した後に、各ショット領域に供給されたインプリント材6をモールド1で成形して当該インプリント材6を硬化させる成形処理を制御する方法である。しかしながら、MFD法では、インプリント材を供給してから当該インプリント材を成形するまでの時間がショット領域ごとに異なりうる。この場合において、基板上でのインプリント材の拡がりが当該時間差に応じてショット領域ごとに異なってしまうと、複数のショット領域に対して安定したインプリント処理を行うことが困難になりうる。
【0027】
そこで、本実施形態の供給処理は、複数のショット領域に対してインプリント材6を供給する第1処理と、インプリント材6が供給されたショット領域に対して事前光8Aを照射してインプリント材6の粘度を変化させる第2処理とを含みうる。これにより、複数のショット領域において、モールド1による成形直前(接触直前)でのインプリント材の拡がり(寸法)の差を低減し、複数のショット領域で安定したインプリント処理を行うことができる。ここで、上述したように、事前光8Aとしては、インプリント材6を硬化させずに当該インプリント材6の粘度を増加させる光、または、インプリント材6の粘度を低減させる光を用いることができる。以下では、インプリント材6の粘度を増加させる光を事前光8Aとして用いる例について説明する。
【0028】
図3は、本実施形態のインプリント装置100で行われるインプリント処理を示すフローチャートである。
図3に示すフローチャートの各工程は、制御部CNTによって制御されうる。また、
図4は、インプリント装置100において供給処理を行っている状態を示す図であり、
図5は、インプリント装置100において成形処理を行っている状態を示す図である。
図4~
図5に示す矢印は、基板ステージ4の移動方向を示している。
【0029】
S11では、制御部CNTは、モールド搬送機構(不図示)を制御して、モールド保持部2にモールド1を搬入する。S12では、制御部CNTは、基板搬送機構(不図示)を制御して、基板ステージ4に基板3を搬入する。S13では、制御部CNTは、基板ステージ4に搬送された基板3から、一括してインプリント処理を行う対象の複数のショット領域を選択する(選択工程)。例えば、制御部CNTは、供給部5と光照射部7との相対的な配置方向(本実施形態ではX軸方向)に沿って配列している複数のショット領域を、一括してインプリント処理を行う対象の複数のショット領域として選択しうる。以下では、本工程(S13)で選択された複数のショット領域を「複数の対象ショット領域」と呼ぶことがある。
【0030】
S14では、制御部CNTは、S13で選択された複数の対象ショット領域に対して供給処理を行う。本実施形態の場合、制御部CNTは、複数の対象ショット領域に対して供給部5によりインプリント材6を供給する第1処理と並行して、インプリント材6が供給されたショット領域に対して光照射部7により事前光8Aを照射する第2処理を行う。このとき、制御部CNTは、複数の対象ショット領域の各々について、供給部5によりインプリント材6が供給されてから光照射部7により事前光8Aが照射されるまでの時間間隔が目標範囲内に収まるように、供給処理(第2処理)を制御するとよい。即ち、制御部CNTは、当該時間間隔が複数の対象ショット領域で一定になるように供給処理(第2処理)を制御するとよい。
【0031】
例えば、
図4に示すように、制御部CNTは、一定の移動速度で基板ステージ4(基板3)を移動させながら、複数の対象ショット領域に対して供給部5によりインプリント材6を順次供給するように第1処理を制御する。そして、第1処理の制御中において、インプリント材6が供給された対象ショット領域が光照射部7の下方(光照射位置)に配置されたタイミングで光照射部7により事前光8Aを当該対象ショット領域に照射するように、第2処理を制御する。
図4では、対象ショット領域の周縁部分に事前光8Aを選択的に照射する例を示している。
【0032】
このように供給処理(第1処理、第2処理)を制御することで、複数の対象ショット領域において、供給部5によりインプリント材6が供給されてから光照射部7により事前光8Aが照射されるまでの時間間隔の差を低減することができる。即ち、複数の対象ショット領域において当該時間間隔を一定にすることができる。そして、事前光8Aを照射した後では、単位時間当たりのインプリント材の拡がり量が大幅に制限(抑制)され、事前光8Aの照射時におけるインプリント材6の拡がり(寸法)がほぼ維持される。そのため、複数の対象ショット領域において、インプリント材の供給から成形までに時間差がある場合であっても、成形直前のインプリント材の拡がり(寸法)の差を低減することができる。即ち、複数の対象ショット領域において、成形直前のインプリント材の拡がり(寸法)を一定にして、安定したインプリント処理を行うことができる。
【0033】
ここで、供給部5が光照射部7の-X方向側(第1方向側)に配置されている場合、複数の対象ショット領域に対する供給処理は、-X方向(第1方向)に沿った順番で行われるとよい。即ち、基板ステージ4を+X方向に移動させながら、-X方向に沿った順番で複数の対象ショット領域に対してインプリント材6を順次供給するとよい。これにより、所定の対象ショット領域に供給部5でインプリント材6を供給しながら、インプリント材6が既に供給された他の対象ショット領域に対して光照射部7で事前光8Aを照射することができる。つまり、複数の対象ショット領域に対して供給処理(第1処理、第2処理)を効率よく行うことができるため、スループットの点で有利になりうる。
【0034】
S15では、制御部CNTは、S14でインプリント材の供給処理が行われた複数の対象ショット領域に対して成形処理を行う。成形処理は、例えば接触処理と硬化処理とを含み、
図5に示すように複数の対象ショット領域の各々に対して順次行われうる。接触処理は、モールド保持部2によりモールド1と基板3との間隔を狭めてモールド1と対象ショット領域上のインプリント材6とを接触させる処理であり、押印処理とも呼ばれる。一方、硬化処理は、モールド1と対象ショット領域上のインプリント材6とが接触している状態において、光照射部7により当該対象ショット領域(インプリント材6)に硬化光8Bを照射してインプリント材6を硬化させる処理である。
【0035】
成形処理では、例えば硬化処理の前に、位置合わせ処理および充填処理を行ってもよい。位置合わせ処理は、モールド1に設けられたマークと対象ショット領域に設けられたマークとの相対位置を計測して、その結果に基づいてモールド1と対象ショット領域との位置合わせを行う処理である。また、充填処理は、モールド1と対象ショット領域上のインプリント材とを接触させた状態で、モールド1の凹凸パターンにインプリント材が充填されるのを待機する処理である。充填処理では、例えば、インプリント材の粘度を低下させる光を事前光8Aとして光照射部7により対象ショット領域に照射してもよい。これにより、インプリント材の拡がりを促進し、モールド1の凹凸パターンへのインプリント材の充填性を向上させることができる。
【0036】
ここで、複数の対象ショット領域に対して成形処理を行う順番について説明する。本実施形態によれば、事前光8Aを照射した後では、単位時間当たりのインプリント材の拡がり量が大幅に制限され、事前光8Aの照射時におけるインプリント材6の拡がり(寸法)がほぼ維持される。そのため、複数の対象ショット領域に対して成形処理を行う順番を任意に設定することができる。例えば、複数の対象ショット領域に対する供給処理が-X方向(第1方向)に沿った順番で行われた場合、複数の対象ショット領域に対する成形処理を+X方向(第1方向と反対の第2方向)に沿った順番で行うことができる。一例として、複数の対象ショット領域のうち、インプリント材の供給および事前光8Aの照射が最後に行われた対象ショット領域から成形処理(インプリント材の成形)を開始することができる。これにより、インプリント材の供給から成形までの時間を考慮した余計な基板ステージ4の移動(移動距離、移動時間)を省略することができるため、スループットの点で有利になりうる。
【0037】
S16では、制御部CNTは、基板3における全ショット領域についてのインプリント処理が終了したか否かを判断する。全ショット領域についてのインプリント処理が終了していない場合にはS13に戻り、次に一括してインプリント処理を行う複数の対象ショット領域を選択する。一方、全ショット領域についてのインプリント処理が終了した場合にはS17に進む。S17では、制御部CNTは、基板搬送機構(不図示)を制御して、基板ステージ4から基板3を搬出する。S18では、制御部CNTは、モールド搬送機構(不図示)を制御して、モールド保持部2からモールド1を搬出する。
【0038】
上述したように、本実施形態のインプリント装置100は、複数のショット領域にインプリント材を供給する供給処理において、インプリント材6が供給されたショット領域に対して事前光8Aを照射してインプリント材6の粘度を変化させる第2処理を行う。これにより、複数のショット領域においてモールド1による成形直前でのインプリント材の拡がり(寸法)の差が低減されるため、複数のショット領域で安定したインプリント処理を行うことができる。
【0039】
<物品の製造方法の実施形態>
本発明の実施形態にかかる物品の製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品の製造方法は、基板に供給(塗布)されたインプリント材に上記のインプリント装置(インプリント方法)を用いてパターンを形成する工程と、かかる工程でパターンが形成された基板を加工する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0040】
インプリント装置を用いて成形した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型等である。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性或いは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。型としては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0041】
硬化物のパターンは、上記物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入等が行われた後、レジストマスクは除去される。
【0042】
次に、物品の具体的な製造方法について説明する。
図6(a)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコンウェハ等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0043】
図6(b)に示すように、インプリント用の型4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。
図6(c)に示すように、インプリント材3zが付与された基板1zと型4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zは型4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型4zを通して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0044】
図6(d)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、型4zと基板1zを引き離すと、基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zに型4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0045】
図6(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。
図6(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0046】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0047】
1:モールド、2:モールド保持部、3:基板、4:基板ステージ、5:供給部、6:インプリント材、7:光照射部、100:インプリント装置